Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Thorens TD124 について

2018-06-17 20:51:42 | Thorens

 Thorens TD124は技術と経験を必要とする調整ポイントが存在するらしい。かなりくたびれたプレーヤーでもとりあえず定速で回って音が出ていればそのまま使っている場合は多いと思うがTD124はモーターに余裕がないためなのか調子を崩すと定速までの立ち上がりにかなりの時間がかかるし回転が安定しない。もちろんメンテナンスが行き届いていればそんなことはないと思うが製造されて数十年経過してオイルが硬くなると、コイルの発熱で軟化することでようやく回転が安定する、、らしい。これは日常使用にあたっては困った不具合だが修理を自分で行うか専門家にお願いするかは迷う所です。
 TD124のモーターについての情報を色々と検索するがなかなか難しい。単相4極インダクションモーターとあるが進相コンデンサーは何処にあるのか? 3段階の電圧に対応するコイルの構造はどうなっているのか? 新品時の性能は? 回転数は?トルクは?騒音は?
 一方でwebの記事を見ると様々なメンテナンス目標が出てくる。「(ターンテーブル)◯回転で定速に達する」「AC ◯Vで起動する」「電源が切れた後(モーターが) ◯回転する」など。これらは新品時の性能以上なのかもしれないしひょっとするとメンテナンスではなくチューンナップかもしれないが自分で作業する時には参考にさせていただきたいと思います。作業前後で変化した音の評価は客観性に乏しくなかなか難しい気がします。
 TD124を始めThorensのモーターについては今まで手付かずだったのでなるべく資料を集めつつ手持ち分のメンテナンスを行ってみます。そしてメンテナンス目標の(あくまでも個人の)設定ができればと思います。

 TD124は3段階の電圧に対応しています。
  100V - 120V   125V - 150V   200V - 250V
 切り替えはターンテーブルをめくった所にある捻じ込みプラグで。
 
 まさかの手書きのコイルの接続図。コイルは2つあって独立している。各々の引き出し線に測定器当ててDCRとインダクタンスを測定した。対応電圧の切り替えはプラグをねじ込むことで2個のコイルの同色の線が接続されることで行われる。

 DCRとインダクタンスの比率が異なるのはコイルの巻かれた位置などが関係するかと(まさか線径を変えてはいないと思うけど)思うが電圧切り替えは結構単純な回路とわかった。ここで疑問は巻線の一部しか使わない100V時とフルに使った250Vの違いはあるのかということ。モーターの基礎知識がないので感覚的なことしか言えないがこれはかなり異なると考えていいのではないだろうか?

 次に進相コンデンサーはどこに行ったのだろうか?電源回路にコンデンサーは含まれるがスパークキラーだし、抵抗器はストロボ用と思われる。どういう原理なのか??

 2つのコイルは対向している。他の2極は鉄心を伸ばして90度離れた所にあるように見える。インダクションモーターでコンデンサーを使わないタイプは隈取式、分相始動式などがあるらしい。この構造でなぜ90度曲がったところに設置されている磁極に位相差が生じるかはわからない。どなたかご教授いただければ幸いです。

 その1
 TD124です。スイッチを入れるとモーターがゆるりゆるりとやっと回る。早速降ろして分解。軸受けメタルハウジングはリベット止めなのでドリルで揉んで外す。組み立ては2.6mm X 6mmのネジだとぴったりで遊びが出ない。

 下側のメタルにはカバー横に注油穴がある。しかし内部のコードが邪魔しているので多分以前に分解組み立てした際に180°逆に取り付けたと思われます。

 上側、下側の構造はほぼ一緒だが下側は当然軸受けがある。
 
 テフロンと思われる軸受けはボールベアリングの所が凹んでいる。飛び散ったオイルは長年の熱で石鹸状になってこびりついていて堆積したのをこそげ落としてパークリで洗浄した。
 オイルは何を使ったらいいのだろう?ネジ止めなので気安く変更できるか?

