孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  中国対抗の幅広い国際関係構築を目指すマルコス氏 国内ではドゥテルテ家との対立激化

2024-03-31 23:26:05 | 東南アジア

(3月23日 中国艦船2隻から放水砲を受けるフィリピン補給船【3月24日 FNNプライムオンライン】)

【南シナ海で衝突が続く中比両国 マルコス大統領は強気姿勢】
周知のように、南シナ海のほぼ全域の領有権を主張する中国とフィリピンの間の小競り合いが続いています。

****南シナ海で中国船と2度衝突=比沿岸警備隊の船損傷、4人けが****
フィリピン沿岸警備隊は5日、南シナ海のアユンギン(中国名・仁愛)礁近くで、同隊などの船2隻がそれぞれ中国海警局の船舶に針路を妨害され衝突したと発表した。2隻とも船体の一部が損傷したという。

衝突があったのは同日朝。比沿岸警備隊艇はアユンギン礁に物資を運ぶ船を護衛していた。2度目の衝突の際、中国海警局の2隻の船舶が放水銃を使い、運搬船に乗っていた比海軍スタッフ少なくとも4人が負傷したという。

一方、中国海警局は同日、比側が故意に衝突させたと非難する報道官談話を発表した。【3月5日 時事】 
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23日にもフィリピンの補給船が中国船からの放水砲をうけて損傷、海軍兵士3人が負傷する事態に。

****中国放水砲「重大な損傷」 フィリピン補給船、南シナ海で****
フィリピン沿岸警備隊は23日、南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)の軍拠点に向かっていた補給船が同日、中国海警局の船2隻から放水砲の直撃を受け「重大な損傷」を被ったと発表した。中国船は補給船の前方を横切ったり、衝突しそうになったりするなど、危険な妨害行為も繰り返したという。

フィリピン軍は支援のため軍艦2隻を派遣。当初は沿岸警備隊の巡視船2隻が補給船の護衛に当たるとしていた。(後略)【3月23日 共同】
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フィリピン・マルコス大統領は中国の圧力に対し一歩も引かない強気姿勢を見せています。

「領土」に関する信念の問題もあるでしょうが、現実問題として、中国に対して強気姿勢をとった方が国民世論の支持を得やすいという政治的側面もあるのでは・・・とも個人的には推測しています。

更に言えば、対中国政策で宥和的だったドゥテルテ前政権との違いを見せることで、ドゥテルテ家との確執が明らかになっている次期政権への何らかの思惑もあるのでは・・・といったあたりは、全くの個人的邪推です。そのあたりは余裕があれば後述。

****比大統領「1平方インチも譲らず」=南シナ海、対中国で豪と連携****
フィリピンのマルコス大統領は29日、訪問先のオーストラリアの国会で演説し、「南シナ海を守ることは地域と世界の平和を維持する上で死活的に重要だ」と訴えた。

「外国勢力がわが国の領域を奪う企ては1平方インチたりとも許さない。われわれは決して譲歩しない」と述べ、南シナ海で覇権主義的動きを強める中国を強くけん制した。

南シナ海では、昨年12月に中国海警局の船舶がフィリピン船と衝突したり、放水銃を使用したりするなど緊張が高まっている。マルコス氏とアルバニージー豪首相は同日の会談で、南シナ海の安定化に向け、軍事・民間両面で海洋協力を強化する覚書を交わした。【2月29日 時事】
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****南シナ海での中国の危険行為に「沈黙せず」 マルコス比大統領****
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は28日声明を発表し、南シナ海で中国海警局の船に放水砲を浴びて補給船が損傷したり海軍の兵士が負傷したりしたのを受け、「沈黙するつもりはない」とし、対抗措置を講じる考えを示した。

マルコス氏は「いかなる国とも紛争に持ち込む考えはないが、われわれは沈黙したり、屈服・服従したりするつもりはない」と述べた。(後略)【3月28日 AFP】
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言葉だけでなく、海上保安を強化する動きも。

*****フィリピン、南シナ海の海上保安強化 指針策定へ、大統領令署名****
中国などとの間で南シナ海での領有権争いが激しくなる中、フィリピンのマルコス大統領が、同海の海上保安を強化する大統領令に署名した。大統領府が3月31日、発表した。地元メディアは「南シナ海で強まる脅威を象徴している」とし、緊張の高まりを伝えた。

大統領令でマルコス氏は「海洋域の安定と安全を推進している我々の努力にもかかわらず、私たちは領土だけでなく、国民の平穏な生活に対する深刻な挑戦と脅威に直面している」と指摘。「国家沿岸監視評議会」を「国家海事評議会」と改名・再編した上で、海上保安の強化に向けた政策と戦略、ガイドラインを策定すると説明した。(後略)【3月31日 毎日】
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中国側も、3月8日ブログでも取り上げたように、習近平国家主席が中国軍の会議に出席し、「海上軍事闘争の準備」を進めるよう指示しています。

【ドゥテルテ前政権と中国の間で「密約」か】
中国側のフィリピンへの圧力強化の背景には、対中国宥和路線をとったドゥテルテ前政権時代にかわされた「密約」があるとも言われています。

****フィリピン前政権に中国への譲歩疑惑 南シナ海問題で「密約」か****
フィリピンで、前政権が南シナ海の領有権問題で中国に譲歩する「密約」を結んでいた疑いが明らかになり、国民の間で反発が広がっている。「現状維持」が目的だったとされ、政府は前政権幹部に説明を求める方針だ。

約束はドゥテルテ前大統領が在任中(2016〜22年)、中国の習近平国家主席と口頭で交わしたとされる。ドゥテルテ氏の報道官だったロケ氏が3月末、地元メディアのインタビューで暴露した。

それによると、フィリピンは軍事拠点としているアユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)などで、建造物の修繕や新設を行わない見返りとして、中国が食糧補給を容認する内容だった。同時にフィリピンは中国に対し、中国が軍事拠点化したミスチーフ礁に構造物を設置しないことを求めたという。

アユンギン礁は、1999年にフィリピンが米軍の揚陸艦「シエラマドレ号」を意図的に座礁させ、軍事拠点とした。船は老朽化による沈没の可能性があるため、フィリピンは現在、修繕や他の構造物の設置を検討。中国が反発している。

ロケ氏はこうした状況について「中国側が、今もこの申し合わせが有効だと考えているためかもしれない」と説明。「しかし、現政権が申し合わせを引き継ぐと中国側が推測するのは間違っている」と述べた。

両国間の領有権問題は、フィリピンが仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴し、同裁判所は16年、南シナ海のほぼ全域に権益が及ぶとする中国の主張を退けた。

中国は判決を無視して進出を続けたため、ドゥテルテ氏は経済関係を重視する観点から、中国に一定の譲歩をしていた。ただ22年に就任したマルコス大統領は方針を転換し、同問題に強い姿勢で臨んで日米などとの連携を強めている。

ロケ氏は「『密約』ではなく、比外務省を通じて公表された」と釈明しているが、フィリピンの南シナ海国家対策本部の報道官は「中比間のいかなる『紳士協定』も知らない。あったとしても現政権は破棄する」と述べ、当時の外相に説明を求めている。

当時の取り決めについてハーグでの裁判で比側法律チームに加わったアントニオ・カーピオ元最高裁判事は地元メディアで「判決で認められた比側の権利を放棄し、中国を利する行為だ」と批判した。地元メディアも「中国は、南シナ海における攻撃的な行動の正当化に利用しかねず、対立を激化させる」などと問題視している。

アユンギン礁付近では3月5日に続いて23日にも、中国海警局の船が補給活動に向かっていた比側の船に放水銃を使用し、3人が負傷した。これを受け両国高官は25日、電話で抗議の応酬を繰り広げた。中国外務省の声明によると、陳暁東外務次官は「両国間関係は岐路にあり、フィリピン側は慎重に行動すべきだ」と強調したという。

さらに中国側は、23日の補給活動の取材をしていたフィリピンメディアに対し「比側を被害者のように見せるために、動画を改ざんした」と非難し、比全国ジャーナリスト組合などが異例の反発声明を出した。

マルコス氏は28日、自身のSNS(ネット交流サービス)で南シナ海における中国側の行動を「違法で危険な攻撃」とし、近く対応策を講じると投稿した。具体的な内容は明らかにしていないが、「いかなる国、とりわけ友人であると主張する国との対立は望まない。しかし、沈黙や降伏、服従もしない」と述べ、緊張は高まっている。【3月30日 毎日】
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【アメリカ頼みでは「もしトラ」で不安 より幅広くネットワーク構築を目指すマルコス大統領】
現実問題としては、「一国だけでは『彼ら』に対抗できない。戦略的パートナーシップがこれまで以上に重要になる」(2月29日 オーストラリアを訪問中のマルコス大統領)ということで、フィリピンはアメリカを基軸に、オーストラリア、日本などとの連携を強めています。

上記オーストラリア訪問では、オーストラリアと安全保障協力を強める意向を示しています。

****日米比、南シナ海で初の合同監視=中国けん制、首脳合意へ―米報道****
米政治専門紙ポリティコは29日、日本の海上自衛隊と米国、フィリピンの海軍が、南シナ海で初の合同警戒監視活動を年内に実施する方向だと報じた。同海域で威圧的な行動を強める中国をけん制する狙いがあり、来月11日にワシントンで行われる日米比首脳会談で合意する見通しという。

南シナ海では、中国海警局の船舶がフィリピン船に衝突したり、放水銃でフィリピン側の乗組員にけがをさせたりと、危険行為をエスカレートさせている。合同の警戒監視活動が実現すれば、領有権を主張する中国の反発は必至だ。

2022年に就任したフィリピンのマルコス大統領は、中国傾斜を指摘されたドゥテルテ前政権の外交方針を修正。日米との関係強化を急いでいる。昨年6月には、日本の海上保安庁と米比の沿岸警備隊が初の合同訓練を実施し、3カ国の海洋安全保障協力を進めてきた。【3月30日 時事】 
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こうしたフィリピンの動きについて、中国は「アメリカに対し、フィリピンを南シナ海で事を荒立てるための駒として使わないよう求める」「フィリピンはアメリカの言いなりになるべきではない」(3月6日 中国外務省の毛寧報道官)と批判しています。

ただ、フィリピンとしても「もしトラ」を考えると、トランプ氏がどこまで後ろ盾になってくれるかは不透明。アメリカ頼みでは“はしごをはずされる”危険がありますので、より幅広く関係を広げたいところでしょう。

****南シナ海で挑発激化の中国 立ち向かう比マルコス大統領の戦略****
緊迫する南シナ海で23日、またもフィリピンの補給船が中国海警局の船舶から放水砲を浴びて複数の乗員が負傷し、船は航行不能になったと比政府が発表した。

南シナ海ほぼ全域の領有権を主張する中国が挑発行為や実力行使を激化させるなか、フィリピンのマルコス大統領は自国の権益を守るため、同盟国の米国はもとより、新たなパートナーのネットワーク構築を急いでいる。(中略)

そんな中、フィリピンは米国とフランスと合同で海上軍事演習を4月下旬から5月上旬にかけて実施することが分かった。香港紙アジア・タイムズ(電子版)によると、フランス海軍はフリゲート艦を派遣し、フィリピン海軍と沿岸警備隊、米海軍との公海でのいわゆる集団航行に参加する。このような合同演習がフィリピンの領海12カイリを越えて行われるのは約40年ぶりとなるという。

米紙ニューヨーク・タイムズは先日、中国に立ち向かうフィリピンのマルコス大統領が新たなパートナーのネットワーク構築を進めているとの記事を掲載。マルコス氏は緊迫度が増す南シナ海は地域の問題だけではなく、世界的規模の問題だと訴えた。

同紙は、マルコス氏が中国との領有権問題をめぐり、外交姿勢を強化しているため海上衝突がここ数か月でより頻繁になっていると説明。

一方でマルコス氏は、中国と領有権を争うベトナムとの沿岸警備隊の緊密な協力関係を約束。また、3月にはオーストラリアと海洋協力協定を締結。さらに3月中旬には約1週間の日程でドイツとチェコを訪問し、南シナ海のうち、西フィリピン海における海上安全保障について両国から支持を得た。

フィリピン大統領として10年ぶりにドイツを訪れたマルコス氏は12日、ベルリンでショルツ首相との会談後、「南シナ海は全世界の貿易の60%をつかさどっている。これはフィリピンや東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド太平洋地域だけの利益ではなく、全世界の利益でもある」と述べた。

チェコのパベル大統領は14日、防衛とサイバーセキュリティの分野でフィリピンに協力する用意があると述べ、南シナ海でのフィリピンの主張を「全面的に支持している」と明言した。

専門家らは、マルコス氏による一連の外交が中国抑止つながると指摘。その一方、中国政府が領有権の主張をさらに強化し、最終的にはフィリピンの同盟国である米国を巻き込む紛争のリスクを増大させる可能性もあるとした。

米政府は繰り返し中国の行動を非難し、武力紛争が発生した場合にはフィリピンを支援すると約束している。

2022年6月に就任したマルコス氏が推し進める外交戦略は、前任者のドゥテルテ氏のアプローチとはほぼ真逆だ。西側諸国を批判し、中国にすり寄ったドゥテルテ氏に対し、マルコス氏は米国や日本との伝統的な安全保障パートナーとの関係を復活させ、強化した。

また、スウェーデンやフランスなどと新たな関係を築き、武器取引や軍事演習を推進している。さらに、フィリピンは英国およびカナダと防衛協力を強化する協定を締結。これらはマルコス氏が昨年、大統領に就任して以来7か国と結んだ10の安全保障協定の一部だ。

マニラにあるデ・ラサール大学のレナト・クルス・デ・カストロ教授(国際学)はニューヨーク・タイムズ紙に、もしトランプ前大統領が来年政権に復帰した場合、フィリピンは米国だけに頼ることはできないとし、そのため新たな同盟国の必要性を指摘した。

「米国は今、政治制度も非常に不安定だ。ウクライナへの米国の軍事援助をめぐってもそうだ」とし、「トランプ氏が勝つとは限らないが、米国の国内政治が非常に不安定であるため、常に不確実性が存在する」と分析した。【3月25日 THE NEWS LRNS】
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【対立が激化するマルコス大統領とドゥテルテ家】
一方、フィリピン国内に目を転じると、マルコス家のマルコス大統領とドゥテルテ前大統領、その娘のサラ副大統領などドゥテルテ家の確執が明らかになってきています。

上記のような対中国政策の違いもそのひとつですが、将来的にはマルコス大統領の次を誰にするのか、ドゥテルテ氏長女のサラ副大統領が引き継ぐのか、あるいは憲法改正に手をつけてマルコス氏が長期政権に向かうのか、そこまではしないものの、マルコス氏のいとこで最側近の下院議長ロムアルデス氏に引き継ぐのか・・・といった権力闘争が背景にあってのことでしょう。そのあたりは2月3日ブログ“フィリピン 国際刑事裁判所、ドゥテルテ時代の超法規的殺害を捜査 ドゥテルテ・マルコスの「泥仕合」”でも取り上げたところです。

ドゥテルテ前大統領は、マルコス氏は「麻薬常習者」であり、続投を狙い憲法を改正しようとしていると非難。一方、マルコス大統領は、ドゥテルテ氏こそ長年の薬物摂取の影響を受けていると反論する・・・といった泥仕合の様相も。【1月29日AFP 1月29日共同より】

より直接的には、国内世論には支持されたものの国際的には批判があったドゥテルテ前大統領の「超法規的殺人」を含めた強権的・過激な麻薬対策をどのように評価するのか、ドゥテルテ前大統領に対する国際刑事裁判所(ICC)の捜査にどのように対応するのかという問題もあります。

****ICC対応で堪忍袋の緒が切れた****
(マルコス氏とドゥテルテ前大統領・サラ副大統領の)不協和音が響くなか、国際刑事裁判所(ICC)をめぐるボンボン氏(マルコス大統領)の発言でドゥテルテ陣営の堪忍袋の緒が切れた。ICCは前政権の「麻薬撲滅戦争」が「人道に対する罪」などにあたるとの告発を受け、捜査を続けている。

政府発表だけでも「戦争」にからんで6000人以上が殺され、その多くは司法の手続きを経ない超法規的殺人だった。ICCは前大統領や側近だったデラロサ国家警察長官(現上院議員)らが「大量虐殺」に関与した疑いをもち、逮捕状の発布も検討しているとされる。

前政権は捜査に反発し、2018年にICCに脱退を通告、1年後に正式に脱退した。ところがボンボン氏は2023年11月、ICCへの再加入を「検討する」と発言したのだ。

大統領選でサラ氏が候補の座をボンボン氏(マルコス氏)に譲った裏には、ICCへの非協力が最低限の合意だったとみられ、ボンボン氏はICCの国内捜査には協力しないとの姿勢を崩してはいない。

それでもサラ氏の「(副大統領を辞任して)中間選挙立候補発言」の翌1月23日、「国内捜査は主権侵害となる」として協力しないと話したものの、捜査員の入国自体に関しては「一般人としてフィリピンを訪れることは可能だ」との見解を示した。(中略)

麻薬戦争に対し、現政権は明らかに姿勢を変化させている。レムリア司法相は2024年1月、共同通信の取材に対し、麻薬戦争について「摘発のノルマを割り当てられた警察が証拠をでっち上げ、多くの無実の人が逮捕された」と批判し、「過ち」と断じた。

ボンボン・ロムアルデス陣営(マルコス氏といとこの下院議長)は、ICC捜査をドゥテルテ陣営牽制のカードとしているのではないかという疑心暗鬼がドゥテルテ側で強くなっている。

セバスチャン氏(ドゥテルテ前大統領の次男でサラ氏の弟 ダバオ市長)の「父を牢獄に入れたがっている」という発言とあわせ、ドゥテルテ陣営がICCの捜査の行方と現政権の対応に神経をとがらせていることは間違いない。【1月31日 柴田直治氏 東洋経済オンライン】
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****フィリピン麻薬戦争「やり過ぎ」 マルコス大統領、前政権を批判****
フィリピンのマルコス大統領は13日、訪問先のベルリンで同行記者団と会見し、ドゥテルテ前政権が行った「麻薬戦争」について「一部の人の意見では、やり過ぎがあった」と批判した。現政権は麻薬問題で「異なったアプローチ」を取っており、犠牲者の被害回復に目を向ける必要があると述べた。

国際刑事裁判所(ICC)はドゥテルテ前政権が「麻薬戦争」の薬物犯罪取り締まりで超法規的に行った容疑者殺害を問題視して捜査する方針だが、マルコス氏は支援しないと明言している。マルコス氏は、フィリピンでのICCの管轄権は認めないとドイツのショルツ首相に伝えたことも明らかにした。【3月14日 共同】
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中国とフィリピンの軋轢は小競り合いはあっても(両者に理性があれば)大事には至らない可能性が高いと思われますが、国内のマルコス陣営とドゥテルテ家の対立は火を噴く可能性があります。

マルコス大統領、ボンボンという名前のように名門マルコス家のお坊ちゃまで、気性の激しいサラ副大統領に取って食われてしまうのではないか・・・と思っていましたが、対外的にも国内的にも“攻める”姿勢のようです。
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フランス  再びイスラム教徒のヒジャブ校内使用が問題に 仏的価値観とイスラム的価値観の衝突

2024-03-30 22:50:24 | 欧州情勢

(フランス・リールで、ヒジャブ・アバヤを着て街を歩く女性(2023年8月28日撮影)【2023年9月9日 AFP】)

【フランスで重視される政教分離の原則とも言える「ライシテ」】
イスラム教徒女性の宗教的シンボルとも見なされるヒジャブ(髪を覆うスカーフ)は、キリスト教的価値観が強く、かつ、近年イスラム教徒移民が増加している欧州各国で社会的・政治的軋轢を惹起していますが、特に話題になることが多いのがフランス。

フランスでは、フランス革命以来の歴史的経過を踏まえて、一言で言えば政教分離の原則とも言える「ライシテ」という概念が重視されます。イスラム教に限らずキリスト教も含めて宗教的要素を公的な分野から排除しようとする考えです。

この考えに基づいて、2004年3月に施行された法律では、学校内でキリスト教の大きな十字架やユダヤ教徒のキッパ(帽子)、イスラム教のヘッドスカーフなど、「児童・生徒が自身の宗教を表立って示すシンボルや衣服の着用」が禁じられています。

ただ、2001年のアメリカ同時多発テロ事件以後、一部のイスラムに対する恐怖・嫌悪の高まりが、「ライシテ」本来の精神からの逸脱して、反イスラム的な「ライシテの右傾化」にもつながっているとの指摘もあります。フランスは欧州最多のイスラム教徒が暮らす国家でもあります。

【ヒジャブをめぐる脅迫事件 高まる反発】
そのフランスで昨年9月に問題になったのが「アバヤ」。イスラム教徒女性が使用する全身を覆い体形を隠すようなロングコート風の衣装です。

