インドは7月下旬、一部の種類を除いてコメの輸出を停止した。同国のコメ輸出はほぼ半減することになり、世界的な食料価格の上昇が懸念されている。
ジュリン氏は記者会見で、インドの禁輸はタイのコメ生産者に好機であり、特にアフリカはインド産のコメの消費量が多いと指摘した。
インド禁輸により市場に供給されるコメの量が減少し、国際価格が上昇するため、農家はより高い価格で売ることができると述べた。ただ、国際価格は不安定であり、政府は状況を注意深く監視していくと語った。【8月7日 ロイター】
(【5月18日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)
【バッタ「第2波」 より大規模に】
「第2波」襲来といえば新型コロナの話のようですが、今回は「バッタ」の話。
東アフリカを中心とするサバクトビバッタ大発生の「蝗害」については、以前も取り上げたことがあります。
(3月8日ブログ“バッタによる「蝗害」 東アフリカから南アジアに拡大 70年に一度の危機 コロナとバッタで混乱拡大”)
数千万匹~数百億匹ものバッタの「蝗害」は、全ての作物を食べつくして人々を飢餓に追いやる、新型コロナ以上の脅威となります。2019年後半から年初の「第1波」に続いて、当時からすでに予想されていたように、今「第2波」が起きています。しかもより大規模に。
****アフリカでバッタ大量発生の第2波、食料不足の危機****
「この…大群は…恐ろしい」
アルバート・レマスラニ氏は4月、アフリカ、ケニア北部で息を弾ませながらこう言った。レマスラニ氏は自身を撮影した動画のなかで、サバクトビバッタの群れをはたきながら歩いている。体長5センチ余りのサバクトビバッタは厚い雲のように同氏を取り囲み、1万組のトランプが一斉に切られているかのような羽音を立てる。
「数百万匹はいます。あちこちで…食べています…悪夢が現実になったような光景です」。レマスラニ氏はうめくように語った。
最大2500万人が食料不足に
レマスラニ氏(40)はケニア中部の村オルドニイロに家族と暮らし、ヤギの世話をしている。ヤギたちは低木や高木を食べて生きている。
レマスラニ氏は地元の言い伝えでしかサバクトビバッタを知らなかった。ところが2020年、食欲旺盛なサバクトビバッタの大群が数十年来の規模で東アフリカに押し寄せた。
サバクトビバッタは底なし沼のような食欲の持ち主で、農業に壊滅的な被害をもたらす恐れがある。成虫は自身の体重と同じ量の植物を1日で食べることができる。サバクトビバッタの体重は約2グラムだ。
群れはニューヨークを埋め尽くしても余りある規模の700億匹に達することもあり、その場合、約13万6000トンもの作物が1日で失われる計算になる。もっと小さな4000万匹の群れでも、3万5000人分の1日の食料に匹敵する量の植物を1日で食べてしまう。
今回の大量発生は、エチオピアとソマリアでは過去25年、ケニアでは過去70年で最悪の規模となっている。
一帯は作物の生育期を迎えており、新型コロナウイルスの影響で対策が難航している間に、サバクトビバッタの群れは増殖している。国連食糧農業機関(FAO)は、東アフリカの最大2500万人が2020年、食料不足に見舞われると試算している。
FAOによれば、エチオピア、ケニア、ソマリア、ジブチ、エリトリアの約1300万人がすでに「深刻な食料不安」に陥っているという。深刻な食料不安とは、丸1日何も食べられないか、食料が底を突いている状況のことだ。
レマスラニ氏は「私たちは将来の心配をしています。このような大群が押し寄せれば、家畜を食べさせることができなくなるためです」と語る。農業従事者は作物の心配もしている。「神がバッタを消し去ってくれるよう、私たちは祈りをささげています。新型コロナウイルス感染症と同じくらい恐ろしい存在です」
群生タイプに「変身」
サバクトビバッタは湿った場所に産卵するため、乾燥地域に大雨が降ると大発生する。植物が近くにある砂地に産卵すれば、幼虫は羽が生え餌を求めて飛び立つまで、そこで生き延びることができる。
サバクトビバッタは通常、分散する空間があれば、互いを積極的に避ける。しかし、環境が良好な場合、個体数は3カ月ごとに20倍まで増える。個体数の急増によって密度が高まると、ある行動の変化が誘発される。「孤独相」から社会的な「群生相」に変わり、大群を形成するのだ。(中略)
