孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  “ウクライナでの失敗”で進む経済的中国依存 権益でも、人でも極東で強まる中国の存在

2024-04-20 22:11:31 | ロシア

(2018年9月11日、ウラジオストクで行われた「東方経済フォーラム」に参加しているロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が、会談後にエプロン姿となり、料理の腕前を披露し合う場面があった。【2018年9月12日 ロイター】
当時から5年半、両者の力関係は大きく変化しています。)

【戦術的には優勢なロシアだが、戦略的にはウクライナ侵攻は大きな失敗】
パレスチナ、イラン・イスラエル関係の影に隠れた形になっていますが、ウクライナでは物量にものを言わせたロシアの攻勢によってウクライナは苦境に立たされています。
“「ウクライナ年内敗北も」 米CIA長官、支援なければ”【4月19日 共同】

ウクライナにとって死活的に重要なのがアメリカの支援。そのアメリカの支援は米国内の与野党対立によって停滞していましたが、ここにきてようやく動き始めたようです。
“米下院、ウクライナ・イスラエル支援を別個に審議へ”【4月16日 ロイター】

海の向こうのウクライナより国内対策を優先すべきという共和党保守強硬派は依然としてウクライナ支援に反対していますが、共同歩調を取ってきたトランプ前大統領もここにきて変化を見せています。
“トランプ氏「我々にとってウクライナの存続は重要だ」、大統領選を見据え軌道修正か”【4月19日 読売】

このままアメリカの支援が遅れて、結果ウクライナが敗北し、その責任を問われるような事態を避けたいのかも。
逆に言えば、それほどウクライナの現状は厳しいということでしょう。

ただ、仮にロシアが戦術的にウクライナで「勝利」したとしても、総合的・戦略的に見ると、ロシア・プーチン大統領のウクライナ侵攻は大きな失敗に終わったというべきでしょう。

ひとつは、ウクライナがNATO陣営に走るのを阻止すると言いつつも、実際にはスウェーデン・フィンランドのNATO加盟など、NATO陣営の拡大・強化を招いたこと。

もうひとつは、西側の経済制裁のもとでの戦争遂行のため、中国依存を強め、中国の「従属的なパートナー」と言われるような地位(「属国化」といった表現も)にロシアを追い込んでいることです。

もちろん、アフガン侵攻の1万5千人を遥かに超える5万人超の死者を出し、多くの人材が国外に流出するなどロシア国内の体制にとっての打撃も小さくありません。

また、軍事大国ロシアの軍事力に大きな疑問が持たれる結果にも。

上記のような多大なコストを考えると、ウクライナ東部・クリミアにおけるロシアの支配を強化できたとしても、まったく割に合わない失敗戦略でした。そもそも侵攻と同時に首都キーウを制圧する予定だったのでしょうが、ここまで戦闘が長引いていること自体が完全に目論みが外れた状況です。

【ロシアにとって中国は“命綱” 進むロシアの「従属的パートナー」の立場】
今回取り上げるのは、そうしたコストのひとつ、中国との関係・・・というか、強まる中国依存の状況です。

****「親愛なる友よ」中国への依存強めるロシア…習近平政権、露との連携利用しつつ深入り避ける構え****
北京で(2023年10月)18日開かれたロシアのプーチン大統領と中国の 習近平シージンピン 国家主席との会談では、ウクライナ侵略を続けるプーチン政権が、エネルギー分野などで中国への依存を強めていることが浮き彫りになった。習政権は、米国主導の国際秩序に対抗するためロシアとの連携を利用しつつも、深入りを避けているとみられる。
 
「親愛なる友よ」
侵略開始以降、旧ソ連圏外で初の外遊に中国を選んだプーチン氏は、会談の冒頭、習氏にこう呼びかけた。「一帯一路」構想を「非常に発展している」と述べ、「あなたの指導の下、成功を収めている」と称賛の言葉を繰り返した。

会談の主眼は、経済とエネルギー分野の連携強化だ。中国当局によると、今年の中露の貿易総額は9月末時点で1700億ドル(約25兆円)を超えた。2024年までに2000億ドル(約30兆円)に上げる目標を掲げるなか、プーチン氏は「今年は間違いなく突破する」と強調した。必死のアピールは、米欧の経済制裁が続く中、ロシアにとって中国との結びつきが死活的であることを際立たせた。

露側の期待感は同席者にも表れた。エネルギー担当の副首相のほか、露国営の石油会社ロスネフチやガス企業ガスプロム、銀行や原子力関係の企業トップが会談に同席した。石油や天然ガスの中国への輸出拡大を見据えた動きとみられる。
 
習氏は、プーチン氏との会談が13年以降で42回に上り、「良好な関係と深い友情を築いてきた」と述べ、プーチン氏が欠かせないパートナーだと強調した。
 
米欧も中露接近を警戒する。AP通信によると、9日に習氏と会談した米上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務はロシア支援の停止を求めた。
 
ただ、習政権もロシアへの過度な肩入れはしない構えだ。英メディアによると、習氏は3月のモスクワでの会談で、プーチン氏にウクライナで核兵器使用を控えるよう警告。それでもプーチン氏は6月、隣国ベラルーシへの戦術核配備の開始を宣言するなど威嚇を続けた。米ブルームバーグ通信によると、中国は6~7月にロシアからの原油輸入を3割近く減らしたという。
 
中国にとって対露貿易総額(22年)は、対米国(約7600億ドル)と対欧州連合(EU)(約8500億ドル)の総額を合わせれば、約8分の1にすぎない。露専門家からは「中国がロシアだけを理由に西側を含む関係を悪化させることはない」との分析も出ている。(後略)【2023年10月19日 読売】
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ロシアにとって中国との関係は頼みの綱ともなっていますが、中国にとってロシアはカードの1枚に過ぎません。

その後もロシアと中国の交易は拡大しています。

****中ロ貿易が過去最高=深まる相互依存****
2023年の中国とロシアの貿易総額は前年比26.3%増の2401億ドル(約35兆円)となった。過去最高だった前年の1903億ドルを更新し、初めて2000億ドルを突破。ともに対米関係などが冷え込む中、経済的な相互依存を深めている。

「協力は健全かつ順調に発展している」。中国の習近平国家主席は昨年12月、訪中したロシアのミシュスチン首相との会談で中ロ関係をこう自賛した。両国は18年に約1000億ドルだった貿易総額を24年までに倍増させることで一致していたが、1年前倒しで達成した。
 
ウクライナ侵攻を受けて日米欧などから制裁を科されたロシアにとり、中国との関係は侵攻を続ける上で「命綱」となっている。ロイター通信によると、ロシア産原油の最大の購入元は中国。一方、侵攻以前に主な輸出先だった欧州向けは激減。エネルギー業界の関係者は「中国が原油を買わなければ、戦費を十分に調達できない可能性がある」と指摘する。
 
中国も米国による半導体の輸出規制などに苦しむ中、外交的に立場が近い大国のロシアとの関係を重視。中ロ間では高官の往来が相次いでおり、習氏自身も23年の初外遊先としてロシアを訪問した。
中国は同年に自動車などの対ロ輸出を急増させ、貿易面でロシアとのつながりを深めた。

ただ、中国にとって対ロ貿易の比重は約4%にとどまっており、対欧州連合(EU)の13%や対米の11%、対日の5%を下回る。先の関係者は「中国はロシアの苦境をうまく利用し、経済的な利益を得ている」と指摘した。中国はロシア産原油について、サウジアラビア産などに比べて安価に調達してきたとされている。【1月12日 時事】 
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【極東権益を侵食する中国 ウラジオストク港使用権を回復】
単に経済的な「ロシアの中国依存」だけでなく、そうした力関係を背景に、中国のロシア極東への進出も進んでいます。

