孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  選挙を控えて国内価格安定重視からコメ禁輸 砂糖も? 混乱する国際市場

2023-08-26 23:08:44 | 食糧・飢餓

(【8月4日 日経】)

【ロシアの黒海穀物輸出合意離脱を受けて、ウクライナは新たな「穀物回廊」確保を模索】
国連とトルコが仲介した穀物輸出合意はロシアが更新に反対したことで7月17日に期限を迎え、黒海に面するウクライナの港はロシアによる封鎖状態が続いていました。

それから約1か月後の8月16日、ウクライナは黒海沿岸のオデーサ港を出航し、ルーマニア領海内を南進してトルコのイスタンブールに向かう暫定的に設定した航路「人道回廊」の運用を開始しています。

****「人道回廊」の運用開始、ウクライナ産穀物積んだ貨物船が出港…露の合意離脱後で初めて****
ウクライナ産の食料など3万トンを積んだ香港籍の貨物船が(8月)16日、南部オデーサ港からトルコのボスポラス海峡に向けて出港した。

ウクライナ政府は16日、黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出再開に向け、民間船舶が安全に航行できるよう暫定的に設定した航路「人道回廊」の運用が始まったと発表した。

オデーサ港からの貨物船出港は、ロシアが7月に黒海を経由したウクライナ産穀物の輸出合意を離脱して以降初めて。貨物船はロシアがウクライナ侵略を始める前日の昨年2月23日からオデーサ港に停泊していた。ロイター通信によると貨物船は17日中にもイスタンブールに到着する予定という。

ロシアはウクライナに向かう貨物船への臨検を実施してけん制している。穀物輸出拠点のあるオデーサ州の港への攻撃も繰り返している。人道回廊が安定的に機能するかどうか不透明だ。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日夜のビデオ演説で港への攻撃が1か月に7回あったとし、「世界の食料価格やアフリカとアジアの安定への打撃だ。共同して対抗する必要がある」と訴えた。

ロシアの合意復帰の見通しがないなか、ウクライナは新たなルートの確立を急いでいる。米欧も代替ルートの確保に取り組んでおり、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは15日、米国が、ウクライナやルーマニア、トルコなどと、ドナウ川を経由してルーマニアの港からウクライナ産穀物を輸出するルートについて協議していると報じた。

10月までにドナウ川経由で月400万トンの輸出を可能にすることを目指す計画で、米政府高官は「船舶保護のために軍事を含むあらゆる選択肢を検討している」と同紙に述べた。【8月18日 読売】
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上記の香港籍の貨物船は無事イスタンブールに到着しましたが、今後も運行を容認するのかロシアの対応は不透明です。
新航路に関するその後の情報は目にしていませんが、量的にも従来の航路に比べると限定されたものになることが予想されます。

黒海沿岸に関しては、ウクライナの南がルーマニア、その南がブルガリア、そしてトルコ・イスタンブールになりますが、ウクライナ政府はブルガリアとの協議も初めています。

****ウクライナとブルガリア、黒海の「穀物回廊」確保に向け協議****
ウクライナとブルガリアの首脳が黒海での「穀物回廊」の確保に向けた両国の協力について話し合いを行っていることがわかった。黒海での穀物輸出に関する協定からロシアが離脱したことで、世界の食糧安全保障に対する懸念が拡大している。

トルコと国連が仲介した協定からロシアが離脱したことで、ウクライナの黒海に面した3カ所の港を利用する商船に委縮効果が表れている。これらの港から大部分の穀物が輸出されている。ロシアは、こうした港から出た船舶は攻撃の対象となる可能性があると警告している。

ウクライナは独自の回廊を設けているものの、黒海ではロシア海軍が優勢なため、こうした回廊の安全を確保できていない。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ギリシャ首都アテネで開催されたバルカン諸国首脳らとの会議の機会を利用し、ブルガリアのデンコフ首相と回廊について協議した。

ウクライナ大統領府によれば、両首脳は、黒海における持続可能な安全保障を確保するための黒海諸国間の協力と、代替的な方法による「穀物回廊」の機能について協議した。(中略)

ウクライナ政府は、黒海の港を発着する船舶を対象とするため、保険会社の世界大手各社と協議を行っている。これは、世界中で不可欠な穀物輸出の完全な再開にとって重要な一歩となる。【8月23日 CNN】
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【コメ 最大輸出国インドの禁輸措置で価格急騰】
小麦の価格は22年2月のロシア軍ウクライナ侵攻で一気に高騰しましたが、その後は傾向としては下落しています。
7月のロシアの穀物合意離脱で上昇した価格も、その後は戻しています。
ただ、ロシア軍侵攻以前の2021年から上昇傾向にあって、それ以前の価格に比べると高値水準が続いているとも言えます。

一方、足元で急激な価格上昇が見られるのがコメ。

****世界のコメ価格が12年ぶりの高値に、「インドの輸出規制措置が原因」と中国メディア****
世界のコメ価格が12年ぶりの高値になっている。国際的なコメ価格はロシアによるウクライナ侵攻で昨年、小麦などの穀物価格が急騰したのに対し、比較的安定していた。中国メディアはロイター通信の報道を引用。「世界最大のコメ輸出国であるインドの輸出規制措置が原因」と伝えた。(中略)

中国網はロイター通信が「コメ価格急騰のきっかけは、世界最大のコメ輸出国であるインドの意思決定だと報じた」紹介。インド消費者行政・食品・公共分配部は7月20日、輸出増が国内のコメ高騰を招いたことを理由とし、「価格を抑え自国の消費を保証」するため、バスマティなどの高級品種以外の米の輸出を禁止すると発表した。

インド、タイ、ベトナム、カンボジア、パキスタンなどはコメの主要輸出国。中国、フィリピン、ベナン、セネガル、ナイジェリア、マレーシアなどはこの主要食糧品種の重要な輸入国だ。

タイの破砕率5%の白米のオフショア価格は7月27日までに、1トン当たり607.5ドル(約8万7000円)に高騰した。7月20日にインドがコメ禁輸を発表してから62.5ドル高騰(11.5%上昇)し、12年5月以来の高値を付けた。

インドの輸出規制措置はコメの需給に重大な影響を生んだ。米国農務省の統計によると、インドのコメ輸出量は22〜23年度に2250万トンに上り、世界市場の40%を占めた。インドに次ぐタイの同期の輸出量は850万トンのみだった。

さらに7年ぶりのエルニーニョ現象がコメ不作のリスクを拡大している。エルニーニョ現象が発生すると太平洋赤道海域の海面温度が異常に高くなり、主要生産地の東南アジアで雨不足による干ばつが発生する恐れがあるからだ。

コメと並ぶ主要食糧である小麦の供給にも変動が生じつつある。7月下旬、国際指標の米シカゴ商品取引所小麦先物の9月相場が1ブッシェル7.7ドルを付け、2月下旬以来の最高値となった。

現在は小麦とコメの供給逼迫(ひっぱく)が同時に発生している。この二つが不足すれば、安価な代替案を見つけることが困難になりそうだ。

中国網は「最も深刻な影響を受けるのは経済が低迷し食糧輸入への依存が強いアフリカなどの新興国だ」と指摘。「国際食糧価格が暴騰すれば、これらの国は外貨準備の不足により十分な食糧を調達できず、それにより国内の物価高が深刻化し、大規模な飢餓が生じる恐れもある」と警鐘を鳴らした。【8月12日 レコードチャイナ】
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インドに次ぐコメの輸出国タイは輸出停止はせず、高値になった状況を利用する方針と報じられています。

****タイ、コメの輸出停止せず インドの禁輸は追い風=商務相****
タイのジュリン商務相は7日、同国は輸出と国内消費用に十分な生産量を確保しているとして、コメの輸出を停止する理由はないと言明した。インドのコメ輸出停止によりタイは恩恵を受けているとも述べた。

インドは7月下旬、一部の種類を除いてコメの輸出を停止した。同国のコメ輸出はほぼ半減することになり、世界的な食料価格の上昇が懸念されている。

ジュリン氏は記者会見で、インドの禁輸はタイのコメ生産者に好機であり、特にアフリカはインド産のコメの消費量が多いと指摘した。

インド禁輸により市場に供給されるコメの量が減少し、国際価格が上昇するため、農家はより高い価格で売ることができると述べた。ただ、国際価格は不安定であり、政府は状況を注意深く監視していくと語った。【8月7日 ロイター】
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しかし、タイ当局も降雨量不足に伴う節水のために農家に対してコメの作付けを減らすよう提案しており、今後の生産量・輸出減少が予測されています。

****世界最大の米輸出国、インド・タイの「米の出荷が激減」…世界的脅威になる可能性****
世界的な米供給に対する新たな脅威
インドが国内における一部の米の出荷を禁止したことと、タイ当局が降雨量不足に伴う節水のために農家に対して米の作付けを減らすよう提案したことが、世界的な米供給に対する新たな脅威となっている。

タイ国家水資源局(ONWR)のスラスリ・キッティモントン事務局長は、「主要な中央平原地域の農家はすでに米のほとんどを作付けしたが、政府は水をあまり必要としない他の作物への転換を奨励している」と述べた。

世界第2位の米輸出国であるタイは、現在、エルニーニョ現象の影響で乾燥が進み、来年は干ばつに見舞われる可能性がある。

スラスリ氏によれば、中部地方におけるこれまでの累積降雨量は平年を約40%下回っており、米の作付けを抑制するのは、家庭で消費する水の供給を確保するためだという。「心配なのは、エルニーニョ現象が2025年まで続くかもしれないということです。私たちは全国的な水管理を慎重に計画しなければなりません」と彼は2日火曜日に語った。

これまでに、約1万7,600平方メートル以上で稲作が行われており、まだ作付けを開始していない農家には、計画を遅らせるか、より干ばつに強い植物に切り替えるよう促しているという。

過去3年以上の最高値を記録、止まらぬ価格高騰
インドは世界最大の米輸出国であるが、国内供給を確保し国内価格を抑制するために、非バスマティ米の輸出を禁止した。これにより、アジアの米価は先月、過去3年以上の最高値を記録している。世界市場でのさらなる価格上昇は、消費者に対してさらなるインフレ圧力をもたらす恐れがある。(中略)

政府は以前、エルニーニョ現象が異常な少雨をもたらす可能性があると警告し、農家に対して今年は通常の2作物ではなく1作物を栽培するよう勧告した。そして、タイからの不足分の一部は、ベトナムからの出荷量の増加によって相殺される可能性があり、ベトナムは今年の目標を大きく上回る可能性が高い。(中略)

米国農務省によれば、インドは世界最大の米輸出国で、世界貿易の40%を占め、タイは15%、ベトナムは14%である。(後略)【8月4日 THE GOLD ONLINE】
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また、インド禁輸を受けてタイのコメ市場が混乱しているとの情報もあります。

****タイ、コメ市場が混乱 インド禁輸受け供給逼迫、買い占めも発生****
世界最大のコメ輸出国であるインドが大幅な輸出制限を打ち出し、同2位のタイのコメ市場に混乱をもたらしている。流通量が逼迫して価格は高騰。一部業者が買いだめに走っていることで、輸出向けの価格が付けられない異常事態も起こっている。(後略)【8月25日 日経】
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【インドはコメに続いて砂糖も禁輸? 選挙前の国内価格安定を重視】
インドはコメに続いて砂糖の禁輸も行う可能性がある・・・とも報じられています。原因はやはり降水量不足。

****インドが10月から砂糖の輸出を禁止?世界が供給不足を懸念―中国メディア****
2023年8月25日、環球網は、インドが10月から砂糖の輸出を禁止する可能性があり、世界的な砂糖の供給不足が懸念されていると報じた。

記事はインドが10月から7年ぶりに砂糖の輸出を禁止する見通しだと英ロイターが報じたことを紹介。インド政府筋によると、現在の優先事項は国内の砂糖需要を満たし、残りのサトウキビでエタノールを生産することで、砂糖を輸出するために十分なサトウキビの生産量が見込めないと伝えた。

そして、気候変動による原料生産の減少が砂糖供給が逼迫している主な理由だとし、今年はインド有数のサトウキビ生産地であるマハラシュトラ州とカルナータカ州の雨季の降雨量が平年を50%下回っており、その影響は23〜24年のサトウキビ栽培シーズンだけでなく、24〜25年シーズンにも及ぶ可能性があると指摘した。

また、インドの国内砂糖価格が今週約2年ぶりの高水準に跳ね上がるなど食品インフレが懸念されており、砂糖価格の上昇が続けば砂糖輸出の可能性はますます低くなると伝えた。

記事によると、インドはブラジルに次いで世界2位の砂糖輸出国であり、砂糖輸出を巡っては16年にも海外販売抑制を目的として20%の関税を課したことがあったという。

記事は、インド政府が7月20日にパーボイルド米と香り米を除くコメの輸出禁止を発表し、今月19日にもタマネギの輸出に40%の関税を課すと発表したことを紹介。海外メディアの分析として、インド政府は24年の選挙前に食料価格を安定させ、食料インフレを抑制するため、さまざまな製品に輸出制限をかける動きを見せているとした。

その上で、インドが砂糖輸出を禁止する可能性がある中で、市場はブラジルに注目することになると伝えるとともに、「ブラジルのサトウキビの約半分は砂糖に、残りの半分は無水エタノールにしてガソリンに混ぜられるが、これは国際原油価格の動向次第だ。国際原油価格が高ければ、ブラジルは燃料用エタノールの生産を増やすことを選択し、原油価格が安ければ、ブラジルは砂糖の輸出を増やすだろう」とし、国際原油価格が高騰すれば砂糖の供給不足が深刻化する可能性を指摘した。【8月26日 レコードチャイナ】
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砂糖の価格は、国際原油価格の動向に影響されるというのは「なるほどね・・・」といったところ。

【露骨な「自国第一」では、拡大するBRICSにも限界】
“インド政府は24年の選挙前に食料価格を安定させ、食料インフレを抑制するため、さまざまな製品に輸出制限をかける動きを見せている”というのは、“「自国第一」なんだろうけど、自由貿易の原則とか国際的影響への配慮は?”といった感も。

インドもメンバー国であるBRICSの拡大が連日報じられています。
米欧と距離を置く国々が集まって対抗軸を形成するという点では国際政治への影響が大きいと言えますが、上記インドのように「自国第一」に終始する国、ロシア・中国のように他国侵略を厭わない国が集まっても、米欧への抵抗勢力とはなりえても、それ以上の戦略的共同歩調をとって国際社会をリードするというのは難しいようにも思えます。
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東アフリカ  過去40年で最長となる干ばつ 更に内戦による混乱も

2023-06-03 22:05:31 | 食糧・飢餓

(ソマリアの首都モガディシオ郊外で、栄養失調の子どもを抱く母親=2022年6月(AP=共同)【6月3日 共同】)

【世界気象機関(WMO) 「気候変動は2022年も世界中でその進行を続けている」】
気候変動に伴う地球規模の異常現象・危機については日々報じられているところですが、世界気象機関(WMO)は年次報告書『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書』で「気候変動は2022年も世界中でその進行を続けている」と報告しています。

****世界気象機関(WMO)年次報告書:気候変動は進行し続けている(2023年4月21日付 WMO プレスリリース・日本語訳)****
『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書(The WMO State of the Global Climate report 2022)』は、主要な気候指標である温室効果ガス、気温、海面上昇、海洋熱と海洋酸性化、海氷と氷河に焦点を当てています。また、気候変動と異常気象の影響についても強調しています。

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干ばつ、洪水、熱波が世界の大部分に影響を与え、損失額が増加している
過去8年間の世界の平均気温が最高を記録した
海面上昇と海洋熱が記録的な水準にあり、この傾向は今後何世紀も続くと予想される
南極の海氷域が史上最小にまで減少した
欧州では氷河の融解記録が更新された
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ジュネーブ、2023年4月21日(WMO) — 世界気象機関(WMO)の年次報告書によると、山頂から深海に至るまで、気候変動は2022年も世界中でその進行を続けました。

干ばつ、洪水、熱波があらゆる大陸のコミュニティーに影響を与え、何十億ドルもの損失をもたらしました。南極の海氷域が史上最少にまで減少し、欧州の氷河のいくつかは、文字通りグラフに収まりきらないほどの勢いで融解しました。

『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書』は、記録的水準にある温室効果ガスが、地上、海洋、大気中で引き起こしている地球規模の変化を明らかにしています。

2015年から2022年の世界の気温は、過去3年間のラニーニャ現象による冷却効果があったにもかかわらず、記録上最も温暖な8年間でした。2022年に再び過去最高水準に達した氷河の融解と海面上昇は、今後最大で数千年にわたって続くと考えられます。

「温室効果ガスの排出量が増加を続け、気候変動が続く中、世界中の人々が異常気象と気候現象の深刻な影響を受け続けています。例えば2022年の、東アフリカで続いた干ばつ、パキスタンでの記録的な豪雨、中国とヨーロッパにおける過去に例を見ない熱波によって数千万人が影響を受け、食料供給が不安定化し、集団移住が加速し、数十億ドルの損失と損害が発生しました」WMOのペッテリ・ターラス事務局長は、このように述べています。(中略)

報告書によると、有害な気候および気象関連事象が一年を通じて新たな強制移住をもたらし、年初時点ですでに移住生活を送っていた9,500万人のうち、その多くの人々の状況をさらに悪化させました。(後略)【5月24日 国際連合広報センター】
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【東アフリカ 過去40年で最長となる干ばつ 深刻な食料不安 ソマリアの危機的状況】
上記報告書は東アフリカに関しては以下のようにも。

****干ばつに襲われた東アフリカ****
雨季の降水量が5年連続で平年を下回りました。これは過去40年で最長となる期間です。2023年1月現在、干ばつその他のショックの影響によって東アフリカ全域で推定2,000万人以上が深刻な食料不安に直面しています。【同上】
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“過去40年で最長となる干ばつ”の一方で、極端な豪雨も。こうした極端な異常気象が“気候変動”の特徴でしょうか。

