Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

オークションでバイオリン(2)

2023-07-05 07:06:08 | バイオリン

 性懲りも無くまたオークションで古そうなバイオリンを手に入れた。製作年代は不明でラベルは手書き(フランス語?全く読めない)、駒や顎当てなどは何にも装着されておらずで中を覗くと魂柱もない。。オークションでは写真で判断するしかないわけだが撮影の技術はとても大切だと感じる。「とんでもない掘り出し物じゃね?」的なオーラを感じさせるハイテクニックに引き寄せられた。同じように感じた人も多かったらしくこの手のオークションでは珍しく100件以上の入札があったがなんとか落札することができた。さて実物は、、わくわくドキドキしながら到着を待った。

   

 実際に見ると思ったよりハイアーチ(大きな豊隆)ではない。やはり写り方で印象はかなり異なる。使われた材はそんなに高級なものでは無さそうで表板の正目に少し乱れがあるし裏板の杢もはっきりしない。形状特に豊隆も厳密には左右対称ではない。工房製品ではなく個人の製作かもしれないと感じた。とりあえず音を出したいが本体以外は不揃いのペグだけなのでパーツを集めなくてはならない。このパーツもセットで1000円台から数十万円まであって価格の幅が広すぎる。またポン付けはできず削ったりして適合させるフィッティングという作業が必要になる。そこでまず魂柱だけ入手して自分でセットしそのほかは前回オークションで入手したバイオリン(結構弾いています)から剥ぎ取って、、いや借りてくることにした。とにかく音を出してみたい。

 ところが不慮のケガで1ヶ月ほど入院してしまった。入院中は退院したらアレをしよう、これもやりたい、、と中間テスト勉強で追い詰められた中学生みたいな心境だった。昨日退院して真っ先に作業にかかる。

 入手した魂柱

 

 何の材かはわからないがただの木片に見える。価格も1本100円ほどでこれを削ってセットする。長さは一応測る器具(右写真)があるのだが持ってないので目分量で切断しそれを基準にしてまた切断、、 を繰り返す。セットするところも決まっていて駒の右脚部分の少し後ろ。反対側にはバスバーが走っている。取り付けにはこんな器具を用いる。

 器具の尖っている方で魂柱にブッ刺して保持しf字孔から内に入れて狙った位置に立てる。ちゃんとセットされたかはf字孔とエンドピンを外した穴から覗き込んで確認する。微調整は器具の反対側を使い押したり引いたりたたいたりする。内部は平面ではないので魂柱の切断面も調整して隙間ができないようにする必要があり素人にはなかなかハードルが高い。気をつけないと出し入れでf字孔の周囲を傷めるので器具や穴のまわりには養生が必要。魂柱によって表板の振動は裏板に伝わり内部で反響して外に放出される。名前の通りとても重要なパーツなのだが英語ではただのsound post。

 新しい駒が無かったので古い駒の脚を削って適合させてとにかく組んでみたが色々と問題がある。駒の新製、調整はノウハウの塊なので潔くプロフェッショナルにおまかせすべきだと思う。あくまで仮の状態。

 

 このバイオリンはバロックバイオリンほどではないが指板が短い。またネックの取り付け角度も小さいので駒の高さが標準よりかなり(3〜4mm)低くなる。また駒からテールピースまでの弦が長すぎる。

 ペグは不揃いだったので手持ちの新品と交換した。渦巻きやペグボックスはとても小さく華奢にみえる。ペグ穴も小さく新品ペグに合わせて広げることはなるべくしたくない。ペグリーマーで少しさらってあとは軸をサンドペーパーで包んでぐりぐり回して調節する。ペグ穴とペグのテーパーは一致しているのでペグリーマーに合わせたペグを削る鉛筆削りみたいな器具があるのだが持っていない。

もう少し削って軸を短くしないと格好が悪い。そして困ったことにペグボックス内でA線がE線のペグに当たっていてこれはまずい。ペグ穴を一旦塞いで位置を変えて開け直しになるか上ナットを交換すればいいのか。いずれプロに診断してもらいましょう。

 弦はドミナントを用意した。古い楽器には張力の強いエヴァ・ピラッツィは合わないように思う。これで音出ししてみると予想した通り(嘘)なかなかよろしい!ではないでしょうか。しっかりと調整すればもっともっとよくなる予感がする。これは本腰入れて仕上げるべき楽器だと感じた。

注文していたフィッティングパーツが届いた。

 

このセットはローエンド品でやっぱり値段相応の部分もある。気に入らなければ必要に応じてもう少し高級品に交換します。今までのパーツで気になっていたところ

 

駒からテールピースまでの弦の間隔がそろっておらず音への影響はわからないが見た目は悪い。これはテールピースの穴や弦を誘導する溝の位置の問題で新しい方(写真右)は配慮されているように見える。

 

