酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ミューズ at さいたまスーパーアリーナ~世界を舞う雑食性の怪鳥

2013-01-14 22:45:51 | 音楽
 サマーソニックのヘッドライナーが発表された。メタリカ&ミューズと欧米で現在、動員力で一、二を競うバンドである。そのミューズの日本公演を一昨日(12日)、さいたまスーパーアリーナで見た。

 ミューズには雛の頃から注目していた。初期の発掘映像がYoutubeに次々アップされているが、当時の彼らからは、抒情と衝動を体現する蒼と赤の焔が昇っていた。洗練と抑制が加味されたのは初の公式映像「ハラバルー」(02年)の頃である。あれから10年、ミューズは世界を舞う怪鳥になった。

 俺は〝親バカ感覚〟でミューズを周囲に薦めてきたが、耳が肥えていると自任するファンに冷笑されるケースが多かった。ちなみにミューズは音楽評論家には褒められないバンドで、保守的かつ権威主義的な「ローリングストーン」には目の敵にされている。

 一方でミューズを評価するアーティストは多い。クイーンのメンバーは「最高のパフォーマンス」と絶賛し、ジミー・ペイジとも親交がある。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは、自らの活動20周年記念イベント(11年)にミューズを招いた。米オルタナ界の顔役、ペリー・ファレルは07年、主宰するロラパルーザでミューズをメーンステージのヘッドライナーに据え、全米ブレークのきっかけをつくる。ファレルはさらに11年の〝同日同時刻ヘッドライナー対決〟でミューズをメーンステージに上げ、セカンドステージのコールドプレイとの〝格の逆転〟を演出する。

 あれこれ書いてもきりがないので、12日のライブについて記したい。NME誌認定の<史上最高>はともかく、Q誌認定の<現役最高>に恥じないライブアクトにまたも圧倒された。

 Youtubeにアップされている欧州ツアーほどではないが、これまでの日本公演では見られない大掛かりなセットで臨んでいた。スクリーンを兼ねたピラミッドが吊り下がり、レーザー光線が客席に飛んでくる。エンターテインメント度を増し、変化、進化、深化のいずれの表現にも相応しいライブだった。最初にミューズを見た時の印象は、<好きな女の子に気に入られようと、滑稽な振る舞いを繰り返す少年>だった。サービス精神なんて計算ずくではなく、ファンへの愛を貫いていることが、成功の最大の理由ではないか。愛は時に報われるのだ。

 マシューの「ピラミッドは権力構造の象徴。それが倒立する意味はわかるよね」の言葉に、ステージに逆さまの星条旗を掲げるレイジの影響が窺われる。ウォール街を牛耳る輩を揶揄した「アニマルズ」から<権利のために闘え>とアジる「ナイツ・オブ・サイドニア」への流れ、逃げ惑う若者たちが映し出される「セカンド・ロウ・アイソレイテッド・システム」から「アップライジング(叛乱)」へと繋がるアンコールに、バンドの意思が表れていた。

 話は逸れるが、ライブの翌日の朝日朝刊1面に「夜をさまようマクド難民~非正規の職まで失う」の見出しで、深刻な雇用状況が記されていた。悪運だけで仕事を得ている俺にはグサリと痛い内容である。ミューズの'10欧州スタジアムツアーは、ロンドン蜂起の前触れというべき光景からスタートした。フードを被った怒れる若者が武器を手に立ち上がるという設定である。果たして今の日本に、マクド難民、漫画喫茶難民の心に届く歌は存在するのだろうか。

 俺がミューズに惹かれたきっかけは抒情性だった。母方が霊媒師というマシューの系譜はロマ(ジプシー)に連なるのではないかと勝手に想像している。前日(11日)には演奏されなかった初期ミューズのリリシズムを代表する「ブリス」、「サンバーン」、「ニュー・ボーン」の3曲に胸が熱くなった。新作「セカンド・ロウ」に抒情復活の匂いを感じたのは俺だけだろうか。

 大抵の男は惚れた弱みで、愛する女性を客観的に見られない。バンドもまた同様で、肉親の情まで加われば尚更だ。ウィキペディアの基本情報で、ミューズは<オルタナ、プログレ、シンフォニック、メタル>と紹介されている。聴いたことがない人は「何のこっちゃ」と思うだろう。いや、俺にとってもミューズは<矛盾がグツグツ坩堝で煮えたぎるようなバンド>としか言いようがない。アラカンの俺がもう少し付き合ってみようかと覚悟を決めたのは、その正体不明さゆえである。サマソニはラインアップ次第というところだ。

 パティ・スミスのライブが10日後に迫り、月末にはローカル・ネイティヴスの2ndアルバムが発売される。3月のグリズリー・ベア、5月のシガー・ロスはチケットを購入したが、迷っているのはイアン・アンダーソン(ジェスロ・タル)の単独公演だ。ロマの薫りが漂う匠の技に触れてみたい気もする。

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