近年、繁殖と移動の条件はただ良好なだけではない。まさに理想的な条件だ。2018年から2019年にかけて、海水温の異常な上昇と関連づけられているサイクロンがインド洋から次々と上陸し、「何もない一角」と呼ばれるアラビア半島の砂漠が水浸しになった。その後、サバクトビバッタが急増した。(中略)
2019年6月までに、サバクトビバッタの大群は移動し、紅海を渡ってエチオピアとソマリアに到達。そして、10〜12月に東アフリカで降り続けた異常な大雨に助けられ、南のケニア、ウガンダ、タンザニアまで拡大した。
バッタたちが東アフリカに上陸してからは良好な繁殖条件が続いているため、群れはその規模を拡大し続けている。FAOで東アフリカの回復チームを率いるシリル・フェランド氏は「20倍かどうかはわかりませんが、(個体群は)はるかに大きくなっています」と話す。FAOは、サバクトビバッタの状況を世界規模で監視している。
2019年後半、サバクトビバッタの第1波が到来したとき、ほとんどの作物は成熟期に達していたか収穫後だった。しかし、第1波より大規模な現在の「第2世代」は、何よりタイミングが気掛かりだ。
東アフリカでは、主要な作物の生育期が3月中旬ごろに始まる。この時期はバッタの攻撃を特に受けやすいと、慈善団体ファーム・アフリカで農業技術の責任者を務めるアナスタシア・ムバティア氏は言う。「(バッタに)新芽を食べられたら、作物は生育できません。種をもう一度まくしかありません」。しかし、生育に最適な天候はもう終わっているため、2度目の栽培は失敗する可能性が高い。
殺虫剤の散布も困難
バッタの爆発的な増加を食い止めるため、政府はしばしば空中あるいは地上から殺虫剤を散布する。しかし、FAOのフェランド氏は、新型コロナウイルスが世界的に流行しているため、殺虫剤を調達するのが難しいと述べている。
「供給の遅延が発生しています。航空便が世界規模で減少しているため、今は(殺虫剤の在庫)管理が通常と全く違う状況になっています」
バッタの大発生をあまり経験したことがないケニアのような場所では、殺虫剤をどこに散布すべきかの判断がさらに難しくなっている。バッタの飛行パターンは主に風によって決まり、1日に約130キロの距離を移動することもある(1988年には、サバクトビバッタがわずか10日間で西アフリカからカリブ海に到達している)。
長距離を高速で移動するバッタの群れを追跡するため、FAOは現地に暮らす人々からの情報を頼りにしている。レマスラニ氏も情報提供者の一人で、1月に自らバッタの大群の追跡を開始した。
レマスラニ氏は広範な人脈を活用し、バッタの群れを見かけた人から電話をもらうようにしている。電話を受けたらバイクタクシーに乗って群れがいる場所に急行、eLocust3mというモバイルアプリに座標を入力している。
eLocust3mは米ペンシルベニア州立大学のプラントビレッジ・プログラムを主催するデイビッド・ヒューズ氏らがFAOの依頼で開発したアプリ。追跡データは政府と共有され、政府が最善策を判断することになる。(後略)【5月18日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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【新型コロナ重複で対応はより困難に】
新型コロナ禍と重なったことで、国際支援も滞っています。
“今回、FAOは各国に約1億3800万ドルの資金協力を呼びかけている。少なくとも現状で金額だけ比べると、15年前より規模は小さい。
しかし、今回の場合、タイミングが悪すぎる。ただでさえアフリカの問題は各国の関心を集めにくいが、新型コロナで各国の景気は冷え込んでいる。そのため、寄せられた支援は3月3日段階で5200万ドルにとどまる。
つまり、前回より各国の手が回らない状況は、バッタの大群にとって勢力を広げやすくする要因になる。いわば新型コロナがバッタに手を貸しているともいえる ” 【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
