尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

追悼・原田芳雄

2011年07月19日 21時30分18秒 | 追悼
 原田芳雄の訃報が伝えられた。71歳。今月11日に主演映画「大鹿村騒動記」(阪本順治監督)の試写会に車イス姿で参加したという話が伝えられて病気だということは知っていたけれど…。
 原田芳雄は僕らの時代のヒーローだった。70年代の僕のお気に入りの映画にはみんな原田芳雄が出ているんじゃないか、という感じだった。(いや、萩原健一もあるかな。)思えば、三船敏郎や石原裕次郎だって、時代に反逆する若者のヒーローとして出てきたわけだが、60年代末にはもう偉くなって大企業の幹部なんかを演じる役者になりつつあった。

 あの疾風怒濤の時代には、あらゆる分野で文化革命があったが、特に演劇や映画など生身の身体を抜きに存在できない芸術では、まったく新しいタッチの身体性を持った俳優が求められた。その一人が原田芳雄で、黒木和雄監督「竜馬暗殺」という今見ても前衛ムード満々の素晴らしい映画で竜馬を演じた。今までいろいろな人が竜馬を演じているが、ここまで生き生きしたというか、男がむんむんするというか、時代の中で悩みをかかえた男のムードが出ているのはないのではないか。

 元々は俳優座養成所出身で、清水邦夫の伝説的な第1作「狂人なおもて往生をとぐー昔、僕たちは愛した」を俳優座がやった時には、ばってきされて主演で出演している。しかし、新劇でやっていける人ではなかったのだろう、71年に中村敦夫、市原悦子らと俳優座を脱退する。その頃から、アウトローや反逆者を映画で演じて、圧倒的な存在感を示した。藤田敏八、黒木和雄、鈴木清順、若松孝二、森崎東ら独自の世界を描く、くせのある監督と組むことが多く、僕にとってもっとも身近な男優だった。

 僕にとって身近な感じがするのは、TBSラジオの深夜放送「パック・イン・ミュージック」で故・林美雄の担当時によく出演して歌をうたっていたから。石川セリ(原田も出ていた藤田敏八「八月の濡れた砂」の主題歌を歌っていた。この番組で井上陽水と同時に出演したのがきっかけで結婚)、山崎ハコ、荒井由美(現・松任谷由美)らが続々と出演するというすごい番組で、聞いていた人に与えた影響はとても大きかったと思う。

 最近の人は歳取った原田芳雄しか知らないわけだが、やはり若い時の方が思い出にある。映画を振り返れば、「赤い鳥、逃げた?」「祭りの準備」「ツィゴイネルワイゼン」「スリ」などが素晴らしいと思う。井上ひさしの名作を黒木和雄が映画化した「父と暮らせば」などもうまいには違いないし、心に響くんだけど、こういう役が原田芳雄に向いてるわけではない。それより望月六郎監督「鬼火」(1997)という映画が僕は忘れがたい。これは出所して堅気になり恋人(片岡礼子)もできたのに、ヤクザとしてしか生きていけない男の悲しさ、さびしさ、やるせなさを全身で表現している。こういう世界こそ原田芳雄しか演じられない境地で、最後までアウトロー魂を持ち続けた役者だったと思う。
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