孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州難民問題  難民らも、受け入れ地住民も、欧州各国も、厳しい状況が続く

2017-11-30 22:03:59 | 難民・移民

(ここ数カ月で難民が急増しているギリシャ諸島【11月27日 WSJ】)

2015年から爆発的な数の移民・難民が主にトルコ経由でギリシャに押し寄せる状況の中で、EUとトルコは2016年3月に、いったん全員をトルコに移送し、その中に含まれるシリア人と同数のシリア難民をトルコからEUが受入れ、EU内各国に定住させるという内容で協定が結ばれました。

****移民の防波堤として不可欠なトルコ****
2016年3月18日、トルコとEUはヨーロッパに流入したシリア難民を中心とする大量の移民への対応に関して、トルコが、
(1)2016年3月20日以降にギリシャに不法入国した移民をいったん全て受け入れる、
(2)2016年3月18日時点でギリシャに滞留している移民は登録を受け、個人的に庇護申請をギリシャ政府に提出する。

そして、その中に含まれるシリア人と同じ人数のトルコに留まるシリア難民をEUが「第三国定住」のかたちで受け入れる、(3)トルコとギリシャ間の国境監視の強化する、ことが決定した。

一方EUは、(1)トルコ人にEU加盟国のヴィザなし渡航の自由化を2016年6月末までに実現するよう努める、(2)トルコ国内のシリア難民支援に2016年3月末に30億ユーロ、2018年末までに新たに30億ユーロ、合計で60億ユーロ(約7800億円)を支出する、(3)トルコのEU加盟交渉を加速させる、ことなどを約束した。【2月24日 Newsweek】
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もとより、トルコが難民・移民を安全に受け入れるに足る環境にあるのか?という基本的問題に加え、その後のEUとトルコの関係悪化でヴィザなし渡航の問題は進まず、トルコEU加盟交渉をメルケル首相が口にするような状況になっていることなど、トルコからギリシャへのルートがふさがれれば、リビアから地中海を横断するルートやスペインに向かうルートなどが増加するといった問題は多々あります。

そうであるにしても、とにもかくにもこれで沈静化したようにも思われている難民の流れですが、ギリシャに向かう難民・移民の数が再び増加していると、そしてギリシャでの劣悪な環境で多くの難民・移民が先が見えない状況にあること報じられています。

****難民再び急増、ギリシャの島で底なしの苦境に****
シリア出身のシェハブ・カバランさん(20)は3カ月前、トルコから小さなボートでギリシャに向かった。欧州で難民申請を認められ、新たな生活を始める期待で胸を膨らませていた。
 
だが、彼はサモス島で足留めを食い、他の数十人の移民・難民とともに薄っぺらなテントで暮らしている。ギリシャ本土に移動することも許されず、厳しい冬の到来に身構えている。
 
カバランさんは今月、手首を切った。医師は応急処置をして彼をテントに送り返した。「もう絶望的だ」と彼は言う。「私たちはここでゆっくり死んでいくのだ」
 
ギリシャの難民危機は、2016年の欧州連合(EU)とトルコの協定によってエーゲ海を渡る避難民の大量流入にブレーキがかかり、最近はその様子がやや見えにくくなっていた。
 
だがここ数カ月で難民が急増し、サモス島は底なしの苦境に陥っている。EUやギリシャ当局の対応には批判が高まる。これ以上難民申請希望者を増やさないための抑止効果を狙い、数千人の難民を病気や寒さ、暴力にさらしているというのだ。

今秋には毎日200人がサモス島やヒオス島、レスボス島、レロス島、コス島に到着し、その数は春に比べて4倍に増えた。この数週間は減少気味だが、天候悪化にもかかわらず引き続き高水準にある。
 
「EUとトルコの協定は強い抑止力の要素を含んでいる」とアムネスティ・インターナショナルのギリシャ部門責任者、ガブリエル・サケラリディス氏は指摘。「いかなる政治的判断もこのような形で人権を踏みにじってはならない」
 
ギリシャ政府とEU当局者は、適切な難民収容施設を提供する努力を加速しているところだと述べた。
 
協定によると、ギリシャ到着後に難民申請した者は、その申請が処理されるのを待つ間、トルコに送還される。合意が結ばれた約2年前以来、わずかに5人のシリア人が難民申請中にトルコに送り返されただけだ。ギリシャの裁判官は最近、難民申請を迅速化する何らかの調整をすべきだと勧告した。
 
一方、ギリシャの島にとどまる難民でも「要配慮者」や欧州の別の場所に家族や親類がいる者は、難民申請が審理される間、ギリシャ本土への移送を求めることができる。ただその手続きも大幅に遅れている。
 
その結果、登録・身元確認中の移民のための一時収容センターで、数千人が身動きが取れずにいる。
 
ヒオス島、レスボス島、サモス島ではこうしたセンターに当初の収容可能人数の数倍の人々が滞在する。彼らの多くは2年近くそこで暮らしている。

収容能力以上に急増する移民・難民
施設の収容能力をはるかに超える移民・難民が到着し、ギリシャの島々は切迫した状況にある。

地元当局は大規模な収容施設の建設を拒んでいるため、正式な施設の周辺に急速に増えた夏用テントで数千人が生活する。支援グループは空室を賃貸してくれるよう地元のホテルやアパート所有者を説得するのに四苦八苦している。
 
冬を前にしたギリシャは昨年の悲劇を繰り返す恐れがある。昨冬は暖を取るためにゴミを燃やし、有毒ガスを吸い込んだ4人を含む計6人が難民キャンプで死亡したのだ。
 
さらに、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、9月に到着した移民・難民のうち女性と子どもが3分の2を占め、要配慮者の割合が増えている。大半はアフガニスタンやイラク、シリアの出身者だ。支援グループは当局に対し、本格的な冬が来る前に人々をギリシャ本土に移すよう呼びかけている。
 
最近の豪雨では、サモス島のテントに水が流れ込み、人々はビニール袋で水をかき出そうとしたが追いつかなかった。時に汚物があふれてテントに流れ込むことや、子どもたちがぬかるみの中を歩くこともある。(中略)

シリア人女性のサマル・エルモナゼドさん(20)はテント暮らしが3カ月続く。生後11カ月になる娘は、野生動物が出す物音や、頻繁に起きるけんかにびっくりして目を覚ますことが多いという。「蛇やネズミ、サソリ、人々の争いごと。そうしたことに毎日対処しなければならない」
 
彼女は最近、流産した。赤ちゃんを亡くした悲劇に加えて、せっかくのチャンスも逃した。妊娠中であれば要配慮者と見なされ、ギリシャ本土へ移送される可能性があった。
 
難民女性の間では妊娠が目立つ。明らかに当局が自分たちをより設備の整った本土の施設に移送してくれるのを期待したケースが多い。重病の診断を受けようとする人たちもいる。

難民や支援グループによると、残された者にとって唯一の選択肢は、地元の密入国業者に約1000~1200ユーロ(約13万~16万円)を支払い、アテネまでの移送を頼むことだという。このルートは最近、トルコからの旅費(およそ600ユーロ)を上回るようになった。
 
ギリシャの当局者は難民を船上に収容することを検討している。だがサモス島のミハイル・アンゲロプロス市長は反対する。「欧州版グアンタナモ収容所を作るつもりか?」
 
EUとトルコの協定が見直される可能性は低い。特に両者の関係が悪化している現状では考えにくい。

一方、トルコとの距離の近さから2015年以降、難民危機の最前線となってきたレスボス島では先週、地元当局と企業が協力し、自分たちの島を「数千人を収容する監獄」(地元指導者の声明)とすることに抗議するゼネストを敢行した。

また移民・難民の一部はハンガーストライキを始め、本土への移送を要求した。レスボス島ではここ数週間、難民と地元住民の間で毎日のように緊迫した事態が起きている。
 
本土の状況はこれより良好だが、課題があることに変わりはない。シリア人の家族を含め、陸路でギリシャ・トルコ国境を越える難民がここ数カ月にほぼ3倍に増えた。

ドイツに住む家族と合流する許可を得た多くの難民でさえ、ギリシャから出国するのに必要な書類の承認作業が何カ月も遅れており、やはりアテネで立ち往生している。
 
UNHCRの推定ではギリシャ全体で約3万人が一時収容施設で足止めを食っている。2016年3月から国境が封鎖されているため、別の3万人は非合法的な手段で出国したとみられる。

ドイツ政府は最近、国内の空港でギリシャから来た旅行者のチェックを厳格化した。当局者の話では、今年は空路の入国で1000件以上の偽造書類が使われているのが見つかった。
 
複数の暴力的な事件が起きたことも懸念を高めている。アテネ在住の11歳のアフガニスタン人少年の家が襲撃された事件では、「クリュプテイア(古代スパルタの処刑部隊)」と名乗るグループが犯行声明を出した。
 
「不法移民の最後の一人が立ち去るまでわれわれは闘う。そして容赦なく武力を使う」とグループは声明の中で述べた。【11月27日 WSJ】
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トルコ・イスタンブールの密入国業者も暗躍しており、奴隷商人のような様相も報じられています。

****鎖でつながれた移民57人保護 トルコ、密入国業者が金銭求め拘束****
トルコの最大都市イスタンブールで27日、密入国業者らによって地下室で鎖につながれ拘束されていたパキスタン人移民57人が、警察に保護された。地元紙ヒュリエトが28日報じた。業者は移民らに金銭の支払いを強要しようとしていたという。
 
拘束されていた移民の中には拷問を受けたものもいたとされる。警察は、イスタンブールの欧州側地区で行われた強制捜査で、移民らをだました疑いでパキスタン系の密入国業者3人を拘束した。
 
同紙によると、ギリシャやイタリアからの欧州入りを目指していた移民らは、欧州に到達した際に、業者側に代金を支払うための暗証番号を伝えることになっていた。

だが業者は1万ドル(約110万円)の前払いを要求。移民らを鎖につなぎ、家族に電話して欧州に既に到達したので送金をしてほしいと伝えるよう命じたという。【11月29日 AFP】
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こうした密入国業者に拘束された状況で金を要求され、払われなければ文字通り“奴隷”として売買されるという実態がリビアで報じられていることは、11月21日ブログ「リビア  政治空白の無法状態で、難民・移民を食い物にする“奴隷市場”も」で取り上げました。

それに比べれば、「事故に遭ってしまった人々のことは気の毒に思うが、人生はすべてが選択だ」と語る下記のような業者は“良心的”な部類でしょう。

****エジプト 荒稼ぎするブローカー 「マンション持ち、外車買った****
「海では何だって起きる。私たちは安全までは保証できないし、どれほど危険かは彼ら自身が理解している」。電話取材に応じたモハメドと名乗る54歳の男性が話した。
 
エジプト北部の港町アレクサンドリアは、地中海経由で欧州に向かう移民や難民の出発拠点の一つだ。彼はここで約15年、密航船のブローカーを営んでいる。

 取材前日の7月31日にも、180人の移民らが乗った船を送り出したばかりだった。「スーダン人、シリア人、パレスチナ人が乗船している。8月3日にはギリシャに着くだろう」
 
今年の夏はすでに4500人以上をギリシャやイタリアに送った。1人当たりの料金は2400ドル(約27万円)。船の調達や乗組員の給料として1400ドルを渡し、残りの1000ドルが彼の取り分となる。
 
「自分のマンションを持っており、2カ月前には新たにフォルクスワーゲンを買った」。正確な収入については口をつぐんだが、経済の低迷が続くエジプトでは破格の荒稼ぎぶりだと想像がつく。
 
移民らは家族単位で海を渡ることが多い。下は4、5歳の子供から50歳以上までさまざまだ。出身国でみるとシリアが最も多く、南スーダンやエチオピア、イラクなどと続く。
 
「料金は決して高くはない。私たちは新たな、よりよい人生の始まりを提供しているのだ。欧州に渡れさえすれば、その10倍も稼げる」。彼は悪びれる様子もなくこう話し、「私たちは救命胴衣を渡し、好天の日を選んで出航させることしかできない。事故に遭ってしまった人々のことは気の毒に思うが、人生はすべてが選択だ」と続けた。
 
欧州でテロを起こそうとしている者を乗船させているのでは−と尋ねると、「移民らにとって私たちはなくてはならない存在だから、みな応対は丁寧だ。銃を向けてきた者もいない。だから実態は分からない」という答えが返ってきた。【8月9日 産経】
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受け入れ側の欧州各国にあっても、難民・移民の増加に伴って、これに反発する人々を背景に排他的なポピュリズム勢力が台頭していることや、もともと難民・移民に拒絶感を持つハンガリー・ポーランドなど中東欧諸国の受け入れ割り当てへの反対でEU内部に亀裂が生じていることな、多くの問題が生じています。

こうした環境にあっては、受け入れられた難民らの生活も厳しい現実に直面します。たとえ、難民受け入れに寛容なメルケル首相のドイツであっても。

****シリア難民が夢に見たドイツで直面した厳しい現実 疎外感に悩み帰国****
シリアの首都ダマスカスでは、6年半を超えた内戦の中でドイツ語を学ぶ若者が増えた。市内が多少なりとも平穏になったからか、ピーク時より少し減ったというが、「いまでも外国語の中で最も人気がある」(語学学校の教師)という。

半面、地中海を渡って難民としてドイツに住んだものの、疎外感に悩んでシリアに帰国するケースもある。

(中略)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、欧州へのシリア人の難民申請数は内戦発生から今年7月までの間に約97万人に達した。うちドイツへの申請数は約51万人と全体の半数以上を占める。
 
「外国語は優れたツール。渡航して働き口も探せる」「すでに多くの友人がドイツに住んでいる」。生徒たちが話した。しかし、現実はそう甘くはない。
 
市内のホテルで会ったサーラ・ゼインさん(22)は2年前の11月、母親とともにドイツ行きを決意。ベイルートからトルコに飛び、同国西部イズミルからゴムボートでギリシャに渡った。“渡航料”は1人約1700ドル(約19万円)だった。
 
「ダマスカスでは移民船のブローカーの連絡先も知れ渡っているので、連絡を取った上で出国した。トルコでは寒い海岸に未明に集められ、約70人が乗ったボートで出発し、3時間でギリシャに着いた。海岸では支援団体の人々が待っていて、毛布を渡してくれた。『助かった。まだ生きている』と思った」
 
その後、クロアチアやスロバキアなどをへて、4日ほどでドイツに到着した。所々で移民専用の無料の列車やバスに乗ったが、夜通し歩いたこともあった。
 
夢にまで見たドイツ。旧東独ハレに無料で部屋を割り当てられ、ドイツ語習得のため連日学校に通い、夜中も勉強した。それでも、周囲の環境に耐えられなくなったという。
 
「美しい街だったけど、毎週月曜日に難民の住宅の周囲でデモがあり、『よそ者は出ていけ』と連呼する。何でもかんでも多数の文書をそろえなくてはならず、気晴らしにベルリンに出かけようとしても目的や宿泊先、会う予定の人の名などを文書に記載しなくてはならない。大半は好意的な人々だったけど、友達もできなかった」
 
ゼインさんはそう言うと、ひじに残る発疹を見せながら続けた。「いまはよくなったけど、鬱病で発疹が顔中にできた」
 
ドイツ到着から1年8カ月後、母を残してイラン経由でシリアに戻った。婚約者はスウェーデンに渡ったまま帰らず、音信も途絶えた。
 
「ドイツへの移住はすすめない」。ゼインさんはそう話すと、間近で戦闘が起きているにもかかわらず、「ダマスカス以外にはもう行きたくない」と言った。【10月21日 産経】
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難民として受け入れられず、強制送還となると、国によっては生命にかかわる事態ともなります。

****欧州のアフガン人送還批判=「拷問、死の危険」―アムネスティ****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは5日、欧州諸国が2016年に前年の約3倍に当たる約1万人のアフガニスタン人を強制送還したと発表した。アフガンには依然「拷問や誘拐、死の危険」があり、送還は「無謀で違法だ」と批判している。
 
アムネスティはアフガンで16年に1万1418人が紛争やテロなどで死傷したと指摘。今年も同様のペースで死傷者が増え続けており、欧州諸国が「アフガンの一部は安全という誤った情報に基づき」送還を行ったと非難した。【10月5日 時事】 
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一方、これまでEUの難民受入れを主導してきたドイツ・メルケル首相も、世論を受けて難民受け入れに厳しい方針を出さざるを得ない状況に追い込まれています。

****難民受け入れ、年間20万人の「上限」設定 ドイツ与党****
ドイツのメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)は8日、難民の受け入れを年間20万人とする方針で合意し、他党と連立交渉に入ることを決めた。
 
ドイツはこれまで上限を設けずに難民を受け入れてきたが、9月の総選挙で反難民を訴える右翼政党が躍進し、与党は大きく議席数を減らした。難民に寛容だったメルケル氏の路線は転機を迎えている。
 
自由民主党、緑の党との連立交渉のスタートを18日に控え、CDU党首のメルケル氏とCSUのゼーホーファー党首は8日、政策の基本方針を確認。難民政策について「強制送還した人々などを差し引いた受け入れの純増数を年間20万人」とすることなどを決めた。ただ緑の党には受け入れ人数の設定に批判的な声も強く、交渉が難航する可能性がある。
 
ドイツには2015年からの2年間で、シリアやアフガニスタンなどから100万人を超える人々が入国。今年は8月までに約12万4千人が入国している。
 
総選挙では反難民を訴える新興右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進する一方、CDUとCSUの得票率は1949年以来の低水準にとどまり、CSU内部では党首の辞任を求める声も上がっていた。
 
CSUは拠点とする南部バイエルン州の州議会選挙を来年に控え、難民の受け入れ規制を強く求めていた。メルケル氏はこれまで、人道上の理由から受け入れに上限を設けることを拒否してきたが、総選挙の結果を踏まえてやむを得ないと判断した模様だ。
 
ただ合意には、メルケル氏の懸念をくむ形で「緊急時には連邦議会の判断で数を増減できる」との条件も盛り込まれた。記者会見でメルケル氏は「20万1人目の入国者でも難民申請はできる」と語った。【10月10日 朝日】
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その後、受け入れ人数の設定に批判的な緑の党などとの連立交渉が暗礁に乗り上げ、社会民主党との大連立が協議される状況になっていることは周知のところですが、そのあたりの話はまた別機会に。

****EU首脳会議、アフリカ移民の大幅削減で合意 基金に追加拠出へ*****
欧州連合(EU)加盟28カ国の首脳は(10月)19日、ブリュッセルで首脳会議を開き、移民対策について協議した。

首脳らは、アフリカから欧州に入る移民を大幅に削減するため、EUが設立したアフリカ基金に資金を追加拠出することで合意。イタリアが移民対策としてリビアで行っている活動への支援を強化することでも一致した。(中略)

EUに到着する移民の数は2015年に急増し、100万人を超えたが、2016年には各国の対応により、70%以上減少した。

EUでは、移民の急増を受けて、最初に到着した国が難民保護申請を審査するという現行ルールの見直しを目指してきたが、加盟国の意見は一致していない。

トゥスクEU大統領は19日、12月の次回EU首脳会議で難民申請のルール見直しについて再び話し合う予定で、来年半ばまでの合意を目指していると述べた。【10月20日 ロイター】
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ただ、リビア沿岸警備隊の“非道”な実態は11月21日ブログでも取り上げたところです。

