孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  対中国 「どん底」を抜けて更に悪化 フェイク画像問題に怒るモリソン首相

2020-11-30 22:54:35 | オセアニア

(オーストラリアのモリソン首相は投稿について「恥を知るべきだ」と述べた【11月30日 BBC】)

 

【フェイク画像にモリソン首相「恥を知るべきだ」 中国「豪州政府とツイッター社の間の問題だ」】

悪化する中国とオーストラリアの関係については、これまでも取り上げてきたところです。

5月23日ブログ“中国・オーストラリア関係 米中対立が飛び火した形で中国による報復的な輸入制限措置へ

6月26日ブログ“オーストラリア  相次ぐ問題で豪中関係は悪化の一途 親中派議員の家宅捜索も

9月20日ブログ“オーストラリア・中国の関係は政治的には「どん底」 関係改善はすぐには期待できず

 

9月20日ブログでは「どん底」という表現を使用しましたが、これは間違っていました。まだまだ落ちる余地があったようです。

 

****豪「恥ずべき振る舞い」と中国非難=兵士中傷画像投稿で****

オーストラリアのモリソン首相は30日記者会見し、中国外務省が子供の喉元にナイフを突き付けている豪州兵の画像をツイッター上に投稿したことについて、画像は偽物とした上で「恥ずべき振る舞いだ」と非難し、中国側に謝罪と即時削除を要求した。これに対し中国は一歩も譲らず、両国の緊張関係が一段と高まった。

 

豪州は最近、アフガニスタンに派兵された特殊部隊の隊員らが民間人や捕虜39人を違法に殺害したとする調査報告書を公表した。これを受け、中国外務省の趙立堅副報道局長は豪州兵の画像と共に「こうした行為を強く批判し、責任を取らせるよう求める」と投稿した。

 

モリソン氏は「(画像は)全く遺憾であり、どんな理由であれ正当化できない」と指摘。「国防軍に対するひどい中傷だ」と訴えた。同時に、両国間の関係改善に向けて閣僚や首脳間の対話の再開を呼び掛けた。

 

これに対し、中国外務省の華春瑩報道局長は30日の記者会見で、「豪州政府は深刻に反省し、アフガン人民に正式に謝罪すべきだ。彼らの軍人がアフガンの罪のない民衆を惨殺したことを恥ずべきではないのか」と反論、モリソン氏の謝罪要求に反発した。

 

問題の画像については「インターネット上に流れているもので、誰の作品かはっきりしない」と出所不明のまま利用したことを認めながらも、削除要求は「豪州政府とツイッター社の間の問題だ」とかわした。【11月30日 時事】

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話を整理すると、アフガニスタンに派兵された特殊部隊隊員の民間人・捕虜殺害自体はオーストラリア政府自身が認め、その対応にあたっている案件です。

 

****豪政府、軍兵士がアフガンで民間人ら39人殺害と報告 特別捜査官事務所を設置****

アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍兵士が現地の民間人らを違法に殺害していた問題で、モリソン政権は豪軍から独立した特別捜査官事務所を設置し、兵士を起訴するかどうか判断する。

 

豪軍兵士の残虐行為は豪公共放送ABCが2017年に「疑惑」として報じたことで広く知られるようになり、実態解明が懸案となっていた。豪軍の戦闘部隊がアフガンから撤収して7年近く経過し、ようやく事態が動き出した。

 

制服組トップのキャンベル司令官が19日、調査報告書を発表し、残虐行為があったことを公に認めた。モリソン首相は報告書が公表される前の12日に特別捜査官事務所を設置すると発表し、厳格な姿勢で臨むことを表明した。

 

政府としては、報告書などの証拠に基づいて中立機関が判断することで、豪軍に対する国内外の信頼回復につなげたい考えだ。特別捜査官は刑法に詳しい弁護士か元裁判官が指名される予定で、判断の期限は未定。政府は監視委員会も設け、豪軍の綱紀粛正に向けた取り組みを確認する体制を整えた。

 

モリソン氏は残虐行為に関する報告を受けた後、地元メディアのインタビューで「真摯(しんし)に受け止め、法の支配の下で対処する。これはアフガン政府にも約束してきたことだ」と強調した。アフガン政府に哀悼の意を伝えたという。

 

報告書は500ページ以上にのぼり、個別事案については固有名詞などの詳細を黒塗りにして公開された。

 

報告書によると、豪軍兵士に殺害されたアフガンの民間人や非戦闘員は39人にのぼった。目撃者からの聞き取りや膨大な量の文書や画像から、主に陸軍特殊空挺(くうてい)連隊の兵士ら25人が関与していたことが判明した。

 

「下級兵は捕虜の殺害を推奨されていた」とされ、組織的な行為もあったとみられる。兵士が非武装のアフガン人を殺害後、戦闘員だったと見せかけるため、武器などが写り込んだ偽装写真を撮っていたケースもあった。

 

01年9月の米同時多発テロ後、豪州は同盟国の米国に協力して同10月にアフガンに派兵。国際治安支援部隊にも参加し、13年末に戦闘部隊を引き揚げた。

 

世論は当初、派兵に理解を示したが、混乱が泥沼化して40人近い戦死者が出たことや、長期化による財政負担の増加などから反対意見が強まった。報告書によると撤収直前の12〜13年に残虐行為が多発したという。

 

この件を巡っては、疑惑として報じたABCが、19年に連邦警察の捜査対象になった。警察は報道の基になった機密情報の入手経路を問題視し、記者の取材資料などを押収したが、結局は起訴を見送った。豪メディアは「報道の自由を脅かす」と激しく反発していた。【11月24日 毎日】

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「下級兵は捕虜の殺害を推奨されていた」というのは、“「初の殺害」を経験させる目的で捕虜を射殺させた例や非武装の民間人を殺害した例などが確認された。”【11月19日 読売】という、一人前の兵士になる「通過儀礼」として捕虜を殺害させるといった、相当におぞましいものだったようです。

 

こうした「戦場の狂気」はしばしば明らかにされる・・・と言うか、戦争というのは、不可避的にこうした非人間的狂気を伴うものだと言うべきで、これはこれで真摯にオーストラリア政府・軍が向き合うべき問題です。

 

オーストラリアのモリソン首相が怒っているのは、中国・趙立堅副報道局長が流した画像が「真実」ではない、故意にオーストラリアに汚名をきせようとする偽物だという点です。

 

****オーストラリア、「不快な」フェイク写真めぐり中国に謝罪要求****

オーストラリアの兵士がアフガニスタンの子どもを殺しているように見えるフェイクの写真を、中国の政府高官が30日、ツイッターに投稿した。オーストラリアは同日、謝罪を求めた。

 

同国のスコット・モリソン首相はテレビ演説で、「不快な」写真をソーシャルメディアで共有したことについて、中国政府は「恥を知るべきだ」と述べた。(中略)

 

中国外交部の趙立堅報道官は30日、オーストラリア兵が血の付いた刃物を子どもに突きつけている合成写真をツイートした。この子どもはさらに、子羊を抱えている。

 

同国の公共放送オーストラリア放送協会(ABC)はこの画像について、オーストラリアのエリート兵がアフガニスタンで10代の子ども2人をナイフで殺害したという、立証されていないうわさに関連したものだと報じている。

ADF(オーストラリア国防軍)の調査の結果、このうわさを裏付ける証拠は見つかっていない。

 

しかし報告書では、違法な殺人が行われた「信用できる証拠」や特殊部隊に存在する「戦士文化」について指摘。下位の兵士らが「最初の殺し」として、非武装の民間人の殺害を強いられた例などが挙げられている。

 

趙報道官はツイートの中で、「オーストラリア兵によるアフガニスタンでの市民や捕虜殺害の事実にショックを受けている。こうした行為を強く非難し、責任を取るよう求めていく」と語っている。

 

オーストラリアは、この投稿は「偽情報」だとして、ツイッターに削除要請を出している。

モリソン首相は、ツイートは「本当に不快で、非常に攻撃的で、全く憤慨している」と語った。

「中国政府はこの投稿に関して恥を知るべきだ。国際社会における中国の権威を低めるものだ」

「これは偽の画像であり、オーストラリア軍に対するひどい中傷だ」

 

首相は両国間の緊張関係についても言及し、「だが、こういうやり方ではだめだ」と指摘。他国がオーストラリアと中国の関係を注視していると警告した。

 

緊張関係はどうなる

中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国。モリソン首相の発言は、同国政府が行った中国批判としては最も語調の強いものとなった。

 

両国の関係は、オーストラリアが新型コロナウイルスの起源について中国に調査を要求したことから悪化。さらに、中国がオーストラリアの内政に干渉しているという疑惑も持たれている。

 

こうした批判に対し中国は、貿易停止やオーストラリア製品への追加関税など、経済的な打撃を加えることで対抗している。

 

在豪中国大使館は今月初め、オーストラリアが中国との関係を悪化させようとしているとされる政策14項目を、地元メディア向けに発表。これには中国の投資計画の阻止や、華為技術(ファーウェイ)の第5世代移動通信システム(5G)の禁止、「新疆や香港、台湾の諸問題をめぐる、絶え間ない理不尽な介入」などが含まれていた。

 

オーストラリアはこれに対し、政策的な立場は変えないとした上で、中国の貿易政策は「経済的な威圧行為だ」と指摘している。【11月30日 BBC】

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このモリソン首相の「フェイク画像」批判への中国の回答が、冒頭【時事】にある、オーストラリアは自分の行為を反省すべき、画像はネットに流れているものを使っただけだとの華春瑩報道局長の対応です。

 

ちなみに、趙立堅副報道局長は、これまでも過激な発言などで「戦狼外交官」の先駆けとして知られる人物です。

 

もちろんモリソン首相の怒りはわかりますが、「それなら、さんざんフェイク情報を垂れ流しているトランプ大統領はどうなのよ?」って感も。

 

【断崖式に落ち込む中豪関係】

経済的には深い関係にある中豪関係が急速に悪化したきっかけは、新型コロナに関して、モリソン首相が4月、新型コロナの武漢発生を前提に、独立した国際調査を呼び掛けたことが中国側の怒りを買ったこととされています。

 

そのことが引き金となった背景には、それ以前の、中国側が政治献金などでオーストラリア政治に干渉しようとしていたことへのオーストラリア側の警戒感、オーストラリアが他国に先駆けてファーウェイを5G通信網構築から排除したことへの中国側の反感などがありました。

 

****中国とオーストラリアの関係はなぜ断崖式に下落したのか―米メディア****

米ボイス・オブ・アメリカの中国語版サイトは26日、「中国とオーストラリアの関係はなぜ断崖式に下落したのか」とする記事を掲載した。

記事はまず、「中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスが発生したことを受け、オーストラリアが独立した国際調査を呼び掛けたことが、北京の怒りを買った」とし、「ここから今年の中豪関係の断崖式下落が始まった」とした。

そして中国がオーストラリアの肉製品や大麦について輸入停止や関税上乗せの措置をとったこと、また最近では、モリソン豪首相が、同国の人権外交やメディアの独立、投資政策などに対し中国が示した不満について、受け入れない考えを明らかにしたことなどを取り上げた。

さらに、「豪中間の不信感は長年にわたって高まっている。北京が『戦狼外交』を頻繁に使用し、経済的および外交的手段を使ってキャンベラを威嚇し内政干渉するにつれて、両国関係は谷底へと向かっている」とした。

記事は、「両国関係の転換点となったのは2017年だ」とし、「オーストラリアの安全情報機関は、中国がますます大胆にキャンベラの政策決定に影響を及ぼそうとしていると警告した。中国人ビジネスマンによる政治献金も明るみに出た。オーストラリアは同年末、外国の干渉を抑制することを目的とした法律を成立させた。それに対し、北京は外交訪問の停止で応えた」とした。

さらに、2018年にはオーストラリアが「国家安全保障を理由に、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を5G通信網構築から排除した最初の国となった」とした。

記事はまた、「オーストラリア人の中国に対する見方も大幅に悪化している」とし、米世論調査会社ピュー・リサーチ・センターの調査で、中国に対して否定的な見方をしている人の割合が、2017年の32%から2019年は57%に、そして2020年は81%へと増加していることも取り上げた。

そして、「中国とオーストラリアの関係がどこまで悪化するか」については、「経済的な結び付きが強いことから、緊迫した政治関係のバランスを取りながら不安定な形で前進する」との分析がある一方で、「両国間の争いはイデオロギーの違いにも関連している。大国として台頭しようとする中国はますます気勢激しく人に迫るようになり、他国に対して中国のルールに従って行動することを迫るようになるだろう」との見方もあると伝えている。【11月30日 レコードチャイナ】

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国民感情レベルの関係悪化を示す一例としては、以下のような「場外乱闘」的な騒動も。

 

****武則天がゴキブリ食べる…豪ABC、中国人「醜化」番組放送し炎上―中国メディア****

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)の23日付報道によると、オーストラリアの公共放送ABCの子ども向けチャンネルがこのほど、中国人を醜く描いた内容の番組を放送したとして、中国系市民などから批判を浴びているという。

記事によると、問題の番組は、英BBCの子ども向けチャンネルCBBCが2015年に放送した「Horrible Histories」シーズン6の第2話。中国史上唯一の女帝である「武則天」に扮した白人女性が、ゴキブリやタケネズミを食べるシーンが含まれている。

番組放送後、SNS上では中国系市民などから「吐き気がする番組だ」「人種差別甚だしい」などの声が上がっている。中国系市民のコミュニティーはABC側に、謝罪と説明を求めているという。【11月23日 レコードチャイナ】

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中国側は優位な経済的立場を利用して、オーストラリア側からすれば「いじめ」「いやがらせ」ともとれるような圧力をかけ続けています。オーストラリア産大麦・木材や牛肉の一部について輸入を停止しているほか、最近では・・・。

 

****中国、輸入石炭が環境基準満たさずと指摘 豪石炭足止め報道で****

中国は25日、輸入石炭が環境基準を満たさなかったことを明らかにした。多くのオーストラリア産石炭が中国の港で足止めされているとの報道について回答した。

外務省の趙立堅報道官が定例会見で「中国の税関はここ数年、輸入石炭の安全性と品質についてリスク監視評価を行っており、多くの輸入が環境基準を満たさなかった」と述べた。

中国は10月以降、非公式にオーストラリア産石炭の輸入を禁じている。両国関係の悪化が背景。中国は代わりにモンゴルとロシアからの輸入を増やしている。【11月25日 ロイター】

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****中国、豪ワインに反ダンピング措置 保証金徴収へ****

中国商務省は27日、オーストラリア産ワインの輸入に反ダンピング措置を適用し、28日から107.1〜212.1%の保証金を徴収すると発表した。豪中の緊張がいっそう高まりそうだ。

 

商務省は、「国内ワイン産業への実質的な損害」を受けての暫定措置だと説明している。

 

中国はオーストラリアの最大の貿易相手国だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐって豪政府が調査を求めたことから経済的報復をちらつかせ、既に豪州産の木材と牛肉の一部について輸入を停止している。(後略)【11月27日 AFP】

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ロブスターでも・・・“中国、豪産ロブスターに新たな通関検査 豪は出荷停止”【11月3日 ロイター】

 

更には、オーストラリアへの不満をまとめたリスト配布も。

 

****「圧力には屈しない」 豪首相、中国の抗議リストを一蹴****

中国がオーストラリアに対する苦情をまとめたリストを豪メディアに配布したことをめぐり、スコット・モリソン豪首相は19日、中国の圧力には屈しないと強調した。

 

ある中国政府当局者が18日、14の抗議項目が列挙された文書を豪メディアに配布。主要3メディアに対し「中国を敵だとするならば、中国は(オーストラリアの)敵となる」と言ったと報じられている。

 

抗議項目には、オーストラリアの厳格な外国による干渉を防止する法律や、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の第5世代移動通信システムからの排除、「国家安全保障を理由に」中国の投資計画を阻止する決定などが含まれる。

 

モリソン氏は、この「非公式文書」は駐豪中国大使館が配布したものであり、これによりオーストラリアが「国益に沿って法律や規則」を制定することをやめるつもりはないと主張。チャンネルナインに対し「外資規制や5G通信網の構築、内政干渉を防ぐ制度の運用方法などを、われわれ自身が決定するということについて譲歩はしない」と述べた。

 

さらに抗議項目には、豪政府が中国の内政に「絶え間ない理不尽な干渉」を行ってきたという主張も含まれている。一方で中国は、豪政府が新型コロナウイルスの発生源について独立機関による調査を求めたことについて、オーストラリアが米国の反中国キャンペーンに加担し、偽情報を拡散したと非難している。

 

モリソン氏は17日、菅義偉首相と会談し、防衛協力強化を大枠で合意した。これは、アジア・太平洋地域で海洋進出を強める中国を念頭に置いているとみられている。 【11月19日 AFP】

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【米中対立に揺れる立場への苦悩も】

オーストラリアが新型コロナや中国包囲網でアメリカに加担している・・・との中国の批判に対しては、モリソン首相は「豪は米の言いなりではない」と反論しつつ、米中対立のあおりを受ける立場への苦悩も。

 

****「豪は米の言いなりではない」 モリソン首相、いたずらな対中関係悪化を非難****

(中略)モリソン氏は、英ロンドンで行われた英シンクタンク「ポリシー・エクスチェンジ」の討論会にオンライン出席。中国からの圧力の高まりを非難する一方、オーストラリアが米国の「言いなり」だというイメージは間違っており、豪中関係を「いたずらに悪化させるものだ」と非難した。

 

さらに、オーストラリアは干渉を受けることなく自国の利益を追求する権利を保持しつつ、米中両国との「互恵的な」関係を求めていると訴えた。(中略)

 

モリソン氏によると、いずれ欧州諸国を含む世界の国々が中国の強制外交にさらされる見込みで、オーストラリアはその苦難の一端を前もって味わっているにすぎないという。

 

一方でモリソン氏は、米大統領選で勝利を確実にしたジョー・バイデン氏の次期政権を念頭に、オーストラリアのような国々は、覇権を争う米中のどちら側に付くかを迫られるべきではないと主張。「世界トップクラスの大国には、パートナー国や同盟国それぞれの国益に配慮できるだけの度量の大きさが求められる」と訴えた。 【11月24日 AFP】

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インドネシア  中国との経済関係は重視しつつも、安保では強い姿勢も イスラム主義的傾向と過激派

2020-11-29 22:33:33 | 東南アジア

(【1月9日 毎日】)

 

【米中対立のはざまで、日米を利用して中国をけん制】

激しく対立する米中のはざまで、多くの国がその立ち位置に苦慮しているのは周知のところ。

 

多くの国にとって、中国との経済関係は極めて重要なものとなっている一方で、安全保障面で見ると、中国の強引な拡張姿勢は座視できないものがあります。

 

特に、東南アジア諸国の多くは、中国との経済関係は自国経済を左右する重要課題ですが、南シナ海における領有権という具体的問題も抱えていますので、中国との関係の扱いは一筋縄ではいかないものがあります。

 

*****インドネシア、米中の板挟み 訪問のポンペオ氏が中国名指し批判 「駒」扱い警戒****

インドネシアのジョコ大統領は(10月)29日、ジャカルタ郊外でアジア歴訪中のポンペオ米国務長官と会談した。ポンペオ氏はベトナムも訪問する。菅義偉首相も初の外遊先として10月にインドネシアとベトナムを訪問。

 

日米には、インドネシアを含む東南アジア諸国連合(ASEAN、加盟10カ国)と連携を強化し、中国をけん制する狙いがある。一方、ASEAN諸国には、頭越しに議論が進んで、対中政策の駒にされることへの警戒感が生まれている。

