Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

オークションでバイオリン

2023-04-30 02:23:47 | バイオリン

 たまたまネットオークションに出品されているバイオリンを眺めていると新品から200年以上古い(とされている)ものまで色々出品されていてオークション価格も数千円から数百万円と千倍の差がある。バイオリン内部にラベルが貼ってあって製作者や地域、製造年が書かれているが偽ラベルも多いので全面的に信用はできずバイオリンの形状や状態と照らし合わせて判断される。ラベルにストラディバリ!などと書かれているのは冗談としては可愛いが美術品の鑑定と一緒で過去にも某有名音大で詐欺事件があって世間を騒がせた事がありそれだけ真贋の判断はむつかしいらしくそのほかにも逸話に事欠かない。もっともネットオークションに出品される楽器はそんなにややこしいものは少ないようだ。

 バイオリンの形状は製作者によって細かなところが異なっている。実際には過去の巨匠の作品を模したものが多く必然的に「ストラド(ストラディバリ)」形状が多く流通している。「シュタイナー」はバイオリンの歴史における初期のドイツのマエストロなのだがとても不幸な人生だった事が知られている。過酷な環境下にもかかわらず製作された楽器は素晴らしく当時はストラドやガルネリ以上の評価だったらしいが現在はコピー製品はそれほど見かけない。たまたま「ヤコブ・シュタイナーのコピー」とだけ書いてあるラベルが貼ってあるバイオリンがオークションに出品されていて思わず入札してしまった。。

 楽器に入札したのは初めての経験。掲載されていた写真では魂柱は立っているようだが弦が3本しかなく駒も倒れているなど非常に荒れているが妙に惹かれるものがある。運良く落札され翌日には送られてきた。

 

ケースは中のスポンジが劣化していてぼろぼろこぼれている。バイオリンはオークションの写真の通りの状態だった。

  

ラベルにはヤコブ シュタイナーのコピー ドイツ製 とだけ英語で書かれている。エンドピンを外して魂柱を確認すると大きなホコリが見えた。

 

E線のアジャスターはボールタイプがついていたがループタイプも付属していたので取り替えた。駒は倒れていたものを含めて3個あった。長い間使われていたらしくそれ以外でも小物や元オーナーらしい名前(アジア系)のシールまで入っていた。顎当ての様子からは結構長期間演奏されていたようだ。

  

 

 致命的な損傷はなく象嵌の浮き、板の剥がれも見られなかった。早速適当な弦を張ってみるとA線がビリビリに歪んで慌てる。やっぱりどこか割れてるのだろうか、、と暗い気持ちになったが原因は弦が指板に当たっていたため。

 

 指板はかなり荒れている。前オーナーは練習熱心だったようで表面が凸凹しているしローポジションあたりが全体に凹んでいる(もしくは指板が反っている)。ナット(ペグボックスの境目の弦が収まる溝)がすり減りすぎていればナット交換になってしまうが指板の調整だけでなんとかならないだろうか?もちろん行ったことはないがカッターナイフの刃で鉋掛けしてからサンドペーパーを板に貼り付けて修正作業をした。弦高も少し低め(指板の端で各弦1mm程度低い)だったので反りの修正をかねて金属スケールを基準にして水平に近づけた。サンドペーパーは1500番まで番手を上げていった。これで弦のビリ付きは改善したが1ヶ所どうして取りきれない深い傷がある。

   

 これを削りとるのは無理だと判断し次回の指板交換まで目を瞑ることにした。指板の削除は失敗したら交換すればいいので緊張感は薄いが(ウソ)それに比べてペグの調整は難易度が高い。ペグの不具合は本当に困ったものだが素人が下手にペグリーマー(幸い持ってない)で削るとのペグの交換にとどまらず取り返しがつかなくなる恐れがある。ペグにサンドペーパーをかけたりチョークを塗ったりペグ穴から飛び出したところを削って弦穴を開け直して、、なんとか調整を済ませたが長期の安定が得られたかはわからない。

 あとは全体の掃除だが目立たないところを2000番のサンドペーパーをかけてみたがあまり芳しくない(ニスも減るし)ので中止して熱いお湯を絞った布で汚れを拭き取ってから大昔に買ったこのオイルで磨いた。

 

 

弦張って(E線以外は使い古し、D線は他の製品)試奏してみると

 

 E線が穏やかで優しく響く。A線とは音的に繋がる。D線は少しおとなしいがこれはここだけ弦の種類が異なるためかもしれない。G線は量感は少ないがそんなにこもった音ではない。弾き方によって音質が変化するので均一な響きにするのに気を遣う。しばらくすると落ち着いたのか耳が慣れたのかもう少し聴きやすくなった。

 付属していたケースは有名メーカーの市販品だったが中のスポンジが砕けていて粉がいっぱい出てきてこのままでは使えない。中から引っ張り出して掃除してあらたなクッションを入れた。これが今回の作業で一番時間がかかった。

 

 