受入れを求める難民・移民も、玄関口となるギリシャなどの住民も、受入れに揺れる欧州各国も、有効な打開策を見いだせないまま来年を向かえそうな“八方ふさがり”の状況です。

基本的には難民らを発生させている国々の安定が最重要ですが、受け入れ側の異質な人々への意識の問題もあります。
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存在感を増す中国外交 南シナ海、ミャンマー、ネパール、そしてジンバブエ

2017-11-29 22:11:37 | 中国

(握手を交わすアウン・サン・スー・チー氏と習近平氏(5月15日)【11月29日 WSJ】)

【「相互尊重、公平、協力、ウィンウィンを旨とする新型の国際関係と人類運命共同体の構築」】
中国・習近平国家主席は今月10,11日に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の関連会合で、「中国は相互尊重、公平、協力、ウィンウィンを旨とする新型の国際関係と人類運命共同体の構築を進めていく」と演説していますが、その考えを具現化したものが現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」であるとされています。

普段、無表情・仏頂面が多い習近平主席ですが、一連の会談などでは、“柔和な微笑み”が目だったとか。

“その微笑みの陰にはしたたかな覇権主義が・・・”というのは、ある意味、中国に限らずどこの国でも当然の話ですが、微笑みをふりまけるのは影響力を増す中国外交への自信の表れともとれます。

****中国 覇権主義隠した“微笑外交” 「一帯一路」で共存共栄唱え着々****
・・・・中国の覇権主義に対抗する形で日米首脳は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱した。ただ米国やアジア各国に対し、懐柔策や離間策を駆使する中国のしたたかな外交戦略が際立った感は否めない。
     ◇
中国の習近平国家主席は、ベトナムにおける日本、韓国、東南アジア諸国との首脳会談などで強面を封印し、“微笑外交””を繰り広げた。

10月の中国共産党大会で打ち出した「強国」路線を柔和なベールで覆い隠しつつ、中国主導で「新型の国際関係」構築を目指す2期目の習外交が始動した。
 
一連の会談で話題となったのが、習氏の柔和な表情だった。安倍晋三首相との会談では、仏頂面だった過去の会談との違いがメディアで取り上げられ、日中の関係改善を印象付けた。
 
習氏はほほ笑みを浮かべる裏で、自身の早期訪日を望む日本や、対中関係の修復を望む韓国から譲歩を勝ち取るアメとムチの外交を展開。南シナ海問題で日本の対中批判を押さえ込み、日米韓の安全保障協力では韓国から対中配慮を引き出すことに成功を収めた。
 
習氏は党大会で、「今世紀半ばまでにトップレベルの国家になる」と宣言。強国路線を邁進する方針を示し、それを支える「大国外交」の強化をうたった。
 
これに対し、中国の覇権主義や膨張主義を警戒する国際社会の声は高まっている。習政権としては、「強国」「大国」を包むオブラートが必要だった。「ウィンウィン」(共栄)を掲げた新型の国際関係や「人類運命共同体」、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」である。(後略)【11月16日 産経】
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2期目を周辺外交立て直しからスタート
一連の会議に続いて、習近平主席は社会主義体制のベトナム、ラオスを訪問し、周辺外交の立て直しを進めています。

****習新体制の外交、社会主義国重視 ベトナムとラオス訪問****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は14日、ベトナム、ラオスの公式訪問を終えた。習氏は10月の共産党大会を経て総書記に選出され、周辺外交の立て直しを進めている。

2期目に入って初となる外遊はまず、政治的な価値観を共有できる社会主義体制の隣国2カ国を訪ね、関係強化を図る姿勢を示した。(中略)

そのなかで習指導部が重視するのは、ロシアやベトナムなどといった旧・現社会主義国だ。党大会後にはロシアのメドベージェフ首相やベトナム特使らを北京に迎え、党大会の内容を報告するなどした。
 
王毅(ワンイー)外相は国営新華社通信が14日配信したインタビュー記事で「習近平主席のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の出席と社会主義の隣国への訪問は、新時代の中国の特色ある大国外交の新たな気風を示した」と説明。両国訪問は「中国が社会主義事業の発展を支持する明確なシグナルを出した」とした。
 
中国は、北朝鮮の核・ミサイル開発問題など外交上の課題が山積しており、まず「社会主義」の共通項でつながることのできる国との関係を強化したうえで課題に取り組む構えだ。【11月15日 朝日】
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先ずは足場を固めて・・・といったところのようです。

【「ウィンウィン」の米中関係で、南シナ海に波立たず
懸案事項であった南シナ海問題の方は、トランプ政権が積極的関与を示さない状況(あるいは、トランプ政権の中国への配慮)で、中国ペースでことが運んでいます。

****<トランプ氏>中国へ配慮にじむ 南シナ海問題の発言乏しく****
トランプ米大統領は日中韓3カ国訪問で、北朝鮮の核・ミサイル問題に関し、解決への意欲と、軍事的脅威にひるむことなく対抗する強い姿勢を打ち出した。一方、これとは対照的にベトナム、フィリピン訪問の際には、東南アジア地域の安全保障に積極的に関与しようとする発言は多く聞かれなかった。
 
発信の乏しさの背景にあるのは、中国による南シナ海への海洋進出問題を正面から提起しない、とする米政権の政策判断がある。

トランプ氏は8〜10日の訪中時、習近平国家主席に対し、南シナ海での軍事拠点化など力による現状変更と既成事実化をやめるよう強く迫るような場面はなかった。

米国としては太平洋軍による「航行の自由作戦」の回数を増やすなど存在感は強めつつも、首脳級協議など外交の場では争点化しないことで、北朝鮮対応や貿易不均衡是正など、他の政策課題分野で協力を得る狙いがあった。(後略)【11月14日 毎日】
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こうしたトランプ政権の姿勢があって、東南アジア諸国連合(ASEAN)は南シナ海問題については、人工島造成で軍事拠点化を進める中国を念頭に「非軍事化と自制の重要性を強調する」と明記したものの、過去の声明で示してきた「懸念」を表明しておらず、中国に配慮した内容となったことは周知のところです。

“12日のベトナムのクアン国家主席との会談で、南シナ海問題に関してトランプ氏が提案したのは「仲裁役」になることであり、地域の「守護役」ではなかった。”【同上】

アジアに特段の関心もなく、戦略も持ち合わせていないトランプ大統領は、中国との「ウィンウィン」の関係を構築する方向で、中国が主張する“太平洋を米中で東西に分け合う”という考えに、今後ますます近づくように思われます。

ロヒンギャ問題でミャンマー取り込みのチャンス
現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の要となるミャンマーにおいては、軍事政権から民主化路線への転換に伴って、中国は影響力を低下させたように見られていましたが、昨今のロヒンギャ問題で国際的批判を受けて窮地に立つスー・チー政権に手を差し出す形で、再び積極外交に転じています。

****ロヒンギャ問題、好機とみる中国が積極外交****
レックス・ティラーソン米国務長官が先週、ミャンマーによる少数民族ロヒンギャに対する弾圧を「民族浄化」と表現していたとき、ミャンマーの軍トップは別の国の旧友たちを訪問していた。中国だ。
 
この軍トップはミャンマー国軍のミン・アウン・フライン司令官で、今月21日に北京にある中国人民解放軍(PLA)本部で儀仗隊の歓迎を受けた。(中略)

ミャンマー国営メディアによれば、ミャンマーの文民指導者であるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相も近く北京を訪問する。これは、ミャンマーによるロヒンギャの扱いに世界的な批判が集中しているなかで、中国がミャンマー指導者たちをいかに丁重にもてなそうとしているかを浮き彫りにしている。(中略)
 
中国はといえば、今がミャンマーとの関係を再構築する良い機会だと感じている。
 
ワシントンのシンクタンク「スティムソン・センター」の上級アソシエート、ユン・スン(孫韻)氏は「中国はこれを戦略的な機会だと認識している」と述べ、「これはミャンマーの政府と国民の信頼を勝ち取るチャンスだ」と語った。
 
ミャンマーの軍政時代、中国は長年にわたって同国経済を支援してきた。しかし両国の関係は、ミャンマー軍部指導者が2011年に民主改革を導入し始めると悪化した。(中略)
 
中国との関係冷却化で中国の水力発電プロジェクトが凍結され、日本や欧米による投資がミャンマーに流れ始めた。その結果、中国はミャンマーの唯一の支援国としての座から脱落した。

インド洋に進出する上で最良の機会
現在、中国はその失われた影響力を取り戻しつつある。中国は水力発電所を含む停滞プロジェクトを復活させ、総額73億ドル(約8100億円)の港湾・パイプライン・プロジェクトを通じてミャンマーのインド洋沿岸にアクセスしようと試みている。(中略)

中国のこうした外交上・商業上の動きは、ユーラシア全域におけるインフラ構築と貿易拡大を狙う習主席の巨大な「一帯一路」構想の一部だ。それはまた、狭くて容易に封鎖できるマラッカ海峡を通航する石油輸送への中国の依存度を軽減できるだろう。(中略)
 
これまでのところ、中国は国連の場でミャンマーを肩入れした一方、中国の王毅外相はミャンマーとバングラデシュの間で合意をとりもつのに中心的な役割を演じた。バングラデシュに逃げ込んだ数十万人のロヒンギャ難民を最終的にミャンマーに帰還させる合意だ。
 
リスク・コンサルタント会社「アジア・グループ・アドバイザーズ」でディレクターを務めるロマン・キャイヨー氏は「中国の現時点での全体的な目標は、ミャンマーの政府と軍部に対し、何が起ころうとも中国がミャンマーの味方であることを誇示することだ」と述べ、「ビジネス合意を交渉したり推進したりする時期が到来した場合、そうした支援の実績がものを言うだろう」と語った。

ミャンマー政府によれば、中国は既にミャンマーに対する累積投資額で最大の国となっており、1988年以降で185億3000万ドルを支出している。(後略)【11月29日 WSJ】
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中国が「今世紀半ばまでにトップレベルの国家になる」と本当に考えるのであれば、国際的批判を浴びる国を抱き込んで・・・といった隙間外交は卒業する必要がありますが、現実はなかなか・・・。

“国際的批判”自体が欧米的価値観に基づくもので、その多くは内政干渉だ・・・という考えなのでしょうが、“トップレベルの国家”になったときどのような理念で世界をまとめ、リードしようとするのか?カネがすべてでしょうか?

アメリカ・トランプ大統領はその役割を放棄しつつあるなかで、その方面に関心がない中国が“もうひとつの大国”となるということで、世界はリーダーを失いつつあります。

ネパールではインドと“綱引き”】
南アジア・ネパールではインドとの“綱引き”が展開されています。現在実施されている総選挙の結果次第で流れが大きく変わります。

****<ネパール>親印か親中か 新憲法下で初の下院選****
中国とインドに挟まれた内陸国ネパールで26日、2015年の新憲法施行後初となる下院選(定数275議席)の第1回投票が行われた。

親印の与党・ネパール会議派を中心とする「民主同盟」と、中国寄りとされる野党連合「左派同盟」が争う構図で、今後の外交方針を占う選挙となりそうだ。
 
26日は北部32地区で投票を実施。12月7日に首都カトマンズなど残る45地区で行われ、12月中旬ごろに小選挙区(165議席)と比例代表(110議席)の結果が発表される。
 
地元メディアなどによると、ネパールは今年5月、中国が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」に参加し、鉄道や道路などを建設することで合意。だが、その後に発足したネパール会議派政権は今月13日、中国の支援で建設予定だった水力発電所計画を取りやめると発表し、親印姿勢を示した。
 
一方、第2党の統一共産党と第3党のネパール共産党毛沢東主義派(毛派)が結成した「左派同盟」は政権を取った場合、この計画を復活させると宣言している。

ネパールは常に中印間のバランス外交を迫られているが、今回の選挙の結果次第で比重の置き方が変わりそうだ。
 
(中略)連邦共和制に移行してから9年間で9回も首相が交代するなど不安定な政情が続いただけに、今選挙は、過半数を占める安定政権が成立するかも焦点だ。

地元紙のシャンブー・カトル記者は「選挙は新憲法下での安定に向けた最初のステップ。政治が安定すれば経済開発に集中できるだろう」と期待を寄せた。【11月26日 毎日】
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2015年に発生したマグニチュード(M)7超の大地震からの復興が一向に進まないネパールでは、「これまで政府は再建に十分な支援をしてくれなかった。家が再建できるなら、中国が背後にいようと知ったことではない」といった住民の声も。【11月26日 時事より】

ジンバブエ政変で確固たる地位を
海を越えてアフリカ。先ごろ事実上の“クーデター”でムガベ独裁政権が終わったジンブブエでも、政変の背後に中国の存在・ダイヤモンド採掘利権が指摘されています。

****政変の裏に中国ダイヤ利権****
国軍と密接なパイプを保ち、ダイヤ採掘に利権を持つ中国はムガベ退陣を暗黙のうちに支持し、政治・経済を掌握した

ついに幕が下ろされた。ジンバブエの政変は11月21日、ロバート・ムガベ大統領が辞任。37年に及ぶ長期支配に終わりを告げた。だがムガベ政権の弱体化は、数年前から明らかだった。
 
与党のジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)は2つの派閥に分裂し、いずれも93歳になるムガベつ後釜を狙っていた。

一方は大紋領の妻グレースが率いる「ジェネレーション40(G40)」で、政界の若手指導者が支持していた。
 
対する「ラコステーグループ」は、独立闘争時代からの古参指導者が中心の勢力だ。ラコステの名は、前副大統領で新大統領となったエマーソン・ムナンガグワにちなむ。

南ローデシアと呼ばれた英植民地時代に黒人が少数派白人支配と闘った頃、ムナンガグワは政治的な抜け目なさから「クロコダイル」の異名を取った。ラコステ派は歴史的に、コンスタンティノ・チウェンガ司令官の率いる国軍と密接な関係にある。
 
グレースは贅沢好きで、夫の後継者になりたがっていることでも知られていた。一方のムナンガグワはムガベの腹心であり、80年代の大量虐殺で少数民族ンデベレ人を弾圧した残忍さで悪名高い人物だ。
 
今回の政変が始まったのは11月14日。軍が大統領を自宅軟禁下に置いてG40関係者の身柄を拘束し、6日に副大統領を解任されていたムナンガグワの大統領就任を実現させた。

この一連の流れについては詳細に報道されているが、政変の持つ国際的な意味はほとんど知られていない。
 
とりわけ報じられていないのが、政変に絡む中国の役割だ。中国は公式に否定しているが、たとえ暗黙の了解にしても、軍の動きを支持したようだ。

当初はG40に近かった中国だったが、ジンバブエ軍とムナンガグワと通じたためにラコステ派支持に転じたとみられる。

銃から戦闘機まで売却
(中略)90年代以降、中国はジンバブエとの経済関係を強化し続け、鉱業や農業、子不ルギー産業、建設業に積極的に投資した。
 
15年、ジンバブエにとって中国は最大の輸出相手国となり、外国からの直接投資の74%を占めるようにもなった。(中略)
 
ラコステ派の力の源泉である軍とも、中国は緊密な関係にある。銃砲から戦闘機に至るまで、さまざまな装備をジンバブエ軍に売却してきた。中国は、新設された国軍大学の建設費も提供している。
 
軍事協力とともに取り沙汰される問題がある。ジンバブエ東部マラング地方のダイヤモンド採掘場の収入が、中国からの兵器購入に流用されたという指摘だ。採掘場への主な投資企業は、中国の按針インベストメンツだ。

中国側は、ムガベ政権の「現地化政策」がダイヤ採掘ビジネスに影響するのではないかと懸念していた。この政策では、外資企業の株式の51%以上をジンバブエ人が保有するとされていた。
 
実際、12年から按針など中国企業2社が株式の51%をジンバブエ人に保有させる形で操業を開始。だが15年、ジンバブエ政府はこの事業を国営企業ジンバブエ統合ダイヤモンド会社(ZCDC)の下に置くこととした。
 
中国政府はこれに強く反発し、両国関係は悪化。16年に中国は、ムガベ政権による反政府勢力弾圧を支持することを拒んだ。
 
中国がダイヤ採掘事業に絡んで受けた不利益は、ジンバブエ軍にも波及した。軍部はチウェンガ司令官の下、中国企業2社と協調関係にあったと伝えられる。例えば按針インベストメンツの株式の30%は、子会社を通じて軍部が握っているという。 

軍とダイヤ業界の結び付きは、ムガベ政権高官らの懐を肥やしている。ジンバブエが98~02年のコンゴ内戦に介入した際も、ムナンガグワは軍を利用したダイヤの違法採掘で儲けたと国連から批判された。
 
ムナンガグワは副大統領を解任された後、中国に渡ったと報じられている。(中略)チウェンガも11月8~10日に訪中したが、これは以前から予定されていた公式訪問だった。(中略)
 
中国はジンバブエ政変へのいかなる関与も否定し、静観する姿勢を示しただけだった。しかしムナンガグワが新大統領となり、国軍のチウェンガの後ろ盾も得るとなれば、中国はジンバブエの政治・経済を掌握したも同然だ。
 
そして中国の利益にとって不可欠な地域の安定も約束される。【12月5日号 Newsweek】
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“政変”の結果、ジンバブエにおける中国の地位は確固たるものになるようです。
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イラン対アメリカ・サウジアラビア・イスラエルという対立構図で高まる危機

2017-11-28 22:33:04 | 中東情勢

(ペルシャ湾で出くわしたイラン革命防衛隊の艦艇(左)と米海軍の哨戒艇【11月28日 Newsweek】)

イラン アメリカの裏庭・メキシコ湾に戦艦を
現在の国際情勢の主軸のひとつが、シリア・イラク・レバノン・イエメンなど中東の広範な地域で影響力を強めるイランと、これに対抗して包囲網を作るサウジアラビア・イスラエル・両国を支援するアメリカ・トランプ政権の対立にあることは、改めて言うまでもないところです。

トランプ大統領主導の包囲網に対し、イランはアメリカの裏庭・メキシコ湾に戦艦を派遣して、屈するつもりのない意志を見せつける予定とか。

****イラン戦艦がメキシコ湾へ プレゼンス拡大でアメリカに対抗*****
<中東の盟主として台頭しつつあるイランが、イラン包囲網を画策するアメリカとサウジアラビアとイスラエルに対抗するため世界の海に出ようとしている>

イランの戦艦がペルシャ湾から世界中の海を渡り、米南部とメキシコ北東部に挟まれたメキシコ湾を航行する準備を進めている。

イランを敵視する米トランプ政権に対抗し、軍事力の増強と近代化を目指しているイランでは、海軍司令官に就任したフセイン・カンザディが11月22日に記者会見を開き、イランの複数の戦艦が間もなく大西洋とメキシコ湾を航行して南米諸国を訪問する予定だと発表した。イランの半国営タスニム通信社が報じた。

この大航海は、イラン軍のプレゼンスを世界に広げ、イランを孤立化させようと画策するアメリカとその同盟国イスラエルとサウジアラビアに対抗できる関係を諸外国と築こうとする戦略の一環と報道されている。

