時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

少し離れて見る世界(2): 一極集中の恐ろしさ

2014年03月11日 | 特別トピックス

  

Photo YK 




文字の利点と欠点
 この頃ブログや紙面に文字を書くという作業が、次第に面倒になってきた。面談や講演などであれば、言い足りないと思った部分は、聞き手の対応を察知して、追加の発言や説明である程度自在に補填可能であり、自分の考えをかなり正確に相手に伝えられる。しかし、限られた紙面に、一定の時間内に伝えたい内容を表現するには、論旨を整理し、多くの手間をかけて、入力や筆記作業をしなければならない。入力ミスも増えてきた。要するに伝達手段に費やす時間が惜しくなってきたのである。

 もちろん、他方で文字による意思伝達の有用性を認めた上での話である。口述筆記や口述の文章転換がもう少し楽になればと思うが、テープ起こしをした経験からも、こちらはかなり手間がかかる。結果として、ブログや筆記の作業
から遠ざかることになる。しかし、表現しないでいることのフラストレーションもある。関心を共有する人たちのために、少しでも書いてみたいと思うことは山のようにあり、ジレンマ状態にある。

首都の代替・支援機能 
 あの日本の運命を定めた日から3年を迎えた。受け取り方は人さまざまかもしれないが、管理人にはあっという間の3年という印象しかない。復興というにはほど遠い被災地の現実を見るにつけ、いまだに頭の中が千々に乱れるような時がある。被災地から人口が多数流出してゆく事実に直面するたびに、なぜ政府は東北へ首都機能の一部を積極的に移さなかったのかという思いがする。

 戦争や天災で被害を受けた地域からは人口が減少し、多くの場合復興がきわめて困難なことは、世界の多数の事例が示している。少なくも人口を被災以前の数に増加させるような計画的な努力をしなけらば、かつての水準は到底取り戻せない。こうしたことは、既知の事実なのだ。そのためには、想像を超えるような人材とエネルギーを投入しなければ、震災前の水準への復帰はとてもできない。

 3年経過しても、確実に復興に向かっているという感じを被災者の多くの人々が共有できないのは、最初の段階から政府が、この国家的危機でもある大災害の復興に必要な条件を、正確に掌握していないことにあると管理人は見てきた。

次の天災への対応は 
 他方、東京湾岸地帯、大阪湾岸地帯、さらに太平洋岸の現実を見ると、大変気にかかる問題がある。噂される南海トラフ地震が少しでも東側にずれたりすれば、あるいは首都直下型地震などが勃発すれば、ほとんど外海や河口に接して林立している東京湾岸地帯などの燃料や化学物質の貯蔵タンクなど、どうなるだろうか。その前を通るたびに、防潮堤らしきものもなく、水辺からほとんど無防備状態で存在する建造物に背筋が凍る思いがする。中国の銭塘江やブラジルのアマゾン川などで発生する海嘯のごとく、津波が高潮となって墨田川などの河口から遡ってくることは十分ありうるのではないか。

 さらに、万一、東京五輪の時に、大震災が発生したらどんなことになるのか。もちろん、考えたくもないことだが、天災の発生だけは神ならぬ身、誰も正確に予想できない。

東京の都市機能分散化
 
東京などの大都市の機能を分散し、東北被災地の復興基盤の一部とすれば、人口流出も防げるし、復興への意思決定も早くなり、産業の移転も加速される。そして最も強調したいことは、この国の維持に不可欠な首都東京の支援地になりうるのだ。

 もしかすると、東京に大震災が起きた場合に、バックアップ基地の役割を果たしてくれるのは、東北になるのかもしれないとさえ考える。東北大震災復興の初期から、名称はともかく、「東北都の構想を管理人は描いてきた。次の天災が列島を脅かす時、自分は幸いこの世に存在していないだろう。しかし、次の世代にあのような苦難を与えたくない。

安全機能を分化させる→過密化した太平洋岸
 世界の多くの国が、首都に万一のことがあれば、かなりの機能を代替しうる都市を複数擁している。しかし、日本にはそれはないに等しい。東京に直下型地震が発生したら、このままではほとんどこの国は壊滅するだろう。東京一極化があまりに進み、他の都市には国の危機管理の代替機能などないにひとしい。

 東海道の東京から名古屋、京都、大阪まで旅すると明瞭だが、人口密集で切れ目がない。最近しばらくぶりに来日した友人のアメリカ人が、その光景に接して絶句していた。彼らが前回日本に滞在していた1960年代、東海道線の海側には美しい砂浜もあり、列車から海水浴を楽しむ人々の姿が見られた。管理人も熱海、興津などの砂浜で海水浴をした記憶がある。しかし、今は護岸工事、テトラポットが果てしなく続き、かつての美しい光景はまったく消滅している。富士川周辺も工場の煙突で、富士山も著しく美観を損ねている。この地に東北大震災のような災害発生すれば、今度は文字通り日本が壊滅する悲惨な光景が生まれるだろう。

