金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(大乱)216

2021-05-16 06:39:03 | Weblog
 仕事に飽いたのか、トム上杉侯爵が手を止めた。
メイドに熱いコーヒーを要求し、ウィル太田に目を向けた。
「なあ兄弟、この書類の山を見てくれ。
この山を。
忙し過ぎて最近は子供の顔を見ていない。
夜遊びもできない。
これでは兵を挙げる暇なんてないぞう」
 コーヒーを飲んでいたウィルは咽た。
手慣れた感じで執事が後ろからハンカチを差し出した。
そのハンカチで口元を拭いてウィルは抗議した。
「まったく兄貴はもう、開始されてるんだよ。
関係各所に通達済みで引き返せないんだよ」
 ウィルはトムの実弟。
上杉侯爵家から男子のいない太田伯爵家へ養子入りしていた。
トムは手元に運ばれて来たコーヒーカップを持ち上げた。
「いい香りだ。
俺を王にすると言うが、王になったらこの書類の山から逃れられるのか。
なあ兄弟、教えてくれよ。
約束してくれよ」
「秘書の数を増やせばいいだろう。
宮廷貴族と言う文官もいるし、何とでもなるだろう」

 見兼ねたのか、侯爵の執事がウィルに言う。
「大丈夫でございます。
文官については心当たりがあります。
今回の騒ぎで潰された家の文官を雇えばよろしいかと」
 代わりにウィルの執事が応じた。
「ほほう、そういう手がありましたか。
勉強になります。
当家でも雇いますかな」
 トムが釘を刺した。
「俺の余りで我慢しろ。
必ず回してやるから」
「はい、楽しみにしています」

 ウィルが真顔になった。
「兄貴、俺を恨んでるか」
「今さらか。
お前には唆されたが、脅かされたわけじゃない。
考えて決断したのは俺だ。
もう始まってる。
余計な事は考えるんじゃない」
「王家への通告は誰が」
「やらん。
そこまで親切にする事はないだろう」
「分かった。
粛々と進める」
「おう兄弟、頼りにしてるぞ」

 相模地方を発した軍勢があった。
寄親・イドリス北条伯爵家軍二千、
常設の相模地方軍二千。
計四千を率いて伯爵は北上した。

 下総地方を発した軍勢もあった。
寄親・アンセル千葉伯爵家軍二千。
常設の下総地方軍二千。
計四千を率いて伯爵は西に向かった。

 二つの軍勢が到着したのは武蔵地方にある関東代官所。
代官所の係員に本館の隣の広大な草地へ案内された。
指定された箇所が野営地であった。
離れた箇所にもう一つの軍勢の姿も見られた。
地元、武蔵地方の太田伯爵家軍三千、武蔵地方軍三千、計六千。
彼等は既に設営を終えていた。

 三つの軍の首脳が代官所の門を潜った。
通されたのは大会議室。
ウィルが仕切った。
「名札の席に座ってくれ」
 伯爵三名にその執事三名。
各伯爵家軍司令官三名、副官三名、参謀三名。
各地方軍司令官三名、副官三名、参謀三名。
全員が腰を下ろした頃合いに続き部屋が開いた。
メイド達が出てきて、テキパキとお茶を配って行く。

 大会議室が和んでいると新たな入場者があった。
代官とその執事。
代官所管轄下の関東軍司令官と副官。
副司令官と副官。
参謀と副官。
彼等にもお茶が配られた。
 
 お茶を飲み終えたトム上杉侯爵が立ち上がった。
すると、合わせるように残りの者達も立ち上がった。
トムが口を開いた。
「同士諸君、王家の為にありがとう。
代々のご先祖様に成り代わって厚く感謝いたす。
本当にありがとう」
 ありがとうとは口にするが、頭は下げない。
全員を、それがさも当然のように見回しただけ。
満足げに頷くと、腰を下ろすように指示した。
 トムに代わり、関東軍司令官が立ち上がった。
アンドリュー熊谷伯爵。
元は武蔵地方の寄子・熊谷男爵家の三男。
平民に落とされるのを嫌い幼年学校に入学した。
士官学校を経て国軍に入隊。
その国軍で実績を重ねて順調に出世した。
そこをトムに見出された。
説かれて関東軍に転籍したのが五年前。
地元出身の強味である人脈を活かし、二年で司令官の座に収まった。
そのアンドリューが室内の全員を見回した。
「私は皆さんがご存知のように無駄が嫌いです。
言葉を飾る趣味は持っておりません。
単刀直入に申します。
まず、おはよう」
 
 一人を除いて全く受けなかった。
トムが声を殺して、「プッ、ククック」と笑っているだけ。
他は引いた。
彼の幕僚達ですらそう。
伴って室温も急激に下がった。
 現実に戻ったのはメイドの粗相のお陰。
お茶の入れ替えをしていたメイドが、
アンドリューの発言で持っていた湯呑を取り落したのだ。
「ガチャーン」
 
 当のアンドリューは澄ましたもの。
どこ吹く風と言ったような風情でメイドを見た。
「そこのメイドさん、いけませんね。
湯呑を落としちゃいましたね。
ちゃんと後始末を頼みますよ」優しい声音。
 メイドはペコペコ謝り、駆け付けた同僚達の手を借りて後始末した。
それを見送ったアンドリューは再び全員を見回した。
「兵は拙速と申します。
最前線になるであろうと思われる二つの地方では、既に動いております。
まず上野地方。
寄親のジェイソン宇都宮伯爵家軍が上野の掌握と、
道路閉鎖を開始しました。
ついで信濃地方。
こちらも寄親のテリー小笠原伯爵家軍が信濃掌握と、
道路閉鎖を開始しました」
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