「ヨーロッパと南北アメリカ大陸の間の公海を行き来することこそ、イラン海軍の目標だ」と、11月初めのカンザニの就任式で、前任のハビボラ・サヤリはこう言ったという。

カンザディはイラン海軍が新たな戦艦や潜水艦を2018年に導入することを宣言。11月の最終週には、新型のペイカン級ミサイル・コルベット艦「セパル」を同国のカスピ海艦隊に追加配備するなど、矢継ぎ早の海軍増強計画を明らかにした。イラン南部マクラン海岸沿いのジャスク港では、海軍飛行場の建設計画が進行中とも報じられた。

対イラン包囲網をはね返す
ホメイニ師を中心とするシーア派イスラム教勢力が、アメリカの傀儡だったパーレビ王朝を倒した1979年のイラン革命以降、アメリカとイランは敵対している。

アメリカは数十年にわたりイスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアを支持し、なんとかイランの影響力拡大を抑えようとしてきた。

イランとサウジは中東一帯で互いに対立する政治勢力や軍事運動を支援し、対立がさらに悪化した。最近になって中東でのイランの影響力がサウジアラビアを上回るようになるにつれ、それを阻止したいイスラエルはかつての敵であるサウジアラビアに接近してまで対イランで連携している。

イスラエルとサウジアラビアを支持するトランプは、バラク・オバマ前米大統領が交渉し、米欧など主要6カ国が2015年に結んだイランとの核合意をイランが順守していると認めず、破棄すると警告している。

アメリカとイランの強硬な保守派の反対を押し切って成立した核合意は、対イラン経済制裁で欧米が課した数十億ドルの経済制裁の解除と引き換えに、イランが核兵器の開発を凍結するというもの。

イランは核合意を順守していると認めるアメリカの同盟国や国際機関の激しい批判にも関わらず、トランプは核合意を破棄または再交渉するか否かの判断を米議会に委ねる方針だが、イランは再交渉の余地はないとしている。

イランは、アメリカやサウジと敵対しながらもレバノンやイラク、シリア、イエメンの中央政府との同盟に成功するなど中東での影響力を拡大している。

シリア内戦では反政府勢力ではなくバシャル・アサド大統領を支持した結果、同じくアサドを支援していたロシアとの結びつきも深まった。

イランが南北アメリカへの進出を図るのは、今回が初めてではない。友好関係にある中南米諸国からはこれまでも、イランが支援するレバノンのシーア派組織ヒズボラの一派を匿ってもらうなど政治的な支援を受けてきている。

米紙USAトゥデーによれば、イランは2014年、ペルシャ湾での米海軍のプレゼンスに抗議するため、メキシコ湾にイラン海軍の戦艦を派遣しようとしたこともある。【11月28日 Newsweek】
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アメリカ 核合意を無効化してイランへの対決姿勢を強めたいトランプ大統領
メキシコ湾にイラン戦艦が・・・となると、トランプ大統領が更にヒートアップすることは間違いないところで、長年の労苦の末にようやくまとまった核合意の今後の扱いが懸念されます。

核合意に関しては、欧州は「国際社会には機能している合意を壊す余裕などない」(EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表)とトランプ大統領の姿勢を批判しており、IAEA=国際原子力機関も「イランは核合意を履行している」(天野事務局長)とイランを擁護しています。

ただ、トランプ大統領はイランのミサイル開発や近隣諸国へのイランの干渉をもって「イランは核合意の“精神”を守っていない」として、合意を「認めない」とする判断を示し、これを受けてアメリカ議会は制裁の再開も含めて対応の検討を進めています。

アメリカ・トランプ大統領の主張は“無理筋”の感もありますが、今現在は“様子見”の状況です。

****IAEA理事会  米、イラン核合意履行継続 資金拠出***
国際原子力機関(IAEA)の定例理事会が23日開かれ、在ウィーン国際機関米政府代表部のシャンペイン臨時代理大使は、欧米などとイランが交わした核合意の履行を続けるとし、IAEAによるイランの履行検証のために100万ドル(約1億1000万円)を新たに拠出すると表明した。

核合意について、トランプ米大統領は10月、国益にかなわないとの判断を示した。合意に基づき解除した米制裁を再発動するかどうか議会が12月中旬までに判断することになっており、国際社会は懸念を強めているが、合意は当面履行する姿勢を示した。 (後略)【11月24日 毎日】
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イラン側は、ミサイル開発については自国防衛のためとして強気の姿勢を崩していません。

****欧州がイランの脅威となるならミサイル射程を延長へ=革命防衛隊****
イラン革命防衛隊のフセイン・サラミ副司令官は、欧州がイラン政府の脅威となる場合、革命防衛隊はミサイル射程を2000キロメートル以上に延長すると警告した。イランのファルス通信が25日伝えた。

フランスは、イランの弾道ミサイル開発を巡り妥協のない対話を求め、2015年の核合意とは別に交渉を行う可能性を示唆している。

一方、イランは、ミサイル開発は防衛目的で、交渉の余地はないとの立場を繰り返している。

ファルス通信によると、副司令官は「われわれがミサイルの射程を2000キロで維持してきたのは技術的に制限されていたからではなく、戦略上の方針が理由だ」と発言。

「われわれはこれまで欧州を脅威と感じることがなかったため、ミサイル射程を引き上げなかった。だが、欧州が脅威となることを望む場合、われわれはミサイルの射程を引き上げる」と述べた。【11月27日 ロイター】
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アメリカによるイラン経済制裁復活はイランへの対外投資を妨げ、イラン経済を悪化させることで、核合意を主導したロウハニ大統領などイラン穏健派の立場を弱め、国内民主化にも逆行する保守強硬派を台頭させることになります。

トランプ大統領の判断を受けてアメリカ議会で検討されている新たな法律は、イランが核兵器1個を製造し得る核物質を取得する「ブレークアウト」までの時間が一年を切った場合に自動的にアメリカの制裁を復活させるといった内容のもののようです。

ただ、法案を主導するコーカー上院外交委員会委員長は、トランプ大統領が大統領としての職務を“リアリティ番組”のように扱っていると非難、また、ホワイトハウスのスタッフが大統領を“抑え込む”ことに苦労していると言及、更に、「(トランプ大統領は)第3次世界大戦への道に巻き込みかねない」「ホワイトハウスはデイケアセンターだ」等々、与党重鎮の立場にありながらトランプ大統領を激しく批判し、来年1月で政界引退を表明しています。

トランプ大統領の意のままに動く政治家でもないようですので、新たな法案がどのような実質的意味を持つものになるか注目されます。

サウジアラビア 権力を集中する皇太子が進める「対イラン軍事同盟」】
一方、サウジアラビアでは政敵を大規模粛清して権力集中を強化するムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、イランへの敵対心をあらわにしています。

****イラン最高指導者は「新たなヒトラー」─サウジ皇太子=NYT****
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙とのインタビューで、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師について「中東の新たなヒトラーだ」と述べた。

皇太子は「欧州での出来事を中東でも繰り返すような新たなヒトラーは必要ない」と語った。【11月24日 ロイター】
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政治世界にあっては「新たなヒトラー」という表現は、これ以上はない批判でしょう。

サウジアラビアは、イランが支援するイエメン・フーシ派のミサイル攻撃、レバノンにおけるヒズボラの脅威を踏まえて、アラブ世界における対イラン包囲網形成を進めています。

****<アラブ連盟>「イランの脅威は限界超える」 臨時外相会合****
アラブ連盟(21カ国と1機構)は19日、エジプトの首都カイロで臨時外相会合を開き、中東で影響力を拡大するイランへの対応を協議した。

アブルゲイト事務局長(エジプト元外相)は「イランの脅威は限界を超えている」と述べ、危機感をあらわにした。ロイター通信などが伝えた。
 
会合は、イスラム教シーア派国家イランと敵対するスンニ派の盟主サウジアラビアの要請で開催。両国はイエメンやシリアの内戦でそれぞれ別の勢力を支援する「代理戦争」を続けている。

今月4日には、イランが支援するイエメンのシーア派武装組織フーシがサウジの首都リヤド近郊の国際空港に向けて弾道ミサイルを発射し、緊張が激化した。
 
イランはミサイル発射への関与を否定しているが、サウジのジュベイル外相は19日の会合で「我々は団結しなくてはならない」と訴え、アラブ諸国の結束を呼びかけた。
 
一方、サウジなどはレバノン国内でイランの影響下にあるシーア派組織ヒズボラについても「テロを支援している」と批判したが、レバノン代表団は「レバノン国内ではヒズボラも内閣を構成している」と述べ、非難に反論した。【11月20日 毎日】
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イラン・サウジアラビア対立の渦中にあるレバノンの件は、長くなるのでまた別機会に取り上げます。

サウジアラビアは、エジプト・シナイ半島での大規模テロを受けて、テロ対策を名目にした「対イラン軍事同盟」形成を明らかにしています。

****サウジ主導でイスラム圏国防相会議 「対イラン軍事同盟」形成へ****
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(32)は26日、首都リヤドでイスラム圏約40カ国の国防相らが参加して開かれた会議で、エジプトで起きた過去最悪規模のテロにふれ、「われわれの地域の評判が汚される」などと述べてテロや過激主義を批判し、「イスラム軍事反テロ連合」の本格始動を目指す考えを示した。
 
次期国王と目される皇太子を中心に、イスラム教スンニ派諸国の軍事連合を主導する姿勢をアピールした形だ。サウジの軍当局者は「特定の宗派や民族を想定したものではない」としているが、サウジが敵視するイランへの対抗軸を形成する考えもにじむ。
 
会議に参加したのはエジプトやアフガニスタン、トルコなどスンニ派主体の国々。シーア派大国イランのほか、イランの影響力が強まっているイラクやシリアは加わっていない。また、「イランに融和的だ」としてサウジが6月に断交に踏み切ったカタールも招待されなかった。
 
サウジは反テロ連合の新たな拠点設置に向け、約1億ドル(約110億円)を拠出する考えを示した。参加国は過激組織への対処に際し、軍事・資金面での支援などを要請することも可能とされる。(後略)【11月27日 産経】
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カタール制裁や政敵大規模粛清などのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の動きをアメリカ・トランプ大統領が了承・支援していると見られており、サウジアラビアの動きはトランプ大統領の思惑に沿ったものと見ることができます。

イスラエル “共通の敵”イランでサウジアラビアへ急接近
イラン及びヒズボラの脅威を強く意識している点で、イスラエルもサウジアラビアと同じ立場にあります。

****IS後の脅威はイラン、イスラエルが警戒****
世界中のほとんどの国が過激派「イスラム国(IS)」の敗北が間近に迫っていることを喜んでいるが、イスラエル政府当局者はシリアの動向を注視し、喜ぶ理由などないとみている。

イスラエルにとってみれば、相対的に弱小の敵だったISは、それよりはるかに危険なものに取って代わられつつある。それはイランとその同調者たちである。
 
シリアのバッシャール・アサド大統領は国内の支配権を固めつつあり、政権軍はイスラエルが占領するゴラン高原にじりじりと近づきながら、残存IS勢力の一掃を図っている。政権軍はイランやレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの支援を受けている。
 
「ISが撤退しつつあるすべての場所をイランが掌握しようとしている」。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いる右派政党リクードのシャレン・ハスケル議員はそう警告する。「われわれは(レバノンと接する)北方の国境で、ヒズボラを通したイランの脅威に対処している。シリアとの国境でも、同じ状況になることは望んでいない」

イランとヒズボラは、ISと同じくイスラエルの破滅を求めているが、ISと違うのはその目標を追求できる軍事力を保持していることだ。(中略)

イスラエル政府当局者は、シリア情勢だけを懸念しているわけではない。
シリア内戦が最終局面を迎えた結果、ガザ地区を支配するパレスチナのスンニ派原理主義組織ハマスは、シーア派であるイランとの関係復活に着手した。両者の連携はこれまで、スンニ派とシーア派の宗派間対立によって弱体化していた。

イスラエル当局者の見方からすると、ISの敗北によってイスラエルが事実上包囲されたかにみえる。5つの国境のうち3つの国境でイランの代理勢力ないし同盟勢力が活動しているからだ。(後略)【11月17日 WSJ】
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イランという共通の敵、アメリカ・トランプ大統領という共通の支援者を得て、サウジアラビアとイスラエルという従来は敵対関係あった両国は急速に接近しています。

****サウジとイスラエルが急接近****
・・・イランの外交、軍事攻勢に対し、サウジはトランプ米政権と結束して対抗する路線を取ってきているが、ここにきてアラブの宿敵イスラエルに急接近してきた。

サウジはイランの侵攻に対抗するため軍事的、経済的大国のイスラエルとの関係正常化に乗り出してきたものと受け取られている。

宿敵関係だった両国が急接近してきた背景には、両国が“共通の敵”を持っていることがある。イランだ。

イスラエル軍のガディ・エイゼンコット参謀総長はサウジの通信社 Elaph とのインタビューに応じ、「イスラエルはサウジと機密情報を交換する用意がある。両国は多くの共通利益がある」と述べている。

ちなみに、イスラエル軍指導者がサウジの通信社の会見に応じたこと自体これまで考えられなかったことだ。この背後にはネタニヤフ首相とサウジのムハンマド皇太子の意向が働いているとみて間違いないだろう。

ユバール・シュタイニッツ・エネルギー相はイスラエルのラジオ放送で、「わが国はサウジと非公開な接触を持っている」と認めている。同相はネタニヤフ首相の安全閣僚会議メンバーだ。

イスラエルは建国以来、自国がアラブ世界で受け入れられることを願ってきた。イスラエルはエジプトとヨルダンとの友好関係を築いてきたが、最近は密かにアラブ首長国連邦(UAE)にも接近しているという。(後略)【11月26日 長谷川 良氏 アゴラ】
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かくして、サウジアラビアとイスラエルという“奇妙”な連携をアメリカが支えてイランに対峙、そのイランとロシアがシリアで接近・・・・という関係になっています。

アメリカのイラン制裁問題で核合意が実質的に無効化されるような事態になれば、イランでは強硬派が勢いを増し、両サイドの対立も更に危険なレベルに近づきます。

トランプ大統領は「国際社会には機能している合意を壊す余裕などない」なかにあって、新たな脅威を生み出そうとしています。自身の国内求心力を高めるのには好都合なのでしょうが。
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イスラエル  シオニズムやパレスチナ問題とは距離を置くユダヤ教超正統派

2017-11-27 22:08:40 | 中東情勢

(兵役義務に抗議するユダヤ教超正統派の人々と、デモを排除する警官【11月21日 AFP】)

安息日の鉄道補修工事に抗議して閣僚辞任
個人的には宗教とほとんど縁がないため、イスラム原理主義的とかキリスト教の宗教右派とかいった、宗教的主張主張が強い人々の心情は、正直なところ理解しがたいものを感じています。

各宗教とも、普段の行動は世俗主義的な人々とさほど変わらない人々から、聖典の一言一句を現実生活にあてはめ厳密な戒律を実行している人々まで多様ですが、ユダヤ教にあってもそのあたりは同様です。

******************
ユダヤ人はざっくり言うと4つに分かれていて、
超正統派(黒い服を着て、ハットを被ってる人たち)
宗教派(普通の服装だが、律法を守ってユダヤ教を信じる人たち)
伝統派(宗教ではなく、民族の伝統として律法を守る人たち)
世俗派(宗教にも律法にも興味の無い人たち)
http://senderofview.com/yudayakyou-tyouseitouha-hukusou-bousi/)】
******************

ユダヤ教徒と言えば、黒のスーツと帽子を着用しヒゲやモミアゲを長く伸ばした人々をよくイメージしますが、彼らはユダヤ教の正統派の中、その中でも特に厳格に律法に従う立場をとる“超正統派”(ハレーディー、ハレーディーム)と呼ばれる人々で、イスラエル人口の10%を占めています。

超正統派の人達は、生まれてから一度もモミアゲを切ったことがないそうですが、聖書に、「モミアゲは大事な場所である」と記載されているから・・・だそうです。
イスラム過激派がヒゲにこだわるのとよく似ています。

なお、ユダヤ教については何も知りませんので、「ユダヤ教の『超正統派』が奇抜っ?漆黒の服装や帽子のブラック事情!」(10月27日 http://senderofview.com/yudayakyou-tyouseitouha-hukusou-bousi/)などを参考にさせてもらいましたが、誤解や不正確な記述はご容赦ください。(興味のある方は、ご自分で確認してください)

最近、このユダヤ教超正統派の人々に関する記事を目にしました。

****安息日の鉄道工事、是か非か イスラエル閣僚が抗議辞任****
イスラエルのリッツマン保健相は26日、ユダヤ教の安息日シャバットに鉄道の補修工事が行われたことに抗議し、辞任した。リッツマン氏はユダヤ教超正統派の政党「ユダヤ教連合」の党首で、「もう大臣としての責任を果たせない」とした。
 
ユダヤ教では、金曜日没から土曜日没までが安息日とされる。労働が禁じられているため、ほとんどの店は閉まり、バスや鉄道なども原則運行しておらず、街は静まりかえる。

ただ、必要不可欠な一部労働は法的に認められている。保健相が辞任の理由として挙げる工事は、平日の乗客輸送に影響を与えないよう安息日に行われたという。
 
ユダヤ教連合は国会定数120議席中、6議席を占め、ネタニヤフ首相率いる右派連立政権に参加しているが、離脱はしない方針だ。ネタニヤフ氏は26日、「安息日は我々にとって重要だし、安全で継続的な輸送の確保も全ての市民に必要なことだ」と述べた。
 
イスラエルではユダヤ教の戒律に厳格な正統派と、宗教による市民生活の規制を嫌う世俗派のあつれきがあり、長年の論争になっている。【11月27日 朝日】
******************

ユダヤ教にあっては安息日の労働禁止が重視されることはかねてから聞き及んではいます。
安息日にはイスラエルでは交通機関もストップし、国境も閉じているそうです。(観光客は大変そう)

ただ、社会生活維持に必要な鉄道補修工事も認めない・・・というのは、一般人にはなかなか理解しがたいものがあります。

“安息日に仕事をしてはいけない”というと、趣味やレジャーを楽しめるようにも思われますが、ユダヤ教にあっては料理、車の運転、ゲーム、パソコン、スマホも“仕事”にあたるとかで、“じゃ安息日には何をするのか?”と言えば、「休息日は仕事をせずに、家族と対話をしましょう」とのこと。

不公平批判から新たに兵役義務も
****超正統派ユダヤ教徒ら33人拘束、兵役義務への抗議デモで****
中東エルサレムとイスラエルのテルアビブ近郊で20日、イスラエル人ユダヤ教超正統派の兵役義務化に対する抗議デモがあり、参加者らとイスラエル警察が衝突、警察によると33人が拘束された。【11月21日 AFP】
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超正統派の人々は、1948年の建国直後からユダヤ教学院(イエシバ)で宗教を学ぶことを条件に兵役を免除されてきました。

しかし、他の国民からの不公平感が高まり、2017年から兵役免除の特典が廃止されることとなりました。その結果、超正統派がイスラエルを去り、他国へ移住する動きが広まっています。上記記事はそうした混乱の一つです。
https://matome.naver.jp/odai/2141310159162401701

イスラエルというと、徴兵制のもとで、男性も女性も等しく銃を手にしてイスラム・アラブ世界に囲まれた祖国を守る・・・・というイメージがあり、実際そうでもありますが、超正統派の人々に限ってはかなり趣が異なります。