 

「自由で開かれたインド太平洋」構想を主導する日米は、オーストラリアとインドを加えた4カ国の結束を強めるのと同時に、ASEANを取り込もうと躍起になっている。シーレーン(海上交通路)である南シナ海での軍事拠点化を進める中国をけん制するのが目的だ。

 

ポンペオ氏はジャカルタでの記者会見で「法を順守する全ての国家は、中国共産党による南シナ海での違法な主張を拒否する」と述べ、中国を名指しで批判。28日にも訪問先のスリランカで「中国共産党は略奪者だ」と発言し、中国側が強く反発していた。

 

火中の栗を拾うような形となったジョコ氏は、ポンペオ氏に対し地域の安定や協力関係を重視するASEANの立場を理解するよう訴えた。

 

インドネシアにとって中国は南シナ海で領有権を争う相手である一方で、最大の貿易相手国でもある。中国の直接投資額は2019年に日本を抜き、欠かせない経済パートナーとなった。どちらか一方に深く肩入れすることは得策ではない。【10月29日 毎日】

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“どちらか一方に深く肩入れすることは得策ではない”ものの、南シナ海の現状は、アメリカとの関係をみせることで中国をけん制する必要がある状況にあります。

 

****米とインドネシア 中国念頭に南シナ海の島開発で協力確認****

インドネシアのルトノ外相とアメリカのポンペイオ国務長官は南シナ海のほぼ全域で権益を主張する中国を念頭に、南シナ海の南部に位置するインドネシアの島の開発を協力して進めることを確認しました。

 

南シナ海南部の海域ではインドネシアが自国の領土であるナトゥナ諸島の沖合に排他的経済水域を設定している一方、中国は南シナ海のほぼ全域の権益を主張していて、両国の間で対立が続いています。

インドネシアのルトノ外相は、29日から現地を訪問しているアメリカのポンペイオ国務長官と会談したあとの会見で、中国を念頭に、「南シナ海の安定と平和が維持されるべきで、国連海洋法条約が尊重され、実行されなければならない」と述べました。

そして「ナトゥナ諸島などの離島開発を含め、アメリカからのさらなる投資を求めたい」と呼びかけました。

これを受けてポンペイオ長官は「インドネシアがナトゥナ諸島周辺の主権を守るために断固とした行動を取ることを歓迎する。海上の安全保障を強化し、世界有数の貿易ルートを保護するために新たな方法で協力していきたい」と応じました。

ナトゥナ諸島をめぐっては、日本も漁港の開発や違法漁船を取り締まる監視船、レーダー施設などの整備を支援しています。【10月29日 NHK】

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日本は、護衛艦輸出で中国包囲網を強化する計画も。

 

****政府、護衛艦の輸出計画 インドネシアに、中国けん制も****

政府が海上自衛隊の護衛艦の輸出を計画していることが4日、関係者への取材で分かった。受け入れ先のインドネシア政府と調整を進めており、実現すれば、難航する防衛装備品の輸出に弾みがつくと期待している。日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現にも資することになりそうだ。
 

インドネシアは、中国が南シナ海などで海洋進出を活発化させていることに警戒感を強めている。安全保障面で日本との協力を強化する姿勢を示すことで、中国をけん制する狙いもある。【11月4日 時事】

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【独自対応で中国への強い姿勢のシグナルも】

アメリカや日本との協力姿勢だけでなく、中国を念頭においたインドネシア独自の対応も。

 

****インドネシア、南シナ海の海軍強化「中国に屈せず」****

インドネシア海軍は11月23日、南シナ海南端に位置するインドネシア領ナトゥナ諸島の海軍基地に新たに海軍即応戦闘分隊の司令部を移駐させる方針を明らかにした。これは南シナ海での中国による一方的な権益拡大、既得権主張に対抗するための極めて強い姿勢を内外に示すものとして注目されている。

 

中国は、南シナ海に一方的に自国の権益が及ぶ範囲として「九段線」を設定して、南沙諸島や西沙諸島の島々の領有権を巡ってマレーシア、ブルネイ、ベトナム、フィリピン、台湾などと争っている。

 

インドネシアは直接的な領土問題を中国との間で抱えている訳ではないが、中国はナトゥナ諸島の北方海域にあるインドネシアの排他的経済水域(EEZ)と中国の「九段線」が一部で重複していると主張している。

 

このためナトゥナ諸島北方海域のインドネシアEEZ内に侵入して不法操業を続ける中国の漁船とインドネシアの海上保安当局や海軍の艦艇との間で摩擦が生じる機会が近年増加している。

 

あろうことか中国は、2020年に入ってからは、中国漁船に中国海警局の武装船舶が漁船に同行して警戒監視するなど対決姿勢を強めている。

 

南シナ海問題では日米と連携強化

(中略)こうした日米の南シナ海などを巡る地域安保への積極的関与は米トランプ政権による一連の「対中強硬策」の一環ととらえられており、トランプ大統領の共和党政権からバイデン前副大統領の民主党政権への移行が確実となる中、その対中スタンスを再確認する意味合いが日米とインドネシア、ベトナムの双方にあったものとみられている。(中略)

 

最近は米新政権の今後の対中姿勢を見極めようとする中国政府の姿勢の表れか、ナトゥナ諸島北方EEZでの中国側との緊張状態はかつてほどではなくなってきている。

 

警戒強化で中国に強硬姿勢のシグナル

インドネシアのジョコ・ウィドド政権は主に経済関係では中国による多額の支援、インフラ投資などへの一定の依存状態が続いており、特に新型コロナウイルスのワクチン開発では中国製薬会社との共同研究・開発に頼っている側面もある。

 

ただ、「経済と安保は別問題」との認識が政権の根底にはあり、特に南シナ海を巡る漁業問題ではジョコ・ウィドド政権1期目の2014年〜2019年から強硬姿勢を貫いている。

 

当時のスシ・プジアステゥティ水産漁業相は、ナトゥナ諸島周辺で不法操業する外国漁船を積極的に拿捕し、その漁船(乗組員は地上施設に拘束)を爆破して沈没させるという派手なパフォーマンスによってインドネシアの漁業権保護を訴えて内外で話題を呼んだ。

 

もっとも、当時から同海域での違法操業で拿捕される外国漁船、そして爆破処分された漁船の大半はベトナム国籍の漁船だったという。

 

これは同様に違法操業する中国漁船は違法が巧みでまた逃げ足も速く、なおかつ軍事教練を受けたかのような漁民の対応などからインドネシア側が「拿捕」するに至らなかったのが主な原因とされている。

 

こうした事態を打開するための今回の海軍即応戦闘部隊のナトゥナ諸島への司令部移転は、中国に対してインドネシアの明確で強い姿勢を示すシグナルを送ることになる。(中略)

 

今後の中国の出方を見守るインドネシア

ジョコ・ウィドド大統領による「経済と安保は別問題である」との対中姿勢の根底にあるのは、インドネシア特有の「支援してもらえるものは遠慮なく受け付けるが、自国の権益に関わる問題では毅然とした態度で臨む」という「硬軟両様」、言い換えるならば「自国権益優先」の考え方が横たわっている。

 

こうした国際社会での処世術に長けたインドネシアに対しては、日本も対応策を見誤ることなく対処することが求められている。

 

先の菅首相のインドネシア訪問で、日本は約500億円の円借款供与を表明するとともにインドネシアの鉄道インフラ整備やコロナ対策、コロナ禍による経済不況への協力などで基本合意した。

 

その一方で日本が打診した「日米豪印」が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想にとりあえず前向きの姿勢を示したジョコ・ウィドド政権だが、「中国や日米といった大国の安保問題に巻き込まれたくない」との警戒感が国内世論では高まっている。

 

新政権となる米国の、南シナ海問題をはじめとするアジア太平洋地域の安保問題、そして対中外交にどのようなスタンスで臨んでくるのか、それに対して中国はどう出てくるのか――日本のみならずインドネシア、そして東南アジア諸国連合(ASEAN)も現在固唾を飲んでそれを見守っている。

 

そのつかの間の静寂の中、海軍の即応戦闘部隊司令部のナトゥナ諸島移転というインドネシアが打った一手は、安保問題でも「中国に対して一歩も退かない」という本気度が表れていると言えるのではないだろうか。【11月27日 大塚 智彦氏 JB press】

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【イスラム過激派のテロは依然として「今そこにある危機」】

インドネシア国内に目を向けると、ジョコ政権が抱える国内問題も多々ありますが、その一つはイスラム過激派の問題。

 

****IS系武装勢力がキリスト教徒の村襲撃、4人死亡 インドネシア****

インドネシア・スラウェシ島で27日、イスラム過激派組織「イスラム国」とつながりのある武装勢力がキリスト教徒らが住む奥地の村を襲撃し、住民4人が死亡した。死者の1人は斬首され、別の1人は焼き殺された。

 

当局が28日、明らかにした。警察によると、刃物と銃で武装した集団は中スラウェシ州の村を襲い、住民らを殺害。祈りや礼拝に使われていた家を含む民家数棟に火を放った。

 

容疑者はまだ拘束されておらず、犯行動機は今のところ不明だが、当局はスラウェシ島を拠点とするイスラム系組織「東インドネシアのムジャヒディン」による犯行とみている。MITはISへの忠誠を表明しているインドネシア過激派の一つ。

 

世界で最もイスラム教徒の人口が多いインドネシアは、イスラム武装勢力やテロ攻撃への対応に長年追われており、中スラウェシ州では数十年にわたり、キリスト教徒とイスラム教徒の間で断続的に暴力事件が発生している。

 

インドネシアのキリスト教徒はこれまでも攻撃の標的にされており、2018年には国内第二の都市スラバヤで、ISとつながりのある過激派組織「ジャマー・アンシャルット・ダウラ」が複数の教会に対して幼い子供らを実行犯にした自爆攻撃を行い、礼拝に参加していた十数人が死亡した。 【11月29日 AFP】

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警察当局はイスラム過激派組織の摘発に取り組んではいますが、過激派の多くが大都市に潜伏する状況にあり、イスラム教育とコロナ禍による経済不況を利用してイスラム主義を広げようとする勢力がその温床ともなっています。

 

****インドネシア、今も「ご近所にテロリスト」の日常****

インドネシアで、テロ対策に関して大きな動きがあった。国家警察の対テロ特殊部隊「デンスス88」を中軸とする対テロ捜査機関は、11月6日から7日にかけてインドネシア国内の複数の場所で2大テロ組織メンバーの自宅などを急襲して、テロリスト7人を逮捕したのだ。

 

最近はテロ事件や爆弾騒ぎが起きていなかったインドネシアだが、イスラム教系テロ組織による活動が今なお水面下で続いていることが改めて明らかになった。今回のテロリスト7人逮捕は地元メディアでも大きく取り上げられ、テロは依然として「今そこにある危機」であることを国民に改めて印象付ける結果となった。(中略)

 

追い込まれた組織の先鋭化に警鐘

インドネシアの民間シンクタンク「紛争政策分析研究所(IPAC)」のシドニー・ジョーンズ代表は地元メディアに対し、組織解体の危機にあるJIが「シリア帰還者などの強硬派を中心にして今後分派として活動を始めてより過激な行動、テロに出る危険もある」と指摘している。

 

さらにJIは依然として中部ジャワなどの「イスラム寄宿学校(プサントレン)」に同調者や支持者が多く残っているとされ、「若者の教育機関を通じた新規メンバーのリクルート活動にも注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。

 

プサントレンはかつてJIの精神的指導者とされたアブ・バカル・バシール師が過激思想を伝播、普及させた教育機関として知られ、そうした影響が現在も中部ジャワ地方に色濃く残っている。

 

ただ、プサントレンはイスラム教の正式教育機関だけに、その教育内容への介入や検閲、宗教指導者の監視や調査には政府も治安当局もついつい及び腰になる傾向がある。そのことがテロの温床が根絶やしにできない理由のひとつとの指摘もある。

 

さらにインドネシアでは、コロナ禍によって失業者や生活困窮者が急増しており、政府に対する不満が高まっている。そうした背景を巧みに利用しつつ、「生活支援」「経済援助」「社会的サービスの提供」などを名目にした過激思想、テロ思想の拡大をテロ組織が行っているとの指摘もある。

 

ジョコ・ウィドド大統領はテロとの戦いを敢然として進める方針を事あるたびに表明しており、国民の圧倒的多数を占めるイスラム教徒の動向に配慮もしている。一方で、収まる気配を見せないコロナ禍への取り組みはなによりも優先すべき課題としてのしかかってきている。

 

テロ組織の根絶に向けて努力はしている。だが、イスラム教育とコロナ禍による経済不況を利用しようとするテロ組織の動きに対して、致命的な一撃を加えるまでには至っていない。【11月13日 大塚 智彦氏 JB press】

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【イスラム主義傾向を強める社会的風潮がより重要課題】

一部のテロリスト・過激派の背後には、それを生む温床があり、そのことがテロそのものよりインドネシア社会にとって重要課題でしょう。

 

近年、インドネシアはイスラム主義的傾向が強まっていることは、これまでも何回か取り上げてきました。2019年4月の大統領選挙もイスラム穏健派や非イスラム教徒が支持したジョコ氏とイスラム急進派、保守派の支持を得たプラボウォ氏の争いという構図でした。

 

下記のような話題も、そうしたイスラム主義的傾向のひとつを示すものでしょう。

 

****イスラム急進派のカリスマ帰還で大混乱インドネシア****

インドネシアのイスラム急進派として知られる「イスラム擁護戦線(FPI)」の指導者でカリスマ的人気を誇るハビブ・リジック・シハブ氏が11月10日、事実上の亡命先だったサウジアラビアから3年7カ月ぶりに母国インドネシアに帰国した。

 

リジック氏は国家警察から名誉棄損罪やわいせつ罪など複数の容疑で手配されていた2017年4月にサウジアラビアに突然出国して、現地で事実上の亡命生活を送っていた。

 

この間に治安当局者や政治家などがサウジアラビアを訪問してリジック氏と会談する様子がインドネシアのマスコミで何度も報じられたものの、誰一人として「容疑者」であるリジック氏の帰国を促すことはなかった。

 

このためリジック氏と治安当局の間で何らかの暗黙の了解があるとの見方が強まっていた。(中略)

 

リジック氏はその主張や論調はイスラム急進派として突出している。亡命中のサウジアラビアでは「インドネシアで革命を企図している」として取り調べを受けたこともある。

 

これに対してリジック氏は「私が支持者らイスラム教徒に呼びかけているのは革命ではなくイスラムのモラルである」と反論している。

 

宗教界と政界に太いネットワーク

1998年8月にリジック氏が創設したFPIは、イスラム教徒の重要宗教行事である「断食月」に営業しているカラオケ店やバーなどに白装束を着こんだメンバーが押しかけて営業停止を強要するなど過激な組織として知られるようになった。

 

2017年にはFPIがジャカルタ州のバスキ・チャハヤ・プルナマ(別名アホック)知事の発言に関しイスラム教を侮辱したとして厳しく非難。アホック知事は「宗教冒涜罪」に問われ、禁固刑に追い込まれたこともある。

 

その後も各種社会問題や宗教問題で過激なデモや集会を主導する一方で平和的なデモへの襲撃、攻撃も行うなど「危険な組織」として認識されるようになった。

 

一方で、リジック氏の主張はイスラム教徒として広く共感と支持を得る内容が多く、「インドネシア・ウラマー協会(MUI)」との関係も深いことから、今回の帰国にはMUI最高顧問の1人であるマアルフ・アミン副大統領が関係しているのではないかとの見方もある。

 

さらには、サウジアラビア亡命中に現地でリジック氏と会談したこともあるプラボウォ・スビアント国防相、さらに帰国後にすぐにリジック氏の自宅を訪問したジャカルタのアニス州知事などの人脈が裏で動いた可能性も指摘されている。

 

このように副大統領、国防相、首都知事などの大物と親密な関係にあるリジック氏だけに、一部の政治家や治安当局は、こうした多彩なネットワークが今回の帰国容認に作用したことは間違いないと見ている。

 

コロナ禍で苦悩するジョコ・ウィドド大統領は、リジック氏という「要注意人物」の帰国で、さらなる頭痛の種を抱え込んでしまったようだ。【11月25日 大塚 智彦氏 JB press】

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イスラム急進派、保守派の支持を得たプラボウォ氏を国防相として政権内部に取り込まなければならないあたりが、イスラム急進派、保守派を無視できないジョコ大統領の難しい立場です。

 

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サウジアラビア、イスラエル  親トランプの両国 米政権交代を前にした動き

2020-11-28 23:08:02 | 中東情勢

(サウジアラビアで拘束されている活動家ルージャイ・ハスルール氏。同氏のフェイスブックより。【11月27日 AFP】)

 

【米国務長官・サウジ皇太子・イスラエル首相の三者会談 その内容は?】

世界に大きな影響力を持つアメリカ大統領の交代、しかも「アメリカ第一」主義から国際協調重視へ、権威主義政権も厭わないポピュリズム政治から人権・リベラル的価値観の重視へと、その政治スタイルが大きく変わるということになると、各国はその変化への対応を迫られます。

 

11月25日ブログでは、EU内部における西欧主流派と中東欧諸国の対立への影響も取り上げましたが、日本の立ち位置にも関わる米中対立への影響、移民政策をめぐる中米諸国との関係、イラン核合意への復帰はあるのか、EUを離脱するイギリスとの関係、北朝鮮の核開発への対応、ロシアとの核兵器制御の問題等々、影響は多岐にわたります。

 

そうしたなかで中東。

トランプ政権との親密な関係を梃に、中東世界での存在感を強めていたのがイスラエルとサウジアラビア。

 

当然にトランプ退陣で大きな影響を受けますが、そうした事情もあってのことでしょう、アメリカ・ポンペオ国務長官がサウジ訪問中に、サウジと国交のないイスラエルのネタニヤフ首相が秘密裏にサウジを訪問し、ポンペオ国務長官、サウジ実力者・ムハンマド皇太子と会談したのでは・・・との報道が。

 

****イスラエル首相がサウジ訪問か、皇太子や米国務長官と秘密会談 報道****

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が22日、サウジアラビアを訪問し、同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子と秘密会談に臨んだと、イスラエルメディアが報じた。イスラエル首相によるサウジ訪問は前例がない。

 

イスラエル公共放送KANの国際部記者が23日に伝えたところによると、先週同国を訪問していた米国のマイク・ポンペオ国務長官も、この会談に同席したという。

 

KANはイスラエル政府関係者らの話として、ネタニヤフ首相と対外情報機関モサドのヨッシ・コーヘン長官が「きのう(22日)空路でサウジアラビア入りし、ネオムでポンペオ氏とサルマン皇太子と面会した」としている。

 

他の複数のイスラエルメディアも同日朝、同様の内容を報じた。イスラエル首相府はこれまでのところ、取材に応じていない。

 

イスラエルは8月以降、サウジアラビアの同盟国であるアラブ首長国連邦とバーレーンとの国交正常化に合意。ドナルド・トランプ政権が仲介した。

 

米国とイスラエルの関係者らは、さらに多くのアラブ諸国がイスラエルと国交を結ぶ方針だとの見方を繰り返し示している。

 

アラブ連盟は数十年にわたって、イスラエル・パレスチナ問題が解決されるまではイスラエルと国交を結ばないとする立場を維持しており、サウジアラビアもこれにならうと公言してきていた。 【11月23日 AFP】

