孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  新政権による移民政策の転換 米成長モデルを支える移民による人口増

2021-02-28 23:36:28 | アメリカ

(メキシコ北部の町、ティファナ 2月19日 アメリカの移民政策変更に期待して国境窓口に集まった移民【2月20日 NHK】 40年ほど昔、アメリカ側サンディエゴからの買い物観光でこのゲートを出入りしたことがあります。)

 

【移民政策を大きく転換させるバイデン政権】

日本では首相が代わっても、あるいは政権与党が代わっても、大きな政策変更はありませんが、アメリカでは大統領が代わると「良くも悪くも」即座に政策が大幅転換します。

 

周知のようにアメリカ・バイデン大統領は就任以来、トランプ前政権の施策の転換を図っていますが、移民対策

についても、就任当日にも国境の壁建設の停止やイスラム圏からの入国制限の撤廃など一連の大統領令に署名。

 

また、米国内に約1100万人いると推計される不法移民に米国市民権獲得への道を開く包括的移民制度改革法案を議会に提案しています。

 

さらに2月2日には、トランプ前政権の移民政策によって引き離された移民の家族を再会させることなどを目指し、3件の大統領令に署名。

 

****バイデン政権、移民政策転換へ 不法入国者に市民権も**** 

バイデン米政権が、移民政策を大転換する法案や大統領令を打ち出している。トランプ前政権の強硬な移民規制政策を覆し、歴代政権が達成できなかった不法入国者が市民権を得られる道を開く包括的な改革法の成立を目指す。ただ転換には保守派を中心に強い抵抗があり、改革をどこまで実現できるかは不透明だ。

 

バイデン大統領は2日、移民政策を巡る第2弾となる3つの大統領令に署名した。前政権の対不法移民強硬策の象徴となっていた国境で引き離された不法入国者の親子の再会を支援するタスクフォース(作業部会)を新設。前政権が導入した難民申請の規制や合法移民の受け入れ制限の見直しも指示した。

 

バイデン氏は「私は(前政権の)悪い政策を取り除く」と強調した。

 

バイデン氏は就任当日にも国境の壁建設の停止やイスラム圏からの入国制限の撤廃など一連の大統領令に署名。さらに米国内に約1100万人いると推計される不法移民に米国市民権獲得への道を開く包括的移民制度改革法案を議会に提案した。

 

法案は、今年1月1日以前に米国内にいた不法移民を対象に合法滞在を認め、犯罪歴調査や納税などの条件を満たせば5年後に永住権申請を可能にする。

 

幼少時に親に連れられて不法入国し、オバマ元政権が導入した救済措置「DACA」で合法滞在を認められた若者や、農業従事者の移民などは即時に永住権を申請できるようにする。

 

永住権取得者には3年後に市民権申請を許可する。

 

「国境の壁」に代わるハイテクを活用した国境管理システムの構築や、移民の原因の一つである中米諸国の治安改善や貧困対策のための40億㌦(約4200億円)規模の支援も盛り込んだ。

 

包括的移民制度改革は、ブッシュ(第43代)政権やオバマ政権も試みたが、いずれも議会を通過できず頓挫している。反対派は、不法移民の合法滞在を認めれば米国民の職を奪い、社会保障の負担が増すほか、さらなる不法入国者の流入を招くと主張する。共和党には、新移民は民主党を支持する傾向があるとの懸念も強い。

 

米シンクタンク、移民政策研究所のチシュティ上級研究員は、同法案を「野心的で、前政権の政策からの脱却を明確にする意図がある。ただ民主党の一部にも慎重論があり、議会で可決される可能性は低い」と指摘する。

 

チシュティ氏は、新型コロナウイルスの感染拡大で米国の経済・雇用が打撃を受けていることや、政策転換への期待から移民希望者が国境に押し寄せていることなども法案への支持に影響しかねないと指摘。

 

DACA受益者やコロナ対策関連の職業に就いている移民の救済を優先する妥協案に落ち着く可能性もあるとみる。

 

バイデン政権は1月20日に不法移民の強制送還を100日間猶予する措置を発表したが、テキサス州司法長官の訴えを受けて連邦地裁判事が差し止め命令を出した。今後も政権の政策に対する訴訟が予想される。

 

移民政策は米世論を二分する重要な問題で、包括的移民制度改革が実現すればバイデン氏の大きなレガシー(政治的遺産)の一つとなる。バイデン氏のかじ取りに注目が集まっている。【2月3日 日経】

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トランプ前政権による中米諸国からの移民を隣国メキシコで待機させる制度も廃止しました。

 

****米、移民待機制度を廃止へ メキシコから受け入れ開始****

米国のサキ大統領報道官は12日、ホワイトハウスで記者会見し、米国に難民申請した中米諸国からの移民を隣国メキシコで待機させる制度の廃止に向け、19日から待機中の申請者を順次米国に受け入れると発表した。トランプ前政権が進めた不寛容な移民政策の見直しの一環。

 

この制度は「移民保護手続き」と呼ばれ、難民申請の審査結果が出るまでメキシコ側に送り返して待機させるもの。移民らが治安の劣悪な国境地帯で危険にさらされたり、審査状況に関して米側と連絡を取るのが極めて困難だったりするとして、人権団体などが批判していた。【2月13日 共同】

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これにより、アメリカに難民認定を申請してメキシコで待機している人々のうち、最初の25人が19日にアメリカに入国しました。

 

ただ、“米国土安全保障省によると、手続きが進んでいる申請は約2万5000人分。メキシコ当局は、自国内にとどまっている申請者が6000人いるとしている。”【2月20日 AFP】とのことで、国境では移民の“長い列”ができているとも。

 

****米バイデン政権 移民政策転換でメキシコとの国境に長い列****

アメリカのバイデン政権が、前のトランプ政権の移民政策を転換し、難民申請の審査のあいだ、入国を希望する人たちの受け付けを始めたことを受けて、メキシコとの国境には、中米諸国からの移民が長い列を作っています。

 

(中略)バイデン政権は、前政権の政策を転換し19日、審査期間中の入国と滞在を希望する人たちの受け付けを始めました。

 

これを受けて、メキシコ北部の町、ティファナでは、これまでは閑散としていたアメリカとの国境の窓口に、19日早朝から、入国を希望する中米諸国などの出身者およそ500人が列を作りました。

現地で支援活動を行っているNGOによりますと、この国境では新しい制度が始まっても、入国が認められるのは1日当たり30家族にも満たないため、多くの家族は当面、待機を求められるということです。

アメリカ政府の政策転換の内容について、正しく理解されていないケースも多いということでNGOの担当者らが、最新の状況を説明していました。【2月20日 NHK】

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新政権の対応変更を期待して、しばしば問題になる「移民キャラバン」もまた動き出すと思われますので、“1日当たり30家族にも満たない”という現状では、“長い列”は今後更に長くなると思われます。

しかし、入国者数を緩和すれば、押し寄せる難民へのアメリカ国内の不安を刺激することにもなります。

 

難しいかじ取りです。そのあたりの“難しさ”は承知の上で、バイデン政権は移民対策緩和を更に進めています。

 

****バイデン大統領、合法移民解禁=前政権のビザ発給停止撤回―米****

バイデン米大統領は24日、トランプ前大統領が昨年停止した永住権(グリーンカード)取得希望者へのビザ発給を再開すると表明した。

 

先に発表した不法滞在者への在留資格付与に続き、前政権が進めた途上国からの移民規制を緩和する方向へ大きくかじを切った。

 

トランプ氏は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた雇用情勢悪化を理由に「米国の労働市場にリスクをもたらす移民の入国禁止」を発令し、合法移民の受け入れを事実上中止。昨年末に同措置を今年3月まで延長すると発表した。

 

バイデン氏は24日の行政文書で、前政権の措置によって、既に永住権や米市民権を取得した移民の家族呼び寄せのほか、くじでの永住権獲得を目指す人の入国が困難になったと指摘。「米国の利益にならないどころか、世界中の才能を活用してきた米産業界にも害をもたらした」と厳しく批判した。【2月25日 時事】 

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【人口増を前提としたアメリカ成長モデルを支える移民】

移民の増加は「雇用を奪われる」との反対論を惹起しますが、経済全体にとってどういう影響があるかは、冷静に分析する必要があります。移民は受け入れ側にも大きなメリットがあります。

 

アメリカはこれまで移民を受け入れることで人口が増大するということを「大前提」とした経済システムであったとも言えます。

 

トランプ前政権の移民制限と新型コロナ禍は、この大前提を変容させています。

 

****コロナによる人口減の衝撃、米国は成長モデル失う****

新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延し始めてからほぼ1年が経つ。

 

日本を含めた多くの国では感染者数と死亡者数が減少しているが、社会全体に目を向けると直視しなくてはいけない別の問題が浮上してきている。

 

コロナを抑え込むことが最重要課題であることは論を俟たないが、特に米国などでは大恐慌以来と言われるほどの社会現象が起きている。 

 

人口減少だ。

 

それは日本時間2月23日時点でコロナによる死亡者累計が50万人を突破したという事実だけでなく、人口構造の変化を伴うことですらある。

 

人口減少について述べる前に、コロナだからこその人口動態の変化について記しておきたい。

実はコロナの影響によって、多くの米市民が都市部から去っているという現実がある。コロナというパンデミックによって都市部の活力が失われてさえいる。(中略)

 

こうした都市部での人口減少の要因はコロナによるリモートワークなどにより、勤務先に近い地域に住む必要性が薄れつつあることを意味している。(中略)都市部では賃貸マンションの空室が目立ち始め、店舗の閉店も目立つ。

 

(中略)コロナという健康上の問題が、市民生活と経済環境をマイナス方向へ変化させた典型例である。

 

さらに市民が都市部から去ることで、サービス部門が衰退し、失業者が増え、税収も減るという流れになっている。

 

前出の「スレート」誌は書いている。

「米国の都市人口が急落するということは、過去30年の都市復興モデルが失われることであり、移民とヤッピーが死を迎えるということに等しい」「今後、この現実に立ち向かわなくてはいけない」

 

米国ではこれまで都市の拡充モデルの基礎として、人口増が組み込まれていた。その結果、米国は先進国の中では異例とさえいえる「人口が増え続ける国」として知られていた。

 

人口増を活力にして経済を活性化し、新たなモノを創リ出す流れができていたが、今その流れが変化しつつある。それが冒頭で触れた人口減少である。

 

コロナによって都市部からの人口流出が明確になる中、米国の人口も以前のような伸び率では増加しなくなっている。

 

2010年から2020年の10年間で、全米の人口増加率は約7%でしかない。これほど人口が増えないのは大恐慌以来といわれている。

 

7%も増えていると思われるかもしれないが、10年間での7%である。

 

ここで人口統計の分野で使われる合計特殊出生率を持ち出したい。(中略)米国の同率は2006年が2.06だったが、 2015年には1.88となり、減少へと転じた。2020年はさらに減って1.78。つまり米国の人口は減少へと転じているのである。

 

ただ合計特殊出生率が2を割っていても、米国の実質的な人口は毎年少しずつ増えている。

それは移民を受け入れているからである。

 

これまで、年平均で約100万人が移民として米国にやって来ている。最も多いのが中国からの移民で約15万人。次いでインド(13万人)、メキシコ(12万人)、フィリピン(4.6万人)となっている。

 

米国の国政調査局によると、2021年2月26日現在の人口は3億3010万4440人。その中での移民の割合は13.7%。

 

そうした移民を含めても、2019年から2020年にかけて、米国の人口増加率は0.35%でしかない。

 

首都ワシントンにある大手シンクタンク、ブルッキングス研究所のウィリアム・フレイ上級研究員は「0.35%という増加率は少なくとも西暦1900年以降では最も低率」と述べた後、原因を「まずコロナを指摘しなくてはいけない。実質的な死亡者数だけでなく、新規の移民数も減少した。さらに高齢化する社会構造もある」と指摘した。

 

米国では長い間、人口増加が経済成長の一因であり国のエネルギーの源泉と言われてきた。

 

ただトランプ前大統領が移民の受け入れに消極的だったことから、移民の受け入れ割合がこれまでのほぼ半分にまで下落。その代わり、カナダの移民受け入れ割合が増えることになっていた。

 

しかし、ジョー・バイデン大統領が発表した移民政策を眺めると、トランプ政権時代から方向展開した寛容な移民政策が目を惹く。

 

不法移民に対しても市民権取得の道を開く考えで、米国が伝統的に築いてきた本来の寛容な移民政策に戻っている。

 

それにより、どこまで米国の人口増につながるかは不確かだが、少なくともバイデン政権下では、米国らしい寛容さが戻ってくるかもしれない。【2月28日 堀田 佳男氏 JBpress】

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【人口減を前提とした成長モデルがない日本】

“2010年から2020年の10年間で、全米の人口増加率は約7%でしかない”“(合計特殊出生率が)2020年はさらに減って1.78”・・・・日本からすれば、「それがどうした!」というレベル。

 

日本では、“2019年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に生む子どもの数にあたる合計特殊出生率は1.36となり、前年から0.06ポイント下がった。4年連続の低下で07年以来12年ぶりの低水準になった”【2020年6月5日 日経】という状況で、人口減少も加速しています。

 

****20年出生数、速報値は87万2683人 過去最少更新の見通し****

厚生労働省が22日発表した人口動態統計速報によると、2020年の出生数(速報値)は87万2683人で、前年比で2万5917人減少した。19年の出生数(確定値)は86万5239人で、20年は確定値で83万~84万人台となり過去最少を更新する見通し。

 

新型コロナウイルスの感染が拡大した20年は妊娠届の提出が前年を大きく下回っており、21年の出生数は80万人台を割り込む可能性がある。

 

一方、死亡数(速報値)は138万4544人となり、前年比で9373人減少した。前年より減少するのは、09年以来11年ぶり。

 

新型コロナ感染症への警戒と拡大防止対策により、季節性インフルエンザの流行が抑えられたことが要因の一つと考えられる。

 

死亡数から出生数を引いた「自然減」(速報値)は51万1861人となった。【2月22日 毎日】

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もっとも、アメリカの場合は人口増を前提としていましたので、ここのところの「減速」は大きな問題ともなるのでしょう。

 

バイデン新政権の寛容な移民政策が、アメリカ経済を再び成長軌道に戻すカンフル剤となるのか・・・・

 

他方、人口が減少し続ける日本は、今後も間違いなく進行する人口減を「前提」とした成長モデルが必要とされています。

 

しかし、「特定技能」とか「技能実習生」といった短期的・小手先の制度変更はあっても、社会全体の変革を伴った移民政策等の「総合的・俯瞰的」政策論議は進んでいないように思えるのですが・・・・。

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コロンビア  精鋭軍を投入して反政府勢力や麻薬密売組織の制圧に乗り出す 国内政治には不満も

2021-02-27 22:32:41 | ラテンアメリカ

(コロンビア中部トレマイダ軍事基地で精鋭軍の始動式典に出席して准将に国旗を手渡すイバン・ドゥケ大統領(中央左)【2月27日 AFP】)

 

【反政府勢力や麻薬密売組織の制圧に精鋭軍投入】

南米コロンビアと言えば、麻薬コカインの栽培・製造、反政府左翼ゲリラの活動などが連想されます。

麻薬密売組織と左右武装勢力は結びついて、武装勢力の資金源となっていること多いとも。

 

****コロンビア、精鋭軍を始動 反政府勢力や麻薬密売組織の制圧を明言****

南米コロンビアで26日、麻薬の密売をはじめとした違法な活動を資金源とする反政府勢力を取り締まるため、7000人規模の精鋭部隊が始動した。

 

コロンビアのイバン・ドゥケ大統領は、同国中部のトレマイダ軍事基地でヘリコプターや戦車、数百人の兵士に囲まれながら、精鋭軍の始動は「歴史に残るものになる」と語った。

 

同氏は、精鋭軍の役割は「麻薬密売組織と(中略)鉱山の違法採掘、動植物の密輸、人身売買、そしてもちろん、越境テロに関連する脅威を抑え込み、制圧する」ことだと明言。

 

さらに、コロンビアで現在も活動する最後の左翼ゲリラ「民族解放軍」や麻薬密売組織のメンバー、元左翼ゲリラ組織のコロンビア革命軍の残党も追跡すると述べた。FARCは2016年に内戦を終結させる文書に調印したが、これを拒否する残留勢力は武装闘争を継続している。

 

ドゥケ氏は今月、精鋭軍の創設を発表した際、標的の多くは「ベネズエラに保護されている」と述べていたが、ベネズエラへの軍事介入の可能性については触れなかった。また今回の精鋭軍始動にあたっても、ベネズエラについては言及しなかった。 【2月27日 AFP】

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上記記事だけを読めば、反政府勢力や麻薬密売組織の根絶に、大統領が精鋭軍を組織して乗り出した・・・という、極めて自然な話になりますが、その背景にはコロンビアの諸事情が存在します。

 

【左翼ゲリラ組織との和平合意 その後の合意への不満】

遡れば切りがありませんが、かつて最大の左翼ゲリラだったのが「コロンビア革命軍」FARC

 

****コロンビア革命軍*****

1980年代初頭までは勢力1,000人規模だったが、80年代半ばより麻薬密売組織と協力関係を結び、コカイン原料のコカ栽培地やコカイン精製工場、コカイン密輸ルートを保護することで多額の軍資金を獲得。

 

政府軍より高性能の兵器を備えることで急速に勢力を拡大させた。その規模は1995年にコロンビア政府が麻薬組織を壊滅させてからFARCがコカイン取引に直接関与することで急成長し、95年当時6,000人規模だったのが2000年代には3倍の18,000人に膨れ上がった。

 

一時はコロンビアの3分の1を実効支配下に置き、支配地域でのコカ栽培への課税、住民からの徴税、要人誘拐による身代金やコカイン取引で毎年推定8億ドルもの活動資金を得ていた。【ウィキペディア】

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コロンビアはFARCその他の反政府勢力、麻薬密売組織の活動によって、誘拐対応がビジネスとして成立するほどの誘拐が多発、治安は最悪とも言える状況で、シリアなど内戦国と肩を並べるほどに世界最多規模の避難民を抱えていました。

 

もっとも、内戦国にありがちなことですが、民間人犠牲は反政府勢力によるものだけでなく、政府軍による犠牲者も多数存在します。

 

****コロンビア軍、民間人6400人殺害=内戦下の02〜08年****

南米コロンビアの「和平特別司法制度」(JEP)は18日、内戦下の2002〜08年、民間人少なくとも6400人が政府軍に殺害されていたことを明らかにした。JEPは、16年まで半世紀にわたった軍と左翼ゲリラによる内戦の戦争犯罪行為などを調査している。

 