****豪雨で川が氾濫、20万人退避 ソマリア****
アフリカ東部ソマリアの中部で、豪雨に伴う河川の氾濫のため約20万人の住民が避難を余儀なくされた。当局者が13日、AFPに語った。

中部ヒラン州でシェベリ川の堤防が決壊。ベレドウェインでは、退避を余儀なくされ、荷物を頭に載せて冠水した道路をたどり避難場所を探す住民の姿が見られた。

同州のアリ・オスマン・フセイン社会問題担当副知事は、「約20万人が避難した」と説明。数字は暫定集計で、退避者の数はさらに増える可能性があるとしている。
ハッサン・イブラヒム・アブドゥル副知事によると、12日時点で洪水のため3人が死亡した。

ソマリアはこれまで記録的な干ばつに見舞われており、数百万人が飢饉(ききん)寸前の状態に置かれていた。また、政府は数十年にわたってイスラム過激派組織の武装闘争に手を焼くなど、さまざまな問題を抱えている。

ソマリアだけでなく、アフリカ東・中部では雨期に極端な天候に見舞われることが多い。ルワンダでは今月初め、大雨に伴う洪水や土砂災害で135人が死亡、コンゴ民主共和国でも土石流のため400人以上が犠牲になっている。【5月14日 AFP】
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ロンドン大衛生熱帯医学大学院やユニセフ(国連児童基金)などの共同研究チームの発表によれば、ソマリアでは干ばつによる死者が2022年だけで4万3千人に上るとの推計され、このうち半数が5歳に満たない子どもたちだとのことです。

ユニセフは、ソマリアなどアフリカ東部で5歳未満の子ども190万人超が食料不足に伴う重度の栄養失調で死亡する恐れがあると発表しています。

****190万人の子に命の危機 アフリカ干ばつで食料不足****
国連児童基金(ユニセフ)は3日までに、ソマリアなどアフリカ東部で約3年間にわたり干ばつが続き、5歳未満の子ども190万人超が食料不足に伴う重度の栄養失調で死亡する恐れがあると発表した。「前例がない規模の危機」が起きていると懸念を表明し、国際社会に早急な対応を求めた。

ソマリアに隣接するケニアとエチオピアでも干ばつの被害が広がった。牛やヤギなどの家畜も死に、多くの住民が避難生活を余儀なくされている。ユニセフによると、重度ではない症例も含め700万人以上の子どもが栄養失調に陥っている。

今年3月以降に降雨が確認されるようになり、干ばつ収束への期待が出てきた。だが、財産である家畜や耕作地を失った被災者が経済的に自立できるまでには年月がかかり、干ばつが終わったとしても手厚い復興支援が欠かせない。
アフリカ大陸では、気候変動の影響で異常気象が起きやすくなったとの見方がある。5月にはソマリアで豪雨による洪水が起き、新たに20万人以上が避難した。【6月3日 共同】
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ソマリアではイスラム過激派「シャバブ」のテロ活動などによって人道援助が妨げられており、飢餓・病気の被害を拡大しています。

そうした状況はスーダンでも同様です。

【スーダン 止まない戦闘 深刻化する飢餓の恐怖】
東アフリカのひとつスーダンでは、停戦が合意された。でも、戦闘は続いている“といった“よくわからない”状況が繰り返されています。

****スーダン首都で再び衝突、停戦協定違反で協議中断****
スーダン正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の衝突を巡り、米とサウジビアが仲介する停戦交渉が決裂したことを受け、首都ハルツームでは再び軍事衝突が起きている。

ハルツーム近郊の住民によると、正規軍は空爆を再開し大砲を使用するなどしているが、RSFが占拠した場所から退却する兆候は見られない。

米とサウジは1日、両国の仲介による停戦交渉が決裂したため、協議を中断。両者が協定に違反して軍事行動を行っているなどと非難した。

正規軍は2日、停戦協定の実施に向けた提案をしたにも関わらず米とサウジが交渉を中断したことに「驚いた」と述べた。また、協定違反を行ったのはRSF側だとした。RSFは軍を非難している。【6月3日 ロイター】
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戦闘状態はよくわかりませんが、定かなのはこの国が深刻な飢饉に見舞われているということ、そして内戦によって難民の発生、支援活動の停滞といった混乱を引き起こしていることです。

****「スーダン、内戦により1900万人が飢饉に追い込まれる」WFP局長の訴え****
「今後3~6カ月以内にスーダンで飢餓に直面した人々は1900万人に達する可能性があります」

内戦中のスーダンで援助活動を行っている国連世界食糧計画(WFP)のマイケル・ダンフォード東アフリカ地域局長は8日、中央日報との書面インタビューで、現地の雰囲気をこのように伝えてきた。

ダンフォード局長は「内戦によりスーダンから近隣諸国への難民流出がすでに始まっている」とし「これが進めば、スーダンの不安定な状況が『アフリカの角』の地域全般に拡散しかねない」と懸念を示した。

アフリカの角地域はアデン湾の南部にまたがる東アフリカ地域で、サイの角のように突出している地域を指す。エチオピア・ソマリア・ジブチなどが属している。

先月スーダンでは、政府軍側のアブデル・ファタハ・ブルハン将軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」のモハメド・ハムダン・ダガロ司令官の間で武力衝突が起き、血なまぐさい交戦が続いている。(中略)

内戦以降、外国人はもちろんスーダン人も「必死のエクソダス」に乗り出して難民が最大86万人発生するという悲観的見通しが出てきている(中略)

スーダン内の状況が統制不能状態に陥り、国連のような国際救援団体の活動はますます厳しくなっている。一線の救護団体職員たちは文字通りに命懸けで活動している。WFPも先月16日、スーダンの北ダルフール地域で救護活動中に職員3人が交戦に巻き込まれて命を落とした。WFPはこの事件で活動をしばらく中断したが、今月1日、WFPのシンディ・ヘンスリー・マケイン事務局長が救護を臨時に再開すると伝えた。(中略)

東アフリカは長い政治不安で慢性的な食糧危機を経験しているが、最近になって40年ぶりに最も乾燥した気候に直面し、食糧難が最悪に達しているという。

ダンフォード局長は「エチオピア、ケニア、ソマリアなどでは生計手段である家畜が干ばつや気象異変による洪水などで1300万頭が死亡し、最大8000万人が飢えに追い込まれている」と述べた。(後略)【5月9日 中央日報】
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【世界食料価格は2年ぶり低水準】
飢餓に苦しむ人々にとって数少ない朗報は、食料価格が落ち着いてきたことでしょうか。

****世界食料価格、5月は2年ぶり低水準=国連食糧機関****
国連食糧機関(FAO)が2日発表した5月の世界の食料価格指数は、植物油、穀物、乳製品の価格が急落し2年ぶりの低水準となった。砂糖と肉類の価格は上昇した。

5月の同指数は平均124.3と2021年4月以来の低水準で、ロシアのウクライナ侵攻開始後の2022年3月に記録した過去最高水準を22%下回っている。4月は127.7だった。

FAOは穀物需給に関する別の報告書で、今年の世界の穀物生産量を前年比1%増の28億1300万トンと予想した。トウモロコシの生産増加が主な要因としている。【6月2日 ロイター】
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国際支援も多少はやりやすくなったとも思えますが、そうした支援を妨げているのが、飢餓地域における内戦・治安の不安です。
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ソマリアなど東アフリカ  13万人近くが深刻な飢餓状態にあり、死に直面

2023-03-12 23:19:14 | 食糧・飢餓

(世界の食危料機はアフリカに集中しています【2022年12月21日 日本赤十字社】)

【「アフリカの角」 13万人近くが深刻な飢餓状態にあり、死に直面】
自分を含めて、人は他人の苦しみ・不幸には極めて鈍感です。(だからこそ、苦しみ・不幸が溢れているこの世を生きていける・・・とも言えますが)

まして、海の遥か彼方の異国の出来事となると・・・何らかの事情で、例えばウクライナのように一定の関心を持たれる出来事もありますが、多くはスルーされます。

東アフリカの干ばつ・飢餓もそうしたスルーされる多くの出来事のひとつでしょう。

*****アフリカの角一帯で13万人が餓死の恐れ WHO*****
世界保健機関は10日、「アフリカの角(アフリカ東端部)」と周辺地域では13万人近くが深刻な飢餓状態にあり、死に直面していると警告した。

WHOによると、ジブチ、エチオピア、ケニア、ソマリア、南スーダン、スーダン、ウガンダを含む「アフリカの大角」と呼ばれる地域の住人4800万人が、危機的レベルの食糧不安に陥っている。

このうち約600万人は緊急対策が必要な状況で、さらに12万9000人は最悪の状況に置かれている。12万9000人のうち、9万6000人がソマリア人、3万3000人は南スーダン人となっている。

また、同地域では今年、5歳未満の子ども約1190万人が急性栄養失調に陥る恐れがあると見られている。

アフリカ東端部は、気候変動に対して最も脆弱(ぜいじゃく)な地域の一つだ。過去5年間、雨期に十分な雨が降らず、家畜数百万頭が死に、作物は壊滅状態に陥った。こうした状況を受け、地域住民は水や食べ物を求めて移動を余儀なくされている。 【3月12日 AFP】
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多少なりともアフリカの状況に関心がある場合でも、東アフリカの食料危機についてはこれまでも何度も耳にしてきた話であり、「またか」「相変わらずだね・・・」といった感もあるかも。

しかしながら、「13万人近くが死に直面している」という状況を座視していいことにもならないでしょう。

この地域の危機的状況は以前から報告されています。

****ソマリア、栄養治療施設で子ども730人死亡 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は6日、飢饉(ききん)の恐れが出ているソマリアで1月以降、約730人の子どもが栄養治療センターで死亡したと発表した。実際の死者数はこれを上回る可能性があるという。

ソマリアが位置する「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸北東部地域は過去40年間で最悪の干ばつに見舞われており、4期連続で雨期の降水量が不足したことにより家畜や作物が死滅。多数の人々が飢餓の危機に直面している。

ユニセフのソマリア代表を務めるワファ・サイード氏は、首都モガディシオからビデオ会議を通じスイス・ジュネーブで開いた記者会見で、「栄養失調は前例のないレベルに達している」と説明。1〜7月に全国の栄養治療センターで約730人の子どもの死亡が報告されたと述べた。

サイード氏によると、子ども約150万人が急性栄養失調の危機にあり、その半数近くが5歳未満。重度の急性栄養失調の治療が必要となる子どもは38万5000人に上る見通しとされる。

国連は5日、ソマリアがこの10年余りで2度目の飢饉に陥る可能性があり、人命を救うには一刻の猶予もないと警告していた。国連によると、同国では人口の半分に相当する約780万人が危機的な飢餓水準に達しており、約100万人が食料と水を求めて避難民化している。 【2022年9月7日 AFP】
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【ソマリア  国際支援を阻むイスラム過激派との戦い】
ソマリアでは、単に“過去5年間、雨期に十分な雨が降っていない”という干ばつだけでなく、長年続く紛争で政治の対応がほとんどなく、イスラム武装勢力のテロによって国際支援も滞るという状況があります。

南部中心のシャバブの支配地域のほか、政府の支配地域でも繰り返しシャバブによるテロ攻撃が行われており、援助物資の輸送が極めて難しくなっています。

イスラム武装勢力のテロなどについては、以下のようにも。
“ソマリア首都で車2台爆発 100人死亡、300人負傷”【2022年10月30日 AFP】
“ソマリア首都中心部のホテルに過激派武装勢力が立てこもり 治安部隊と銃撃戦 民間人8人死亡”【2022年11月29日 TBS NEWS DIG】

【“不公平”な温暖化の影響】
また、天候不順は地球温暖化の影響が指摘されています。

米カリフォルニア大サンタバーバラ校気候災害センターでディレクターを務めるクリス・ファンク氏は、南米ペルー沖の太平洋の水温が平年より低くなる「ラニーニャ現象」について地球温暖化が要因となっていること、「ラニーニャ現象」が起きると、アフリカ東部で干ばつが発生しやすくなることを指摘しています。

更に問題なのは「(温室効果ガスの排出が少なく)最も温暖化に加担してこなかった国々が、最も苦しめられている」(ユニセフ・ソマリア事務所のワファ・サイード代表)こと。

この“不公平”は常に指摘されるところです。温暖化に加担して経済的に優位な地位を得た国々の対応責任は免れないでしょう。

【グッドガバナンスこそが、社会を繋ぎ、人財育成を促し、経済の発展や繁栄につながる鍵】
食料危機に瀕しているのは東アフリカだけではありません。その原因は、紛争、経済ショック、気候危機、肥料の価格高騰・・・等々。

****世界的な食料危機****
紛争、経済ショック、気候危機、そして肥料の価格高騰が重なり、かつてないほどの食料危機を引き起こしています。世界では8億2800万人の人びとが飢餓に苦しんでいます。

今すぐに行動を起こし、命を救い、食料安全保障、安定、平和をもたらす解決法に投資するか、それとも世界の人びとが拡大する飢餓に直面するのをただ見ているのか、今、世界は選択を迫られています。

2023年:食料の確保が困難な家庭にとって、極めて危険な状態が継続
79カ国において、過去最高となる3億4900万人が深刻な飢餓(急性の食料不安)に苦しんでいます。この数は2021年の2億8700万人から拡大し、新型コロナウイルスのパンデミック前からは2億人も増加しています。

90万人以上は飢餓の中でも最も深刻な飢きんにほぼ近い状態にあり、こうした人びとは5年前と比較して10倍となり、憂慮すべき割合で急増しています。緊急の支援が必要です。国際社会は2030年までに飢餓と栄養不良をなくすという約束を反故にしてはなりません。

国連WFPは次のような複数の課題に直面しています。食料や燃料価格の高騰により食料支援を届けるための活動費が過去最高となる中、支援のための資金が追いつかないほど急性食料不安の人びとが増え続けています。

ニーズに対応できなければ飢餓や栄養不良の危険が高まります。必要な資金が確保できなければ、命が失われ、苦労して得た開発の成果が失われてしまいます。

飢餓と饑きんの要因
なぜ飢餓がかつてないほど増えているのでしょうか? 飢餓は危険な要因が重なり引き起こされています。

紛争は依然として飢餓の最大の要因で、世界の飢餓に苦しむ人びとの約6割は戦争や暴力の影響を受けた地域に住んでいます。ウクライナでの危機は紛争がいかに飢餓を引き起こし、避難民を発生させ、収入源を断ってしまうかということを示しました。

気候危機は世界的な飢餓の急増の要因の一つです。気候ショックは命を奪い、作物や生活を破壊し、人びとが食べ物を確保するのを困難にします。世界が気候危機に対する緊急の行動を取らなければ、飢餓を止めることはできません。

世界的な肥料価格は、過去10年で最高値に推移している食料価格の高騰を上回る勢いで上昇しています。
天然ガスの価格高騰など、ウクライナでの戦争の影響によって、世界的な肥料生産と輸出に混乱が生じました。供給が減少し、価格の上昇につながり、収穫の減少が懸念されています。

肥料価格の高騰によって、2022年には、トウモロコシや米、大豆、小麦の生産が減少しており、現在世界が直面する食料価格の危機(food affordability crisis)がいずれ、食料供給の危機(food availability crisis)に発展することが懸念されています。

国連WFPの活動費も過去最高となっています。(中略)ナイジェリア、南スーダン、イエメンなどで国連WFPは、より多くの人へ支援を届けるため、一人当たりの配給量を削減するなどの厳しい選択を迫られています。つまり、すでに飢えに苦しんでいる人びとから、食料を餓死寸前の人びとへ振り分けることを余儀なくされているのです。

飢餓のホットスポット
中央アメリカの"ドライ・コリドー(乾燥回廊)"地域やハイチから、サヘル地域、中央アフリカ共和国、南スーダンを抜け、東へ向かってアフリカの角、シリア、イエメン、そこからアフガニスタンにいたる地域では、紛争や気候ショックが、何百万人もの人びとを餓死の瀬戸際に追いやっています。

昨年、未曾有の世界的食料危機に対応するため、国連WFPだけでも140億米ドルという記録的な資金が世界から集められました。飢きんの危機にさらされているソマリアなどの国では、国際社会が結集し、最悪の事態を防ぐことができました。しかし、生き延びるための支援では十分とは言えません。飢餓の根本原因へ対処する必要があります。

レジリエンス(強靭性)を高めるための活動に投資しなければ、その影響は国境を超えて広がるでしょう。コミュニティがショックやストレスに耐えうるだけの強靭性を持っていなければ、移住の増加や政情不安、紛争に繋がりかねません。

近年の歴史はまさにこれを示しています。2015年に国連WFPによるシリア難民への食料支援の資金が枯渇した際、難民はキャンプを出て、支援を求めて移動しました。これが欧州の近年の歴史上最大の難民危機を引き起こしたのです。(中略)

今こそ行動する時
国連WFPの生活を変える支援は、人財を育て、社会保護プログラムを強化するため政府を支援し、特に脆弱な地域にあるコミュニティーを安定化させ、人びとがすべての資産を失うことなく、突然の危機を生き延びることができるように後押しをしています。

サヘル地域におけるレジリエンスプロジェクトの拡大では、わずか4年の間に国連WFPと地域コミュニティーは、サヘル地域の5カ国で15万8000ヘクタールの荒廃した土地を農地や牧草地に変えました。250万人を超える人びとが総合的な支援を受けています。

人びとは季節的なショックに耐えられるようになり、彼らが働く土地などの重要な自然資源へのアクセスが改善しました。家族や家屋、所有財産や農地は気候の危機から守られるようになりました。人びとを結びつけ、社会的なセイフティーネットを作り、生産的な土地を維持し、雇用の機会を生み出すことで(すべては飢餓のサイクルを断ち切ることに寄与)、支援は不安定な状況に対する緩衝材としての役割を果たしています。

国連WFPの旗艦プロジェクトであるマイクロインシュランスの事業(R4 Rural Resilience initiative)はバングラデシュ、エルサルバドル、エチオピア、フィジー、グアテマラ、ケニア、マダガスカル、ジンバブエを含む14カ国で農業や牧畜を営む36万世帯を作物や生活を脅かす気候災害から守っています。

