書籍之海 漂流記

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姜在彦 『姜在彦著作選』 Ⅲ 「朝鮮の開化思想」 

2005年07月01日 | 東洋史
 感想は内容的には2003年4月3日吉田光邦『江戸の科学者たち』、同年4月16日源了圓『実学思想の系譜』、2005年2月28日銭国紅『日本と中国における「西洋」の発見 19世紀日中知識人の世界像の形成』、同年3月12日王家驊『東アジアのなかの日本歴史 5 日中儒学の比較』、同年4月2日源了圓『徳川思想小史』の続きになる。
 日本と中国では実学(合理主義思想)はこうであったが、朝鮮における実学とは何であり、いかなる在り方であったか。

“要するに(朝鮮における)実学思想とは、学派と党派、「華」と「夷」とを超えたところで「実事求是」した思想であり、従来の儒学が現実問題から目をそらして虚学化した弊風を内在的に克服した時務策の学的体系である” (第一章「朝鮮儒学史のなかの実学思想」第二節「実学思想の形成と英・正時代」本書56頁)

“その「時務」とは具体的には「経世致用」であり、「利用厚生」であって、「修己治人」のなかで「治人」=経世の側面を強調した星湖学派を経世致用学派、『書経』(大禹謨篇)にいう「正徳・利用・厚生」の三事のなかで、「利用・厚生」を強調した北学派を利用厚生学派と呼ぶ所以である” (同上)

 残念ながら、朝鮮の実学思想とその伝統(実学派、開化派)については、『姜在彦著作選』全5巻を読まねば私には全体の理解が行き届かない(そもそも星湖学派や北学派というものがどんなものかもよくわからない)。図書館から順番に借りていくとして、とりあえずは第3巻を読んだ限りの現在の理解度に基づく心覚えのメモだけしるしておくことにする。

朝・日・中の実学思想家ないし開化思想家の照応関係(仮説)

 実学思想(16-19世紀初頭)
   李洱←→貝原益軒、三浦梅園、荻生徂徠 (?)
   丁若←→佐久間象山、康有為、譚嗣同、梁啓超 (?)
   洪大容←→志筑忠雄、佐久間象山、魏源 (?)
   朴趾源←→佐藤信淵、本多利明 (?)
   朴斉家←→海保青陵、横井小楠、魏源、康有為、譚嗣同、梁啓超 (?)

  ★実学思想家にはカトリック教徒が多かったため、1801年の辛酉教難(カトリック弾圧)の結果、朝鮮における実学思想の潮流は、70年代まで一旦消滅する。

 開化思想 (19世紀後半―20世紀初頭)
   朴珪寿←→佐久間象山、魏源 (?)
   金允植←→李鴻章 (?)
   金玉均←→横井小楠、康有為、譚嗣同 (?)
   朴泳孝(甲申政変後)←→横井小楠、康有為、厳復 (?)
   徐戴弼(甲申政変と米国亡命時期まで)←→横井小楠、梁啓超 (?)
   徐戴弼(米国から帰国して『独立新聞』創刊以後)、←→福沢諭吉 (?)

 ?ばかりである。要するに私は現在のところ、何もわかっていない。

(明石書店 1996年5月)