現代イスラエルは不信仰な人間の手によって建国された国であって、神の御心に反している」】
兵役にもつかないぐらいですから、イスラエル建国やパレスチナ問題に関する考え方も、いわゆる“イスラエル的”なものとは異なります。

****黒い服の超正統派****
さて、最も宗教的な「超正統派」とは、どういう人々でしょうか。 彼らは統計上、38万人いるとされています。 彼らは黒い帽子、黒い服を着ているので、すぐに見分けられます。彼らの中には様々なグループがありますが、ここではその中で二つをご紹介します。

その一つは、現代イスラエル国家の存在を否定している人々です。 独立記念日に、エルサレムで超正統派の人々が多く住むメア・シェアリームと呼ばれる地区を訪問すると、彼らは黒旗を揚げて喪に服しています。

現代イスラエルは不信仰な人間の手によって建国された国であって、神の御心に反していると、彼らは考えているのです。

彼らの中の「ネトゥレイ・カルタ」という過激なグループは、イスラエルの敵を支持する行動を行うため、いつも物議をかもしています。 イランを訪問して、イスラエル殲滅を叫ぶアフマディネジャド大統領を訪問した指導者もいました。

一方、超正統派の中には熱烈にメシアを待望する人々もいます。 「ルバビッチ運動」と呼ばれる人々の中には、ニューヨークで10年以上前に死去したシュヌルゾンという偉大なラビがメシアだったと信じる集団があります。

彼らは、その偉大なラビが復活して再臨すると信じ、そのラビのポスターをイスラエルの各地に貼り「メシア来臨に備えよ」と訴えています。 彼らは異邦人に対する宣教も積極的です。【「シオンとの懸け橋」】
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“現代イスラエルは不信仰な人間の手によって建国された国であって、神の御心に反している”・・・・いわゆる“宗教右派”的な祖国への執着、シオニズム、パレスチナへの厳しい対応とは全く異なります。

この超正統派の人々を支持基盤とする政党が、連立にも加わっている「ユダヤ教連合」(ユダヤ・トーラ連合)です。

****ユダヤ・トーラ連合****
・・・・この政党は、現行のパレスチナ問題に対して特に関心は持っていない。逆に、シオニズムについても特段関心はなく、一部の議員はシオニズムを批判している。例えば、2009年に死去したこの党に所属していたアブラハム・ラヴィツは、次のように言った。

「シオニストたちは間違っている。<イスラエルの地>に対する愛を育むためなら、その全土にわたって政治、軍事的支配を打ち立てる必要などまったくないはずなのだ。人は、テルアビブにいながらにしてヘブロンの町を愛することができる。(中略)ヘブロンの町は、それがたとえパレスチナ側の支配下に置かれたとしても十分愛され得るだろう。イスラエル国自体は一つの価値ではない。価値の範疇に属するものは、もっぱら精神に関わる事象のみである」【ウィキペディア】
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信仰心さえあれば、現実の“領土”がどうであっても全く関係ない・・・・という立場のようです。
<イスラエルの地>にこだわる宗教右派の立場を“突き抜けて”しまっています。

ちなみに、保守強硬派として対パレスチナの先頭にたっている「宗教派」は以下のようにも。

****宗教派の人々****
54万人とされる宗教派(正統派)の人々は、普通の服を着ています。 男性はたいていキッパという丸い帽子を着用していますが、色のついていないキッパをかぶる人ほど、より保守的な人が多いです。 ただし、キッパを着用する人が全て宗教派とは限りません。

宗教派の中で「宗教右派」と呼ばれる人々は、ユダヤ・サマリヤ(西岸地区)が神から与えられた約束の地だと信じ、入植活動を熱心に行っています。 人間の活動が、神の約束の成就を早めると考えるわけです。

宗教右派の人々の中には行き過ぎた行動に走る人々もいます。 たとえば、1994年にヘブロンで礼拝中のアラブ人を多数殺害したゴールドスタインも、宗教右派組織「カハ」に属していました。 1995年にラビン首相を暗殺したイガル・アミルも宗教右派の青年で、今でも「自分は神の御心を行った」と確信しています。

2005年のガザ撤退時には、国防軍と警官隊に対峙する多くの若者たちの様子がテレビで全世界に中継されましたが、その若者たちも宗教右派です。 彼らは右派ラビの薫陶を受け、決死の覚悟で入植拠点の撤去に反対するため、国防軍は対応に苦慮しています。

なお、宗教派の人々が全て過激だと言うわけではなく、穏健な考え方の人々も数多くいることを理解しておく必要があります。 逆に、政治的な右派の人々が全て宗教的なわけでもありません。

政党で言えば、UTJは宗教的ですが政治的には中道に近く、イスラエル我が家は、政治的には右派ですが世俗的傾向が強いです。【「シオンとの懸け橋」】
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こちらは比較的理解はしやすいですが、パレスチナ問題の解決を難しくしている人々でもあります。

国内政治基盤は脆弱な第4次ネタニヤフ政権
2015年5月に成立したネタニヤフ第4次政権は、ネタニヤフ首相率いる右派リクード(30議席)▽中道右派クラヌ(みんなの党、10議席)▽「ユダヤの家」(8議席)▽ユダヤ教超正統派「シャス」(7議席)▽ユダヤ教正統派「ユダヤ教統一律法党」(6議席)の右派系5党61議席で構成すされています。

ユダヤ教正統派「ユダヤ教統一律法党」(6議席)と表記されているのが、「ユダヤ教連合」(ユダヤ・トーラ連合)です。

同じ超正統派でも、パレスチナ問題に距離を置く「ユダヤ教連合」(ユダヤ・トーラ連合)が、“アシュケナジー”(ユダヤ系のディアスポラのうちドイツ語圏や東欧諸国などに定住した人々、およびその子孫を指す)を代表するのに対し、ユダヤ教超正統派「シャス」は“セファルディム”(ディアスポラのユダヤ人の内、主にスペイン・ポルトガルまたはイタリア、トルコなどの南欧諸国に15世紀前後に定住した者を指す)を代表しており、パレスチナに対してはあまり寛容ではないようです。

「ユダヤの家」は宗教右派で、入植活動に積極的な党です。

保守派ネタニヤフ政権は宗教右派や超正統派を集めてやっと過半数を維持している状況にあります。
国内基盤がぜい弱だと、対外的に強硬姿勢をとることで求心力を維持しようとする動きになりやすい傾向があります。

****アメリカは極右イスラエルをどうするのか****
・・・・ネタニヤフ政権の基盤は盤石ではありません。国会120議席のうち、連立与党は61議席であり、辛うじて過半数を維持しているにすぎません。しかもイスラエル国内は不景気で、高い失業率や不動産価格の高騰などにより国民の不満が高まり、政権の支持率は不安定な状態にあります。

ネタニヤフ政権がイランへの制裁解除に反対し、核施設への先制武力攻撃を主張しているのも、それが要因になっています。国外の敵をことさら強調して、これを叩くことで求心力を高めようとしているのです。(後略)【2015年08月21日 東洋経済online】
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こうしたネタニヤフ首相とオバマ前大統領の関係は険悪でしたが、トランプ大統領に代わってからは、安倍首相同様に親密な関係に一転しています。

超正統派に厳しい社会風潮も
超正統派に関するニュースとしては、下記のようなものもありました。

****ユダヤ教超正統派の男22人を性的暴行で身柄拘束 イスラエル****
イスラエルの警察当局は27日、女性などへの性的暴行の容疑でユダヤ教の超正統派の男20人以上の身柄を拘束した。閉鎖的な超正統派の地域社会の中では、男らに疑いがかかっていることは知られていたが、当局に見つからないように隠蔽(いんぺい)工作をしており、警察によるおとり捜査が行われていた。
 
警察によると身柄を拘束されたのは、エルサレムやパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の超正統派入植地ベイタル・イリットなどの居住区に住む20~60歳までの男22人で、過去2年間にわたり地元の女性や若者、子どもに対して性的暴行を働いたとされる。容疑者らは警察で事情聴取を受けた後、訴追される可能性がある。
 
エルサレムでは、容疑者たちの居住区の住民らが逮捕を妨害するために、警察官らに怒鳴りつけたり、投石したりする姿もみられ、警察車両2台の窓が割られたという。
 
超正統派のそれぞれの地域社会の中ではラビ(ユダヤ教指導者)の指導の下、内部でこれらの犯罪とその容疑者を調査し、犯行が警察に知られないために容疑者がするべきことを定めていた。

警察はこの超党派コミュニティ内部の調査プロセスをあばき、容疑者の身柄を拘束することで、今後の性的暴行事件の発生を防ぎ、これまでの被害者を助けることにもつながると説明している。
 
ユダヤ教の超正統派はイスラエルの人口の約10%を占め、ユダヤ教の厳格な解釈の基に生活している。さらに原理主義的なグループは、世俗的な政府機関の権限を認めることを拒否し、警察や司法制度をできるだけ避け、宗教的な教義やラビの教えに従っている。【3月28日 AFP】
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イスラム教やキリスト教でもそうですが、性に関して厳格な戒律を強調するほど、性的な問題・虐待・暴力は水面下の陰湿な形で行われることにもなります。

先述の兵役義務や、上記警察の対応など、ユダヤ人社会にあっても超正統派への風当たりは強まっているようです。





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ベネズエラ  終わらない経済無策の強権支配マドゥロ政権 分断・封じ込まれた野党勢力

2017-11-26 22:24:19 | ラテンアメリカ

(ベネズエラの首都カラカス市内で、医薬品不足で政府に抗議するデモに参加しプラカードを掲げる女性(2017年11月20日撮影)【11月26日 AFP】 “直接支給”では、こうした抗議の声をあげる者には配布されない危険も)

【「マドゥロ式ダイエット」を強いられる国民
南米の石油大国ベネズエラがマドゥロ大統領の失政のもとで極端なインフレ・もの不足に陥り、厳しい地域では三食食べられないとか、栄養失調の子供が急増している、餓死者も出ているといった状況になっていることは、これまでも再三取り上げてきました。

****飢えるベネズエラ、壊れた豊かな国****
インフレ率720%、食料輸入は70%減り栄養失調がまん延する

・・・・ベネズエラのインフレ率は世界で最も高く、国際通貨基金(IMF)の推計では今年、720%に達するとみられている。これでは家庭が収入の範囲で生活することはほぼ不可能だ。

投資銀行トリノ・キャピタルによると、2013年以降、同国経済は27%縮小し、食料輸入は70%減った。
 
子連れを含む多くの人々がごみをあさっている。1年前にはほとんど見られなかった光景だ。
地方に住む人たちは夜になると、木になっている果物から地面で育っているかぼちゃまで農場にあるものはなんでも盗み出し、種や肥料の不足に苦しむ農家に追い打ちをかけている。

食料品店は略奪の被害に遭い、家庭では冷蔵庫に南京錠をかけている。

社会科学者が毎年実施している生活水準に関する全国調査によると、昨年、体重が減ったと回答した国民は4人に3人。平均減少幅は19ポンド(約8.6キロ)に上る。人々は怒りとユーモアを込めてこれを「マドゥロ式ダイエット」と呼んでいる。同国のニコラス・マドゥロ大統領にちなんで命名されたものだ。(中略)

医師で子どもの栄養失調の専門家リビア・マチャド氏は「政府にとって、ベネズエラに栄養失調の子どもは存在しない」と話す。「現実には栄養失調がまん延している。誰もがこの状況に注目すべきだ」(後略)【5月9日 WSJ】
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上記は5月の記事ですが、状況は日々悪化しています。

****困窮のベネズエラ 物不足が悪化/制憲議会で混乱 インフレ率、年720%/餓死者も****
・・・・首都カラカスでは、至るところで市民の長い行列を目にする。米や油、砂糖などの食料品を求めてスーパーに並ぶ人たちだ。
 
「早朝から並んでも何も買えないことがある」。声をかけると、数人が一斉に不満を口にした。行列での口論から殺し合いに発展する事件も起きたという。
 
カラカス中心部のスーパーでは野菜やお菓子はあるものの、小麦粉や鶏肉などの生活に欠かせない食料品はすべて品切れだった。
 
店長のアドゥリアン・レデロンさん(33)は「6年ほど前から品物が減り始め、最近は特に悪化した。ふだんはビスケットや野菜を食べている。1日2食の人も多い」と嘆いた。(後略)【8月15日 朝日】
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この混乱の原因は、経済・財政が依存してきた石油の価格が低迷していることもありますが、基本的にはバラマキ社会主義・“チャベスなきチャベス路線”を続けてきたマドゥロ政権の無策、あるいは市場無視の誤った経済政策にあります。

****政策のひずみ噴出****
社会主義的な政策を進めた反米左派のチャベス前大統領は、世界最大の埋蔵量を誇る原油マネーを背景に貧困対策に力を入れた。だが、後を継いだマドゥロ大統領のもとで、ばらまきや無理な経済政策のひずみが噴き出した。
 
生活必需品の価格を安く抑えてきたため、国内産業が次々と撤退に追い込まれ、近年は原油価格の下落で外貨収入も急減。国民生活は困窮し、4割以上が深刻な貧困状態とされる。
 
マドゥロ氏は抜本的な問題解決に手を付けないまま、「米国などが仕掛けた経済戦争が危機の原因だ」と主張してきた。

4月以降に拡大した反政府デモで120人以上が死亡するなか、強権的な姿勢をこれまで以上に強めている。周辺国や国連からはマドゥロ氏の姿勢に対し「独裁政権だ」との非難が相次いでいる。【同上】
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マドゥロ政権は、生産拡大のための有効な施策をとることなく、生産を控えたり価格を上げる民間生産者に批判の矛先を向け、更に生産を縮小に追いやっています。その状態をアメリカのせいだと責任転嫁するばかりです。

唯一、政権のとった食糧増産政策は、繁殖が早いウサギを食用肉供給源として家庭に配った「ウサギ計画」ぐらいでしょうか。

“政府の食料計画を任されているフレディ・ベルナル(Freddy Bernal)氏は、「ウサギ計画」を成功させるため、国民は「ウサギ愛」を捨てなければならないと主張した。
ベルナル氏によると、第一弾として貧困地区を対象に先だって子ウサギを配給したが、住民たちはペットとして名前を付け、一緒に寝るなどかわいがってばかりいるという。”【9月14日 AFP】

「ウサギ愛」が見られるということは、状況はまだ余裕がある・・・ということでしょうか?

医薬品の患者への直接支給 政権による“選別”も
食糧、日用品だけでなく、医薬品の不足も深刻ですが、社会主義国らしく“直接支給”に乗り出したようです。
しかし、“直接支給”はこれまでの食糧などの経験からして、現実的には“政府に協力的な者に対しては”という制約がつくものであり、命を人質にとった批判封じ込めにもなります。

****医薬品不足のベネズエラ、患者への直接支給を開始****
ベネズエラは25日、米国の制裁措置が医薬品不足を招いているとして、病気を患っている3万5651人を対象に医薬品の支給を開始した。医療関係者の間では全医薬品のうち95%が入手できない状態だと言われている。
 
医薬品をもらうには政府の電子カードが必要とされており、政権支持者を優遇するものだとの批判もある。ルイス・ロペス(Luis Lopez)保健相は国営VTVテレビで、全国24州(首都区を含む)のうち10州で医薬品の支給を始めており、翌週には残りの州でも始めると語った。
 
医療人権団体CODEVIDAを率いるフランシスコ・バレンシア(Francisco Valencia)氏は、腎臓病などの慢性病やがんの患者約30万人が必要な医薬品を入手できていないと推定されており一層の取り組みが必要だと述べた。
 
患者やその家族らは22日、カナダやオランダ、ペルー、米国の各国大使館前で、人道目的の医薬品支給をニコラス・マドゥロ(Nicolas Maduro)大統領に働きかけるよう求めるデモ行進を実施した。ベネズエラ政府は国内に人道危機は存在しないと主張しており、医薬品の輸入や供給を困難になった要因は米国の制裁措置だと説明している。【11月26日 AFP】
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ハイパーインフレの様相
いずれにしても、もの不足によるインフレに歯止めがかからず、ハイパーインフレの様相を呈しています。

****今年10か月のインフレ率が825%に ベネスエラ****
ニコラス マドゥロ大統領政権はベネスエラのインフレ率に関する発表を止めていますが、反体制派が多数を占めるベネスエラ国会はベネスエラの10月までにインフレ率を825,7%と見積もっています。
 
ベネスエラ国会は今年1年間のインフレ率は1000%を超えると考えています。
 
ベネスエラ反体制派の発表によれば、今年のベネスエラのインフレ率は1400%を超えると推測されています。経済危機の続くベネスエラでは食料と医薬品が極端に不足しており、国民は上がり続ける物価と格闘しています。
 
「今月べネスエラ経済はハイパーインフレに突入したと言わざるを得ません。」と反体制派国会議員アンヘル アルバラドは火曜日に国会で指摘しています。(中略)
 
ベネスエラ政府派2年間インフレ率に関する発表を行っていませんが、ベネスエラ国会は9月のインフレ率を36,6%、10月のインフレ率を45,5%と発表しています。
 
エコノミストはハイパーインフレの定義を数か月連続でインフレ率が50%超えるか、3年連続でインフレ率が100%を超えた時と考えていますが、ベネスエラでは既に2年間インフレ率が100%を超えています。
 
ベネスエラ中央銀行は月ごとのインフレ率の発表を止めていますが、2015年と2016年のインフレ率が180%と240%であったことは認めています。
 
マドゥロ政権は私企業がマドゥロ政権を弱体化させるために物価上昇を行っていると責任転嫁しています。大統領は2018年は経済回復の年になると先週約束しています。【11月8日 音の谷ラテンアメリカニュース】
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インフレ率については、政府が発表していないこともあって、いろんな数字が出ていますが、まともな生活ができないほどの状況になっているのは間違いありません。

政権の“力”で封じ込まれ、切り崩された野党勢力
当然ながら国民の激しい抗議行動が起き、多数の死者も出ていますが、現在は政権が力で封じ込めた形にもなっています。強権支配体制はなかなか民主的な抗議行動によっては倒れない・・・という現実については、10月21日ブログ“ベネズエラ  経済崩壊、抗議行動弾圧、不正選挙・・・それでも続くマドゥロ政権”でも取り上げました。

天文学的数字のインフレ率ともなったハイパーインフレを経験して経済が破たんした南アフリカのジンバブエでは、ムガベ大統領が軍の実質的クーデターによって退任に追い込まれましたが、ベネズエラにあっては軍も政権と利害を一にしているとも言われていますので、そうした出口も難しいようです。

そうしたなかで、野党勢力は政権側に切り崩され、ますます政治的解決が難しくなっています。

****<ベネズエラ>野党連合が分断 知事選きっかけに亀裂****
独裁色を強める南米ベネズエラのマドゥロ大統領に対し、団結して政権打倒を目指してきた野党連合の分断が進んでいる。10月の知事選をきっかけに亀裂が生じ、12月の地方選に向けても統一的な対応がとれていない。
 
野党連合の「民主統一会議」は2015年12月、国会議員選で3分の2以上の議席を取り議会の主導権を握った。三権を超える権限を持つ制憲議会選(今年7月)をボイコットする一方、知事選では全23州で協力して候補を立てるなど足並みをそろえてきた。
 
