書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

国語辞典と漢字辞典の違いは?

2017年11月27日 | 思考の断片
 五十音順(イロハ順でもよいが)の国語辞典と漢字辞典は、仮名(およびアルファベット)のみの語彙を含む含まないという以外に、その編纂制作の精神において何がどう違うのだろう。とくに後者が漢字を含む熟語成句まで立項した場合、その垣根はますますぼやけると思うが。
 この漢字辞典には近代以前の、たとえば『節用集』のようなもののも含めている。
 例えば『早引節用集』は漢語をその日本語読み(音訓を問わず)でイロハ順に並べている。「〔同書は〕掲出字の振り仮名の文字数、すなわち仮名で書いた場合の文字数を基準にして分類・排列された節用集」(松井利彦『近代漢語辞書の成立と展開』笠間書院1990年11月、第1章「節用集から漢語辞書へ」、同書19頁)
 付言すると、もとになった『節用集』は部門別排列になっている。部門別排列とは、伝統中国における字書類、例えば類書の排列順、つまり漢語及び漢語世界におけるカテゴリー分けと分類項目の立て方とその順番である。

 ※参考。佐藤貴裕「早引節用集の分類について」(『文芸研究』115、1987年5月掲載、同誌67~78頁)https://www1.gifu-u.ac.jp/~satopy/ronhayabikibunrui.pdf
 また、高梨信博「近世節用集の序・跋・凡例--早引節用集」(『早稲田大学大学院文学研究科紀要』第3分冊 47、2001年掲載、同誌3-14頁)http://ci.nii.ac.jp/naid/120000792555

 なお、いま紹介した同じ高梨信博氏による「早引節用集の成立」(『国文学研究』113、1994年掲載)では、「節用集」の部門別排列から「早引~」のイロハ順への変化については、前者が編纂者本位あるいは〈意味〉による分類であったのに対し後者では利用者本位もしくは〈訓読(ヨミコエ)〉つまり発音によるそれへと変わったからだという説明が与えられている。
 これはどう解釈すべきか。