Thorens TD124は技術と経験を必要とする調整ポイントが存在するらしい。かなりくたびれたプレーヤーでもとりあえず定速で回って音が出ていればそのまま使っている場合は多いと思うがTD124はモーターに余裕がないためなのか調子を崩すと定速までの立ち上がりにかなりの時間がかかるし回転が安定しない。もちろんメンテナンスが行き届いていればそんなことはないと思うが製造されて数十年経過してオイルが硬くなると、コイルの発熱で軟化することでようやく回転が安定する、、らしい。これは日常使用にあたっては困った不具合だが修理を自分で行うか専門家にお願いするかは迷う所です。
TD124のモーターについての情報を色々と検索するがなかなか難しい。単相4極インダクションモーターとあるが進相コンデンサーは何処にあるのか? 3段階の電圧に対応するコイルの構造はどうなっているのか? 新品時の性能は? 回転数は?トルクは?騒音は?
一方でwebの記事を見ると様々なメンテナンス目標が出てくる。「(ターンテーブル)◯回転で定速に達する」「AC ◯Vで起動する」「電源が切れた後(モーターが) ◯回転する」など。これらは新品時の性能以上なのかもしれないしひょっとするとメンテナンスではなくチューンナップかもしれないが自分で作業する時には参考にさせていただきたいと思います。作業前後で変化した音の評価は客観性に乏しくなかなか難しい気がします。
TD124を始めThorensのモーターについては今まで手付かずだったのでなるべく資料を集めつつ手持ち分のメンテナンスを行ってみます。そしてメンテナンス目標の(あくまでも個人の)設定ができればと思います。
TD124は3段階の電圧に対応しています。
100V - 120V 125V - 150V 200V - 250V
切り替えはターンテーブルをめくった所にある捻じ込みプラグで。
まさかの手書きのコイルの接続図。コイルは2つあって独立している。各々の引き出し線に測定器当ててDCRとインダクタンスを測定した。対応電圧の切り替えはプラグをねじ込むことで2個のコイルの同色の線が接続されることで行われる。
DCRとインダクタンスの比率が異なるのはコイルの巻かれた位置などが関係するかと(まさか線径を変えてはいないと思うけど)思うが電圧切り替えは結構単純な回路とわかった。ここで疑問は巻線の一部しか使わない100V時とフルに使った250Vの違いはあるのかということ。モーターの基礎知識がないので感覚的なことしか言えないがこれはかなり異なると考えていいのではないだろうか?
次に進相コンデンサーはどこに行ったのだろうか?電源回路にコンデンサーは含まれるがスパークキラーだし、抵抗器はストロボ用と思われる。どういう原理なのか??
2つのコイルは対向している。他の2極は鉄心を伸ばして90度離れた所にあるように見える。インダクションモーターでコンデンサーを使わないタイプは隈取式、分相始動式などがあるらしい。この構造でなぜ90度曲がったところに設置されている磁極に位相差が生じるかはわからない。どなたかご教授いただければ幸いです。
その1
TD124です。スイッチを入れるとモーターがゆるりゆるりとやっと回る。早速降ろして分解。軸受けメタルハウジングはリベット止めなのでドリルで揉んで外す。組み立ては2.6mm X 6mmのネジだとぴったりで遊びが出ない。
下側のメタルにはカバー横に注油穴がある。しかし内部のコードが邪魔しているので多分以前に分解組み立てした際に180°逆に取り付けたと思われます。
上側、下側の構造はほぼ一緒だが下側は当然軸受けがある。
テフロンと思われる軸受けはボールベアリングの所が凹んでいる。飛び散ったオイルは長年の熱で石鹸状になってこびりついていて堆積したのをこそげ落としてパークリで洗浄した。
オイルは何を使ったらいいのだろう?ネジ止めなので気安く変更できるか?