JEPは「02〜08年、少なくとも6402人のコロンビア人が不法に殺害され、戦闘中の死者として計上されてきた」と指摘した。検察当局は、1988〜2014年の犠牲者数を2248人と見積もっていた。

 

02〜08年は対ゲリラ強行派のウリベ政権時代で、市民殺害の4分の1は戦闘が激しかった北西部のアンデス山中にあるアンティオキア州に集中している。

 

コロンビアでは1960年代から「コロンビア革命軍」(FARC)など左翼ゲリラと政府軍が内戦を繰り広げ、死者・行方不明者は約30万人に及んだ。2016年11月に政府とFARCの間で和平が成立。合意によりJEPが設置された。【2月19日 時事】

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こうした状況に転機をもたらした(かのように思われたのが)サントス前大統領でした。

 

2016年にコロンビア政府と最大の左翼ゲリラだった「コロンビア革命軍」FARCとの間で成立した和平合意は、半世紀以上に及ぶ同国内戦に終止符を打ち、対話による紛争収拾の新たなモデルとして国際社会から高い評価を受け、当時のサントス・コロンビア大統領はノーベル平和賞を受賞しました。

 

ただ、国際的には高く評価された左翼ゲリラとの和平合意でしたが、国内的には「左翼ゲリラに甘すぎる」と不評で、2018年の大統領選では、合意見直し派のドゥケ上院議員が元左翼ゲリラで合意遵守派の前ボゴタ市長を破り当選しました。

 

一方、和平合意して政党組織に衣替えした「元」左翼ゲリラ側には、合意内容が遵守それていないとの不満も大きく、一部は戦闘を再開することにも。

 

****コロンビア和平合意崩壊の恐れ****

南米コロンビアで3年前、当時の政府と左翼ゲリラとの都の間で成立した歴史的和平合意が崩壊する恐れが出ている。

 

■ 元ゲリア司令官が武装闘争再開を宣言

コロンビア最大の左翼ゲリラだった「コロンビア革命軍」(FARC)の元司令官イバン・マルケス氏が(2019年)8月末、政府が和平合意を十分履行していないとして、同合意を破棄して武装闘争を再開すると宣言した。

 

これに対しコロンビア政府軍は直ちに同国南部の元FARCメンバー潜伏地域で掃討作戦を開始した。

 

この出来事は日本ではほとんど報じられなかったが、中南米では多くのメディアが「コロンビア歴史的和平合意が危機に」(メキシコの有力テレビ)などとトップニュースで伝えた。

 

注目されるのは、武装闘争再開を宣言した元FARC司令官マルケス氏が同組織のかつてのナンバー2で、政府との和平交渉の責任者だった人物であること。

 

「和平合意成立の立役者だったマルケス氏が合意破棄を宣言したことは、FARCの武装闘争復帰が単なる脅しではなく、再び本格的に闘争に入ることを意味する」(コロンビアの有力紙記者)と見る向きが多い。

 

「元メンバーの大半は和平合意継続を支持し、社会復帰しており、武装闘争に復帰することはない」(元FARC幹部)との情報もある。しかし、コロンビアの現地メディアによれば、マルケス氏の武装闘争再開を支持する元FARCメンバーは2千5百人に上るという。

 

■ 背景にコロンビア政府の強硬姿勢

武装闘争再開の動きの背景には、和平合意の実現に事実上反対するドゥケ政権の対応があるというのが、コロンビアの多くの政治アナリストの意見。(中略)

 

和平合意成立後、FARCは武装解除し、現在は「人民革命代替勢力」という名の合法政党に衣替えしている。しかし、ドゥケ大統領は昨年8月就任以来、「FARCは内戦中に犯した殺人などの代償を払うべきだ」として和平合意の修正を図ってきた。

 

武装解除に応じようとしない多数のFARCメンバーが大統領の直接の指示で弾圧されたという。こうしたことが、マルケス元司令官による武装闘争再開宣言の引き金になったとみられる。

 

■ ベネズエラ情勢に影響も

コロンビアにはもう一つ、「民族解放軍」(ELN)という親キューバ系の左翼ゲリラ組織があり、その拠点の多くが隣国ベネズエラにある。元FARC司令官のマルケス氏は最近、ELNとの連携を提案したと、コロンビアの一部メディアが報じている。

 

独裁傾向を強めるベネズエラのマドゥロ大統領はこれまでたびたび、「コロンビアの左翼ゲリラを支持する」と公言。一方、ドゥケ・コロンビア大統領は「元FARCやELNのメンバーがマドゥロ政権の庇護を受け、さまざまな支援を受けている」と非難している。

 

コロンビアは米国とともに、マドゥロ大統領退陣を求める中南米のリーダー国。これに対しベネズエラ現政府は「コロンビアが米国と結託してベネズエラ軍事侵攻を画策している」と攻撃するなど、両国の対立は激しさを増している。

 

加えてここに来て、コロンビアの左翼ゲリラの動向をめぐって両国の対立は一段とエスカレートする気配が濃厚だ。カラカスからの情報によれば、ベネズエラ政府軍は9月11日から、コロンビア国境沿いに兵士15万人を配置する計画に着手したという。

 

米国の中南米問題の有力シンクタンク「インターアメリカン・ダイアログ」(IAD)の専門家の一人は「ベネズエラとコロンビアで軍事衝突が起これば、新たな地域紛争に発展する恐れがある」とし、混迷化するベネズエラ情勢が一層複雑化すると警鐘を鳴らしている。【2019年9月17日 山崎真二氏(時事通信社元外信部長)Japan In-depth】

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このあたりの動きについては、2019年9月5日ブログ“コロンビア 和平合意した左翼ゲリラ組織FARCの一部メンバー、武装闘争再開を宣言”で取り上げたこともあります。

 

【経済格差、警察の暴力への国民不満も】

話を国内政治に転じると、ここ1,2年、経済格差などへの国民の政府に対する不満も高まっており、そうした不満を警察の「力」で抑え込もうとする姿勢が更に反発を大きくしています。

 

****コロンビア、格差解消求めるデモ拡大 死亡の高校生悼む****

南米コロンビアで格差解消などを求めるデモが各地で相次ぎ、外出禁止令が発令されるなど混乱が広がっている。27日には、警官隊に銃撃されて亡くなった18歳の若者を追悼する全国デモがあった。

 

若者は学資ローンを受けられずに進学を断念していたことからデモの象徴的存在となっており、抗議がさらに拡大する恐れもある。

 

現地報道によると、デモが始まったのは21日。チリなどで格差解消などを求めるデモが広がったことを受け、コロンビアの労働組合や学生団体などが同様の抗議を呼びかけ、社会保障の拡充や最低賃金の値上げなどを求めている。(中略)

 

(警官隊に銃撃されて亡くなった)高校卒業を間近に控えたクルスさんが訴えていたのは格差解消。クルスさん自身、大学で経営学を学ぶことを希望しながら学資ローンが受けられず、断念していた。「死んだのではない。殺された」が合言葉となり、政府への抗議の輪がさらに広がっている。

 

ドゥケ大統領は哀悼の意を表明。27日には教育改革についての国民会議を開き、沈静化に懸命になっている。

 

南米では、エクアドルやチリなどで、格差解消などを求める大規模な反政府デモが発生。飛び火したコロンビアでもさらに拡大する可能性がある。【2019年11月28日 朝日】

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****コロンビア、警察暴力への抗議デモが暴動に発展 10人死亡****

南米コロンビアの首都ボゴタで、警察からテーザー銃で繰り返し撃たれた男性が死亡した事件をめぐる抗議デモが暴動に発展し、少なくとも10人が死亡、数百人が負傷した。当局が10日、明らかにした。

 

ボゴタでは9日、警官が、地面に横たわるハビエル・オルドネスさんを、テーザー銃で少なくとも5回撃つ様子を捉えた映像が公開されたのをきっかけに、警官の暴力に抗議するデモが繰り広げられた。

 

オルドネスさんの友人が撮影した映像では、オルドネスさんが逮捕される際、警官に「お願いだ、もうやめてくれ」と訴えているのが確認できる。

 

複数の警察署が襲撃や破壊されたことを受け、同国のカルロス・オルメス・トルヒジョ・ガルシア国防相は、「われわれは大規模な暴力行為に直面している」とし、警察を支援するため、人口700万人を超えるボゴタに兵士や憲兵隊を数百人動員すると述べた。

 

暴力的な抗議デモは、メデジンやカリなどの都市にも拡大している。

 

ボゴタのクラウディア・ロペス市長によると、デモでの死者の多くは銃に撃たれたことによるものだった。「警察による武器の無差別使用を示した確かな証拠がある」と言う。

 

2人の子どもを持つ弁護士のオルドネスさんは逮捕後、警察署に連行され、地元の医療施設に搬送されたが、その後すぐに死亡した。遺族は、オルドネスさんが警察署に連行された後、さらに暴行を受けたと主張している。

 

政府によると、警察署56か所が「破壊され」、70人が「警察に暴力を振るった」として逮捕された。

 

ガルシア国防相は記者会見で、オルドネスさんを拘束した警官らは直ちに停職処分になったと述べた。

 

一方、警察は、公共の場に酔っ払いがいるとの苦情を受け対応したところ、オルドネスさんが警官らに暴力を振るったため、テーザー銃の使用を余儀なくされたと主張している。

 

この事件は多くのコロンビア人にとって、同じく46歳の黒人男性ジョージ・フロイドさんが5月、警察に拘束された際、手錠を掛けられた状態で死亡した事件を思い起こさせるものとなっている。 【2020年9月11日 AFP】

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コロンビアの事情に関しては上記のような報道しか知りませんので、あくまでも一般論ですが、国内政治に不満が高まると、政権は外敵あるいは国内反政府勢力など「敵」を大きく取り上げ、国民の目をそちらに向け、国内政治がうまく機能していない責任をその「敵」に押し付ける・・・というのは「常套手段」です。

 

コロンビアの場合は知りませんが、ひょっとすると、冒頭記事にあるような反政府勢力や麻薬密売組織に対する大規模掃討作戦の背後には政権側のそういう思惑もあるのかも。

 

なお、ドゥケ政権の継続的な麻薬取引撲滅への取り組みにより、コカ栽培は減少しています。ただし、依然として世界最大の供給国です。

 

****世界最大のコカイン生産国コロンビア、コカ駆除で新記録****

南米コロンビア政府は昨年12月30日、コカインの原料となるコカ駆除で2年連続で最高記録を達成したと発表した。ただ、世界最大のコカイン生産国であることに変わりはない。

 

イバン・ドゥケ大統領の発表によると、2020年のコカ栽培地の駆除面積は13万ヘクタールで、2019年の9万4000ヘクタールを上回り過去最高となったという。またドゥケ氏は、2020年に押収されたコカインは498トン、破壊した製造所は5447か所に上るなど駆除面積以外でも「歴史的記録」を達成したとしている。

 

国連によると、コロンビアの2019年のコカイン生産量は1137トンと、前年をわずかながら上回った。

 

保守派のドゥケ政権は2018年8月の発足以来、麻薬密売との闘いに優先的に取り組んでおり、2022〜2023年にコカ栽培地を半減させる目標を掲げている。

 

ドゥケ氏はこれまでのところ目標を達成しているとしているが、国連によるとコカ栽培面積はわずか9%しか減少していない。

 

コロンビアは40年にわたり麻薬取引撲滅に取り組んでいるが、依然として世界最大のコカイン生産国であり、世界の供給量の約70%を占めている。米国が最大の消費国となっている。 【1月3日 AFP】

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反政府武装勢力の方も、政府軍の鎮圧作戦などにより大きく減少しているとか。

 

****コロンビア武装勢力、昨年5千人減少=軍作戦や脱走で****

南米コロンビアで昨年、軍の鎮圧作戦や脱走などにより、左翼ゲリラや麻薬カルテルなど非合法武装勢力のメンバーが約5120人減少した。国軍のナバロ最高司令官が5日、ロイター通信に明らかにした。【1月6日 時事】 

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イランとアメリカ  ともに国内に強硬派 譲歩が困難な状況での“チキンレース”

2021-02-26 22:14:30 | イラン

(【2月24日 FNNプライムオンライン】右はイラン最高指導者ハメネイ師

ハメネイ師は22日、核活動を巡るアメリカの圧力に決して屈しないと述べ、兵器に利用する意図はないとしつつも、必要に応じてウラン濃縮度を最大60%に引き上げる可能性があると述べています。【2月23日 ロイターより】)

 

【バイデン政権 イランを背景とするイラク武装勢力の挑発に「相応の軍事的対応」】

イラク北部アルビルでは15日、米軍駐留拠点がロケット弾攻撃を受け、1人が死亡、米兵を含む9人が負傷。

20日にはイラク中部のバラド空軍基地ロケット弾数発が撃ち込まれ、駐留米軍の仕事を請け負っているイラク人1人が負傷。

22日日には首都バグダッドにある旧米軍管理区域(グリーンゾーン)の米国大使館近くに、少なくとも2発のロケット弾が着弾。

 

イラクでは、イランと連携するイスラム教シーア派の民兵組織によるとみられる米軍・アメリカを標的とした攻撃が相次いでいました。

 

執拗な攻撃は、アメリカへの「挑発」と思われ、背後にはイラン・・・といっても、イラン・ロウハニ政権というより、イラン・ロウハニ政権とアメリカ・バイデン政権の核合意復帰に関する交渉を阻止したいイラン革命防衛隊などの対米強硬派の存在があるのでは・・・とも想像できます。

 

“2月23日、バイデン米大統領は、イラク軍や連合軍に対する最近のロケット弾攻撃についてイラクのカディミ首相と電話で協議し、関与した者の「責任を全面的に問う」必要があるとの考えで一致した。”【2月24日 ロイター】

 

攻撃側の背景・意図を考えると、アメリカがどのように対応するのか注目されましたが、アメリカ国防総省は25日、シリア東部にある親イラン民兵組織の施設を空爆したと発表。バイデン政権になって初めての軍事行動となります。

 

****米シリア空爆 バイデン政権、イランの武装勢力支援許容せず****

米国防総省のカービー報道官は25日、米軍がシリア東部にある親イラン系イスラム教シーア派武装勢力の施設に対して空爆を実施したと発表した。バイデン政権が親イラン系武装勢力に軍事行動をとるのは初めて。

 

米政権はイラン核合意への復帰を目指しつつも、中東地域を不安定化させるイランによる近隣諸国の武装勢力支援を許容しない立場を明確に示した。

 

報道官によると、今回の作戦はバイデン大統領の指示で実施された。2月中旬以降に相次いだイラクの米軍関連施設に対する攻撃への対抗措置とし、「大統領は米国や有志国連合の人員を守るために行動するという明確なメッセージを(イランに)送るものだ」と強調した。

報道官は「シリア東部とイラクの情勢の緊張緩和を図るために慎重な行動をとった」とも説明した。(中略)

 

空爆では、シーア派武装組織「神の党旅団」(カタイブ・ヒズボラ)などの親イラン系勢力が利用する国境管理地点の複数の施設を破壊したとしている。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は米当局者の話として、空爆で数人の武装勢力メンバーを殺害した可能性があると伝えた。

 

シリア人権監視団(英国)によると、空爆先はイラク国境に面するシリア東部アルブカマル周辺で、弾薬を積んだトラック3台が破壊され、少なくとも親イラン勢力の民兵22人が死亡、多数が負傷した。

 

バイデン政権は、イランの核合意復帰に向けた外交交渉に着手しようとしており、大規模攻撃で対話路線が頓挫するのを避けたい思惑があったとみられる。

 

一方で米政権はイランに合意から逸脱した核関連活動を順守状態に戻させた後、イランによる武装勢力の支援と弾道ミサイル開発の停止に向けた追加合意の締結を目指したい考えだ。

 

しかし、イランは米国が経済制裁の緩和に応じない限り、応じない構えだ。一方、議会では共和党を中心にトランプ前政権で進められたイラン封じ込めを緩和することに反対論が根強い。

 

武装勢力支援をやめないイランを牽制(けんせい)するために中東での米軍の軍事行動が続く事態となれば、中国の脅威をにらんだインド太平洋地域に軸足を移すことを目指す米国の軍事戦略に支障をきたす恐れもある。【2月26日 産経】

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“国防総省は今回の空爆について、連合諸国との協議を含む「外交手段」と合わせて実施した「相応の軍事的対応」で、「あいまいなところのない明確なメッセージ」を発するものだったと説明。

 

「バイデン大統領はアメリカと連合国の人員を守るために行動する。同時に、シリア東部とイラクの全体状況を鎮静化させるための、慎重な行動」だと述べた。”【2月26日 BBC】

 

イラン・ロウハニ政権が国内強硬派の反対でアメリカとの交渉において難しい立場にある現段階で、アメリカとしても、いたずらにイランとの緊張を高めることは本意ではないでしょうが、アメリカ国内にも反イランの強硬派が存在し、バイデン政権が何も対応しないと「弱腰」批判を受け、イランとの交渉も更に難しくなる・・・という判断でのバイデン大統領の微妙な「報復」に思われます。

 

【イラン、アメリカともに国内に強硬派を抱え、先に譲歩はできないチキンレース】

イランとの交渉の方は、互いに相手が先に譲歩することを求める「チキンレース」状態にあり、イラン側の「国際原子力機関(IAEA)による核施設などへの抜き打ち査察を認める追加議定書の履行停止措置」という“揺さぶり”によって、時間的な制約も3か月と限定されています。

 

****イラン、核施設などへの抜き打ち査察停止=欧米揺さぶり加速****

イランは23日、国際原子力機関(IAEA)による核施設などへの抜き打ち査察を認める「追加議定書」の履行を停止した。

 

IAEAとの合意で一定の監視活動は当面続く予定だが、今後はイランが申告していない核関連物質や核活動の検証作業が大幅に制限される見通しで、核開発の実態把握が難しくなる恐れがある。

 

イランは保守強硬派主導の国会で昨年12月に制定された法律に従い、米国が21日までに制裁を解除しなければ、追加議定書で規定された抜き打ち査察の受け入れを停止すると警告していた。米国が制裁を解除するめどは立たず、核合意のさらなる逸脱により欧米諸国から譲歩を引き出そうと揺さぶりを強める構えだ。

 

イランのザリフ外相は23日、ツイッターで「米国は違反をやめず、欧州も合意を順守していない」と履行停止を正当化した。

 

追加議定書は、核兵器を持たない核拡散防止条約(NPT)締約国がIAEAと結ぶ「包括的保障措置協定」に追加する形で、より広範な査察をIAEAに認める。イランは核合意締結後の2016年から自主的に暫定履行した。

 

履行停止により、査察能力は「約2〜3割縮小する」(イランのアラグチ外務次官)という。【2月23日 時事】

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****米イラン「3カ月」の攻防 ロウハニ大統領の時間わずか****