同時に、より多くの人びとに緊急の食料支援を届けられるように、国連WFPは83カ国の政府と協力し、国家のセーフティーネットや、栄養に配慮した社会保護の強化や構築を行っています。

しかし、人道的な支援だけでは不十分です。政府、金融機関、民間セクターやパートナーとの連携によってのみ、2023年におけるさらなる危機を防ぐことができるのです。また、グッドガバナンスこそが、社会を繋ぎ、人財育成を促し、経済の発展や繁栄につながる鍵となります。

飢餓ゼロを達成するためには、より強固な政治的エンゲージメントが必要です。政治的な意思によってのみイエメンやエチオピア、南スーダンといった地域での紛争を終わらせることができます。そして、パリ協定に盛り込まれているように、強い政治的コミットメント無くしては、飢餓の主な要因である地球温暖化を食い止めることはできません。【1月23日 WFP】
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単に人道支援だけでなく、“グッドガバナンスこそが、社会を繋ぎ、人財育成を促し、経済の発展や繁栄につながる鍵となります”・・・・長年の内戦状態でそのガバナンズの基盤がないソマリアみたいな地域では事態はより深刻です。

世界の紛争をなくしていくことが、“世界では8億2800万人の人びとが飢餓に苦しんでいます”という状況を改善していくために不可欠です。

【ウクライナをめぐる穀物輸出合意延長にロシアが異論】
ウクライナ戦争のように紛争が現地だけでなく、世界中に影響することもあります。

****東アフリカ、食糧難1300万人 ウクライナ危機が拍車****
ソマリアなど東アフリカ各国が干ばつで食糧危機に陥っている。国連は1300万人が深刻な食糧難に直面していると明らかにした。ロシアのウクライナ侵攻による穀物の値上がりのしわ寄せが貧困国に真っ先に及んでおり、異常気象がもたらした苦境に拍車がかかっている。

深刻さが際立つのが「アフリカの角」と呼ぶ大陸東端にあるソマリアだ。同国で人道支援を調整する国連のアダム・アブデルムーラ氏は3月末、5歳以下の140万人の子どもが栄養不足だとし「対処しなければ35万人が夏までに命を落とす」と訴えた。(中略)

ソマリアでは降水不足の雨期が続いており、(中略)国連世界食糧計画(WFP)は「アフリカの角は1981年以来で最も乾燥した状態にある」と指摘した。(中略)

追い打ちをかけるのが、ロシアのウクライナ侵攻による穀物などの価格上昇だ。国連食糧農業機関(FAO)が8日発表した3月の世界の食料価格指数(2014~16年=100)は159.3と前月比17.9ポイント上昇した。穀物や植物油が大きく値上がりし、2カ月連続で過去最高を更新した。

ロシアとウクライナの小麦輸出は世界全体の3割を占め、アフリカには両国に依存する国が多い。FAOによるとソマリアは輸入小麦の9割、アフリカ東部のエリトリアは全量をロシアとウクライナに頼っている。(中略)

国際非政府組織(NGO)オックスファムは、ウクライナの戦闘による食糧供給の混乱について「最も貧しく弱い人々が真っ先にひどい打撃を被る」と指摘。「東アフリカに時間の猶予はない」と国際社会の支援を訴えた。

東アフリカではかねて食糧不安を高める混乱があった。エチオピアは20年からの反政府勢力との戦闘で、北部ティグレ州への食糧供給が著しく滞った。ケニアでは21年にかけてサバクトビバッタが大量発生し、農作物を食い荒らした。ソマリアでは政情の混迷が長引き、イスラム過激派の活動も活発になっている。

ただでさえサハラ砂漠以南のアフリカ諸国は、新型コロナウイルスで落ち込んだ経済の回復が鈍い。WFPは3月下旬に「世界的な供給不足で食糧の国際価格はさらに8~22%上がる可能性がある」との見方を示しており、輸入国の財政や家計をいっそう圧迫する可能性が高い。【2022年4月18日 日経】
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その後の合意でウクライナからの穀物輸出は再開されましたが、その合意延長にはロシアから異論も出ています。

****ロシア高官、穀物輸出合意「半分しか実施されず」 延長を疑問視****
ロシア高官は9日、ウクライナ産穀物の黒海経由での輸出を可能にした国際合意は「半分しか実施されていない」との見方を示した。

国連とトルコが仲介した「黒海穀物イニシアチブ」は昨年7月、ウクライナの3つの港から穀物を輸出することを可能にした。この合意は11月に120日間延長され、反対がなければ3月18日に延長されるが、ロシアはすでに、ロシアの輸出に影響する規制が解除された場合にのみ、延長に同意すると表明している。

ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は「最終的な受益者についてまだ多くの疑問がある。穀物の大半がどこに行くのかについての疑問もある」とした上で、ロシアの食料および肥料の輸出を促進する国連との覚書に関する疑問も「周知されている」と述べた。

ロシアのラブロフ外相は9日の記者会見で、ウクライナ産の穀物を安全に輸出することとロシアの輸出に対する障壁を取り除くことは「表裏一体」と指摘。前者は実施されており「われわれはトルコと共にこの点に関するあらゆる義務を果たしている」一方、後者は「全く実施されていない」とし、「半分しか実施されていないのであれば、延長に関する問題は非常に複雑化する」とした。(中略)

国連のグテレス事務総長は8日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、穀物輸出合意の延長を巡りゼレンスキー大統領と協議。国連貿易開発会議(UNCTAD)のレベッカ・グリンスパン事務局長は来週、ジュネーブでロシア高官と会談し、同合意の延長について協議する。(中略)

国連によると、ウクライナは同合意の下、これまでにトウモロコシと小麦を中心に2300万トンを超える穀物を輸出。主な輸出先は中国、スペイン、トルコ、イタリア、オランダとなっている。【3月10日 ロイター】
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ウクライナ産穀物輸出滞留 合意の延長交渉を前にロシアの圧力か 「来年も記録的な飢餓リスク」(WFP)

2022-10-25 22:50:47 | 食糧・飢餓
(ウクライナから穀物を運び出す貨物船(9月、トルコのイスタンブール)=ロイター【10月25日 日経】
9月始めに、ちょうどこのあたりを観光でクルーズしていましたが、そのときはウクライナからの穀物輸出のことなど念頭にありませんでした)

【イスタンブール 貨物船検査の遅れでウクライナ産穀物輸出が滞留 ロシアは合意離脱を警告】
今年の春から7月頃まで、世界的に大きな関心が寄せられていたのが穀物輸出大国ウクライナからの穀物輸出がロシア軍の海上封鎖などでストップし、同様に穀物及び肥料の輸出大国でもあるロシアも制裁等で輸出が滞り、ウクライナ・ロシアに食料を依存してきた多くの国々が食糧危機にさらされていた問題でした。

欧米では「ロシアが食糧を“武器”として使っている」との批判が高まりました。

その後、トルコの仲介もあって、7月22日に関係国が合意文書に署名することに。

****ウクライナ穀物輸出の再開合意、ロシア側に一定の配慮か…米は速やかな履行求める****
ロシア軍の黒海封鎖によりウクライナ産穀物の輸出が停滞している問題で、ロシア、ウクライナ、トルコ、国連の4者が22日、イスタンブールで海上輸送再開に向けた合意文書に署名した。各国は歓迎しているが、ロシアに確実な合意履行を求める声も出ている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日のビデオ演説で、「合意内容はウクライナの利益に全てかなうものだ」と評価し、昨年収穫した約2000万トンと、今年の収穫分で100億ドル(約1兆3800億円)相当の穀物の輸出が可能になるとの認識を示した。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は署名式で「(食糧危機で)破綻にひんしている途上国に安心をもたらす」と語り、穀物価格の安定化などにつながると強調した。

インターファクス通信によると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は署名式後、「ロシアは合意文書で十分明確に示された義務を負った」と述べた。一方、米国のブリンケン国務長官は22日の声明で「合意の履行が速やかに開始され、中断や妨害なしに進むことを期待する」とくぎを刺した。

合意にはロシア側の要求が一定程度盛り込まれた模様だ。ウクライナの穀物輸出拠点のオデーサ、チョルノモルシク、ユジニの計3港からの航路が確保され、輸送対象は、ウクライナ産穀物と食料に限定された。

航路の安全を維持するためイスタンブールに設置される「調整センター」が積み荷を検査する。ロシアは航路を通じてウクライナに武器が輸送されることを警戒しており、露側の条件に従ったものとみられる。

国連も合意の見返りをロシアに示した。露国防省は22日、ショイグ氏とグテレス氏が会談し、ロシア産の農産品と肥料の供給を促進することに関する協力覚書に署名したと発表した。

露産肥料などの輸出促進はウクライナからの穀物搬出と合わせた「パッケージ」として国連が合意を目指していた。

国連によると、国連貿易開発会議(UNCTAD)のレベッカ・グリンスパン事務局長の下に作業チームを設置し、加盟国や、金融、保険、物流などの民間部門と調整するという。【7月23日 読売】
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合意署名翌日の23日には、ウクライナ南部オデッサの港がロシア軍のミサイル攻撃を受けるなどの問題もありましたが、とにもかくにもウクライナ産穀物の輸出再開への道筋がひらけたことで、世界の関心も薄れていったようにも。

しかし、必ずしもウクライナ産穀物の輸出が順調に進んでいる訳ではないとの報道が。

****貨物船165隻超が足止め ウクライナ、ロシアを非難****
ウクライナ政府は24日、穀物の積み込みのため同国の港に向かっているトルコ発の貨物船165隻超について、ロシアが入港を故意に遅らせていると非難した。

ウクライナ外務省によると、ロシア側の検査官が貨物船の検査を大幅に長引かせている。その結果、「165隻超の船舶がボスポラス海峡付近で待機を余儀なくされており、その数は日を追うごとに増えている」という。

同省は、検査の遅れのためすでに300万トンの穀物が滞留しており、約1000万人分の食糧安全保障が脅かされていると警告した。

ウクライナ産穀物の輸出再開をめぐっては、世界的な食糧危機への懸念緩和に向けてトルコと国連の仲介によってロシアと合意。船舶の検査は合意に基づき実施されている。

合意の履行状況を監視するための共同調整センターによれば、合意が発効した8月1日以来、850万トンを超える穀物・食料品が欧州や中東、アフリカに向けて出荷された。 【翻訳編集】AFPBB News
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イスタンブールの国連広報官も24日現在で未登録も含めて計173隻が待機していることを認め、「船の遅れによって食糧供給や港での作業が途絶しかねない」としています。

また、合意の有効期間120日の期限が来月に迫っており、ロシアが延長に応じるかどうかが現在の焦点ともなっています。ウクライナ側は「ロシアが延長交渉で新たな利益を引き出そうとしている」と批判しています。

ロシアは合意の際、ロシアの肥料や穀物の輸出も円滑に進めるとする覚書を国連と交わしており、その実現状況をロシア側がどのように評価するかが延長交渉に影響します。

検査作業の遅延も、そうした延長交渉に向けた圧力とも推察されます。ロイター通信によると、ロシアは合意離脱を警告しています。事態に国連も危機感を深めています。

****国連、黒海輸出協定の滞留解消に向けた「緊急」措置求める****
国連の報道官は24日、黒海を経由するウクライナ産穀物輸出に関する協定に関わる150隻超の船の滞留を解消するため、「緊急」の措置が必要だと訴えた。

協定の完全な履行をロシアが妨げているとウクライナが非難していることを受けた発言となる。ロシアはこの協定に不満を示し、離脱すると脅している。

ウクライナを発着する穀物やその他の食料を運ぶ船舶はトルコの停泊地で、4者で構成する共同調整センター(JCC)のチームによる検査を受ける必要がある。

パラ国連報道官は「現在はイスタンブール周辺で150隻超の船舶が移動を待っており、こうした遅れは供給網や港の操業に混乱をもたらす可能性がある」と指摘した。

パラ氏によるとJCCは最近、検査チームを5つに増やした。

ロイターは先月、滞留が急増し、マルマラ海の停泊船がイスタンブールから視界に入らない沖合まで伸びていると報じた。

ロシア、ウクライナ、仲介のトルコと国連の4者は現在、協定の期限である11月19日以降の延長、拡大の可能性について交渉している。

パラ氏は「国連は毎日関係者を集め、(協定への)完全かつ誠実な参加、供給網が混乱しないような緊急の追加措置の必要性、そしてこの事業が必要な食料をより多く世界に届け続けることを訴えている」と説明した。【10月25日 ロイター】
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【ウクライナ産穀物の輸出は中東・北アフリカに特に影響】
ウクライナからの穀物輸出の影響を最も大きく受ける地域は、以前から指摘されているように中東・北アフリカです。食糧供給が滞れば政情不安を惹起します。また、紛争国への国際的食糧支援もウクライナ産穀物が大きな割合を占めています。

****ウクライナ危機「中東・北アフリカに特に影響」 WFP****
ロシアによるウクライナ侵攻が引き起こした世界的な食料危機について、国連機関は特に中東と北アフリカ地域で深刻になっているとして国際社会による支援の継続を訴えました。

WFP フライシャー 中東・北アフリカ・東欧地域局長  「価格高騰によって中東の人々は食卓に食べ物を並べることができません」

WFP=世界食糧計画の中東・北アフリカ地域の担当者らは12日、日本記者クラブで会見し、ロシアの黒海封鎖でウクライナ産穀物の輸出が滞ったことにより、食料の多くを輸入に頼る中東や北アフリカ地域が特に影響を受けていると強調しました。

これらの国々では穀物輸出が再開されたあとも通貨安によって調達コストがかさんでいると指摘。「飢饉が再び起こりかねない」などと訴え、国際社会による継続的な支援を呼びかけました。

また、これらの地域ではウクライナ情勢だけでなく長年にわたる紛争や新型コロナウイルスの感染拡大などによって、インフレや飢餓に陥っていると指摘。

イラク事務所の代表は、一因として気候変動問題を取り上げ、雨量の減少によって農業ができなくなった人々が都市部のスラム街に押し寄せていると窮状を訴えました。【9月13日 TBS NEWS DIG)】
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【世界的な食糧危機が長期化する恐れ 「来年も記録的な飢餓リスク」】
世界の食糧危機にとってウクライナ情勢はひとつの要因にすぎず、その他の天候・災害あるいは政情不安・紛争などによっても危機は深刻化しますが、現状は「来年も世界的に記録的な飢餓に陥るリスクがある」(WFP)という悲観的な状況のようです。

****「来年も記録的な飢餓リスク」 食糧危機長期化にWFPが警告****
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、世界的な食糧危機が長期化する恐れが強まっている。両国の穀物輸出が減少しているうえ、アジア・アフリカ諸国では肥料価格の高騰や洪水などの災害により農業生産が落ち込むとみられるためだ。国連世界食糧計画(WFP)は「来年も世界的に記録的な飢餓に陥るリスクがある」と警告し、さらなる支援を呼びかけている。

「ウクライナ侵攻による大きな問題は、肥料不足だ。来年にわたり食糧や換金作物の生産に影響するだろう」。WFPのクリス・ニコイ西アフリカ地域局長は24日、東京都内で日本メディアの取材に対し、危機感をあらわにした。

ロシアは化学肥料の主要輸出国だが、ウクライナ侵攻の影響で価格が高騰。西アフリカでは作付けが始まった4月時点で、通常の42%しか肥料が行き渡らなかったという。収穫量が減れば食糧危機に拍車がかかることになる。

アフリカ諸国では食糧の購入費を稼ぐため、出稼ぎに行く人も増えているという。だが、農業の担い手が農地を離れれば、農業生産の減少につながりかねない。ニコイ氏は「武力紛争も拡大しており、人の移動や生活の崩壊につながっている。農業や食糧輸送にも影響している」と懸念する。

災害や政情不安も食糧危機を加速させている。アフリカ諸国にも米を輸出していたパキスタンでは今夏、大雨による大規模な洪水が発生した。WFPのジョン・アリフ・アジア太平洋地域局長によると、少なくとも米の15%が被害を受けた。

アリフ氏は「輸出量が激減しても驚きはない」と指摘する。小麦も作付けシーズンを迎えたが、被災地では農作業が始まっていない地域も多いという。

アフガニスタンでは昨年8月、イスラム主義組織タリバンが復権し、政治や経済が混乱した。食糧危機も深刻さを極めており、国民の9割が十分な食事を取れていない状態が続く。

治安が安定したことでWFPの支援は全34州に届くようになったものの、タリバンが女子教育を制限しているため、学校給食の支援に影響が出ているという。

経済危機が続くスリランカでも食糧価格が前年比90%増に達し、国民の3割が食糧不足に苦しんでいる。こうした国々では医療費や教育費を取り崩したり、腎臓を売ったりして食糧購入に充てている人も少なくない。

家畜や農機具など、食糧生産に必要なものを売らざるを得ないケースも相次いでおり、食糧不足がさらなる農業生産の減少を招きかねない状況だ。

WFPによると、世界で深刻な飢餓に直面している人は昨年末時点では2億8200万人だったが、2022年はすでに過去最多の3億4500万人に増えた。

アリフ氏は日本が来年5月に広島で開かれる主要7カ国(G7)首脳会議で議長国を務めることに触れ、「WFPと日本はあらゆる面で協力を深めてきた。G7でも食糧問題にフォーカスしてくれると信じている」と訴えた。【10月25日 毎日】
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【食糧不安の状態は82カ国3.5億人にのぼり、そのうち45カ国で最大5000万人の命が風前の灯】
上記記事にもある西アフリカの状況については、以下のようにも。

****WFP担当者「西アフリカは最悪の食料危機」 日本に支援を呼びかけ****
世界的な食料価格の高騰が続く中、WFP(=国連世界食糧計画)の担当者が来日し、ロシアのウクライナ侵攻の影響で「西アフリカは過去10年で最悪の食料危機に陥っている」と訴え、日本に支援を呼びかけました。(中略)