****中国がロシアの港を奪還? 極東権益を侵食中****
ウラジオストク港の使用権を165年ぶりに回復

中国は2023年6月1日から、ロシア極東の最大都市ウラジオストクの港の使用権を165年ぶりに回復した。さらに西部国境では、中国とキルギス、ウズベクの横断鉄道計画にゴーサインを出し、ロシアの権益を次々と侵食している。

ウクライナ侵攻で衰退が加速するロシアの弱みを突いて「兄弟関係」を逆転しただけではない。ウクライナ危機の最大の受益者は中国かもしれない。

中国「祖国の懐に」と興奮
「ロシアによって165年間使用された後、港はついに祖国の懐に戻った」
中国東北部の吉林省と黒竜江省が、省産品を浙江省など沿海地域に出荷する際、ウラジオストク港を使用する特例措置が6月1日から認められたニュースを伝える報道だ。

かつて中国領だったウラジオストクが、帝政ロシアとの不平等条約によって奪われた「屈辱の歴史」をそそいだかのような興奮ぶりだ。ロシアはもちろん太平洋艦隊の基地がある極東最大の軍事拠点の同港を中国に「返還」するわけではない。順序を追って説明しよう。

中国税関総署は2023年5月4日、中国東北部の老朽化した工業基地を活性化するため、同年6月1日から国内貿易品を国境越えの通過港としてウラジオストク港を使用できるようになると公告した。

ロシア政府がこれを認めたのは、習近平が2023年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で3期目の国家主席入りを果たした後、3月20〜22日に初の外遊先としてロシア訪問した時だ。プーチン大統領との10時間以上におよぶ首脳会談での、最大のテーマはウクライナ問題だった。

首脳会談後に2人は、「2030年までの経済協力の大枠に関する共同声明」に署名した。この中で、「両国の鉄道、道路、河川、海運など輸送迅速化を含む物流面での協力」をうたい、ウラジオストク港使用でプーチンの「ダー(イエス)」を勝ち取ったのだった。

沿海州は清朝時代には「外満州」(Outer Manchuria)と呼ばれる中国領だった。しかしアヘン戦争で清朝が弱体化、帝政ロシアは1858年のアイグン(璦琿)条約と、1860年の北京条約でアムール川左岸を獲得、ウスリー川以東の外満洲を両国の共同管理地として「割譲」した。

中国側は帝政ロシアに奪われた国土の総面積を外満州にモンゴルと西域を合わせ約500万平方キロメートルと、現在の中国領土の半分強に相当すると主張、中国にとって屈辱的割譲だった。

ウラジオストク港使用権の付与に合意した背景は何か。まず経済面。中国が吉林省や黒竜江省から貨物を輸送する場合、今は大連港まで運んで、江蘇省、浙江省向けの貨物船に積み替えている。大連までの距離は短くても300キロメートル、長ければ600キロメートルである。

ウラジオストク港開放によって最短100キロメートル、最長でも300キロメートルと輸送距離は半減され、コストパフォーマンスもいい。吉林、黒竜江省から中国南部への輸送は「国内貿易」扱いだから関税の問題も発生しない。

一方、ロシアのメリットは何か。これまでロシアはウラジオストク港を、原油、天然ガス、海産物、木材などを日本、韓国、アメリカ、台湾に輸出する窓口にしてきた。しかしウクライナ侵攻に伴う経済制裁で、西側諸国への輸出量は激減。ウラジオストク港には「閑古鳥が鳴く」状況だ。

プーチン政権を支え、要求をのませた中国
中国が対西側貿易減少の穴を埋めてくれれば、ロシアも「ニエット(ノー)」とは言えない。それがウラジオ使用権を求める中国の要求を受け入れた経済的理由だ。双方にとり「ウィンウィン」のケースだ。

では、政治的にはどうか。西側は中国がロシアのウクライナ侵攻を非難せず、ロシア軍の即時撤退を求めていないとして、「ロシア寄り姿勢」を批判。広島サミットの首脳声明でも中国にロシア軍撤退を要求するよう求めている。

2023年3月の中ロ首脳会談の共同声明は、「(中ロ)双方は、国際連合憲章の目的と原則が尊重されなければならず、国際法が尊重されなければならないと信じる」とした。ウクライナ侵攻が国連憲章に違反していること念頭にした、事実上のロシア批判だ。中国は決してロシア寄りの立場をとっているわけではない。2014年のクリミア併合を中国が認めていないのもその証左だ。

共同声明はさらに、ウクライナ危機の解決に積極的な中国の意思を歓迎し、「『ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場』(2月の声明)に示された建設的な命題を歓迎する」と、中国の仲介工作を支持した。

共同声明を読む限り、ロシアは中国の主張をそのまま受け入れたことがわかる。ウクライナ侵攻後、中ロ2国間貿易は前年比30%増となった。大半が経済制裁で西側に輸出できなくなった原油、天然ガスを中国が輸入しているからだ。ロシア経済を支えるうえで、原油を大量に輸入してくれる中国とインドの存在は死活的に重要だ。

中国は経済的利益を与えてプーチン政権を支えているだけに、ロシアは中国の要求をむげに断れない。米中対立の激化で、中ロは安全保障協力を強化することに「共通利益」を見出している。中国からすればロシアにさまざまな要求をのませる絶好のチャンスでもある。こうしてみると、中国こそウクライナ危機最大の受益者ではないか。

中国とロシア(旧ソ連)は1989年5月、当時のゴルバチョフ共産党書記長の訪中で関係を正常化。最大の懸案だった国境問題は2004年、東部のウスリー川など3河川の係争地を2分割することで合意し国境線を最終画定した。
しかし、不平等条約によって奪われたウラジオストクの存在は、中国にとっては屈辱の歴史の象徴でもあった。

一方、ロシアにとっては極東最大の軍事的意味という重要性がある。にもかかわらずウラジオを開放したのは、中国との協力によって、加速する衰退と孤立を回避したいからだ。

中国が獲得したのはウラジオストク港使用権だけではない。習近平は5月18、19日、シルクロードの古都西安で中央アジアのカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン5カ国首脳との首脳会議を開いた。(中略

中国・キルギス・ウズベク鉄道が前進
日本の全国メディアは報じていないが、宣言は中国・新疆ウイグル自治区からキルギスタンとウズベキスタンに延びる「新鉄道建設」(総延長523キロ)の着工加速も盛り込んだ。鉄道が完成すると、中国貨物を鉄道で中央アジアから中東各国に輸送できるだけではない。中国から欧州への鉄道の最短ルートにもなるのだ。

計画は1997年に浮上したが、山岳地帯を貫く工法や環境問題、軌道幅など技術問題に加え、ロシアと中国のどちらが出資するかなど政治的理由もあり一向に進展しなかった。

変化は2022年5月16日、モスクワで開かれたロシアと旧ソ連構成6カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)首脳会合で起きた。プーチンがキルギス大統領の進言を受け、計画を中国資金で建設することに「反対しない」と初表明した。これにより着工への展望が一気に開け、王毅外相(当時)は翌6月に「2023年着工」を発表した。

中国のロシア権益侵食について、ロシアはどう受け止めているのか。フランスのマクロン大統領は2023年5月14日付のフランス紙とのインタビューで、ロシアは国際的に孤立し、「中国の属国に成り下がった」と酷評した。