 購入したのは以前と同じWAKO titan audio oil Ti-103MKⅡ
 
 早速組み立てて100Vで回してみる。まず回転数を見ると

 60Hzなので1733RPM。計算では1800RPMだがインダクションモーターは「滑り」が生じこの場合は3.7%の滑りとなる。トルクは別としてもこの滑りを少なくして回転数を1800RPMに近づけるのはメンテナンス目標としてはありのような気がする。
 次にバネばかり(FS=100g)で50Hzのところに貼り付けたベルトで回転開始時のトルクを測定してみる。

 実際測定すると釣り合っている範囲が広くて再現性が低い。そこでバネばかり側に動きだす瞬間の力を測ってみると42gf。プーリーの半径は16.7mmなのでトルクは0.70kgf・cm
 騒音計でいろんな条件で測ってみると

 44.7dBA ただし再現性はやっぱり低い気がする。その他電圧を下げていくと13.7Vまで回転が続いた。電源を切って空回りしている時間は10.6秒

 このまま1時間ほど通電後再度測定するとデータはすべて悪化していた。熱によるダレが生じたか?
 少し冷却させてから200V-250Vレンジで同様に測定してみた。昇圧トランスは実測237V
 結果はトルクを除いて大きい変化はなかった。トルクは0.85kgf・cmで21%の上昇を認めた。やはりTD224などモーターの限界近くまで力を引き出さないとうまく動かないキカイにはこの方法は有効だしこれだけトルクが異なればTD124についても音味の違いは必ず現れるかと思う。比較したことはないが世間の評価はどうなのだろうか?


 再度配線して組み立てた。なおモータープーリーのネジは2個だが

 材質が異なっていて締めるときは最初に黒を締めるべし(とMANUALにあった)。
 ストロボで調整代を確認するとそれほど偏ってない(ど真ん中でもないが)のでよしとする。。

 ターンテーブルを回した状態でモーターの温度を測定してみた。レーザーのガイドがあるのに激安温度計。

 室温は不明。回転前の温度は24.0℃ 100V 60Hzで運転しながら30分ごとに測定する。モーターの部位によって温度は異なるが最高値を記録していくと120分で最高の48℃となった。約24℃の上昇となり結構な上げ幅だった。キャビネットに組み込んだ状態だが下からは空気がしっかり取り込まれる状態なので中でこもってはいない。120分過ぎるとほぼ平衡状態となった。
 モーターはエネルギー変換機だろうから発熱分は無駄になったエネルギーと考えられる。

 あとは実際音を出して判断することになる。
 全く配慮なしで分解掃除して組み立てたが調整代はほとんどなくてメンテナンスの達人は一体何を調整するのだろうか?

 以下備忘録
 ・今回軸受けのハウジングはリベット止めからネジ止めになった。中のピーナッツと呼ばれるラジアルメタルは薄板のスプリングで裏板に押し付けられている。「押し付け」は2枚のフェルト円板を緩衝材にしてハウジングでなされる。ネジ止めする際には若干の膨張を感じながらだったのでフェルトの変形もしくはリベットとネジ止めの違いでピーナッツの動きは変化する。ピーナッツを指で揺すってみるとそれなりの抵抗を感じる。ここの動き具合も立ち上がりや安定性に影響を与える要素か。
 ・電圧切り替え板から配線を外しての作業は熱による端子の劣化を招きそうで極力控えた方が良さそう。
 ・100Vと250Vのトルクの差は大きい。同様に100Vと120Vの差も大きいはずでエネルギーは1.4倍かと思う。(50Hzと60Hzの効率差はわからないが)50Hzで100Vの東日本での動作条件は世界一厳しいはず。
 ・ピーナッツには常に横方向の力がかかりながらモーター軸は回転している関係で柔らかそうな材は容易に変形すると思われる。ハウジングのリベット止めからメーカーのメンテナンスサービスではピーナッツの交換はしない。
 ・注油も通常の使用では5000時間は必要ないとManualにある。その後は上下メタル各々に注油せよとあるが肝心な下側はほとんどなされないのではないか。不具合に陥ったモーターはアッセンブリー交換されたが配線にコネクターを用いなかったことからモーター交換は頻繁には行われないと自信があったのかそれとも裏板のみの供給がされていたのだろうか。
 ・50Hzと60Hzの切り替えはモータープーリーのひっくり返しのみでモーター本体は何も行う必要はない構造。日本では誠に有難いしアメリカ市場を考えた結果かと思うがコンデンサーレスは最上の方法なのだろうか?(今さらそんなこと言っても仕方ないが)
 ・板金打ち出しで精度の出にくい構造のモーターでラジアル荷重がかかることを配慮した軸受けの設計から回転子の位置は磁界に対して結構アバウトかと思う。
 ・ヨーロッパの50Hz 220V アメリカの60Hz 120Vではかなりへたった状態でも問題は出にくかったのかもしれない。メンテナンスなしに酷使されてその後長期間放置された後に日本に渡ってきたものが世間では溢れているのではないだろうか?世界一厳しい条件の東日本では不具合の発現は当然か。
 ・機械としての初期性能を回復することは基本だがその後は使いこなしの対応もありかと思う。(50Hz 220Vまたは60Hz 120Vにして使うとか)
 ・音質の評価は難しい。故障した状態でなければ何をやっても変化するのがアナログの楽しみ方かと。
 ・ピーナッツとフェルト、リベットはセットでアフターマーケットから供給されている。

