中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,126話 人間の忘れる速度を遅らせるためには

2022年07月27日 | 研修

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「授業で習ったことを覚えるためにはどうすればよいのか。覚えるためには、できるだけ人に話すことが有効だ。自分は5クラス担当しているから、同じ内容を5回伝えることになる。それだけ繰り返し授業で伝えると、5クラス目のころにはすっかり覚えられているんだ」

これは、今から40年以上も前の私が中学生のときに、理科の授業の中で先生から聞いた言葉です。前後の文脈はあまり覚えていないのですが、しっかり記憶に残すためには覚えることに重きを置くのではなく、人に話すことが有効だということは今でも鮮明に覚えています。

さて、弊社が2日以上の研修を担当するときには、前日に行った内容を翌日の研修開始時に全員で復習することが多いです。私が受講者に質問し、それに返答していただきながら復習を進めていますが、前日に前向きな姿勢で熱心に受講していた人であっても、一晩経って内容を忘れてしまっている人も少なからずいます。わずか半日ほど前に行っていたことなのに、忘れてしまうのはどうしてなのでしょうか?

時間の経過とともにものごとを忘れてしまう、こればかりは人間の性(さが)だからと言うしかないのではとさえ思えます。

人間の記憶に関する研究者に、忘却曲線を発見したことで知られるヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus)というドイツの心理学者がいます。エビングハウスは記憶に関する実験的研究の先駆者で、忘却曲線を発見したことで知られています。彼の調査によると、最も急激な記憶減少は最初の20分で起こり、はじめの1時間で一気に(56%)減衰してしまい、その後忘却曲線は約1日後にはなだらかになるとしています。

これからすると、私たち人間はせっかくものごとを覚えても、やがては相当の部分を忘れてしまうことなるわけです。忙しい中せっかく研修を受講しても、研修で行った内容を実務で活かすどころか、研修を受講する意義さえ薄れてしまうのではないかと思う人がいることも否めません。

忘れてしまうことは人間の性(さが)ということを踏まえ、では私たちはどうすればよいのでしょうか。そこでお勧めなのが、冒頭で紹介した例のように研修で行った内容を職場に戻って上司に報告したり、周囲の人へ伝えたりすることです。人に伝えるためには、私たちはまず自身の頭の中で内容を整理し、その上でそれを声として発することになります。伝える前段で内容を整理する中で当然内容を思いだします。それにより改めて理解が深まることがあるなど、声に出して人に伝えることは、知識を記憶に定着させるため非常に有効な手段だと考えています。そして冒頭の事例のように繰り返し人に伝える場面を設けられれば、さらに効果が高くなると考えられるのです。

世の中には、人から1回聞いた話をすぐに理解・吸収し、完全な形で記憶に残せるという人もいるようです。しかし、実際のところ初めて聞いた話はなかなか覚えられない、記憶にしっかり残せないという悩みを抱えている人も決して少ないないのではないでしょうか。

こうした課題の解決の一歩として、今後研修を受講する機会がありましたら、研修で得た知識をしっかり自分のものとするために、まずは人に話をしてみるということから始めてみてはいかがでしょうか?

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第1,125話 抽象的か、具体的か

2022年07月20日 | 研修

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

弊社が行う短時間の研修やセミナーの終了後に、受講者から「もっと具体的な話を聞きたかった」という感想をいただくことがあります。

研修やセミナーの中で説明をする際には、どういうテーマであっても、まずは抽象的な話からはじめて、続いて具体的な話をすることが多くなります。1日以上の研修であれば、どちらの話もじっくりすることができるのですが、短時間の研修やセミナーの場合はどうしても時間に制約があるため、具体的な事例を挙げたり、それに沿って演習をしていただいたりすることにはおのずと限りがあるのです。そうすると、終了後のアンケート等で冒頭のような感想をいただくことになるのです。

この「抽象的」と「具体的」については、どのくらいのバランスで話をするとよいのか、その割合がとても難しいと感じています。具体的な話は、たしかにわかりやすいと感じる人が多いのでしょうが、一方で前提となる抽象的な話を先にして、はじめて次のステップとして「具体的にお話しすると・・・」と続けることができるのです。

先日、弊社が営業セミナーを担当させていただいた際にも、短時間のセミナーだったということもあり、具体的な話がやや少ないと感じた受講者がいらっしゃったようでした。その結果、セミナー終了後に「考え方はとても理解できたけれど、具体的に明日から何をどうすればよいのかをもっと知りたい」という声をいただきました。

ここで改めて、抽象的と具体的という言葉の意味を広辞苑で調べてみると、「抽象的とは、抽象して事物の一般性をとらえるさま。現実から離れて具体性を欠いているさま」とあります。一方の具体的は、「形をそなえ、存在が感知できる様。一般的という意味での抽象的に対し、実態的・個別的なさま」とあります。

このように、本来の意味合いを確認してみると「抽象的」と「具体的」はそれぞれに必要なとらえ方であり、どちらか一方が優位というようなものではないわけです。しかし、現在は具体的なわかりやすい話のほうが優位といった傾向があるように思えますし、私の経験から言っても抽象的な話しから具体的な話に変わった途端に、俄然興味を示すような表情になる人が多いのも事実です。

しかし、抽象的なものだけ、具体的なものだけというように、どちらか一方だけを根拠にしてものごとを理解し判断するようなことになると、結果として少々偏った考え方になってしまいかねないことが懸念されます。そのように考えると、また抽象的と具体的はお互いに補完しあう関係とも考えられることから、物事をそれぞれの視点から意識的にとらえて考えること、そしてそのバランスが大切なのだと思います。

自身は物事を抽象的にとらえる傾向が強いのか、あるいは具体的にとらえる傾向が強いのか、まずはその点を改めて確認したうえで、バランスを考えながら双方の視点で物事をとらえることを意識してみることから始めてみてはいかがでしょうか?

