■平均律 1巻 3番 70小節目、なぜ小節途中で段落を分けたのか?、
真央の秘密を解くかぎがここに■
10.3.26 中村洋子
★日本は、桜、桃、海棠、連翹、椿と、春の花で満ちています。
桜も、大島桜、寒緋桜、染井吉野、白桜、八重桜と、繚乱です。
桃色、黄色、白、真紅と、色とりどり。
昨晩、サッカーで有名なドイツ・ドルトムントの楽譜出版社の方から、
メールをいただきました。
★「こちらは、1週間前にようやく、雪が解けたばかりです。
最初の花が、大地から顔をのぞかせ始めました。
それは KROKUS クロッカスです。
MAIGLOECKCHEN スズランも、もう直ぐです。」
MAIGLOECKCHEN は、言葉どおりに訳しますと、
「五月の小さく可愛らしい鐘」です。
可憐な花の姿が、髣髴とします。
★来週の30日(火)に、カワイ表参道で開催いたします
「 バッハ平均律アナリーゼ口座 第 1巻 3番 嬰ハ長調 」の準備で、
じっくりと、勉強しています。
そこから、また、“あー、そうだったのか!”という、
いろいろな発見が、ありました。
★3番の「 前奏曲 」は、かなりの部分が、8小節単位で、作曲されています。
「 非常に、整っており、破綻がなく、弾き易い曲である 」と、思っていました。
ところが、バッハ自身による手書譜を、詳細に見ていきますと、
作曲の単位は 8小節であっても、単純に、
演奏の単位を 8小節として、
8小節ごとに、句読点を打ったような、機械的な演奏を、
決して、バッハは求めていなかった、
ということが、分かりました。
★フィギュアスケートの浅田真央選手の演技が、音楽的であり、
観客の皆さんは、演技中の真央選手と同じような呼吸を、
自然にしていることに、自ら気付きます。
これは、ちょうど、バッハが演奏者に求めていたものを、
真央選手が、見事に、演技で実践しているということでもあります。
★平均律 3番「前奏曲」を、8小節単位で演奏するということは、
強拍をフレーズの頭として、機械的に奏することです。
そうしますと、音楽は自然に流れません。
瘤ができたように、ぎこちない印象となります。
★フィギュアスケートでも、同様に、
音楽の強拍の部分で、いきなり、大きい技を始めますと、
観客は、心理的に面食らいます。
音楽の流れ、呼吸に乗ることができません。
心地好く、真央選手と息を合わせて演技を楽しむためには、
自然に息が合うように、観客の心理をもっていく工夫、技が必要です。
その工夫が、「 アウフタクト 」という操作です。
★バッハの実例で挙げますと、平均律 3番「 前奏曲 」(3拍子)の
70小節目に、それが出現します。
バッハの手書譜では、
70小節目の途中の、「 2拍目 」で、2段目が終わってしまいます。
次の「 3拍目 」 から、3段目が、始まっています。
普通の常識では、考えられない書き方です。
現在、出版されていますたくさんの楽譜は、
バッハの書いた通りには、印刷せずに、ごく普通に、
この70小節目を、途切れることなく書いています。
★なぜ、そのような横紙破りの書き方を、バッハがあえてしたのでしょか?