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サウジアラビアのファイサル外相はツイッターで、会談には「米国とサウジの当局者のみが出席した」と述べ、3者会談を否定しているとのことですが、米国務長官がサウジ訪問しているタイミングに、ネタニヤフ首相がプライベートジェット機を使用して往復を含め5時間の日帰り訪問を行ったことを考えると、それはいかにも不自然な感も。

(個人的には、往復含め5時間で会談できる地理的「近さ」に改めて驚きましたが、考えてみれば、日中の首脳も、やろうと思えばその類のこともできる「近さ」にあるのでは・・・と、余計なことを)

 

当然に三者の話題は、前出【AFP】にもあるイスラエルとサウジの国交樹立に及んだと思われますが、「カショギ氏殺害事件」を抱えるサウジ・ムハンマド皇太子側にはバイデン新政権の人権重視への懸念、その譜面でのイスラエルの助力への期待もあるのではとも。それと、イラン核問題への対応。

 

****ネタニアフのサウディ訪問(米国の影)****

先日のネタニアフのサウディ訪問については、いったい何を話し合うために態々ネタニアフがサウディまで行ったのか、大いに興味があるところでしたが、矢張り問題はイスラエル、サウディ双方の最大の同盟国、米国の政権交代と新政権の政策に関連するものだった模様です。

al qds al arabi net は、israel today紙が、会談に参加したサウディ高官2名の話として、最大の問題は新政権のサウディ皇太子とその取り巻きに対する立場であると語ったと伝えていると報じています。

米新政権にとって、サウディ皇太子の問題はいろいろとあるのでしょうが、その最大の問題がサウディ人ジャーナリストのハショグジのイスタンブールのサウディ総領事館における殺害事件(彼が総領事館でサウディ官憲により殺害されたことはサウディ政府も認めたが、皇太子等の関与は頑として認めず、サウディ治安機関のrogue  eleents ならず者たちの犯行と主張している)で、サウディ皇太子は米新政権がこの事件でサウディに制裁を課し、皇太子及びその取り巻きに対し逮捕状を出すのではないかと危惧しており、皇太子はネタニアフに対して、サウディとしてはこの問題に関するイスラエルの支援を期待していると語った由

(この問題は多くのサウディ批判政府や人権擁護者にとっては、新政権の人権政策に関する重大なリトマス試験紙であり、他方政治的にユダヤロビーが共和、民主両党に対して有する圧倒的な影響力に鑑みれば、サウディ皇太子がネタニアフの助力を要請しに駆け込んだことは十分あり得ることかと思われる。仮に、この要請が実を結べば、ネタニアフはサウディ皇太子と今後のサウディ政府に対し、重大な切り札を得たことになる)


もう一つは、これも米政権がらみの話だが、サウディ政府はバイデンと新政権は、現実にイランとの間の(核兵器禁止)新条約の締結の準備をしていると信じており、その実害を最小とすべく努力している由にて、先の2名によると、サウディとしてはこの問題で欧州、イスラエルを含む統一戦線を樹立すべく努力している由

(こちらも十分あり得る話だが、バイデンは複数の条件が満たされなければ核条約には戻らないと言明しているようで、こちらの方はイスラエルやサウディにとって十分脈のある話ではないか?)【11月26日 「中東の窓」】

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【「改革」進めるムハンマド皇太子のもうひとつの側面】

サウジ国内の「改革」を進めるという面もあるムハンマド皇太子ですが、カショギ氏殺害事件にはムハンマド皇太子のもうひとつの側面、独善性・人権無視・残虐性などが示されています。

 

そうした「もうひとつの面」に関係するのが、女性の自動車運転を解禁するという世界で大きな話題となった「改革」に先立って、同じような主張をしていた女性活動家を拘束したことが挙げられます。

 

あくまでも「改革」は、皇太子主導の施しでなければならず、国家の在り方にモノ申すような不埒な輩は許さない・・・ということでしょうか。

 

驚いたのは、このとき拘束された活動家の拘束はいまだに続いており、しかも長期の実刑判決が言い渡される可能性が高まっているとのこと。

 

****サウジ女性活動家の裁判、刑事から反テロ裁判所へ移送 家族****

サウジアラビア当局はこのほど、1年以上拘束されている女性活動家ルージャイ・ハスルール氏の裁判を刑事裁判所から反テロ裁判所へ移送した。ハスルール氏の家族が25日、明らかにした。同氏の保釈を求める海外からの圧力にもかかわらず、長期の実刑判決が言い渡される可能性が高まっている。

 

ハスルール氏は女性の自動車運転解禁を求める活動をしていたが、2018年5月、他の女性活動家10人以上とともに逮捕された。長年禁止されていた女性の自動車運転が解禁されるわずか数週間前だった。

 

姉妹のリナさんによると、ハスルール氏はここ2週間にわたり拘置所内でハンガーストライキを行っていたため、首都リヤドの刑事裁判所に出廷した際、目に見えて「衰弱」し「震えを抑えられない」状態だったという。この裁判所では、2019年3月からハスルール氏らの裁判が非公開で行われていた。

 

今回、裁判官が刑事裁判所はハスルール氏らの裁判権を有してないとの判断を下したため、反テロ法廷である特別刑事裁判所への移送が決まったという。

 

リナさんはツイッターで、「1年8か月もこの件を扱っていた刑事裁判所が、どうやったら今になって裁判権がないなんて気づくのか」と述べている。さらに、事実上の最高権力者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子の下での公正な裁判と司法権の独立とはこういうことだと批判した。

 

SCCは、テロ関連の事件を扱う目的で2008年に設立されたが、反対派政治家や人権活動家の裁判に一般的に使われている。

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは今年、SCCがテロとの闘いという名目で、批判的な声を黙らせるために使われていると指摘している。

 

ハスルール氏ら拘束中の活動家らは、国家の敵の支援や海外メディアや外交官、人権団体との接触といった不透明な罪に問われていると、人権団体らは述べている。 【11月27日 AFP】

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【イラン核科学者暗殺 イスラエルの「駆け込み」?】

一方、イラン核問題では、イランの著名な核科学者が殺害される事件が。

イラン側は、イスラエルが協力的なトランプ政権のうちに、イランに対する敵対行動を強めていると批判しています。

 

****イラン核科学者の暗殺 イスラエル関与疑惑浮上で中東緊張****

イランの首都テヘラン郊外で27日、乗用車で移動中だった同国の著名な核科学者モフセン・ファクリザデ氏が何者かの銃撃に遭い、搬送先の病院で死亡した。中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどが伝えた。

 

ファクリザデ氏は2000年代初頭にイランの核兵器製造計画を率いた人物とみられており、イランと対立するイスラエルが暗殺した疑惑が浮上している。今後、イランが報復攻撃に出た場合、イスラエルの後ろ盾である米国を巻き込み、対立が激化する恐れもある。

 

現地からの報道によると、事件はテヘランから東へ約70キロ離れたアブサードで発生。待ち伏せ攻撃をしたのは3〜4人で、ファクリザデ氏のほか、攻撃側も数人が死亡したという。先に別の車1台が爆破されたとの情報もある。イラン外務省は「テロリストによる攻撃」としている。

 

ファクリザデ氏はイラン革命防衛隊に長く所属し、イランが03年に中止したとされる核兵器製造計画を指揮していたとみられる。弾道ミサイル製造の専門家としても知られ、国防省の研究開発機関のトップを務めていた。

 

最高指導者ハメネイ師からも全面的な支援を受けていたとされる。ロイター通信によると、同氏はかつて3通のパスポートを保有し、核に関する最新情報を入手するためにアジアを含む世界各地を回っていたという。

 

イランのザリフ外相はツイッターに「イスラエルが関わった可能性がある。戦争を挑発する卑劣な行為で国際社会は非難すべきだ」と投稿。ハメネイ師の軍事顧問デフガーン氏も「同盟者(トランプ米大統領)の政治生命の終わりが近づく中、シオニストたち(イスラエル政府)はイランへの圧力を強め、戦争を起こそうとしている」とツイートした。

 

イスラエルは事件についてコメントしていない。だが、米ニューヨーク・タイムズ紙は3人の情報当局者の話を引用し、イスラエルが背後にいると指摘している。イスラエル紙ハーレツによると、イスラエルは約10年前からイランの核科学者を暗殺してきた疑いがある。10〜12年には少なくとも4人の科学者が殺害された。

 

今回の事件は、イランに経済制裁などの強い圧力をかけてきたトランプ氏が米大統領選で敗北し、対話に前向きなバイデン前副大統領の就任が確実となってから数週間というタイミングで発生した。

 

このため、イランの盛り返しに危機感を覚えたイスラエルが、来年1月のバイデン氏就任前にイランに打撃を加え、同時に米イラン間の対話機運を失わせる狙いがあるとの見方が米国の専門家などから出ている。

 

一方、イラン・テヘラン大学のマランディ教授はアルジャジーラに対して「イランの核計画は既に発展しており、若い科学者も大勢いる」としてイランにとって大きな打撃にはならないとの見方を示しつつ、「イラン側は敵対者への対応をより積極的にするだろう」と報復攻撃の可能性を指摘した。

 

イスラエルに接するシリアやレバノンには親イランの民兵組織がおり、イランはこうした勢力を利用して攻撃に出る恐れもある。一方のイスラエルは既にシリア領内の親イラン民兵への攻撃を強化しており、11月中旬以降、数十人が空爆で殺害されたとみられる。

 

イランでは20年1月、革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍によって殺害された。7月には中部ナタンツの核関連施設で爆発が起き、イスラエルや米国の関与が疑われている。【11月28日 毎日】

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真相はわかりませんが、アメリカの政権交代を前に、中東で「駆け込み」的なうごめきが見られるようにも。

 

【フーシ派の攻撃を防御できないサウジ イギリスが防御部隊展開】

サウジアラビアはイエメンへの軍事介入が続いていますが、またイエメン・フーシ派によって石油施設へのミサイル攻撃を受けたようです。

 

****フーシ派のミサイル攻撃、国内燃料供給に影響ない=サウジアラムコ****

サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコは24日、同国ジッダの石油製品供給施設がイエメンの反政府武装勢力フーシ派の攻撃を受けたことについて、国内の燃料供給に影響は及んでいないと説明した。同施設は攻撃から3時間後に操業を再開した。

フーシ派は23日、アラムコが操業するノース・ジッダ・バルク・プラントに向けミサイルを発射したと表明。サウジ当局がその後、攻撃の事実を確認した。

アラムコの石油生産・輸出施設の大半は、ジッダから1000キロメートル以上離れたサウジ東部に集中している。

ノース・ジッダの幹部は記者団に対し、ディーゼル油、ガソリン、ジェット燃料の貯蔵に使われている13基のタンクのうちの一つが現在、機能していないと説明した。【11月25日 ロイター】

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“国内の燃料供給に影響は及んでいない”とのことですが、これが初めてでもなく、今後も攻撃は予想されます。

 

サウジはアメリカからパトリオットなどのミサイル防衛システムを購入しているはずですが、十分には防御できていないようです。(そのことは、北朝鮮などのミサイルを考えたとき、日本にも関係してきます)

 

そうしたことで、サウジ石油施設防衛のためにイギリス部隊が展開したとも報じられています。

 

****英対空部隊のサウディ油田防衛****

やはりサウディは英米等の軍事機構に益々依存しつつあるのでしょうか?

al qods al arabi net は英紙independentが、英国はサウディの油田防衛のために部隊を展開していると報じていますが、al jazeera net は、英国防省が同放送に対し、英部隊の展開を確認したと報じています。

 

記事の要点次の通りですが、これが事実であれば、度重なるhothy軍のサウディ石油施設に対する攻撃で、これに対処するサウディ軍の能力不足が明らかになったのか、英としては大口兵器輸出先のサウディを英軍を出してでも確保したいと考えたのでしょうか?

・英国防省は27日、al jazeeraに対して、サウディ油田の防衛のために英軍部隊が展開した事を確認したが、秘密作戦のためとして、参加人数や作戦期間は明らかにしていない
国防報道官は、サウディ油田防衛のため英防空部隊が2月から派遣されていると語った

・英軍は対空システム・ジラフを展開したとしている
またその展開は昨年9月の油田に対する攻撃後、同盟国(複数)等と協議してきたところの由。

・英国防省は、サウディの油田は極めて重要なインフラで、ドローンに対する防衛のために第16防空大隊が派遣されたとしている
他方independent 紙は、英軍の展開は2月に始まったが、これは英裁判所が独裁国家に対して兵器類の輸出を禁止した時期とタイミングが一致しているとしている。【11月28日 「中東の窓」】

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エチオピア  ティグレ人勢力と連邦政府の衝突 民間人虐殺の真相は不明 戦闘は州都総攻撃へ

2020-11-27 23:02:21 | アフリカ

(エチオピア北部ティグレ州で続く武力紛争から避難し、スーダン国境付近で配給を待つ人々=2020年11月22日、AP【11月27日 毎日】)

 

【困惑するノーベル賞委】

ノーベル平和賞受賞者のアビー首相のエチオピアで、従前政治・経済の実権を握っていた少数民族ティグレ人(人口比6%)勢力と中央政府の間で紛争が勃発していることは、11月16日ブログ“エチオピア  “ノーベル平和賞受賞者”のアビー首相のもと、民族間の遺恨は解消せず戦闘へ”でも取り上げたところです。

 

数百人規模の民間人虐殺も取りざたされ、数万人の難民も発生している激しい戦闘に、平和賞を授与したノルウェー・ノーベル委員会にも困惑が。

 

****ノーベル委が異例の声明「エチオピアの動向、深く懸念」****

アフリカ東部エチオピアで続く軍事衝突をめぐり、同国のアビー首相に昨年、ノーベル平和賞を贈ったノルウェー・ノーベル委員会が17日、当事者に対して暴力を止めるよう求める異例の声明を出した。AP通信などが伝えた。

 

エチオピアでは今月初め、北部ティグレ州の政党ティグレ人民解放戦線(TPLF)が軍事施設を襲撃したとして、アビー首相が連邦政府軍に反撃を命令。軍事衝突に発展した。地元メディアなどは、この2週間ほどの間に数百人が犠牲になり、数千人が隣国スーダンに逃れたなどと報じている。民間人が虐殺されたという情報もある。

 

ノーベル平和賞を選考する同委員会は声明で「エチオピアの動向を注意深く追跡し、深く懸念している」としたうえで、すべての当事者に対して「激化する暴力を終わらせ、意見の不一致や紛争を平和的な手段で解決」するよう呼びかけた。

 

委員会は昨年、隣国エリトリアとの国境紛争を解決したとして、アビー氏にノーベル平和賞を贈った。国内では民族間の対立などの火種を抱えており、首相就任1年半ほどでの授与は「早すぎる」との見方もあったが、ライスアンデシェン委員長は「アビー氏の努力はいまこそ表彰に値し、激励が必要だ」と語っていた。委員会が過去の授賞に絡んで見解を表明するのは異例。【11月18日 朝日】

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【既得権益を失ったティグレ人の不満が背景か  WHO事務局長もティグレ人支配の名残】

一見無関係に思えるWHO(世界保健機関)にも飛び火。

冒頭に“従前政治・経済の実権を握っていた少数民族ティグレ人”と書きましたが、それを表すひとつの事例が、新型コロナで一躍“時の人”にもなっているテドロスWHO事務局長(エチオピア出身)。

 

****30年間に築いた利権の山****

少し歴史を整理しておこう。

エチオピアでは1974年の軍事クーデターで帝政が廃止されると、メンギスツ・ハイレ・マリアムによる独裁体制

が続いた。

 

TPLF(ティグレ人民解放戦線)らは91年にこれを倒し、リーダーのメレス・ゼナウィが暫定大統領を経て首相に就任。2012年に死去するまで強権的な政治を続けた。

 

現在のWHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長もTPLFの元幹部で、メレスの下で長年、保健相を務めた。

 

アビーが権力を握るまで、エチオピアの情報機関と軍の幹部は、TPLFかその軍事部門のメンバーによって占め

られていた。そもそもTPLFは、91年に権力を握ったときに政府軍を完全に解体して、自らの軍事部門を政府軍として改組していた。だから政府軍幹部も、TPLF出身者が占めることになったわけだ。

 

政権与党としてTPLFは、自らの幹部に国家経済と天然資源(主に土地)を思いのままに利用することを許した。

こうしてTPLFは、政治と軍事に加えて経済も支配するようになった。

 

外国からの援助金や融資も例外ではない。(後略)【12月1日号Newsweek日本語版】

*****************

 

こうした背景から、エチオピア軍は、テドロスWHO事務局長がティグレ人民解放戦線(TPLF)を支援していると強く批判しています。

 

****エチオピア軍、WHO事務局長を非難 「敵対勢力を支援」****

エチオピア軍参謀長は19日、同国の少数民族で軍と衝突しているティグレ人として世界で最も知名度が高い、世界保健機関のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長が、ティグレが統治するティグレ州を利するために圧力をかけ、ティグレの武器入手を支援していると非難した。

 

ベルハヌ・ジュラ参謀長は記者会見で、ティグレ州の政党「ティグレ人民解放戦線」をテドロス氏が「ありとあらゆる手を尽くして」を支援していると述べた。アビー・アハメド首相は、同州における軍事行動の標的はTPLFだと公言している。

 

昨年ノーベル平和賞を受賞したアビー氏は、自身が2018年に首相に就任するまで約30年にわたって権力を掌握したTPLFが、自身の政権の不安定化を画策していると主張している。

 

アビー氏が同国に法と秩序を取り戻すために必要不可欠としている軍事行動は3週目に突入。これまでに数百人が死亡、数万人が隣国のスーダン国境に押し寄せている。 【11月19日 AFP】

*********************

 

テドロスWHO事務局長は、ティグレ人が統治するティグレ州を利するために圧力をかけ、ティグレの武器調達を支援しているというエチオピア軍からの批判を否定しています。

 

アビー首相就任以前のエチオピアは、上記【Newsweek】のように、少数派ティグレ人が国の政治・経済のすべての実権を独占していましたが、多数派オモロ人(人口比34%)やアムハラ人などの不満が高まり、抗議行動が激化。

 

そうした状況下で、政治クーデター的な動きの中からオモロ人のアビー氏が首相に就任。

アビー首相は改革を推進して、ティグレ人はこれまでの既得権益を失うことになりました。

 

国際的にはノーベル平和賞授与理由となるほど評価されたアビー首相の改革ですが、既得権益を奪われたティグレ人のアビー政権への不満が、今回のティグレ人勢力と政府・軍の衝突となったと推測されます。

 

【市民600人殺害か どちら側の犯行かは不明】

戦闘はティグレ人勢力が支配する北部ティグレ州に政府軍が進攻、州都を包囲する形で進んでいますが、600人にも及ぶ民間人がこの過程で虐殺されたという報道も。

 

****エチオピア北部で市民600人殺害か、人権委員会が報告****

エチオピア政府が指定する人権委員会は24日、北部ティグレ州マイカドラで今月9日に少なくとも600人の市民が出身民族を理由に殺害されたと報告した。

 

エチオピア人権委員会(EHRC)は暫定報告書で、地元当局者や警察の支援を受けたティグレ人の若者の非公式のグループが、家を一軒一軒回り、アムハラやウォルカイトの民族だと断定した人々を殺害したと述べた。

 

独立した国家機関を自称するEHRCは、このグループと地元のティグレ人の民兵組織、警察の治安部隊が、政府軍の進攻を受け撤退するまで「戦争犯罪」と「人道に対する犯罪」を犯したと非難した。

 