フランス政府は9月4日に始まった新学年から、全身を覆う女性の伝統衣装「アバヤ」の公立学校での着用を禁止しました。政府は学校での政教分離の原則に沿った措置としていますが、イスラム系フランス人からは、差別との反発も出ています。・・・・という話は、2023年9月4日ブログ“フランス 「政教分離の原則」が重視されるなかで問題視されてきた「アバヤ」 公立学校で禁止”でも取り上げました。

そのときも、イスラム教徒からの学校校長への脅迫事件がありました。

****「アバヤ」着た娘の登校認められず校長脅迫、男逮捕 仏****
フランス警察は8日、イスラム教徒の服「アバヤ」を着用した娘の登校を認めなかったとして校長を脅迫した容疑で、男を逮捕したと明らかにした。

エマニュエル・マクロン政権は先月、教育の場における世俗主義の規則に反するとして、学校でのアバヤ着用禁止を発表した。(中略)

警察によると、アバヤを着用していた娘は7日、通っている高校の校門で呼び止められ、アバヤを脱ぐよう命じられた。着替えを拒否したところ、登校を認められなかったという。

男は学校に電話をかけて警備員とスクールカウンセラーと話し、それぞれとの会話の中で校長を標的にした殺害予告を行ったとされる。

ガブリエル・アタル国民教育相は「言語道断だ」と非難した。校長は現在、警察の保護下にあるという。
オーベルニュローヌアルプ地域圏のローラン・ボキエ議長は、校長が「殺害と斬首」を予告されたと説明している。 【2023年9月9日 AFP】
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一部のイスラムに対する恐怖・嫌悪の高まりも問題ですが、一方で、イスラム教徒側の宗教的価値観への固執が「殺害脅迫」という行為に至る精神構造、極端に言えば「宗教的教えに背くものは殺していい」というような考え方も、欧米的価値観から受け入れられないものです。

ヒジャブに関して、同様の事件が再発しています。

****フランス、校長殺害脅迫に衝撃 イスラム教徒の怒り買う****
パリの高校で2月、校長が政教分離の原則により、イスラム教徒の女性が頭に巻くスカーフ「ヒジャブ」を脱ぐよう生徒に求めたところ、生徒が拒否し口論になる出来事があった。

一部のイスラム教徒から怒りを買った校長はその後、ネットで殺害の脅迫を受け今月28日までに辞職した。フランス国内に衝撃が広がっている。

キリスト教会と結び付いた王政を革命で倒した歴史を持つフランスは、憲法に政教分離の原則を明記。公立学校では宗教的シンボルを着用することが法律で禁じられている。

一方、同国は欧州最大のイスラム教コミュニティーを抱え、近年は学校で政教分離原則に違反する事案が増加。ヒジャブなどの着用を巡る論争がさらに過熱しそうだ。

仏メディアによると、校長は2月下旬、3人の生徒にスカーフを脱ぐよう要求。うち1人が拒否し口論となった。その後、SNSで殺害予告を受け「自身と学校の安全のため」早期退職を決断した。

学校での政教分離原則を揺るがしかねない事態に「恥ずべきことだ」「国家の敗北だ」などとの声が噴出している。【3月28日 共同】
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「世俗主義の問題について譲歩することはあり得ない」(学校長組合書記長)と反発が強まっています。

****学校でのヒジャブ問題 仏校長組合、「世俗主義」維持表明****
フランスの学校でイスラム教徒の女子生徒に頭髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」を脱ぐよう求めた校長が殺害予告を受けて辞職した件を受け、同国最大の学校長組合は29日、世俗主義(政教分離)について「引き下がらない」考えを示し、辞職した校長を擁護した。

(中略)(脅迫事件に)国内に反発が広がり、ガブリエル・アタル首相が、政府として教師および同国の教育の重要な柱である世俗主義を保護する方針を表明する事態に発展していた。

29日には、社会党の呼び掛けの下、同校前で集会が開かれ、パリのエマニュエル・グレゴワール副市長ら、政治家や学校長組合の関係者らが参加した。

その後の会見で仏最大の学校長組合「SNPDEN-Unsa」のブルーノ・ボルトキエビッチ書記長は、「われわれは絶対に引き下がらない」と主張。「交渉の余地はない。要するに世俗主義に関する問題に他ならない。この問題について譲歩することはあり得ない」と述べた。

欧州最多のイスラム教徒とユダヤ教徒人口を擁するフランスでは、世俗主義と宗教の問題をめぐり、たびたび論争が起きている。 【3月30日 AFP】
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【パリ五輪での仏の自国選手ヒジャブ禁止に国連人権高等弁務官事務所は反対 政教分離か、女性の権利か】
ヒジャブ問題はパリ五輪にも及んでいます。

「スポーツでも厳格な政教分離を徹底する」「公共の場では絶対的な中立性が必要」と自国選手のヒジャブ着用を禁じるフランスに対し、国連人権高等弁務官事務所は「女性が何を身に着ける必要があるか、あるいは着用してはならないかを制約すべきではない」と反対の立場です。

*****仏五輪選手対象のヒジャブ禁止に反対 国連****
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は26日、フランスが2024年パリ五輪に参加する同国の女性選手を対象にヒジャブ(頭部を覆うスカーフ)の着用を禁止したことに反対の姿勢を表明した。

フランスのアメリー・ウデアカステラスポーツ相は24日、テレビ局フランス3の番組で、五輪に出場する同国選手に対しヒジャブ着用を禁止すると言明。「それはいかなる形であれ宗教的な行動は禁じるということであり、公共の場での活動においては絶対的な中立性が求められるということだ」と説明した。

これについて、OHCHRのマルタ・ウルタド報道官はスイス・ジュネーブで記者団に対し、「女性が何を身に着ける必要があるか、あるいは着用してはならないかを制約すべきではない」と強調した。

ウルタド氏は女性差別撤廃条約を引き合いに出し、「特定集団への差別的行為は有害な結果を招きかねない」と警告した。

フランスでは厳格な世俗主義が堅持されており、公立学校や公務員を対象にヒジャブなど「宗教的象徴」の着用が法律で禁止されている。今年6月には、行政裁判所の終審である国務院が、女子サッカー選手のヒジャブ着用を禁じる規則を支持する決定を下した。 【9月27日 AFP】
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OHCHRのウルタド報道官は「服装のような宗教的信条による表現の制限は、公共の安全が懸念される場合など極めて特殊な状況でしか認められない」とも。

サッカーやバスケットボールなど各競技の国際連盟は近年、イスラム教徒の女性アスリートによるヒジャブ着用を認める傾向にありますが、フランスでは2016年、仏サッカー連盟が政教分離の原則から試合でのヒジャブの着用禁止を決定しています。

【多様性・自由を尊重する社会】
政教分離・世俗主義に抵触しないものに関しては、フランス社会は多様性を容認する社会でもあります。

****髪形を理由の差別、禁止法案可決 仏下院、黒人らを支援****
フランス国民議会(下院)は28日、職場での髪形による差別を禁止する法案を賛成多数で可決した。髪形を理由として就職を断られるケースが多い黒人らを支援する内容。今後、右派が多い上院で審議される。フランスメディアが伝えた。

法案は、雇用主が従業員に髪をストレートにすることや、アフロヘアやドレッドヘアなどを隠すよう求めることを禁じている。金髪や赤毛の人への差別も禁止する。

法案はカリブ海のフランス海外県グアドループ出身の黒人議員が提出した。米国の調査によると、黒人女性の4分の1が就職面接の際に髪形を理由に断られたと答えている。【3月29日 共同】
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多様性容認に加え、女性の権利擁護についても熱心です。
アメリカで国論を二分する問題となっている中絶について、(そのようなアメリカの動きを意識したものでしょうが)女性が人工妊娠中絶を行う自由を憲法で保障する法案が成立しました。憲法明記は世界初とか。

****フランス、中絶の自由を憲法で保障=世界初、議会で承認****
フランス上下両院合同会議(925議員)は4日、女性が人工妊娠中絶を行う自由を憲法で保障する法案を賛成多数で承認、同法は成立した。マクロン大統領の署名を経て近く公布され、改正憲法が施行される。人工中絶の自由を憲法に明記するのはフランスが世界初。

フランスは1975年に人工中絶を合法化し、約半世紀が経過。しかし、米連邦最高裁が2022年に人工中絶の憲法上の権利を否定したことなどを受け、「フランスでは女性の基本的な自由として保護すべきだ」という声が広がった。

パリ郊外のベルサイユ宮殿で行われた4日の採決結果は賛成780、反対72と、憲法改正に必要な5分の3の賛成を大幅に上回った。マクロン氏はX(旧ツイッター)への投稿で「新たな自由が憲法に加わることを歓迎しよう」と訴えた。【3月5日 時事】
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政教分離の「ライシテ」も、宗教的中立性・無宗教性および(個人の)信教の自由を保障するもので、イスラム的価値観を押し通そうとするイスラム教徒の言動は、こうした自由を侵害するもので受け入れられないということでしょう。
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スーダン内戦  「忘れられた紛争」で拡大する被害 「代理戦争」の側面も 武器としての性暴力

2024-03-29 23:09:18 | アフリカ

(【3月21日 BBC】 RSFのある大物とされる人物の投稿動画)

【「ラマダン停戦」も実現せず? ダルフール地方と首都ハルツーム周辺を抑えるRSF】
スーダンでは、昨年4月15日、国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生して、今もなお続いています。

“国連によると、戦闘により1万4000人以上が死亡し、安全を求めて国内で避難した人は約630万人、近隣国に逃れた人は約170万人に上る。”【後出 3月9日 毎日】

多大な犠牲者にもかかわらず、昨日ブログでも触れた国際社会の関心・注目が低い「忘れられた紛争」のひとつとなっており、最新の戦闘状況に関しては情報を目にしていませんが、今月始めの段階では「ラマダン停戦」が議論されていました。

****スーダン戦闘、ラマダン中の停止求める 国連安保理が決議案採択****
国連安全保障理事会は8日、アフリカ北東部スーダンで昨年4月から戦闘を続ける軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対して、イスラム教のラマダン(断食月)期間中の「敵対的行為の停止」を求める決議案を採択した。

国連によると、総人口の半分近くにあたる約2500万人が命の危険にさらされており支援を必要としている。
ラマダンは10日ごろからの約1カ月間。実際に戦闘停止につながるかどうかは不透明だ。

英国が提出し、日本や米国など14カ国が賛成、ロシアは棄権した。英国の代表は、決議に従ってスーダン軍とRSFの双方に銃を下ろすように求め、戦闘停止中に「信頼関係を築き、対話を通じた解決」を訴えた。

ロシアの代表は、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘に対する「即時停戦」を盛り込んだ決議案は、米国が阻んで安保理で採択できていないと指摘。「偽善的だ」と批判した。(後略)【3月9日 毎日】
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別にロシアを支持はしませんが、アメリカのパレスチナ・ガザでの対応とその他の紛争での停戦を求める対応に「二重基準」があるとの主張は一理あります。

“即応支援部隊(RSF)は土曜日、国連安全保障理事会によるイスラム教の聖月ラマダン(断食月)の敵対行為停止要請を歓迎した。”【3月11日 ARAB NEWS】とのことでしたが、停戦実現については“グテーレス事務総長は「どのようにすべきか悩んでいる」と述べた。”【同上】とのことでした。

その後、停戦が実現したという情報は目にしていませんので、結局、戦闘が続いていると推測されます。

戦況については、かなり古い情報になりますが、昨年11月段階では準軍事組織RSFがダルフール地方を制圧しつつあると報じられていました。

準軍事組織RSFは、かつてダルフール地方でアフリカ系住民数十万人が死亡、200万人以上が自宅を追われ“世界最悪の人道危機”とも呼ばれた悲劇を惹起したアラブ系民兵組織「ジャンジャウィード」を前身とする組織です。

****スーダン内戦の新局面か****
スーダンでは、(23年)4月15日に国軍(SAF)と準軍事組織RSFの間で内戦が勃発して以降、和平に向けた出口が見えない状況が続いている。

西部のダルフール地域で激しい戦闘が続いてきたが、12日付けファイナンシャルタイムズは、ここ数週間の間に、RSFがスーダン第2の都市ニャラやダルフール地域を広く制圧したと報じた。

これに伴って、住民に対する残虐行為が広くなされた模様である。EUのボレル外相は12日のコミュニケで、ダルフールにおいて2日間で1000人以上が殺害されたとして、「RSFによって、アフリカ系エスニック集団マサリット(Masalit)に対する民族浄化」があったと発表した。

ダルフールでは、2003年にも特定のエスニック集団に対する残虐行為が大規模になされ、国際刑事裁判所(ICC)の捜査へと発展した。今回も類似した状況に至っている。

RSFの首領モハメド・ハムダン・ダガロ(通称ヘメティ)は、ダルフールのアラブ系エスニック集団リゼイガト(Rizeigat)の出身である。

内戦の中でRSFが制圧領域を広げていく際に、アフリカ系エスニック集団を放逐する目的で、残虐行為が広がったとみられる。EUはICCを通じて、責任の所在を問う構えである(12日付ルモンド)。

スーダン内戦において、RSFがダルフールを、SAFがそれ以外の国土を制圧する構図が固まれば、隣国のリビアと同様の状況になる。

リビアでは、首都トリポリを中心とする西部を押さえる暫定政権派と、ベンガジを中心とする東部を押さえるリビア国軍(LNA)派とが国土を分割している。そして、LNAを率いるハフタル将軍はヘメティと同盟関係にあり、いずれもロシアのワグネルを利用してきた(12日付FT)。

RSFがアラブ系ネットワークを通じて西アフリカ諸国から人材や資源を集めていることは従来から指摘されているが、ワグネルを介したリビアから中央アフリカに至るネットワークも重要性を増すかもしれない。【2023年11月14日 武内進一氏 現代アフリカ地位研究センター】
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今年3月段階には、これまで国軍が支配的だった首都ハルツーム周辺でも、一部地域で準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)が主導権を握りつつあるとの情報も。

【「忘れられた」と言いつつも、水面下では多くの国が関与して「代理戦争」の様相も ロシア・ワグネル、更にはウクライナも】
「忘れられた」というのは各国の公の立場、メディア報道においての話で、水面下では多くの国が様々な利害からスーダンに関与しています。

戦闘が止まないこと、装備で国軍に劣るはずの準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)がここまで戦闘を継続できていることの背景には、それぞれ外国の支援をうけており、一種の「代理戦争」状態にもなっていることが指摘されています。

国軍側はイランからドローンなどの提供をうけていると報じられています。
準軍事組織RSFの方は、アラブ首長国連邦(UAE)から武器支援を受けたとWSJが以前報じていました。更に、上記記事でも出てくるロシアの民間軍事会社ワグネルの支援をうけていました。

RSFは金鉱山開発に関わっているとされ、その資金がワグネルに流れていたと思われます。ワグネル解体後も、ロシアはこの権益を引き継ぐ形で関与を継続しているとも推測されます。

そうした形でロシアに流れる資金はウクライナでにの戦争に使われますので、ウクライナがこの資金のながれを絶ちたい思惑でスーダンに関与する・・・という事態にも。

****ワグネルが支援するスーダン準軍事組織への攻撃、背後にウクライナの特殊部隊か 「公算大きい」と軍情報筋**** 
東アフリカのスーダンの首都近くでロシアの民間軍事会社ワグネルの支援を受ける民兵に対しドローン(無人機)と地上作戦による攻撃が相次いで行われた事案で、攻撃の背後にウクライナの特殊部隊がいる公算が大きいことが分かった。CNNの調査で明らかになった。これを受け、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が本来の前線を越えて広がったとの見方が出ている。

CNNの取材に答えたウクライナ軍の情報筋は、当該の作戦を「非スーダン軍」の活動と形容。ウクライナ政府が攻撃の背後にいるのかとの問いに対しては、「ウクライナ軍の特殊部隊によるものである公算が大きい」とだけ答えた。作戦ではスーダンの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対して一連の攻撃が加えられた。(中略)

CNNは一連の攻撃におけるウクライナの関与を独自に確認できなかった。ただ入手した動画の映像からは、ウクライナによるドローン攻撃と思われる特徴が見て取れる。(後略)【2023年9月20日 CNN】
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【戦闘の実態 ドローン使用 ネット遮断 深刻化する飢え 「2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としている」】
他の紛争同様に、スーダンの戦争でもドローンが活用されています。

“(国際関係専門家の)K’achola氏はドローン攻撃が人権問題に重大な影響を与えることも指摘し、ドローンが戦闘員と非戦闘員を区別できないことを強調する。

「子供や高齢者を含む罪のない一般市民がこのような攻撃で犠牲になる可能性が、すでに悲惨なスーダンの状況をさらに複雑なものにします」と彼は付け加えた。

スーダンでの紛争が見せたのは、戦争が進化するという性質で、ドローンは世界中の軍事戦略でますます大きな役割を担うようになる。”【2023年6月18日 ARAB NEWS「スーダンのドローン戦争:形勢を変えられるか?」】

戦闘による被害状況については定かな数字はなく、“国連によると、戦闘により1万4000人以上が死亡”と言われていますが、実際は犠牲者は遥かに多い可能性があります。

ダルフールの“一つの都市だけで”RSFによって1万~1万5000人が殺害されたとも報告されています。

****1都市で1万5000人死亡 準軍事組織がアフリカ系襲撃―スーダン****
内戦状態が続くスーダンの西ダルフール州ジェネイナで2023年、準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による暴力で1万~1万5000人が殺害されたとする年次報告書を国連の独立監視団が19日までにまとめた。報告書は安全保障理事会に提出された。

中東で「地殻変動」 紛争生んだ2023年
スーダンでは昨年4月、正規軍とRSFの衝突が発生。国連は同国全土でこれまでに約1万2000人が死亡したと推定していたが、監視団の報告書はこれを上回る犠牲者が出た恐れがあることを示した。

報告書は、昨年4~6月にジェネイナで「激しい暴力行為」が発生したと指摘。RSFおよび同組織と連携するアラブ系民兵が、アフリカ系のマサリットと呼ばれる人々に攻撃を加えたとし、「戦争犯罪と人道に対する罪に該当する可能性がある」と非難した。【1月20日 時事】
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食糧不足も深刻で、“2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としている”(国境なき医師団)という状況。国連は緊急支援を要請しています。

****ネット接続遮断、数百万人が飢餓に直面 国連がスーダン緊急支援を要請****
国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の衝突が続く東アフリカのスーダンで、インターネット接続が遮断された。同国では10カ月近く続く戦闘で数千人が死亡、数百万人が家を追われている。

インターネット監視団体ネットブロックスは7日、スーダンでネット接続障害が起きていることを確認し、大手接続業者が3社ともサービスを停止していると伝えた。

スーダン外務省は、ネット接続障害の責任はRSFにあるとして非難した。RSFは現時点で公には責任を否定していない。

国連によると、現地の人たちは衝突を逃れることができず、差し迫った人道支援を必要としている。国連は、スーダンの緊急人道支援のために41億ドル(約6100億円)の拠出を要請。

同国の人口の半分に当たる約2500万人が支援や保護を必要とする状況にあり、数百万人が飢え、戦争によって住む家を追われていると指摘した。

国連人道問題調整事務所(OCHA)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は共同で、1470万人の人道支援のために27億ドル、近隣5カ国の難民支援のために14億ドルの拠出を求めている。

国連のマーティン・グリフィス緊急援助調整官は「10カ月に及ぶ紛争のために、スーダンの人たちは安全も、住む家も、生活の糧も、ほぼ全てを奪われた」と述べ、昨年集まった額は求めた額の半分にも満たなかったと言い添えた。

RSFは8日、近隣国や国際社会に対して緊急援助を要請し、スーダンの市民が「真の飢餓の可能性に直面している」と訴えた。

国境なき医師団によると、スーダンの北ダルフールにある避難民キャンプでは、2時間ごとに子ども少なくとも1人が栄養不良で命を落としているという。【2月9日 CNN】
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なお、ネットが遮断されると、生活を支えてきた電子送金もできなくなります。

アリ・モハメド駐日スーダン大使は以下のように「忘れられた紛争」の悲劇を訴えています。

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スーダンとウクライナの人道的状況と対応について、米国在住のスーダン人活動家たちが行った痛切な比較によると、スーダンの状況は深刻であり、支援を必要としている人の数と国内避難民の数は、ウクライナの367万人に対し、後者は900万人を超えている。死亡者数は12,000人以上で、両国とも同程度である。

ウクライナに提供された援助は770億米ドルにのぼるが、スーダンにはわずか8億4000万ドルである。【3月12日 ARAB NEWS「静かな苦しみが明らかに: 忘れられたスーダンの人道危機に光を当てる」】
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【戦争と復讐の武器として使われる性暴力】
犠牲者数、飢餓だけでなく戦闘被害の実態を見ると更に悲惨な様相も見えてきます。
前出記事で1万~1万5000人が殺害されたとも報じられている西ダルフール州ジェネイナで活動する日本人看護師の報告です。

