孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

派手なパフォーマンスの米朝交渉の一方で、地道に続くアフガニスタンをめぐる交渉

2019-06-30 22:46:50 | アフガン・パキスタン

(中国とアフガニスタン国境を警備する人民解放軍兵士 【619日 WSJ】)

 

【トランプ大統領の派手なパフォーマンスを今後の交渉進展に結びつけられるか・・・】

今日の国際関係のニュースは、突然のトランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の会談一色。

 

トランプ大統領得意の派手なパフォーマンスですが、常識にとらわれないその行動力は称賛すべきでしょう。

また、独裁国トップと独断専行のトップが友好的ムードを醸成するのは、両国の今後の交渉進展にとっても影響が大きいことでもあるでしょう。

 

****北非核化交渉、軌道乗るか 米朝首脳、実務協議再開合意****

トランプ米大統領は30日、朝鮮半島の軍事境界線にある板門店(パンムンジョム)で北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談した。

 

トランプ氏は境界線を挟んで金氏と握手してあいさつを交わし、北朝鮮側に入った後、金氏と一緒に韓国側に戻った。現職の米大統領が境界線を越えて北朝鮮側に足を踏み入れるのは初めて。

 

両首脳は非核化に向けた実務者協議の再開で合意したが、停滞する交渉を再び軌道に乗せる契機となるかが注目される。

 

両首脳はあいさつ後、記者団の写真撮影と質疑応答に応じた。トランプ氏は「金氏と再会し、同席できて光栄だ。境界線を越えることができて誇らしくもある」と述べ、金氏を「ホワイトハウスに招待した」と明らかにした。具体的な時期は言及しなかった。

 

金氏は「不快な過去に終止符を打ち、米国と一緒に明るい未来を切り開きたい」とした上で、「トランプ氏は勇気ある人物だ」と称賛した。米メディアによると、金氏もトランプ氏を平壌に招待した。

 

米朝首脳はその後、韓国側施設で約50分間にわたり話し合い、非核化に向けた実務者協議を「数週間以内」(トランプ氏)に再開することで合意した。

 

米朝首脳の対面は、昨年6月のシンガポールでの史上初の米朝首脳会談と、今年2月のハノイでの2度目の会談に続き3回目。

 

トランプ氏は金氏との面会に先立ち、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とソウルの大統領府で会談した後、一緒に軍事境界線にある非武装地帯(DMZ)を視察した。

 

トランプ氏は、米韓首脳会談後の共同記者会見で、金氏との面会を受けた今後の非核化の見通しについて「道程は長いが、急いではいない」と強調。「北朝鮮は核・ミサイル実験をしておらず、情勢は2年半前に比べて前進している」と主張した。

 

文氏は「朝鮮半島の平和は、対話を通じてのみ獲得ができる」と語り、金氏との面会に踏み切ったトランプ氏を「朝鮮半島のピースメーカー(平和の創出者)だ」とたたえた。

 

トランプ氏は金氏との面会後、ソウル郊外にある在韓米軍の烏山(オサン)空軍基地を訪れ、米軍将兵を激励した。【630日 産経】

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言うまでもなく、重要なのは両首脳のパフォーマンスを今後の実質的交渉前進につなげていけるかどうかです。

実質的交渉とパフォーマンスは別物とも言えますし、両首脳がリーダーシップを発揮して、互いに譲歩しあって合意を得る方向に各々の国内を誘導するなら・・・という期待もあるでしょう。

 

単に国内選挙向けに派手なパフォーマンスを演出した・・・というレベルに終わらないことを願います。

 

【存在意義が曖昧になったG20

一方、G20の方はこうしたパフォーマンスや、各国首脳同士の会談のかげに隠れてしまった感も。

 

****G20は必要か? 大阪サミットで無力さ浮き彫りに*****

大阪で行われた20か国・地域首脳会議(サミット)は、ドナルド・トランプ米大統領の独善的なアプローチと、貿易から気候変動までさまざまな問題に対する各国の見解の相違の拡大に圧倒される形になり、今の世界にG20が担うべき役割はあるのかという疑問が専門家の間で浮上している。

 

先進7か国を拡大したG20は以前から、憲章や明確な権限、執行力がない、結論が出ないにもかかわらず多額の費用が掛かるサミットを開催している、開発途上国のほとんどが除外されているといった批判にさらされてきた。

 

これまでG20に対する圧力は反グローバリゼーション活動家からのものだったが、2829日の両日行われた今回のサミットはG20の正当性に関わる問題が内部から生じている可能性を浮き彫りにした。

 

安倍晋三首相は、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」について、全参加国が一致してより踏み込んだ取り組みを表明することを模索していたが、米国が抵抗。議長国の日本は最優先課題を達成できなかった。

 

大阪での最大の課題となっていた米中貿易戦争は、サミットに合わせて開かれた米中首脳会談で協議され、G20は無力だった。

 

カナダのシンクタンク「国際ガバナンス・イノベーション・センター」のトーマス・バーンズ氏は、「G20は協力のためのフォーラムとして設立されたが、問題は、もはやG20がその目的を果たすことができない状況になったのではないか、ということだろう」と語った。

 

G20:さまざまな利害の運命共同体

G20の基本的な目的は世界経済の安定の維持だが、「米国第一」を掲げるトランプ氏の対中貿易戦争によって世界経済は大打撃を受けている。

 

昨年アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれたG20サミットと同様、大阪サミットも世界の2大経済大国の貿易戦争に乗っ取られたも同然だった。残る18か国は不運な傍観者の立場に追いやられた。

 

バーンズ氏は、残念ながらG20には、米国に代わってリーダーシップを発揮できる国が存在しないと指摘。「問題は、リーダーシップがどこにあるのかだ。人々はこれまで、米国のリーダーシップに不満を訴えてきたかもしれない。(しかし)米国は少なくともいくらかのリーダーシップを発揮し、他の国々はそれに反応することができた」「いろいろ考えてみても、他にその役割を果たせる国があるだろうか?」と述べた。

 

G20サミットの議長役を務めた安倍首相は気候変動問題に関する議論を進展させようとした。しかし首脳宣言は昨年使われた言葉を繰り返す内容で、大阪サミットはG20の無力さを浮き彫りにしただけのように見える。

 

早稲田大学の国際政治学者、山本武彦氏は、20か国・地域はいずれも運命共同体だが、その利害はさまざまで、気候変動に関する残念な結果はG20の限界を浮き彫りにしたと述べた。 【翻訳編集】AFPBB News

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もともと利害・立ち位置のことなる各国首脳が一堂に会したところで、それぞれの主張を繰り返すだけで、実質的な前進は望めない・・・・というのは当然のことでもあります。じゃ、何のためこれだけの手間暇・資金を費やして集まるのか?・・・という素朴な疑問も。

 

そうしたG20の会議自体より、その裏で繰り広げられる多くの二か国首脳会談の方に実質的意味があるようにも思えますが、G20の意義が二か国首脳会談の機会「お座敷」を提供するだけというのも寂しい感も。

 

【アフガニスタンで続く地道な交渉】

米朝の派手なパフォーマンスの一方で、地道に続けられている交渉も。

 

****米国とタリバン、7度目の和平協議開始****

米国とアフガニスタンの旧支配勢力タリバンは29日、カタールの首都ドーハで7度目の和平協議を開始した。タリバンの報道官が明らかにした。米国側は、9月に予定されるアフガン大統領選前の合意締結に期待を寄せている。

 

タリバンのザビウラ・ムジャヒド報道官はツイッターに、「米代表団とアフガニスタン・イスラム首長国(タリバン時代のアフガンの国号)の交渉団の7度目の協議が、ドーハで始まった」と投稿した。

 

和平協議の開始とほぼ同時に、アフガン北部でタリバンによって政府側民兵少なくとも25人が殺害されたとの報道が飛び込んできた。北部バグラン州ナフリン地区で29日未明、政府側民兵がタリバンに包囲された兵士らの救出を試みたが、返り討ちに遭ったという。

 

和平協議の狙いは、米史上最長となるアフガニスタン戦争の終結だ。合意内容は、米国が17年以上駐留させてきた軍を撤退させる見返りに、タリバンが過激派をかくまわないことを約束するものとなる可能性もある。タリバンは2001911日の米同時多発攻撃の後、国際テロ組織アルカイダのメンバーをかくまっていた。

 

これまでの和平交渉では、テロ対策、外国軍の駐留、アフガン国内各勢力間の対話、恒久的な停戦という四つの問題が議論の中心となってきた。

 

米当局者らは先に、今度のアフガン大統領選前の合意締結に期待していると述べていた。アフガン大統領選はこれまでに2回延期され、現在は9月に予定されている。 【翻訳編集】AFPBB News

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実際の交渉事は、このアフガニスタンをめぐる交渉のように、地味で難しいものです。

特に、タリバンの場合、交渉に反対する強硬派の存在もあって、どこまでタリバン内部で意思統一できているのか定かでない面もあります。

 

また、本来は一方の当事者であるべきアフガニスタン政府をタリバンが相手にしていないことも、事態を難しくしています。

 

【アメリカ撤退後の影響力を競い合う中国・ロシア】

更には、パキスタン、ロシア、中国など関係国の思惑も重なって・・・と言いだすと、話はいよいよ難しくもなります。

 

パキスタンがインドに対抗する影響力をアフガニスタンに形成したいという思惑で、タリバンを支援してきたことのほか、中国・ロシアもアメリカ撤退後のこの地域における影響力拡大を狙っています。

 

****中国とロシアが縄張り争い、変わる中央アジア ****

米アフガン撤退と中国「一帯一路」で交錯する各国の思惑

 

米国がアフガニスタン戦争からの出口を模索するなか、中央アジアは新時代を迎えつつある。2001911日の同時多発テロ事件後、米国はアフガンに平和と安定をもたらす取り組みを続けてきた。それが終わろうとしている今、中央アジアでロシアと中国が影響力を強めようと競い合っている。

 

地域の専門家によると、中国とロシアはいずれも、イスラム武装勢力のアフガン国内の活動や国外への進出を警戒している。また、中国は習近平国家主席の下で押し進めている広域経済圏構想「一帯一路」で国内企業が投資した多額の資金を保護したい考えだ。

 

中ロ政府はここ数年、アフガンでの自国の国益保護に一段と積極的な手を打っている。両国はアフガン政府の政治的支配力が弱まりつつあるなか、アフガン国内でタリバンが勢力を広げ、過激派組織「イスラム国(IS)」など国境を越えて活動するイスラム武装勢力の脅威にも直面しているとの認識を持つ。

 

米国のアフガン和平担当特別代表を昨年9月から務めるザルメイ・ハリルザド氏は、約18年続いてきたアフガン戦争の完全終結に向け、和平交渉に中ロ政府を含める努力を重ねてきた。

 

米国と中ロの関係が多方面で悪化しているなかで両国の協力を取り付け、ユーラシア大陸の二つの大国が和平を妨害するのを防ぐためだ。

 

ハリルザド氏の働きかけは実を結びつつあるようだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は和平交渉における米ロの取り組みを評価し、「良い結果」が生まれることを望むと述べた。

 

プーチン氏のこうしたコメントは、中国がアブドゥル・ガニ・バラダル司令官率いるタリバン幹部を北京に招いて会合を開いたことを受けたものだ。中国外務省の報道官は、この協議が行われたかどうかを確認することはできないと述べた。

 

ここ数年、アフガン安定に向けた事態打開が米当局者が言うほどには進んでいないことが明白になるにつれ、中ロはタリバンやアフガン政府との関係を広げてきた。ロシア政府はアフガンの各政治勢力や議員らとの結び付きを強化している。安全保障についても、米国に任せるのではなく、自ら対応し始めた兆候が見られる。

 

米国防総省が20176月に議会へ提出した報告書によると、中国はアフガン国境の警備強化や国境地域への投資保護を目指し、同年初めにアフガン北東部のバダフシャン州で8500万ドルを投じることを決めた。

 

だが中国政府は、それ以降のさまざまな報道を否定している。こうした報道の中には、中国およびアフガン当局者の話として、戦略的に重要な同州ワハーン回廊で中国が資金提供して基地を建設中という内容もあった。中国政府は、アフガンに軍を派遣する計画はないとも繰り返し言明している。

 

アフガンの隣国タジキスタンの当局者は昨年、国境の自国側に3040カ所の警備所を新設あるいは再建する権限を中国政府に付与する秘密協約が2015年もしくは16年に交わされていたと明かした。この当局者は懲罰の懸念から匿名で取材に応じた。

 

この合意により、アフガン国境の大部分で中国の国境警備隊がタジキスタンの警備隊に取って代わったという。同当局者によると、中国政府はタジキスタンがこうした地域で武装勢力の侵入を抑える能力がないと見なしているという。

 

同当局者は「中国が国境警備を完全に掌握した地域もある」とし、「自分たちの車両で、自分たちで警備している」と述べた。

 

中国外務省の報道官は、そのような話は聞いたことがないと否定。過去の同様の報道についてコメントを求められると、それは真実ではないと一蹴した。

 

アフガンでの米国の取り組みが行き詰まったことを受け、ロシアも一段と積極的になっている。

 

アフガン当局者によると、ロシアは昨年、アフガン北部ジョージャン州でISを標的とする空爆を承認するよう政府に圧力をかけた。だが、米国が強く反対し、ISの脅威に対応するには米空軍の力で十分だとアフガン政府に請け負ったことで、ロシアの提案は退けられたという。

 

ある欧米当局者が後で語ったところによれば、ロシア当局はISに対処する上でロシアの軍事支援を受け入れる用意があるかなど、アフガン政府の見解を定期的に聞き出していた。ロシア国防省はコメント要請に応じていない。

 

米軍のアフガン撤退の範囲やそれに伴って生じる軍事・政治的な空白がどの程度になるかはまだ定かではない。同地域の専門家は、米国の支配が終われば中ロが一気に進出するような隙ができるとの懸念は行き過ぎだと指摘する。

 

国際危機グループ(ICG)のアジア担当ディレクター、ローレル・ミラー氏は、大規模な軍事介入もあり得ないと語る。「英国、ソ連、米国のアフガン介入の歴史を振り返れば、天才でなくとも『地上軍の派遣? いい案ではない』と分かる」

 

一方、米軍が撤退した後、中ロの地政学的な競争や過去の恨みがアフガン国境を越えて作用する可能性は排除できないともミラー氏は指摘する。同氏はアフガンとパキスタンで国務省の特別代表代行を務めた経験を持つ。

 

ミラー氏は中国が巨額を投じる一帯一路に言及し、「中央アジアでロシアと中国の競争が起こるのは容易に考えられる」と語る。「中国が経済回廊を保護するため西方へ進出するのをロシアが容認するとは考えにくい」【619日 WSJ

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中国・ロシアは、アメリカに対抗する形で両国の蜜月を演出していますが、ロシアにとって“裏庭”中央アジアに中国の影響力が拡大するのは容認しがたいものでしょう。

 

アメリカの撤退、統治できないアフガニスタン政府、拡大するタリバンという事態を受けて、中ロも互いの影響力を競い合うことにもなっているようです。

 

長引く紛争に翻弄されるアフガニスタンの人々の苦悩は・・・と続けるつもりでしたが、長くなったので、また別機会に。

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トルコ・エルドアン大統領 S400問題、シリア、更にはリビアと問題山積、国内でも新党の動き

2019-06-29 22:53:40 | 中東情勢

(「茶道」を体験するエルドアン大統領夫妻【627日 TRT】 心の平安は得られたでしょうか?)

 

【イスタンブール市長選の再選挙という賭けは失敗】

トルコ・エルドアン大統領が、僅差で与党候補が敗北したイスタンブール市長選挙を「不正があった」と強引に再選挙に持ち込んだあげく、僅差の前回とはことなり、今回は大差で明確な再敗北を喫したことは周知のところです。

 

強引なエルドアン大統領のやり方に反感が強まった結果でもあり、「手痛い敗北」「求心力に陰り」とも評されています。

 

****トルコ市長選、民主政治は生きている****

野党候補が3月の地方選より得票差を拡大して再び勝利

 

トルコに関する良いニュースは、最近ほとんどなかったが、23日のイスタンブール市長選挙での有権者らの行動は、苦境にあった民主主義支持者らに希望を与えた。

 

野党・共和人民党(CHP)のエクレム・イマモール候補は、トルコ最大都市イスタンブールの市長選挙で、54%の票を獲得して勝利した。レジェプ・タイップ・エルドアン大統領率いる与党・公正発展党(AKP)の候補、ビナリ・ユルドゥルム元首相は23日夜、敗北を認めた。大統領も勝者に祝意を伝えた。

 

これは、3月に行われた当初の市長選でのイマモール氏の僅差での勝利という結果を覆そうしたエルドアン氏にとって、新たな打撃となった。

 

イマモール氏は3月の選挙後、市政府の運営を開始したが、先月市長の座を追われた。エルドアン氏が、あいまいな根拠に基づいて選挙不正があったと指摘し、同氏の強い求めに応じて最高選挙管理委員会が選挙結果を無効としたためだ。

 

選挙結果を覆そうとしたエルドアン氏の試みは逆効果となり、23日の選挙でイマモール氏に勝利をもたらした得票差は、3月の約13000票から70万票余りに拡大した。

 

49歳の新市長は、これまでの不正をただそうと有権者に働きかけた。同氏はまた、サービスの改善のほか、無駄な支出の削減と汚職対策の重要性を強調した。(中略)

 

エルドアン氏の政界での運勢は、25年前にイスタンブール市長になった後に上昇し始めた。同氏の下で首相を務めていた人物が市長選に出馬したことがそれを物語っている。

 

イマモール氏は依然として自らが有能な指導者であることを証明する必要があるが、大統領選でのエルドアン氏に対する挑戦者として、野党にとって一番の期待の星になる可能性がある。

 

エルドアン氏はかつてないほどの権力を掌握しようと試みているが、それが政治の不確実性と経済的失策につながっている。

 

トルコリラは昨年、対ドルで30%近く下落し、2019年も下落し続けている。第1四半期の経済成長率は1.3%と、18年下半期のリセッション(景気後退)を埋め合わせるには十分でない水準だった。 

 

AKPは今年3月の統一地方選挙で全投票数の50%超を獲得するなど、トルコの地方部において引き続き人気を保っているものの、同国に81ある県のうちAKPが政権を維持した自治体は、選挙前の48県からわずか39県へと減少している。この地方選でAKPはアンカラ市長選でも敗北したが、今回、同国都市部の代表格となるイスタンブールでも敗北を喫した。

 

今後注目すべき決定は、同国と他の北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国との関係冷却化を招いたロシア製の地対空ミサイルS400導入をエルドアン氏が撤回するかどうかである。

 

エルドアン氏が導入にこだわれば、米国は制裁措置をとるとみられ、最新鋭ステルス戦闘機F35の多国間共同開発プログラムへの参加も認めない可能性がある。

 