そうした状況に加えて、物理的にも物資輸送がストップする状況で、上記のように“新型コロナウイルスが世界的に流行しているため、殺虫剤を調達するのが難しい”事態にもなっています。
【「新型コロナ」「蝗害」で深刻な食糧危機に 「ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬ」】
被害は作物を食い荒らされる農家だけの問題ではありません。
農産物供給が減少すれば食糧価格は上昇し、多くの人々が十分な食料を入手することができなくなり「飢餓」が発生します。
更に、新型コロナの感染拡大による経済活動停滞が、こうした食料危機を更に深刻化させることも容易に想像できます。
もともとある貧困、そこにのしかかる新型コロナによる経済混乱、更に東アフリカなどではバッタの「蝗害」も・・・ということで、“ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬ”ことも危惧されています。
****食料入手に苦しむ人、コロナで倍増か WFPが警鐘****
新型コロナウイルスの感染拡大により、最低限の食料の入手さえ困難になる人が今年は世界で倍増し、2億6500万人に上る可能性がある。国連世界食糧計画(WFP)が21日、そんな内容の報告書を発表した。ビーズリーWFP事務局長は「飢餓パンデミックの瀬戸際にいる」と警鐘を鳴らす。
WFPなどが公表した「食料危機に関するグローバル報告書」によると、2019年は、55カ国・地域の1億3500万人が深刻な食料危機に陥っていた。主な理由は紛争(7700万人)や天候(3400万人)、経済危機(2400万人)だった。地域別ではアフリカ(7300万人)、中東・アジア(4300万人)が特に多かった。
今年は新型コロナの感染拡大によって各地で経済活動が停滞しており、深刻な食料危機に苦しむ人の激増につながることが懸念されているという。
エチオピアやソマリア、ケニアなどの東アフリカ諸国では最近、サバクトビバッタの大量発生により、作物が食い荒らされる被害も広がり、食料問題の深刻化にさらに拍車がかかる可能性がある。
21日に国連安全保障理事会の会合に出席したビーズリー氏は「我々が直面しているのは世界規模の健康被害だけでなく、人道的な大惨事だ。ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬという現実的な危険性がある」と指摘。
安保理がリードする形での停戦の実現のほか、世界各地で1億人に食料や個人用防護具を配布しているWFPへの支援を訴えた。 【4月23日 朝日】
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“安保理がリードする形で”・・・とてもそんな状況にないのは周知のところ。世界をリードすべき米中両国は非難の応酬、責任のなすり合いに終始しており、救済どころではないようです。
バッタの問題はアフリカだけではありません。
バッタは海を越えて移動しますので、パキスタン・インドの南アジアに、更には中国にも。
****アフリカでバッタの大群第2波発生、中国も警戒―仏メディア****
2020年4月29日、仏国際放送局RFIは、東アフリカ地域で大量のバッタが農作物を食い荒らす被害の第2波が発生しており、中国政府も警戒を強めていることを報じた。(中略)
そして、中国農業科学院植物保護研究所の張沢華(ジャン・ザーホア)研究員が「6月ごろに中国大陸もバッタの高リスク期に入る」との見方を示したことを紹介した上で、国家発展改革委員会、農業農村部、国家糧食・物資儲蓄局など11部門が先日連名で今年の食糧安全性確保に関する通知を出し、新型コロナウイルスの影響で食糧供給が滞り、社会の安定が揺らぐことのないようにするため5つの「重点任務」を打ち出したとしている。
記事によれば、5つの重点任務は、食糧生産の総合能力強化、栽培面積と生産量の基本的な安定確保、食糧備蓄の安全管理強化、食糧の市場や流通の管理徹底、食糧の緊急対応能力強化となっている。【5月1日 レコードチナ】
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食品価格上昇・食糧難が起きると、必ずそれは政治混乱を招きます。