購入したのは以前と同じWAKO titan audio oil Ti-103MKⅡ
早速組み立てて100Vで回してみる。まず回転数を見ると
60Hzなので1733RPM。計算では1800RPMだがインダクションモーターは「滑り」が生じこの場合は3.7%の滑りとなる。トルクは別としてもこの滑りを少なくして回転数を1800RPMに近づけるのはメンテナンス目標としてはありのような気がする。
次にバネばかり(FS=100g)で50Hzのところに貼り付けたベルトで回転開始時のトルクを測定してみる。
実際測定すると釣り合っている範囲が広くて再現性が低い。そこでバネばかり側に動きだす瞬間の力を測ってみると42gf。プーリーの半径は16.7mmなのでトルクは0.70kgf・cm
騒音計でいろんな条件で測ってみると
44.7dBA ただし再現性はやっぱり低い気がする。その他電圧を下げていくと13.7Vまで回転が続いた。電源を切って空回りしている時間は10.6秒
このまま1時間ほど通電後再度測定するとデータはすべて悪化していた。熱によるダレが生じたか?
少し冷却させてから200V-250Vレンジで同様に測定してみた。昇圧トランスは実測237V
結果はトルクを除いて大きい変化はなかった。トルクは0.85kgf・cmで21%の上昇を認めた。やはりTD224などモーターの限界近くまで力を引き出さないとうまく動かないキカイにはこの方法は有効だしこれだけトルクが異なればTD124についても音味の違いは必ず現れるかと思う。比較したことはないが世間の評価はどうなのだろうか?
再度配線して組み立てた。なおモータープーリーのネジは2個だが
材質が異なっていて締めるときは最初に黒を締めるべし(とMANUALにあった)。
ストロボで調整代を確認するとそれほど偏ってない(ど真ん中でもないが)のでよしとする。。
ターンテーブルを回した状態でモーターの温度を測定してみた。レーザーのガイドがあるのに激安温度計。
室温は不明。回転前の温度は24.0℃ 100V 60Hzで運転しながら30分ごとに測定する。モーターの部位によって温度は異なるが最高値を記録していくと120分で最高の48℃となった。約24℃の上昇となり結構な上げ幅だった。キャビネットに組み込んだ状態だが下からは空気がしっかり取り込まれる状態なので中でこもってはいない。120分過ぎるとほぼ平衡状態となった。
モーターはエネルギー変換機だろうから発熱分は無駄になったエネルギーと考えられる。
あとは実際音を出して判断することになる。
全く配慮なしで分解掃除して組み立てたが調整代はほとんどなくてメンテナンスの達人は一体何を調整するのだろうか?
以下備忘録
・今回軸受けのハウジングはリベット止めからネジ止めになった。中のピーナッツと呼ばれるラジアルメタルは薄板のスプリングで裏板に押し付けられている。「押し付け」は2枚のフェルト円板を緩衝材にしてハウジングでなされる。ネジ止めする際には若干の膨張を感じながらだったのでフェルトの変形もしくはリベットとネジ止めの違いでピーナッツの動きは変化する。ピーナッツを指で揺すってみるとそれなりの抵抗を感じる。ここの動き具合も立ち上がりや安定性に影響を与える要素か。
・電圧切り替え板から配線を外しての作業は熱による端子の劣化を招きそうで極力控えた方が良さそう。
・100Vと250Vのトルクの差は大きい。同様に100Vと120Vの差も大きいはずでエネルギーは1.4倍かと思う。(50Hzと60Hzの効率差はわからないが)50Hzで100Vの東日本での動作条件は世界一厳しいはず。
・ピーナッツには常に横方向の力がかかりながらモーター軸は回転している関係で柔らかそうな材は容易に変形すると思われる。ハウジングのリベット止めからメーカーのメンテナンスサービスではピーナッツの交換はしない。
