北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

■星星會展―日本画の伝統と未来へ (2013年9月6日~23日、札幌。その後、東京、名古屋、京都、広島に巡回)

2013年09月22日 01時22分00秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 下田義、竹内浩一、田渕俊夫、牧進の4氏によるグループ展。
 隔年で開かれ、当初から5回で完了する計画であったという。北海道での開催は、5回目にして初めて。
 牧(1936~)が元青龍社(解散)でいまは無所属、田渕(1941~)が院展、竹内(1941~)が日展、下田(1940~)が院展と、所属団体は異なるが、写実をベースにした日本画という点では共通する。
 道内で定期的に開催されている日本画展は、道内在住・ゆかりの画家のものを除けば、「春の院展」だけ。日本画の大作がこれほどたくさん展示されることはめったになく、非常に貴重な機会である。 

 この手のグループ展の結成にあたっては、北海道では考えられないことだが、画商が絡んでいる場合がある。
 今回も高島屋(百貨店の老舗)美術部が舞台裏で汗をかいているようだ。
 ただ、この展覧会については、すべて大作で、売り絵サイズのものはない。

 下に引用した文章の中に「低迷する日本画壇に新風を吹き込むべく」とあるが、画風的には、近年の山種賞などを受賞しているような抽象画的作品ではなく、あくまで花鳥風月というか、自然に目を向けた作品である。
 近代美術館を埋め尽くす作品があるのに、画面に人間がまったく登場しない。人間が作ったものも、田渕俊夫の絵に高層ビル群が題材になっているのが1点あるが、あとは伝統的な建築や民家などがときおり登場するだけだ。竹内は、すべて動物だし、牧も、1点にすだれが登場するだけで、この2人にかんしていえば「人間のいない世界」である。
 現代美術や、絵画の流行には、少なくとも表面的には背を向けて、しかし単にこれまでの表現をなぞるのではなく、伝統に沈潜しながらも新しい機軸を求めようとしているのだと思う。

 下田は、春の院展では各地の連山などの絵を発表していたと記憶するが、今回は富士山が多い。
 北斎、大観、球子といった名だたる先達が得意にした題材だけにむずかしいものがあったと思うが、青を機軸に、すっきりとまとめている。そして、雄大さの中に、どこか人間の営みを感じさせるのが不思議なところである。
 技法的には、シルクスクリーンの写真の引用みたいに、シルエット的に、手前に川を描いているところがおもしろいと感じた。

 竹内は、白っぽい画面に、サルや馬など、動物を描写した作品が主である。
 いわゆる古典的な水墨画とは異なる手法で、墨のもつ表現の広さをあらわしてみたい―。そんな意図が感じられた。
 ヒヒやヒョウも題材になっているので、日本的な情緒に傾いているとはいえないだろう。
 注目すべきは、「かすか」など、草の茂みを白く抜いて描いた作品で、これだけの少ない要素で絵画を成り立たせているというのはすごい。

 田渕も水墨画に挑戦している。「水上雪情」など、余白を広くとり、墨1色なのに「五彩」を感じさせることに成功していると思う。
 中心は、着彩された風景画。滝、紅葉の山、水田など、色数を絞っており、簡素さと豪華さが無理なく同居しているようだ。水墨画で得たものを、フィードバックしているといえるのかもしれない。

 牧の絵で、うならされたのは、一瞬の「動き」を表現しようとくふうしている点だ。マンガなら、斜めの線をひけばよいが、日本画ではそうはいかない。上村松園「序の舞」は、一瞬の動きをわずかな着物のゆれで表現したが、牧の「春飈」「美麗相愛」も、一陣の風を描いている。ここには、風の瞬間と、静かな長い時間とが、同時に表現されているのだと思う。
 「夕永し」は、石ころの川べりに桜の花びらが散る。よく見ると、画面のあちこちにトンボがいる。春にもトンボがいるのだろうか。俳諧的な妙味を感じさせる。
 

 公式サイトに次のようにあった。

 星星會展は、2005年に第1回を開催し、以降隔年で展覧会を開催。8年間の活動を経て第5回展をもって完了するグループ展です。出展メンバーは下田義、竹内浩一、田渕俊夫、牧進の四氏で、自由な立場で創作活動に邁進し、新作の大作を中心に発表していますが、同世代の作家がその所属団体を越えて活動し、緊張感を持って新たな日本画の世界に挑戦する非常に意欲的な会になっています。作家と展覧会場側そして美術商が、日本画の伝統と未来について、対等の立場で話し合い、協力しあって、より豊かな成果を達成する事を目指しており、展覧会の前後には皆が集まってディスカッションを重ねるなど、常に充実した展覧会として、低迷する日本画壇に新風を吹き込むべく努力を続けています。

 この趣旨に賛同された故山辰雄先生に「星星會」と命名していただきましたが、先生は「小さな星でも切磋琢磨によって大きな星として輝くようになる」ことを願ってこの名を付けた、とおっしゃっていました。良き理解者であった山先生、平山郁夫先生も鬼籍に入られ、我が国の文化・芸術のあり方が改めて問われる状況にありますが、その一種の危機感の中でこの星星會のメンバーが、更に豊かな美の世界を創造し、画壇の牽引役として、その存在を大きなものにして行くことを強く期待する次第です。

 星星會の掉尾を飾る記念展となりますので、ぜひご高覧ください。


 なお、全文を引用したが、高山辰雄の「高」の字が、引用部では機種依存文字になっているため、文字化けしている可能性がある。
 ポスターを見ると、下田義の「寛」の字も、あしの右上に「、」が打たれた異体字になっているが、上記の引用では異体字になっていないようである。


2013年9月6日~23日(月)午前9時30分~午後5時(入場~4:30)、9、17日休み
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)
一般800円、中高大生400円

□公式サイト http://event.hokkaido-np.co.jp/seiseikai/



・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館」から約160メートル、徒歩2分
(手稲、小樽方面行きは、「北大経由」以外のすべてのバスがとまります。本数も地下鉄より多く、とくに札幌駅前やギャラリー大通美術館附近からは、この方法がおすすめ)

・地下鉄東西線「西18丁目」から約380メートル、徒歩5分
・市電「西15丁目」から約700メートル、徒歩9分



 以下、東京、名古屋、京都、広島を巡回。

2014年1月2日(木)~13日(月) 高島屋日本橋店
   2月8日(土)~3月2日(日) 松坂屋美術館(松坂屋名古屋店 南館7階)
   3月11日(火)~23日(日) 京都文化博物館
   4月17日(木)~5月25日(日) 広島県立美術館


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。