分裂のきっかけは、10月に当選した野党連合の5州知事の就任を巡る対応だ。マドゥロ氏は制憲議会に就任の宣誓をしないと当選は無効だと圧力をかけたのに対し、野党連合は宣誓を拒否するよう求めた。野党連合や米国、中南米諸国は制憲議会を違憲だとして承認していないためだ。
 
ところが、5州のうち「民主行動党」の4知事は「支持者から求められた」として宣誓し、3人はマドゥロ氏と面会。マドゥロ氏は「野党側と調和、協力の時代が始まった」と語り、切り崩しが奏功した形となった。宣誓しなかった州の知事は当選無効となり、激怒した野党連合幹部は連合再編を模索中だ。
 
亀裂は12月の地方選(335自治体首長選など)を巡っても深まっている。民主行動党など主要3党が「選挙システムの不正操作」を理由に不参加を決めた一方、一部の野党候補は出馬を表明し、混乱が広がっている。【11月7日 毎日】
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****<ベネズエラ>野党指導者の亡命、相次ぐ****
独裁色を強める南米ベネズエラのマドゥロ政権と対立する野党指導者の亡命が相次いでいる。

17日には自宅軟禁中の前カラカス大都市圏市長のアントニオ・レデスマ氏(62)が隣国コロンビアに逃走。4日にも野党が多数派の国会で副議長を務めるフレディ・ゲバラ氏(31)がチリ大使公邸に駆け込んだ。
 
レデスマ氏は、43人が死亡した2014年の連日の抗議デモを主導し、翌年、市長在職中に国家扇動容疑で逮捕され服役。今年8月にも数日間、勾留され自宅軟禁となった。
 
レデスマ氏はAP通信に「家で人質となっているより、ベネズエラの民主主義のため国外に飛ぶ方が役に立つ」と語り、各国を巡り反マドゥロ政権の国際世論を高める考えを示した。治安当局の監視下だった自宅を抜け出し陸路でコロンビアに入ったという。
 
ゲバラ氏は、公安当局に4日、自宅周辺を囲まれ、拘束を恐れて保護を求めたという。4〜7月に抗議デモを率い政権批判を展開。政権側は市民を扇動したとして議員特権剥奪を目指していた。
 
8月には、政権批判を公言して更迭されたオルテガ前検事総長が秘密裏に出国してコロンビアに亡命した。【11月18日 毎日】
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野党政治家もやや“腰が引けた”ような対応にも見えますが、政権側の“暴力”に直面しては、それもやむを得ないのでしょう・・・・。

政権は、政府批判封じ込めを更に強化しています。政府批判は“ヘイトクライム”とみなされるようです。

****<ベネズエラ>最長20年服役 ヘイトクライムの法律****
 ◇制憲議会が承認
南米ベネズエラの制憲議会は8日、新聞やテレビ、ソーシャルメディアを通じ、ヘイトクライム(憎悪犯罪)をあおった人を最長20年、服役させる法律を承認した。地元メディアが報じた。
独裁色を強めるマドゥロ大統領が、反対派封じ込めのため新法を利用する可能性がある。(中略)
 
マドゥロ氏は、反政府デモを主導してきた野党連合の指導者について「対立をあおり憎しみを助長している」などと非難してきた。このため、批判勢力に対し新法が乱用される恐れがある。野党連合は10月の知事選をきっかけに亀裂が生じ、分断が進んでいる。【11月9日 毎日】
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迫るデフォルト 支えるロシア・中国
原油価格はこのところ若干上向き加減ですが、資金繰りに行き詰まるベネズエラでは、経済・財政を支える石油生産自体が大きく減少しています。

****OPEC目標下回るベネズエラの産油量、イラクなどが穴埋めへ****
米国による制裁や国営石油会社の資金不足でベネズエラの産油量が石油輸出国機構(OPEC)が定めた生産目標を下回る中、OPEC加盟国であるイラクや他の産油国がその穴埋めに動き始めた。OPEC関係者と業界関係者が明らかにした。

ベネズエラでは、国営石油会社PDVSA[PDVSA.UL]が油井掘削や油田の保守、パイプラインや港湾の操業維持に必要な資金の調達に行き詰まり、10月の原油生産は28年ぶり低水準となった。

OPECへの報告に基づくと、ベネズエラの2017年の産油量は少なくとも日量25万バレル減少する見通し。(後略)【11月20日 ロイター】
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このままでは、借金を返せないデフォルトが現実のものとなります。

***S&P、ベネズエラを「選択的デフォルト」に格下げ****
米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は14日、財政危機に陥っている南米ベネズエラの外貨建て長期国債の格付けを「選択的デフォルト(SD)」に引き下げたと発表した。
 
格下げは、ベネズエラが2件のグローバル債の利払いに必要となる2億ドル(約230億円)を、30日間の支払い猶予期間の最終日だった12日までに支払えなかったことを受けた措置。

S&Pによると、ベネズエラは他の4件の債務4億2000万ドル(約480億円)についても支払い期限を過ぎており、猶予期間に入っている。(中略)
 
選択的デフォルトが1500億ドル(約17兆円)に上る公的債務などにも広がれば、ベネズエラは完全なデフォルト(債務不履行)に陥る恐れがある。
 
同国では、債務返済のための輸入削減により食料や医薬品が不足する事態が発生しており、今回の債務危機は想定外ではない。(後略)【11月15日 AFP】
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今のところは、ロシア、そして最大の支援国である中国はベネズエラを支える意思を示していますが、どこまでもつか・・・・。

****ロシアとベネズエラが債務再編合意、中国も支援姿勢****
ロシアとベネズエラは15日、債務再編合意に署名した。ベネズエラが10年間にわたり、ロシアに計31億5000万ドルを返済する。

ロシア財務省が明らかにした。同省によると、合意に伴いベネズエラは今後6年間、ロシアへの支払いを「最小限」に抑え、他の債権者向けに返済しやすくなるという。

これとは別に中国外務省が発表した声明で、ベネズエラは債務問題を「適切に」処理できるとの見解を示し、米国や欧州などが制裁を科しているベネズエラをロシアとともに支えていく姿勢をにじませた。(後略)。【11月16日 ロイター】
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石油権益の確保、反米政権支援の政治的意義、デフォルトしてしまうと自国保有債権が無価値化する・・・・といった理由での支援継続ですが、継続すればするほど傷が深まるという面もあります。

デフォルトになると輸入のための外貨調達ができず、食糧・医薬品不足は更に深刻化します。

“デフォルトになれば輸出原油が差し押さえられる可能性がある。原油輸出は、ベネズエラにとって食料品などの必需品の購入に充てる外貨を得るための唯一の手段だ。また、石油セクターに関連したタンカーや製油所などの重要な資産も債権者の手に渡ることになりかねない。”【2016 年 1 月 22 日 WSJ】

そこまで追い込まれたとき、政権と国民の関係がどうなるか・・・・というところですが、デフォルトの危機は2年以上前から言われており、ある意味では“しぶとく生き残ってきている”とも。今後も・・・どうでしょうか?
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台湾  中国・中国人への印象が好転 相互理解が生む新たな中台関係

2017-11-25 22:00:16 | 東アジア

(7月、中国広東省東莞で開かれた台湾の学生向け就職説明会。約190人のために広大な会場が準備された【11月20日 産経】)

政治的緊張のなかでの中国への印象好転
中国との関係を重視する国民党・馬英九政権から台湾の独自性を強調する民進党・蔡英文政権への変化にともなって、国際機関・会議からの台湾排除、台湾との国交を持つ数少ない国々の切り崩し等々、中国が台湾に対し強い圧力をかけていることは、連日の報道のとおりです。

最近の台湾関連に記事の見出しを並べただけでも、そのあたりの動きが明らかです。

【中国共産党大会】習近平氏、台湾へ統一攻勢強化へ 中台で際立つ認識格差【10月25日 産経】
<国外退去>台湾人の中国への強制送還急増 海外で拘束【10月30日 毎日】
台湾閣僚、「門前払い」=独で開催のCOP23サミット【11月13日 時事】
断交防げ、苦心の台湾 蔡総統、太平洋の島国歴訪【11月16日 朝日】
習政権、台湾孤立へシフト 札束外交で友好国奪取 独立派への暴力「よくやった」【11月19日 産経】
クリミア併合を研究せよ 台湾支配へハイブリッド戦争【11月20日 産経】
「中国は台湾より絶対的に有利な立場」発言、台湾で反発【11月20日 Record china】

こうした緊張が高まる中で、中国・習近平政権の“台湾進攻”といった物騒な話も囁かれる状況にもなっていることは、10月12日ブログ「中国の“台湾進攻”の可能性は? 今後も続く“一つの中国”をめぐる綱引き」でも取り上げたところです。

また、台湾独自色の強い民進党・蔡英文政権成立の背景に、台湾において“台湾人としてのアイデンティティー”を重視する考え方が主流となっていることがあることも常々指摘されるところです。

こうした政治状況、意識に関する言及からすると、非常に意外な感がしたのが下記記事でした。

****台湾人の中国人への印象が逆転、「良い」が初めて「悪い」上回る****
2017年11月20日、台湾・聯合報は、台湾市民に中国本土市民への印象を尋ねた世論調査で、2010年の調査開始以降初めて「良い」が「悪い」を上回ったと報じた。

聯合報は今月10日から13日に、家庭の電話番号から無作為に選ぶ方式による世論調査を実施、1017人から回答を得た。

中国本土人に対する印象では「良い」が前年の調査から5ポイント増の49%となり、過去最高を記録。逆に「悪い」は8ポイント減って37%で、過去最低となった。

また、中国政府に対する印象でも、これまで3割前後で推移していた「良い」が昨年から9ポイント上昇して40%に。昨年54%だった「悪い」は、9ポイント下がって45%だった。

中国政府の印象(自由回答)では、専制集権的が20%、覇道的が16%で多かったが、一方で「効率が高い」との回答も7%に達した。

中国本土人の印象(自由回答)では、「モラルが低い」との回答が昨年27%から20%にまで減った。
このほか、ネガティブな印象では「乱暴」「高慢」「富をひけらかす」「自分勝手」という回答が、ポジティブな印象では「善良的」「率直で豪快」「情に厚く親切」「同胞としての愛を感じる」といった答えがあったという。


また、本土に行ったことがある台湾人の56%が中国に、49%が中国政府にそれぞれ良い印象を抱いており、行ったことがない人に比べて14〜18ポイント高い結果となった。【11月21日 Record china】
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“自分は中国人ではなく台湾人である”といった“台湾人アイデンティティー”が主流になっているのも事実ですが、細かく見ると、最近では逆に“中国人”という意識が微増傾向にあるようです。

****台湾人のアイデンティティー、「私は中国人」が微増 世論調査****
台湾の与党民主進歩党(民進党)系のシンクタンク、新台湾国策智庫が21日発表した台湾人のアイデンティティーを問う世論調査で、自分は「中国人」と答えた人が10.6%と、1年前に比べ3.7ポイント増えた。「台湾人」と答えた人は0.5ポイント減の83.5%だった。
 
台湾の成功大の蒙志成准教授は「中国が青年交流の強化や、就職・起業支援などの対台湾政策を積極的に進めていることと関係があるのではないか」と指摘した。
 
設問は「中国人」か「台湾人」かの二者択一。2015年3月には「台湾人」と答えた人が90.6%と、過去3年間で最も高かった。【4月21日 産経ニュース】
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依然として8割を超す割合が「台湾人」と意識しているということを重視するか、「中国人」と意識する割合が微増していることを重視するかで、調査の評価は分かれますが・・・。

中国側の積極的・融和的な対台湾政策
観光業へのダメージなど中国に依存した経済状況の動向とか、政治的に緊張が高まる蔡英文政権成立への反動なども影響しているかもしれませんが、上記記事では中国側の積極的・融和的な対台湾政策の成果も指摘されています。

****クリミア併合を研究せよ 台湾支配へハイブリッド戦争****
(中略)
台湾の若者への懐柔も中国の統一工作の重要な一環である。
 
「私は台湾独立派だけど、中国大陸はチャンスが多い。機会があれば中国で就職したい」
台北大学4年の葉依●(21)は、あっけらかんと話した。7月に中国広東省政府と中台の起業家らが共同で開いた、台湾の学生向け就職説明会に参加した。副総統などを務めた野党、中国国民党の蕭万長が団長を務め、大学や高等専門学校20校から学生約190人が広東省東莞を訪れた。
 
2泊3日で高級ホテルに宿泊。東莞の国際展示場では、家電大手ハイアールや大手銀行、航空会社など中国企業約280社が訪問団のためだけにブースを準備した。滞在中の費用は主催者が全額負担した。
 
葉は民主化後の台湾で育ち「天然独(生まれながらの台湾独立派)」を自任していた。台湾人は中国当局や中台統一派が主張するような「中華民族の一員」ではなく、「文化、価値観から生活習慣まで全て異なる、中国人とは別の民族」とまで言い切る。それでも説明会には「心を動かされた」という。
 
北京で企業研修を体験した台湾大学4年の李政軒(21)は「中国にいくことにリスクはあるが、能力さえあれば給料が上がるのが魅力的だ」と語り、真剣に就職を検討しているという。
 
中国とのサービス貿易協定に反対する台湾の学生らが立法院(国会に相当)を占拠した2014年春の「ヒマワリ学生運動」は、中国当局に衝撃を与えた。

学生らを突き動かしたのは、中国一辺倒の国民党・馬英九政権への反発だけでなく、協定で自分たちの就職先が失われるという焦燥感だった。若年世代の反中感情は昨年の政権交代の原動力ともなった。
 
これを受けて共産党は今年3月、対台湾工作の重点を「一代一線(青年世代と末端の民衆)」とする方針を発表。10月の党大会前後には、台湾政策を主管する国務院台湾事務弁公室トップの事実上の更迭を明らかにした。

総書記の習近平は政治報告で、学習、創業、就業、生活の4分野で「大陸同胞と同様の待遇を提供する」と述べ、中国で暮らす台湾住民の「内国民化」を宣言した。
 
台湾のシンクタンク「国家政策研究基金会」の研究員、盧宸緯によると、中国当局は台湾の若者の起業をワンストップで支援する「青年創業基地」を2015年6月から設立し始め、わずか1年間で53カ所まで急増させた。

昨年10月には、台湾人の大学入学基準を現地の学生と同水準に緩和。「一つの中国」を認めることを条件に台湾人向けの奨学金も拡充した。こうした優遇策は「(台湾側に)何かを強制する度合いが小さく、台湾社会への影響が少ない」と盧は指摘する。習政権が「ヒマワリ」から学習した成果だ。
 
台湾人の若者を「吸収」する一方で、中国は台湾への留学生を減らしている。今年度、台湾の大学に留学を申請した中国人学生は以前と比べ約半分の1千人以下に減った。盧はこうした“輸出超過”が続けば「台湾から優秀な人材が流出してしまう」と懸念する。【11月20日 産経】
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なお、中国からの台湾への留学生が減少している(存在すること自体が、中台対立を前提とすると奇異な感もありますが)の背景には、政治的な問題以外に、台湾側の“差別”も指摘されています。

****中国本土の学生が台湾に行きたがらない理由は「差別」―台湾メディア****
2017年8月15日、台湾紙・中国時報電子版は、この1年で台湾に留学する中国本土の学生が減少している背景には、政治的な理由以外に差別の問題があると伝えた。

記事によると、台湾大学で修士課程を学ぶ中国本土の学生は「台湾の学位は以前ほど本土の学生にとって魅力的ではなくなった。学位認定申請や就職活動におけるメリットも年々低下している」と語っている。

台湾の大学が本土の学生を受け入れる際には「三限六不」の原則が適用される。「三限(三つの制限)」とは「本土の名門大学からの派遣の制限、学生数の制限、医学や台湾の安全分野にかかわる学科の制限」であり、「六不(六つのない)」は「加点しない、奨学金を提供しない、学生の募集定員に影響させない、校外でのアルバイトを認めない、卒業後に台湾で就職することを認めない、各種資格試験などの受験資格を与えない」だ。

この原則が台湾と本土の学生間に差別を生んでおり、本土の学生が台湾へ留学したがらない大きな原因になっているという。

記事によると、台湾大学の修士課程に所属する別の本土学生が「卒業しても台湾に残れないのだから、本土の大学院に行けと家族に反対された」と語ったほか、「台湾でレベルが高い法学部に入っても、そこで学んだ法律は本土では役に立たない。それに、校外でアルバイトできないという規定が、台湾で学んだ本土学生の職場における競争力を奪っている」と話す学生もいるという。【8月17日 Record china】
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台湾側の若者は中国本土での経済機会を求め、中国若者は台湾への関心を減らしているという傾向のようです。

情報不足が生む意識の偏り
前出【11月21日 Record china】の記事にある、本土へ旅行経験の有無による意識差も注目されます。

日中関係でも、反日感情が根強いなかで実際に日本に旅行してみたら考えが変わった・・・といった類の記事はよく目にしますが、そのあたりは中台関係においても同様でしょう。

“台湾人アイデンティティー”が偏った意識だとは思いませんが、相手に対する情報不足が影響している部分があれば、そこは是正されるべきでしょう。

やや古い記事ですが、下記のような中国側の不満も。

****台湾留学の大陸学生アンケート、「台湾市民の本土に対する理解不足」への不満が明らかに―中国メディア****
中国新聞社は9月30日、台湾に留学する中国本土の学生がもっとも不満に感じていることが「台湾市民の中国本土に対する理解が不足している点」であることが、最新の調査によって明らかになったと報じた。(中略)

その結果、台湾市民による中国本土への理解は2.83、メディアの専門性は2.93、国際意識は3.46、異文化の受け入れ度は3.92で、「中国本土への理解」が最も低い数字となった。

調査を実施した台湾・政治大学教育学部の周祝瑛教授は「本土の学生は、台湾のメディアや市民が本土に対して時代遅れのステレオタイプ的印象を持っている。例えば教師が『本土にはタクシーや高層ビルがあるのか、トイレにはドアがあるのか』といった事を聞いたりして、本土の学生を困らせる」、「多くの学生が台湾のテレビについて当初は『開放的で面白い』という印象を持つが、やがて『国際時事に関する内容が不足している』ことに気づく」説明している。(後略)【2015年10月1日 Focus-Asia】
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新たな中台関係に向けて
昨今の中国当局による台湾への観光客抑制は周知のところです。
留学とまでいかなくても、短期間の観光でも実際に自分の目で耳で見聞きすれば、相手への印象は大きく変わります。

中国が中台統一を実現させたいと思うのであれば、政治的圧力を強めるよりは、就業・留学・観光などの相互交流の機会を広めることの方が有効だと思われます。

もちろん意識変化は短時間では起きませんが、数十年かけて機が熟するのを待つ鷹揚な姿勢で臨んでいれば、相互理解の深化とともに、中台間の新たな関係も見えてくるのでは・・・とも思われます。

なんだかんだ言っても“血は水よりも・・・”ということもありますし、経済依存関係、圧倒的な国際政治における影響力などもありますので、落ち着くところに落ち着く・・・ということも。

