WE 1936 Series No,6には555とTA4171という励磁(フィールド)スピーカーが装着された。スピーカーが開発されて1世紀近く経ちその間にイオンツィーターやガスを用いたりした例外もあったらしいが基本的な原理はフレミングの左手の法則から変わっていない。スピーカーはこの原理を利用してコーン紙や振動板を動かして出音させるわけだが磁力発生に永久磁石か電磁石を用いるかで2種類に大別される。現在のダイナミックスピーカーはほぼ100%永久磁石を用いているが当時は電磁石が普通だった。各々利点、欠点があるが特に言われるのは永久磁石の経年劣化による減磁で過酷な条件下では進行する場合もあるらしい。電磁石の欠点は別電源が必要なことだがスピーカーユニットに組み込まれたものと別電源から供給するものがあった。ウーハーはバッフルに取り付けられて地上に置かれていた関係で励磁電源を組み込んで重量が増えてもそう問題はなかったがホーンドライバーは高所に持ち上げられたりする関係ですべて別電源から供給された(例外としてJensenのホーンツイーターで電源内蔵のものがあったが)。
電源装置の整流回路は供給する電圧で方式が異なる。高電圧の場合は整流管が使われたがTA4151やJensen M-10などは電源トランス+整流管+小容量(16μF)コンデンサーという簡素なものでこれでは十分な平滑はできなかったはずでボイスコイルが60Hz(120Hzか?)で振動しハムが残る。対策としてスピーカーに入力された音声信号はフィールドコイル近くに設置されたハムバッキングコイルを経由してからボイスコイルに繋がっていた。原理はよくわからないが信号を逆相のノイズで変調して残留ハムを相殺したものと考えられる。555や597,594など7V〜24V低電圧大電流の場合はタンガーバルブ(General Electric社の商品名)というアルゴンガス入り整流管が使われた。セレンは積層すれば低圧から高圧まで対応できトランスレスでスピーカーに組み込まれたものもあった。中電圧ではトランスレス整流管使用のフィールド電源もあり移動映画のスピーカーなどで見る事がある。
話題になるのがこの電源方式の違いによる出音の違いでこれはパーマネントスピーカーでは味わう事ができないマニアックな領域で整流方法、平滑方法によって結構違いが生じるとされる。現在主流の半導体整流でもシリコンダイオード、ファストリカバリーダイオード、ショットキーバリアダイオードなど半導体の種類によっても異なりセンタータップ、ブリッジ、半波整流など半導体の使い方によっても音が変わる。そして当時の機器を揃えたマニアはなるべく現代の素子は使わずに古(いにしえ)の整流方式を取り入れたいと考える。だから間違ってもスイッチング電源なんか使わない。。かもしれない。
⑴ TA4171の励磁電源
TA4171は写真も見た事がないスピーカーだが資料によると
フィールドコイル端子電圧 10VDC
パワーサプライ 2A/22W
フィールドコイルDCR 4.45Ω
となっている。TA4151とほぼ同規模で特徴的なのはハム・バッキングコイルを持たないという事だが同じ励磁電源を持たないTA4153はどうだったのだろうか?TA4151とTA4153の資料図(前出)を見るとボイスコイル近辺の接続で同じように経由の端子があるのでハムバッキングコイルを経由しているらしく励磁電源の有無以外は全く同一だったようだ。TA4171の励磁電圧は10VでフィールドコイルDCRは4.45Ωと低く逆起電力が発生しにくい上にタンガーバルブによる外部電源で十分リップル分を減らせる事ができたのではないかと思う。
今回TA4171の代わりに採用したCapehart SpeakerのDCRを測定すると300Ω、励磁電力が22Wとすると電圧は82V 電流は268mAとなる。DC82Vを得るにはトランス出力を半導体整流、AC100Vをヒータ電圧100Vの整流管で直接整流し平滑など色々考えられる。前述のように今回はセレンとシリコンダイオードを用いた出力可変の定電圧電源を用いた。この電源の原理はさっぱりわからないが出てくる波形をオシロスコープで見るとかなり乱れていて最初は実用にはならないかもしれないと思ったほど。外付けの平滑回路を設けることにして何とか使っている。
Western Electric製の定電圧電源だが製造は外部のメーカー。回路図が添付してあるが原理は不明。R-3で出力電圧が可変。
電源の出力に増設した平滑装置。大容量コンデンサーで受けてチョークコイルで出力するという不思議なコンデンサー入力回路でこれはフィールドコイルの近くにはコンデンサーは置きたくないという思い込みから。出力電圧が82Vになるように本体で電圧調整した。その後この平滑装置にはもう一本コンデンサーを立てて通常のπ平滑回路となった。その出力にチョークコイルを2個増設した。
このチョークは1個あたり8H 300mAというもので各々独立している。DCRは56Ωで1個あたり15Vの電圧降下がある。フィールドコイルのプラスとマイナス各々にチョークコイルを繋ぐかプラスの方に2個直列にして16Hにするかヒアリングで決めましょう。マイナス側にもチョークをつなぐ手法は愛好家の間では割と一般的な方法。
ところでこのシャーシだが適当なものがなかったのでホームセンターで売ってるアルミ板とサッシで製作した。高さが低いのが好みなのだが今回は低すぎて底板を諦めた。薄いアルミ材にタップを立てるのは難しく今回はナットを用いた。