これらの措置はトルコ経済にとってさらなる圧力になるとみられる。イスタンブール市長選の敗北は、エルドアン氏に独裁主義的なやり方を改善するよう求める警告である。しかしエルドアン氏が敗北を十分に受け入れたことは、かつて一度もない。【624日 WSJ

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 AKPはイスラム保守層を固い支持基盤とした選挙で強さを発揮し、2002年から長期政権を担ってきた。エルドアン氏が前身政党時代の1994年に市長に当選して以来のAKPの牙城(がじょう)だったイスタンブールは「成功物語」の原点だ。エルドアン氏自身が「イスタンブールで負ければトルコで負ける」と語っていただけに、今回の敗北の影響は計り知れない。【627日 朝日】

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S400問題 トランプ大統領「エルドアン氏のせいではない」と同情も 制裁は「検討している」】

各紙が共通して指摘しているのは、今回の「手痛い敗北」に加えて、アメリカが強く反対しているロシア製の地対空ミサイルS400導入問題がこじれており、アメリカの対トルコ制裁などの事態になれば、トルコ経済に大きなダメージとなり、エルドアン政権を更に大きく揺さぶるであろうという点です。

 

この問題は大阪のG20における首脳外交でもひとつの焦点ともなりました。

トルコはNATO加盟国であり、事態がこじれれば、トルコ・エルドアン政権だけでなく、NATOも大きく揺らぐことにもなります。

 

****トランプ氏とトルコ大統領、ロシア製ミサイルで攻防****

トランプ米大統領は29日、大阪市内でトルコのエルドアン大統領と会談した。ホワイトハウスによると、トルコがロシア製の地対空ミサイルシステムS400購入を決めたことに懸念を表明した。また、北大西洋条約機構(NATO)の同盟関係強化に向け連携を求めた。

 

トランプ氏は会談冒頭、エルドアン氏を「私の友人」と呼び、融和的な姿勢を見せた。トルコに制裁を科すかどうかの言及は避けた。

 

一方、エルドアン氏は29日の記者会見で「引き渡しの段階に入った契約を否定することはトルコに似合わない。7月上旬にも引き渡される」と述べ、購入見直しには応じない姿勢を示した。

 

その上で「オバマ政権時に米国から(地上配備型迎撃ミサイル)パトリオットを購入しようとしたが、米議会が許可しなかった」と主張。制裁は「あり得ないと思う」と語った。【629日 時事】

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アメリカ政府はトルコ・エルドアン大統領に厳しい姿勢を示していますが、トランプ大統領自身はエルドアン大統領に対し、“同情的”な姿勢も見せており、そのあたりがエルドアン大統領の強気の背景にあるのかも。

 

****トルコの露地対空ミサイル購入、トランプ氏が懸念表明 首脳会談****

(中略)米国は同盟国トルコがS400を導入すれば、軍事機密情報がロシアに流出すると憂慮。「S400購入かNATO残留かを選択しなければならない」(ペンス副大統領)などと圧力を強めている。

 

29日の会談冒頭、トルコが導入した場合、制裁を発動するかどうか記者団に問われたトランプ氏は「検討している」と述べた。

 

一方でトランプ氏は、オバマ前政権がトルコによる米国製地対空ミサイルの購入に制限をかけていたと指摘。「問題は複雑だ」と述べ、トルコに同情的な姿勢もみせた。その後の記者会見でも「エルドアン氏は不公平な扱いを受けた。彼のせいではない」と述べた。

 

ロイター通信によると、エルドアン氏はトランプ氏との会談に先立ち、プーチン露大統領と会談。7月中にS400を納入する方針を確認した。【629日 毎日】

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トランプ大統領が「エルドアン氏は不公平な扱いを受けた。彼のせいではない」と言っているのですから、エルドアン大統領の言うように「制裁はあり得ないと思う」ということでしょうか?

 

今回の首脳会談でも先行きはまだ不透明なままです。エルドアン大統領としては、ここまで突っ張った以上、今更後には引けないでしょう・・・・というのは一般人の発想で、エルドアン大統領にしても、トランプ大統領にしても、常識の枠外にありますので・・・。

 

【トルコがS400にこだわる背景】

トルコがアメリカのパトリオットPAC3ではなく、ロシアのS400にこだわる背景には、アメリカが技術移転を認めないことが、武器国産化を進めるトルコの方針に合わないということ、更にはアメリカ・NATOへの不信感が背景があるとも指摘されています。

 

****トルコ、進む武器国産化 無人機・攻撃ヘリなど…自給率7割に****

中東の地域大国トルコが20年足らずの間に武器の国産化率を大幅に増やした。その自信を背景にロシアから地対空ミサイル購入を決め、米国の強い反発を招いている。トルコは西側から離れていくのか。

 

 ■きっかけは米国禁輸の衝撃

「設計から生産まで、防衛産業の全段階を自国でまかなう目標に着実に近づいている」。4月30日、イスタンブールで開かれた国際防衛産業フェアの開幕式で、エルドアン大統領は言葉に力を込め、2000年代初頭に約2割だったトルコの防衛装備品の自給率が約7割に達したと強調した。生産対象は長距離砲、攻撃ヘリ、装甲車から電子戦システムに及ぶ。(中略)

 

トルコが武器国産化を強く意識したのは、キプロスをめぐる対米関係悪化だ。1974年にギリシャ系勢力によるクーデターが起きると、トルコ軍はトルコ系住民の保護を理由に出動、島北部を制圧した。

 

反発した米国は、北大西洋条約機構NATO)の同盟国であるトルコに3年にわたる武器禁輸措置をとった。その衝撃が自前の防衛企業設立につながった。

 

80~90年代に経済の混乱などで進まなかった武器国産化は、02年からのエルドアン氏率いる公正発展党の長期政権下で進んだ。この間、03年にイラク戦争があり、10年末からの中東の主化運動アラブの春」をきっかけとするシリア内戦で地域の混乱が続いている。(中略)

 

 ■西側依存避けロシアに接近

国産化が進んでもハイテク武器は輸入頼み。トルコはNATOと緊張関係にあるロシアから地対空ミサイルシステムS400を買うと決めた。ところが米トランプ政権は猛反発。「S400を導入するなら最新鋭戦闘機F35は売らない」と制裁を示唆して翻意を促している。

 

トルコ国内にも懸念の声はあるものの、エルドアン氏は「携帯無線機すら米国製頼みだった74年と今は違う」と国産化の進展を強調しつつ、S400購入方針を変えていない。

 

ここに至るには長い経緯があった。イランやシリアなどのミサイルによる攻撃能力の高まりを受け、トルコは米国製PAC3の購入を目指したが実現しなかった。価格面のほか、トルコが関連技術の移転にこだわり、折り合いがつかなかった。

 

13年にはトルコの要請に応じたNATOが、内戦のシリアから飛来するミサイルを警戒するため米独などの地対空ミサイル部隊を国境地帯に展開した。しかし、配備の規模や期間が不十分とトルコ側は感じ、NATO依存のリスクを認識したとされている。

 

さらに、16年に起きたクーデター未遂事件では、関与が疑われた軍の操縦士が260人以上免職となり、戦闘機の稼働率に影響が出ているとされる。カサポール氏は「戦闘機による防空能力低下を一時的にしのぐ手段がS400だ」とみる。ロシアは技術移転や共同生産にも前向きと伝えられる。

 

S400は近くトルコへの搬入が予定される。ペンス米副大統領から「(NATOの)パートナーであり続けるのか、無謀な決断で同盟を危険にさらすのか」と迫られているが、トルコが西側から離れる可能性はあるのか。

 

トルコを代表する政治ャーナリストのムラット・イェトキン氏は「米国との関係悪化の原因は短期的なものではなく、70年代のキプロス問題から積み重なってきた相互不信にある」と指摘する。

 

トルコの政治家や軍人、官僚には、米国を中心とするNATOへの依存を減らし、ロシアや中国、イランとの関係をより強めるべきだと考える「ユーラシアニスト」という一定の層がいるという。

 

ただ、トルコの元外交官の一人は「西側にとどまるかどうかの選択は、自由と民主主義という価値にかかわる。ユーラシアニストが主流になることはない」と話す。【620日 朝日】

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【多忙なエルドアン大統領 シリアでも さらにリビアでも】

内政におけるイスタンブール市長選敗北、外交面でのS400をめぐるアメリカとの緊張・・・・それだけでも大変ですが、トルコ・エルドアン大統領はそうした状況でシリアでのイドリブの反体制派をめぐるアサド政権・ロシアとの対立も抱えています。

 

****政府軍とトルコ軍の衝突(イドリブ)****

シリア政府軍がイドリブ、ラタキア、アレッポ地方等で、大規模な反政府軍掃討作戦を行い、一部では大損失を受けて、ロシア軍特殊部隊も支援したというニュースは、どこまで正確な話かは知りませんが、取りあえず報告しました。

 

この作戦と関係がありそうなのは、アラビア語メディアがいずれも報じているトルコ国防省の発表です。

 

それによると、トルコ国防省は、27日シリア政府軍支配地域から砲弾及び臼砲弾が、イドリブの停戦地域のトルコ軍監視ポストに落下し、兵1名が死亡し、3名が負傷したと発表し、この攻撃は意図的なもので、シリア政府軍に責任があるとしたとのことです。

 

さらにトルコは駐トルコ・ロシア大使館の武官を招致し、この事件に抗議する(ロシアを呼びつけた理由はロシアに責任があるというよりは、トルコはアサド政権を認めていないので、お互いに大使館はなく、通信の手段としてはロシアを経由しているからではないか?)とともに、トルコの対応は厳しいものになると警告した由

 

この点一部のメディアは、トルコ軍は28日、シリア政府軍拠点に対して大砲戦車砲等を複数発撃ち込んだと報じている。 取りあえず【628日 中東の窓】

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それだけでなく、トルコは内戦状態にあるリビアにも統一政府側を支援する形で関与しており、ハフタル将軍側の激しい反発を受けています。

 

****リビア国民軍率いるハフタル氏、領海内のトルコ船舶の攻撃を命令****

リビアの元国軍将校で実力者のハリファ・ハフタル氏は、国民合意政府をトルコが支援していると批判した上で、自身が率いる軍事組織「リビア国民軍」に対し、国内におけるトルコの船舶と関係者らを攻撃するよう命じた。ハフタル氏の報道官が28日に明らかにした。

 

GNA(国民合意政府)は国際的に承認されており、ハフタル氏とは敵対している。

 

報道官のアフマド・メスマリ少将は、「空軍に対して、リビア領海のトルコの船舶を攻撃するよう命令が下された」と述べ、「(リビア国内にある)トルコ政府の戦略的地域、および同政府系の企業と事業は、LNA(リビア国民軍)の正当な攻撃対象と見なされる」と主張した。

 

リビア東部と南部の大部分を支配するLNAは、4月初めに首都トリポリをGNAから奪取するために進軍を開始している。

 

メスマリ氏は、「リビア国内にいる全てのトルコ人は逮捕されるだろう」として、「(リビアと)トルコ間を運航している航空機の便も全て禁止される」と発表。しかし、ハフタル氏の支配地域以外についての禁止措置の適用については言及を避けた。

 

同氏は、GNAがトリポリの南西100キロほどに位置するガリヤンを掌握する際にトルコが援助したとして非難。ハフタル氏は、42日にガリヤンを制圧して作戦本部を置いていたが、今月26日にGNAから支配権を奪われていた。

 

ハフタル氏陣営とGNAは、外国人の傭兵を雇って他国政府から軍事的支援を受けているとの非難合戦を続けており、アラブ首長国連邦とエジプトから支援を受けるハフタル氏は、GNAの後ろ盾となっているトルコとカタールを非難している。 【629日 AFP

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【かつての盟友ギュル元大統領が新党?】

アメリカと綱引きしながらシリアで政府軍と戦い、更にリビアでも・・・・忙しいことこの上ないエルドアン大統領ですが、国内的にも気になる動きが報じられています。

 

****トルコ与党幹部、年内のライバル政党結成を計画=関係筋****

関係筋によると、トルコのエルドアン大統領の与党・公正発展党(AKP)の幹部2人が年内にライバル政党を結成することを計画している。イスタンブール市長選での敗北を受けたエルドアン氏の求心力低下がさらに進む可能性がある。

関係筋によると、新党を計画しているのはともにAKP創設メンバーのババカン元副首相とギュル元大統領。

ババカン氏に近いアドバイザーは、両氏が秋に政党を結成する可能性が高いとの見方を示し、新党の政策は初期のAKPに類似したものになると述べた。AKPは2001年の結成当初、イスラム教に根ざした考え方と西側寄りの民主的で自由な市場アプローチを融合し、幅広い支持を得た。

別のアドバイザーによると、両氏は半年ほど前から新党結成を検討してきたが、3月31日の統一地方選挙でAKPが主要都市で敗北したことを受けて機運が高まったという。【628日 ロイター】

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ギュル元大統領はエルドアン氏の元盟友ですが、強引なエルドアン氏の政治手法に不満を強めており、2018年大統領選挙でもエルドアン氏に対抗する野党統一候補に・・・との話もありました。

 

与党支持層ではエルドアン氏の人気は絶大ですから、ギュル氏の新党ができたとして、どこまで支持をひろげられるかは疑問ですが、エルドアン大統領にとって更なる打撃となることは確かでしょう。

それにしてもタフですね。

 

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タイ・プラユット政権 下院での基盤は脆弱なるも、権力維持システムは周到に準備済み

2019-06-28 22:19:03 | 東南アジア

(新未来党のタナトーン党首【66日 時事】)

 

【「軍政の作ったルール」によってプラユット氏、首相に】

ロシア・プーチン大統領によれば、欧米的自由主義は「意義を失い、時代遅れとなった」そうです。

 

****プーチン氏、自由主義は時代遅れ 強権正当化か、英紙の取材に****

ロシアのプーチン大統領は、米国や欧州でポピュリズム(大衆迎合主義)が広がっており、第2次大戦後に米欧社会が重視してきた自由主義的な思想は「意義を失い、時代遅れとなった」との認識を示した。英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)が27日、単独インタビュー記事を掲載した。

 

ロシアに約20年君臨するプーチン氏は西側の自由主義を否定することで、自らの強権的な体制を正当化する狙いがありそうだ。

 

プーチン氏はシリアなどから難民受け入れを決めたドイツのメルケル首相の決定を批判する一方で、メキシコからの移民の流入阻止を目指すトランプ米大統領を称賛した。【628日 共同】

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「時代遅れ」かどうかはともかく、そのプーチン大統領が称賛するのが、自由主義の守護者とされてきたアメリカのトランプ大統領、安倍首相の盟友でもあります。このあたりが、現在の国際政治状況の問題点です。

 

トランプ大統領が、即断即決が可能でディールがやりやすい独裁者や強権支配者が大好きで、小うるさい民主主義指導者が大嫌い・・・というのはいつも指定されることです。

 

でもって、今日の話題はプーチン大統領も擁護する非自由主義的軍事政権を形を変えて引き継ぐことになった、タイのプラユット政権。(別に、反軍政のタクシン派政党が自由主義・民主主義だという話でもありませんが。)

 

****タイ国会、プラユット氏を新首相に選出 政権運営は困難との予想も****

民政復帰に向けた3月の総選挙を受け、タイ国会は5日深夜(日本時間6日未明)、上下両院の投票で軍事政権のプラユット・チャンオーチャー暫定首相(65)を新首相に選出した。

 

だが、予算案などを審議する下院(定数500)で、親軍政派は計254議席と、反軍政派の計246議席をわずかに上回っているだけで、政権運営は困難も予想される。

 

プラユット氏はワチラロンコン国王の承認を得た後に正式に首相に就任。親軍政派19党による連立政権は6月中に発足する予定だ。

 

投票は、議員が1人ずつマイクの前で支持する候補の名前を言う形式で実施。親軍政派の連立政権加入を決めた党の方針に従えないとして、5日に議員辞職を表明した「民主党」のアピシット元首相らを除く744人が投票した。

 

タクシン元首相派の中核政党で下院第1党の「タイ貢献党」や、第3党の新党「新未来党」など反軍政派7党は、若い世代に人気のタナトーン新未来党党首を首相候補とした。

 

結果は、プラユット氏の500票に対し、タナトーン氏は244票。上院議員(定数250)は軍政に任命されており、プラユット氏が圧倒的に優位な状況下での投票だった。

 

タナトーン氏は、選挙違反についての判断が出るまで憲法裁判所に議員資格の停止を命じられており、投票に参加できなかった。結果判明後の記者会見では「軍政の作ったルールの下での戦いだった。落胆することはない。我らの時代は来る」と強調した。

 

投票前の討論で、親軍派の「国民国家の力党」の議員は、2014年5月のクーデター後、暫定首相を務めてきたプラユット氏について「国を安定に導いた」などと評価した。軍政の強い影響を受ける上院が投票に参加したことについて「これは国民投票で承認された憲法に基づく方法だ」と正当化する議員もいた。【66日 毎日】

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プラユット首相にとって、政権維持の防波堤となる上院については、「お手盛り選任」に非難も出ていますが、どういう形にしろ、「茶番」だろうが何だろうが、軍事政権中枢の傀儡に過ぎないことは最初から分かっていた話で、「今更」の感も。

 

****議員を選ぶ委員、半数超が自ら議員に タイ上院「茶番」****

2014年のクーデターを主導した軍事政権のプラユット暫定首相が新首相に選出されたタイで、上院議員選任の「お手盛り」ぶりに批判が噴出している。

 

事実上、軍政が任命したことに加え、選考委員の半数以上が自身も上院議員に就任していたことが発覚。反軍政派は、憲法に定められた選考委員の政治的中立が守られていないとして、法的手段に訴える構えだ。

 

上院議員250人の名簿は5月に発表され、軍政の元閣僚や軍政幹部の親族ら軍・警察の関係者が数多く含まれていた。

 

選考委員はトップのプラウィット副首相兼国防相だけが明らかにされていたが、批判を受けて今月12日に公表。いずれも軍政関係者で、半数以上が自ら議員になり、残る委員のほとんども親族が議員になっていた。

 

上院議員は5日、3月の総選挙で選ばれた下院議員とともに首相指名選挙に参加。慣例で棄権した議長を除く全員がプラユット氏に投票し、民政移管後の同氏の「続投」に貢献した。

 

タイの英字紙バンコク・ポストは15日、「上院の選任は茶番だ」とする社説を掲げ、一連のプロセスを厳しく批判した。【619日 朝日】

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【政権維持に抜かりはない新政権 強権的安定で経済発展を目指す】

冒頭【毎日】にもあるように、下院での優位がほんのわずかで、しかも19党の連立ということで、プラユット首相の議会運営の今後の困難さが指摘されていますが、プラユット首相・軍部がその気になれば議会運営などどうにでもできる・・・いろんな対処が可能な仕組みにもなっているようです。そのあたりに抜かりはないようです。

 