3段目の冒頭に、70小節目の 3拍目をもってきた、ということは、
3拍目の上声の「 嬰ト音 」が、≪ アウフタクト ≫であることを、
まず、視覚的に強く焼付ける効果を、もっています。
さらに、その「 嬰ト音 」と、それに続く71小節目 1拍目の、
「 重嬰ヘ音 」によってできる長 7度の、極めて、
不協和な音程が、際立った印象を与えます。
★この曲の主調である「 嬰ハ長調 」という調は、
有名な曲としては、バッハがほぼ初めて、この曲により、
歴史上に出現させたといえる、「 画期的な 」調です。
調号に♯が 7つ付きます(すべての音に♯が付きます)。
★71小節目 1拍目の「 重嬰ヘ音 」は、
ファのダブル♯という、衝撃的な音で、
この曲の構造上でも、要となる音の一つです。
この「 重嬰ヘ音 」を際立たせるために、
3拍目の「 嬰ト音 」を「 アウフタクト 」として使い、
それを、段落を変えて、あえて 「 冒頭に配置 」 し、
長 7度音程という 「 不協和音程 」 を使う、
という「 三重の仕掛け 」が、施されているのです。
★ここで、「 アウフタクト 」Auftakt の意味が、
少し見えてきたと、思います。
ドイツ語の「 アウフ Auf 」は、英語の「 on 」「 upon 」に近く、
「 ~ に接して 」、「 ~ ~の上(前)にくっついて存在する 」
というような、意味合いです
「 upper 」 のように、「上に浮かんでいる」のではありません。
★「 タクト Takt 」は「拍」という意味で、この場合は、
小節の第1拍、即ち、「 強拍 」ということになります。
別の言い方をしますと、≪ 大技 ≫ といってもいいでしょう。
ですから、「 アウフタクト 」という存在は、以下のように説明できます。
“ さあ皆さん、これから ≪ 大技 ≫ が、始まりますよ ”と前触れする
合図の拍(音、あるいは、動作)である、
といっても、いいかもしれません。
★真央選手は、音楽の強拍と同時に、3回転半ジャンプなどの
重要な技( 強拍 )を、演じているのではありません。
強拍( 大技 )に接する( 直前の )「アウフタクト」、つまり、
「 ≪大技≫の前の動作 」 の段階で、既に、
これから起こる ≪ 大技 ≫ を、想像させるような動きを、
見事に、自然に見せています。
★観客は、その動きを見て、十分に心の準備ができます。
まるで、自分が演じるかのように、
一緒に息を合わせ、待ち構え、楽しむことができます。
それが、感動につながります。
真央選手は、「アウフタクト」を、体現しているのです。
そこが、抜きん出た美質です。
★30日の講座では、聴く人の呼吸と一体化できるような演奏を、
するにはどうするか、
バッハの望んでいた、演奏はどのようなものか、について、
お話いたします。
(桃の花)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
真央の秘密を解くかぎがここに■
10.3.26 中村洋子
★日本は、桜、桃、海棠、連翹、椿と、春の花で満ちています。
桜も、大島桜、寒緋桜、染井吉野、白桜、八重桜と、繚乱です。
桃色、黄色、白、真紅と、色とりどり。
昨晩、サッカーで有名なドイツ・ドルトムントの楽譜出版社の方から、
メールをいただきました。
★「こちらは、1週間前にようやく、雪が解けたばかりです。
最初の花が、大地から顔をのぞかせ始めました。
それは KROKUS クロッカスです。
MAIGLOECKCHEN スズランも、もう直ぐです。」
MAIGLOECKCHEN は、言葉どおりに訳しますと、
「五月の小さく可愛らしい鐘」です。
可憐な花の姿が、髣髴とします。
★来週の30日(火)に、カワイ表参道で開催いたします
「 バッハ平均律アナリーゼ口座 第 1巻 3番 嬰ハ長調 」の準備で、
じっくりと、勉強しています。
そこから、また、“あー、そうだったのか!”という、
いろいろな発見が、ありました。
★3番の「 前奏曲 」は、かなりの部分が、8小節単位で、作曲されています。
「 非常に、整っており、破綻がなく、弾き易い曲である 」と、思っていました。
ところが、バッハ自身による手書譜を、詳細に見ていきますと、
作曲の単位は 8小節であっても、単純に、
演奏の単位を 8小節として、
8小節ごとに、句読点を打ったような、機械的な演奏を、
決して、バッハは求めていなかった、
ということが、分かりました。
★フィギュアスケートの浅田真央選手の演技が、音楽的であり、
観客の皆さんは、演技中の真央選手と同じような呼吸を、
自然にしていることに、自ら気付きます。
これは、ちょうど、バッハが演奏者に求めていたものを、
真央選手が、見事に、演技で実践しているということでもあります。
★平均律 3番「前奏曲」を、8小節単位で演奏するということは、
強拍をフレーズの頭として、機械的に奏することです。
そうしますと、音楽は自然に流れません。
瘤ができたように、ぎこちない印象となります。
★フィギュアスケートでも、同様に、
音楽の強拍の部分で、いきなり、大きい技を始めますと、
観客は、心理的に面食らいます。
音楽の流れ、呼吸に乗ることができません。
心地好く、真央選手と息を合わせて演技を楽しむためには、
自然に息が合うように、観客の心理をもっていく工夫、技が必要です。
その工夫が、「 アウフタクト 」という操作です。
★バッハの実例で挙げますと、平均律 3番「 前奏曲 」(3拍子)の
70小節目に、それが出現します。
バッハの手書譜では、
70小節目の途中の、「 2拍目 」で、2段目が終わってしまいます。
次の「 3拍目 」 から、3段目が、始まっています。
普通の常識では、考えられない書き方です。
現在、出版されていますたくさんの楽譜は、
バッハの書いた通りには、印刷せずに、ごく普通に、
この70小節目を、途切れることなく書いています。
★なぜ、そのような横紙破りの書き方を、バッハがあえてしたのでしょか?