政治混乱は、更なる経済混乱を・・・とスパイラル的に悪化することも。
日本はコロナ禍については“一息”ついたところですが、世界のコロナ禍に伴う食糧難、それに拍車をかける東アフリカなどの「蝗害」による混乱・犠牲はこれから本格化すると見た方がよさそうです。
(ケニアの牧場でバッタの大群を追い払おうとしている男性(2020.2.22)【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】 とても対応できる状況には思えませんが・・・)
【昆虫食は人類を救うが・・・・】
日本でもイナゴを食べる地域がありますが、中東・クウェートでもイナゴが“冬の味覚”だそうです。
****クウェートの冬の味覚「イナゴ」、栄養豊富なたんぱく源****
中東クウェートでは栄養価の高いイナゴが珍味とされ、焼いたり乾燥させたりして食べられている。だが、消費量は徐々に減ってきており、とりわけ若者たちの中にはイナゴを食べることに嫌悪感を抱く人が多い。
ジャーナリストのモウディ・ミフタフさん(64)は、「あの風味が好き。子ども時代の思い出の一つだし、祖父や父を思い出す」と熱っぽく語る。
ミフタフさんは毎年、冬の到来を待ってイナゴを買いだめし、自分で料理する。キッチンに立ち、沸騰しただし汁の中に1袋分のイナゴを投入する。イナゴはすぐに赤くなり、羊肉のシチューのような香りがキッチンを満たす。30分ゆでれば完成だ。
カリカリとした食感を加えたい場合にはイナゴを焼いてもいいし、乾燥させれば1年中楽しめる。だが、ミフタフさんの家族の大半は、かなり前からイナゴを食べなくなってしまったという。
イナゴは世界各地で消費されており、一部の地域では主食になっている。専門家らは、イナゴはエネルギー効率の良い優れたたんぱく源だと説明する。
クウェートでは毎年1月になると、サウジアラビアから届くその冬最初のイナゴが市場に並ぶ。イナゴは独特の赤い袋に入れられ、250グラム単位で販売されている。
イランのアフワズ出身のアブ・モハメドさん(63)は、普段はクウェート市北西部のライ市場で魚を売っているが、この時期になるとイナゴとトリュフを売る。「イナゴは(飛ばずにじっとしている)冬の夜に捕獲される」といい、味は「エビ」に似ていて「新鮮なものは非常に美味で、特に卵を抱えた雌の味は格別」だと言う。
モハメドさんは1月から4月までのシーズン中、約500袋を販売する。1袋の価格は、3~5クウェート・ディナール(約1100~1800円)だ。
一方、当局はイナゴが汚染されている懸念があることから消費を禁止しようと模索しているが、今のところ実現していない。またイナゴは繁殖力が強く、大群となって作物に被害を与えるため、一部の国々では殺虫剤を使った処分を余儀なくされている。【3月7日 AFP】
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昆虫食が人類の将来の食糧難を救うという話はときおり聞きますので、イナゴはその代表格でしょう。
【東アフリカから中東、更には南アジアへ】
ただ、「繁殖力が強く、大群となって作物に被害を与える」ということで、逆に人間の食糧を食い尽くしてしまう「蝗害」も起きています。
イナゴではなくバッタになると、その被害も更に大規模になり、古くは、モーセが虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する物語を中心に描かれ旧約聖書「出エジプト記」にも出てきます。
東アフリカで(イナゴではなく)バッタが大発生し、農作物を食い荒らし、深刻な食糧危機の恐れがあるという話は、2月10日ブログ“東アフリカ 拡大するバッタの「蝗害」 食糧難に拍車”で取り上げましたが、その後もバッタ(正確にはサバクトビバッタ)は風に乗って海を渡り、インド・パキスタンでも被害が広がっています。
サバクトビバッタは「1日150キロメートルの移動が可能で、毎日自分の体重に相当する約2グラムを食べる」そうで、被害は「今年6月まで続く見通し。その頃、群れの規模は現在の500倍になっている可能性がある」とも。【3月5日 レコードチャイナより】
