書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

森安孝夫 『興亡の世界史』 5 「シルクロードと唐帝国」

2012年06月04日 | 東洋史
 のっけから「新ウイグル(いまのウイグル人)は偽ウイグル」と書いてある(「序章 本当の自虐史観とは何か 人種・民族・国民に根拠はあるか」 32頁)。
 研究者や知者を運動の世界から遠ざけるための敢えての暴言であろうとする解釈もあるが、この人はもともと純粋に研究がすきでやっている研究者で、善くも悪くもそういう世間的な配慮はしない人だろうという気がする。先行研究の必要な箇所を論点ごとにかならず提示して、その上に立っておもむろに「さてここからが私の新たな創見だ」といわんばかりに自論を展開するこの構成の周到さと堅牢さはどうだろう。本当に好きでやっている人間にしてはじめてできる、「倦まず弛まず」の示現ではないかと思えるのである。
 表現は少々偽悪的にしてあるかとは思うが、この言は本音ではないか。

(講談社 2007年7月)