Searsは米国の大手百貨店でカタログによる通信販売で知られていたが現在は撤退して店舗販売のみになっている。かつては家電品のプライベートブランドもあって1975年発売の9inch白黒テレビ「Sears 564.50190500」は製造はSANYO(三洋電機)だった(数字の最初の3桁はSANYO製品ということを示している)。「Sears 564.50190500」はアイボリー1色だが同型他色も写真では確認しているのでSears以外でも販売されていたらしい。典型的なスペースエイジデザインのこの製品は日本国内では未発売と思われるが(その後国内発売されていた事が判明してタイトルを変更しました)世界的にもとても珍しく見ることは少ない。SANYOはすでにPanasonic傘下となりブランドは無くなったがユニークで記憶に残る製品が多かったように思う。
UHFダイヤルの凝ったギア
通電してもブラウン管がうっすら光るだけ。これは平滑コンデンサーの漏洩が原因で交換すればすぐに解決するとたかを括っていた。
整流直後は無負荷で20V近く出ていて平滑コンデンサーも問題なさそう。スライダックで徐々に電圧を上げてみるが電源回路出力が12Vまで到達しない。ならば外部からDC12Vを直接接続するとヒューズが飛んだ。基板搭載のヒューズを良くみると交換したらしい跡があり過去にも問題が出現したらしい。交換し易くするために基板にヒューズボックスを加工して取り付けた。その後目立った大容量の電解コンデンサーを数本交換したがやはり電圧は上がらない。電源部はAC120VとDC12V両用なのだが安定化電源はどういう意図か不明だが接地側(マイナス側)をコントロールしていた。ヒューズボックス部分で電流を測りながら電圧を上げてみると12Vで1Aを少し超えるくらいで問題なさそうに見える(この時はブラウン管を接地していなかった)。しかしブラウン管画面にはノイズのような糸状の曲線が出るのだが全体が光らずブラウン管自体の不良が頭をよぎる。ブラウン管背面にアースを近づけると激しく放電して接触するとヒューズが飛ぶ。幸い感電はしていないがこれは高圧がブラウン管表面に溜まっているらしく危険きまわりない。さてどうする?まずヒューズ買ってこようか、、。
絶縁が壊れて高圧の放電がなぜ起こるのか?ブラウン管裏面は全面ではないが導通のある塗料が塗られている。この塗料とブラウン管周囲の金属枠を切断して除去したが割れて空気管になっていた、、わけではなさそう。
これで裏面からアースへの放電は無くなったがなぜ漏洩していたのだろう?偏向コイルなしで通電すると今までは薄っすらだった輝線がはっきりしたように見えた。喜び勇んで偏向コイルを接続したが
やっぱり変わらず。ブラウン管の足は7ピンなのだが各社統一はされていない。このブラウン管のヒーターは3,4番、他の足の電圧を測っておいた。
この回路図は1967年の三洋電機の9inchソリッドステートテレビでSears 564.50190500より8年ほど前のもの。高圧整流管が使われていて時代を感じるがブラウン管の接続や電源回路などは参考になりそう。特に電源はやはり接地側をコントロールしているようで何故だろう。当時は大きなNPNトランジスターが開発されていなかったためか?特殊な電源コネクターの形状は三洋電機の伝統らしい。
ブラウン管の故障かどうかもはっきりしないが正常動作するものと交換比較して判断することにした。動作確認だけしたvideosphereがあるので整備がてらブラウン管を入れ替えてみます。
最初は同じサイズかと思ったが並べてみるとvideosphereの方が少し小さい。JVC製だがブラウン管は日立製作所。電子銃の直径は同じのでピン接続を確認してvideosphereにSearsのブラウン管を繋いでみると
ラスターが現れて幸いなことにちゃんと機能している様子であらためて導通性のある塗料「ノイズヘル」を塗って金属枠を再装着した。ブラウン管は無事なのはラッキーだがこれで本体回路がダメだということになった。あらためて偏向出力の電圧、波形をみると高圧は出ているようだが出力トランジスター2SC375Aの様子がおかしい。ベースの電圧が高すぎる(と思ったが先ほどの回路図では電圧に問題はない)。はずしてテスターにかけてみると
ゲルマニウムPNPトランジスターのはずだがNPNに変身している?!(後で測り直したらちゃんとPNPに戻っていたがCEの一方向に僅かだが導通があってやはりダメっぽい)古い素子だが入手できそうで早速注文した。偏向コイルの高圧引出し部分の破損が見つかり木片をつっこんで(!)補強してあったが高圧線の付け根にはセラミックの筒があり中に高圧整流ダイオードが入っている。このダイオードは大丈夫か?。トランジスターの異常発熱もあってヒューズが切れたのもこのあたりが原因のようでトランジスターを外す前の電流は12V時に2.5Aだったのだが(十分に異常)220mAになった。
閑話1
