文官らしき人物が現れた。
こちらを確認するや、近付いて来た。
警備していた者達が何も問わずに道を開けた。
その人物が俺に軽く目礼し、王妃様の傍で足を止めて耳打ちした。
聞いた王妃様の表情が曇った。
思案の末、渋々頷き、俺を見た。
「それでは少年、私は仕事に戻る。
娘を押し付けるようだけど、相手をしてやってね」
王妃様が立ち上がり、踵を返した。
文官らしき人物を供にし、颯爽と歩を進めた。
散開して警備していた女性騎士達が押し包むように隊列を組む。
波が引くように一団が遠ざかって行く。
残された俺とカトリーヌ明石少佐は立ち上がって、それを見送った。
その時点で俺は、ようやく自分の従者に気付いた。
スチュワートが背後で固まっていた。
「大丈夫か」
「ええ、なんとか」
普通、従者は控室で待機するもの。
王妃様との場に立ち会わされる事はない。
「ベティ様は何度か屋敷に来られた。
その時に会っているだろう」
「そうなんですが、今もって慣れません」
「そうか」
「そうです。
あの方はまるで女神様です。
慣れる方がおかしいのです」顔が赤い。
聞いていたカトリーヌが苦笑いした。
「はっはっは、その通りだ。
女性騎士の中にも陰で女神さまと言う者がいる。
今もって緊張するそうだ。
それと同じだな」
カトリーヌの案内に従い、後宮に隣接した庭園に入った。
幼い笑い声が聞こえて来た。
「キャッキャッキャ」
ベティ様だ。
そちらへ向かう。
女性の集団が見えた。
シンシア、ルース、モニカ、ボニーの成人女性が外側の警備。
侍女三人が内側。
見守られているのは四人と一人。
キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、そしてベティ様。
五人で花畑の一角を耕し、花の種を蒔いていた。
王女様がやる遊びか・・・、と疑問に思う。
俺の顔色を読んだのだろう。
カトリーヌが言う。
「今はこれに凝られておられる」
「土で汚れますけど」
「それも喜んでらっしゃるわ」
「洗濯が大変でしょう」
「知らない人はそう思うでしょうね。
ところがそうでもないの。
どういう訳か、イヴ様に土魔法が発現したの。
その土魔法で泥汚れを落されてるわ。
乾燥させてからパタパタ叩いね。
それは見事なものよ」
俺はイヴ様を鑑定した。
ここでも慎重に、魔力を足の裏から地中を通し、
誰にも気付かれぬように行った。
「名前、イヴ足利。
種別、人間。
年齢、四才。
性別、雌。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、なし。
ランク、F。
HP、25。
MP、45。
スキル、土魔法☆」
俺はカトリーヌに尋ねた。
「このような小さな子供でも魔法が発現するものですか」
「人によるわね。
でも心配は無用よ。
暴走せぬように側仕えの侍女達が見守っているから。
それに、鑑定できる者や治癒魔法が使える者が後宮にいるわ。
毎日、朝昼夕に鑑定と治癒。
それはもう大事にされているわ」
俺とカトリーヌの声が聞こえたのだろう。
「あっ、ニャ~ンだ」
イヴ様が叫ばれた。
目敏く見つけられると、勢いよく走って来られた。
小さな両手を前に出し、小走りで、転ぶ事無く、俺の前へ。
お約束・・・。
俺は腰を落として片膝ついた。
そこへイヴ様が躊躇いなく飛び込んで来られた。
俺は身体強化し、優しくキャッチ。
持ち上げながらイヴ様を宙で半回転させて肩車。
「ヒャッハッハ」足をバタバタさせて、悲鳴に近い笑い声。
イヴ様は肩車に満足されると、俺に言われた。
「ニャン、一緒に種蒔きしよう」
暫く見ぬ間に言葉も明瞭になっていた。
断る選択肢はない。
王女様の土魔法は是非とも見てみたい。
何やら小さな声で唱えられた。
聞いて驚いた。
「柔らかくな~れ、柔らかくな~れ」
なんだ、それ。
魔法の詠唱ではない。
呪文とも違う。
でも結果は出た。
小さく狭い範囲を耕され、畝が作られた。
俺は呆れながらも、鑑定と探知を連携させて状況を調べた。
畝にイヴ様の魔力の残滓を見つけた。
つまり、魔法が行使されていたと言う事になる。
イヴ様は畝を作り終えられるとキャロルから種を受け取り、
その半分を俺に手渡された。
「蒔くわよ」
一緒に蒔いた。
蒔いた種にイヴ様は土を被された。
「大きくな~れ、大きくな~れ」
イヴ様の魔力は土に効果があった。
小さな畑そのものが活性化した。
周りの土とは明らかに違っていた。
俺は警備中のシンシアを声をかけた。
「シンシア、水魔法で魔水を出せるかい」
「できるけど」
「このイヴ様の畑に魔水を撒いて欲しいんだ。
薄く広く、朝露のような霧状に」
「お安い御用だ」
シンシアが歩み寄って来て、イヴ様の畑を確認した。
「この一角で良いのね」
「ああ、お願い」
シンシアは片手を畑に翳し、無詠唱で水魔法を発動した。
たちどころに霧が出た。
俺は鑑定で詳細に畑を観察した。
イヴ様の畝と他の子供達の畝の違いが明確になった。
活性化した土が種に干渉を始めていた。
俺はこの力は秘匿しているので、説明は難しい。
そこでカトリーヌに声をかけた。
「畑の中の具合を見たい。
近くに鑑定のできる人はいないかな」
