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9条安全保障論(連載第9回)

2016-08-11 | 〆9条安全保障論

Ⅳ 過渡的安保体制

三 過渡的自衛力論②

 前回、過渡的自衛力論の概略を述べたが、今回からはその具体論を展開する。その際、次の二つの問いを順次解明していくことになる。

  問1:合憲的な自衛のための武力行使とは?
  問2:合憲的な自衛のための武装組織とは?

 9条の規定に沿って論理的に展開するなら、問1から問2へ進むのが適切であろうが、ここでは、再軍備を狙う改憲論の目玉に関わる問2からあえて入ることにする。

 ここで単純な「自衛力」ではなく、「過渡的」という形容詞を付加しているのは、自衛力の保持を恒久化するのではなく、あくまでも未来的非武装世界が到来するまでの期間限定での自衛力の保持であることを自覚するためであった。これに対して、自衛力の保持を合憲とする政府見解は、「必要最小限」という容量の問題に焦点を当てるばかりで、時限性の問題を等閑視してきた点において、視野が狭いものである。

 過渡性という時限性を重視するならば、自衛力の行使は時限的な義勇軍組織をもってするのが最も首尾一貫するであろうが、現代にあってはそうした義勇軍の組織化は技術的に困難となってきているため、現実的な選択肢ではない。そこで、志願制という限りではボランティア性を維持しながらも、公式の常備武力を組織することになる。
 この点で、戦後日本の常備武力として機能してきた自衛隊は、本来は戦力不保持を宣言する9条と戦後の地政学的事情との苦しい妥協の産物ではあるが、過渡的自衛力を担う組織としては、むしろ適切な選択肢と言えるのである。

 ただし、そのためには自衛隊がまさしく「自衛隊」ではなくてはならない。すなわち、自衛隊とは、自国防衛を任務とする武装組織であって、軍隊でないものでなくてはならない。軍隊の保持は9条2項で明確に禁止されているのであるから、これは当然のことである。
 しかし、「軍隊でない」ということが具体的にどういうことを意味するのか、より突っ込んだ考察を要する。「軍隊でない」とは、その組織が軍隊式に構築されてはならないということである。具体的には、要員の養成や階級が軍隊式であってはならず、また法体系的にも一般法を排除する軍法を持ってはならない。
 この点、現行自衛隊も当初はそのような非軍隊性という性格がかなり意識されていたのだが、時を経るにつれ、自衛隊の軍隊化が進行し始めている。それでも、階級呼称には旧日本軍とは異なるものが用いられ、法体系的にも軍法や軍法を執行する軍事法廷(軍法会議)は存在せず、非軍隊性はかなりの程度残されていると言える。

 一方、幹部要員の養成に関して、自衛隊は一般大学出身者の任用も行なってはいるが、幹部自衛官養成に特化した防衛大学校の創設とその定着により、必然的に幕僚長をはじめとする主要な幹部自衛官は防衛大学校出身者で占められるようになっている。それにより、自衛官の「軍人」化が進行している。
 およそ人間の組織では人が主要素となるという点では、自衛官の「軍人」化が進む現状は、まさしく再軍備を規定する改憲に向けての重要な布石となっている。しかし、9条安保論はこれとは逆の流れを促進する。つまり、自衛官の「半文民」化である。「半文民」とは、武官でありながら、文官的な素養と性格を併せ持つ官吏のことをいう。
 この点で、防衛大学校という幹部自衛官養成機関の位置づけには問題がある。現在の防衛大学校は省庁大学校でありながら大学(及び大学院)相当の教育機関と位置づけられているため、エリート軍人を養成していた旧陸軍士官学校及び海軍兵学校の後身に近い性格を帯びている。

 自衛官の「半文民」化を進めるには、幹部自衛官はすべて一般大学出身者(民間からの転職者を含む)とし、防衛大学校は上級幹部研修機関に特化する必要がある。それに加え、現場自衛官についても、専従自衛官を削減して、民間人の兼職による予備自衛官化を進め、ボランティア性を強化することである。
 また階級呼称についても、現行自衛隊のそれは旧日本軍とは異なるとはいえ、名称だけ変更して実質は旧称に対応している面が強いが、このことも軍隊化傾向を助長してきた。自衛隊の純粋「自衛隊」化のためには、階級呼称の廃止及び職掌による職名(隊長、司令官等々)への一本化も必要である。


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