*****指切られた少女、頭撃たれた少年…スーダンで活動の看護師「支援を」****
紛争で人道危機が続くアフリカ北東部スーダンで、国際医療NGO「国境なき医師団(MSF)」が現地派遣した神奈川県厚木市在住の看護師・佐藤太一郎さん(37)が治療活動を行っている。

佐藤さんは26日にオンラインで現地の状況を報告。「家事ができないように指を切られた少女など、言葉にして伝えるのも苦しい被害を受けた人たちがいる。心の傷を負う子どもらも多い。国際社会の支援が必須だ」と強調した。

佐藤さんは県内出身で東海大看護学科卒。同大医学部付属病院高度救命救急センターなどで勤務し2020年にMFSに参加した。23年4〜10月にチャドでスーダン難民を治療し24年1月からスーダン西ダルフール州ジェネイナで活動する。(中略)

ジェネイナでは地域唯一の機能する公立病院を支援する。「子どもや母親らは退院しても家に帰れない。食べ物も仕事もないから」という。PTSD(心的外傷後ストレス障害)で眠れない、しゃべれない子や性的暴力の被害女性らにさまざまなケアが必要で「紛争が終わっても長期的な対処がいる」と佐藤さんは強調した。【3月29日 毎日】
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ドローン使用による人権問題も提起されていますが、それはそれとして、ドローンより恐ろしいのは「人間」です。
スーダンに限らず、この種の戦闘では性的暴力が兵器として利用されます。

****内戦続くスーダンで相次ぐ性暴力被害、背景にはかつての民族紛争も****
昨年4月以来、国軍と準軍事組織「迅速支援部隊(RSF)」による内戦が続いているスーダンで、多くの女性が性的暴力の被害にあっている。

RSFは現在、西部ダルフールの広大な地域だけでなく、首都の南側の地域も掌握している。ダルフールは、アフリカ系とアラブ系のさまざまなコミュニティー間の暴力で、長年にわたって混乱している。

ダルフールから隣国チャドに逃れた女性たちはBBCに対し、RSFの戦闘員に、時には何度もレイプされたと語った。

スーダンとチャドの国境で女性たちを支援している団体は、こうした被害がアフリカ系の女性に集中していると指摘。戦闘員たちが紛争や報復の武器として、性暴力を使っていると非難している

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19歳のアミナさんは昨日自分が妊娠していると知りました。数分後には人工妊娠中絶を始めます。
家族には絶対知られたくないと思っています。

「スーダンではこういうことが起こります。私は結婚していませんし、ある事件を除けば性交渉の経験はありませんでした。」

アミナというのは仮名です。住んでいる街で起きた戦闘から逃げ出そうとしてつかまりました。数日にわたって拘束され、繰り返し強姦されたと言います。

「誰にも言いませんでしたし、誰にも知られたくなかった。」

アミナさんのような女性が受けている性暴力がスーダンでの紛争の特徴となっていると国連は指摘しています。戦争の武器として使われているのです。(中略)

スーダン全土で女性たちが内戦中に暴力の犠牲になっています。この内戦は多くの死者を出した民族間紛争の再燃でもあります。

20年間にダルフール地方でジェノサイド(集団虐殺)だとの批判の中、黒人コミュニティーの30万人が殺されたと国連は述べています。

現在の紛争で起きている女性に対する暴力の大半は準軍事組織(RSF)とその協力者によるものとみられています。
RSFのある大物はインターネットに投稿された動画で、戦闘員には女性を襲う権利があるとし、その理由を語っています。

「レイプだろうが、レイプでなかろうが、お前たちの娘や少女を犯すのは「目には目を」の原理だ。これが我々の国で、我々の権利で、我々はそれを行使した。」

批難の多くは虚偽だとRSFはBBCに述べました。そうした事態が起きたときは部隊が責任を持っているとも。

しかしザハラさんは、ダルフールでは黒人女性が狙われていると言います。
「なぜならレイプは家族や社会に影響を与えるからです。彼らはレイプを復讐の武器として使っています。」

今回の紛争では性暴力が蔓延しています。しかしこうした話題はタブーとされ、大きな恥や烙印を伴います。つまり声を上げたり治療を求めたりする人は被害者のほんの一部に過ぎないということです。

紛争がもたらした残虐行為の代償を普通の女性たちが払わされています。終わりが見えない中、さらに多くの人々が沈黙のうちに苦しむことになるかもしれません。

BBCニュースのマーシー・ジュマがチャドとスーダンの国境からお伝えしました。
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【3月21日 BBC】
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コメント
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ミャンマー  軍事政権崩壊の可能性も見えてきた今、行うべきこと 都市部市民生活の様相

2024-03-28 23:48:58 | ミャンマー

(画像は【3月28日 日経】 27日、首都ネピドーで行われた「国軍記念日」 ミンアウンフライン総司令官と思われます。”今月発表したミャンマー国民への意識調査(約2900人対象)によると、回答者の80%が民主化指導者のアウンサンスーチー氏を支持しているとしたのに対し、国軍トップのミンアウンフライン総司令官への支持は4%にとどまった”【3月27日 産経】とのこと。)

【「われわれは軍事政権の最終的崩壊の可能性を見ている・・・・今行動すべきだ。」】
世界には、多くの「忘れられた紛争」がある・・・・と言うより、国際的影響の重要性から注目されるのはごく一部の紛争(現在で言えば、ウクライナやパレスチナなど)だけで、その他の紛争・混乱は「忘れられている」のが実情でしょう。

ミャンマーにおける軍事政権と少数民族武装勢力及び民主派の戦闘もその「忘れられた紛争」のひとつ。

もっとも、ミャンマーは日本とも経済的・人的につながりがいろいろある、何と言っても同じアジアの国であるということで、まだ情報がある方ですが、例えばかつてダルフールで最悪の人道危機を引き起こしたアフリカ・スーダンの現在の内戦状況など気にはなっていますが、いかんせん情報がない・・・といったことも。

****<ミャンマー内戦の転換期>紛争が忘れられてしまっている理由と日本も見つめるべき世界情勢の「過渡期」****
ワシントンポスト紙コラムニストのキース・リッチバーグは2月23日付同紙掲載の論説‘A decent future for Myanmar is within reach — if the U.S. acts now’(米国が今動けばミャンマーのまともな未来は実現可能)において、最近の反乱軍による反攻成功の機会を捉え、米国はミャンマーに関与すべきだと論じている。要旨は以下の通り。
*   *   *
ミャンマー軍事政権は、反政府勢力の抵抗で撤退している。反乱軍は2021年のクーデター後出てきた抵抗勢力で、10月の反撃開始以降、数百の町や軍の拠点を占拠した。1月には、国軍は、シャン州中心都市ラウッカインが反乱軍の手に落ち投降するという最も屈辱的敗北を喫した。

切羽詰まった軍は、最低2年間若者を徴兵する計画を発表。結果、数千人がタイに逃亡しヤンゴンの西側大使館にビザの行列ができた。

だが、これは国軍が崩壊しかかっていることを意味しない。国軍は主要都市の防衛しやすい場所に撤退し長期戦に備えており、地上で追い詰められている一方、民間人への空爆を繰り返している。

反乱軍の無人機使用は効果的だが、国軍の優勢を変えられていない。国軍は百戦錬磨で良く装備され組織化されており、民間人に対し残虐だ。反乱軍は民族的地域的に分断されている。

ミャンマーには約13万5000人の20の民族民兵組織がある。21年のクーデター後に編成された元正統政府メンバーからなる国家統一政府(NUG)の軍事部門PDFには6万5000人の戦闘員がいるが、その多くは山岳地帯に隠れていた元学生で、重装備や統一指揮系統はない。

最近の軍の敗北は、PDFではなく民族民兵によるものだ。反乱軍の決定的勝利はまだ相当先の話で、長期化の方があり得るシナリオだ。

ガザ、ウクライナ戦争が続く中、世界の反応は皆無だ。隣国は無関心と軍事政権との関係維持の間で揺れている。

中国は軍事政権と緊密な関係を維持する一方、国境周辺の民族民兵を支援。シャン州の反乱軍の成功は中国の暗黙の支援が理由だ。中国はミャンマー国境周辺の無法地帯のコントロールに関心がある。同地域はインターネット詐欺や奴隷労働他多くの不法活動の中心だ。

この戦争をまともに終らせるため米国は多くをすべきだ。バイデン政権は既に手段を持っている。一昨年、米議会はビルマ法を可決。同法は人道支援供与と連邦制と民主主義支援、民兵とPDFに対する非致死性支援を呼び掛けている。しかしビルマ法には予算配分が無く実際支援は皆無だ。

ミャンマー内戦は転換点にあり、今米国が支援を増やせば変化をもたらし得る。
バイデン政権は全反乱軍グループと国家統一政府との対話を開始し共通議題である連邦制と民主主義の元に糾合し、反乱勢力が戦争に勝利するため、軍事政権の武器調達資金停止を始め、何を必要としているのかを聞くべきだ。バイデン大統領は、修正ビルマ法から削除された民主主義のための特別調整官指名を考えるべきだ。

われわれは軍事政権の最終的崩壊の可能性を見ている。その後に起こることに備えビルマが将来民主主義化する可能性を確かにするには、今行動すべきだ。
*   *   *
「チャレンジ・シェアリング」の時代
(中略)なぜこのように紛争が頻発しているのか。それは、われわれは「チャレンジ・シェアリング」の時代に入っているからだ。

米国はその能力についてはいまだに世界唯一の超大国と言って良く、その気になれば、ウクライナ戦争やガザ戦争を終わらせる力を持っているが、その力を使う意思が萎えている。

これまでは、米国が挑戦をすべて一人で解決し、その為に必要なコストの分担を同盟国・同志国に求める、という「バーデン・シェアリング」の時代だったが、現在は、コスト共有は当然として、挑戦の解決自体に同盟国・同志国が関与し、責任を分担しなければ紛争は解決しない。

しかし今は、欧州もアジアの同盟国もその現実に向き合い、必要な責任分担をするだけの準備ができておらず、いずれ米国がやるだろうという甘えがある「中途半端」な「過渡期」だ。

だからこそ、これだけ人命が毎日失われているのに、だれも紛争解決の責任を取ろうとしない。この状況で、責任の分担を通じてウクライナ戦争を止めることができるかどうかが、われわれが新たな時代に対応できるかどうかの試金石になる。

ミャンマーに対しできること
それでは、このことは、ミャンマー問題との関係では何を意味するのか。それは、当事者である東南アジア諸国(ASEAN)が、もう少し主体的に努力することが必要だということだ。まずは、ASEANが自身のミャンマー問題特別代表を早急に指名することが必須だ。

(中略)ただ、やはりそれだけでは重みに欠けるし、「チャレンジ・シェアリング」には不十分だ。そこで必要となって来るのが上記の論説も指摘する米国の特別調整官である。そして、同様のミャンマー問題担当者を重要なステークホールダー、即ち日本、中国、欧州連合(EU)の全てが指名すべきだろう。

この5人の特別代表が軍事政権と集中的に交渉を繰り返すのが、あるべき「チャレンジ・シェアリング」時代の対応にふさわしいのではないだろうか。【3月22日 WEDGE】
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【最近のASEANの取組 外相会議にミャンマー参加 タイ主導で人道支援開始】
ASEANは2021年4月24日の首脳級会議(ミャンマーからは、ミンアウンライン国軍司令官兼国家統治評議会議長が参加)において、ASEANの特使をミャンマーに派遣して国内対話を促すなど、5項目で合意に至りました。

1.ミャンマーにおける暴力行為を即時停止し、全ての関係者が最大限の自制を行う。
2.ミャンマー国民の利益の観点から、平和的解決策を模索するための関係者間での建設的な対話を開始する。
3.ASEAN議長の特使が、対話プロセスの仲介を行い、ASEAN事務総長がそれを補佐する。
4.ASEANはASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)を通じ、人道的支援を行う。
5.特使と代表団はミャンマーを訪問し、全ての関係者と面談を行う。

しかし、合意内容はほとんど履行されていません。
態度を硬化したASEAN側は、ミャンマー国軍が任命した外相らが主要会議に出席することを認めず、反発したミャンマー軍事政権はASEAN会合への欠席を続けてきました。

今年に入って、事態は若干動いています。
比較的軍事政権に寛容なラオスが議長国ということで、ASEANの新たなミャンマー特使アルンゲオ・ギッティクン氏(ラオスの元首相府相)が1月10日、首都ネピドーを訪問し、軍政トップのミンアウンフライン総司令及び一部の少数民族武装勢力の代表者と会談しました。拘束中のスー・チー氏との面会は報じられていません。

****ASEAN新議長国の特使がミャンマーを訪問、国軍総司令官と会談 暴力停止など「5項目の合意」を協議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)でミャンマー問題を担当する特使に就任したラオスのアルンゲオ元首相府相が10日、ミャンマーの首都ネピドーを訪れ、クーデターで実権を握った国軍のミンアウンフライン総司令官らと会談した。

現地からの情報によると、会談には、国軍が外相に任命したタンスエ氏らが同席。暴力の即時停止などを盛り込んだASEANの「5項目の合意」の履行状況や人道支援に対する取り組みなどについて話し合われたという。(中略)

また、アルンゲオ氏は、2015年にミャンマー政府と全土停戦協定に署名した少数民族武装勢力の代表者らとも面会した。(後略)【2024年1月11日 東京】
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こうした動きもあって、今年1月の外相会議にミャンマー側が「非政治的な代表」として外務省高官を派遣する形で、ようやくミャンマーの参加が実現しました。軍事政権が、内戦状況の深刻化や地域で孤立化を考慮して譲歩したものと見られています。

****ASEAN外相会議 軍政下のミャンマーから代表者 主要会議出席は約2年半ぶり、議長国ラオスは軍幹部との“対話”模索か****
ASEAN=東南アジア諸国連合の外相会議がラオスで行われ、ASEANの主要会議を2年半近く欠席し続けていたミャンマーの軍事政権から外務省の高官が参加しました。ASEAN外相会議は29日、今年の議長国を務めるラオスのルアンプラバンで開かれました。

2021年2月のクーデター以降、ミャンマーで実権を掌握している軍事政権は、ASEANの主要会議から事実上締め出されたことに反発し、欠席を続けてきましたが、今回は、ASEAN側が求める「非政治的な代表」として、外務省高官のマーラー・タン・タイク氏を派遣しました。

ASEANの主要会議にミャンマーからの代表者が出席するのはおよそ2年半ぶりで、地域での孤立を深める軍事政権が歩み寄りの姿勢を示した形です。

ミャンマーをめぐっては、ASEANは2021年4月、「暴力の即時停止」などを盛り込んだ5つの項目で合意しましたが、ほとんど履行されていません。

軍事政権に融和的な議長国ラオスは、軍政幹部を対話の場に引き戻すことを模索しているとみられますが、一部の加盟国は反発していて、和平計画の進展につながるかは不透明です。【1月29日 TBS NEWS DIG】
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上記1月のASEAN外相会議においては、紛争下のミャンマー国民に支援を届ける「人道回廊」構想をタイ政府が主導し、ASEAN各国が支持を表明しました。この動きが現実のものとなっています。

****ミャンマーへの人道支援開始=避難民に食料2万人分―タイ****
タイ政府は、紛争が続く隣国ミャンマーの国内避難民に向けた人道支援活動を開始した。国境に近いタイ北西部メソトで25日、支援物資の第1弾をミャンマー側に引き渡す式典が開かれた。

タイ外務省によると、支援物資は約2万人分の食料や生活必需品で、タイ赤十字からミャンマー赤十字に提供。東南アジア諸国連合(ASEAN)の担当者による監視の下、ミャンマー東部カイン州の3地域に届けられる。

ミャンマーでは昨年10月以降、クーデターで実権を握った国軍と少数民族武装勢力との衝突が激化。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、270万人以上が国内避難民となっている。タイは1月のASEAN外相会合でミャンマーへの人道支援を提案し、各国から支持を得た。(中略)

ただ、ミャンマー赤十字は国軍の影響下にあり、紛争地域に広く支援を行き渡らせるには、少数民族側の協力が不可欠だ。【3月25日 時事】 
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“今回の支援は一部の少数民族勢力の協力も得たとみられるが、今後も順調に継続できるかどうかが焦点となる”【3月25日 共同】とも。

【都市部の様相 国軍や警察の動きにどうにか折り合いをつけながら生活する市民】
3月18日ブログ“ミャンマー 徴兵制を嫌って国外脱出する若者 南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況”では、南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況を紹介しましたが、都市部ヤンゴンやマンダレーの状況については、以下のようにも。

****パスポート取得に30倍の賄賂も 徴兵制で急変したミャンマーの市民生活****
2021年2月の軍事クーデターから3年が経ち、ミャンマー国内ではエネルギー不足や治安の悪化が常態化している。昨年末には、限られた自由を謳歌しつつ日常生活を営む人々も見られたが、国軍が徴兵制の施行を宣言したことで空気は急変。国外脱出を試みる若者が増えている。

2023年12月、私は半月ほどミャンマーに滞在した。短期間ではあるが、最大都市ヤンゴンと古都マンダレーを散策し、市民生活の現状を垣間見た。(中略)

ヤンゴンなどの大都市に住む人々は、国軍や警察の動きにどうにか折り合いをつけながら生活するしかない。私の実体験を元に、都市部に住む一般市民の日常生活がどうなっているかをお伝えしたい。

治安の悪化と深刻なガソリン不足
まずは通信環境について。私はホテルではパソコンを、外出時はスマートフォンを使っていた。どちらもVPN(仮想プライベートネットワーク)が必須だ。スマートフォンについては現地郵電公社MPTのSIMカードを使ったが、それに加えてVPNアプリをインストールしておかないと全く繋がらない。(中略)

ただし、VPNアプリは時々勝手に切れるので、その度に再接続する必要があるし、そもそも繋がらない時もある。万が一外出時に繋がらなかったらお手上げだ。運に左右されるのが現状だ。

電力事情も悲惨だ。ヤンゴンでは国軍による計画的/強制的な停電が日常茶飯事で、これには軍に反発する一般市民への「兵糧攻め」の一面もある。停電の時間帯は地区ごとに異なり、輪番制で変わる。

外国人が宿泊可能な中級〜上級ホテルなどは基本的に自前の発電機を備えており、停電が起きても対処できる(たまに対処できない時もある)。しかし一般家庭はそうはいかない。(中略)日没後なら照明がつかないので蝋燭を灯すしかない。今の時代、一般家庭での照明として蝋燭を灯す国がどれだけあるだろうか。

夜18時を過ぎると人々は家路を急ぐ。夜は国軍や警察の動きが活発になるからだ。私が2023年6月にヤンゴンを訪れた時は「19時までにホテルに帰った方がいい」と地元の人に諭されたが、半年後の12月には「18時まで」に繰り上がっていた。そしてこの時間帯はタクシーがなかなか捕まらない。運転手も家に帰りたいからだ。(中略)

タクシーに比べてバスはずっと安価だ。しかし危険が伴う。ヤンゴンに住む友人から「集団強盗が流行っているから絶対に乗るな」と釘を刺された。相手はおよそ7〜8人のグループで、ターゲットを絞ると一斉に襲いかかって来る。他の乗客は見て見ぬ振りだという。

ガソリン不足も深刻だ。2023年12月はそのどん底の時期で、ヤンゴン市内で頻繁に給油待ちの車列を見た。しかもそれが道路の右車線を独占しているので渋滞の原因にもなっている。早い人は開店前、それも夜明け前からガソリンスタンドに並ぶ。しかし本当にそこで給油できるかはわからない。

タクシーで移動中、乗り捨てられた車が道路脇に放置されているのも目撃した。ガソリン価格の高騰ぶりも深刻だが、給油できない場合もあるというのが12月時点での状況だ。

物乞いや、それに準じた人々も多く見かけた。タクシーに乗り交差点で信号待ちをしている時、物売りの姿を見かけた。(中略)こういった光景はクーデター前にもあったが、目にする頻度は増えている。

日常を楽しむ若者たち
滞在中、私はデモに遭遇しなかった。ヤンゴンではクーデターが起きた当初大々的に行われていたし、それが沈静化した後はフラッシュモブと呼ばれる散発的に行う形に変わっていった。しかし今はそれすら見かけなくなった。国軍や警察のさらなる締め付けの結果なのだろう。

とはいえ、街を散策すると反国軍のメッセージを時々見かける。(中略)表立ったデモから、声の上げ方が変わったのだろう。

大変な状況である一方、笑顔溢れる市民の姿も多く見かけた。例えば夜の過ごし方。ヤンゴン港に面したコンテナがうずたかく積まれたエリアにはナイトマーケットや若者向けのクラブや船を改装したレストランがあり、派手な電飾をきらめかせながら営業を続けている。(中略) 