EHRCのトップは「想像を絶する残虐な犯罪が、民族性という理由だけで市民に対して実行されたことに胸が張り裂ける思いだ」と発言。被害者への救済やリハビリの提供のほか、実行者の責任を法の下で問うことが必要だと述べた。

 

EHRCによると、襲撃者は家を破壊し略奪にも及んだ。ナイフやなた、おの、ロープを使って人々を切りつけ絞殺した。目撃者からは、ティグレ人の中には自宅や教会、畑に人々をかくまって命を助けた市民もいるとの証言もあるという。

 

虐殺の目撃者はCNNとアムネスティ・インターナショナルに対し、襲撃の背後にはティグレ人の当局者がいて、アムハラ人を狙っていたと語った。ティグレ州の与党、ティグレ人民解放戦線(TPLF)はCNNのコメントの要請に回答していない。

 

一方、アビー首相が連邦政府に従わないティグレ州の支配勢力に対する空爆と地上からの攻撃を命令して以降、政府軍が残虐行為を行っているとの報告もある。ティグレ人勢力は政府軍が教会や住居を目標にし、無実の市民を殺したと非難している。

 

CNNはいずれの当事者の主張も正当性を確認できていない。現地は通信手段が途絶しており、暫定報告書の当事者に連絡するのが困難な状況となっている。

 

今回の衝突で、アフリカで2番目に人口の多いこの国及び不安定なアフリカの角の地域で何年も積み重ねてきた和平の進展が振り出しに戻る恐れがある。

 

アビー首相は22日、TPLFに対し72時間以内の投降を呼びかける最後通牒を行ったが、TPLFは戦いを続ける姿勢を示している。

 

政府軍は同州州都のメケレに近づいていると発表。メケレを戦車で包囲する計画を含む最終段階の軍事作戦が目前だと述べた。

 

バチェレ国連人権高等弁務官はメケレを戦車や砲撃部隊が取り囲んだとの報告に、さらなる国際人権法の違反行為が行われると懸念と警告を発した。

 

国連人権高等弁務官事務所によると、今月7日以降の死者数は数百人に上り、隣国スーダンへの避難民は4万人を超える。国連事務総長の報道官は23日の記者会見で、「(難民への)対応の規模を拡大しているが、流入のペースに現地の対応能力が追い付かず、さらなる資金援助が即刻必要だ」と語った。

 

また紛争は隣国エリトリアにも飛び火し、TPLFの放ったロケット弾が同国に着弾した。さらにソマリアでは、過激派組織アルカイダの民兵と対峙(たいじ)する平和維持部隊にいるティグレ人数百人についてエチオピアが武装解除する動きも出ている。

 

アフリカ連合(AU)の議長を務める南アフリカのラマポーザ大統領は20日にエチオピアのサフェレウォルク大統領と会談し、AUと協力し平和的解決を探る特使の受け入れの用意があるとのエチオピア政府の姿勢を歓迎した。

 

英国のラーブ外相は24日、ティグレ州での紛争拡大を「非常に懸念する」と述べ、影響が地域に波及するリスクがあるとの認識を示した。欧州連合(EU)や米国も事態の鎮静化を呼び掛けている。【11月25日 CNN】

*********************

 

上記記事にもあるように、どちらが虐殺を行ったのか・・・民間人虐殺の真相は明らかではありません。

 

****エチオピア虐殺、連邦政府側も? 食い違う証言 報復連鎖で紛争悪化の恐れ****

エチオピア北部ティグレ州西部の町マイカドラの教会には、敷地いっぱいに、たくさんの新しい墓が掘られていた。土の上には、疲れ果てた手が放り出したシャベルの横にレモンの香りの消臭剤の空き缶が幾つも転がっていたが、死臭をごまかすことはできていない。

 

町中ではあちこちで何十人もの遺体が道端に放置され、埋葬されるのを待ちながら日の光を浴びて腐敗し始めていた。

 

人口4万人のこの町で、恐ろしい事件が起きたことを否定する人はいない。何百人もの民間人が銃で撃たれ、刃物やなたで切りつけられ、刺されて虐殺されたのだ。

 

だが、犠牲者らの存在は今、3週間に及ぶ紛争の当事者たちの間で、非難合戦の駒と化している。

 

■食い違う証言

11月9日に起きた民間人の虐殺は、まず国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによって明るみに出た。アムネスティは検証した写真と動画を公開し、エチオピア連邦政府軍と戦っているティグレ州政府与党「ティグレ人民解放戦線」側の勢力が、退却する際にマイカドラに住むアムハラ人を殺害したとの目撃証言を報告した。

 

ノーベル平和賞受賞者のアビー・アハメド首相率いるエチオピア連邦政府は、この証言に飛びついた。それは、TPLFに対する武力攻撃の必要性を補強する残虐行為の証しだった。

 

連邦政府機関のエチオピア人権委員会は24日、ティグレ人の若者グループと地元警察や民兵組織が、民族に基づいて「前もって識別した」被害者少なくとも600人を虐殺したとする報告書を発表した。

 

だが、マイカドラから隣国スーダンに逃げたティグレ人難民らは、虐殺を行ったのは連邦政府側の勢力だったと証言している。

 

■「民族浄化」

AFPは先週、連邦政府軍が制圧したティグレ州内の地域に立ち入る許可を特別に得て、マイカドラを訪れた。アムハラ人の住民たちは口々に、町の近くまで戦闘が迫ったとき突然、ティグレ人の近隣住民らが襲い掛かってきたと語った。

 

「民兵と警官が発砲してきた。民間人はなたで襲ってきた」と、農場で働いていたアムハラ人男性は病院のベッドの上で話した。横たわった男性の頭部を覆うガーゼから、ギザギザの傷跡がはみ出していた。「町の住民全員が関係者だ」

 

新しく就任したマイカドラの行政官はアムハラ人の連邦政府支持者で、「アムハラ人に対して残忍な民族浄化が行われた」とAFPに語った。

 

しかし、マイカドラから少し西に進み、スーダンとの国境を越えたところに急拡大しているウム・ラクバ難民キャンプでは、まるで異なる証言が聞こえてくる。

 

「エチオピア軍兵士とアムハラ人民兵が、町に入ってきて空や住民に向かって発砲した」と、多数の同胞と逃げてきたティグレ人の農家の男性はAFPに話した。「私たちは、安全な場所を求めて町から逃げ出した。(軍服ではない)私服の男たちが、刃物やおので人々を襲っているのを見た」「通りという通りに、遺体が転がっていた」

 

他の難民たちも同様に、襲撃してきたのは連邦政府側の勢力で、TPLFではなかったと証言している。

 

アムネスティの調査員フィセハ・ティクレ氏は、マイカドラとウム・ラクバで語られた証言はいずれも真実の可能性があると指摘した。民族間の報復の連鎖によって、紛争の悪化に歯止めが効かなくなる恐れが浮き彫りになっている。 【11月27日 AFP】

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虐殺の主体がどちらなのかよくわからない・・・というのは、戦闘の混乱状態では珍しいことではありません。

両方ともに行っているというケーズも。

 

今後、その責任が追及されるとは思いますが、エチオピア政府はティグレ人勢力による犯行という立場を堅持するでしょう。

 

【州都総攻撃か】

戦闘の方は、最終局面に。

 

****エチオピア紛争 政府軍がティグレ州都を総攻撃へ 人道危機深刻に****

エチオピア北部ティグレ州で続く中央政府軍と同州政府のティグレ人民解放戦線(TPLF)との武力紛争で、アビー首相は26日、州都メケレに総攻撃をかけると明らかにした。TPLFは徹底抗戦の構えで、多数の市民が巻き添えになる恐れが出ている。

 

メケレは人口約50万人で、ロイター通信によると政府軍は既に町から50キロの距離まで迫っていると主張。アビー首相は攻撃に際し「罪のない市民が被害を受けないよう、最大限の注意を払う」と説明し、市民には自宅待機を求めた。

 

同通信によるとTPLF幹部は「我々の権利を守るため、死ぬ準備はできている」などと述べた。

 

一方、アフリカ連合(AU)は25日、紛争調停のためモザンビークのシサノ元大統領ら3人を首都アディスアベバに派遣した。国連や欧米諸国からも停戦を求める声が上がっているが、アビー首相は内政問題だとして海外からの働きかけには応じていない。

 

紛争に伴う人道危機も深刻になっており、ティグレ州から隣国スーダンに逃げた難民は4万人に達した。【11月27日 毎日】

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州都メケレをめぐる最終決戦は避けらない様相ですが、少なくとも民間人にこれ以上の犠牲者が出ないことを願っています。

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アメリカ  コロナ・パンデミックへのアメリカ的対応 「私はリスクをとります」 起業ラッシュ

2020-11-26 23:33:57 | アメリカ

(【11月26日 TBS NEWS】 アメリカ 感謝祭で移動する女性)

 

【感謝祭で感染爆発の危険 バイデン氏も自粛呼びかけ】

日本では「我慢の三連休」に続き「この3週間が極めて重要な時期だ」と、眉間に皺寄せた注意喚起が続いていますが、1日の新規感染者が15万人前後という驚異的ハイペースの感染拡大が続くアメリカでは、今日11月26日の感謝祭に伴う人の移動・会食が更なる感染拡大をもたらすのでは・・・と懸念されています。

 

****感謝祭の移動控えて、当局の呼び掛け無視し多くの市民が帰省計画****

混雑した空港に、検査施設前の長い列──。米国では、今月26日の感謝祭を機に新型コロナウイルスの感染が拡大する恐れがあるとして当局が自制を呼び掛けているにもかかわらず、多くの人が親類一同でこの日を祝う計画を立てている。

 

感謝祭は、多くの米国人にとってはクリスマスより大事な休暇だが、保健当局は、全面的な移動制限は行っていないものの、このたび初めて移動を控えるよう呼び掛けている。

 

1日当たりの新規感染者が15万人以上となり、これまでの死者は世界最多の25万6000人を超えている米国では、大半の州で知事が自宅のダイニングルームを新型ウイルスの温床にしてはならないと注意を促している。

 

米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は自ら模範を示そうと、今年の感謝祭は妻と2人だけで祝い、成人した3人の娘たちとは「ズーム」を通じて乾杯することにしたと明らかにした。

 

だが空港の保安検査を管轄する運輸保安局によると、先週末は、全米の空港を利用した乗降客数が300万人を超え、新型ウイルスが流行し始めて以来「最も混雑した週末」となった。前年の700万人に比べると半分以下とはいえ、保健当局は、感染者が12月に壊滅的なレベルにまで急増する恐れがあると懸念している。

 

ニューヨークをはじめ、多くの都市ではこのところ、安心して親類を訪ねるために自分が陰性であることを確認しようとする人々で検査施設の外に長い行列ができている。だが保健当局は、誰かと集まる数日前に検査をしても、感染リスクが取り除かれるわけではないとくぎを刺している。

 

■「予定変更はまだ間に合う」

ニューヨーク州ロングアイランド出身のメアリー・ペレスさんは、感謝祭には毎年、親類が35人は集まるが、今年は州知事が発表した「10人まで」という制限を少しオーバーし、大人5人と子ども6人の計11人で祝う予定だとAFPに話した。

 

「違反してるとは思わない。子どもたちは数に入れられない。子どもを残して親だけ来るわけにはいかないでしょ」

 

今年3月に新型ウイルスが流行し始めて以来、休暇は感染拡大のきっかけとなっている。7月4日の独立記念日、9月のレーバー・デー、10月のハロウィーンが終わった後、いずれもそうだった。

 

冬になって初めての休暇となる感謝祭の場合、感染拡大のリスクははるかに大きい。大勢の学生が帰省し、多くの場合、実家で1月まで過ごすからだ。

 

「予定変更はまだ間に合う」と、米ジョンズ・ホプキンス大学の防災問題の専門家、メーガン・マクギンティー氏は23日、感謝祭の移動を控えるよう訴えた。 【11月25日 AFP】

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“次期大統領”のバイデン氏も、コロナ対策が就任早々の最大の急務となりますので他人事ではなく、感謝祭のイベント自粛を国民に求めています。

 

****バイデン氏、感謝祭のイベント自粛呼びかけ****

アメリカで政権移行を進めるバイデン氏は感謝祭に合わせた連休が始まるのを前に、イベントなどを自粛するよう呼びかけました。

バイデン氏「今年は国民の祝日に合わせた多くの伝統行事を自粛するよう求めたい」

バイデン氏は、26日から始まる感謝祭に合わせた連休で、人の往来が増えて新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されていることを踏まえ、家族の集まりなどの自粛を呼びかけました。また、バイデン氏は、「マスクは愛国的義務だ」として、新型ウイルス対策により一層、取り組むよう国民に促しています。(後略)【11月26日 日テレNEWS24】

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【それでもおよそ5000万人が移動 「私はリスクをとります」】

ただ、束縛されるのを嫌うアメリカ国民は、クリスマスより大事な休暇とあって「大移動」を始めています。

 

****世界の感染者6000万人超、米・感謝祭前で帰省ラッシュ****

世界全体の感染者の累計は6000万人を超えています。感謝祭を迎えるアメリカでは帰省ラッシュが本格化し、保健当局が神経を尖らせています。

ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、世界の新型コロナウイルス感染者の累計は26日、6000万人を突破。最も多いのはアメリカで、次いでインド、ブラジルとなっています。また、ドイツでは第2波の感染状況が改善できていないとして、制限措置を強化する方針です。

「こちら、ニューヨーク市内最大級の駅です。感謝祭を前にマスクをした人々が、それぞれの旅先へと向かいます」(記者)

26日に感謝祭を迎えるアメリカは、この時期からクリスマスにかけて1年のうちで最も多くの人が移動する「ホリデーシーズン」となり、各地で帰省ラッシュが本格化。今年の感謝祭前後も、およそ5000万人の移動が見込まれています。

「気をつければそんなに心配いりません。手袋もマスクもして距離をとれば大丈夫です」(駅の利用客)
「家族の中には移動したくない人もいて寂しいです。私はリスクをとります」(フロリダから来た女性)

「保健当局が旅行を控えるよう呼びかける中、ロサンゼルスの空港では訪れた人たちが続々と搭乗手続きをしています」(記者)

アメリカのCDC(疾病対策センター)は旅行を控えるよう呼びかけていますが、ロサンゼルス国際空港ではここ数日、毎日4万人ほどが利用しているということです。ロサンゼルス郡当局は、今後2週間で新規感染者が倍増するおそれもあるとの見方を示しています。【11月26日 TBS NEWS】

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「私はリスクをとります」・・・いかにもアメリカ的。

ただ、日本だと「あなたはそれでいいだろうが、大事な人があなたから感染することにもなるでしょう」と言われるんでしょうね・・・。それはうつされる人の自覚・対応の問題という考え方も。

 

【トランプ大統領 国民に対し「集まって」休日を過ごすよう呼び掛け】

一方、トランプ大統領は移動を規制するつもりない・・・と言うより、“国民に対し「集まって」休日を過ごすよう呼び掛けた”とのこと。

 

今後の感染爆発など、(憎きバイデンが対処することであり)知ったことでない・・・ということでしょうか。

 

****ホワイトハウスの感謝祭宣言、国民に「集まり」呼びかけ 感染者急増の最中****

米国のトランプ大統領は、毎年行う感謝祭の宣言で国民に対し「集まって」休日を過ごすよう呼び掛けた。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、連邦政府の公衆衛生当局者らは人が大勢で集まることについて明確な警告を発している。

 

ホワイトハウスの報道官事務所が25日夜に発表した宣言の最後の行には、「すべての国民の集まりを奨励する。家庭と教会で祈りを捧げ、神に感謝してほしい。我々に対し多くの恵みがもたらされていることを」との言葉があった。

 

公衆衛生の専門家らは、26日の感謝祭が「爆発的な感染を引き起こすイベントの最たるもの」になる可能性があると警鐘を鳴らす。また米疾病対策センター(CDC)は、感染拡大の予防策として感謝祭のための旅行を控えることを推奨している。

 

米ジョンズ・ホプキンス大学によると、米国内における新型コロナの累計死者数は26万1000人以上。感染者数は1270万人を超えており、入院患者の数もこの数日間で過去最多を更新し続けている。

 

専門家らは感謝祭のように家族が集まるイベントについて、たいてい屋内で行われ、様々な世代が同席するため、高齢者など重症化しやすい人々がリスクにさらされると懸念を示す。

 

感謝祭などの祝日における大統領の宣言は通常、ホワイトハウスが発表する形式的な声明だが、時おり政権や現在起きている出来事などにからむ政治性を帯びたものになることもある。今年の宣言には、新型コロナのパンデミック(世界的な感染拡大)に言及する箇所も盛り込まれた。【11月26日 CNN】

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コロナに慎重な人が多い日本では、私はどちらかと言えば、やや慎重さに欠ける方かもしれませんが、そんな私でも「何だかな・・・」

 

【ユダヤ教超正統派 秘密裏に大規模結婚式】

もうひとつ、アメリカのコロナ関連ニュースで「何だかな・・・」と思ったのがユダヤ教超正統派の人々の対応。

 

****ユダヤ教超正統派がニューヨークで数千人規模の結婚式 市は罰金150万円****

新型コロナウイルスの感染が再び拡大傾向にある米東部ニューヨーク市で今月上旬、ユダヤ教超正統派が数千人規模の結婚式を屋内で開いていたことが明らかになり、デブラシオ市長は多数の集会を禁じた市長命令に違反したとして、会場となったシナゴーグ(ユダヤ教会堂)に1万5000ドル(約156万円)の罰金を科すと明らかにした。米メディアが24日伝えた。

 

罰金が科されることになったのは、11月8日にブルックリン地区で開かれたラビ(宗教指導者)の孫と別のラビの娘による結婚式。

 

会場は約7000人収容可能な大規模なシナゴーグで、ほぼ満員だったという。米メディアが入手した映像では、伝統的な衣装に身を包んだユダヤ教徒が、階段状のひな壇に肩が触れるほど密集し、マスクをせずに歌い、踊る姿が映っている。

 

市は結婚式の計画を事前に把握していなかったといい、市長は「結婚式を秘密裏に行おうとしていたのは明らかで、受け入れがたい」と批判。今後も違反行為があれば、このシナゴーグを閉鎖すると警告した。

 

ニューヨーク市には100万人以上のユダヤ教徒が暮らす。このうち宗教的な集まりを重んじる超正統派は、集会の禁止など新型コロナの規制に反発し、これまでも行政側と度々対立している。【11月25日 毎日】

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政府の規制に従わないユダヤ教超正統派がコロナのクラスター発生源となっていることは、イスラエルでも問題視されています。

 

【「世界が変化していること、新たなニーズが存在していることに人々は気付きつつある」】

なんだかんだで問題も多いアメリカですが、下記の記事など目にすると「やっぱ、これがアメリカの底力かな・・・」とも思ってしまいます。

 

****過去最高のビジネス立ち上げ数 コロナ禍の米国****

コロナ禍での弱い経済と高い失業率に直面する米国で、スタートアップ企業が記録的な勢いで誕生している。

 

この動きを後押ししているのは、金利の低さと融資に前向きな銀行、それと蓄えのある人々の存在だ。外出機会の減少と政府の景気刺激策がその背景にはある。

 

米国勢調査局によると、7月から9月までに設立された企業は約160万社に上る。四半期で企業設立が100万件を超えたのは初めてで、これまでの記録を大きく塗り替えた。

 