早速交換すると前よりも揃った。テールピースに合わせて顎当ても交換した。ガルネリタイプの顎当てのベース部分は少し形態を修正してバイオリンに無理がかかりにくいようにした。顎当ての外形がバイオリンからはみ出すのもNGだが幸いちょうど一致した。バイオリンの表面にニスの固まったようなところが点状にあったのでカッターの刃で慎重に削ぎ落とした。カッター刃を斜めにして一層塗料を剥ぎ取る作業は古いバイオリンに後世の人がニスを塗ってしまった場合オリジナルの塗装を露出するためにカバーニスを削ぎ落とす時にもこの方法がよく使われる。全体の拭き上げで今まで使っていたイダオイル(写真左)が製造中止なので今回初めてFeed-N-Wax(蜜蝋入り 写真右)を使ってみたがなかなか良さそう。

   

 音色の特徴はとにかく大きくはっきりした音で普段使っているGabrielliと対照的。A線、D線はもう少し深みが欲しい感じ。魂柱と駒の入れ替えでどの程度変化するか。

 外装のリペアー、タッチアップについて。古いバイオリンをみると表板の割れ、エッジの欠けなどの修復跡があることが多い。これらは材で行われるが全塗装されているわけではないのに境目がわからないほど自然にリペアーされているものもある。溝を掘ってインレイを嵌め込むのはなかなか勇気がいるし適当な古材も持っていないのであまり思い切ったことは難しい。手持ちの古い魂柱はスプルースで表板材と同じかと思うのでネックの付け根の小さな欠損部分に削って嵌め込んで整形、着色した。そのほかも色が不揃いな部分は適当なオイルステインで着色し油性のニスで部分的にカバーした。すでに修復してあって境目が溝になっているところは少し迷ったがニスの盛り上げを数回繰り返して埋めた。メイプルのスクロールの一部が欠けているところがあり材を接着して整形しようとしたが残念ながらここはうまくいかなかった。現在ニスの乾燥待ちだが十分に時間をかけないと研ぎ出しはうまくいかないと思う。ニスも大別してオイルニス、アルコールニスがあるらしい。

 

 

 ペグシェーパー、駒を注文した。そのほかにも上ナット材、膠も入手できる。いずれも非常に安価でやはり調整料金は職人さんの手間賃がほとんどを占める。

 先に駒が届いた。「加工済み」とあるがベースを合わせないといけないし弦高も異なる。とりあえずベースだけ合わせて弦を張ってみると

 

 弦が当たる部分の厚みが3mmある。資料ではここは1.0mm〜1.2mmとなっているが他のバイオリンの駒を実測すると2mm程度から切端に向かって絞ってある。そしてメーカー名の印字は残っているのでネック側の面を削除して合わせた。また垂直面も面取りした。ネックが短いが弦高は他のバイオリンを参考にした。そのほかにも細かな修正が必要らしいがノウハウもないので手が出せない。

 

 弦高は指板の端と弦の距離を各弦ごとに測って判断するのだがこのバイオリンの指板は短いためこの位置で基準としたバイオリンの弦高を測定した。すると基準バイオリンのG線が6.5mm E線が4mmに対して意外にもこのバイオリンは5.5mmと4.5mmで決して高くない。結構弾きにくい感じがしていたのだが今まで低い弦高に慣れてしまっていたのかもしれない。

 

 それでも駒の調整をもう少し詰めてみることにします。まず表板との適合だが板にスタンプのインクを塗って所定の位置に駒を押し付けてどの程度フィットしているかをチェックして色のついている所をナイフで削除する。

 

この方法はなかなか有効なようだ。「表板にサンドペーパーを乗せて擦って適合させる」というのは理にかなっているように思われるが実際におこなってみると薄い足の端の部分が浮き上がってきて適合させるのが難しかった。そして主にE線、A線の部分を少し削除して1mmほど弦高を下げた。また違う資料では駒の根本部分の厚みは4mm 、弦との接触部分は2mmとあったのでそのように削除した。これで弾いてみるとやはり違いがある。A線の音が剥き出しになったように感じて一概に良い方向とは言えない部分もあってやはり調整は難しい。

 ペグシェーパーが届いた。

 

 2連の鉛筆削りにしかみえない。刃の位置はネジで調整できるが結構難しい。ペグリーマーとテーパーは合わせてあるのだが(このテーパーも異なるものがある)自動的に削れるわけではなく調節が必要。シェーパーで最大削ってもまだペグ穴に入り足りない時は穴を大きくするわけだが大きく開けすぎるとブッシング(一度穴を埋めてまた開け直す作業)が必要になるので遠慮がちになる。バイオリンから外側に出ているペグの軸の部分の長さは12mmなのだがそんなわけで少し長めになっている。

ペグリーマーを順方向に回すと削れていくわけだが大体のところに到達したら逆回しにして切削面を滑らかにするという説明があったので実施した。

 ペグにはあらかじめ弦を通す穴が開けられているのだが調整をすると穴の位置が合わなくなるためまた開け直しとなる。余分な穴が増えるわけでなぜ穴が空いているのか不思議だ。反対方向に飛び出した軸は切断して断面を磨く。材は黒檀なのでとても硬い。私はダイヤモンドディスクでカットしたが快適に作業できる。ペグにはコンポジションというクレヨンのようなものを塗って食い込みを防止してスムーズに動くようにする。

