http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/index.html より転載
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憲法改正 堂々と本音で議論せよ
参院選の最大の焦点は、いわゆる「改憲勢力」が、改憲発議が可能になる議席の3分の2を獲得できるかどうか。最近の世論調査では、連立与党を組む自民、公明両党におおさか維新の会などを含めると、その議席数を「うかがう」との予測が出ている。
安倍晋三首相は今年の年頭会見で、参院選では憲法改正を争点にすると明言し、並々ならぬ意欲を示してきた。しかし、いざ選挙となると、改憲を目指すはずの与党側がアベノミクスの評価ばかりを強調し、積極的に論議を仕掛けるどころか、話題になるのを避けている。これでは、憲法のどの条項を、どう改正したいのかさえ分からない。 世論調査では改憲反対が多数を占めている。それゆえ、正面から主張すれば、かえって改憲発議に必要な議席数獲得の障害になる-という打算が働いているのなら、争点隠しのそしりは免れまい。
そもそも、なぜ改憲なのか。見極めるべきは、その「本音と建前」である。
今年の憲法記念日に発表した談話で、自民党は「時代の変遷や国内外の情勢の変化に伴い、現行憲法で足りない部分や対応できない課題も生じて」いるので、党是である「自主憲法の制定」を目指すとした。
本当に現行憲法では現状に対処できないのだろうか。
例えば、中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイルの脅威、中東情勢などに対処するために日米同盟を強化する必要があり、制約となっている9条の改正が必要だ-という主張がある。 しかし現実には、9条の戦争放棄と戦力不保持の規定にもかかわらず、日本はすでに自衛隊を保有し、安倍政権は違憲が疑われる集団的自衛権の行使容認に踏み込んでいる。このうえ9条を改正して国防軍保有と集団的自衛権の発動を認めても、実際的な意味はないだろう。
とすれば改憲の「必要性」は建前に過ぎない。改憲論者の本音は、占領軍による「押しつけ憲法」が作り出した戦後社会への不満といらだち、その裏返しである戦前日本への肯定欲求とみるべきだろう。安倍首相がさまざまな理由をつけて「戦後レジームからの脱却」を唱え、改憲に執着するとき、過去へのノスタルジーが感じられる。
その意味で憲法改正には「過去の清算」という側面があり、いわゆる歴史認識問題と表裏一体の関係にある。とりわけ、自民草案のように、天皇を元首とし、国防軍が海外で武力を行使でき、戒厳令に等しい緊急事態宣言を出せるような改正に対しては、国際社会の疑念と反発を招く恐れがある。改憲論が、きな臭い「過去志向」である限り、幅広い国民の理解も得られまい。
とはいえ、国際情勢だけでなく、家族のあり方の変化や人権意識の高まり、環境破壊、国と地方の関係など、70年前には想定しなかった新たな状況や課題が生まれているのも確かだ。現行憲法で十分に対応できるのかどうか。参院選を機に各党はあらためて見解を明らかにし、議論を深めてほしい。
[京都新聞 2016年06月26日掲載]
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