孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  ベルルスコーニ首相らしからぬ財政再建策、早くも議会で骨抜き

2011-08-31 21:37:59 | 欧州情勢

(2月にイタリア・ビアレッジョで行われたカーニバルの出し物  巨大なベルルスコーニ首相の顔面が割れると骸骨が現れるという趣向です。 政府批判も笑いの種にしてしまう国民性が“幸福度79%”の背景でしょう。“flickr”より By jborzikphoto http://www.flickr.com/photos/7539938@N04/5488572371/

イタリアの政治的指導力の欠如に危機感を募らせる欧州主要国
欧州の信用不安は、ギリシャやポルトガル・スペインもさることながら、経済大国イタリアの動向が注目を集めています。万一、イタリア財政が破たんという事態になれば、その経済規模の大きさからして、ユーロ圏だけでなく、世界経済全体が大波をかぶることになります。

しかしながら、イタリアのリーダーは、“メディア王としての贅沢な暮らしに派手な女遊び、それに政治家とは思えない放言・暴言など、良く言えば型破り、悪く言えば著しく非常識なことで知られる”【8月24日号 Newsweek日本版】あの ベルルスコーニ首相です。

****欧州債務危機 大国イタリア、じわり「主役」 各国首脳奔走も…首相はリゾート****
未曽有の金融危機を引き起こした3年前の悪夢が再現するのか。欧米に拡大する債務危機の“台風の目”は、先進7カ国(G7)の一角であるイタリアだ。危機対処能力が問われるベルルスコーニ首相は、未成年者買春疑惑で求心力を失い、他の欧州首脳らが「8月ののろい」を払拭しようと奔走する中、どこ吹く風で海辺の夏を楽しんでいるという。

イタリアの政府債務残高が国内総生産(GDP)比で約120%に達し、欧州単一通貨ユーロ(17カ国)圏ではギリシャに次いで2番目に多い。イタリアの10年債利回りが一時6・2%を突破し、同首相は5日、財政赤字の解消時期を2014年から1年前倒しすると表明。憲法を改正し、均衡財政を義務化する規定を盛り込む考えも示した。
メルケル独首相とサルコジ仏大統領は7日夜、共同声明を発表し、「発表した事項を早く実行に移すことが不可欠だ」と要求した。

8日付の英紙フィナンシャル・タイムズは「ベルルスコーニ首相は長女の45歳の誕生日を祝うため、サルデーニャ島の海岸リゾートの豪華別荘に行った」と伝え、「しかし、彼の不在はほとんど問題にならないと批評家はみている」と揶揄(やゆ)した。同国の経済・財政政策はユーロ圏と米国の手中に委ねられ、「同首相は他者の操り人形」との見方が強まっているためだ。

経済規模でユーロ圏3位のイタリアは国内貯蓄率が高く、国債購入者も国内投資家が多いため、ギリシャなど債務危機の国とは事情が異なるとみられていた。
しかし、ギリシャ国債の格付けが一部デフォルト(債務不履行)扱いとなり、2008年9月の米リーマン・ブラザーズ破綻前との酷似性を指摘する声が市場に広がり、政治不信と10年以上の低成長が続くイタリアに市場の標的は移りつつある。

これまで3回首相職に就いているベルルスコーニ首相は未成年者買春疑惑で支持率が過去最低の29%に下落。出身地の北部ミラノ市長選で与党現職候補が敗れ、原発再開の是非を問う国民投票でも反対票が9割を超えて再開断念に追い込まれた。7月には次期総選挙への不出馬を表明した。
しかも同首相は、財政再建を指揮するトレモンティ経済・財務相を「自分だけが頭が良いと思ってチームプレーができない」と批判し、市場を混乱させた。

ユーロ圏はスペインを救済できるよう「欧州金融安定化基金」の融資枠を今年秋までに2500億ユーロから4400億ユーロに引き上げる方針だが、それだけではイタリアを破綻から救済できない。「リーマン・ショック」の第2幕を恐れる他の主要国は、イタリアの政治的指導力の欠如に危機感を募らせている。【8月9日 産経】
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イタリア・ベルルスコーニ首相らしからぬ厳しい財政再建策
さすがのベルルスコーニ首相も、これではまずい・・・と思ったか、12日の閣議で、2012~13年に増税と歳出削減で財政赤字を455億ユーロ(約5兆円)減らし、13年に財政赤字を解消する緊縮財政策を決めました。
具体的には、公務員削減、年金給付開始年齢引き上げ、富裕層への連帯税、祝日の削減などです。

****イタリア、増税など追加財政再建策 信用不安受け *****
イタリア政府は12日、緊急閣議を開き、追加的な財政再建策を決定した。増税や公務員の削減などを通じ、2012~13年の2年間で財政赤字を455億ユーロ(約5兆円)減らす。ギリシャ危機に端を発した信用不安がイタリアに波及し、同国財政への警戒感が強まっていることから具体策を早期に打ち出した。

歳出削減策としては、まず中央と地方で公務員の定員を合わせて5万人減らし人件費を圧縮する。さらに細分化されている自治体の統合を促すことで公的部門の業務効率を高める。年金財政健全化のため、給付開始年齢の引き上げ時期を一部前倒しする。

一方、歳入増対策としては富裕層に対し新たに5~10%の連帯税を課す。金融取引に伴う利益への課税率も引き上げる。このほか祝日を減らすことで就労日数を増やして生産性を高め、税収増をはかる。
イタリアでは脱税がはびこり、税の捕捉率の向上が課題となっている。今回の再建策では税の申告を厳格にし、レシートなどを発行しない取引を厳しく取り締まる方針も打ち出した。

こうした改革を通じ、イタリアは13年には財政均衡を達成できるという。トレモンティ経済・財務相は「緊急性を考慮し、厳しい再建計画を短期間で決定した」と語った。閣議決定した財政再建策は60日以内に上下両院で承認する必要がある。
イタリアの債務残高は国内総生産(GDP)の約120%に達し、財政赤字のGDP比は10年は4.6%。同国債の利回りは高止まりし、金融市場の標的となっている。7月には財政赤字を700億ユーロ減らす計画を議会が承認している。【8月13日 日経】
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およそイタリア・ベルルスコーニ首相らしからぬ厳しい内容です。
「胸が張り裂けそうだ。わが政権は、国民の財布に手を出さないことを自慢にしてきたのに」と、ベルルスコーニ首相は嘆いたそうです。「しかし世界の情勢は変わった。イタリアはこれまでにないグローバルな問題に直面している」とも。【8月24日号 Newsweek日本版より】

議会で骨抜き
“しかし”と言うべきか、“やっぱり”と言うべきか、今朝のTVニュースによれば、政府の決めた富裕層への連帯税は議会で早くも骨抜きにされたそうで、かわりに脱税防止強化で歳入を補填するということです。
このニュースを伝えるドイツのTV局は、当然ながら批判的な論調でした。
ドイツにしてみれば、ギリシャやイタリアなど遊び呆けている国を、真面目に働いているドイツがなぜ救済しなければならないのか・・・という不満があります。

アリはキリギリスを助けるべきか・・・
そのドイツでどのように報じられたのかは知りませんが、欧州13カ国の世論調査によれば、「私の人生は幸せだ」と答えた人の割合はギリシャが2位(80%)、イタリアが3位(79%)に対し、ドイツは11位(61%)だったそうです。

****ギリシャ人:8割が「幸せ」 デンマークに続いて欧州2位****
財政危機があろうとも、ギリシャ人は8割が幸せ--。独ハンブルクの未来研究財団とブリティッシュ・アメリカン・タバコ社が実施した「幸福度」に関する欧州の世論調査で、こんな結果が浮かび上がった。
欧州13カ国計1万5000人が対象。

「私の人生は幸せだ」と答えた人の割合は、福祉国家デンマークが96%で1位だったが、2位はギリシャ(80%)、3位は同様に財政危機の渦中にあるイタリア(79%)が続いた。逆に欧州一の経済大国ドイツは61%と下から3番目。生活水準の高さとは逆に「悲観的」な姿が浮き彫りになった。

国別で幸福度に差があるが、どの国でも共通して男性より女性、都市住民より地方住民、独身者より既婚者の方が幸福度が高かった。研究財団代表のラインハルト氏は「不透明な時代だが、各国とも世代が若いほど幸福度が高いのは明るい材料だ」と分析している。【8月22日 毎日】
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“キリギリス”よりは“アリ”タイプということでは、日本もドイツと同じです。
“そんなに幸せなら、財政危機も自分たちでなんとかしろよ!”とも言いたくなるところです。
しかし、放置して“キリギリス国家”の危機が深刻化すると、火の粉が自分にも降りかかるということで、“アリ国家”ドイツも悩ましいところです。

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イラク  “忘れられた戦争”  増加に転じたテロ  米軍撤退後の「レバノン化」の懸念も

2011-08-30 22:10:06 | 中東情勢

(アルカイダ系組織「イラクのイスラム国家(ISI)」のメンバー 組織幹部の逮捕・殺害で混乱が続いている・・・とも言われていますが。 “flickr”より By jihadiste2010 http://www.flickr.com/photos/47065306@N03/4324607832/in/photostream

未だ頻発するアルカイダ系組織によるテロ
アメリカ・オバマ政権にとってはアフガニスタンからの撤退が重要課題であり、また、リビア・カダフィ政権崩壊やシリア・アサド政権のデモ弾圧など、日々各地で新たな問題が起きているなかにあって、米軍が昨年夏に戦闘任務を終え、まがりなりにもマリキ政権が存在しているイラクは、次第に“過去の戦争”、“忘れられた戦争”となりつつあります。

しかし、減少傾向にあったイラクのテロは昨年から増加に転じており、アメリカ国務省の年次報告書によれば、10年のテロ件数は2688件と09年比で約1割増加しています。

そんなイラクの不安定さを強く印象づけたのは、今月15日におきたイラク各地でのテロでした。
全国で18都市とも17都市とも言われる各地で爆弾テロが同日に発生し、74人とも85人とも言われる住民が死亡、300人以上が負傷しています。

****イラク18都市で爆弾などによる連続攻撃、74人死亡****
断食月「ラマダン」中のイラクで15日、南部クートなど18都市で爆弾などによる連続攻撃があり、74人が死亡、300人以上が負傷した。2010年5月以来最悪となった一連の攻撃について、犯行声明は出ていないが、治安当局者は国際テロ組織アルカイダによる犯行との見方を示した。

最も被害が大きかったクートでは、午前8時に路上爆弾が爆発したあと、数分後に付近で自動車爆弾が爆発し、40人が死亡、65人が負傷した。
内務省高官によると、首都バグダッド近郊のユシフィヤでは午後9時半、軍服姿の8人がモスクになだれ込み、反アルカイダの軍人7人の名前を読み上げて外に連れ出したあと、衆人が見守る中で全員を射殺した。8人はアルカイダ系組織「イラクのイスラム国家(ISI)」のメンバーであると名乗っていたという。

中部ティクリートでは、警察の制服を着た2人が警察施設に押し入り、拘束されているアルカイダ系組織のメンバーらの解放を図ったが失敗。施設内で自爆し、警官3人が死亡、少なくとも7人が負傷した。
バグダッドでは、自動車爆弾2個と路上爆弾3個による攻撃があり、2人が死亡、30人が負傷した。

中部のシーア派の聖地ナジャフ、中部バクバ、南部カルバラ近郊、北部キルクークなどでも爆弾攻撃や自爆攻撃が相次いだ。【8月16日 AFP】
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イスラム武装勢力が今回の連続テロを起こしたのは、大規模テロを遂行する力が今もあることを誇示しつつ、米軍駐留継続容認に傾きつつある政府を牽制する狙いがあるためではないかとの見方もでています。

一昨日の8月28日にも首都バグダッドのモスクで礼拝中に自爆テロが起き、29名が死亡しています。
****イラク:バグダッドのモスクで自爆テロ 29人死亡****
イラクの首都バグダッド西部のモスク(イスラム教礼拝所)で28日夜、礼拝中の市民らを狙った自爆テロがあり、連邦議会議員1人を含む29人が死亡、38人が負傷した。AP通信が伝えた。
現場はスンニ派の主要なモスクのひとつ。腕にギプスをして負傷者を装った男が侵入し、礼拝終了後に突然自爆したという。犯行声明は出ていないが、国際テロ組織アルカイダ系勢力の犯行との見方がある。【8月29日 毎日】
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イラク治安部隊は自力で国を守れるだろうか?】
こうした状況に、米軍撤退後、はたしてイラク治安部隊がイラクの安全を守ることができるのか?という、かねてからの疑問を強くします。

