基本的にネタバレですが、直接的なネタバレには一部反転文字も使用します。
昔、ハロルド・プリンス版の上演を見てとても感動して、大好きだったミュージカルでした。再演だかの時に「日本最終上演」となっていてショックを受けて以来、いつかまた観られたら・・・と思っていた作品でした。
それが久々に再演、というので大喜びした・・・のですが、演出が日本人だと知って一抹の不安が・・・
それでもやはり楽しみにはしていました。
今回とてもチケット入手が困難だったようで・・・。久々にぴあの会員予約でなんとか入手できましたが、チケット買えなかった人も多かったようですね。
というわけで観てきたのですが・・・
うーん、ハロルド・プリンス版の印象があまりにも強い、と言ってしまえばそれまでなのですが・・・大作ミュージカルが、一気に「地味な小品」に変わってしまった感じです・・・
演出でここまで作品のイメージが変わってしまうとは・・・
もしかすると、演劇的な深みはハロルド・プリンス版よりも増していたかもしれません。ハロルド・プリンスの演出は、良くも悪くも、派手で、わかりやすい感じです。
今回の演出では、モリーナとヴァレンティンの最後の会話はもしかするとプリンス版よりも良かったかな、と思えました。プリンス版ではそのままの状況での会話でしたが、今回の舞台ではちょっと観念的な心の対話のような感じ?
プリンス版ではモリーナの健気さと優しさだけを感じたように記憶していますが、今回の演出では、モリーナの優しさでヴァレンティンが救われるところまで表現していたように思いました。
ヴァレンティンも、プリンス版ではモリーナになかなか心を開かずに冷笑的な感じで、モリーナを利用しようとし、最後の場面でようやく気づく・・・という感じでわかりやすかったですが、今回の舞台では、もっとモリーナに癒され、本当に心を開いていたように思えました。
まあこれは、演じる宮川浩さんと浦井健治さんの違いかもしれませんが。浦井健治さんのヴァレンティンはなんだかんだと繊細で優しそうでしたから。(ヴァレンティンというあの役でなりに、ですが)
そういうモリーナとヴァレンティンの心の動きとか、そういうのは深みが増していたかもなあ、と思います。だから、もしかしたら演劇としてはこちらの方が深いのかもしれませんが・・・
でも、ミュージカルとしてのこの作品の魅力は活かされてなかったよなあと。
演劇というなら、二人芝居などのストレートプレイもあるし、ミュージカルにはミュージカルの表現があると思うんですよね・・・
原作の小説、映画、ストレートプレイといくつものバージョンの「蜘蛛女のキス」がある中、ミュージカルはちょっと異色の存在だと思います。暗い刑務所の中から、オーロラの映画の場面が本当に出てくるのはミュージカルだけだそうです。(実は原作も読んでないし映画もみてません(汗))
その明るい場面が出てくることを、上手く活かせてなかったように思うのです。従来の、刑務所の中だけが舞台のバージョンと同じような感じになっていて・・・
プリンス版では、オーロラの出演シーンはそこまでやるか、というくらいに派手でした。オーロラの衣装も笑っちゃうくらい派手・・・サンバカーニバルみたい(汗)
その強烈な原色の色彩とラテン系のナンバーが、原作や映画と違う意味での南米らしさを醸し出して、そして強烈にモリーナの幻想と夢を描き出していたと思います。牢獄の暗さとの対比に目がくらむようで・・・
最後の夢のシーンなど、パーッと明るいセットになった中をモリーナの母が映画館の案内係の衣装で歩いてくるをところを見た瞬間にボロ泣きしたものです。あの暗い刑務所から明るい世界への転換が最も効いていたシーンだと思います。
今回の演出では、セットがかなり固定されてしまっていて、夢のシーンとの切り替えがあまりありませんでした。刑務所の中に部分的な幻想としてオーロラが出てくる感じ。アンサンブルも囚人服のままだったりして・・・
それはそれで悪くないのかもしれませんが、それでも決定的にプリンス版のインパクトには負けてましたし、ミュージカルとしてのこの作品の本来の魅力も伝えきれていなかったように思います。