路上で拉致、賄賂で解放も
以上が、私が昨年末に現地で垣間見た市民生活だ。しかし年が明けて事態は急変した。2024年2月10日、国軍が「4月に徴兵制を始める」と発表したからだ。不足する兵力を補う為と見られる。市民の間では不安が広がっており、大使館にビザを求める若者が殺到している。

2024年3月、ヤンゴンに住む知人に、匿名を条件に今の市民生活や今後の不安/展望についてインタビューした。
――ここ最近、物価の高騰具合はどうですか? 私が訪れた昨年12月は特にガソリンが手に入らなかった印象ですが。
 並んでも手に入らないほどのガソリン不足は解消されましたが、値段は相変わらず高騰しています。12月より10%くらい上がってます。

――電力事情はどんな感じですか?
それもますます悪化しています。午前5時から午後6時までの間で毎日4時間、強制的な停電が起きています。午後5時以降は回復するけど、それは居住地区によりけりです。例えば明日、私の地区では午後5時から午後9時まで電気がつきません。(中略)

――最近ヤンゴンの路上で、若者たちが拉致されているというニュースを耳にしました。これは国軍によるものですか?
そうです。自宅からバス停までの間に(そういった拉致が)行われています。

――国軍の報道官は「徴兵制は4月から実施する」と言っています。まだ3月なのに、国軍が若者を拉致して入隊させているのですか?
まさにそうです。賄賂を払えば解放してくれる場合もありますが、運次第です。なぜなら、金が欲しいか人手が欲しいかはその時々によるからです。

――徴兵制の発表以降、外国への退避を希望する市民が増えているとの報道があります。例えばタイ大使館は申請者を1日400人に制限しましたし、日本大使館はビザ申請予約を電話ではなくメールに切り替えました。今、パスポートを申請するのは難しいのですか?
公式の手続きと非公式の手続きがあります。前者の場合、予約で大体4カ月待ちです。その後事務手続きを行い、さらに2週間後に受領できます。費用は5万チャット(約2250円)です。後者は、いわゆる賄賂です。受領まで7日で済みますが、費用は最低でも150万チャット(約6万7500円)かかります。(後略)【3月26日 新潮社Foresight】
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上記記事でインタビューに応じた者が今後の展開を左右するとして注目しているのが西部ラカイン州における少数民族の武装勢力「アラカン軍(AA)」の戦い。もしAAが勝てば、戦線はピィやバゴーといった最大都市ヤンゴン・首都ネピドー周辺に迫ります。

ミャンマー国軍は国軍記念日の27日、首都・ネピドーで大規模な軍事パレードを行いましたが、近年のパレードで登場していた戦車やミサイルは確認されなかったとのことで、首都防衛のため兵力を前線に優先配備したとの見方も。

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パレスチナ・ガザ情勢をめぐり深まるイスラエルとアメリカの溝

2024-03-27 22:56:50 | パレスチナ

(空中投下される支援物資=25日、パレスチナ自治区ガザ地区ガザ【3月27日 CNN】 ハマスは空中投下について、「攻撃的、誤り、不適切、役に立たない」として中止を、また、陸路の検問所を「即刻」開放するよう求めています)

【滞る支援物資搬入 相次ぐ痛ましい事件】
パレスチナ・ガザ地区の窮状を伝えるニュースは連日報じられていますが、下記のニュースもそのひとつ。

****海に落下した支援物資に住民が殺到、12人溺死 ガザ地区*****
多くの住民が飢餓寸前の状態とされるパレスチナ自治区ガザ地区で海に落下した支援物資に住民が殺到し、12人が溺れて死亡したということです。

ガザ地区では住民のおよそ4分の1が飢餓寸前の状態にあるとされています。北部の海岸沿いでは25日支援物資が投下され人々が殺到しました。

一部が海に落下したため多くの人が泳いで支援物資の確保に向かいました。この際、複数の人が溺れ、パレスチナ自治区の保健当局は、12人が死亡したとしています。

ガザ地区では今月8日にも支援物資のパラシュートが開かないまま落下して住民を直撃し5人が死亡する事故がおきています。住民は、安全に支援物資が行き届くよう一刻も早く陸路での搬入を拡大してほしいと訴えています。【3月27日 日テレNEWS】
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痛ましいとしか言い様がありませんが、周知のように2月29日には支援物資を受けとるために集まった群衆への発砲もしくは混乱で百名を超える死者が出ています。

****ガザ住民「112人死亡」 攻撃か事故か ハマスとイスラエル対立****
パレスチナ自治区ガザ地区北部で、食料を積んだトラックを待っていた多くの住民が死亡した事件で、ガザ保健当局は2月29日、少なくとも112人が死亡、760人が負傷したと発表した。

イスラム組織ハマスは、イスラエル軍による「住民を狙った意図的な攻撃」と主張。一方、イスラエル軍は多くの住民が一斉にトラックに集まったため、人の下敷きになったり、トラックにひかれたりして死亡したとしており、双方の見解が食い違っている。(後略)【3月1日 毎日】
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同様の事件はその後も。

****ガザで支援物資待つ市民29人以上死亡、イスラエル軍攻撃で=当局****
パレスチナ自治区ガザで14日、支援物資を待っていたパレスチナ人が2カ所で相次ぎイスラエル軍の攻撃を受け、少なくとも29人が死亡した。ガザ保健省が発表した。

このうちガザ中部の支援物資配給センターでは、イスラエル軍の空爆により8人が死亡。その後、ガザ北部では支援物資のトラックを待っていた群衆にイスラエル軍が砲撃し、少なくとも21人が死亡、150人以上が負傷した。

イスラエル軍は両事案について調査していると表明した。(後略)【3月15日 ロイター】
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イスラエル軍は、“物資を奪い取ろうとした群衆が押し寄せ、混乱の中でトラックに引かれた”として、住民へのイスラエル軍による戦車からの砲撃や空爆、銃撃はなかったとしています。

【ガザの窮状 責任は支援物資搬入を妨げているイスラエルに】
個別の事件の責任が誰にあるのかは定かではありませんが、ガザ地区はこうした事案がいくらでも起きうる極限状態にあります。

****ガザ北部、2カ月以内に飢餓の公算 110万人が危機に直面=報告書****
イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ地区ガザで、人口の約半数に相当する約110万人が「壊滅的な飢餓」のリスクにさらされ、とりわけガザ北部では2カ月以内に飢餓に見舞われる公算が大きい。国連が支援する「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」の報告書が18日公表された。

報告書は、ガザ北部での飢餓が差し迫っており、「3月中旬から5月までに発生すると予測される」と警告した。

さらに「3月中旬から7月中旬にかけ、南部ラファでの地上攻撃を含む戦闘が激化するという想定の下、ガザの人口の半数(111万人)が壊滅的な状況に直面する」と予測。この数は昨年12月に発表された前回の報告書からほぼ倍増した。

グテレス国連事務総長はIPCの報告書について、ガザの状況に対する「恐るべき告発」という認識を示した。その上で「完全な人災であり、こうした状況を阻止できると報告は明確にしている」とし、ガザ全域で人道物資の搬入を確実にするようイスラエルに要請した。

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表も18日、イスラエルがガザで飢餓を引き起こし、これを戦争の武器として利用していると非難した。【3月19日 ロイター】
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この状況をつくっているのはイスラエル軍が支援物資搬入を妨げていることです。
ハマス壊滅を優先するイスラエルは、ハマスとの関連を指摘するパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によるガザ北部への食料輸送を認めないと国連に通知しています。

****ガザの飢餓危機 子どもの命見捨てるな****
イスラエル軍の侵攻が続くパレスチナ自治区ガザで飢餓が懸念されている。同軍が食料などの搬入を妨げ、栄養失調による幼児の死亡例も報告されている。直ちに停戦するか、陸路での人道物資の搬入を保障するよう求める。

昨年からの戦闘でパレスチナ側の死者は3万2千人を超え、国連児童基金(ユニセフ)は1万3千人以上の子どもが死亡したと報告した。戦闘に加え、食料不足が子どもらを直撃。ガザ北部では2歳未満の子の3分の1が深刻な栄養失調に陥っている。

国連の「総合的食料安全保障レベル分類」は、戦闘が続けば、ガザ北部では5月までに飢餓が発生し、ガザ全体でも7月までに人口の約半分の111万人が飢餓に直面する恐れがあると予想する。

原因は通行権を握るイスラエルが過剰検査で物資搬入を妨げていることだ。イスラエルは食料不足は国連の能力不足が原因だと主張するが、医療用ハサミを理由に物資の搬入を拒んだ例もある。

配給所や配給を待つ人々への攻撃も絶えず、イスラエルはパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によるガザ北部への食料輸送を認めないと国連に通知した。

欧州連合(EU)高官は「飢餓が戦争の武器」になっていると非難。米国も食料や水の空中投下を始め、海上からの物資搬入に向けて仮設桟橋の建設も計画する。

しかし、空中投下で直下の人々が死亡する事故が起き、桟橋の稼働も5月初旬とされる。搬入の拡大には陸路に勝る方法はない。

国際司法裁判所は1月、ジェノサイド(民族大量虐殺)防止にあらゆる対策を講じるようイスラエルに命じており、即座に陸路による搬入拡大に応じるべきだ。

恒久的停戦が最善策だとしても子どもをはじめ多くの人々の死を座して待つわけにはいかない。
最大の援助組織であるUNRWAへの資金拠出は、一部職員がイスラム組織ハマスの攻撃に関与した疑惑で各国が停止していたが、カナダやスウェーデンなどが再開した。日本も人道的見地から速やかに拠出を再開すべきである。【3月27日 東京】
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UNRWAへの資金拠出については、“日本政府は4月前半にも、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を再開する方向で調整に入った。”【3月26日 読売】とのこと。

【ラファ侵攻を強行する姿勢を変えないネタニヤフ政権にバイデン政権も対応を硬化】
アメリカ・バイデン政権・与党民主党は、ガザの窮状の深刻化、事態への国際的批判の高まり、更にアメリカ国内でもパレスチナに同情的な声が強まり、イスラエル批判が高まっていることなどをうけて、従来のようなイスラエル擁護は再選戦略にとって足かせ・支障にもなりかねず、イスラエル・ネタニヤフ首相に対し厳しい姿勢をとりはじめています。

****「ネタニヤフ氏が和平の障害」米上院トップが異例の退陣要求 強まる対イスラエル圧力****
米民主党上院トップのシューマー院内総務は14日、イスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザの情勢を巡り、同国のネタニヤフ首相が「和平の大きな障害になっている」と述べ、ネタニヤフ氏が率いる右派連立政権の退陣を求めた。米議会の最有力者が同盟国イスラエルの指導者を批判するのは極めて異例。

ガザ攻撃や占領地ヨルダン川西岸への入植を続けるイスラエルにはバイデン政権もいらだちを深めており、今後、ネタニヤフ氏への圧力が強まるのは必至だ。

シューマー氏は同日の議会演説で、ネタニヤフ氏は「イスラエルの最善の利益より自身の政治的生き残りを優先し、方向性を失っている」とし、現政権が「同国の必要とするものにもはや適合していないのは明らか」だと語った。ネタニヤフ氏は収賄などの罪で起訴されており、ガザの戦闘が終息して公判が進めば政治生命の危機に直面する可能性が高いとみられている。

さらにシューマー氏は、ネタニヤフ氏が「ガザ市民の犠牲を進んで許容」しており、「イスラエルへの各国の支持を歴史的な低水準に押し下げた」と指摘。連立を組む「ユダヤの家」のベングビール国家治安相ら極右勢力が、ガザや西岸からのパレスチナ人排除を主張しているのを放置しているとも非難した。シューマー氏はユダヤ系で、長年、親イスラエルの立場をとってきた重鎮。

カービー大統領補佐官は14日、シューマー氏からホワイトハウスへ演説内容の事前通告があったと認め、政権として「(演説を)尊重している」と述べた。

ネタニヤフ氏を巡っては、米情報機関を統括する国家情報長官室(ODNI)が11日に公表した報告書で「指導者としての実行能力が危機的状況にある可能性がある」と分析した。

ネタニヤフ氏が党首を務めるイスラエルの右派与党「リクード」は14日、シューマー氏がネタニヤフ氏を批判したことについて、「シューマー氏の言葉と異なり、イスラエルの社会はハマスに対する完全な勝利を支持している」などとする声明を出して反論した。【3月15日 産経】
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共和党の指導部は、上記シューマー院内総務発言について、内政干渉であり「恥ずべきことだ」として謝罪を要求しています。

バイデン大統領も、多大な犠牲が予想されるイスラエル軍のラファ侵攻について思いとどまるようにネタニヤフ首相に要請しています。

****米大統領「ラファ侵攻は失敗する」 イスラエル首相に代替策提示へ****
バイデン米大統領は18日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で協議した。バイデン氏は、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区南部ラファへの大規模侵攻は「さらに多くの民間人の犠牲や人道危機を招き、失敗になる」と反対を表明。

米国が検討する「代替策」をイスラエル側に説明するため、軍事や人道支援などを担当する当局者による代表団の訪米を求め、ネタニヤフ氏も応じた。

ただ、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「ネタニヤフ氏が米国とは別の見方をしているのは明らかだ」とも指摘し、人道的配慮よりもイスラム組織ハマスの掃討を優先するイスラエルとの温度差が残っていることを示唆した。

両首脳の間ではガザ情勢を巡る意見の相違が表面化しており、電話協議も2月15日以来、約1カ月ぶり。サリバン氏によると、バイデン氏は電話協議で「ハマスがラファに安全な隠れ家を持つのは許すべきではないが、大規模な地上侵攻でラファの混乱が深刻となり、民間人が多数亡くなり、イスラエルは国際的にさらに孤立する」と指摘。「イスラエルの主要な目的は他の方法によって達成できる」と述べた。

協議後に記者会見したサリバン氏は、ラファに追い込まれたガザ市民の逃げ場がないことやラファが人道支援の受け入れ窓口になっていることなど、大規模侵攻の問題点を指摘。「代替策」の具体案は示さなかったが、戦闘終結後の政治的な計画が必要だと訴えた。両政府の協議は「今週末か来週始めにも開催する」と説明し、協議まではイスラエルがラファに大規模侵攻しないとの見方を示した。(後略)【3月19日 毎日】
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しかし、ネタニヤフ首相はラファ侵攻の姿勢を崩していません。たとえアメリカの支援がなくても・・・と強硬姿勢です。

****イスラエルと米の溝、鮮明…バイデン氏のラファ侵攻計画反対にネタニヤフ氏「団結し立ち向かう」****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は19日、クネセト(国会)の外交防衛委員会で、パレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの侵攻計画を巡り、「侵攻すべきでないという米国の立場に我々は団結して立ち向かう必要がある」と述べた。米国の意向に背くネタニヤフ氏の発言により、改めて両国の溝が鮮明となった。

ラファ侵攻計画に対し、バイデン米大統領は18日、多数の住民が巻き添えになる事態を想定し、「深い懸念」を表明していた。しかし、ネタニヤフ氏は国会で「(イスラム主義組織)ハマスを完全に壊滅させるためにラファへの攻撃を決意している」とバイデン氏に伝えたと説明した。(後略)【3月20日 読売】
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****イスラエル首相「支援なしでもラファ侵攻」 米国務長官と会談****
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルのネタニヤフ首相は22日、テルアビブでブリンケン米国務長官と会談し、ガザ地区南部ラファへの侵攻について、米国の支援が得られない場合でも「単独で実行する」と伝えた。

ブリンケン氏は会談後、ラファ侵攻は「イスラエルを孤立させ、長期的な安全を危うくする恐れがある」と懸念を示した。ラファ侵攻を巡る両国の温度差が改めて浮き彫りになった格好だ。(後略)【3月23日 毎日】
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一方、アメリカ側も「大きな間違い」「強行すればただでは済まない」(ハリス副大統領)と批判のトーンを上げています。

****米、ラファ侵攻断念を要求 ハリス副大統領「大きな間違い」****
ハリス米副大統領は24日放送のABCテレビのインタビューで、イスラエル軍が計画しているパレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの地上侵攻について、強行すればただでは済まないとの考えを示し、踏みとどまるよう要求した。

「大きな間違いだ」と訴え、米政府がイスラエルに対して何らかの対応を取る可能性を「排除しない」と警告した。
侵攻すれば、ラファで暮らす約150万人の避難民らは「どこにも逃げる場所がない」とし、民間人被害が拡大するとの危機感も表明した。

国際社会で侵攻断念を求める声が強まっており、イスラエルの後ろ盾となってきたバイデン大統領も「越えてはならない一線だ」としている。【3月25日 共同】
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なお、トランプ前大統領は、ハマスによる昨年10月7日のイスラエルへの奇襲攻撃について、自身もイスラエルと同様の反応をしただろうと理解を示しながらも、イスラエルは国際社会の支持を失いつつあるとし、ハマスとの戦闘を終わらせるべきとの見方を示しています。【3月26日 ロイターより】 イスラエル批判の高まりを感じているのでしょう。

【初のガザ停戦決議を採択=米棄権し黙認 反発するイスラエルは代表団派遣を中止】
こうした状況で、アメリカはこれまでのイスラエル支持の姿勢を修正して、国連安保理における「停戦決議」採択に拒否権を行使しませんでした。

イスラエルとハマスの軍事衝突が始まった昨年10月以降、事態の打開を目指す安保理決議の採択は3回目。アメリカがこれまで反対していた「停戦」(ceasefire)という文言が初めて決議に盛り込まれましたが、実現への道筋はたっていません。

****初のガザ停戦決議を採択=米棄権し黙認、イスラエル反発―国連安保理****
国連安全保障理事会は25日、パレスチナ自治区ガザで続く戦闘を巡り、イスラム教のラマダン(断食月)期間中の即時停戦を求める決議を採択した。昨年10月にイスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲して以来、安保理がガザでの停戦要求決議を採択するのは初めて。

全15理事国のうち、日英仏中ロなど14カ国が賛成した。イスラエルの後ろ盾である米国は「ハマス非難が含まれていない」として棄権に回った。米国はこれまで、外交交渉に支障が出るとして停戦の文言を含む決議案に反対してきたが、今回は拒否権行使を見送り、採択を事実上認めた。

一方、イスラエルは米国が拒否権を行使しなかったことに反発。予定していた米国への高官派遣を取りやめると発表した。

決議は「長期的で持続的な停戦につながるラマダン期間中の即時停戦」と「人質全員の即時かつ無条件の解放」を要求。「民間人に対する全ての攻撃に遺憾の意」を表した上で、人道支援拡大も訴えた。グテレス国連事務総長は採択を歓迎する声明を出し「失敗は許されない」と主張。決議の確実な履行を呼び掛けた。

パレスチナのマンスール国連大使は採択後、報道陣に対し、決議採択は「重要な一歩だ」と強調。イスラエルによるガザ最南部ラファへの侵攻を防ぐため、新たな決議案提出を目指すと明らかにした。【3月26日 時事】 
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反発するイスラエル・ネタニヤフ政権はアメリカへの代表団派遣を見送り、両者の溝は更に深まっています。

****イスラエル代表団見送り「失望」 米「支援姿勢変わらず」と強調****
カービー米大統領補佐官は25日、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ情勢を巡る協議で米国への代表団派遣を見送ったことに「大変失望している」と表明した。イスラム組織ハマス掃討を続けるイスラエルを支援する方針は「変わっていない」と記者団に強調した。

サリバン大統領補佐官は25日、ワシントンを訪問中のイスラエルのガラント国防相と会談した。

カービー氏は、国連安全保障理事会の即時停戦決議案の採択に米国が拒否権を行使しなかったのは、ハマスが拘束する人質の解放に向けた米国の立場が一定程度反映されているからだと説明。イスラエル首相府が米国を批判していることに「当惑している」と語った。【3月26日 共同】
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イスラエル・アメリカの深まりで、ラファ侵攻を強行しようとするイスラエルへの「歯止め」がかからなくなる恐れも指摘されていますが、イスラエルを支持して侵攻を容認するよりはましでしょう。イスラエルを止められるのはアメリカの本気の圧力だけでしょう。

戦闘休止交渉の行方は不透明感を増しています。

****イスラエル、ドーハ協議から交渉団引き揚げ ハマス要求で「暗礁」****
イスラエル当局者は26日、カタールの首都ドーハで行われているパレスチナ自治区ガザの戦闘休止を巡る交渉から代表団を引き揚げたと明らかにした。イスラム組織ハマスの要求で交渉が「暗礁に乗り上げた」ためとしている。

交渉はエジプトとカタールが仲介。イスラエル当局者は、ハマスのガザ地区トップ、ヤヒヤ・シンワル氏がイスラム教のラマダン(断食月)期間中に戦闘をあおる試みの一環として外交を妨害しているとしている。【3月27日 ロイター】
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民主主義  インド国民の“謎の自信” 「ナショナルな保守主義」の台頭 グローバルサウスには困難?

