Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

EMT927 について

2023-09-23 23:11:29 | EMT

 EMT927は1951年に発表された。EMT(Elektro-Mess-Technik)にはそれ以前にも1950年にドイツ放送技術研究所との共同開発で「R35」、1951年に独自開発で「R80」(50台)があったが本格的な量産が始まったのはEMT927から。その後1956年にはEMT930が発表されこれらがアナログ再生の最高峰と呼ばれたEMTのブランドイメージを確立した。ただし民生用では無くレコード会社や放送局の業務機で個人への販売は限られたものだったと思う。EMT製品はレコード再生のコンプリートなシステムでブロードキャストにおいては合図が出た時に事故なく正確にレコードから信号を取り出せることが最大の使命だった。78SP、LPレコード用の2個のカートリッジ(stになると1個のみ)、専用のイコライザーが付属しており1.55Vのライン出力がされる。いずれもリムドライブ方式だがEMT社はその後のアナログプレーヤーの変遷と同じくしてベルトドライブ、ダイレクトドライブプレーヤーに移行していく。しかし現代(2023年)においても半世紀以上前の製品にもかかわらずその魅力は衰えておらず昨今のアナログレコードの復権とともにあらためて注目される。EMT927は同社のフラッグシップとして君臨している。

EMT R35とEMT R80

  

 EMT製品は子供の頃から雑誌などでその存在は知っていたが当然田舎の電気店のオーディオコーナーには無くカタログ集のような高級オーディオ誌の写真を眺めているだけだった。日本の代理店だった河村電気の1975年の価格表を見るとEMT927の新品価格は120万円から150万円に値上げされて(付属品の詳細は不明、同時掲載のEMT930は95万円 故瀬川冬樹氏が自宅にEMT927を導入したときに「値上げ前に購入できた」という雑誌記事があった記憶があるがこの時期だったのかもしれない)貨幣価値の異なる現代と比較しても一般家庭には非現実的な価格だったことは確か。はじめてEMT927の実物に遭遇したのは現在居住している市内の古いオーディオ機器を扱っていたお店で今から30年ほど前の事。それまでも写真を注意してみればその大きさが想像できたかもしれないが実際に目にすると存在感に圧倒された。EMT927とEMT930stが並べて置かれていておそるおそる値段を尋ねると両者とも80万円という。こんなに大きさが異なるのになぜ同じ値段なのか不思議だったがEMT930は周波数変換器(当地の商用電源は60Hzで50Hzで正常回転するヨーロッパ製品のモーターに周波数変換させる必要があった)、昇圧トランス(100V→220V)、TSD15(専用ステレオカートリッジ)、EMT155st((専用イコライザー)が付属していた。EMT927の方はかなり使い古されていてEMT製のアーム以外は付属品はない状態だった。いずれもその高額さに驚いたが今から考えれば1990年代当時はアナログ製品の最底値の時期で放送局からはデジタル移行期で放出されたアナログ製品が数多く流通していた。当然大きいEMT927の方に魅力を感じたがこの個体は売約済みで販売できないという。そこで数日間考えた末に一大決心してEMT930stを購入することにした。早速持ち帰って自分の装置に接続してレコードをかけてみると、、長いオーディオとの付き合いの中でもその時の衝撃は3本の指に数えられるほどのものでいままで何をしてきたのだろうと思わせるほどだった。その後故瀬川冬樹氏のレポートに触発されて購入したEMT930-900サスペンションに装着した時もその変化の大きさに驚き、後年入手したEMT927の音にもまたまた驚いた。EMTとの出会いがそれからの私の趣向の原点だったように思います。

