書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

竹内照夫 『四書五経 中国思想の形成と展開』

2015年05月02日 | 東洋史
 「第八章 四書五経の伝承」。

 西洋哲学は、やがてスコラ時代から諸科学に転変してゆくが、これに対応して経学は漢唐訓詁主義(伝統的な注釈本位の経学)の時代から、宋明性理学(人性と第一原理を主題とする哲学)の時代に移行する。すなわち四書五経に関する朱子学と陽明学の時代に入るのである。
 (207頁)

 “これに対応して”とは何如なる意味であろうか。時期的に相関しているという意味でないのは確かである。内容的な相似についてであるとしても、相互比較の対象としては両者はやや位相がずれているという気がする。また、孔子と孟子の思想の特徴として「合理主義・理性主義」(同頁)と形容するのは、いかがなものだろうか。著者は、「君子本位の教説は必ず理性本位であり、」(同頁)とも言うのだ。この句の後に続く、「感情に溺れず、情緒に引かれず、中庸を旨とすべきことを強調する」の部分は首肯できるにしてもである。感情に溺れず情緒に引かれず中庸を旨とする事イコール合理的理性的ではないだろう。それは無感動でも有りえる境地である。塞翁は理性的か。

(平凡社 1965年6月初版、1986年6月2版第6刷)