国連世界食糧計画・西アフリカ地域局長クリス・ニコイ氏「ロシアとウクライナの戦争は、ただでさえ劣悪な西アフリカの食料事情をさらに悪化させた」

ニコイ氏は、世界がいま気候変動と紛争、新型コロナウイルス、食料と燃料コストの急激な上昇、という「4つのC」に直面していると警鐘を鳴らします。

中でも、西アフリカ地域では輸入のおよそ4割をロシアとウクライナからの製品などが占めていて、長期化する戦争がこの地域の食料供給に大きな打撃を与えているということです。

また、会見後に日本テレビのインタビューに応じたニコイ局長は、食料不安の要因の一つである気候変動が主に先進国によって引き起こされているとして、次のように訴えました。

国連世界食糧計画・西アフリカ地域局長クリス・ニコイ氏「親切心や寛大さからだけでなく、西アフリカのような場所で何が起こっているのか、日本人は自分のこととして関心を持つ必要がある」

WFPによりますと、西アフリカでは来年、食料危機に直面する人がさらに1000万人増える可能性があるということです。【10月24日 日テレNEWS】
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もちろん、飢餓の危機は西アフリカだけではありません。アフガニスタン、エチオピア、南スーダン、ソマリア、イエメン・・・・。

****WFPとFAO、世界的な食糧危機に警告****
世界食糧計画(WFP)と世界食糧農業機関(FAO)は、記録的な数の人々が飢餓に直面しているとして緊急人道支援の必要を訴えている。すでに以下の6カ国においては致命的な飢餓状態、または災害レベルの危機に9.7万人が瀕している。

アフガニスタン、エチオピア、南スーダン、ソマリア、イエメンにおけるこの数値は、5年前の10倍に上る。暴力と治安の問題をはらむナイジェリアの飢餓もまた同様の危機にある。

WFPとFAOの報告によれば、2022年10月から2023年1月までに失われる人命喪失の危機に対応するため、緊急人道支援は不可欠であり、そのための資金援助を呼び掛けている。

昨年末の時点で、すでに2.8億人が食糧不安の状態にあったが、現在その数は82カ国3.5億人にのぼり、そのうち45カ国で最大5000万人の命が風前の灯となっている。

WFP分析部門の発表は、このように語る。「世界は前例ない規模の食糧危機に直面している。現代史上最大の規模であり、今すぐ行動に移さなければ、数百万人が飢餓と死に直面する危機的状況にある。この危機が全世界の食糧事情と関連機関の対応能力を超える可能性は、いまや現実のものだ」

ソマリア、エチオピア東部と南部、ケニア北部と東部では、最大2600万人が深刻な食糧不安と飢餓に直面すると予想されている。資金と人材ふくむ資源不足が人道支援の妨げとなっている。

とくにソマリアは、この10年で3度目の飢饉に晒されている。気候変動による影響で干ばつが常態化しており、5年連続で雨季の喪失が予測されている。それにもかかわらず食糧価格は高騰し、パンデミック後の収入機会の見通しが立っていないからだ。

またコンゴ、ハイチ、ケニア、サヘル、スーダン、シリアは懸念地域としてみなされている。状況が悪化すれば、人命を脅かす段階へと移行する地域である。

その他、地域紛争と暴力が飢餓の主たる要因となっている。洪水、熱帯性暴風雨、干ばつなどの極端な気候も多くの地域での潜在的危機であり、飢餓対策においても「ニューノーマル」が掲げられる必要がある。【10月24日 Hunger Zero】
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食糧危機  ウクライナ戦争の長期化で深刻化 頭越しのトルコ仲介にウクライナは警戒感

2022-06-14 22:27:52 | 食糧・飢餓
(【6月13日 産経】)

【長期化する戦争で深まる食糧危機】
ウクライナの戦況については、ここ数日、東部におけるロシア軍の攻勢、ウクライナ側の苦戦を報じるニュースが溢れています。

“ウクライナ軍、東部拠点中心部から撤退=セベロドネツク、近く完全包囲も”【6月13日 時事】
“ロシア軍、ウクライナ東部の要衝都市制圧へ新たな大隊配備を準備か…孤立させるため橋も破壊”【6月13日 読売】
“ウクライナの砲弾不足鮮明に 東部苦戦の主因と米側分析”【6月14日 産経】
“セベロドネツク攻防戦で「恐るべき」人的損失 ウクライナ大統領”【6月14日 AFP】
“ロシア軍、ハリコフで占領拡大 数週間ぶりと英国防省”【6月14日 共同】
“ハリコフ無差別攻撃で数百人犠牲 ロシア軍、クラスター弾使用か”【6月14日 共同】
“「投降するか、死ぬか」親ロ派 “最後の拠点” 橋を全て破壊され…500人が退避困難に ウクライナ情勢”【6月14日 TBS NEWS DIG】

今後の展開はわかりませんが、ウクライナ側が一気にロシア軍を追い出す、あるいは、ロシア軍が内部崩壊するという期待は薄れ、戦闘は長期化するものと思われます。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領はこの苦境をはね返すためには更なる武器支援が不可欠だと、欧米への支援を強く要請していますが、戦争が長引き、その影響が自国に及ぶにつれ、支援する欧米側にも「ロシアへの勝利」よりは「早期の停戦」を優先する考えも強まり、支援国内部に温度差が生じていることはこれまでも取り上げてきました。

さらに世界全体で見ると、有力な穀物輸出国であるウクライナ・ロシアの戦争により、食糧不足・飢餓・食品価格上昇の脅威が現実のものとなりつつあります。特に、ウクライナ穀物の黒海沿岸からの輸出がストップしていることが大きな問題となっています。

****ウクライナ侵攻で食糧危機深刻化 「世界で16億人が影響」と国連発表****
国連はウクライナ侵攻で深刻化する食糧危機をめぐり、世界で16億人が影響を受けていると発表しました。

国連 グテーレス事務総長「この戦争は他の危機とあわさり、社会的・経済的混乱を招くような前例のない飢餓や貧困の波を引き起こすおそれがある」

国連は8日、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす食糧やエネルギー、金融危機に関する報告書を発表しました。

この中で、世界94か国、およそ16億人が影響を受けていると指摘。ロシアによる黒海の海上封鎖で、世界有数の穀物輸出国であるウクライナの穀物が輸出できないことが要因の1つとしています。

グテーレス事務総長は、戦時であっても「ウクライナ産の食糧やロシアが生産する肥料が、世界の市場に戻されなければいけない」と強調しました。【6月9日 TBS NEWS DIG】
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【制裁緩和に食糧危機を利用したいプーチン大統領】
食糧危機、それに伴う混乱はロシア・プーチン大統領の戦略だとの指摘も。

****途上国を兵糧攻めにしてEUに難民危機を引き起こすプーチンの「飢餓計画」****
<ロシアによる海上封鎖はウクライナ産穀物に依存する国々やEUを巻き込む「飢餓計画」の一環だ>

ウクライナ侵攻中のロシアが黒海を封鎖している問題について、エール大学の歴史学者ティモシー・スナイダー教授はその意図は「難民を生み出すこと」、さらにはEU域内を不安定化させることにあると分析した。
「プーチンの飢餓計画には、ウクライナ産の食糧に依存している北アフリカや中東からの難民を生み出し、EUを不安定化を生み出す意図もある」とスナイダーは11日、ツイッターに投稿した。

ウクライナは世界有数の穀物輸出国だ。ロシアによる黒海の海上封鎖は、ウクライナからの輸入穀物に大きく依存している少なからぬ国々の食糧供給を脅かしている。

スナイダーはまた、もし海上封鎖が続けば「数千万トンに及ぶ食糧が貯蔵庫の中で腐ることになり」、その結果、アフリカやアジアで数多くの人々が「飢えることになるだろう」と警告した。

黒海に面したウクライナ南部オデーサ州のアラ・ストヤノワ副知事も、海上封鎖によってウクライナの穀物が滞留し、世界各地の食糧不足に拍車をかけることになると警告している。

世界に対するプーチンの「恐喝」
「プーチンの狙いは貧しい国々を飢餓に追い込むことだと私は思う。ウクライナの港を封鎖することで、彼は世界を恐喝しているのだ」と、副知事は先月、英紙テレグラフに掲載されたインタビューで述べている。

テレグラフによれば、オデーサを初めとするウクライナの港には通常、1日あたりコンテナ3000個の分の穀物が鉄道で到着し、大型の貯蔵庫に一時保管されるという。

世界では今年に入り、2億7600万人近い人々が深刻な飢餓を経験している。もしウクライナ侵攻が続けば、深刻な飢餓を経験する人の数はさらに4700万人上乗せされるかも知れない。

特に危惧されるのはサハラ砂漠以南の地域だ。
先月、国連安全保障理事会では、ウクライナからの穀物輸出が大きく減少したことで、イエメンやナイジェリア、南スーダン、エチオピアなどの国々が食糧危機のリスクにさらされていると指摘された。

国連世界食糧計画(WFP)も先ごろ、ウクライナの港への封鎖が解かれなければ世界中で数多くの人々が「飢えに向かって突き進む」ことになるだろうと警告を発した。

前出のスナイダーはツイッターで、世界各地で飢餓が起きる懸念も表明した。プーチンは「飢餓計画」に基づき、「欧州における戦争の次の段階として、発展途上国の大半を飢えさせる」準備をするかも知れないと言うのだ。

「プーチンの飢餓計画はあまりに恐しく、理解しがたいものがある。われわれは、食糧が政治における中心課題であることを忘れがちだ」とスナイダーはツイートした。

「何より恐ろしいのは、世界規模の飢餓がロシアの反ウクライナのプロパガンダ活動にとり必要な背景だということだ。実際に大量の死者が出ることが、プロパガンダ合戦の背景として必要なのだ」

飢えた国々で暴動や抗議が激しくなれば、ロシアはそれをウクライナの責任にして占領を正当化するつもりだとスナイダーは書いている。本誌はロシア外務省にコメントを求めたが回答は得られていない。【6月13日 Newsweek】
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ロシア・プーチン大統領としても食糧危機・飢餓の「犯人」扱いされるのは望ましいものではないでしょうから、そこまで明確な意図を持って現在の危機を作り出しているとは思いませんが、この危機を利用して、ロシアに対する制裁圧力を弱めようと考えている・・・ということはあるでしょう。

【ロシア・トルコで話が進む現状にウクライナは反発】
こうしたなか、世界貿易機関(WTO)の最高議決機関となる閣僚会議が12日、スイス西部ジュネーブのWTO本部で4年半ぶりに始まり、ロシアのウクライナ侵攻で懸念が高まる食料危機への対応が協議されました。

****WTO閣僚会議、食料安保巡る合意案議論 インドなど支持留保****
世界貿易機関(WTO)の閣僚会議は13日、ロシアによるウクライナ侵攻で脅かされる食料安全保障について議論した。食料の供給制約と価格高騰への対策に関する合意を目指したが、インド、エジプト、スリランカが支持を見送ったため、結論を持ち越した。会議は15日まで開かれる。

議論した2つの合意案の一つは、市場開放を継続し、輸出規制を設けずに透明性を高めるという内容の閣僚宣言で、もう一つは紛争や災害、気候変動が直撃した地域で食料支援を行う世界食糧計画(WFP)への輸出制限を禁止する措置で法的拘束力を伴う。

国際通貨基金(IMF)によると、約30カ国が食料品、エネルギー、その他の資源の輸出を制限している。

WTOの報道官によると、エジプト、インド、スリランカ以外の加盟国は合意文書案に支持を表明。食料の純輸入国であるエジプトとスリランカは、食料輸出能力に限界があるとの認定を求めている。

インドは途上国による食料品備蓄について、農家支援に関するWTOのルールの適用除外として容認することを求めている。2013年に時限的に適用除外が認められた経緯がある。ゴヤル商工相は適用除外を得ることが閣僚会議における「最優先課題」だと強調した。【6月14日 ロイター】
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安くなったロシア産石油を爆買いするなど「自国第一」を鮮明にしているインドは、小麦についても5月14日、輸出の一時停止を発表していますが、上記の輸出規制を設けないという議論に抵触しないのでしょうか?

いずれにしても、危機的な現状に対する即効性のある対処法の実現は、黒海封鎖しているロシアの意向にかかっています。
トルコ・エルドアン大統領がここでも仲介に動いていますが、頭越しに決められることへのウクライナの反発もあるようです。

****ウクライナ「排除」に反発 穀物問題で思惑交錯****
ロシアの軍事侵攻を受けてウクライナの穀物輸出が停滞している問題で、国際社会が探っている輸出再開の方策に当のウクライナが神経をとがらせている。

穀物輸出再開の枠組みがウクライナの頭越しに決められたり、ロシアへの制裁圧力が弱められたりすることを警戒しているためだ。世界的な食糧危機の懸念が深まる中、この問題では関係諸国の利害が複雑に交錯している。

「(穀物輸出枠組みの構築に向けた)各国の協議や努力を歓迎するが、前提が一つある。わが国の安全が完全に保証されることだ」
ウクライナのクレバ外相は8日の記者会見でこう力説した。念頭にあったのは同日、穀物問題をめぐってトルコのチャブシオール外相とラブロフ露外相が会談したことだ。トルコはロシアとウクライナを仲介する用意があるとしつつ、米欧などによる対露制裁の解除に賛意を示した。

米欧は世界有数の穀物輸出国であるウクライナをめぐり、輸出拠点だった黒海沿岸の港を海上封鎖しているとしてロシアを批判してきた。これに対してプーチン露政権は、対露経済制裁が世界の食料価格高騰を招いているとして制裁解除を要求している。

露主要銀行を対象とした金融制裁により、米欧が穀物を含む各分野でロシアとの取引を控えている。プーチン政権は、制裁がなくなればロシア自身が穀物輸出を増やし、食料価格を抑制できると主張している。制裁によるロシアの経済的疲弊を待つウクライナにとっては決して容認できない。

プーチン政権は、ウクライナが露占領下にあるウクライナ南東部のマリウポリやベルジャンスクから穀物を輸出するよう水を向けるが、被占領地からの輸出はロシアによる実効支配の既成事実化につながる。

ロシアとウクライナが黒海沿岸に敷設したとされる機雷の除去も難題だ。ロシアはウクライナの機雷を問題視して批判を強めているが、ウクライナとしては、機雷が除去されれば露軍の南部への上陸が容易になってしまう。クレバ外相が「安全の保証」を強調するのはこのためでもある。

トルコは国連とも協力し、ウクライナの穀物輸出に向けた安全な航路の設置を急ぐとしている。だが、具体的な方策はまだ見えてこないのが実情だ。穀物輸出の問題は、今月下旬に予定される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でも主要議題となる。

アフリカ連合(AU)の議長国セネガルのサル大統領は、3日に訪露してプーチン氏と会談し、対露制裁解除の必要性に言及した。アフリカや東南アジアには飢餓や食糧危機への懸念を強めている国が多く、「背に腹は代えられない」との事情でロシア寄りの立場をとる可能性がある。

ウクライナと良好な関係にあったトルコもここにきて、経済や安全保障の観点からロシアに重心を移している感が強い。

トルコ高官が語ったところでは、天然ガスで国内需要の45%、ガソリンで40%をロシア産でまかなうなど、エネルギー面でトルコの対露依存度は高い。シリアやリビアの内戦ではトルコとロシアがそれぞれ敵対する勢力を支援しており、対露関係が悪化すると地域情勢に影響する事情がある。

ロシアが反発しているスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請でも、トルコはロシアに理解を示して両国の加盟に反対している。【6月13日 産経】
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東部戦況の優勢に加え、石油・ガスで欧州を分断し、食糧でアフリカや東南アジアを引き寄せる・・・となれば、プーチン大統領としては侵攻当初の失敗からやや態勢を立て直すことにも。
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ウクライナ侵攻で食糧危機深刻化 黒海港湾からのウクライナ食糧輸出再開などトルコ仲介で協議

2022-06-09 23:10:36 | 食糧・飢餓
(ソマリアの首都モガディシオで小麦粉を買う女性ら。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、アフリカ地域では小麦粉の値段が45%上昇している(5月26日、AP)【6月4日 読売】)

【ウクライナ発の食糧危機 世界94か国、およそ16億人が影響を受けている】
ウクライナでの戦争は当事国だけでなく世界全体に多大な影響を及ぼしていますが、現在(というより、侵攻当初からですが)喫緊の課題となっているのが食糧危機の深刻化。

ロシアとウクライナの小麦供給量は合計で世界の約3分の1を占めているほか、ウクライナはトウモロコシ、大麦、ヒマワリ油、菜種油の主要輸出国。また、農作物の肥料に使われるカリウム(ポタッシュ)の世界的な供給ではロシアとベラルーシが合計で40%以上を占めています。

****ウクライナ侵攻で食糧危機深刻化 「世界で16億人が影響」と国連発表****
国連はウクライナ侵攻で深刻化する食糧危機をめぐり、世界で16億人が影響を受けていると発表しました。

国連 グテーレス事務総長「この戦争は他の危機とあわさり、社会的・経済的混乱を招くような前例のない飢餓や貧困の波を引き起こすおそれがある」

国連は8日、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす食糧やエネルギー、金融危機に関する報告書を発表しました。

この中で、世界94か国、およそ16億人が影響を受けていると指摘。ロシアによる黒海の海上封鎖で、世界有数の穀物輸出国であるウクライナの穀物が輸出できないことが要因の1つとしています。

グテーレス事務総長は、戦時であっても「ウクライナ産の食糧やロシアが生産する肥料が、世界の市場に戻されなければいけない」と強調しました。【6月9日 TBS NEWS DIG】
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【アフリカ連合議長国 穀物輸出「制裁対象から外すべき」】
もともと食糧事情が悪いアフリカや、ウクライナ・ロシアからの食糧輸入に頼る中東などでの影響が特に大きいと見られていますが、そのアフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領が6月3日、ロシアを訪問してプーチン大統領とロシア南部ソチで会談し、食糧供給事情の改善を訴えました。