 バイオリンは本当に不思議な楽器で由来もモンゴルの馬頭琴が先祖などと言われるがはっきりしていない。ある時突然完成品が現れた!などと言われるがその当時の楽器が400年を経て現代でも演奏する事ができるのも 驚異的で植物材料の堅牢さには驚く。毎年かなりの新作が製作されるがきちんと作られた楽器が長い期間弾き込まれることによってより良い発音の楽器へと成長していくとされる。その期間は数十年から百年単位なので人間の寿命より長くなってしまう。したがって演奏家はすでに成熟した楽器を入手してメンテナンスしながら弾く事が多い。良い音のバイオリンは高額ということもあり自分の体の一部になったような楽器を長期間弾き続けていく事が多いと思う。そして演奏家が引退してもその楽器は次の演奏家に引き継がれていく。資産的な扱いの超高額の楽器が話題になるがそれらは有名製作者による骨董的価値を併せ持つもので存在そのものが貴重なもの。企業や財団が保有していて有名演奏家に貸与される場合が多い。

 弦楽器はたとえバラバラになっても修復でき捨てられる事がない。表裏の板は膠で貼り付けられているので水分と熱で溶かして分解組み立てが可能で生き延びるのに必要な徹底した修理、メンテナンスができる。過去作られた数百年分の楽器の数は膨大だと思われるが玉石混交なのも事実で名器として受け継がれていくのはごく限られたもの。オークションに出品される古い楽器はそれ以外の歴史に埋もれた楽器を掘り起こしたものが多いのではないかと思う。そしてたとえ名演奏家でなくても弾き続けられた楽器には魂が宿っているよう気がしてならない。今回入手したバイオリンは気の毒な姿を晒してオークションにかけられていたがそんな楽器ではないかと思い思わず入手してしまった。素人メンテナンスで申し訳なく思いつつ失礼にならないように心を込めて作業した。幸い素人ではどうにもならない致命的な問題がなかったので非常に楽しい時間だった。楽器は予想以上に応えてくれたようで嬉しく思っています。

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。

後日談1

 翌日にずうずうしくも弦楽器工房の専門家に診てもらいアドバイスをいただいた。ほかの弦と合わせるためにD線の購入を口実にして。

 しばらく眺めて「ネックの角度がつきすぎているな」。何のことか最初はわからなかったがボディに対してのネックの取り付け角度がという事らしい。

シュタイナーコピーらしく表板の隆起が大きいのでヘッドから高い位置に向かって伸びている弦は角度がキツく「ちょっと苦しそう(楽器の負担が大きい)」ということらしい。対策は「一旦ネックを外して位置を変えて再装着する」「その際にナット、指板、駒、魂柱も交換」『!!』これは大変なことになった。そこまでやるのならペグの交換もしてもらおうじゃないか!費用はざっくり「15万円くらい」でまあそうなるよなぁ。やっぱり素人には思いもつかないところを指摘される。素人がちょっといじったのとは次元の違う作業の必要性を指摘されてしまった。しばらく考えることにします。

 

後日談2

 バイオリンの扱いについて文献を調べてみると随分間違っていた事が判明した。

 まずペグだが調子の悪い時に塗ると思っていた口紅みたいなのはチョークではなく「コンポジション」という名前だった。そして使いすぎは悪影響が出る事、基本的にはペグが硬い時には石鹸、緩い時にはチョークを使う。問題解決にはまず塗りすぎたコンポジションの拭き取りが必要とのこと。ペグそのものの調整が基本だが微調整にチョークとコンポジションを混ぜて使うこともあるらしい。ペグのテーパーの確認は軸に不透明なスケールをあてて裏側から光を当てて光の漏れ具合で判断する。テーパーはサンドペーパーではなく鉛筆削りのようなカッターに突っ込んで回しながらおこなう。ペグリーマーと共にもちろん持っていないのでごまかしが効かなくなったらやはり十分な調整は専門家に任せるべき、、はかわらず。

 次は指板だが平坦ではなく中央は両端に比べて1mmほどさがって(窪んで)いる事がわかった。これは弦の振動で当たらないようにしながら駒の高さを抑えるため。平らに修正しきれずに偶然に現在はそのようになっているのが幸いした。

 顎当ての取り付けが間違っているのが多いのだそう。自分で交換するときは特に注意で最悪本体を傷めることもある。多いのが取り付け金具に対して反対側が持ち上がっている事例。早速金具の調整を行った。

 

後日談3

 D線のペグは相変わらず不調で何回か調整を行っていた。なぜかE線の発音が悪くなってきてちょっとカサカサいうようになってきた。と調弦していたらバチッと音がして何か飛んできた。見ると、、