イラン核合意に基づく義務の逸脱行為を続ける同国のロウハニ政権は23日に国際原子力機関(IAEA)の核施設などへの抜き打ち査察の受け入れを停止する一方で3カ月間に限り「必要な検証・監視活動」を認める妥協をした。

 

イランはこの間の交渉でバイデン米政権から制裁解除を引き出すことを狙っているが、両国間の隔たりは大きく、双方が歩み寄れるかは「3カ月」の攻防にかかっている。

 

 ■3カ月の時間稼ぎ

2018年に核合意を離脱したトランプ米前政権はイランに対して「最大限の圧力」政策を取り、合意に基づいて解除されていた経済制裁を復活させた。

 

イランのメディアによると、ロウハニ大統領は24日、制裁の早期解除を求め「そうすれば前進する道が開け、交渉が可能になる」と訴えた。IAEAとの妥協で確保した「3カ月の猶予」を浪費すべきでない−とのメッセージだ。

 

イランはバイデン政権や、核合意当事国などとの多国間の対話に前向きだ。同国のアラグチ外務次官は多国間会合への参加を「検討している」と述べ、近く回答する見通し。欧州連合(EU)は米イランを含む核合意当事国の非公式会合を呼びかけており、査察をめぐる「3カ月」の妥協は、外交交渉を視野に時間稼ぎをした形だ。

 

米イラン間では、双方で拘束されている自国民の解放をめぐる交渉も始まった。信頼醸成の一環とみられ、国交がない両国の交渉はスイスを介して間接的に行われている。

 

しかし、米政権は制裁解除よりも、イランが核合意の逸脱行為をやめるのが先だと主張している。米国は多国間会合に出席するとしているが、イラン側が核開発を止めることが前提という側面も大きい。

 

 ■勢い増す保守強硬派

核合意締結を主導した国際協調派のロウハニ師に残された時間は少ない。

 

保守強硬派が勢いを増すイランでは6月に大統領選が予定されている。ロウハニ師は任期満了で出馬できずレームダック(死に体)化が進んでおり、5月下旬までの3カ月、膠着(こうちゃく)状態のまま推移すれば、対米批判一色で柔軟性に欠ける保守強硬派から次期大統領が選出され、米国との和解が遠のく可能性がある。

 

抜き打ち査察の受け入れ停止に先立ち、ロウハニ師が率いる政権とIAEAが21日に妥協案で合意したのを受け、反米の保守強硬派が多数を占めるイラン国会は22日、同師個人を非難し、訴追を求める決議を採択。国会では昨年12月、米国が制裁を解除しなければ核開発を加速させるよう政府に義務付ける法律を成立しており、同師はこの法律に違反したとの主張だ。

 

ロウハニ師には保守強硬派の攻撃をかわしつつ、欧米との間で核合意を立て直す困難な仕事が待ち受ける。エジプトの政治評論家、バセム・アリ氏は「ロウハニ師にとって非常に厳しい3カ月になる」との見方を示した。

 

 ■米、膠着打開に動くか

バイデン政権は「外交は、イランに核兵器を得させないための最善の方法」(サキ大統領報道官)とし、トランプ前政権下で悪化した米イラン関係を対話により打開する方針に転換した。しかし、両国の立場の違いは大きく、米国が現在の膠着状態の打開に動くかは不透明だ。

 

米政権は18日、EUがイランとの対話の場を設定すれば米国も参加する用意があると表明した。ブリンケン米国務長官は、イランが核合意を順守すれば「米国も同様の対応をとる」と述べた。対話の意思はあるが、イランが核合意に基づく義務を履行するかによるというメッセージを送ったものだ。

 

バイデン政権が、トランプ前政権の「最大限の圧力」路線から「対話」にかじを切った背景には、前政権の政策が「イランの核開発計画を促進させ、中東地域でイランの態度を一層、攻撃的にさせた」(国務省高官)との反省がある。

 

サキ氏は24日の記者会見で「より長期的で強力な枠組みを構築する」とし、イランの弾道ミサイル開発なども交渉に含める考えに言及。「欧州の誘いにイランがどう反応するか待っている」と期待をかけたが、核開発に加え弾道ミサイル開発に制限をかける路線はトランプ前政権が模索したものの頓挫しており、交渉が長期化する可能性がある。

 

「対話」を重視するバイデン政権の姿勢は、イラン側に足元を見られる恐れもあり、「イランの脅しを前にしてとっている融和策ではないのか」(トランプ政権の元高官)との批判も上がる。米側にも容易に妥協できない事情がある。【2月25日 産経】

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イラン・ロウハニ政権、アメリカ・バイデン政権ともに何らかの形で「合意」したいが、それぞれ国内に強硬派を抱えている状況で、自国からの譲歩はできない、相手から先に譲歩してくれないと・・・といった“チキンレース”です。

 

特に、ロウハニ大統領は“レームダック”化しつつあり、国内強硬派による「米国が制裁を解除しなければ核開発を加速させるよう政府に義務付ける法律」もあって、非常に苦しい立場です。

 

ただ、上記記事が指摘するように、ここでロウハニ大統領を見放せば、6月の大統領選挙はおそらく反米強硬派の候補者が勝利し、イランとアメリカは交渉もできない状況となり、中東の緊張は現在以上に強まることが想像されます。中東石油に頼る日本としては望ましくない未来です。

 

一方、トランプ前政権と協調する形でイスラエルとともに「イラン包囲網」の中核にあったサウジアラビアに対するバイデン政権の対応も、カショギ氏殺害事件に関するムハンマド皇太子の関与を示す報告書を米国家情報長官室が近く公表するということで、微妙なかじ取りを求められています。

 

そのあたりは、長くもなりますので、報告書が明らかにされた時点で改めて取り上げます。

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米中関係  中国は「競争相手」か、「敵対国」か? ゼロサムゲーム的な「覇権争い」か?

2021-02-25 23:29:02 | 国際情勢

((Dilok Klaisataporn/gettyimages)【2月15日 WEDGE Infinity】)

 

【「競争相手」と「敵対国」】

中国を「最も重大な競争相手」と呼び、共通の課題では協力を模索する「現実路線」を取りつつも、経済慣行、人権侵害、台湾問題なんどでは厳しい姿勢で臨むとする米バイデン大統領の対中国対応については、2月20日ブログ“アメリカ バイデン政権「America is back」 同盟関係重視で臨む「最も重大な競争相手」中国”でも取り上げました。

 

同時に、アメリカ国内には、北京五輪ボイコット論などに見られるように、これまで以上に中国に対する厳しい見方が増えていることも触れました。

 

そうした空気に共鳴するものでしょうか、CIA長官に指名されたバーンズ元国務副長官は、中国を「手ごわい独裁的な敵対国」と評しています。

 

*****「独裁的な敵対国」中国への対抗、米安全保障の鍵=CIA長官候補****

米中央情報局(CIA)長官に指名されたバーンズ元国務副長官(64)は24日、上院情報委員会の指名承認公聴会で、中国と競争し、中国の「敵対的で強奪的なリーダーシップ」に対抗することが米国の国家安全保障政策の鍵になると述べた。

バーンズ氏は、CIA長官に就任した際には「人々、パートナーシップ、中国、技術」の4分野が最優先課題になると説明した。

中国を「手ごわい独裁的な敵対国」と呼び、知的財産を盗み、国民を抑圧し、影響力を拡大し、米国でも影響力を強めているとした。

中国が米大学などを拠点に中国語の普及活動を行う「孔子学院」については、自分が大学の学長なら閉鎖するよう提言すると述べた。米議会では、孔子学院が中国政府の宣伝活動に使われているとの声が多い。

ロシア、北朝鮮、イランなどによる「身近な脅威」も続いていると指摘。気候変動や世界的な衛生上の問題、サイバー攻撃も大きなリスクだとした。ロシアに関しては、サイバー攻撃などの問題の判断をバイデン政権が行う計画だと説明した。

その上で、「敵対的で強奪的な中国のリーダーシップは、米国にとって最大の地政学的試練」だと強調した。

バーンズ氏は、民主・共和両政権下で国務省高官を務めた経験があり、議会の指名承認を問題なく得られる見通し。議会関係者によると、上院情報委員会は、今週後半か来週には指名承認の採決を行う予定。【2月25日 ロイター】

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バイデン大統領の言う「競争相手」と、バーンズ氏が使用した「敵対国」の間には明確な違いがあります。

 

****「中国は敵対国でも、敵国でもない」****

バイデン氏の外交演説に戻る。軍事外交専門家が注目しているのは、中国を「競争相手」(Competitor)と呼んでいる点だ。なぜ敵対者(Adversary)、敵(Enemy)ではないのか。

 

主要国の大使を務めたことのある元職業外交官K氏は筆者にこう指摘する。

 

「外交関連の文書、例えばスピーチには厳密な定義づけがある。これは同盟(Ally)、パートナー(Partner)などにも言える」

 

「Competitorとは、元々商売敵から来たものでライバル関係にある国同士のこと。これには敵対関係にある国同士のこともあるし、同盟関係にある国同士のこともある」「1980年代の日米は経済摩擦でComtetitorだった」

 

「これに対してAdversaryは、政治的、軍事的に意見が対立している国家同士で、相手を打ち負かしたいもの同士。ただ、妥協の余地も視野に入れている」

 

「Enemyは、極度の敵対関係、戦争寸前状態にある国同士で、武力御行使して相手を破壊、壊滅させたい関係だ」

 

「米国は『中国の脅威』を口にするが、バイデン氏もバイデン政権もまだ中国をAdversaryやEnemyとは見ていない」(後略)【2月20日 高濱 賛氏 「米国、2022年の北京冬季五輪をボイコットか」JB pressより】

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「競争相手」とは一定に平和的関係もあり得ますが、「敵対国」となると“打ち負かすべき相手”になります。

(バーンズ氏が実際にどういう言葉を使用したかは知りません)

 

【ゼロサムゲーム的な「覇権争い」の発想への批判も】

このバーンズ氏の発言には、中国側も反応しています。

 

****中国、米側に歩み寄り求める「ゼロサム思考捨てよ」****

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は25日の記者会見で、米中央情報局(CIA)長官に指名されたバーンズ元国務副長官が中国への対抗姿勢を鮮明にしたことに対し、「米国が、勝つか負けるかのゼロサム思考を捨て、客観的で理性的に中国や両国関係を取り扱うよう望む」と米側に歩み寄りを促した。

 

一方で、米中関係が悪化した原因については「米前政権が自身の政治的な必要性から、対中政策について甚だしく誤った判断を行い、各種の抑圧行為をとった」とトランプ前政権に責任を押し付けた。【2月25日 産経】

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中国側の「ゼロサム思考捨てよ」という主張は随所の出てくる以前からのものですが、たまたま今目についたものをあげれば、3年前の下記の言い分なども。

 

****米中の通商関係、ゼロサムゲームでない=中国外務省報道官****

トランプ米大統領が中国の知的財産権侵害を巡り、中国製品に制裁関税を課す可能性があるとのニュースについて、中国外務省の陸慷報道局長は14日、米中の通商関係は「ゼロサムゲーム」であるべきではないとの見解を示した。

 

同報道局長は定例記者会見で、中国は貿易に関する正当な権利を守るために強力な手段を取ると表明した。

 

関係筋によると、トランプ政権は中国製の情報技術(IT)や通信機器などに最大600億ドルの関税を課すことを検討している。

 

陸慷報道局長はまた、中国は米国務長官に指名されたポンペオ中央情報局(CIA)長官と両国間の問題に取り組むことを望むと述べた。【2018年3月14日 ロイター】

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「競争相手」か「敵対国」か

「ゼロサムゲームでない関係」か「打ち負かすべき相手」か あるいは「覇権を争う関係」か

 

****アメリカ混迷の根源。中国に「覇権」を奪われるという被害妄想の代償****

トランプ氏の大統領就任以来、中国に対する「敵愾心」を隠すことがなくなったアメリカ。その理由として中国の台頭が取り沙汰されますが、根本原因はもっと深いところにあるようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、なぜ米国社会の全てが中国を憎悪感情でしか捉えられなくなってしまったのか、その要因を考察しています。

 

米中はゼロサム関係ではない――米国はなぜ対中ヒステリーに走るのか

1月7日付毎日新聞で坂東賢治=専門編集委員が「米中はゼロサム関係か?」と題したコラムを書いていて、この設問の仕方は正しい。

 

設問それ自体に答えが含まれており、「米中対立激化で米政界やメディアには冷戦時代の米ソ関係のように中国の得点を米国の失点と見る『ゼロサム思考』が広がった。……〔が、この〕思考で米中どちらかの選択を迫るような手法は簡単には通用しまい」というのが結論である。

 

それはその通りだが、問題は、なぜ米国社会の上から下までが、中国を、ゼロか100か、敵か味方か、死ぬか生きるかといった極端な(思考と言うのも憚られる)激しい憎悪感情でしか捉えられなくなってしまったのかということで、それについてこのコラムは何も言及していない。

 

自分を見失ってしまった米国

私に言わせればその根本原因は、米国が、自らの衰弱を薄々は自覚しつつも、それを正面切っては認めたくないがゆえに、誰かが悪いというように他所に責任転嫁して束の間の安心を得ようとする、「対中ヒステリー」とも言うべき病的な集団心理に陥っていることにある。

 

このことは十分に予想されていたことである。今から16年前になるがINSIDERの2005年1月27日号は、以下の3つの文献(省略)を引用しつつ、「米国がなしうることは『唯一』も『超』も付かない、ただの『大国』の1つ(とは言っても最大の大国)になることを目指すことである」と指摘した。(中略)この課題設定が今尚できていないことが米国の混迷の根源である。(中略)

 

日本は、地域内でどのような地位と役割を得るかが大きな課題で、とりわけ台頭する中国と対抗的にバランスを取ろうとするのか、それとも中国の勢いに“乗り遅れまい”とするのかを選択しなければならないだろう……。

 

モラブチックが言うように、自らの「凋落に気付かず、偉大な国という夢想に取り憑かれ」「酔っ払いのような情緒不安定」に陥ってきた米国が、酔っ払いどころか「錯乱」したトランプを大統領に頂いたことでますます自分を見失い、悪いことのすべては中国のせいだと思い込むことで自分を慰めようとしてきたのがこの2年間ほどであった。

 

「冷戦終結」まで時計を戻さないと

米国のこの「対中ヒステリー」症状を直すには、時計を「冷戦終結」のところまで巻き戻さなければならない。(中略)

 

私がことあるごとに述べてきたとおり、冷戦の終わりとは、単にそれだけではなくて、冷戦にせよ熱戦にせよ、国家と国家が重武装して武力で利害と領土を争い合うという野蛮な「国民国家」原理の終わりを意味していた。

 

国境に仕切られた「国民経済」を基礎として全国民を統合して国益を追求する近代主権国家=「国民国家」は、19世紀後半までに全欧州を覆い尽くしてきしみを立て始め、それが20世紀に入って2度にわたる世界規模の大量殺戮戦争となって爆発した。

 

最後はヒロシマ・ナガサキの悲劇にまで行き着いて、その熱戦のあまりに悲惨な結末に「もう熱戦はやめよう」ということにはなったものの、荒廃した欧州の西と東の辺境に出現した米国と旧ソ連という「国民国家」のお化けとも言うべき2大超大国は、地球を何十回も破壊してあり余るほどの核兵器を抱え込みながら、なお武力による国益追求という野蛮原理を捨てることが出来ずに冷戦を演じ続け、ついにその重みに耐えかねて「もう冷戦もやめよう」という合意に至ったのであった。

 

だから冷戦に勝ち負けなどあるはずもなく、米ソは共に、国家間戦争の時代は終わったのだという認識に立って、新しい協調的な国際秩序の原理を模索するのでなければならなかった。

 

ところが当時ブッシュ父が率いる米国は、冷戦終結を「米国の勝利」と錯覚し、旧ソ連が崩壊したことによって米国は“唯一超大国”になったという幻想に取り憑かれた。(中略)

 

冷戦が終わり、それと重なってウェストファリア条約以来の「国民国家」の時代が終わるということは、その「国民国家」のお化けとしての「超大国」による覇権システムもまた終わることになる。

 

米ソがそれぞれ核をはじめ軍事力を振りかざして君臨するというピラミッド型の国際秩序が崩れた廃墟から何が立ち現れるのかと言えば、熱戦と冷戦の合間に形作られてたちまち仮死状態に陥ってしまった国連の多国間協調主義のネットワーキング型組織論である。

 

ところが米国はそのように考えず、旧ソ連がそうしたように、自ら階段を降りて「超」の付かないただの「大国」になり下がることを拒絶した。

 

しかし、歴史はすでに超大国というものがなくなっていく新しい時代に入っているのだから、いくら“唯一超大国”として振る舞おうとしてもうまくいかず、ストレスに陥る。

 

それがブッシュの「単独行動主義」でありトランプの「米国第一主義」であるけれども、それは歴史の流れに逆行しているが故に、何の解決にもならない。

 

するとますます苛立ちが増して、中国が陰謀を企んで米国社会を混乱させ、それに乗じて“唯一超大国”の座を奪おうとしているのではないかという疑心暗鬼が募るのである。

 

覇権主義は、その本質においてすでに役目を終えていて、それは米国人の“唯一超大国”幻想や、日本人の日米同盟基軸にしがみつく“冷戦ノスタルジア”のような足のない幽霊としてしか存在していない。従って、中国が米国に代わって覇権国になるというのは取り越し苦労でしかない。

 

「多国間主義」の本当の意味

米国にも、日本の菅義偉首相を含む親米保守派の中にも、「多国間主義」を口にする人がいる。

 

しかし、これまで述べたような米国=“唯一超大国”幻想をきちんと清算しないままこの語を用いると、引き続き世界の中心である米国のバイデン政権が(トランプとは違って)同盟国との協調を重んじ、それらを糾合して中国の脅威に立ち向かうというような意味にすり替わってしまう。これでは、形を変えた冷戦型の敵対的同盟と何ら変わりがない。

 

そうではなくて、覇権なき多国間主義の時代とは、国際的などんな問題領域でも中国をルール作りに参加させない限り適正な解決策は生まれないと覚悟することなのである。(中略)

 

見落とされがちなのは、中国が世界の新しいルールを作りたい(少なくともルールの書き換えに参加したい)と考えていることだ。「中国はテーブルの上座に座ることを臨むようになった」と、ブルッキングス研究所中国研究センターの李成=上級研究員は言う。「グローバルな制度や組織の主要な設計者でありたいと考えている」。

 

IMFや世界銀行など既存の国際機関は、アメリカに率いられた一握りの国によってつくられた。このような国際機関の政策には、アメリカ的な価値観が色濃く反映されてきた。

 