****タイ親軍政権、基盤固め着々 月内にも組閣、懸念少ない議会運営 ****

軍事クーデターの後、5年余り続いたタイの軍政が6月中にも幕を下ろそうとしている。

 

支持を表明する親軍政党「国民国家の力党」が計19党による多数派工作に成功。国会での首相指名選挙で勝利し、ワチラロンコン国王が承認をしたためだ。月内にも組閣を終え、晴れて「民政復帰」の新内閣がスタートする。新政権に不安材料や弱点はないのかを検証した。

 

数々の布石

2017年の新憲法制定に基づく経過措置として、上下両院の合同会議で選出されたプラユット新首相(前暫定首相)。非議員を首相に選ぶための要件である上下全議員(総定数750)の3分の2のちょうど500票を得て、24年ぶりとなる非民選首相に就任した。

 

軍政が事実上選出した上院(定数250)は、全議席が軍の息のかかった関係者だ。一方、民選で定数500の下院総選挙では、タクシン派のタイ貢献党が単独政党として最多議席を獲得し、連立与党が占めるのは過半数をわずかに超えた程度にすぎない。

 

このため下院の議席数だけを見れば、「薄氷の勝利」「脆弱(ぜいじゃく)な政権基盤」との安易な印象を受けがちだ。

 

だが、政権率いる国民国家の力党のスポークスマンは「選挙違反が事実上野放しになっているこの国で、(タイ貢献党などの)ポピュリズム政党に選挙で勝つのは現状ではまずありえない」と解説し、結果は織り込み済みだったと強調。そして実際に軍政は予防線を幾重にも張り、布石を打ってきた。

 

例えば、政権運営の基礎である予算案について定めた新憲法第143条。下院に先議権がある(同133条)としながらも、上程されてから105日以内に審議を終えなければ下院が承認したとみなす規定を設けた。

 

下院は前党首が軍政に批判的だった民主党のチュワン元首相が議長を務めるが、第1副議長は国民国家の力党。議会運営に懸念は少ない。

 

両院の見解が分かれるなどの場合には院ごとの審査を行わず、上下合同会議に送付できる規定もある(第137、156、271条)。上院の全議席を事実上有する国民国家の力党にとって、仮に連立与党から造反が出たとしても過半数には十分あり余る計算となり、政権運営に不安はないといえる。

 

政権を批判する野党議員を個別に追い落とすことも可能だ。憲法98条は下院議員の失格要件を詳細に定めている。その中には、マスコミ関連企業の株式を持つ者は議員になれないという規定もある。

 

首相指名選挙でプラユット氏と争った新未来党のタナトーン党首は今、まさにこれにより査問を受けている。「有罪」となれば議員の身分を失う。

 

単に蓄財を行ったり、下院議員の倫理に違反したという曖昧な基準だけで、議員の地位剥奪に向けた手続きが行える規定も存在する。国家汚職防止委員会はこうした告発を審査し、最高裁判所政治識者刑事訴訟部に起訴できるほか、憲法裁判所に審査を要請することが可能だ。有罪となればもちろん失職する。

 

あらゆる争訟の終着点に存在するのが、タイの憲法裁判所だ。憲法裁には政党の解党や身分の失職を命じることもできる強い権限が与えられており、仮に異議があったとしても判決は覆せない終審判断となる。

 

先の選挙期間中に、ワチラロンコン国王の姉、ウボンラット元王女を擁立しようとしたタクシン派のタイ国家維持党が、いとも簡単に解党処分を受けたことは記憶に新しい。

 

経済発展か混乱か

さらに、プラユット新内閣を側面から支えているのが、同じ軍人出身の顧問官が過半数を占める枢密院の存在だ。

 

枢密院は法律案や憲法改正案の認可権限を持つ国王に対し、意見を付して奏上できる唯一の機関。法律案などが国会を通過し、90日を経過しても国王が認可しない場合、当該法案などは再審理を求められることになり、ここでも軍出身の政権与党の意向はくまれやすい。

 

プラユット新首相は国王の任命を受けて臨んだ演説の中で、汚職撲滅と格差是正を進める一方で、「国の経済的社会的発展に邁進(まいしん)する」と力強く語った。

 

念頭にあるのは、タイの産業高度化政策「タイランド4.0」や、東部3県の経済特区「東部経済回廊」建設があることは想像に難くない。そしてそれは、万全な政権運営体制の中でさらなる混乱か経済発展かの選択を国民に突きつけ、牽制(けんせい)しているようにも映るのである。【624日 SankeiBiz

*************

 

強権支配的な安定のもとで経済発展を・・・という考え方は、プラユット首相やプーチン大統領などに見られる最近の発想という訳でもなく、東アジア・東南アジア諸国の発展の基礎をつくったとの評価もある「開発独裁」に見られる昔からある発想です。

 

いずれにしても、準備万端・・・というか、解党・議員失格も思いのままという状況で、野党側も攻めるのが難しそうにも思えます。

 

【新未来党のタナトーン党首  「軍政を継続させるための憲法」の改正を求める】

その野党、冒頭でも触れたように、反軍政のタクシン派政党は相当にポピュリズム的な政党で、必ずしも自由主義・民主主義だという話でもありませんが(強権支配の親軍政権に比べれば、自由主義・民主主義的とも言えますが)、そうした欧米的価値観に一番近いのは新党ながら第3党に躍進した新未来党でしょう。

 

反軍政側が首相候補にタクシン派貢献党からではなく、新未来党のタナトーン党首を担いだのは意外でした。

タクシン派も、敢えてタクシン派の色合いを出さないようにとの配慮でしょうか。

 

そのタナトーン党首は、軍政側から目をつけられて、マスコミ関連企業の株式を持っているとして議員失格の査問中です。(タナトーン氏は「立候補前に株は売却した」と主張)

 

****「反軍政」へ改憲訴え タイで躍進の新未来党首****

タイの総選挙で反軍事政権を掲げ、新党ながら第3党に躍進した新未来党のタナトーン党首(40)がこのほど、朝日新聞のインタビューに応じた。軍政下で定められた憲法や選挙制度では「民意を反映できない」として、改正を目指して全国で訴えていく意向を明らかにした。

 

同党は、民政移管に向けた3月の総選挙(下院、定数500)で81議席を獲得した。タナトーン氏は6月5日の首相指名選挙で、反軍政派7党の統一候補として軍政のプラユット暫定首相と争ったが、軍政が事実上任命した上院議員250人も投票に加わり、プラユット氏が選ばれた。

 

タナトーン氏は、今回の選挙制度は「いかに軍政を(事実上)継続させるかだった」と指摘。有権者に選ばれていない上院議員の首相選出への関与が問題だとして、これを定めた条項の改正を最優先に位置づけ、改憲を求めていくとした。

 

議会は親軍政派が多数を占めるため、「おそらく議会は通過しない」としながらも、「有権者に何が障害かを示したい」と述べ、全国を巡って憲法改正の重要性を訴える考えを示した。

 

新未来党が支持された理由については「軍政下で抗議行動すら禁じられた状況に人々は怒っており、チェンジ(変化)を求めた」と分析した。

 

一方で、総選挙で親軍政政党も一定の支持を集めたのは「プロパガンダ」によるものだと指摘し、ファクトチェックをする独立した団体をつくる必要があると主張した。さらに「軍の改革をしない限り、軍は(政治に)関与し続ける」として、軍のあり方を変えていく必要性を訴えた。【628日 朝日】

********************

 

「チェンジ」はいいのですが、タナトーン党首が失格となれば、変革を求める勢いもトーンダウンしてしまうでしょう。

 

なお、タナトーン党首に対しては、2015年に実施された反軍事政権デモにかかわったとして、総選挙直後に国家平和秩序評議会(軍政)から扇動罪など三つの容疑で告訴されてもいます。

 

プラユット政権側としては、タナトーン党首が邪魔になればいかようにも処分できる・・・というところでしょう。

ただ、それは自由主義でも民主主義でもありません。もっとも、プラユット政権はそんなものは目指していないということでしょう。

 

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アメリカ  移民親子の水死写真に涙する一方で、民間人100万人が死亡する核攻撃をも厭わない社会

2019-06-27 22:36:38 | アメリカ

(米国で難民申請をするためメキシコ・シウダフアレスからリオグランデ川を渡る中米の移民(2019612日撮影、資料写真) 水死した親子とは別の親子です。【627日 AFP】)

 

【「米国には国境警備と正義、人道を合わせた移民政策が必要だ」】

メキシコとの国境を越えて流入する中南米移民を国境で止めようとしているトランプ米政権ですが、今1枚の写真がアメリカ社会・政治に大きな衝撃を与えています。

 

国境を流れるリオグランデ川で、アメリカ入りを試み水死したエルサルバドル人男性とそのほぼ2歳になる娘の写真で、二人ともうつぶせになって川に浮かんでいます。

娘は右手を父親の首に回し、最後まで父親にしがみついていたように見えます。

(写真はhttps://courrier.jp/news/archives/166155/  http://parstoday.com/ja/news/world-i53999 などに公開されています。)

 

 

“地元メディアによりますと、この川を渡ろうとして死亡した不法移民は去年1年間で283人に上る”【627日 NHK】ということで、「今更」の話でもありますが、こうした写真、特に幼い子供がかかわる写真は世論に強くアピールすることにもなります。

 

水死したシリア難民の男児の写真が一番顕著な事例ですが、メキシコ国境についても、母親と引き離されて泣き叫ぶように見えた(実際はそうではなかったことが後日判明)女児の写真がトランプ大統領のゼロ・トレランス(不寛容)政策を揺さぶったこともあります。

 

****移民親子の水死体写真に怒り 民主党、トランプ氏批判強める****

米国とメキシコの国境を流れるリオグランデ川で、米国入りを試み水死したエルサルバドル人男性とそのほぼ2歳になる娘の遺体を写した痛ましい写真が公開されたことを受けて、米国の野党・民主党は憤りを表明し、ドナルド・トランプ政権の移民政策に対する批判を強めている。

 

民主党から2020年大統領選への出馬を表明しているベト・オルーク元下院議員は、「トランプはこの死に責任がある」と主張。ツイッターで「トランプ政権がわれわれの法律に従うことを拒否し、難民が通関手続地で亡命を申請することを阻止しているため、家族が通関手続地の合間から入国することになり、多大な苦難や死を生んでいる」と指摘した。

 

一方のトランプ氏は、「民主党が成立を阻んでいる適切な法律さえあれば、こうした人々は(米国に)来ないだろう」と述べ、責任は民主党議員らにあると反論した。

 

メキシコの日刊紙ホルナダによると、写真の親子は亡命希望者のオスカル・アルベルト・マルティネス・ラミレスさんと娘のバレリアちゃん(111か月)で、23日にメキシコからリオグランデ川を渡って米テキサス州に入ろうと試み水死した。

 

この写真は多くの人にとって、ギリシャに向かう途中にトルコ沖合で水死したシリア人男児を写した2015年の写真を想起させた。米紙ニューヨーク・タイムズはこの写真を一面に掲載し、社説で「米国には国境警備と正義、人道を合わせた移民政策が必要だ」と訴えた。 【627日 AFP】AFPBB News

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*****国境の川、息絶えた移民の父と娘 1枚の写真が米に衝撃****

(中略)AP通信によると、死亡したのはエルサルバドル人の父親とまもなく2歳になるはずだった娘。2人は母親とともに23日、メキシコ湾近くの地点で川を渡って米国に入ろうとした。

 

父親はいったん娘を米側に運び、母親の手助けに引き返そうとした。だが、娘が追いかけて水に入ったため捕まえたところ、流されたという。

 

一家は4月にエルサルバドルを出発。23日に国境のマタモロスにある米総領事館をたずねたが、その日のうちに国境を越えようとした。

 

トランプ政権は在外公館での亡命申請受け付けを制限。同通信が援助関係者の話として伝えたところでは、亡命のための面談は800~1700人が順番待ちしているという。待機時間の長さを嫌い、密入国を図った可能性がある。(後略)【627日 朝日】

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国境での移民の子供の管理をめぐっては、その施設の劣悪さも問題視されています。

 

****移民の子ども100人超を「ひどい」施設に送還 米国境****

アメリカの国境管理当局は26日、テキサス州クリントの移民収容施設から移送が決まった100人以上の子どもが、1日で元の施設に送還されていたと発表した。

 

この施設は元々定員を超えて移民を収容しており、先に裁判所によって立ち入りを許可された弁護士が、子どもたちが「ひどい状態で放置されていた」と報告していた。

これを受け、250人の子どもたちが別の施設へ移送されるはずだった。

 

こうした中、米税関国境警備局(CBP)のジョン・サンダース局長代理が75日付で退任すると発表している。

アメリカでは不法入国した移民の逮捕が相次いでおり、今年5月には逮捕者数が2006年以降で最高となった。

 

ドナルド・トランプ大統領が移民税関捜査局(ICE)のマーク・モーガン局長代理をサンダース氏の後任に考えているとの報道も出ている。

 

CBSニュースが25日に行った取材でモーガン氏は、移民収容施設に「システム的な問題」があるとは思っていないと話した。

「システム的な問題のような、劣悪な環境だとは思っていない。改善点があるかといえば、それはもちろんだ」

 

収容施設の状況は?

(中略)この施設を訪問した弁護士はBBCの取材に対し、子どもたちは「部屋の真ん中にトイレがあるひどい部屋に閉じ込められている」と語った。子どもたちはこの部屋で食事や睡眠をとっているという。

 

ウィラメット大学のウォーレン・ビンフォード教授は、「誰もこの子どもたちの世話をしていないし(中略)定期的にシャワーも浴びていない」と説明した。

 

「数百人の子どもたちが、工場用地に最近建てられた倉庫に足止めされている。部屋は定員オーバーで(中略)しらみが湧き、インフルエンザも流行している。子どもたちは大人の監視のない場所に隔離して閉じ込められ、とても、とても不健康で、地面に敷かれたマットに寝ているだけだ」

 

同じくこの施設を訪問したエローラ・ムカジ−弁護士はCBSニュースの取材で、子どもたちは「国境を越えたときに着ていた汚い服をそのまま着ている」と話した。「侮辱的で非人道的で、アメリカで起こってはならないことだ」(後略)【626日 BBC】

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水死した親子の写真に涙し、劣悪な施設に収容された子供たちの処遇に怒る・・・これらは確かにアメリカ社会の一面です。

 

【米国人の3分の1は、民間人100万人が死亡する北朝鮮への先制核攻撃を支持】

ただ、人々の心の内は、そのように慈愛に満ちたものばかりでもないようです。

 

****米国民の3人に1人が「北朝鮮に対する先制核攻撃を支持」の衝撃****

<米国民の中に、核兵器使用に抵抗がなく、敵なら一般市民の多大な犠牲もいとわない強硬な主戦論者が潜んでいることが明らかになった>

最近実施された世論調査で、米国人の3分の1は、たとえそれが民間人100万人が死亡する核攻撃のケースであっても、北朝鮮に対する先制攻撃を支持するという結果が出た。

米学術誌「原子力科学者会報」は624日、英調査会社ユーガブと共同で実施した米世論についての調査の詳細を発表した。米朝間の歴史的な和平プロセスが行き詰って見えるなかで、北朝鮮との軍事衝突について米国民の意見を調査したもの。

 

それによって明らかになった最も「懸念すべき」結果のひとつが、「米世論の中に、少数派とはいえ大勢の主戦派が潜んでいる」ことだった。

 

「回答者の3分の1以上が、通常兵器であると核兵器であるとを問わずあらゆるケースの先制攻撃を支持しており、大規模な軍事衝突は回避すべきだと考える安全保障の専門家の慎重論など、まったく意に介していないことがわかった」という。

米国による先制攻撃を、通常兵器から核兵器による攻撃へ引き上げても、「33%が支持か、やや支持」という数字にほとんど変化はない。「核攻撃にすると、北朝鮮の民間人の犠牲者は、15000人から110万人にハネ上がるが、それを知った後でも核攻撃を支持する人の割合に大きな変化はなかった」

米軍の能力を過大評価
報告書は、これらの結果は米国民の「核兵器使用に無神経で、敵国が相手なら無実の一般市民を殺すことも厭わない衝撃的な傾向」を表している、と指摘した。

回答には政治的信条も影響を及ぼした。回答者の大半は北朝鮮に対する軍事行動に反対を表明したものの、「トランプ支持者の過半数は米国による攻撃を『やや支持』と回答した。トランプ支持者以外では、攻撃を支持したのは8%だけだった。

また、死刑を支持すると回答した人の方が、北朝鮮の一般市民に多くの犠牲者を出してもかまわないとする傾向があった。

調査は、「米軍の攻撃力と防御力について、米国民の認識がいかに誤っているか」も露呈している。報告書は、トランプの極端な主張がそうした誤解の一因だと指摘する。回答者の3分の1以上が、米国による攻撃の「第一弾」で北朝鮮の核兵器を排除できると考えていた。また回答者の47%は、北朝鮮から複数の核ミサイルが向かってきても、一度に3つは迎撃できると考えていた。

最後に報告書は、核戦争について「一般市民に改めて教員を行う必要がある」と締めくくった。【627日 Newsweek

**********************

 

唯一の被爆国であり、いろいろな意見はあるものの「平和憲法」を維持している日本と、原爆投下を戦争終結のたmと評価し、普段に世界各地の戦争に関与し、「銃社会」にあって自分の身は自分で守ることを是とするアメリカ社会では、戦争・武力行使、そして核使用に関して全く異なる考えがあるのは当然のこととも言えます。

 

水死した親子の写真に涙し、劣悪な施設に収容された子供たちの処遇に怒る人々も、民間人100万人が死亡する核攻撃をも厭わない人々も、ともにアメリカ社会の側面であり、場合によっては同じ人物の心のにある二つの思いでもあります。

 

そうした社会に存在する様々な考えのなかから、どのような考えをすくい取って政治に反映させていくかが政治家の役割になりますが、トランプ大統領の場合は・・・という話は今日は止めておきます。

言わずもがなの話でもありますので。

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コロンビア  左翼ゲリラとの和平合意後もコカ栽培から抜け出せない現状

2019-06-26 23:23:04 | ラテンアメリカ

(コカの葉の収穫を終えて家路につく母子たち。山岳地帯でコカを頼りに暮らしている【618日 WEDGE

 

【内戦終結でいったんは減少したコカ栽培が再び増加】

下記は1週間ほど前に目にした記事。

 

****米の港でコカイン15トン押収 末端価格は1千億円超****

米ペンシルベニア州のフィラデルフィア港に停泊したコンテナ船から18日、15トンのコカインが押収された。末端価格で10億ドル(約1090億円)を超えるという。現地の検察当局がツイッターで明らかにした。米メディアによると、米国史上3番目の多さという。

 

AP通信によると、このコンテナ船は西アフリカのリベリア船籍。5月19日に南米コロンビアを出て、南米ペルー、中米パナマ、カリブ海のバハマに寄港。(後略)【619日 朝日】

