まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

クーデターの男!

2020-03-30 | 日本映画
 「動乱」
 昭和7年の仙台連隊。宮城大尉が隊長をつとめる中隊の初年兵・溝口が脱走する。溝口を追って彼の生まれた村落に来た宮城は、溝口の姉・薫と出会う。薫は親の借金のため遊郭に売られようとしていた…
 70・80年代の邦画が好きです。今のようにポリコレが蔓延しておらず、内容も演出も自由で斬新で、男優女優の演技も濃密で果敢でした。昭和の代表的な映画スターといえば高倉健と吉永小百合。二人が共演したザ・スター映画です。二人ともほとんど神格化されたスター。演じる役同様に、お二人の人柄にも容貌にも嫌な感じとか汚らしさとか安っぽさとかが微塵もなく、真面目で清廉で高潔なイメージ。超大物なのに俗悪なセレブ臭がない、けど親しみやすい庶民臭もない。今はもういない美しく遠い存在の銀幕スター。出演作も役もその聖なるイメージを損なわないものばかりで、ファンにとってはそれが大事なこと。宗教のような崇拝と応援なのです。私も健さんと小百合さまは好きです。強い日本の男、美しい日本の女の理想形だとも思います。でも、つまんない、おもしろくない、とも思ってしまうのです。いつも同じような役、美しいイメージを守る、という役者にはあまり魅力を感じないんですよね~。イザベル・アジャーニとかイザベル・ユペールとかもいつも同じような役でイメージも不変なんだけど、二人の場合はヤバいキ○ガイ系なので常に衝撃と驚愕がある。健さんと小百合さまにはそれらがない。

 この映画でも、過酷な運命に翻弄されながらも気高く美しく生きる男女、という従来の二人で、新鮮味はゼロです。でも、やはり今の男優女優にはない神々しい映画スターのオーラが。チャラチャラした軽薄さがないところは、むしろ新鮮かもしれません。禁欲的で朴訥で寡黙な健さんは、まさに聖なる男。いかに自分がカッコいいか、演技がうまいかをひけらかす、目立ちたがりの衒気な俳優が多い中、健さんの静けさ無骨さは本当に希少で貴重。軍服や着物姿も絵になる。棒読み?と思うことも多々ありますが、それが漢(おとこ)役には適してるんです。感情的なペラペラ長台詞とかオーバーな表情や動きなど、演技派きどり演技はウザいだけです。軍人だけどどこか仁義、任侠なテイストがあるところも健さんらしかった。

 「細雪」や「天国の駅」など、80年年代の吉永小百合は本当に美しく、なおかつ“女”な演技に挑戦していました。女優として最も輝いていた時代です。以後も美しさは保っておられる彼女ですが、キレイキレイなだけなポリコレ大女優として今に至っています。この作品の小百合さまも、可憐でけなげで慎ましくも強い芯を秘めているヒロインですが、遊女姿や蓮っ葉な態度、手を出してくれない健さんに抱いてよ!と切なくすがったりなど、清らかながらも生身の女な彼女は、セックスもウ○コもしそうにない今の彼女と比べると、魅力的で新鮮です。着物が本当に似合う女優。今の人気女優はみんなデカくて細く、ムダにスタイルがいいので着物がさまにならない。健さんと小百合さまの濡れ場がある!と聞いていたのですが、とても濡れ場とは言えないラブシーンでガッカリ。ついに結ばれるシーン、小百合さまの美しい恍惚顔を映してるだけで、健さんはほとんど見えない
 志村喬、米倉斉加年、桜田淳子、田中邦衛など、今はもう見られない出演者が。桜田淳子の恋人の将校役、にしきのあきらはアイドル枠だったのでしょうか。もっと凛々しい俳優にしてほしかった。健さんに寵愛されていたと言われている小林稔侍の若き日の姿も。当時の軍人さんたち、あんなに厳しい生活や言動を強いられていたのですね。脱走しただけで死刑とか陛下、大御心、とかいった言葉を口にする時、ピシっと姿勢を正す軍人たち。これも現代では見られない光景ですね。亡国を憂い怒りの決起に奔った2・25事件の将校たち、草葉の陰で安倍一味(by 北の将軍さま)をどう思ってることでしょうか。安倍一味を見ていると、いっそクーデターが起きればいいのにと思ってしまいます。
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エレクトリック女教師⚡