中国の国際的な影響力がまだ小さかった頃は、中国の指導者は既存の制度に不満があっても我慢して受け入れてきた。……しかし中国が世界で力を増すにつれて……国際システムをもっと中国に有利なものにつくり替えることで、体制存続の可能性を高めようと考えるようになった。

 

皮肉なことに、アメリカ政府はしばしば、中国が国際社会の運営に十分に関わろうとしないと批判する。しかしほとんどの場合、中国は自国の意向を反映せずにつくられたシステムへの参加を求められている。そういうシステムは欧米に有利なようにできていると、中国は思っているのだ……。

 

「ニューズウィーク」誌(2010年3月31日号の特集「『中国ルール』が世界を支配する日」)のタイトルだけを見ると、中国が米国中心の戦後秩序を破壊して自分のルールを世界に押し付けようとしているのかと思えてしまうが、記事の中身を読むと、このように、世界第2から第1の経済大国となりつつある中国も国際ルールの変革に参加する権利があり、米国にとってもそれは認めて受け入れるのが当たり前だという特集の趣旨が理解できる。

 

その通りで、例えば同誌が挙げている例の1つは、米国主導で戦後作られた国際通貨基金(IMF)は、トップの専務理事は欧州人か米国人、それを支える副専務理事は長く欧州人、米国人、日本人の3人体制で来たが、2011年からこれに中国人を加えた4人体制に改まった。これは中国を組み込むことで既存の国際システムを発展させた好例と言える。(中略)

 

安倍・菅両政権はもちろん多国間主義の意味など理解していない。そのため、米国の誤った歴史認識に基づく嫌中感情の膨張に安易に同化して、TPPを反中国の材料にしようとしたり、中国の「一帯一路」構想に徒らに反発したり、「自由で開かれたインド太平洋」構想で中国を軍事的な包囲網に絡めとろうとしたりしていて、基本的に対中「ゼロサム思考」で突き進むようにも見えるが、そうかと言って中国を全面的に戦う覚悟もありそうにない。

 

この中途半端は、米国には背けないが中国ともそこそこうまくやっていきたいという中途半端な無戦略心理から来ているので、それを克服するには、まず米国発の対中ヒステリーの根本原因から考え直さなければならない。【1月13日 高野孟氏 MAG2NEWS】

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素人考えでも、互いに相手を打ち負かそうとした米ソ冷戦と、経済的に互いに相手を必要としているアメリカ・日本と中国の関係が、基本的なところで異なることはわかります。

 

さはさりながら、中国の民主主義や人権に対する考え方には価値観の違いがあり、隣国として拡張主義的傾向は看過できないということもあって・・・・どのように対応すべきかという話になります。

 

個人的には明確な「結論」は持ち合わせていませんが、上記のような指摘も踏まえながら考えていかねばならない・・・ということで。

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ミャンマー・クーデターへのASEAN対応 インドネシアが選挙実施案 結果的にはクーデター容認にも

2021-02-24 23:50:30 | 東南アジア

(ヤンゴンで18日、警官隊の前でアウンサンスーチー氏の肖像を掲げる抗議デモの参加者=AP【2月23日 朝日】)

 

【国軍 「命を失う可能性がある」と警告 難しい抗議行動】

ミャンマーの国軍によるクーデターに対して、連日抗議行動が行われていること、22日にはゼネストが呼びかけられたことは報道のとおり。

(なお、国軍は、今回の動きは憲法に規定された緊急時の「権力移譲」であり、「クーデター」ではないとしており、国内メディアに対しても「クーデター」という表現を禁止しています。【2月23日 産経】)

 

****ミャンマーで最大デモ=弾圧に反発、ゼネスト決行****

国軍によるクーデターに対する抗議行動が続くミャンマーで22日、大規模なデモが行われた。インターネット交流サイト(SNS)を通じてゼネストが呼び掛けられ、スーパーなど多くの小売店が休業。治安部隊の発砲によるとみられる死傷者が相次ぐ事態に反発が強まる中、公務員や労働者も加わり、1日のクーデター後、最大のデモとなった。

 

地元メディアは、デモは数百万人規模との見方を伝えている。最大都市ヤンゴンでは、デモ隊が拘束されているアウン・サン・スー・チー氏の肖像や「(クーデターを主導した国軍の)ミン・アウン・フライン(総司令官)を決して受け入れない」と書かれたプラカードを掲げ、抗議の声を上げた。

 

マイクを握った女性教師は「恐れているのは職を失うことではない。国軍の独裁者によってねじ曲げられた歴史教育を強いられ、自尊心を失うことだ」と演説。衝突に備え、ヘルメットをかぶって参加した会社員の男性(28)は「撃たれるかもしれないと思うと怖い。それでも未来のために抗議する」と話した。【2月22日 時事】 

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国民の抗議行動に対し、国軍は「命を失う可能性がある」と警告しています。

 

****ミャンマー全土で大規模デモ、軍は「命の危機」を警告****

クーデターによって国軍が権力を握ったミャンマーの各地で22日、大規模なデモが行われた。軍はデモ隊が治安部隊と対峙(たいじ)した場合には命を失う可能性があると警告していた。

 

ミャンマーでは2月1日の軍によるクーデター後、抗議デモが発生。20日には第2の都市マンダレーで警察がデモ隊に発砲し、少なくとも2人が死亡していた。こうした状況を受けて、活動家が歴史的なストライキを呼び掛けていた。

 

ミャンマーにいる写真家やSNSの画像によれば、22日には最大都市ヤンゴンやマンダレー、首都ネピドーなど全土で数万人がデモに参加した。

 

軍は21日夕、デモ隊に対して殺傷力の高い武器を使用する可能性を示唆していた。

 

最高意思決定機関の「連邦行政評議会」は21日夕、地元メディアを通じ、デモ参加者が特に若者について命を失うかもしれない対立の道へと駆り立てていると述べた。

 

21日夜から22日午前にかけてSNSに投稿された動画には、ヤンゴンでは一部の大使館へと続く道が有刺鉄線で封鎖されている様子が捉えられている。動画にはまた、警察や軍のものとみられる車両が市内を移動する様子が映っている。

 

デモ参加者は、2021年2月22日の日付にちなんだ「22222」ストライキで、全ての事業所や店舗に閉鎖を呼び掛け、すべての市民に参加を促した。【2月24日 CNN】

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ミャンマーでは、1988年3月から9月まで全土で大規模な民主化デモが起き、陸軍や治安部隊の弾圧で数千人が死亡した「歴史」があり、今回の軍の姿勢を単なる「脅し」と見ることはできません。

 

こうした国民に銃口を向けることをためらわない権力に相手にしたとき、国民の抗議活動は著しく制約されること、そして「平和的な抗議行動」というのが、たとえそれが何百万人規模であったとしても、どれほどの変化をもたらすものか疑問に思えることは、残念ながら現実の問題です。

 

【インドネシアの現実対応的な選挙実施案 結果的には国軍のクーデター容認にも 公正選挙の保証もなし】

国際的にも批判が高まり、アメリカ、イギリス、カナダが国軍の幹部に対し、資産凍結などの制裁を科すと発表しており、EUもこれに続く動きを見せています。

“EU、最後の手段でミャンマーに制裁も=ドイツ外相”【2月22日 ロイター】

 

ただ、2月18日ブログ“ミャンマー 国軍への抗議行動続く 蘇る「虐殺」の記憶 中国はどこまで国軍を支えるのか?”でも触れたように、中国の国軍支援という抜け道がある限り、こうした国際圧力にも限界があるように思えます。

 

アメリカ・欧州などは「制裁」という原則的対応、強硬な手段をためらいませんが、歴史的にも、経済的にも関係が深く、中国の影響力拡大を懸念する日本としては、一方的制裁ではなく仲介的役割を・・・といった議論も多々あります。しかし、それが結果的に軍政擁護につながることにもなりかねず、対応は容易ではありません。

 

日本以上に対応が難しいのが、ミャンマーを同じグループメンバーとするASEAN諸国でしょう。

公式のASEANの会議にミャンマーで実権を掌握している軍関係者の出席を認めることも、クーデターを容認したことにもなりますので、難しい話です。

 

さりとて、話をしないと事態も改善しないということで、水面下での接触も模索されているようです。

 

また、ASEAN内部で、国軍に対する「温度差」があるのも現実でしょう。そこをASEANとしてまとめていくことも必要になります。

 

本来なら、加盟国の民主化後退に対し、強い批判もあってしかるべきところですが、なかなかそうならないところがASEANのASEANたる所以でもあります。

 

****インドネシア、ミャンマー情勢で行動計画、ASEANに同調求める****

インドネシアがミャンマーの混乱を収拾するための行動計画を策定し、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に同調を求めていることが明らかになった。

関係筋によると、同計画はクーデターにより同国の実権を握っている国軍に新たな選挙実施の確約を求めるとともに、公平で幅広い参加が保証されるよう監視団を組成することなどを柱としている。

インドネシア政府高官はロイターに対し、行動計画は流血の事態を防ぎ、選挙を実施して勝者に政権を譲るという約束を軍事政権に守らせるための外交的な解決策であると指摘。同高官によると、計画では軍政とクーデターに反対する勢力の対話をASEANが仲介するよう求めている。

実権掌握後、ミャンマー国軍は再選挙の実施を約束しているが、その時期は明言していない。

同国内の抗議活動参加者や西側諸国は国軍側にアウン・サン・スー・チー国家顧問を直ちに解放し、昨年11月8日の選挙結果を認めるよう求めている。インドネシアによる行動計画はこうした要求を満たす内容にはなっていない。

インドネシア外務省の報道官は「(ルトノ外相が)ASEAN諸国の外相との協議から戻ったら発表があるだろう」と述べ、それ以上のコメントは控えた。

同行動計画について、インドネシア政府高官は複数のASEAN加盟国から強い支持を得ているとする一方、外交努力は簡単なものではないと指摘している。

別のインドネシア高官2人とある外交筋は、複数のASEAN加盟国とインド太平洋地域の国が「裏のルート」を通じてミャンマー軍政の一部と協議し、譲歩を促すとともに、さらなる流血を防ぐよう求めているとしている。

同高官らはミャンマーにASEAN特別首脳会議への参加を促すのは難しいと指摘。ミャンマーは同首脳会議でクーデターが議題になることを避けたいとみられ、譲歩案としてジャカルタのASEAN事務局で議題を明示しない首脳会議を提案することが考えられるという。【2月22日 ロイター】

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国軍が一応公言している選挙を、確実に、公正に実施させることで早期の「民政復帰」を促す・・・・確かに「現実的落としどころ」ではあるように思えますが、今回のクーデターを容認することにもなりますので、多くのミャンマー国民など国軍を批判する立場からは受け入れがたいものでしょう。

 

更に言えば、スー・チーの自由な選挙活動、与党NLDが「普通に」参加できる選挙を国軍が認めるはずもなく、インドネシアの提案は極めて形式的・建前的な対応にもなり、ますますミャンマー国民が求めるものから遠ざかり、限りなく国軍容認的なものにもなります。

 

****インドネシア外相が25日にミャンマー訪問予定、抗議の声も****

インドネシアのルトノ・マルスディ外相が25日にミャンマーを訪問予定であることが、ロイターが入手した政府文書で分かった。1日の軍事クーデター以来、外国の高官が同国を訪れるのは初めて。

 

23日付の交通省の文書によると、ルトノ外相は25日午前中に首都ネピドーに航空機で到着し、数時間後に出国する予定。当局者はこの文書が本物だと認めた。

 

ルトノ氏はミャンマー情勢に関する特別会議の開催を東南アジア諸国に呼び掛けている。関係筋によると、インドネシア政府はクーデターにより同国の実権を握っている国軍に新たな選挙実施の確約を求めるとともに、選挙で公平かつ幅広い参加が保証されるよう東南アジア諸国から監視団を派遣することを提案している。

 

だが、アウン・サン・スー・チー国家顧問の即時解放と昨年11月の選挙結果を認めるよう求めるミャンマー市民らはインドネシアの提案に反発。23日にはヤンゴンにあるインドネシア大使館の外に数百人が集まり、提案への抗議を表明した。

 

ミャンマーを拠点とする活動団体The Future Nation Allianceは、インドネシア外相の訪問は「軍事政権の承認に等しい」と指摘。「軍事政権との正式な意見交換のために高官を派遣するインドネシア政府に強く抗議し、非難する」と表明した。

 

インドネシア外務省報道官は、ルトノ氏は現在タイにいて、今後に他の国も訪れる可能性があると述べたが、具体的な国名は挙げなかった。【2月23日 ロイター】

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新たな選挙実施案という実質的に国軍の行動を容認する結果ともなるインドネシア対応には、ミャンマー・ヤンゴンにあるインドネシア大使館の前で数百人規模の抗議活動が行われる事態にも。

 

こうした批判を考慮したものか、インドネシア外相のミャンマー訪問は中止されました。

 

****インドネシア外相がミャンマー訪問見送り、現地デモ継続****

インドネシア外務省の報道官は24日、ルトノ外相がミャンマー訪問を見送ると発表した。外相は今月初めにミャンマーで起きた軍事クーデターを受け、国軍トップと会談する予定だった。

報道官は記者向けブリーフィングで「現状と東南アジア諸国連合(ASEAN)の他の加盟国の意見を踏まえると、現在はミャンマー訪問に理想的な時期ではない」と説明した。(後略)【2月24日 ロイター】
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そもそも、軍事政権時代のミャンマーのASEAN加盟を認めるかどうかもいろいろ議論があったところで、1997年のASEAN加盟を半ば強引に推し進めたのが、当時の議長国だったインドネシア・スハルト政権でした。

 

以来、スー・チー氏を自宅軟禁したミャンマー軍事政権はASEANのなかにあっても問題の多い存在でしたが、ASEANの内政不干渉という原則のもとで容認されてきました。

 

その後の民主化で、ようやくメンバーとしての資格も整ったように思えたのですが、今回のクーデターで再びその扱いが難しくなりました。

 

もっとも、ASEANは体制の異なる国の集合体ですし、軍事クーデターもミャンマーだけでなく、タイなどでも起きていますし、これまでのような緩い組織として今後も行くのであれば、そうした問題は致命的なものとはならないのでしょう。

 

しかし、今後結びつきを強めてEUのような共同体に・・・ということであれば、内政不干渉で体制の違いに関与しないということでは済まされないでしょう。

 

【日本ネット民の冷たい反応も】

ちなみに、日本社会のミャンマー問題への反応は、非常に冷淡なものもありました。

 

****ミャンマー人に「帰国しろ」悲しんだ留学生は日本語で…****

世界中で非難の声が上がるミャンマー国軍によるクーデターとアウンサンスーチー氏の拘束。ところが、大阪在住のミャンマー人が抗議集会を開いたところ、ネットでは誹謗(ひぼう)中傷混じりの批判が起きた。

 

これに心を痛めた一人のミャンマー人女性が日本語でメッセージをつづると、今度は好意的な反響となってツイッターで拡散した。反発を応援へと変えてみせた、メッセージに込めた思いとは――。

 

「日本に迷惑かけるな。全員帰国しろ」「ミャンマーの問題なので自分たちで解決してください」

日本在住のミャンマー人が東京や大阪などで抗議集会を開いたことが報道されると、ツイッターでは日本人のユーザーからこんな批判が相次いだ。新型コロナウイルス感染への心配を理由に挙げる声もあったが、単なる誹謗中傷の投稿も少なくなかった。

 

 抗議集会に参加したミャンマーからの留学生ウィンさん(22)はこうした反応に悲しんだ。というのも、自分もミャンマーにいる家族と一時、連絡が取れなくなるなど、祖国の緊迫感を身近に感じていたからだ。国軍がSNSの利用制限や集会の妨害に乗り出していた。

 

「日本で暮らすミャンマー人は不安でいっぱい。人数は多くはないけれど、自分の国のためにできることをしたい」。ウィンさんは、集会に参加したそんな思いを日本人に知って欲しかった。集会では参加者がマスクの着用や消毒を徹底しており、日本人の誤解も解いておきたかった。

 

ウィンさんは意を決し、手書きの日本語でメッセージをつづり、ツイッターに投稿した。

 

コロナ禍の中、多くの人が集まったことをわびた上で、「自分の国の平和と夢のために頑張って生きるためなのです。現在、ミャンマーで起きている事件は、もはや国内では解決できない問題となっています」と訴えた。

 

するとネットの「風向き」は変わった。「ミャンマーだけの問題じゃないよ。国は違うけど、同じ地球のなかま、平和をねがっているよ」「皆さんが申し訳なく思うことなんてひとつもありません」

 

好意的な反応が寄せられるようになり、投稿は3万5千の「いいね」を集め、1万4千以上リツイートされた。

 

子どものころ見た「暗黒の時代」

(中略)

ウィンさんはこの春から日本の大学に入り、ビジネスについて学ぶ予定だ。将来は父のように物づくりの会社を起こし、日本とミャンマーとの貿易にも貢献したいとの夢を描く。

 

だが、そんな矢先にクーデターが起きた。不安な思いを抱えながらも、日本人にこう呼びかける。「国軍が支配する国では正常なビジネスはできません。ミャンマーの若者は、夢へ向かう翼を奪われたような気持ちなんです。私たちミャンマー人だけの力ではどうにもならないんです。どうか『日本と関係ない』と考えず、ミャンマーの危機に関心を持ってください」【2月23日 朝日】

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ベラルーシ  ルカシェンコ大統領 ロシアとの連携を背景に力ずくの体制固め 

2021-02-23 23:03:18 | 欧州情勢

(会談に臨むプーチン氏㊧とルカシェンコ氏(22日、ソチ)=ロシア大統領府提供・ロイター【2月22日 日経】)

 

【辞任は「平和と秩序が戻り、抗議活動がないこと」が条件 時期は明言せず続投に含み 退任しても「院政」】

ルカシェンコ大統領の大統領選挙における「不正」に対し、大規模・広範な抗議行動が続いたベラルーシですが、現段階では抗議行動は小さく、局地的なものとなり、大統領側が「力」で抗議行動を封じ込んだ形になっています。

 

抗議行動が激しかった頃、国民をなだめるために改憲後の辞任を示唆していたルカシェンコ大統領ですが、抗議行動封じ込めに成功した今は、そのあたりも怪しくなっています。

 

****大統領選巡り抗議続くベラルーシ、22年初めにも改憲国民投票へ****

2020年8月の大統領選の結果を巡り大規模な抗議活動が起こったベラルーシのルカシェンコ大統領は11日、来年初めにも憲法改正の国民投票を実施する方針を明らかにした。

 