これに対しクレムリンのペスコフ報道官は「両国は戦略的パートナーであり、従属かどうかの問題などない」と反論した。プーチン自身も6月16日、サンクトペテルブルク「国際経済フォーラム」で、欧米制裁にもかかわらず、「世界経済のリーダーの地位を維持する」と強気の姿勢をみせた。

しかしプーチンの強気に説得力はない。中国共産党は1921年の創設以来「共産主義の祖国」ソ連から、革命理論をはじめ党組織論を学んできた。新国家建設もソ連をモデルにし、ソ連を「兄」、中国が「弟」の兄弟関係にあった。

その関係がいまは完全に逆転したのは、差が開く一方の経済力にある。ウクライナ戦争発動の遠因は、1991年のソ連崩壊。長期にわたり世界の半分を支配した「帝国の喪失感」はプーチンだけでなくロシア国民に広く共有されている。

しかし戦時経済の長期化でロシア経済は深刻な打撃を受け、中国の協力抜きの生存は危うい。ウラジオストク港の使用権回復と中央アジア権益拡大は、中国がロシアの弱さを突いて獲得したものだ。同時に権益侵食が過剰になれば「傷ついた熊」の誇りを傷つけかねない。

それが高じれば、中ロ関係にひびが生じ西側の利益になることを中国は自己の歴史経験から知っている。今後中国がどこまでロシア権益に手を出すか、アクセルとブレーキを交互に踏みながら微妙なハンドリングを迫られる。【2023年6月20日 岡田充氏 東洋経済オンライン】
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【極東ロシアに流入する中国農民が地元住民を圧倒】
「権益」だけでなく「人」の動きも。

****中国、「無限の協力関係」の中でロシア極東の一部を静かに乗っ取り?―米誌****
ロシアがウクライナ侵攻後、中国との関係をより深める中、米誌「ニューズウィーク」は「無限の協力関係をけん伝する中国が、ロシア極東の一部を静かに乗っ取ろうとしている」と報じた。さらに「中国と国境を接する極東ロシアに流入する中国農民が地元住民を圧倒し、人民元依存で経済のかじ取りができない」とも伝えた。

ニューズウィークは日本メディアの記事を引用して「極東の沿海州(プリモルスキー州)の国境地帯では中国人農民が急増しており、その経済的影響力は地元住民を圧倒している」と紹介。「1860年に清朝がロシアに割譲したこの地域は中国の政策立案者やナショナリストの関心の的となっている。昨年、中国は国内の地図に沿海地方の行政の中心地であるウラジオストクの中国語名である海参崴のほか、七つのロシア極東部の中国語名を記載するよう定めた」と続けた。

さらに「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナは常にロシア国家市の一部だったと主張するのと同じように、中国の習近平国家主席は失われた領土の回復を『中華民族の偉大な復興』の最優先課題に挙げている」と指摘。「ロシア国境と接する中国東北部黒竜江省の鶴崗市はかつて石炭の産地として栄えたが、経済の先行きは暗い。そんな中で、これからも多くの中国人農民がロシアに向かうかもしれない」と予測した。

米シンクンタンク、スティムソン・センターの中国プログラム責任者ユン・スン氏は「ロシア極東地域における『黄禍論』的な不安は今に始まったことではない。何世紀とは言わないまでも、それが何十年も存在してきたのは国境の両側の人口バランスが大きく崩れているためだ」と説明。「中国人の流入はロシアの支配を脅かしかねない。まだ主権の問題が交渉のテーブルに上る段階ではないと思うが、現地の中国人農民をどう管理するかは厄介な問題になるだろう」とした。

学術雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・エコノミクス・アンド・ソシオロジー」に掲載された2021年の研究では、中国人農家の存在や中国人所有企業との取引がロシアの地元農家の所得を押し上げるケースもあることが分かったという。

ウクライナ侵攻で西側から経済制裁を受け、銀行の国際決済網SWIFT(スイフト)から排除されているロシア経済を戦時需要とともに支えているのは中国との貿易だ。

ロシア経済省によると、2023年上半期、ロシアは中国との貿易高の4分の3、その他の国との取引の4分の1を人民元で決済した。米ブルームバーグ通信によると、ロシアの中央銀行は3月29日に発表した年次報告書の中で「外貨準備に関して人民元に代わる良い選択肢がない」と言及。

ニューズウィークは「中露間に外交的緊張や貿易摩擦が生じた場合、『従属的なパートナー』であるプーチンは窮地に立たされ、中国が直面する経済的課題の悪影響を受けることになる」との見方を示した。【4月20日 レコードチャイナ】
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記事にもあるように“ロシア極東地域における『黄禍論』的な不安は今に始まったことではない”ですが、ただでさえ人口希薄・経済不活性なロシア極東への中国の人的移動がウクライナ問題を背景として一段と加速しているようです。

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アメリカによる対ロシア第二次制裁(決済支援した銀行が対象)の中国などの銀行への影響拡大

2024-04-12 23:14:24 | ロシア

(中国の王毅外相は、北京を訪問しているロシアのラブロフ外相と9日に会談しました。

会談後、王毅外相はラブロフ外相と共同で会見し、アメリカによる中国への先端半導体の輸出規制などを念頭に、「中国とロシアはサプライチェーンに障壁を構築することや、デカップリングに共同で反対する」と述べ、欧米などから制裁を受けるロシアとの協力を深めていく考えを強調しました。

一方、ロシアのラブロフ外相は会談の冒頭で「ロシアと中国の包括的なパートナーシップと戦略的な相互関係は、前例のないレベルに達している」と述べたうえで、3月にモスクワ郊外で起きたテロ事件にも言及して、テロ対策でも中国と協力していくと強調しました。【4月9日 NHK】

こうした政府間の蜜月ぶりの一方で、経済取引の現場ではアメリカの経済制裁の影響が出ていることが報じられています)

【アメリカが昨年12月に導入した対ロシア第二次制裁】
アメリカなどが主導する対ロシア経済制裁については、ロシア経済が“しぶとい”ことから、効いていない、効いているとの論議があります。

このブログでも、3月23日ブログ“ロシア石油精製施設へのウクライナのドローン攻撃で露呈するウクライナとアメリカの立場の違い”で、G7が導入したロシア産原油に価格上限を設ける経済制裁についてとりあげました。

世界の原油取引を混乱に陥れるロシアの原油生産抑制という行動を回避しつつ、ロシアの原油取引収益を相当程度に抑え込むという意味で、一定の効果をあげているというものでした。

今回取り上げるのは、アメリカが昨年12月に導入した第二次制裁、制裁を受けているロシア企業の資金決済に関与した場合、銀行に対し厳しい罰則を課すものです。

****米国、対ロシア「二次制裁」発動へ-決済支援した銀行が対象****
米国はロシアの軍産複合体による資金決済に関与した銀行を対象とする新たな制裁措置を講じる。ウクライナ侵略を続けるプーチン政権に手を貸す資金の流れを断つ取り組みの一環だ。

バイデン米大統領は22日、2本の大統領令を修正し、ウクライナでの戦争を巡りいわゆる「二次制裁」を米国として初めて発動できるようにする。記者団に説明した政府高官が匿名を条件に明らかにした。

これにより、すでに関連の制裁を受けている企業と取引をした場合、銀行に対し金銭面での厳しい罰則が科せられることになる。取引相手がロシア絡みの制裁を受けていることについての認識の有無にかかわらず制裁の対象になる。

米国の銀行はすでに制裁違反にならいようコンプライアンス(法令順守)対応で多額の資金を投じており、新たな制裁措置をさらなる頭痛の種と捉える銀行もあるとみられる。

国際的な銀行の多くはロシアとの直接取引はすでに行っていないが、ロシアとの貿易に関係する金融活動を続けている第3国の金融機関向けにコルレス銀行業務を行うことはあり得る。