オーロラ=蜘蛛女の扱いも、プリンス版では死を表す蜘蛛女と、映画の中のオーロラ、この二つに限られていて、わかりやすいといえばわかりやすかったですね。
今回の舞台では、蜘蛛女でありオーロラであり、さらにモリーナの分身でもあり、一種狂言回し的な役割も担っていたりして、いろいろやりすぎでどんな存在なのかがはっきりしなかった、と思います。
また、プリンス版では舞台前の鉄格子がものすごいインパクトだったのですが、その目玉がないのも・・・
鉄格子が動く時に使われていた機械的な音楽も、鉄格子がない中で流れているのはなんだか違和感でした・・・あの無機質な感じはやはり鉄格子にしか似合わないと思います。
あ、オケはまあまあ上手かったです。トランペットが音はずさないのなんて日本のミュージカルでは久々に聴きました・・・(汗)やっぱりラテンノリのナンバーが多くて、演奏的には難易度が高いので、ある程度上手い人を揃えて来たのでしょうね。
ふと、バーンスタインをひどいオケで演奏させていた某劇団のことが頭をよぎってしまいましたが・・・(汗)なんでこのくらいのレベルの人を集めて来られないんでしょうかね・・・
しかし、演奏は難易度高そうでしたが、意外と歌は難しくないんでしょうかね。いや、今回は以前の公演よりも歌の上手い人が揃ってたんですが、以外に前回公演よりも歌の印象が変わらなかったので・・・(汗)あ、浦井健治さんのソロはかなり良かったですが。
キャストですが、チラシでは美しいオカマになっていてうーむ、だった石井一孝さんのモリーナ、舞台ではちゃんと「美しくないオカマ」になっていましたし、熱演でよかったです。
ただ、ちょっと背が高くて、無力なオカマ、な感じが見た目薄かったかもしれません。蜘蛛女よりも背が高いし・・・(普通そう!?)
モリーナに関してはどうしても市村正親さんのイメージが強いので、比べるのは酷かなあと思いますが・・・
浦井健治さんのヴァレンティンは、頑張ってワイルドなメイクしてましたが・・・どこか繊細で優しい感じで、無理してるなーと思ってしまいました(汗)
ただ、その優しい感じのおかげで、モリーナに救われている部分もあっていいかな、とも思いましたが。
朝海ひかるさんのオーロラ=蜘蛛女は、踊りも綺麗だし、男役まんまの発声で低音のナンバーも迫力で良かったのですが、意外とかわいい感じでしたね。麻美れいさんの蜘蛛女はとにかく怖かったからなあ・・・。あのインパクトにはかなわなかったです。まあこれは多分に演出のせいだと思いますが・・・
サンクトペテルブルクの映画の場面、撃たれた後に「Viva la guerra, Viva revolusion」と歌うところで、死んだと思ったら何度も起き上がって歌って・・・というのがものすごくインパクトがあって好きだったのですが、普通に男の腕の中で死んでてちょっとショックです・・・
最後のシーンは、プリンス版ではもう泣きじゃくるくらいボロ泣きしたものですが、今回は涙全く出ませんでした・・・
先に少し書いたように、場面がはっきりと転換していないことも原因だったと思いますが、ヴァレンティンとマルタが踊ったりとか、いらない部分が多かったなあ・・・あそこはモリーナの夢の中、という視点をはっきりさせた方が良かったように思います。というか、私はそれでボロ泣きさせられたんですよね。
とまあとりとめもなく感想を書きましたが・・・始めの方に書いたように、演出が変わったことで、大作ミュージカルの名作が、渋い小品に変わってしまったような、そんな印象でした。いや、渋い小品でも名作ならいいんですが・・・(汗)
プリンス版の「蜘蛛女のキス」は、今まで見たミュージカルの中でもベスト5くらいに入る作品ですが、今回の「蜘蛛女のキス」は圏外ですね・・・。そのくらい差がありました。とても好きな作品だっただけに残念です。
いつかまたプリンス版が見たいなあ・・・。ブロードウェーでもリバイバルしたらいいのになあ。
