金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(大乱)235

2021-09-20 09:01:10 | Weblog
 文官らしき人物が現れた。
こちらを確認するや、近付いて来た。
警備していた者達が何も問わずに道を開けた。
その人物が俺に軽く目礼し、王妃様の傍で足を止めて耳打ちした。
聞いた王妃様の表情が曇った。
思案の末、渋々頷き、俺を見た。
「それでは少年、私は仕事に戻る。
娘を押し付けるようだけど、相手をしてやってね」
 王妃様が立ち上がり、踵を返した。
文官らしき人物を供にし、颯爽と歩を進めた。
散開して警備していた女性騎士達が押し包むように隊列を組む。
波が引くように一団が遠ざかって行く。
 残された俺とカトリーヌ明石少佐は立ち上がって、それを見送った。
その時点で俺は、ようやく自分の従者に気付いた。
スチュワートが背後で固まっていた。
「大丈夫か」
「ええ、なんとか」

 普通、従者は控室で待機するもの。
王妃様との場に立ち会わされる事はない。
「ベティ様は何度か屋敷に来られた。
その時に会っているだろう」
「そうなんですが、今もって慣れません」
「そうか」
「そうです。
あの方はまるで女神様です。
慣れる方がおかしいのです」顔が赤い。
 聞いていたカトリーヌが苦笑いした。
「はっはっは、その通りだ。
女性騎士の中にも陰で女神さまと言う者がいる。
今もって緊張するそうだ。
それと同じだな」

 カトリーヌの案内に従い、後宮に隣接した庭園に入った。
幼い笑い声が聞こえて来た。
「キャッキャッキャ」
ベティ様だ。
そちらへ向かう。
 女性の集団が見えた。
シンシア、ルース、モニカ、ボニーの成人女性が外側の警備。
侍女三人が内側。
見守られているのは四人と一人。
キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、そしてベティ様。
五人で花畑の一角を耕し、花の種を蒔いていた。

 王女様がやる遊びか・・・、と疑問に思う。
俺の顔色を読んだのだろう。
カトリーヌが言う。
「今はこれに凝られておられる」
「土で汚れますけど」
「それも喜んでらっしゃるわ」
「洗濯が大変でしょう」
「知らない人はそう思うでしょうね。
ところがそうでもないの。
どういう訳か、イヴ様に土魔法が発現したの。
その土魔法で泥汚れを落されてるわ。
乾燥させてからパタパタ叩いね。
それは見事なものよ」

 俺はイヴ様を鑑定した。
ここでも慎重に、魔力を足の裏から地中を通し、
誰にも気付かれぬように行った。

「名前、イヴ足利。
種別、人間。
年齢、四才。
性別、雌。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、なし。
ランク、F。
HP、25。
MP、45。
スキル、土魔法☆」

 俺はカトリーヌに尋ねた。
「このような小さな子供でも魔法が発現するものですか」
「人によるわね。
でも心配は無用よ。
暴走せぬように側仕えの侍女達が見守っているから。
それに、鑑定できる者や治癒魔法が使える者が後宮にいるわ。
毎日、朝昼夕に鑑定と治癒。
それはもう大事にされているわ」

 俺とカトリーヌの声が聞こえたのだろう。
「あっ、ニャ~ンだ」
 イヴ様が叫ばれた。
目敏く見つけられると、勢いよく走って来られた。
小さな両手を前に出し、小走りで、転ぶ事無く、俺の前へ。
 お約束・・・。
俺は腰を落として片膝ついた。
そこへイヴ様が躊躇いなく飛び込んで来られた。
俺は身体強化し、優しくキャッチ。
持ち上げながらイヴ様を宙で半回転させて肩車。
「ヒャッハッハ」足をバタバタさせて、悲鳴に近い笑い声。
 
 イヴ様は肩車に満足されると、俺に言われた。
「ニャン、一緒に種蒔きしよう」
 暫く見ぬ間に言葉も明瞭になっていた。
断る選択肢はない。
王女様の土魔法は是非とも見てみたい。

 何やら小さな声で唱えられた。
聞いて驚いた。
「柔らかくな~れ、柔らかくな~れ」
 なんだ、それ。
魔法の詠唱ではない。
呪文とも違う。
でも結果は出た。
小さく狭い範囲を耕され、畝が作られた。
 俺は呆れながらも、鑑定と探知を連携させて状況を調べた。
畝にイヴ様の魔力の残滓を見つけた。
つまり、魔法が行使されていたと言う事になる。

 イヴ様は畝を作り終えられるとキャロルから種を受け取り、
その半分を俺に手渡された。
「蒔くわよ」
 一緒に蒔いた。
蒔いた種にイヴ様は土を被された。
「大きくな~れ、大きくな~れ」

 イヴ様の魔力は土に効果があった。
小さな畑そのものが活性化した。
周りの土とは明らかに違っていた。
俺は警備中のシンシアを声をかけた。
「シンシア、水魔法で魔水を出せるかい」
「できるけど」
「このイヴ様の畑に魔水を撒いて欲しいんだ。
薄く広く、朝露のような霧状に」
「お安い御用だ」

 シンシアが歩み寄って来て、イヴ様の畑を確認した。
「この一角で良いのね」
「ああ、お願い」
 シンシアは片手を畑に翳し、無詠唱で水魔法を発動した。
たちどころに霧が出た。
俺は鑑定で詳細に畑を観察した。
イヴ様の畝と他の子供達の畝の違いが明確になった。
活性化した土が種に干渉を始めていた。
 俺はこの力は秘匿しているので、説明は難しい。
そこでカトリーヌに声をかけた。
「畑の中の具合を見たい。
近くに鑑定のできる人はいないかな」
コメント
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