****そしてイラクに悪夢がよみがえる****
連続テロ 米軍駐留部隊の完全撤退を年末に控え、現地の治安部隊も政治家も頼りなさを露呈

イラクはついに、つらい過去に逆戻りしたようだ。先週、各地で合計10台を超える車爆弾が次々と爆発し、市民が犠牲になった。治安部隊を狙った自爆テロと銃撃も発生。北から南まで17の都市で少なくとも85人が死
亡、300人以上が負傷した。
それは多くのイラク人がかつて経験し、二度と経験したくないと思っていた一日だった。

犯行声明は出ていないが、自爆テロで市民を標的にする手口から、イラク・アルカイダ機構(AQI)の犯行である可能性が最も高い。「AQIは依然としてイラク市民を執拗に狙い、危害を加え得る」と、米軍の報道官バリー・ジョンソン大佐は言う。

イラクでの暴力は過去1年間はおおむね減少していたため、報道はもっぱらアフガニスタンの戦況に焦点を当ててきた。いろいろな意味でイラクは忘れられた戦争になっている。イラクには今も約4万5000人の米軍部隊が駐留しているが、アメリカとイラクの政府が新たな合意に達しない限り、年内に完全撤退する。

そこで重要な疑問が浮かび上がる。イラク治安部隊は自力で国を守れるだろうか。
先週の連続テロが明確な答えのように思える。アメリカが過去8年間、巨費を投じて訓練してきたにもかかわらず、イラク治安部隊はいまだに治安活動を担う用意ができていない。

それは治安部隊だけの責任ではない。イラクの政治家も頼りない。現政権は昨年末に発足したが、内相と国防相と国家安全保障相のポストをめぐってさまざまな派閥が熾烈な争奪戦を繰り広げており、この3つのポストは依然として空席のままだ。すべてヌーリ・マリキ首相が兼任している。

連続テロの前日、マリキは安全保障会議を開き、イラクの治安は改善していて閣僚を任命する必要はないと語ったと、イラク連邦議会のマフムード・オスマン議員は言う。「しかし治安を守るのは政府の責任だ。あら坤る政党が政争に明け暮れている隙にテロリストが付け込む」【8月31日号 Newsweek日本版】
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連続テロ前日のマリキ首相の“イラクの治安は改善していて閣僚を任命する必要はない”という発言は、皮肉としか言いようがありません。
隣国シリアの情勢、宗派対立に絡んでイランやサウジアラビアの介入など、今後更に不安定化する要素があります。

****レバノン化」の恐れも*****
・・・・折しも現在の中東には問題が山積している。イラクの隣国シリアは数十年ぶりの難題に直面している。反政府デモが拡大し、5ヵ月にわたって国を揺るがしているのだ。最大規模のデモの一部はシリア東部で起きている。イラク西部の部族と深いつながりのある地域だ。シリアのアサド政権がデモ隊への攻撃を続ければ、イラクの部族も黙っていないかもしれない。

イラクにおけるアルカイダの復活を受けて、イランもイラク国内のシーア派武装組織に対する支援強化を加連させる可能性がある。そうなればイラクに住むスンニ派のためにサウジアラビアが介入するだろう。最悪の場合、イラクは80年代のレバノンのように中東の各勢力が争う戦場と化す。米軍が各勢力を引き離しているのも今年末までだ。【同上】
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イラクはスンニ派・シーア派の対立以外にも、クルド問題という厄介な問題を抱えています。
イラクの「レバノン化」というのは考えたくないシナリオですが、宗派対立・民族対立に明け暮れるマリキ政権を見ていると、あながち否定もできないところです。

アメリカ:訓練を目的とする部隊を来年以降も駐留させる
アメリカは戦闘部隊を今年末までに完全撤退させますが、訓練を目的とする部隊を来年以降も駐留させる方針でイラクと交渉しています。

****米軍イラク駐留、訓練部隊は来年以降も 戦闘部隊は撤退****
パネッタ米国防長官は19日、来年以降のイラクでの米軍駐留について、同国政府との交渉を始めたことを明らかにした。オバマ米政権は、イラクに駐留する米戦闘部隊を今年末までに完全撤退させる一方で、訓練を目的とする部隊を来年以降も駐留させることになりそうだ。米国防総省で一部メディアの取材に語った。

パネッタ氏は「(米軍の)訓練部隊の規模などについて交渉したいと(イラク政府から)要請があった」と言明。タラバニ大統領らイラクの政権幹部が、先週の協議で決断したことも明らかにした。

戦闘部隊を含む5万人規模のイラク駐留米軍は、今年末の完全撤退を約束したオバマ大統領の方針に従ってすでに撤退を始めているという。パネッタ氏は「イラクは、自国の防衛のために(米軍の)どんな訓練部隊を必要とするのか。それが今後の課題になる」と述べた。
イラクでは死者を伴うテロが依然として続いており、米国は隣国イランによる政治介入にも神経をとがらせている。【8月20日 朝日】
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アメリカとしても、多大な犠牲を払いながら、撤退後に「レバノン化」といいた内戦状態にでもなれば、一体何のための犠牲だったのか・・・ということになります。大量破壊兵器がないことはわかりましたが・・・。

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中国・台湾  変わる評価、変わらぬ評価  李鴻章、日本統治時代の和暦、“一つの中国”

2011-08-29 21:24:14 | 中国

(李鴻章を挟んで、左は英国首相を3回務めた保守党政治家ソールズベリ、右は同じく英国保守党政治家でインド副王を務めたジョージ・カーゾンではないでしょうか “flickr”より By ambrett http://www.flickr.com/photos/22955235@N00/542905394/

洋務運動は中国における改革開放の第一歩
不変とも思われているような歴史的な認識・評価も、時間とともに変化しうるものです。

清朝末期に西洋の軍事技術を導入し国力の増強を図る洋務運動を主導した李鴻章は、欧米列強と数多くの不平等条約を結び、下関条約で台湾を日本に割譲した「売国奴」として長く批判されてきましたが、“改革開放の第一歩”として再評価の動きがあるとか。
李鴻章はかつて孫文の提案を無視したことがありますが、後に辛亥革命を主導した孫文より李鴻章の方が当時の中国の実情に即していたと評価する見方が増えているそうです。

****再評価される李鴻章 「売国奴」から「愛国者」へ****
「李鴻章は偉大な愛国者であり、彼が主導した洋務運動は中国における改革開放の第一歩となったのです」
中国・安徽省の省都、合肥市の繁華街。同市出身の政治家、李鴻章(1823~1901年)の旧家を改築した記念館で、若い女性案内人は李鴻章の胸像を指さしながら語気を強めた。

辛亥革命前夜の清朝末期、北洋大臣(北方三省の通商・外交・防衛を担当)などを務めた李鴻章は、西洋の軍事技術を導入し国力の増強を図る洋務運動を進める一方、欧米列強と数多くの不平等条約を結んだ。1895年、日清戦争後の下関条約で台湾を日本に割譲したのも李鴻章であり、中国で長年、「売国奴」の代表的人物として批判の対象とされてきた。(中略)

しかし最近、李鴻章ら歴史上の人物の再評価が進んでいる。李鴻章記念館で7月から行われている特別展では、李鴻章が外国の投資を積極的に導入し、鉄道を整備し、紡績など中国の民族産業の振興に力を入れた点を「祖国と運命をともにし、発展を求めた」と高く評価している。
李鴻章記念館を訪れる参観者も近年、毎年30%前後で増えており、昨年は16万人を超えたという。

李鴻章は辛亥革命の10年前に死亡しているが、革命と無関係というわけではない。孫文が革命を志すきっかけを提供した人物こそ、李鴻章だったともいわれている。

若い頃、清朝の体制内改革を目指していた孫文は、28歳だった1894年、約8千字から成る改革案をときの実力者、李鴻章に送った。「人材の積極的登用」などが盛り込まれていたという。その上で李鴻章に面会を求めたが、実現することはなかった。
迫る日清開戦を回避するため、各国と交渉を重ねていた李鴻章が一介の若者の提案に耳を傾けるはずもなかったが、失望した孫文はその後、清朝の打倒を決意し、ハワイに渡って反体制組織の興中会を立ち上げるのである。

李鴻章が孫文の提案を受け入れなかったことは、後に小説や映画にもなり、改革派の孫文と保守派の李鴻章の対決という側面からクローズアップされてきた。
ところが、最近になって、当時の李鴻章の政策はむしろ中国の実情に即しており、孫文の提案の方が非現実的で、未熟だったと主張する学者が増えている。
辛亥革命は内戦を招き、社会の発展を著しく阻害したとして、李鴻章の洋務運動路線をそのまま堅持していれば「中国はもっと早く近代化を実現できたはずだ」といった主張まで飛び出している。

「一連の不平等条約を結んだのは李鴻章だけの責任ではなく、当時の中国の国力を考えれば彼はむしろ外国との交渉でよく頑張った方だ」
こう指摘するのは北京大学歴史学部の宋成有教授だ。李鴻章が「売国奴」と位置付けられた背景には、歴代政権内の権力闘争に絡み意図的に宣伝された側面があるという。

しかし近年、中国で進む学術研究の多様化により、歴史上の人物にさまざまな光があてられるようになった。
宋教授によると、清朝末期、その豪奢(ごうしゃ)な生活が国力を低下させたとして長年批判されてきた西太后も、中国の近代化への貢献を評価する研究者らがいる。
一方、農民の革命として賛美されることが多かった、同時期の太平天国や義和団については、それらの文化破壊などの側面が指摘されるようになり、評価の見直し作業が進められているという。

こうした再評価にはそれぞれ特有の背景があるが、李鴻章の場合、中国の国内総生産(GDP)が日本を抜いて世界2位に躍り出るなど、高度経済成長により中国が自信を付けたことも原因の一つとみられる。【8月29日 産経】
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文革の毛沢東、天安門の小平はタブー
しかし当然ながら、現在の中国共産党支配体制に直結するような部分に関して新たな評価を試みることは“タブー”とされています。

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ただ、中国の近現代史にはまだまだタブーとされる部分が多い。
日中戦争時に日本の傀儡(かいらい)政権を率いた汪兆銘はいまだに「国賊扱い」を受けており、重慶の烈士霊園などには土下座する汪兆銘像がある。いかなるプラス評価も許されないとの雰囲気が残るため、歴史学者の間で汪兆銘を研究する人はほとんどいないという。

また、1960年代から70年代半ばにかけて中国を大混乱に陥れた文化大革命における毛沢東の役割や、89年の民主化運動を弾圧した天安門事件の際のトウ小平らの研究もタブー視されている。中国当局が下した結論が絶対視され、自由な研究は許されない。

歴史の評価が時代の変遷とともに変わるのは世の常だが、中国においては共産党の意向によって左右されるのが実態だ。約2500年前の思想家、孔子への批判と賛美が繰り返されたように、李鴻章の場合も最近の再評価が定まったわけではない。【同上】
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【「歴史事実を覆い隠したり、歴史事実から逃避したりすることはできない」】
一方、李鴻章が下関条約で日本に割譲した台湾では、教育において日本統治時代の台湾の歴史に触れる際、西暦とともに「明治」「大正」「昭和」といった日本の元号(和暦)を併記すべきだ、という意見書が出されているそうです。

****台湾・年号の表記不統一 「和暦なければ教育現場が混乱*****
日清戦争の結果、約半世紀の日本統治時代を経た台湾。その近現代史は複雑だが、台湾の学校教科書や歴史教育などで日本統治時代の台湾の歴史に触れる際、西暦とともに「明治」「大正」「昭和」といった日本の元号(和暦)を併記すべきだ、という意見書が現場の教育責任者から教育部(文科省に相当)に提出され、注目されている。

意見書を提出したのは、7月まで台湾北東部の宜蘭県政府の教育処長だった陳登欽さん(48)。台湾の歴史教科書では一部を除き、清国から日本への割譲が決まった下関条約(1895年)から、第二次大戦の終結(1945年)までの「日治時期」の台湾の出来事は西暦のみで表記。日本統治以前は西暦と清の元号を、以後は西暦と民国暦を併記している。(中略)

提案では「台湾に過去半世紀の日本統治時代が存在したのは歴史的事実だ」「子供たちには事実を知る権利がある」「1945年以前の日本領台湾と中華民国は無関係である」などを柱とした。(中略)

