正しい靴


D810 + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM

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ある靴屋さんで聞いた話である。
最近は緩めのフィッティングを好む人が増えてきた・・という。
もともと一般の人は緩めでストレスのかからない靴を好む傾向があるが、ベテランの中にも揺るめを支持する声が出ているという。

靴は使っているうちに馴染んできて、同時に底が沈んできて、新品の時とは形が変わってくる。
その状態になった時に、足に完全にフィットするのが理想である。
そのため最初はきつめのサイズを選ぶのが、「正しいフィッティング」だと言われている。
しばらくは血の滲むような、いや、実際に靴擦れで血が出る「修行」の日々が続くが、ある期間履き込んで足にフィットしてきた靴は、極上の履き心地になる。

その「原理」を十分に理解している人たちが、緩い靴を欲しがるのだという。
一般の人は靴を3、4足しか持っていないから、ローテーションしても同じ靴を週に2回程度は使うことになる。
しかし大体において靴が好きな人は、数十足から下手をすると3桁の数の靴を持っている。

となると、ひとつの靴を年に数回程度しか履かないことになる。
これでは毎日辛い「修行」ばかりになり、「極上」を味わう前に人生が終わってしまう。
その馬鹿馬鹿しさに気付き、緩めでも最初から楽して履いた方がいい・・ということになるのだ。

都内のある老舗の販売店は、きつめの靴を勧めることで有名であった。
また海外のあるブランドの直営店でも、お店にいる専門家がかなりきつい靴を「これがあなたの正しいサイズだ」と言って勧めてくる。
ところが最近は、だいぶその傾向が薄らいできたらしい。
その老舗の販売店でも、「こちらが本当のサイズだと思いますが、きついと感じられるなら無理にはお勧めしません。痛くなって履かなくなっても勿体ないので」と言うようになった。

もっともこれにはまた別の理由があるのだ。
ネット社会になって、あの店できつい靴を押し付けられたという批判が相次ぎ、お店の店員さんを個人的に攻撃する書き込みが出てきたのである。
それでお店側もやむなく対応の方針を変えた。

今までは紳士はこうあるべき、という格式を重んじてきた。
また、それを楽しむことが、この趣味の醍醐味でもあったのだろう。
しかし、ついて来れないやつは相手にしない、という強気の姿勢が通用しなくなってきた。
ネット社会になり多くの人に広く情報がいき渡るようになると、こういうところにも変化が現れてくる・・という例である。
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