 今後Thorensモーターを測定する機会があればここにメモする事とします。

1「TD124 その1」の測定結果のまとめ
 メンテナンス内容は 軸受けハウジング分解、内部とパーツ洗浄、オイルは「WAKO titan audio oil Ti-103MKⅡ」ハウジング組み立てはステンレスヘキサゴン2.6mmx6mm+スプリングワッシャー テフロン板はひっくり返して再使用 フェルトも再使用 モーター組み立ては対角線の締め込み(トルクは測定せず)
 ・1733RPM(滑り率3.7%)
 ・静止時トルクは0.7Kgf・cm(水平位 ただし逆方向に動きだした時)
 ・騒音計 44.7dBA (なるべく共振を避けた位置で測定)
 ・60HzでAC13.7Vまで回転継続
 ・電源切ってから10.6秒間回転(プーリー付き)
 ・温度上昇は24℃→48℃(24℃上昇 120分経過)

 ・238V 60Hzでトルクは0.85Kgf・cm(21%増)

 

2 「TD184 その1」の測定結果 

  10分間の運転後に測定

  ・1744RPM(滑り率2.0%)

 ・AC16.5Vで起動

 ・電源切ってから12.2秒間回転(プーリー付き)

 

3 「TD184 その2」の測定結果

  以前メンテしてあったが久しぶりに起動すると規定回転数に達せず。10分後に測定

 ・1668RPM(滑り率7.3%)

 ・AC36.1Vで起動 

 ・電源切ってから4.0秒間回転(プーリー付き)

  かなり悪い数値。

  60分運転後再測定

 ・1710RPM(滑り率5.0%)

 ・AC35.8Vで起動 

 ・電源切ってから5.5秒間回転(プーリー付き)

  若干の改善は認めるがこの状態でTD184ターンテーブルはようやく定速回転する。この辺りの数値が調整範囲の限界値に近いのかもしれない。何れにしても再度のメンテナンス必要。

 

4 「TD184 その3」の測定結果

  最近メンテ。10分後に測定

 ・1696RPM(滑り率5.7%)

 ・AC22.3Vで起動 

 ・電源切ってから5.6秒間回転(プーリー付き)

  かなり悪い数値。いかにメンテがダメだったかを物語る。何が原因か?