イエレン米財務長官は声明で、制裁の「迂回(うかい)・回避を意図的もしくは意図せずして手助けすることがないよう金融機関があらゆる取り組みをすると見込んでいる」とし、ロシアの戦争に絡み便宜を図った金融機関に対し断固たる措置を講じるため今回の大統領令で認められた「新たな手段の活用をためらうことはない」と表明した。

米当局は今後数週間にわたり、米国と欧州の銀行に大統領令について説明し、制裁違反にならないよう対応する必要があると警告する予定。【2023年12月22日 Bloomberg】
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コルレス銀行については、以下のようなものです。

****コルレス銀行とは:海外送金の仕組みを知る****
海外の銀行同士には、直接的なつながりがないことがほとんどです。そのため、海外送金の際に、銀行はSWIFTと呼ばれる国際的な銀行のネットワークを利用します。

このSWIFT送金で、送金銀行と受け取り銀行をつなぐ役割を果たすのが、コルレス銀行(仲介銀行、中継銀行、経由銀行とも呼ばれる)です。ちなみに「コルレス」はCorrespondentの略です。

例えば、日本からアメリカに海外送金する場合、その流れは、以下のように表すことができます。
日本の送金人の銀行 → コルレス銀行1 → コルレス銀行2 → アメリカの受取人の銀行
海外送金では、大抵2つ、多くて3つものコルレス銀行(中継銀行)を経由することがあります。【WISE】
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【中国、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の銀行がアメリカからの報復を恐れ、ロシア経済への影響拡大】
昨年末に始まったこの「第二次制裁」を今取り上げるのは、この制裁の影響を報じる記事を最近よく目にするからです。

****中国や中東の銀行、ロシア石油会社への送金遅延 二次的制裁を懸念****
ロシアの石油会社に対する中国、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の銀行の原油・燃料売却代金送金が遅れている。ロシアのウクライナ侵攻を受けた米国の対ロシア制裁の影響を銀行側は懸念しており、最大数カ月の遅れが生じているという。事情に詳しい関係者8人が明らかにした。

米政府の制裁は、国際市場を混乱させることなく、ロシアの戦費につながる石油収入源を絶つことを主眼としている。

侵攻開始直後は、ロシア産石油の輸出や代金支払いが滞ったが、ロシアが新たな輸出ルートを開拓し石油収入は正常化した。

ところが、銀行や貿易関連の関係者によると、中国、UAE、トルコの一部銀行がここ数週間、制裁順守の要件を強化。その結果、ロシアへの送金の遅延や拒否の事例が出ている。

関係筋の一人は、非自国民のロシアとの取引を規制する米国の二次的制裁が影響していると説明。米財務省は昨年12月、ロシア産石油の価格上限規制に抵触した外国銀行は制裁対象になる可能性があるとし、制裁の順守を求めた。【3月27日 ロイター】
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****中国経由のロシア石油決済に最大6カ月、欧米の金融制裁で****
ロシア産石油の輸入代金の支払いを中国経由で行う際、決済に最大6カ月かかることがロイターの取材で分かった。ロシアのウクライナ侵攻に伴う米国や西側諸国の金融制裁が背景にある。

ロシアの銀行の90%が2022年末までに中国で口座を開設し制裁回避を図った。しかし、中国などの銀行は、ロシア産原油や燃料油の貿易決済に関われば、ロシアに加担したとして米国からロシア同様の制裁(二次制裁)を受けかねないと警戒するようになった。

ロシアの石油会社は原油や燃料の輸出代金の受け取りが最大数カ月遅れるようになり、決済の迂回ルートを模索した。

この結果、ロシアの銀行として中国で唯一、本格的な支店機能を持つ国営VTB銀行(VTBR.MM),上海支店に口座開設の申し込みが殺到した。関係者によると、支店スタッフの陣容は限られているため口座開設に6カ月も待たされるケースがあるという。VTB銀行はロイターの取材に対しコメントを控えた。【4月5日 ロイター】
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*****ロシア企業からの支払い、中国が精査厳格化か 電子部品に影響****
ロシア企業が中国への支払いに際して、ますます大きな障害に直面していると、2つのロシア系ニュースメディアが12日報じた。特に、電子部品が絡む取引が影響を受けているという。

コメルサント紙が市場関係者の話を引用して報じたところによると、一部の中国の銀行が3月下旬以降、サーバーやストレージシステム、ラップトップに必要な重要な電子部品などに関して、ロシアからの支払いをブロックし始めた。

これまでにも主に完成品を対象に制限がかけられていたが、これをさらに拡大するものだとしている。

コメルサント紙が引用した専門家によれば、このような部品のサプライヤーは中国だけであり、電子機器を組み立てるロシア企業は深刻な困難と生産遅延に直面する可能性があるという。

一方、イズベスチヤ紙によると、中国銀行や長城華西銀行など複数の中国系銀行は、ロシアの顧客に対し取引に関する詳細な質問をするようになった。具体的には、ロシア軍やロシアが支配するウクライナ地域、あるいはキューバ、イラン、シリアといった国々と関連があるかどうかなどだという。【4月12日 ロイター】
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「制裁による圧力が高まり、ロシア経済に影響を与えている」との指摘も。

****中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界がロシアを見放しつつある****
<アメリカの対ロシア制裁が拡大、強化されるとともに、ロシアとの取引を停止する同盟国が増えてきた。この動きは今後のロシア経済に大きな影響を与えるだろう>

アメリカがウクライナに侵攻するロシアへの制裁を強化するなかで、ロシアと同盟関係にある国々も、次々とロシアを見放そうとしている。

ロシアの長年の同盟国である中国、トルコ、アラブ首長国連邦、インドなどの最近の動きを見ると、アメリカの二次制裁を恐れていることがうかがえる。

中国の多くの大手銀行は、制裁対象となっているロシアの金融機関からの支払いの受け入れを停止している。また、アルメニアとキルギスタンの銀行は、制裁によってロシア国内で扱いが止められているビザやマスターカードに代わるロシアの決済システム「ミール」を利用したカードの取り扱いを停止した。

かつてロシアの石油を最も多く購入していたインドは、ロシアのプレミアム原油の支払いを停止したと報じられている。

一方、中国、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の銀行がアメリカからの報復を恐れているため、ロシアの石油会社は原油や燃料の売却代金の送金が最大数カ月の遅れに直面している、と27日付のロイター通信は報じている。

米財務省によれば、これらの国々は戦争中もロシアとの関係を維持しており、ロシアは現在進行中の制裁を回避するためますます頼るようになっている相手だ。

拡大する対ロ制裁
昨年12月、ジョー・バイデン大統領は、ロシアとの重要な取引を促進する外国の銀行をアメリカが直接制裁することを可能にする大統領令を発布した。米政府は、ロシアの防衛産業を支援する企業と取引を行う銀行を金融システムから遮断すると脅した。

ジャネット・イエレン財務長官は当時、「われわれは、金融機関が故意、あるいは偶然に、迂回や制裁回避を助長することのないよう、あらゆる努力を払うことを期待している」と述べた。「われわれは、この権限による新たな手段を躊躇することなく行使し、ロシアの戦争マシンへの供給を促進する金融機関に対して、断固とした行動を取る」

アメリカは、プーチンが2022年2月にウクライナ戦争を開始して以来、対ロ制裁を徐々に拡大してきた。外貨準備が凍結し、ロシアがSWIFT(国際銀行間金融通信協会)の銀行システムから締め出したことで、ロシア経済は打撃を受けた。

