Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

EMT V54/s について

2024-03-27 01:16:20 | EMT

 EMTは業務用レコード再生装置で名高いが録音現場で使用する機材も数多く開発製造していた。EMT140はエコーマシンで巨大な鉄板をスピーカーのコーン紙のようにドライブし発生した振動をピックアップすることでリバーブを作り出していた。残響時間は0.8sec〜5.5seで自然なリバーブ効果が得られるため多くの録音スタジオで採用された。現在では省スペースのデジタルリバーブ機に置き換わったが一部ではまだ需要があり使われているとのこと。

 

 EMT V54はEMT140に内蔵されていた鉄板ドライブ、ピックアップアンプ部でV54(モノラル機)とV54/s(ステレオ機)がある。V54/sは鉄板のドライブ部はモノラルだがピックアップ部がステレオになっている。デジタルに移行したため廃棄されたEMT140が出回ったのかその際に取り出されたV54 V54/sを頻繁に目にした時期があったように思う。いずれもジャンク扱いで比較的廉価だったこともありV54/sを1台入手していた。NEUMANN WV2のような外観はなかなか魅力的ではあったが資料も少なく狭いスペースに密集している構造はプリアンプに仕立てるにしてもなかなかハードルが高いと感じていた。以来数十年が経過している。

EMT V54とV54/sの回路図

 いずれも電源内蔵、プリアンプに改造する場合にはE81Lのドライブアンプ部は必要ないがこの部の入出力トランスはとても魅力的でいずれ活用できればと思います。EF804Sによる2段のアンプ部はイコライザー段になっているのでNFのCRの値を検討してPhono EQに仕立てたい。

NEUMANN WV2の回路図

 とても有名なプリアンプだがいまだ見たことはない。EQ段のバイアスに電池が使われているなど個性的だが全体の構成はEMT V54/sに似ている部分も多い。

   

EMT V54/s

 

 向かって右半分は電源と鉄板エコードライブアンプ部、左半分がステレオピックアップアンプ部でかなり密集していてEMT139stを彷彿させる。Play-back Levelのボリュームは半固定だがぜひパネルに穴を開けて露出させたいところ。

 ジャンクということで入手したものだったがしばらく観察するとすでにPhono プリアンプとして改造されていることがわかった。改造点は入力端子(RCA)の新設、出力はリード線+RCA端子、AC電源コード(電圧は未測定)、Phono EQ素子の交換、デカップリングコンデンサー(4本)交換など。これは驚愕(少々盛)で処理、使われているパーツなどから自分が行った改造か、、と思ったほど手法が似ていた(いまだに疑わしく思っている。記憶喪失発症中)。

 しばらく鑑賞していたが意を決してドライブアンプ部を取り外すことにした。ここを外せば結線の様子が見え易いはず。

  

ロータリースイッチも非常に凝っている。この魅力的なパーツも活かしたいが残念ながら出番は無さそう。入出力トランスと基板を外して配線を確認したがやはりそのままでは寂しい中身になるので見た目だけのためにトランス以外を戻した。

 内部を確認して分かったことが数項目あった。まずドライブアンプへの給電はカットされていた。前オーナーは美観を考慮して撤去しなかったのかもしれない。ヒーターはイコライザー前段には左右別々にハムバランサー付きなのだがヒーター線は全てシールド線を用いていた。前段を含めてヒーターは整流されておらず信号線と長々と並行に引かれていてシールド線だけでハム対策は大丈夫なのだろうかと少し心配になる。電源電圧は115Vで規定のヒーター電圧になるがその時のB電圧が337Vで定格より87V高い。ドライブアンプを外したためと思われるがこれは何とかしないとコンデンサーの定格を超えるおそれもある。セレン出力に後付けと思われるセメント抵抗が載った基板があり配線は外されていたがそのためのものだったかもしれない。

 固定が+ネジなので後で加工されている。電解コンデンサーがアースと繋がっていたのでセレン出力を2kΩのセメント抵抗に、抵抗出力の電解コンデンサーから本体の平滑コンデンサーに接続するとB電圧は100V台に落ちてしまった。これは電解コンデンサーの漏洩が激しくて発熱もあり発火するレベル。とりあえずコンデンサーだけ外して再度測定すると280Vで16mA、試しに抵抗前に10μF 450Vの電解コンデンサーを入れると300Vを超える。最初はこの美しいコンデンサーをくり抜いて最近のパーツを埋め込もうと思っていたがやめてコンデンサーは美観のために接続しないでこのままにしておきます。これで配線、線材は美しいメタリックブルーの被覆の単線をやりくりして。

 