2024-03-26 23:12:19 | 民主主義・社会問題

(民主主義指数 【ウィキペディア】)

【「民主主義指数」ランキング 日本はまずまずの16位 アメリカは29位「欠陥民主主義」】
3月21日ブログ“世界幸福度ランキング 日本は143か国中、51位 1位フィンランドはどんな国?”では、「幸福」という極めて主観的・抽象的なものを国別に比較したランキングを取り上げましたが、「幸福」よりはまだ客観的な比較がしやすい(かも)と思われる「民主主義」に関するランキングも存在します。

****世界の「民主主義指数」日本は何位? 上位は北欧諸国、2024年は「選挙の年」になる****
イギリスの経済誌「エコノミスト」の調査部門が、世界の国々の「民主主義」の状況を10点満点で採点する「民主主義指数」の2023年版を発表した。

調査部門EIU(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)の「民主主義指数」は、60に上る指標のスコアを五つのカテゴリーに分類して集計。その平均値を総合スコアとしている。対象は167の国と地域。2023年版は24年2月15日に発表された。

ランキング1位はノルウェーで、総合スコアは9.81だった。最下位はアフガニスタンで0.26。日本の総合スコアは8.40で、世界16位にランクされた。

なお、アジア最上位は台湾で、世界の中では10位。韓国は22位、アメリカは29位、ロシアは144位、中国は148位、北朝鮮は165位だった。

上位5カ国のうち4カ国を北欧諸国(ノルウェー、アイスランド、スウェーデン、フィンランド)が占めた。反対に、最下位からの3カ国(アフガニスタン、ミャンマー、北朝鮮)はいずれもアジアの国々となった。

日本は上位だが「政治参加度」が低い
評価で用いたカテゴリーは、次の五つだ。
・選挙プロセスと多元主義 ・政府の機能度 ・政治参加 ・政治文化 ・市民の自由

日本の数字をみると、「選挙プロセス」や「市民の自由」は9点台だったが、「政治参加」は6.67で比較的低かった。
これに対し、台湾は「選挙プロセス」が10点満点、「政治参加」も7.78で日本より高くなっている。

EIUは総合スコアに基づき、167の国・地域を、完全民主主義(総合スコア10〜8)、欠陥民主主義(8〜6)、混合体制(6〜4)、独裁体制(4〜0)に4分類した。

「完全民主主義」に入ったのは24の国・地域で、世界人口に占める割合は7.8%にとどまっている。東アジアの台湾、日本、韓国は総合スコアが8点を超えて「完全民主主義」に入った。

EIUは日本について、「アジアの中で最も安定性の高い民主主義国」だと評価。直近の政治情勢については、「長期政権を維持してきた自民党が下野の危機に直面する可能性もある。しかし同国の民主主義の根幹が揺らぐことはないだろう」とコメントしている。

2024年は選挙の年 アメリカはどうなる
EIUのリポートは、世界全体をみると「2023年は民主主義にとって幸運な年ではなかった」と位置づけている。総合スコアの平均は5.29から5.23に低下。指数の発表を始めた2006年以来最低の記録となったという。

世界⼈⼝のほぼ半数、45.4%は「何らかの⺠主主義」のもとで暮らしているが、「完全⺠主主義」に住む⼈は7.8%で、2015年の8.9%から減少した。世界⼈⼝の3分の1以上は権威主義的統治下で⽣活しており、その割合は徐々に増えているとしている。

24年には世界人口81億人の半分以上を占める国々で選挙があり、「普通選挙導入以来、最大の選挙の年になる」という。リポートでは「選挙は民主主義の条件だが、それだけでは十分とは言えない」と指摘。

アメリカの大統領選については、予想通りバイデン大統領とトランプ前大統領の対決となった場合、「かつて⺠主主義の灯台であった国は、さらに分裂と幻滅に陥る可能性が⾼い」と予測している。【2月17日 吉沢龍彦氏 HUFFPOST】
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ちなみに29位のアメリカは総合スコアが7.85で「欠陥民主主義(8〜6)」に分類されています。

「選挙は民主主義の条件だが、それだけでは十分とは言えない」のは、先日のロシア大統領選挙のプーチン圧勝を始め、形式的選挙、欠陥選挙が世界中に溢れていることから明白です。結果、“「完全民主主義」に入ったのは24の国・地域で、世界人口に占める割合は7.8%にとどまっている”という状況にもなっています。

【インド 「デモクラシーは上手く動いている」と“謎の自信”】
今回、この「民主主義指数」を持ち出したのは、インドの民主主義に関する非常に面白い調査記事を目にしたからです。

インドでは、3月22日ブログ“インド 4月~6月に総選挙 与党BJP勝利でモディ首相は3期目に・・・との予測 野党有力者逮捕”で取り上げたように、4月から総選挙が行われ、モディ首相の与党BJPが勝利すると予想されていますが、その内実を見ると「なんだかな・・・」と思われることが少なくありません。

*****インドでは「民主主義の根幹である選挙」が正しくできていないのではないか? 専門家が指摘****
インド、総選挙を目前に野党の指導者が汚職で逮捕
4月に総選挙を控えたインドで3月21日、野党の指導者が汚職に関与したとして逮捕された。野党側は「総選挙を前にした弾圧だ」と激しく非難。モディ首相が3選を目指すインド総選挙は4月19日から各州で順次投票が始まり、6月4日に一斉開票となる。

(中略)
中川(戦略科学者の中川コージ氏))総選挙のない時期であれば、実際に汚職が起きた可能性もあるのでしょうが、総選挙の直前ですからね。(逮捕されたのは)野党の中核になるような人ですし。

なおかつ、総選挙は全国の選挙管理委員会が取り仕切るのですが、委員長1人と委員2人という重要なポストです。そもそもその1人が欠員だったことも問題ですが、直前の3月10日に突然、そのうちの1人が理由なく辞めてしまったのです。モディ政権から何か言われ、「支えきれなくなって辞めたのではないか」という噂が立っているくらいです。(中略)

インドでは、民主主義の根幹である選挙が正しくできているのか?
中川)日本でも政治とカネの問題が出ていますが、インドには「選挙債」というシステムがあり、誰に献金したかわからないようになっていました。それが野党側や最高裁判所の追及によって、ようやく選挙前に出てきたのですが、インド人民党(BJP)にたくさん裏金が流れていたという話がありました。正当性の面からも「きちんと選挙ができているのか」が問題になっています。(中略)

なぜ我々がインドを信用できるかと言うと、最終的には「民主主義だから」というところがあります。しかし、そもそも民主主義の根幹である「選挙ができているのか?」というところに、いろいろな意味で疑義が生じています。(中略)

インドでは約67%が専制政治を認めている
中川)ピュー・リサーチ・センターというアメリカのシンクタンクが、2024年2月に出した新しいデータがあります。「インド人は民主主義に対してどのような感覚を持っているのか?」という内容です。

専制政治に関して、「首相が議会の承認を得ずに何でもやってしまうことをどう思いますか?」と聞くと、アメリカではそれをOKとするのは約26%です。ほとんどの人が「専制政治はよくない」と答えている。また、日本では約33%の人がOKとしており、低い数字ですよね。(中略)

ところがインドでは、約67%の人が賛同しているのです。調べたなかではダントツに高い。過半数を超える人が「専制政治がいい」と言ってしまっている状態で、それはどうなのでしょうか。(中略)

官僚が仕切るテクノクラシーも認めるインド国民
中川)また官僚制についても、「公選を経ない官僚が仕切るテクノクラシーをどう思いますか?」と質問すると、アメリカでは約48%がOKだったのに対し、インドでは約82%がOKという結果が出ています。おそらく植民地時代の感覚があるのだと思います。官僚に対してリスペクトがありつつ、信奉してしまっているような。(中略)

軍が仕切ることもインド国民はOK
中川)「軍が仕切るのはどうですか?」という質問に対しては、アメリカでは賛成が約15%で、ほとんどダメですよね。日本でも賛成は約17%なので、ほとんどダメです。インドではどれくらいだと思いますか?(中略)

約72%がOKなのです。「軍でも官僚によってでもいい。また、専制政治もいい」と言っている。これは「完全に民主主義を望んでいないのではないか?」と思いますよね。

しかし、「デモクラシーは上手く動いている」と思うインドの国民
中川)しかし、「デモクラシーは上手く動いていると思いますか?」という最終的な質問に対しては、アメリカだと約33%が動いていると思っており、日本でも約35%が動いていると思っている。つまり、「デモクラシーが動いている」と思っているのは3分の1の人しかいないのですが、インドでは約72%が「動いている」と言っているのです。

謎の自信がある。専制主義がいい、軍による仕切りもいい、テクノクラートによる政治もいい、公選を経なくてもいいと思っているにも関わらず、デモクラシーについては72%が「上手く動いている」と思っている。(中略)

我々が持つ民主主義に対する考え方とは違う
中川)まさにインド人のマインドをピュー・リサーチ・センターのデータは表していると思うのですが、このマインドの違いが「民主主義に対する感覚とは違う」と思います。我々からすると矛盾ですよね。(後略)【3月26日 ニッポン放送 NEWS ONLINE)】
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首相専制、官僚制、軍に対するインドの寛容な調査結果の背景には、議会に対する不信感があるのかも。
それしても、「デモクラシーは上手く動いている」と思うインドの国民の“謎の自信”は、「我々が持つ民主主義に対する考え方とは違う」ことを示しているようにも。

一口に「民主主義」と言っても、なかなかその意味するものは曖昧で多様みたいです。
ちなみに、冒頭の「民主主義指数」では、インドは41位の「欠陥民主主義」ですが、フィリピン・インドネシア・タイ・シンガポールといった東南アジア諸国、スリランカ・ネパール・パキスタンといった南アジア諸国よりは上位にランキングされています。

【従来の「民主主義」の退潮傾向 台頭する「ナショナルな保守主義」 “恨みの政治”】
冒頭「民主主義指数」でみると、“総合スコアの平均は5.29から5.23に低下。指数の発表を始めた2006年以来最低の記録となった”ということにもあらわされているように、近年、従来の民主主義的価値を否定するような移民受入れやグローバリズムに批判的な「ポピュリズム」「極右」の台頭がアメリカを始めとして台頭が世界各地で見られます。

****移民や自由貿易が社会を悪くしているのか?「ナショナルな保守主義」の新たな台頭、「恨みの政治」を止めるためには****
Economist誌2月17日号が、移民を敵視し、社会的多元主義を否定し、国家の組織を支配しようとする「ナショナルな保守主義」が各国で広がりつつあることの危険を指摘する巻頭社説‘The growing peril of national conservatism’を掲載している。概要は次の通り。

1980年代に米国のレーガン大統領と英国のサッチャー首相が市場と自由を旗印に新たな保守主義を構築した。今日、ドナルド・トランプ前大統領とハンガリーのビクトル・オルバーン首相らは、そうした正統主義を破壊し、その代わりに、国家の主権を個人よりも優先し、国家主義的で「社会正義」を否定する(anti-woke)保守主義を作り出しつつある。こうした「ナショナルな保守主義」はグローバルな運動となりつつある。

「ナショナルな保守主義」は、個人が非情なグローバルな力に包囲されており、国家が個人の守り手であると見る。多国間機関への主権の共有を嫌い、自由市場はエリートに操られていると疑い、移民を敵視する。

社会的多元主義、特に、多文化主義を軽侮し、「社会正義」やグローバリズムに毒されていると見なす機関を解体することに執念を燃やしている。

「ナショナルな保守主義」はこれ以上広まらないだろうとの見方もある。脅威を与えるには一貫性に欠けているともみられている。しかし、そうした見方は許しがたいほど甘すぎる。

「ナショナルな保守主義」は、恨みの政治である。政策が良い結果を生まなければ、政治指導者はグローバリズム擁護者と移民に非難の矛先を向けて世界が悪くなっていると主張する。「ナショナルな保守主義者」たちは互いに手を取り合って、共通の敵である移民(特にイスラム教徒)やグローバリズム擁護者に敵意を向けてきている。

「ナショナルな保守主義」を軽く見ることができないのは、彼らが政権に就けばすべてが変わってしまうからだ。ハンガリーでの例が示す通り、彼らは、裁判所、大学、報道機関など国家の組織を掌握して権力を固めようとする。

旧来の保守主義者や古典的なリベラル派はどのように「ナショナルな保守主義」に立ち向かうべきか。一つの答えは、人々が持つ正当な恨みを真剣に捉えることである。

彼らの不満には耳を傾けるべき点がある。それを鼻で笑うことは、エリートの現実感覚からの乖離を示すだけだ。リベラル派も旧来の保守主義者もこうした不満を持つ層を相手にしていかなければならない。

人々の生活が危機にさらされているという「ナショナルな保守主義」がかき立てる恐怖を減ずるために、不満層の考えを一部取り入れてみることも必要であろう。

リベラリズムの強みは、状況に適応できることである。奴隷制度廃止や男女平等を目指した運動は、ある者は他の者よりも重要であるとの観念を壊した。社会主義による公平や人間の尊厳についての議論が福祉国家を作ることとなった。

リバタリアンによる自由と効率性についての議論が市場の自由化と国家権力の抑制に繋がった。リベラリズムは「ナショナルな保守主義」にも順応していかなければならない。今、その点で遅れを取っている。
*   *   *
ウクライナ戦争で「極右」が躍進
この論説では、「ナショナルな保守主義」との文言を用いているが、近年、「ポピュリズム」、「非リベラルな民主主義」などと呼ばれているものと重なるものだ。(中略)

8年前の2016年には、「ポピュリズム」が注目を集めた。英国のブレグジット国民投票での離脱派の勝利。米国大統領選挙でのトランプの勝利。いずれも、事前の予想を覆す結果であり、ポピュリズムの勝利と言われた。

その後、21年のドイツ総選挙、22年のフランス大統領選挙などが注目されたが、いずれにおいても、この論説にいう「ナショナルな保守主義」が勝利することはなかった。そのため、ハンガリー、ポーランドの動向はあったものの、「ナショナルな保守主義」への警戒は一段落している感があった。

そこに来て現在の展開である。22年のイタリアの総選挙、23年のオランダの総選挙において「極右」とされる政党が勝利した。今後、予定されている各国での選挙において勝利や躍進が予想されている。

各国それぞれの事情があるが、なぜこうした潮流の変化が起こったのかを考えると、ロシアによるウクライナ侵攻が一つの引き金となったと思われる。それが招いた物価高騰、生活苦の状況がこの論説が「恨みの政治」と呼んでいるメカニズムに再び拍車をかけたと見ることができよう。

世界の構図を変える恐れ
西側先進国では製造業の時代が過去のものとなり、国民の広い層に経済的利益を行き渡らせることが困難となった。グローバルな競争が激化し、サービス産業が中心となり、先端的なIT技術を生かすことができるかどうかで経済的な立場に大きな差がつく時代となった。

このように低成長の中、二極分化が進む状況は、「ナショナルな保守主義」への支持を生みやすい土壌を作っている。外的な衝撃や内部の事情があれば更に増殖する素地がある。

現在、世界を①西側先進国、②権威主義国家、③グローバル・サウスの三つのカテゴリーに分けて捉える見方が一般的だが、「ナショナルな保守主義」が西側先進国を覆っていくと、世界の構図は大きく変質することになる。

「ナショナルな保守主義」からすれば、西側先進国がこれまで依拠してきた「ルールに基づく国際秩序」は、少なくとも国内で政権を取るまでは、疑問を呈し攻撃すべき対象であった。米国の大統領選挙が注目され、米国の動向は重要だが、「ナショナルな保守主義」が支配するリスクがあるのは米国だけではない。

この論説は、ナショナルな保守主義への処方箋として、政権党が「人々が持つ正当な恨みを真剣に捉えること」、「相手の考えを一部取り入れてみること」を挙げている。人々の求めているものに合わせて政策を適合させていくことは、いずれの立場にとっても重要なことであるが、「ナショナルな保守主義」の主張をどこまで現実の政策に取り入れるべきかは考えどころである。【3月12日 WEDGE】
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【「決していいシステムではないけれど、これよりいいものはない」と達観するまで時間が掛かる民主主義】
3月18日から3日間の日程で韓国・ソウルで開催した第3回「民主主義サミット」(ブリンケン米国務長官が出席、岸田総理はオンラインで出席)に関連して以下の記事。

****民度があり、豊かな国でなければ「民主主義」はできない 「民主主義サミット」が韓国で開幕****
(中略)
民度があり、豊かな国でなければ民主主義はできない
宮家(外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦氏))民主主義について議論するのは、もちろん我々にとっては当たり前ですが、なかなか世界に広がっていかないところが不思議です。

もっとも民主主義は、簡単にできるものではありません。まず、暴力を使わない。言論だけで、しかも自由に話させ、切磋琢磨して投票に勝ち、議席を獲り、数合わせをする……これは大変なエネルギーを使いますし、よほど国民の民度が高くないとできませんよ。

しかも国が豊かでなければいけない。「民主主義サミット」とは言いますが、参加国は意外と少ないですよね。
(中略)アジアからはインドネシア、モンゴル、フィリピン、インド、ニュージーランド、オーストラリア。アフリカも少ないですよね。

要するに民主主義は、限られた豊かで民度の高い国でないと維持できないのです。グローバルサウスの多くが、もしくはロシアや中国があのように非民主的になるのは、実は仕方ないことなのかも知れません。

我々が享受している自由、民主主義がいかに貴重なものか
宮家)逆に我々は民主主義サミットだけでなく、いま我々が享受している自由、民主主義がいかに貴重なものか、使い捨てなどできない大事な価値だということを、もう1回考えて欲しいのです。(中略)「なくなったときのことを考えてください」と思いますね。

「決していいシステムではないけれど、これよりいいものはない」と達観するまで時間が掛かる民主主義
飯田)ある意味、グローバルサウスの国々では「経済を取るか、民主主義を取るか」というような状況になりますよね。
宮家)豊かでなければできないので、(両方を選ぶ)余裕がないのでしょう。いつも言うことですが、民主主義とは決してベストな指導者を最善のタイミングで選ぶシステムではないのです。往々にして外れてしまう。

外したくないのであれば、優秀な独裁者が短期間だけ正しいことを適格に行えばいいのですが、独裁主義はだいたい腐敗して長くなるものです。

民主主義とは、結局10〜20年先になって振り返り、「当時は間違ったことをせずに済んでよかった。決していいシステムではないけれど、これよりいいものはない」と達観するまで時間が掛かると思います。グローバルサウスの多くの国には、そのような余裕がないのですよ。(後略)【3月21日 (ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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ロシア  プーチン政権下の大規模テロで「またか・・・」の既視感

2024-03-25 22:50:20 | ロシア

(【3月23日 日経】 炎上するコンサート会場)

【IS系「イスラム国ホラサン州」が犯行声明 プーチン大統領はウクライナの関与示唆】
133人の死者を出した22日に起きたモスクワ郊外コンサート会場で起きたテロ事件は、IS(イスラム国)の「イスラム国ホラサン州」による犯行とのこと。

****「イスラム国」が犯行の詳細公表 モスクワのテロ死者133人に****
モスクワ郊外でのテロ事件について、プーチン大統領がウクライナの関与を示唆する一方、過激派組織イスラム国が改めて犯行声明を発表しました。

22日にモスクワ郊外のコンサート会場で起きたテロ事件による死者は133人に上っています。

ロシアメディアによりますと、犯行声明には襲撃を実行した4人の写真が添付され、機関銃や火炎瓶で武装していたことや焼夷(しょうい)弾を使って放火したなどと犯行の詳細が記されているということです。

声明を出したのはイラン東部やアフガニスタンを拠点とするイスラム国でも最も残忍な集団として知られる「イスラム国ホラサン州」です。

およそ2年前からロシアがイスラム教徒を日常的に抑圧する行為に加担しているとして、プーチン大統領を批判していたということです。【3月24日 テレ朝news】
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実行犯として勾留されている容疑者は、旧ソ連のタジキスタン出身の10~30代であるとも。

イスラム過激派ISとロシア・プーチン政権の確執は、ISがイラク・シリアを支配していた当時からのものです。

****ISは、プーチンを憎んでいる****
2011年にシリア内戦が起こった時、ISは、「反アサド派」に属していました。それが2014年6月、イラク第2の都市で油田のあるモスルを陥落させ、シリア、イラクにまたがる広大な領域を支配するようになった。

2014年8月、オバマ・アメリカは、IS空爆を開始。しかし、ISはアメリカと同じく「反アサド」なので、本気で空爆できない。

そこに登場したのがプーチンです。プーチンの目的は「アサド政権を守ること」ですから、IS殲滅に容赦がありません。2015年9月から、熾烈な空爆を繰り返し、ISに壊滅的な打撃を与えたのです。

まさにロシア軍によって、ISは衰退したのです。それで、ISはプーチンを憎んでいます。【3月25日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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また、近年では、西アフリカのマリなどではイスラム過激派とロシアの民間軍事会社が激しく戦っている状況もあります。