ハンダ吸取器が快適なのでハンダコテも買い換えることにした。ハンダ吸取機で感心したのは通電してから使用するまでの待ち時間の短いことでほんの数十秒。そして温度管理がされているので快適さが続く。いままでも温度管理できるハンダコテステーションは使っていたのだがセンサーは内蔵されておらず手動の電力調節だけだった。選択したのはgootの70W PX-201
設定温度は250〜450℃で小手先温度をセンサーが測って調節する。セラミックヒーターで立ち上がりが早く耐熱キャップ付きなので撤収も速い。価格はニクロムヒーターのハンダコテの数倍だったがあたらしい道具には心躍らされる。早速使ってみるとやはり使用可能までの時間の短さに感動する。これなら使う時にだけONするスイッチが欲しくなる。
閑話2
Youtubeで見たCMのメイキング。 ショパンコンクールで一躍有名になったかてぃんさんと綾瀬はるかさん出演のdocomoのCM 近未来には6Gで「スキルをダウンロード」してだれでも苦労なしにショパンが完璧に弾ける! 完成品も見事で久々にインパクトがあるCMだと思ったが通信の未来にそこまで期待して良いのか?が正直なところ。将来は脳との接続がうまくいけば情報は外付けの(内蔵でも構わないけど)外部記憶装置で賄えるので暗記のために時間を費やす必要がなくなるし脳の容量に余裕があればダウンロードすればよい、、などと漠然と考えていたことがある。これは昭和のミラクルファンタジー「睡眠学習機」に理屈は近いかもしれないけど楽器は思いつかなかった。そういえば生まれてくる子供に遺伝子操作で偉人の子孫(モーツァルトとか)のを組み込めば、、なんて話があったがちょっと薄ら寒い気がするのは日本中を覆っている寒波のせい?
閑話休題 届いた2SB375ATVをチェッカーにかけるとちゃんとPNPと表示されてやれやれだったのだが
チェッカーの接続の位置を変えるとやはりNPNなど不可解な表示をする。CE間の導通を測ってみると両方向とも数kΩあって??早速売主に問い合わせると「小電力用のチェッカーでは正確な判定はできない」とのこと。当時のゲルマニウムトランジスターの特性はこんなものなのだろうか?改めて故障と判断したTrと比較してみると接続によるエラーの出方もほぼ同一でこの部分が故障の原因という判断は間違っていたみたいで振り出しに戻ってしまった。
フライバックトランスから出てブラウン管につながる高圧コードの根本にダイオードがあるがセラミックの筒が少し焦げている。テスターを当ててみると正逆ともにDCRメーターが触れない。
高圧ダイオードはこうなのか?という疑問があったのでそれらしきものを検索すると20kV 100mAという規格のダイオードが見つかって注文した。他にもいろいろあって耐圧、耐電流が高いほど値が張るがこれは高い方。たしかにオーバースペックかと思ったが送料も高いので本体の値段の差が気にならない。届いて早速テスターを当ててみると
正方向で70Ωほど。チェッカーでは判断できない。これはやっぱりこのダイオードが怪しい。購入した高圧ダイオードをなんとか接続してみる。
ボールペンの軸の先を切ってペンスタンドみたいに差し込んで通電すると
嬉しいことにブラウン管は光ってビデオ信号をアンテナから入れるとブラウン管はボケボケの不鮮明だが音声が出て受信している。いろいろ弄っていると次第に鮮明になってきたが音声と画面にノイズが入る。これは剥き出しの高圧の接続部が問題らしくボールペン軸をアルミテープで包んでみると
かなり改善した。ただこの部分をアースすると画像出力は激しく乱れてしまう。アルミを巻いた宙ぶらりんの状態で高圧パルスのノイズがどのように吸収されているのだろう。
とにかく今回のトラブルの原因は高圧ダイオードの破損ということがわかってホッとした。そのほかは大きな問題がないことを祈りつつ組み立てたが
大丈夫そう。内部の300Ωのアンテナフィーダーは高圧コードとは金属パネルで遮蔽されていて影響が軽減されている。この部分にもアルミテープを巻き付けてアースするつもりだったが必要なかった。画像は思ったより鮮明で良好。ブラウン管とワンボード基板とチューナーおよび電源のブロックの3ピース構成でメンテナンスは比較的行いやすい構造。
左右の耳の部分はVHFとUHFのダイヤル。横の3つのツマミはコントラスト、明るさ、ON,OFF付きの音量ボリューム。9inchサイズということもあって小さく可愛らしくて目を引く。videosphereがだんご三姉妹だとしたらちょっと四角い従姉妹といったところです。
お読みいただきありがとうございました。
追記1
冒頭にも書き加えたがOEMだけかと思っていたら国内でも「MODEL T1020 PROTO 10」という名前で販売されていた事がわかった。
当時SANYOの小型白黒TVは「プロト」という製品名がついていたらしく多くの製品がOEMだけでなく自社ブランドで発売されていたことになる。いずれも非常に少ない流通量のようだ。