なんと駒が砕けている。少しペーパーをかけたりしたのが悪かったのかもしれないがこんな事は初めてだがどうしてこんな折れ方をしたのだろう。倒れた時の衝撃が原因で破折したのかもしれないがひょっとするとヒビが入っていてE線の不調もここが原因だったのかもしれない。駒の調整はかなり重要で魂柱と共に音質調整の要とされる。弦の振動は駒で本体に伝達されるが弦楽器の弱音器は駒にクリップすることで振動がある程度遮断され弱音となる原理からも駒の重要性がわかる。駒は既製品が売られているが技術者が切削調整してバイオリンに適合させる。破折した駒の他に2個あったのでそのうちの1個を取り付けたらG線の弦高がすこし高い。弦高は本体への負荷に影響するので今までの駒の形に合わせて削除した。弦高は文献を参考にしたがもともと1mm程度低くなっている。ネックの角度を指摘されたが元のオーナーも配慮して弦高を下げていたのかもしれない。振動した弦がネックに触れない事を確認した。しかし残念ながらE線の状況はあまり変わらず。

 

後日談4

 やっぱり一度は修復したケースのあんこが気に入らない。いれたスポンジが柔らかすぎて気持ち悪い。またホームセンターに行って物色してハードタイプを買ってきた。

 

結構高いのに驚く。荷物の緩衝材はすぐにゴミとして捨てるのにお金出して買おうとするとこの大きさで1000円近くする。前作のスポンジあんこをコピーした。

 新たなペグを入手したらペグ穴に比べて細くて適合しなかった。測ってみると穴の大きな方は直径9mmほどで1mmは大きい。穴が大きくなりすぎたらブッシングといって穴を一度埋めてからまた開けるという作業をするがこれは素人にはできない。市販のペグでもっと太いものはないのかとまた図々しくも工房の方に尋ねたら一応はあるらしい。しかし弦を巻く直径が大きくなるなどチューニングはしずらくなる。穴とペグを調整する道具も必要でやっぱりハードルが高い。結局写真みて太そうなペグをもう一組注文した。写真の向かって左が後注文のペグ。確かに太くてこのままでは入らない。専用工具を使ってペグと本体の両方を削ることになるがこの先ほとんど使わないだろう工具を新たに購入するのも躊躇する(ケチなので)。

 結局ペグリーマだけ購入して少しだけ調整して(穴を広げて)終了とした。残念ながら普段使いの楽器には仕上がらなかったと思う。今後はもし多数の専用クランプが入手できたら表板を外してみたいと思っています。

 

後日談5

 結構弾いています。日頃は壁にかけてすぐに手に取れるようにしている。弓は毛が古くなって使っていなかった「杉藤」というメーカーの製品(YAMAHA サイレントバイオリンの付属品)の毛替えをして使えるようにした。開放弦の影響が強く出て特に高音域のバランスにムラがあるが気軽に使えます。


Panasonic AG-7400 について(2)

2023-04-07 01:51:09 | テレビ

 2年ほど前に整備した2台のPanasonic AG-7400だが両方とも最近すこし調子が悪い。決定的に故障したわけではないのだが1台目はイジェクトボタンを押しても反応が鈍いし時にシリンダーが回らないことがある。そんな時は指を突っ込んで回転させる(!)と回復する。2台目はテープの走行がギクシャクして映像音声に問題が出ることがある。

 VICTOR BR-S405 には立派な外部電源が付属していたが規格が一緒なのでAG-シリーズにも使える。先日AG-シリーズ用の専用電源を入手した。

 今までのスイッチング電源から立派な(重くて大きい)電源になったので動作も改善しないかと期待したが当たり前に状況は変わらず。前回AG-6400をメンテナンスした経験でちょっと気持ちが大きくなっていてこちらも整備することにした。

 2台目のAG-7400はテープの走行がぎくしゃくするトラブル。

   

 AG-6400と並べて比べたわけではないがやっぱり内部はよく似ている。特にメカ部は見た目は一緒の様子。アクリルカバーを取り外してギア類を洗浄した。またテープの軸部も厳重にねじ止めされていたが外してみると

   

 テープの軸各々にダイレクトドライブモーターがある。ブレーキは中央のソレノイドで動作する。3モーターのオープンデッキのような構造で限られたスペースにこれでもか!と物量が投入されてる。これらも洗浄してシリコンオイル、グリスを給油して組み立てた。基板とメカ部を合体する時に基板に取り付けられている2ヶ所のコネクターが接続される。樹脂のヒンジなので位置決めが少々弱く無理に力を加えるとコネクターを破損するリスクがあり十分な注意が必要。慎重に組み立てて期待しながら再生してみると、、テープの動きはやはりギクシャクして当然音、画ともに不安定で変わらず。ガッカリして頭を抱えたがふと他のテープをセットすると問題なく再生する(!)どうもこれはテープ自身の問題だったようだ。

 やはり業務用ポータブルビデオデッキの集積度は凄まじく素人の目で見ても日本の電気製品最高の技術が詰まっていたとわかる。当時の価格は350,000円という話だが生産数にもよるがこの内容では大して利益は出なかったのではないかとさえ思う。数十年前にこの製品を開発、設計、製作した方々の努力と熱意に心からの敬意を表します。

 AG-7400の取説を入手できました。

 サービスマニュアルやAG-6400のものは入手できていない。