******************

 

15トン、末端価格1千億円超のコカイン・・・「すごいね!」と言うしかないですが、真っ先に思ったのは、このコカイン密輸を指揮した組織の人間は今頃失敗の責任を取らされて・・・・というあたりのことです。

 

ただ、“末端価格1千億円超”とはいっても、こうした密輸失敗のロスを織り込んだ商品価格であり、実際にコカ栽培農家が手にする金額は、はるかに少ない金額でしょう。

 

コカインの原料となるコカ栽培やアヘンの原料となるケシ栽培の状況は、その生産地たるコロンビアやアフガニスタンの統治がうまくいっているのかどうかを知り得るバロメーターでもあります。

 

ガバナンスがうまくいっていれば、誰も危険で厄介な(こうした作物栽培には往々にして武装勢力が絡んできます)違法作物には手は出しません。しかし、生きるために他に道がないのであれば・・・。

 

そうした点からすると、コカ栽培の中心地、コロンビアの状況はあまりよろしくないようです。

 

****17年のコカイン生産量、過去最高に 内戦終結のコロンビアで増産****

2017年の世界のコカイン生産量が前年比25%増の1976トンで過去最高だったことが、26日に発表された国連薬物犯罪事務所の年次報告書で明らかになった。

 

内戦の終結したコロンビアでの生産量が急増したことが、理由の一端にあるという。

 

報告書は、世界生産量の急増は「世界のコカインの70%を生産していると推定されるコロンビアでの増加が要因」だと指摘している。

 

コロンビアでは2016年に政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」が和平合意を結び、内戦が終結。コカを栽培していた農家らには別の作物への乗り換えが促され、コロンビア中部の一部ではいったんはコカインの生産が落ち込んだ。

 

しかし報告書によるとその後、コカ栽培は再び増加に転じている。これは、以前はFARCが支配していた主に都市部から離れた地域に犯罪組織が入り込み、新たな畑でのコカ栽培が増えているためだという。 【626日 AFP】

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【和平合意に従わないFARC残党も】

コロンビアの治安状況全般はよくありません。

 

****1日当たり33人が殺された 2018年コロンビア****

コロンビア法医学協会はコロンビアの治安に関する年次報告を火曜日に発表しています。法医学協会の会長クラウディア アドリアナ デル ピラールは、2018年は1日当たり33人が殺害されていると語っています。

 

報告によれば、2018年にコロンビア国内で殺害された人数は前年2017年の1万1373人より6,7%増えて1万2130人となっています。(後略)【626日 音の谷ラテンアメリカニュース】

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また、上記によれば、「2019年世界平和度指数」(どんなものかは知りません)で、コロンビアは163カ国中143位で、144位の破綻国家ベネズエラと(平和度では問題が多い国がひしめく)ラテンアメリカ諸国の最下位を争っている状況のようです。

 

コロンビアに関して特に関心が持たれるのは、和平合意した左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)の状況がどうなっているのか?という点ですが、大手メディアの報道では最近そのあたりの記事は目にしていませんので、よくわかりません。

 

昨日の【音の谷ラテンアメリカニュース】では、以下のような情報が。

 

****Farcゲリラ724人が行方をくらます コロンビア****

ここ数週間にわたりコロンビア政府・国連・人民革命代替勢力(Farc)は、行方をくらました724人の元Farcゲリラの捜索を行っています。

 

コロンビア政府高等平和委員ミゲル アントニオ セバジョスは逃亡者の名簿を受け取っています。

 

政府関係者はEL TIEMPO紙の取材に対し、行方をくらましているのは下士官クラスと平ゲリラで、その行方は和平合意後に合法政党に生まれ変わったFarcも把握していないと語っています。

 

彼らは戦闘訓練を受けた武器の取り扱いにたけた者たちであり、犯罪組織に加わると非常に危険な存在になると懸念されています。【625日 音の谷ラテンアメリカニュース】

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FARC内部に和平方針に反対する勢力があることは以前から指摘されているところですが、なかなか厄介な状況でもあるようです。

 

5月には、下記のような事件も。

 

****FARC残党か、映像作家殺害=ドキュメンタリー制作中―コロンビア****

コロンビア北東部アラウカ州にある対ベネズエラ国境の町アラウキタで9日、半世紀に及んだ内戦のドキュメンタリーを制作中の映像作家が何者かに撃たれて死亡した。州知事は、最大のゲリラ組織だったコロンビア革命軍(FARC)の残党の犯行と非難している。(後略)【511日 時事】 

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【コカに代わるコーヒー栽培も不振】

一方、FARCが合法政党に衣替えしても、“以前はFARCが支配していた主に都市部から離れた地域に犯罪組織が入り込み、新たな畑でのコカ栽培が増えている”という状況で、コカ栽培は減らないようです。

 

また、コカに代わって農業を支えることが期待されているコーヒー栽培も価格暴落で困難になっており、農家をコカ栽培に走らせることにもなっています。

 

****最高級コーヒー豆、利益は12円以下 価格暴落に苦しむ農家 コロンビア****

コロンビア西部の緑豊かな山岳地帯では最高級のコーヒー豆が栽培されているが、地元の生産者は不公正な価格にいら立ちを募らせている。

 

コーヒー豆の価格を決めるのは、ここから遠く離れた米ニューヨーク証券取引所。業界に打撃を与える値崩れが起きているのは、市場最安値にまで価格を押し下げている投機家のせいだと農家は非難する。

 

生産者の一人であるグスタボ・エチェベリさんは、コーヒー豆農園が集まるこの山の住民約15000人の多くは不満を抱いていると話す。

 

「フェアトレード」認証されたコーヒーとは程遠いと地元の農家は言う。フェアトレード認証を受けているコーヒーは、公正な条件の下で栽培され、農家が搾取されていないことを保証する商品として国際的に認証されている。

 

サントゥアリオ村周辺では、別の作物への切り替えを余儀なくされた生産者もいる。

 

昨年は国際取引価格の暴落に加え、害虫被害による品質低下にも見舞われ、栽培者らは生産コストを下回る価格で販売せざるを得なかった。

 

112.5キロのコーヒー豆を生産するには22ドル(約2400円)のコストがかかるが、エチェベリさんのコーヒー豆の卸値は1袋当たり平均21ドル(約2300円)だ。

 

ラモン・ヒメネスさん一家も、近くのサンアントニオ農園で3世代にわたりコーヒー豆を栽培しているが、孫のハビエルさんは、「父や祖父の後継ぎとして農場を経営しようと思っていたが、こんな状況が続くようなら他の仕事に目を向けないと。米国に行く方がいいのかも」と語った。

 

コロンビアは、コーヒー豆の生産量がブラジルとベトナムに次いで世界3位となっている。高品質の生豆の生産においては首位を誇る。また54万世帯がコーヒーに関わる仕事で生計を立てており、輸出に占めるコーヒー豆の割合は石油や鉱物を抜いてトップとなっている。

 

■「コーヒー農園売ります」の広告に震え上がる地元

だがサントゥアリオでは、コロンビアコーヒー生産者連合会の事務所に掲示された「コーヒー農園売ります」という広告に、地元生産者らは震え上がっている。

 

経営を続けるため、エチェベリさんのように観光客に農場を開放した経営者もいる。

コロンビアで半世紀にわたって続いた内戦で、大勢の住民がこの山岳地帯を去った。サントゥアリオのエベラルド・オチョア市長は、コーヒー栽培が危機に陥るたびに人口が流出すると嘆く。

 

2016年、コーヒーの国際基準価格は、1ポンド(約450グラム)当たり1.5ドル(約162円)から1ドル(約108円)未満に急落。史上最も大きい下げ幅を記録した。

 

国際コーヒー機関によると、20182019年のコーヒー豆の生産量は、160キロで換算した場合、16700万袋になる見通しで、世界全体の消費量16500万袋を上回る。(後略)【68日 AFP】

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一次産品価格が相対的に下落傾向にあるのはコーヒーに限った話、現在に限った話でもなく、昔から多くの発展途上国のテイクオフの足かせとなっている経済要因です。

 

“高級店では1ポンドの生豆から55杯分のコーヒーを作れるが、豆の買い取りを行うグローバル企業が生産者に支払う額はわずか90セント(約97円)だという。つまり生産者の利益は、1杯当たり1.6セント(約1.7円)ということになる。「1983年に比べると4分の1だ」”【同上】とも。

 

消費者としては複雑なところもありますが、市場原理というのはそういうものでもあります。

そこを改善しようというのが「フェアトレード」という発想ですが、どうでしょうか?よく知りませんのでパス。

 

【武装組織と政府軍に分かれて銃口を向けあう農村貧困層の若者 「またコカを摘むしかない」という現実】

結果的に、農家はなかなか違法なコカ栽培から抜け出せないという状況にもなります。

 

****コカイン栽培へと流されるコロンビアの住民たち****

コカインの原料となるコカの葉は南米原産の植物でアンデス山脈に暮らす先住民族は医療や儀式に用いてきた。(中略)

 

コカはその民族にとって、肉体や精神、空間を「良い」状態に保つための大切な植物だ。コロンビアで違法とされるコカ栽培は「先住民族居住区」内に限り、伝統活動として一定量の栽培が認められている。

 

しかし、近年蔓延する貧困から、栽培が認められていない地域でも違法的な形で麻薬産業が広まった。貧困と麻薬産業に振り回される先住民族の青年の話をしたい。

 

届いた1通のメール

「日本で働きたい」 昨年、コロンビアに暮らす友人からメールが届く。彼はマウロという26歳の青年だ。(中略)「元気かい?オレ、どうしても日本で働きたいんだ。どんな仕事でもする。面倒なこと言ってごめんな。でも、こっちには仕事がないんだ」

 

コーヒー生産地でのコカ栽培

マウロが暮らすのはコロンビア南西部カウカ県の山岳地帯で、コーヒー産地として知られている。家族単位でコーヒー栽培を営む住民が多い。

 

コーヒーは住民の貴重な収入源だ。マウロの家では曽祖父の世代に始まった。(中略)

 

近年、トウモロコシや豆類の価格が安い輸入作物の影響もあって下がり、収入の柱であるコーヒーも価格変動や病害のため不安定になった。その中でコカがより安定した収入源として生活に結びついた。

 

コーヒーの農閑期に近隣のコカ栽培地へ収穫の出稼ぎに出る人が増え、自家消費向けの作物からコカに転作する人も現れた。

 

将来の夢を描けずにいる若者がいる

マウロは都市の大学進学を夢見ていた。彼が暮らす山は反政府ゲリラが強く、政府軍との衝突が頻発し、日常的な銃声と暴力に恐怖を感じながら彼は育った。広まるコカが暴力と繋がることも知っていた。

 

この集落では過去に、麻薬組織から地域の自立を目指した住民運動の中心人物が暗殺されている。コカに頼る現状に後ろめたさを感じる人は多い。

 

深い山に閉ざされた土地で、暴力の恐怖を感じながらコカを摘む。マウロにとって都会での生活は、閉塞感を抱える故郷から飛び出し、世界の広さを実感するための一歩だった。マウロは努力の甲斐あり国内第2の都市メデジンの大学に入学する。この時彼は「心理学を勉強するんだ」と生き生きと希望を語っていた。

 

大学生活はマウロの姉が学費と生活費を支援した。彼女は住民によるコーヒー生産者組合で事務職に就き、毎月の一定の収入を得ていた。(中略)だが無理をしていたのだろう。入学から1年後に仕送りは止まってしまう。費用を賄えずマウロは大学を休学し実家に帰る。日本にいた私はマウロからのメールで休学の話を知った。

 

「コカを摘むしかない。それでお金を貯めてまた大学に戻れたら」投げやりとも感じた彼の言葉から苛立ちが伝わってきた。

 

その後、マウロは大学を中退したと彼の姉の知らせがあった。(中略)

 

「私の村には将来の選択肢がなかった」 農村の若者を取り込む武装組織

マウロのように、経済的な理由などで進路を閉ざされた農村の若者を武装組織は取り込んだ。2017年、反政府ゲリラFARCを取材した際、戦闘員は農村出身者が多数を占め、先住民族、アフリカ系も多かった。彼らにFARC入隊の動機を聞くと、ある男性戦闘員は「私の村には将来の選択肢がなかった」と話す。

 

彼は幼い頃、家のジャガイモ畑を手伝うため小学校を卒業できなかった。いくら働いても生活は良くならない。何かを変えたくても勉強もできずお金もない。

 

彼が19歳のときFARCが村に現れた。彼らは住民に、農村の貧困はコロンビアの差別的な社会構造に原因があると説明し、不平等な社会を変えるには革命が必要だと説いた。「革命を起こし社会を変える」という物語は、くすぶる青年の心に響いた。身体の奥から湧き上がる衝動のままに彼はFARCへ入った。

 

また先住民族である別の青年は、幼い頃に受けた町での差別が動機となった。町では山に暮らす先住民族に対し、言語や習慣の違いを嘲笑う場面が日常的にあったという。幼い彼の心に悔しさと羞恥が焼き付いた。彼はゲリラになることで「違う自分になれる気がした」と振り返る。

 

農村出身者の就職先として政府軍がある。お金を稼ぎたい、未来を切り開きたいという若者が持つエネルギーの受け皿として武装組織が役割を果たした面がある。

 

この両組織に関する2つの統計がある。

1つは2017年にFARC構成員約1万人の出身地域をコロンビア国立大学の調査したもの。構成員の66%が農村出身者だ。(中略)

 

もう1つは政府軍兵士の出身階層だ。コロンビアの情報サイト「Los 2 Orillas」によれば、政府軍兵士の80%が貧困層出身であり、中流階層19.5%、上流階層0.5%となる。貧困層の割合が圧倒的に高い。

 

コロンビアの貧困は年々改善されているが、今も農村の3割以上が、ひと家族が生きるために必要とする最低限の食料、教育、医療などを賄える収入以下で生活する「金銭的貧困(Pobreza Monetaria)」状態にあるという。

 

特に開発から取り残される傾向が強い先住民族やアフリカ系住民が暮らす地域でその数字が高い。(中略)

 

貧しい農村の若者が、選択肢のない中で新しい未来を切り開こうと麻薬産業に加担する。そこで銃口を向け殺し合うのも同じく周縁化された社会に属する若者だ。麻薬・紛争という社会が抱え続ける問題を彼らが一身に引き受けている。

 

再び閉ざされる未来、青年のその後

ウロが実家に戻り1年後に再び彼を訪ねると実家のコーヒー畑を手伝っていた。そこで私は嬉しい知らせを聞く。ある農業学校の奨学生に彼が合格したのだ。(中略)

 

夢を語る彼の姿は自信に満ちていた。

だが、その夢も閉ざされようとしていた。20181月にコロンビアで彼を訪ねると、やっと得た仕事が期間を延長されずに終了したという。次の仕事はその土地にはもうなかった。「またコカを摘むしかない」。ようやく差しかけた光を見失いかけていた。

 

「日本で仕事を探したい」という彼のメールが届いたのは、20182月に私が帰国して間もなくだった。(中略)

 

コロンビアから日本へ

(中略) 日本での1グラムあたりの末端価格が2万円以上とされるコカインは、その高額さから「セレブのドラッグ」と呼ばれているという。一方で、山岳部のわずかな土地を切り開きコカ栽培をする零細農家のひと月分の収入は、コロンビアの最低賃金と同程度の3万円前後。末端の生産者が必死に働きようやく手にすることができるのが、1グラムのコカインをわずかに上回る金額なのだ。

 

日本の薬物問題はコロンビアと直接関係はない。(中略)だが、両者は生産者と消費者という密接な関係で繋がっている。

 

テレビやインターネットでは、次々と話題にあがる薬物使用のニュースが日々消費されていく。だが、そんなこととは関係なく、コロンビアのある地域では今日も、明日の糧を得るためにコカの葉を摘む人々が汗を流している。【618日 WEDGE

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コメント
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アメリカ世論が嫌うイランを相手に繰り広げられる“ドナルド・トランプ・ショー”

2019-06-25 23:25:41 | イラン

40年前の1979年に起きた、在イラン、アメリカ大使館人質事件 目隠しをされ人質となったアメリカ大使館員ら【625日 NHK】)

 

【「10分前の中止」という“寸止め”パフォーマンス】

イランのアメリカ無人機撃墜への報復として、アメリカ・トランプ大統領がイランへの攻撃を承認した後、攻撃10分前にこれを中止したことは報道のとおり。

 

トランプ大統領は、攻撃前に150人の犠牲者が出るという話を聞いて、無人機撃墜の報復としてはバランスを失していると判断して中止したといったことを語っていますが、これはウソでしょう。

 

戦争状態にはまだない相手への警告等の意味合いの攻撃を行う場合、互いに後にひけなくなくなる人的被害を最小限にとどめるように攻撃対象を限定・選定することは常識であり、イランへの攻撃が協議された際には、真っ先に人的被害の規模について確認がなされたはずです。承認されたのちに大統領から聞かれて初めて明らかにするなんて話は絶対にありえません。

 

ではなぜトランプ大統領はいったん承認した攻撃を中止したのか?・・・・もちろん本人以外はわかりません。

 

いったんは承認したものの、本格的戦争に発展しかねないリスクの重圧を感じて心変わりしたのか?

あるいは、最初から「10分前の中止」という“寸止め”パフォーマンスを予定しており、当初の承認はそのための演出だったのか?(最初から実行する気はなかったので、150人もの人的被害を伴う大規模な攻撃がいったんは演出されたのか?)