昔、ハロルド・プリンス版の上演を見てとても感動して、大好きだったミュージカルでした。再演だかの時に「日本最終上演」となっていてショックを受けて以来、いつかまた観られたら・・・と思っていた作品でした。
それが久々に再演、というので大喜びした・・・のですが、演出が日本人だと知って一抹の不安が・・・
それでもやはり楽しみにはしていました。
今回とてもチケット入手が困難だったようで・・・。久々にぴあの会員予約でなんとか入手できましたが、チケット買えなかった人も多かったようですね。
というわけで観てきたのですが・・・
うーん、ハロルド・プリンス版の印象があまりにも強い、と言ってしまえばそれまでなのですが・・・大作ミュージカルが、一気に「地味な小品」に変わってしまった感じです・・・
演出でここまで作品のイメージが変わってしまうとは・・・
もしかすると、演劇的な深みはハロルド・プリンス版よりも増していたかもしれません。ハロルド・プリンスの演出は、良くも悪くも、派手で、わかりやすい感じです。
今回の演出では、モリーナとヴァレンティンの最後の会話はもしかするとプリンス版よりも良かったかな、と思えました。プリンス版ではそのままの状況での会話でしたが、今回の舞台ではちょっと観念的な心の対話のような感じ?
プリンス版ではモリーナの健気さと優しさだけを感じたように記憶していますが、今回の演出では、モリーナの優しさでヴァレンティンが救われるところまで表現していたように思いました。
ヴァレンティンも、プリンス版ではモリーナになかなか心を開かずに冷笑的な感じで、モリーナを利用しようとし、最後の場面でようやく気づく・・・という感じでわかりやすかったですが、今回の舞台では、もっとモリーナに癒され、本当に心を開いていたように思えました。
まあこれは、演じる宮川浩さんと浦井健治さんの違いかもしれませんが。浦井健治さんのヴァレンティンはなんだかんだと繊細で優しそうでしたから。(ヴァレンティンというあの役でなりに、ですが)
そういうモリーナとヴァレンティンの心の動きとか、そういうのは深みが増していたかもなあ、と思います。だから、もしかしたら演劇としてはこちらの方が深いのかもしれませんが・・・
でも、ミュージカルとしてのこの作品の魅力は活かされてなかったよなあと。
演劇というなら、二人芝居などのストレートプレイもあるし、ミュージカルにはミュージカルの表現があると思うんですよね・・・
原作の小説、映画、ストレートプレイといくつものバージョンの「蜘蛛女のキス」がある中、ミュージカルはちょっと異色の存在だと思います。暗い刑務所の中から、オーロラの映画の場面が本当に出てくるのはミュージカルだけだそうです。(実は原作も読んでないし映画もみてません(汗))
その明るい場面が出てくることを、上手く活かせてなかったように思うのです。従来の、刑務所の中だけが舞台のバージョンと同じような感じになっていて・・・
プリンス版では、オーロラの出演シーンはそこまでやるか、というくらいに派手でした。オーロラの衣装も笑っちゃうくらい派手・・・サンバカーニバルみたい(汗)
その強烈な原色の色彩とラテン系のナンバーが、原作や映画と違う意味での南米らしさを醸し出して、そして強烈にモリーナの幻想と夢を描き出していたと思います。牢獄の暗さとの対比に目がくらむようで・・・
最後の夢のシーンなど、パーッと明るいセットになった中をモリーナの母が映画館の案内係の衣装で歩いてくるをところを見た瞬間にボロ泣きしたものです。あの暗い刑務所から明るい世界への転換が最も効いていたシーンだと思います。
今回の演出では、セットがかなり固定されてしまっていて、夢のシーンとの切り替えがあまりありませんでした。刑務所の中に部分的な幻想としてオーロラが出てくる感じ。アンサンブルも囚人服のままだったりして・・・
それはそれで悪くないのかもしれませんが、それでも決定的にプリンス版のインパクトには負けてましたし、ミュージカルとしてのこの作品の本来の魅力も伝えきれていなかったように思います。