バイデンはまた、2022年3月にロシアの石油輸入を禁止すると発表し、この動きはロシア経済の「大動脈」を標的にするものだと述べた。一方、G7、EU、オーストラリアは、1バレル60ドル以上で販売されるロシアの海上石油輸出の保険、融資、船積みを禁止する価格上限規制を課した。

ロイターは事情に詳しい銀行・貿易関係者8人の発言を引用し、中国、UAE、トルコの多くの銀行がアメリカからの圧力に警戒を強めていると伝えた。ある情報筋によると、12月のバイデン大統領令によって、銀行や企業は「アメリカの二次制裁の脅威が現実のものである」ことを認識したという。

2人の情報筋によると、UAEではファースト・アブダビ銀行(FAB)とドバイ・イスラム銀行(DIB)が、ロシア製品の取引に関連する口座をいくつか凍結した。UAEのマシュレク銀行、トルコのジラート銀行とバキフ銀行、中国工商銀行、中国銀行は決済処理こそ続けているものの、大幅な遅延が発生していると、4人の情報筋がロイターに語った。

ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は最近の記者会見で、中国の銀行の処理遅延を認め、「中華人民共和国に対するアメリカとEUからの前例のない圧力が続いている」と述べた。
「もちろん、これは一定の問題を引き起こすが、(中国との)貿易・経済関係のさらなる発展の障害にはならない」とペスコフは語った。

ワシントンのシンクタンク、ウィルソン・センターは2月に発表した報告書で、「制裁による圧力が高まり、ロシア経済に影響を与えている」と指摘した。「ロシア経済の健全性に対する懸念が再燃している。それで最近の国内の弾圧強化と支出増大の説明がつくだろう」

「経済制裁には否定的な意見もあるが、対ロ制裁は機能している。時間をかけ、圧力をしっかりかけることで、ロシア経済にさらに大きな影響が出るはずだ」と報告書は付け加えた。【4月10日 Newsweek】
********************

国際金融に疎い私などにはわかりにくい仕組みですが、要するにウクライナ絡みのロシア企業の取引の決済に関与する銀行はアメリカから制裁を受けるというものです。

ロシアと中国は、政府間では蜜月ぶりを誇示していますが、中国側の銀行はアメリカから制裁を受けるのは死活問題ですので、ロシアの取引に関与するのに及び腰になっているようです。

資金の流れを止められると取引も出来なくなりますので、相当の影響があるようです。
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ロシア  プーチン政権下の大規模テロで「またか・・・」の既視感

2024-03-25 22:50:20 | ロシア

(【3月23日 日経】 炎上するコンサート会場)

【IS系「イスラム国ホラサン州」が犯行声明 プーチン大統領はウクライナの関与示唆】
133人の死者を出した22日に起きたモスクワ郊外コンサート会場で起きたテロ事件は、IS(イスラム国)の「イスラム国ホラサン州」による犯行とのこと。

****「イスラム国」が犯行の詳細公表 モスクワのテロ死者133人に****
モスクワ郊外でのテロ事件について、プーチン大統領がウクライナの関与を示唆する一方、過激派組織イスラム国が改めて犯行声明を発表しました。

22日にモスクワ郊外のコンサート会場で起きたテロ事件による死者は133人に上っています。

ロシアメディアによりますと、犯行声明には襲撃を実行した4人の写真が添付され、機関銃や火炎瓶で武装していたことや焼夷(しょうい)弾を使って放火したなどと犯行の詳細が記されているということです。

声明を出したのはイラン東部やアフガニスタンを拠点とするイスラム国でも最も残忍な集団として知られる「イスラム国ホラサン州」です。

およそ2年前からロシアがイスラム教徒を日常的に抑圧する行為に加担しているとして、プーチン大統領を批判していたということです。【3月24日 テレ朝news】
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実行犯として勾留されている容疑者は、旧ソ連のタジキスタン出身の10~30代であるとも。

イスラム過激派ISとロシア・プーチン政権の確執は、ISがイラク・シリアを支配していた当時からのものです。

****ISは、プーチンを憎んでいる****
2011年にシリア内戦が起こった時、ISは、「反アサド派」に属していました。それが2014年6月、イラク第2の都市で油田のあるモスルを陥落させ、シリア、イラクにまたがる広大な領域を支配するようになった。

2014年8月、オバマ・アメリカは、IS空爆を開始。しかし、ISはアメリカと同じく「反アサド」なので、本気で空爆できない。

そこに登場したのがプーチンです。プーチンの目的は「アサド政権を守ること」ですから、IS殲滅に容赦がありません。2015年9月から、熾烈な空爆を繰り返し、ISに壊滅的な打撃を与えたのです。

まさにロシア軍によって、ISは衰退したのです。それで、ISはプーチンを憎んでいます。【3月25日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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また、近年では、西アフリカのマリなどではイスラム過激派とロシアの民間軍事会社が激しく戦っている状況もあります。

プーチン大統領はこのISによるテロをウクライナに結び付けようと画策しています。

****モスクワ郊外銃乱射で死亡は133人に プーチン大統領大統領はウクライナ側の関与示唆 ゼレンスキー大統領は「責任転嫁」と非難****
133人が死亡したロシアの首都モスクワ郊外での銃乱射テロをめぐり、プーチン大統領がウクライナ側の関与を示唆したのに対し、ゼレンスキー大統領は「責任転嫁しようとしている」と非難しています。(中略)

プーチン大統領は「野蛮なテロ行為だ」と非難。実行犯4人を含む11人を拘束したとしたうえで、「ウクライナに逃げようとした」と主張し、ウクライナ側の関与を示唆しました。

ロシア・プーチン大統領 「テロリストの背後にいる者、われわれ国民への攻撃を準備した者、全員を見つけ出して処罰する」(中略)

また、ウクライナのゼレンスキー大統領は事件への関与を否定しプーチン氏が「他の誰かに責任転嫁しようとしている」と非難しました。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領 「プーチンはロシア国民と向き合い、演説する代わりに、一日中沈黙し、事件をどうウクライナと結びつけるかを考えていた。すべては完全に予測できたことだ」

アメリカ政府は「『イスラム国』が単独で責任を負うものでウクライナは一切関与していない」と強調しています。【3月24日 TBS NEWS DIG】
********************

【事前に伝えられていたテロ情報】
このプーチン大統領のウクライナへの責任転嫁の試みは、事前にアメリカからISによるテロ情報をしらされていたにも関わらず事件を許してしまった失態を覆い隠し、併せて、ウクライナとの戦争に向けた国内統制を強化したいという思惑でしょう。

****プーチンの失態。アメリカからの「テロ警告」を笑い飛ばした独裁者が流す「卑怯なフェイク情報」****
(中略)まず3月7日。アメリカは、クレムリンに、「モスクワでテロの可能性がある」と警告しました。(中略)

これ、ロシアメディアが3月8日に報道していたので、間違いありません。たとえば『プロエクティ』3月8日付。
元記事をざっくり訳してみましょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
3月7日夜、在ロシア米国大使館は今後2日間にモスクワでテロ攻撃の脅威があると警告した。
「大使館は、コンサートを含むモスクワの大規模な集会を襲撃する過激派の計画に関する報告を監視している。米国国民は今後48時間、人混みを避けるよう勧告される」と米国大使館のウェブサイトには記載されている。
さらに、国務省はロシアへの渡航の危険レベルを最大4に引き上げたとコメルサント紙は指摘した。(中略)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(中略)つまり、アメリカは、確かにロシア政府に「大きなテロの準備が行われていること」を警告していたのです。そして、イギリス、ラトビア、韓国、カナダ、ドイツ、チェコ、スウェーデンがこの警告を真剣に受け止め、自国民に注意を促していました。