 上記のカタログによるとEMT927はサフィックスの違いで数種類の製品が存在した。モノラル時代の1951年のオリジナルのEMT927は78SP,モノラルLP,EPレコード専用でアームはオルトフォン製(と思われる)モノラル、カートリッジはOFS25とOFS65の2種類、イコライザーはEMT139(その後EMT155へ変更)が搭載されていた。モノラル機はそれ以外でもグルーブインジケータを搭載したEMT927A、そして「スペシャルタイプ」と称して各部をブラッシュアップしてレコーディング検聴機器として用いられたEMT927Dがあった。1958年にステレオレコードが発表されるとアームはステレオ対応の十字接続のトーレンスで開発され自社製造されたEMT997、カートリッジはTSD12、イコライザーはEMT139stとなりその後ソリッドステート化されたEMT155stに変わり名称もEMT927stに(それに伴ってEMT927Ast、EMT927Dst)なった。付属のカートリッジはTSD15の1個だけとなり78SP、モノラルカートリッジはオプションとなる。また出力の大きいOFシリーズにはEMT155stイコライザーは対応していなかった(入力オーバーで歪む)。モノラル、ステレオ機の違いは周辺機器の違いで本体はロゴ以外変わっていないのではないかと思う。また文献にはほとんど登場しないがEMT927Fは2本アーム用で左上にアーム搭載用の穴が空いておりアームリフター用の窪みも2つ開いていた(ただしアームリフターが2本の製品は私は見たことがありません)。いずれも放送局の送り出しに対応するため、クイックスタート機構が備わっていた。これは重いプラッターの上に軽いプレクシグラス製のサブテーブルが載っていてソレノイドのブレーキでサブテーブルの動きをコントロールするというもの。サブテーブルだけ止めて針を下ろし頭出し部からさらにデッキ上にマーキングされたスタートポイントまで手動で逆回転する。Qが出てスタートすると頭までの短い時間に正常回転まで立ち上がってその後リレーがONとなり出音される。EMT927D(st)はこの機能を取り除いて重いガラス製テーブルを搭載していた。

 EMT927とEMT930は写真では雰囲気がよく似ていているが前述のように最初に見比べた時にはその大きさの違いに驚かされた。EMT930は本当に良くできたアナログプレーヤーで実際にレコード再生してみると操作は快適で何の不満もない。音についても前述のようにそれまで使っていた国産糸ドライブのシステムを圧倒した。当時はその違いに驚いて「ご飯が炊き上がった時に米が立っているような音!」とすでに故人となった店主に電話した記憶がある。また専用サスペンションに取り付けた時の音の変わりようにも感動した。アナログ製品は何を変えても音の変化が感じられるが重い製品を持ち上げて苦労しながら行った試行錯誤に見合ったご褒美があったように思う。この変化は非常にわかりやすく誰にも体感できるものだった。

 

 しかしEMT930に満足しながらもやはりEMT927は常に気になる存在だったがやがて出会いがあり拙宅で両者を並べて試聴できる事になった。カートリッジとイコライザーは共通で切り替えて試聴すると想像はしていたがやはりその違いは明らか。一番感じられたのはエネルギー量でこれは視覚効果だけでは決してない違いだった。ポール・マッカートニーのベースの躍動感、ピラミット状の音の構成とはよく言われるがまさに体感した。一方でしばらく聴き続けてふと思ったのはこれが本来のレコードの音だろうか?少しエキセントリックすぎやしないか?カッティングで目指した本来の音とは違うのではないか?ということ。気持ち良く音楽が聴けるEMT930とくらべて情報量が多すぎてそのバランスも異なっていた。全てさらけ出すような再生はやはりコントロールが必要ではないかとも思った。後年プレクシグラスの代わりにガラスターンテーブルを載せて聴いた時もこれを感じ、検聴用とされるEMT927Dstでは標準装備だがよりエキセントリックで落ち着いて音楽に浸れず(聴き続ければ慣れたかもしれないが)これは不採用になった。EMT930に採用されたようなEMT927用のサスペンションはEMTからは供給されておらずアフターマーケットからだったがこのサスペンションに乗せるとさらに巨大になってしまうがやはり有効だと感じた。