12か国で起業家教育に取り組むNPO「ネットワーク・フォー・ティーチング・アントレプレナーシップ」のJ・D・ラロック代表は、「新型ウイルスの世界的な流行によって、新規事業立ち上げへの関心が明らかに高まった。理由は単純だ。人々が仕事を失っているためだ」と述べる。

 

「世界が変化していること、新たなニーズが存在していることに人々は気付きつつある」と同代表は言う。

 

■起業する以外に方法がない

新型ウイルスの世界的な流行が始まって以来、米国の経済活動は数か月にわたって停滞し、その間に2000万人以上が職を失った。

 

復職できずに失業手当の給付が続いているケースは多く、また、なかには仕事を続けることができていたとしても、収入が激減しているケースもある。

 

サービス業や観光業といった業種での低迷が続くなか、一部の人にとっては、起業する以外に生活の糧を得る方法はないのだ。

 

公式のデータでは、スタートアップが多く誕生したセクターの詳細までは分からない。ただ、センター・フォー・アメリカン・アントレプレナーシップ のジョン・ディアリ―氏は、こうした起業の多くは食事の宅配サービスといった新型ウイルスの流行に関係しているものが多いと話す。

 

その一方で、米メリーランド大学のジョン・ハルティワンガー氏は、オンラインショッピングのようなトレンドは、コロナが流行して人々が家にこもるようになる前から見られていたと指摘する。

 

「こうした変化の一部はより永続的なものとなり、その流れを手助けできる事業者はうまくやることができるだろう」 【11月26日 AFP】AFPBB News

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もちろん、失業し、起業する以外に生活の糧を得る方法がなく・・・ということではありますが、日本とはメンタリティの違いを感じます。

 

アメリカを支えるダイナミズムの源でしょう。

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ポーランド・ハンガリーなどの中東欧諸国 コロナ復興でEUが求める「法の支配」を拒否

2020-11-25 23:00:33 | 欧州情勢

((メラニア夫人の故郷)スロベニア・セブニツァ近郊で披露されたメラニア・トランプ米大統領夫人の銅像【9月16日 AFP】 この銅像は2代目。初代は木造で水色の服を着ていましたが、7月に放火で焼失しました。)

 

【EUのコロナ復興基金 権威主義的傾向を強めるポーランド・ハンガリーの反対で運用が遅れる可能性も】

新型コロナが猛威をふるう欧州では、ピークを越えた国、依然厳しい状況にある国、状況は国によって異なります。

“仏英、コロナ規制緩和を発表 ロックダウンで感染に歯止め”【11月25日 AFP】

“ドイツ、1日当たりの新型コロナ死者が410人に 過去最多”【11月25日 ロイター】

 

ドイツは、感染の増加傾向には歯止めがかかったものの、依然として高止まりしているため、各州は行動制限を12月20日まで延長する見込みとされています。

 

感染状況に差異はあっても、2度目のロックダウンを余儀なくされて、各国ともに市民生活は疲弊し、政府による救済が早急に求められていることは同じです。

“欧州ロックダウン、貧困の波 非正規直撃 職探しの外出、不許可”【11月24日 朝日】

 

各国政府の救済策を資金的に支えるのがEU。

 

EU内部には、かねてより財政規律を重んじるドイツ・オランダなど北部諸国とギリシャ・イタリアなど救済を求める南部諸国の間で、財政規律をめぐる対立軸がありますが、同時に、いわゆる西欧的民主主義を重んじるドイツ・フランスなど西欧諸国と権威主義的傾向を強めるポーランド・ハンガリーなど中東欧諸国の間には、民主主義の価値観をめぐる深刻な対立があることは、これまでもしばしば取り上げてきたところです。

 

権威主義・国家主義的とされるハンガリーとポーランドの政府を巡っては、裁判所、メディア、非政府組織の独立性が損ねられているとして、EUが正式な調査手続きを進めています。

 

そのEUでは予算案には加盟27カ国による全会一致の承認が必要とされていますが、2021─27年予算と新型コロナウイルス復興基金の採択にあたり、資金へのアクセスを巡り、法の支配の尊重が条件に盛り込まれたことに反発するポーランド・ハンガリーが拒否権を行使したことで、来年1月からの予算執行が遅れる可能性が高まっています。

 

“ハンガリーのオルバン首相は18日の声明で「拒否権を行使した」と言明。隣国スロベニアのヤンシャ首相も17日、ハンガリーなどを支持する内容の書簡をミシェルEU大統領らに送った。EUの亀裂が鮮明になった。”【11月18日 共同】

 

ポーランド、ハンガリーはたびたび取り上げてきましたが、個人的にあまり馴染みがないのがスロベニア。

“トランプ氏の妻、メラニア・トランプ氏の生まれ故郷であるスロベニアでは、米大統領選を通じてヤンシャ首相がトランプ氏を称賛しており、10月にはツイッターにバイデン氏は、「歴史上、最も弱い大統領の1人となるだろう」と投稿した。”【後出WSJ】

 

16日の大使級会合、17日の欧州担当大臣級会合、そして19日の首脳会議でも東西の溝は埋まっていません。

 

****東欧2カ国「法の支配」条件に反発 EUのコロナ基金****

新型コロナウイルス禍で深刻な打撃を受けた国を支援する欧州連合(EU)の「復興基金」をめぐり、東欧のハンガリーとポーランドが承認手続きで同意を拒否している。

 

権威主義に傾斜している両国の政権は、「法の支配」順守を資金分配の条件とする基金の仕組みに反発している。基金の運用開始には加盟全27カ国の承認が必要で、来年1月とされていた予定がずれ込む可能性が出てきた。

 

基金はEUの欧州委員会が債券を発行し、金融市場で全額を調達する。規模は総額7500億ユーロ(約92兆円)でEU予算に組み込まれる。コロナ禍に伴う医療支援や景気対策などのため、返済不要の補助金として3900億ユーロ、融資の形で3600億ユーロの資金を加盟国に供給する仕組みだ。

 

EU首脳は7月、基金の設立に合意した。しかし、その後、EU議長国を務めるドイツと欧州議会の交渉担当者が、「法の支配」の原則に反する加盟国に対しては、基金からの資金拠出を差し止められるとする仕組みの導入方針を決めた。

 

ハンガリーとポーランドの政権は強権的な統治手法を強め、報道の自由や司法の独立を脅かしていると指摘される。基金運用に関する方針には、両国での「法の支配」の後退に歯止めをかける狙いがある。

 

ハンガリーやポーランドはこれに対し、「経済問題を政治的な議論に結びつけるのは誤りだ」などと反発。基金を含めたEU予算の承認手続きに拒否権を行使している。

 

EUは19日、オンラインによる首脳会議を開き、基金の問題を議論したが、両国は拒否する姿勢を変えなかった。加盟国は協議を継続することで一致しており、ミシェルEU大統領は12月の首脳会議までに解決を図る考えを示した。

 

ハンガリーのグヤーシュ首相府長官は同日、現状のままでは基金が稼働する「可能性はゼロだ」と述べ、仕組みの変更を改めて求めた。ドイツのメルケル首相は「拒否権がある以上、ハンガリーやポーランドとの協議を続けなければならない」と述べるにとどめた。

 

基金の運用開始が遅れれば、コロナ禍で低迷した欧州経済の回復が遅れる恐れもある。景気悪化が深刻なイタリアのアメンドラ欧州関係担当相は「(基金の承認を)遅らせた者は重い政治責任を負う」と警告した。【11月20日 産経】

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【トランプ退陣で守護者を失う中東欧ポピュリズム右派政権】

“強権的な統治手法を強め、報道の自由や司法の独立を脅かしていると指摘される”中東欧諸国ですが、こうした国々をこれまで強気にさせてきたのが、同様の傾向を持ち、西欧諸国と馬が合わないアメリカ・トランプ大統領でした。

 

そのトランプ大統領の退陣は、中東欧の強権支配・右派ポピュリズム国家にも大きな影響を与えることが予想されます。

 

今回、西欧諸国が「法の支配」順守を資金分配の条件とする形で中東欧諸国へ強気の姿勢を示しているのは、中東欧諸国を勢いづかせてきたトランプ大統領の退陣ということが影響しているとも指摘されています。

 

****「親トランプ」の東欧右派政権、米国の変化を警戒****

ハンガリーやポーランドなどの大衆迎合主義政府、バイデン氏の大統領就任で批判恐れる

 

11月3日の米大統領選挙の翌日、スロベニア右派政権のヤネス・ヤンシャ首相は、ドナルド・トランプ氏が大統領選で勝利したと公式に宣言した。1国のリーダーとしてトランプ氏の勝利を認めたのは、世界でヤンシャ氏だけだ。ヤンシャ氏はその後、米大統領選挙で不正があったとの根拠の薄い主張を、頻繁にリツイートしている。

 

エストニアのマルト・ヘルメ内相(その後辞任)と彼の息子のマルティン・ヘルメ財務相は、ジョー・バイデン次期米大統領を腐敗した人物だと批判し、「ディープ・ステート(国家内国家)」が米大統領選挙を盗み取ったと主張するとともに、トランプ氏が内戦によって権力を取り戻しつつあると指摘している。マルト・ヘルメ、マルティン・ヘルメ両氏は、エストニア連立政権の一角を占める極右政党の指導者だ。

 

また、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、バイデン氏の「大統領選挙での成功」に祝意を述べただけで、選挙人による投票の結果を待っていると語った。ドゥダ氏は、今年7月のポーランド大統領選挙直前にホワイトハウスを公式訪問したことで勢いを得て、大統領再選を果たしていた。ポーランド公共放送のテレビ番組は、米大統領選挙で不正が行われた可能性があるとの見方を、連日のように伝えている。

 

こうした反応は、強い立場の西欧諸国と、地政学的に弱い立場の東欧諸国との間の亀裂を示している。西欧諸国はバイデン氏の勝利を歓迎しているが、東欧諸国の多くはトランプ氏を支持してきた。

 

トランプ氏はこれまで、気候変動・貿易・国防などの問題でドイツやフランスと頻繁に対立してきたが、中・東欧諸国の何人かの首脳とは友好的関係を結んできた。

 

こうした諸国では、国内で伸長していたナショナリストとポピュリスト(大衆迎合主義)の勢力がトランプ氏の政治姿勢を歓迎していた。

 

東欧のナショナリスト勢力は、2016年の米大統領選でトランプ氏が勝利するはるか以前から、基盤を拡大していた。ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、10年前から首相を務めており、メディア・市民社会組織・司法への影響を着実に強めている。ポーランドのドゥダ大統領が最初に当選したのは2015年だ。

 

しかし彼らは、トランプ氏が米大統領となったことで、主流になりつつある世界の流れの一翼を担っているとの感触を得て勢いを増した。

 

トランプ氏は、西欧諸国が仲間外れにしようとしていたこれら諸国の正当性を認めた。トランプ氏は大統領として初の欧州訪問の際にワルシャワを訪れ、「われわれ独自の文化、信仰、伝統による結び付きの一掃」を画策する勢力に対抗する共同戦線を提唱した。

 

米大統領選でバイデン氏が勝利したことで、東欧諸国のナショナリストは守勢に回っている。今年のポーランド大統領選でドゥダ氏に挑んだ欧州議会議員で中道左派のロベルト・ビエドロン氏は「彼らは、価値観を共有し反リベラルの主張を広める親しい仲間を失った。トランプ氏が敗れたことで、もはやトランプ効果は機能しなくなった」と語った。

 

ホワイトハウスの変化は、資金援助に法の支配重視の条件を付けるという欧州連合(EU)の要求をめぐって、ポーランドとハンガリーが他のEU加盟国と対立する中で起きた。

 

こうした条件を課されることで、ハンガリーとポーランドは道路・鉄道・学校向けにEUから資金を得るため、裁判所や政府系メディアの力を排除する動きを抑制せざるを得なくなる可能性がある。

 

ハンガリー生まれでオランダ選出の欧州議会議員のカティ・ピリ氏は、EU主要国によるこうした強硬なアプローチについて、トランプ氏敗北の直接的な結果の1つだと話す。

 

同氏は、「本当に変わったのは、リベラルの力に公的な資格が与えられたように感じることだ。ここ何年かにわたって、欧州の指導者の多くはこうした独裁者に立ち向かわなかった。今後そのようなことは二度と起こらないだろうと感じている」と話した。

 

副大統領時代のバイデン氏と働いた米国の元当局者および顧問らは、バイデン政権が米国の政策を急旋回させ、同地域に対してより積極的なアプローチを取るとみていると話す。

 

ディック・ダービン上院議員(民主、イリノイ州)は、「私はバイデン次期大統領が民主主義的な規範や人権に関して、われわれが共有する価値観を改めて主張すると確信している」と述べる。

 

バラク・オバマ前大統領時代に北大西洋条約機構(NATO)の米国大使を務め、現在シカゴ・グローバル評議会会長を務めるイボ・ダルダー氏は、「とても大きな変化になるだろう」と述べ、「民主主義的価値観と法の支配へのコミットメントは、ワシントンと良好な関係を築く上でかなり重要になるだろう」と付け加えた。

 

バイデン氏の政権移行チームの広報担当者は、次期大統領のコミットメントについては、今年出された記事の中で、「民主主義の強化を世界的な政策目標に戻すこと」と述べていると指摘した。(後略)【11月24日 WSJ】

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【トランプ後も残るポピュリズム】

中東欧諸国とはいっても、事情はそれぞれ(例えばロシアの脅威の度合い、それはアメリカを必要とする度合いにもなります)ですから、今後の対応もそれぞれでしょう。

 

ただ、中東欧諸国にしても、アメリカのトランプ支持勢力にしても、トランプ退場で消えてなくなるものでもないでしょう。

 

****経済格差とエリートへの不満でポピュリズムは残る****

今回の米国の大統領選挙は、再びポピュリズムに焦点を当てることとなったが、米国のポピュリズムはトランプ以前からあり、トランプ後も何らかの形のポピュリズムが続くと思われる。

 

ポピュリズムの原動力は経済的不平等とエリートへの怒りである。

 

経済的不平等については、米国で過去40年間経済は顕著に発展したが、その間実質賃金は上がっておらず、特に教育程度の高くない者の実質収入は減ったという。

 

米国経済はグローバル化とデジタル技術、オートメーション技術に支えられて発展したが、教育程度の高くない者はこの経済発展に参加できず、その恩恵を受けることができなかった。

 

このようにして経済発展に取り残された形のグループが社会、政治体制に幻滅を感じ、ポピュリズムを支持するようになったと考えられる。

 

それはエリート、つまりエスタブリッシュメントに対する怒りと裏腹である。取り残された人々は、エスタブリッシュメントは経済発展に参画しその恩恵を受けたのに自分たちは疎外されたと感じ、エスタブリッシュメントに対する怒りが生じたのである。

 

このような経済的不平等とエリートに対する怒りは、トランプが去っても消えるものではなく、米国のポピュリズムはトランプ後も続くと考えられる。

 

バイデンは大統領選挙の勝利演説で国民の和解を呼び掛けた。トランプは対立や分裂を煽るような発言を繰り返していたが、バイデンが大統領になればそのような発言はなくなるだろう。

 

しかし、上記のような経済的不平等とエリートに対する怒りが続く限り、和解は困難である。バイデンが真に米国民の和解を図ろうとするのであれば、対立の原因である経済的不平等の軽減に取り組まなければならない。しかし、経済的不平等は構造的な性格のものであり、その軽減は容易でないだろう。

 

ポピュリズムは米国だけの現象ではない。欧州では以前よりポピュリズムの動きが見られたが、2011年の国家レベルの債務危機をきっかけにポピュリズムへの支持が急拡大した。

 

現在ではイタリアでポピュリスト党の「五つ星運動」が連立政権を組んでおり、ハンガリーではポピュリストのオルバンが首相を務めているほか、フランスではマリーヌ・ル・ペンがポピュリスト党の「国民連合」(前「国民戦線」)の党首を務めている。欧州以外ではブラジル、インド、フィリピン、ポーランド、トルコでポピュリズムが活発である。

 

このようにポピュリズムは世界的現象であり、今後とも先進地域、開発地域を問わず、国民の不満のはけ口、それにつけ込む政治家の動きとして広まりを見せると思われる。【11月25日 WEDGE Infinity】

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中東欧諸国が怒り・不満を向けるエリート・エスタブリッシュメントが西欧諸国、それに主導されるEUです。

 

だったらEUを抜ければいいのに・・・とも思うのですが、そのEUから補助金などで最も大きな便益を得ているのがほかならぬ中東欧諸国です。

 

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タイ  当局対応・デモ隊、双方がエスカレート傾向 首相は不敬罪適用も示唆 注目される25日デモ

2020-11-24 23:01:50 | 東南アジア

(デモ会場に登場した「黄色いアヒル」【11月24日 FNNプライムオンライン】 周囲で片手をあげているデモ参加者は「抵抗」のシンボル「三本指サイン」 ユーモラスな光景とは裏腹に、緊迫する情勢は「危険水域」に近づいているとも)

 

【放水・催涙弾、実弾射撃、一方で警察本部にペンキ エスカレートする攻防】

タイの長期化する若者らの抗議行動については、これまでも数回取り上げています。最近では11月15日ブログ”タイ 長期化する若者らの抗議行動 王室改革をも求める声に「愛」を語るワチュラロンコン国王”など。

 

プラユット政権はコロナ対策を名目にした非常事態宣言を、感染終息後も継続して延長しており、集会禁止などデモ封じ込めを狙ったものと見られています。

 

****新型コロナ対策で発令中のタイの非常事態宣言、8度目の延長…デモ抑え込みも意図か****

タイ政府は23日、新型コロナウイルスの感染対策として全土に発令中の非常事態宣言について、来年の1月15日まで約1か月半延長することを閣議決定した。今年3月に発令された非常事態宣言の延長は、これで8度目となる。

 

非常事態宣言に基づき、タイでは一時、夜間外出禁止や国際線の乗り入れ停止などの措置が取られたが、現在は国内の感染拡大が抑えられていることから、こうした措置は解除された。集会禁止などの措置は続いている。

 

年末年始には多くの人が集まって新年を祝うため、感染が再拡大する恐れが背景にある一方、タイでは学生らによる反政府デモが続いており、非常事態宣言の延長でデモを抑え込む意図もあるとみられる。【11月23日 読売】

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そうした非常事態宣言下でも抗議行動は続いていますが、11月17日には“タイのデモで40人超負傷、警察が放水銃や催涙弾 銃撃も”【11月18日 ロイター】と荒れた展開に。

 

後日の情報では、この日のデモ隊と警察・王室支持派による衝突で55人が負傷し、うち6人が何者かに銃撃されていたことも判明しています。

 

一方、国会で審議されていた、デモの若者らが求める王室改革案は否決されました。

 

****反政府デモ広がるタイ、7つの改憲案を採決 王室改革含む案は否決****

 タイの国会は18日、憲法改正に関わる7つの案について採決を行い、このうち2つを承認した。一方で王室改革を含む案は退けられた。タイでは軍事政権に抗議する全国規模のデモが激しさを増している。

 

若年層が主導するこれらのデモは過去5カ月間にわたって定期的に行われ、2014年の軍事クーデターで政権についたプラユット首相の退陣や国会の解散、憲法の改正などを求めている。

 

デモの参加者はこのほか、長年タブー視され犯罪に問われる可能性もある王室の改革も訴える。国王の権限の縮小を求めるこうした声は、王室に異を唱える動きとしてこの数十年で最も大きなものとなっていた。

 

採決の前日の夜には、首都バンコクにある国会議事堂の外でデモ参加者が警官隊や王室擁護のグループと衝突。催涙ガスや放水銃が使用される事態となった。

 