これまでルカシェンコ氏は改憲後の辞任を示唆していた。ただ、この日は「平和と秩序が戻り、抗議活動がないこと」を辞任の条件として退任時期は明言せず、続投に含みを残した。

 

約5年おきに地方や各界の代表らを招いて今後の国の方針を協議する全ベラルーシ国民大会での演説で明らかにした。大会には主要な反体制派勢力は招かれておらず、反体制派幹部は「国民対話のまがい物」などと批判。欧米諸国も大会の正当性を認めず、反体制派との対話を呼びかけている。

 

ルカシェンコ氏は今年中に大統領権限の一部を移譲する改憲案をまとめ、国民投票後に関連法の改正に取り組む考えを表明した。その後に「(自分が)去るのはいつかという問題が決まる」と述べ、「公正な選挙で新世代が権力の座に就くべきだ」と述べた。

 

一方で、「国を壊すのは許さない」と述べ、「異なる見解の持ち主が権力を握らないこと」も退任の条件として強調。「移行期の安定剤」として自身の支持者で構成される国民大会の権限を強化する考えも示し、現政権に批判的な人物が権力を握るのを阻止する考えも示唆した。

 

ベラルーシではルカシェンコ氏の6選が発表された大統領選後、10万〜20万人規模の抗議活動が続いたが、政権側は治安当局の強硬な取り締まりで対抗。大規模な抗議活動が難しくなる中、ルカシェンコ氏が選挙後に約束した改憲などの改革を先延ばしするための「時間稼ぎ」をしようとしている可能性が指摘されている。【2月12日 毎日】

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「平和と秩序が戻り、抗議活動がないこと」が辞任の条件ですから、抗議行動が続く限りは辞任はないということになりますし、仮に辞任して、いつの日か「公正な選挙」が行われても、「異なる見解の持ち主」は排除されるということで、簡単に言えば、ルカシェンコ氏の意のままになる者の後ろで「院政」を敷くということでしょう。

 

【抗議行動への相次ぐ厳刑 力ずくの体制固め】

ルカシェンコ政権の抗議行動に対する「力」による封じ込め、力ずくの体制固めの事例としては、花壇の花を引き抜いて警官にぶつけたとされた男性に禁錮4年の判決が下されたいったことも。

 

****警官に花投げつけ禁錮4年 ベラルーシデモ、厳刑相次ぐ****

昨年、大統領選を機に各地で反政権デモが続いたベラルーシで、デモ参加者が長期間の拘束の末に罪に問われ、厳しい禁錮刑を言い渡される例が相次いでいる。ルカシェンコ大統領は大規模デモが影を潜めたことに自信を深め、力ずくで体制固めを進める構えだ。

 

首都ミンスクの裁判所は今月2日、トラック運転手ドミトリー・ドゥプコフ被告(29)に禁錮7年の判決を言い渡した。昨年8月の大統領選でルカシェンコ氏が8割の得票率で6選を果たしたと発表された翌日、抗議デモに参加。大型トラックを運転し、治安部隊を脅威にさらしたとされた。

 

同被告は地元人権団体が大統領選絡みの「政治的囚人」に認定した255人の1人。公判では「デモは平和的だった」と訴え、「参加者を守るため、放置されていたトラックを道の脇に動かしただけだ」と主張したが、認められなかった。

 

1994年以来、強権体制を維持するルカシェンコ政権は、大統領選の不正疑惑に抗議するデモに大量の治安部隊を投入。3万人以上の参加者を拘束したとされる。

 

デモ中継の記者に禁錮2年

従来も無許可デモへの参加で最長25日間の拘留を科されることがあったが、あくまで行政処分に過ぎなかった。

 

しかし、ルカシェンコ氏の退陣要求に発展した今回は重い犯罪とみなされ、刑法の騒乱罪などが適用されるケースが急増。人権団体「ビャスナ」によると昨年5月以降、830人以上が大統領選に絡んで訴追された。

 

すでに180人以上に有罪判決が言い渡され、ほとんどの量刑は1~7年の禁錮刑か強制労働。5日には、バリケードの中から花壇の花を引き抜いて警官にぶつけたとされた男性(29)が禁錮4年の判決を受けた。

 

18日には24歳と27歳の衛星テレビ局の女性記者2人に禁錮2年の判決が言い渡された。昨年11月、デモを建物の上層階から中継したことが、「破壊活動への参加を促した」とみなされた。

 

ベラルーシジャーナリスト協会によると、過去半年で拘束されたジャーナリストは400人以上。少なくとも10人が刑事訴追されたという。

 

大統領選でルカシェンコ氏の最大のライバル候補とされ、選挙戦前の昨年6月に資金洗浄などの容疑で拘束された元銀行頭取ビクトル・ババリコ氏に対する裁判は17日、いきなり最高裁で始まった。顧客から長年にわたって不正なお金を受け取った容疑がかけられ、有罪なら最長で15年の禁錮刑ともされるが、最初から控訴する手段を奪われた形だ。

 

デモは大統領選直後から10万~15万人規模で4カ月も続いた末、治安当局に抑え込まれた。

 

ルカシェンコ氏は今月11日、各界代表を集めた5年に1度の国民会議で、憲法改正のため来年初めの国民投票実施を打ち出した。改憲で批判をかわしながら、時間をかけて体制温存を図る狙いとの見方が強い。【2月23日 朝日】

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【同じく国内に反体制抗議行動を抱える「後ろ盾」ロシアとの連携を強める】

ルカシェンコ大統領のこうした「強気」の背景にはロシアの支持があります。

 

周知のように、そのロシアも反体制派指導者ナワリヌイ氏の拘束を機に大規模な抗議行動が起きており、状況はベラルーシとも似てきました。

 

これまでロシアの意向に従わない、独自性の強いルカシェンコ氏個人に対してはプーチン大統領も辟易していると思われますが、そのルカシェンコ氏が国民の抗議行動で失脚するような事態となれば、次は自分が・・・ということで、ここは互いに脛に傷を持つ者同士、連携して政権維持を・・・とのようにも見えます。

 

ただ、両者の間には以前からの「意見の違い」もあり、水面下ではいろいろな駆け引きがなされているとは想像されます。

 

****ベラルーシ、体制維持へ後ろ盾強調 ロシアと首脳会談****

ベラルーシのルカシェンコ大統領が強権的な体制を維持する構えを強めている。22日にロシアでプーチン大統領と会談し、後ろ盾である同国の支持を強調した。

 

プーチン政権が国内の反体制派の封じ込めに動くなか、欧米に対抗して共闘を演出し、抗議への圧力を一段と高めるとみられる。

 

両首脳の会談はルカシェンコ氏の退陣を求める抗議が拡大していた2020年9月以来となる。ロシア南部ソチで開き、両国関係の発展などを協議した。

 

ルカシェンコ氏は憲法改正を柱とする国内の混乱収拾策を説明したもようだ。辞任要求を受けて、改憲後の権限の移譲を提案していた。隣国ベラルーシでの抗議による政権交代を警戒したプーチン政権の意向が働いたとみられている。

 

ルカシェンコ氏の辞任は見通せない。同氏は11、12日の政治集会で、改憲の賛否を問う国民投票を22年1月に行う考えを示す一方で、辞任の条件に①抗議運動がない②支持者の安全の保障――を挙げた。支持者で構成する「国民会議」の権限を強める方針も示し、仮に辞任に応じても院政を敷くとの見方が出ている。

 

背景には市民による抗議の縮小がある。政権はロシアを後ろ盾に反体制派への圧力を強め、3カ月超続いた大規模な抗議は小さく局地的になった。抗議を中継して拘束された記者に対して18日に禁錮2年の判決が言い渡されるなど参加者らが罪に問われる事例も相次いでいる。

 

反体制派のチハノフスカヤ氏らは9日発表の戦略で、3月に抗議デモが再び広がり、5月末までに政権との交渉を始める計画を掲げた。だが有効な道筋は示せないままだ。

 

ロシアで反体制派指導者ナワリヌイ氏の拘束を機に大規模な抗議が1月に起きたことも、ルカシェンコ氏やロシアの強硬姿勢に拍車をかけそうだ。

 

同氏は欧米がロシアを揺さぶるためにベラルーシの抗議を支援したと主張してきた。ロシアもベラルーシやナワリヌイ氏を巡る欧米の非難は「内政干渉」と反発する。

 

会談にはロシア、ベラルーシ両国で連携して欧米に対抗姿勢を示す狙いもある。両国は19日にベラルーシが石油製品の輸出に使う港をリトアニアからロシアに切り替えることで合意した。欧州連合(EU)による対ベラルーシ制裁の報復措置として、ルカシェンコ氏が変更を警告し、リトアニア経済への影響が懸念されていた。

 

一方でロシアとベラルーシの間では水面下での攻防も残る。ロシアはベラルーシへの影響力拡大を狙い、経済統合の深化をかねて迫ってきた。会談での議論に先立ち、ルカシェンコ氏は11日に「主権が完全に維持されるのが前提だ」と述べ、対等な立場で進めるべきだと予防線を張った。

 

ロシアはルカシェンコ氏が同国とのつながりを警戒したロシア系銀行の元頭取ババリコ氏についても意見を交わす考えを示した。同氏は資金洗浄などの疑いで拘束され、大統領選への出馬を認められなかった。17日に始まった同氏の裁判は最初から最高裁で審理され、弁護側は控訴の権利が奪われたと訴えている。

 

ベラルーシの抗議は20年8月の大統領選でルカシェンコ氏の6選が発表されてから始まった。権力に固執する同氏と、影響力を維持したいプーチン政権の思惑が絡み、膠着状態の打開はいっそう見通せなくなりそうだ。【2月22日 日経】

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“両首脳はカジュアルな服装で親密さを演出。プーチン氏は共にスキーを滑ることを提案した。”【2月22日 時事】とも。

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アフガニスタン  あまり注目されていない民間人誤爆に関する欧州人権裁判所の合法判断

2021-02-22 23:44:09 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン北部クンドゥズ州のMadrasa村で、イスラム武装勢力タリバンが乗っ取った燃料輸送車に対して国際治安支援部隊(ISAF)が攻撃を行った現場を調査する治安部隊隊員ら(2009年9月4日撮影)【2009年9月10日 AFP】)

 

【NATO 撤退判断を見送り アフガニスタン大統領は歓迎】

アフガニスタンにおいて、アフガニスタン政府に圧力をかけるようなタリバンの攻勢は続いており、アメリカ・バイデン新政権は、トランプ大統領が政権末期に加速させた撤退計画について見直す動きが出ていることは、2月3日ブログ“アフガニスタン 米軍撤退後を見据えた中国との関係 スパイ摘発事件 メス・アイナク鉱山開発問題”でも取り上げたところです。

 

その後も、アメリカ国内では撤退延期の流れが強まっています。

 

****米、アフガン撤収期限延長すべき 超党派グループが議会に報告書****

アフガニスタン駐留米軍の削減を巡り、超党派グループは3日、完全撤収期限を5月1日から延長すべきとする報告書を議会に提出した。駐留米軍の削減は、和平協議の進展具合や反政府武装勢力タリバンの暴力削減状況などに応じて行うべきとした。

報告書では、米政府はアフガン和平プロセスを放棄すべきではないとした上で、成功のための条件は、米国とタリバンの2020年和平合意で定めた21年5月1日の撤収期限までには満たされないと指摘。

 

この期限までに米軍を完全撤収すれば内戦につながり、周辺地域の不安定化を招くとともに国際武装組織アルカイダの脅威を再び高めると警鐘を鳴らした。

超党派グループは議会の要請で設置され、統合参謀本部議長を務めたジョセフ・ダンフォード氏や元共和党上院議員のケリー・アヨッテ氏が共同議長。

ダンフォード氏は、トランプ前政権から留任したアフガン和平担当特別代表ザルメイ・ハリルザド氏などバイデン大統領の補佐官とも報告書の内容を共有したことを明らかにした。

国務省のプライス報道官は、バイデン政権として和平プロセスを「支持する方針」だとした上で、アルカイダとの関係を絶ち、暴力を削減するとともに和平協議を行うとしたタリバンの約束について検証していると述べた。【2月4日 ロイター】

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****全当事者に暴力削減要求=アフガン、拙速な撤収否定―米長官****

オースティン米国防長官は19日、就任後初めて国防総省で記者会見し、アフガニスタン情勢について、「平和への道を選ぶよう全当事者に求める。暴力行為を今すぐ減らさなければならない」と訴えた。

 

オースティン氏は、反政府勢力タリバンとの和平合意に基づく米軍の全面撤収期限が5月に迫っていることを「意識している」と説明。一方、米国は「持続可能かつ責任ある形での戦争終結」を目指しているとし、「(同じくアフガンに派兵している同盟国の部隊を危険にさらすような)拙速かつ無秩序な撤収は行わない」と強調した。【2月20日 時事】 

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こうした流れを受けて、北大西洋条約機構NATO)はNATO部隊を撤退させるかどうかの判断を見送っています。

 

****アフガン撤退、判断見送り NATO、治安情勢改善せず****

北大西洋条約機構NATO)は18日、アフガニスタンに駐留するNATO部隊を撤退させるかどうかの判断を見送った。

 

反政府勢力タリバーンと米国が昨年結んだ合意に沿い、5月までの撤退を模索しているが、治安情勢が改善せず、撤退か残留かを決められる状況にないとした。

 

NATO部隊は現在1万人規模で、アフガン部隊の訓練などにあたっている。タリバーンがテロ組織との関係を絶ち、アフガン政府との交渉に取り組んだり、暴力を減らしたりすることが撤退の前提だ。(後略)【2月20日 朝日】

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トランプ前政権はアフガン駐留米軍を1月までに2500人に削減しています。

NATO軍については“北大西洋条約機構(NATO)は、2024年までのアフガン駐留部隊への資金提供を約束している。現在は米軍以外に7500人前後の兵士が駐留しているが、米軍が撤退した後も他のNATO諸国が人員を維持する可能性は低い。”【2020 年 11 月 20 日 WSJ】とのこと。

 

このNATOの判断を、アフガニスタンのガニ大統領は歓迎しています。

トランプ前政権時代はアフガニスタン政府は無視される形で、アメリカとタリバンの直接交渉で話が進んでいましたので、ようやく自分たちにも目が向けられるようになった・・・という感じのようです。

 

****アフガニスタン大統領、今が「平和への格好の機会」 BBC独占インタビュー****

アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領は、北大西洋条約機構(NATO)が駐留部隊を撤退させる最終決定はしていないとしたことを受け、「和平プロセスを加速させる格好の機会」だと述べた。

 

BBCのリズ・ドゥセット主任国際特派員による独占インタビューでガニ大統領は、NATOの発表は「この紛争のあらゆる関係者が再計算の末に、武力は解決にならないという、我々がずっと前に得ていた答えにたどり着く」機会を与えたと話した。

 

「我々は政治的な和解にたどり着かなくてはならない」

 

NATO軍は20年にわたってアフガニスタンに駐留している。現在は1万人の兵士が駐留しているが、アメリカのドナルド・トランプ前政権と反政府勢力タリバンが昨年2月に結んだ合意では、今年5月までに完全撤退することになっていた。しかし、撤退によってタリバンによる暴力行為が加速する懸念が出ている。

 

ガニ大統領はまた、「ある種の振る舞いは受け入れられないという警告を送る」ために、国際的な「協力体制」が必要だと述べた。一方で、アフガニスタン側が必要とする外国軍の規模や期間などには触れず、「戦争の深刻さによる」と答えた。

 

ジョー・バイデン米大統領は現在、トランプ前大統領による合意を再検討している。現在アフガニスタンに駐留している外国軍の大半はアメリカ軍ではないが、アメリカの支援がなくなれば、NATOの活動も継続が難しくなる。

 

アメリカ軍は2001年の同時多発テロの後、タリバン政権を排除するためにアフガニスタンに進攻した。タリバンはその後、勢力を回復し、2018年までに同国の3分の2を支配下に治めた。

アフガニスタン政府は、トランプ政権とタリバンとの協議から締め出されていた。

ガニ大統領は今回、バイデン新政権との関係や、アフガニスタンの将来に対する国際社会の「団結」に「喜んでいる」と話した。

 

大統領は、政府とタリバン双方が紛争に向けた準備をしていると認めた上で、「団結力こそ、悲劇を招かないために私がよりどころとしているものだ。内戦に陥るのではないかという恐怖があちらこちらにある」と述べた。

一方で、タリバンに軍事力で負ける懸念はないと主張。「ここはヴェトナムではない。政府は崩壊しない」と説明した。

 

政府とタリバンの和平協議は現在、停滞しており、国内では暴力事件が増えている。しかしガニ大統領は、全体の流れは「希望のあるもので、絶望ではない」と強調した。

 

国内では、暫定政府がタリバンを迎え入れ、混乱や内戦を避けるべきだとの声が高まっている。

 

アフガニスタンの大統領は任期5年で、ガニ大統領は2024年に2期目を終える。大統領は自分の任期よりも平和の方が大事だと述べた一方、「未来は机の後ろに座って夢を見ている人ではなく、アフガニスタン国民によって決められるべきだ」と話した。

 

その上で、平和を実現できるかどうかという点では、向こう1年であらゆる関係者が難しい決断と犠牲を強いられると語った。

 

「我々は焦燥感を持っており、難しい決断をしようとしているし、その必要が出てきている。この国では40年間暴力が続いている。もうたくさんだ」

 

<解説>リズ・ドゥセット主任国際特派員

厳重に守られた大統領宮殿では、新たな自信が生まれていた。

トランプ米大統領がアフガニスタン政府よりもタリバンの方が価値あるパートナーだとでも言うようなメッセージを発していた数年間が終わり、ガニ大統領はやっと、自分の話に注目が集まっていると感じている。

 

しかしアメリカ政府はなお、必要以上に軍を駐留させるつもりはなく、「代償を払う用意をしろ」という警告を発している。

 

ここで言う代償にはガニ大統領の任期も含まれており、本人もそれを分かっているようだ。しかし、傷だらけの歴史があるにも関わらず、大統領はなお、政権の変化には選挙が必要だと主張している。

 

いかに迅速に権力共有の合意へ至るかについては、大統領の支持者も反対者も大統領とは別の考えを持っている。数カ月で合意できると事態を楽観視する声もある。一方、双方の溝はあまりにも大きいため相当の努力が必要になるという意見もある。ガニ大統領は後者の立場だ。

 

しかし、政治を取り巻く空気がどのように変わっても、大統領宮殿の塀の向こう側では、毎日市民が命を落としている。【2月22日 BBC】

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【メディアが大きく取り上げない、20009年の誤爆事件に対する欧州人権裁判所判断】