 我が家にお嫁入りしたEMT927はイコライザーなし(ダイヤルのための2つの穴が無い)、センタースピンドルは細くスピンドルアダプターが付属、グルーブインジケータが付属していない初代のEMT927と思われた。電圧は単相220Vで昇圧トランスが、周波数は50Hzで当地では変換器を必要とする。当時少ないながらも周波数変換できる電源が市販されていたがとりあえずEMT930stで使っていた100Wのクリーン電源を接続した。モーターの消費電力は35Wで100W電源で十分かと思われたが連続して稼働できない(保護回路が働く)そこで騒音対策で大型のファンを載せてゆっくり回して冷却したが盛夏ではやはり落ちる。周波数変換できる機種は限られていたのであまり選択の余地がなかったのだが200W電源を導入して解決した(これはやがて故障して修理できずに廃棄され現在は2台目)。知人は業務用の大型電源を使っていたがこれはあまり良くなかったように思う。波形は見ていないが矩形波だったのかもしれない。丁寧に再塗装された外観は非常に良好だったが残念ながらモーターの振動、異音がありモーター軸とメタルの軸受の間が広がってガタが出ているようだった。モーターの電圧を160V程度まで下げると静かに定速で回るのだが音の変化も大きくてこれは中止した。モーター内のメタルの軸受は上下2ヶ所だが新たに作成してもらうことにした。ガスレンジで加熱してケースから取り出して対応可能なところにモーターの回転子と共に送ったのだがしばらくすると電話があり「軸とのクリアランスは4/100mm か 5/100mmのどちらにしますか?」と尋ねられたがわからないので『お任せします』になった。納品されたのを再度組み立てるととても良好で現在に至っている。ガスレンジで加熱した割には外観もさほどダメージはなかった。モーターの底にはテフロン板とボールベアリングがありテフロン版は窪んでボールベアリングは変形して要交換だった。そこで電話帳で近所のベアリング屋さんを探して直接出向いて注文してもらった。後日入荷の電話があって取りに行くと1個10円!おまけに「領収書切りましょうか?」と聞かれてあわてて断って感謝を述べて帰宅した。現在ならネット通販で容易に入手可能だが当時は他人の親切が身に染みた。これでようやく安心して使えるようになり現在までトラブルは無い。業務機は堅牢ではあるが適切なメンテナンスは欠かせない。当時の現場ではメンテナンス契約も当然あったと思う。趣味で使う場合も丁寧な取り扱いが求められる。

  

 カートリッジからの出力はEMT930に搭載されているEMT155stの入力に接続したりEMTの昇圧トランスからフォノイコライザーに接続したりしていた。EMT155stは入力感度の切り替えができるが内部配線を変更する必要がある。OFシリーズのモノラルカートリッジを使用するときは低い方に感度を切り替えないと歪んでしまう。カートリッジを変更する時に低い感度に設定してあるモノラルイコライザーのEMT155に交換すればいいのだが次第に煩わしくなりそのうちEMT155(st)の出番がかなり減ってしまった。EMTカートリッジのTMDシリーズを使えば入力感度の切り替えは必要なくEMT155stでモノラルレコードが聴けるが音の勢いが全く違うのでこれは敬遠した。拙宅ではOFD25とTSD12の出番が一番多かったと思う。特にOFD25の深々とした余裕のある音に魅了された。

 

 


Victor 5T-22V について

2023-09-04 21:20:08 | テレビ

 かつてテレビは一家に一台が当たり前で家族が集う茶の間の主役だったが1970年代にはアパート暮らしをする若者が増えたためかお一人様向けテレビが数多く発売されだした。多くは白黒ブラウン管テレビで若者の好みを意識したのか小型でスタイリッシュ、筐体の色は黒や赤など原色が多かった。Victorは1970年の大阪万博に前後してSpaceageデザインの代表的な製品Videosphereを発表したがその後もいくつかの小型テレビがあった。大手の電器メーカー製品にしては一般的な小型テレビと異なりチープでプラスチッキーなデザインは玩具のようだった。

5T-22V

 

 5T-22V(VはVHF専用機)の電源は内蔵の電池もしくは専用の12V ACアダプターで欠損している事が多いACアダプターはこの個体にはラッキーな事に付属していた。接続プラグは珍しくセンターがマイナス、本体の背面に引っ掛けて使用する。だが接続しても画も音も出ず開けてみると内部は埃が積もっていた。

 

 5T-22Vの回路図は見つからなかったが同シリーズの5T-24Vとほとんど同じではないかと思う。

 回路図が適応されるシリアルNo,の指示があるので細かな変更はあったらしい。電源のAA-22Aは共通。

 

 電源電圧を測定すると無負荷で19Vもある。この回路は安定化電源なのだろうか?、、いや違うだろう! 半固定ボリュームを回しても無負荷では出力電圧は変化しない。

 

 外部電源を接続して電流が流れていないのを確認した。調べてみると音量ボリュームに付属している電源スイッチの不良が見つかったがこの故障は定番だったようで5T-24Vの時と全く一緒。原因は金具のかしめが緩んで接触不良になったため。接続部を磨いてハンダ付けしたら電流が流れるようになりラスターとホワイトノイズが現れた。12Vで0.45Aほど。

 

 ブラウン管、基板などを取り出して掃除をした。ケースは外して洗剤で水洗い、傷んでいた電源ケーブルは交換、ロッドアンテナはステンレス磨きで一心に磨く。

   

 

  

Videoshereが丸かったからこんどはキューブスタイルにしたのだろうか?

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。