18日になると警察は実弾を発射したことも確認し、少なくとも2人が撃たれたと明らかにした。初めて実弾が使用されたこの時のデモでは55人が負傷した。

 

採決にかけられた7つの案のうち王室改革に関するものは1つのみで、現行の憲法を破棄したうえで、王室の章を含む新たな憲法を起草するという内容だった。

 

承認には国会議員の半数以上と上院議員の3分の1以上の賛成票が必要だったが、実際の賛成票は国会議員732人中の212票にとどまった。【11月19日 CNN】

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これに対し、デモ隊側は18日には“デモ隊、警察本部にペンキまく=「放水・催涙弾への報復」―タイ”【11月19日 時事】と行動をエスカレートさせています。

 

【首相 不敬罪の「刑法112条」適用をちらつかせる】

それに伴い、政府対応も硬化の様相。

 

****タイ首相、抗議者にあらゆる法律適用と表明****

タイのプラユット首相は19日、首相更迭や憲法改正、王室改革を要求する抗議者に対し、あらゆる法律を適用して措置を講じると表明した。

タイでは前日、首都バンコクの警察本部前で数万人が抗議活動を繰り広げ、本部の敷地内にペンキをまき散らすなどした。17日のデモで警察の催涙弾や放水銃などによって数十人が負傷したのに続き、議会でデモ隊側が求める国王の権限見直しにつながる可能性があった憲法改正案が否決されたのを受け、怒りの声をあげた。

プラユット首相は声明で「状況は改善しておらず、暴力がエスカレートするリスクがある。対応しなければ、我が国や愛すべき君主制がダメージを受ける可能性がある」と指摘。「政府は行動を強化し、あらゆる法律を適用して法に違反する抗議者に対する措置を講じる」と述べた。

王室侮辱罪を扱う112条がこれに含まれているかどうかは明らかではない。プラユット首相は、国王の要請で112条はしばらく適用されていないとこれまでに述べている。【11月19日 ロイター】

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「あらゆる法律を適用」という表明は、不敬罪を扱う刑法112条の適用を指すのでは・・・とも指摘されています。

 

政府のこうした厳しい方針に沿って、抗議デモに参加した高校生2人が訴追されています。

 

****タイ警察、抗議デモ参加で高校生2人を訴追へ****

タイ警察は20日、先月15日に非常事態宣言に違反して抗議デモに参加したとして、高校生2人を訴追する方針を示した。

2人は学生団体のリーダー。両親・弁護士を伴って取り調べを受けるという。先月15日の抗議デモには約1万人が参加した。

タイのプラユット首相は19日、首相更迭、憲法改正、王室改革を要求する抗議デモの参加者に対し、あらゆる法律を適用して措置を講じると表明していた。

訴追される15歳の高校生は、ロイターに「リーダーを逮捕しても、さらに数百人が立ち上がる。刑務所が足りなくなるだろう」とのメールを送信した。

学生団体は21日も抗議デモを予定しており、この学生もデモに参加する予定。訴追されるもう1人の高校生は17歳。(後略)【11月20日 ロイター】

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【その動向が注目される明日25日の大規模デモ】

緊迫した情勢が続くなかで、明日25日には王室財産管理局の前で大規模な抗議活動が予定されており、デモ参加者は国王が私的に管理している王室財産の返還を求める予定とのこと。

 

また、かつて軍事クーデターの引き金ともなった政治混乱の一方の当事者であるタクシン元首相支持の「赤シャツ隊」も抗議行動に参加する可能性も指摘されています。

すでに、黄色いシャツを着た王室支持派はデモ隊と小競り合いを起こしています。

 

タイの大規模デモは、かつて流血の事態となったことも度々あるだけに、その成り行きが注目されています。

 

****高まる緊張 タイ抗議デモ****

タイで7月から続いている反政府デモをめぐり、緊張が高まっている。警察は先週、デモ隊を鎮圧するために催涙弾を使用した他、刺激剤の入った水を放出。デモ隊6人が警官に撃たれた。

 

首都バンコクでは25日、大規模なデモが予定されている。長らく政情不安が続くタイの現状をまとめた。

 

■態度を硬化させるを強めるデモ隊

時には数万人が参加した4か月に及ぶデモで、参加者らは徐々に態度を硬化させている。デモの指導者らは、妥協するつもりはないと警告。少し前までは考えられなかった反王室スローガンや王室に対する侮辱の言葉も多く聞かれるようになっている。

 

一方、警察の機動隊は先週、デモ隊に対し強硬措置も辞さない構えを見せた。

 

今回のデモは学生主導で、ソーシャルメディアなどで幅広い支持を集めている。専門家らは10年前にバンコクで大規模なデモを展開した「赤シャツ隊」が今回のデモに加わる可能性も指摘している。

 

数か月にわたり続くデモの参加者らは、軍政下に制定された憲法の改正やプラユット・チャンオーチャー首相の退陣のみならず、これまでタブーとされてきた王室改革も求めている。

 

バンコクにあるチュラロンコン大学のシリパン・ノックスワン・サワディー教授は、デモ隊は王室改革を求めることでタブーを打ち破り、すでに新たな政治文化の出現を可能にし、タイの歴史上前例のない表現の自由を推し進めていると説明した。

 

■政府は「行き当たりばったり」

政府は7月に始まったデモに対し、慎重に対応している。緊急事態宣言を出しては撤回したり、デモの指導者らを逮捕しては釈放したりしている。

 

ナレースワン大学のポール・チャンバース氏は「デモが始まって以来、政府は行き当たりばったりの対応をしている」と述べた。

 

これまでのタイのデモとは異なり、今回のデモは都市部中流階級の若者が中心となっている。

 

2010年にバンコク中心部で起きた赤シャツ隊のデモでは、取り締まりの過程で90人が死亡した。当局は、国際的なイメージが傷ついたこのときの事態を繰り返さないよう警戒しているようだ。

 

ただし、最近になって政府は強硬な姿勢を強め、王室の名誉を傷つける行為を禁じる不敬罪の「刑法112条」をちらつかせ始めている。

 

■支持者らと交流する国王

今回のデモ以前は、マハ・ワチラロンコン国王が公の場に姿を見せることはあまりなかった。だが、最近は人前に頻繁に姿を見せるようになり、支持者らと交流し、タイ国民への「愛」を宣言している。

 

それでも、現国王が議論を呼ぶ存在であることに変わりはない。在位70年に及んだ父親のプミポン・アドゥンヤデート前国王のような絶大な人気を得るには至っておらず、王室の財産や軍の一部を直接自身のコントロール下に置くことで権力を強化しようとしている。

 

ワチラロンコン国王が、頻繁にドイツに滞在していることも問題となっている。さらに新型コロナウイルスの流行下で、国民のことを十分気にかけていないとの批判も上がっている。

 

■暴力的な結末に至るのか?

1970年代に2回、そして1992年と2010年に発生したタイのデモは、どれも流血の事態に終わった。このため専門家らは今回も同様の事態になることを懸念している。

 

チャンバース氏は「極右王室支持派団体」がすでに民主派のデモ参加者に嫌がらせをしていると指摘している。 【11月24日 AFP】

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デモでは「黄色いアヒル」が抗議のシンボルともなっており、一見するとユーモラスな雰囲気もありますが、その内情は「危険水鬼」に近づいているとも指摘されています。

 

****黄色いアヒル登場も…危険水域に入り始めたタイ反政府デモ****

反政府デモが続くタイの情勢が徐々に緊迫化している。11月17日にはデモ隊と警察・王室支持派が衝突し55人が負傷、うち6人が何者かに銃撃されていたことが判明した。

 

プラユット政権はさらなるデモの取り締まり強化を宣言し、不敬罪適用の可能性も浮上している。11月25日に予定されている大規模デモの行方が注目されている。

 

黄色いアヒルが「シンボル」に

11月18日、バンコク中心部で行われた反政府デモの会場に、巨大な黄色いアヒルのゴムボートが大挙して登場し注目を集めた。アヒルのゴムボートは数千人のデモ隊の頭上を波打つように移動し、多くの参加者を沸かせた。この黄色いアヒルはいまデモ隊の間で「抗議のシンボル」となっている。

 

きっかけとなったのは17日に国会議事堂前で行われたデモだった。警察がデモ隊に向けて放水車や催涙弾を使用した際に、参加者の一部がアヒルのゴムボートを盾代わりに使ったのだ。その様子がメディアやSNSで一斉に拡散すると、黄色いアヒルはデモ隊を守ってくれたヒーローとして称賛された。

 

この日からアヒルは「抗議のシンボル」となり、いまではデモ会場でアヒルを模したグッズを身につける参加者も増えている。

 

タイ情勢が徐々に緊迫化

こうした可愛らしいアヒルの姿とは対照的に、反政府デモを取り巻く状況は以前にも増して緊迫化している。

 

理由の一つはデモ隊に対する警察側の対応の変化だ。11月17日に国会議事堂前で開かれた集会では、デモ隊が国会に近づくためにバリケードを突破しようと試みると、警察側はすぐさま放水や催涙弾を使用した。

 

これまでのデモで警察側は放水等の対抗手段を取ることには抑制的だったが、この日はデモ開始から1時間もたたずに鎮圧のために強硬手段に出た。こうした行動の変化は、治部隊側が従来の抑制的な方針を転換した可能性を示している。

 

また王室支持派による抗議活動も緊張の激化に拍車をかけている。国会前のデモでは、黄色いシャツを着た王室支持派とデモ隊による小競り合いが発生し、双方がペットボトルを投げ合うなど一時騒然とした。

 

また、デモ隊と警察・王室支持派による衝突で55人が負傷し、うち6人が何者かに銃撃されていたことも判明した。この負傷者数は、一連の抗議デモでは最悪の被害となった。

 

デモ隊側も徐々に行動をエスカレートさせている。警察がデモ隊に向けて放水をした翌日の18日、数千人のデモ隊が報復として警察本部の建物を取り囲み、看板や壁にペンキを投げつけた。また外壁にもカラースプレーで抗議のメッセージを書き込んだ。

 

さらにデモ隊の一部は、警察本部だけでなく、付近の道路や横断歩道、鉄道の高架橋の柱、寺院の壁にも抗議の落書きをした。ワチラロンコン国王の母親であるシリキット王太后の肖像写真の前に、王室を侮辱する言葉を書きなぐった参加者もいた。

 

王室批判禁じる「不敬罪」復活か

抗議行動が過熱したのを受けて、政権側はデモの取り締まり強化を宣言した。プラユット首相は19日、声明で「政府が真剣に平和解決を模索してきたが、事態は一向に収束する気配を見せない」とデモ隊を批判した。

 

その上で、デモが暴力に発展して国家と王室を傷つけるおそれがあるとして「あらゆる法律を適用し、違反する抗議者に対する措置を講じる」と牽制した。タイ国内では、これが不敬罪を扱う刑法112条の適用を指すのではないかとの憶測が広がっている。

 

タイには不敬罪(刑法112条)が存在し、国王や王妃などを中傷・侮辱したと判断されると最高で15年、最低でも3年の禁固刑が科される可能性がある。最近は不敬罪による逮捕・起訴はほとんどなく、プラユット首相は過去に不敬罪について、ワチラロンコン国王の要請で適用されていないと述べていた。

 

それが一転、不敬罪適用への具体的な動きが始まっていて、バンコク首都圏警察は刑法112条に関する捜査を担当する委員会を立ち上げた。デモ隊側は、不敬罪が王室に関する議論を制限しているとして撤廃を求めている。

 

首相による声明発表の翌日、反政府デモに参加していた一部のグループが次回以降のデモに参加しないと表明した。グループは、デモで度々取り上げられる王室批判は受け入れられるものではなく、またデモ隊が警察本部にペンキを投げつけたのも過剰な行為だと批判した。これらのグループの一時撤退は、不敬罪適用への警戒心の表れとみられている。

 

一部に離反の動きはあるものの、デモ隊側に攻勢を弱める気配は見られない。11月25日には、バンコクの王室財産管理局前で再び大規模デモを行い、国王が私的に管理している莫大な王室資産の返還を求める計画だ。一方で王室支持派も同日にデモを開催すると発表していて、再び衝突が起きる懸念も出ている。

 

反政府デモ隊とタイ政府当局、王室支持派による一触即発の状況が今後も続く。【11月24日 FNNプライムオンライン】

*******************

 

デモ隊、当局側の対応、犠牲者の発生の有無、さらには政府の不敬罪・刑法112条の適用の有無など、ひとつの分水嶺ともなる可能性がある、明日25日の大規模デモです。

 

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ベトナム  相次ぐ技能実習生犯罪の背後に悪質ブローカーの存在

2020-11-23 22:46:55 | 東南アジア

(ベトナム北部の農村。実習生の多くはこうした地方の出身だ【11月22日 室橋 裕和氏 文春オンライン】)

 

【相次ぐ在留ベトナム人の犯罪】

10月末に、群馬県で家畜・果物などを盗み組織的に販売していたベトナム人グループが逮捕されました。

 

****家畜千頭を盗難…「群馬のボス」率いるベトナム武装集団の闇手口****

ベトナム人の窃盗集団による家畜盗難が相次いでいる。 10月26日、群馬県警は在留期限を超えたとして入国管理法違反で、自称カラオケ店店主レ・ティ・トゥアン容疑者(39)ら男女13人を逮捕した。

 

彼らが住んでいた太田市内の貸家2棟から、約30羽分の冷凍鶏肉を押収。トゥアン容疑者は「群馬のボス」というアカウントを持ち、SNS上でベトナム人の仲間を募集していた。

 

さらに同県警は、10月28日にカオ・スアン・トゥン容疑者(27)らベトナム人技能実習生の男4人を屠畜場法違反で逮捕したと発表。4人は太田市内のアパートで、豚を食肉にする目的で解体していたという。 

 

「(中略)彼らは、夜になると北関東を中心に徘徊。家畜や果物を盗んでいたとみられます。監視カメラの映像を分析すると、家畜を運ぶ者、見張り役、運転手と役割が明確に分かれていたようです。 

 

家畜の盗難は今年1月から目立つようになりましたが、被害が届けられたのは5月以降になります。中には、半年間で400頭の豚が盗まれた養豚場もある。警察は170人体制で、捜査に当たっていました」(全国紙社会部記者)

 

 家畜の盗難被害は、今年に入り群馬、埼玉、栃木、茨城の4県で22件にのぼる。被害総額は3000万円以上。群馬県だけで豚719頭、鶏144羽、ナシやブドウなどの果物約9000個が盗まれた。 

 

◆容疑者の部屋から漂う異臭 「近隣住民は、逮捕されたベトナム人の住む住宅から異臭がしていたと話しています。注意しても日本語が通じないようだったとか。家の外で肉を焼き、バーベキューをすることもたびたび。普段は夏でも窓を閉め切り、室内が見えないようにしていたようです。 

 

盗難の目的は、同胞への闇販売がひとつ。在留ベトナム人の数は、中国人、韓国人に次いで約33万人になります。とても強固なコミュニティを築いている。SNSなどによる連絡も密で、販売のマーケットが形成されているんです。今回もコミュニティを利用して、盗んだ家畜を解体し宅配便で日本に住むベトナム人に送っていたとみられています」(同前) 

 

コロナ禍で働き口がなくなり、食うに困っている外国人労働者が増えている。外国人技能実習生のあまりにひどい待遇なども近年問題になっている。盗難事件には、こうした背景があることにも目を向けなければならない。 

 

ただ、どうも本件は様子が違うようだ。警察が押収した中に、肉や果物の他にも危険物が混じっていたのである。 「牛刀の他、モデルガンや金属バット、模造刀も押収されたんです。

 

この容疑者たちは窃盗を繰り返すグループだっただけでない。トラブルになれば、モデルガンや金属バットで、養豚場のスタッフなど一般人に危害を加える恐れもあったでしょう。

 

SNSを駆使し、見張り役など役割万端をするなど手口も巧妙。北関東の広い範囲に土地勘もあるため、バックに日本人がいる疑いも強くなっています」(北関東の地元紙記者) 

 

続発する家畜の盗難。今回逮捕されたグループは、氷山の一角なのかもしれない。【11月4日 YAHOO!ニュース FRAIDAY DIGITAL】

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【調整弁として新型コロナ禍で職を失う外国人労働者】

このグループの行為は組織的犯罪行為そのもので、かつ、より暴力的な犯罪に至る危険性もあったようです。

 

もっとも、一般論で言えば、「凶悪な外国人による犯罪」というだけではなく、背景には多くの外国人をそうした世界に追いやる技能実習生制度の問題、更に新型コロナ禍による困窮という問題が存在していることもまた事実です。

 

新型コロナ禍でもとから不安定だった外国人労働者の生活は、一層困窮を深めています。

ベトナム人に限った話でもありません。

 

****外国人、暮らせない フィリピン人76人解雇 三重****

三重県多気町にあるシャープ三重工場で、派遣されて働いていたフィリピン人ら93人が15日付で解雇された。派遣など「非正規」と呼ばれる人や外国人など、雇用環境が不安定な人への新型コロナウイルス不況の影響が深刻化している。

 

労働組合「ユニオンみえ」によると、解雇された93人は、三重県松阪市にある下請け企業から派遣され、液晶パネルの生産にあたっていた。「業績悪化」を理由とする解雇通知は10月14日付で、うち76人がフィリピン人という。

 

「家族への仕送りもできなくなる」「16年間も働いた。どうして解雇なのか」

今月12日、津市内の施設で、フィリピン人労働者が県の雇用対策などの担当者に次々と不安を訴えた。(中略)

 

厚生労働省によると、外国人労働者は、2019年10月末時点で過去最多の約166万人に上った。新型コロナの影響による解雇や雇い止め(見込みを含む)は今月6日時点で7万242人。同省は国籍を「把握していない」としている。【11月16日 朝日】

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雇用の調整弁として、真っ先に外国人労働者が失業を余儀なくされるというのは日本だけでもないでしょうが、それを放置すれば、冒頭のベトナム人グループような犯罪も多発しますし、人道上の観点、あるいは長期的にみて人材を確保するという経済的側面でみても改善が求められます。

 

現在は、失業して帰国したくても航空便の減便や運賃高騰で帰国できないという事情もあります。

 

【そもそも問題が多い技能実習生制度】

やはり、多くの者が日本で働く中国のメディアも、日本の技能実習生制度の問題を指摘しています。

 

****日本でのベトナム人犯罪は「問題ありすぎの技能実習制度のせい」―中国メディア****

中国メディアの中国新聞社は1日、海外華字メディアとの協力媒体である華輿を通じて、日本で発生したベトナム人による犯罪の背景には、問題が多すぎる日本の外国人に対する技能実習制度があると論じる記事を発表した。

記事はまず、埼玉県、栃木県、群馬県で10月末までに発生したベトナム人による家畜などの大量盗難事件を紹介。

 

ベトナム人が犯罪に手を染めるに至った経緯については、技能実習の期間が終わり帰国するはずだったが、新型コロナウイルス感染症のために多くの航空便が運航を取りやめ、航空運賃が高騰したために日本に留まらざるをえなくなった。しかもコロナの影響で解雇されてしまったため、家畜類を盗み、一部は自分らで食べ、一部はネットで販売したと、ベトナム人側に同情的な論調で報じた。

日本の行政側の動きについては、コロナの影響で解雇されたり、航空便が減らされたことで帰国できない技能実習生が新たな職場で働くことを認めたなどと紹介。行政側の措置は「人道的であることは確か」などと一定の評価をした。

