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高校社会科の復活を

2010年07月12日 | カ行
                       谷田 道治(高校数員)

 政権交代で、現行の教員免許更新制度の見直しに向けた議論が進められているが、教員免許に関して、もう一つ大きな問題があることはあまり知られていない。

 1994年の学習指導要領改訂で、高校の社会科が公民科(倫理、政治・経済、現代社会)と地理歴史科(地理、日本史、世界史)に分離され、教員免許も分けられた。それ以前に社会科の免許を持っていて両方の免許を持つにいたった教員が定年退職し、一方の免許のみを持つ者い教員が増えるに従い、現場で様々な問題が発生している。

 現在、ほとんどの社会科(つまり地歴科と公民科)の教員は自分の専門科目の授業だけでなく、他の科目の授業も担当している。社会科教員の数は学校全体の社会科の授業時間数に応じて定められるので、自分の専門科目だけですますことはできない。

 この中で、地歴科免許のみ、あるいは公民科免許のみの教員は、他方の授業を担当することができないので両方の免許を持つ年配の教員が専門外の科目を担当するケースが増えることになる。しかも、そのように緩衝材となる年配の教員は次々に定年退職していくのだ。特に、社会科教員の数が少ない定時制高校や職業高校などでは、片方の免許のみの教員が加わると、やり繰りが難しくなる。

 また、社会科の教員がクラス担任をしたいと思ったとしても、担任学年の授業が、公民科科目のみ、あるいは地歴科科目のみの場合、不可能となる場合もあり、地歴や公民の授業の編成だけでなく、担任の編成も制約される。

 これに対して、「免許を両方取ればよいではないか」という意見もあろう。実際に教員として採用された後、通信制大学で免許を取得する人もいるが、多忙を極める日常の中でこれをするのは難しい。

 そもそも、高校社会科の分離の理由の一つに「教員の専門性を高めるため」が挙げられたが、教科の専門性は狭い専門科目だけを教えていて高まるのではなく、周辺の様々な科目を教えることで高まるのである。例えば倫理専門の私は、世界史を担当するなかで、世界史だけでなく倫理の思想史授業の力量を蓄えた。科目間の連関が強いという特性を持つ社会科では、社会科という枠の中でこそ、専門性が高まる。今の若い人たちはこれを体験できない。

 高校社会科解体は、「なぜ必要か」「なぜ歴史と地理が結びつき、歴史と政治・経済は切り離されたか」などの疑問に十分な説明がないまま、「戦後教育の見直し」を求める自民党の影響力の下で進められた。問題点が明らかとなった今、混乱を改めるのは政治の責任である。社会科免許の復活に予算は全くいらない。一刻も早い復括を望む。

 (朝日、2010年04月08日)