“大統領宮殿の塀の向こう側では、毎日市民が命を落としている”ことに関しては、タリバンだけでなく、米軍等による誤爆などによる犠牲者も含まれます。

下記はアフガニスタン関連で目にしたイランメディアの記事。

 

****欧州人権裁判所が、アフガニスタンでの民間人殺害を合法と判断****

欧州人権裁判所が、アフガニスタンで外国占領軍の空爆により殺害された民間人の遺族らの訴えを退け、この攻撃の合法性を認めました。

 

タスニーム通信によりますと、欧州人権裁判所は、2009年にアフガニスタンで外国占領テロ軍の空爆により民間人約90人が殺害された事件の犠牲者遺族が行った再審請求を棄却して、この行為が国際法に違反していなかったとしました。

 

アフガニスタン南部カンダハールで2009年、ドイツ軍の司令官が、燃料を積載したタンカー車2台を、人々が燃料を取り出そうと車の周りに集まっていたにもかかわらず、空爆するよう命令しました。

 

この司令官は、これらのタンカー車は反政府組織タリバンによって盗まれたもので、タリバンがこれを使って外国軍基地の爆破を狙っていたと主張していました。

 

独立系のアナリストや識者は、欧州人権裁判所の判断を批判し、これは人権の道具化だとして訴えています。【2月18日 Pars Today】

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この事件は2009年9月に起きたもので、ドイツ軍が関与しています。

 

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■タリバンが強奪した燃料輸送車を空爆
この空爆はアフガニスタン北部クンドゥズ州で今年9月4日、川を渡ろうとして動けなくなったイスラム原理主義組織タリバンが強奪した燃料輸送車に対して現地のドイツ軍指揮官が命じたもので、タリバン戦闘員だけでなく近くに集まっていた近隣住民が多数死亡した。

アフガニスタン政府が9月に発表した報告によるとこの空爆で民間人30人を含む99人が死亡した。空爆の直前にはアフガン駐留米軍のスタンリー・マクリスタル司令官が民間人の犠牲者を避けるようにとの命令を出したばかりだった。

■民間人の犠牲者当然予想できた?
独紙ビルトはタリバンが奪った燃料輸送車が激しく爆発してきのこ雲を上げた直前、民間人がその周囲に集まっていた様子を上空から撮影した動画をウェブサイトに掲載した。

ビルトは、ドイツ軍指揮官が空爆を命じたとき、燃料輸送車の周囲に民間人がいる可能性は排除できなかったという軍の秘密報告書の内容を引用して報じた。NATOの交戦規則ではこのような場合に空爆を命じることはできない。

グッテンベルク国防相は民間人に犠牲者が出ていたという報告が公表されていなかったというビルトの報道を確認し、自身は今月25日に初めてこの事実を知ったと語った。

シュナイダーハン幕僚長が10月下旬に引用した北大西洋条約機構(NATO)の秘密報告書によると、死者は17~142人で、現地消息筋によると民間人の死者は30~40人に上ったとされる。

あるNATO関係者は今月、米軍のF15戦闘機2機が、現場に集まった民間人を驚かせて燃料輸送車の周囲から離れさせるため、低空飛行をさせるよう2度にわたり求めたが、ドイツ軍の指揮官は500ポンド(約227キロ)爆弾を投下するよう命じたことを明らかにした。【2009年11月27日 AFP】
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ドイツ軍の指揮官は“輸送車が自爆テロに使われることを懸念した司令官は、地上で武装勢力と交戦するのはリスクが大き過ぎると判断し、空から輸送車を爆破するよう指示した。”【2009年12月3日 Newsweek】とのこと。

 

一方で、“2台のトラックは砂地から抜け出せない状態で、さらに厳重な監視下にあったとして、ISAF部隊は切迫した危機にはなかったと結論づけた”【2009年9月10日 AFP】とのことで、“北大西洋条約機構(NATO)は予備調査を実施し、空爆を命じたドイツ軍の大佐が行動規定に違反したと結論づけた”【同上】とも。

 

日本と同様にドイツも軍の国外派遣には極めて慎重で、NATOの“お付き合い”もあるのでアフガニスタンに派兵はするものの、ドイツが関与するのは北部で市民による復興を支援する「良い」任務、もう1つの南部で米英軍が汚い戦争を遂行して市民の命をいたずらに奪う「悪い」任務には加担していない・・・という国民向け説明でした。

 

交戦規定も厳しく、武器使用は大きく制約されていました。

 

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国連とNATOに協力してアフガニスタンの治安を守りつつ、国民の平和主義を納得させるために、政府は軍が実戦に巻き込まれないように予防策を張り巡らせてきた。

 

今年(2009年)7月に国防省が交戦規定を変更するまでは、兵士の武器使用を国内の警察官より厳しく制限。そのせいで本来の使命であるアフガニスタンの治安維持さえままならなかった。

 

当初、ドイツ兵は差し迫った危険から自分の身を守る場合しか武器を使えなかった。逃走する暴徒を追い掛けることもできず、敵が爆弾を準備していても、差し迫った危険がなければ阻止することさえ許されていなかった。違反すれば、ドイツ国内の民間法廷で訴追されることになっていた。

 

規定の変更前は、兵士は英語、ダリ語、パシュトゥー語でそれぞれ2回ずつ大声で警告しなければならなかった。ドイツに帰国したある兵士は、この規定が部隊を命の危険にさらしていたと語る。

 

彼の部隊では、間違えて使うことを恐れて自分の武器を壊す兵士がいた。危機的状況でどんな行動が許されるのか分からずに混乱する兵士もいた。「敵との戦闘より自国の規定のほうが怖かった」【2009年12月3日 Newsweek】

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また、ドイツ軍のトルネード戦闘機6機をアフガニスタンに派遣したものの

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軍事的にも戦略的にも明確な目的はなく、ドイツのさらなる貢献を要求する多国籍軍をなだめるためだけの行為だという。

 

議会は偵察飛行だけを認め、収集した情報を将来の空爆に使わないことを条件とした。クンドゥズの事件でドイツの地上軍は、近くにドイツ軍機が待機していたにもかかわらず、米軍に空爆を要請しなければならなかった。【同上】

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こうしたドイツにとって、2009年の事件は、戦争に参加することの「現実」を突きつけるものでもありました。

 

2009年の事件が合法かどうかを議論する見識は持ち合わせていません。

ただ、民間人犠牲と言う点でも、ドイツに与えたインパクトにおいても、欧州人権裁判所の判断は注目されていいものだと思いますが、この件を扱った記事は、欧米に批判的なイランメディアしか目にしていません。

 

メディアによって提供される情報には、大きな「偏り」があるのかも・・・という感も。

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中国への対抗姿勢をとるインド・欧州各国の事情

2021-02-21 23:09:48 | 国際情勢

(ドイツ軍のフリゲート艦【2月8日 朝日】)

(フランスの攻撃型原子力潜水艦エムロード【2月9日 AFP】)

 

【中国が2年ぶりに米国に代わって日本にとって最大の輸出相手国に返り咲く】

大きくなる中国の国際的影響力をめぐっては、極めて大雑把に概観すれば、「一帯一路」や、最近では「ワクチン外交」などで影響力を拡大する中国に対し、アメリカは日本、オーストラリア、インドの「日米豪印」4カ国連携の枠組みで封じ込めを図り、更に、昨日も取り上げたミュンヘン安全保障会議に見るように、欧州と連携して中国に対峙しようとしている・・・そんなところでしょうか。

 

尖閣諸島なども問題を抱える日本や、新型コロナに関する独立した調査要求以来、中国の「いじめ」みたいな圧力がかかるオーストラリアが中国に対抗するというのは、わかりやすいとも言えますが、当然ながら、日豪ともに経済的には大きく中国に依存しており、話はそう簡単ではないのは周知のところです。

 

****コロナで冷え込む日本経済にとって大切なのは、米国か中国か****

中国メディア・騰訊網は18日、「今、日本は中国に感謝をすべきだ」と題し、新型コロナの感染拡大で低迷する日本経済を中国が大いにアシストしているとする記事が掲載された。

記事は、日本の財務省が先日発表した昨年の貿易統計速報で、日本の昨年1年間の輸出総額が一昨年に比べて11.1%の大幅減になった一方、対中輸出は同2.7%増と好調だったことを紹介。中国が2年ぶりに米国に代わって日本にとって最大の輸出相手国に返り咲いたと伝えた。

そして、新型コロナの危機からいち早く脱し、経済が「再始動」した中国が日本の輸出低迷からの回復をけん引していると指摘。中国での生産活動が再開したことにより、有色金属、自動車、プラスチックなどの製品の対中輸出が大きく伸びたとし、コロナ禍における輸出額の伸びは日中両国の経済関係が持つ「驚くべき強靭さ」の表れだと評している。(中略)

記事は、日本の同盟国である米国が近年掲げてきた自国優先主義による圧力、さらに昨今の新型コロナの感染拡大といった状況から、日本社会では「米国だけに頼っていてはだめだ」という認識が広がりつつあると紹介。日本は中国との経済、貿易関係を一層強化し、地域経済一体化に向けて絶えず前進すべく努力していくべきなのだと結んだ。【2月21日 Searchina】

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【カシミール地方での中印両軍撤退の背景には、日米豪印の連携にくさびを打ちたいとの中国の思惑も】

日豪以上に微妙なのはインド。

カシミール地方の領有権問題で中国と軍事的に対峙、ときに小競り合いを演じているインドですが、やはり経済面を考えると中国との決定的対立は極力避けたいところですし、伝統的にインド外交は非同盟・「全方位」を旨としてきました。

 

その国境線での軍事的対立の問題は、一応双方が軍を引く形で「今回は」収まったようですが、その背景には日米豪印の連携にくさびを打ちたいとの中国の思惑があるとの指摘も。

 

****中印、カシミール地方の対峙解消 中国「日米豪印」を警戒か****

インド北部カシミール地方の係争地で、昨年5月から対峙(たいじ)していた中国軍とインド軍の撤退が21日までに完了した。

 

これまで撤退協議は複数回決裂していたが急遽(きゅうきょ)進展。中国には、インドが日本、米国、オーストラリアとの連携強化に乗り出したことへの警戒感があったようだ。ただ、全面的な“雪解け”につながるかは未知数で、緊張は継続する可能性がある。

 

中国国防省は10日、中印が合意に基づき、カシミール地方ラダックにあり、中印の事実上の国境である実効支配線(LAC)が通るパンゴン湖岸から同時に撤退すると発表。翌日、インドも同様の発表を行った。インド外交筋によると、17日に両軍の撤退が完了したという。

 

対峙は昨年5月から始まり、6月にはパンゴン湖より北のガルワン渓谷で両軍が衝突。インド軍20人が死亡。今月19日には中国軍も4人が死亡していたことが分かった。中印関係は急速に冷え込み、インドのジャイシャンカル外相は「過去30〜40年で最も困難な局面」と指摘していた。

 

全方位外交を志向するインドは、日米豪との連携が対中包囲網としての性質を帯びることに慎重だったが、姿勢を転換。昨年11月には2007年以来となる4カ国の海上合同軍事演習が実現した。クワッドと呼ばれる4カ国の結びつきは強まり、今月18日にはオンラインで外相会合が行われた。

 

こうした中、中国にはインドと緊張緩和を図り、日米豪印の連携にくさびを打ちたいとの思惑がうかがえる。中国外務省の華春瑩報道官は19日の会見で、昨年の衝突の責任はインドにあると主張しつつ、「対話を通じて適切に争いを解決する」姿勢を強調した。

 

ただ、パンゴン湖付近以外にも中国はLAC付近でインフラ整備や軍の配備を進めている。中印関係に詳しいインドのジンダル・グローバル大のスリパルナ・パサク准教授は「パンゴン湖は標高4000メートル以上の地点で冬は軍の維持が難しいことも撤退協議を後押しした。パンゴン湖以外のLAC付近の中国軍がどう展開するかは未定だ。インドは警戒を怠るべきではない」と分析している。【2月21日 産経】

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もちろん「とりあえず」「今回は」軍を引いたということで、問題が解決した話でもありません。

“両国の歴史認識、国力増進の自信、他方経済苦境の不満、民族主義の高まり、両国の辺境への支配強化と諸活動(軍事、インフラ建設、一帯一路)の活発化が、衝突の頻発・深刻化をもたらしている。

水資源問題、多くの関係国(パキスタン、ブータン、ネパール、バングラデシュ)、民族問題等もあり、中印の国境問題は解決困難だろう。”【2月16日 WEDGE】

 

今日も、下記のような報道も。

 

****中国軍 インド国境に高性能兵器を配備****

中国の国営メディアは、インドと隣接する新疆ウイグル自治区の山岳地帯に機動性に優れステルス性能を高めた戦車が投入されたと報じた。また、チベット自治区の駐屯地では、インドとの国境地帯に新たに配備される大砲を積んだ軍用車両が並んでいる。

中国政府は18日、去年6月に起きたインド軍との衝突の映像を公開し兵士4人が死亡したと初めて公表。インドへのけん制に加え、中国の国会に当たる年に一度の全人代が来月に迫る中、愛国ムードを高めたい思惑もありそうだ。【2月21日 ABEMA TIMES】

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【香港でも対立するイギリスは日米などとの同一歩調を模索】

一方、欧州に関しては、香港問題で旧宗主国の立場から中国と対立するイギリスは比較的わかりやすいところも。

 

****英、「日米豪印」に参加も 対中で連携の可能性と報道****

日本と米国、インド、オーストラリアによる中国を念頭に置いた4カ国連携の枠組みに関し、複数の英メディアは30日までに、英国が参加する可能性があると伝えた。香港の旧宗主国である英国は、香港民主派弾圧などで中国との対決姿勢を強めており、日米などとの同一歩調を模索しているとみられる。

 

4カ国の枠組みは、トランプ前米政権が「自由で開かれたインド太平洋」構想の下、中国に対抗する手段として連携を進めた。バイデン大統領も、菅義偉首相との初の電話首脳会談で4カ国の連携推進を申し合わせている。【1月31日 共同】

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****米英、空母打撃群で協力=極東派遣で中国けん制か****

米国防総省は19日、英国の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群に米海軍と海兵隊が参加すると発表した。英メディアによると、同空母は今年、極東などに派遣される見通し。米英両国による緊密な安全保障協力を誇示し、急速に軍事力を拡大する中国をけん制する狙いがあるとみられる。

 

米英両政府が署名した共同宣言によれば、米ミサイル駆逐艦「ザ・サリバンズ」が空母打撃群に参加。米海兵隊が最新鋭ステルス戦闘機F35Bを空母艦載機として運用する。【1月20日 時事】 

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もっとも、EUにしても、そのEUを離脱したイギリスにしても、経済的には中国が極めて大きな存在であることは言うまでもなく、そのことは中国への政治的対応にも当然に影響します。

 

****中国、米国抜いてEU最大の貿易相手国に 統計局発表****

欧州連合統計局(ユーロスタット)は15日、昨年中国が米国を抜いてEU最大の貿易相手国になったと発表した。

 

ユーロスタットによると、2020年の対中貿易額は5860億ユーロ(約75兆円)に達したのに対し、対米では5550億ユーロ(約71兆円)だった。EUから中国への輸出は、2.2%増の2025億ユーロ(約26兆円)、一方中国からEUへの輸入は5.6%増の3835億ユーロ(49兆円)だった。

 

EUの貿易相手国として中国と米国に続き3位になったのは、EUを離脱した英国だったという。

 

中国経済は昨年、新型コロナウイルスの大流行で第1四半期には打撃を受けたものの、その後力強く回復し、昨年末の消費は前年の水準を上回った。

 

この勢いは、自動車や高級品を中心とした欧州産製品の販売の追い風になり、さらに医療・電子機器に対する需要の強さが、対欧輸出増につながった。

 

EUと中国が投資協定の批准を目指す中、米国はEU最大の貿易相手国の地位を中国に譲った。以前から交渉が続いてきたこの協定により、欧州企業の中国市場へのアクセスが改善される見通し。 【2月15日 AFP】

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【意外なドイツの艦船派遣 中国マネーによる欧州分断への危機感も】

そうした中で、意外な感じがするのがドイツのインド太平洋地域への艦船派遣。

 

****中国を警戒、欧州艦アジアへ 独、異例の派遣計画 対立には慎重****

欧州各国が、中国の強引な海洋進出などへの警戒を強めている。英仏に加え、海外領土を持たないドイツも異例のアジア地域への艦船派遣を計画する。一方で中国との対立は避けたい思いもにじむ。

 

ドイツ国防省などによると、早ければ今夏以降、フリゲート艦1隻を長期的にインド太平洋地域に送る計画だ。日本や豪州などへの寄港や共同訓練の参加などを検討している。

 

計画を後押しするのは、ドイツ政府が昨年9月に発表したインド太平洋ガイドライン(指針)だ。外交や安全保障、環境など幅広い政策の基本的な考えをまとめた。ドイツ政府は、指針は「特定の国を標的にしたものではない」とする。だが、欧州連合(EU)は近年、中国を「統治システムが異なるライバル」と位置づけ、警戒感を高めてきた。

 

ドイツ世界地域研究所のパトリック・ケルナー副所長は、指針は欧州レベルでの中国への見方の再考を反映したもので、「非常に適切な政策変更だ」と指摘。フリゲート艦の派遣についても「1隻が任務に就いても、地域の戦略バランスは変わらない。だが、国際秩序を重視し、多国間主義への挑戦を見て見ぬふりはしないことを示す意味で、象徴的な一歩だ」と語る。

 

ただ、関係者によると、政府の中では、軍事面が目立つことに慎重な意見もあるという。特に、中国との対立が深まる米国の戦略とは一線を画す。

 

メルケル首相は5日、「米国とは共通の価値観を持つが、EU独自の対中政策をもつことが重要だ」とし、「気候保護や世界での多国間主義の強化など、中国と協力する理由はたくさんある」と述べた。(後略)【2月8日 朝日】

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“これまでドイツ政府はしばしば「アジアの安全保障の重視」を掲げてきたが、具体的な政策が伴わなかった。同国のフリゲート艦派遣の決定は、遅まきながら「ブーツを地面に着ける」姿勢を示すという、象徴的な意味を持っている。この異例の決定が中国を視野に置いたものであることは明らかだ。”【後出 日経ビジネス】とも。

 

そうしたドイツの異例の決定の背景には、中国マネーによる欧州分断への危機感があるとのこと。

 

****中国への姿勢を硬化させるドイツ、フリゲート艦派遣は中国への警鐘****

(中略)

独政府「一帯一路はEUを分断する」と警告

ドイツはゲアハルト・シュレーダー前首相の時代から、中国との経済関係の拡大に努めてきた。ドイツにとって中国は、世界最大の貿易相手国である。

 