 

この「10分前の中止」の評価はいろいろあるでしょうが(オバマ前大統領が同じことを行えば、トランプ氏は「弱腰だ!」「優柔不断だ!」と大騒ぎするでしょうが)、イランに対しても、世界に対しても、生かすも殺すもトランプ氏の心ひとつだということを改めて見せつける効果はあったでしょう。

 

また、よく言われるトランプ大統領の特徴である、何をするかわからないという「予見不能」な側面を、強く印象づけることにもなりました。

 

【「横綱の品格」を無視した「大国」アメリカのトランプ外交】

そうした「いつ攻撃が行われるかわからない」という軍事的圧力をイランに意識させながら、最高指導者ハメネイ師を制裁対象とするなど、イランへの制裁を容赦なく強めています。

 

****米、イラン最高指導者に経済制裁 「外交を軽蔑」とイラン反発****

アメリカのドナルド・トランプ大統領は24日、イランに対し強硬な追加経済制裁を科すと発表した。同国の最高指導者アリ・ハメネイ師も対象にするとしている。

 

トランプ氏は追加制裁について、イランによる米軍の偵察ドローン(小型無人機)の撃墜と、「他の多くのこと」を受けたものと説明した。

 

ハメネイ師を対象とすることについては、「イラン政権の敵対的行為に対する最終的な責任がある」ためと述べた。

 

幹部8人も対象に

BBCのバーバラ・プレットアッシャー米国務省担当編集委員は、イランの政治と軍事に関して決定権をもつハメネイ師は巨大な経済力ももっており、その最高指導者に経済制裁を科すことは大きな意味をもつと分析する。

 

また、すでにイランに経済制裁を科しているアメリカは、さらに厳しい追加制裁をすることで、同国がイランに求める核開発の中止やミサイル製造の制限などにイランを応じさせるのが狙いだという。

 

米財務省によると、追加制裁は「イラン革命防衛隊の敵意に満ちた地域的活動を監督している官僚組織の上層部」に属するイラン幹部指揮官8人も対象にしているという。

 

また、追加制裁により、「イラン指導者の経済資源へのアクセスを禁止するとともに、最高指導者や最高指導部に指名された特定の政府関係者たちも対象になる」と説明。イランによる外国の金融機関を通した取引も禁じるとしている。

 

これに対し、イランのジャヴァド・ザリフ外相はツイッターで、アメリカは「外交を軽蔑している」と反発。トランプ政権について「戦争を渇望している」と批判した。

 

一方、スティーブン・ムニューシン米財務長官は、ザリフ氏も今週内に経済制裁の対象になると述べた。(後略)【625日 BBC】

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力が相対的に劣る国は、芝居がかったスタンドプレー、道化じみた行動、いら立たせるような主張、あるいは民衆の怒りを利用するが、およそ「大国」「覇権国家」たるものは抑制的に振る舞い、世界が理解できるように予見性があり、国際社会に責任を負いながら「力の劣った国」の見え透いた行動を超越することで力を示す・・・・そういう考えが外交の「常識」とされてきました。

 

「大国」アメリカには「横綱の品格」が求められているとも言えるでしょうか。

 

横綱ということでは、白鵬の「張り手」「かち上げ」が昨年話題になったことがあります。

 

****白鵬の張り手やかち上げは禁じ手か****

大相撲名古屋場所は8日、ドルフィンズアリーナで初日を迎える。最近、やり玉に挙げられているのが横綱白鵬の張り手やかち上げ。反則技でもない取り口は、それほど批判されることなのだろうか。

 

白鵬は5月の夏場所も、張り手を何度か見せて物議を醸した。昨年末には横綱審議委員会からも苦言を呈されている。

 

過去には白鵬のかち上げで相手力士が脳振盪(しんとう)を起こしてひっくり返ったこともあるし、白鵬の張り手やかち上げを汚いとか醜いと感じる人もいるかもしれない。やる回数が多いことに不満を持つ人もいるだろう。

 

見方は人それぞれ。しかし、長年相撲を取ってきた者からすれば、ひどい取り口とも思えないし、封印を余儀なくされるのはどうかと思う。

 

相手をわざと痛めつけているのであれば問題だ。ただ勝負は甘い世界ではないし、相撲のルール上やってはいけないものでもない。(中略)普段から頭と頭がぶち当たるような稽古をしていれば、そんな張り手くらいで倒れることもないだろう。やられたら逆にやり返すくらいの気持ちで白鵬に立ち向かっていけばいい。

 

若手に感じられぬ闘志や気概

かち上げや張り差しをする方からすれば、失敗したら逆に相手に踏み込まれて一気に押し出されてしまうリスクがある。

 

張っていけば当然脇があくし、かち上げるときに背中が伸びてしまうことだってある。その隙を突いて、立ち合いから恐れることなく白鵬に強く当たっていけばいいし、立ち合いのタイミングをずらしたっていい。

 

だが、今の若手は何の対策もなく、相撲にならないことが実に多い。(後略)【201876日 元大関魁皇 日経】

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アメリカ・トランプ大統領は、横綱にありながら、「張り手」「かち上げ」はもちろん、「猫だまし」だろうが、立ち合いの変わり身だろうが、何でもあり・・・というところでしょうか。

 

相手の弱点を嗅ぎつければ、そこをグイグイ攻め立てることも厭いません。

 

【大衆の関心を引き付ける“ドナルド・トランプ・ショー”】

それが悪いのか?

少なくとも、世界の耳目を「トランプ劇場」に集めることには成功しています。

 

****トランプ氏が仕掛けるイラン劇場****

ドナルド・トランプ米大統領の先週末にかけてのイラン政策は、場当たり的であり、巧みでもあった。

 

トランプ政権の戦争への傾斜を目にしたハト派と孤立主義者らは一時パニックに陥ったが、その後、軍事攻撃が取り消されたとの発表に歓喜した。

 

一方でタカ派はオバマ前政権風の譲歩だとしてトランプ氏を批判したが、イランへのサイバー攻撃や制裁強化の公表がその怒りを静めるのに役立った。

 

その結果は何か。トランプ氏は米国のイラン政策における支配力をさらに強化した。政権内外の対立派閥は同氏の支持を得る策を練らざるを得なくなったのだ。そして、トランプ氏がイランについて発言やツイートを重ねれば重ねるほど、同氏の真意はより分かりにくくなる。

 

こうした展開に意外感はない。対中貿易やメキシコ経由の移民の問題、ベネズエラや北朝鮮、そして現在のイラン問題に至るまで、一貫性がない対応は一貫しているからだ。つまりトランプ氏は、どの歴代大統領よりタカ派的な時もあれば、ランド・ポール上院議員を興奮させるほどにハト派的な時もあるのだ。

 

トランプ大統領は、何よりもまずショーマンなのだ。ニューヨークで不動産取引を行っていたキャリア初期の1970年代からテレビのリアリティー番組の司会者時代、第3のキャリアである政治家時代を通じ、常に名声の力を理解し、うまく利用してきた。

 

つまり、米国の政治をドナルド・トランプ・ショーに変えたのだ。米国も世界も、トランプ氏の一挙手一投足にくぎ付けとなり、次の展開の予想に夢中になっている。

 

上空から降り注ぐ破壊的攻撃の脅しをツイートし、戦争の惨禍をぎりぎりのタイミングで回避し、一連の重要な首脳会談の舞台演出を行うといった行動のどれもが、世界がこれまで目にしたことのない迫真のリアリティーショーとなっている。

 

これが米国の外交政策を助けるか、それとも傷つけるかは別の問題だ。

 

しかし、北朝鮮の核問題など、解決困難な外交問題をトランプ氏の宣伝マシンの材料に変えたことは、国家戦略上の勝利ではないとしても、マーケティング巧者の勝利を意味する。

 

未解決の外交問題は通常、大統領の人気を下押しする。しかし、トランプ氏の場合、それはドラマとサスペンスを提供する筋書きとなる。金正恩朝鮮労働党委員長がレモンを提供し、それをトランプ氏がレモネードにして売るといった具合だ。

 

トランプ氏に批判的な人々は、同氏が米国および世界の政治を支配しているにもかかわらず、ケーブルテレビ(CATV)に取りつかれた何も知らないナルシシストだとして非難し続けている。

 

こうした人々が見逃しているのは、トランプ氏がメディア報道を支配する本能的な力を有しているだけでなく、パワーに関する鋭い判断力も持つことだ。

 

ロサンゼルスの社交界は、政治的なパワーに憧れを持つ世界的セレブであふれている。ハリウッドがトランプ氏を毛嫌いする理由の一つは、トランプ氏がロナルド・レーガン氏と同様にショービジネスの世界を超え、セレブとしての力を本物の力に変えているからだ。

 

トランプ大統領のイラン政策のカギは、いわゆる外交政策通が思っているよりもイランは弱く、米国が強いことをパワーに対する嗅覚から感じ取ったことにある。

 

トランプ氏の見方からすると、オバマ前大統領が結んだ核合意は、ジョン・ケリー氏(当時の米国務長官)よりはるかに賢いイランの交渉担当者による信用詐欺がうまくいった結果だ。トランプ氏が望むのは、自身がかぎ取った2国間の力関係に合致するイランとの取引だ。

 

この目標を追求するため、トランプ氏は2つの戦略を組み合わせている。

 

パブリック・ディプロマシーのレベルでは、人々を驚嘆させ、話を盛るという常とう手段を用いている。血も凍るような脅しを必要に応じて甘いささやきに切り替えるのだ。

 

パワー・ポリティクスのレベルでは、一貫してイランへの圧力を強化し続けている。イランの近隣国に武器を供与したり米国の支援を約束したりする一方、イランには制裁を強化して心理的な圧力を強めている。

 

トランプ氏は自身が進めるイラン政策が制約の下にあることを十分理解している。新たな中東戦争を引き起こせば政権が大打撃を受ける恐れがある。

 

しかし、もしイラン側が戦争を仕掛ければ別の問題だ。米国あるいはイスラエルを標的とする明確なイランによる攻撃であれば、真珠湾攻撃が米国の民主主義支持者を帝国主義の日本と戦うために団結させたように、トランプ氏の支持基盤を固めることになるかもしれない。

 

1941年当時、米国民は戦争を望んでいなかった。フランクリン・ルーズベルト大統領(当時)は日本に壊滅的な影響をもたらす経済制裁を課し、日本に対してアジアからの撤退か米国との戦争かの選択を迫った。

 

トランプ氏はイランも同様に追い詰めることが可能で、かつ制裁で弱体化したイランが戦争より後退を選択すると信じている。

 

米国の外交政策に関するトランプ氏のアプローチは、抑制、予見性、責任が国際的な覇権国家の特徴と考えるエスタブリッシュメント層を強く懸念させるものだ。力が相対的に劣る国は、芝居がかったスタンドプレー、道化じみた行動、いら立たせるような主張、あるいは民衆の怒りを利用する。一方で覇権国家はこうした見え透いた行動を超越することで力を示す。

 

それはトランプ流のアプローチではない。攻撃的でけんかっ早いトランプ氏は国内政治で使うのと同じ手法を外交政策でも使う。こうした手法が継続的な成功をもたらすのかどうかはまだ分からない。

 

しかし、注目を奪うイベントで大衆の関心を引きつけるのは、古代ローマ時代から力をもたらすための定石だったことを忘れるべきではない。【625日 WSJ】

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問題は、こうした“ドナルド・トランプ・ショー”が一時的な成果を勝ち得たとしても、長期的に見た場合、アメリカの外交政策を助けるか、それとも傷つけるか、世界の安定・平和に寄与するかどうかです。

 

個人的には、その点に関しては強い懸念を感じていますが、そのことは今回はパスします。

 

【アメリカ世論のトラウマとなったテヘランのアメリカ大使館人質事件】

相撲の「張り手」「かち上げ」同様に、派手な“ドナルド・トランプ・ショー”にもリスクが伴います。意図したように進まないと、自ら演出した言動で出口が見つからず立ち往生することにもなりかねません。

 

そうしたリスクはあるものの、イランを舞台にした“ドナルド・トランプ・ショー”がアメリカ国内で効果的なのは、アメリカ世論がイランを毛嫌いしているからでもあります。

 

****アメリカはなぜイランを嫌うのか****

緊張高まるアメリカとイラン。今週、大阪で行われるG20サミットでも主要議題となる見通しです。イランを「世界最大のテロ国家」と呼んで敵視し、軍事、経済、政治のあらゆる面で圧力を強め続けるトランプ政権。アメリカは、そもそも、なぜそこまでイランを敵視するのでしょうか。

 

アメリカとの戦争に最も近い国

「ここ2、3年の間に、アメリカとイランは戦争になると思いますか?」 アメリカで、5月に行われたある世論調査の質問です。「戦争になりそう」と答えた人の割合は、実に51%。半数を超えるアメリカ人が、イランとの戦争が現実味を帯びていると感じているのです。

これは、対北朝鮮、対ロシア、対中国を上回っています。また、別の調査では、アメリカ人の8割以上が、イランに対して否定的な見方を持っていることもわかりました。

 

40年前のある事件

その背景に何があるのか。アメリカの人たちと話していると、よく話題になる事件があります。40年前の1979年に起きた、在イラン、アメリカ大使館人質事件です。

 

イランではアメリカ資本を導入し、親米路線をとっていた国王の体制に国民が反発し、イスラム革命を起こして、王政を打倒します。そして、ホメイニ師を最高指導者とするイラン・イスラム共和国が樹立されました。

 

その年の11月、ホメイニ師を熱狂的に支持する学生たちが、首都テヘランのアメリカ大使館を占拠し、亡命した国王の身柄の引き渡しを求めて大使館の職員などを444日にわたって拘束したのです。これがきっかけとなり、翌年、両国は国交を断絶。いまも続いています。(中略)

 

この事件は、カラーテレビが普及していたアメリカで連日、大きく報じられ、衝撃を持って受け止められました。(中略)イランに対する嫌悪感を植え付けた出来事だったと多くの専門家が指摘しています。(中略)

 

トランプ政権のねらいは

トランプ政権のねらいはいったいどこにあるのか。(中略)

 

記者:トランプ政権が考えているのは、イスラム体制を転換させることなのでは?
(国務省でイラン政策を統括する)フック氏:われわれが求めているのは、イランの体制が、態度を改めることだ。イランという国家の将来を決めるのは、長年苦しめられてきたイランの国民だ。われわれはイランの国民を支持する。体制転換が目的ではない、あくまでイラン国民に寄り添っているだけだと主張しました。

 

しかし、対イラン強硬派として知られるボルトン大統領補佐官は、トランプ政権に入る前、イランの体制転換が必要だと公言していました。(中略)

 

専門家からは批判

しかし、中東の専門家からは批判も相次いでいます。

「イスラム体制は政治的にも経済的にも構造がしっかりしていて、近い将来、体制転換が起きるとは思えない。イランの態度にも大きな変化をもたらさないことは明らかで、トランプ政権に果たして戦略というものがあるのかすら疑問だ」(ジョージメイソン大学 エレン・ライプソン教授)

 

取材を通して

私は以前、中東にも駐在していましたが、イランでは、「アメリカが嫌われている」と感じる場面が多くありました。国交断絶から40年という時の流れが、お互いの不信感やそれぞれの偏った物の見方を増幅させたように感じます。そして、それを政治的に利用しようとする、双方の指導者たちの思惑も透けて見えます。(後略)【625日 NHK】

**********************

 

たった一回だけのイラン観光の印象からひとつだけ付け加えれば、イランには「アメリカに死を!」と叫ぶ人々もいますが、街中にコカコーラが溢れているように、一般市民はアメリカ文化をそんなに嫌悪してはいないように感じました。

 

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エチオピアでクーデター未遂事件  ノーベル平和賞最有力候補アビー首相の進める改革への抵抗か

2019-06-24 22:14:42 | アフリカ

(エチオピアのアビー首相【6月24日 CNN】

(首都アディスアベバにおいて「暴力のない生活へ」というテーマで開催された女子マラソンの参加者 【2018年9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】 前回ブログでも使用した画像ですが、エチオピアの明るい将来を期待させますので再掲しました。)

【クーデター未遂 エチオピアの安定化と改革を目指すアビー首相にとって新たな打撃となるか?】

数日前の619日ブログ“人口分布的に世界の中心となるアフリカ 未だ遠い平和と安定 西アフリカのマリ・ブルキナファソでは”でアフリカのネガティブな側面を取り上げましたが、そのなかで“明るい話としては、東アフリカ・エチオピアのアビー首相が、国境線を巡り紛争に発展した隣国エリトリアとの関係正常化に尽力していることでしょうか。”と書いたように、アビー首相率いるエチオピアの改革は明るい側面の代表でもあります。

 

アビー首相はノーベル平和賞の最有力候補とも目されています。

 

****平和賞、エチオピア首相が最有力 ノーベル賞予想****

「ノーベル平和賞ウオッチャー」として知られる国際平和研究所(オスロ)のウーダル所長は15日までに、今年の平和賞受賞者予想を発表、有力候補のトップにエチオピアのアビー首相を挙げた。国境線を巡り紛争に発展した隣国エリトリアとの関係正常化に尽力したことが評価に値するとした。

 

ミャンマーでロイター通信記者が国家機密法違反罪に問われるなど、世界各地で報道の自由を脅かす動きが見られる中、有力2番手に国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」を選んだ。【216日 共同】

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ほかにノベール平和賞候補として名前があがっているのは、2015年の夏から登校拒否をし、「気候変動のための学校ストライキ」と書かれたプレートを掲げ、一人っきりで議会前に座り込む抗議活動を始めた(当時15歳)スウェーデンの女子高生グレタ・トゥーンベリさんや安倍首相が推薦するトランプ米大統領など。

 

そのエチオピアでクーデター未遂事件が報じられています。

 

****エチオピアでクーデター未遂、陸軍参謀総長ら4人死亡 自身の護衛に撃たれる****

アフリカ東部のエチオピアでクーデター未遂が起き、陸軍参謀総長ら4人が死亡した。首相府が23日に確認した。

事件は22日、北西部アムハラ州の州都バハルダールで発生。州の行政トップと州政府顧問の2人が射殺された。首相府によれば、州の司法長官も重傷を負い、病院で手当てを受けている。

 

一方、首都のアディスアベバでは陸軍の参謀総長と元少将が殺害された。現場は参謀総長の自宅で、自らのボディーガードによって射殺されたという。

参謀総長は殺害された当時、アムハラ州での事件の対応を指揮していた。

 

アビー首相は今回のクーデター未遂について、アサミネウ・ツィゲという名の准将とほか数名によるものだと主張した。この人物は刑務所に収監されていたが昨年恩赦を受けて釈放され、アムハラ州の行政機関の責任者に就任していた。

 

首相府の声明によれば、アムハラ州の現状は連邦政府によって完全に掌握されている。22日に軍服姿でテレビの記者会見に臨んだアビー首相は、クーデター未遂を引き起こしたのは「いかなる民族集団でもなく、悪意を抱く複数の個人だった」との見方を示した。

 

国内最大の民族オロモ族出身者として昨年初めて首相に就任したアビー氏は改革路線を進めてきたが、民族間の対立は依然として続いている。

 

AFP通信によれば、民族同士の衝突が原因でこれまで100万人を超える人々が住む家を追われているという。【624日 CNN】

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事件が起きたアムハラ州は、エチオピアに九つある州の一つで、2番目に人口が多い州で、首謀者とされる州治安部隊司令官は2009年にも反乱未遂を起こしているとも。【623日 時事より】

 

「いかなる民族集団でもなく、悪意を抱く複数の個人だった」とのことですが、アビー首相が進める改革に対する抵抗が存在するのは容易に想像できるところで、そうした動きとの関連は現在のところよくわかりません。

 

****改革派首相に新たな打撃****

アビー氏は2年にわたって政情不安が続いた後の20184月に首相就任。それ以来、過去の首相たちによる強権的な支配を終わらせたと称賛されてきた。

 

アビー氏は経済改革に着手し、反体制派の帰国を認め、人権侵害の取り締まりを目指し、軍や情報部の幹部数十人を逮捕した。さらに、長年にわたり対立してきた隣国エリトリアとの平和宣言にも調印した。

 

しかし1億人以上の人口を抱える多民族国家エチオピアでは、主に土地や資源をめぐって民族間の対立が深まっており、死者を伴う衝突も発生。アビー首相はこうした問題に苦慮している。