“落ち着くところ”が具体的にどういう関係なのかはわかりませんが。

当然ながら台湾・蔡英文総統も、いたずらに中国との対立を望んでいる訳でもないようです。

****台湾・蔡総統、中台を「もう一歩改善。現在は変化のチャンス」 関係停滞の打開に意欲****
台湾の蔡英文総統は26日、台北市内で演説し、中国共産党の習近平指導部が2期目に入ったことを受け、「両岸(中台)関係をもう一歩、改善したい。現在はまさに変化のチャンスだ」と述べて、中台関係の停滞打開に意欲を示した。
 
習近平総書記(国家主席)が24日に閉幕した党大会で新たな対台湾方針を発表して以降、蔡氏の発言は初めて。
 
蔡氏は「新たな思考」で「両岸関係の突破」に向けて知恵を絞るよう改めて習氏に呼びかけた。また、「敵対関係と戦争の恐怖を永遠に取り除く」ことを提案した。中台の紛争状態を正式に終結させる平和協定の締結に前向きな発言とも受け取れる。【10月26日 産経】
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“蔡総統はまた、両者が「敵対心と戦争への恐れを永久に根絶する」よう取り組んでいくべきだとも話した。”【10月26日 AFP】とも。
産経】

近視眼的には中台が対立して、台湾と日本が関係を強化するというのは、日本にとって好都合かもしれませんが、長期的には、日本・台湾・中国を含めた東アジアにおける相互理解に基づいた関係が構築されることが、日本にとって経済的にも、安全保障面でも望ましいことでしょう。
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パレスチナ  統一政府樹立に向けた一定の合意も ただ、トランプ大統領・イスラエルの関心はイランへ

2017-11-24 22:37:27 | パレスチナ

(ゲリラ的なストリートアートで世間を賑わすロンドンを拠点とするアーティスト「Banksy(バンクシー)」が,パレスチナのガザ地区で描いた風刺的グラフィック【2015年2月27日 HYPEBEAST】)

自治政府議長選挙実施で合意
パレスチナ自治政府を主導する主流派ファタハやガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスなどパレスチナ各派は21日、統一政府樹立に向けエジプトの仲介による協議をカイロで始め、議長選挙実施等の一定の合意に達しています。

****<パレスチナ>「18年末までに議長選」各派が共同声明****
パレスチナ自治政府の主流派ファタハとイスラム原理主義組織ハマスなどのパレスチナ各派は22日、2018年末までに自治政府議長選挙と評議会(議会)選を実施することで一致した。

日程は自治政府のアッバス議長の決定に委ねる。21日から行われていたカイロでの協議を踏まえ、共同声明を出した。
 
ファタハとハマスは10月12日に和解合意を発表。ハマスが07年から実効支配してきたガザ地区の行政権限を12月1日までに自治政府に完全移譲することを目指している。
 
ロイター通信によると、今回の協議では選挙実施で合意した。一方、ガザ地区の治安体制に関する合意は得られず、自治政府による経済圧力の解除が進まないことに対するハマスの不満も噴出。ガザの行政権限が期限通りに移行されるかは不透明だ。
 
ファタハとハマスはエジプトの仲介を受けて協議を続ける。両者を含む各派は来年2月にカイロで再び会議を開く。【11月23日 毎日】
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基本的には、自治政府やイスラエルとの対立に加え、エジプトやカタールなどもハマスへの支援を控える国際環境の変化のなかで、ハマスのガザ統治が行き詰まったということでしょう。
このままでは、ガザ地区住民の不満がハマスに向けられることになります。

ガザ地区行政権限のハマスから自治政府への移譲を完全に実現するためには、ハマス軍事部門の解体あるいは自治政府コントロール下に置くことが必要になりますが、それではハマスの存在意義がなくなりますので、ハマスが了承することはないでしょう。その“不一致”をどのように取り繕うかが今後の焦点になりそうです。

【「社会的和解」演出も
こうした和解協議を下支えする動きも、“演出”されています。

****<ガザ>進む「社会的和解」 100遺族、報復放棄を明言****
パレスチナ自治区ガザ地区で、「社会的和解」が進んでいる。

イスラム原理主義組織ハマスがガザを武力制圧した2007年前後に肉親を殺された100家族が、報復の放棄を明言した。

これと並行して、ハマスと、パレスチナ自治政府を主導するファタハも、10年来の分断解消を目指し政治的和解を進める。「統一パレスチナ」は復活するのか。現場で探った。

今月9日、ガザ市内で社会的和解の記念式典が行われ、代表家族が握手した。
 
「度重なる戦争で、職も電気もない。こんな生活は、もううんざりだ」。和解に応じたガザ市のサミフ・ハサニさん(63)が言う。
 
07年5月16日、ファタハの警察官だった次男バハさん(当時26歳)がハマスとの衝突で頭を撃たれ死亡した。「貧しい人への喜捨を私にお願いする優しい子だった」とサミフさんはしのぶ。
 
愛する息子を奪ったかもしれない相手を、許せるのか。ガザには「復讐(ふくしゅう)の文化」が今も息づく。内戦が残した確執は、ハマスとファタハの政治的和解の障壁になりかねないとされる。

だが、サミフさんは「和解に前向きな家族は多い。(国家建設という)パレスチナの大義のためにも、統一政府が必要だ」。(中略)
 
社会的和解を主導するのは、ガザ地区の保安警察長官としてハマスを弾圧し、自治政府のアッバス議長との確執でアラブ首長国連邦(UAE)に逃れたダハラン氏だ。パレスチナの和解に積極姿勢を見せるエジプトも支援する。応じた家族にはUAEの資金で5万ドル(約570万円)の和解金が支払われる。
 
実務を担当する社会的和解委員会によると、対象はハマスやファタハに所属し、05年から11年に衝突や抗争で死亡した人の遺族である約370家族。

委員会のガザ市担当広報官、イブラヒム・タハラウィ氏は、「加害者が特定されないなど、比較的応じやすい事例から始めている」と説明、許すことが難しい場合も少なくないと認める。そのうえで「実績を積み上げて、政治的和解の基礎としたい」と強調した。【11月13日 毎日】
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“5万ドル(約570万円)の和解金”というのは、現地ではかなりの金額ではないでしょうか。
まあ、和解の気運が高まることは歓迎すべきことでしょう。

イスラエルは硬い姿勢維持
統一政府ができたあとの交渉相手となるイスラエルは、“ハマスが(1)軍事部門解体(2)イスラエルの存在承認(3)イランとの関係断絶−−をしない限り、統一政府を将来の和平交渉相手と認めない立場だ。”【11月22日 毎日】とのことで、イスラエルの存在を認めないハマスを含んだ“統一政府”には反対しています。

もっとも、ハマスの方も、「我々はユダヤ人を憎んでいない。我々が闘っているのは我々の土地を占領し、我々の人民を殺す者たちだ」(ハマスのスポークスマン、ファウジ・バルフム氏)と、従来に比較すると柔軟な姿勢を示していること、その背景にはハマスのガザ統治に関する苦しい状況があることなどは、これまでも取り上げてきました。

9月18日ブログ“パレスチナ ハマスが自治政府・ファタハとの和解交渉の意向 信頼を失っている自治政府ではあるが・・・
10月9日ブログ“パレスチナでハマス・ファタハの和解協議始動 イスラエルとヒズボラ、高まる戦闘の危険性

イスラエル・ネタニヤフ政権は、依然として国際的批判も強い占領地への入植を進める政策を変えていません。

****<パレスチナ>ユダヤ人 15年ぶり入植許可 ヘブロンで*****
「どうすることもできない」。主婦のハナンさん(44)は、あきらめ顔でつぶやいた。

ヨルダン川西岸パレスチナ自治区の最大都市ヘブロン。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地だ。1967年の第3次中東戦争以降、半世紀にわたりイスラエルが占領する。

占領地への自国民の移住は国際条約で禁じられているが、今年10月下旬に旧市街のハシュダ通りにユダヤ人入植者用住宅31戸の建設許可が下りた。2002年以来、15年ぶりとされる。(中略)

新規の入植地建設計画は西岸全体で多数承認されている。イスラエルのネタニヤフ首相は連立維持のため極右・保守強硬派との連携が不可欠で、なだめる狙いがある。

実際に建設に着手する例は少ないとみられる。今回承認された建設予定地は、貨物コンテナを改良した簡易住宅6戸に6世帯がすでに暮らしていた。警備役の男性は言う。「いずれここにはマンションが建つさ」(中略)

イスラム教の聖地でもあるヘブロンでは、これまでもイスラエルとパレスチナの摩擦が相次ぎ、双方の対立をさらに深める火種となってきた。
 
2014年にはヘブロン近郊でユダヤ人少年3人が誘拐・殺害された事件をきっかけに、イスラエル軍とパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが、ハマスの実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区で軍事衝突した。
 
今年7月には、国連教育科学文化機関(ユネスコ)がヘブロン旧市街と「族長たちの墓」と呼ばれる史跡をパレスチナの世界危機遺産として登録。反発した米国とイスラエルは10月になってユネスコからの脱退方針を表明した。
 
対立や衝突と切り離せない歴史を持つヘブロン旧市街への入植者住宅の建設許可は、たとえ小規模といえども重い意味を持つのだ。パレスチナ当局は異議の申し立てをしていると見られるが、許可取り消しの可能性は極めて低い。(後略)【11月24日 毎日】
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“占領地に自国民を移住させることは国際条約で禁じられているが、イスラエル政府は新たな入植地を事実上容認してきた。パレスチナ側は反発し、中東和平交渉の壁になっている。西岸地区の入植者は現在約40万人で、東エルサレム地区も含めると計60万人近くに上っている。”【同上】

トランプ大統領 強引に自治政府を交渉テーブルつかせる動き
ハマス・統一政府に対する対応はアメリカ・トランプ大統領もイスラエルと足並みをそろえており、トランプ大統領の外交交渉特別代表を務めるジェイソン・グリーンブラット氏は19日にアッバス議長と会談して、統一政府はイスラエルを国家として承認し、ハマスの武装解除を行わなければならないと述べています。

イスラエル側の“中東和平交渉の壁”は相変わらずですが、イスラエルの後ろ盾アメリカ・トランプ大統領は、オバマ前大統領とは違ってネタニヤフ首相との相性がいいこともあって、アメリカ・イスラエル主導の和平協議にパレスチナ自治政府を引きずり出す姿勢を示しています。

****米、パレスチナ代表部の閉鎖警告=和平交渉再開へ圧力―国際刑事裁捜査支持に反発****
米国務省当局者は17日、パレスチナに対し、ワシントンの総代表部(大使館に相当)の閉鎖を警告したことを明らかにした。国際刑事裁判所(ICC)によるイスラエル当局者の捜査や訴追を支持したことが理由。

トランプ大統領が「究極のディール(取引)」と見なす中東和平交渉の再開に応じるようパレスチナ側に異例の強い圧力をかけた形だ。
 
米国内法には、パレスチナがICCによるイスラエル当局者の捜査を支持しただけでも、パレスチナの総代表部を閉鎖できる規定が存在する。

かねて中東問題ではイスラエル寄りの姿勢を見せてきたトランプ政権は、パレスチナ自治政府のアッバス議長が9月の国連総会の一般討論演説で、ユダヤ人入植問題などに関してICCに捜査と訴追を呼び掛けたことを問題視したとみられる。
 
ただ、今後90日以内に大統領が「パレスチナがイスラエル側と意味のある直接交渉を始めた」と判断すれば、パレスチナは総代表部を維持できるという。

国務省当局者は「パレスチナとの外交関係を断つつもりはない」と指摘。和平交渉を後押しする姿勢に変わりはないと強調した。【11月18日 時事】 
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かなり強引な手法で、パレスチナ自治政府側は当然反発しています。

****パレスチナ、米の脅迫拒絶=トランプ政権、さらに圧力強化か****
米国務省当局者がパレスチナに対し、ワシントンの総代表部閉鎖を警告したのを受け、パレスチナ自治政府のマルキ外相は18日、「いかなる圧力も脅迫も受け入れない」と反発し、米国の揺さぶりを拒絶した。

しかし、総代表部閉鎖問題は手始めにすぎず、米国はさらに圧力を強める可能性がある。パレスチナが抵抗し続けることができるかは不透明だ。
 
マルキ外相はパレスチナラジオのインタビューに対し、米国側に詳しい説明を求めていることを明らかにした上で「ボールは米国側にある。この問題に関する米国務省とホワイトハウスとの協議の結果を待っている」と指摘。反発の一方で米国の対応を見守る考えも強調した。【11月18日 時事】 
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現実問題として、パレスチナ自治政府側も対イスラエル交渉はアメリカ頼みのところがありますので、アメリカの“要請”を無下に拒否し続けることも難しいところはあります。今後の展開次第でしょう。

****パレスチナ、米国との接触を一時停止=ワシントンの代表部閉鎖警告で****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は、米国がワシントンにあるパレスチナの代表部を閉鎖すると警告したことを受け、自治政府の閣僚や当局者に、米国とのあらゆる接触を一時停止するよう命じた。パレスチナ当局者が21日、明らかにした。
 
この当局者は「最近の米国による受け入れ難い措置を受けた対応だ」と説明。ただ、AFP通信によれば、アッバス議長は、トランプ政権によるパレスチナ和平実現に向けた取り組みに協力する姿勢は変わらないことを強調したという。【11月22日 時事】
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トランプ大統領・イスラエルの視線は、ヒズボラ・イランに
トランプ大統領がどこまでパレスチナ和平協議を本気で考えているかは知りませんが、トランプ大統領・イスラエルの視線は、パレスチナというよりは、レバノンの武装勢力ヒズボラ、そしてヒズボラを支えるイランに向けられていることは、10月9日ブログ“パレスチナでハマス・ファタハの和解協議始動 イスラエルとヒズボラ、高まる戦闘の危険性”でも取り上げたところです。

アメリカ・イスラエルに加えて、やはりイランを敵視するサウジラビアも加わって、シリア・イラク・レバノン、イエメンなど中東で影響力を拡大するイランに対抗しようとする中東全体を見据えた新たな動きが顕著になっており、レバノンのハリリ首相の突然の辞意表明など、周辺国はその荒波で揺れています。

パレスチナ和平協議が行われるにしても、トランプ大統領・イスラエルとしては“イラン封じ込め戦略”の枠組みの中で動かしていくという話になるでしょう。

トランプ大統領・イスラエル・サウジアラビアの“イラン封じ込め戦略”の話は長くなるので、また別機会に。
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スリランカ  内戦からの復興 仏教ナショナリズムの新たな脅威 いわゆる“中国「負債トラップ」”

2017-11-23 22:33:01 | 南アジア(インド)

(スリランカ東海岸トリンコマリー のツアー広告写真【http://www.saiyuindia.com/int_tour/IFLKC/index.html】)

少数派タミル人地域が“穴場リゾート”に 「平和が一番」】
ヒンズー教徒が多い少数派タミル人の反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」と仏教徒多数派シンハラ人の中央政府の間で25年以上(LTTE発足からは37年)にわたって続いた激しい内戦は、2009年5月に政府側の勝利で終結しました。

内戦終結から時間は経過しましたが、多数派シンハラ人と少数派タミル人の和解・融合がどこまで進んでいるのか?

内戦勝利を成果として掲げるラージャパクサ前大統領が、敗者タミル人に対する強硬な姿勢をとったことは、和解の足を引っ張ることにもなりました。

1993年、2006年、そして内戦終結後の2010年の3回、スリランカを旅行しましたが、短い観光旅行であっても、出会ったシンハラ人が見せるタミル人への憎悪・恐怖は感じ取れました。

ラージャパクサ前大統領は汚職体質・縁故主義が国民から批判され2015年1月の選挙で敗北しましたが、長年流血の対立を続けていたシンハラ・タミルの融和については、国民一人一人の記憶に刻み込まれた憎悪・恐怖が癒えるまでにはまだ時間が必要でしょう。

もちろん、内戦の傷跡は今でも残っています。

****スリランカ内戦で夫を失ったタミル人女性ら、性的搾取の被害者に****
スリランカのチャンドリカ・クマラトゥンガ元大統領は15日、同国で長く続いた多数派のシンハラ人と少数派のタミル人との間の内戦を生き延びたタミル人女性たちが、軍隊のみならずタミル人の役人らからも性的に搾取されていることを明らかにした。
 
シンハラ人とタミル人の和解を進める「国民統合・和解事務局」の代表を務めるクマラトゥンガ氏によると、2009年5月に終結するまで37年にわたって続いた内戦で夫を亡くした女性らが、役人らによる性的搾取の被害者となっているという。役人たちは行政的な手続きを進める際に、頻繁に性的な関係を持つよう強要するとされる。
 
クマラトゥンガ氏は同国の外国特派員協会での会見で、「今でも役人らによる性的虐待が多数存在し、タミル人の役人すらも、さらには村落部の下級の役人すらも行っている」と述べた。

また「彼らは書類に署名するためにさえ、女性に虐待を加えており、当然ながら軍関係者も性的虐待に手を染め続けている」と語った。
 
内戦が激化していた大統領の任期中、反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」による自爆攻撃で片目を失ったクマラトゥンガ氏は、「女性たちが生計を保てるようになれば、彼女たちは強くなり、より安全を感じることができ、搾取されることもなくなる」と述べ、女性たちが弱みにつけ込まれないようにするには、彼女たちの生活環境を改善することが一番であると訴えた。
 
内戦後の余波として、多くの女性たち、とりわけ夫を失った女性たちが、政府からの給付金や援助を受ける際に必要な身分証明書や出生証明書を入手するのに苦心しているとされる。【2月16日 AFP】
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そうしたなかにあっても、復興は一定に進んでいるようです。

****かつての内戦地が「穴場リゾート」に変身 青い海にクジラ、ホテル開業ラッシュ****
2009年まで25年以上続いた内戦で荒廃したスリランカ北部から東部にかけての少数派タミル人地域が、インド洋沿いの“穴場リゾート”に生まれ変わっている。

手付かずの砂浜が海外からの観光客を引きつけ、ホテルなどの開業が相次ぎ、復興の支えとなっている。
 
東部トリンコマリー。最大都市コロンボから車で約8時間かかるが、青い海にクジラが回遊し、さまざまな魚が取れる。12年にレストランを開いた元避難民のウィリアム・ウィンストンさんは「内戦で人は消えたが、自然が守られた。欧米を中心に毎年2割ほど客が増えている」と喜ぶ。
 
スリランカの住民は仏教徒中心のシンハラ人が7割強を占め、北東部を中心にヒンズー教を信じるタミル人が2割弱だ。1980年代以降、政府軍と反政府武装組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の内戦に発展し、少なくとも8万人以上が死亡した。

トリンコマリーも荒れ、ホテルは兵士の駐屯地に。内戦の時代には宿泊施設などは数えるほどしかなかったと地元の人々は口をそろえる。しかし、2009年以降は避難民が帰郷し、新築したり改装したりして、高級ホテルから安価な宿泊所まで多数の施設が開業した。
 
ビーチ沿いの農家、クルクラ・シンハムさんは内戦中に親族が殺害され、隣国インドに逃れ、約15年の難民生活を送った。自宅は内戦で破壊されたが、畑を再び耕し、トタン製の雑貨店でパパイアや飲み物を販売する。1日に1000スリランカルピー(約740円)の収入を得る日もある。
 
