中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,060話 崩れてしまった信頼を取り戻すことはできるのか

2021年09月29日 | コミュニケーション

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

厚生労働省の発表によると、新規学卒就職者の3年以内(2017年3月の卒業者)の離職率は32.8%とのことです。この数字は業種や事業所の規模によって異なりますが、この10年間大きな変動はないようです。

それでは、せっかく入社した会社であるにもかかわらず、3年以内に離職を決断する理由は何なのでしょうか?

全国求人情報協会の調査によると、早期退職した若手が入社の前後でギャップを感じたこととして社内ルール・常識がトップで、2位に上司の能力や資質が続きます。実際、弊社が若手や中堅社員を対象にした研修を担当させていただく際には「上司のことを好きになれない」、「上司を信頼できない」という声を聞くことが少なくありません。一方で、管理職を対象にした研修では「部下との関係に悩んでいる」という声を聞くこともよくあります。

では、この「信頼」はいかにして築かれるものなのでしょうか。いろいろな考え方があると思いますが、私は信頼とは「ある人の言葉や行動、姿勢を他者が見た結果として、その人間性や習慣といった目には見えないものに対して期待したり、その期待に応えてくれるだろうと当てにしたりする気持ち」であると考えています。

このため、「信頼」とは一朝一夕に築くことができるようなものではなく、日常的な振る舞いに対し周囲がプラスの評価をすることで、時間をかけて少しずつ積み上げていくものだと思います。

しかし、このように時間をかけて積み上げた信頼であっても、ちょっとしたことで簡単に崩れてしまうことがあります。たとえば、自分に対する上司の言動や姿勢に接して部下が納得することができないようことがあった場合、失望がやがて信頼できないという感情につながったりするのだと思います。それは必ずしも自分に向けられたものに限ったことではなく、他者へ対してとられた言動や姿勢であっても、同様に信頼が崩れることになってしまうこともあります。

もちろん、行き違いや誤解から生じるケースもあるとは思いますが、結果的にこうしたことが繰り返され、どうにもならないと感じたときに若手や中堅社員は退職という行為を選択するのではないかと思うのです。

それでは、一度崩れてしまった信頼を取り戻すことはできるのでしょうか?これも一概には言えませんが、少なくとも初めに信頼を構築したときよりも、はるかに多くの時間を要することは間違いありません。そして、そのような場面では、上司は改めてきちんと説明をしたうえで部下が信頼を失うに至った理由を尋ね、その上で場合によっては冷静にわが身を振り返り言動や行動を変えるなど真摯に対応する必要があります。

信頼を失うという事態に陥ると、それを取り戻すのはかなりしんどい行為であることは間違いありません。だからこそ、私たちは絶えず自らの言動や姿勢を客観的な目で確認し、正すべきことはきちんと正す必要があるのです。

上司の皆さん、もし、部下が早期退職をしてしまったり、指示命令を素直に受け入れなかったり、成長が伸び悩んでいるということがあった場合、もしかするとそれは自分への信頼が崩れかけている兆候なのかもしれません。ぜひ、一度自身の言動や姿勢を振り返られることをお勧めします。

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第1,059話 アンケートの自由記述欄は大切です

2021年09月26日 | 研修

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前回に続き研修終了後に書いていただくアンケートについてお話します。標準的なアンケートにはいくつか設問があり、(5、4、3、2、1)の5段階で評価をしていただく形式が多いかと思います。そして用紙の一番下には空欄があり「質問やご意見があれば自由に書いてください」と書かれている場合があります。この自由記述欄は研修の質を改善する上で大きな役割を果たします。

5段階評価は数値で表されますので、平均値を出して研修の評価を下すことに使われます。しかし、この平均点で研修自体を評価することに対する疑問を呈する方もいます。たしかに一理あります。なぜなら点数は回答者の主観であり、絶対的な基準に基づいているわけではないからです。

たとえば、正解が決まっているテストならば回答者が誰であっても点数は客観的なものです。Aさんが70点でBさんも70点なら「同じ」と言えるわけです。一方アンケートの場合、設問に対する点数は主観で決めるわけですから、AさんもBさんも「4」だとしても「同じ」とは言えません。もしかすると、そのときの気分でつけているかもしれません。

とはいえ、日本人にとって5段階評価は子供の頃から慣れ親しんだ評価基準なので意外と客観的でもあります。ですから、平均点で研修を評価することは概ね正確であり、役に立つと考えて差し支えないでしょう。では、自由記述欄はどうでしょう。数値ではなく文字ですからかなり曖昧なように思えます。