私はてっきり、ロシアに苦情を申し入れに行ったのか・・・と思ったのですが、そんな会談をプーチン大統領が受けるはずもなく、実際のところはサル大統領はロシア産穀物を制裁対象から外すべきとのロシアの主張に沿った考えで、ロシアとしてはアフリカとの深い関係をアピールした場ともなっています。

****穀物輸出「制裁対象から外すべき」プーチン氏との会談で アフリカ連合議長国****
ロシアのプーチン大統領とアフリカ連合議長国であるセネガルのサル大統領が会談し、サル大統領はロシアやウクライナからの穀物輸出のため「制裁の対象から外すべきだ」と語りました。

プーチン氏は3日、ロシア南部ソチでアフリカ連合議長国であるセネガルのサル大統領と会談を行いました。

ロシア プーチン大統領 「我々は常にアフリカの側に立ち、植民地主義との戦いでアフリカを支援してきた」

ウクライナ侵攻をめぐり、アフリカなどで食糧危機への懸念が高まる中、サル大統領は「ロシアへの制裁は状況をさらに悪化させ、食糧安全保障にも影響を及ぼしている。穀物と肥料は制裁対象から外すべきだ」と語りました。

プーチン氏はこれまで穀物などを輸出する用意はあるがそのためには「制裁の解除が必要だ」と主張していて、サル氏の発言はこれに呼応した形となります。

ロシアとしてはアフリカとの関係をアピールし、欧米をけん制する狙いがあるとみられます。【6月4日 TBS NEWS DIG】
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ロシアとアフリカ諸国のつながりはかねてより指摘されるところですが、アフリカ諸国は欧米への不満も強く、国連でのロシア非難決議などでも欧米の主張とは一線を画しています。

****ウクライナ侵攻でもロシアは国際的に孤立していない…新経済秩序が構築される可能性も****
(中略)
前述の(ロシア軍の即時撤退を求める)国連決議を棄権した東アフリカ・ウガンダのムセベニ大統領は、ウクライナを巡る西側諸国とロシアの対立について「アフリカは距離を置く」と表明した(3月18日付日本経済新聞)。

歴史的にアフリカを搾取してきた西側諸国がウクライナだけに肩入れするのは「ダブルスタンダード」だというのがその理由だ。  

同じく国連決議を棄権した南アフリカのラマポーザ大統領も17日、ウクライナにおける戦争についてNATOを非難し、「ロシア非難の呼びかけに抵抗する」と述べた。  

アフリカでは難民や人道危機における国際社会の対応が「人種差別的」だと不満の声も上がっているが、中東でも「西側諸国のウクライナへの対応が中東に向けられた態度とあまりにも違う」との不信感が強まっている(3月8日付ニューズウィーク)。(後略)【3月26日 デイリー新潮】
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【ロシア・プーチン大統領 「誤った」欧米の経済政策や対ロシア制裁のせい】
とは言え、食糧危機が更に深刻化してロシアの「悪者」イメージが強まるのはプーチン大統領としても避けたいところでしょう。

プーチン大統領は食糧危機はロシアのせいではなく、「誤った」欧米の経済政策や対露制裁のせいだと主張しています。また、ウクライナが黒海港湾からの穀物輸出ができなくなっていることに関してもウクライナ側の機雷設置を非難しています。

ウクライナ国営通信などによると、ロシア軍の黒海封鎖の影響で最大2500万トンの穀物輸出が停滞しており、秋には7500万トンに達する恐れがあるとされています。

****プーチン氏、食料危機は「ロシアのせいでない」 米欧の制裁批判****
ロシアのプーチン大統領は3日、国営放送のインタビューで、ウクライナ侵攻を受けて食料価格が上昇している問題について「ロシアのせいではない」との持論を展開し、「誤った」欧米の経済政策や対露制裁の影響を強調。ウクライナ軍が「港の入り口に機雷をしかけた」とも訴え、ロシア軍による海上封鎖への国際的な非難に反論した。

プーチン氏はインタビューで、新型コロナウイルスの流行後に米国が大規模な金融緩和に踏み切ったことで「食料の価格が上昇した」と主張。

さらに、欧州諸国がロシアとの天然ガス供給の長期契約を結ばなかったことなどによりガスの価格も上昇し、肥料の生産コストも増大したとし、「ロシアの軍事作戦とは全く関係がない」と強弁した。米欧による経済制裁も肥料不足の一因として「近視眼的で愚かな政策」と断じた。

ロシア海軍が展開する黒海の港からウクライナ産の穀物などが輸出できなくなっている問題については、「我々は国際水域の平和的な航行を保証する」と強調。露軍が機雷を敷設しているとされるが、その点には触れなかった。また、ウクライナが周辺国経由で穀物を輸出できるとも指摘し、「穀物搬出に問題はない」とも述べた。

ロシアによるウクライナへの侵攻後、民間の船舶が周辺で砲撃などを受ける被害が相次ぎ、ウクライナの港から外国船が出航できなくなっている。ウクライナや欧米諸国はロシア軍が「船舶の航行を妨害している」と訴えている。【6月4日 毎日】
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【注目されるトルコ仲介の協議】
この状況で、ロシア・ウクライナ双方と関係を持つトルコの仲介外交が注目されており、国連も含めて協議が進んでいます。

****プーチン氏、穀物輸出に「ウクライナが機雷除去」の条件提案…黒海封鎖で世界的食料危機****
穀物大国ウクライナに侵攻しているロシア軍が、輸出拠点の黒海沿岸を封鎖していることに伴う世界的な食料危機の解消に向け国連を交えた関係国の駆け引きが活発化している。

ロシア、ウクライナ両国と関係が良好なトルコが仲介に乗り出している中、セルゲイ・ラブロフ露外相が8日にトルコを訪問することになり、協議の行方が注目される。
 
穀物輸出問題を巡っては、トルコが5月末、自国とウクライナ、ロシア、国連が参加して監視センターをイスタンブールに設置することを提案している。ウクライナのドミトロ・クレバ外相も5月末、有志国の海軍が参加する国連主導の船団結成で海上交易の安全を確保する案を示していた。
 
こうした関係国の動きの中、プーチン露大統領は3日放映の露国営テレビとのインタビューで、穀物輸出を認める条件付きの提案を示した。ウクライナが黒海の機雷を除去することを条件に、南部オデーサ港などを利用しても「安全な航行を保証する」と述べ、南東部マリウポリなどロシアの管理下にある港から輸出する方法にも言及した。
 
同盟国ベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する案が「一番簡単で安価だ」とし、条件として、欧州連合(EU)の対ベラルーシ制裁解除を挙げた。こうした案は2、3日にモスクワを訪問していたマーティン・グリフィス国連事務次長にも説明したとみられる。
 
プーチン氏は3日、露南部ソチで会談したアフリカ連合(AU)議長国セネガルのマッキ・サル大統領から、深刻な食料危機に向けた対応を求められていた。国際社会でのさらなる孤立につながらないよう調整に乗り出す姿勢を示した模様だ。
 
プーチン氏にとっては、露軍が占拠する港湾でウクライナの穀物を扱うこととなれば、支配の既成事実化につながる。ウクライナやEUが条件付きの露側の提案を受け入れる可能性は低いとみられる。

しかし、ウクライナも穀物輸出の停滞によって深刻な打撃を受けている。今後もトルコなどを巻き込んだ打開策の議論が続くものとみられる。【6月4日 読売】
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【機雷除去をめぐるロシア・ウクライナの対立】
上記にもあるように6月8日、ロシアのラブロフ外相がトルコを訪問し、チャブシオール外相とウクライナからの穀物輸出の問題で協議しています。ラブロフ外相は、これまでのロシア主張に沿って、オデーサにおけるウクライナの機雷除去を求めています。

****ウクライナ穀物輸出 ロシアが「港の機雷除去せよ」 ロシア・トルコ外相会談****
ロシアのラブロフ外相は、ウクライナからの穀物の輸出について、「ウクライナ側が機雷を除去すれば、安全な海上輸送をロシアが保証する」と述べた。

ロシアのラブロフ外相は8日、訪問先のトルコの首都アンカラでチャブシオール外相と会談した。
その後の共同記者会見でラブロフ外相は、ウクライナから穀物が輸出できないため、アフリカを中心に食糧危機が懸念されている問題について、「ウクライナ側が港に設置しているとされる機雷の除去が必要だ」と指摘、「機雷が除去されればプーチン大統領が穀物の輸出を保証する」と述べた。

ラブロフ外相「(解決策は)機雷を取り除くか安全な航路を示すかだ。それ以上は必要ない」

一方、トルコのチャブシオール外相は、穀物輸出の正常化に向け、国連を含めた枠組みを作る必要があると述べた。
また、ウクライナの外相は、海上輸送の安全を保証するというラブロフ外相の発言は信用できないとの立場を示した。【6月9日 FNNプライムオンライン】
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ウクライナは機雷除去すればロシア艦隊がすぐに押し寄せると、除去を拒否しています。

****ウクライナ、オデーサ港周辺の機雷除去せず****
ウクライナは8日、穀物を輸出するために機雷を除去すればロシアの攻撃を受ける恐れがあるとして、南部オデーサの港周辺で機雷掃海を実施しない方針を明らかにした。
 
オデーサ州のセルヒー・ブラチュク報道官はSNSに投稿した動画で「港への出入りを可能にすれば、たちまちロシア艦隊が現れるだろう」と述べた。
 
ブラチュク氏は、ロシア軍がオデーサへの攻撃のチャンスをうかがっており、同市への空挺(くうてい)部隊の降下を想定していると指摘した。 【6月9日 AFP】AFPBB News
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トルコのチャブシュオール外相はロシアのラブロフ外相と会談後、ウクライナや国連も交えた協議を行うことを提案しています。

国連のグテーレス事務総長は人道担当のグリフィス国連事務次長と、国連貿易開発会議のグリンスパン事務局長が交渉に当たっているとしたうえで、「これ以上公の場で話すことは、成功のチャンスを危うくする。数百万人の安泰がここにかかっている。いまは静かな外交が必要な時だ」として交渉の詳細は明らかにしていません。

ウクライナは、自国抜きに行われる協議がロシアのペースで進むことを警戒しており、ウクライナを交渉に加えることも求めています。

****「ウクライナの利益、考慮しない合意は拒否」…自国抜きのロシア・トルコ外相会談に反発****
ウクライナ外務省は7日、ロシア軍の黒海封鎖で穀物輸出が停滞している問題を巡り、ロシアとトルコの外相会談を前に声明を出し、「ウクライナの利益を考慮しない合意は拒否する」と強調した。ウクライナは、自国抜きに行われる協議がロシアのペースで進むことを警戒しており、ウクライナを交渉に加えることも求めた。(後略)【6月8日 読売】
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なお、ロシアのショイグ国防相は7日、ロシア軍が制圧したウクライナのベルジャンスク港とマリウポリ港の地雷撤去作業が終了し、穀物輸出を再開する準備が整ったと述べています。

【ベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する方法も】
黒海・オデーサからの輸出が難しい状況で選択肢のひとつにあがっているのが、プーチン大統領が推奨するベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する案。ベラルーシ・ルカシェンコ大統領は自国への制裁が解除されるなら協力するとしています。

****ベラルーシ、ウクライナ穀物の経由認める用意 制裁解除なら****
 ベラルーシのルカシェンコ大統領は、バルト海の港から同国製品の出荷が可能になれば、ベラルーシ経由でウクライナの穀物をこれらの港に運ぶことを認める用意があると表明した。国営通信ベルタが報じた。

主要な穀物輸出国であるウクライナはロシアによる2月24日の侵攻以降、黒海の港を使用できなくなっている。

食料危機が差し迫る中、ベラルーシ経由でのウクライナ産品の輸出は国連が主導する協議で選択肢の一つとなっている。

ベルタによると、ルカシェンコ氏は3日、国連のグテレス事務総長と電話会談し、この選択肢に前向きな姿勢を示し、ベラルーシとウクライナ、および自国の港へのアクセスを提供する用意のある国々の間で協議を行うことを提案した。

その上で、「同時に最も重要なことはドイツやポーランド、バルト三国、ロシアの港がベラルーシ製品にも開放されることだ」と述べた。

主要なカリ肥料生産国であるベラルーシは、2021年から22年にかけて西側の厳しい制裁を受けバルト海を経由した肥料輸出が停止されている。【6月6日 ロイター】
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【今後の食糧生産を危うくするロシア・ベラルーシからの肥料供給停止】
現在の食糧危機を解決するための穀物輸出と同時に、これからの食糧生産を左右する肥料の問題も重要です。

****世界的な食料危機が迫っている、ウクライナ侵攻で肥料が不足****
世界の肥料不足なんて他人事だ。そう思ってはいないだろうか。もしもあなたが北米、ヨーロッパ、中南米、またはアジアでこれを読んでいるならば、今日生きていられるのは化学肥料のおかげである可能性が高い。
 
著名なエネルギー研究者であるカナダのバクラフ・スミル氏によれば、人類の5分の2にあたる30億人以上が化学(窒素)肥料によって生かされている。現在、これらの肥料が足りなくなっており、世界中の農家、肥料会社、政府が、作物収量の激減を避けようと躍起になっている。
 
1年以上にわたって様々な出来事で打撃を受け続けてきた肥料業界にとって、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻はボディブローとなった。オランダの金融大手ラボバンクによると、ロシアは世界の窒素肥料の20%近くを輸出し、制裁を受けた隣国ベラルーシと合わせて世界のカリウム輸出シェアの40%を占めている。欧米の制裁とロシアの肥料輸出規制のせいで、そのほとんどは農家にとって入手不可能になっている。(中略)

コロナで低迷していた産業活動の回復と、世界的な食用穀物の在庫不足が相まって、肥料の需要は一気に高まった。一方、供給側は、次々と起こる異常気象に打ちのめされてきた。(中略)

「それだけではありません」と(窒素肥料製造の世界大手である米CFインダストリーズ(CFI)の上級副社長)フロスト氏は言う。「中国とロシアが肥料の輸出規制を始めたのです。中国は

世界の尿素(窒素肥料の1つ)の10%を輸出していたのに、それがゼロになりました。そこにロシアのウクライナ侵攻が重なり、まさに最悪の状況です」

中南米の状況:世界の食料の一大生産地に打撃
北米の農家は、たとえ大金を払ってでも今季に必要な肥料を手に入れるだろうとフロスト氏は言う。しかし、最も大きな影響を受けるのは中南米の国々だ。特にブラジルは、肥料の約85%を輸入に頼っており、そのうち4分の1はロシアからの輸入だ。
 
ブラジルの農家が肥料を減らし、収穫量が落ちれば、世界の食料供給に大きな影響を与えるおそれがある。米農務省が2022年3月に発表した報告書によると、ブラジルは大豆、トウモロコシ、砂糖、牛肉、鶏肉、豚肉の輸出で世界のトップ3に入る。(中略)

世界の食料供給にとってロシアの肥料は非常に重要であるため、バイデン米政権は3月下旬、一連の対ロシア制裁の中で肥料や農産物を対象外とした。今でも金融制裁は輸送の妨げになっているが、専門家らはこの動きが世界の食料価格の上昇圧力を緩和することを期待している。(後略)【6月1日 ナショナル ジオグラフィック】
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本来であれば、食料価格が上昇すれば生産も拡大し、価格上昇圧力が緩和されるはずですが、肥料価格が上昇していることで生産拡大が阻害され、食料価格上昇も緩和されないという事態も懸念されています。

ヨーロッパのウクライナで起きている危機の連鎖は、食糧にしろ、エネルギーにしろ、グローバル経済の中で生きる今日の世界全体に及びます。

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食料品価格高騰  その元凶と非難されるロシア 食料船の人道回廊提供の用意表明 インドの輸出制限

2022-05-25 22:24:37 | 食糧・飢餓
(ウクライナ黒海沿岸の港湾都市オデーサの埠頭近くに立つ倉庫やサイロ=3月17日撮影【5月7日 CNN】)

【食料供給を「武器」として利用していると非難されるロシア 人道回廊提供の用意を表明】
****ロシア、食料船のウクライナ出港で人道回廊提供の用意****
ロシア政府は、食料を積んだ船がウクライナを出発するための人道回廊を提供する用意があると明らかにした。インタファクス通信が25日、ルデンコ外務次官の話として伝えた。(後略)【5月25日 ロイター】
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食料品価格の高騰で、世界の貧困層は飢えの危機にさらされ、一部の国では政情も不安定化している・・・その食料品価格高騰を加速させているのが穀物輸出大国ウクライナでの戦争、ロシアへの制裁である・・・といった話は連日報じられています。

もともと食料品価格は昨年末段階から、天候関連の要因やコロナ禍からの回復需要急増などで、その高騰が懸念される状態にありましたが(価格上昇自体はその前から)、今年2月末のウクライナ戦争によって危機感は更に大きなものとなっています。

****世界で食料品の価格が高騰 主な原因と今後の展望まとめ****
世界で食糧価格が高騰を続けている。主な原因と今後の見通しを整理した。

なぜ食料価格は上昇しているのか
グローバルな食料価格が上昇を始めたのは2020年半ば、各国企業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのために活動を停止し、サプライチェーンが圧迫されたことによるものだ。

農産物をスーパーマーケットまで運ぶトラック輸送が利用できなくなったため、農家は牛乳を廃棄し、果実や野菜は腐るままとなり、消費者が食料の備蓄に走ったことで価格は高騰した。ロックダウンによる移動制限で移民労働者が不足したことも、世界的な収穫低下につながった。

その後も、世界各地で主要農産物に問題が発生した。大豆輸出量で世界首位のブラジルは、2021年に深刻な干ばつに襲われた。中国における今年の小麦収穫量は、これまででも最悪の部類に入る。