 

5 「TD134 その1」の測定結果

 ・1737RPM(滑り率3.4%)

 ・AC17.2Vで起動 

 ・電源切ってから12.9秒間回転(プーリー付き)

 今までの中では2番目に良い値となった。3項目の測定だがほぼ同様の傾向を示している。今までの値を見るとモーターの判定としては一定の基準になりうる(かもしれない)。

 モーターを分解して軸受を非分解で掃除、給油する場合は中のフェルトを十分洗浄したいところだが非分解ではそれは難しい。一通りの作業で改善できない場合はハトメを外してさらに分解するわけだが結構ハードルが高く感じられるかもしれない。

 そこでその前に行っておきたい事。

 1給油は十分に  特に下部のピーナッツ(メタル軸受)の内外から注射器を使って。その後軸を入れると中に溜まった大量のオイルが隙間からはみ出してくる。結構汚れている場合もあるから洗浄を兼ねてしばらく繰り返してみる。

 2ピーナッツの位置決めは十分に行う  可動軸受だがフェルトと薄い板バネで押さえられている構造で指で揺するとわかるが結構動きにくい(フェルトの劣化があるのかもしれない)。軸に対して側圧がかからないように十分にまっすぐ立ててから組み立てる。目視の目明日はピーナッツと押さえている金具との境目の隙間が均等になる事だができれば軸を立ててみるなどして垂直が出せれば良いと思います(実行した事なし)。

 3モーター4本ネジの締め方  最初は軸受プレートが動くくらいの遊びをもたせた状態で回転させて位置を探りながら上記の測定を行ってみると数値が結構変化する。最良の数値が見つかったら(妥協も必要かもしれない)その数値を目標に締めこんでいく(また妥協が必要かもしれない)。

 

 プーリーが付いたモーターが止まる時の様子を観察すると調子が良い場合は最後の1周は5秒くらいかかる(!)こともあった。なかなかの粘り腰で見ていて嬉しくなる。この状態であればいちいち測定しなくても良いデータなのは想像がつきます。他にも要素があるかもしれない。回転子の動的バランスをとり直す(不可能かと思うが) テフロン板を裏返す 軸のボールベアリングの交換(そういえばやったことがない) ピーナッツとフェルトの新品交換(市販されているがやったことはありません)どの時点でピーナッツの再使用不可の判断がされるかはわからないし現物を見たことはない。割れてなければそのまま使用することが多いと思うがどうやっても定速に達しなかったり明らかにガタや異音が出るようであれば検討してみたいです。

 
6 「TD135 その1」の測定結果 
 
 ・1722RPM(滑り率4.3%)

 ・AC30.3Vで起動 

 ・電源切ってから10.0秒間回転(プーリー付き)

 もう少し改善させたいところ。特に最低起動電圧は残念な値

 

7 「TD135 その2」の測定結果

  モーター分解して洗浄、注油。軸受部は非分解。室温20℃でベルトをはずして測定。項目は回転数とスイッチOFF後の回転持続時間

 0分  1568rpm  2.58sec

 5分  1625rpm      2.91sec

 10分      1662rpm      3.79sec

 15分      1672rpm      4.38sec

 20分      1679rpm      4.43sec

 ターンテーブルを実装すると10分後にようやく定速(331/3)に達する。数値的にも他と比較してかなり悪い値。

 モーターの軸受けを非分解としてできることは4本のネジの締め付けにより上下の軸受けを含んだハウジングの位置関係の調節ということになる。上下の軸受けが一直線に並ぶこと、回転子が磁界の中央に位置していることが必要と思う。ネジ穴には遊びがあって横方向の動きが各々0.5mm程度は認められる。何か治具があればいいのだが実際には回転数を測定しながら少しずつ上下のハウジングを移動させて最良点を見つけ出しその位置で対角線状にネジを締めこむ、、位しか思い浮かばない。ただし締めこむ事で位置が変わり数値も変化する。

 実際に行ってみるとやはりかなり回転数は変動する。60Hzにシンクロすると1800rpmなのでなるべくそれに近づける訳だが1700rpmを切るようでは全く使えないと思われる。ネジ込みの調節でどうやってもクリアーできない時は軸受けの分解を覚悟しなければならないと思います。今回位置を調整した時は1704rpmだったがネジの締め込み後は1697rpm 5.29secでやはりあまり芳しくない。これで実働させてみて問題あれば軸受けの分解にかかります。

 








  
  
 