ただし、技能実習生の制度そのものに対しては、外国の労働力が先進的な技術を取得することを助け、母国の発展を支援するための制度として設けられたと紹介した上で、「良い政策だが効果を上げているとは言えず、実際には往々にして安価な労働力を獲得するための手段になっている」と批判した。

また、日本が2019年4月に「特定技能」と称して新たな在留資格を認めたことは、農業や介護など少子高齢化による人手不足に対応するためと紹介。さらに、「特定技能第1号」として在留資格を取得して来日した外国人が20年6月末までに累計5950人だったのに対して、日本政府が予定している技能実習生の24年末までの目標人数が34万5000であり、「特定技能」の受け入れは明らかに少ないと論じた。

記事は、外国人労働者の問題に詳しい日本人弁護士の話を引用して、日本政府はコロナの影響に伴って柔軟な対応したが、あくまでも応急措置であり抜本的な対策ではないと指摘。同弁護士の「日本政府は将来、技能実習制度を根本的に廃止すべきであり、特定技能による在留資格認定制度を完成させるべきだ」との主張も紹介した。

記事は、一連のベトナム人による犯罪は、技能実習制度における問題の「氷山の一角が露呈したものだ」と批判した。【11月2日 レコードチャイナ】

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実質的に単純労働者確保手段となっている技能実習生制度の問題は従前から繰り返し指摘されているところで、あとは行政・政府にやる気があるのかどうか・・・というところです。

 

【跋扈する悪質ブローカー】

下記のような受け入れ側、あるいは送り出し側の問題も以前から指摘され、「常識」ともなっています。

にもかかわらず改善が進まないということは、行政・政府にやる気がないと考えざるを得ません。

 

それで問題が起きたら「悪質な外国人」のせいにする、あるいはそういう世論を黙認するというのでは、やはり批判は免れないでしょう。

 

****相次ぐベトナム人犯罪のなぜ? 「ひとり月500円」「性接待も日常的」……実習生送り出し機関の“悪質な手口”****

ベトナム人による犯罪が相次いでいる。その背景だと語られるのは彼らの労働環境の劣悪さだ。

 

しかしもうひとつ、実習生を送り出してくるベトナム現地機関にも悪質なものが多いことはあまり知られていない。ベトナム人経営の送り出し機関が、同じベトナム人を搾取し、そこに日本人が寄生しているという図式があるのだ。

◆ ◆ ◆

「まず一度、ベトナムに行ってみませんか?」 人手不足に悩む地方の中小零細企業、とくに建設関連の会社を回っているブローカーは、まずこう切り出すという。


「技能実習生の候補生たちが日本語を学んでいる現場を見てから、彼らを雇うかどうか決めてはいかがでしょう。もちろん渡航費用はこちらでお出しします」

 

そう誘われて、企業の担当者はそれまで縁もなかったベトナムに向かうことになる。同行するのは営業をかけてきた「紹介会社」などと称する日本人ブローカー、それに地域にある実習生受け入れの組合(監理団体)の日本人担当者だ。

 

監理団体は英語でいうとアクセプト・オーガナイザー、つまり受け入れ機関だ。この団体が、ベトナム側にあるセンド・オーガナイザー、つまり送り出し機関を通じて、技能実習生を受け入れ、各企業が雇う。送り出し機関はベトナム人の経営だ。

 

技能実習制度は「海外の送り出し」と「日本の受け入れ」双方があって成り立つものなのだが、そこに悪質なブローカーが寄生していることがベトナムの場合、非常に多い。

 

そんなブローカーの営業を受けて実習生の導入を検討し始めた企業の担当者は、ベトナムに到着すると、流暢に日本語を話す送り出し機関のベトナム人に出迎えられる。クルマはたいてい、アルファードかヴェルファイア。まず向かうのは「日本語センター」などと呼ばれる学校だ。送り出し機関はたいてい日本語学校を兼ねているが、やはり悪質なところもかなり混じっているという。

 

「性接待」も日常的…送り出し機関“ベトナムツアー”の実態

教室をのぞいてみれば生徒たちがいっせいに立ち上がり、「ようこそお越しくださいました! いらっしゃいませ! 私たちは日本の技術を学びたいです! 一生懸命がんばります!」 などと、日本語で声を合わせて唱和する。

 

(中略)校内を回った一行が、校長室や応接室で次に見せられるのは、山のような日本語検定の合格証の束だ。日本語能力試験(JLPT)、日本語NAT-TEST……どれも高得点で生徒たちの優秀さをアピールするが、

 

(中略)偽造である。ろくに日本語を教えず、書類だけ偽造している送り出し機関が多いのだが、それに気づかず企業の担当者はいたく感心して宿泊先のホテルへと案内される。そこにベトナムの美女たちが待っているのもよくある手口だ。

 

「好きな子を選んでください」と迫られ、きっぱり断れる企業担当者はあまりいないという。こうして夕食まで2時間ほど、計算されたように空いた時間を部屋で楽しむことになる。その後の夕食や飲みの席は、女性がかいがいしく担当者を世話する。

 

「うちはひとりアタマ月500円でいいですよ」

(中略)実習生を受け入れる企業は、監理費という形で、実習生ひとり当たり毎月2〜5万円を組合に払う必要がある。このうち一部は送り出し機関にも還流されていく。もちろん話を仲介したブローカーも「分け前」にあずかるのだが、

「うちはひとりアタマ月500円でいいですよ」 などと、極めて良心的なことを言う。監理費や、実習生来日後の研修費などを含めても、日本人を雇うよりはるかに安い。

 

こうして大満足の視察を終えた担当者は、社長に報告をするのだ。ベトナム人は失踪や犯罪のイメージがあるかもしれないが、私が行った学校の生徒はとても優秀であいさつもしっかりしていて、費用も安いし……。

 

「じゃあ、20人ばかり入れてみるか」 こうして、送り出し機関とブローカーの巧みな連携で、日本語能力の低い実習生たちが次々と入国してくることになる。

 

親の土地や田畑を担保に借金を負う実習生たち

ブローカーはもちろん、実習生ひとり当たり月500円の利益で満足しているわけではない。

 

ベトナム人実習生が日本に旅立つまでの費用は、健全な送り出し機関の場合60〜70万円といわれる。日本語学習や、そのための寮生活、食費、パスポートの取得代金、役所での書類手続きといった費用だ。ちなみにインドネシアやラオスの場合は30万円ほど、ネパールは50万円前後といわれる。物価や、その国の役所の「取り分」によってもさまざまだ。

 

しかしベトナムでブローカーが絡んだ場合、その額におよそ80〜100万円が上乗せされて、送り出し機関から実習生へと請求される。

 

「実習生を目指すのはほとんどが、地方の農村の子たちです。もちろんそんなお金は払えない。そこで借金ということになるのですが、送り出し機関を経営するベトナム人は、元銀行員など金融関連の職歴を持った人が多いのです」(Tさん)

 

彼らのツテでブローカーの利益も含めた150〜200万円ほどの借金を負うことになるのだが、その場合に担保となるのは実習生の実家の土地や家、田畑、それに両親の生命保険だ。

 

「加えて高額な金利が課されます。まともな送り出し機関であれば年利5%ほどですが、悪質な送り出し機関は20%を超える年利を要求してくる」(Tさん)

 

ほかに借りる当てもないし、そもそも地方の農村で暮らしていた実習生もその家族も、あまり知識を持ち合わせていない。スマホは持っていてもSNSと動画サイトくらいで、なにかを検索して調べようというリテラシーにも乏しい。

 

そういう層にあえて営業をかけて「人買い」をしているわけだが、そのため実習生も「なにかおかしい」と薄々感じていながらも、借金の契約を交わしてしまえばもう日本へ行くしかなくなる。

 

失踪、犯罪へと追い込む仕組み

ベトナム人実習生を受け入れた担当者は、はじめの1か月ほどは彼らの真面目な働きぶりに安心して、胸をなでおろすのだ。

 

ところが、2か月目には休みがちになる。無断欠勤が目立つようになる。3か月も経つとそれが常態化し、パチンコを覚えて入り浸る者も出てくる。やがて寮の部屋はもぬけの殻となり、失踪してしまう。典型的なパターンだが、実習生は担当者の陰で送り出し機関の金利がどれほどにきついものか、日本で働き返済を始めてようやく気がつき、絶望するのだ。

 

もちろん日本側の企業が、残業代の不払いや寮費のピンハネなどあの手この手で最低賃金の実習生を食い物にしている実態もあるのだが、加えて送り出し機関の金利が彼らを圧迫する。これはちょっと返せないと感じ、無気力になり、労働意欲を失う。逃亡する。

 

焦った担当者は送り出し機関の窓口ともなっているブローカーに連絡をするが、親切だった態度は一変し、

「うちは500円しかもらってないんですよ。それでどうしろって言うんですか。それより、まだまだ生徒はいますから、次の入れましょうよ。何人ですか」 とあしらわれるのだ。

 

それならこちらは組合や警察、入管にも相談をすると返すと、スマホに送られてくるのは、あのとき一夜をともにしたベトナム女性との密会の様子、いわゆる「ハメ撮り」の写真だ。

 

愕然とした担当者は、社長や組合、入管に頭を下げ、自分の管理不行き届きだと謝罪し、話はうやむやとなり、もうベトナム人は懲り懲りだ、となる。ブローカーや送り出し機関に累が及ぶことはない。(中略)

 

借金を背負った実習生のリストが出回っている

実習生たちは、あてもなく逃げるわけではない。

 

日本で知り合ったベトナム人や、同じ元実習生に誘われて、さまざまな仕事に就いていく。在留カードを偽造して、ベトナム人経営の会社に潜り込んでいるケースもあるし、いま問題になっているように窃盗団や薬物売買の組織に取り込まれることもある。

 

というのも、実習生が日本に着いたときから、いやベトナムで借金をしたときからすでに「これだけの額を借りている人間が、この県のこの会社で来月から働く」といった情報、リストが出回るのだ。これは送り出し機関のベトナム人から、日本に住みグレーあるいはブラックな仕事をしているベトナム人に流され、活用される。

 

「来日間もないうちから、金利と低待遇にあえぐ実習生に近づき、親密になるベトナム人が必ずいるものです。仕事を放棄し、失踪する実習生はほとんど、こうした連中の誘いに乗ったものです」(Tさん)

 

借金を背負わされ、犯罪へと追い立てられ、分かり切った結末に追い込まれていく。ベトナム人の犯罪が多発している要因はここにある。その絵図を描いているのは同胞のベトナム人と、実習生を奴隷としか見ていない日本人だ。

 

自らを搾取した送り出し機関に就職する実習生も

「ベトナムには300〜400の送り出し機関があると言われますが、そのうち半数くらいは悪質なブローカーが関与しているように思います」(Tさん)

 

こうした厳しい搾取を乗り越えて、借金を返済し、3年間の技能実習を無事に終えて帰国する優秀なベトナム人もいる。日本語や日本で学んだ技術を活かしてステップアップしていくケースもあるのだが、「目立つのは送り出し機関に就職するパターンです」(Tさん)

 

今度は自分が流暢な日本語で、日本の中小企業の人事担当者を出迎える立場になるのだ。借金を背負わされた側が、借金を背負わせる側へと回る。そんな負のスパイラルがある。

 

技能実習制度という制度そのものを根本から見直し、悪質な送り出し機関やブローカーを排除する仕組みを作る必要がある。でなければ、ベトナム人による犯罪が日本ではこれからも増えるし、搾取されるベトナム人も減ることはないだろう。【11月22日 室橋 裕和氏 文春オンライン】

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中国の「日本街」 両国民感情・相互理解の改善に資するなら「いいんじゃない?」

2020-11-22 22:27:49 | 中国

(【9月28日 Searchina】 オープン直後の広東省佛山市の「日本街」)

 

【悪化した日本の対中国感情 中国側の対日本感情には大きな変化なく、改善貴重維持か】

新型コロナによって日中間も国民レベルの往来が途絶えていますが、相手国に対する国民の好感度は、日本の対中国が尖閣諸島周辺の問題もあって悪化したのに対し、中国側の対日本はあまり変化しておらず、依然「改善基調」にあるとも考えられます。

 

****中国の対日感情が改善基調 日本の対中感情は悪いまま 言論NPO世論調査****

非営利団体「言論NPO」(工藤泰志代表)と中国国際出版集団は17日、第16回日中共同世論調査の結果を発表した。

 

相手国の印象が「良くない」(「どちらかと言えば」を含む、以下同じ)との回答は、日本側が89・7%で昨年の前回調査から5ポイント増えた。中国側は同0・2ポイント増の52・9%だった。

 

日本で対中感情は依然悪いままだが、中国での対日感情は改善基調にあり、日中間の温度差が浮き彫りになった。

 

印象が良くない理由を複数回答で尋ねたところ、日本側の最多は「尖閣諸島周辺の領海・領空をたびたび侵犯しているから」の57・4%で、中国側は「侵略した歴史をきちんと謝罪し反省していないから」の74・1%だった。

 

相手国の印象が「良い」との答えは、日本側が10%で過去4番目の低さだったが、中国側はほぼ横ばいの45・2%だった。

 

軍事的脅威を感じる国・地域の回答は変化が見られた。中国側では前回調査で日本が最多の75・3%だったが、今回は47・9%と大幅に減少。米国が84・1%で最多になり、米中対立が影響した可能性がある。日本では中国が63・4%で前回より5・6ポイント増えた。

 

調査は9月12日〜10月16日、日中両国の18歳以上の男女を対象に実施。日本は1000人、中国は1571人が回答した。【11月17日 毎日】

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【広東省佛山市の「日本街」に当局が改善命令 日本側の批判が原因とも】

中国国民の日本に対する関心の高さをうかがわせるニュースは多々ありますが、その一つが、中国に出現した「日本街」

 

日本の街を模した「日本街」はいくつかあるようですが、日本で話題になったのは広東省佛山市の「日本街」。

 

日本に対する関心が高い、近年日本社会へのいろんな面での評価が高くなっている、コロナ以前は日本への旅行者が急増し、日本への印象もかなり良い・・・とは言っても、難しい歴史問題も抱えている日中ですから、そんな「日本街」を大ぴらに作って大丈夫なのか?という疑問も。

 

広東省佛山市の「日本街」対しては、当局の改善命令が出されています。「やはり・・・」といった感も。

 

****広東省の「日本街」に改善命令 看板の撤去が命じられる=中国****

中国各地で「日本街」が誕生しており、中国のSNSでも「日本街」で撮った写真が話題を集めている。そんな中、広東省に最近誕生した「日本街」にオープンから二カ月ほどで動きがあったようだ。

テンセントに掲載された記事はまず、広東省佛山市の「日本街」のオープン直後の状況について取り上げている。

 

「一番街」と命名された通りに、日本の映画館やダンスホールやレストランを模倣したと思われる看板がところ狭しと並んでいる。店名もユニークで「毛利探偵事務所」や「藤原とうふ店」など、中国でも人気の日本のアニメ作品を模倣したと思われる表示が並んでいる。

 

また、実物の日本のタクシーが道路に駐車されており、日本の公衆電話などもある。こうした「日本街」の外観がアニメ好きの若者の人気を集め、SNSを中心に瞬く間に広がり、話題となっていた。

ところが、オープンからわずか二カ月後、この街に対し「改善命令」が出された。日本のアニメなどを単に模倣した看板や店名などを全て変えるようにと当局から指示が出たのだ。「一番街」という通りの名前すらも変えるように指示され、すでに「一番街」の看板には覆いがかけられている。

こうした当局による動きに対し、中国メディアは「ネットでは、世界中に中国を模倣した“中華街”が多数あるのに、なぜ“日本街”だけが目の敵にされるのか理解できない」と不満の声が上がっている。

 

「日本文化が好きな人々が中国に相当数いる中、日本街が中国各地で誕生することは不思議ではない」とまとめている。【11月20日 Searchina】

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当局が「改善」に動いたきっかけは、日本側の中国嫌いかつ偏狭なネット民が騒いだことにあるとの指摘も。

もし、そういう話なら、下記記事表題にもあるように、せっかくの日中交流の機会を潰してしまった「残念」なことと言うしかありません。

 

****残念・・・日本で取り沙汰されたことで崩壊した「日本一番街」=中国メディア****

中国のポータルサイト・百度に18日、「広東省仏山市に登場したネットの人気スポットが、日本メディアに取り上げられたことで潰れてしまった」とする記事が掲載された。

記事は、現在中国では「網紅経済」が盛んになっており、各地で写真や動画を撮影してSNS上に掲載するための人気ストリート、人気スポットが続々と誕生していると紹介。

 

香港の古い町並みを再現した通りや、ドイツ、イタリアの伝統的な欧州建築を模した場所などに人気が集まり、多くの男女がやってきては写真を撮る様子を日常的に見かけるとした。

そして、広東省仏山市に出現して短期間のうちに注目を集めた「日本一番街」もその一つであると説明。全長200メートルほどの短い通りの全体が日本風の装飾で埋め尽くされており、道路標識やバス停、ポストなど細部にまでこだわって再現されていたことから多くの若者、日本のマンガ・アニメファン、コスプレ愛好家が続々と現地を訪れていた紹介した。

一方で「有名になると面倒なことになる」とし、「日本一番街」が日本のメディアによって大きく紹介されると、日本のSNS上では「版権の侵害だ」「中国人によるパクリだ」などと批判が噴出、オープンしてしてわずか2カ月余りで通りの「改造」を余儀なくされ、日本の繁華街を模した看板や造形物が撤去されたり、覆い隠されたりして、日本テイストが瞬時のうちに消えてしまったと伝えている。

記事はその上で、多くの中国のネットユーザーがこの件について「日本文化が中国でも人気があることを示すものであり、非難するほどのことではないじゃないか」と不満をこぼしたとした。



「日本一番街」が取り沙汰されたのは、看板などに日本のマンガ・アニメ作品のタイトルや決め台詞が書かれていたことによる版権の問題が大きいと思われる。

 

では、もし「日本一番街」に版権を巡る議論が起きるような文言が並んでいなかったら、問題視されなかっただろうか。それでも日本のSNS上では「日本の街をパクった」と茶化し、非難する声が大きかったかもしれない。

 

今回の「日本一番街」を巡る日本の報道は、「中国人がまた変なもの、怪しいものを作った」という視点に終始した印象を覚える。

 

中国で版権や著作権に対する意識がまだまだ浅いことは否定できず、「ダメなものはダメ」と言う必要があることはもちろんだが、同時に「これだけ多くの中国の若者が、日本の街や文化に興味を持ってくれている」と考えることも大切なのではないだろうか。

昨今、中国では「日本街」や「和服」が歴史問題に絡んで激しい非難を受けるケースがしばしば生じている。そんな中でも、「いいものはいい」と日本の文化に親しみ、「推し」てくれている人たちを大事にすべきだろう。【11月20日 Searchina】

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日本側の反応は「ケツの穴が小さい」感じも。

 

【両国民の理解・親近感を深めるものとして「いいんじゃない?」】

上記の広東省仏山市「日本街」に改善命令が出たことで、日本との微妙な関係を踏まえて、他の「日本街」、例えば蘇州のものなどがどうなるのかも話題になっています。

 

日本を模するなんてけしからんという声もあるようですが、中国メディアには「いいんじゃないか?」という論調もあるようです。

 

****中国の「日本街」 文化交流のためなら何の問題もない!=中国メディア****

SNSなどを中心に中国各地の「日本街」が話題になっている。さらに、広東省の「日本街」には当局による「改善命令」などが出され、ネット上でも論議を呼んでいる。

 