2020-03-25 | フランス、ベルギー映画
 「マダム・ハイド」
 高校の化学教師マリー・ジギルは生徒たちから見下され、彼女のクラスは学級崩壊に陥っていた。そんな中、実験中に謎の電気ショックを受けたマリーの心身に、奇怪な変化が生じて…
 有名なジギルとハイド氏の話を、舞台を現代のフランス、主人公を女性に置き替えて映画化。冴えない女教師が怪奇なパワーを得て、凶悪な生徒やモンスターペアレンツ、クズ教師に恐怖のお仕置きをする学園ホラーコメディかと思いこんでいたのですが、ぜんぜん違っていたので面くらいました。てっきり大好きな「ヤヌスの鏡」みたいなぶっ飛んだ二重人格ものか、「シリアル・ママ」みたいなドギツイい猛毒コメディかと勝手に期待してたのですが…

 いちおうコメディみたいでしたが、あまり笑えなかった。終始淡々としてて、もう少しで寝るなー!寝たら死ぬ!な雪山遭難状態になりそうに。マダム・ハイドがこれといった事件や騒動を起こすわけでもなく、夜に夢遊病者になって謎の発光をする以外、マダム・ジギルとマダム・ハイドに違いがなくて、せっかくの別人格設定を活かしてないのが残念でした。

 ハチャメチャなホラーコメディにしないのなら、せっかく高校を舞台にしているのだから学園ドラマにできたはずなのに。マダム・ハイドに変身することで、自分をバカにしていた生徒たちとの関係性が変化し、マダム・ハイドとの関わりを通して生徒たちが成長する、みたいな話にもならなかったのが、本当に惜しい。せっかくジギルとハイド氏を基にしているのに、オリジナルの面白さも活かさず愉快なアレンジもされてないのが、もったいなさすぎます。

 マダム・ジギル/マダム・ハイド役のイザベル・ユペールは、相変わらず冷ややかな美しさが格別。冷たい無表情や真面目な女教師ファッションなど、「ピアニスト」のエリカ先生を思い出させます。無機質な白衣が似合う。小柄で華奢で透明感があるので、遠くから見ると少女みたい。凡百な女優なら、マダム・ジギルとマダム・ハイドをオーバーにわかりやすく演じ分けるんだろうけど、イザベル・ユペールはそんなことはしないんですよね~。いつもの彼女をブレずに貫いてます。冷酷そうだけど、どこかやっぱシレっとトボけてる感じもいつものユペりん。生徒たちからナメられても、そんなのどーでもいい、みたいな恬然としてる様子とか、いかにも彼女らしかった。でも人からバカにされるのがこれほど似合わない女優もいません。ただそこにいるだけで畏怖しか感じないです。電気ショックでギャー!な顔と、発光して不良や犬を焼き殺すのが、数少ない笑えたシーン。こんなシーンで!?な乳見せもあり。

 高校の校長役で、ロマン・デュリスも出演してます。髪型といいファッションといいキャラといい、校長先生というよりゲイのデザイナーみたいだった。ロマンなので何か怪しい秘密や正体が?と期待したのですが、そういう隠し味的な設定もなし。ロマンの無駄づかい!マリーの夫役は、「フレンチ・ラン」にも出ていたホセ・ガルシア。ロバート・ダウニー・Jr.に激似。イザベル・アジャーニ主演の「La Journée de la jupe」もそうでしたが、貧しい地域の高校の学級崩壊や荒廃は、フランスでも深刻みたいですね。でもこの映画の生徒たちは、暴力的な行為や違法行為をしないだけ、まだよい子たちなほうだと思いました。
 
コメント (3)
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切り刻まれたい女

2020-03-22 | 北米映画 00~07
 「イン・ザ・カット」
 ニューヨークで暮らす大学教授のフラニーは、連続猟奇殺人事件を捜査する刑事マイロと深い関係になる。やがてフラニーは殺人犯が身近にいると感じ始め、不安と疑心暗鬼に陥るが…
 かつてラブコメの女王として一世を風靡したメグ・ライアンが、演技派女優になろうと目論んで挑んだ官能サイコサスペンス。あのメグ・ライアンが脱いだ!ことで話題になりました。残念ながら、蓋を開けてみると作品の評価も興行成績も芳しくなく、メグさんにとってはかなり不本意な結果になってしまいました。ストーリーも展開もありきたりな猟奇サスペンスなのに、ヘンに思わせぶりなシーンや芸術映画っぽい雰囲気、台詞などが意識高い気取りで鼻につくし、肝心のメグ・ライアンが全然魅力的じゃないのがトホホです。メグさん、ちょっと早計というか浅薄な決断をしてしまいましたね。いい年していつまでもチャラいラブコメなんかやってらんない!オスカー欲しい!という焦りと欲が、この映画に彼女を導いてしまったみたい。心に闇を抱え、変態的な性愛に身もだえるというヒロイン役は、メグさんの見た目と演技力では無理だった。ラブコメではあんなにイキイキとチャーミングだったのに、この映画では驚くほどのデクノボウ演技でした。