「内戦中は考えられなかった大金だ。村では電気もつき、兵隊に突然拘束されることもない。平和が一番」。シンハムさんが満足げに話した。【10月3日 SankeiBiz】
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「村では電気もつき、兵隊に突然拘束されることもない。平和が一番」・・・・そのとおりでしょう。
平和であれば、やがては両者の憎悪・恐怖の感情も癒され、(融和に向けた努力があれば)融和が実現する日も・・・と楽観的に期待したいものです。

かつては東部トリンコマリーは一般観光客が訪れる場所ではありませんでしたが、タミル人エリアの北部中心都市ジャフナと併せて、近いうちに旅行するのもいいかも。

台頭する仏教ナショナリズム イスラム教徒の緊張
しかし、民族的・宗教的嫌悪感というのは容易に火が付く種類のものであるのも事実です。

****イスラム教徒と仏教徒衝突=夜間外出禁止令も―スリランカ南部****
スリランカからの報道によると、ラトナヤケ南部開発・治安相は18日、南部ゴール近郊でシンハラ人の仏教徒と少数派のイスラム教徒との間で衝突が発生したと明らかにした。

地元警察によると6人が負傷し、19人が拘束された。警察は衝突を受けて、17日にゴール一帯に夜間外出禁止令を出したが、18日に解除した。
 
衝突の原因について、地元紙デーリー・ミラーは警察当局者の話として「イスラム教徒の女性2人がシンハラ人のバイクにはねられた。その後、無関係の者が『報復』としてシンハラ人の家を襲い、衝突がエスカレートした」と伝えた。【11月18日 時事】 
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2011年の国勢調査によると、スリランカの人口は70.2%を仏教徒が占め、ヒンドゥー教が12.6%、イスラム教9.7%、キリスト教7.4%【2014年6月18日 CNN】となっています。

また民族的には、シンハラ人(74.9%),タミル人(15.3%),スリランカ・ムーア人(9.3%)(一部地域を除く値)【外務省HP】となっており、このムーア人がイスラム教に対応していると思われます。

ムーア人は、8世紀から15世紀にかけてスリランカを訪れ、スリランカに住み着いたアラブ人商人達の子孫とされ、主に東部沿岸地域に多いようです。

タミル人との内戦が終わった一方で、近年は過激な仏教僧に扇動された仏教ナショナリズムが台頭しており、イスラム教徒を対象にした排斥行動も報じられています。

今回のゴールでの衝突の詳細は知りませんが、背景にはそうした仏教ナショナリズム台頭による社会的緊張があるのではないでしょうか。

9月には、過激派仏教僧らの集団がロヒンギャ難民施設を襲撃する事件も起きています。

****過激な仏教僧の集団、ロヒンギャ難民の保護施設を襲撃 スリランカ****
スリランカの最大都市コロンボ近郊で26日、国連(UN)がイスラム系少数民族ロヒンギャの難民のために用意した保護施設を過激な仏教僧らの集団が襲撃する事件が発生した。当局はロヒンギャ難民の移動を余儀なくされている。
 
地元警察によると、サフラン色の僧衣を着た仏教僧らが率いる暴徒は、首都近郊のマウントラビニア(Mount Lavinia)にある保護施設の門を破壊して建物内に侵入。1階にあった家具をめちゃくちゃに破壊した。投石も行われ、おびえたロヒンギャ難民らは上層階に避難したという。
 
この事件で警察官2人が負傷。施設内には子ども16人を含むロヒンギャ難民31人がいたが、死傷者は確認されていない。
 
保護施設に侵入した仏教僧の一人は、自身が率いる過激派組織「シンハラ国民軍」が撮影した動画をSNSに投稿し、施設内にいた難民を「ミャンマーで仏教僧を殺害したロヒンギャのテロリストだ」と非難。組織への参加と保護施設の破壊を呼び掛けた。
 
ロヒンギャ難民31人は約5か月前、スリランカ北方沖を船で漂流していたところを同国海軍によって発見・救助されていた。密入国請負業者の被害者とみられている。【9月27日 AFP】
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タミル人との内戦にしても、イスラム教徒との緊張にしても、観光客が目にする明るい光と風に溢れた島スリランカのイメージとは程遠いものがありますが、現実の一端でもあります。

人の心には“敵”を求めるような部分があるのでしょうか?
タミル人との内戦終結で生じたその“空白”を埋めるように、今度はイスラム教徒への憎しみが・・・・というのであれば悲しいことです。

現実生活で抱える多くの不安・問題が、標的とされやすい少数派への憎悪に集約される、そうした方向で容易に扇動されるということもあるのでしょう。

全政府収入の95%が借金の返済に
国際政治のうえでは、スリランカは中国・インドの影響力争いの舞台としてしばしば登場します。

****スリランカ、中国「負債トラップ」が露呈 財政難に****
スリランカは深刻な債務問題のため、不況に陥っている。過去10年で膨大なインフラ建設に数千億円が投じられているが、計画の大半は利益を出せていない。スリランカ政府は現在、重大な債務危機に直面している。
 
インドのメディア「ポストカード」は7月27日、スリランカの国の総債務は6兆4000億円にも上り、全政府収入の95%が、借金の返済にあてられていると伝えた。うち中国からの借入は8000億円にもなる。同国財務相は「完済に400年かかる、非現実的だ」と答えた。
 
スリランカ経済は、社会主義政権国の特徴で、国有企業が経済に強く介入し、財政支出過多となり赤字が膨らんでいく。中国からの融資と利子に悩まされる国有企業に慢性的な経常赤字が続けば、国家破たんのリスクも増大していく。

抜け出せない中国債務トラップ
中国は、スリランカを含むインド洋沿岸の国を海上輸送の要衝として次々と港湾を建設。インド沿岸をぐるりと囲むため「真珠の首飾り」戦略といわれる。また、ユーラシア大陸をつなぐ巨大経済圏「一帯一路」においても、スリランカは重要ポイントとなる。
 
一帯一路に参加する国に対して、中国は港湾、空港、大型高速道路など戦略的に巨額融資を行っている。返済しきれない負債を負わせることで、中国の経済、軍事、政治事情に従わせる、いわば「トラップ」となる。一連のインフラは中国企業が手掛け、融資し、中国の利益を生み出す目的で建設される。
 
「ポストカード」によると、たとえば、スリランカ南部のハンバントタ港は2010年、中国側から建設費用の85%を借款して、国有企業・中国港湾工程公司が建設した。しかし、年利6%以上の高利で、わずか「一日一隻」という利用率だ。
 
この港から北へ30キロ、マッタラ国際空港がある。同じく建設費の9割ほどが中国の融資で、中国港湾が建設担当。しかし、蓋を開ければ開業後の月の収入はわずか約1万5000円程度。米フォーブスに2016年「世界で最も空いている国際空港」などと評された。
 
親中派の前ラジャパクサ大統領(2005~2015)は、三期当選を可能にする改憲を強行するも、汚職・独裁といびつな親中政策により大統領選で敗北。

現地メディアは、前大統領の地元であるハンバントタ県に、現地経済にそぐわない港湾と空港が建設されたのは、同氏の意向があったとみられている。

脱中国依存の政権も方向転換せざるを得ない
アジアでも主力港のひとつとされる同国西部コロンボ港では2014年、中国の潜水船が突然、寄港した。国内外で「インド洋の中国軍事港にさせられるのでは」と危惧が高まった。

2015年、過度の中国依存の見直し、日本インドなどとのバランス関係を目指すと選挙で訴えたシリセーナ大統領が誕生し、すぐさま軍事開発と疑われた中国資本によるコロンボ港整備工事の中止させた。
 
しかし、止められない赤字拡大と財政難で、2016年に再開を認めた。さらに今年はじめ、スリランカ政府と中国政府によるハンバントタ港の運営権の99年貸し出し契約案が取り沙汰された。合意内容は、スリランカ海軍の担う治安警備の権限を、中国側が全面的に行うとの内容だった。
 
「スリランカは中国の植民地ではない」と、国民の強い反発を買い、合意は一時棚上げされた。ハンバントタでは、現地市民や僧による中国資本の開発に抗議するデモが発生し、軍が放水で強制解散させた。
 
特徴的な「99」という数字には、中国語で久久(ジョウジョウ、永久)と同音で、つまり「永久に手にいれる」との意味合いがあるとされる。99年契約は、ほかにも中国嵐橋集団の豪州北部ダーウィン港のリースが知られている。
 
国民の声もむなしく、AP通信によると7月29日、両国国営企業はハンバントタ港の長期貸与の合意文書に調印した。スリランカは、「中国軍の利用はない」としている。同港ではさらに、中国資本1600億円で大型港湾都市が建設されている。
 
スリランカの「中国植民地化」を、インドは強い脅威と見ている。今年5月に北京で開かれた「一帯一路」サミットに、インドは欠席。同外務省報道官は声明で、この返済をほぼ不可能にする中国「トラップ」を非難した。「一帯一路は主権を侵しており、開発支援を受けた国は借金苦に見舞われている」。【7月31日 大紀元】
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返済しきれない負債を負わせることで、中国の経済、軍事、政治事情に従わせる中国の「負債トラップ」はよく指摘されるところで、スリランカはその代表事例とされています。

中国からの支援・融資が多くの問題を惹起しているのは事実ですが、ただ、“返済しきれない負債を負わせる”と言っても、何も無理やり貸し付けた訳でもなく、スリランカ側も希望して負った借財です。やや、中国を目の敵にした一方的表現にも思えます。

最大の責任は、貸した中国ではなく、採算の取れない事業を行うスリランカ側(より具体的には、採算を無視して地元に大規模事業を誘致したラジャパクサ前大統領)にあります。

いずれにしても、中国からの借金にがんじがらめになっているシリセーナ大統領は、背に腹はかえられず中国寄りの姿勢を強めているようです。

****スリランカ、法相を解任=中国への港貸与批判****
スリランカのシリセナ大統領は23日、ラジャパクサ法相を解任した。同法相は、同国南部の港の運営権を中国に長期貸与することに批判的だったとされる。
 
スリランカは7月29日、南部ハンバントタ港の運営権を、11億ドル(約1200億円)で99年間貸与することで中国側と合意した。

シリセナ大統領は5月の内閣改造でも、中国との関係深化に批判的だったラナトゥンガ前港湾・海運相を港湾貸与に関わる同ポストから石油・資源開発相に転任させている。【8月23日 時事】
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ロシア  高濃度放射性物質検出 核施設で事故? 次期大統領選挙では有権者の無関心を隠蔽か

2017-11-22 22:23:30 | ロシア

(ヨーロッパ全土で検出された放射性物質ルテニウム106の濃度分布を表した地図(提供:フランス放射線防護原子力安全研究所IRSN)【11月22日 ハザードラボ】
 
通常の986倍の量の放射性物質検出
ロシアの気象当局は21日までに、9月末から10月初めにかけ、中部チェリャビンスク州で、通常の986倍の量の放射性物質ルテニウム106を検出したと発表しました。

観測点付近に位置する核燃料再処理工場「マヤーク」は「工場周辺の放射線量は通常であり、ルテニウム106も長年扱っていない」として、「発生源ではない」と関連を否定しています。

ルテニウム106の数値上昇は欧州にも拡散していますが、人体に被害をもたらすレベルではないともされています。

****ロシア測定局で高濃度放射性物質検出、9月末に「極めて高い」数値****
ロシアの気象機関は20日、9月末に同国の一部地域で「極めて高い」濃度の放射性同位元素ルテニウム106が検出されたことを認めた。これに先立ち欧州では今月、この汚染に関する報告書が発表されていた。
 
ロシア水文気象環境監視局によると、9月25日~10月1日の期間に「同国アルガヤシュとノボゴルニの監視測定局で収集された放射性エアロゾルの調査データに放射性同位体ルテニウム106が含まれていることが判明した」という。
 
同局によると、最高濃度はアルガヤシュの監視測定局で記録された。ロシア・ウラル地方南部チェリャビンスク州にあるこの村は、自然界のバックグラウンド放射線量を986倍上回るルテニウム106の「極めて高い汚染」状態にあったという。
 
汚染物質の明確な発生源については特定されていないが、アルガヤシュの測定局はマヤク(Mayak)の核施設から約30キロの距離にある。

同施設では1957年に史上最悪の原子力事故の一つが発生した。マヤクは現在、使用済み核燃料の再処理施設となっている。
 
フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)は今月9日、同国内で9月27日~10月13日にルテニウム106が検出されたとする報告書を発表。

汚染の発生源はボルガ川とウラル山脈の間のどこかで発生した事故の可能性が高いとした。一方で、欧州で測定された濃度は公衆衛生への脅威にはならないとしている。
 
ルテニウム106は、原子炉内で生じる核分裂生成物で、自然界では発生しない。
 
ロシア国営原子力企業ロスアトムの当時の発表では「ロシア原子力インフラのあらゆる対象物の周辺における放射線量は基準値内で、バックグラウンド放射線のレベルにある」とされていた。【11月21日 AFP】
******************

“ルテニウム106は、東京電力福島原発事故でも放出された放射性物質で、セシウム137やストロンチウムに比べると半減期は短く、約1年余り。フランス放射線防護原子力安全研究所は今月9日、「すでにヨーロッパ全土では大気中の放射性物質は検出されなくなり、健康や環境に影響をもたらさない」と発表している。”【11月22日 ハザードラボ】

“原子炉内で生じる核分裂生成物で、自然界では発生しない”放射性物質が高濃度で検出されるということになると、なんらかの核施設事故が疑われます。

“(フランス放射線防護原子力安全研究所の)報告によると、ウラル山脈の東に位置する都市チェリャビンスクを流れるミアス川や貯水池などで高濃度のルテニウム106が検出され、チェリャビンスク近郊にある州政府が運営に関わる放射性物質の再処理施設からの工場廃水が、下水処理場に流出した可能性が高いとしている。”【同上】

ロシア政府は一貫として「原子力事故の可能性」を否定してきましたが、ロシアの気象機関もウラル山脈周辺の川や貯水池で極めて高い放射性物質による汚染を確認するに至っています。

「事故ではない」と言うのであれば、なぜ異常な数値が検出されたか全力で調査し、世界に公表すべきでしょう。

ソ連時代からの隠蔽体質
事故そのものの影響も問題ですが、もっと危険なのは、こうした事故を隠そうとするロシアの隠蔽体質です。

マヤクの核施設が事故を起こしたと確定したわけではありませんが、“ロシアの隠蔽体質”と批判したくなるのは、これまでの“前科”があるせいでもあります。

記事にもあるように、マヤクの核施設では1957年に「ウラル核惨事」「キシュテム事故」と呼ばれる史上最悪の原子力事故の一つが発生しましたが、ソ連当局はこれを隠蔽しました。

*****ウラル核惨事*****
オジョルスク市にあるマヤーク核技術施設は、原子爆弾用プルトニウムを生産するための原子炉5基および再処理施設を持つプラントであり、1948年から建設された。

プラントの周囲には技術者の居住区として暗号名チェリヤビンスク65という秘密都市が建設された。事故は、この施設を中心に発生した。

国際原子力事象評価尺度(INES)では二番目に高いレベル6(大事故)とみなされる。 近隣にあった町キシュテム(クイシトゥイム)の名前をとってキシュテム事故と呼ばれている。

キシュテム事故
1950年代当時のソ連では、一般には放射能の危険性が認知されていない、もしくは影響が低いと考えられていたため、放射性廃棄物の扱いはぞんざいであり、液体の廃棄物(廃液)は付近のテチャ川(オビ川の支流)や湖(後にイレンコの熱い湖、カラチャイ湖と呼ばれる)に放流されていた。

やがて付近の住民に健康被害が生じるようになると、液体の高レベルの放射性廃棄物に関しては濃縮してタンクに貯蔵する方法に改められた。

放射性廃棄物のタンクは、絶えず生じる崩壊熱により高温となるため、冷却装置を稼働させ安全性を保つ必要があるが、1957年9月29日、肝心の冷却装置が故障。

タンク内の温度は急上昇し、内部の調整機器から生じた火花により、容積300立方メートルのタンクに入っていた硝酸塩の結晶と再処理残渣が爆発を起こした。

この結果、ストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム239などの半減期が長い同位体を含む大量の放射性物質が大気中に放出される事態となった(East Urals Radioactive Trace)。

核爆発ではなく化学的な爆発であったが、その規模はTNT火薬70t相当で、約1,000m上空まで舞い上がった放射性廃棄物は南西の風に乗り、北東方向に幅約9km、長さ105kmの帯状の地域を汚染、約1万人が避難した。

避難した人々は1週間に0.025-0.5シーベルト、合計で平均0.52シーベルト、最高0.72シーベルトを被曝した。特に事故現場に近かった1,054人は骨髄に0.57シーベルトを被曝した。

マヤーク会社と官庁によれば、事故後に全体として400PBqの放射能が2万平方キロメートルの範囲にわたって撒き散らされたという。27万人が高い放射能にさらされた。

官庁が公表した放射能汚染をもとにして比較計算すると、事故により新たに100人がガンになると予想される。

国際原子力事象評価尺度ではレベル6(大事故)に分類されている。これは1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故と2011年の福島第一原子力発電所事故のレベル7(深刻な事故)に次いで歴史上3番目に重大な原子力事故にあたる。

ミュンヘンのヘルムホルツ・センターによればキシュテム事故はこれまで過小評価されていたという。(中略)

事故の表面化
事故は旧ソ連で起こったために極秘とされたが、1958年には「何かがあったらしい」程度の情報がアメリカ国内にも伝わることとなった。

概要が明らかになったのは、1976年11月にソ連から亡命した科学者ジョレス・A・メドベージェフが英科学誌「ニュー・サイエンティスト」に掲載した論文による。

彼はその後『ウラルの核事故』(日本語訳有り)を出版する。この告発をソ連は真っ向から否定した。原子力を推進する立場の人々からは、このような事故はあり得ず、これは単なる作り話であるとされていた。

これは、当初流布された噂では、核爆発に達する臨界事故が起きたとされていたためである。

このため、1989年9月20日にグラスノスチ(情報公開)の一環として外国人(日本人5人)記者団に資料が公開されるまで真相は明らかにされてこなかった。

また地域住民に、放射能汚染が正式に知らされたのはロシア政府発足後の1992年前後であり、対策は後手に回り被害を拡大させる一因となった。【ウィキペディア】
**********************

1986年4月26日のチェルノブイリ原子力発電所事故でも、発生当初は情報を隠蔽しています。

“当初、ソ連政府はパニックや機密漏洩を恐れこの事故を内外に公表せず、施設周辺住民の避難措置も取られなかったため、彼らは数日間、事実を知らぬまま通常の生活を送り、高線量の放射性物質を浴び被曝した。

しかし、翌4月27日にスウェーデンのフォルスマルク原子力発電所にてこの事故が原因の特定核種、高線量の放射性物質が検出され、近隣国からも同様の報告があったためスウェーデン当局が調査を開始、この調査結果について事実確認を受けたソ連は4月28日にその内容を認め、事故が世界中に発覚。【ウィキペディア】”

情報隠蔽は住民被害を拡大します。“前科”で人を判断するのはよいことではありませんが、ソ連・ロシアには情報を隠蔽し、住民健康・生命を二の次にする傾向があるようにも思えます。

現代社会にあっては、事故を起こしたことより、事故を隠蔽しようとすることの方が、少なくとも国際的にはより大きな信用失墜を招くこと、こうした現象は隠しとおせるものではないことはロシア中央政府・プーチン大統領もよく認識していると思うのですが・・・・。

強力な情報統制で国内さえ抑え込めばそれでいいという判断でしょうか?
来年の大統領選挙を控えて、マイナス要素は極力排除しようとする姿勢でしょうか?
それとも、情報が中央・大統領に伝わらなかったのでしょうか?