パンデミックの中で食料安全保障への関心が高まったことで、将来的な欠乏に備えて主要穀物の備蓄を積み上げた国もあり、グローバル市場への供給が絞られた。

2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、食料価格の展望を急激に悪化させた。
国連食糧農業機関(FAO)によれば、食料価格は2月に過去最高を記録し、3月にはさらに記録を更新した。ロシアとウクライナを合わせた小麦と大麦の生産量は世界の3分の1近くに達し、調理用のひまわり油の輸出量では世界の3分の2を占めている。ウクライナはトウモロコシ輸出量で世界第4位だ。

今回の紛争によりウクライナの港湾や農業インフラが打撃を受け、今後数年にわたり、同国の農業生産が制約される可能性は高い。
一部のバイヤーは、西側諸国による制裁を理由に、ロシア産の穀物の購入を控えている。

インドネシアは4月末、調理用油の国内供給を確保するため、パーム油の輸出をほぼ全面的に禁止した。ケーキからマーガリンに至る食品全般で使われている食用油に関して世界最大の生産国からの供給が途絶えたことになる。
(筆者注:インドネシアのジョコ大統領は5月19日、輸出を禁止して3週間になるパーム油を23日から輸出できるようにすると発表しています。)

食料価格のうち最も上昇しているのは何か
パンデミックの期間を通じて、植物油の価格高騰が全般的な食料コストの上昇につながった。また、ウクライナでの戦争によりトウモロコシと小麦の出荷が制約された結果として、3月には穀物価格もやはり過去最高を記録した。

FAOによれば、4月には乳製品と食肉の価格も過去最高に達した。タンパク源へのグローバルな需要増大が続いており、またトウモロコシと大豆を中心とする家畜飼料の価格が高止まりしていることを反映している。さらに、欧州と北米における鳥インフルエンザの発生により、鶏卵や鶏肉の価格にも影響が出ている。

米国における3月のインフレ率を見ると、食肉、鶏肉、魚介類、鶏卵の指数は1年前に比べ14%、牛肉は16%上昇している。

食料価格はいつ下がるか
何とも言えない。農業生産は天候など予測困難な要因に左右されるからだ。国連のグテレス事務総長は5月初め、ウクライナの農業生産と、ロシア産食料と肥料の世界市場への供給が回復しないかぎり、グローバルな食料安全保障の問題は解決できないと述べている。

世界銀行は、2022年の小麦価格は40%以上上昇する可能性があると予測している。世銀では2023年には前年に比べ農産物価格が下落すると見ているが、アルゼンチンやブラジル、米国からの穀物供給が増大することが前提であり、これについては何の保証もない。

肥料の主要生産国であるロシアとその同盟国であるベラルーシからの買い控えの影響で肥料の価格が急騰しているため、農家が適切な量の施肥をためらう可能性がある。これは収量の減少や生産の低下につながり、危機の長期化を招くかもしれない。地球温暖化によって異常気象が以前よりも一般化しつつあり、これもまた、穀物生産にとってリスクとなっている。

最も影響を受けているのは
フィッチ・レーティングスによれば、米国では3月、インフレに占める食料価格のシェアが最大となった。これは1981年以来初めてのことだ。4月、英国における店頭価格も、過去10年以上見られなかったペースで上昇した。

だが食料価格の上昇により最大の影響を受けているのは、所得に占める食費の比率が先進国より高い開発途上国の住民だ。
国連と欧州連合が共同で設立した食料危機対策グローバルネットワークは年次報告の中で、ロシアによるウクライナ侵攻はグローバルな食料安全保障に深刻なリスクとなっていると指摘。食糧危機に直面している国として、特にアフガニスタン、エチオピア、ハイチ、ソマリア、南スーダン、シリア、イエメンといった国を挙げている。【5月17日 Newsweek】
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こうした状況で、国連や欧米から危機の原因として“標的”とされているのが、ロシアによるウクライナからの穀物輸出を封じる措置です。

****国連事務総長、ロシアにウクライナからの安全な穀物輸出認めるよう訴え****
国連のグテレス事務総長は18日、ブリンケン米国務長官が国連本部で開いた食料安全保障に関する閣僚級会議に出席し、ロシアに対してウクライナからの穀物輸出の安全を確保し、ロシア産食料・肥料への「完全かつ無制限のアクセス」を認めるよう改めて訴えた。

ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、穀物や食用油、燃料、肥料の国際価格が高騰。グテレス氏は、これが貧困国における食料、エネルギー、経済の危機を悪化させると警告し、何千万人もが食料不足とその後の栄養不良、飢饉に陥る状態が何年も続きかねないと懸念を示した。

こうした中でグテレス氏は、ウクライナ産穀物の輸出再開に向けてロシア、ウクライナ、トルコ、米国、欧州連合(EU)と緊密に連絡しているとした上で「希望を持っているが、道のりはなお遠い。安全保障と経済、金融の諸要素が複雑に絡んでいるので、全ての関係者の善意こそが求められる」と語った。

ウクライナはロシアの侵攻を受ける前まで、黒海に面した港湾から輸出品を積み出していたが、現在は鉄道ないしドナウ川の小さな港しか利用できなくなっている。

国連世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長はロシアのプーチン大統領に向けて「少しでも良心があるなら、(ウクライナの)港湾をどうか開放してほしい。これはウクライナの問題ではなく、われわれが話をしている間にも、世界でも最も貧しい人々が飢餓の瀬戸際にあるということだ」とメッセージを送った。

ロシアとウクライナからの小麦供給量は合計で世界全体の3分の1近くに上る。ウクライナはトウモロコシ、大麦、ひまわり油などの主要輸出国で、ロシアと同盟国ベラルーシは肥料となるカリの輸出が世界の4割を超えている。

ブリンケン氏も、ロシアはウクライナが陸上ないし海上から食料その他重要物資を安全に輸送できるような「回廊」を設置すべきだと指摘。「目下ウクライナのサイロには推定で2200万トンの穀物があり、国外に持ち出されさえすれば、それを必要とする人々に直ちに行き渡ることになる」と述べた。【5月19日 ロイター】
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国連安保理でアメリカとロシアが激しく応酬する場面も。

****米国務長官「ロシアが食料を武器に…」強く批判****
ロシアによるウクライナ侵攻で食料危機の深刻化が懸念される中、アメリカのブリンケン国務長官は19日、「ロシアが食料を武器として使っている」と強く批判しました。

ブリンケン国務長官「ロシアは食料を武器として使用することで、ウクライナの人々の精神を破壊することができると考えている」

国連の安全保障理事会の会合でアメリカのブリンケン国務長官は、侵攻の影響でウクライナからの穀物の輸出が滞っていることについて、「ロシア軍が数百万人のウクライナ人と、世界の何百万人の人々への食料供給を人質に取っている」と強く批判しました。

アメリカは緊急食料支援として2億1500万ドル、日本円でおよそ275億円を追加拠出すると表明しています。

一方、ロシアのネベンジャ国連大使は「全くの誤りだ」と反発し、西側諸国によるロシアへの制裁が危機を深刻化させていると主張しました。【5月20日 日テレNEWS24】
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EUもアメリカと歩調をそろえてロシアを非難しています。

****ロシアは食料を「武器」に、飢餓回避に協議必要=欧州委員長****
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は24日、ロシアはエネルギー供給と同様に食料供給を「武器」として利用しているとの考えを示し、ロシア軍による海上封鎖でウクライナから輸出できなくなっている小麦の輸送を可能にするよう、ロシアとの協議を呼びかけた。

フォンデアライエン委員長は世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で「ロシア軍はクライナで穀物や機械を没収しているほか、黒海ではロシア軍の艦船が小麦やヒマワリの種を積載したウクライナの船舶の航行を阻んでいる」と指摘。世界的な協力こそが「ロシアの脅迫に対する解毒剤」になると述べた。(後略)【5月25日 ロイター】
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ウクライナへの武器支援で黒海封鎖を打破しようとの動きもありますが、いろいろ難しい事情も。

****米が露の黒海封鎖打破へ、ウクライナに対艦ミサイル供与=関係者****
バイデン米政権は、ウクライナに新型の対艦ミサイルを供与し、ロシアの黒海封鎖を打ち破る手助けをすることを検討している。複数の関係者が明らかにした。(中略)

米国の政府高官や元高官、議会関係者に話を聞くと、ウクライナに対してより長射程で性能が強力な兵器を送る上では幾つかのハードルがある。戦争のエスカレートを巡る懸念はもちろんとして、兵器を扱うため長期の訓練が必要なことや、保守管理の難しさ、最新兵器がロシアの手にわたってしまう恐れなどが挙げられる。

そうした中で3人の米政府高官と2人の議会関係者は、米ボーイングの「ハープーン」やノルウェー企業と米レイセオンの「NSM」の2種類の対艦ミサイルをウクライナに直接供与、もしくはこのミサイルを保有する欧州の同盟国から供与する案が活発に検討されていると述べた。(中略)

米政府高官の話では、自分たちからハープーンをウクライナに提供しても良いという国は何カ国か存在するが、こと自分たちが保有するハープーンがロシア艦艇を撃沈した場合の報復を恐れ、真っ先に名乗り出たがらないという事情もある。それでも、保有数の多いある国がまずハープーンをウクライナに送ることを検討中で、この国が供与を確約すれば他国も追随するかもしれないという。(後略)【5月20日 ロイター】
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欧米諸国による黒海の封鎖を突破する実力行使を求める声も上がっていますが、アメリカなどが、ロシアとの戦争になりかねないこういうリスクをとるとは思えません。

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ジャック・キーン退役陸軍大将は、外交がうまくいかない場合、米国が主導する国際的な食料・商船護衛作戦が必要になるかもしれないと述べている。これは、人道的作戦として計画され、そう周知されるのが最善だ。

その任務は、国際的な軍艦の連合体を結成し、商船がオデッサ港と黒海から安全に出られるよう護衛することだ。それは、プーチン氏がNATOからの新たな挑発だと主張するのを可能にするようなNATOのプロジェクトではなく、有志連合として機能するものがいいだろう。【5月25日 【社説】ウクライナ穀物、封鎖突破の方法は WSJ】
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冒頭記事は、このような中でのもので、ロシアも食料危機回避を求める国際世論、その危機の原因として集中砲火を浴びるリスクに一定に配慮したものでしょうか。

ただ、停戦交渉にしろ何にしろ、“話”として出ることと、実際に実行されることは別物。
実際にロシアが黒海港湾からの輸出を認めるような措置に出るのかどうかはまだわかりません。

【インド 自国ファーストの姿勢は食糧問題でも 小麦・砂糖の輸出制限】
ウクライナ問題で、ロシアほどではないにしても、欧米からの評判が芳しくないのがインド。
対ロシア制裁に参加せず、逆に安くなった石油を大量に買い付けており、ロシアの制裁逃れを助けているとも。

インドの「自国ファースト」の姿勢は食糧問題でも。

****小麦輸出一時停止のインド、輸送が混乱****
インドが先週、インフレや食糧安保をめぐる懸念から小麦の輸出を突然一時停止したことを受けて、17日には同国の主要港で多数のトラックや船が小麦を積んだまま行き場を失うなど、輸送が混乱した。
 
世界第2位の小麦生産国であるインドは13日、輸出業者が政府の許可なく新たに輸出契約を結ぶことを禁止する命令を出した。
 
この突然の発表を受け、グジャラート州のカンドラ港は大混乱に陥った。港の運営会社によると、トラック約4000台が構外で列をつくっている。小麦の積載が一部終わった船4隻も港に停泊したままだ。積載量は計8万トン前後とされる。(中略)
 
今回の輸出停止は、ウクライナ侵攻でインフレが進む中、保護貿易主義を危惧する先進7か国から批判を受けている。
 
3月に記録的な熱波に見舞われたインドでは、小麦生産にも影響が出ており、政府は減産を予想している。また、小麦価格は世界的に高騰している。 【5月17日 AFP】
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****インド、砂糖も輸出制限 小麦に続き****
インド政府は24日、今年度の砂糖輸出量を1000万トンに制限すると発表した。国内供給の確保とインフレの抑制が狙い。同国は今月半ばに小麦の輸出停止を発表したばかり。
 
インドは世界最大の砂糖生産国で、輸出はブラジルに次ぎ世界2位。
 
食料省は、9月に終わる今販売年度の輸出量を1000万トンに制限すると発表。約900万トン分の契約が既に結ばれており、うち780万トンは出荷済み。今年度の輸出量は過去最高になるとみられる。
 
インドは小麦についても、インフレと食糧安全保障を理由に、政府の許可なしに新規に輸出することを禁止している。今年は3月の気温が観測史上最高を記録し、減産が見込まれるためとしている。 【5月25日 AFP】
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インドが対ロシア制裁に参加しないのは、兵器のロシア依存など、これまでのロシアとの緊密な関係もあってのことですが、そうした事以外に、石油にしても食料にしても、インドと欧米では事情が異なることもあっての対応でしょう。

未だ飢餓ライン上の絶対的貧困を多数抱えるインドの場合、燃料・食料の僅かな価格変化も市民生活に大きく影響します。その程度は欧米とは比べ物にならない・・・そういう状況では「きれいごと」ではなく、国民生活を安定させる施策が何より重視される・・・・というのがモディ首相の立場でしょう。

ただ、輸出制限については、各国が同様対応をとれば、結果的にインドを含めた世界中の人々が苦しむことにもなります。

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食料品価格の上昇 社会の不安定化を招くレベルに

2021-11-08 22:42:58 | 食糧・飢餓
(10月、ブラジルのスラム街で無料の食事提供を待つ人々の列【11月8日 WSJ】)

【拡大する飢餓の危機 世界で4500万人】
日本を含め、各国は新型コロナの感染者数、死者数の動向には多大な関心を有していますが、世界各地で何百万人、何千万人もの人々が飢餓の危機に直面しているという事実にはほとんど関心がないようです。残念ながらそれが現実世界です。

****4500万人が飢餓の危機に 国連****
国連の世界食糧計画は8日、世界43か国で飢餓の危機に直面している人が、今年初めの4200万人から4500万人に拡大したと発表した。

WFPによると、アフガニスタンについて食料安全保障面から点検した結果、300万人が飢餓に直面していることが判明。このため全体の人数が押し上げられた。

デービッド・ビーズリー事務局長は「紛争や気候変動、新型コロナウイルス感染症によって飢餓に直面する人の数が増えている」と説明した。

WFPはアフガンで約2300万人を対象に支援を行っている。ビーズリー氏は最近、アフガンを訪問していた。

同氏はまた「燃料価格や食料価格が高騰しているのに加え、肥料の価格も上がっている。こうしたことすべてがアフガニスタンで現在起きているような新たな危機や、イエメンやシリアなどでの長期にわたる危機的状況を招いている」と述べた。

WFPによると、飢餓対策にかかる費用は世界全体で今年初めの66億ドル(約7500億円)から70億ドル(約8000億円)に膨らんでいる。

深刻な食糧難に直面する家庭では、子どもを早く結婚させたり、学校を退学させたり、バッタや木の葉、サボテンを食べさせたりといった「悲惨な選択を強いられている」。報道によるとアフガンでは、子どもを売らざる得ない家庭もある。

アフガンは、相次ぐ干ばつや経済破綻に見舞われている。一方、シリアでは約1240万人が毎回食事を食べられるかも分からない状況で、内戦が続くここ10年でそうした人々の数は最多となっている。

WFPよると、エチオピア、ハイチ、ソマリア、アンゴラ、ケニア、ブルンジでも深刻な飢餓の危機が拡大している。 【11月8日 AFP】
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国連世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長は9月の国連食料システムサミットで「毎年900万人が飢餓で命を落としている」と指摘しています。

“飢餓対策にかかる費用は世界全体で今年初めの66億ドル(約7500億円)から70億ドル(約8000億円)に膨らんでいる。”・・・・正直な感想は「たった、8000億円?」

日本で大騒ぎしている18歳以下に一律10万円を給付する案の対象は約2000万人で、総額2兆円程度の予算規模となります。それに比べたらなんと“僅かな”金額か。それで4500万人の飢餓をさしあたり救えるのか?