プーチン大統領はこのISによるテロをウクライナに結び付けようと画策しています。

****モスクワ郊外銃乱射で死亡は133人に プーチン大統領大統領はウクライナ側の関与示唆 ゼレンスキー大統領は「責任転嫁」と非難****
133人が死亡したロシアの首都モスクワ郊外での銃乱射テロをめぐり、プーチン大統領がウクライナ側の関与を示唆したのに対し、ゼレンスキー大統領は「責任転嫁しようとしている」と非難しています。(中略)

プーチン大統領は「野蛮なテロ行為だ」と非難。実行犯4人を含む11人を拘束したとしたうえで、「ウクライナに逃げようとした」と主張し、ウクライナ側の関与を示唆しました。

ロシア・プーチン大統領 「テロリストの背後にいる者、われわれ国民への攻撃を準備した者、全員を見つけ出して処罰する」(中略)

また、ウクライナのゼレンスキー大統領は事件への関与を否定しプーチン氏が「他の誰かに責任転嫁しようとしている」と非難しました。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領 「プーチンはロシア国民と向き合い、演説する代わりに、一日中沈黙し、事件をどうウクライナと結びつけるかを考えていた。すべては完全に予測できたことだ」

アメリカ政府は「『イスラム国』が単独で責任を負うものでウクライナは一切関与していない」と強調しています。【3月24日 TBS NEWS DIG】
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【事前に伝えられていたテロ情報】
このプーチン大統領のウクライナへの責任転嫁の試みは、事前にアメリカからISによるテロ情報をしらされていたにも関わらず事件を許してしまった失態を覆い隠し、併せて、ウクライナとの戦争に向けた国内統制を強化したいという思惑でしょう。

****プーチンの失態。アメリカからの「テロ警告」を笑い飛ばした独裁者が流す「卑怯なフェイク情報」****
(中略)まず3月7日。アメリカは、クレムリンに、「モスクワでテロの可能性がある」と警告しました。(中略)

これ、ロシアメディアが3月8日に報道していたので、間違いありません。たとえば『プロエクティ』3月8日付。
元記事をざっくり訳してみましょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
3月7日夜、在ロシア米国大使館は今後2日間にモスクワでテロ攻撃の脅威があると警告した。
「大使館は、コンサートを含むモスクワの大規模な集会を襲撃する過激派の計画に関する報告を監視している。米国国民は今後48時間、人混みを避けるよう勧告される」と米国大使館のウェブサイトには記載されている。
さらに、国務省はロシアへの渡航の危険レベルを最大4に引き上げたとコメルサント紙は指摘した。(中略)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(中略)つまり、アメリカは、確かにロシア政府に「大きなテロの準備が行われていること」を警告していたのです。そして、イギリス、ラトビア、韓国、カナダ、ドイツ、チェコ、スウェーデンがこの警告を真剣に受け止め、自国民に注意を促していました。

ところが、3月8日、9日にテロは起こりませんでした。理由はわかりませんが、「アメリカの警告が報道された」ことで、テロリストたちは、「ヤバイ!ばれてるぞ。延期だ!」となったのかもしれません。

一方、予告されたテロが起こらなかったことで、プーチンは何を感じたのでしょうか? これは、私の主観的な意見です。

アメリカが、「テロが起きる可能性がある」と警告したのは、3月8日、9日です。そして3月15日〜17日には、ロシア大統領選挙が迫っている。テロは起きなかった。

プーチンは、「大統領選前に、アメリカがフェイク情報でロシア国内を不安定化させたかった」と考えたことでしょう。 3月17日、プーチンは大統領選挙で圧勝しました。

そして、3月19日。プーチンは、アメリカからの警告について発言しました。『タス通信』3月19日付。ざっくり訳してみましょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
(中略)ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア連邦におけるテロの可能性に関する西側諸国の発言は完全な脅迫だと非難した。(中略)
「これはすべてあからさまな脅迫であり、社会を脅迫して不安定化させようとする意図に似ている」とプーチン大統領は確信している。
・・・・・・・・・・・・・・・・

ところが、プーチンが「フェイクだ」と確信したアメリカ諜報機関の情報は、「本物」だった。テロリストは、攻撃を延期しただけで、中止はしていなかった。そして3月22日、テロが起こったのです。(中略)

誰の責任ですか?そう、アメリカ諜報の警告を笑い飛ばしたプーチンの失態です。
ですが、大丈夫。プーチンは、国内メディアを完全に支配しているので、自分の権威が失墜しないよう、どうにでもすることができるのです。

それだけでなく、プーチンは、今回のテロを、自分の政治目的達成のために利用すらします。どうやって?
ISが、「俺たちがやった!」と宣言し、証拠動画を提示しているにもかかわらず、「あれは、ウクライナがやった!」と根拠のない主張をしています。(中略)

なんというか。真の諜報員というか、彼にとって事実は、どうでもいいのです。重要なのは、「いかに現状を、自分の都合のいいように利用するか」です。

これから起こってくること
クレムリンは、これからどう動くのでしょうか? 国内では、「IS説」を意図的に隠し、「ウクライナ説」を拡散していきます。そして、外国においても、「ウクライナ説」と「ISの背後にアメリカがいる説」を拡散していくことでしょう。(後略)
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2024年3月25日号より一部抜粋)【3月25日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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【プーチン政権の基盤を作った1999年ロシア高層アパート連続爆破事件】
プーチン大統領と大規模テロ事件はこれまでも深い関りがります。プーチン大統領及びその周辺による「自作自演」説といったものも含めて。

実際、「自作自演」「偽旗作戦」かどうかは別として、大規模テロが起きるとそれを逆に利用して政権固めを行ってきたプーチン政権の過去があります。

1999年に起きたロシア高層アパート連続爆破事件・・・・ソ連崩壊後の混乱するロシアにあって、無名の元スパイ・プーチン氏はエリツィン大統領(当時)に首相に抜擢されたものの「プーチンって何者?」といった状況でした。

チェチェン独立派によるとされるこの爆破事件を契機にプーチン首相はチェチェン侵攻を強行し、それによって国民支持が一気に高まり、大統領就任、そして現在の長期政権の基礎となりました。

****ロシア高層アパート連続爆破事件*****
1999年にロシアで発生した爆弾テロ事件。一部のジャーナリストや歴史家はロシア政府による自作自演の可能性を指摘している。

概要
同年8月終わりから9月にかけて、首都モスクワなどロシア国内3都市で爆発が発生し、計300人近い死者を出した。

8月に首相となったウラジーミル・プーチンは、チェチェン独立派武装勢力のテロと断定。本事件と、チェチェン独立派のダゲスタン侵攻を理由にチェチェンへの侵攻を再開し、第二次チェチェン戦争の発端となった。

プーチンの強硬路線は反チェチェンに傾いた国民の支持を大きく集め、彼を大統領の座に押し上げた。

一連の爆破事件はチェチェンのテロリストによって引き起こされたと一般に考えられているが、彼らによる犯行は決定的に証明されたものではなく、一部のジャーナリストと歴史家は事件がプーチンを大統領職へと押し上げるためにロシア政府機関によって仕組まれたものだと主張している。【ウィキペディア】
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【治安当局の強硬策で多くの犠牲者を出した2002年モスクワ劇場占拠事件と、その後の不審な展開】
そして、2002年のモスクワ劇場占拠事件・・・やはりチェチェン独立派の起こした人質事件ですが、テロへの強硬姿勢を貫くプーチン大統領(2000年に大統領就任)のもと、治安当局の無力化ガスを使用した強硬策によって人質129名、犯人42名が死亡(ウィキペディア)する結果となりました。

この事件をプーチン大統領は「テロに対する勝利」と総括しています。

****20年間も消えぬプーチン氏への怒り モスクワ劇場占拠事件の遺族ら…特殊部隊突入時に200人犠牲****
ロシアの首都モスクワで2002年、テロリストによって劇場が占拠され、観客を含む約200人が政府の特殊部隊の掃討作戦で死亡する事件があった。

世界の耳目を集めたこの「モスクワ劇場占拠事件」から20年を迎えた今、一部の遺族の怒りの矛先はプーチン大統領に向いている。

◆「犠牲は減らせた」
26日、占拠事件の劇場で追悼式が営まれた。遺影に見入っていたのが、13歳の娘を亡くした年金生活者スベトラーナさん(65)。「市民の犠牲はもっと減らせたはずなのに」と無念さをにじませた。

プーチン政権は事件当時、ロシアからの分離独立を目指すイスラム系チェチェン人と泥沼の戦いを続けていた。チェチェンの武装集団は劇場に爆弾を持ち込み、観客ら900人余を人質にチェチェン共和国からの軍撤退を要求した。

「戦争をやめろ」「人質の命を救って」。市内の赤の広場でデモが起きたが、プーチン氏は妥協を拒んだ。立てこもり開始から57時間後、特殊部隊が軍用ガスを投入して劇場に突入、公式発表では140人の観客、劇場関係者と30人のテロ実行犯が死んだ。実際の犠牲者はさらに多いとの見方もある。

事件を取材した反政権記者ポリトコフスカヤ氏によると、死亡した観客らにも特殊部隊が放ったと思われる銃弾の傷が発見された。

スベトラーナさんの娘は意識がないまま劇場の外に運び出され、その上には32人の意識のない観客らが積み上げられた。

掃討作戦は「テロリスト排除」に主眼が置かれた。プーチン氏は「テロに対する勝利」と総括した。

◆「現場に足を運んでいない」
一部の遺族には割り切れない思いが残る。偶然、劇場でミュージカルを観劇していただけで、実行犯らとともに殺されたとの意識があるためだ。

12歳の孫娘を亡くしたビクトルさん(86)は「(結果を顧みない)特殊部隊の突入は裁かれなければ」ときっぱり。「プーチンはこの事件現場に足を運んだことがない。彼を大統領とは認められない」と憤った。

一方、ロシア社会ではテロとの戦いには犠牲が付き物として、占拠事件でのプーチン政権の対応は適切とする声もある。国営ロシア通信は事件から20年に合わせて、掃討作戦に参加した特殊部隊員へのインタビューを配信し「事件への対処は極めて適切だった」と結論づけた。

事件を追及してきたポリトコフスカヤ記者は06年に暗殺され、所属していた独立系新聞ノーバヤ・ガゼータは今年に入り、廃刊に追い込まれた。現在のチェチェン共和国はプーチン氏と親しいカディロフ氏が統治している。【2022年10月31日 読売】
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死者が増加した原因として、当局が使用したガスを明らかにしなかったため、適切な処置ができなかったことがあるとされています。
“当局が使用したガスの成分など詳細を救助隊に秘匿したため、適切な処置が施されなかった。多くの人質は劇場から運び出された後、仰向けに寝かされ、喉に嘔吐物が詰まり窒息死した。”【ウィキペディア】

更に事件後も、犯行グループとロシア連邦保安庁(FSB プーチン大統領の出身母体KGBの後継組織)のつながりを示す情報の浮上、事件に近づく人物の殺害など、いかにも“ロシア的”な展開に。

****事件の謎****
武装勢力は一人残らず射殺されたと報道されたが、ただ一人死を免れたハンパシ・テルキバエフという男がいたことは極秘にされた。

2003年、ロンドン在住の元FSB大佐アレクサンドル・リトビネンコは、ロシアの政党自由ロシア副議長、セルゲイ・ユシェンコフに、テルキバエフに関する情報を手渡した。直後の4月17日、ユシェンコフ議員はモスクワの自宅前で射殺された。

リトビネンコによれば、テルキバエフはチェチェン武装勢力に浸透し、挑発するための訓練を受けていたという。

テルキバエフはチェチェンのアスラン・マスハドフ大統領(当時)のプレスサービスに勤めていた過去を持ち、また、(劇場占拠事件後の2003年3月)ストラスブルグで開かれた欧州評議会議員総会(PACE)のセッションに、ロシア議会外交委員長のドミトリー・ロゴージンの随員として参加していた。テルキバエフは国営紙「ロシア新聞」の記者証を所持していたとされる。

その後、この事件について調べていたアンナ・ポリトコフスカヤの前にテルキバエフが現れ、自分は劇場占拠時、内部にいた囮工作員で、武装勢力をそそのかした主犯だったとアンナ・ポリトコフスカヤに明かした。またロシア連邦保安庁(FSB)の捜査官でもあり、クレムリンの顧問であると証言した。

テルキバエフが、なぜ命を差し出すような証言をしたのかは不明だが、取材したアンナ・ポリトコフスカヤがインタビューを公開した後、2003年12月15日、テルキバエフはチェチェンで自動車事故により死亡した。

アンナ・ポリトコフスカヤも、2006年10月7日午後、自宅エレベーター内で射殺体で発見された。ちなみに10月7日はプーチン大統領の誕生日である。【ウィキペディア】
*********************

今回事件に関する情報に接すると、こうした謎に包まれた過去の歴史が蘇り、「またか・・・」という既視感も。
プーチン大統領にとっては、今回事件をウクライナに結びつけるなど造作もないことでしょう。真相はわかりませんが。

なお、ロシアでは上記テロの他、2004年9月にはロシア南部の北オセチア共和国のベスランの学校で、武装グループが児童や生徒など1200人以上を人質にとって立てこもり、治安部隊との銃撃戦のすえ、子どもを含む300人以上が犠牲となるなど、チェチェン独立派などのイスラム過激派による犯行と思われるテロ事件が多発しています
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北朝鮮  国家主導の経済体制への復帰で疲弊する国民生活 南北の民族統一を放棄

2024-03-24 23:26:21 | 東アジア
【国家主導の経済体制への復帰を目論む金政権 経済活動を制限された国民の生活は困窮】
*****食料品価格は下落するも庶民の手には届かない北朝鮮の現状*****

北朝鮮・恵山の市場(デイリーNK)
(23年)5月まで上昇が続いていた北朝鮮の市場での食糧価格が、先月には下落傾向に転じた。(中略)

穀物価格の下落は、今月中旬から始まった小麦、大麦、ジャガイモの収穫に加え、昨年10月から中国とロシアからコメ、トウモロコシ、小麦などを大量に輸入していることが影響しているものと思われる。(中略)

道内最大都市の清津(チョンジン)の市場でも、概ね同じような価格の動きを見せている。ただ、穀物、食料品価格が下がっても、買う人はあまりいない。密輸や商売への取り締まりが厳しく、懐事情が厳しいからだ。

「コロナ後の生活難が続き、ポリッコゲ(春窮期)まで合わさり、1日3食食べられる人は数えられるほどしかいない。市場の食料品価格がいかにさがっても、買おうとする人が多くなく、商人は儲かっていない」(情報筋)

消費者の収入が減ったことで物が買えず、商人は儲けがなく、自宅用の食料品が買えないという悪循環に陥っているのだ。

市民が求めているのは唯ひとつ。コロナ前のような密輸の再開だ。 「住民は皆が皆、密貿易が再開されない限り、市場が活性化されず、生活苦はよりひどくなるだろうと言っている」(情報筋)

当局は、肥大化した市場の機能を抑制し、密輸もブロックすることで、貿易を含めた経済全体の主導権を取り戻そうとしているが、商業や貿易の発展で潤ってきたこれら地域にとっては死活問題。今後しばらくは、理想、いや妄想を追い求める国と、なんとかして生活苦を打開して、コロナ前のように比較的安定した暮らしがしたい国民との「闘い」が続くだろう。【2023年7月4日 デイリーNKジャパン】
**********************

北朝鮮に関しては、国民の生活を犠牲にしながら進められる軍備拡張、世界的にも最低レベルの人権状況、腐敗と汚職の蔓延、常軌を逸した金王朝の言動・・・等々、問題点が多すぎて、何を取り上げていいか迷うほどですが、政策レベルの問題をひとつ取り上げるとしたら、民間(個人、市場)の経済・取引を圧迫・規制し、国営商店など国家が管理する経済体制へ逆行しようとしていることでしょう。

****金正恩が「穀物販売の禁止」を命令…北朝鮮の市場が活気を喪失****
北朝鮮には2つの党(ダン)があると言われた。一つは朝鮮労働党(チョロンロドンダン)、もう一つはチャンマダン、つまり市場だ。「猫の角以外なら何でもある」と言われ、北朝鮮社会の中心となっていた市場だが、今ではすっかり活気を失っている。

コロナ禍での営業制限に加え、コロナ明けには余剰農産物と家内制手工業の製品以外の販売が禁止されたのだ。国内外の工場で作られた加工食品、家電製品、生活必需品の販売が禁止され、国営商店での購入が誘導された。

中でも最も市場に影響を及ぼしているのは、穀物の販売禁止だ。今までは、国の安い穀物買取価格を嫌った農場が、市場に横流しすることで成り立っていたが、金正恩政権は買取価格を大幅に上げて農場から穀物を買い取り、国営米屋「糧穀販売所」でのみ販売ができるようにした。

取り締まりの目をかいくぐってコメやトウモロコシを販売しようとする人もいるが、当局は厳しい取り締まりを行っている。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

恵山(ヘサン)市内では、市場や路上でのコメとトウモロコシの販売に対する取り締まりが強化されている。主食であるこれらは糧穀販売所でのみ販売が可能で、商人が販売できるのは、大豆、麦、ジャガイモなどの主食以外のものに限られている。

少し前までは、取締官にタバコを一箱渡せば見逃してくれていたが、今ではそれも通じなくなっている。

先月初旬、安全員(警察官)が市内の人民班(町内会)の会議で、コメやトウモロコシを買うなら糧穀販売所にせよと勧告を行った。そして、個人の商人がコメの密売を行って摘発された場合、品物はすべて没収され、罰金やそれ以上の処罰を受けると警告した。

しかし、多くの人が依然として商人からコメやトウモロコシを買っている。
「糧穀販売所で買って得するならそちらに自然に流れるだろうが、その日暮らしをしている人々はツケでコメやトウモロコシを買えず、必要な量だけ買うこともできないので、結局は個人の商人のところに流れてしまう」
「糧穀販売所も少量で販売するとは言っているが、数百グラム単位で買おうとすると店員の態度が悪くなる」(情報筋)

また、これは以前から指摘されていたことだが、市場での販売価格と糧穀販売所での販売価格にあまり差がなく、糧穀販売所に行くメリットがあまりないのだ。

あるコメ商人は「穀物販売所で市場より安い値段で売って普通に回れば、個人の商人を取り締まらずとも、自然と商売が成り立たなくなり、やめるのではないか」と語っている。

ただ、このような状況は長続きしないと取り締まる側ですら見ているようだ。
商人と親しい取締官などは「集中取締期間だけ最大限気をつけろ」との忠告をしている。いつものように、時間が経つに連れ、取り締まりが緩和され、ワイロさえ払えば販売ができるようになると取締官も見ているのだろう。実効性のない命令は、そのようにして末端から崩壊していくのだ。

当局は、国営企業、機関の給料を大幅に上げる措置を取ったが、それでも生活するには充分ではない。結局、人々は市場に行って商売をして現金収入を得るしかないのだ。

地方政府の幹部は、そんな状況に目もくれずに取り締まりばかりに没頭しているのではないか、との話も飛び交うが、市場の機能縮小は地方政府の財政にも大きな影響を及ぼしている。税収の多くを市場の商人のショバ代が占めていたが、それが激減したため、行政サービスにも支障が出ているのだ。【3月8日 デイリーNKジャパン】
********************

国営商店や国営企業による経済体制に戻ろうとしているものの、商品供給は需要に合致せず、給与は生活できるレベルにほど遠い・・・一方で、これまで国民経済を支えてきた私的な経済活動は厳しく規制される・・・・結果的に「生活できない」「生きていけない」という状況になります。

****「もはや生きていけない」北朝鮮、金持ちの餓死も相次ぐ****
ニューヨークに本部を置く国際人権団体「ヒューマン·ライツ·ウォッチ」は7日、新型コロナウイルスの世界的流行に際し、より悪化した北朝鮮の人権状況を調査分析した報告書「銃弾より強い恐怖;北朝鮮の閉鎖(A Sense of Terror Stronger than a Bullet:The Closing of North Korea)2018-2023」を公開した。

北朝鮮を巡っては、国連安全保障理事会の制裁決議が2017年に強化されたのに続き、同国がコロナ流入防止のためとして2020年1月に自ら国境を封鎖したことにより、国境間の人的移動、公式および非公式貿易と人道支援がほぼすべて中断。国内の経済難がいっそう深刻化した。

さらにこの期間、北朝鮮は防疫対策を理由に人々に対する統制を強化。商売や密輸で儲けて豊かな生活をしていたトンジュ(金主、ニューリッチ)たちでさえも飢えに苦しんだ。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、南浦(ナムポ)に住んでいたAさんは、自分名義の船を所有していた「船主」と呼ばれるトンジュで、北朝鮮と中国を行き来して貿易業を営み、市内に2部屋のマンションを持つほど豊かだった。

