金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(アリス)92

2019-01-27 07:58:02 | Weblog
 脳内モニターのアラームが鳴った。
警報ではなくて起床のアラームが。
モニター画像は水平線の向こうから昇る朝日。
手前の砂浜の様子から、察するに九十九里か。
ウェブで見つけて収集した逸品だ。
 このところ眠い。眠い。
睡眠不足が半端ない。
我慢して上半身を起こした。
 灯りが点いてないので室内は暗い。
問題はない。
夜目が利くからだ。
眠い目で部屋の片隅を見た。
天井から垂れ下がる大きな繭。
これは脳筋妖精アリスが持ち運びするベッド兼家だ。
彼女は必要な物は全て、繭も含めて別空間の収納庫に入れ、
持ち運んでいた。
妖精はキッチンもトイレも不要なのでこれはこれで・・・、
充分なのかも知れないが、果たして文化的なのだろうか・・・。
 睡眠不足の一端はアリスにあった。
彼女が勝手に外出するのは構わない。
変身スキルを活用すれば余計な騒ぎは引き起こさない。
唯一問題なのは夜中に帰宅して俺を叩き起こすことだ。
無理矢理起こして、何のかのと喋る。
真夜中でも喋り続ける。
眠い、と告げても完無視。
念話なので耳は塞げない。
大都会に驚いているだけだと思うので、
暫くは俺が我慢するしかないのだろう。
でも眠い。
 掛け布団を除けてベッドから下りた。
調度品が少ないので何かに躓く心配はない。
窓に歩み寄った。
カーテンを開けた。
窓ガラスは前世のような洗練された物ではなく、
不純物満載の分厚いガラス。
救いは丈夫なので割れ難いこと。
アリスが出入りする際、風の魔法で強引に開け閉めしても壊れない。
 窓を開けた。
心地好い風が俺の脇を通り過ぎた。
向こうの東の空が燃えるように明るい。

 着替え終えると階段を駆け下りて寮から飛び出した。
朝のトレーニング。
最初はゆっくり散歩。
歩きながら体操らしき動きで身体を慣らして行く。
 服装は子供らしい短パンに丸首の半袖ティーシャツ。靴に靴下。
街で買い求めた物だ。
高かったが値段相応に肌触りが良い。
 ちょっと暖まったところで足を止めてストレッチ。
念入りに準備運動。
さらに暖まったので本格的な走り込みを開始した。
学校の敷地は緑地が多く、起伏にも富んでいるので飽きない。
池を迂回し、こんもりした芝地を駆け上がり、林を抜けた。
途中で同じ様に走り込みしている生徒達に出会うと、
片手を上げて挨拶。
仲間同士集まって武芸の稽古を積んでいる者達を見掛けると、
邪魔にならぬように迂回。
 昇る朝日を背景に鳥の声と生徒達の息吹が辺りを支配していた。
今日も気分の良い朝だ。
そんな俺の方に近付いて来る者がいた。
大柄な奴だ。
片手に二本の長い棒を無造作に掴んでいた。
棒術授業の際に用いられている生徒用の棒、と見受けた。
不審な歩み。
明らかに俺を目指しているような・・・、まさかね。
話したことのない人だし・・・。
 顔は見知っていた。
上級生の有名人。
シェリル京極。
評定衆に席を持つ京極侯爵家の長女だ。
縦にも横にも大きな女子で、腕っ節が強く、武芸好きときた。
気に食わぬ男子は上級生でも殴り飛ばす、類のとかくの噂がある。
その所為か、陰では、「鬼シェリル」呼ばわりが定着していた。
 そんなシェリルが俺の前で足を止めた。
少し上からジッと見下ろしてくる。
まん丸な顔、丸く肥えた胴回り、それを下から支える大根足。
年齢の割に豊かな胸なんだが、バストと表現していいのか、
分厚い大胸筋と表現していいのか・・・、本人には聞けない、よね。
悩む。
 シェリルに丁寧な挨拶をされた。
「おはよう、ダンタルニャン君。
私は三年のシェリル京極。よろしくね」軽く頭まで下げられた。
 鬼の欠片もない挨拶を俺は受け止め兼ねた。
ただ無難に返した。
「おはようございます」
 シェリルが俺の態度に微笑み、丸い顔で言う。
「大丈夫よ。
取って食べたりしないから」
「ごめんなさい。
話し掛けられるとは思わなかったので驚いただけです」
 シェリルが俺に棒の一本を差し出した。
「取りなさい」
 俺が言われた通り受け取ると、彼女は身軽な動作で後退し、
自分の手元に残された棒を掴んで構えた。
隙がない。
明らかに棒術を嗜んでいる者の構え。
それでも間合いが充分あるので脅威ではない。
 俺は狼狽して尋ねた。
「これは・・・」
「朝稽古よ。
貴男の毎朝の走り込みは見させて貰っているわ。
そろそろ身体も学校に慣れてきたでしょう。
さあ、相手なさい」
 一方的な・・・。
大貴族のお姫さまらしい我が儘なのか、それとも横暴なのか・・・。
理解に苦しむ。
「どうして僕が・・・」
「貴男が白色発光合格者だからよ」
 幼年学校の受験手続きの際、素質を調べる審査の魔水晶が光った。
お陰でその場で合格が確定した。
「あれは素質を見る物で、実力を図る物じゃありませんよ」
「分かってるわ。
でも貴男の実家は佐藤本家、始祖はジョナサン佐藤、違うかしら」
「そうですけど」
「なら問題ないわ。
弓馬の神と呼ばれた武人の血筋なんだから歓迎するわ」
 言い終えると表情を変えた。
「行くわよ」告げるなり、真摯な顔で棒を振り上げ、
間合いを一足跳びに踏み込んで来た。
早い。
 俺は躱すので精一杯。
だというのに彼女は手加減しない。
二の手、三の手を放って来た。
俺は右に躱し、左に躱し、「意味が分かりません」と抗議した。
 するとシェリルが動きを止めた。
「意味なんてないわ。
強いか弱いか、それだけ」
 再び、一足跳びに踏み込んで来た。
果敢というか、無謀というか・・・。
その表情の輝きは、古い表現で、漢らしい。
 俺は諦めない。
「どうして大貴族のお姫さまが寮住まいなんですか」
「私の勝手でしょう」勢い良く棒を振り下ろした。




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