実は「自由に書く」ことは、研修を改善する上で非常に重要なヒントを引き出すことができます。自由記述には数値だけでは得ることができない多くの情報が含まれています。また、最近はこうした質的データを分析する手法やツールも充実しています。

講師に対する評価でも、個別の事項についての疑問でも、漠然とした感想でも結構です。できるだけたくさんの言葉を使って自由記述欄を埋めてください。回答者にとっては、書くことで研修全体を振り返り、頭の中で知識を整理し、それを仕事の中でどう生かしていくを考えることになります。

自由記述欄をしっかり書くことで研修は完成するのです。

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第1,058話 研修アンケートに名前を出してほしい理由

2021年09月22日 | 研修

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「アンケートは名前を伏せてお知らせします」

これは、コロナ禍で研修が対面からオンラインへ移行するようになってから、研修終了後にアンケートの送付をお願いしたときに、研修のご担当者様から言われることが多くなった言葉です。対面で研修を行っていた際は、記入いただいたものを研修会場で直接拝見していましたが、オンラインではそれがしづらくなったために、後日の送付とされることが多くなったのです。

それでは、なぜアンケートの記入者の名前を伏せることが多いのでしょうか?何度かその理由をお尋ねしたことがありますが、特に明確な理由はないようでした。

反対に、なぜ講師の側が名前を伏せないでほしいと考えているかというと、その理由は次のようになります。

それは、誰がアンケートを記入したのかは研修を振り返る上で、とても重要な情報だからなのです。アンケートの記述欄には実に様々な感想が書かれています。たとえば同じ会社の同じ階層の人が受講したとてしても、その評価は実に様々です。有効だったという人がいる一方で、有効でなかったという人がいるときもあります。進行のスピード、プログラムの内容、プログラムのレベル、実務への活用の有効性なども同様で、プラスの感想がある一方で、少数ではあってもマイナスの感想を持つ人がいるのも当然のことです。

では、どうしてそういうことが起きるのでしょうか?

個々の受講者の考え方や有している知識・スキル、経験によって当然感想や評価は変わります。また、それ以外にも担当している仕事の研修時点の繁閑も感想に影響します。繁忙期の研修参加となると気持ちに余裕がないため、なかなか研修に集中できなかったりするのはやむを得ないことかもしれません。さらに、当日のグループのメンバー構成によっても話し合いが盛り上がったりそうではなかったりします。こうした様々な要因で、研修の評価は大きく影響を受けるのです。

こうした背景も含めて、アンケートに記述された感想は次回の研修を企画・改善する際に非常に有効な情報となります。たとえば、保有しているスキルや知識が多く積極的に研修に参加していた人が、研修が理解しにくく進行も速すぎてついて行くのが大変だったと書いていたら、内容や進行に改善の余地があると考えられます。しかし、そうしたときに誰がどのような感想を持ったかがわからない(つながらない)と、そうした感想を持つに至った要因の分析が非常に困難になってしまい、結果として次に向けた新しい企画や改善が難しくなってしまうのです。

研修の感想・評価を踏まえ、次にどこに照準を合わせるか、どのように内容を改善するかなど、講師は絶えず研修をより良くするように取り組んでいます。ぜひ、アンケートは名前を伏せずにいただけると大変ありがたいのです。

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第1,057話 45歳定年制と社員の「実力」

2021年09月19日 | 研修

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サントリーホールディングス・新浪社長の「45歳定年制が必要」という趣旨の発言が話題になっています。この件についてSNS上で交わされている賛否両論の議論を簡単に紹介するならば次のようになります。

まず否定派の言葉です。「社長は会社の利益だけしか考えていない」「人を使い捨てにするつもりか」「だったら社長から辞めろ」。肯定派は「いつまでも会社にしがみつく時代ではない」「無能な社員を雇い続けることは会社にとってリスクだ」「45歳までに実力をつけてどこでも通用する人材になれば良い」。発言の量だけを見れば否定9割、肯定1割といったところでしょうか。

話題としては結構盛り上がっていましたが、私個人としてはそれほど興味が持てませんでした。なぜなら「それは余裕のある大企業の話」だからです。

日本の全労働者のうち、サントリーのような「超大企業」や上場企業で働いている人の比率はせいぜい4%に過ぎません。それ以外の、中小企業法で定めている「大企業」を含めても45歳定年制の話題で盛り上がれる会社は少ないでしょう。