Thorens TD224 について

2018-06-08 17:10:20 | Thorens

 世界最古のオーディオメーカーであるThorens(トーレンス)社の創業は1883年のスイスでなんと19世紀。もっとも当初は冬のスイスの産業として興ったオルゴールメーカーだったが他にもハーモニカ、髭剃り、蓄音機、ライターなども作っており現在でも当時の製品を骨董屋で目にすることがある。オルゴール部門はリュージュ社に売却され現在でも製造が続いていると思う。発表されたレコードプレーヤーは非常に多くの種類があったが有名なのは世界的なベストセラーだった「TD124」、空前絶後の超弩級の「リファレンス」など。特にTD124はGARRARD301、EMT930stと並んでオーディオ愛好家の定番として現在も君臨している。TD124の派生機種としてTD135、TD184など多くの製品があるが今回はオートチェンジャー機の傑作として名高いThorens TD224を取り上げようと思います。
 アナログレコードの片面の演奏時間は78SPレコードは5分、LPレコードでもせいぜい20分位なので連続して聴取するにはレコードを頻繁に交換しなくてはならず非常に煩わしい。特にオペラなど長尺のプログラムを再生するには78SPレコードで数十面必要などというのもあるし、業務でBGM的に流す場合も交換は面倒だったと思う。そこでオートチェンジャーの出番になるわけだが進行順にA面の次は裏のB面ではレコードをひっくり返すアクションが必要となり非常に大掛かりな機構を必要とする。そこでレコードを重ねて置いてまずA面だけ盤を交換しながら再生してすべての再生が終わったら重なっているレコードをそっくりひっくり返してまたオートチェンジャーにセットすることで今度はすべてのB面が再生されるとつながるようにカッティングされたオートチェンジャー専用のセットレコードもあった。日本では盤を重ねると貴重なレコードが傷むと言われたり、長いクラシックを鑑賞することが少なかったのかオートチェンジャーはあまり普及しなかったように思います。
 オートチェンジャー機構で多かったのはターンテーブルのセンター軸を伸ばして上に積み上げられたレコードが1枚ずつ下に落ちて重ねられたまま再生するというもの。そのほかにはストックヤードから1枚ずつ運んで来て再生し終わると片付けてからまた運び込むものもあり、驚いたことに蓄音機時代すでにこの機構のオートチェンジャーはHMVに存在していた(流石にゼンマイでは難しかったらしく電動)。また前述のA面とB面をひっくり返して再生する「リンカーン」というメーカーのオートチェンジャーもあった。

 Thorens TD224のオートチェンジのアクションはストックヤードから1枚ずつアームで運んできて再生し終わるとまたアームがレコードを持ち上げて運び去った後にまた新たなレコードを運び込むのを繰り返すというもの。回転数とLP,EP(ドーナツ盤)の変更は自動ではないが最初にどちらか一方に設定すれば対応する。もちろんレコードが空になればターンテーブルは止まり電源が切れる。これらの動きがTD124と同じモーター1個だけで行われる。webの情報によれば4000台が製造されたらしいがどんなに機構が高度でも頻繁に調整しないと機能しないモノは商品としては成り立たないわけで、スタビリティを確保しながら工業製品として大量生産されたことは「やはりスイス製か」、、と思う。
 しかし数十年が経過した現在、果たしてどれくらいの数の稼動できるTD224が残っているだろうか?


 その1(SNo,441*)
 20年ほど前に都心にある某有名オーディオショップから購入した。以前から書籍でその存在は知ってはいたが実物は見た事もなかったが雑誌の広告を発見して東京まで出向いた。一刻も早く動かしたかったので店頭で動作を確認して梱包してもらい新幹線で持ち帰った。キャビネットは自作しカートリッジはDENON DL-103を装着してしばらく聞いていたがやがてマイブームは去って今回動かすのは10数年ぶり。。

 

 
 自作のキャビは木製の丸椅子2脚をくっつけて作った。どうしても角はRにしたかったため。エンブレムのジョーダン・ワッツは尊敬している「Iさん」から頂戴したものでジョーダンのつもりでくっつけた。初期のトーレンスシリーズと同様に周波数、電圧の切り替えがある世界戦略品だがTD224については200〜250Vレンジで使用した方が良いように思う。なぜかはわからないが(モーターの構造上のことなのか)他の電圧ではスムーズに動きづらいことがある。LPとEPの切り替え。