 

民族間の衝突で、これまでに100万人以上が家を追われた。

専門家は衝突の原因について、かつて全権力を握っていた与党エチオピア人民革命民主戦線の弱体化や、政権移行によって生じたチャンスを利用しようとするさまざまなグループの存在などを挙げている。

 

昨年6月には、アビー首相が演説した政治集会で手りゅう弾が爆発し、2人が死亡する事件も起きた。

 

エチオピアの安定化と改革を目指すアビー首相にとって、今回のクーデター未遂は新たな打撃となった。 【624日 AFP】

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【多い課題 改革にはつきものの抵抗も】

アビー首相の進める改革については、20181015日ブログ“エチオピア  民族間の融和、エリトリアとの関係改善、経済活性化・・・期待されるアビー首相の改革”でも取り上げましたが、なにぶん情報が少ないエチオピアでの話ですので、その後の状況についてはよくわかりません。

 

人口的には多数派であるオモロ族からの初めての首相となったアビー首相が登場して改革の乗り出した経緯や直面している課題については、以下のようにも。

 

****エチオピア大改革:アビー新首相は救世主となれるか****

(中略)エリトリアは穏便にエチオピアから独立したはずであったが、国境線の画定、貿易や外交などを巡って関係がこじれていった

 

1998年、国境地域のバドメ地区の領有権を争いエリトリアとの武力衝突が全面戦争に発展した。このエチオピア・エリトリア国境戦争により、少なくとも7万人が亡くなった。

 

アフリカ統一機構(OAU)の調停による停戦が行われ、平和維持部隊(PKO:UNMEEが国境線付近に派遣された。

 

第三者の国境委員会によりバドメ地区がエリトリアに帰属することが決まったが、エチオピアがこれを受け入れず実行支配を続けた。その為、これ以降もエリトリアとの対立は続き、2018年まで国交断絶状態が続いた。

 

メレス政権に移った後も国内で様々な対立は続いていた。与党のEPDRFはティグレを代表するTPLFとオロモ人民民主機構(OPDO)に加えてアムハラ民族民主運動(ANDM)、南エチオピア人民民主運動(SEPDM)の4つの組織から構成されている与党であるが、実際は人口の6しかいないTPLFのティグレ勢力が実質的に政治を支配しており、オロモ州、オガデン地区、アムハラ州では政府による多くの人権侵害が続いていた。

 

これにより、オロモ州だけでも、2017年までに少なくとも700人が殺され、数千人が投獄された。

 

さらに、政府与党EPRDFは、オロモ州に囲まれた首都アディスアベバの拡大を2014年に発表した。こうした政策に対して、人口がもっとも多いオロモ州では、さらに不満を募らせ、政治的自由や社会的平等を求める反政府デモはさらに激化していった。

 

アビー首相の誕生

2012年、メレス首相の死去により首相の座を引き継いだSEPDMを代表するハイレマリアム・デザレン首相は、こうしたオロモ州とアムハラ州、オガデン地区を中心とした反政府運動の高まりを受け、政治犯の解放や拷問を行った刑務所の閉鎖を行うことで鎮静化を図った。

 

しかし、相次ぐ再逮捕により反政府勢力との溝を埋められず、自身の政治改革や経済改革も与党内でティグレ勢力によって阻まれたハイレマリアム首相は、2018年に辞任を発表した。

 

そして、その後任として初オロモ州出身首相となったのがアビー氏であった。アビー首相は、オロモ出身だけでなく、ムスリムの父とキリスト正教会の母を持ち、与党を構成する民族のオロモ、アムハラ、ティグレの言語を話すことができるという多様なバックグラウンドがある。

 

4月の就任演説では、過去の政権による反政府勢力の殺害を謝罪し、国民が政府に異議を唱えることを歓迎するなど民主主義への姿勢を示した。

 

このように、アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている。どのように様々な問題を解決しようとしているのだろうか。アビー首相の改革について詳しくみていく。

 

アビー改革は政治問題の解決となるか

初のオロモ出身首相であるアビー首相の誕生は、オロモでの政治的不満に対する鎮痛剤の役割を果たした。彼は、オロモの民衆の不満の原因となっているティグレが支配する政治の改革を進めようとしている。

 

加えて、権力独占が再び起こらないようにするため、首相に任期制限が適用されるように憲法を修正する予定だ。これらの改革はオロモで歓迎され、不満が緩和されたことで、デモの減少や緊急事態宣言の解除につながった。

 

また、アビー首相はオガデン地区に対して、政治犯の拷問や拷問を行っていた刑務所の廃止、停戦合意を行うことで和平を目指そうとしている。これにより、長年にわたるソマリ系移民とエチオピア政府との溝が埋まることが期待されている。

 

そして、アビー首相は国外において最も対立が激化していたエリトリアとの和平にも着手した。エチオピアとエリトリアの国境争いを終わらせる歴史的な「平和と協力の宣言」を発表し、20186月エリトリアの首都アスマラにおいて、エリトリアのイサイアス大統領との会談を実現させた。

 

この会談において、バドメ地域のエリトリアへの帰属を合意が為され、和平が成立した。加えて、国交正常化も実現し、ブレなどの国境が通れるようになったことで、内陸のエチオピアはこれまでジブチからしか海にアクセスできていなかったが、エリトリア側からのルートも開かれた。

 

国境により断絶されていた家族が再会し、両国間の通話や航空便が利用できるようになるなど、その恩恵は非常に大きく、現地は祝福ムードに包まれている。また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。

 

残る課題

こうしたポジティブな報道が続く一方で、エチオピアでは解決すべき課題は多く残っている。

 

アビー首相の誕生とその改革も全国民が喜んでいるわけではない。623日、手榴弾がアビー首相の政治集会にいる群衆に投げ込まれ、1人が死亡し153人がけがを負うという事件が起こった。

 

アビーは、複数政党による民主主義の活発化を図っているが、必ずしも与党の票を維持しながら野党と仲良く共存できるとは限らない。

 

次の2020年の選挙で、予想される議席の再分配が摩擦や対立につながる可能性もある。

 

アビー首相の誕生による効果が最も期待されたオロモ州においても、問題は多く残る。オロモの人々の中にはエチオピアからの独立を目指す分離主義者も存在しており、彼らはアビー首相を裏切者だとみなしている。

 

また、亡命していたOLFのリーダーたちと1,500の兵士が9月にエチオピアに戻ったが、それにより首都アディスアベバで衝突が起こり、23が亡くなった。

 

また、法制度や警察は、長年非民主的な政権の干渉を受ける存在であったため、これらの機関が中立を保ち、法の支配を高めることが今後の課題である。

 

経済面においても海外からの多額の負債を抱えており、深刻なインフレに陥っている。これを受けて、政府は市場開放や国営企業の民営化といった経済改革に着手しており、それによって経済の活性化を成し遂げられるかが鍵となりそうだ。【2018927日 Yutaro Yamazaki氏 GLOBAL NEWS VIEW

******************

 

直面する課題は多く、どこから今回事件のような火の手が上がっても不思議ではない状況です。「改革」というのは、そういうものでしょう。

 

混迷するアフリカ諸国の政治にあっては、民主主義を体現する稀有の政治家でもあり、今後とも「改革」を進めることでアフリカのイメージを一新することを期待します。

 

【スーダン軍部の不興を買うエチオピアの民主的調停案】

なお、“また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。”とありますが、隣国スーダンでは民主化を求める勢力と軍部との犠牲者を伴う対立が続いていますが、アビー首相はその調停にも関与しています。

 

ただ、その“民主的”姿勢は権力維持を目論むスーダン軍部には不興を買っているようです。

 

****スーダン軍事評議会、AUとエチオピアに民政移管の提案統一を要請****

4月のクーデター後にスーダンを暫定的に統治している軍事評議会は23日、民政移管に向けて外交努力を展開しているアフリカ連合とエチオピアに対し、文民政権樹立までの青写真を統一するよう要請した。

 

民政移管を求める抗議デモの指導部によると、民間人主体の統治機構を設置するというエチオピアの提案に、軍事評議会側は難色を示している。

 

4月の軍事クーデターでオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が失脚したスーダンでは、実権を握った軍事評議会と、抗議デモ指導部との対立が深刻化。今月3日、首都ハルツームの軍本部前で座り込みを続けていたデモ隊を軍が強制排除し、多数が死亡する事態となった。

 

この危機を解決するため、AUとエチオピアが仲裁に乗り出している。

 

軍事評議会のアブデル・ファタハ・ブルハン議長は23日、AU、エチオピア双方の代表と面会。その後、記者会見した評議会報道官は、議長が「仲裁努力は共同提案の準備に重点を置くべきだと強調した」ことを明らかにするとともに、エチオピアの提案が遅れ、AUと異なる内容だったことを批判した。

 

民主化勢力の一派「自由・変革同盟」の指導者らは22日、エチオピアから民政移管に向けて民間人8人と軍人7人の計15人からなる統治機構を設けるとの仲裁案を提示され、受け入れたと発表していた。 【624日 AFP】

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アフリカ連合(AU)がどのような調停案を出しているのかは知りませんが、強権支配国家の多いAUですから、おそらくスーダン軍部の意向に沿った内容でしょう。

 

エチオピアが、軍部が嫌う“民間人主体の統治機構を設置するという”提案をしているあたりにも、アビー首相の民主主義を重視した改革の姿勢がうかがえます。


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高まる「核戦争」のリスク 軍拡競争は「スターウォーズ」時代へ 絶え間ない新兵器開発

2019-06-23 22:15:13 | 国際情勢

(【623日 NHK】 公開されたアメリカの「連合宇宙運用センター」 なんだか狭苦しいですね。

“連合”ということで、イギリス、ドイツ、フランスから連絡官を受け入れているほか、日本の航空自衛官も常駐させる方向で調整を進めているそうです。)

 

【核戦争のリスクが第2次世界大戦後で最も高くなっている】

*****世界の核兵器1万3800個=北朝鮮は最大30保有―国際平和研****

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は17日、世界の核軍備に関する報告書を発表し、米英仏中ロにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を加えた9カ国の核弾頭保有数が、今年1月時点で計約1万3865個だったとの推計を明らかにした。

 

全体の保有量の約9割を占める米ロ両国が、新戦略兵器削減条約(新START)に沿って戦略核を減らしたことから、前年比600個の減少となった。一方で両国とも、既存の核兵器や生産施設の近代化と更新に向け「大規模かつ高額なプログラム」を推し進めているという。

 

中国の保有数は前年比10個増の290個。北朝鮮は前年の推定10〜20個から同20〜30個に増えた。報告書は北朝鮮について、「昨年に核実験と中長距離弾道ミサイルの試射中止を宣言した後も、軍用核開発を安保戦略の中心に位置付け、優先的に取り組んでいる」と分析した。【617日 時事】 

********************

 

この種の記事を読んでの素朴な感想は「米ロで1万発以上も保有なんて、何を考えているのだろうか?そんなに必要なのだろうか?」という疑問。

 

実際、核兵器も近代化されればそんなに数は必要なく、数が多くても老朽化する核兵器の管理など面倒なコストが増加するだけ・・・ということで、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)があります。

 

しかし、射程5005500キロの地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの全廃を取り決めている中距離核戦力(INF)全廃条約の失効問題に続き、米ロ対立の状況で新STARTが延長されずに破棄される可能性が危惧されています。

 

****懸念される「核をめぐる米ロの新冷戦の始まり」****

トランプ政権がINF条約破棄の意図を表明したのに対して、プーチン大統領は、米国がINF条約を破棄するならばロシアは中距離核ミサイルを配備すると反発した。このように、米ロ間では、核をめぐる新冷戦の始まりが懸念されている。(中略)

 

INFの対象ミサイルを持つ国は、中国以外にも、イン ド、イラン、イスラエル、サウジ、韓国、パキスタン、台湾など10か国に及ぶと言う。(中略)

 

中国については、陸上配備ミサイルの95%INF条約の対象である中距離核戦略であるという。これは台湾への威嚇、東アジアでの中国の軍事的影響力の増大などの観点から懸念されている。 

 

この中国の動きにどう対処すべきか。トランプ政権は、中国の中距離核戦力に対抗するため、米国自身が中距離核戦力を持つべきで、そのためINF条約から離脱すべきであると述べている。

 

しかし、その結果、中国の中距離核戦力に歯止めがかかるとは思われない。かえって、米中間で中距離核戦力の軍拡競争が起こる恐れがある。 

 

もう一つの方法は、INF条約を手直しして、中国の中距離核戦力にも縛りをかけるようにすることである。

 

後者の方が望ましいのは明らかであるが、中国がINF条約への参加をするインセンティブを持っているかが疑問で、中国の参加の可能性はまず考えられない。 

 

当面は、中国の中距離核戦力についての諸外国の関心をあらゆる機会を使って出来るだけ高め、中国をけん制するしか方法はないと思われる。

 

他方、新STARTについては、2011年に発効し、10年の期限で5年の延長が可能とされている。米ロの戦略核弾頭を1550発に、ICBMの保有数を800基、配備数を700基に制限するもので、軍備管理上きわめて重要な条約である。

 

20212月に期限が来るが、去る3月にプーチン大統領は、ロシアは延長に関心があると述べた。他方、米国では、918日に、トンプソン国務次官が、上院の公聴会で、新STARTの延長について「あらゆる選択肢が検討されている」と述べ、延長しない可能性もあることを示唆した。 

 

トランプ政権は、INF条約にせよ、新STARTにせよ、軍備管理を優先させて考えていないようである。が、上記のニューヨーク・タイムズ紙によると、米国は、オバマ政権の時から、INF条約からの撤退を検討していたようである。

 

国防総省は、当時から、静かに米国の核戦力を強化する選択肢を模索していた。(中略)

 

トランプ政権は、軍備管理体制が無くなった状態が軍拡競争を招き、世界、特に欧州、アジアのみならず、米国自身の安全保障環境を極めて不安定にすることを認識すべきである。

 

米国内の心ある者、欧州、日本を先頭とするアジア諸国は、トランプ政権が軍拡のリスクと軍備管理の有用性を認識し、INF条約につき、欧州や日本などと協議するよう説得に努めるべきである。【17日 WEDGE Infinity

*****************

 

中距離核戦力(INF)全廃条約については、ポンペオ米国務長官は22日、破棄するとロシアに正式通告したと声明で発表。アメリカは同日付で条約の義務履行を停止。条約で定められた6カ月の猶予期間にロシアが条約を順守しなければ、条約は8月初旬に失効します。

 

514日にロシア南部ソチで行われたロシアのラブロフ外相と米国のポンペオ国務長官の会談で、両氏は2021

年に期限が切れる米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の延長に向けた協議を進めることで一致したと報じられていますが、方向性はまだ定まっていません。

 

米政府高官は、新START延長の是非に関し、トランプ大統領は来年判断するとの見通しを示しています。【530日 時事より】

 

一方、プーチン大統領は・・・。

 

****プーチン大統領、新START破棄の可能性を示唆****

)ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は6日、米国との間で締結している新戦略兵器削減条約、通称「新START」について、延長することに利益がないなら同条約を破棄する用意があると発言した。(中略)

 

プーチン大統領はサンクトペテルブルクで開かれた経済フォーラムで、「もし新STARTの延長を誰も望まないなら──(延長)しないだろう」という見方を示した。

 

さらにプーチン氏は、「われわれは(延長する)用意があると何百回も言った」にもかかわらず、米側が協議に応じていないと批判。「正式な交渉プロセスが存在しない。2021年には全てが終わるだろう」と述べた。 【66日 AFP】

*******************

 

このプーチン大統領の発言の前、5月末にはロシアが低出力の核実験を行っている可能性について米ロが非難しあう事態も。

 

****ロシアが核実験か 米ロ対立さらに強まるおそれ 米紙****

アメリカのメディアは、情報機関の分析として、ロシアが低出力の核実験を行っている可能性があると伝え、核軍縮をめぐる両国の対立がさらに強まるおそれがあります。

 

アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルは29日、情報機関の分析として、ロシアが新たな核兵器を開発する目的で、北極圏にあるノーバヤ・ゼムリャ島で、低出力の核実験を行っている可能性があると伝えました。

アメリカとロシアは核爆発を伴う核実験を停止していますが、ワシントンで29日、講演したアメリカ国防情報局のアシュリー長官は、「アメリカ政府はロシアが核実験の一時停止を守っていないと考えている」と述べました。

一方でアメリカは、ロシアが批准しているCTBT=包括的核実験禁止条約を批准しておらず、ことし2月には西部ネバダ州で核爆発を伴わない臨界前核実験を行ったことが明らかになっています。

ウィーンにあるロシアの国際機関代表部のウリヤノフ常駐代表は、「アメリカこそCTBTの批准を拒み、核実験場を維持している。自分たちが批判されないようロシアに矢を向けるとは、やり方が汚い」と非難しました。

アメリカとロシアは、INF=中距離核ミサイルの全廃条約を破棄するなど、核軍縮をめぐって対立していて、この対立がさらに強まるおそれがあります。(後略)【530日 NHK】

********************

 

米ロの対立、中国の軍備拡大の流れのなかで、「現在は核戦争のリスクが第2次世界大戦後で最も高くなっており、これは世界がもっと深刻に受け止めるべき喫緊の課題だ」(国連軍縮研究所(UNDIR)のレナタ・ドワン所長)という状況にもあります。

 

【加速する衛星破壊兵器の開発】

しかし、既存の核兵器にも歯止めが有効にかからない状況で、新たな分野での新たな兵器開発が加速しています。

 

****「宇宙運用センター」米軍公開 背景に中ロの脅威 軍拡懸念も****

宇宙空間の監視や防衛を担うアメリカ軍の「連合宇宙運用センター」がNHKなど一部のメディアに公開されました。アメリカ軍は中国やロシアが衛星への攻撃能力を高める中、防衛力の強化と同盟国との協力態勢の構築を進める方針です。

 

公開されたのはアメリカ西部、カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地にあるアメリカ軍の「連合宇宙運用センター」で、19日、NHKやアメリカの一部のメディアのカメラが入りました。

「連合宇宙運用センター」はアメリカの軍事衛星や商業衛星に対する妨害や攻撃、それに宇宙ごみの動きを監視し、衛星網を防衛する任務に当たっています。

センターでは各国の衛星や大量の宇宙ごみなど宇宙空間を漂う2万5000の対象物を24時間体制で監視していて、この日は地上からミサイルが発射された場合の対応を再現しました。(中略)

アメリカ軍によりますと、衛星はGPSや通信をはじめ地球規模で展開する部隊の活動の基盤となる一方、中国やロシアが衛星を攻撃する能力を発展させ、対衛星ミサイルに加え、衛星自体から攻撃する「キラー衛星」と呼ばれる兵器の脅威も高まっているということです。(中略)