私が普段お付き合いしているのは中小企業の経営者の方々ですが、ほとんが口を揃えて「定年うんぬん」よりも「雇用の維持」、もっと言えば「会社の存続」しか頭にないという感想でした。

ただし、今回の45歳定年制の話題から中小企業が教訓を得るとするならば、社員に「ある程度の年齢になるまでに実力をつけてもらう」ということです。

「いや、そんなことをしたら待遇の良い会社に転職してしまう!」とおっしゃる方も少なからずいらっしゃいます。もちろんそのリスクがないとは言えません。しかし、実力とは現在の仕事をより効率的に進めることであり、新しい考え方で仕事を変えていくことです。それは会社に利益をもたらし、発展させる原動力になります。

新人や若手社員に人材の育成、つまり「実力をつけてもらう」ことをはっきりと伝えていただきたいのです。その際、何歳までに「このレベル」に達するように、具体的にこういうトレーニングを実施するつもりだと言ってください。

若手社員にとって定年とは、はるか先の出来事でしょうから「45歳までにこうなってほしい」というくらいがちょうど良いかもしれません。そうなれば45歳までの年月が「希望の道」になる可能性もあります。

いささか使い古された理論ですが、人間には確かに「返報性の原理」がはたらきます。自分の実力をつけるために、いろいろと手を尽くしてくれた会社をそう簡単に辞めていくはずはありません。

人材育成は必ず会社を発展させます。

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第1,056話 後輩指導は誰の役割なのか?

2021年09月15日 | 研修

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「後輩を指導したり、ほめたり叱ったりすることは管理・監督職がやることだと思います。中堅社員の私たちがやる必要はないのではないですか?」

これは、弊社が中堅社員を対象とした研修を担当させていただく際に、必ずと言っていいくらい受講者から尋ねられる質問の一つです。

この質問を受けた際に「そのように考えるのはなぜですか?」と尋ねると、「中堅社員は後輩に仕事のやり方を教えることはあっても、指導や育成をする必要はないと思うのです。ましてや、ほめたり叱ったりなんてことを中堅社員の私たちがやらなければならないなんて・・・考えたこともありません」というような答えが返ってきます。

中堅社員の役割をどのように定めているのかは、それぞれの企業の考え方によって異なりますので一概には言えませんが、担当業務に関して後輩を指導したり助言したりすることを求めている企業は数多くあります。

しかし、役割として定められていても上司から具体的に指示をされていなかったり、あるいはたまたま職場に後輩がいなかったりすると、必要性を理解できないままに時が過ぎてしまうということもあるようです。そうなると、いざ研修において後輩の指導や育成について講義を受けたりロールプレイングなどで具体的に取り組む段になったりすると、面食らってしまうということも少なくないと思います。

では、皆さんはこの点についてどのように考えるでしょうか?

確かに、中堅社員のメインの役割として後輩の指導や育成をはっきりと位置づけ、実施を求めている企業はさほど多くはないかもしれません。しかし実際には中堅社員は日常的に後輩に仕事のやり方等を教えるということは行っているわけです。それを指導や育成という言葉が出てきた瞬間に、少々堅苦しいようなイメージを持ってしまうことはあるようです。しかし、後輩に仕事のやり方を教える際に、指導や育成という視点をきちんと持って行うのとそうでないのとでは、大きな違いがあります

指導とは「ある目的に向かって教え導くこと」という意味で、ある分野における知識や技術の向上といった特定の目的に向け、誰かを教えたり導いたりすることを言います。ですから、担当業務のやり方だけをハウツーとして後輩に教えてだけいればよいというものではないのです。指導や育成の最終的な責任を担うのは管理監督職だというのも事実です。しかし、役職に就いたからと言って、すぐに指導や育成ができるようになるものでしょうか?