各国が、「18歳以下に一律10万円」みたいなバラマキに使う費用の1割でも拠出すれば、たちどころに・・・というのは言っても仕方のない戯言ですが、世の中の不条理を感じます。

【貧困層を直撃する食料品価格上昇 10年ぶりの高水準】
こうした飢餓の基本的な原因は内戦や紛争によって国内統治が機能していないことでしょうが、気候変動に伴う干ばつなどの災害・不作、更に新型コロナ禍による経済混乱が拍車をかけることにもなっています。

そして、ここ数か月言及されることが多くなったのが食料品価格の高騰という現象。当然ながら貧困層の力量確保を困難にします。

世界で今、景気停滞とインフレが併存する「スタグフレーション」が進む気配をみせていますが、貧困層にとっては、収入は減るなかで食料価格が上昇するということで死活問題となります。

****世界で食料価格高騰、貧困層に大きなしわ寄せ****
ブラジル・サンパウロの郊外にある貧民街で暮らすシングルマザー、セリア・マトスさん(41)は、空腹のまま床に就く日々を送っている。4人の子どもに翌日もコメや豆を十分に確保しておくためだ。足元では肉など食料価格が30%高騰しており、今年の早い段階のようには十分な食料が買えなくなったという。

マトスさんは「本当に屈辱的だ」と話す。

ペルーからフィリピンまで、途上国全体で食料価格の高騰による痛みが広がっている。国連の食糧農業機関(FAO)は10月、世界の食料価格は2011年以来の水準に跳ね上がっていると指摘した。

各国政府や支援団体からは、食料高が飢えや栄養不良を招いており、新型コロナウイルス禍による経済への打撃ですでに苦しんでいる貧困層には、とりわけ深刻な影響が出ていると危惧する声が上がっている。

食料価格の値上がりは特に中南米で顕著で、国連では数千万人が栄養失調に陥っているか、食事を抜かざるを得ない状況にあると推定している。

それほど深刻な物価高に見舞われていないアジア諸国でも、悪天候が作物に影響を与えており、一部で食料価格が上昇している。インドではここ数カ月の豪雨による洪水や地滑りの影響で農作物に被害が出ており、カリフラワーやタマネギといった野菜の価格が高騰している。

中国でも豪雨が野菜の主要産地を襲い、不足が深刻化している。フィリピンなど一部の東南アジア諸国では、野菜やパーム油の値上がりが痛手だ。

エコノミストや政策担当者によると、中でも中南米では、食料価格値上がりによる影響がさらに深刻かつ長引く恐れがあるとみられている。

中南米諸国の中央銀行はインフレ抑制に向けて急激な利上げを迫られており、ブラジル、チリの中銀は最近、いずれも20年ぶりの大幅な利上げを発表した。

ただ、中南米諸国にとって利上げは「劇薬」だ。同地域はコロナ禍により世界で最も深刻な不況に見舞われたほか、英オックスフォード大が運営する「アワ・ワールド・イン・データ」によると、人口あたりの死者数も世界最悪の水準だった。

英調査会社キャピタル・エコノミクスの新興国担当チーフエコノミスト、ウィリアム・ジャクソン氏は「中南米では他のどの地域よりもインフレ高進がひどく、非常に厄介な問題だ」と話す。

コロナに見舞われる数年前から成長が低迷していたブラジルなどの中南米諸国では、ここにきて極めて打撃の大きい「スタグフレーション(不況と物価上昇の併存)」に直面しているという。

アルゼンチンの首都ブエノスアイレス在住の看護師、フリエタ・イルレタさん(27)は、4歳の息子にもはやバランスの取れた食事を出すことができないと話す。「2年近くも医療の最前線で命がけで働いてきたのに、この賃金では食事もままならなくなっている」

人々はかつてペットのえさとして買っていた鶏の臓物を今では家族に食べさせるために購入している。

冒頭のマトスさんは非営利組織「G10ファベーラス」が無償で提供している食事をもらうため、地元のコミュニティーセンターで毎日何時間も列に並んでいる。

だが数週間前には、昼食前にセンターを閉鎖しなければならない事態に陥った。食料の提供が途切れたことで、けんかが発生したためだ。

そのセンターはスーパーや富裕層からの寄付に頼っているが、ブラジルでコロナによる死者が減少するのに伴い、寄付も枯渇してきているという。

G10ファベーラスの責任者、ギルソン・ロドリゲス氏は「人々は分かっていないようだ」と話す。「貧困層にとってはコロナ禍の最中よりも現在の方が苦しい状況に置かれている」【11月8日 WSJ】
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****10月の世界食料価格、3カ月連続で上昇 10年ぶり高水準=FAO****
国連食糧農業機関(FAO)が4日発表した10月の世界食料価格指数は平均133.2ポイントと、9月の129.2(130.0から改定)から上昇し、2011年7月以来10年ぶりの高水準となった。

上昇は3カ月連続。穀物と植物油が価格上昇を主導した。前年比では31.3%上昇。

品目別では穀物価格指数が前月比3.2%上昇。その中でも小麦は5%急伸し、12年11月以来の高水準を付けた。

FAOは小麦について、「カナダ、ロシア、米国をはじめとする主要輸出国の収穫減を背景とする世界市場での供給逼迫が引き続き、価格に上昇圧力を加えた」と分析した。

世界の植物油価格は前月比で9.6%急騰し、過去最高を更新。マレーシアの労働者不足による供給制約でパーム油が一段と値上がりしたことが主因だった。

一方、世界の砂糖価格は1.8%低下し、7カ月ぶりの低下となった。【11月5日 ロイター】
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現在の食料価格の高騰は、品目ごとに様々な要因がありますが、全体的には、新型コロナウイルス禍からの急速な経済再開で中国やアメリカなど世界的に食料需要が急増し、供給が追いついていないという側面があります。

トウモロコシ、小麦、大豆などの穀物について、もう少し詳しく見ると、中国の豚肉生産の拡大に伴う飼料需要の増大、原油価格回復に伴うアメリカのガソリン価格上昇、代替品のトウモロコシ由来のエタノール需要増大など、様々な要因が絡んできます。

日本でも10月から多くの食料品が値上げになりましたが、日本では家計に占める食費の割合はさほど大きくないので、その影響も限定的です。一方で、世界の貧困層の場合、収入の大部分を食費にあてて命を繋いでいるとも言えますので、その価格上昇は甚大な影響をもたらします。

****食料品価格上昇の背景と食料安全保障****
Q1:食料品の値上げが相次いでいますが、何が起きているのでしょうか?

トウモロコシ、小麦、大豆などの穀物などの国際価格(取引価格)が上昇しています。2014年から昨年までは低い水準で安定していましたが、大豆でトン当たり300ドルほどだったのが600ドル程度になるなど、直近の価格はその2倍になっています。

2008年、2013年にも、これらの価格が上昇しましたが、今回はそのときとほぼ同じ水準となっています。

Q2:(穀物などの価格が上がるというと、天候不順などを思い浮かべますが、)どんな理由があるのでしょうか?

世界全体では、生産は若干増える見通しです、需要の増加が関係しています。

2018年から中国でアフリカ豚熱という病気が大流行したため、中国の豚肉生産が大変落ち込みました。昨年から、その生産が回復、リバウンドしてきたため、豚に食べさせるエサ用のトウモロコシや大豆などの需要が増加しています。中国は世界の大豆輸入の6割を占めていますから、国際価格に大きな影響を与えます。

もう一つの要因は、昨年新型コロナの影響で暴落した原油価格の回復です。意外に思われるかもしれませんが、原油価格と穀物価格は関連しています。トウモロコシやサトウキビから作られるエタノールはガソリンの代替品です。ブラジルでは、サトウキビから作られるエタノールで自動車が運転されています。アメリカではガソリンにエタノールを混ぜて車を走らせています。トウモロコシの最大の生産国、アメリカでは、トウモロコシのエタノール向けがエサ用と同程度まで拡大し、この二つがトウモロコシ用途の7割以上を占めるようになっています。

原油価格が上がると代替品であるエタノールの需要も増えるので、トウモロコシの価格も上昇します。そうなると、トウモロコシの代替品の大豆や小麦などの価格も上昇します。こうして穀物や大豆の価格が原油価格にも連動するようになっています。(中略)

Q4:穀物などの価格の値上がり。世界では、どのような影響があるのでしょうか?

国際相場が高騰すると、日本など所得水準の高い先進国に与える影響は限定的ですが、途上国の人たちには大きな影響を与えます。途上国では、貧しく所得のほとんどを食費、しかも穀物に支出している人が多いのです。例えば、所得の70%を食費に支出する途上国の人の場合、穀物の価格が倍になると、全体の支出額に占める割合が大きいため、食料を買えなくなってしまいます。

また、米のように、インドやベトナムなどの途上国が主な輸出国となっている場合は、国際価格が上昇すると輸出制限をする国が出てくるという問題もあります。インドなどでは、国際価格が上がると輸出が行われて国内の供給が減少するので国内の価格も上がってしまい、貧しい(国内の)人が食べられなくなります。これを防ごうとして輸出制限をします。(後略)【6月29日 山下 一仁氏 キャノングローバル戦略研究所】
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2008年の食料品価格上昇のときは世界各地で暴動が頻発しました。
2011年には、中東・北アフリカで大規模な抗議・デモ活動が広がりをみせた「アラブの春」が起きましたが、その一因として小麦価格の高騰などを受けて貧困層の困窮が深刻化した影響が指摘されています。

前述のように、貧困層にとって食料品価格上昇は命をつないでいくうえで、死活的に重要な問題です。賃金が上がらず、失業が増える状下でのインフレとなると、その痛みはなおさらです。

食料品価格上昇は各国で政治体制を揺るがすことにもなりかねませんが、現在の価格はそういうレベルにもなっているようです。
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新型コロナによる経済混乱に拍車をかける東アフリカなどのバッタ「蝗害」 深刻な食糧危機に

2020-05-25 23:10:33 | 食糧・飢餓

(【5月18日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

【バッタ「第2波」 より大規模に】
「第2波」襲来といえば新型コロナの話のようですが、今回は「バッタ」の話。

東アフリカを中心とするサバクトビバッタ大発生の「蝗害」については、以前も取り上げたことがあります。
(3月8日ブログ“バッタによる「蝗害」 東アフリカから南アジアに拡大 70年に一度の危機 コロナとバッタで混乱拡大”)

数千万匹~数百億匹ものバッタの「蝗害」は、全ての作物を食べつくして人々を飢餓に追いやる、新型コロナ以上の脅威となります。2019年後半から年初の「第1波」に続いて、当時からすでに予想されていたように、今「第2波」が起きています。しかもより大規模に。

****アフリカでバッタ大量発生の第2波、食料不足の危機****
「この…大群は…恐ろしい」
 
アルバート・レマスラニ氏は4月、アフリカ、ケニア北部で息を弾ませながらこう言った。レマスラニ氏は自身を撮影した動画のなかで、サバクトビバッタの群れをはたきながら歩いている。体長5センチ余りのサバクトビバッタは厚い雲のように同氏を取り囲み、1万組のトランプが一斉に切られているかのような羽音を立てる。

「数百万匹はいます。あちこちで…食べています…悪夢が現実になったような光景です」。レマスラニ氏はうめくように語った。

最大2500万人が食料不足に
レマスラニ氏(40)はケニア中部の村オルドニイロに家族と暮らし、ヤギの世話をしている。ヤギたちは低木や高木を食べて生きている。

レマスラニ氏は地元の言い伝えでしかサバクトビバッタを知らなかった。ところが2020年、食欲旺盛なサバクトビバッタの大群が数十年来の規模で東アフリカに押し寄せた。
 
サバクトビバッタは底なし沼のような食欲の持ち主で、農業に壊滅的な被害をもたらす恐れがある。成虫は自身の体重と同じ量の植物を1日で食べることができる。サバクトビバッタの体重は約2グラムだ。

群れはニューヨークを埋め尽くしても余りある規模の700億匹に達することもあり、その場合、約13万6000トンもの作物が1日で失われる計算になる。もっと小さな4000万匹の群れでも、3万5000人分の1日の食料に匹敵する量の植物を1日で食べてしまう。
 
今回の大量発生は、エチオピアとソマリアでは過去25年、ケニアでは過去70年で最悪の規模となっている。

一帯は作物の生育期を迎えており、新型コロナウイルスの影響で対策が難航している間に、サバクトビバッタの群れは増殖している。国連食糧農業機関(FAO)は、東アフリカの最大2500万人が2020年、食料不足に見舞われると試算している。
 
FAOによれば、エチオピア、ケニア、ソマリア、ジブチ、エリトリアの約1300万人がすでに「深刻な食料不安」に陥っているという。深刻な食料不安とは、丸1日何も食べられないか、食料が底を突いている状況のことだ。
 
レマスラニ氏は「私たちは将来の心配をしています。このような大群が押し寄せれば、家畜を食べさせることができなくなるためです」と語る。農業従事者は作物の心配もしている。「神がバッタを消し去ってくれるよう、私たちは祈りをささげています。新型コロナウイルス感染症と同じくらい恐ろしい存在です」

群生タイプに「変身」 
サバクトビバッタは湿った場所に産卵するため、乾燥地域に大雨が降ると大発生する。植物が近くにある砂地に産卵すれば、幼虫は羽が生え餌を求めて飛び立つまで、そこで生き延びることができる。
 
サバクトビバッタは通常、分散する空間があれば、互いを積極的に避ける。しかし、環境が良好な場合、個体数は3カ月ごとに20倍まで増える。個体数の急増によって密度が高まると、ある行動の変化が誘発される。「孤独相」から社会的な「群生相」に変わり、大群を形成するのだ。(中略)

近年、繁殖と移動の条件はただ良好なだけではない。まさに理想的な条件だ。2018年から2019年にかけて、海水温の異常な上昇と関連づけられているサイクロンがインド洋から次々と上陸し、「何もない一角」と呼ばれるアラビア半島の砂漠が水浸しになった。その後、サバクトビバッタが急増した。(中略) 

2019年6月までに、サバクトビバッタの大群は移動し、紅海を渡ってエチオピアとソマリアに到達。そして、10〜12月に東アフリカで降り続けた異常な大雨に助けられ、南のケニア、ウガンダ、タンザニアまで拡大した。
 
バッタたちが東アフリカに上陸してからは良好な繁殖条件が続いているため、群れはその規模を拡大し続けている。FAOで東アフリカの回復チームを率いるシリル・フェランド氏は「20倍かどうかはわかりませんが、(個体群は)はるかに大きくなっています」と話す。FAOは、サバクトビバッタの状況を世界規模で監視している。 
 
2019年後半、サバクトビバッタの第1波が到来したとき、ほとんどの作物は成熟期に達していたか収穫後だった。しかし、第1波より大規模な現在の「第2世代」は、何よりタイミングが気掛かりだ。 
 
東アフリカでは、主要な作物の生育期が3月中旬ごろに始まる。この時期はバッタの攻撃を特に受けやすいと、慈善団体ファーム・アフリカで農業技術の責任者を務めるアナスタシア・ムバティア氏は言う。「(バッタに)新芽を食べられたら、作物は生育できません。種をもう一度まくしかありません」。しかし、生育に最適な天候はもう終わっているため、2度目の栽培は失敗する可能性が高い。
 
殺虫剤の散布も困難 
バッタの爆発的な増加を食い止めるため、政府はしばしば空中あるいは地上から殺虫剤を散布する。しかし、FAOのフェランド氏は、新型コロナウイルスが世界的に流行しているため、殺虫剤を調達するのが難しいと述べている。

「供給の遅延が発生しています。航空便が世界規模で減少しているため、今は(殺虫剤の在庫)管理が通常と全く違う状況になっています」 

 バッタの大発生をあまり経験したことがないケニアのような場所では、殺虫剤をどこに散布すべきかの判断がさらに難しくなっている。バッタの飛行パターンは主に風によって決まり、1日に約130キロの距離を移動することもある(1988年には、サバクトビバッタがわずか10日間で西アフリカからカリブ海に到達している)。 
 
長距離を高速で移動するバッタの群れを追跡するため、FAOは現地に暮らす人々からの情報を頼りにしている。レマスラニ氏も情報提供者の一人で、1月に自らバッタの大群の追跡を開始した。 

レマスラニ氏は広範な人脈を活用し、バッタの群れを見かけた人から電話をもらうようにしている。電話を受けたらバイクタクシーに乗って群れがいる場所に急行、eLocust3mというモバイルアプリに座標を入力している。

eLocust3mは米ペンシルベニア州立大学のプラントビレッジ・プログラムを主催するデイビッド・ヒューズ氏らがFAOの依頼で開発したアプリ。追跡データは政府と共有され、政府が最善策を判断することになる。(後略)【5月18日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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【新型コロナ重複で対応はより困難に】
新型コロナ禍と重なったことで、国際支援も滞っています。

“今回、FAOは各国に約1億3800万ドルの資金協力を呼びかけている。少なくとも現状で金額だけ比べると、15年前より規模は小さい。 
 
しかし、今回の場合、タイミングが悪すぎる。ただでさえアフリカの問題は各国の関心を集めにくいが、新型コロナで各国の景気は冷え込んでいる。そのため、寄せられた支援は3月3日段階で5200万ドルにとどまる。 
 
つまり、前回より各国の手が回らない状況は、バッタの大群にとって勢力を広げやすくする要因になる。いわば新型コロナがバッタに手を貸しているともいえる ” 【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】

そうした状況に加えて、物理的にも物資輸送がストップする状況で、上記のように“新型コロナウイルスが世界的に流行しているため、殺虫剤を調達するのが難しい”事態にもなっています。

【「新型コロナ」「蝗害」で深刻な食糧危機に 「ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬ」】
被害は作物を食い荒らされる農家だけの問題ではありません。

農産物供給が減少すれば食糧価格は上昇し、多くの人々が十分な食料を入手することができなくなり「飢餓」が発生します。

更に、新型コロナの感染拡大による経済活動停滞が、こうした食料危機を更に深刻化させることも容易に想像できます。

もともとある貧困、そこにのしかかる新型コロナによる経済混乱、更に東アフリカなどではバッタの「蝗害」も・・・ということで、“ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬ”ことも危惧されています。


****食料入手に苦しむ人、コロナで倍増か WFPが警鐘****
新型コロナウイルスの感染拡大により、最低限の食料の入手さえ困難になる人が今年は世界で倍増し、2億6500万人に上る可能性がある。国連世界食糧計画(WFP)が21日、そんな内容の報告書を発表した。ビーズリーWFP事務局長は「飢餓パンデミックの瀬戸際にいる」と警鐘を鳴らす。
 
WFPなどが公表した「食料危機に関するグローバル報告書」によると、2019年は、55カ国・地域の1億3500万人が深刻な食料危機に陥っていた。主な理由は紛争(7700万人)や天候(3400万人)、経済危機(2400万人)だった。地域別ではアフリカ(7300万人)、中東・アジア(4300万人)が特に多かった。
 
今年は新型コロナの感染拡大によって各地で経済活動が停滞しており、深刻な食料危機に苦しむ人の激増につながることが懸念されているという。
 
エチオピアやソマリア、ケニアなどの東アフリカ諸国では最近、サバクトビバッタの大量発生により、作物が食い荒らされる被害も広がり、食料問題の深刻化にさらに拍車がかかる可能性がある。
 
21日に国連安全保障理事会の会合に出席したビーズリー氏は「我々が直面しているのは世界規模の健康被害だけでなく、人道的な大惨事だ。ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬという現実的な危険性がある」と指摘。

安保理がリードする形での停戦の実現のほか、世界各地で1億人に食料や個人用防護具を配布しているWFPへの支援を訴えた。 【4月23日 朝日】
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“安保理がリードする形で”・・・とてもそんな状況にないのは周知のところ。世界をリードすべき米中両国は非難の応酬、責任のなすり合いに終始しており、救済どころではないようです。