「歴史事実を覆い隠したり、歴史事実から逃避したりすることはできない」という陳さんの提案に、教育部では「敏感な問題であり、十分に諮(はか)ったうえで回答を示したい」として、教育研究院の教科書発展センターなどで審議中。その成り行きが注目されているが、果たして…。【8月29日 産経】
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【“一つの中国”の呪縛
台湾が親日的とは言え、日本統治に関しては、支配された側の台湾としては“敏感な問題”でしょう。
台湾及び中国にとって、“微妙かつ重大な問題”が“一つの中国”という認識です。
日本統治や李鴻章のような過去の問題ではなく、現在及び将来を左右する問題です。

中国は、本来台湾は中国の一部であり、将来的に事と次第によっては“武力”を用いても・・・という立場ですから、論旨としては明快です。

台湾は悩ましいところです。
現実的には別個の主権国家を形成していますが、そこをあからさまに主張して中国を刺激することは、安全保障上の問題を引き起こします。そこまでいかなくても、経済的に中国依存が強まっている現実においては、少なくとも経済的に中国と良好な関係を維持してことが台湾にとって不可欠である・・・という認識もあります。

台湾の中でも、中共と争った蒋介石・大陸にルーツを持つ与党・国民党は“一つの中国”と言う点では中国共産党と一致しています。どちらが呑みこむのか・・・というところは異なりますが。
もちろん、国民党も今更大陸侵攻を考えている訳ではありませんが、党是としての“一つの中国”をそのまま掲げて、“一中各表”(「一つの中国」の解釈を中台それぞれが表明する)という現実的対応で事を荒立てず、経済面を中心に中台関係強化を図っていくという立場になります。

野党の民進党は、台湾の主権を重視する立場になります。
陳水扁前総統は“一辺一国”(中国と台湾はそれぞれ別の国)」とする強硬姿勢をとりました。
ただ、先述のように、中国を刺激することは安全保障上の問題になりますし、経済的関係強化は避けて通れないところがあります。
蔡主席は、“一つの中国”については明確に否定せず、中国との対話継続を重視する姿勢を見せています。

****台湾総統選:中台政策の論戦開始 候補の馬氏と蔡氏****
来年1月14日投開票の台湾総統選に向けて23日、与党・国民党候補の馬英九総統(61)と野党・民進党候補の蔡英文・同党主席(54)がそれぞれ中台政策を表明した。最大の争点を巡る論戦の始まりで、馬総統は中台関係改善の成果を改めて強調。蔡主席は中国が対台湾政策の原則として提唱する「一つの中国」を、「時代に合っていない」と指摘。戦略的互恵関係に基づく新たな対話の枠組み作りを呼びかけた。

馬総統はこの日、かつて中台軍事対立の最前線だった台湾西部の金門島を訪問。中国側から当時撃ち込まれた砲弾と台湾の砲弾の残骸で作った「平和の鐘」の完成式典に出席した。1958年8月23日は、中国軍が金門島に2カ月近く続く砲撃を始めた日だ。

馬総統は就任以来、中台関係の改善に積極的に取り組み、金門島は双方の交流拠点へと様変わりした。馬総統は式典で「殺りくの戦場が両岸(中台)の平和の道に変わった」と強調、子供たちと共に平和の鐘を11回ついた。(中略)
一方、蔡主席は台北市内で会見し、対中政策についての立場を初めて明確に表明した。最近では台湾人の約8割が中国との関係について「統一」でも「独立」でもない現状維持を望んでいると指摘。台湾の主権を強調した上で、中国が主張する「一つの中国」とは別の形の「歴史を超え、未来を展望する枠組み」が必要だと訴えた。

また、「中国の台頭は台湾にとって挑戦だがチャンスでもある」とも述べ、独立志向の強い民進党の従来姿勢を弱めた。馬総統が主張する「一中各表」(「一つの中国」の解釈を中台それぞれが表明する)とは異なる立場を表明したが、「一つの中国」については明確に否定せず、中国との対話継続を重視する姿勢を示した。【8月23日】
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“台湾人の約8割が中国との関係について「統一」でも「独立」でもない現状維持を望んでいる”という状況で、中台関係強化にしても、台湾主権重視にしても、あまりこの問題に深入りすることは中間層の反発を招きかねないという判断もあって、総統選挙開始時には敢えて両者ともこの問題に触れないという対応をとっていました。
ただ、さすがにそうもいかない重大問題ですので、今後、両党そして中国の間での論議が高まりそうです。

中国:「この政策を実施したら両岸(中台)関係は再び不安定化する」】
なお、中国はさっそく民進党・蔡主席の“「一つの中国」とは別の形の「歴史を超え、未来を展望する枠組み」”に反発しています。

****台湾総統選:中国、馬氏支持鮮明に…野党提案を拒否****
中国国務院台湾事務弁公室は24日、来年1月の台湾総統選の野党・民進党候補、蔡英文・同党主席が23日に発表した対中政策で「一つの中国」とは異なる新たな対話の枠組み作りを呼びかけたことに対して、「受け入れられない」と拒否した。また「この政策を実施したら両岸(中台)関係は再び不安定化する」と述べ、与党・国民党候補、馬英九総統との連携を継続する姿勢を鮮明にした。

中国側は、陳水扁前総統が「一辺一国(中国と台湾はそれぞれ別の国)」と表明した強硬姿勢と蔡主席の立場を同一視し、「民進党はいまだに台湾独立の立場を変えていない」と批判。「我々は両岸関係を後退させたくないし、台湾同胞に損害を与えたくない。平和発展の成果を捨てたくない」と述べた。

これに対し蔡主席は25日、「予想通り(の反応)だが、我々の説明には共に検討できる多くの課題があり、善意が含まれている」と述べ、「我々の政策をよく読んで理性的な力を発揮してほしい」と呼びかけた。【8月25日 毎日】
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“一つの中国”の呪縛は、なかなか解けそうにありません。
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アフガニスタン  テロ増加 更に、カルザイ大統領3選不出馬で政権求心力低下

2011-08-28 21:03:20 | アフガン・パキスタン

(カルザイ大統領(右端)と、弟のアフメド・ワリ・カルザイ氏(左から3人目) アフメド・ワリ・カルザイ氏は南部カンダハル州議会議長を務め、同州の商業・政治上の取引を支配していた人物です。アヘン取引や民間警備会社と裏でつながっているという疑惑やアメリカCIAとの関係が取りざたされる一方で、同州に秩序をもたらしたと評価する声もありました。 この弟と、友人で相談役のシャン・ムハンマド・カーン氏がタリバンによって惨殺されたことで、大統領の意欲が萎えてしまったと言われています。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5929542067/

連日のように、全土で、一般市民が犠牲
米軍撤退を控えたアフガニスタンでは、相変わらずと言うか、今までにも増してテロが頻発しています。
最近のニュースの見出しと概要を列挙しただけでも、以下のような状況です。

****タリバンが州知事庁舎襲撃、22人死亡…アフガン【8月15日 読売】
(東部パルワン州 襲撃時、庁舎内では知事や州警察長官、国際治安支援部隊(ISAF)の担当者らが出席して治安対策会議が開かれていましたが、いずれも無事でした。)

****アフガン南部で警備会社襲撃、4人死亡【8月16日 読売】
(南部カンダハル州 襲われた警備会社は、北大西洋条約機構(NATO)軍の基地に隣接し、NATO軍向けの燃料を運ぶトラックの護送に携わっていました。)

****道路の仕掛け爆弾爆発 市民ら24人死亡 アフガン【8月18日 朝日】
(西部ヘラート州 ミニバスは市場に向かうところでしたが、同地区ではこの日、別の場所でトラックも仕掛け爆弾の被害に遭い、4人が負傷しています。)

****アフガニスタン:タリバンが攻撃、住民3人死亡…カブール【8月19日 毎日】
(首都カブール 武装集団がイギリスの文化施設「ブリティッシュ・カウンシル」を襲撃したもので、駐留米軍が7月に撤収を開始して以降、首都カブールが本格的な武装勢力の攻撃を受けたのは初めてです。)

****アフガン:車爆発し市民4人死亡 爆弾テロか【8月27日 毎日】
(南部ヘルマンド州 時、現場近くの銀行には給料を受け取るために兵士や警官が並んでいたそうです。
 また、北西部ファリャブ州のモスク付近で爆弾が爆発し、参拝者4人が死亡、14人が負傷しています。)

まさに“連日”といったところですが、テロの起きている地域もタリバン勢力が強い南部だけでなく、首都カブールを含めたアフガニスタン全土にわたっています。
また、犠牲者は巻き込まれた一般市民が大部分を占めています。

アメリカ国務省の報告によれば、テロ件数は2010年に前年比1.5倍に増加しているそうです。上記状況では2011年は更に増えそうな勢いです。

****アフガンのテロ件数、前年の1.5倍超 米国務省報告書****
米国務省は、2010年の世界のテロ状況をまとめた年次報告書を18日に発表した。テロ件数は、米軍が増派されたアフガニスタンで1.5倍以上に増加。減少傾向にあったイラクでも再び増加に転じており、両国の治安回復の難しさが浮き彫りになった。

国家テロ対策センターの集計によると、世界全体のテロ攻撃数は1万1604件で、09年から約6%増加した。アフガンは前年比56%増の3307件。08年に比べると約2.7倍で、オバマ政権が駐留米軍増派を進めたにもかかわらず、増加傾向に歯止めがかかっていないことが分かった。

米軍が昨年夏に戦闘任務を終えたイラクでも、テロ件数は2688件と09年比で約1割増加した。米軍は今年末に戦闘部隊の完全撤退を予定するが、今月も無差別テロで多数の市民が犠牲になるなど、治安の安定にはほど遠い状況だ。【8月21日 朝日】
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弟と友人の惨殺で闘志が萎える
米軍撤退後、治安維持の責任を担うのがアフガニスタン国軍・警察ですが、その能力に大きな疑問がもたれているのは周知のところです。
その軍・警察を指導すべき立場にあるカルザイ大統領は、3選禁止を規定したアフガン憲法に従い、14年の大統領選に出馬しない考えを表明しています。

****アフガン:カルザイ大統領が不出馬表明 3選禁止規定****
アフガニスタンのカルザイ大統領は11日、3選禁止を規定したアフガン憲法に従い、14年の大統領選に出馬しない考えを表明した。大統領府によると、アフガン議会議員との会合で語った。選挙まで3年あるが、米軍撤収が始まった7月以降、治安悪化などで大統領は求心力を急速に失っている。カルザイ氏がこの時期に不出馬を表明したのは、憲法順守の姿勢を示すことで国民や国際社会の支持を得る狙いとみられる。【8月12日 毎日】
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カルザイ大統領は3選禁止規定の廃止を狙っているのではないかとも噂されていましたが、今年7月に弟のアフメド・ワリ・カルザイ氏と、親しい友人で顧問のシャン・ムハンマド・カーン元ウルズガン州知事が惨殺された事件で、大統領の闘志が萎えてしまった・・・との見方がなされています。

また、かねてより後ろ盾のアメリカとの不和があることも、大統領の意欲をそいでいるようです。
アメリカが自分を差し置いて、タリバンと直接交渉に乗り出す構えを見せていることへの不満、09年の大統領選で不正疑惑が浮上した際、アブドラ元外相との決選投票をアメリカなど国際社会に強制されたこと対する“裏切られた”という感情があるとか。【8月31日 Newsweek日本版より】

次期大統領の候補者
一方、アメリカがそうした行動に出るのは、腐敗・汚職が絶えず、実効的な施策を推進できていないカルザイ大統領の実績・能力への不信感が募っているからですが、さりとて彼に代わる適材がいないというのが悩みの種でもあります。

それは一般国民も同様で、“カルザイが大統領の座に就けた大きな理由の1つは、自らの手を血で汚していないからだ。多くのアフガニスタンの実力者は、旧ソ連軍に抵抗したイスラム武装組織の元司令官で、ソ連撤退後は庶民を食い物にした。09年の大統領選当時、多くの有権者はカルザイの政権運営や政府の腐敗と無能に不満だったが、現職のカルザイに投票すると言った。信頼できる候補者がほかにいなかったからだ。”【同上】とのことです。

アフガニスタンには人口の約42%を占めるパシュトゥン人に加え、タジク人(27%)、ウズベク人(9%)、ハザーラ人(9%)などの少数民族がおり、かつて内戦当時は血で血を洗う戦いを繰り広げたように、根深い対立感情があります。
カルザイ大統領は多数派パシュトゥン人を支持基盤にしていますが、次期大統領はこの複雑な民族構成と対立を克服できる者でなければなりません。

09年大統領選挙で31%近い得票を獲得したアブドラ元外相は、父親は南部出身のパシュトゥン人ですが、本人はタジク人主力の旧北部同盟に近く、パシュトゥン人の間での支持が広がっていません。