****パキスタンでバッタ大量発生 過去30年で最悪の作物被害****
パキスタンでバッタが大量発生し、国内の農業地帯では過去30年間近くで最悪の被害が出ている。特に農業の中心地で作物が壊滅的な打撃を受け、食料価格の急騰を招いている。
国連は、アラビア半島を昨年襲った豪雨とサイクロンが「前例のない」バッタの繁殖を促したと指摘している。
このバッタの大群は、東アフリカからインドにかけて広がり農地に大きな被害をもたらした後、イランを通ってパキスタン南西部の砂漠地帯から同国へ侵入。パキスタン政府は深刻な被害を受けて全土に緊急事態を宣言し、国際社会に緊急援助を要請した。
パキスタン南部シンド州では、換金作物である綿の壊滅的被害が懸念されている。州都カラチ付近では全体の半分の作物が被害を受けている。
また北東部パンジャブ州の当局は、被害を受けた地区に殺虫剤を散布するなど「駆除対策を開始」したと明らかにした。
有害な煙霧が広がる中、毎日村人らは1キロ当たり20パキスタン・ルピー(約13円)の報奨金のために農地でバッタの死骸を集めている。しかしこの作業は時間がかかる上、1か所の農地でバッタを駆除している間に、別の農地の作物が壊滅していることも多い。
また当局が使用する殺虫剤は食べる上で危険なため、バッタを駆除しても残った農作物も廃棄しなければならない。殺虫剤の散布の順を待つ間、苦肉の策として鍋を叩いて叫びながらバッタを追い出そうとする農家もある。
ムハンマド・ハシム・ポパルザイ食料安全保障・研究相は、中国の専門家らによるチームが今回の危機を調査するためにパキスタンに到着したとAFPに明らかにした。
中国はより迅速で効果的な害虫駆除方法として、殺虫剤の空中散布を申し出る可能性もあり、またパキスタンが中国から殺虫剤を輸入する可能性もある。
パキスタンの農業は長い間干ばつや水源の縮小に直面してきた。経済は12年連続で高インフレ率にあえいでおり、過去1年間では砂糖の値段が2倍近く、小麦粉の値段は15%上昇した。
パンジャブ州ピプリ・パハール村の農業従事者らの多くは、バッタの駆除対策を講じるには遅すぎると感じている。ラフィヤ・ビビさんは牛と一緒に小麦畑の隅に座り、周囲に殺虫剤がまかれるのを眺めていた。
ビビさんは政府から4万5000パキスタン・ルピー(約3万円)を借り入れ、菜種、ヒマワリ、トウガラシ、タバコなどを購入したが、バッタの大群はすでにこれらの作物を台無しにしてしまった。収穫できなければ借金を返す方法はないという。 【3月8日 AFP】
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“当局が使用する殺虫剤は食べる上で危険なため、バッタを駆除しても残った農作物も廃棄しなければならない”・・・だったら、農民は何のために殺虫剤を散布するのでしょうか?
【中国のパキスタン「蝗害」支援 単に「一帯一路」の問題ではなく、中国の水際作戦でも】
その疑問はともかく、記事にもあるようにパキスタンとの関係を近年強めている中国が支援を申し出ています。
****中国、蝗害に見舞われたパキスタンを緊急支援へ*****
中国のバッタ防止・制御の専門家チームがこのほど、パキスタン・カラチでの記者会見で、中国はこのたび、サバクトビバッタの大量発生(蝗害)に見舞われているパキスタンに対し、包括的な緊急支援を実施したことを発表した。
バッタの大群は、これまでに農地数百万エーカーに被害をもたらし、パキスタンの食料安全保障に対する深刻な脅威となっている。
この状況に対し、同チームの首席専門家の王鳳楽氏は、中国政府は非常に重視し、状況分析と対応策を講じたうえ、緊急支援を行ったと述べた。(中略)
(国連食糧農業機関(FAO)でパキスタンにおけるバッタ対策を担当するム)アフマド氏はまた、「昨年10月末から11月にかけて、バッタの大群がタルパカール砂漠に舞い戻り、卵を産んだ。卵は今後数か月のうちに大きな脅威となる恐れがある。なぜなら、卵がふ化すれば、バッタの数は数十倍以上に膨れ上がるからだ。そうしたら、パキスタンは大きな課題に直面することになる」と警鐘を鳴らすように述べた。
パキスタンの公式統計によると、この9か月の間に、3000万エーカーの土地が蝗害に見舞われたが、殺虫剤が散布できたのはその100分の1しかなかった。