アメリカ軍ではこうした脅威に対抗するため宇宙軍の創設など防衛能力の強化と同盟国との協力態勢の構築を進めています。その一環として連合宇宙運用センターではイギリス、ドイツ、フランスから連絡官を受け入れているほか、日本の航空自衛官も常駐させる方向で調整を進めています。(中略)

宇宙空間での軍拡加速に懸念の声も

アメリカが中国やロシアに対抗して宇宙での軍事力の強化に乗り出すことで、宇宙空間での軍拡競争が加速し、平和利用に深刻な影響を与えるとして、国際的な議論を求める声も上がっています。

トランプ政権が宇宙軍の創設を打ち出したことに対し、アメリカの団体、「憂慮する科学者同盟」は声明を発表し、「各国が宇宙兵器の開発を進めれば軍事衝突の可能性が高まる」として、宇宙の平和利用が脅かされると懸念を示しました。

そのうえで「宇宙空間の安全保障は軍事的手段だけでは達成できず外交を通じたよりよい方法がある」として、宇宙での軍拡競争を防ぐための国際的な行動規範の策定や国連の場での議論の提起を求めていて、今後、国際的な議論を求める声も高まりそうです。

 

アメリカ 来年までに「宇宙軍」創設目指す

アメリカのトランプ政権は中国やロシアによる衛星破壊兵器の開発を受けて、宇宙をサイバー空間とともに「新たな戦闘領域」と位置づけ、来年までに新たに「宇宙軍」の創設を目指すとしています。

アメリカ軍はGPSや通信からミサイルへの警戒など活動の基盤を衛星網に大きく依存しているため、これが打撃を受ければ軍の行動全体に深刻な影響を及ぼす危険性が指摘されています。

このためアメリカ軍では宇宙軍の創設で宇宙空間の監視能力を高めるとともに、新たな兵器の開発など防衛力の強化に取り組むとしています。

さらにアメリカ軍は同盟国との「宇宙同盟」の構築を目指していて、西部カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地にある「連合宇宙運用センター」をその基盤に位置づけ、同盟国からの連絡官の受け入れを進めています。(中略)

アメリカ軍としては宇宙空間での同盟国との連携を強化することで、中国とロシアに対抗する態勢づくりを進めるねらいです。

 

宇宙での中ロの脅威 米政府が分析

アメリカ国防総省の国家航空宇宙情報センターはことし1月に発表した「宇宙での競争」と題した報告書で、「中国は複数の部隊で対衛星ミサイルの訓練を開始した」と指摘し、中国軍が対衛星ミサイルの配備に向け訓練を活発化させているとの分析を初めて示しました。

またアメリカの情報機関を統括するコーツ国家情報長官がことし1月に議会に提出した報告書では「中国は低軌道衛星を撃ち落とすことをねらった運用可能なミサイルを保有している」として、衛星破壊能力の急速な進展に強い危機感を示しています。

さらに国防総省の情報機関、国防情報局はことし2月に取りまとめた宇宙空間の脅威に関する報告書で、来年までに中国が低軌道の人工衛星をねらったレーザー兵器を配備する可能性が高いと指摘しました。

またロシアについては、すでに去年7月の時点でレーザー兵器の配備を開始し、人工衛星をねらった兵器である可能性が高いと分析しています。

 

専門家「中ロがキラー衛星開発も」

宇宙空間の安全保障問題を研究するアメリカのシンクタンク、「セキュア・ワールド・ファウンデーション」のブライアン・ウィーデン氏は、中国が衛星攻撃能力を高めアメリカへの大きな脅威になっていると指摘しました。

このなかでウィーデン氏は「中国はアメリカがこの20年近くイラクとアフガニスタンでの戦闘でいかに軍事衛星を活用してきたか、分析を進めてきた」として、中国が軍事衛星に依存するアメリカ軍の特性をねらって、衛星攻撃兵器の開発を進めているという分析を示しました。

(中略)そのうえで「おそらく低軌道の人工衛星を破壊できる能力はかなり成熟しており、ミサイルの運用に向け配備を進めているとみられる」と述べ、中国が対衛星ミサイルの配備を進めているとの見方を示しました。

またウィーデン氏は中国が2016年に打ち上げた人工衛星の軌道に注目し、「一定期間、別の衛星の近くにとどまったあとに他の衛星に近づいている」と指摘しました。

これについてウィーデン氏は、衛星自体から攻撃を仕掛ける「キラー衛星」の開発に向けた実験ではないかと分析しています。

さらにウィーデン氏はロシアについても、「低軌道と静止軌道の両方で数多くの実験を実施してきた」と指摘し、「キラー衛星」の開発をかなり進展させていると指摘しました。

そのうえで「ロシアは電子戦能力にも多くの資源を投じ、実際にシリアやウクライナでの紛争で使用している」と述べ、衛星との通信を妨害するロシア軍の能力は実戦段階に入っているという分析を示しました。

ウィーデン氏はこうした中国やロシアの脅威への対抗策として「衛星を多数保有することで1つの衛星が攻撃されても影響を抑えることができる」として、安価で簡易な衛星を多数、打ち上げるとともに、同盟国との連携を強化する必要があるとしています。【623日 NHK】

******************

 

いよいよ「スターウォーズ」の世界のようです。

 

【新兵器開発への驚異的な情熱】

そのほかにも、新たな兵器開発の報道は多々あります。

 

****EMP攻撃の恐怖と日米共同対処について****

大都市の電気、ガス、水道、交通、インターネットなどのインフラが一瞬にして破壊される新たな軍事的脅威にいかに備えるか―日米両国はこのほど、防衛相会談で、そのための情報交換や抑止力向上などの面で共同対処していく方針を確認した。

 

「新たな脅威」とは従来の核ミサイルなどとは異なり、EMP(電磁パルス)による攻撃を意味し、「EMP兵器」として知られる。

 

EMPはもともと、強力なパルス状の電磁波であり、雷、大規模な太陽フレアといった自然界の現象としても生じるが、高高度の大気圏外核実験でも人工的に大量発生させることができる。これを軍事転用したのが「EMP兵器」だ。(中略)

 

通信、交通、公衆衛生、食糧供給、給水といった電力グリッドに依存した緊要なインフラ体制は、EMP攻撃によるブラックアウト(大停電)によって1年あるいはそれ以上の長期にわたり機能停止となる。(中略)

 

ロシア、中国、北朝鮮はすでにこの核EMPによる対米攻撃能力を保有しており、テロリスト集団もその気になればEMP攻撃を仕掛けることも可能だ。というのは、ミサイル発射後の大気圏再突入システムや正確な標的誘導装置などの高度技術を必要としないからだ。(後略)【610日 WEDGE

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以下、見出しだけ。

“米が秘密の新ミサイル開発、標的をピンポイントで殺害”【510日 WSJ】

“米当局が「昆虫兵器」開発? 欧州の科学者が懸念”【310日 朝日】

“インド、ミサイルによる人工衛星破壊実験に成功 米露中に次いで4カ国目”【327日 毎日】

 

各国がこうした方面の研究開発への情熱・関心、資源・資金の配分を平和的な分野や貧困等に苦しむ国への支援に振り向ければ・・・とも思うのですが、残念ながら・・・。

 

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トランプ米政権の不法移民対策  メキシコをねじ伏せ、米国内では一斉検挙へ 中米への支援は停止

2019-06-22 22:54:48 | 難民・移民

(米メキシコ国境を流れるリオグランデ川を越え、米国入りを目指す中米からの移民【6月13日 WSJ】)

 

【トランプ大統領「私は移民が大好き」】

トランプ大統領は「壁」や「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策に象徴されるように、移民の流入に非常に厳しい姿勢を支持層向けにアピールしていますが、それはあくまでも「不法」移民の話であって、ヒスパニック系でも「(正規の)移民は大好き」だそうです。

 

****「移民大好き」 トランプ氏、ヒスパニック系有権者に猛アピール****

2020年大統領選で2期目を目指すと正式に発表したドナルド・トランプ米大統領は20日、米スペイン語テレビ局「テレムンド」の番組に出演し、「私は移民が大好き」と述べてヒスパニック系有権者にアピールした。

トランプ大統領がスペイン語チャンネルのインタビューに応じるのは、今回が初めて。

 

司会者のホセ・ディアスバラルト氏から、不法移民を厳格に取り締まる「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策や、不法移民の親子の引き離し政策、未成年時に親に連れられて不法入国した移民の救済制度「DACA(ダカ)」の打ち切りなどについて質問されたトランプ氏は、「私は移民が大好きだ」と答えた。
 
さらに「あなたの言っているのは、不法移民のことだろう」「私はこれまで移民にはとても親切にしてきたからね」とトランプ氏は発言。

 

「この国は移民によって成り立っている」と述べた上で、工場の人手不足を補うため、移民をいっそう歓迎するとも主張した。トランプ氏は、就任後に米国内の工場労働者の仕事を取り戻したと豪語している。

 

トランプ氏はまた、ヒスパニック系米国人の失業率が史上最も低い水準になったのも自身の任期中だと主張。世論調査ではヒスパニック系の支持率が17ポイント上昇しており、自分はヒスパニック系住民の間で人気があると得意げに語った。

 

その上で、人気の理由は全て、トランプ政権の移民・国境政策のおかげだとコメント。「ヒスパニック系の人々が、厳格な国境管理を求めているからだ」「彼らは、流入してきた人々が職を奪う事態を望まない。犯罪者の流入も望んでいない。彼らは誰よりも国境のことを知っている」などと述べた。 【6月21日 AFP】

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まあ・・・・そういうことのようです。大統領本人が言っていますので。

 

【メキシコに対応を迫るアメリカ 圧力に抗えないメキシコ、国内には「米国はわれわれの国を収容所にしようとしている」との批判も】

アメリカには1000万人超の不法移民がいるそうです。

これだけの数になると、法律上の違反云々の問題を超えて、現実問題としてアメリカ社会を構成する大きな要素になっているとも言えます。

 

また、これだけの不法移民が存在するということは、アメリカ経済・社会がそうした人々を必要としてきたということを示すものでもあるでしょう。

 

これまでの経緯から隣国メキシコからの不法移民が多数を占めてはいますが、近年はメキシコ経済の好調さのため、メキシコ人に関しては流入より帰国の方が多く、メキシコ人割合は半数を割っています。現在の主流は中米からの移民です。

 

****米不法移民人口 、メキシコ人半数割り込む 50年ぶり****

米国に滞在している不法移民のうち、メキシコ人の比率が2017年に50%を割り込んだことが最新の調査で明らかになった。少なくとも1965年以降では初めて。

 

米シンクタンクのピュー研究所が実施した調査では、米南部国境における過去何十年にもわたる状況の変化が浮き彫りになった。暴力や貧困から逃れるためエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスなどの中米諸国から流入する移民が増える一方、仕事を求めて米国にやってくるメキシコ人が減った。

 

調査によると、2017年に不法に米国内に滞在していた外国人は1050万人と推計される。このうちメキシコ人は490万人で、全体に占める比率は47%となった。米国内に不法滞在するメキシコ出身者数は、ピーク時の2007年の690万人から約200万人減少している。(中略)

 

今回の調査報告書は12日に発表された。共同執筆者であるパッセル氏は、「正式な承認を得ていないメキシコ人の入国は依然として続いているが、出国するメキシコ人の方がずっと多い」と指摘した。

パッセル氏によれば、この減少は米国側国境での警備強化とメキシコ国内経済の改善の結果とみられる。

 

パッセル氏は「人々は(米国に行く代わりに)メキシコ国内を移動している」と指摘。近年、農業や製造業での雇用機会が増加していると付け加えた。「メキシコ国内に雇用を提供する多数の工場が存在し、人々は海外へ行く必要がない」という。

 

同報告書によれば、メキシコ人移民が出国して減少した分は、中米、アジア諸国からの移民が取って代わっている。

 

過去8カ月間で中米から何十万人もの移民が家族連れないし子どものみでやって来ているため、国境の米職員に大きな負担がかかっている。

 

トランプ大統領は先週、メキシコを通じて米国に向かう中米出身者の流れを抑制するためにメキシコ当局が対策を強化しなければ、メキシコに追加関税を課すと警告。メキシコ政府は、同国南部の国境に国家警備隊を配置することに同意したほか、米当局が米国の判事による判断を待つ難民申請者をより多くメキシコに送還できるようにすることにも同意した。

 

連邦政府のデータによると、米国の国境では2014年以降、85万1000人を超える中米出身者が不法入国で逮捕されている。そのほぼ全員は、本国に送還されれば安全が脅かされるとして、難民としての保護を求めている。

 

子連れの場合は米国内で釈放され、移民判事が米国での滞在が容認されるかを判断するのを待つことになるが、この手続きが終わるまでには何年もかかる場合がある。

 

ピュー研究所によると、米国に不法滞在する外国人の総数は近年、1050万人前後で横ばいに推移している。

【6月13日 WSJ】

****************

 

メキシコ人不法移民は減少しているにしても、「メキシコが中米からの移民を有効に阻止していないから、彼らがアメリカにやってくる」と、トランプ大統領の怒りの矛先はメキシコに向けれており、上記記事にあるような関税圧力をかける形で、メキシコが国境管理を厳格化することなどで一定の合意に達していますが、それがうまくいかないときは・・・という話が合意には含まれているようです。

 

****トランプ氏、文書ちらつかせ合意内容うっかり漏らす メキシコ不法移民対策****

アメリカのドナルド・トランプ大統領は11日、メキシコと7日に合意した不法移民対策の詳細の一部をうっかり漏らした。

 

トランプ大統領は記者団に対し、国内への不法移民の流入に歯止めをかけることを目的とした対策について、「適切な時に」メキシコ側から発表させたい考えだと述べ、詳細は明らかにしなかった。

 

ただ、この時トランプ大統領が手にしていたのは、合意内容の詳細が書かれた1枚の紙だった。これを終始ちらつかせなが取材に応じたため、メディアが撮影した写真によって内容が明らかになった。

 

この合意には、複数のラテンアメリカの国がアメリカによる関税措置を免れるために難民申請手続きを進めることになるとみられる、地域難民計画への言及が含まれていた。

 

メキシコ側の発表

メキシコのマルセロ・エブラルド外相は10日、合意内容の一部をすでに公表しており、同国は「45日後」に移民対策の効果が出ているかを評価するという。

 

メキシコは現在、アメリカを目指す移民の流入を食い止めるため、同国南側のグアテマラ国境に国家警備隊6000人を派遣している。

 

この対策が失敗に終わった場合について、エブラルド外相は、メキシコはアメリカが求める「安全な第3国」に指定されるだろうと述べた。これは、メキシコ領を通過する難民申請者は、アメリカではなくメキシコで申請を行なう必要が生じることを意味する。

 

外相によると、アメリカはこの措置にこだわっており、早急に実施したがっているものの、同国は直ちには応じなかったという。(中略)

 

仮にメキシコが45日以内に移民を食い止められなければ、他の国々もこの問題に引き込まれる。

アメリカを目指す移民が経由地として通過するブラジルやパナマ、グアテマラと、難民申請手続きの負担を分担させられるかどうか、協議が行なわれる見通しだ。

 

エブラルド外相は、アメリカ側の交渉担当者がメキシコ国内を通過する「移民をゼロ」にするよう求めてきたが、それは「不可能な任務」だと述べた。【6月12日 BBC】

**************

 

“うっかり漏らす”とありますが、文書が写真撮影されることを見越したトランプ大統領による意図的「リーク」でしょう。わざとらしいパフォーマンスです。

 

政治課題をこういうTV番組的な演出レベルに引き下げているところが、トランプ大統領の問題でもあります。

 

メキシコのロペスオブラドール大統領は、トランプ米政権と合意した不法移民対策強化の予算を、大統領専用機の売却などで工面する方針を明らかにしていますが、メキシコに責任を負わせるやり様に、メキシコ国内では反発も強いようです。

 

“メキシコで高まる対米反発、関税見送りも関係悪化”【6月10日 WSJ】

“米と合意の不法移民対策、メキシコ与党内で批判噴出”【6月17日 ロイター】

 

メキシコ内相は「いかなる国家警備隊であっても、2000人や3000人のキャラバンを止めることは不可能だ」とコメントし、グアテマラ国境に配備する国家警備隊の活用に懐疑的な見方を示しています。

 

メキシコ下院議長は、“米国の「安全な第三国」要求を受け入れれば、主権を失うことになるとし、「米国はわれわれの国を収容所にしようとしている」と批判。トランプ氏は「経済テロ」でメキシコに圧力をかけているが、メキシコはそれに屈するべきでない、と主張した。”【6月17日 ロイター】とのこと。

また、メキシコが国境管理を厳しくしても、結局は越境補助をビジネスとする人身売買業者を喜ばすだけとの指摘も。

“米メキシコ合意の不法移民対策、人身売買業者に恩恵か”【6月10日 AFP】

 

トランプ米政権は14日、難民申請中の不法移民をメキシコで待機させる合意に基づき、南部テキサス州エルパソからメキシコ側に約200人の移民を送還しています。これまで1日約100人だった人数枠を倍増させた形で、メキシコ外相は「無制限に受け入れない」と強調していますが、アメリカ側への反発が強まっているメキシコでは今後問題化する可能性もあります。【6月15日 時事より】

 

かなり端折りましたが、この問題に関するメキシコ側の反発は上記のように強く、今後については不透明です。

 

****メキシコ、米国との貿易戦争に勝てる 対立回避すべき=大統領****

メキシコのロペスオブラドール大統領は17日、メキシコは米国との貿易戦争に勝てると述べた。ただ、勝ったとしても割りに合わない勝利で、メキシコはこのような対立は回避した方が良いとの考えを示した。(後略)【6月18日 ロイター】

*******************

 

要するに、「泣く子とアメリカには勝てない」ということで、大統領専用機の売却まで決意したメキシコ大統領は国内的了解を求めています。

 

短期的には圧倒的な力を拠り所とした強気なトランプ外交の“勝利”とも言えますが、長期的に見た場合、アメリカへの不信感を高めるこういう対応がアメリカの利益になるのかははなはだ疑問です。このあたりは、他の外交懸案事項についても同様です。

 

その点では、南シナ海で「大国」の力を振りかざす中国と“似た者同士”にも。

 

【国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯の一斉検挙へ】

一方、トランプ大統領は、アメリカ国内の不法移民について、明日23日にも一斉検挙に乗り出す予定です。

 

****トランプ氏、不法移民2000世帯の一斉検挙を23日実施と指示か 米報道****

ドナルド・トランプ米大統領は移民税関捜査局に対し、国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯について、早ければ23日に一斉検挙を行うよう指示した。米メディアが21日に報じた。(中略)

 

移民家族の一斉検挙は、テキサス州ヒューストンやシカゴ、ニューヨークやマイアミなどを含む最高10都市で、夜明け前の強制捜査とともに開始されると思われる。

 