カルザイ大統領の意中の後継候補は、国際機関出身のグラム・ファルーク・ワルダク教育相であるとの指摘があります。

“ワルダクはカルザイの外交顧問で、タリバンとの和平交渉を担当する高等和平評議会の有力メンバーでもある。もしカルザイが公式にワルダクの立候補を支持すれば、当選の可能性は高くなるかもしれない。ただし支持基盤は首都カブールと政府機関だけで、地方住民の支持は弱いとみられている。”【同上】

国際社会が期待を寄せているのは、アメリカで教育を受け世界銀行で働いた経験を持つテクノクラートのアシュラフ・ガーニ氏です。

“南部のアフマドザイ部族出身のパシュトゥン人で、カルザイ移行政権の財務相として辣腕を振るったが、カルザイが最初の大統領選に勝った直後の04年、政府の腐敗と機能不全に抗議して辞任した。
09年の大統領選に立候補した際には、当局者の腐敗を助長しているとしてカルザイを激しく攻撃。「ビジョンも指導力も、管理技術もない」と批判した。(中略)
ガーニの能力に疑いはないが、前回の大統領選では幅広い支持を集めるのに苦労した。地方で選挙運動を行うための組織力や人脈をつくれるかどうかは未知数だ。”【同上】

いずれにしても、カルザイ大統領の不出馬宣言で政権の求心力が低下することは避けられません。
米軍撤退計画と併せて、タリバン側には和平交渉を急ぐ理由がなくなったとも言えます。

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中国  “人口ボーナス”を生かしきれず、“中所得国の罠”に陥る懸念

2011-08-27 21:50:17 | 中国

(10年6月におきたトヨタ系列工場でのストライキ  昨年6月に多発した労働争議について、農村部で余剰人員が減少したり、あるいは農業部門でも追加の労働力が必要になっていると、工業部門での賃金水準の上昇傾向が顕著になるという“ルイスの転換点”が論じられましたが、これも人口ボーナス期の終わりが近づいていることによるひとつの現象でしょう。 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/4767320631/

【「中所得国の罠」】
「後開発途上国」「低所得国」の段階を脱して「中所得国」の位置にいる国が、次のステージである「高所得国」になる前に成長が止まってしまうことを、“中所得国の罠”と呼ぶそうです。

“リーマンショック”“欧州信用不安”“アメリカ国債格付け引き下げ”“日本の失われた20年”など低迷する世界経済の中で高成長を続ける中国経済は、新興国BRICsのなかでも際立っており、世界経済の牽引を期待されるまでになっています。

その中国も1人当たりGDPでみると、ようやく「中所得国」にさしかかった段階ですが、上記“中所得国の罠”に陥ってしまうのではないか・・・という議論がなされています。

****中国を待ち受ける「中所得国の罠****
中国で「中所得国(中進国)の罠(わな)」をめぐる論議がにぎやかになっている。昨年、日本を抜きGDP(国内総生産)世界第2位の経済大国となったが、1人当たりGDPでは約4500ドルと、まだ中進国入りして間もない。ところが中南米や東アジアでは中進国の多くがさまざまな壁にぶつかり、低迷を続けている。中国も同じ失敗を繰り返すのでは、との懸念からだ。

「中所得国の罠」という言葉は、世界銀行が2007年にまとめた報告「東アジアのルネサンス」で登場した。中南米やアジアの多くの国が発展途上国から抜け出し、中所得国まできたところで貧富差拡大や汚職、都市のスラム化など難題に直面。長期停滞に陥る傾向がみられる。
先行例はチリやアルゼンチンなどの中南米諸国で、アジアではマレーシア、タイ、インドネシアで似た現象がみられる。1人当たりGDPが1万ドルを超えた日本、韓国、台湾、シンガポールは、数少ない例外だ。

そこで過去30年で最貧国から中所得国入りした中国はどの道をたどるのか。「罠にはまるか、先進国入りできるか。そのためにどうすべきか」といった研究や議論がにわかに活発化しているわけだ。関心の高さは、問題の重要さを端的に物語っていよう。

中国内の研究によると、罠にはまったアルゼンチンでは1964年に1人当たりGDPが1千ドルを超え、90年代に8千ドルまで上昇後、2002年には2千ドルまで急落した。
対照的に63年に142ドルだった韓国は、08年に2万ドル弱まで上昇した。大きな違いは韓国が研究開発費をGDPの約3%に高めて技術革新を進めたのに対し、アルゼンチンはわずか0・4%に低迷したことだ。

さらに後者は、所得格差指標のジニ係数が社会騒乱多発の警戒ライン(0・4)を上回る0・5を超えたのに対し、韓国は0・3と、いち早く格差縮小に成功した。この点は日本、台湾も同様で、共に技術革新を進めると同時に、民主化によって権力の腐敗や極端な所得格差を国民がチェックできる仕組みを整えた。
一方、長期独裁政権下で縁故主義や汚職が蔓延(まんえん)したインドネシア、フィリピンは現在も2千ドル台前半で低迷している。

そこで中国だが、安価な労働力やエネルギー・公共料金と人民元の安値維持などを通じた投資と輸出主導の高成長を続けた。しかしこの数年、労賃上昇が加速する一方、再来年ごろから新規の労働人口が減り始め高齢化が急速に進む。

一党独裁下で党・政府幹部一族や、彼らと結託した経済人らが特権層を形成。「1%の家庭が国富の4割を占有する」(杜伝忠・南開大学教授)現象が顕著になっている。
役人の腐敗による国家損失は「GDPの1~2割」(汪丁丁・北京大学教授)とされる一方、ジニ係数は0・5前後と中南米並みで、全土で大規模な抗議行動や暴動が多発している。

人民論壇誌の昨年7月調査(専門家50人、一般大衆約6600人)では、対照的な結果が出た。大衆の過半数が「中所得国の罠を回避するのは困難」とみる一方、専門家の大部分が「罠にはまる可能性は低い」との楽観論だった。
どちらが当たるかは「神のみぞ知る」だが、筆者は楽観できない。中華民族の優秀さからみて、先端技術開発や新たなビジネスチャンスへの挑戦で成功する可能性は十分ありえよう。

課題は腐敗や格差是正のための、政治を含めた体制改革に踏み込めるか否かだ。改革・開放政策に移行して以来の30年間先送りしてきた難題に立ち向かうには、よほどの覚悟が必要だ。しかし独裁体制の安定維持に大わらわの現・次期指導部には、とてもその余裕はないようにみえる。【8月27日 産経】
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国民の富裕化より高齢化のほうが急速に進む
中国の“中所得国の罠”が懸念される最大の理由は、よく取り上げられるバブルやインフレ、経済格差、非効率性、地方官僚の腐敗などではなく、人口問題であるとの指摘があります。
中国は、2015年をピークに生産年齢人口(15~64歳)が減少の一途をたどる急速な少予高齢化を迎えます。これは(移民を大量受入れしない限り)避けようがない現実です。

****中国は先進国になれない****
・・・だが中国の「(東アジアの)奇跡」への仲間入りは実現しそうにない。資産バブルやインフレ、不良債権問題など長年の懸案ゆえではない。コピー商品と非効率な国有企業が今ものさばり、腐敗が蔓延しているからでもない。
中国が抱え込んでいるのは、解決困難な構造問題だ。中国は世界で初めて、1人当たりGDPが先進国の水準に達する前に生産年齢人目の急減と急速な少子高齢化を経験する国になる。このことが、克服し難い大きな負担になる。

「人口学的分析では、中国は国民の富裕化より高齢化のほうが急速に進み、社会保障を整える前に高齢化社会に入る。危機的な社会状況だ」と、フランスの人口学者エマニュエル・トッドはロイター通信に語っている。
決して遠い先の話ではない。
大和総研の中国担当シニアエコノミスト斎藤尚登によれば、中国の2桁近い高成長が続くのはあと5年ほどで、その後は次第に減速し、20年以降は5~6%に落ちる。
今なら大量の失業者が出る低成長に中国が陥るのは、インフレのためでもバブル崩壊のためでもなく、10年後には労働力が足りなくなるため、そのレベルの成長しかできなくなるからだ。【8月31日号 Newsweek日本版】
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1度しかない一発逆転のチャンス「人口ボーナス」】
近年、経済成長を論じる際、“人口ボーナス(恩恵)”の観点が認識されるようになっています。
“多くの途上国がいつまでも貧困から抜け出せない最大の要因は、子供が多過ぎるためだ。労働力にならない子供の数が多いほど社会全体の負担は増えるのに、教育レベルの低さや飢餓や病気で死ぬリスクを恐れて母親はたくさん産んでしまう。

だがいったん社会が豊かになり始めると、出生率は下がって社会の中で扶養しなければならない子供の比率は減る。その結果、生産年齢人口の比率が相対的に最も大きくなる経済成長に最適の人口構成が表れる。これが「人口ボーナス」といわれる現象だ。”【同上】
日本の高度成長も、この“人口ボーナス”を生かした結果と考えられます。

中国は、現在この人ロボーナス期にありますが、15年にはそれも終了します。
中国国内でもこの点は認識されており、所得水準が十分上がらないうちに本格的な少子高齢化を迎えてしまうことを「未富先老」問題と呼んでいます。

“人口ボーナスは一国に1度きりしか訪れない一発逆転のチャンスだ。人ロボーナス期が終わると、少子化とベビーブーム世代の高齢化がもたらす「人口オーナス(負担)」との戦いで成長どころではなくなる”という、1度きりの“人口ボーナス”を中国は十分に生かし切れなかった可能性があります。

****人ロボーナス」の衝撃*****
日本の人ロボーナス期が終わった1990年の1人当たりGDPは2万7000だったが、中国の人口ボーナスが終わるとみられる15年の1人当たりGDPの予測額は5000ドルにも達しない。IMFの高所得国の定義である1万2000ドルははるかかなただ。

日本総研環太平洋戦略研究センターの大泉啓一郎・主任研究員によれば、中国が人口ボーナスを生かし切れなかった原因は2つある。

1つは、78年の経済開放以前の60年代後半から人口ボーナスが始まったため、その時期の多くを計画経済下の重工業強化に費やしてしまったこと。労働力が最も豊富な時期に、労働集約型の軽工業を発展させられなかったのは、計画経済の弊害だ。
2つ目の理由は、経済発展が不十分な段階で人口ボーナスが始まったため、労働力の大半が農村にとどまってしまったこと。【同上】
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中国で人口ボーナスが始まった60年代後半は、文化大革命が始まった時期でもあります。貴重な一回きりのチャンスを文革の混乱で無駄にしてしまった・・・とも言えます。

人口オーナス期の到来
中国では少子化が急激に進行しており、合計特殊出生率(1人の女性が生涯で産む子供の数を表す指標)は、1.6にまで低下しています。

急激な少子化の原因としては一人っ子政策があげられますが、必ずしもそれだけでなく、豊かになって子供を産まない現象が日本などより早く進行した、と指摘する専門家もいます。生活費や教育費が高い上海では、一人っ子政策が終わっても子供は持ちたくないという夫婦も増えているとも言われています。

なお、ヨーロッパ以上に歯止めのかからない急激な少子化は、日本、韓国、台湾といった東アジア諸国に共通した現象です。東アジア社会における女性の地位・環境といった地域的特殊性も反映しているのかも。

また、一人っ子政策をやめれば人口が増える、というものでもありません。
“少子化で子供を産む女性の数自体が減っているからだ。仮に一人っ子政策をやめたとしても、母親の数が増えるまでには20~30年かかり、その問人口の減少は続いていく。
少なくとも、これから生まれる子供が生産年齢に達するまでの15年間は、生産年齢に達しない子供とベビーブーム世代の大量退職者が二重の社会負担として企業や家計にのしかかる。低成長のせいで貧富の格差は解消せず、失業も増える。人口オーナス期の到来だ。”【同上】

もちろん、人口オーナス期にあっても対応策がない訳ではありません。
女性・高齢者の就労を高め、労働者の教育水準を向上させてマンパワー増大を図り、より成長が見込める分野に貴重な労働力を投入する、海外からの投資を促進する・・・こうした施策で乗り越えることは可能です。
問題は、中国政府がそうした適切な対応をとれるか・・・(日本も同様ですが)という点にあります。