 配線材がシャーシと接するところがありスペーサーで嵩上げしてシャーシから離す。ネジはヘッドがマイナスで適合するものを探して取り付けた。

 これでプレーヤー(MMカートリッジ)とメインアンプ(両方ともモノラル)を片chづつ繋いで動作させてみる。

 出力端子の左右の勘違いがあったが音出しは確認した。ただEQカーブは検証する必要があるようだ。一応動作することがわかったので半固定のPlay-back Levelのボリュームをパネルに穴を開けて外に引き出します。軸が短いのでボリュームを交換するのが手っ取り早いしそういった記事も見たがせっかく綺麗なボリュームなのでできればこのまま生かしたい。ちなみに100kΩのA&B,OHMITEなどの古いボリュームはびっくりするほど高騰している。これはエレクトリックギターの改造がブームで需要がある関係かと思う。半固定ボリュームの軸は10mm程度しかないのでアダプターを作って延長することにした。位置を確認してパネルに穴を開けて

 

不要のつまみを破壊して軸に固定する金属部分を取り出して加工し新たな軸と接着しボリュームとツマミ部分は各々のネジで固定する。ツマミと文字盤も随分迷った。当時の製品が一番しっくりするがなかなか入手困難。コリンズの無線機などに使われている現在入手できる製品(写真、1個だけあった)も捨て難いがとにかく高額で送料も高い。今回は適当なものを取り付けて出物があれば取り替えるようにします。

、、と書いていたら思い出しました。随分前にEMTのジャンクを入手していた。

  

 EMT543は検索してもヒットしないが可変式のコンデンサーブリッジらしい。このノブを使うことにして軸を変えてアダプターも作り直した。ノブはずっしりと重くて金属部分の厚みも尋常でないほどで堅牢を絵に描いたようなパーツだがこれだけ重ければ回した時の感覚もかなり重厚になる。ドイツの規格は日本と似ていてボリューム軸の径やネジのピッチなども共通。文字盤は汎用品を加工して

入力のセレクターは新たにロータリースイッチを購入して既存のものと取り替えた(中央)。ロータリースイッチ軸は米国規格で適合しないので加工して、ツマミは迷ったがいままでのものを少し突出させて使うことにした。

 外部入力も1〜2系統は欲しい。入出力は裏面のコネクターを利用するのが手っ取り早いがどうするか。。

 

 ホームセンターでMDF買ってきてケースを組み立てた。指定の寸法から3mm(!)ずれてカットされている所があったのだが気づいたのがすでに組み立てた後だったので修正に非常に苦労した。チェックに手を抜くとこうなる。そしてツキ板が足りない、、また注文して

   

 今回もワトコオイル。下はEMT133で奥行きが1.5倍あるが追いオイルした。フェルトの足つけて外装は完成したがもう少しツヤが欲しい。ホームセンターで物色すると液体以外でもクリーム状のwaxがある。

 このシリーズはクリアを含めて何色かあるらしい。店頭にあったチークを購入して説明書通り歯ブラシで塗って1時間後に拭き取って24時間後に再度拭き取った。ニス塗りには使えないがワトコオイルとの相性は問題なさそう。最初からステイン着色すると濃くなりすぎることが多かったのでクリア後にこういったもので再度コーティング、艶出しもありかと思う。

 

 音出しはしたが回路のチェックはしていなかった。パーツが揃うまでの間に少し測定してみると左右の出力差が大きい。調べてみるとEQ段は問題ないがラインアンプの前段で左右のゲイン差が結構ある。2段の基板はメンテナンスが非常に行いづらい。太いアース線で基板を支えていて堅牢ではあるがとても扱いずらい。特に下段はテスターすら当てることが困難でハンダ付けしてある太いアース線をはずして上段を持ち上げたり下段を前にできるだけ引き出したりしてなんとか測定してみる。ゲイン差の原因はカソードのパスコンの容量抜けと思われた。カソードパスコンは6ヶ所、スクリーングリッドには4ヶ所のコンデンサーがある。ここの電解コンデンサーは悪名高いROE。カップリングのペーパーコンは問題なさそう。

 上段の基板のROE電解コンデンサーを5個測定すると低い耐圧(15V)のカソードパスコンはほぼ全滅(著しく容量が抜けている、また1個は5倍の容量に膨れ上がっている)ESR、Vlossという項目は何を意味しているかよく分からないが良品と比べても著しく高い値なので多分アウトなのだろう。他の電気製品の故障(不動、発煙、発火など)の原因がROEの低耐圧の電解コンデンサーだったことが頻発している。多分致命的な欠陥品なのではないかと思う。

 ぼちぼち部品が届いたので少しずつ進めよう。。入出力端子はサブシャーシを使って取り付ける事にします。Phono入力は電源トランスから一番離れた現在の位置が最良なので動かさず、ライン入力は3系統でそのうち1系統はモノラルの平衡とします。まず撤去した出力トランスのかわりに上下に分かれるサブシャーシ(ケース)の下部をトランスを固定していたネジで取り付ける。