CNNによると、ケビン・マカリーナン国土安全保障長官代行は、この作戦に全面的に賛成しているわけではない。ワシントン・ポストによると、同氏はICEに対し、弁護士を雇っていたものの法的手続きを放棄して姿を消してしまった不法移民、約150世帯を中心に対処するよう働き掛けてきた。

 

米国は現在、母国でのギャング組織による暴力と貧困から逃れて来た中米諸国の移民が大量に流入する問題に直面している。トランプ氏は、こうした移民流入を「侵略」と呼び、不法移民との闘いを主要政策に掲げている。 【6月22日 AFP】

*********************

 

“一斉検挙”ということで、かつての“赤狩り”のようなヒステリックなものもイメージしましたが、一応、国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯に限定したもののようです。

 

それでも、1000万人をこえる不法移民社会に与えるインパクトは強烈でしょう。

 

法律違反を犯していると言えばそれまでですが、問題は1000万人をこえる不法移民の多くがアメリカ社会のなかでそれなりの役割を担いながらも、いつ摘発されるかわからないという不安とともに生活しているというあたりです。

 

アメリカのTVドラマ・映画では、制約された権利のもと、そうした不安を抱えて生きる不法移民が、ごく日常的な存在として頻繁に描かれています。

 

不法移民約2000世帯は、拘束後に本国に送還される見通しです。

人道上の理由などから不法移民に寛容な政策を取る「聖域都市」と呼ばれる自治体や人権団体から批判が続出していますので、今後の問題ともなりそうです。

 

メキシコも不法移民対策に乗り出すようですが、こちらはより穏健な方法のようです。

 

****1ドルで母国に帰れます=メキシコの格安航空、中米不法移民に呼び掛け****

メキシコの格安航空会社(LCC)ボラリスは21日、同国内で暮らす中米出身の不法移民に向け、1ドル(約107円)で母国に帰ることができるキャンペーンを発表した。EFE通信が伝えた。同国は米国入りを目指す中米出身者の中継点で、多くの不法移民が滞留している。

 

「家族再会プログラム」と称するボラリス社のキャンペーンは、「現在メキシコで暮らす不法移民のうち、自発的に母国に帰りたい中米人」が対象。身分証明書か出生証明書、旅券があれば1ドルと税金で出身国への航空券を手にすることができる。同社は「不法移民問題の代替的な解決策」と説明している。【6月22日 時事】 

*****************

 

こんな生ぬるい方法では誰も暴力と貧困がはびこる母国には帰らない・・・という話かもしれませんが。

 

【中米3カ国に対する援助停止を発表 米国内には超党派の異論も】

根本的な問題は、母国に暴力と貧困がはびこっていることで、そこをなんとかしない限り、単に移民を希望する者を母国の檻に閉じ込め、自分たちの社会を壁で守ろうとするだけの話になります。

 

不法移民も好き好んで“不法”に入国している訳でもなく、暴力と貧困がはびこる母国では暮らせない、一方でアメリカは正規にはなかなか入れないというなかでの選択でしょう。

 

しかし、流れは逆光しているようにも。

 

****中米3カ国への援助停止=不法移民対策「不十分」と断定―米政府****

米国務省は17日、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの中米3カ国に対する援助停止を発表した。トランプ大統領はかねて、米国に向かう不法移民の流出阻止で十分な対策を講じていないとして、3カ国への援助停止を通告していた。

 

米メディアによると、停止された援助は2017、18の両年度に議会で承認された総額5億5000万ドル(約600億円)。

 

同省のオルタガス報道官は17日の記者会見で「米国に向かう不法移民を減らすため、3カ国の政府がわれわれの満足できる具体的行動を起こさない限り、援助計画に基づく新たな資金を提供しない」と述べた。【6月13日 時事】 

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この対応には、アメリカ国内の与野党に異論があるようです。

 

****米超党派議員、中米3カ国への援助削減再考を要求 国務長官に書簡****

米下院外交委員会の共和、民主両党のトップはポンペオ国務長官に書簡を送り、中米3カ国への援助を削減する計画を再考するよう訴えた。援助削減は中国の影響力拡大につながると警告している。(中略)

 

外交委のエンゲル委員長(民主党)とマッコール委員(共和党)は23日公表した書簡で「援助は成果を伴っており、改善の余地はあるものの、援助削減は非生産的で、米国に押し寄せる移民の増加につながるとわれわれは考える」と表明。

 

また、援助削減は安定したパートナーとしての米国の信頼性に疑問を生じさせ、中国をはじめとする敵対国が米援助削減の穴埋めを狙うようになると警告した。(後略)【4月24日 ロイター】

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今回の援助停止を発表は、こうした超党派の異論を押し切ってのものです。

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アメリカ  大統領選挙の争点となる気候変動対策 爆弾サイクロンでトランプ支持層でも高まる関心

2019-06-21 22:06:00 | 環境

3月末にパキスタン・フンザを旅行した際に、カラコルムハイウェイ沿いから見たパスー氷河先端)

 

【進む氷河・氷床の融解】

温暖化・気候変動の影響と思われる氷河・氷床の融解に関しては、頻繁に報道を目にしますが、たまたま昨日、そうした記事がいくつか重なっていましたので、今日はそうした温暖化・気候変動関連の話。

 

まず、ヒマラヤ、北極、グリーンランドに関する異なる、しかし、意味するとことは同じ三つの記事。

 

****ヒマラヤの氷河融解、今世紀初めの2倍速に 米研究****

ヒマラヤ山脈の氷河の融解速度が、今世紀初頭の2倍になっているとする研究結果が19日、米科学誌「サイエンス・アドバンシーズ」に掲載された。研究には米国が冷戦時代に衛星を使って撮影し、最近、機密解除された写真が使用されている。

 

研究の結果、気候変動の影響でヒマラヤ山脈の氷河が解け、南アジア一帯に住む数億人のための水の供給を脅かしている最新の兆候が明らかになった。

 

同研究論文の筆頭著者で、米コロンビア大学博士候補生のジョシュア・マウアー氏は、「これはヒマラヤの氷河がこの期間のうちにどれほど速く融解しているのか、そしてなぜそれが起きているのかをこれまでで最も明確に示す研究だ」と述べた。

 

研究者らは、インド、中国、ネパール、ブータンにまたがる全長約2000キロに及ぶ地域を40年にわたって撮影した衛星写真を精査し、2000年以降、毎年45センチ相当のヒマラヤ山脈の氷河が消滅していることを発見した。2000年以降に融解した氷河の量は、1975年から2000年の間に融解した量の2倍に達している。

 

研究は、氷河融解の最大の要因は気温の上昇だと結論付けている。気温は地域によって異なるが、2000年から2016年の平均気温は、1975年から2000年の平均気温と比較して1度上昇している。

 

研究者らはその他の要因として降雨量の変化を挙げ、雨の減少が氷量の減少につながっていると指摘。また化石燃料の燃焼から生じる煤煙が雪で覆われた氷河の表面にかぶさり、太陽光を吸収して融解を促進していることも一因だと説明した。 【620日 AFP】

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“冷戦時代に衛星”とありますが、もっとはっきり言えばアメリカの「スパイ衛星」KH-9ヘキサゴンが、1973年から1980年にかけてこの地域を撮影した画像が機密解除されて分析できるようになった成果です。

スパイ衛星も、思わぬところで役立っています。

 

ジョシュア・マウアー氏によれば、過去40年間でヒマラヤから4分の1もの氷が失われたとのこと。

 

“平均気温が1℃上昇”ということで、わずかな変化のように思えますが、最終氷期の最中でさえ、年間平均気温は現在よりわずかに3℃低かっただけだそうですから、その影響は甚大です。【621日 NATIONAL GEOGRAPHYより】

 

ヒマラヤの氷や雪は、インダス川、長江、ガンジス川、ブラマプトラ川といった大河の水源となっており、南アジア一帯に住む数億人の生活を支えています。

 

氷河融解の加速によって洪水の発生、また、氷河湖が決壊して壊滅的な洪水を招く危険性も増しています。すでにネパールでは被害も出ています。

 

長期的には大河の水源が失われて、水不足を招きます。

“今のところは、暖かい季節に雪解け水が増えている。だが、氷河が消失するにつれて、雪解け水は数十年以内に次第に減ってゆくと予測される。”【621日 NATIONAL GEOGRAPHY

 

この水不足は人間の生活・経済活動にとって致命的で、現在の石油をめぐる争い以上に深刻な国家間の対立・紛争を生むものと推察されます。(現在でも国際河川の水利用をめぐっては東南アジアでも南アジアでも深刻な対立がありますが、数十年後はその危機は現在の比ではなくなることが懸念されます)

 

「アジアは、極端な熱波とヒマラヤからの水の不足という、未曾有の災害に直面しているのです」(シェーファー氏)【同上】

 

話が少し横にそれますが、熱波が出てきたところで、インドの熱波の件。先日、ひとつの列車内の暑さで4人が死亡したという話題も取り上げましたが、半端ない暑さと水不足に襲われているようです。

 

“酷暑続くインド、北東部の州では1日だけで49人死亡”【616日 AFP】

“インド 最高気温45度超 厳しい熱波で200人超が死亡”【618日 NHK】

“インドの水危機が深刻化、抗議デモで500人以上逮捕”【621日 CNN】

 

話を戻して、次は北極。

 

****北極で記録的高温、進む氷の融解 137億トンの消失も****

北極圏のデンマーク領グリーンランドでは既に観測史上最高気温が記録されているが、2019年は北極にとって再び「ひどい年」となる可能性があると、科学者らは指摘している。グリーンランドの巨大な氷床の融解が進行すると、いつの日か世界の沿岸地域が水没する恐れがあるという。

 

デンマーク気象研究所の気候学者、ルース・モットラム氏は「2012年に記録された北極の海氷面積の史上最小値(中略)とグリーンランドの氷床融解量の史上最大値の両方が、更新される可能性がある」と警告した。「今年は気象状態に非常に左右されている」

 

DMIの科学者ステファン・オールセン氏は13日、グリーンランド北西部で通常より早く氷が解けて、犬が明るい青空の下、雪のない山々を背に水の上を歩いているように見える印象的な様子を撮影した。この写真はネットで拡散した。

 

オールセン氏は係留型の海洋気象ブイと気象観測所の調査中で、写真は自身が乗るそりを引く犬たちがフィヨルドの海氷が解け、数センチ水がたまっている中を進む様子を捉えていた。(中略)

 

モットラム氏によると、オールセン氏の調査旅行に同行した地元の人は「海氷がこれほど早く解け始めるとは予想していなかった。通常は氷が非常に厚いのでこのルートを通るが、海氷の上にたまった水がだんだんと深くなり前に進めなくなったため、引き返さざるを得なかった」と話していたという。

 

この写真が撮影された日の前日12日に、カーナークにある最も近い気象観測所が気温17.3度を記録した。これは2012630日に観測された史上最高気温をわずか0.3度下回っていただけだった。

 

「冬に降雪が少なかった上、最近は暖気と晴天、日照(がある)。これらはすべて、氷がいつもより早く溶けるための前提条件といえる」と、モットラム氏は説明した。

 

■狩猟やホッキョクグマにも影響

(中略)

 

1日で37億トンの氷を消失

(中略)デンマークの気象学者らは、氷の融解時期が通常よりほぼ1か月早い5月初めに始まったと発表している。

 

氷の融解が5月上旬よりも前に始まったのは、データの記録が開始された1980年以降で2016年の1回だけだ。

 

グリーンランドの氷の融解は、年間約0.7ミリの海面上昇の原因となっている。融解が現在の水準で続くとこの値はさらに増加する可能性がある。

 

また、グリーンランドの氷河の融解による海面上昇は、1972年以降で13.7ミリに達している。 【620日 AFP】

****************

 

次の記事もグリーンランドに関するもので、より長期的な話題。

 

****グリーンランドの氷、1000年後には完全融解? より正確な新モデルで予測****

温室効果ガスの排出が現在のペースで続けば、北極圏のデンマーク領グリーンランドの氷床は1000年後には完全に解けてなくなってしまうと示唆する研究結果が、米科学誌サイエンス・アドバンシズに発表された。

 

グリーンランドの氷床には、完全に融解すると世界の海面を7メートル上昇させるほどの氷が存在するとされる。(中略)

 

この最新モデルによると、現在のペースでグリーンランドの氷床が融解すれば、今後200年のうちに世界の海面は48160センチ上昇し、従来予測よりも80%高くなる可能性があるという。 【620日 AFP】

***************

 

数十年後が危惧されている状況では“1000年後”の話はあまり現実味もないので、大幅に省略しました。(人類が生き残っているかさえ定かではありませんから)

最後の部分で、200年後に海面上昇が48160センチの可能性ということは、より現実的な話として100年後は100センチ内外といったところでしょうか。

 

【温暖化対策を後退させるトランプ大統領】

この種の話は枚挙にいとまがありませんが、世界の将来に大きな影響力を持つアメリカ・トランプ政権の対応は相変わらずのようです。

 

****米、CO2規制を大幅緩和 温暖化対策後退、批判も****

トランプ米政権は19日、発電部門の温室効果ガス排出を削減するためにオバマ前政権が定めた厳しい規制に代わり、二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電を存続しやすくするなど大幅に規制緩和する政策を最終決定した。米メディアによると30日以内に導入される予定で、温暖化対策の後退と批判の声が出ている。

 

トランプ政権は地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明するなど温暖化対策に消極的で、化石燃料産業の優遇姿勢が改めて鮮明になった。【620日 共同】

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トランプ大統領のこうした姿勢は、オバマ前大統領のレガシーをひっくり返したいという衝動と、石炭産業労働者の支持票目当てという側面がありますが、現実にはトランプ政権下でも経済的優位性を失った石炭火力発電は全く増加していません。

 

****米国の石炭火力発電所、トランプ政権下で50か所閉鎖 新設わずか1か所****

20171月にドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任して以降、米国内で50か所の石炭火力発電所が閉鎖されていたことが分かったと、環境保護団体シエラクラブが9日、明らかにした。

 

シエラクラブによると、閉鎖の発表があった51か所のうち50か所の閉鎖が確認できたという。

 

米国では2010年以降、国内の石炭火力発電の容量の4割に当たる289か所の発電所が閉鎖されており、現在も稼働しているのは241か所。トランプ政権下で新たに開設された石炭火力発電所は最近アラスカ州で操業を開始した1か所のみだという。

 

また10年ほど前から水圧破砕法(フラッキング)による天然ガスの採掘が広く行われるようになって以降、石炭は掘削コストの面で不利になってきており、天然ガスが石炭に代わって急成長を続けている。

 

米国のエネルギー発電比率では、2015年には35%を占めていた石炭発電は今年夏までに25%に落ち込む見通し。一方、米エネルギー情報局によると天然ガスは電力供給の40%を占めるという。

 

エネルギーに関する公式統計によると、米国の石炭生産量はピーク時の2008年から3分の1減少しており、炭鉱は2008年から半数以上が閉鎖している。 【510日 AFP】AFPBB News

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トランプ大統領の石炭火力発電重視政策は、環境問題への理解だけでなく、経済合理性も欠いているように思われます。

 

【爆弾サイクロンで、トランプ支持農家でも高まる気候変動への関心】

トランプ大統領がこのまま温暖化・気候変動に背を向け続けていられるかと言えば、必ずしもそうも言いきれない事態がアメリカで(トランプ支持層の間で)で進行しているとの指摘があります。

 

****爆弾サイクロンで農作物が壊滅被害  「トランプ支持」やめる農家も****

「気候変動」が新たな争点に

 アメリカのトランプ大統領が、来年11月に行われる大統領選で再選を目指す考えを正式に表明した。新たなスローガンは「Keep America Great(アメリカを偉大なままに)」。今後、選挙戦を本格化させ、自身が掲げた公約実現を強硬に進めるものとみられる。

 

前回の選挙戦では、メキシコ国境の壁建設などの過激発言で旋風を巻き起こし、劇的な勝利を遂げたトランプ大統領だが、次の選挙の争点は何なのか。

 

4月下旬にNBCニュースとウォールストリートジャーナルが実施した世論調査によると、移民政策、雇用創出に続く形で注目されるのが気候変動問題だ。日本でニュースになる貿易問題への関心は2%に過ぎない。

 

■政府が優先的に取り組むべき課題は?(NBC&ウォールストリートジャーナルによる調査)

ヘルスケア 24

移民 18

雇用創出 14

安全保障 11

気候変動 11

国家債務・歳出 11

銃規制 5

貿易協定 2

 

日本ではあまり争点化しない気候変動問題だが、アメリカでは共和党と民主党で大きくスタンスが異なり政治イシューになる。

 

トランプ大統領は、パリ協定脱退表明以降も、オバマ政権の環境規制を次々と後退させ、環境問題に背を向けている。そのため「気候変動は信じない」と公言する有権者も多い。

 

一方、民主党側は包括的な環境対策「グリーン・ニュー・ディール」を打ち出すなど、選挙戦の新たな対立軸として積極的に取り組みをアピールしている。

 

「爆弾サイクロン」の襲撃

実は、この問題で、トランプ大統領の支持基盤を揺るがす新たな事態が起きている。

今年3月、「爆弾サイクロン」と言われる歴史的な暴風雨が中西部ネブラスカ州などを襲った。ミズーリ川が氾濫し、発生から3カ月が経つ今も一帯の大豆、コーン畑は浸水状態となっている。中西部の農家といえば、共和党の伝統的な支持基盤だ。その農家が壊滅的な打撃を受けている。

 

この洪水被害は、気候変動の影響と指摘されている。ネブラスカ大学で気候変動を研究するマーサ・シュルスキー准教授によると、一帯では、気候変動により、近年冬がより寒く、春に雨量が多い傾向で、大量の雪解け水が発生するようになった。3月には、爆弾サイクロンによって川に大量の氷が押し寄せ、ダムが決壊するという異常事態も発生した。

シュルスキー氏は「このような傾向は今後強まると予測される。気象条件だけをみれば、洪水の可能性はさらに高まる」と警鐘を鳴らす。

 

トランプの「無策」を批判する農家も

こうした状況を受け、被害にあった農家が気候変動へ関心を寄せ始めているのだ。

 

ネブラスカ州北部で6代続く農家を営むアンソニー・ルジスカさんの土地には、洪水によって大量の氷の塊が押し寄せ、自宅や畑が壊滅的被害を受けた。古い時代に建てられた屋敷や手作業で作った小屋、飼っていた牛や豚300頭も失った。アンソニーさんは「政治のことは詳しくわからない」と言葉を濁す一方、「気候変動は起きている。振れ幅がひどくなっていて、時に非常に暴力的だ」と語る。

 

(中略)周辺には、前回の選挙でトランプ大統領に投票したものの、貿易戦争と大雨でトランプ支持をやめると話す農家も多いという。

 

(中略)次の選挙戦で気候変動が大きな焦点になることは確実だ。トランプ大統領の支持基盤を揺るがす地殻変動につながるのか、注目が集まる。【620日 FNN】

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