指導や育成は決して簡単なことではありません。実践を重ねる中で失敗や成功の体験を積むことによって、少しずつ身に着けることができるものなのです。たとえば、筋肉をつけたいと考えたとしても、いきなり筋骨隆々とはなれません。毎日筋トレに励むことによって少しずつ筋肉がつき、やがて隆隆となってくるのです。

それと同様に、後輩の指導や育成も中堅社員の段階から少しずつ実践をして、失敗や成功の経験を積み重ねていくことが大切だということです。失敗したときは自分自身の教え方のどの部分がまずかったのかを振り返り、うまくいったときには、どこがどのように良かったのかをあらためて整理することによって、徐々に身に付いていくものだと思うのです。

最後に、後輩の指導・育成に限ったことではありませんが、いきなり身に付くスキルや知識はありません。何事も少しずつ着実に準備をして取り組んでいくこと、それが大切ということだと思います。

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第1,055話 研修を「カスタマイズ」するとき

2021年09月12日 | 研修

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皆さんの会社で社員研修を行うときに、研修会社にどのような依頼をしますか?「管理職昇格者に部下指導研修を実施したいので提案してください」、「若手社員向けに仕事の効率的な進め方を教えるプログラムをお願いします」。数社の研修会社が出した提案を比較して一番良さそうな会社に決める、そして実施する。それで一つのサイクルでしょうか。

もちろんこれでも良いのですが、受講者のことを考えれば研修プログラムはカスタマイズするべきです。カスタマイズとは「顧客の要望に合わせる」という意味で使われる言葉です。

「研修をカスタマイズします」という研修会社は多くありますが、形だけ「ご要望にお答えします」というところが多いので注意が必要です。

たとえば顧客が「うちの管理職は部下に甘いので、厳しい指導方法を教えてください」と研修会社の営業担当者に依頼したとします。営業担当者は研修を担当する講師に「厳しい部下指導方法を教えてほしいそうです」と伝えます。研修講師はそれを受けて素直に実施します。

しかし、この例で言えば研修が真に効果を発揮する可能性は低いばかりか、逆にマイナスの結果を生じてしまうかもしれません。なぜなら「管理職が部下に甘い」という顧客側の担当者の認識が間違っているかもしれないからです。

もし営業担当者ではなく、講師自身が顧客と話をしていれば、講師は必ずこう質問したはずです。

「部下に甘いというのは具体的にどういうことですか?」

おそらく返ってくる答えは「いや〜、具体的にどうと言われても・・・〇〇部長から『うちの課長連中は部下に甘いからなんとかしてやってくれ』と言われたもので・・・」とか「営業のXX課長は部下が遅刻してきても怒らないので」といった程度でしょう。

つまり「厳しい指導ができていない」のではなく「部下指導そのものができていない」のです。その点を押さえず、単なる「叱りつける」研修を実施してしまったら上司と部下の亀裂は大きくなるだけです。その結果、会社の業績が落ちてしまうことは想像に難くありません。

まともな講師なら真の問題点をしっかりと引き出し、部下指導の基本的な考え方や具体的な指導方法をロープレなどを駆使して実施する案を作ることでしょう。さらに重要な点は、講義内容や演習をその顧客企業の業務に沿った形で具体化することです。

たとえば、ある業界では「正式な発注書が来る前に口頭で確認したらすぐに仕事に取り掛かる」といった「慣習」のようなものがあるとすれば、研修内容に反映します。

研修では「仕事に取り掛かる前にお客様とのやりとりをきちんと文章にして残しておく」という仕事の進め方を、部下に正しく指導できる方法を身につけてもらいます。その上で、もしも部下が繰り返しミスをするようであれば「正しい叱り方」を学んでいただきます。

このように「カスタマイズ」することは大変な手間がかかるだけではなく、講師の力量が問われる行為なのです。

あなたの会社が研修を外部に依頼しようとするならば、研修内容をカスタマイズしてもらうことは絶対に必要です。その結果が会社の業績に間接的にしろ影響するからです。

以下は研修会社に依頼する時に必ず確認しなければならないことです。

(1)その会社はカスタマイズすることの意味をきちんと理解しているか

(2)講師の質問は適切で提案内容にきちんと反映されているか

言うまでもなく、事前に講師と面談できず営業担当者だけで話を済ませようとする研修会社は論外です。

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第1,054話 一方通行で伝えるだけはコミュニケーションとは言えない

2021年09月08日 | 研修

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先週金曜日(2021年9月3日)に、自身は自民党の総裁選には出馬をせず事実上の退陣表明をした菅首相ですが、これまでそのコミュニケーションに関しては一方通行で、国民からすると結果を押し付けられるだけなどいった批判が少なくなかったように思います。

この「一方通行のコミュニケーション」という部分に関して、先週弊社が担当させていただいたセミナー「テレワークで部下を育成する方法」での、一人の受講者(管理職A氏)から受けた質問を思い出しました。

