非国民通信

ノーモア・コイズミ

差別と報道

2020-12-20 21:46:57 | 社会

DHCサイト、会長名で差別的文章 SNSで批判相次ぐ(朝日新聞)

 化粧品大手ディーエイチシー(DHC、東京)の公式オンラインショップのサイトに、同社の吉田嘉明会長名で在日韓国・朝鮮人に対する差別的な内容を含む文章が掲載されている。同社は掲載の意図を問う取材に「回答することは特にございません」としている。

 文章では、DHCのサプリメントが他社製品より優れていると主張する中でライバル企業のサントリーの名を挙げ、「商品の見栄をよくするために有名なタレントを多用して、多額のお金を使っている会社より良心的だと思いませんか」と訴え、在日韓国・朝鮮人への差別的な言葉を使った。CMのタレント起用についてもサントリーを引き合いに、「DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本企業です」と記載した。文章は画像形式でアップされている。

 文章は「2020年11月」の日付だったが、16日になってツイッターで取り上げられ批判が拡散した。

 

 さて11月に掲載された代物が今になって注目を浴びたことが伝えられています。引用元ではこの先に典型的な悪しき両論併記が続くわけですが、報道としてはどうしたものでしょうか。しばしば問題発言や暴言、パワハラとして報道されつつも、その最も悪質な部分は記事に載らない事があります。内容が酷ければ酷いほど新聞には「載せられない」言葉が入っていることが多く、結果として新聞に「載せられる」マイルドな部分だけが報道される、報道で紹介された限りでは大した問題ではないように見えることもあるはずです。

 先日は埼玉県警で監察役の警視が部下に「バカ」と暴言を吐いたとするニュースがありました。その言葉を見る限り、人間として問題はあるとしても全国紙に載るようなレベルではなさそうに見えてしまいます。本当は新聞に載せられるのが「バカ」ぐらいしかなかっただけで、もっと「新聞に載せられないような言葉」で部下を執拗に罵っていたであろうことは想像に難くありません。しかし「新聞に載せられる言葉」だけで報道するとなると、それほど騒ぐようなものではなく見えてしまうわけです。

ヤケクソくじについて(DHC公式オンラインショップ) - アーカイブ

 これを報じている朝日新聞もサイトでは「(DHC会長名で)掲載された文章の一部」を載せているのですけれど、ものの見事に差別発言に当たる部分はカットされていたりします。実際にDHCが掲載した怪文書は議論の余地のない差別発言であるにも関わらず、報道では差別発言を隠している、記事を読む限りでは核心が隠されている印象を受けます。新聞紙面に差別用語を載せたくはなかったのかも知れませんが、そこを隠すことで結果としてDHCの罪を軽いものにしてしまっているとも言えます。

 もう一つ注目したいのは、問題の怪文書が概ね一ヶ月前に公表されていたことです。世間の注目を浴びることなく過ごしていた期間も、それなりにあったことが分かります。情報の伝播は、情報化社会が進んでも必ずしも早まるものではないのでしょう。2017年には神奈川県小田原市で、市役所職員が職場ぐるみで生活保護受給者を誹謗するグッズを製作・頒布していたことが報道され短い間ですが話題になりました。しかしこのヘイト行為が始まったのは、ちょうど10年前の2007年からとのことです。

 2007年から10年間、小田原市の職員は生活保護受給者を誹謗する文面の入ったジャケットで生活保護受給者宅を訪問する他、役所内では有償での販売も行われているなど、全く隠そうとしていなかったなかったことが分かります。そして10年間のヘイト活動の継続の末、2017年にそれが報道されたことで初めて世間の批判を(そして少なからぬ共感も)集めるようになりました。一見すると明らかな差別やヘイト行為もまた、世間に広く知られるまでは結構な時間を要していたわけです。

 極めつきは、多くの私立医大では、男女枠がある。~(中略)~どうしても、女子は卒後、外科系に進みにくい。~(中略)~だから、医学生が女子ばかりになると、その大学の中で、外科系にいく人間が少なくなり、バランスがとれなくなる。~(中略)~最悪の場合、外科教室の維持ができなくなると危惧されることもある。そうした事情から、私が知っているある私立医大は、男女で別々に定員を決めているそうだ。(『医者とはどういう職業か』里見清一、幻冬舎新書)

 ……と、私は2016年に出版された本で読んだことがあります。そして2018年、東京医科大の入試で女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが問題視されるに至りました。ここから世間も大きく動き出したのですが――決して初めて明るみに出たことではなく、書店で普通に売られている本にも書かれていることだったりします。ただ関係者の間では知られている話でも、それが世の中に出ていくまでは時間がかかる、何か問題となる行為があってもそれが知られるようになるかは別の話なのでしょう。

 どんなに情報化社会が進んでも、情報の広まりは必ずしも早くはならない、どれほど悪質であろうとも世間に知られることなく当たり前のように存在しているものもまた少なからずあるように思います。一般人の何気ない行動が一夜にして炎上することもあれば、大企業や役所が公然と差別発言・行為を繰り返しているにも関わらず野放しになっていることもあるわけです。情報技術の発展に伴い世界中の何処でも同じように仕事が出来るようになったかと言えばむしろ東京一極集中が進む等々、世の中は広くなっているのか狭くなっているのか分かりませんね。

コメント
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