ところが、3月8日、9日にテロは起こりませんでした。理由はわかりませんが、「アメリカの警告が報道された」ことで、テロリストたちは、「ヤバイ!ばれてるぞ。延期だ!」となったのかもしれません。

一方、予告されたテロが起こらなかったことで、プーチンは何を感じたのでしょうか? これは、私の主観的な意見です。

アメリカが、「テロが起きる可能性がある」と警告したのは、3月8日、9日です。そして3月15日〜17日には、ロシア大統領選挙が迫っている。テロは起きなかった。

プーチンは、「大統領選前に、アメリカがフェイク情報でロシア国内を不安定化させたかった」と考えたことでしょう。 3月17日、プーチンは大統領選挙で圧勝しました。

そして、3月19日。プーチンは、アメリカからの警告について発言しました。『タス通信』3月19日付。ざっくり訳してみましょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
(中略)ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア連邦におけるテロの可能性に関する西側諸国の発言は完全な脅迫だと非難した。(中略)
「これはすべてあからさまな脅迫であり、社会を脅迫して不安定化させようとする意図に似ている」とプーチン大統領は確信している。
・・・・・・・・・・・・・・・・

ところが、プーチンが「フェイクだ」と確信したアメリカ諜報機関の情報は、「本物」だった。テロリストは、攻撃を延期しただけで、中止はしていなかった。そして3月22日、テロが起こったのです。(中略)

誰の責任ですか?そう、アメリカ諜報の警告を笑い飛ばしたプーチンの失態です。
ですが、大丈夫。プーチンは、国内メディアを完全に支配しているので、自分の権威が失墜しないよう、どうにでもすることができるのです。

それだけでなく、プーチンは、今回のテロを、自分の政治目的達成のために利用すらします。どうやって?
ISが、「俺たちがやった!」と宣言し、証拠動画を提示しているにもかかわらず、「あれは、ウクライナがやった!」と根拠のない主張をしています。(中略)

なんというか。真の諜報員というか、彼にとって事実は、どうでもいいのです。重要なのは、「いかに現状を、自分の都合のいいように利用するか」です。

これから起こってくること
クレムリンは、これからどう動くのでしょうか? 国内では、「IS説」を意図的に隠し、「ウクライナ説」を拡散していきます。そして、外国においても、「ウクライナ説」と「ISの背後にアメリカがいる説」を拡散していくことでしょう。(後略)
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2024年3月25日号より一部抜粋)【3月25日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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【プーチン政権の基盤を作った1999年ロシア高層アパート連続爆破事件】
プーチン大統領と大規模テロ事件はこれまでも深い関りがります。プーチン大統領及びその周辺による「自作自演」説といったものも含めて。

実際、「自作自演」「偽旗作戦」かどうかは別として、大規模テロが起きるとそれを逆に利用して政権固めを行ってきたプーチン政権の過去があります。

1999年に起きたロシア高層アパート連続爆破事件・・・・ソ連崩壊後の混乱するロシアにあって、無名の元スパイ・プーチン氏はエリツィン大統領(当時)に首相に抜擢されたものの「プーチンって何者?」といった状況でした。

チェチェン独立派によるとされるこの爆破事件を契機にプーチン首相はチェチェン侵攻を強行し、それによって国民支持が一気に高まり、大統領就任、そして現在の長期政権の基礎となりました。

****ロシア高層アパート連続爆破事件*****
1999年にロシアで発生した爆弾テロ事件。一部のジャーナリストや歴史家はロシア政府による自作自演の可能性を指摘している。

概要
同年8月終わりから9月にかけて、首都モスクワなどロシア国内3都市で爆発が発生し、計300人近い死者を出した。

8月に首相となったウラジーミル・プーチンは、チェチェン独立派武装勢力のテロと断定。本事件と、チェチェン独立派のダゲスタン侵攻を理由にチェチェンへの侵攻を再開し、第二次チェチェン戦争の発端となった。

プーチンの強硬路線は反チェチェンに傾いた国民の支持を大きく集め、彼を大統領の座に押し上げた。

一連の爆破事件はチェチェンのテロリストによって引き起こされたと一般に考えられているが、彼らによる犯行は決定的に証明されたものではなく、一部のジャーナリストと歴史家は事件がプーチンを大統領職へと押し上げるためにロシア政府機関によって仕組まれたものだと主張している。【ウィキペディア】
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【治安当局の強硬策で多くの犠牲者を出した2002年モスクワ劇場占拠事件と、その後の不審な展開】
そして、2002年のモスクワ劇場占拠事件・・・やはりチェチェン独立派の起こした人質事件ですが、テロへの強硬姿勢を貫くプーチン大統領(2000年に大統領就任)のもと、治安当局の無力化ガスを使用した強硬策によって人質129名、犯人42名が死亡(ウィキペディア)する結果となりました。

この事件をプーチン大統領は「テロに対する勝利」と総括しています。

****20年間も消えぬプーチン氏への怒り モスクワ劇場占拠事件の遺族ら…特殊部隊突入時に200人犠牲****
ロシアの首都モスクワで2002年、テロリストによって劇場が占拠され、観客を含む約200人が政府の特殊部隊の掃討作戦で死亡する事件があった。

世界の耳目を集めたこの「モスクワ劇場占拠事件」から20年を迎えた今、一部の遺族の怒りの矛先はプーチン大統領に向いている。

◆「犠牲は減らせた」
26日、占拠事件の劇場で追悼式が営まれた。遺影に見入っていたのが、13歳の娘を亡くした年金生活者スベトラーナさん(65)。「市民の犠牲はもっと減らせたはずなのに」と無念さをにじませた。

プーチン政権は事件当時、ロシアからの分離独立を目指すイスラム系チェチェン人と泥沼の戦いを続けていた。チェチェンの武装集団は劇場に爆弾を持ち込み、観客ら900人余を人質にチェチェン共和国からの軍撤退を要求した。

「戦争をやめろ」「人質の命を救って」。市内の赤の広場でデモが起きたが、プーチン氏は妥協を拒んだ。立てこもり開始から57時間後、特殊部隊が軍用ガスを投入して劇場に突入、公式発表では140人の観客、劇場関係者と30人のテロ実行犯が死んだ。実際の犠牲者はさらに多いとの見方もある。

事件を取材した反政権記者ポリトコフスカヤ氏によると、死亡した観客らにも特殊部隊が放ったと思われる銃弾の傷が発見された。

スベトラーナさんの娘は意識がないまま劇場の外に運び出され、その上には32人の意識のない観客らが積み上げられた。

掃討作戦は「テロリスト排除」に主眼が置かれた。プーチン氏は「テロに対する勝利」と総括した。

◆「現場に足を運んでいない」
一部の遺族には割り切れない思いが残る。偶然、劇場でミュージカルを観劇していただけで、実行犯らとともに殺されたとの意識があるためだ。

12歳の孫娘を亡くしたビクトルさん(86)は「(結果を顧みない)特殊部隊の突入は裁かれなければ」ときっぱり。「プーチンはこの事件現場に足を運んだことがない。彼を大統領とは認められない」と憤った。

一方、ロシア社会ではテロとの戦いには犠牲が付き物として、占拠事件でのプーチン政権の対応は適切とする声もある。国営ロシア通信は事件から20年に合わせて、掃討作戦に参加した特殊部隊員へのインタビューを配信し「事件への対処は極めて適切だった」と結論づけた。

