酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

羽生名人の「人間の証明」~竜王戦を振り返って

2008-12-21 02:32:49 | カルチャー
 羽生名人(38)の強さをサラブレッドに例えるなら、3歳時に3冠馬になり、古馬GⅠで10冠以上を獲得したウルトラ名馬である。その羽生が竜王戦で、3連勝後にまさかの4連敗を喫した。渡辺竜王(24)には朝日杯でも敗れたので実際は5連敗である。

 防衛して永世称号(5期連続)を得た渡辺は「夢ではないか、現実であって欲しいと思った」と終局直後の感想をブログに綴っていた。藤井9段らのBS2の解説陣も、緩手を続けて指した羽生が優勢を引っくり返されたと分析していた。

 「打倒羽生世代」を公言してきた渡辺は、秋になると輝きを増す。森内9段から竜王位を奪い、2年連続で佐藤棋王、今期は羽生と下馬評を跳ね返して羽生世代を退けてきた。1~9月も同じ調子をキープできれば、羽生を追う棋士になれるだろう。

 今期竜王戦を世代交代の始まりと見るファンもいるが、俺の意見は違う。タイトル戦に出ずっぱりの羽生には、心身に疲労が蓄積しているようだ。仲間内で<神>と崇められる羽生もまた、我々と同じ人間だったのか。

 将棋は頭脳、精神、肉体をフル稼働させるゲームで、一日の対局で体重を3㌔近く落とす棋士もいる。タイトル戦では尚更だ。強敵がトレーニングと休養をたっぷり取って照準を定めてくるのだから、迎え撃つ羽生はたまったものではない。羽生は新年早々、王将戦7番勝負を戦う。挑戦者はマングース的存在の深浦王位だ。

 名人と竜王の不仲も話題になった。現状での実績は月とスッポンで、両対局者にライバル意識があるとは思えない。個性が水と油ゆえ、打ち解けることは難しかったのだろう。

 羽生も20代前半、勝負師の野性をむき出しにしていた。中原、谷川といった大棋士との対局で規定に反して上座を占め、物議を醸したこともあった。不惑に近づいた羽生は、孤高の求道者というイメージが強い。ユーモアと余裕、直観と詩的な表現に文系の匂いを覚えるほどだ。

 群れをつくらぬ羽生とは対照的に、渡辺はリーダーの資質がある。名人戦の朝日移行問題(06年)で、「信義にもとる」と毎日側に立ったのが渡辺だった。タイトル保持者とはいえ20代前半の若者が米長会長、中原副会長を向こうに回して論陣を張る姿に、将棋ファンは感銘を受けた。 

 二人が同じ大学、企業の研究者だったら、資質の違いは際立っただろう。羽生は田中耕一さんタイプで、ノーベル賞を授与されるレベルの研究者であっても、地位や役職と無縁のはずだ。一方の渡辺は積極的に研究成果をアピールし、学長や社長に登り詰めても不思議はない。

 今年は名人戦、竜王戦とも盛り上がったが、ファンの主流は40代以上のおじさんだ。先細りは確実だが、明るいニュースもあった。16歳の現役高校生、里見香奈が倉敷藤花(女流タイトル)を獲得する。棋界では男女の力量差は大きいが、里見の終盤力には定評がある。NHK杯の女流出場枠を獲得すれば視聴率アップは間違いない。対局者には相当のプレッシャーが掛かるだろう。

 最後に、朝日杯の予想ではなく願望を。POG指名馬セイウンワンダーにとって、3カ月ぶりの出走は大きなハンディだ。勝つのは難しいが、クラシックに繋がるレースをしてほしい。馬券はホッコータキオンとの2頭軸で3連単を買う。不信心の俺が、一足早いクリスマスプレゼントを期待しちゃいけないが……。


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