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ミステリ感想-『芝浜謎噺』愛川晶

2017年03月29日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
劇団員に「野ざらし」の不備を指摘された福の助が改作に挑むかたわら、妻の亮子のもとには伯父から「野ざらし」そっくりの事件が持ち込まれる…野ざらし死体遺棄事件
やむにやまれぬ事情から弟弟子に「芝浜」の初心者用への改作を依頼された福の助。一方、楽屋では小さなトラブルが頻発し…芝浜謎噺
ついに迎えた「芝浜」披露の日。ところが独演会の目玉だった兄弟子が遅刻し、裏切られたと思った客席からは怒号が飛び交う。その時、代理に名乗り出たのは…試酒試

08年このミス14位


~感想~
シリーズ第二弾。古典落語の不備を改良し、それを披露するだけで周囲で持ち上がっていた様々な問題が同時に解決してしまう、という空恐ろしくなるほどの労力の掛かった構成はもちろん健在。
冒頭の「野ざらし~」は落語そっくりの事件が起こるという、本格ミステリで言う見立て殺人のような展開に面食らうが、それをいつものように落語を披露するだけで解決する、このシリーズの魅力を凝縮した一編で、しかし何もかも解決させず、オチの一言に合わせた八分目でしまいとするのも粋で心憎い。

二編目の表題作は落語好きでなくとも知っているあの「芝浜」に初心者向けのアレンジかつ不備を解消する改作を施すのだが、その手掛かりは「煙管を逆に持つ」と早々に明かされ、それがどう活かされるのかという見どころに加え、周囲で起こる小事件が期待通りに一つにまとまっていき、やはり落語を演じて解決してしまう、「野ざらし~」の強化版といった趣向。

掉尾を飾る「試酒試」はミステリらしい事件は起こらず、ただ独演会の顛末が描かれるのだが、それがあまりに達者な落語の描写とあいまって臨場感抜群。
個人的には「圧倒的に不利な状況を、戦術で短所を長所に変え逆転させる」戦記物のようにも読めてしまった。
そして終わってみれば豊富な伏線に支えられた、意外性あふれる仕掛けが忽然と姿を現し、「ミステリ短編オールタイムベスト・ラスト一行」を募ったら上位にランクインしそうな、完璧なまでに素晴らしいオチが着く、年間ベスト級の一作。
前作で感じた期待値を軽々と飛び越して見せた、文句のないシリーズ第二作目である。


17.3.25
評価:★★★☆ 7

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