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9条安全保障論(連載第10回)

2016-08-12 | 〆9条安全保障論

Ⅳ 過渡的安保体制

四 過渡的自衛力論③

 前回は「軍隊ではない(あってはならない)」自衛隊の形式的な組織要件について見たが、ここではそのような自衛隊のより実質的な編制要件について見る。
 現行自衛隊は、周知のとおり、陸上・海上・航空の三隊によって構成されている。これは陸海空三軍構成を通例とする現代軍隊の編制にならったものであり、それゆえに自衛隊が9条で保有を禁止されるはずの陸海空軍のアナロジーとして合憲性を疑われるゆえんでもある。
 これに対して、政府は9条で禁止される「戦力」とは「近代戦争遂行に役立つ程度の装備、編成を具えるもの」をいい、「陸海空軍」とはそうした「戦争目的のために装備編成された組織体」を指し、「その他の戦力」というのも、「本来は戦争目的を有せずとも実質的にこれに役立ち得る実力を備えたものをいう」として、自衛隊はかかる意味での「戦力」に該当せず、9条に反しないと解釈してきた。
 こうした政府解釈は「戦力」に関する一般論で片を付け、自衛隊が9条の枠内で備えるべき編制の実質内容については回避している点で、まさしく法的な形式論に終始している。

 そこで、改めて9条の現在時間軸に基づく過渡的防衛体制という観点から自衛隊の編成について考えてみるに、それは陸海空軍の単純なアナロジーであってはならないはずである。
 政府が自衛力論のキーワードとする「必要最小限」を重視するなら、四囲を海洋で囲まれ、大陸部と接続していない日本の現有領土の地理的な特質にかんがみ、自衛隊は海洋防衛を主たる任務とするものに限定されなければならない。すなわち、自衛隊≒海上自衛隊ということになる。
 現行三自衛隊にあっては、海上自衛隊約4万5千人、航空自衛隊約4万7千人に対し、陸上自衛隊約15万人(いずれも2015年3月現在の定員概数)と圧倒的に陸上自衛隊中心の編成となっているが、これは陸軍主体の旧日本軍の編成を継承したものにほかならない。
 陸軍はその名のとおり陸上戦力であり、大陸国家においては防衛上の中心的存在となるが、元来島嶼国家の日本にはふさわしくない戦力である。しかるに、戦前の旧日本軍では陸軍兵力が終戦時約550万人にまで膨張していたのは、まさに大陸侵略という帝国主義的膨張政策の結果であった。
 これに対し、9条の現在時間軸に基づく過渡的防衛体制下の自衛隊は海上防衛を主軸とするので、陸上防衛力はあえて必要ないと言ってよいのである。日本の防衛上、敵軍に上陸を許したうえ、陸上で撃退するという作戦は、現在のように都市化が進んだ時代には多大の犠牲者を出す危険な市街戦となりかねない。
 よって、日本の防衛上は敵軍の上陸阻止という水際作戦が最も重要であり、そのための海上防衛力の配備を必要とし、かつそれで足りる。ただし、一定規模の陸上部隊の存在が許されないわけではないが、それは陸上自衛隊として別立てにするほどのことはなく、万一敵軍の上陸を阻止できなかった場合における遊撃・破壊工作を主任務とする陸上特殊部隊として編成すれば必要にして十分である。

 とはいえ、現代の戦争においては空軍の比重が大きい。つとに第二次世界大戦でも米空軍(当時は陸軍航空総軍)の激しい空爆によって主要都市と社会基盤を徹底的に破壊されたことが日本の敗因となったところでもある。空爆はそれにさらされる一般市民に逃げ場をなくし、大量犠牲を出す最も反人道的な攻撃手法であり、それを専門とする空軍という軍種自体が、現代戦の反人道性を象徴している。
 しかし、そうした航空攻撃が現代戦の中心となっている現状にかんがみれば、防衛上も防空体制の保持が必須となる。そこで航空自衛隊については海上自衛隊とは別立てで保持するという編成もあり得るが、航空自衛隊を空軍のアナロジーとするなら、やはり9条を逸脱するだろう。
 その点、旧ソ連軍が保持していた防空軍が参照される。ソ連防空軍は空軍とは別立ての防空任務に限局された専守防衛組織として機能していた。航空自衛隊の役割も本来は防空軍に近いものであったはずだが、近年は戦闘機のマルチロール化に伴い、より攻撃的な空軍に近づいている。防空任務限定の航空自衛隊であれば、戦闘機は最小限でよく、警戒機や高射砲、防空ミサイル等を中心とした防御的な装備が中心となる。

 こうして、9条の現在時間軸に基づく過渡的防衛体制下の自衛隊は陸上を除いた海上及び航空自衛隊の二部門に集約されるが、海・空を完全な別立てとするなら、陸軍を排除した海軍と空軍のアナロジーとなりかねないので、海・空二部門は別立てではなく、統合されなければならない。
 この点、現代米軍が形式上は陸海空軍に海兵隊、沿岸警備隊を加えた五軍種構成を維持しながらも、運用上は統合されていることが参照される。この統合はあくまでも全世界に展開する米軍の作戦遂行上の効率を考慮した運用上の統合にすぎないが、自衛隊の場合は軍隊組織との相違を考慮した憲法的な制約としての組織上の統合化が要求されるのである。
 要するに、自衛隊は自衛隊として単一の防衛組織―統合自衛隊―であって、担任地域ごとに海上自衛隊と航空自衛隊が統合された地方隊と全国的な機動運用部隊の二本柱で編成されることになる。当然、現行のように各自衛隊ごとに旧日本軍の参謀本部(または軍令部)のアナロジーである幕僚監部が設置され、それぞれに幕僚長が任命されることにはならず、自衛隊の司令監部は単一であり、全体を唯一の司令総監が指揮する体制となる。


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