書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

余英時著 程嫩生/羅群訳 『人文与理性的中国』

2015年10月23日 | 東洋史
 2014年07月30日「横山宏章『素顔の孫文 国父になった大ぼら吹き』」および
 2014年09月12日「小野和子「孫文が南方熊楠に贈った『原君原臣』について」」より続き。

 「13.孫逸仙的学説与中国伝統文化(1989年)」に、1886年で広東医薬学校に入学した20才から儒教経典と中国歴史を勉強しなおしたとある(242頁)。出典は『総理全書』巻5、88-89頁および『国父年譜』(台北 1965年)巻1、37頁。つまり「天下為公」を「人間にはみなひとしく同じ権利がある」という意味だとしたことに関しては、無知による誤読の可能性は少なくなった。意図的な読みかえである可能性が高い。

(上海古籍出版社 2007年1月)

楊継縄著 『毛沢東大躍進秘録』

2015年10月23日 | 現代史
  伊藤正/田口佐紀子/多田麻美訳。

 「毛沢東 大躍進秘録 楊継縄著 丹念な調査で過酷な実態明らかに」 『日本経済新聞』2012年5月28日 14:00

 上は、毛里和子氏の書評である。氏は、書中の数字の信憑性に関しては判断を保留されるものの、この書のもつ価値については、中国現代史研究者の立場から十分に認めておられる。一読後、この邦訳について、『史学雑誌 回顧と展望』2012年度とさらに念のため2013年度とを見てみたが、紹介もしくは言及はなかった(「中国 現代」項)。毛里氏とは異なる角度からの評価を目にしたかったので、残念である。

(文藝春秋 2012年3月)

西里喜行 『沖縄近代史研究 旧慣温存期の諸問題』

2015年10月23日 | 地域研究
 著者は、「第一論文 旧慣温存期の政治過程」の注71(53頁)で、「脱清行動に参加したのは旧藩支配層の上層部分にとどまらず、下層の無禄士族や『平民』も含まれていた」としたあと、以下に引く琉球政府編『沖縄県史』14(1965年)所収「一木書記官取調書」(1984・明治27年)の記述に基づき、「無禄士族や『平民』の脱清の目的は、むしろ琉球~清国間の密貿易にあったようである」と指摘する。

 本来、脱清の事たる、首領者輩を除くの外は、営利のために企謀するもの多く、名を復旧の運動にとり、その実、彼我往来の間に物品を売買し、大に利潤を得るを常とせり。 
(「一木書記官取調書」、『沖縄県史』14巻、499頁)

(沖縄時事出版 1981年6月)