それは「テレワークになってから、部下への仕事の指示がこれまで以上にうまく伝わりません。どうしたらよいでしょうか?」というものでした。

A氏の会社ではテレワークが導入されて以降、部下への仕事の指示はZoomやメールを使用して行っているそうです。A氏としては丁寧にコミュニケーションを行い、部下に指示を伝えているつもりとのことです。ところが部下の仕上げた仕事はA氏がイメージしていたものとは大きく異なることが多いのだそうです。そのため、その都度やりなおしの指示をしなければならないため、余計な時間もかかり非常に困っているとのことでした。

そこで、A氏に部下へ仕事の指示を出す際の状況を詳しく尋ねたところ、一つの問題点が見えてきました。それは、A氏としては部下へ指示をする際には丁寧にコミュニケーションをとって伝えているつもりだったようですが、実はA氏が行っていたことは「コミュニケーション」ではなく「インフォメーション」に過ぎなかったということです。

コミュニケーションとは、伝え手と受け手の間で双方向で行われるものであり、情報が共有され、それにもとづく双方向のやりとりができてはじめてコミュニケーションがとれた状態と言えるのです。一方のインフォメーションは情報そのものであり、伝え手が一方的に情報発信することで行われるものです。

A氏の話を聴いたところによると、A氏は仕事の指示という情報の発信は行っていたようですが、部下がその情報をきちんと(A氏の意図どおり)受け取ったかの確認をすることはしていなかったとのことです。具体的には、復唱させたり質問の有無等の確認をしたりせずに、一方的に指示をしただけで終わっていたようです。これでは、部下が指示をどれくらいきちんと理解できたのかを全くつかむことができません。

また、A氏は途中で進捗状況を確認する際にも「先日指示した仕事は順調?」などとあいまいな質問しかしていなかったようです。これでは、A氏がイメージする仕事の完成度と部下が完成させた仕事と状況の間にギャップが生じてしまうのも無理らしからぬことです。

もし質問をするのであれば、「B仕事はどのように進めている?どこまで進んでいる?」などと、もう少し突っ込んだ質問ができていれば、部下も途中で誤りに気付き修正することもできたはずです。

部下への仕事の指示に限ったことではありませんが、コミュニケーションとは双方向で行うものであり、一方通行で指示を出すことはコミュニケーションではありません。これは、対面で部下と接する際であってもテレワークで指示する際であっても同じことです。

こう考えると、菅総理も一方的な情報発信に終始してしまい、国民とのコミュニケーションがうまくとれていなかったと言わざるを得ないと思います。

さて、部下への仕事の指示が今一つうまくいっていないと感じている管理職の皆さん。ご自身のコミュニケーションが双方向になっているか、一方的なインフォメーションになってしまっていないかどうか、あらためて確認してみてはいかがでしょうか。

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第1,053話 「完璧主義」は幻想かもしれません

2021年09月05日 | 研修

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与えられた仕事をきっちりこなす。手抜きや妥協ができず、融通が利かない。会社にはこうした人が、少数ですがいるはずです。いわゆる完璧主義(以下、完璧主義「者」と同じ意味とします)です。

完璧主義の人はまじめで仕事熱心なので、評価は高いと思います。どんな職場でも、言われたことをきちんとやる人は上司から信頼され、部下から頼られることは間違いありません。

非常に頼もしい完璧主義ですが、役職が高くなるにつれ、だんだんとその比率が小さくなっていきます。

いちばん完璧主義が多いのは係長、主任クラスです。課長職になるとその比率は大きく下がり、部長職なるともっと少なくなります。役員クラスに至ってはゼロです(あくまでも個人の感覚です)。

なぜそうなるかは、考えてみれば分かると思います。完璧主義は、答えのはっきりしない曖昧な問題の処理に向いていないのです。

役職が高くなればなるほど「あちら立てればこちら立たず」、「ほとんど情報が無い状況で急いで判断を下さなければならない」、「目的がはっきりしない上、手段も決まっていない」といった仕事の割合が増えていきます。完璧主義ではとても対処できません。

逆に考えれば、目的がはっきりして手段もわかっている仕事に対しては完璧主義は有効に働きます。ですから、経営者の皆さんは完璧主義の特性を十分理解して仕事を与えなければなりません。