こちらを確認するや、近付いて来た。
警備していた者達が何も問わずに道を開けた。
その人物が俺に軽く目礼し、王妃様の傍で足を止めて耳打ちした。
聞いた王妃様の表情が曇った。
思案の末、渋々頷き、俺を見た。
「それでは少年、私は仕事に戻る。
娘を押し付けるようだけど、相手をしてやってね」
王妃様が立ち上がり、踵を返した。
文官らしき人物を供にし、颯爽と歩を進めた。
散開して警備していた女性騎士達が押し包むように隊列を組む。
波が引くように一団が遠ざかって行く。
残された俺とカトリーヌ明石少佐は立ち上がって、それを見送った。
その時点で俺は、ようやく自分の従者に気付いた。
スチュワートが背後で固まっていた。
「大丈夫か」
「ええ、なんとか」
普通、従者は控室で待機するもの。
王妃様との場に立ち会わされる事はない。
「ベティ様は何度か屋敷に来られた。
その時に会っているだろう」
「そうなんですが、今もって慣れません」
「そうか」
「そうです。
あの方はまるで女神様です。
慣れる方がおかしいのです」顔が赤い。
聞いていたカトリーヌが苦笑いした。
「はっはっは、その通りだ。
女性騎士の中にも陰で女神さまと言う者がいる。
今もって緊張するそうだ。
それと同じだな」
カトリーヌの案内に従い、後宮に隣接した庭園に入った。
幼い笑い声が聞こえて来た。
「キャッキャッキャ」
ベティ様だ。
そちらへ向かう。
女性の集団が見えた。
シンシア、ルース、モニカ、ボニーの成人女性が外側の警備。
侍女三人が内側。
見守られているのは四人と一人。
キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、そしてベティ様。
五人で花畑の一角を耕し、花の種を蒔いていた。
王女様がやる遊びか・・・、と疑問に思う。
俺の顔色を読んだのだろう。
カトリーヌが言う。
「今はこれに凝られておられる」
「土で汚れますけど」
「それも喜んでらっしゃるわ」
「洗濯が大変でしょう」
「知らない人はそう思うでしょうね。
ところがそうでもないの。
どういう訳か、イヴ様に土魔法が発現したの。
その土魔法で泥汚れを落されてるわ。
乾燥させてからパタパタ叩いね。
それは見事なものよ」
俺はイヴ様を鑑定した。
ここでも慎重に、魔力を足の裏から地中を通し、
誰にも気付かれぬように行った。
「名前、イヴ足利。
種別、人間。
年齢、四才。
性別、雌。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、なし。
ランク、F。
HP、25。
MP、45。
スキル、土魔法☆」
俺はカトリーヌに尋ねた。
「このような小さな子供でも魔法が発現するものですか」
「人によるわね。
でも心配は無用よ。
暴走せぬように側仕えの侍女達が見守っているから。
それに、鑑定できる者や治癒魔法が使える者が後宮にいるわ。
毎日、朝昼夕に鑑定と治癒。
それはもう大事にされているわ」
俺とカトリーヌの声が聞こえたのだろう。
「あっ、ニャ~ンだ」
イヴ様が叫ばれた。
目敏く見つけられると、勢いよく走って来られた。
小さな両手を前に出し、小走りで、転ぶ事無く、俺の前へ。
お約束・・・。
俺は腰を落として片膝ついた。
そこへイヴ様が躊躇いなく飛び込んで来られた。
俺は身体強化し、優しくキャッチ。
持ち上げながらイヴ様を宙で半回転させて肩車。
「ヒャッハッハ」足をバタバタさせて、悲鳴に近い笑い声。
イヴ様は肩車に満足されると、俺に言われた。
「ニャン、一緒に種蒔きしよう」
暫く見ぬ間に言葉も明瞭になっていた。
断る選択肢はない。
王女様の土魔法は是非とも見てみたい。
何やら小さな声で唱えられた。
聞いて驚いた。
「柔らかくな~れ、柔らかくな~れ」
なんだ、それ。
魔法の詠唱ではない。
呪文とも違う。
でも結果は出た。
小さく狭い範囲を耕され、畝が作られた。
俺は呆れながらも、鑑定と探知を連携させて状況を調べた。
畝にイヴ様の魔力の残滓を見つけた。
つまり、魔法が行使されていたと言う事になる。
イヴ様は畝を作り終えられるとキャロルから種を受け取り、
その半分を俺に手渡された。
「蒔くわよ」
一緒に蒔いた。
蒔いた種にイヴ様は土を被された。
「大きくな~れ、大きくな~れ」
イヴ様の魔力は土に効果があった。
小さな畑そのものが活性化した。
周りの土とは明らかに違っていた。
俺は警備中のシンシアを声をかけた。
「シンシア、水魔法で魔水を出せるかい」
「できるけど」
「このイヴ様の畑に魔水を撒いて欲しいんだ。
薄く広く、朝露のような霧状に」
「お安い御用だ」
シンシアが歩み寄って来て、イヴ様の畑を確認した。
「この一角で良いのね」
「ああ、お願い」
シンシアは片手を畑に翳し、無詠唱で水魔法を発動した。
たちどころに霧が出た。
俺は鑑定で詳細に畑を観察した。
イヴ様の畝と他の子供達の畝の違いが明確になった。
活性化した土が種に干渉を始めていた。
俺はこの力は秘匿しているので、説明は難しい。
そこでカトリーヌに声をかけた。
「畑の中の具合を見たい。
近くに鑑定のできる人はいないかな」