しかし近年は、中国への姿勢を硬化させるドイツの態度が目立つ。ドイツ産業連盟は2008年、「中国とEUは、政治・経済システムをめぐる競争関係にある」という声明を出した。また同国政府は「中国の一帯一路政策は、EUの分断につながる」と主張する。

 

その1つのきっかけは、東アジア海域の領土問題だった。

 

フィリピンは2014年、南シナ海に位置する南沙(スプラトリー)諸島などの領有権に対する中国の主張を不当として、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に仲裁を要請した。同裁判所は2016年7月12日に、「南沙諸島などに対する中国の領有権主張に法的根拠はなく、国際法に違反する」という判決を下した。

 

EUはこの判決が出た直後、7月15~16日にアジア欧州会議(ASEM)がモンゴルのウランバートルで開かれるまでに、同判決に関する統一見解をまとめようとした。独仏など大半の国々は、中国を批判する判決を支持したが、EUは結局ASEMまでに統一見解をまとめることができなかった。それは、ギリシャとハンガリーが判決を支持しなかったからである。

 

なぜギリシャは中国批判を避けたのか。その理由は、アテネ南部のピレウス港にある。このコンテナ港に、中国遠洋海運集団(COSCO) が2009年から投資し始めた。現在は同社が資本の51%を握っている。COSCOはピレウス港に6億ユーロ(約756億円)を投じて、地中海最大のコンテナ港を建設中だ。

 

中国はピレウス港を、自国からの貨物を欧州に送り込むための重要な橋頭保(きょうとうほ)の1つと位置付けている。つまりこの港への投資は、中国の一帯一路プロジェクトの一環なのだ。

 

ハンガリーも中国依存

ハンガリーがASEMで造反した理由も、経済だ。同国のビクトル・オルバン首相はEUきっての親中派である。同氏は2017年11月、中国の李克強(リー・クォーチャン)首相と中東欧15カ国の首脳を首都ブダペストに招いて「16プラス1サミット」を開いた。

 

オルバン首相は、EUが重視する三権分立や報道の自由の原則に批判的な右派ポピュリスト。近年はEUとの間で摩擦が絶えない。ハンガリーは中国との経済関係を緊密化し、インフラ整備の資金を受け入れることができれば、EUへの依存度を減らすことができる。

 

「16プラス1首脳会議」でオルバン首相は、「今や、東アジアの星は絶頂期を迎えている」と中国を持ち上げた。さらに「疲弊し、老いさらばえた西欧諸国には、もはや中東欧諸国のダイナミックな成長を支援する資金がない。このため我々は中国の資金とテクノロジーを必要とする」と述べた。

 

つまりハンガリーも中国によるインフラ投資を頼みの綱としているため、南シナ海問題をめぐる中国を怒らせるEUの決定に反対したのだ。

 

当時ドイツの外相だったジグマー・ガブリエル氏は、ギリシャとハンガリーの造反について、「一部の加盟国が中国と対立したくないと考えたために、EUが共同歩調を取ることができなかった」と不満をあらわにした。このように中国マネーは、EU加盟国の態度にすでに影響を及ぼし始めている。

 

もしも他の中東欧諸国が中国マネーに幻惑されて一帯一路に参加し、ギリシャのまねをして中国の政策を追認するとしたら、EUの結束は今以上に揺らぐ。ドイツが一帯一路に強い危機感を抱いているのは、そのためだ。(後略)【2月17日 熊谷 徹氏 日経ビジネス】

***********************

 

もちろん、“ドイツにとっての大きな弱みは、同国の経済界が中国に強く依存していることだ。特にドイツ経済がコロナ・パンデミックにより深刻な打撃を受けつつある今、中国市場の重要性はむしろ高まっている。”【同上】という制約があります。

 

“ドイツが中国との経済関係を、短期的に減らすことは考えられない。ドイツ政府は今後、「政治は政治。経済は経済」と分離して、中国のアジアでの勢力拡大や人権問題について批判的な姿勢を強めるだろう。これに対し中国は政経一体を維持して、ドイツ政府に圧力をかけようとするに違いない。”【同上】

 

【フランスの原潜南シナ海航行 この地域での海外県・海外領土領有の事情や豪への潜水艦売り込みの思惑も】

フランスは、南シナ海に攻撃原潜を送り込んだことを「ことさらに」公表しています。

ドイツと違って、フランスが軍を各地に派遣しても特に驚きはありませんが、フランスがインド太平洋地域に多くの海外県・海外領土を有しているというフランス特有の事情もあるようです。

 

****南シナ海に攻撃原潜を潜入させたフランスの真意*****

2月8日、フランス国防大臣フロランス・パルリはツイッターで、フランス海軍攻撃原潜「エムロード(エメラルド)」が南シナ海を航行(潜航)したことを公表した。

 

通常、どの国も潜水艦の作戦行動に関しては公表しないことが原則になっているが、中国がそのほぼ全域を主権的海域であると主張している南シナ海に攻撃原潜を送り込んだ事実をフランスが明らかにした真意に憶測が持たれている。(中略)

 

この海域の航行は、オーストラリア、アメリカ、日本といった戦略的パートナーとの協力関係を示すための輝かしい行動である、と国防相は特記している。

 

彼女は、領域紛争中の南シナ海におけるパトロールは、国際海洋法秩序が尊重されなければならないことを示す意義を有しており、アメリカ海軍による「FONOP(公海航行自由原則維持のための作戦)」類似の作戦であったことも明言している。(中略)

 

それと同時に、フランスはインド太平洋地域に多くの海外県・海外領土(マヨット島、レユニオン島、ワリス・フツナ諸島、南太平洋のフランス領ポリネシア、ニューカレドニアなど)を有しているため、それらの領域に対する主権と国益を保護する能力を有している事実をデモンストレーションしている、ともツイートしている。

 

沈黙する中国

(中略)中国国防当局や中国外交当局は至って静かである。その沈黙は、“強力無比”な中国海洋戦力にとってフランスのちっぽけな原潜など何の脅威にもならない、という自信の誇示であると言ってもよい(中略)

 

オーストラリアへの潜水艦売り込み作戦?

もっとも、南シナ海潜航はともかく、フランス海軍がこの時期にインド洋と太平洋を1万5000キロメートル以上も小型艇であるエムロードに航海させたのにはもう1つの重要な目的があると考えられる。それは、フランス潜水艦の優秀性をオーストラリアにアピールするという目的である。(後略)【2月18日 北村 淳氏 JB Press】

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アメリカ  バイデン政権「America is back」 同盟関係重視で臨む「最も重大な競争相手」中国

2021-02-20 23:38:00 | アメリカ

(オンライン形式で行われた「ミュンヘン安全保障会議」で演説するバイデン大統領【2月20日 WSJ】)

 

【トランプ前政権からの決別  America is back】

バイデン米大統領は就任以来、国内政策において、新型コロナ対策、移民対策、環境政策、人種差別対策などで、次々とトランプ前政権時代の政策を転換していますが、19日のミュンヘン安全保障会議において、同盟関係を重視し、民主主義の価値観を守るというメッセージをあきらかにして、国際関係においてもトランプ前政権からの決別を改めて鮮明にしています。

 

****バイデン氏、米欧同盟の復活宣言 ミュンヘン安保会議*****

ジョー・バイデン米大統領は19日、ミュンヘン安全保障会議で演説し、「米欧同盟は戻ってきた」と宣言するとともに、世界各地で起きている民主主義への「攻撃」に対抗する欧米諸国のリーダーとしての米国の地位を取り戻す意向を示した。

 

会議は新型コロナウイルスの流行によりオンライン形式で開催。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ドナルド・トランプ前米政権時代の対立関係を終え「多国間主義」に回帰したことを歓迎し、バイデン氏に同調した。

 

バイデン氏が国際舞台で外交政策に関し本格的演説を行ったのは、先月の就任後初めて。バイデン氏は、米国の旧来の同盟国は米政府のリーダーシップに再び信頼を寄せるべきだと呼び掛け、「私は世界に明確なメッセージを送る。米国は戻ってきた。米欧同盟は戻ってきた」と強調した。

 

バイデン氏はまた、「冷戦の硬直した連合」に戻るつもりはないと表明。諸問題に関して大きな意見の相違があろうとも、新型コロナウイルス流行や気候変動などの課題について国際社会は協力して取り組まなければならないと述べた。

 

バイデン氏は、米国がこの日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に正式に復帰したことに言及し、復帰は米政府の決意の証だと言明。気候変動を「世界の実存的危機」と呼び、「対応を遅らせたり、最低限のことをしたりすることはできない」と訴えた。

 

一方、ロシアと中国がもたらす脅威について警告。「ロシア政府は民主主義を攻撃し、腐敗を武器に私たちの統治システムを弱体化させようとしている」と述べたほか、「国際経済システムの基盤を損なう中国政府の経済的な悪習や強要」に一丸となって対抗するよう同盟国に呼び掛けた。 【2月20日 AFP】

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【中国は「最も重大な競争相手」】

同盟関係を重視して「民主主義を守る」という姿勢は、国内的には、分断された国民、一部の共和党支持者への結束の呼びかけでしょうが、国際的に念頭に置いているのは、端的に言って中国の脅威でしょう。

 

****米大統領、対中競争へ共闘訴え 民主主義を擁護、長期戦も*****

バイデン米大統領は19日、ドイツ・ミュンヘン安全保障会議のオンライン特別会合で「中国との長期的な戦略的競争」に連携して備えるよう、欧州とアジアの民主主義各国に訴えた。

 

中国への警戒感を示した同日の先進7カ国(G7)首脳声明に続き、多国間会合の場で行った演説で中国問題に時間を割き、平和や共通の価値観を守る上で「最も重要な問題の一つ」と述べ世界の将来に強い危機感を示した。

 

この日が多国間外交へのデビューとなったバイデン氏は、米国が欧州、インド太平洋の同盟国と築いてきた民主的な国際秩序を守るため、主導的役割を果たす決意を世界に表明した。【1月20日 共同】

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バイデン大統領の中国への厳しい姿勢は、中国を「最も重大な競争相手」と呼んだ、4日の外交方針演説にも示されています。

 

****米 バイデン大統領「最も重大な競争相手」中国に対抗姿勢強調*****

(中略)演説ではまず「アメリカに肩を並べようとする中国の野心や民主主義を傷つけようとするロシアの決意といった権威主義の増長に向き合わなければならない」と述べました。

そのうえで中国を「最も重大な競争相手」と呼び、「アメリカの繁栄や安全保障、民主的な価値観への挑戦に直接、対処する」と述べ、具体的に「経済の悪用と攻撃的で威圧的な行動、人権と知的財産、グローバル・ガバナンスへの攻撃」を挙げて、これらの分野で中国に対抗していく姿勢を強調しました。

一方で「アメリカの国益に利する場合は中国政府と協力していく用意はある」とも述べ、新型コロナウイルスや気候変動、核拡散といった世界的な課題への対応を念頭に、中国との協力も探る考えを示しました。(中略)

中国に対するバイデン政権の動き

バイデン政権は外交、安全保障、貿易、人権などの分野で中国の行動を批判するとともに、厳しく対応していく姿勢を示しています。

バイデン大統領は、就任式に台湾当局の代表機関「駐米台北経済文化代表処」の蕭美琴代表を招待し、台湾側は大使に当たる代表が正式な招待を受けて就任式に出席するのは1979年にアメリカとの外交関係がなくなって以来初めてだとして歓迎しました。

また、政権発足から3日後の先月23日には、アメリカ国務省が台湾に関する声明を発表し、中国に対して「台湾への軍事、外交、経済による圧力を停止し、民主的に選ばれた台湾の代表者との対話を進める」ことを強く求めました。

また、ブリンケン国務長官は先月27日の会見で、中国の新疆ウイグル自治区での少数民族政策を、民族などの集団に破壊する意図を持って危害を加えるいわゆるジェノサイドだとしたトランプ前政権の認定に同意する認識を改めて表明しました。

バイデン大統領は、ヨーロッパの同盟国やオーストラリアの首脳との電話会談で、多くの課題とともに中国への対応を協議していて、先月28日の菅総理大臣との電話会談では沖縄県の尖閣諸島がアメリカによる防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることを明確にしています。

軍事面では、オースティン国防長官が就任前の議会の公聴会で中国への対応が最も重要な懸案だとしていて、4日には政権発足後初めてアメリカ軍海軍の駆逐艦が台湾海峡を通過したと発表しました。

ホワイトハウスで安全保障問題を担当するサリバン大統領補佐官は4日、バイデン大統領の外交演説を前にした会見で「中国の不公正な貿易慣行がアメリカの雇用に害を与えている」と述べ、知的財産権の侵害や特定の産業への補助金の問題などで中国に対応を迫る考えを示しています。

これに対し、中国の外交を統括する楊潔チ(「チ」は、竹かんむりに褫のつくり)政治局委員は、今月1日、アメリカの団体が主催したオンラインのイベントで演説し、バイデン政権に対して「関係を予測可能で建設的な発展の軌道に戻すことが中国とアメリカ双方の仕事だ。中国にはアメリカと協力する用意がある」と述べる一方、「アメリカは香港、チベット、新疆ウイグル自治区のことで干渉をやめるべきだ。これらは越えてはならないレッドラインであり、越えればアメリカの利益を損なう」と述べて、新疆ウイグル自治区などの問題で干渉すれば米中の協力にも影響を及ぼすとけん制しています。(中略)

藤崎元駐米大使「同盟関係重視するアメリカが戻ってきた」

(中略)また、バイデン政権が今後、中国に対してどう臨むかについて藤崎さんは「印象的だったのはロシアとイラン、それに北朝鮮は『脅威だ』と言った一方、中国は『競争相手』として明確に分けたことだ。

 

イランの非核化や、気候変動など協力すべき分野は中国と協力するが、知的所有権や法の支配に従わなければ対応するという『是々非々主義』が非常に明確に出ていた。中国を一方的に敵と見なしていたトランプ政権とは位置づけを変えているため、より複雑な外交が展開されるのではないか」と述べました。(中略)

専門家「中国への厳しい姿勢を再確認」

アメリカの安全保障政策に詳しい笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員は、バイデン大統領の外交演説について、中国に厳しく向き合うことを再確認したとしたうえで、「トランプ大統領は通商問題には厳しく安全保障や人権問題などにはあまり関心を示さなかったが、バイデン大統領は通商、人権、民主化、さらに安全保障の問題にも関心を持ち、総合的に理解していることを示した」と指摘しました。

そのうえで、バイデン大統領が強調した同盟国との協力について「今後は中国の行動を変えさせるためにどうすればいいのかをアメリカと同盟国で話し合い、同盟国には何ができるのかを求めてくることになる。アメリカの指示で動くのではなく自主性が問われると思う」と分析しました。

さらに今は、ミャンマーで起きたクーデターへの対応で対中国政策が問われていると指摘し「アメリカはミャンマーに経済制裁を戻すということで圧力をかけているが、これによりアメリカのミャンマーへの影響力が弱まり、国際社会とのつながりを切ってしまうことで中国と近づかせることにもつながりかねない。いつどのようにしてそのバランスをとって同盟国やパートナーと話しをするのか。対中強硬政策の度合いとやり方が問われることになる」と話しました。

また、オバマ政権とバイデン政権の対中国政策の変化について「当時、中国が突きつける挑戦は一部の専門家にしか見えていなかった。しかしトランプ政権の4年間に中国が見せた姿勢への懸念はアメリカ全体で大きくなっている。オバマ政権時代と今のアメリカ人の中国を見る目が全く違うことが厳しい政策の背景にある」と分析しています。【2月5日 NHK】

*********************

 

ケンカを売るようなトランプ前大統領に比べ、中国に対し宥和的と見られることもあったバイデン大統領ですが、共通の課題では協力を模索する「現実路線」を取りつつも、経済慣行、人権侵害、台湾問題なんどでは厳しい姿勢で臨むとする姿勢は、11日の習近平国家主席とバイデン米大統領との電話会談にも見られます。

 

****なお隔たり、米中手探り バイデン大統領と習主席、初の電話協議****

バイデン政権発足から約3週間、中国の春節直前に米中首脳の電話協議が実現した。双方は対話と協調の可能性を探り、トランプ前政権との違いも示したが、価値観などをめぐる根本的な立場の隔たりは大きく、緊張の中で新たな関係を探っていくことになる。

 

 ■米、厳しい姿勢も「現実路線」

「中国の経済慣行、人権侵害、台湾への圧力について懸念を共有し、米国市民の利益になるときは、中国と協力すると伝えた」

 

中国の習近平(シーチンピン)国家主席との電話協議後、バイデン米大統領はツイッターで表明した。トランプ前政権に続いて中国に厳しい姿勢を取りながら、共通の課題では協力を模索する「現実路線」を示した形だ。

 

バイデン政権にとって、中国とどのような関係を築くかは、最も重要な課題の一つだ。バイデン氏は4日の外交演説で中国を「最も重大な競争相手」と牽制(けんせい)。10日も、国防総省で職員向けに「平和と米国の利益を守るためには、増大する中国による課題に対応する必要がある」と演説した。

 

こうした強硬姿勢は、トランプ前政権から引き継がれている。米メディアによると、米政府高官は電話協議を前に「トランプ政権の4年間を検証し、中国と戦略的な競合を展開するという基本姿勢にはメリットがあると判断した」と説明したという。

 

ただ、この政府高官はトランプ政権による中国との競争の進め方が、「我々の立場を弱める深刻な問題もあった」とも語り、米国の価値観や同盟関係、国際機関での指導力といった「米国の強さの源」を損ねたと指摘。

 

バイデン政権はQUAD(日米豪印4カ国)の安全保障協力をはじめ、アジアや欧州の友好国と協力しながら対中政策を進めると強調した。

 

「現実的で結果を重視した取り組みを進める」として、中国と協力できる点を探るのも、バイデン政権の方針の特徴だ。

 

新型コロナウイルスをめぐっては、トランプ前大統領が「中国ウイルス」と呼ぶなど、中国の責任を追及し、両国の関係をさらに悪化させた。その点、バイデン氏がコロナ対策で習氏と対話の姿勢を示したのは象徴的変化だ。

 

バイデン氏は副大統領時代の2011年に訪中し、当時国家副主席だった習氏と対話を重ねた経験などもある。7日に放送されたCBSテレビのインタビューでは「おそらく、習氏と最も長く時間を過ごした世界のリーダーだ」と語った。そのうえで「米中は衝突する必要はないが、激しい競争は続く。ただ、私がトランプ氏のように進めないということは、彼(習氏)も知っている」と述べた。【2月12日 朝日】

*********************

 