 

やはり弦とペグの干渉がある。上ナットもスペーサーで0.3mmほど持ち上げている。これは禁じ手で軸を削れば解決すると思うが、、。さてどうするか。

 

 駒のE線の当たる部分は弦が細い関係でそのままでは次第に沈み込んでしまう。弦に入っているチューブをかますか駒側に沈み込み防止の加工をするか。見たことはないがE線のあたる薄い部分に象牙片を埋めたり多いのは硬いシート(皮?)を貼り付ける。専用のシートは入手できそうもなかったので今回は丈夫そうなお菓子の包み紙を(!)貼り付けて代用とした。

 ローエンドセットのペグを加工してもう1セット作ってみた。素朴な形状のペグ。

 

 削除した軸はオイルステインで着色した。今回はE線ペグの軸のペグボックス内の部分を削除して細くすることでA線とD線の干渉を無くしてナットのスペーサーも除去した。この変更でA線の響きが包み込まれるようになりD線が軽い響きとなった。上ナットを弄ったのが主な要因ではないだろうか。肩当てもMACH ONEよりHOMAREの方が合うようになって以前と逆の印象。ドミナント弦としては発音は大きいと思うが全体にもう少し胴鳴りが欲しい気がする。

 

   

   

外出できなかった夏なので1ヶ月ほど弾いていました。まだ工房のM氏には相談していない。後日改善のためのアドバイスがあったら書き込みたいと思います。

 

 

お読みいただきありがとうございました。

その後 1

 Gabrielliの表板にヒビが入りました。外力が加わった覚えはないので気候の関係かと思います。ほとんど常時エアコンをかけている(バイオリンのために)部屋だったのですが残念です。遠方からの購入で修理に出すのもなかなか大変で気が滅入ります。最近はこちらの古いバイオリンに執心だったのでGabrielliさんが拗ねてしまいました(真顔)。

その後2

 ようやく車の運転ができるくらいケガが回復した。猛暑の中3ヶ月ぶりに運転してバイオリン工房に出かけM氏に初めて見てもらった。すると「かなり歪んでますね!」『そうですよね。どうやって作ったか不思議です』「これはバイオリンが完成した後で歪んだんです。多分200年くらい経ってます。」『!!』、、左右対称でないのはわかっていたがまさか完成後に変形してこの形になったとは。裏板は一枚板のメイプル(楓)なのだが収縮する力が強く表板のスプルース(松)まで歪めることがありこのようなケースはたまに見ることがあるそうだがここまで大きく歪んだのは珍しい、、らしい。材の乾燥が十分でない場合に起こるらしくよくニカワが剥がれないものだ。非対称なので修理する時に基準をどこに求めるのか、もし表板をはぐる場合は応力が解放されて元に戻らない可能性すらあり作業は急がなくてはならない、、などなかなか大変なバイオリンらしい。そのほかの診断として、バスバーが大きくて外側に位置しているので形をかえて(小さく作りなおして)位置を中心寄りに移動したい、ネック下がりがあるので付け直し、指板は減っているので交換、それに伴って上ナット、魂柱、駒の交換、ペグ穴はブッシングしてペグやりかえ、、など沢山の問題点を指摘された。まあそうなるかな、、というところもあったが作業の一覧と見積もりを作成していただくことにして帰路に着いた。やはりプロの視点は素人とは全然異なる。見積もりを見て今後の身の振り方を検討しましょう。。翌日メールで見積もりが送られてきた。バイオリン修理の一覧がホームページに掲載されていたのだが実際にはかなり高額でバイオリン本体とバランスが取れない。しばらく保留することになりました。

その後3

 普段使っている楽器のトラブルもあってここ1ヶ月以上弾いているが安定しています。再開したレッスンにも持っていったが音が軽々と出てとても弾きやすくしばらくは大きな修理はしなくても良さそうです。ペグ穴のブッシングについては否定的な記事がありどうしても必要になったら行う事にします。

 ところがペグボックス内でA線が切れました。E線のペグに巻いてある弦に干渉する事が原因かと思います。ドミナント弦を購入しに工房へ出かけた時に再度ブッシングの部位について質問したのですが、、やはり保留となりました。その代わりA線を張る前にE線のペグの軸中央部をもう少し削って細くしました。それでもまだ少し干渉するが多分当分このままになりそう。E線の発音がひっくり返ることが少なく重音がよく鳴ってくれます。弾いていてストレスを感じない。

その後4

 時々弾いていますが深い音が楽々と出て来てやはりすばらしい楽器だと思います。形状からmilanoで作られたか?修理歴があまりないのも発音に幸いしているのかもしれない。素人が行った魂柱だが工房の方にやりかえてもらおうかと思っています。

 後日工房のM氏にお願いして魂柱を交換しました。交換前後の発声の違いは正直よくわからないがしばらく弾きながら経過を見たいと思います。