バッタの問題はアフリカだけではありません。
バッタは海を越えて移動しますので、パキスタン・インドの南アジアに、更には中国にも。

****アフリカでバッタの大群第2波発生、中国も警戒―仏メディア****
2020年4月29日、仏国際放送局RFIは、東アフリカ地域で大量のバッタが農作物を食い荒らす被害の第2波が発生しており、中国政府も警戒を強めていることを報じた。(中略) 

そして、中国農業科学院植物保護研究所の張沢華(ジャン・ザーホア)研究員が「6月ごろに中国大陸もバッタの高リスク期に入る」との見方を示したことを紹介した上で、国家発展改革委員会、農業農村部、国家糧食・物資儲蓄局など11部門が先日連名で今年の食糧安全性確保に関する通知を出し、新型コロナウイルスの影響で食糧供給が滞り、社会の安定が揺らぐことのないようにするため5つの「重点任務」を打ち出したとしている。 

記事によれば、5つの重点任務は、食糧生産の総合能力強化、栽培面積と生産量の基本的な安定確保、食糧備蓄の安全管理強化、食糧の市場や流通の管理徹底、食糧の緊急対応能力強化となっている。【5月1日 レコードチナ】
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食品価格上昇・食糧難が起きると、必ずそれは政治混乱を招きます。
政治混乱は、更なる経済混乱を・・・とスパイラル的に悪化することも。

日本はコロナ禍については“一息”ついたところですが、世界のコロナ禍に伴う食糧難、それに拍車をかける東アフリカなどの「蝗害」による混乱・犠牲はこれから本格化すると見た方がよさそうです。

 

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バッタによる「蝗害」 東アフリカから南アジアに拡大 70年に一度の危機 コロナとバッタで混乱拡大

2020-03-08 22:16:52 | 食糧・飢餓

(ケニアの牧場でバッタの大群を追い払おうとしている男性(2020.2.22)【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】 とても対応できる状況には思えませんが・・・)

【昆虫食は人類を救うが・・・・】
日本でもイナゴを食べる地域がありますが、中東・クウェートでもイナゴが“冬の味覚”だそうです。

****クウェートの冬の味覚「イナゴ」、栄養豊富なたんぱく源****
中東クウェートでは栄養価の高いイナゴが珍味とされ、焼いたり乾燥させたりして食べられている。だが、消費量は徐々に減ってきており、とりわけ若者たちの中にはイナゴを食べることに嫌悪感を抱く人が多い。
 
ジャーナリストのモウディ・ミフタフさん(64)は、「あの風味が好き。子ども時代の思い出の一つだし、祖父や父を思い出す」と熱っぽく語る。
 
ミフタフさんは毎年、冬の到来を待ってイナゴを買いだめし、自分で料理する。キッチンに立ち、沸騰しただし汁の中に1袋分のイナゴを投入する。イナゴはすぐに赤くなり、羊肉のシチューのような香りがキッチンを満たす。30分ゆでれば完成だ。
 
カリカリとした食感を加えたい場合にはイナゴを焼いてもいいし、乾燥させれば1年中楽しめる。だが、ミフタフさんの家族の大半は、かなり前からイナゴを食べなくなってしまったという。
 
イナゴは世界各地で消費されており、一部の地域では主食になっている。専門家らは、イナゴはエネルギー効率の良い優れたたんぱく源だと説明する。
 
クウェートでは毎年1月になると、サウジアラビアから届くその冬最初のイナゴが市場に並ぶ。イナゴは独特の赤い袋に入れられ、250グラム単位で販売されている。
 
イランのアフワズ出身のアブ・モハメドさん(63)は、普段はクウェート市北西部のライ市場で魚を売っているが、この時期になるとイナゴとトリュフを売る。「イナゴは(飛ばずにじっとしている)冬の夜に捕獲される」といい、味は「エビ」に似ていて「新鮮なものは非常に美味で、特に卵を抱えた雌の味は格別」だと言う。
 
モハメドさんは1月から4月までのシーズン中、約500袋を販売する。1袋の価格は、3~5クウェート・ディナール(約1100~1800円)だ。
 
一方、当局はイナゴが汚染されている懸念があることから消費を禁止しようと模索しているが、今のところ実現していない。またイナゴは繁殖力が強く、大群となって作物に被害を与えるため、一部の国々では殺虫剤を使った処分を余儀なくされている。【3月7日 AFP】
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昆虫食が人類の将来の食糧難を救うという話はときおり聞きますので、イナゴはその代表格でしょう。

【東アフリカから中東、更には南アジアへ】
ただ、「繁殖力が強く、大群となって作物に被害を与える」ということで、逆に人間の食糧を食い尽くしてしまう「蝗害」も起きています。

イナゴではなくバッタになると、その被害も更に大規模になり、古くは、モーセが虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する物語を中心に描かれ旧約聖書「出エジプト記」にも出てきます。

東アフリカで(イナゴではなく)バッタが大発生し、農作物を食い荒らし、深刻な食糧危機の恐れがあるという話は、2月10日ブログ“東アフリカ  拡大するバッタの「蝗害」 食糧難に拍車”で取り上げましたが、その後もバッタ(正確にはサバクトビバッタ)は風に乗って海を渡り、インド・パキスタンでも被害が広がっています。

サバクトビバッタは「1日150キロメートルの移動が可能で、毎日自分の体重に相当する約2グラムを食べる」そうで、被害は「今年6月まで続く見通し。その頃、群れの規模は現在の500倍になっている可能性がある」とも。【3月5日 レコードチャイナより】

****パキスタンでバッタ大量発生 過去30年で最悪の作物被害****
パキスタンでバッタが大量発生し、国内の農業地帯では過去30年間近くで最悪の被害が出ている。特に農業の中心地で作物が壊滅的な打撃を受け、食料価格の急騰を招いている。
 
国連は、アラビア半島を昨年襲った豪雨とサイクロンが「前例のない」バッタの繁殖を促したと指摘している。

このバッタの大群は、東アフリカからインドにかけて広がり農地に大きな被害をもたらした後、イランを通ってパキスタン南西部の砂漠地帯から同国へ侵入。パキスタン政府は深刻な被害を受けて全土に緊急事態を宣言し、国際社会に緊急援助を要請した。
 
パキスタン南部シンド州では、換金作物である綿の壊滅的被害が懸念されている。州都カラチ付近では全体の半分の作物が被害を受けている。
 
また北東部パンジャブ州の当局は、被害を受けた地区に殺虫剤を散布するなど「駆除対策を開始」したと明らかにした。

有害な煙霧が広がる中、毎日村人らは1キロ当たり20パキスタン・ルピー(約13円)の報奨金のために農地でバッタの死骸を集めている。しかしこの作業は時間がかかる上、1か所の農地でバッタを駆除している間に、別の農地の作物が壊滅していることも多い。
 
また当局が使用する殺虫剤は食べる上で危険なため、バッタを駆除しても残った農作物も廃棄しなければならない。殺虫剤の散布の順を待つ間、苦肉の策として鍋を叩いて叫びながらバッタを追い出そうとする農家もある。
 
ムハンマド・ハシム・ポパルザイ食料安全保障・研究相は、中国の専門家らによるチームが今回の危機を調査するためにパキスタンに到着したとAFPに明らかにした。

中国はより迅速で効果的な害虫駆除方法として、殺虫剤の空中散布を申し出る可能性もあり、またパキスタンが中国から殺虫剤を輸入する可能性もある。
 
パキスタンの農業は長い間干ばつや水源の縮小に直面してきた。経済は12年連続で高インフレ率にあえいでおり、過去1年間では砂糖の値段が2倍近く、小麦粉の値段は15%上昇した。
 
パンジャブ州ピプリ・パハール村の農業従事者らの多くは、バッタの駆除対策を講じるには遅すぎると感じている。ラフィヤ・ビビさんは牛と一緒に小麦畑の隅に座り、周囲に殺虫剤がまかれるのを眺めていた。
 
ビビさんは政府から4万5000パキスタン・ルピー(約3万円)を借り入れ、菜種、ヒマワリ、トウガラシ、タバコなどを購入したが、バッタの大群はすでにこれらの作物を台無しにしてしまった。収穫できなければ借金を返す方法はないという。 【3月8日 AFP】
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“当局が使用する殺虫剤は食べる上で危険なため、バッタを駆除しても残った農作物も廃棄しなければならない”・・・だったら、農民は何のために殺虫剤を散布するのでしょうか?

【中国のパキスタン「蝗害」支援 単に「一帯一路」の問題ではなく、中国の水際作戦でも】
その疑問はともかく、記事にもあるようにパキスタンとの関係を近年強めている中国が支援を申し出ています。

****中国、蝗害に見舞われたパキスタンを緊急支援へ*****
中国のバッタ防止・制御の専門家チームがこのほど、パキスタン・カラチでの記者会見で、中国はこのたび、サバクトビバッタの大量発生(蝗害)に見舞われているパキスタンに対し、包括的な緊急支援を実施したことを発表した。
 
バッタの大群は、これまでに農地数百万エーカーに被害をもたらし、パキスタンの食料安全保障に対する深刻な脅威となっている。
 
この状況に対し、同チームの首席専門家の王鳳楽氏は、中国政府は非常に重視し、状況分析と対応策を講じたうえ、緊急支援を行ったと述べた。(中略)

(国連食糧農業機関(FAO)でパキスタンにおけるバッタ対策を担当するム)アフマド氏はまた、「昨年10月末から11月にかけて、バッタの大群がタルパカール砂漠に舞い戻り、卵を産んだ。卵は今後数か月のうちに大きな脅威となる恐れがある。なぜなら、卵がふ化すれば、バッタの数は数十倍以上に膨れ上がるからだ。そうしたら、パキスタンは大きな課題に直面することになる」と警鐘を鳴らすように述べた。
 
パキスタンの公式統計によると、この9か月の間に、3000万エーカーの土地が蝗害に見舞われたが、殺虫剤が散布できたのはその100分の1しかなかった。
 
東部パンジャブ州と南西部バルチスタン州、北西部カイバル・パクトゥンクワ州も蝗害の影響を受け、パキスタンのイムラン・カーン首相は今月、国家非常事態を宣言した。中国に支援を求めるよう食料安全保障研究省に命じた。
 
中国農業農村部国際協力局の徐玉波氏は記者会見で、中国のバッタ防止・制御に関する技術と経験は、パキスタンのニーズに十分に応えると語った。さらに中国には、最先端の予防・制御技術や器具、人員のトレーニング、早期警戒プラットフォームなどの分野で協力する用意があると説明した。【3月6日 Xinhua News】
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中国の世界戦略「一帯一路」にとってパキスタンは要となる国ですから、中国のパキスタン支援は当然の対応でもありますが、中国にとっても他人事ではないようです。

****バッタの大群が中国に侵入?当局が緊急通知―仏メディア****
中国国家林業・草原局は2日、中国がバッタ侵入の危機にさらされているとして徹底的な予防措置を求める緊急通知を出した。仏RFI中国語版サイトが同日付で報じた。 

記事によると、同局は「サバクトビバッタ」について、「すでに東アフリカからインド、パキスタンに広まっている」と指摘。中国国内に侵入して被害が起きるリスクは比較的低いという専門家の見解に言及する一方、いったん侵入すれば抑制困難など多くの不確定な問題に直面すると危機感を示した。 

バッタは中国の草原地域に広く分布しており、草原における毎年の蝗害(こうがい=イナゴ・バッタ類による被害)面積は平均10万平方キロメートルに上るという。(後略)【3月5日 レコードチャイナ】
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風土上の違いで日本ではバッタによる「蝗害」はありませんが、中国ではこれまでも大規模な「蝗害」が発生しています。

【コロナに加えてバッタ アジアの混乱の影響は日本にも】
おりしも新型コロナウイルスが猛威をふるっていますが、疫病に加えて蝗害・・・「この世の終わり」とか「人類に対する神の怒り」といった類の反応が見られても不思議ではないところです。実際、欧米メディアにはそうしたセンセーショナルな反応も見られるとか。

****コロナに続くもう一つの危機――アフリカからのバッタ巨大群襲来****
国連の食糧農業機関はその大発生の規模を「70年に一度」のものとも表現している
これによって懸念される食糧不足は人道危機であるばかりか、新型コロナの影響を受ける日本のサプライチェーンをさらに揺さぶりかねない
 
新型コロナに揺れるアジア諸国にもう一つの危機が迫っている。アフリカから飛来し、各地で農産物を食い荒らしてきたバッタの大群が、中国西部にまで接近しているのだ。 

コロナ蔓延に続くバッタ来襲
(中略)一口にいえば、このバッタの大群は東アフリカで大発生し、アジアにまで飛んできたものだ。 
 
このバッタは乾燥地帯に暮らすサバクトビバッタで、基本的に日本にはいない種類のものだ。より詳しくは昆虫学者に譲るが、生息環境の変化などに応じてサバクトビバッタの外見や行動パターンには変化が生まれ、集団で行動するようになると、風に乗って1日に100〜200キロも移動しながら、行く先々で穀物や果物を食い荒らす。 
 
1平方キロメートルに集まるサイズの比較的小さな群でも、1日あたりで人間3万5000人とほぼ同じ量を食べるといわれる。 

70年に一度の危機
その大発生は、新型コロナとほぼ時を同じくして始まった。 

新型コロナが問題になり始めていた2月2日、東アフリカのソマリア政府はバッタの大量発生で食糧危機が発生しつつあると緊急事態を宣言。これと前後して、バッタの被害は東アフリカ一帯に広がり、国連の食糧農業機関(FAO)はソマリアでは25年、隣国ケニアでは70年に一度の危機として緊急事態を宣言した。 
 
その後、バッタの大群は紅海を越えてアラビア半島に至り、さらにペルシア湾を超えてアジアにまで飛来するようになった。 
 
3月6日段階で、FAOは東アフリカ8カ国、中東5カ国、南アジア2カ国(アフガニスタン、パキスタン)で新たな群を確認している。 
 
このうち、パキスタンの北東には中国の新疆ウイグル自治区がある。つまり、バッタの大群は西からの風に乗って中国にも押し寄せる可能性がある。先述の中国のパキスタンに対する支援は、単に外交的な関係に基づくものではなく、いわば自己防衛のための水際対策でもあるのだ。 

スーパーコンピューターを用いた駆除
サバクトビバッタはこれまでにもしばしば大発生してきたが、今回の場合、昨年末に東アフリカ一帯で雨量が多かったことが原因とみられている。サバクトビバッタは雨量が多いと大量に発生しやすい。 
 
ところで、東アフリカではサバクトビバッタの産卵シーズンだった昨年10月から11月にかけて、降雨量が例年の約3倍に達したといわれる。これが地球温暖化の影響によるものかは、いまも科学者が研究中だ。 
 
ともあれ、この大雨がサバクトビバッタの大発生を促したとみられるのだが、これに対して各国も無策というわけではない。イギリスの支援で設立されたアフリカ天候気象情報センターではスーパーコンピューターを用いてバッタの行動範囲などを計算し、この情報に基づいて、時に軍隊まで動員しながら、アフリカ各国は効率的な駆除を試みている。 

新型コロナに手を貸されるバッタ
しかし、それでもバッタの大群は各地に飛散し続けており、それは大きな被害をもたらし得る。 
 
2003年から2005年にかけても、アフリカや中東の20カ国以上でサバクトビバッタによる蝗害が広がった。この時のFAOの報告書によると、対策のためにかかった経費は総額4億ドルを上回り、西アフリカ6カ国だけで838万人が食糧不足などの影響を受けた。 
 
今回、FAOは各国に約1億3800万ドルの資金協力を呼びかけている。少なくとも現状で金額だけ比べると、15年前より規模は小さい。 
 
しかし、今回の場合、タイミングが悪すぎる。ただでさえアフリカの問題は各国の関心を集めにくいが、新型コロナで各国の景気は冷え込んでいる。そのため、寄せられた支援は3月3日段階で5200万ドルにとどまる。 
 
つまり、前回より各国の手が回らない状況は、バッタの大群にとって勢力を広げやすくする要因になる。いわば新型コロナがバッタに手を貸しているともいえる。 
 
対応が間に合わなければ、その影響は各方面におよぶ。アフリカから中東にかけてはテロが横行し、紛争の火の手が各地であがっているが、食糧不足による社会の混乱はこれに拍車をかけかねない。
 
アジアに迫る影
そのうえ、今回はアジアも無縁ではない。 
 
2003〜2005年の場合、最終的にはサウジアラビアなどアラビア半島でもサバクトビバッタの来襲は確認されたが、それまでに1年以上の月日を費やした。発生したのが西アフリカで、中東に達するまで距離と時間がかかったからだ。 
 
しかし、今回は東アフリカが発生源のため、15年前より早くアラビア半島を通過し、すでにアジアにその影をみせ始めている。 
 
アフリカと比べても人口過密なアジアでバッタが農作物を奪えば、食糧危機が発生するリスクはさらに高い。

そのため、例えばパキスタンと隣接するインドでは、政府がドローンや殺虫剤などの調達を強化している。また、インドはもともとパキスタンとの間でカシミール地方の領有を巡って緊張が高まっていたが、バッタの来襲を受け、協力に向けた協議を進めている。 
 
気候などの問題から、サバクトビバッタが日本にまで飛来してくる可能性は限りなく低いかもしれない。 
 
しかし、今回の大発生は人道危機であるだけでなく、日本にも直接かかわり得る。

アジアは中東やアフリカと比べて日本経済により緊密に結びついており、この地域で生産が滞れば、ただでさえ新型コロナでダメージを受けている日本のサプライチェーンは今よりさらに停滞しかねない。 
 
旧約聖書には、神の怒りに触れた古代エジプトで、病気の蔓延やバッタの大発生といった災禍が相次いだという記述がある(出エジプト記)。これを踏まえて、欧米メディアのなかには「世界の終わり」といったセンセーショナルな見出しを煽るものさえある。 
 
筆者はそこまで信心深くはない。しかし、バッタの来襲で食糧事情が悪化すれば、新型コロナですでに高まっていた国家間の緊張がさらに高まることは想像に難くない。少なくとも、バッタが日本にまで来なければ無関係、といえないことは確かなのである。【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
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