「そんなことは十分わかっているよ」とおっしゃるかもしれません。

しかし、私の知る限りよくわかっていない経営者の方が多いようです。それは「誰が」完璧主義なのかということではなく、「何が」完璧主義なのかということです。

「A君はいつも遅くまで職場に残ってきっちりと仕事を仕上げている。あいつは完璧主義だ」ある会社の役員さんが、1人の係長を評してそう言いました。

しかし、監督者研修に参加したその人(Aさん)を観察したり、同じグループの他のメンバーの話を聞いたりしていると、どうやらそうではないことが分かりました。

とりわけ、研修でAさんと同じグループになったある参加者の言葉が強烈でした。「Aさんは効率が悪いだけ。しかも頑固なので迷惑している」。

本当の完璧主義は「完璧=100%」とは考えません。QCD(品質、コスト、納期)の制約の中で、自分の力を最大限に出し切るのが正しい意味での完璧主義です。

「遅くまで仕事をしている」、「絶対に妥協しない」、「最後までやり遂げる」といった評価は概ね主観的なものです。

遅くまで仕事をしているのは能力が無いから、妥協しないのは聞く耳を持たないから、やり遂げるのは自己満足したいだけ・・・なのかもしれません。

経営者、管理者の皆さんには「何が」完璧主義なのか、どういう「基準」でそれを測定できるのか、十分に考えていただきたいのです。

ちなみに私の経験から言うと、本当の完璧主義は100人に1人です。もし10人いると思ったら、9人は「そう見えるだけ」か「自称」に過ぎません。

そう考えると、残念ながら完璧主義など幻想だと思った方が良いのかもしれません。

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第1,052話 初対面がオンラインだと記憶に残りにくい

2021年09月01日 | 研修

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会議、面談、研修やセミナー、授業、営業活動、診療等がオンラインを通して日常的に行われるようになり、既に1年半ほどが経過しています。テレワークを積極的に取り入れている企業では、部下の育成もオンラインによって普通に行われている今日この頃です。

先日、私が2019年の初めの頃に担当させていただいた研修資料を再び見る機会があったのですが、そこには「部下が出向等で毎日顔を合わせられない環境の場合には、ZoomやSkypeを利用するのも一つの方法です」と記していました。これらは今や当たり前のように利用されているわけですから、改めてこの2年半でコミュニケーション手段が大きく様変わりしたことがよく分かります。

私自身、最近はほぼ毎日のようにオンラインの打ち合わせや研修を行っています。特に、打ち合わせに関しては遠方の会社の人であっても必要に応じて即つながることができますので、メリットを十分に感じています。またこの間、オンライン研修を担当させていただく経験をたくさん積みましたので、対面で行っていたときと全く同じ成果は得られなくても、演習もロールプレイングもそれなりに工夫ができるようになってきました。ですので、オンラインを使った研修に関しては、最近は導入当初ほどの抵抗感はなくなってきているように感じています。

しかし、今でもオンラインではどうしても難しいと感じているのが、対面での面識がない人とのオンラインでの接点です。私はこれまでの研修では、受講者の顔と名前を覚えることは苦にならなかったのですが、オンラインでは最初に覚えたとしてもそのまま記憶を保ち続けることができず、ちょっと経つと忘れてしまうのです。

たとえば、前半に2日間の研修を行ってインターバルを2ヶ月くらい空けて、また後半に2日間、合計4日間の研修を担当することがありますが、対面であれば前半の2日間で受講者の顔と名前を覚えれば、後半の研修まで忘れてしまうようなことはなかったのです。ところが、オンライン研修では、前半の研修で名前と顔を一致させることができても、後半の研修が始まる前に名簿を見ても、顔を全く思い出せなくなってしまうのです。

このようなことは一度や二度ではなく、オンライン研修では毎回同じようなことが起きてしまっていますので、オンラインというのは初対面の印象を残すことが難しいのではないかと考えているのです。対面であれば、顔だけでなく姿かたちを含めて全体の雰囲気を捉えることができますが、オンラインでは基本は顔だけですので、情報自体とそれによる印象が限定的になるのだと思います。

もちろん、研修は受講者の名前や顔を記憶に残すことが目的ではありませんので、受講者の顔を忘れても問題がないのでは?というようにも考えられます。しかしせっかくご縁があって接点を持った方達ですので、私としては記憶に残らないということは少々残念に感じています。

いずれコロナ禍が収束しても、オンラインを通じたコミュニケーションは続くと思いますが、オンラインで接した人の記憶や印象を残すためにはどうすればよいのか、これが今後の課題になりそうです。

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