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共産法の体系(連載第36回)

2020-05-15 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(2)市民司法
 市民司法は、市民法をめぐる紛争の解決を目的とする司法の分野を指す。市民法は市民権法及び財産権法とから構成される。このうち後者の財産権法部分は資本主義社会における民法に相当する内容を含み、私人間の権利義務に関わる紛争において解決の法的基準となる。
 しかし、たびたび述べてきたように、貨幣経済が存在しない共産主義社会では金銭をめぐる紛争はそもそも発生しないので、紛争の多くは私人間の交渉をもって解決され得るであろう。
 しかし交渉によって解決できない紛争は、司法によって公的に解決される必要を生じる。そうした市民法紛争を公的に解決する司法手続として、衡平委員による調停が用意される。
 これは現行裁判制度の和解に近いが、和解が勝敗を決する判決を回避する手段であるの対し、衡平委員の調停ではそもそも勝敗を決する判決によらず、すべての案件が調停によって解決される点に大きな違いがある。
 非金銭的な紛争がすべてを占める共産主義的市民法紛争では、勝敗を決する判決より調停のほうがよりふさわしいのである。
 衡平委員による調停手続は紛争当事者の一人または全員の申立によって開始され、当事者は証拠を示してそれぞれの主張を展開する。その限りでは、裁判に近い要素もある。
 衡平委員は当事者の主張とその根拠とされる証拠を検討したうえで、中立的な立場から適切な調停案を示し、全当事者がこれを受諾した段階で調停終了とする。一人でも受諾しない当事者が存在する間は調停は継続されるので、調停案が数次に及ぶ場合もあり得る。 
 衡平委員の調停には終局的な効力があり、確定した調停は調停結果を変更すべき新たな証拠が発見されない限り、覆されることはない。しかし、調停結果を変更すべき新たな証拠が発見された場合は、当事者の申立により、再調停が行なわれる。
 なお、衡平委員による調停手続に関する規定は市民権法の内に含まれ、民事訴訟法のような形で別途法律が立てられるわけではない。
 以上に対して、市民法の市民権法部分は公法的性格が強く、私人間で紛争化する可能性のない権利義務に関わるので、衡平委員の調停手続の対象外である。この領域で紛争が生じるとすれば、それは人権救済案件として後に見る護民司法の対象となる。

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