こうした状況を受けて、中国メディアの百度は、「蘇州の“日本街”は文化交流のため? それとも歴史を忘れてしまったから?」と題する記事で「日本街」を擁護する記事を掲載している。

 

記事は、蘇州にある「日本街」について取り上げている。この日本街はもともと蘇州駐在の日本人向けに造られた。その後、ネットを中心に人気になり、まるで日本のような景観から「日本街」と呼ばれるようになった。

 

最近では、この場所で浴衣や下駄をはいたコスプレをして写真を撮る若者が表れ始め、話題になっている。さらに、最近こうした「日本街」に対し批判的な声が上がっている。

 

記者もこの日本街に行ったことがあるようで、「日本風の居酒屋や焼き鳥屋の看板が並ぶこの通りを歩いていると、まるで大阪にいるような錯覚を覚える。しかも、着物のコスプレをした男女が歩いているのを見ると、何とも言えない不思議な気持ちになる」と、この蘇州の日本街に対して肯定的なコメントを述べている。

 

さらに、この「日本街」に対して批判的な意見があることにも触れつつ、記者は「海外の文化を理解することは何も悪いことではない。中には、日本と中国の歴史を忘れてしまったのか、との声も上がっている。でも、そういう人たちは現在中国で毎年ハロウィンやクリスマスが行われていることを忘れてしまったのだろうか。問題なのは、海外の文化によって、自国の文化が失われ、踏みにじられてしまうこと」と述べている。

 

つまり、「中国の文化を第一にし、他の国の文化も知るような姿勢があるなら、“日本街”は何の問題もない」との意見を掲載している。【11月21日 Searchina】

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****騒動呼んだ蘇州の「日本街」、文化交流の観点から見れば決して悪いものではない=中国メディア****

(中略)一方で、より「日本化」したこの街が注目を集めると同時に、その是非を巡る議論も巻き起こったとし、多くのネットユーザーが「日中間には忘れ得ぬ歴史があるのに、国内にこのような日本テイストに満ちた通りを作るというのは、風刺以外の何物でもない」との認識を示していることを伝えた。

記事は、「日本街は文化の交流か、はたまた悲痛な歴史の忘却なのか」とした上で、文化交流の観点から見れば、日本に行ったことがない中国人が日本を知り見識を深めることができる場所であり、決して悪いことではないとしつつ、「革命烈士に対するリスペクトに欠ける」との意見もあると紹介。

 

その是非については一概に決めることはできず、それぞれの考え方があって然るべきだとする一方で、「外国の文化を学ぼうとする姿勢は悪くない。ただ、1人の中国人として、われわれはまず自国の文化を一番として認識する態度を持つべきではないだろうか」との考えを示している。【11月22日 Searchina】

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せっかくなら、日本資本で、本当の日本を感じられる「日本街」を作れれば、そこで多くの中国人が遊び、日本的なものへの理解・親しみが増すような「街」が出来たら一番いいと私は思うのですが。

 

 

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アゼルバイジャン・アルメニアの停戦 係争地の帰属も住民の遺恨も将来に持ち越し

2020-11-21 23:20:23 | 欧州情勢

(14日、引き渡しが決まったアルメニアの実効支配地で燃え上がる住宅。退去する住民らが自宅に火を放っている=AFP時事【11月20日 朝日】)

 

【プーチン大統領 最終的な帰属は将来の指導者で】

ナゴルノ・カラバフ地域の支配圏をめぐる(ロシアと同盟関係にある)アルメニアと(トルコが支援する)アゼルバイジャンの争いが、アゼルバイジャンの「実質的勝利」で“とりあえず”停戦したことは報道のとおり。

 

ただ、アルメニア人が居住するアルメニア側の支配地域は依然として残存しており、その帰属が明確になった訳でもありません。

 

****ナゴルノの帰属、確定を先送り 紛争仲介のロシア大統領****

ロシアのプーチン大統領は17日、係争地ナゴルノカラバフを巡るアゼルバイジャンとアルメニアの停戦合意に絡み、ナゴルノカラバフの帰属を巡る最終的な地位を確定するのは将来の指導者だとし、現時点では「現状維持」で合意したと語った。国営ニュース専門テレビ「ロシア24」のインタビューで述べた。

 

プーチン氏は9日にロシアを交えた3カ国合意を仲介した。合意では停戦のほか、一部アルメニア占領地のアゼルバイジャンへの引き渡しや、ロシア軍の平和維持部隊派遣が盛り込まれたが、ナゴルノカラバフの帰属には触れていなかった。【11月18日 共同】

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プーチン大統領は“アゼルバイジャンとアルメニアの関係修復に向けた環境づくりが紛争地帯を中心に進めば、帰属問題の解決に向けた環境も整っていくと訴えた。”【11月18日 時事】とのことですが、かなり絵空事にも似た響きも。

 

【ロシアがなぜ介入しなかったのか?】

今回の紛争に関しては、「ロシアがなぜ介入しなかったのか?」という疑問も。

ロシアは、アルメニア本土が攻撃されれば同盟国として介入・防衛するが、ナゴルノ・カラバフ地域はその対象外だとの立場をとっています。

 

****ロシアはなぜ積極的に介入しなかったのか?*****

ナゴルノ・カラバフ紛争をめぐっては、90年代の衝突と今回ではロシアの立ち位置が変化したように見える。90年代はアルメニアを積極的に支援。

 

廣瀬さん(コーカサス情勢に詳しい慶應義塾大学・総合政策学部の廣瀬陽子教授)は「ロシアがアルメニアを支援したことが大きな原因となってアゼルバイジャンは負けた」と指摘する。

 

 

「90年代の紛争の時期に2代目大統領に就任したアゼルバイジャンのエルチベイは、徹底的な反ロシアの姿勢を貫き、それがロシアの反発を引き起こして、ロシアのアルメニア支援を決定的にしたという経緯がありました」

 

しかし、今回の紛争に関してはロシアが積極的に介入した形跡はみられない。実は近年、アゼルバイジャンとロシアの関係は大きく改善されてきているという。

 

廣瀬さんはその要因の一つとして「中国の台頭」を挙げた。

「ロシアとしても、アゼルバイジャンと友好関係を維持しておかないと中国の台頭に耐えられないという事情もあるんです。

 

中国は、一帯一路で中央アジアを含めてユーラシアを席巻していますが、それに対抗するために、ロシアはアゼルバイジャン〜イランを経由してインドに繋げる『南北輸送回廊』で対抗しようとしています。

 

ロシアにとってもアゼルバイジャンはすごく重要で、敵に回せない。アゼルバイジャンも今だったらロシアが武力介入しないという自信があったんでしょう」

このようにロシアはアゼルバイジャンと関係を回復した。一方で、同盟国であるアルメニアとの関係は険悪になっているという。

 

「両国は集団安全保障条約(CSTO)を結んでいるので、今回の紛争でロシアが参戦してもいいくらいでしたが、ロシアはかたくなに『アルメニア領で戦闘にならない限りは関与しない』と明言していました。

 

ロシアはパシニャン首相を『いつかジョージアみたいに親欧米になるんじゃないか?』と疑いの目で見ていたからです。パシニャン首相になってから、逆にアゼルバイジャンとロシアの関係が深まっていました」【11月21日 HUFFPOST】

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上記の「中国の影」を警戒したということもあるでしょうが、もうひとつは、やはり「トルコの影」でしょう。

“アゼルバイジャンを軍事支援するトルコとの直接衝突を警戒した。”【11月11日 産経】

 

中国の影響拡大、トルコとの直接衝突・・・といったリスクを考えれば、敢えて今、アルメニアを支援する火中の栗を拾うこともないとの判断でしょう。

 

当然ながら、切り捨てられたような形のアルメニア側には恨みも残ります。

 

【アゼルバイジャンは、どうして最終決着をつけずに停戦に応じたのか?】

もう一つの疑問は、「軍事的に優勢だったアゼルバイジャンが、どうして最終決着をつけずに停戦に応じたのか?」ということ。

 

上記地図でざっと見た感じでは、ナゴルノ・カラバフ地域の3分の2程度がアゼルバイジャン側にわたり、アルメニアに残るのは3分の1程度といったところでしょうか。

 

前出廣瀬氏は、問題を残した形にする方が権威主義体制アゼルバイジャン指導部には都合がよかった・・・と指摘しています。

 

****アゼルバイジャンにとって「戦争が完全に終わらない」方が都合がいい?****

11月10日の完全停戦の結果、古都シュシャを含む「ナゴルノ・カラバフ共和国」の実効支配地域の多くをアゼルバイジャンが奪還することになった。

 

廣瀬さんは、アルメニアにとって「間違いなく事実上の敗北」と指摘。その一方で、アゼルバイジャンとロシアにとっては望ましい結果になったという。

 

「アゼルバイジャンにとっては、全占拠地の奪還は成らなかったとはいえ、おそらく目標の多くを達成して、非常にいい形で終わったのだと思います。アルメニアは苦々しい気持ちしかないとは思いますが……。ロシアとしても望ましい結論でした。というのはナゴルノ・カラバフにロシアの平和維持部隊を置いて、アゼルバイジャンとアルメニア両国に睨みを効かせることができるようになったからです」

  

(中略)しかし、アゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフ全域を攻め落とすのではなく、アゼルバイジャン人の「心のふるさと」とされるシュシャを落とした段階で、矛を収めたのはなぜだろうか。廣瀬さんは「完全解決しない方が、アゼルバイジャンにとっても都合がいい」と指摘する。

 

「確たる証拠はありませんが、今回の紛争再燃でのアゼルバイジャン首脳陣の目的は、シュシャという『シンボリックなところを奪還する』ことであり、『ナゴルノ・カラバフ問題の全面解決』は目的ではなかったと、私は推測しています。

 

アゼルバイジャンの権威主義体制は国民を抑圧する側面があるため、不満がたまりやすい。同じく権威主義のベラルーシでは最近、国民の不満が高まって抗議行動が起きており、アゼルバイジャンも他人事ではありません。

 

でも、国民の不満をガス抜きできると政府への不満は起きない。常に国民の不満を振り向ける対象があると、権威主義は維持しやすいんです。そういった意味では『アルメニアとの戦争状態』というのはアゼルバイジャン政府にとって都合がいいんです」【前出HUFFPOST】

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素人考えでは、上記のような事情で介入しなかったロシアですが、さすがにナゴルノ・カラバフ全域をアゼルバイジャンが支配するという事態は受け入れがたく、「そこでやめておけ。それ以上やるならロシアとしても・・・・」と凄んだのでは・・・と考えてしまいます。

 

ロシアとしても、これ以上トルコの影響力がこの地域で増す事態は避けたかったでしょうから。

 

アゼルバイジャンにナゴルノ・カラバフ全域を回復しようという意図があったのか、シュシャ奪還が当初からの目標だったのか・・・そのあたりはわかりません。

 

【影響力を増すトルコ エルドアン大統「ロシアとともに停戦監視の役割を担う」と軍派遣】

いずれにしても、トルコは今回紛争の一方の当事者でもあった訳ですが、停戦合意については、その存在は明確にされていません。

 

明確にされていませんが、実質的には、ロシアと共同でこの地域を管理するつもりのようです。

 

****ナゴルノ紛争、和平に暗雲 トルコ、アゼルバイジャンへの派兵承認****

アルメニアが実効支配するアゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ地域をめぐる紛争で、トルコがアゼルバイジャンへの軍派遣に動き始めた。

 

現地では44日間の軍事衝突の末に停戦合意が発効したばかり。派兵は停戦監視にあたるロシア軍との「共同活動」を目的とするが、関係国の警戒心は強い。支配地の多くを失うアルメニアの混乱も続き、和平は見通せなくなっている。

 

「停戦合意は重要だ。だが、あいまいさは取り払わなければならない」

フランスのルドリアン外相は17日、議会でこう語り、合意を仲介したロシアに対し、停戦でトルコが果たす役割について説明を求める考えを強調した。フランスはロシア、米国とともに1990年代から続く和平協議の共同議長国だ。

 

停戦合意が発効したのは10日。その翌日、トルコのエルドアン大統領は与党の会議で「ロシアとともに停戦監視の役割を担う」と発言した。

 

停戦合意は、アルメニアがナゴルノ・カラバフ地域の一部を残し、90年代から支配してきた周辺地域をアゼルバイジャンに引き渡すとする。ロシア軍が停戦監視を担うことも決まった。

 

だが、発表された和平合意の声明にトルコに関する記述はない。関係国に疑心が広がったのは、直後にエルドアン氏とロシアのプーチン大統領が電話協議し、トルコ側が両国による停戦監視のための「共同センター」設置が決まったと発表したからだ。

 

トルコ議会は17日、期限を1年とするアゼルバイジャンへの軍派遣を承認した。

 

9月末の衝突開始以来、エルドアン氏はアゼルバイジャンの軍事行動を支援する発言を繰り返してきた。トルコとアルメニアの間には第1次世界大戦中のアルメニア人迫害をめぐる歴史論争があり、アルメニア系住民が暮らすナゴルノ・カラバフ付近でトルコ軍が活動すればアルメニアを刺激するのは必至だ。

 

ロシアもトルコとの「共同センター」設置の合意は認めている。プーチン氏は17日夜に国営テレビで「アゼルバイジャンの要請だった」と明かした。ただ、活動内容はあいまいで、センターの場所やトルコ軍の派遣規模は不明なままだ。

 

停戦合意の直前、アゼルバイジャン軍はナゴルノ・カラバフ第2の都市シュシャを制圧。事態が緊迫する中、ロシアはアゼルバイジャンを支えるトルコの納得を得るため、停戦交渉の枠外で妥協を強いられた可能性がある。

 

■譲歩のアルメニア、国政混乱

ナゴルノ・カラバフ紛争は旧ソ連時代の1980年代末、アゼルバイジャン当局とアルメニア系住民の衝突で始まり、94年にロシアの仲介でいったん停戦が成立した。

 

その後アゼルバイジャンとの結び付きが強いトルコの台頭で地域情勢は変化。トルコ外交に詳しいカディル・ハス大(トルコ)のソリ・オゼル講師は「南コーカサスに影響力を持つことで、周辺地域でもトルコの発言力が高まる可能性がある」と話す。

 

今回の停戦合意を受け、米国、フランスの代表は18日、モスクワでロシアのラブロフ外相と会談。3国は和平協議を再開する構えだ。91年に独立宣言したナゴルノ・カラバフの地位問題が最大の焦点だが、アゼルバイジャンとトルコは「トルコにはこの地域の紛争解決で、さらに大きな役割が与えられるべきだ」(アリエフ・アゼルバイジャン大統領)と要求しており、協議の難航は避けられない。

 

一方、アルメニア側からアゼルバイジャンへの引き渡しが決まった周辺地域では、アルメニア系住民の退去が始まった。一部の住民らはアゼルバイジャン側に接収されるのを嫌い、自宅に放火した。

 

停戦合意で大幅な譲歩を強いられたアルメニアでは国内で政治の混乱も続く。

 

合意に署名したパシニャン首相に対する野党の辞任要求に加え、政権内に離反の動きも。外相や緊急事態相が相次ぎ辞任し、議会で過半数を維持する与党からも一部議員が離脱した。サルキシャン大統領は議会の解散、前倒し選挙は避けられないとの考えを示した。【11月20日 朝日】

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【「領土問題は軍事力・戦争で解決できる」という「先例」】

今回紛争の最大の問題は、「領土問題は軍事力・戦争で解決できる」という「先例」をつくってしまったことでしょう。

 

****「領土問題は戦争で解決できるという先例になりかねない」 ナゴルノ・カラバフ紛争に専門家が警鐘****

(中略)

■ナゴルノ・カラバフ紛争をどうみるべきか?

いくら日本とは縁が薄い地域とはいえ、21世紀になって国同士が武力衝突で領土の奪い合いをしている状況を放置していていいのだろうか。

 

廣瀬さん(コーカサス情勢に詳しい慶應義塾大学・総合政策学部の廣瀬陽子教授)も「戦争で奪われた領土を戦争で取り返すというのは中世や帝国主義の考え方」と批判する。

 

2国間で武力による領土の奪い合いが起きているのに、国際社会のほとんどの国が距離を置いてみていたという現実をどう感じているだろうか。

 

「決して、いい終わり方じゃないですよね。不当に領土を取られた国がある戦争を30年近く国際社会が放置したことが一番良くないと思います。そこで両方が納得行くような解決を、早めに国際社会が導いていれば、今回のことは起きなかったと思うんです」

 

その上で、廣瀬さんは「未承認国家は平和な状態ではない」と強調した。「ナゴルノ・カラバフ共和国」という未承認国家を28年間に渡って国際社会が放置してきた結果、多くの死者が出る紛争に繋がったという見解を示した。

 

「今回の件は悪い先例になりかねなくて『取られた領土は戦争で奪還できるんだ』という認識が世界に広まると、似たようなことが各地で次々に起きると思うんですよ。これが先例になってしまうと、今後はすごい問題になる。そういう意味でも、私は警鐘を鳴らしたいですし、国際社会は身を持って反省すべきだと考えています」【11月21日 HUFFPOST】

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【将来に持ち越された遺恨】

アゼルバイジャンの支配下に入る地域からはアルメニア人が避難していますが、その際に自宅に自ら火をつけて、アゼルバイジャン側には何も残さない・・・ということのようです。

 

****自宅燃やしてアルメニアに避難、ナゴルノカラバフ紛争****

アルメニアとアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフの外側に位置するキャルバジャル地域は14日、両国の停戦合意によってアゼルバイジャンの支配下に置かれることになったことを受け、住民らがアルメニアへの避難を前に自宅に火を付けた。

 

数十年にわたりアルメニア側が支配してきたキャルバジャル地域では、15日からアゼルバイジャンの支配下に置かれるとの発表を受け、大勢の住民が集団脱出を始めた。

 

現場のAFP記者が目撃したところによると、キャルバジャル地域の村で、アルメニア側に残るマルタケルトと接するチャレクタルでは14日朝、少なくとも6軒の民家に火が放たれ、谷の上空に濃い煙が立ち上った。

 

ある住民は、空っぽになった家の中に燃える木の板やガソリンで濡らしたぼろ切れを投げながら「これは私の家だ。この家をトゥルク(アルメニア人がアゼルバイジャン人に使う呼称)に残すことはできない」「すべての住民がきょう、自分たちの家を燃やすつもりだ。私たちは深夜までに離れることになっている」と語った。

 

「私たちは両親の墓も移動させた。アゼルバイジャン人たちはわれわれの墓を汚すことに喜びを感じるだろう。それには耐えられない」

 

前日の13日にはチャレクタルやその周辺で、少なくとも10軒の民家が焼かれた。

 

かつてキャルバジャルには、ほぼアゼルバイジャン民族のみが住んでいたが、旧ソ連解体後の1990年代に起きた戦争でアルメニア人らから追放され、当初アゼルバイジャン人が所有していた家の多くが焼かれた。

 

■死者4000人以上とプーチン大統領

アルメニアは14日、9月下旬から6週間続いた今回の軍事衝突によるアルメニア側の戦死者は前回の公式発表より1000人近く多い2317人になったと発表した。アゼルバイジャン側は戦死者数を発表していない。

 

しかしロシアのウラジーミル・プーチン大統領は13日、今回の軍事衝突による死者は4000人を超えており、数万人が避難を強いられたと述べた。 【11月15日 AFP】

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プーチン大統領は「ナゴルノカラバフの帰属を巡る最終的な地位を確定するのは将来の指導者だ」と発言していますが、住民相互の遺恨も将来に持ち越された形です。

 

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