事件を追及してきたポリトコフスカヤ記者は06年に暗殺され、所属していた独立系新聞ノーバヤ・ガゼータは今年に入り、廃刊に追い込まれた。現在のチェチェン共和国はプーチン氏と親しいカディロフ氏が統治している。【2022年10月31日 読売】
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死者が増加した原因として、当局が使用したガスを明らかにしなかったため、適切な処置ができなかったことがあるとされています。
“当局が使用したガスの成分など詳細を救助隊に秘匿したため、適切な処置が施されなかった。多くの人質は劇場から運び出された後、仰向けに寝かされ、喉に嘔吐物が詰まり窒息死した。”【ウィキペディア】

更に事件後も、犯行グループとロシア連邦保安庁(FSB プーチン大統領の出身母体KGBの後継組織)のつながりを示す情報の浮上、事件に近づく人物の殺害など、いかにも“ロシア的”な展開に。

****事件の謎****
武装勢力は一人残らず射殺されたと報道されたが、ただ一人死を免れたハンパシ・テルキバエフという男がいたことは極秘にされた。

2003年、ロンドン在住の元FSB大佐アレクサンドル・リトビネンコは、ロシアの政党自由ロシア副議長、セルゲイ・ユシェンコフに、テルキバエフに関する情報を手渡した。直後の4月17日、ユシェンコフ議員はモスクワの自宅前で射殺された。

リトビネンコによれば、テルキバエフはチェチェン武装勢力に浸透し、挑発するための訓練を受けていたという。

テルキバエフはチェチェンのアスラン・マスハドフ大統領(当時)のプレスサービスに勤めていた過去を持ち、また、(劇場占拠事件後の2003年3月)ストラスブルグで開かれた欧州評議会議員総会(PACE)のセッションに、ロシア議会外交委員長のドミトリー・ロゴージンの随員として参加していた。テルキバエフは国営紙「ロシア新聞」の記者証を所持していたとされる。

その後、この事件について調べていたアンナ・ポリトコフスカヤの前にテルキバエフが現れ、自分は劇場占拠時、内部にいた囮工作員で、武装勢力をそそのかした主犯だったとアンナ・ポリトコフスカヤに明かした。またロシア連邦保安庁(FSB)の捜査官でもあり、クレムリンの顧問であると証言した。

テルキバエフが、なぜ命を差し出すような証言をしたのかは不明だが、取材したアンナ・ポリトコフスカヤがインタビューを公開した後、2003年12月15日、テルキバエフはチェチェンで自動車事故により死亡した。

アンナ・ポリトコフスカヤも、2006年10月7日午後、自宅エレベーター内で射殺体で発見された。ちなみに10月7日はプーチン大統領の誕生日である。【ウィキペディア】
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今回事件に関する情報に接すると、こうした謎に包まれた過去の歴史が蘇り、「またか・・・」という既視感も。
プーチン大統領にとっては、今回事件をウクライナに結びつけるなど造作もないことでしょう。真相はわかりませんが。

なお、ロシアでは上記テロの他、2004年9月にはロシア南部の北オセチア共和国のベスランの学校で、武装グループが児童や生徒など1200人以上を人質にとって立てこもり、治安部隊との銃撃戦のすえ、子どもを含む300人以上が犠牲となるなど、チェチェン独立派などのイスラム過激派による犯行と思われるテロ事件が多発しています
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ロシア  プーチン圧勝のシナリオに沿った大統領選挙投票始まる

2024-03-15 23:26:59 | ロシア
(【3月15日 TBS NEWS DIG】 選挙は、政権が考える「愛国的立場」を示すセレモニーか)

【反対派の立候補を阻止し圧勝確実、投票率と得票率をどこまで伸ばすかが焦点】
15日から3日間、ロシアで大統領選挙の投票が始まっていますが、反対派の立候補を阻止した形式的選挙で国民にい支持されていることを誇示するためのパフォーマンスに過ぎず、プーチン大統領の圧勝は確実です。

****ロシア大統領選15日から投票 プーチン氏の圧勝確実、焦点は得票率****
任期満了に伴うロシア大統領選(任期6年)の投票が15日、始まった。通算5選を目指す現職のプーチン大統領(71)の圧勝が確実視され、投票率と得票率をどこまで伸ばすかが焦点となる。投票期間はこれまでの1日から3日間に延長され、17日午後8時の投票締め切り後、速やかに開票される。

2022年2月からロシアがウクライナで「特別軍事作戦」を続ける中での異例の選挙となり、同9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部4州の占領地域でも投票を強行。支配の既成事実化を図る構えだ。

立候補者は無所属のプーチン氏のほか、共産党のハリトノフ下院議員(75)▽極右・自由民主党のスルツキー党首(56)▽政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長(40)――の3氏がいる。いずれも政権に異を唱えない「体制内野党」の候補だ。

選挙戦では、国民に負担を強いる特別軍事作戦の早期終結を提唱する声はあったものの、論戦の機会は乏しく、これまで以上に低調となった。大統領選の実施は民主政治を演出するのが主目的との見方が強い。

一方、特別軍事作戦の継続に反対するリベラル派のナデジディン元下院議員や女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏も出馬を目指したが、ともに事務手続き上の不備を指摘される形で立候補を認められなかった。

2月中旬には反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏の刑務所で獄中死を遂げたが、追悼の動きは限定的で、政権を揺るがすような大きなうねりとはなっていない。

プーチン氏の陣営は、得票率で過去最高だった前回18年の77%を上回る、8割以上を目指すとされる。高い投票率と得票率を記録することで、特別軍事作戦への支持を示す根拠としたい思惑もあるとみられる。

有権者はどのような思いで投票に臨むのか。モスクワ市民に話を聞いた。

55歳の女性は「物価も住居費も公共サービスも全て高い。飢えてはいないが何とかしてほしい」と訴える。
20歳の男子学生も「物価や医療費が高いので、賃金をもう少し上げる必要がある」と話した。
43歳の医療従事者の女性は「経済の発展を望む」と回答。
3人とも生活や経済面の課題を指摘したものの大きな不満はなく、プーチン氏を支持しているという。

プーチン氏以外に投票するという人にも話を聞いた。「意見を言うことを恐れなくてもよい、自由で民主的な国に暮らしたい」。50代の女性はこう打ち明けた。
18歳の女性も「誰もが普通に話せるようになってほしい」という。
24歳の男性は「何かを変える時だ」と言い切った。世論の大勢が長期政権による安定を望む一方、変化を求める声も存在している。【3月15日 毎日】
********************

【ソ連崩壊の混乱からロシアを回復させたプーチン・・・根強いプーチン支持】
反対派の立候補を阻止した形式的選挙ではありますが、プーチン大統領に対する支持・信頼が一定に存在することも事実でしょ。

特にソ連崩壊後の経済・社会混乱を経験した年齢層においては、混乱を収めて秩序を回復した指導者としてのプーチン氏への強い信頼があるというのは常に指摘されるところです。(プーチン政権下でのロシア経済の回復・成長はプーチン大統領の手腕というより、主力輸出品である石油価格の高値という好環境によるところが大きいという指摘もありますが)

****【プーチン登場前夜】氷点下20度の中で食べ物や家財道具を売って糊口をしのぐ老人たち 道端には息絶えた人々も ソ連崩壊後のロシアを襲った地獄の90年代****
(中略)
氷点下20度の真冬のモスクワで立ち並ぶ老人たち
 995年のモスクワの冬は、高校時代に地理の授業で習ったとおりの極寒の世界だった。10月ごろから気温が急激に下がり始め、12月にはマイナス20度ほどまで下がった。(中略)