ところが2022年初め、Aさんは貿易法に違反したとの理由で摘発され、革命化(下方)と全財産没収の処分を受けた。残された家族は、家財道具を売って得たカネで食糧を買うほどの困窮生活に追い込まれた。

そして同年8月、人民班長(町内会長)が回覧板を持ってAさんの家を訪ねたところ、一家全員が亡くなっているのを発見した。餓死と思われる。

江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)で、商品を他地方へ運ぶ「タルリギ」という商売を営んでいたBさんも、豊かな生活から奈落の底に叩き落された。

元山では右に出る者はいないというほど手広く商売をしていたBさんだが、コロナによる移動統制で商売をたたむしかなくなった。収入が途絶え、売掛金の回収も滞り、借金地獄に陥った彼は「もはや生きていけない」との遺書を残して、家族を道連れにして命を絶った。

トンジュすら生活苦に追い込まれる現状について、上述の平安北道の情報筋は驚きを隠しきれないようだ。
「数年前まで、密輸や手広く商売をしているトンジュが餓死したり、自死したりするほど生活が苦しくなるなんて考えもしなかったが、金持ちだった人ですら耐えられないほど困窮生活に追い込まれている人が非常に多い」

また、こんな状況に何の対策を打たない国に対して「政治が間違っているから人民が死につつある」と批判する人も増えたと伝えた。【3月11日 デイリーNKジャパン】
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【崩壊する教育現場】
「生きていく」ことさえままならない状況ですから、教育現場も崩壊しています。北朝鮮では文字がまともに読めない子どもが増えつつあるとも。

****金正恩の教育が崩壊状態「子どもがハングルも読めない」*****
(中略)
北朝鮮第2の都市、咸興(ハムン)市内の小学校では、まともに教育が行われておらず、子どもたちはチョソングル(ハングル)すらまともに読めない有様だという。

北朝鮮の公教育が思想教育に偏重していることから、親たちは子どもの才能を伸ばすために、英語、歌やダンス、ピアノなどを教える家庭教師を雇っていた。 ところが今では、ハングルを教わるために家庭教師を雇う状況に陥っている。

他の地域でも事情は変わらないようだ。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、このように語った。
「最近は子どもたちが読み書きができないほど学校のレベルが下がっている。子どもに家庭教師を付けるのが必須になっている」

教育がまともに行われないのは、教師の待遇が悪すぎるからだ。
朝から晩まで熱心に授業を行っても、1グラムのコメも配給されない。教師たちは生きるために、朝出勤したその足で商売に出かけていく。登校した子どもたちは、教師のいない教室でただ遊んでいるだけだ。
「先生方は『静かに座って自習しなさい』とだけ言って出ていってしまうことが多い」(咸興市内の保護者)

教師の生活苦を知る親たちは、子どもの教育は自分たちの役割だとして、苦しい生活の中でも家庭教師を雇う。ただ、そんな余裕のない家も多く、「知識の格差」が起きてしまっているという。

両江道の情報筋も、家の経済力によって学習進度が異なるとし、経済的な格差が知識の格差に直結する状態となり、最近ますますひどくなっていると述べた。親たちは「教師の生活に少しは気を使ってほしい」と不満でいっぱいだが、特に解決方法はない。

なお、「文盲退治」に成功したと豪語した北朝鮮だが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の時代に、学校に通えず、字が読めない若い人も少なくない。【2月29日 デイリーNKジャパン】
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ハングルを教わるために家庭教師を雇えるような家庭は一握りの恵まれた者でしょう。それ以外の生きるのに精一杯の家庭では教育は顧みられることはないであろうことは想像できます。

教師たちは生きるために、朝出勤したその足で商売に出かけていく・・・というのは異常な世界ですが、仮に教師を学校に縛り付けても問題は解決しません。生活の糧を失い、生きていけるだけの給与ももらえない教師が餓死するだけです。

【ロシアへの労働者派遣】
一方、国家は困窮する国民を中国・ロシアなどの海外に派遣して「奴隷労働」に従事させ、そこから搾取している実態は2月28日ブログ“北朝鮮 中国に派遣されていた女性労働者が国家ピンはねに絶望して暴動”で取り上げましたが、北朝鮮からの労働者受入れは制裁措置で禁止されているにも関わらず、今も横行しているようです。

****北朝鮮の高麗航空 平壌―ウラジオ線を増便=労働者派遣か****
ロシアとの関係を強化する北朝鮮が、両国を結ぶ航空便を増やす模様だ。(中略)

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)とロシアのプーチン大統領が昨年9月に首脳会談を行ってから、急速に両国が接近したことで、両国を移動する人が増えたものと受け止められる。

北朝鮮労働者のロシアへの新規派遣や、ロシアで働いていた北朝鮮労働者の帰国などのために航空便が増やされた可能性がある。

北朝鮮労働者の受け入れは国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁で禁止されている。
しかしロシアはロシア製高級車を金氏に贈るなど制裁決議に反する行為を隠そうとしておらず、安保理常任理事国であるにもかかわらず、安保理決議を意に介さない様子を見せている。【3月18日 聯合ニュース】
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上記のように、最近はウクライナ情勢を背景に、北朝鮮がロシアに武器・弾薬を供与し、見返りにロシアから北朝鮮に食糧が支援されるという形で、北朝鮮とロシアの結びつきが強まっています。

【中朝関係強化を再確認】
ロシアへの接近に比べて、これまで北朝鮮と後ろ盾とされてきた中国との関係はあまり目立ちませんでしたが、疎遠になった訳でもないようです。(中国が北朝鮮のロシア接近をどのように見ているのかは、別途検討の余地はありますが)

****習指導部、中朝関係強化へ 北京で高官会談、国交75年****
中国最高指導部メンバーで共産党序列4位の王滬寧・人民政治協商会議主席は21日、北朝鮮の金成男・朝鮮労働党国際部長と北京で会談し、中朝関係強化に向けた習近平指導部の意欲を表明した。金氏は中朝国交樹立75周年に当たる今年に中朝は「歴史の新たな章を開く」と応じた。中国国営中央テレビが伝えた。

中朝間の往来はコロナ流行の収束に伴い回復。米国に対抗して軍事力を増強する中国とミサイル発射を繰り返す北朝鮮の関係緊密化に日米韓で警戒感が強まりそうだ。

王氏は習国家主席と金正恩朝鮮労働党総書記の指導の下で「中朝の伝統的友好関係は強固で絶えず発展している」と強調。【3月21日 共同】
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【「民族統一」を放棄 北朝鮮内部に戸惑いも】
悪化する韓国との関係については、「民族統一」を放棄し、統一すべき相手ではなく「主敵」とみなすようになっているのは周知のところです。ただ、北朝鮮内部でも突然の方針変更に戸惑い・動揺もあるようです。

****「私たち忠誠心の高い幹部も動揺している」金正恩の南北統一放棄に国民が反発、逮捕者も****
(中略)(韓国・北朝鮮で歌われてきた民族統一への思いを歌った「われらの願い」について)北朝鮮当局は2016年7月、禁止曲に指定した。徹底して「統一は民族の宿願」であるとの教育を受けてきた国民からは、戸惑いの声が上がった。そうした戸惑いは、今年になってさらに強まっている。金正恩総書記の号令一下、当局が「統一」そのものを国中から消し始めたからだ。

それと関連して「不適切な発言」を行った市民が、逮捕される事態も起きている。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、当局が朝鮮労働党の各機関、社会主義愛国青年同盟(青年同盟)、朝鮮社会主義女性同盟(女盟)、朝鮮職業総同盟(職盟)、朝鮮農業勤労者同盟などに対して、政治講演会や学習会、総括総和(総括)の時間において、対南朝鮮(韓国)政策に関する発言で慎重を期すように指示したと伝えた。

また、党の政策について批判を招きかねない言及を一切しないこと、不必要な解釈をする者や政治的発言をする者は動向を徹底的に監視し、上部に報告する体系を強化することなども指示した。

金正恩氏は今年1月、朝鮮労働党第14期第10回最高人民会議の施政演説で、「憲法にある『北半部』『自主、平和統一、民族大団結』という表現が今や削除されなければならないと思う」と述べ、韓国を統一すべき相手ではなく、主敵とみなす教育をすべきなどとも述べた。

これに伴い、国歌に当たる「愛国歌」の歌詞の変更、平壌地下鉄の「統一駅」の駅名削除、南北統一を象徴する祖国統一3大憲章記念塔の撤去など、「統一を消し去る」措置が大々的に行われている。北朝鮮国民からは戸惑いや疑問、批判の声が噴出しているが、当局はその抑え込みに躍起になっている。

平城(ピョンソン)市保衛部(秘密警察)は最近、「マルパンドン」(言葉の反動、反政府的言動)の容疑で、60代男性を逮捕した。その発言とは次のようなものだ。
「祖国統一は首領様(故金日成主席)の遺訓なのに、なぜ急に統一という言葉を使うなと言い出したのかわからない」

デイリーNKとのインタビューに応じた北朝鮮の幹部は、忠誠心の高い人物の間ですらも、このような「統一削除」に批判的な意見が多いとして、次のように述べた。

「自分もそうだが、忠誠心や党性(忠誠心)の高い幹部にも動揺している者が多い。しかし、言葉で『南は同じ民族ではない』と言ったからと、一瞬のうちに民族性が消えるものではないと思う。自分は反動(分子)だから、そんなことを考えている、というわけでは決してない。党に忠実な人々も、民族と祖国統一、同胞、ハンギョレ(一つの民族)という明白な歴史的事実は、ひと言ふた言(の演説)は消し難いと考えている。そのような意味で今回の布置(布告)は、好ましいやり方ではないと思う」

祖国統一を掲げて北朝鮮が起こした朝鮮戦争は、軍人と民間人と合わせて韓国で240万人、北朝鮮で292万人の尊い命を奪った。戦火に焼かれなかった釜山や大邱周辺を除いた朝鮮半島のほぼ全土が灰燼に帰した。また、当時の人口2000万人のうち、何割かの人が家族と離散した。休戦後も、南北の分断状況は重くのしかかる軍事費、言論の抑圧などを正当化した。

それでも経済的繁栄を手にした韓国では、むしろ国民の側から「統一離れ」が進んでいる。しかし、独裁の圧政と経済難に呻吟する北朝鮮国民にとって、祖国統一は塗炭の苦しみから解放される、ほとんど唯一の望みなのだ。

そんな最後の精神的な支えを取り払おうとする金正恩氏の試みは、果たしてどんな結果を招くのだろうか。【3月23日 デイリーNKジャパン】
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****北朝鮮の統一推進団体が解散 対韓国で「存在する必要ない」****
北朝鮮で韓国との統一運動を推進してきた団体「祖国統一民主主義戦線」の中央委員会は23日、平壌で会議を開き、団体の事実上の解散を決めた。金正恩朝鮮労働党総書記が1月に平和統一の放棄を表明したため「これ以上、存在する必要がない」と判断した。朝鮮中央通信が24日報じた。

団体は北朝鮮の政党や社会団体で構成。1946年に前身団体が結成された長い歴史を持つ。主に韓国向けの談話を発表するなどの役割を担った。【3月24日 共同】
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このあたりは韓国が現在の保守政権から左派政権に変われば、また変化するのかも。
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ロシア石油精製施設へのウクライナのドローン攻撃で露呈するウクライナとアメリカの立場の違い

2024-03-23 23:46:45 | 欧州情勢

(米国はウクライナに対し、無人機(ドローン)によるロシアのエネルギーインフラへの攻撃を中止するよう促した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が22日、関係筋の話として伝えた。写真は無人機攻撃を受けたロシア・リャザン州の製油所。【3月22日 ロイター】)

【ロシア産原油の上限価格設定 ロシアに大きな減収をもたらしている・・・とアメリカは評価】
ウクライナに侵攻したロシアへの欧米による制裁が行われていますが、ロシアの2023年のGDP成長率は前年比3.6%増(2022年は1.2%減)ということで、制裁が効果をあげておらず、ロシア経済が持ち直しているのではないか・・・との指摘もあります。

ロシアに対する最大の制裁である石油取引についてみると、EUはロシア産石油製品の全面禁輸を2023年2月5日に発効しました。しかし、それだけでは制裁に参加していない国に振り向けられるだけということにもなり、あまり効果的ではありません。

****ロシア石油製品、EUの禁輸措置発効後は主にアジアに振り向け*****
EU(欧州連合)によるロシア産石油製品の全面禁輸が2月5日に発効したが、ロシア産燃料油や減圧軽油(VGO)の大部分はすでに主にアジアに振り向けられていることが分かった。業界筋やリフィニティブのデータで明らかになった。

1月には、ロシア産石油製品のEU向け輸出は5%以下となっていた。ある業界筋は「言うまでもないが、残りの部分を他の目的地に仕向けるのは簡単だ」と指摘した。

EUは6カ月前からロシア産燃料油輸入の一部制限を開始し、5日からは全面禁止となった。主要7カ国(G7)もロシア産石油製品の価格に上限を課している。

このため、余剰分をアジアや中東に迂回させるなどするケースが増加しているという。
リフィニティブのデータによると、昨年はロシア産燃料油・VGOの大部分がシンガポール、マレーシア、中国、アラブ首長国連邦、トルコ、セネガル、韓国へ振り向けられた。【2023年2月7日 ロイター】
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そこで、制裁に参加していない国との取引についても価格を抑制することでロシアの収入を減らし、結果的にロシアの戦争遂行能力を削いでいこうというのがG7が導入したロシア産原油に価格上限を設ける経済制裁です。

ロシア産原油の上限を超える取引については、海運・保険サービスを提供しないようにする措置ですが、巨額な船舶の損害賠償にも対応できる船主責任保険について、世界の市場シェアをほとんど握っているのが欧米諸国の会社であるというところがミソです。

これによって、制裁に参加せずロシアと石油取引を行う国も、その上限価格範囲内でないと海運・保険サービスが利用できないので、結果的にロシア産原油の取引価格は上限で抑えられる・・・輸入国にとっても安い方がいいので、ロシア産原油を買い叩くインセンティブになる・・・という方法。

しかも、ロシアをあまり追い込みすぎると、ロシアは減産して価格高騰を狙いかねない・・・というように世界の原油市場が混乱するので、そこまではロシアを追い込まないあたりの上限価格に調整するという賢い方法です。

その価格が1バレル=60ドル。

****G7サミットに合わせ米財務省がロシア産原油輸出価格上限設定の効果に関する報告書を発表****
米財務省は、「ロシア産原油輸出価格上限設定」の効果をポジティブに評価

米国財務省は5月18日に、G7広島サミットの開催に合わせて先進国が導入した対ロシア制裁措置、「ロシア産原油輸出価格上限設定」に関する報告書(The Price Cap on Russian Oil: A Progress Report)を発表した。同措置は、ちょうど1年前のG7サミットで議論が始まり、半年前の昨年12月に導入されたものだ。

G7、欧州連合(EU)、オーストラリアなどは昨年12月に、海上輸送されるロシア産ウラル原油に上限価格を設定する制裁措置を導入した。その際、ロシア産ウラル原油の上限価格は、1バレル60ドルに設定された。さらに今年2月には、ガソリンなどの石油製品にも同様に1バレル45ドルの上限価格が設定された。この措置を受けて、ロシア産原油価格は大きく下落したのである。

先進各国は、今まで講じられてきた対ロシア経済制裁措置が、ロシアの戦争継続能力を低下させることに十分な効果を発揮していないことに不満を抱いている。迂回貿易などを通じて、制裁の効果が減じられているからだ。

他方、このロシア産原油輸出価格上限設定については、ロシア産原油価格の下落を通じて、ロシアの財政収入を大きく減らすなど、期待された効果が発揮されていると言える。自画自賛的な側面があることは否めないが、同報告書はロシア産原油輸出価格上限設定の効果について、非常にポジティブな評価をしている。

ロシア産ウラル原油の価格は国際基準となるブレント原油よりも3割安に
ウクライナ侵攻後、2022年春に世界の原油スポット価格は1バレル当たり140ドル超にまで上昇した。そのもとでロシアは、原油の輸出で1バレル当たり100ドル以上の法外な利益を上げていた。

しかしその後、世界経済の減速懸念などから原油価格が全体に低下し、さらに輸出価格上限措置が出されたことを受けて、ロシア産ウラル原油の価格は大きく下落した。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、輸出価格上限措置以降、ロシア産ウラル原油の平均価格は月間ベースで1バレル当たり60ドルを下回っている。

ウクライナ侵攻前には、ロシア産ウラル原油の価格は、国際基準となるブレント原油の価格よりもわずか1バレル当たり数ドル低い水準だった。ところがこの数週間は、1バレル当たり25~35ドルも低い水準となっている。輸出価格上限措置によって、輸入国側が値引き販売をロシア側に要求していることの影響が大きい。ロシア財務省によると、ウラル原油の4月の平均価格は1バレル約59ドルと、北海ブレントに比べて3割安い。

ロシア政府の歳入に占める石油収入の割合は23%まで低下
原油価格が大きく下落する中、それによる収入減を補うために、ロシアは原油輸出量を拡大させている。IEAによれば、ロシアの4月の原油と石油製品の輸出量は、ウクライナ侵攻後で最も多い日量830万バレルを記録した。欧州向け輸出は大きく減少する一方で、中国やインドへの輸出量が増えている。

しかし、数量の増加で価格の下落を補うことはできていない。そのため、ロシアが原油輸出から得る収入は大きく減っているのである。

これは、ロシア経済とロシアの財政に大きな打撃を与えている。報告書によると、ウクライナ侵攻前に、ロシア政府の歳入に占める石油収入の割合は30〜35%であったが、今年は23%まで下がっている。

先進国は、ロシアの原油輸出量をさらに減少させるような追加制裁措置を打ち出せば、需給ひっ迫から世界の原油価格は高騰し、先進国やその他の国の経済に大きな打撃を与えることを警戒していた。

そこで、ロシア産ウラル原油の輸出価格を低下させる一方、ロシアの原油輸出量は減らさずに、世界的な原油価格高騰を避け、ロシア経済、財政に打撃を与えてロシアの戦争継続能力を削ぐという離れ技に先進国は取り組んだのである。

そこで考え出されたのが、ロシア産ウラル原油価格の上限設定措置であり、当初期待された効果を上げていると言えるだろう。それによって、昨年末以降のロシアの財政環境はにわかに厳しさを増しているのである。(後略)【2023年5月23日 木内登英氏 NRI】
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****G7のロシア産原油価格上限は引き続き効果発揮=米財務省高官*****
米財務省のバンノストランド次官補代理(経済政策)は3日、ロシア産原油の輸出価格に上限を設けた主要7カ国(G7)の取り組みについて、ロシアの収入を圧迫するとともにエネルギー市場の安定化に効果を発揮し続けているとの見方を示した。

バンノストランド氏は「われわれのアプローチはロシアの最も重要な収入源の中核部分に打撃を与えている。戦争前の時点でロシアの石油収入は国家総予算の約33%を占めていたが、今年になって25%まで低下した」と述べた。

G7と欧州連合(EU)、オーストラリアは、ウクライナに侵攻したロシアに対する制裁の一環として海上輸送されるロシア産原油に1バレル=60ドルの上限を設け、西側企業に対してこの価格を超える取引に輸送や金融、保険といったサービスを提供するのを禁じている。

バンノストランド氏は、ロシアのデータを挙げて同国政府の今年前半の石油収入は前年比で50%近く減少しており、販売価格は北海ブレントを大幅に下回っていると指摘し、報告されているウラル原油の販売価格は最近上昇してきたものの、今のところ平均で上限の60ドル近辺で推移していると説明した。【2023年8月4日 ロイター】
*******************

ただ、石油取引がなくなった訳ではないので、ロシアの2023年の原油輸出による収入額は1120億ドルと推測もされています。約16~17兆円。巨額です。
しかし、上限設定がなされていなかったら、これが1500億ドルほどにもなっただろうと。つまり約25%、6兆円弱の減収となっているということです。

この規制をかいくぐるような「制裁のがれ」、そこへの欧米側の対応といった話もありますが、それは別にして、欧米としてはこの上限価格措置を評価しています。

【ウクライナは「1バレル30=ドル」を要求 アメリカは応じないだろうとロシアの見立て】
しかし、上記のようにロシアに巨額の収入をもたらし続けていることも事実です。
欧米としては、これ以上やるとロシアは石油を減産して国際価格が暴騰することにもなるので、このあたりで・・・という話ですが、ロシアの攻撃に曝されているウクライナからすれば「生ぬるい」ということにもなります。

ウクライナは今の上限価格「1バレル=60ドル」を「1バレル=30ドル」に引き下げるように求めています。
しかし、上記のような理由でアメリカは応じないだろう・・・というのがロシアの余裕の見立て。