東部パンジャブ州と南西部バルチスタン州、北西部カイバル・パクトゥンクワ州も蝗害の影響を受け、パキスタンのイムラン・カーン首相は今月、国家非常事態を宣言した。中国に支援を求めるよう食料安全保障研究省に命じた。
中国農業農村部国際協力局の徐玉波氏は記者会見で、中国のバッタ防止・制御に関する技術と経験は、パキスタンのニーズに十分に応えると語った。さらに中国には、最先端の予防・制御技術や器具、人員のトレーニング、早期警戒プラットフォームなどの分野で協力する用意があると説明した。【3月6日 Xinhua News】
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中国の世界戦略「一帯一路」にとってパキスタンは要となる国ですから、中国のパキスタン支援は当然の対応でもありますが、中国にとっても他人事ではないようです。
****バッタの大群が中国に侵入?当局が緊急通知―仏メディア****
中国国家林業・草原局は2日、中国がバッタ侵入の危機にさらされているとして徹底的な予防措置を求める緊急通知を出した。仏RFI中国語版サイトが同日付で報じた。
記事によると、同局は「サバクトビバッタ」について、「すでに東アフリカからインド、パキスタンに広まっている」と指摘。中国国内に侵入して被害が起きるリスクは比較的低いという専門家の見解に言及する一方、いったん侵入すれば抑制困難など多くの不確定な問題に直面すると危機感を示した。
バッタは中国の草原地域に広く分布しており、草原における毎年の蝗害(こうがい=イナゴ・バッタ類による被害)面積は平均10万平方キロメートルに上るという。(後略)【3月5日 レコードチャイナ】
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風土上の違いで日本ではバッタによる「蝗害」はありませんが、中国ではこれまでも大規模な「蝗害」が発生しています。
【コロナに加えてバッタ アジアの混乱の影響は日本にも】
おりしも新型コロナウイルスが猛威をふるっていますが、疫病に加えて蝗害・・・「この世の終わり」とか「人類に対する神の怒り」といった類の反応が見られても不思議ではないところです。実際、欧米メディアにはそうしたセンセーショナルな反応も見られるとか。
****コロナに続くもう一つの危機――アフリカからのバッタ巨大群襲来****
国連の食糧農業機関はその大発生の規模を「70年に一度」のものとも表現している
これによって懸念される食糧不足は人道危機であるばかりか、新型コロナの影響を受ける日本のサプライチェーンをさらに揺さぶりかねない
新型コロナに揺れるアジア諸国にもう一つの危機が迫っている。アフリカから飛来し、各地で農産物を食い荒らしてきたバッタの大群が、中国西部にまで接近しているのだ。
コロナ蔓延に続くバッタ来襲
(中略)一口にいえば、このバッタの大群は東アフリカで大発生し、アジアにまで飛んできたものだ。
このバッタは乾燥地帯に暮らすサバクトビバッタで、基本的に日本にはいない種類のものだ。より詳しくは昆虫学者に譲るが、生息環境の変化などに応じてサバクトビバッタの外見や行動パターンには変化が生まれ、集団で行動するようになると、風に乗って1日に100〜200キロも移動しながら、行く先々で穀物や果物を食い荒らす。
1平方キロメートルに集まるサイズの比較的小さな群でも、1日あたりで人間3万5000人とほぼ同じ量を食べるといわれる。
70年に一度の危機
その大発生は、新型コロナとほぼ時を同じくして始まった。
新型コロナが問題になり始めていた2月2日、東アフリカのソマリア政府はバッタの大量発生で食糧危機が発生しつつあると緊急事態を宣言。これと前後して、バッタの被害は東アフリカ一帯に広がり、国連の食糧農業機関(FAO)はソマリアでは25年、隣国ケニアでは70年に一度の危機として緊急事態を宣言した。
その後、バッタの大群は紅海を越えてアラビア半島に至り、さらにペルシア湾を超えてアジアにまで飛来するようになった。
3月6日段階で、FAOは東アフリカ8カ国、中東5カ国、南アジア2カ国(アフガニスタン、パキスタン)で新たな群を確認している。
このうち、パキスタンの北東には中国の新疆ウイグル自治区がある。つまり、バッタの大群は西からの風に乗って中国にも押し寄せる可能性がある。先述の中国のパキスタンに対する支援は、単に外交的な関係に基づくものではなく、いわば自己防衛のための水際対策でもあるのだ。
