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9条安全保障論(連載第11回)

2016-08-13 | 〆9条安全保障論

Ⅳ 過渡的安保体制

五 過渡的自衛力論④

 今回は、前回概要を記した統合自衛隊の指揮系統についてである。前々回で触れたように、自衛隊が「半文民」組織化されたとしても、武装組織である事実に変わりはなく、その独断暴走や政治化を防ぐためには、民主的統制下に置かれるべきことは当然であり、その最高指揮権は現行憲法上行政の長たる内閣総理大臣が掌握する。

 ここまでは現行自衛隊と同様であるが、自衛権の発動や災害出動を含めた自衛隊の活動に関する実質的な意思決定機関として「自衛隊統制会議」が置かれるべきである。この機関は、既設の国家安全保障会議のような単なる安保対応の諮問機関ではなく、自衛隊の活動そのものに関する決定機関にしてかつ統制機関である。
 その議長は内閣総理大臣であり、副議長を防衛大臣が務める。その他の構成員として、内閣官房長官、外務大臣、法務大臣、財務大臣、国土交通大臣、国家公安委員長に内閣法制局長官、衆参両院の各防衛問題担当委員会の委員長を加えた計11人から成る会議体である。国会の常任委員長が参加するのは、内閣のみならず、国会による統制も利かせるためである。自衛隊統制会議の議決は正副議長と国会の両常任委員長を含む多数決により、その議決事項は閣議決定により最終的な効力を有する。

 自衛隊統制会議の議決及び閣議決定に基づき、防衛大臣を通じて自衛権が発動されるわけだが、9条適合的な自衛隊は統合的に組織される。その具体的な意味を少し立ち入って概説すれば、まずは全国を複数の管区に分けた統合地方隊がある。その地理的区分は時々の防衛事情に応じて変化し得るが、基本的には、現行海上自衛隊及び航空自衛隊の地方部隊の地理的区分を参考にしながら、新たな統合区分を設けることになるだろう。
 その点、現行の部門別自衛隊では、海上自衛隊は北から順に、大湊、横須賀、舞鶴、呉、佐世保の五地方隊、航空自衛隊は北から順に、北部、中部、西部、南西の四方面隊に区分され、両者の区分に齟齬がある。統合自衛隊では主軸となる海上自衛隊の区分を基準にしつつ、北海道と南西諸島はそれぞれ別個の地方隊が管轄する六乃至七個程度の地方隊で構成されることになると想定される。
 こうした地方隊以外とは別に、全国的な機動運用部隊として自衛艦隊がある。これは現行の海上自衛隊においても長い海岸線やシーレーン防衛の目的から設置されている機動運用部隊である。一方、防空に関しては、弾道ミサイル防衛の重要性が増している状況に対応するため、ミサイル防衛を含めた防空全般を統括する広域防空司令部を設置する。
 結局のところ、統合自衛隊の中枢となる司令監部は司令総監、副司令総監に、自衛艦隊司令官、広域防空司令官の計四人で構成される。これに必要に応じて、特殊部隊を指揮する特殊部隊群司令官や防衛省情報本部長のような情報部門の長が加わる。

 ところで、しばしば現行自衛隊において「文官統制」の要とされてきた防衛省内部部局(内局)であるが、9条安全保障論においては、「文官統制」よりも「憲法統制」が重要であり、そのためにも先の自衛隊統制会議における審議と議決が要となる。一方で「半文民」としての自衛官自体の文官的性格が増すからには、武官と文官の峻別は必要としない。
 従って、防衛省内局は政策的な観点から防衛大臣の立案を補佐する機構として存在していればよく、防衛省内局が自衛隊現場を統制するという無理な構制に固執する必要はない一方、内局ポストに制服自衛官を充てることも臆する必要はなくなるだろう。


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