 

 ケースの上部に2組のRCAジャック入力端子とCanonコネクターの出力端子、その隣のE81L出力管の穴を広げてキャノンコネクターのモノラル入力端子を取り付けた。出力のキャノンコネクターはトランス出力が平衡だからで、受けがRCAの場合は変換プラグを用います。入力のキャノンコネクターがモノなのは1個しかないドライブアンプの入力トランスを流用したためで入力切り替えスイッチ部で左右に振り分ける。EMT133もしくはEMT139イコライザー専用になりそう。

 交換用のカソードパスコン Nichicon 47μF 20V(タンタルコンデンサー)が届いてREOと交換した。(別にヨーロッパに適当なものを見繕って注文していたのだが届くのがいつになるかわからずこちらを取り付けた)。はずしたコンデンサー6本

 

 改めてチェックするとやはり6本とも不良だった。基板へのアクセスは面倒なのでこの機会にEQ出力とLine amp入力の結線は行っておいた。いずれもPlay back Level ボリューム周辺からの引き出したがスペースが狭いので細いシールド線でないと収まらない。

  

 この状態でもう一度特性を測定するとEQ段、Flat amp段共に左右の偏差は無くなりました。EQの周波数特性は後で検討するとして入出力の配線をしておきます。入力を1内蔵phonoEQ  2AUX  3AUX  4monoトランス受け と変更したのでロータリースイッチは2回路以上4接点に変更して配線した。モノラル平衡入力は入力トランスに入り、出力を50kΩのボリュームで受けてからモノラル接続のロータリースイッチに繋がる。ボリュームまでの流れはもともとのドライブアンプ部と一緒。しかしこれがうまくいかない。

   

 入力トランスの1次側、2次側のDCRはほぼ10倍の差がある。気になるのはインダクタンスがあまり変わらないと言うこと。とにかくどう接続しても波形が綺麗に出ない。2次側に負荷抵抗を繋いでも変わらずでうまく廃品が活用できたと喜んだのだがなぜだろう?(お詳しい方がおられましたら是非アドバイスください)またEQ段の波形が二重になるトラブルも発生しアタフタする。これは真空管を交換して治まった。なんとか選別して使う事にします。

 今度は浅野PX4s+WE755Aとステレオで接続してCDとLPレコードを聴いてみると

  

 AUX入力はゲインも適度でとても良好。phono入力はやはりRIAAが合っていない様子。そして右ch(上の基板)にハムが乗る。原因は117V昇圧トランスだったのだがそれだけではないかもしれない。もうすこしS/Nの改善が必要かもしれない。RIAAカーブを検討しよう。試聴のLPはバースタインの惑星。高校時代に大流行した。

 HPのミリバル3400Aの調子が悪い。久々に動かしたらメーターの動きがギクシャクしている。通常ならメーター交換か廃棄だろうがなんとか修復したい。しばらく入力を調節して針を振っていたら振り切り近く以外は若干スムーズになった。このミリバル(バルボル)3400Aは真空管時代からFETまで続く歴史があって歴代製品の収集、愛好家もおられるらしい。ミリバル界のスタンダードなのだと思う。 

     

 針の動きがギクシャクするのは文字盤の鏡の周囲の保護ビニール(?)があちこちがめくれて針の動きを妨害していた(!)ためだった。綿棒で拭き取って完了、ムーブメントを触らずに済んでよかった。でもいずれ校正は必要。

 これでEQ特性をみると700Hz、3kHzあたりからいずれも上昇している。低域は上昇はしているがデータはかなり異なっていてまた高域まで上昇とはまったくRIAAカーブではない。一ヶ所コンデンサーが交換されていたが全面的な変更が必要。RIAAカーブを得るにはどうしたらいいのだろう?参考にしようと真空管イコライザーをwebで検索するとCR型もしくはLCR型が多い。

 EMT54/s、EMT139st、EMT133、EMT139 のEQ部

  

 回路図と計算式を参考にCRを変更してデータを採るがなかなかカーブと一致しない。ここはもう少し学習してから再度チャレンジする事にします。基板のCRの位置は交換に配慮した位置に設定されている。

  

  これでLPを聴いてみると昇圧トランスのノイズを拾いやすい、やはりRIAAの偏差を少し感じる、ゲインが若干低め などが気になったが一応区切りにしようと思います。

 約1ヶ月の取り組みだったがずっと気になっていたジャンク(お宝?)が何とか形になってホッとした。平衡トランスは未装着などブラッシュアップはまだ必要だがしばらくこの状態で聴いてみましょう。

 

 

 お読みいただきありがとうございました。

 

 


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