【中国の核心的利益とぶつかる米国の重視視点 対立はより本質的に】

ケンカ腰でもすべてが取引材料となる駆け引き重視のトランプ前大統領に比べ、バイデン氏が重視する人権や民主主義といった事項は中国からすれば核心的利益であり、互いに譲れない問題でもあるため両者の対立はより本質的なものになることも考えられます。

 

****米バイデン政権、本気の対中強硬政策****

ようやく現実を直視するようになってきた――。 ジョー・バイデン大統領が中国の脅威をようやく真摯に受け止め始めるようになったとの見方が首都ワシントンで広がっている。(中略)

 

バイデン氏は習近平氏について、最近の米CBSテレビとのインタビューで「世界のリーダーの中で、(個人的に)最も長い時間を過ごした人物が習近平氏であると言える。だから彼のことはよく知っている」と述べている。

 

さらにこうつけ加えている。「とても聡明だが、頑固な人だ。批判するわけではないが、現実問題として民主的思想というものを体内に宿していない」

 

ここまで言い切るということは、ある意味でバイデン氏は習近平氏とは根本思想のところで本質的に分かり合えないと考えているのではないか。

 

政治家として政策を策定し、遂行していく時、中国は「全くの別モノ」であることを、今回の電話会談で改めて認識したともいえる。

 

同時に、ドナルド・トランプ政権によって脆弱化した対中政策を再構築・再強化する必要性を痛感したはずである。

それは中国による不公正な貿易慣行や人権弾圧、また尖閣や台湾を含む海洋進出に楔を打ち込むことも含まれる。(中略)

 

最後に中国について憂慮すべき点を記しておきたい。それは過去20年にわたって米国内の対中観が悪化していることである。

 

米調査機関ピュー・リサーチ・センターが行った調査では、2020年10月時点で、回答者の22%だけが中国を好意的に捉えている一方、73%が「嫌い」と答えているのだ。2002年の同じ調査では、中国を好意的に捉えていた人は43%で、否定的だった人は35%に過ぎなかった。

 

知り合いの元米政府高官に問い合わせると、「米中の競争はこれからもっと熾烈になるだろうが、第3次世界大戦になることはないだろう。それよりも今後は見えない所で双方の蹴り合いが行われそうだ」と述べた。

 

今後は世界の二大巨頭による不気味な交戦が続きそうである。【2月17日 堀田 佳男氏 JB Press】

**********************

 

その後も、中国を意識したバイデン氏の政策が続いています。

“バイデン氏「人権で声上げる」=対中強硬姿勢を強調―対話集会”【2月17日 時事】

“バイデン氏、半導体やレアアースなどの供給網見直し指示へ=報道”【2月19日 ロイター】

“米、中国海警法に懸念表明 「近隣国脅かす」と報道官”【2月20日 共同】

 

【悪化する米国内の対中観 北京五輪ボイコットも俎上に】

アメリカ国内の対中観悪化を反映した動きとしては、北京五輪ボイコットの声も議会内で出ています。

 

****北京五輪、米国で開催地変更やボイコット求める動き 下院では決議案提出*****

ポンペオ米前国務長官は16日、FOXニュースの番組に出演し、来年2月に開催予定の北京冬季五輪に関し、中国共産党体制が新疆ウイグル自治区でウイグル族などイスラム教徒少数民族の「ジェノサイド(民族大量虐殺)」に関与しているとして、開催地を変更すべきだと訴えた。

 

ポンペオ氏は、ヒトラー率いるナチス・ドイツが1936年に主催したベルリン五輪を引き合いに出し、「中国にプロパガンダ(政治宣伝)上の勝利を許してはならない」と述べる一方、国際舞台での活躍を目指す選手たちのことを考慮し、「別の場所で開催すべきだ」と呼びかけた。

 

ポンペオ氏は「(開催まで)まだ一年近くある。主催したい国で、五輪の理想を真の意味で掲げる国はあるはずだ」とし、国際オリンピック委員会(IOC)に加えバイデン政権に対して開催地変更に前向きに取り組むよう求めた。

 

一方、共和党のライト下院議員(フロリダ州選出)は15日、IOCが北京に代わる開催地を見つけられなかった場合、米国オリンピック委員会が北京五輪をボイコットするよう求める決議案を下院に提出した。

 

決議案は、ウイグル自治区での人権抑圧に加え、中国当局による香港での民主派弾圧や新型コロナウイルスをめぐる情報の隠蔽なども非難。また、他の参加国にもボイコットを求め、可決された場合はブリンケン国務長官に決議を各国に送付するよう要請した。

 

上院でも1月22日、スコット議員(同州選出)ら共和党の7議員が開催地変更を求める決議案を提出した。決議案は「中国政府が人権状況を大幅に改善させない限り、人権を尊重する国での五輪開催に向けてIOCは選考をやり直すべきだ」と強調した。【2月17日 産経】

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「2022年の北京冬季五輪ボイコットをすべきだ、との声も米国内から出ているが、どうか」とただした記者の質問にブリンケン国務長官は「その他の事案が表面化すれば一つひとつチェックする。我々はなすべき多様なことをやらねばならない」と答えています。

 

米五輪関係者は、この発言を「人権問題で進展がなければ、米国は2022年2月4日から17日間、北京で開かれる冬季五輪をボイコットする可能性をほのめかしたものだと受け止めているとか。【2月20日 高濱 賛氏 JB Pressより】

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イラン核合意へのアメリカの復帰 現状は厳しいものの改善を模索する動きも

2021-02-19 23:01:06 | イラン

(【2月17日 NHK】)

 

【イラン・アメリカ 両国のトップが、互いに相手が先に行動を起こすべきだと主張して相譲らない状況】

周知のように、イランと米バイデン政権に関して、トランプ前大統領が一方的に離脱したイラン核合意への復帰をめぐっての動きが報じられています。

 

制裁解除で経済を立て直したいイラン・ロウハニ政権、国際協調を重視する米バイデン政権ともに、核合意を再起動させたい思いはありますが、ともに国内に強硬派を抱え、簡単には動けない状況にあります。

 

現段階では、イランは「米の制裁解除が先」、アメリカは「イランの合意遵守が先」と、ともに相手側の譲歩を求めており、進展が難しい状況にもあります。

 

このままでは事態はデッドロックに乗り上げ、6月のイラン大統領選挙で対米強硬派大統領の誕生し、両国関係は交渉もできない状況に悪化、中東地域の軍事的緊張と、核の拡散に歯止めがかからなくなることも懸念されています。

 

****「米バイデン政権とイラン核合意の行方」(キャッチ!ワールドアイ)****

アメリカのバイデン政権の発足で新たな展開に期待が持たれていた「イラン核合意」についてです。激しさを増す両国の駆け引きとイランの国内情勢を読み解きます。出川解説委員です。

 

Q1:アメリカでバイデン政権が発足してから、まもなく1か月を迎えます。これまでのアメリカとイランの関係をどう見ていますか。

 

A1:はい。バイデン大統領が、選挙戦での公約通り、「イラン核合意」に復帰するかどうかが注目されていましたが、もうすでに、深刻な「ボタンの掛け違い」が起きています。

 

バイデン大統領は、7日に放送されたアメリカのCBSテレビのインタビューで、「イランを交渉の場に戻すために、アメリカから先に制裁を解除することはあり得るか」と質問されると、「あり得ない」と答えました。そのうえで、まず、イランが核合意の制限を超えてウラン濃縮を行うのを停止する必要があるとの立場を示しました。

 

これに対し、イランの最高指導者ハメネイ師は、同じ7日の演説で、「アメリカこそが、すべての制裁を完全に解除しなければならない。それが確認できれば、われわれは核合意を再び守る。この方針は絶対であり、変わらない」このように述べて、核合意から一方的に離脱したアメリカが制裁を解除するのが先だという立場を強調しました。


このように、両国のトップが、互いに相手が先に行動を起こすべきだと主張して相譲らず、アメリカによる核合意への復帰も、制裁の解除も、見通しが立たない状況です。そして、イランは、バイデン政権の発足の直前から、核合意から大幅に逸脱する動きを見せています。

 

Q2:どのような動きですか。

 

A2:
▼まず先月はじめ、ウランの濃縮度を20%まで引き上げました。これは、核合意が結ばれる以前の濃縮度に戻したことになり、明白な核合意違反です。イランはその意図を否定していますが、濃縮度を20%から、核兵器級の90%まで引き上げるのは、技術的には難しくないとされ、国際社会に危機感が広がっています。

 

▼続いて、先月下旬、新型の高性能の遠心分離機を使って、ウラン濃縮活動を始めました。

 

▼さらには、核兵器の材料にも使われるおそれがある「金属ウラン」の製造を開始したことが、先週、IAEA・国際原子力機関によって確認されました。

 

▼そして、アメリカによる制裁解除がなかった場合、今月20日以降(筆者注 イランが通告している査察停止は23日から)、IAEAによるイランの核施設への「抜き打ち査察」の受け入れを停止すると予告しています。

 

Q3:イランがこうした動きを見せる背景には、何があるのでしょうか。

 

A3:バイデン政権に揺さぶりをかける狙いがあると考えられますが、イランの国内政治も影響しています。

 

イランのロウハニ政権は、「アメリカが制裁を解除すれば、直ちに20%の濃縮をやめる」と表明していますので、核合意を壊す意図がないことは明らかです。この4年間、トランプ大統領の退任をひたすら願い、挑発に乗らないよう、忍耐を重ねてきました。バイデン政権には、速やかに制裁解除を実行してもらいたいと切望しています。

ところが、核合意を維持したい国際協調派のロウハニ大統領、思い通りに行動できなくなっています。トランプ政権による核合意からの一方的離脱と制裁の影響で、反米の保守強硬派が台頭し、去年、議会の多数を握りました。

 

去年、革命防衛隊の司令官や、核開発計画を推進してきた科学者が暗殺されたことへの報復の意味も込めて、12月初め、議会が、政府に対し、核開発の拡大を義務づける法律、「制裁解除に向けた戦略的措置法」を制定しました。


この法律に、▼ウラン濃縮度を20%に引き上げることや、▼IAEAの抜き打ち査察に協力しないことなどが盛り込まれているのです。

 

ロウハニ大統領は、今年の夏で任期満了を迎えます。6月に大統領選挙が行われる予定で、すでに、いわゆる「レームダック化」が始まっています。

 

制裁で苦しい生活を強いられる国民の不満をバックに、政権奪還を狙う保守強硬派が、ロウハニ政権を弱腰と批判し、圧力をかけていることも、ウラン濃縮度の大幅な引き上げなど、一連の強硬な動きの背景にあるのです。

 

そして、すべての重要な問題の決定権を握る最高指導者のハメネイ師は、「アメリカとの直接交渉を禁止する」と述べています。ロウハニ大統領のできること、残された時間、少なくなっています。

 

Q4:イラン政府が「制裁が解除されなければ、IAEAの抜き打ち査察を受け入れない」としているのは、そうした保守強硬派の主導で作られた法律に基づいてのことなのですね。このまま今月20日の期限を迎えると、どうなるのでしょうか。

 

A4:このままでは、まず制裁は解除されないでしょう。今後、IAEAが、事前の予告なく調査する「抜き打ち査察」ができなくなりますと、イランの核開発計画の実態を、十分に検証することができなくなり、軍事転用が秘密裏に進むのではないかとの疑念が関係国の間に広がります。そうなりますと、核合意を維持してゆくこと自体が、非常に難しくなります。

 

Q5:アメリカが政権交代しても、イラン核合意を元の形に戻すのは、簡単ではなさそうですね。

 

A5:正直なところ、かなり厳しくなっていると思います。制裁解除がないまま、6月のイラン大統領選挙を迎えれば、反米強硬派の大統領と政権が誕生し、核合意の存続はおろか、アメリカとの対話の機会も作れなくなる恐れがあります。

 

ただし、まだ望みが消えたわけではありません。バイデン新政権の陣容を見ると、イラン核合意の成立に深く関わった当時のオバマ政権の要人たちが、外交・安全保障問題担当の高官に指名されています。一方、イランのザリーフ外相も、EU・ヨーロッパ連合による仲介を受け入れる意向を示しています。


双方とも、仮に、核合意が崩壊した場合、中東地域の軍事的緊張と、核の拡散に歯止めがかからなくなり、イスラエルやサウジアラビアなども巻き込んだ戦争に発展しかねないと危惧しています。今こそ、日本を含む国際社会が、核合意を維持するため、双方の対話の機会を設定し、外交努力に全力を注ぐことが大切だと思います。【2月17日 NHK】

**********************

 

【アメリカのイエメン対応や国連制裁「復活」撤回など、事態改善に向けた動きも】

事態を更に困難にする抜き打ち査察受け入れ停止の23日が迫るなかで、状況を改善させる方向の動きとしては、アメリカのイエメン対応の変更があります。

 

****イランの核合意骨抜きに国際社会反発 23日から査察停止****

イラン核合意の履行状況を検証している国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は16日、イランが23日から抜き打ち査察の受け入れを停止すると通告してきたことを明らかにした。ロイター通信などが伝えた。

 

核開発の完全な検証が困難になる恐れがあり、合意当事国ドイツの外交筋が「まったく受け入れられない」と述べるなど、国際社会の反発が強まっている。(中略)

 

その一方で、緊張緩和のきっかけとなり得る動きも出ている。バイデン米大統領は今月上旬、イエメン内戦を「終わらせるべきだ」と述べ、15年から内戦に介入している親米のサウジアラビアなどへの軍事支援を停止すると述べた。

 

サウジなどは内戦で、イランと連携するイスラム教シーア派系の民兵組織フーシ派と戦っている。バイデン政権は「世界最悪の人道危機」(国連)の解決のため、トランプ前政権が行ったフーシ派の「テロ組織」指定も解除する意向を表明。

 

こうした動きについて、イランのザリフ外相は、「(米国が)過去の誤りをただす一歩になりうる」と評価した。

 

ただ、米側は将来、イランのミサイル開発や周辺国への影響力行使に制限を課す協議もイランと行う方針で、同国側は警戒を強めている。双方の隔たりは簡単には埋まりそうにない。【2月17日 産経】

***********************

 

また、バイデン政権は、国連安保理の対イラン制裁「復活」を一方的に主張したトランプ前政権の方針を撤回することを安保理に通知。

 

****米、対イラン国連制裁「復活」撤回=安保理に通知****

米政府は18日、2015年のイラン核合意に基づき解除された国連安保理の対イラン制裁「復活」を一方的に主張したトランプ前政権の方針を撤回すると安保理に書簡で伝えた。バイデン政権は前政権が離脱した合意への復帰を検討している。

 

トランプ前政権は18年に核合意から離脱。その後、イランの合意違反があった場合に国連制裁を再発動させることができる核合意の仕組みを利用し、昨年9月に制裁「復活」を主張していた。ただ、核合意に残る英仏独は復活を認めない立場を示していた。【2月19日 時事】

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【米 合意復帰・対話の用意を表明 EUを軸にした環境整備への期待も】

こうしたなか、ブリンケン米国務長官は、イランが核合意を順守すれば合意に復帰する立場、また、イランと対話する用意があることを明らかにしています。

 

****米、イランと対話の用意 トランプ前政権の方針転換****

ブリンケン米国務長官は18日、イランが核合意を順守すれば「米国も同様の対応をとる」とし、合意に復帰する立場を示した。そのためにイランと対話する用意があることも明らかにした。米英独仏の4カ国外相によるオンライン形式の会談で述べた。

 

トランプ米前政権は2018年に核合意から一方的に離脱し、イランに対して「最大限の圧力」政策を続けた。バイデン米政権はこの方針から転換した形で、今後のイラン側の出方が注目される。

 

4カ国外相が出した共同声明によると、外相らは、イランが濃縮度20%のウランや金属ウランの製造に乗り出したことに懸念を表明し、イランを核合意の順守に立ち戻らせることで一致した。

 

外相らは、イランが国際原子力機関(IAEA)に抜き打ち査察の受け入れ停止を通告したことについても「重大な行動の結果」を考慮するよう求め、再考を促した。英独仏以外の核合意当事国である中国ならびにロシアと協力していくことも確認した。(後略)【2月19日 産経】

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また、別の米高官は、EUがイランとの対話に向けた会合を開催すればアメリカも参加する用意があることを明らかにしています。

 

****EUが調整すれば米はイランとの対話に向けた会合参加へ=米高官****

米国は、欧州連合(EU)がイランとの対話に向けた会合を開催すれば参加する用意がある。米高官が匿名を条件にロイターに明らかにした。

実現すれば、2015年にイランと主要6カ国が結んだ核合意の復活に向けた道が開ける可能性がある。トランプ前米政権は、核合意から一方的に離脱すると表明していた。

米高官は、米英仏独4カ国の外相会談後に「そうした会合が開かれれば、われわれは参加する用意がある」と語った。

これに先立ちEU高官は、イラン核合意参加国の英中仏独ロおよび米国の会合をEUは開催する用意があると述べていた。【2月19日 ロイター】

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事態改善に向けた米バイデン政権とEUの思惑は概ね一致しているようです。

ただ、アメリカ・イラン双方とも国内外の反対勢力を振り切ってまで動けるかどうかですが・・・。

 

****イラン核合意・識者談話****

 ◇EUと思惑一致

中川浩一・三菱総合研究所主席研究員(米国の中東外交)の話 

 

バイデン米政権が欧州連合(EU)を仲介させる条件でイランとの対話の用意を表明したのは、6月のイラン大統領選で保守強硬派が勝利するのを阻止したいバイデン政権と、対イラン制裁を解除し、ビジネスを再開させたいEUの思惑が一致したからだ。

 

今後イラン大統領選に向けて米・イラン間のチキンゲームが加速するだろう。ロウハニ大統領をはじめイラン穏健派が、国内の強硬派を抑えて米国との対話を受け入れられるかが注目される。

 

バイデン政権は本音はイラン核合意に一刻も早く復帰したいが、イランと敵対するイスラエルやサウジアラビアに加え、国内では共和党の反発も強く、簡単には戻れない。

 

そのためバイデン大統領は、まずイランが合意を逸脱する措置を停止することが復帰の条件だと強調し、今回の対話表明もその方針を変えたわけではない。

 

トランプ前政権が構築した対イラン包囲網を支持してきたイスラエルやサウジは、バイデン政権の核合意復帰を断固として止めようとするだろう。

 

特にイスラエルは、オバマ政権時代のぎくしゃくした関係に戻ることが予想されており、復帰阻止のため対イランで独自の行動を取る可能性もある。【2月19日 時事】 

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「先ず相手の譲歩が先だ」というのは交渉ごとの常ですが、EUを仲介とする形で、両者同時に半歩ずつ譲るような「落としどころ」を見つけられるか・・・模索が続いています。

 

上記記事にもあるイスラエルの対応には不安がありますが。

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