  
 長時間針の掃除ができない(しない)のでこのブラッシは必要。 スイッチを入れるとまずターンテーブルが回転し、ターンテーブルの裏のこのピアノ線にスイッチのレバーが押されてアクションが始まる。
 

 

レコードが無くなった時のアームの動き
 
 ヘッドシェルの内側にレコードを感知するバーが設置されていてレコードの大きさ、有無を感知する。レコードがなくなるとトーンアームは最内周まで動いて「レコードが無い」ということを認識してアームレストに帰りアームはレコードをつまみ上げて捨てる素振りをしてからスタート位置に戻って停止しスイッチが切れる。
 モーターを数分間ウォーミングアップしたら何の問題もなく動いてこれにはびっくりした。よほど状態が良い個体だったのだろう。動き出すまで数日はかかると思っていたので拍子抜けした。




 その2(SNo,291*)
 いつ頃の入手かはわからないが(問題があって)稼動させたことはない。今回通電してみると、、やっぱり動かない。


 ターンテーブルを外してしばらくモーターを動かすと次第に定速らしくなって来た。モーターから目一杯の力を引っ張り出さないと動かないのでいずれしっかりメンテする必要がある。
 まずストックヤードのレコードをつまめない。レコードの穴に合わせてポールの位置を閉じた状態と開いた状態の2態に設定するのだが。。
 


 このポールとアームに開いている穴の位置がぴったりでないとアームの爪がレコードの穴に入らない。爪はレーベルを傷つけない非常に巧みな位置にある。対策としてはポールとポールを固定しているプレートの位置をアームの穴に合わせて調節してみたが後述のようにアームの方で微調整できる。
 この作業でレコードの移動は行われるようになった。しかしストックヤードから持ち上げる時が一番パワーを使うらしくかなり苦しげな動きをする。摩擦の軽減も必要。
 
 スピンドルのオイルが漏れないように気を使いながら裏返しにする


 
 TD124でおなじみの(?)回転速度切り替えと微調整部分。   レコードを運ぶアームの上下と爪の動きをコントロールする部分。かなり力がかかるのでレバーも長い。

 
 この大きなカムが全体のアクションの中心になっている。   アーム周りの動きはとても繊細でコントロールの要素も多い。位置センサー、上下左右、信号のON,OFFなど。

 水平にしないとアクションの確認はできないがケースが無くても一応自立します。以前調整していた時はガラステーブルに乗せて寝転んで下から見上げて観察していた。
 



 ツキ板を養生してゴム足取り付けて完了。信号の取り出しはまだです。




 その3(SNo,391*)
 いつ頃の入手かは不明だが海外からだったと思う。専用のシェルが欠品で塗装も傷んでいるが裏面は比較的綺麗だった。電源コードを交換して初めて通電した。

 駆動ベルトが伸びていて当然のように不動。その2から拝借して早速交換してみる。やはりモーターのパワーが足りないのか抵抗が大きいのか途中で止まってしまう。

 レコードを持ち上げる時が一番パワーが必要だが、片持ちのアームをスムーズに動かすための工夫で、ボールベアリングが多数埋め込まれている外筒と内部のアーム直結のパイプが同時に持ち上げられる。このあたりがメカニズムの最重要ポイントか。
 またオートチェンジャー機能が必要ない場合には邪魔になってしまうレコード置き場をボルト1本で取り外すことができそのためのレンチが裏にある。
 

 「その2」と同様にアームとレコードの位置(ストック時と演奏時の2ヶ所)が一致しない。実は微調整機能がある。
 
 アームを水平方向に動かすプレートに調整ポイントがあり写真の上側のダイヤル(マイナス溝の)がストック時の、下側がスピンドルとの微調整ができる。調整プレートも動かすことができるがその場合は両ポイント共に動いてしまう。
 垂直方向の調整はこのジョイント部分で行える。あまり低いとレコードがポールに当たってしまうし、高くしすぎるとアームがストックする部分に当たってしまう。