管理された民主主義の限界
プーチン大統領は、“「管理された」民主主義の選挙への有権者の無関心”をも覆い隠すつもりのようです。

****プーチンの恩師の娘、大統領選へ立候補」という茶番****
10月21日付の英フィナンシャル・タイムス紙は、「ロシアの管理された民主主義の限界。有権者は見せかけのクレムリン政治に興味を失いつつある」との社説を掲げています。社説の論旨は、次の通りです。
 
テレビの司会者で、社交界の名士クセニア・サプチャクの来年のロシア大統領選挙への立候補は、面白くない選挙に、少なくとも陰謀説を付け加えた。

一時プーチンのボスで保護者であった人の娘として、彼女は申し分のないエリート関係を持っている。彼女はプーチンが名付け親であるとの噂は否定している。
 
サプチャクの立候補宣言は、反クレムリンの人々には良く思われていない。彼女の立候補は広報目的のもので、有力反対派候補、ナヴァルヌイ(今はでっち上げの告訴により立候補が禁止されている)の票を減らすと多くの人は見ている。彼女はプーチンから選挙に出るように説得された妨害者と疑われている。
 
ナヴァルヌイは彼女を、有権者の注意をそらすために「リベラルな笑い草を立候補させるクレムリンのゲーム」の一部と呼んだ。
 
36歳のサプチャクは、選挙に選択肢を与え、「すべてに反対する」候補になると表明している。しかし彼女の綱領は彼女の内容のなさを確認するようだ。
 
サプチャクとナヴァルヌイ以外の候補者は、共産主義者ジュガーノフ、民族主義者ジリノフスキー、リベラルのヤブリンスキーであるが、彼らは政治の場に4半世紀いる。

プーチンは18年間ロシアの最高指導者であった。スターリン以来の最長のクレムリンの主として、彼はブレジネフを追い越した。
 
プーチンは第1期の大統領時代、「管理された」民主主義を作り上げ、議会の政党も牛耳った。しかし彼は新しい役者を導入することには失敗した。
 
管理された民主主義で、「正しい」候補や政党が勝つようにするとともに、投票率も高くした。しかし世論調査によると、有権者は見せかけのロシア政治に興味を失ってきている。去年の議会選挙の投票率は47.8%であった。
 
これはプーチンにとり危険である。決定的な委任の不足は国民への支配力を弱体化させ、支配層の中での立場を掘りくずしかねない。

サプチャクの立候補は競争の見せかけを作り、興味を引き起こし、投票率を高めるかもしれない。
 
再選されたプーチンはその後、不運なメドヴェージェフ首相を解任し、新顔の政府を任命しそうである。その2-3年後、プーチンは自分が指名した新大統領に政権を渡し、自分は鄧小平のような国家指導者になるシナリオもある。2-3年前にはそうできたかもしれない。しかし若者が不穏な今日、そういうことがうまくいく保証はない。(後略)【11月21日 WEDGE】
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プーチン大統領のかつての恩師で上司でもあった元レニングラード市長の次女でもあるサプチャク氏の大統領選挙出馬は、最も有力な反政府指導者、アレクセイ・ナバリヌイ氏に出馬をさせずに、どう選挙を盛り上げるかという苦肉の策と見られています。

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突然出馬を発表したクセニア・サプチャク氏は十一月で三十六歳になる一児の母親だ。二〇〇〇年代前半に映画出演を経て、「ドム(家)2」というリアリティー番組の司会者として人気を得た。番組に参加する男女がペアを作り、最も熱々のカップルが家を勝ち取るという構成で、素人ポルノ的な要素もあって大ヒットした。
 
サプチャク氏はマリインスキー劇場でバレエを学び、サンクトペテルブルク大学やモスクワ国際関係大学に進んだ。テレビ出演では「イケイケ女子」「パーティー・ガール」ぶりがさく裂し、自身のセクシーな外見とともに、バラエティー界の寵児になった。米国のメディアでは、スキャンダラスなホテル王の娘になぞらえ、「ロシアのパリス・ヒルトン」と紹介された。【「選択」11月号】
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“プーチンは反対派の有力政治家をすべて潰してきました。その結果、独裁的権力を得ましたが、政権選択選挙という民主主義の根幹を意味のないものにしてしまいました。有権者が興味を失うのも当然で、あまりに成功しすぎて、低い投票率の大統領選挙になってしまう危険を作り出したと言えます。”

“今のロシアの政治には競争がかけていることに大きな問題があります。「絶対的権力は絶対的に腐敗する」と言いますが、そうなっています。
しかし、それ以上に問題なのは、プーチンが後継者を育てていない点にあります。”【11月21日 WEDGE】

“「仮にナバリヌイ氏が出馬できない時には、『野党候補がいた』というアリバイになり、同氏が出馬した際には、野党票を割れる」(在モスクワの西欧外交筋)という見方が強い。”【「選択」11月号】とも。

一方で、本当の政権批判は徹底して封じ込める姿勢です。

****打倒「プーチン独裁」 ロシア各地でデモ、400人超拘束*****
ロシアの警察当局は5日、ウラジーミル・プーチン大統領に抗議するデモを無許可で行ったとして全国で活動家ら400人以上を拘束した。監視団体が明らかにした。
 
デモは、野党の政治家で急進派として知られるビャチェスラフ・マリツェフ氏がインターネットを通じ、支持者に「プーチンの独裁政治」を終わらせる「市民革命」を起こすよう呼び掛けたもの。
 
ロシア国内の政治的デモにおける参加者の身柄拘束状況を監視する非政府組織(NGO)「OVD-Info」によると、首都モスクワで376人、サンクトペテルブルクで13人など全国で合わせて412人が逮捕され、各地の警察署で、重大犯罪の捜査を担当するロシア連邦捜査委員会の捜査官による尋問を受けているという。
 
一方、モスクワの警察当局はこれに先立ち、「公共の秩序を乱した」263人を拘束したと発表した。国営タス通信(TASS)は、拘束された人の多くが刃物やナックルダスター(メリケンサック)、ゴム弾を発射する拳銃などを所持していたと伝えている。【11月6日 AFP】
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サプチャク氏出馬はプーチン大統領にとっては都合のいい方策ではありますが、こうしたことをやっていたのでは民主主義の劣化は避けられないでしょう。


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リビア  政治空白の無法状態で、難民・移民を食い物にする“奴隷市場”も

2017-11-21 21:49:09 | 民主主義・社会問題

(リビア南西部のセブハで監禁されていた、サハラ以南のアフリカ出身の移民【国際移住機関(IOM)HP】)

政治空白が続くリビア 互いに争う武装勢力が割拠
北アフリカのリビアが、カダフィ政権崩壊後に分裂状態に陥っていることは、これまでも再三取り上げてきました。
(5月25日ブログ“リビア 分裂状態の統一に向けた動きも見られたものの、事態はむしろ逆行 内戦再燃の懸念も”など)

リビアに関する情報は少なく、正直なところ、リビアの政治状況がどうなっているのか把握していません。
7月には下記のような動きも報じられてはいましたが・・・。

****リビア東西トップ会談へ=仏****
フランス大統領府は24日、声明を出し、リビア情勢に関し、西部の首都トリポリに拠点を構え国連が支持するリビア統一政府のシラージュ(サラジ)首相と、東部で覇権を築きつつある民兵組織「リビア国民軍」指導者、ハフタル将軍が25日にパリ郊外で会談すると発表した。
 
声明は「政治的合意形成をフランスが促したい」と決意を表明。会談はマクロン仏大統領が主催する。【7月24日 時事】
****************

実際に会談したのかも知りませんし、会談したとして、その後の動きがどうなっているのかも知りません。
知りませんが、リビアについて政治統合の話を聞かないということは、おそらく相変わらず対立・混乱状態にあるのでは・・・と推察されます。

リビアには上記記事にある“西部の首都トリポリに拠点を構え国連が支持するリビア統一政府”と“東部で覇権を築きつつある民兵組織「リビア国民軍」指導者、ハフタル将軍を中心とする勢力”が対立し、主導権を争っていますが、“統一政府”についても、軍事的支持勢力でもある民兵組織との対立も伝えられており、いったいどこが“統一”なのかも定かでない状況です。

8月には、海外に出ていた元首相が統一政府の手配でリビアに帰国したところ、統一政府につながる民兵組織「トリポリ革命旅団」に拉致されるという事件も。

****武装集団に拉致されたリビア元首相、9日ぶりに解放****
リビアの首都トリポリで武装集団に拉致され、9日間にわたって消息不明となっていたアリ・ゼイダン元首相(67)が解放されたことが分かった。家族と友人が(8月)23日、明らかにした。

ゼイダン氏の親友のカラム・ハリド氏は「ゼイダン氏は22日夜に解放された。彼は健康そのものだ」と述べた。23日にリビアを離れることになっているという。
 
ハリド氏は解放の経緯について詳しく語らなかったが、国連が支援している統一政府(国民合意政府、GNA)とつながりのある民兵組織が拉致を行ったと非難している。(後略)【8月24日 AFP】
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“カダフィ政権崩壊後のリビアは治安が悪化し、政治家らはリビアの覇権をめぐって互いに争っている武装勢力に頼っている。”【8月23日 AFP】と“リアル北斗の拳”世界です。

食い物にされる難民・移民 “奴隷市場”も存在する“リアル北斗の拳”】
そんな混乱・政治空白状態にありますので、欧州に渡る難民の出発地にもなっています。

それだけならまだしも、難民を商品として扱う、もっとはっきり言えば、難民を食い物にしようとする難民密輸業者などが好き放題に活動する場ともなっています。

文字どおり命がけでサハラ砂漠を超えてきた難民が、リビアで更なる悲劇に見舞われる・・・といった話は枚挙にいとまがありません。

そうしたなかでも、難民・移民が“奴隷”としてリビアで競りにかけられているという下記の報道はショッキングです。

****移民を奴隷として競売か 米報道、リビア政府が調査へ****
リビアで移民が奴隷として競売にかけられているとみられる映像が報道され、国連(UN)が支持するリビア統一政府は19日、この奴隷売買疑惑について調査すると明らかにした。

映像はソーシャルメディア上で広く共有され、フランスで抗議デモが起きるなど世界中から憤りの声が上がっている。
 
混迷した状況にあるリビアは長らく、欧州を目指す移民にとって主要な通過拠点となってきた。そうした移民の多くが人身売買業者らから深刻な虐待を受けている。
 
米CNNは先週、リビアで行われた奴隷競売を撮影したとみられる映像を放送。映像には、複数の黒人男性が北アフリカのバイヤー向けに農場労働者として売りに出され、わずか400ドル(約4万5000円)程度から競りにかけられる様子が映っている。
 
報道を受けて統一政府(国民合意政府)のアフメド・メティグ副首相は19日、奴隷売買疑惑について調査し、関与した者を処罰するための委員会を設立すると発表。外務省も声明で「疑惑が事実と確認されれば、関与した者は全員罰せられる」と述べた。
 
CNNの報道はソーシャルメディアで拡散し、アフリカ、欧州、それ以外の地域でも強い反発を招いている。
 
映像は携帯電話で撮影されたもので、画質は粗い。CNNによると、競売にかけられているある男性はナイジェリア国籍の20代で、「農場労働のための体格のいい男たち」のうちの一人だという。
 
映像では、競売人とされる人物が「800、900、1000、1100…」と声を上げ、その後、2人の男性が1200リビア・ディナール(約9万8000円)で落札されている。(後略)【11月20日 AFP】
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この“奴隷市場”に関する報道は、今回がはじめてではなく、すでに4月段階でも報じられています。

****リビアに移民の「奴隷市場」存在か 1人数万円で人身売買****
国際移住機関(IOM)は11日、欧州を目指すアフリカ人の移民らが奴隷として売買されていると警鐘を鳴らした。こうした「奴隷市場」で被害者は数万円で売買され、中には性奴隷として売られている女性もいるという。
 
被害者らの証言を基に明らかにした。より良い生活を夢見て密航業者に金銭を支払った人の多くが人質として拘束され、その家族らが身代金の支払いを強要されている実態が浮き彫りになった。

「リビアの密航ネットワークが強力になるにつれて、人身売買が密航業者の間で広まってきている」

 IOMリビア事務所のオスマン・ベルベイシ所長はスイスのジュネーブで記者会見を開き、リビアでは「奴隷市場」のような状態や人々の拘束が珍しいものではなくなっていると指摘。その裏には金銭を目的とした犯罪組織の活動があると語った。
 
ベルベイシ氏によると、移民らは1人当たり200~500ドル(約2万2000~5万5000円)で「市場で商品のように売買」されているという。
 
売られた後に何とか逃げ出した人もいるが、多くの人は何か月も拘束された揚げ句、ただで買われたり、転売されたりしているという。
 
IOMは被害者数などのデータは示せないとする一方、職員が現地で聞いた証言に基づく話としている。
 
あるケースでは、セネガル人の移民が業者に300ドル(3万3000円)余りを支払ってトラックでリビアに入国した後、運転手に業者から代金を受け取ってないと言われ、駐車場にある「奴隷市場」に連れてこられた。そこでは「サハラ以南のアフリカ出身の移民らがリビア人によって売買されていた」という。
 
自身も買われた後に民家に連れていかれたところ、そこでは100人以上が人質とされていた。彼らは家族らに電話をかけて、身代金を支払うよう頼むことを強要されていたという。
 
IOMはこのほか、女性たちが民間人によって買われ、性奴隷になることを強制されているとも報告している。【4月12日 AFP】
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“「自分も家族も身代金が払えない移民について、業者は奴隷としてできるだけ髙く売って最低限の利益を上げようとする。能力や資格次第で、値段は確実に変わる。たとえば塗装やタイル張りなど特別な技能があれば、値段は高くなる」”【4月12日 BBC】

日本や欧米社会での“人権”論議とは全くの別世界です。全くの“無法世界”です。
別世界ではありますが、今も実際に存在する現実世界です。

4月段階で国際移住機関(IOM)が警鐘を鳴らしていた・・・とのことで、“リビア政府は一体今まで何をしていたのか?”とも問いただしたいところですが、冒頭でも触れたように“リビア政府”なるものの実体が存在しないのが現状です。

沿岸警備隊とか警察組織はあるようだが、そのやっていることは・・・
【11月20日 AFP】で、“副首相は19日、奴隷売買疑惑について調査し、関与した者を処罰するための委員会を設立すると発表。外務省も声明で・・・・”とありますが、“副首相って何? 外務省って何?”と聞きたくなるのがリビアの現状でもあります。

リビアにも、一応“沿岸警備隊”という組織はあるようですが、やっていることと言えば上記の非道な難民密輸業者とあまり大差ないようにも・・・。

****地中海で移民5人死亡、独NGOがリビア沿岸警備隊の介入を非難*****
地中海の国際水域で6日、ゴムボートで航行していた幼児1人を含む移民5人が死亡した。これについてドイツの慈善団体が、救助活動の最中にリビアの沿岸警備隊が「暴力的で無謀」かつ「違法」な介入を行ったせいだと糾弾している。
 
地中海で捜索救助活動を行う非政府組織(NGO)の一つ「シーウオッチ」は、欧州連合(EU)が訓練と出資を行っている沿岸警備隊の強引な手法により、命が無駄に奪われたと訴えている。
 
シーウオッチは同日、沈没しかかったゴムボートを救助するため、イタリアの沿岸警備隊の依頼を受けて船を派遣。現場入りした際、ちょうどリビアの警備艇も到着したという。
 
しかしこの警備艇のリビア人らが、ゴムボートに乗っていた移民らを「殴ったり脅したり」し始めたためパニックが発生し、数人がボートから転落したという。
 
その後同艇は、船べりに人々がしがみついた状態のまま移動しようとし、これを見たイタリア海軍のヘリコプターが、事態収拾のため介入に乗り出した。
 
シーウオッチのヨハネス・バイヤー氏は、「落ち着いた状況で適切に活動できていれば、恐らく誰一人死なずに済んだだろう」と指摘した上で、「今回の死の責任を負うべきは、粗暴な態度で安全な救援活動を妨害したあのリビアの沿岸警備隊員らだ」と非難した。【11月7日 AFP】
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また、リビアには“警察”も一応はあるようですが、これもやっていることは・・・・。

****リビアのコミコンが危ない イスラム武装警察に殴られ裁判に****
<世界に広がるコミコンにストップがかかった>

リビアの首都トリポリで11月4日、コスプレ男女が集うアニメファンの祭典にイスラム武装警官「抑止隊」がなだれ込み、主催者らを殴打、拘束した。現場近くからのフェイスブック投稿でわかった。

先週末、トリポリのコミコン(コミック・コンベンション)会場には、日本やアメリカのアニメキャラに扮した若者数百人が集まっていた。抑止隊はそこへ押し入り、リビアの若者にイスラム教を放棄させ、暴力を促したとして、主催者を糾弾した。

抑止隊は、フェイスブックページで次のような声明を出した。

「外国から入ってきたこの種のイベントは、イスラム教徒の信仰の迷いや外国文化への憧れにつけ込むものだ。ポルノをまき散らし、青年の心を食い物にして人殺しを育てる破壊的な文化とは戦う」「若者の救出は我々の義務だ」

コミコンは1970年代にアメリカで漫画ファンが集まって開催したのが始まりだ。その後世界中に広がって、リビアも昨年初めてコミコンを開催した。昨年は無事終了し、今年も正式な開催許可が下りていた。だがイスラム厳格派「サラフィスト」のアブドゥル・ラウーフ・カラが率いる抑止隊は、コミコンをイスラム教に対する冒涜行為とみなしたようだ。

目撃者の話によれば、少なくとも20人が拘束され、コミコン主催者の多くが激しく殴打された。強制的に丸坊主にされ、イスラム教の講義を受けさせられた者もいたという。漫画の戦闘シーンで若者の暴力を助長したという理由で、展示品や漫画は没収された。コミコンのフェイスブックページは閲覧禁止になった。

今後、逮捕された主催者たちは裁判にかけられると、抑止隊は声明で明らかにした。どのような刑罰を科せられるのかは不明だ。

2011年に元最高指導者ムアンマル・アル・カダフィ大佐が殺害されて以降、リビアは内戦状態に陥っている。数百の武装集団が活動する一方、国連が支援する政府は首都の支配もままならず、国家が分裂状態にある。【11月8日 Newsweek】
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イスラム武装警官「抑止隊」の無法はともかく、リビアでもコミコン(コミック・コンベンション)は開催されている・・・というのも驚きです。

リビアには、“難民・移民や密輸業者、主導権を争う政治勢力などによる混乱しかない”・・・・というのも誤った思い込みで、そうした混乱とはまた別世界の市民生活も存在しているようです。
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