マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

介護保険制度の見直し案(その1)

2010年07月08日 | カ行
                上田清司(埼玉県知事)

 介護の負担を国民全体で分かち合う介護保険が創設されて10年。高齢者や家族の安心に不可欠な制度として定着してきた。しかし、一方で利用者にとって使い勝手が悪いとの声も聞く。利用者の利便向上と制度の安定運営の観点から見直しをすべき時が来ていると思う。そこで、現場の声を踏まえ二つの提案をしたい。

 まず、要介護、要支援合わせて7段階ある要介護度区分を軽度、重度の2段階にすることだ。

 現行制度では、段階ごとに利用できるサービスの種類や量が制限されている。このため、本人が必要とするサービスが受けられない場合が生じていた。各段階を再編し、どの利用者も再編前のサービス量と同等以上の利用ができるよう設定する。そうなれば、これまで要介護2以上に限られていた車いすを誰でも借りられたり、ヘルパーやデイサービスの利用回数を増やしたりできる。本人と家族の負担が一層軽減される。

 また、これにより市町村の認定事務が大幅に簡素化でき、コスト削減にもつながる。試算では埼玉県だけでも約10億円、全国頼模では約300億円の削減が可能だ。

 サービスの制限を緩和すると費用が際限なく増大するとの懸念もある。しかし、限度額に対する利用割合が全国平均でも55%程度しかない現状からすると、緩和が直ちに極端な利用の増加につながるとは考えにくい。

 もちろん、将来的には高齢者の増加と相まって費用の増大が予想される。そうなれば新たな財源の確保などについての検討が必要となろう。

 重要なのは、財政的裏付けの中で、介護の社会化が浸透するよう、低所得者対策と利用者の利便向上策にしっかりと取り組むことだと思う。

 二つ目は介護人材の確保・定着を促進することだ。介護職員の離職率は2008年度で18・7%と全産業に比べ約4倍も高い。職員が経験を積み能力を高めていかなければ介護の質の向上は図れない。

 そのため、研修や資格取得などのキャリアアップの仕組みを構築し、資格や経験に見合った賃金・昇任基準を定めることを事業者に義務づけるべきだ。その上で、これらが介護報酬にきめ細かく反映される仕組みにすることがぜひとも必要だ。

 埼玉県では新年度から介護施設等で働く職員に1人あたり最大4万2500円を補助し、介護福祉士資格の取得を支援していく。有資格者の増加で得られた報酬の加算を、職員の給与に反映させ、その待遇改善を促進するというものだ。

 質の高い介護サービスを継続的に供給していくためには、利用者の視点に立った大胆な改革が求められよう。

 (朝日、2010年03月17日)