 モーターご機嫌を伺いながら調整と掃除を繰り返してようやく一連の動作をするようになった。

 シェルは「その1」から借用してます。
 しかし動きがやはりスムーズではない。今回は後述の理由でこの個体の修理は後回しにします。


 その4(SNo,104*)
 10年ほど前に不動品という説明で国内の業者から入手したのだが重要部品の欠品がありそのままとなっている。もともとTD224の販促用ディスプレイでご丁寧にアームには「非売品」と書いてある。ターンテーブルシートや構成部品の材質も少し異なり、初期型らしい。


 

 ターンテーブルを外してみると重要部品が欠品。説明には何も書かれていなかった(と思う)。

 肝心のドライブギアのアームがごっそり抜けていた。ところが海外オークションで新品が出品されていて大喜びで購入した。
 
 ところがよく見ると大ギアが含まれてない!あらためて出品者に尋ねると「出品予定あり」。だが数年経過したがその気配はない。なお入手したパーツは現在でも入手可能。
 そこで「その3」から大ギアを借りてくると何か様子がおかしい。隣接のギアとうまくかみ合わず上下動する。カム軸を外してみると、、これは?!
 
 やっぱり一番上の溝部分から折れ曲がっている。大ギアを取り付けて距離を測ってみるとなんと周辺で2mmの上下差がある。早速万力で固定して修正を試みる。

 多分すぐに折れてしまうのでトライは1回のみにしてなんとか成功した。しかしどういう扱いをしたらこうなってしまうのだろうか?もし今後不具合が生じればカムを分解して軸のみを取り出して削り出してもらうことになる。

 カム周りはとても複雑でプアな頭では手順を忘れそうなので1工程ずつ写真を撮っておいた。
 

 

 



 もう一点欠品がありました。


  
 これはコピーできるだろうか、、。ギアが並ぶアームをコントロールしてアクションのON,OFFを司る重要部品。

 大ギアの動きがもう少し気になって、、少し軸に力を加えたら、、

 、、やってまった。案の定(ウソ)折れました。これを機会にカムを分解してみる
  
 そうすると大ギア、ギアポールを動かすパーツ、カム軸 シェル、アームレストが欠品していることになる。
 外観がとても美しいので当面「その3」から拝借することにしてまず「その4」が稼動するように仕立てることにする。「その3」をどうするかは思案中。。

 移植は1時間程度で済んだがやはりその後の調整でかなり時間を費やした。ドナー側も同様に部品の組み付けを行う(分解したままでは本当にジャンク部品となってしまう。まだ再生に未練があるし次のパーツ交換時にもその方が都合が良いことが多い)。

 調整ポイントが数々あって学習しながらネジを傷めないように行った。アーム(レコードを運ぶ)のアクションについては一連の動きが止まらないことが必要でカム周りの抵抗、モーターの出力などが正常だということが前提。


 気づいたことの備忘録
 アームとレコードの位置関係(前述)
 終了時にアームがポジションに戻る。
 終了時に電源が切れる。
 終了時に(ターンテーブル裏の)レバーが戻って次回起動する時の「MANUAL」スイッチが動くこと。

 アクションのトリガーはターンテーブルにあるピアノ線によって押されるのだが、押される位置まではスタートスイッチもしくはトーンアームによって導かれる。
 トーンアームの動きはとても繊細で司令塔にもなっている。

 トーンアームのリフトと水平移動はカムによって行われるが水平移動はリフトアップ時のみ行われ、カムからフリクション板に伝達される
 
 通常は離れていてトーンアームはフリー、リフトアップされるとフリクション板も持ち上がって伝達される。

 連続して動作するか終了に向かうかはレコードの有無によるアームの位置センサーの指示で分岐される。
 この辺りはまだ完全には理解できていない。

 トーンアームの内部
  

 トーンアームのウェイトがお尻下がりだが連結部分は取り出せた。

 弾性素材が劣化してこうなってしまったのはよく見るが今回代用したのは
 
 グロメット(半分に切ればよかった、、)とギボシ端子のスリーブ。なおトーンアーム軸の上下には9個のボールベアリングがあり気をつけないと転がり出して慌てる。


 これでようやく動くようになった。
 

 からくりの設計はどうやって行うのだろうといつも思う。各セクション毎に動きを確認してカムを配置して組み合わせたかと思うが各々の動きは比較的単純でトーンアームの位置センサーによって動きは分岐しコントロールされる。分岐の方法、長期、酷使に耐える安定など考えた人はやっぱり天才か?スイスの伝統工芸か?