中国経済の将来は、中国市場に大きく依存する日本経済にとっても、また、世界経済にとっても重大な関心事です。

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イラン  経済制裁がもたらす密輸ビジネス活況と経済改革

2011-08-26 21:57:02 | イラン

(本文朝日記事の“密輸ビジネス”は、クルド人が背負ったりラバに積んだりして標高1600メートルの山岳地帯を越えて運び込む・・・といったオーソドックスな“密輸”ですが、写真は、イラクのクルド自治政府が制裁を無視して大規模にイランへ石油を輸出している“密輸”の様子 国境線をはさんだイラク・イラン双方ともクルド人居住区ですから、“密輸”でも何でもなく、国境線の方が間違っている・・・ということでしょうか。
“flickr”より By kurdistan-kurdstan http://www.flickr.com/photos/52377962@N02/4861888710/ )

続く経済制裁
最近、イラン関連のニュースをあまり目にしません。
中東・北アフリカの民主化運動、あるいは混乱を横目に、思いのほか静かな対応です。
自国への波及のほうが気になるのでしょうか。

核開発疑惑に関する経済制裁は相変わらず継続していますが、ロシアが「段階的解決案」なるものを提案しています。
****イラン:核問題でロシア「段階的解決案」 「土台となる*****
タス通信によると、イランのジャリリ最高安全保障委員会事務局長は16日、テヘラン訪問中のロシアのパトルシェフ安全保障会議書記と会談後、イラン核問題でロシアが提示した「段階的解決案」について、国連安保理常任理事国(米英仏中露)とドイツの6カ国との協議を再開するための「土台となる」と評価した。

「段階的解決案」はイランの協力と引き換えに6カ国側が制裁の一部解除などに応じる内容とみられる。イランのサレヒ外相は16日、モスクワ入りし、段階的解決を発案したラブロフ露外相と17日に会談する予定で、核協議再開に向けた調整が本格化する。【8月16日 毎日】
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密輸ビジネスで空前の活況
経済制裁が続けば密輸が横行する・・・というのは自然の道理でもあり、イラクとの国境は、密輸ビジネスで“空前の活況に沸いている”とのことです。
北朝鮮のような統制経済のもとでの違法闇市場が社会にとって必要不可欠なものになるのと同様、経済制裁下でのイランにおいても、違法“密輸”が社会全体を支える重要な役割を担っているようです。

****テヘランより安い」イラン国境、密輸品で活況*****
イラン北西部の町が、空前の活況に沸いている。国境を接するイラクから大量に入ってくる密輸品のおかげだ。家電製品を中心に価格は都市部よりも安く、国内各地から買い物客が訪れる。核開発をめぐる国際社会の制裁で経済が停滞するなか、ここだけは別世界のようだ。

「テヘランよりも断然お買い得!」。そんな宣伝文句が躍るショーウインドーを、家族連れが食い入るように見つめる。イラク国境から約40キロ離れたイラン北西部バネ。中心部の市場には家電製品や台所用品、衣類などを売る数百軒の店がひしめきあう。

人気なのは韓国製の42型液晶テレビで、850万リアル(約6万600円)。1千万リアルの米国製エアコンも売れている。すべての商品が首都テヘランより2~4割も安い。視聴が禁じられている衛星テレビのチューナーも、店頭に堂々と置いてあった。

「5時間かけて来たかいがあったよ」。北西部の町から車でやって来た会社員エフサンさん(27)は液晶テレビが入った段ボール箱を手に満足顔だ。結婚を控えたカップル向けにテヘランの旅行社が売り出した2泊3日の「バネ買い物ツアー」が人気で、40人の定員はたちまち埋まる。ツアー客は1千万~2千万リアルをバネで消費するという。

イランとイラクの密輸は2000年ごろから、両国に暮らす少数民族クルド人の間で細々と始まった。クルド人を弾圧したイラクのフセイン政権が03年に崩壊すると規模は一気に拡大した。
密輸商人によると、商品はアラブ首長国連邦ドバイを経由してイラク南部に陸揚げされ、国境地帯に運ばれる。地元のクルド人が背負ったりラバに積んだりして標高1600メートルの山岳地帯を越え、イランに運び込む。運び屋の稼ぎは月3千ドルほど。バネの人口は11万7千人だが、「3割は密輸がらみの仕事をしている。当局も黙認だ」という。
産業もなく貧しかった国境の町を潤す「密輸ビジネス」。羽振りのよさは、住宅の新築や改築があちこちで進んでいるところにも見て取れる。

国連安全保障理事会は昨年6月、4度目の対イラン制裁決議を採択。米国や欧州連合(EU)なども独自制裁に乗り出した。外国企業はイランとの取引を控えるようになり、通貨リアルは下落し、正規の輸入品が割高になった。国際社会がイランへの制裁を強めたことが、密輸品の需要を高める結果になった。

密輸はイラク以外にも、ペルシャ湾を挟んだ対岸のオマーンやアラブ首長国連邦ドバイとの間を船で結ぶルートもあり、イラン国営通信は、周辺国からの密輸入額が年間100億ドル(約7658億円)に達すると伝えた。
アフマディネジャド大統領は7月、密輸の撲滅を指示。さらに、地元紙によると「税関や国境警察の職員はわいろを取り、腐敗している。信頼できる人物に交代させるべきだ」と述べ、関係当局を批判した。

ただ、医療関係者によると、経済制裁で入手が難しくなった外国の高価な医薬品は密輸されたものを買わざるを得なくなっているという。強権支配に対する国民の不満を抑えるためにも、政府はある程度、密輸に目をつぶっているようだ。【8月20日 朝日】
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【“制裁で進むイラン経済改革”の皮肉
“面白い“のは、イランを敵視する欧米諸国による経済制裁が、結果的にイラン経済の経済改革を促し、石油収入をあてにした補助金ばらまきの経済体質を改善しつつあるとのことです。
財政改革が進まず困難に直面している欧米諸国にとっては、なんとも皮肉な結果です。

*****イラン:制裁が経済にプラス? IMFが異例の改革評価*****
制裁がイラン経済にプラス?--国際通貨基金(IMF)は3日、イランのアフマディネジャド大統領による経済改革を高く評価する報告書を発表した。イランは核開発問題を巡り国際社会から経済制裁を受けているが、報告書は「補助金改革の成功などで、今年の経済成長率は3.2%」と予測している。

イラン政府はイスラム革命(79年)以降、電気やガソリン代、食料価格などを低く抑えるため莫大(ばくだい)な補助金を導入してきた。しかし、国連や欧米からの相次ぐ制裁による石油収入の減少などで財政が逼迫(ひっぱく)。大統領は昨年12月、国会多数派の反対を押し切り、国内総生産の15%に当たる600億ドル(約4兆7000億円)の補助金を削減した。

一方で、報告書は制裁による負の影響も考慮しながらも、「補助金改革がイラン経済の効率性、競争性を高め、経済成長を促す」と肯定的に評価。原油価格の上昇も踏まえ、今年4月の報告書では0%としていた経済成長率の予想を上方修正した。
大統領は補助金削減と同時に各家庭への現金給付も実施しており、これが「物価上昇の影響を軽減し、貧富の差の解消にもつながった」と分析した。経済制裁によって核問題で譲歩を引き出したい米欧にとっては、予想外の結果になっている。【8月7日 毎日】
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【「イスラムの原則を尊重し、信用できる人々の監視下にあれば問題ない」】
“面白い”と言えば、イランにおける当世ネット恋愛事情についての話題もなかなか面白いものでした。

****イラン:「ネット恋愛」を宗教指導者が容認****
イランのイスラム教シーア派最高権威(大アヤトラ)の宗教指導者、マカレム・シラジ師は28日までに、インターネット上で若い男女が知り合うことについて、容認するファトワ(宗教見解)を出した。結婚前の自由な男女交際や大勢のパーティーすら禁じられる同国で「ネット恋愛」にゴーサインが出るのは異例。

イラン学生通信などによると、同師はネット上の恋愛について「さまざまな人々がネット上で相手を探し、一部は成功しているようだ。イスラムの原則を尊重し、信用できる人々の監視下にあれば問題ない」との見方を示した。

同国では高校まですべて男女が分離され、互いに知り合う場が少ない。反政府デモへの警戒からイラン当局は交流サイト「フェイスブック」などの閲覧を禁じているが、サイト上では多くの男女が交友関係を広げているのが実態だ。

家族の役割を重視するイスラム教国のイランでは早い結婚が奨励され、アフマディネジャド大統領は昨年11月、「女性は16~17歳、男性は19~20歳で結婚するのが望ましい」と語った。しかし、女性の高学歴化や男性側の資金不足などで、現実には結婚平均年齢(女性24歳、男性26歳)は上がる一方。こうした現状に宗教界も頭を痛め、ネットを通じた恋愛が結婚を促すとして容認したとみられる。【6月29日 毎日】
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「女性は16~17歳、男性は19~20歳で結婚するのが望ましい」という伝統的価値観を背景にした、現代的「ネット恋愛」と保守的宗教指導者のファトワの組み合わせが面白い話題です。
イラン社会も変化しつつあるようです。

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ミャンマー  民主化勢力との関係改善図る姿勢を見せる政権側

2011-08-25 20:31:12 | ミャンマー

(8月19日 スー・チーさんと会談したテイン・セイン大統領 “8月20日 livedoor ニュース”より)

地方遊説黙認
このところミャンマー政府のアウン・サン・スー・チーさんや民主化運動勢力への“寛容”な対応が目に付きます。
スー・チーさんは14日、昨年11月の自宅軟禁解除後初めての地方遊説を行いましたが、国営紙を通じて「混乱や暴力が起きかねない」と断念するよう強く警告していた政権側は、結局これを黙認しました。

****スー・チーさんが地方演説 軟禁解除後、ヤンゴン外で初*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが14日、最大都市ヤンゴンから北に約80キロのバゴーを訪れて演説し、今後も政治活動にかかわっていく意向を表明した。ヤンゴン以外での政治活動は、昨年11月の自宅軟禁解除後初めて。

スー・チーさんは、自身が率いる国民民主連盟(NLD)幹部らと車でヤンゴンを出発し、バゴーでNLDによる図書館開設の式典に参加。AFP通信などによると支持者ら数千人が出迎える中で演説し、「(政治活動に)最善を尽くしてきた。これからもできる限りのことを続ける」などと述べ、団結を訴えた。

2003年からの軍政による3度目の拘束・軟禁のきっかけは地方遊説だったが、この日は政権側の妨害はなかった。スー・チーさんと政府は12日、国の発展や民主主義の進展に双方が協力するとの共同声明を発表。政治活動を徐々に広げるスー・チーさんに対し、政府はこれまでのところ容認姿勢を見せている。【8月15日 朝日】
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国外活動家の「帰国を歓迎する」】
17日にはテイン・セイン大統領が首都ネピドーで行われた社会政策などに関する会合で講演し、軍事政権時代に国外へ脱出した民主化活動家に対して、「帰国を歓迎する」と述べ、恩赦の可能性を示唆しました。

****ミャンマー:大統領、恩赦示唆 国外活動家の帰国促す****
ミャンマー国営放送によると、テインセイン大統領は17日、首都ネピドーで開かれた会合で演説し、軍事政権時代に国外に脱出した民主化運動活動家に帰国を促した。大統領は活動家たちが帰国を望めば、過去の罪について「考慮する」と恩赦の可能性を示唆した。

帰国が容認されれば、民主化へ向けた大きな一歩となる。ただ、国際社会が強く求める2000人以上の政治犯釈放については言及しておらず、政権内で保守派と改革派のせめぎあいが続いているとの情報もあり、恩赦の実現性については懐疑的な声もある。
ミャンマーでは88年の民主化運動が軍事政権の弾圧で崩壊した後、学生など多数の運動指導者が国外へ逃亡。日本などで事実上の亡命生活を送りながら母国の民主化運動を続けている。

ミャンマーでは今月に入り、記者会見を初めて開催。また民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんの8年ぶりの地方遊説も黙認された。背景には、米欧による経済制裁解除や14年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任など、国際社会への本格復帰を目指したい思惑もありそうだ。【8月17日 毎日】
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また、テイン・セイン大統領は、政府軍との交戦が続くカレン、カチン族など、少数民族の武装勢力に対し、和平交渉も呼びかけています。
ただ、“和平交渉は政府とではなく、関係各州などとの間で行われるべきだとしたため、少数民族側は「政権は停戦を本当に望んではいない」(カチン族関係者)と逆に反発している”【8月20日 産経】とも。

こうした政権側の“寛容”な対応は、上記記事にもあるように、“米欧による経済制裁解除や14年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任など、国際社会への本格復帰を目指したい思惑”があるという見方が一般的です。

大統領は「真の肯定的な変化を望んでいる」】
政権側の柔軟姿勢は更に加速する形で、ミャンマー政府は19~21日に首都ネピドーで開かれた経済発展に関する会議にスー・チーさんを招待し、19日には3月の民政移管で就任したテイン・セイン大統領と初めての会談も行われました。