 メグさん、顔もガタイもたくましいので、たまに女装した男に見えた。なので露出の高い服を着ても全裸になっても、全然エロくないんです。けだるくアンニュイな雰囲気を出そうとしてましたが、ただの根暗なイタいこじらせおばさんにしか見えなかった。あの役はオールアメリカンなメグさんではなく、もっと繊細でエレガントで冷ややかな毒がある女優向け。イザベル・ユペールが得意とするヒロインですが、ユペールならまた違った異色ヒロイン、犯人よりヤバい笑えるヒロインになってたでしょうけど。とにかくミスキャストすぎて、ただもう痛々しいだけのメグさんでした。無謀で分不相応な賭けに失敗してしまったメグさんですが、あそこまでやったチャレンジ精神、女優魂には感服しました。

 30年後も同じことやってそうな綾瀬はるかとか石原さとみに比べると、無謀で分不相応でも新しく険しい道を選んだメグさんの気概は、まさに女優の鏡と言えます。瑞々しい生命力に輝く若い女でもなく、腐りかけの果物みたいな妖艶な熟女でもない、観客に気まずい思いをさせる痛ましいだけの崩れた全裸をさらした勇気に感嘆。大物女優が必要以上に脱ぎ、男にアンなことコンなことされたりしたりする痴態って、最近のポリコレ蔓延なハリウッド映画ではもう見られないので、いい時代だったな~と感慨深いものが。往年のメグさんを思うと、全盛期とのギャップに何もここまでしなくても…と呆れたり悲しくなりました。ここまでやって失敗してしまうなんて、お気の毒としか言いようがありません。極端すぎるチャレンジではなく、もっとご自分の魅力と個性を大事にしたキャリアを目指してほしかったです。ダイアン・キートンとかゴールディー・ホーン路線でよかったのに。最近すっかり見かけなくなったメグ・ライアン、今も女優を続けてるのかしらん?
 マイロ役は、注目されかけてた頃のマーク・ラファロ。若い!けど、今とそんなに変わってないかも?

 半グレでちょっと怪しい、ワケアリっぽい刑事役ですが、やっぱ優しそう誠実そうで悪や狂気の臭いなど全然なく、ぜったい犯人じゃないという確信を始めっから抱かせてくれます。彼もボカシ入りの全裸になって、卑猥なことをしたり言ったりするのですが、かなり無理してる感があります。彼もエロとか官能とかには無縁な俳優。どっしりして毛むくじゃらな裸は、男くさいぬいぐるみを連想させます。抱かれたらさぞや癒されるだろうな~。

 メグ・ライアンの妹役はジェニファー・ジェイソン・リー、ストーカー男役はケヴィン・ベーコン、と個性の強い役者たちが脇を固めてます。彼らをあまり活かせてなかったのも、この映画の惜しい点。ニューヨークが悪意があるとしか思えないほど薄汚く危険な街として撮られていて、ぜったいここには住みたくないと思わせました。「ピアノ・レッスン」で高く評価されたジェーン・カンピオン監督作品。新作が途絶えてるようですが、カンピオン監督にはまた女優魂に圧倒される映画を作ってほしいものです。
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赤い不貞

2020-03-15 | 日本映画
 「Red」
 専業主婦の塔子は、エリートの夫と愛する娘と何不自由ない裕福な家庭を営んでいたが、何か満たされないものを感じていた。そんな中、昔の恋人である鞍田と再会した塔子は…
 直木賞作家、島本理生の小説の映画化。映画を観る前に、原作を読んでみました。女の性や自立を生々しくもシビアに描いた原作と違って、かなりソフトで甘い内容になってました。ぶっちゃけ、女性向けに作り過ぎ、韓流ドラマっぽいスウィーツ映画になってしまっていてガッカリ。不倫劇なのに、不倫の背徳感とか罪悪感、理性を失って性愛に溺れてしまう怖さがほとんどなくて、観てるほうはヒロインが不倫してることを忘れてしまいそうに。ヒロインの夫や娘の存在が希薄だったせいもあり、甘々な恋愛っぽくなってしまってた。

