マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

公務員(06、公務員切り)

2010年07月18日 | カ行
              竹信 三恵子(朝日、編集委員)

 「国家公務員10万人削減」を掲げるみんなの党が人気を集めているという。他の政党からも「公務員減らしで無駄遣いをなくす」のかけ声が聞こえる。だが、働き手の現場を取材していると、そんな「公務員切りブーム」に不安がこみ上げてくる。

 少子高齢化や核家族化で「無縁社会」の言葉も生まれるなか、生活にかかわる公務サービスの需要はむしろ高まっている。規制緩和策の結果、市場を監視する消費者行政や労働基準行政の必要性も強まっている。そんな現実と公務員抑制とのはぎまを埋める形で増えたのが、「公務パート」と呼ばれる非正規公務員と、業務委託先の働き手たちだ。

 2008年の自治労の調査では、全国の自治体職員の3割が非正規だ。その5割強が、時給900円未満と、フルタイムで働いても年収200万円に届かない「ワーキングプア」。半年や1年の短期雇用を繰り返し更新し、3年、5年の年限が来ると自動的に契約を打ち切られるなど、不安定な立場に置かれている。

 先月(05月)30日に都内で開かれた非正規公務員らの全国集会「なくそう!官製ワーキングプア」では、長年働いてきた非正規職員らが、1年おきに100人規模で契約を打ち切られ、大量に失業し続けている自治体もあることが報告された。

 国も例外ではない。「事業仕分け」の対象になった国の出先機関の非正規職員らは「1年契約を更新して10年以上、主要業務をこなしてきたのに何の説明もなく、来年は失業だ。雇用対策はどこへ行ったのか」と嘆く。これでは、ただでさえ雇用が少ない地域の失業率を上げ、消費も押し下げかねない。

 サービスの質でも問題が起きている。埼玉県ふじみ野市では、競争入札による極端な低価格で公営プールの管理を外部委託し、監視員の質を保てず事故につながったとの指摘もある。短期で担い手が代わるため公務サービスの質が下がり、「公務員が怠けているから」と批判を浴びて、さらに公務員削減論が強まるという悪循環を指摘する声もある。

 打開策として、熊沢誠・甲南大名誉教授は、正規との賃金の分け合いによる非正規の安定化を提案している。日本の正規公務員の国民1000人あたりの数は主要先進国中で最低水準だが、賃金水準は高めだ。こうした特徴を土台に、賃金を平準化して非正規も正規として公認する策だ。

 千葉県野田市などでは、業務委託された働き手の生活を守るため、委託先を選ぶ際にその賃金水準も考慮する公契約条例も、始まっている。

 不公正な「天下り」への怒りや、財政難で追い込まれる行政の苦境はわかる。だが、いま必要なのは、機械的な公務員切りではなく、公正で効率的な公共サービスへ向け、知恵を出し合うことではないか。そんな冷静な視点なしでは、やがてツケは私たち自身にかかって来る。

 (朝日、二〇一〇年〇六月〇八日)