 Thorens TD224でお困りの方、ご興味のある方、情報交換しませんか。



 
 お読みいただきありがとうございました。
 


 追記1
 実は全く音出ししていませんでした。整備に満足して(ウソです。くたびれて)しまって。
 「その1」
 
 カートリッジはDENON DL−103。 JBL SA600に直に繋いで両chの音出しを確認する。実は最近売却したプレーヤーのシェル内の配線が間違っていたのを指摘されまして恥ずかしい思いをしたばかり。



     Yuming brand   荒井由実    東芝EMI 1976年


 荒井由実時代のベストアルバムだが驚くのは42年前の発売ということと細野晴臣氏。星野源にデビューを勧めたのも氏だというから、、。もちろん音楽界では超有名人だが世間から氏が注目され始めたのはここ10年くらいかと思う。私も昔は「声の低いおじさんベーシスト」位のイメージだったのだが(ホントに失礼しました)改めて経歴を見たり当時の音楽に触れるとその非凡さに驚いた次第。アルバムのジャケットには立体メガネが付いていてミシン目で切り取るとジャケットとスリーブの写真がそう見えるというもの。穴の空いたジャケットを中古レコード店でよく見た。(これも中古。テープで留めてます)

 直結から1次側を高めに接続した(詳細は忘れた)western electric 618B(巷で評価がとても高いトランスだが個人的にはもっと優れたものもあると感じている)で昇圧してみる。まず彫りが深く聞こえる。団子状だった音の塊が解けてきちんと並ぶ。音量を絞ってもとても聴きやすい。
 DENON DL-103はとても几帳面な音味で変な例えだが日本人的な音だと思っていて何の不満もない。続けて6面ほど聴いてみたが快調だしブラッシの効果かスタイラスに埃も溜まらない。レコードを取りに行くときにちょっと乱暴な動きをするのが気になっていたがブラッシがあるとクッションとなってちょっと緩和される気がする。S/Nも良好でミューティングも効果的。もっともレコードを捨てる時はもっと乱暴でパッと放す。しかし2枚目からはエアーブレーキ(?)が効いてふわっと落ちます。
 お店でBGMとして稼動させたら評判になること間違いなしだ、、と思うのですが。。(そもそもこの発想が昭和のオヤジの証明)


 追記2
 信号出力は5pinのDINコネクターとなっている。出力コードは1本しかないのを使いまわしていたので今回新たに2本自作した。またTD224専用のシェルも2個しかない。もう1個はかなり傷んでいるし専用品ではない。専用品はこのシェルにレコード感知のパーツが追加されたものなので改造してみます。


 

 

 廃材を削ってコピーした。シェルは錆びだらけなので塗り直しすることにした。買ってきたラッカースプレーは100円台!使えるか?
 

 
 耐久性はわからないが仕上がりは他と遜色ない。もっともアルミ製かと思うがオリジナルも下塗り無しで直に塗ってるので剥がれは当然かと。でこれを遵守した(ただめんどくさかっただけ)。カートリッジも適当に交換したがハイコンプライアンスのは難しいかもしれない。


 もう一個作ってみた。パーツの厚みは0.8mmでnetで購入。
 

 
 TD224専用のヘッドシェルは貴重品でほとんど入手は難しい。TP12Sシェルもなかなか入手難になりつつある。貴重な骨董を改造するのは気が咎めるがこれは致し方ない。せめてきっちりと作業しておきたいし使われるネジなども最大限配慮したいと思う。