・注油も通常の使用では5000時間は必要ないとManualにある。その後は上下メタル各々に注油せよとあるが肝心な下側はほとんどなされないのではないか。不具合に陥ったモーターはアッセンブリー交換されたが配線にコネクターを用いなかったことからモーター交換は頻繁には行われないと自信があったのかそれとも裏板のみの供給がされていたのだろうか。
・50Hzと60Hzの切り替えはモータープーリーのひっくり返しのみでモーター本体は何も行う必要はない構造。日本では誠に有難いしアメリカ市場を考えた結果かと思うがコンデンサーレスは最上の方法なのだろうか?(今さらそんなこと言っても仕方ないが)
・板金打ち出しで精度の出にくい構造のモーターでラジアル荷重がかかることを配慮した軸受けの設計から回転子の位置は磁界に対して結構アバウトかと思う。
・ヨーロッパの50Hz 220V アメリカの60Hz 120Vではかなりへたった状態でも問題は出にくかったのかもしれない。メンテナンスなしに酷使されてその後長期間放置された後に日本に渡ってきたものが世間では溢れているのではないだろうか?世界一厳しい条件の東日本では不具合の発現は当然か。
・機械としての初期性能を回復することは基本だがその後は使いこなしの対応もありかと思う。(50Hz 220Vまたは60Hz 120Vにして使うとか)
・音質の評価は難しい。故障した状態でなければ何をやっても変化するのがアナログの楽しみ方かと。
・ピーナッツとフェルト、リベットはセットでアフターマーケットから供給されている。
今後Thorensモーターを測定する機会があればここにメモする事とします。
1「TD124 その1」の測定結果のまとめ
メンテナンス内容は 軸受けハウジング分解、内部とパーツ洗浄、オイルは「WAKO titan audio oil Ti-103MKⅡ」ハウジング組み立てはステンレスヘキサゴン2.6mmx6mm+スプリングワッシャー テフロン板はひっくり返して再使用 フェルトも再使用 モーター組み立ては対角線の締め込み(トルクは測定せず)
・1733RPM(滑り率3.7%)
・静止時トルクは0.7Kgf・cm(水平位 ただし逆方向に動きだした時)
・騒音計 44.7dBA (なるべく共振を避けた位置で測定)
・60HzでAC13.7Vまで回転継続
・電源切ってから10.6秒間回転(プーリー付き)
・温度上昇は24℃→48℃(24℃上昇 120分経過)
・238V 60Hzでトルクは0.85Kgf・cm(21%増)
2 「TD184 その1」の測定結果
10分間の運転後に測定
・1744RPM(滑り率2.0%)
・AC16.5Vで起動
・電源切ってから12.2秒間回転(プーリー付き)
3 「TD184 その2」の測定結果
以前メンテしてあったが久しぶりに起動すると規定回転数に達せず。10分後に測定
・1668RPM(滑り率7.3%)
・AC36.1Vで起動
・電源切ってから4.0秒間回転(プーリー付き)
かなり悪い数値。
60分運転後再測定
・1710RPM(滑り率5.0%)
・AC35.8Vで起動
・電源切ってから5.5秒間回転(プーリー付き)
若干の改善は認めるがこの状態でTD184ターンテーブルはようやく定速回転する。この辺りの数値が調整範囲の限界値に近いのかもしれない。何れにしても再度のメンテナンス必要。
4 「TD184 その3」の測定結果
最近メンテ。10分後に測定
・1696RPM(滑り率5.7%)
・AC22.3Vで起動
・電源切ってから5.6秒間回転(プーリー付き)
かなり悪い数値。いかにメンテがダメだったかを物語る。何が原因か?