オーロラ=蜘蛛女の扱いも、プリンス版では死を表す蜘蛛女と、映画の中のオーロラ、この二つに限られていて、わかりやすいといえばわかりやすかったですね。
今回の舞台では、蜘蛛女でありオーロラであり、さらにモリーナの分身でもあり、一種狂言回し的な役割も担っていたりして、いろいろやりすぎでどんな存在なのかがはっきりしなかった、と思います。
また、プリンス版では舞台前の鉄格子がものすごいインパクトだったのですが、その目玉がないのも・・・
鉄格子が動く時に使われていた機械的な音楽も、鉄格子がない中で流れているのはなんだか違和感でした・・・あの無機質な感じはやはり鉄格子にしか似合わないと思います。
あ、オケはまあまあ上手かったです。トランペットが音はずさないのなんて日本のミュージカルでは久々に聴きました・・・(汗)やっぱりラテンノリのナンバーが多くて、演奏的には難易度が高いので、ある程度上手い人を揃えて来たのでしょうね。
ふと、バーンスタインをひどいオケで演奏させていた某劇団のことが頭をよぎってしまいましたが・・・(汗)なんでこのくらいのレベルの人を集めて来られないんでしょうかね・・・
しかし、演奏は難易度高そうでしたが、意外と歌は難しくないんでしょうかね。いや、今回は以前の公演よりも歌の上手い人が揃ってたんですが、以外に前回公演よりも歌の印象が変わらなかったので・・・(汗)あ、浦井健治さんのソロはかなり良かったですが。
キャストですが、チラシでは美しいオカマになっていてうーむ、だった石井一孝さんのモリーナ、舞台ではちゃんと「美しくないオカマ」になっていましたし、熱演でよかったです。
ただ、ちょっと背が高くて、無力なオカマ、な感じが見た目薄かったかもしれません。蜘蛛女よりも背が高いし・・・(普通そう!?)
モリーナに関してはどうしても市村正親さんのイメージが強いので、比べるのは酷かなあと思いますが・・・
浦井健治さんのヴァレンティンは、頑張ってワイルドなメイクしてましたが・・・どこか繊細で優しい感じで、無理してるなーと思ってしまいました(汗)
ただ、その優しい感じのおかげで、モリーナに救われている部分もあっていいかな、とも思いましたが。
朝海ひかるさんのオーロラ=蜘蛛女は、踊りも綺麗だし、男役まんまの発声で低音のナンバーも迫力で良かったのですが、意外とかわいい感じでしたね。麻美れいさんの蜘蛛女はとにかく怖かったからなあ・・・。あのインパクトにはかなわなかったです。まあこれは多分に演出のせいだと思いますが・・・
サンクトペテルブルクの映画の場面、撃たれた後に「Viva la guerra, Viva revolusion」と歌うところで、死んだと思ったら何度も起き上がって歌って・・・というのがものすごくインパクトがあって好きだったのですが、普通に男の腕の中で死んでてちょっとショックです・・・
最後のシーンは、プリンス版ではもう泣きじゃくるくらいボロ泣きしたものですが、今回は涙全く出ませんでした・・・
先に少し書いたように、場面がはっきりと転換していないことも原因だったと思いますが、ヴァレンティンとマルタが踊ったりとか、いらない部分が多かったなあ・・・あそこはモリーナの夢の中、という視点をはっきりさせた方が良かったように思います。というか、私はそれでボロ泣きさせられたんですよね。
とまあとりとめもなく感想を書きましたが・・・始めの方に書いたように、演出が変わったことで、大作ミュージカルの名作が、渋い小品に変わってしまったような、そんな印象でした。いや、渋い小品でも名作ならいいんですが・・・(汗)
プリンス版の「蜘蛛女のキス」は、今まで見たミュージカルの中でもベスト5くらいに入る作品ですが、今回の「蜘蛛女のキス」は圏外ですね・・・。そのくらい差がありました。とても好きな作品だっただけに残念です。
いつかまたプリンス版が見たいなあ・・・。ブロードウェーでもリバイバルしたらいいのになあ。
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