****スー・チー氏、ミャンマー大統領と面会 双方に対話姿勢****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが19日、首都ネピドーで、テイン・セイン大統領と初めて面会した。政府筋が明らかにした。政権トップとの面会は2002年以来。双方の対話姿勢を国内外に印象づける動きとして注目される。
政府筋によると、面会は大統領府で行われた。内容は明らかにされていない。(後略)【8月19日 朝日】
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約1時間の会談の内容は明らかにされていませんが、大統領の側近は「国民和解へ向けた重要なステップだ」と語っています。
また、その後、スー・チーさんはテイン・セイン大統領との会談について「満足している」「大統領との会談は非常にうれしく、勇気づけられた」とも語っています。

****ミャンマー:スーチーさん、大統領との会談「満足*****
ミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(66)は20日、首都ネピドーで地元記者団に、前日のテインセイン大統領との初めての会談について「満足している」と語った。
「今後も大統領との対話を続けるのか」との質問には「そうしたい」と述べ、政府との対話や協力関係構築に前向きな姿勢を示した。

会談について19日夜の国営テレビは「異なる意見を脇に置いて、友好的かつ率直に今後の協力への道筋を探った」と報じた。スーチーさん率いる国民民主連盟幹部は毎日新聞に「スーチーさんと政府の対話の始まりとなるだろう」と歓迎した。

スーチーさんは20日午前、初めて政府主催の経済改革会議に出席。地元記者によると、リラックスした様子で同席した政権の閣僚と笑顔で言葉を交わしていたという。この後、初のネピドー訪問を終え、自宅のあるヤンゴンに戻った。

一方、国連人権委員会でミャンマー問題を担当するキンタナ特別報告者が21日から5日間の日程でミャンマーを訪問する。ミャンマー政府がキンタナ氏の入国を許可したのは昨年2月以来。大統領が民主化勢力との対話・協調路線を加速させる中、前回訪問時は拒否されたスーチーさんとの会談も、今回は認められる見通しだ。【8月20日 毎日】
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上記記事にある国連人権委員会でミャンマー問題を担当するキンタナ特別報告者と会談したスー・チーさんは、記者会見で、テイン・セイン大統領について「真の肯定的な変化を望んでいる」と述べ、高く評価する考えを示しています。

*****スー・チーさん、大統領を評価 「変化望んでいる*****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは24日、最大都市ヤンゴンで、19日に初会談したテイン・セイン大統領について「真の肯定的な変化を望んでいる」と述べ、高く評価する考えを示した。
AFP通信によるとスー・チーさんは、自宅で国連人権理事会のキンタナ特別報告者との会談後、集まった報道陣に語った。
ミャンマーを21日から訪問しているキンタナ氏は、昨年2月の訪問の際は、当時の軍事政権からスー・チーさんとの面会を拒否されていた。今回は「ミャンマー政府の協力を得られている」と述べた。【8月25日 朝日】
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なお、国連人権委員会のキンタナ特別報告者は、スー・チーさんとの会談後の24日、ヤンゴン郊外にあるインセイン刑務所を訪問し、収容されている政治犯と面会しています。

スー・チーさんは、大統領との会談後、政府官僚・学者・経済関係者らが参加し、経済改革の方向性などについて議論する政府主催の経済改革会議に出席しています。

****スー・チーさん、政府の経済会議出席 貧困対策など議論****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは20日、首都ネピドーで開かれた政府主催の経済改革会議に出席した。前日のテイン・セイン大統領との初会談に続き、政府と協調する形となった。
会議では、貧困対策などについて有識者や政府高官が議論した。出席者によると、スー・チーさんは閣僚らとともに最前列に座り、周囲の人たちと談笑していたという。 (後略)【8月25日 朝日】
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【「文民政府であることを示したいのだ」】
また、政権側は、前年の総選挙をボイコットして解党したスー・チーさんの国民民主連盟(NLD)に、合法政党として登録するよう呼びかけているそうです。

****反政府勢力に歩み寄るミャンマー政権、その真意は****
ミャンマー政権は、同国の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんら体制批判者に歩み寄ることで、国際社会で孤立した国というイメージを拭い去ろうとしている。だが、政権が実質的な改革を行うかどうかは依然、不透明なままだ。

新政権には、選挙に立候補するために軍籍を離れた者が多い。形の上では非軍事政権であるミャンマー政権は、スー・チーさんと親密な関係を築こうと最近になってさまざまな手を打っている。
スー・チーさんは19日、首都ネピドーで、テイン・セイン大統領と初めて会談した。会談の申し出にはスー・チーさん本人も驚いた。1時間に及んだ2人の会談の詳細は明らかになっていないが、専門家は政権にとって大きな一歩だと指摘する。

タイのシンクタンクVahu Development Instituteのアウン・ナイン・ウー氏は、政権は、軍部ではなく自分たちが国の責任者であることを示したいのだと語る。同氏は、「彼らは国のために良いことをやっていると見られたがっている。そしてなにより、文民政府であることを示したいのだ」と述べ、背後にどんな思惑があるにせよ、会談はミャンマー政府と反政府勢力が和解する上で「極めて重要だ」と指摘した。

■次々と歩み寄り姿勢示す「非軍事政権」
スー・チーさんはこの数週間で、ヤンゴンで労相兼交渉担当相と2度にわたって会談し、首都で大統領と会談し、ヤンゴン市外に出て支持者数千人を前に遊説した。ミャンマー当局はさらに、前年の総選挙をボイコットして解党したスー・チーさんの国民民主連盟(NLD)に、合法政党として登録するよう呼びかけてさえいる。

また新政権は、国連人権理事会の特別報告者、トマス・オヘア・キンタナ氏と政府高官との協議を1年ぶりに再開することを決めたほか、少数民族の反政府勢力にも和平交渉を呼びかけている。

この動きについて、米国を拠点とするミャンマーの研究者、ウィン・ミン氏は、反政府勢力への政権の対応に改善が見られたとはいえ、「新たな門出なのか、それとも空疎なジェスチャーなのか」を判断するのは時期尚早だと指摘する。「(新政権は)反政府勢力の一部の活動を容認し、開発問題について反政府勢力と協力することで、地域や国際社会に受け入れられたいと考えている」

軍部の政治的代弁者であるミャンマー政権は、次期総選挙の1年前にあたる2014年に東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国となることを目指している。
ある専門家は、ミャンマー政府は総選挙を前にASEAN議長国としての威信を手にしたいと考えているが、過去半世紀近くにわたって軍事独裁政権が支配したミャンマーで政治的自由や少数民族武装勢力との和解といった根本的な改革を進めるには、長い時間がかかるだろうと述べた。【8月23日 AFP】
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“政権が実質的な改革を行うかどうかは依然、不透明なまま”とは言え、一連の政権側の対応は、これまでの軍事政権の対応からすれば考えられないほどの柔軟姿勢であることは間違いありません。
民政移管については、実質的な軍事政権の延長と見られていますが(実際、制度的には軍部の意向が国の方向を決められるようになっており、軍幹部が軍服を脱いで選挙に出た議員も多数いますが)、人間は軍服を脱げばそれなりの変化はおきます。

非常に素朴ではありますが、政権側に関する“「彼らは国のために良いことをやっていると見られたがっている。そしてなにより、文民政府であることを示したいのだ」”という指摘は、案外重要なことかと思います。

テイン・セイン大統領も軍部出身で、タン・シュエ前議長の「忠実な部下」「典型的なイエスマン」【ウィキペディア】とも評されていますが、“「実務家肌で軍中心の利権構造への関係が薄く、改革を進めても自身は失うものがない」(外交筋)とされる。軍政当時から首相として国際会議に出席し、国際社会の雰囲気にも通じている”【8月20日 毎日】とのことです。

政権側が民主化を本当に実現する考えがあるのかどうかを論じるより、この機会を利用して民主化に向けた動きを少しずつでも積み重ねていけるようにすることが、将来における“民主化”を実現する道を切り開くのではないでしょうか。

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アフリカ  “まじない”“魔女”など呪術的なものに関する暴力

2011-08-24 22:03:56 | アフリカ

(マラウイ “魔女”のキャラクター “flickr”より By Arjen P van de Merwe  http://www.flickr.com/photos/arjenvdm/3095378854/ )

【「年寄りはみんな、まじない師に違いないと思われている」】
アフリカ南部の小さな国マラウイ・・・と言っても、場所が分かる方はあまり多くないのではないでしょうか。私も、地図が必要でした。
アフリカ大地溝帯に沿った国と言えば、大体の場所の見当がつきやすいかも。
世界最貧国の一つであり、国土の90%の地域には未だ電気が通っていないとも言われています。

この国にはまじないに関する風習が今なお根強く残っており、“まじない師”や“魔女”とみなされて逮捕されることがあるそうです。

****まじないで逮捕、迷信深い大衆と人権団体との戦い マラウイ****
孫が夜中に鼻血を出したことが事の発端だった。この凶兆に腹を立てた両親は、祖母にあたるカントゥカコ・スパウンヨロ(82)さんが息子にまじないをかけたと決めつけ、警察に通報した。

「なぜ自分の孫にまじないをかけなければならないの?」と訴え続けたスパウンヨロさんだったが、高齢の友人2人とともにまじないをかけた罪で有罪となり、それぞれ33ドル(約2600円)の罰金刑を言い渡された。ただし、マラウイの人口の62%がそうであるように、1日2ドル(約160円)以下で生活している彼女たちにとっては、目の飛び出るような金額だ。罰金刑が払えない3人は、代わりに首都リロングウェの悪名高い刑務所に収監されてしまった。

これを知った地元の人権団体は、罰金を立て替えて3人を救いだした。スパウンヨロさんの72歳の友人は、「マラウイでは年寄りは嫌われるんです。年寄りはみんな、まじない師に違いないと思われているんです」と話した。

■根強く残る迷信
英国の植民地だったこの国では、まじないに対する迷信が今なお根強く残っている。不可解な死、エイズ感染の拡大、干ばつ――あらゆることがまじないのせいだと広く信じられている。

そんな中、まじない師であるとの理由で差別を受けた人々を守るための人権団体「Association for Secular Humanism(ASH)」が昨年結成された。同団体によると、現在、まじない師であると決めつけられて刑務所に収容されている人は50人程度にのぼっており、最大で6年の刑に服している。まじないを行ったという理由で逮捕され、有罪になる人はこのところ増加傾向にあるという。

団体によると、子どもにまじないをかけたとしておい(62)とともに有罪になった女性(83)が、3年の刑期を終えて出所したものの、社会から受け入れられずに生活が困窮したという事例があった。そのため食糧と生活資金を援助したという。団体の責任者は、「(まじない師の烙印を押された出所者は)高齢で、病気がちで、治療も早急に必要とされている。社会から拒絶された彼らは絶望的な状況に陥っている」と話した。

■本来は「訴える行為が違法」
まじないを違法とする根拠となっているのが、1911年に英国植民地時代にできた法律だ。ただしこの法律は、誰かをまじない師だと決めつける行為、または誰かがまじないをかけたと決めつける行為を違法だと明記している。しかし、まじない師だと訴えた人よりは訴えられた人の方が刑務所行きとなっているのが、現実なのだ。
警察は、まじない師だと訴えられた人が刑務所に入ることについて、「正義感に駆られて暴力を振るおうとする暴徒たちから保護する意味合いもある」との見方を示した。

現在、ある政府系組織が、被害者、特にまじない師の烙印を押されることの多い女性や子供を守るために、法の見直しを進めているという。

なお、容疑者の多くがまじない師であることを否定するなか、昨年、まじない師であることを法廷で公言する男性が現れ、国中を驚かせた。【6月7日 AFP】
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どの社会にも人知を超えた“呪術的なもの”に関する風習は存在しており、そうした呪術的なものを“文化的に遅れたもの”“非合理的なもの”としてすべて否定することは誤った対応だとは思いますが、そうした風習によって暴力が惹起されるとなると放置できません。
上記記事にある人権団体「Association for Secular Humanism(ASH)」は、ノルウェー大使館からの資金援助を得て、こうした“魔術”に関連した暴力の実態調査を開始したと報じられています。