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第1,124話 心理的な安全の重要性が叫ばれている

2022年07月13日 | 研修

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

最近、組織における「心理的安全性(psychological safety)」という言葉が注目されています。

組織行動学を研究するハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授(Amy Claire Edmondson)が1999年に提唱した心理学用語です。エドモンドソン教授は心理的安全性を自身の考えや気持ちを安心して発言できる状態、つまり「チームのメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。

それは、チームの中で自分の意見(それが仮に的外れだったり、間違っていたりする意見であったとしても)を臆することなく発信できる状態であり、心理的安全性が高くなれば、組織にとっても様々なプラスの要因が働きます。具体的には、コミュニケーションが活発になり、仕事の生産性が上がったり、エンゲージメントが高くなったりするなどが望めます。

しかし、この心理的安全性を構築することは、簡単なことではありません。そのような組織の風土や文化を作ることは、決して一朝一夕ではないからです。私は日々様々な組織の研修を担当させていただいていますが、外部の人間だからこそ感じることができる「組織の風土」というものがあります。発言が活発に行われている組織がある一方で、遠慮がちな組織もあります。また、入社年次が若い時には活発にコミュニケーションをとっていたのに、しばらくするとあまり積極的にコミュニケーションをとらないようになってしまうような組織もあります。

弊社が担当させていただく研修は、通常1~4日間と短い期間なのですが、私はそういった中でも受講者に主体的に臨んでいただくためには、心理的安全性がとても重要だと考えています。それは、自身の考えや気持ちを安心して発言できる状態が担保されていないと、大勢の中で自分の考えを発言することが難しいからです。

そこで私は研修の冒頭には必ず、主体的に発言していただくことを推奨するとともに、「こちらが行う質問に対して唯一絶対の答えがあるわけではありませんから、どういう発言であってもダメ出しをするようなことは決してしません」とお伝えしています。そのようにお伝えすると、率先して挙手をして発言してくれる受講者が出てくれ、そうすると徐々に他のメンバーにもプラスの影響が働いて大いに盛り上がり、結果、受講者にも満足いただける研修になるのです。

一方、繰り返し発言を促してもそれがなかなか伝わらず、自ら発言する人が最後までいないこともあります。これは、受講者だけの問題でなく、そもそもその組織では心理的安全性が十分に構築されていないことの現れなのではないかと思うことがあります。

このように、「考えや気持ちを安心して発言できる」状態であるか否かは、私たちが思っている以上に大きな影響を及ぼしているのではないかと強く感じているのです。

これまでこのブログでも何度も書いてきたとおり、組織の風土や文化を変えるのは決して簡単なことではありませんが、心理的安全性を構築しそれを維持できるかどうかということが、今後組織が発展を続けられるかどうかの重要なキーポイントになるのではないでしょうか?

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第1,123話 知っていることを実行に移すのは難しい

2022年07月06日 | 仕事

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「知って行わざるは、知らざるに同じ」

これは、江戸時代の本草学者、儒学者の貝原益軒の言葉です。「知っていても行動に移さなければ、全く知らないのと同じことだ」という意味です。この言葉を耳にするたびに、知識を持ってはいても、それを基にして行動することは簡単なことではない。実行するということは、次のステージに上がらなければならないことだと改めて感じます。

さて、最近、新聞などの広告でスティーブン・R・コヴィーの「7つの習慣」という書籍について、全世界で累計4,000万部、国内で240万部を超えて読まれ、20世紀にもっとも影響を与えたビジネス書だという宣伝をよく目にします。

既にお読みになったという方も多いと思いますが、簡単に内容を紹介すると、「主体的である」こと、「終わりを思い描くことから始める」こと、「最優先事項を優先する」ことをはじめとして、全部で7つの習慣を通して「成功を手に入れ、充実した人生を送る」ための方法が紹介されいます。

実は私自身、1996年に日本語版が出版された際に読んだ一人です。その後も、「マンガで学ぶ7つの習慣」、「13歳から分かる!7つの習慣」など、新たなバリエーションが出るたびに読んでいますので、7つの習慣そのものは一通り理解したつもりになっています。しかし、では、それらをどれくらい実行できているかとなると、正直なところあまり自信はありません。

この本の7つの習慣に限ったことではありませんが、私たちが知識として学んだものを自分のものとして身に着け、それに基づいてしっかりと実行に移すということは、決して簡単なことではないのです。

明時代の中国の陽明学に「知行合一」という言葉があります。これは「知って行わないのは、真に知っていることではない」ということであり、冒頭の「知って行わざるは、知らざるに同じ」と同じ意味合いです。

かように「知ったことをしっかり実行する」ことは難しいものであり、私たちのとって永遠の課題の一つなのではないでしょうか。「7つの習慣」が世界で4000万部も売れているということはその裏返しであり、「知」を「行」に結び付けたいという思いを持つ人がいかに多いかということを示しているのかもしれません。

さて、皆さんは知ったことをしっかり実行に移すことができていらっしゃるでしょうか?これを機会に、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

(冒頭の写真はウィキペディア⦅Wikipedia ⦆より)

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