5 「TD134 その1」の測定結果
・1737RPM(滑り率3.4%)
・AC17.2Vで起動
・電源切ってから12.9秒間回転(プーリー付き)
今までの中では2番目に良い値となった。3項目の測定だがほぼ同様の傾向を示している。今までの値を見るとモーターの判定としては一定の基準になりうる(かもしれない)。
モーターを分解して軸受を非分解で掃除、給油する場合は中のフェルトを十分洗浄したいところだが非分解ではそれは難しい。一通りの作業で改善できない場合はハトメを外してさらに分解するわけだが結構ハードルが高く感じられるかもしれない。
そこでその前に行っておきたい事。
1給油は十分に 特に下部のピーナッツ(メタル軸受)の内外から注射器を使って。その後軸を入れると中に溜まった大量のオイルが隙間からはみ出してくる。結構汚れている場合もあるから洗浄を兼ねてしばらく繰り返してみる。
2ピーナッツの位置決めは十分に行う 可動軸受だがフェルトと薄い板バネで押さえられている構造で指で揺するとわかるが結構動きにくい(フェルトの劣化があるのかもしれない)。軸に対して側圧がかからないように十分にまっすぐ立ててから組み立てる。目視の目明日はピーナッツと押さえている金具との境目の隙間が均等になる事だができれば軸を立ててみるなどして垂直が出せれば良いと思います(実行した事なし)。
3モーター4本ネジの締め方 最初は軸受プレートが動くくらいの遊びをもたせた状態で回転させて位置を探りながら上記の測定を行ってみると数値が結構変化する。最良の数値が見つかったら(妥協も必要かもしれない)その数値を目標に締めこんでいく(また妥協が必要かもしれない)。
プーリーが付いたモーターが止まる時の様子を観察すると調子が良い場合は最後の1周は5秒くらいかかる(!)こともあった。なかなかの粘り腰で見ていて嬉しくなる。この状態であればいちいち測定しなくても良いデータなのは想像がつきます。他にも要素があるかもしれない。回転子の動的バランスをとり直す(不可能かと思うが) テフロン板を裏返す 軸のボールベアリングの交換(そういえばやったことがない) ピーナッツとフェルトの新品交換(市販されているがやったことはありません)どの時点でピーナッツの再使用不可の判断がされるかはわからないし現物を見たことはない。割れてなければそのまま使用することが多いと思うがどうやっても定速に達しなかったり明らかにガタや異音が出るようであれば検討してみたいです。
・AC30.3Vで起動
・電源切ってから10.0秒間回転(プーリー付き)
もう少し改善させたいところ。特に最低起動電圧は残念な値
7 「TD135 その2」の測定結果
モーター分解して洗浄、注油。軸受部は非分解。室温20℃でベルトをはずして測定。項目は回転数とスイッチOFF後の回転持続時間
0分 1568rpm 2.58sec
5分 1625rpm 2.91sec
10分 1662rpm 3.79sec
15分 1672rpm 4.38sec
20分 1679rpm 4.43sec
ターンテーブルを実装すると10分後にようやく定速(331/3)に達する。数値的にも他と比較してかなり悪い値。
モーターの軸受けを非分解としてできることは4本のネジの締め付けにより上下の軸受けを含んだハウジングの位置関係の調節ということになる。上下の軸受けが一直線に並ぶこと、回転子が磁界の中央に位置していることが必要と思う。ネジ穴には遊びがあって横方向の動きが各々0.5mm程度は認められる。何か治具があればいいのだが実際には回転数を測定しながら少しずつ上下のハウジングを移動させて最良点を見つけ出しその位置で対角線状にネジを締めこむ、、位しか思い浮かばない。ただし締めこむ事で位置が変わり数値も変化する。
実際に行ってみるとやはりかなり回転数は変動する。60Hzにシンクロすると1800rpmなのでなるべくそれに近づける訳だが1700rpmを切るようでは全く使えないと思われる。ネジ込みの調節でどうやってもクリアーできない時は軸受けの分解を覚悟しなければならないと思います。今回位置を調整した時は1704rpmだったがネジの締め込み後は1697rpm 5.29secでやはりあまり芳しくない。これで実働させてみて問題あれば軸受けの分解にかかります。