****今も続く「魔女狩り」、実態調査開始 マラウイ****
アフリカ南部マラウイで、魔女と名指しされ差別を受けている人々のために活動する人権団体が20日、「魔術」に関連した子ども、女性、年配者への暴力の実態調査を開始したと発表した。

「Association for Secular Humanism(世俗的ヒューマニズム協会、ASH)」が行う調査には、ノルウェー大使館が7万1000ドル(約545万円)の資金援助を行った。同団体によると、魔女に関連した暴力は同国で深刻な問題となっており、窮地に立たされた人々の人権は危機に直面している。同国ではこれまで、この種の暴力に焦点を当てた調査が皆無で、対処の仕方も検討されてこなかった。

調査は、同国28地区のうち魔女がらみの暴力事件が発生した8地区を対象に、来月まで行われる。暴力への最善の対処法について勧告を行う予定で、被害者の人権を守るための新たな法律も提唱していくという。(後略)【8月24日  AFP】
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【「魔女狩りキャンペーン」】
“魔術”“魔女”に関する迷信による暴力はマラウイだけの話ではありません。
西アフリカのガンビア(セネガルに周囲を囲まれた国)では、政府が支援していると見られる「魔女狩り」が数か月間行われたとの記事を以前目にしました。

****ガンビアで大々的な「魔女狩り」、政府が支援か****
西アフリカのガンビアでは、政府が支援していると見られる「魔女狩り」が今年の初めから数か月間続き、全土を震え上がらせた。魔女狩りが終わって7か月が経過するが、深刻な健康被害に苦しんでいる人がいまだに大勢いると、病院関係者が13日語った。

魔女狩りが明るみになったのは、今年(09年)5月。ガンビアで自称「呪術師」らが1000人以上の村人たちを誘拐・拘束した事実が明らかになった。これら「呪術師」らには、政府の命令により、武装した男たちが護衛についていたという。

誘拐された村人たちは、幻覚剤のようなものを飲まされたという。そうした薬を飲まされて意識がもうろうとなったところを「呪術師」にレイプされたとする報告もいくつか寄せられている。幻覚剤の影響で腎臓や胃に障害が起きた被害者も多い。
こうした「魔女狩りキャンペーン」は既に終わっているが、今も精神的・肉体的な後遺症に苦しんでいる人は多い。これまでに幻覚剤による腎臓障害で死亡した人は、少なくとも8人にのぼっているという。

ガンビアのメディアは、魔女狩りを行っているのはギニア人たちで、今年始めにヤヤ・ジャメ大統領のおばが死亡した直後に呼び寄せられたと報じている。ジャメ大統領は、おばの死を魔女のしわざだと話していたという。

アフリカ大陸で最も面積が小さいガンビアは、1994年の無血クーデターで政権をとったジャメ大統領が、現在も政権の座にある。ジャメ政権は近年、政敵や自身に批判的な人物への拷問や違法逮捕といった人権侵害を日常的に行っているとして、人権団体などから激しい槍玉に上がっている。【09年11月17日  AFP】
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アルビノ1体で7万5000ドル
マラウイに隣接するアフリカ東部のタンザニアやブルンジ、ウガンダなどでは、アルビノ(先天性白皮症の人)の体の一部がお守りとして高価で取引されており、アルビノ殺害が後を絶たない・・・という話題は以前も取り上げたことがあります。

****止まらぬアルビノ殺害、今月だけで被害者3人 アフリカ****
アルビノ(先天性白皮症の人)の殺害事件が相次いでいるタンザニアとブルンジで、今月に入って新たに3人の被害者が出たとカナダのNGOが6日、明らかにした。殺害の目的はアルビノの体の一部をお守りの材料として高値で売ることで、国際社会からの圧力にもかかわらずいまだに売買が後を絶たない現状が改めて浮き彫りになった。

NGO「セイム・サン」が地元警察の話として報告したところによると、タンザニアとの国境に近いブルンジのCendajuruで2日、アルビノの28歳の女性と4歳の息子が武装した9人組に殺害され、手足と臓器が切り取られる事件があった。止めに入った男児の祖父にあたるアルビノではない男性も殺害されたという。  

セイム・サンによると、タンザニアでは今年2~4月にアルビノの殺人が1件、殺人未遂が4件発生している。2007年以降の殺害件数はタンザニアで57件(未遂6件)、ブルンジでは14件に上るが、あくまで報告に基づいた数値で実際ははるかに多いと見られる。過去2年間だけで100件を優に超えているとの予測もある。

法の裁きも遅々として進んでいない。タンザニアでは、この2年間に有罪判決を受けたケースはたった2件。一方ブルンジでは、14件中12件で既に有罪判決が下った。

07年から始まった一連のアルビノ殺害事件では、アルビノの体の部位がすべてそろったもの(手足4本と1対の耳、性器と鼻と舌が含まれる)が7万5000ドル(約670万円)で取引されているとタンザニア警察は推定している。

タンザニアの人口3500万人のうちアルビノは約15万人。アルビノの赤ちゃんが産まれた場合、差別を免れるために、親が故意に殺すこともあるという。【10年5月7日  AFP】
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コンゴでは、キリスト教原理主義に基づく新興宗教の教会が、「魔女狩り」サービスで収入を得ているそうです。
****魔女狩り」で収入を稼ぐ教会、コンゴ民主共和国****
コンゴ民主共和国の首都キンシャサ(Kinshasa)には、キリスト教原理主義に基づく新興宗教が数千あるが、これらの教会は「魔女狩り」サービスで収入を得ている。

子どもが悪魔に取りつかれていないかを有料で調べる。悪魔に取りつかれた子どもの悪魔払いには別途料金がかかる。その方法は、何日間も食事を与えず、殴る蹴るの暴行を加えて悪魔を退散させるというものだ。
なお、魔女に認定された子どもの多くは、家族から見捨てられている。

人口約1000万人のキンシャサにはホームレスの子どもが2万人以上いるが、うち3人に1人以上が魔女と名指しされ、迫害を受けている。【10年12月24日  AFP】
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【「悪魔に率いられたデモ」】
話をマラウイにもどすと、マラウイでも民主化を要求する反政府デモと治安部隊の衝突が7月に起きています。

****アフリカ・マラウイで反体制デモ、18人死亡 大統領は退陣拒否*****
アフリカ南部マラウイで20、21日の両日、ビング・ワ・ムタリカ大統領(77)の経済政策の失敗と民主的権利の侵害に抗議する反体制デモが暴徒化し、2日間で18人が死亡した。
首都リロングウェと経済の中心地ブランタイヤでは治安部隊が展開し、2000人余りのデモ隊を鎮圧。ムタリカ大統領は21日、国営ラジオで演説し、「悪魔に率いられたデモは敗北する」などと述べて退陣を強く拒絶した。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、死者のうち少なくとも8人は北部ムズズで治安部隊の銃撃によって死亡しており、また子ども6人を含む44人が銃傷を負って病院で治療を受けているという。【7月21日 AFP】
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「悪魔に率いられたデモ・・・」というムタリカ大統領の発言は、表現上の比喩ではなく、文字どおりの意味なのかも。
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ウクライナ  職権乱用罪で公判中のティモシェンコ前首相 闘い日々

2011-08-23 21:44:16 | 欧州情勢

(ティモシェンコ前首相 公判中の最近の写真のようです。 珍しく眼鏡をかけた写真ですが、拘留のせいでしょうか、年齢的なものでしょうか、さすがにやつれた感があります。 “flickr”より By juanzi615 http://www.flickr.com/photos/21427686@N03/6037099670/

波乱万丈の「ガスの王女」「ジャンヌ・ダルク」】
女性政治家をその容姿で云々することは不見識と承知していますが、他愛ない戯言としてご容赦を。

タイでは亡命中のタクシン元首相の身代わりとして、妹のインラック氏が野党首相候補として立候補し、その愛らしい容姿もあってブームを起こし、みごと首相の座を射止めました。

しかし、美しき宰相と言えば、やはりウクライナのティモシェンコ前首相(50)でしょう。(全くの独断偏見ですが)
三つ編にした金髪をアップにしたウクライナの伝統的な髪型がトレードマークで、これまでも何回かこのブログでも記事・写真は取り上げてきました。

旧ソ連支配下でタクシー配車係りだったシングルマザーに育てられた彼女は、ペレストロイカの波に乗り、不法コピーのレンタルビデオチェーンを手始めに、その後エネルギー関連事業に転身し、ロシアからウクライナへの天然ガスの最大の輸入・卸売業者になり、「ガスの王女」と呼ばれるまでになります。単に美しいだけでなく、極めつけのやり手でもあります。

更に、やり手であるだけでなく、相当にしたたかです。
天然ガス事業においても、脱税の疑いや、不正に手に入れた天然ガスを再販するという不正取引も取りざたされ、ロシアでは指名手配もされました。

政治の政界に転身しても成功を収め、1999年には副首相(燃料エネルギー部門担当)に就任します。
しかし、01年には文書偽造・ロシア産天然ガスの密輸入の容疑で逮捕・投獄され、副首相も解任されます。彼女はこの事件に関し、当時のクチマ大統領によってでっち上げられたものであると主張しています。

釈放後は野党勢力を形成してクチマ大統領批判の急先鋒となり、04年の大統領選挙ではユーシェンコ氏を支援して、いわゆる「オレンジ革命」の立役者となり、“ジャンヌ・ダルク”とも呼ばれました。
ユーシェンコ氏が大統領に就任すると首相に任命されますが、数カ月後、確証なしにユーシェンコ大統領と与党の党員の腐敗を告発して解任されます。

その後、07年12月には再度ユーシェンコ大統領と手を組む形で首相に返り咲きますが、大統領権限やグルジア問題で再び大統領との関係が悪化して、ユーシェンコ大統領の連立離脱に至ります。
一方で、指名手配されるほど関係が悪かったロシアとは、天然ガス輸入価格問題でプーチン首相と親密な関係を築きます。

10年の大統領選挙では、頂点を目指し出馬しますが、親ロシア派のヤヌコーヴィチ現大統領に惜敗します。
ティモシェンコ氏は大統領選挙で不正が行われたと主張し、首相辞任も拒否していましたが、首相不信任決議案が議会で可決され、ティモシェンコ氏は失脚することになります。

失脚後は、政権側からの報復のように、首相時代の09年に温室効果ガスの排出取引で日本などから得た資金を本来の環境対策ではなく、年金支払いの穴埋めに流用していたとして、最高検察庁に起訴されています。
更に、ロシアとのガス契約に関する職権乱用事件(首相時代の09年、ロシアと不当に高い価格でガス供給契約を結んだなどとした訴え)でも起訴されますが、公判で「政治目的の不当な裁判」などとして裁判所や検察を公然と批判、今年8月5日には審理妨害の疑いで逮捕されました。【ウィキペディア、8月24日号Newsweek日本版より】

【「10回でも100回でも1000回でも立ち上がる」】
ざっと、これまでの経歴を概略すれば以上のようになりますが、なんとも浮き沈みの激しい波乱万丈の人生で、美しく、やり手であるだけでなく、野心家で、したたかで、不屈の闘志の持ち主でもあります。

****ティモシェンコ逮捕で 最後に笑うのは誰*****
ウクライナの「ジャンヌ・ダルク」はしたたか 宿敵打倒のためなら「殉教」もいとわない

ウクライナのユリア・ティモシェンコ前首相はいつもよりやや青ざめ、かなりいら立っている様子だったが、長い金髪はいつもどおり三つ編みにしてきちんとアップしていた。司法当局は今月初め、職権乱用の罪で公判中のティモシェンコを審理妨害容疑で逮捕。逮捕後の公判では、直前まで閣議に出ていたかのように背筋を伸ばして座り、挑発的なグレーのドレスを優雅にまとっていた。

氷のような視線は裁判官にひたと据えられていた。6月下旬の公判で裁判官を「政権の操り人形」と呼んだことが、審理妨害容疑での逮捕を早める結果となった。職権乱用罪での公判はティモシェンコヘの揺さぶりだと、弁護側は主張する。

重苦しい空気に包まれた法廷にティモシェンコの毅然とした声が響き渡った。「あなたの前で起立する気はありません」と彼女は裁判官を一喝した。「マフィアにひざまずくのと同じですから」(中略)

野党陣営の巻き返しも
確かに、ティモシェンコが殉教者になれば、来年の議会選挙で野党の支持率拡大につながるかもしれない。裁判所の外ではティモシェンコの支持者たちが「盗賊は出て行け!」「ユリア愛してる!」と連呼し、白地に赤いハートが描かれた野党の旗を振っている。(中略)
 
それでもヤヌコビッチは、ティモシェンコ逮捕による政治的ツケをあまり心配していないようだ。議会ではヤヌコビッチ率いる地域党主導の委員会が、是が非でもティモシェンコを刑務所送りにしようと、彼女が90年代に行ったとされる天然ガスの不正取引疑惑を調査中だ。ティモシェンコは服役することになるだろうが実際の罪はもっと重いと、インナ・ボゴスロフスカヤ委員長は本誌に語った。(中略)