*****ロシア産原油の上限価格引き下げ、米国は支持せず=ラブロフ氏****
ロシアのラブロフ外相は21日、西側諸国がロシア産原油に設定した上限価格を1バレル=30ドルに引き下げる案を米国が支持する可能性は低いとの見方を示した。

主要7カ国(G7)などはロシアに対する制裁措置として、2022年に同国産の原油価格の上限を1バレル=60ドルに設定した。

ラブロフ氏は、これを30ドルに引き下げるようウクライナが米国に要請しているもようだが「限度を超えている」とインタビューで述べた。

「米国がウクライナに同調する可能性が低いことは重要だ」とし、そのような上限価格引き下げが現実のものとなれば世界の石油市場と米経済に深刻な影響を与えると主張した。

また石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要な産油国で構成する「OPECプラス」の供給は中国とインドが吸収できると述べた。【3月21日 ロイター】
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欧米(日本も)はウクライナ支援にはやぶさかではないが、石油市場が大混乱に陥り、自国経済がダメージを受けるような事態は避けたい・・・というのが本音。

【ウクライナによるロシア石油精製施設への攻撃でも、ウクライナとアメリカで立場の違い露呈】
同じようなアメリカとウクライナのロシア産石油に関する「立場」の違いは、ウクライナによるロシア石油精製施設への攻撃についても露呈しています。

アメリカがロシアの石油生産・取引を止めないなら、ウクライナとしては自力で・・・

ロシアの石油精製施設への攻撃を強めるウクライナに対し、アメリカは混乱を招くと中止を要請。一方、ウクライナは「自らの能力や資源で戦っている」と反論。

****ロシア石油日量60万バレル停止か ウクライナの無人機攻撃****
米ブルームバーグ通信は18日、石油取引大手グンボルの推定として、ウクライナ軍の無人機攻撃により、日量約60万バレルのロシアの石油精製能力が稼働停止に追い込まれたと報じた。ウクライナは最近、ロシア経済に打撃を与えようと、燃料関連施設への攻撃を強めている。

ロシアのシュリギノフ・エネルギー相は20日、今年の製油量は前年並みを維持すると主張した。各地の製油所での事件を受け、定期修理の日程を調整し安定供給を図ると記者団に述べた。(後略)【3月21日 共同】
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****ロシア石油施設攻撃に中止要請 米、価格高騰・報復の危険警告****
英紙フィナンシャル・タイムズ電子版は22日、ロシア国内の石油施設への攻撃を強めるウクライナに対し、バイデン米政権がエネルギー関連インフラへの攻撃をやめるよう求めたと報じた。原油価格高騰やロシアによる報復を誘発する危険があると警告した。

ガソリン価格の上昇は、米大統領選でバイデン大統領の弱点となり得る。要請はウクライナ国防省情報総局などの高官に伝えられた。米国家安全保障会議の報道担当者は「われわれはロシア国内への攻撃を奨励していない」と述べた。

ウクライナのステファニシナ副首相は22日、「要請は理解できるが、私たちは自らの能力や資源で戦っている」と主張した。【3月23日 共同】
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“ウクライナがロシアのエネルギーインフラへの攻撃を始めた12日以降、石油価格は4%近く上昇している。米国でガソリン価格がさらに上昇すれば再選を目指すバイデン大統領に打撃となる。”【3月22日 ロイター】

ウクライナからすれば「原油価格高騰? はあ? それが何!。 こっちはロシアの爆弾にさらされているんだよ!」といったところでしょうが、車社会アメリカにあって、バイデン大統領にとってはガソリン価格高騰はトランプ云々、民主主義云々など吹き飛ばす再選戦略にとっての致命傷になりかねません。

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インド  4月~6月に総選挙 与党BJP勝利でモディ首相は3期目に・・・との予測 野党有力者逮捕

2024-03-22 23:04:51 | 南アジア(インド)

(インド北東部アッサム州グワハティで支持者に手を振るモディ首相=2024年2月【3月9日 共同】)

【有権者9億7800万人の総選挙 モディ首相与党勝利の予想】
インドでは有権者9億7800万人を対象とした総選挙が4月にスタートします。
地域ごとに7回に分けて投票が行われ、6月4日に一斉開票するという仕組みです。

2014年の総選挙で勝利して首相の座についたモディ首相は、2019年5月の総選挙でも勝利しており、今回が3期目をかけた総選挙となりますが、事前の予測では今回も勝利が予想されています。

****インド総選挙4月19日から、モディ氏3期目狙う 6月4日一斉開票****
インドの選挙管理委員会は16日、下院(定数545)総選挙を4月19日から6月1日にかけ、7回に分けて実施すると発表した。同月4日に一斉開票する。

モディ首相は3期目に向けて再選を目指す。世論調査によると、同氏が率いる与党インド人民党(BJP)が優勢となっている。

モディ氏は「民主主義の最大の祭典」が始まったと述べ、BJPは「統治や公共サービス」の実績を基に選挙戦を展開すると語った。

BJPは、前回2019年の選挙で獲得した303議席を上回る370議席を目指す。

モディ氏は連日各地を訪れ、新規プロジェクトを発足させたり宗教行事に参加したりしている。演説では、急成長する国内経済やインフラ・福祉プログラムへの投資を強調している。

一方、野党側は苦戦を強いられている。最大野党の国民会議派を中心とする野党連合「インド国家開発包括同盟(INDIA)」が昨年発足したが、結束が揺らいでいる。

国民会議派は19年の選挙でBJPに大敗、野党に転落してから支持率の低迷が続いている。
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モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)は、総選挙の前哨戦と見られていた昨年11月の州議選でも勝利しています。

****インド与党、州議選で勝利 総選挙の前哨戦 モディ政権3期目に弾み****
来春の総選挙の「前哨戦」と位置付けられるインド4州の議会選挙が3日開票された。地元メディアによると、モディ首相の与党・インド人民党(BJP)が、3州で野党・国民会議派などを破って単独過半数を獲得する見通しとなった。総選挙で3期目を目指すモディ政権にとって大きな弾みとなった。

4州の選挙は11月7〜30日に投票された。BJPは、中部マディヤプラデシュ▽西部ラジャスタン▽中部チャッティスガル――の3州で勝利を宣言した。一方、野党・国民会議派は南部テランガナ州で地域政党を抑えて勝利したものの、2州で政権を失い、総選挙に向けて態勢の立て直しを迫られる形になった。

BJP勝利の背景には、7割超の支持率を誇るモディ氏の人気があるとみられる。モディ氏は3日、X(ツイッター)に3州の勝利について「BJPの良い統治と発展を国民が支持していることを示している」と投稿して自信を見せた。

国民会議派はインドの身分制度「カースト」ごとの人口調査の実施を公約に掲げてきた。下位カーストの人口を把握し、就労や教育で優遇措置を受けられる人を増やす狙いがある。ヒンズー至上主義団体を支持母体とし、カーストを超えたヒンズー教徒の結束を重視するBJPとの差別化を図る戦略だが、支持は広がらなかった。

国民会議派を中心とする野党は「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」として総選挙でBJPに対抗する構えだが、ニューデリーのシンクタンク「政策研究センター」フェローのラフル・ベルマ氏は「現時点ではBJPが最多議席を維持するのは間違いないだろう」と予測した。【23年12月4日 毎日】
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【モディ首相人気 BJPは女性にも浸透】
ヒンズー至上主義の与党BJPの有利な選挙戦を牽引するのはモディ首相人気。
インド経済の国内総生産(GDP)は22年にかつての宗主国イギリスを抜き、世界5位に浮上。数年後には日本やドイツも抜いて世界3位になると予測されています。

外交面でも昨年9月G20サミット議長として取り仕切り、対立する欧米とロシア双方の仲介役として、全会一致の首脳宣言を取りまとめたことなど、グローバルサウスのリーダーとしての存在感を強めています。

そうした内政・外交の成果を背景に、「極度の貧困の減少や家庭内水道水の設置の推進など、すべての国民が恩恵を受けてきた」(BJP副代表のジャイ・パンダ氏)とも。

従来はBJPはヒンズー至上主義の家父長的なイメージが強かったのに対し、野党国民会議派は女性首相インデラ・ガンジー氏を擁し、女性の間では国民会議派が人気があった・・・とのことですが、モディ首相人気で、そのあたりの事情も変わったようです。

****印モディ政権に女性の支持増加、日常生活直結の取り組みで****
夫を亡くした母親と2人の娘とともにインド中部のスラムで生活するナヤンタラ・グプタさん(28)。ここ数年、暮らしぶりが改善しているのはナレンドラ・モディ首相と与党インド人民党(BJP)のおかげだと話す。

シングルマザーのグプタさんは、過去2回の総選挙でBJPに投票し、5月に予定されている総選挙でも投票先を変えないつもりだ。現金給付や、一家が暮らす狭苦しい家でも上水道や安定した電力、調理用のガスを利用可能にするといった家事面での改善など、BJPが女性の福祉を重視していることを理由に挙げる。

マディヤプラデシュ州の州都ボパールで取材に応じたグプタさんは、「(モディ首相は)私たちのために多くの変化をもたらした」と語る。ロイターでは近く実施される総選挙について、マディヤプラデシュ州とハリヤナ州でグプタさんなど51人の女性に話を聞いた。

グプタさんは例外ではない。モディ政権が、世界で最多の人口を抱えるインドの全家庭に電力と上下水道を整備するというキャンペーンを進めた結果、BJPに票を投じる女性は増える一方だ。

伝統的にインドの女性は、主要野党である国民会議派を支持する傾向があった。理由の一端は、女性にとってのロールモデルが乏しいこの国で、最初の女性首相となったインディラ・ガンジー氏が同党の出身だったからだ。

一方のBJPはヒンズー教至上主義を掲げる男性限定の組織を母体としており、父権主義的なイメージもあって、なかなか女性の支持を得られずにいた。

だが、モディ首相が就任以来10年でこの状況を変えた。BJPにとっては女性からの支持の増加が新たな安心材料となり、選挙では同党の圧勝を予想する声が強いが、農村部の経済不振、農家による抗議行動、高い失業率やインフレといった問題による失望にも直面している。(後略)【3月3日 ロイター】
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【好調とされる経済 総選挙を意識した“怪しさ”もあって、実態は「足踏み」状態に近いとも】
モディ首相人気を支えるのがインド経済の好調さで、インド準備銀行(中央銀行)のダス総裁は3月6日のテレビインタビューで、2024年度(3月31日まで)の国内総生産(GDP)伸び率は8%に「極めて近い」水準になるとの見通しを示しています。

ただし、こうした経済に関する数字は選挙対策でかなり粉飾されているとの見方も。

****インド、総選挙を前にいよいよ統計が怪しくなってきたか****
~前年比という「トリック」に加え、供給サイドと需要サイドの動きが乖離する奇妙な動きも露呈~

(中略)インドのGDPは向こう数年で世界第3位になる見通しであるなど期待は高まっている。ただし、製造業比率は依然低い上、対外開放度合いも乏しいなど様々な課題を抱える状況は変わらない。

インドのGDP統計を巡っては「ブラックボックス」が少なくないが、政府は昨年10-12月の実質GDP成長率は前年比+8.5%と加速したとしている。しかし、そのうち+3.5pt程度は不突合で説明可能であるなど内訳を巡る不透明感が残る。

また、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースでは+3%程度に留まるなど勢いは乏しく、内・外需ともに下振れする動きが確認されるなど実態との乖離は極めて大きい。

他方、比較的基礎統計が整備されている供給サイドの統計である実質GVA成長率は前年比+6.5%とGDPと対照的に伸びが鈍化しており、前期比年率ベースでもほぼゼロ成長となっている。

よって、足下の景気は「足踏み」状態が続いているとみた方が実態に近い可能性がある。ただし、政府は総選挙を前にあくまで足下の景気は加速が続いていると強弁すると見込まれ、国民との間で乖離が進む可能性は高い。

(中略)インドでは他の新興国同様に選挙という民主制度を通じて強権政治が構築される流れがみられるなか、今後はそうした国が世界で存在感を高めることの意味を考える必要がある。【3月1日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所】
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また、富の格差の問題も。

****インド上位1%への富の集中が過去60年で最高、ブラジルや米国上回る****
3月20日、インドでは2023年末時点で、最上位1%の超富裕層が保有する資産が同国全体の富に占める比率が40.1%と1961年以降で最も高くなり、富の集中度はブラジルや米国を上回っていることが、世界不平等研究所の調査報告書で分かった。(後略)【3月21日 ロイター】
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【農家の抗議行動 阻止する当局 頻回のネット遮断も】
農村部の経済状態はよくないようです。
欧州各国でも農家の反乱が起きていますが、インドでも。総選挙を控えて、抗議行動を起こす農家、これを封じ込めようとする当局の攻防戦も。

****インドで総選挙控えネット遮断頻発、農家などのデモ抑圧****
警棒で殴られ、催涙ガスを浴びせられ、コンクリート製の障害物や有刺鉄線で足止めされつつ、農作物価格の引き上げを求める何千人ものインド人農民らは首都に向けて行進を続けている。だが、目に見えない障害も待ち構える。「デジタル・ブラックアウト(停電)」、つまりネット接続の遮断だ。

2月、トラクターとトラックを連ねて北部パンジャブ州から首都ニューデリーに向かっていた農民らは、携帯電話が使えなくなっていることに気づいた。州当局による一時的なインターネット遮断が原因だった。

これが初めてではない。2022年、ネット遮断の回数が世界で最も多かったのはインドだ。抗議デモの主催者は、5月に予定される総選挙を前にデジタル領域での弾圧が増えることを警戒している。

農業協同組合の指導者らが求めているのは、州からの補助金や農作物の最低買取価格に関する、法的な裏付けのある保障だ。

2月上旬、「デリー・チャロ」(デリーに行こう)と銘打った抗議行動に参加した農民らは、首都から北に約200キロメートルの地点で治安部隊に制止された。抗議参加者を押し返すため放水銃や催涙ガスが使われた。

抗議参加者は現在、パンジャブ州とハリヤナ州の州境にあるシャンブーバリア周辺で野営している。

2月12日以来、ハリヤナ州当局は数日間ずつ、定期的にモバイル接続を遮断してきた。地元メディアによれば「デマと噂の拡散を防ぎ」、「扇動者、デモ参加者の集団」が膨れあがるのを防ぐのが目的だという。

この農民らは宗教的マイノリティーであるシーク教徒のパンジャブ州出身者が多く、ネット遮断により負傷者の治療や食料の調達が難しくなったと話す。抗議活動の指導者との連絡が途絶え、活動の調整も難しくなっている。

「コミュニケーション手段を奪えば、かえって噂が拡散し、私たちの家族を悩ませるだけだ」と語るのは、28歳のハーディープ・シンさんだ。先日の警官隊との衝突で片方の目を負傷し、回復を待っている。

「ただでさえ家から遠く離れている。通信手段を奪われれば、ますます悲惨な状態になる」とシンさんは言う。

ハリヤナ州首相府と同州電気通信省にコメントを求めたが、いずれも回答は得られなかった。

抗議主催者は、モディ首相率いるヒンズー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)政権が、抗議を圧殺するためにネット遮断の措置を繰り返してきたと批判する。

「ネット検閲の広がりと合わせて、ネット遮断という憂慮すべき傾向は、デジタル独裁主義を色濃く反映しており、選挙が近づく中でそれがますます顕著になっている」と語るのは、デジタル人権擁護団体「インターネット・フリーダム・ファウンデーション」のガヤトリ・マルホトラ氏だ。

同氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し「こうした流れが続けば、人々の情報へのアクセスは著しく阻害され、選挙においても情報に基づいて判断することが難しくなる。集会・結社の自由、有権者としての要求を平和的に伝える自由も制限されてしまう」と語った。【3月9日 ロイター】
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【野党連合参加の有力者、首都圏政府トップのケジリワル首相が汚職容疑で逮捕】
野党勢力の動向に目を転じると、BJP対抗策として国民会議派を中心に結成した「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」については以下のように“数字の上では”BJPに匹敵する規模とはなっていますが、なにぶん26もの政党の“寄せ集め”でもあって、候補者調整や選挙協力など、実際にどれだけ機能するかは不透明で、BJP有利の状況は動きません。

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今回野党連合に加わった政党が政権を担っている州はインド28州のうち計11州を数える。これはBJPとその友党の15州に迫る数字だ。2019年の前回総選挙の得票率ではBJPの37%に対し国民会議派は20%と水を開けられたが、両党以外の地域政党などの得票率合計は43%に達していた。

有力誌「インディア・トゥデイ」の世論調査「ムード・オブ・ザ・ネーション(MOTN)」(23年1月実施)結果によると、BJPと「国民会議派以外の政党」の支持率は39%で拮抗している。この「その他」政党の多くが今回野党連合に加わっているため、小選挙区制独特の共倒れによる「死票」を最小限に抑えれば、計算上野党は議席を大幅に増やすことができる。【23年8月3日 新潮社Foresight】
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野党勢力の中心は、ネール、インデラ・ガンジー元首相など歴代首相を輩出した名門ガンジー家が率いる国民会議派ですが、近年は退潮著しく、ガンジー家以外から総裁を出して立て直しを図ってはいますが、新総裁も結局はガンジー家の代弁者にすぎないとも言われています。

その「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」にも参加している有力者、首都圏政府トップのケジリワル首相(55)が汚職容疑で逮捕される事態も。ケジリワル氏はデリー首都圏や北部パンジャブ州で強い勢力を持つ庶民党を率いています。

****「民主主義に死をもたらす」 インド最大野党 モディ首相を批判 有力野党指導者逮捕に****
インド捜査当局は21日、汚職事件に関与したとして、デリー首都圏政府のケジリワル首相を逮捕した。ケジリワル氏は野党連合の一角である庶民党を率い、モディ首相や与党インド人民党(BJP)批判の急先鋒(せんぽう)となっていた。インドでは4〜6月に総選挙を控えており、野党からはモディ政権による弾圧との批判が上がっている。

地元メディアによると、ケジリワル氏は酒類販売の規制緩和を巡って、何らかの汚職に関与したとされる。捜査当局は事前にケジリワル氏の聴取を試みたが、同氏は「政治的な動機に基づいている」などとして拒否していた。

ケジリワル氏は反汚職運動の活動家として知名度を高め、2013年にデリー首都圏政府の首相に就任し、現在3期目。モディ政権に批判的な政治家として知られている。庶民党は首都ニューデリーを中心に北部パンジャブ州などで支持を広げている。

総選挙を巡っては、BJPの優勢が既に伝えられている。このタイミングでのケジリワル氏拘束は、与党勝利を盤石にしたいモディ政権の意向が反映されている可能性がある。

最大野党、国民会議派の実質的リーダーであるラフル・ガンジー氏は「独裁者が民主主義に死をもたらそうとしている」とモディ氏を批判した。(後略)【3月22日 産経】
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ラフル・ガンジー元国民会議派総裁は過去の納税を巡って税務当局から調査を受けて銀行口座が閉鎖されており、選挙活動が出来ないとも主張しています。

【イスラム教徒差別的な市民権改正法を施行】
モディ首相・BJPのヒンズー至上主義の側面はこれまでも再三取り上げてきましたが、総選挙直前になって、イスラム教徒を差別するような市民権改正法も施行しています。

****モディ政権が総選挙控え市民権改正法を施行、イスラム教徒は反発****
インドでヒンズー教至上主義を掲げる与党・人民党(BJP)のモディ政権は11日、市民権改正法(CAA)の施行を発表した。

インド政府は施行の意義として、イスラム教徒が多数派のアフガニスタンやパキスタンなどで迫害を受けてインドに逃れた人たちにとって「市民権を獲得する道」(首相官邸)と強調。インド以外に避難場所がない人が適用対象になると説明している。

ただ、市民権が認められるのはヒンドゥー教徒とパーリ教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、キリスト教徒で、イスラム教徒は含まれないため、国内のイスラム教徒を差別する法律だとして改めて批判が吹き出した。一部の国境州では政府が書類なしにイスラム教徒の市民権を剥奪するのではないかとの懸念も出ている。

モディ政権は以前も施行を試みたものの、ニューデリーなど各地で抗議活動や宗派間衝突が発生。これを受け、モディ政権は2019年12月の同法制定後も同法を施行しなかった。

今回の施行決定に最大野党の国民会議派も猛反発している。総選挙が5月までに実施されることから「選挙直前というタイミング(の同法施行)は明らかに選挙の二極化が狙い。特に西ベンガル州とアッサム州だ」と述べた。

西ベンガル州とアッサム州にはイスラム教徒が多く住む。隣国バングラデシュからの不法移民と認定されてインド国籍を剥奪されるのに悪用されると懸念も広がり、抗議活動が起きている。

ケララ州で多数派のインド共産党は12日、同法は国民を分断するなどとして州全体での抗議活動を呼びかけた。【3月12日 ロイター】
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農業問題、強権支配的な色彩、ヒンズー至上主義などモディ政権の問題は少なくありませんが、このまま行くと総選挙で勝利し、世界最大の民主主義国の強いリーダーを誇示する形で3期目に入ることになります。
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