3段目の冒頭に、70小節目の 3拍目をもってきた、ということは、
3拍目の上声の「 嬰ト音 」が、≪ アウフタクト ≫であることを、
まず、視覚的に強く焼付ける効果を、もっています。
さらに、その「 嬰ト音 」と、それに続く71小節目 1拍目の、
「 重嬰ヘ音 」によってできる長 7度の、極めて、
不協和な音程が、際立った印象を与えます。
★この曲の主調である「 嬰ハ長調 」という調は、
有名な曲としては、バッハがほぼ初めて、この曲により、
歴史上に出現させたといえる、「 画期的な 」調です。
調号に♯が 7つ付きます(すべての音に♯が付きます)。
★71小節目 1拍目の「 重嬰ヘ音 」は、
ファのダブル♯という、衝撃的な音で、
この曲の構造上でも、要となる音の一つです。
この「 重嬰ヘ音 」を際立たせるために、
3拍目の「 嬰ト音 」を「 アウフタクト 」として使い、
それを、段落を変えて、あえて 「 冒頭に配置 」 し、
長 7度音程という 「 不協和音程 」 を使う、
という「 三重の仕掛け 」が、施されているのです。
★ここで、「 アウフタクト 」Auftakt の意味が、
少し見えてきたと、思います。
ドイツ語の「 アウフ Auf 」は、英語の「 on 」「 upon 」に近く、
「 ~ に接して 」、「 ~ ~の上(前)にくっついて存在する 」
というような、意味合いです
「 upper 」 のように、「上に浮かんでいる」のではありません。
★「 タクト Takt 」は「拍」という意味で、この場合は、
小節の第1拍、即ち、「 強拍 」ということになります。
別の言い方をしますと、≪ 大技 ≫ といってもいいでしょう。
ですから、「 アウフタクト 」という存在は、以下のように説明できます。
“ さあ皆さん、これから ≪ 大技 ≫ が、始まりますよ ”と前触れする
合図の拍(音、あるいは、動作)である、
といっても、いいかもしれません。
★真央選手は、音楽の強拍と同時に、3回転半ジャンプなどの
重要な技( 強拍 )を、演じているのではありません。
強拍( 大技 )に接する( 直前の )「アウフタクト」、つまり、
「 ≪大技≫の前の動作 」 の段階で、既に、
これから起こる ≪ 大技 ≫ を、想像させるような動きを、
見事に、自然に見せています。
★観客は、その動きを見て、十分に心の準備ができます。
まるで、自分が演じるかのように、
一緒に息を合わせ、待ち構え、楽しむことができます。
それが、感動につながります。
真央選手は、「アウフタクト」を、体現しているのです。
そこが、抜きん出た美質です。
★30日の講座では、聴く人の呼吸と一体化できるような演奏を、
するにはどうするか、
バッハの望んでいた、演奏はどのようなものか、について、
お話いたします。
(桃の花)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