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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

宮崎市定 『中国史』 上 から

2014年12月17日 | 抜き書き
 始皇帝は偉大なる専制君主であった。私がこれを独裁と呼ばないのは、宋代以後の独裁君主制と区別するためである。私の考えによれば宋代以後は制度として、法的な独裁君主が出現した。もちろん開国の君主はその個人の才能によって、個性のある独裁を発揮したのであるが、そのやり方がそのまま制度となって子孫の代に踏襲された。この場合、独裁君主は制度上、最後的な決裁を与えるだけの機関になっており、凡ての政策は夫々の下部機関によって膳立てされ、最後に宰相がこれを審査する。若し天子として二つ以上の決裁の方法があると宰相が考えれば、その案を併記して原案を作成し、君主に最終的な裁断を求めるのである。然るに古代、及び中世にあってはまだそのような政治様式が制度として成立していない。君主は個人の力量によって専制を行うが、その死と共に全く新しい局面を生み出す。後嗣が暗弱なれば大臣がそれを助けるが、それは人的な信頼を頼みとするだけである。もしこの信頼が揺るげば、とんでもない結果を招くことになる。 (「第一篇 古代史」「四 秦」 同書154-155頁)

(岩波書店 1977年6月第1刷 1986年4月第9刷)