結構しっかりしていて安いのが利点。もう少し高さがある材を利用して同じ方法でアンプを作ったこともある。高さが低いアンプが格好良いと思っているが市販のシャーシには見当たらない。浅野勇先生の著書を読むと当時の鈴蘭堂に格好良いシャーシを特注されていた。その鈴蘭堂も無くなってしまって久しいが一部の製品を引き継いでくれたメーカーがあったのはありがたいことでした。
π型平滑装置からフィールドコイルを繋いで82Vに調整した際の波形
リップル分はほぼ10mV以下に収まっていてこれくらいだとハムの原因にはならない。ところがフィールドコイルプラスマイナス各々にチョークコイルを接続して波形を見ると
、、、こうなる。これは当たり前?なのか??チョークが近接しているのが原因かと思い極性を変えてみたり直列にしてみたりしたが少しの変化に留まりチョークなしの方がよっぽどマシ。。真っ平らな波形を期待していたのでこれはガッカリした。ところがこの接続のままでπ型平滑装置の出力波形を見るとリップル分は少なくこの波形はリップル分ではないらしい。ネットワークを外しアンプ出力を直接スピーカーに入力して再生してみると大音量の時にはスピーカーのフィールド端子の波形は音量に影響を受けて乱れる事がわかった。この乱れがチョークコイルを入れる事で軽減するかは元々の波形が乱れていてよくわからない。平滑回路出力での測定はチョークコイルを入れた方が逆起電力による乱れは少ないことは確認できた。もう少し測定方法を工夫すれば逆起電力の様子を伺う事ができるような気がするが今後の課題とします。改めてコンデンサーとコイルについての知識不足を痛感する。
TA4171の代用Capehart Speakerの励磁電源はしばらくはこのラインアップになりました。
⑵ WE555の励磁電源
555は7V 1.5Aの電源が必要で規格だけ見るとACアダプターでも行けそうに思える。電源による出音の違いの説明は色々と言われるが素人なりに考察するとボイスコイルの電流により磁力が影響を受けて一定の磁場が保ちにくくなるためではないかと思っている。強固で強靭な(意味不明だ)磁界をどうやって得たらいいのか。バッテリー、発電機まで持ち出す人もいるが諸先輩のレポートを拝見するとタンガーバルブ整流となるべく多段のチョークを用いるというのが良いとある。チョークにはDCRがあるので高めの整流後の電圧を多段のチョークコイルとコンデンサーで(これもやっかいらしい)7Vまで下げる。なぜ多くのチョークコイルを投入するといいのかは良くわからないのだが回路の抵抗値を高めるためという解説があった。その方が逆起電力に影響を受けづらい磁界を発生できるらしい。
WE555を入手した時に張り切って作った電源
ショットキーバリアダイオードの半波整流電源だがダイオードは受注生産の30Aという大きなものを使っている。半波整流は当時のトレンドで何の比較実験もしておらず完全な受け売り。
その後使っていたタンガーバルブ電源
Western Electricの電源と思われるキャビネットだが実は中身は自作品。もともとRCAのラックマウントのワンボード電源だったのだがあまりに使いづらいので部品を取り外して移植したもので基本的な回路は変わっていない。使われているタンガーバルブは
General Electricの20X672もしくは同等品で30V 5Aまで取り出せる。フィラメントの規格は2.0V x 20.00A というもの。タングステンフィラメントは煌々と輝く。
こんなのが必要だったのだから昔は大変だった。回路図を残していなかったがブリーダー抵抗と電流調整の可変抵抗を内蔵しているが調整範囲を超えていて外部で調節しなくてはならない(以前はどうやっていたか忘れている)。適当な抵抗を仮接続して聴いてみた。
、、、一聴うるさくなった。。ウーハーとのバランスが変わってしまい555をもっとアッテネートしないといけなくなってしまった。やっぱり電源は一番最初に整えないとその後の調整は無駄になる。電源の容量は余裕があるので電圧降下の為にチョークコイルを555近くに入れようと思うがDCRが数オームで1.5A以上のものが必要。ショットキーバリア電源に入っているが気軽に使えてまだ未練があるのでなるべく外したくありません。
これは元々の用途不明のコントロールボックスです。FS5Aのアンメータとレオスタットが付いていたがレオスタットを10Ω25Wの小型のものに取り替えて今回入手した60mH 2A DCR1.6Ωのチョークコイルを内蔵した。タンガーバルブ電源の出力をコントロールボックス経由で555に繋ぎ電流を1.5Aに調整します。タンガーバルブ電源内にも2個収まっているので合計3個のチョークコイルになる。
555の信号線に直列に18Ω、並列に47Ωを入れてバランスがとれてきました。しばらくこの状態で聴いてみます。動作が確認できるのはやっぱりよろしい。
しばらくすると555がまた不調になりました。DCRを測ると70Ω台になって症状が再発した。また交換したが故障の555はやはり根本的な解決が避けられそうにない。
聴き続けているとだんだん訳がわからなくなるので時々フルレンジと比べてみる。。WE755Aは4Ωなので2台直列に。やっはりホーンスピーカーの能率は高くアッテネーターで5dBの差がある。