いずれにせよ今後数カ月間、ティモシェンコは拘置所で過ごすことになるだろう。それでも彼女は強気だ。「盗賊(ヤヌコビッチのこと)を権力の座から追い落とす」チャンスがあれば、「10回でも100回でも1000回でも立ち上がる。ほかに選択肢はないから」。【8月24日号 Newsweek日本版】
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体のあちこちに原因不明の内出血?】
今回、ティモシェンコ前首相を取り上げたのは、獄中で謎の症状が出ているという下記の記事を目にしたからです。

****ティモシェンコ前首相、獄中で謎の症状 陰謀論も ウクライナ****
ウクライナの「オレンジ革命」の立役者の1人で、職権乱用罪で起訴されたユリヤ・ティモシェンコ前首相の健康状態が獄中で悪化したと、前首相の広報担当が19日、AFPに語った。

ティモシェンコ前首相は、首相在任中の2009年に職権を超えてウクライナに不利な条件でロシアの天然ガスを輸入する契約に署名したとして起訴され、6月24日から裁判が行われている。
ティモシェンコ前首相は今月5日、審理を妨害したとして法廷内で逮捕され、当局に身柄を拘束された。前首相は18日に医師の訪問を求めた後、同日の法廷で体調不良を訴え、この日の公判は22日に延期された。

ティモシェンコ前首相の弁護人は18日、ティモシェンコ前首相は体のあちこちに原因不明の内出血があるという懸念すべき症状が出ていると判事に述べた。
前首相の広報担当者は、「捜査の破綻が明らかになりつつある。法的にティモシェンコ氏を倒せない政権側が、その他の方法で前首相を傷つけようとしているのではないかと恐れている」と述べ、何らかの犯罪行為の可能性を示唆した。【8月22日 AFP】
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ウクライナと言えば、オレンジ革命当時、大統領を目指していたユーシェンコ氏が突然重病にかかり、顔面は痘痕だらけとなった“事件”が記憶にあります。
ダイオキシン中毒によるものとも言われ、ユーシェンコ陣営では反対陣営による陰謀を主張、国民の同情が高まる結果になりました。

ティモシェンコ前首相の場合は、体のあちこちに原因不明の内出血が出ているとのことですが、ユーシェンコ前大統領のように顔面の症状でなく何よりです。
単なる病気・体調不良か、陰謀かわかりませんが、自作自演ぐらいやりかねないしたたかな女性でもあります。

なお、彼女が手本にしているのは「鉄の女」サッチャー元英首相と、アルゼンチンのファーストレディーとして大衆に支持されたエバ・ペロンだそうです。
また、「ジャンヌ・ダルク」という呼称については、「あんな結末を迎えるのはごめんだわ」とよく言っていたとか。【8月24日号 Newsweek日本版より】

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リビア  終焉を迎えつつあるカダフィ独裁体制

2011-08-22 21:02:57 | 北アフリカ

(8月20日 首都トリポリ攻略開始を喜ぶ東部ベンガジの群衆 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6063686109/in/photostream/

人魚の夜明け作戦
リビアでは報道のように、情勢が一気に反体制派の首都トリポリ制圧に向けて動き始めています。

反体制派はトリポリの西方50キロのザウィヤや東方160キロのズリテン、南方100キロのガリヤンなど重要都市を確保して、政府側の補給路を断つ包囲網を形成。
19日夜に海路で武器をトリポリ市内に運び込み、20日夜から首都制圧に向けた戦闘を開始しました。
首都攻略作戦は「地中海の人魚」とも言われるトリポリにちなんで「人魚の夜明け作戦」と呼ばれているそうです。

カダフィ大佐は21日未明、国営テレビで放送された音声メッセージで「ネズミ(反体制派)は人民に攻撃され排除された」と主張、反体制派が一時制圧したと伝えられる東部の要衝でも、カダフィ派が反攻しているとの情報が伝えられていました。

首都トリポリ制圧となると、激しい、また、かなりの時間を要する市街戦が想定されていましたが、きょう22日になって報じられているところによれば、首都に進撃した反政府派は大きな抵抗を殆んど受けることなく、一気に首都の大部分を制圧、カダフィ大佐が居住する区域に迫っているようです。
また、大佐の次男で、後継者と見られていたセイフ・アルイスラム容疑者は拘束され、長男のムハンマド氏も投降しと報じられています。

****リビア:反体制派が首都をほぼ制圧 カダフィ大佐息子拘束****
リビアの反体制派は21日夜(日本時間22日未明)首都トリポリに進攻し、中東の衛星放送アルジャジーラによると、市内の大部分を制圧、最高指導者カダフィ大佐の息子2人を拘束した。カダフィ大佐は国営テレビで反撃を呼びかけたが、音声のみで姿は見せず、所在は不明だ。

反体制派を軍事的に支援する北大西洋条約機構(NATO)はカダフィ政権が「崩壊しつつある」と明言。約42年間続いたカダフィ独裁体制は終焉(しゅうえん)を迎えつつある。
カダフィ大佐が退陣すれば、中東全域を覆う民主化政変「アラブの春」で排除された独裁政権はチュニジア、エジプトに次いで3カ所目となる。

反体制派は21日、主にトリポリ西方のザウィヤと海上から首都に進攻。市内の支持者もこれに呼応し攻撃に加わった。西方からの部隊は21日夜に市内中心部の「緑の広場」に到達。カダフィ派と一時戦闘となったが、大きな抵抗はなかったようだ。広場は大佐が2月に「徹底抗戦」を訴える演説をした場所で、大佐の居住区画まで数キロしか離れていない。
海上からの部隊は西部ミスラタから首都東郊のタジュラに上陸し、政府側と交戦した。

政府側は21日夜までに、カダフィ大佐の警護担当部隊が降伏。国際刑事裁判所から人道に関する罪などの容疑で逮捕状が出ている大佐の次男で、後継者と見られていたセイフ・アルイスラム容疑者は拘束され、長男のムハンマド氏も投降した。

これにより、政府側が死守してきたトリポリ中心部はカダフィ大佐の居住区画を除き、大部分が反体制派の支配下に入った模様だ。現地からのテレビ映像では、住民がカダフィ大佐の写真を踏みつけ、解放の喜びから空中に発砲する様子なども見られた。反体制派の拠点である東部ベンガジでも歓喜する市民らであふれた。

一方、カダフィ大佐は国営テレビで音声を流し「抵抗しなければ(欧米)帝国主義勢力の奴隷になる」と繰り返し反撃を訴えた。アルジャジーラによると、アフリカ連合(AU)がアンゴラかジンバブエへの出国を打診中との情報もある。

リビアでは2月中旬に反政府デモが始まった。3月19日にNATO主導の多国籍軍による空爆が開始された後も、カダフィ大佐は徹底抗戦を主張してきたが、リビア騒乱はその始まりから半年で重大局面を迎えた。【8月22日 毎日】
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40年以上の独裁で民心が大きく離反
“カダフィ大佐の所在は不明だが、現地のAFP記者によると22日午前4時(日本時間午後1時)現在、市内のバブ・アジジヤ地区にある大佐の邸宅付近で激しい戦闘が起きている。(中略)反体制派「国民評議会」のマハムード・ジブリル氏は22日早朝、市内の複数箇所で孤立した抵抗が見られると語っている。
カダフィ大佐は投降を拒否し、ラジオを通じて徹底交戦を呼びかけている。”とのことで、何らかの決着がつくのも時間の問題のようです。

首都トリポリの攻略作戦を始めてわずか1日余りでの急展開は、私だけでなく多くのメディアにも意外な展開と受け止められています。

****鉄壁」トリポリあっけなく…市民、部隊を歓迎****
リビアの反体制派が首都トリポリの攻略作戦を始めてわずか1日余り。鉄壁の守りを誇るとされた最高指導者カダフィ氏の牙城は22日、一部を除いてあっけなく反体制派の手に落ちた。
カダフィ氏は本格進攻が始まった後、市民に抗戦を呼びかけたが、呼応する動きはほとんどなく、40年以上の独裁で民心が大きく離れていた実態が浮き彫りになった。

リビアからの報道によると、反体制派民兵が到達したトリポリ中心部「緑の広場」では、多数の市民が反体制派の旗などを掲げて部隊を歓迎し、「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」などと気勢を上げた。
反体制派部隊は21日、トリポリ東方や西方から首都に本格的な進軍を始めた。カダフィ氏の邸宅がある首都は、最精鋭部隊や同氏を支持する民兵らが配備されているとされ、激戦も予想された。しかし、多くの部隊は反撃を受けることなく首都に入り、沿道の市民から歓迎を受けたという。【8月22日 読売】
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TV報道で流された、政権側を離脱した兵士が脱ぎ捨てた軍服が道のあちこちに散乱している様子が印象的でした。
カダフィ大佐は、これまでの言動からすれば投降は考えにくいところです。エジプトのムバラク前大統領の裁判を目にしては、ああいう事態だけは何としても避けたいと思うのでは。
そうなると、毎日記事にあるようなアンゴラとかジンバブエへなどへの亡命か、大佐自身がこれまで言ってきたように、自ら銃をとり、リビアの大地を赤く染めるまで戦うか・・・ということになります。

【「リビアの将来はリビア国民の手にある」】
反体制派、及びこれを支援してきた欧米諸国としては、“カダフィ後”をどうするかが、喫緊の課題となってきます。

****リビア:NATO「カダフィ後」にらみ反体制派と連携強化****
リビアの反体制派支援のため約5カ月に及ぶ空爆を続けてきた北大西洋条約機構(NATO)は、首都トリポリの完全制圧を目指して空爆などの側面支援を継続している。一方で、カダフィ体制崩壊後の混乱を最小限に食い止めるため、反体制派との連携強化を図る方針だ。

NATOのラスムセン事務総長は22日、「市民へのすべての暴力を停止すべきだ」と最高指導者カダフィ大佐を支持する残党に戦闘の即時停止を求める声明を発表した。また「政権移行は今、平和的に行われるべきだ」と述べ、新政権樹立を全面的に支援する意向を表明した。

地上軍を派遣できない中、NATOはカダフィ政権軍の抵抗に手を焼き、戦況は長くこう着状態に陥っていた。「リビアの戦闘は何カ月も続き、首都は際限のない市街戦になる」(外交筋)との悲観的な見方が支配的だっただけに、トリポリ制圧の可能性を伝える報道を、NATO側は予想外の朗報と受け止めている。

ラスムセン事務総長は、大佐が敗北を自覚すれば「市民の流血は避けられる」と改めて退陣を要求。NATOは情勢を注視し「市民への脅威があれば行動する」とカダフィ派に警告した。

一方、夏休み中のオバマ米大統領は21日、「カダフィ体制は崩壊の兆候を見せている」との声明を出した。大統領は「もはやリビアを支配していないことを認識すべきだ」とカダフィ大佐に改めて退陣を迫り、「リビアの将来はリビア国民の手にある」として米国が反体制派と緊密に協力することを確約した。

米政府はフェルトマン国務次官補(中東担当)をリビア東部の反体制派の拠点都市ベンガジへ派遣し、現地情勢の把握に全力を挙げている。
国務省のヌーランド報道官は21日、記者団に「国民評議会がリビア社会の全ての階層を支援し、カダフィ後の計画を立てるよう促す」と述べた。【8月22日 毎日】
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中国も反体制派容認を明らかにしています。
****中国外務省、リビア反体制派を事実上容認****
中国外務省の馬朝旭報道局長は22日、リビアの反体制派が首都トリポリをほぼ制圧したことについて、「中国はリビア国民の選択を尊重する。情勢が早期に安定を取り戻し、国民が正常な生活を送れるように希望する」との談話を発表した。

胡錦濤政権は6月ごろからリビアの反体制派との関係強化を進めており、今回の作戦行動も事実上、容認したと言える。
馬局長は「中国は国際社会と共にリビア再建で積極的な役割を果たしたい」と述べ、カダフィ政権崩壊後発足する新体制への支持を示唆した。【8月22日 読売】
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ただ、反体制派は、軍事部門を率いるアブドルファタハ・ユニス最高司令官が7月28日に射殺体で発見された事件に見られるように、“カダフィ政権の元幹部や、政権に弾圧されたイスラム主義者も加わる寄せ集め集団”【8月1日 読売】でもあり、内紛も噂される状況ですので、多くの内戦同様に、戦闘が終わってから、新しい国づくりに向けた、更に厳しい戦いが始まります。
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