 不倫に共感なんて、もちろん今のご時世できるわけがありませんが、自分には無縁な大人のファンタジーとして、これまで多くの映画で描かれてきた魅惑のテーマ。不倫の傑作といえば「隣の女」と「ハッピーエンド」がすぐに思い浮かびます。両作のサスペンスみたいな緊迫感、滑稽でもあるデスパレート感など、このスウィーツ邦画には微塵もありません。内容もシーンもキレイキレイすぎて、バカバカしくなってしまうほどウソ臭く、気恥ずかしくなったり鼻白んでしまうばかりでした。映画を韓流もどきにしてしまったこと、そしてヒロインに魅力を感じられなかったことが、この映画の敗因でしょうか。瀟洒な家に住んで、きれいな服を着て、カッコいい仕事して、おいしいものを食べて、いい男とアバンチュール、なんてリア充すぎるバラ色生活、不満や苦悩なんてバチが当たりますよ。いい御身分だよね、としか思えなかった。悩んだり迷ったりせず、夫と愛人の間をしたたかにしなやかに行き来する悪女っぽい非ポリコレなヒロインのほうが魅力的だったはず。

 映画では無神経で独善的な夫の存在が希薄だったせいもあり、ヒロインが追い詰められ限界突破する展開に違和感。私ならあんなブルジョア生活を送れるなら我慢する!貧困や夫のDVに苦しんでる女性からしたら、ふざけんなと噴飯ものなヒロインかもしれません。ラストなんか、もろ韓流ドラマなお涙ちょうだい化してしまい、よく原作者が許したな~と呆れてしまった。原作は、やっぱそこに落ち着くよな~な現実的でドライな結末だったのに。不倫ドラマに切なさとか涙の感動とか、スウィーツを持ち込むとこんな映画になってしまう、という悪例になってしまいました。

 ヒロイン役の夏帆が、何だかな~…目も鼻も口もデカく、おまけにガタイもデカい…のはまだいい。「隣の女」のファニー・アルダンも男みたいなデカさだったし。風貌ではなく、可愛い子ぶりっこっぽい演技にイラっとしてしまった。声も喋り方も女の子すぎる。清楚な若奥様ファッションも可愛いすぎ。性愛演技も中途半端で、この題材で脱がないとかありえない。すごい不自然。別に彼女の乳が見たいわけじゃないけど、そういうところが映画をスウィーツにしてる一因なんですよね~。共演者が彼女のことを覚悟のある女優とか評してたけど、どこがじゃ~とツッコミたいです。あれぐらいで覚悟の演技、と褒められるのが今の邦画のレベルの低さを如実に証明してます。「ハッピーエンド」のチョン・ドヨン級の演技ができる女優が邦画にもほしい。

 ヒロインの不倫相手役は、大好きな妻夫木聡この映画、もちろんブッキー目当てで観に行きましたブッキー、やっぱ可愛いですね~。おじさんになったけど、可愛いおじさん。そしてブッキー、やっぱエロいわ~。若い頃からのフェロモンが、加齢臭になることなく今も濃厚。裸も特に肉体美じゃないのに、浅黒い肌とほどよく脂ののったムチっとした体つきがたまらん。そしてブッキーといえばのディープキス!あんな激しくねっとりした口吸いする男優、ブッキー以外いませんよ。最近は池松壮亮や松坂桃李など若手も台頭してますが、今もブッキーが邦画濡れ場王です。でも何か物足りない、ブッキーならもっとできたはず、な中途半端さが歯がゆかったです。

 濡れ場は得意なブッキーですが、演技は相変わらず大根です。ニヒルでクールな大人の男の役を一生懸命演じてるのですが、何かコントみたいで笑えたわ~。おじさんになったとはいえ、退廃的な中年男の役をするのはまだ、見た目も雰囲気も可愛すぎる。原作者はトニー・レオンをイメージしてたようだし、私は今のイ・ジョンジェが適役だと思います。悲しいかな結局男優も、日本は人材不足ってことですね。ヒロインに絡んでくる男性社員役の柄本佑が、ファンの方ゴメンなさい、顔も喋り方も気持ち悪い!最近人気があるらしいけど、私には解からない。あの役、ちょっと前の向井理とか田中圭ならぴったりかも?ヒロインの夫役の間宮祥太郎は、イケメンだけどデクノボウな演技。二人はとても重要な役なのに、別にいなくても成り立つような存在にされていたことなど、脚本もダメすぎる映画です。
 