スーパーコンピューターを用いた駆除
サバクトビバッタはこれまでにもしばしば大発生してきたが、今回の場合、昨年末に東アフリカ一帯で雨量が多かったことが原因とみられている。サバクトビバッタは雨量が多いと大量に発生しやすい。
ところで、東アフリカではサバクトビバッタの産卵シーズンだった昨年10月から11月にかけて、降雨量が例年の約3倍に達したといわれる。これが地球温暖化の影響によるものかは、いまも科学者が研究中だ。
ともあれ、この大雨がサバクトビバッタの大発生を促したとみられるのだが、これに対して各国も無策というわけではない。イギリスの支援で設立されたアフリカ天候気象情報センターではスーパーコンピューターを用いてバッタの行動範囲などを計算し、この情報に基づいて、時に軍隊まで動員しながら、アフリカ各国は効率的な駆除を試みている。
新型コロナに手を貸されるバッタ
しかし、それでもバッタの大群は各地に飛散し続けており、それは大きな被害をもたらし得る。
2003年から2005年にかけても、アフリカや中東の20カ国以上でサバクトビバッタによる蝗害が広がった。この時のFAOの報告書によると、対策のためにかかった経費は総額4億ドルを上回り、西アフリカ6カ国だけで838万人が食糧不足などの影響を受けた。
今回、FAOは各国に約1億3800万ドルの資金協力を呼びかけている。少なくとも現状で金額だけ比べると、15年前より規模は小さい。
しかし、今回の場合、タイミングが悪すぎる。ただでさえアフリカの問題は各国の関心を集めにくいが、新型コロナで各国の景気は冷え込んでいる。そのため、寄せられた支援は3月3日段階で5200万ドルにとどまる。
つまり、前回より各国の手が回らない状況は、バッタの大群にとって勢力を広げやすくする要因になる。いわば新型コロナがバッタに手を貸しているともいえる。
対応が間に合わなければ、その影響は各方面におよぶ。アフリカから中東にかけてはテロが横行し、紛争の火の手が各地であがっているが、食糧不足による社会の混乱はこれに拍車をかけかねない。
アジアに迫る影
そのうえ、今回はアジアも無縁ではない。
2003〜2005年の場合、最終的にはサウジアラビアなどアラビア半島でもサバクトビバッタの来襲は確認されたが、それまでに1年以上の月日を費やした。発生したのが西アフリカで、中東に達するまで距離と時間がかかったからだ。
しかし、今回は東アフリカが発生源のため、15年前より早くアラビア半島を通過し、すでにアジアにその影をみせ始めている。
アフリカと比べても人口過密なアジアでバッタが農作物を奪えば、食糧危機が発生するリスクはさらに高い。
そのため、例えばパキスタンと隣接するインドでは、政府がドローンや殺虫剤などの調達を強化している。また、インドはもともとパキスタンとの間でカシミール地方の領有を巡って緊張が高まっていたが、バッタの来襲を受け、協力に向けた協議を進めている。
気候などの問題から、サバクトビバッタが日本にまで飛来してくる可能性は限りなく低いかもしれない。
しかし、今回の大発生は人道危機であるだけでなく、日本にも直接かかわり得る。
アジアは中東やアフリカと比べて日本経済により緊密に結びついており、この地域で生産が滞れば、ただでさえ新型コロナでダメージを受けている日本のサプライチェーンは今よりさらに停滞しかねない。
旧約聖書には、神の怒りに触れた古代エジプトで、病気の蔓延やバッタの大発生といった災禍が相次いだという記述がある(出エジプト記)。これを踏まえて、欧米メディアのなかには「世界の終わり」といったセンセーショナルな見出しを煽るものさえある。
筆者はそこまで信心深くはない。しかし、バッタの来襲で食糧事情が悪化すれば、新型コロナですでに高まっていた国家間の緊張がさらに高まることは想像に難くない。少なくとも、バッタが日本にまで来なければ無関係、といえないことは確かなのである。【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
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