 前回記したドイツでも、東西ドイツ統一後は、首都はベルリンに移転しているが、かなりの首都機能はボンに残されている。1990年の東西ドイツ統一後、1994年の「ベルリン・ボン」法によって、ボンは「連邦市 (Bundesstadt)」であると規定され、「連邦首都 (Bundeshauptstadt)」であるベルリンと並んで国家の中枢機能を保持することが定められた。教育学術省、郵政省、環境省、食糧農林省、経済協力省、国防省、研究技術省、保健省、会計検査院などの省庁が置かれることになった。
しかし、日本では国家の安全機能の分散保持という考えは薄く、そうした配慮が存在しない。

潜在危機に配慮が足りない日本
 前回、ウクライナ問題の勃発に関連して、いまやヨーロッパの運命を決める力量を保持するにいたったドイツ、とりわけメルケル首相の政治思想について、少し記した。ドイツも日本も第二次大戦の敗戦国として、その内容には差異はあっても、戦後70年余を経過しても消すことのできない「歴史問題」と称される深い傷を留めている。

 ウルリッヒ・ベックが使った「ドイツ帝国のような」a German Empire という用語自体、国内外に反発する議論は多い。ドイツはヨーロッパにおいてかなりの政治力を発揮しているが、メルケル首相を始め、マスメディアなどが神経質なほど注意している用語や概念もかなりある。ベックが挙げているように、たとえば、「権力」という言葉より「責任」、「国益」よりは「平和」「協力」「経済安定」、「舵取り」、「指導」よりは「リーダーシップ」などの言葉遣いだ。使い方を誤ると、歴史によって汚染された公式的反発へと逆戻りしかねない。「靖国」問題のように、ひとたび発火させてしまうと、相手はそれを政治的武器として使用してくる。

 今日のドイツは慎重に、現在のようなヨーロッパにおける重みと指導力を手にするまでに至った。しかし、その事実を考えるならば、ドイツがヨーロッパに関わる重要問題に自ら決定力を発揮しないでいるというゆとりや贅沢はしておられない。少なくも多くの国民がそうした無作為の時間を認めないだろう。

「メルキアヴェリ・モデル」 Merkiavelli model の内容
 メルケル首相が「ヨーロッパの無冠の女王」として、存在しうるのは、彼女が自らが置かれたこれらの関係、利害を巧みに活用し、エカテリナ女帝を理想像としながら、日々の政治活動を行っているからだろう。遠くから見ても、彼女はヨーロッパの諸力のバランスを把握することに長けている。他方、マカヴェリは「愛される君主」と「怖れられる君主」のいずかかを選ぶかと問うている。推測に過ぎないが、彼女は外国からは畏敬され、国内では愛されることを志しているともいわれる。メルケル首相の行動が、これまで時に優柔不断に見えたのも、冷静に計算された時間の浪費とも考えられる。

 彼女のこうした政治行動の性格は、評伝作家や政治学者の間でも必ずしも一致しているわけではない。たとえば、同じ社会学者でもベックとハーバーマスの間には微妙な理解の差異がある。メルケル首相の評伝をみると、いまだ物心つかぬ内に牧師であった父親に伴って、東ドイツへ移住している。そして、あの悪名高い国家秘密警察シュタージの網にもかかることなく、壁の崩壊を経験し、今日の地位を築きあげた。その生い立ちからも、かなり慎重な性格の持ち主であることは想像できるが、慎重だけでは、今日のメルケルはないだろう。彼女の政治家としての成長・充実の過程は、それ自体きわめて興味深いのだが、ここで書いている余裕はない。

現下の問題にどう対処するか
 急展開している「ウクライナ問題」に限る。大国アメリカは、明らかに外交力も低下し、イギリスも次第にヨーロッパから離れ、フランスは政治、経済双方において国力を顕著に低下させている。本来、もっと前面に出るべきブラッセルの上級代表は政治家としての資質が問われている。ヨーロッパの結束力はかなり危ういといわざるをえない。。

 こうした状況では、アンゲラ・メルケル首相のみが、なんとかプーチン大統領と対抗できる存在といえる。大国復権を狙うロシア側も、ヨーロッパの実態は十分承知の上で、強権発動、軍事介入も辞さない構えのようだ。今、メルキャヴェリストはなにを考えているのだろうか。今回は決断に与えられた時間は短い。ウクライナ情勢は急変する可能性は高い。国際的な監視機構の仕組みは活動開始までにいつも多大な時間を要する。せっかく壮大で平穏な光景を楽しもうと思った環境だが、ひとたび閉じたPCを開く回数も増えそうだ。


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