コメント (8)
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セクハラクーデター

2020-03-01 | 北米映画 15~21
 「スキャンダル」
 大手テレビ局FOXニュースの元キャスター、グレッチェン・カールソンがCEOであるロジャー・エイルズをセクハラで告訴する。騒動の中、被害に遭ったことがある花形キャスターのメーガン・ケリーは、沈黙を守るか共に闘うか迷い苦悩するが…
 シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ハリウッドの大物女優3人の競演作。日本のCMレベル女優のキレイカワイイ学芸会にはもうウンザリ。美貌や安定路線、培った人気など、いろんなものをかなぐり捨てた恐れ知らずな役や演技、見た目で観客をドン引きに近いほど圧倒してこそ真の女優。すごい美女なのに、それを否定するような汚れ役や狂った役を果敢に演じることで定評のある女優が、一人だけでも十分濃ゆいのに三人も集合してしまった贅沢な映画、さぞや胸焼けのするような女優魂を見せつけられることだろうと、大きな期待を抱いて観ました。で、どうだったかというと…
 
 御三方とも評判通りの力演でした。美しく見せたい好感を抱いてほしいという過剰な自意識や媚は微塵もなく、世にはびこる理不尽や非道を訴えたい!という真摯で強いメッセージ性ある役と演技にはただもう感服と畏怖あるのみです。シャー子さんは得意の自分崩しでほとんどご自身を消した顔になってたし、ニコキさんは億さずに容色の衰えをあらわにし、マーゴットは恥辱のパンチラ。CMの仕事が大事な日本の女優は絶対やらない、できない勇気と根性でインパクト強烈です。3大女優の競演が売りな映画なのですが、3人が一緒の画面でそろうのはエレベーターで鉢合わせするシーンだけ。ほぼ個人プレーなので、女優同士の火花散ら演技合戦という期待はハズレて残念。そしてこの御三方、他の出演作でもですが、鼻息が荒く力が入り過ぎな傾向があるので、見ていてちょっと疲れることも事実。どう見ても泣き寝入りなんかしそうにない、やられたら倍返し間違いなしな女たちなので、被害者の痛みや苦しみはあまり伝わってこなかったです。

 3大女優の演技もだけど、セクハラパワハラに心身を傷つけられる女の痛みや屈辱、反旗を翻す女の怒りと強さ、というゴリゴリなフェミニズムが結構しんどい。セクハラパワハラ野郎や老害をギャフンと言わせてスカっとするはずの内容なのに、痛快さやカタルシスはほとんどなかった。3人の女たちの強さや行動力には心底頭が下がるけど、共感とか好感は抱けませんでした。彼女たちは被害者なんだけど、毒を食わらば皿まで的にセクハラパワハラに耐えたり見て見ぬふりをしたりしてまで出世したい、富と名声を得たいという野心や打算もまた生々しくイヤらしく、女たちの蜂起と糾弾もほとんど私憤にかられた報復っぽくて、女の恨みの深さに戦慄。良識的で平等と協調が保たれた清い世界では、きっと彼女たちは満たされず輝けなかっのではなかろうか。汚いものを栄養に強く美しくなっていく、そんなヒロインたちのように思えました。

 それにしても。老害社長たちのセクハラパワハラは非道すぎ醜悪すぎて、ほんと吐き気がしました。出世のためとはいえ、女たちよく我慢できたよな~。あんなことが当たり前のように横行する環境、怖すぎる異常すぎる。有能で美しいと、受難もまた多いんだな~。有能でも美しくもない私は幸せ者かも。権力を振りかざして立場の弱い者を虐げたり食いものにするような卑劣なゲス野郎どもは、手ひどい天罰が下ればいいと心底願いますが、私のように強い賢い男には従順になる意識が低い愚か者には、攻撃的で好戦的なフェミニズムが少し息苦しく重くも感じられます。

 ジョン・リスゴーの強権的なゲス老害っぷりの醜いパワフルさも圧巻。後半に登場する弁護士役は、マーゴット・ロビー主演の「アイ、トーニャ」でアカデミー助演女優賞を受賞したアリソン・ジャネイでした。TV局オーナーの次男役の俳優がイケメンだった。アメリカのTV事情とか政治情勢とかに無知なので、登場人物の関係性とか肩書、立場がよく分からず戸惑うことが多々ありました。トランプ大統領、ほんとど準主役級な登場回数と存在感です。日本の女子アナたちも、この映画のようにパワハラセクハラにまみれながらも、したたかにサバイバルしてるのかな。
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