しかし、それは多くの市民が現在のモスクワのように暖かい家やオフィスにいて、仕事や生活をしていることを意味してはいない。

「お兄さん、このブドウ買わないかい。〝氷菓子〟にはなっていないよ」 「黒パンはどうだい。安くしておくよ」 「キャベツならうちだって売っているよ。買っておくれ」

大学から最寄りのベラルースキー駅に向かう途中には常に、極寒のなか、何十メートルにもわたって立ち並び、道端で物を売る老人たちの姿があった。

風よけもなければ、椅子があるわけでもない。吹き曝しのなか、薄汚れた分厚いコートや帽子をかぶり、お世辞にもきれいとは言えない袋に入れてきた、いつ売れるかもわからない〝商品〟を両手に持って、道行く人々に声をかけていた。中には、家財道具や、どこから仕入れてきたのかまったく不明の家電のリモコンやコンセントなどを売る人もいた。

彼らがこのような〝商売〟をせざるを得ない理由は明白だ。年金がもらえないか、もらっても生活できるレベルではなかったためである。

ソ連時代は、曲がりなりにも食べることには困らない程度の年金が支給されていたが、ソ連が崩壊すると、その社会保障システムも大混乱に陥った。年金の支給は遅滞が続き、仮に支払われたとしても、急激なインフレでその価値は消えた。

最低限の生活を賄うこともできない年金額を前に、彼らは極寒の中でも、わずかな収入を求めて路上で物を売るほかなかった。【3月5日 WEDGE 黒川信雄著『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』より】
********************

【ソ連崩壊当時の混乱を経験していない若者層には不満も そうした不満・批判をコントロールする政権】
しかし、こうしたプーチン大統領の神通力も、ソ連崩壊当時の混乱を経験していない若者層には必ずしも通用せず、長期政権、自由な発言ができない社会への批判・不満が存在します。

特にウクライナ侵攻後の“動員”は自分自身に直接降りかかる厄介ごとであり、反対や、国外脱出もありました。

プーチン大統領は、抗議行動を行うような者や国外脱出してまでも反対する不満分子は「裏切り者」としてむしろ国外に追い出して、残った者をコントロールする道を選択、動員に当たっては大都市若者層の不満が大きくならないように地方居住者や少数民族を中心に行いました。 それでも残る批判は力で抑えつける・・・。

****【戦時下のモスクワ】国外脱出でしぼむ若者の声 開戦4カ月で市内の反戦ムードが沈静化した理由 根強い中高年層の「戦争賛成、プーチン支持」の現実*****
(中略)
多くのロシア人の若者らにとって、国外脱出は決して容易な決断ではなかった。(中略)ウクライナ侵攻を受けた欧米諸国による経済制裁により、ロシアから海外に向かう国際便の数は激減した。(中略)

航空券の価格は高騰し、私財を投げうってチケットを手に入れても、突然の飛行キャンセルで出発できないケースもあった。脱出した人々に、高所得者や子供を持たない若者らが多いのは、これらの問題をクリアできる財力があったためだ。(中略)

私の知人にも、国外脱出を目指したものの「お金がない。どうしても出国できない」との理由で、やむなくロシアにとどまった人もいた。
 そのような人々は、本音を包み隠しながら、ロシア国内での生活を続けているのが実態だ。

さらに、脱出できたとしても、海外で長期間生活できる十分な財産を持っているとは限らず、職が見つからなければ、帰国を余儀なくされる可能性もある。

しかし、国外脱出者や、政権に批判的な行動をとる自国民に対し、プーチン大統領は極めて冷酷な対応をとった。侵攻開始から約3週間後の2022年3月16日には、プーチン大統領は政権幹部に対しこう語ってみせた。

「(西側は)当然、いわゆる第五列、つまり、裏切り者たちに期待をかけているのだろう」「ロシア人は、常に本当の愛国者と裏切り者を峻別することができる。そのような者たちは、口に偶然飛び込んできたコバエのように、吐き出してやればいい」(中略)「(裏切り者の海外脱出は)ごく自然なことであり、社会の浄化には必要なことだ。その結果として国家は強化され、人々はさらに団結し、あらゆる挑戦に対する準備が整えられるに違いない」

第五列とは、自国にいながら敵に通ずるとされる〝裏切り者〟のことを指す。プーチン大統領はここで明確に、たとえロシア国民であっても、欧米諸国に共鳴する者らは裏切り者だとし、徹底的に排除する姿勢を鮮明にした。(中略)

プーチン大統領は反体制派、また積極的な反政権活動をしていなくとも、国外脱出をしてまでロシアを離れようとする国民については、むしろ国外に退去してもらった方が、その後の国内を統制しやすいと考えていたと推察される。

もちろんこれは、海外でも仕事を得られるほど有能な自国民の頭脳流出が起きるという点で、ロシア経済には大きなマイナスであることは間違いない。ただ、中長期的な国内産業の発展と、目前の戦争勝利のための国内の引き締めのどちらを選ぶかで、プーチン大統領は間違いなく後者を選んでいた。こうして、戦争に疑問を持つ若者たちの声はさらに弱くなっていった。

地方の貧困地域に偏る動員 モスクワと最大100倍近い死亡率の差
戦争に反対するモスクワの若者らの思いは、厳しく抑圧されていた。しかし、開戦から約4カ月という短期間ですでに、市内の反戦ムードが沈静化した背景には、もうひとつの理由があった。それは、ウクライナの前線に送られる兵士らが、圧倒的に地方に偏っていたという現実だ。(中略)

若年層の、人口1万人あたりに占める戦死者の割合でいえば、(極東の)ブリヤート共和国は28.4人でロシア全土で首位となり、続いてブリヤート共和国の西にあり、テュルク系のチベット仏教徒が多いトゥバ共和国(27.7人)などとなった。上位のほとんどは、少数民族が多く住むロシアの地方が占めていた。

これに対し、首都モスクワの人口1万人あたりに占める戦死者の割合はわずか0.3人で、モスクワ州全体でも1.7人だった。ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルクも1.4人で、モスクワとブリヤート共和国の死亡率は、実に100倍近い差がある。

ブチャに駐留していたロシア軍の兵士らも、ブリヤート共和国やチェチェン共和国から来ていたことがわかっている。バハというまだ20歳の若年兵士は、「ウクライナに来なければ、殺されていた」と語っていた。彼もその名前から、少数民族の出身だと推察される。メディアなどの目が届かない辺境の地で、無理な動員が行われている実態が浮かび上がる。

広大なロシアの国土の辺境にある地方都市は、経済的にも大都市の住民より困窮しており、当局による動員を避けることは容易ではない。さらに、これらの地方自治体には、中央政府から派遣された元官僚などがトップに座り、中央政府に忠誠心を見せることで昇進を狙う動きもあるとされ、動員が苛烈になるとの指摘もある。

いずれにせよ、地方の若者を取り巻く環境との〝差〟をつけることで、モスクワ市民の不満のガス抜きがなされている側面が否めない。(後略)【3月2日 WEDGE 黒川信雄著『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』より】
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【批判勢力には容赦ない圧力も】
そして、若者層を中心に存在するプーチン批判が選挙で表面化しないように、最大の批判者ナワリヌイ氏を極寒の刑務所で獄中死に追いやり、特別軍事作戦の継続に反対するリベラル派のナデジディン元下院議員や女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏は手続き上の不備という難くせをつけて選挙から排除・・・というのは周知のところです。

更に、リトアニア在住のナワリヌイ氏側近にもロシア当局の“長い手”が及んだ・・・とも。

****ナワリヌイ氏側近襲撃、ロシア特殊部隊が関与=リトアニア当局****
リトアニアの情報当局は14日、ロシア反政府活動家の故アレクセイ・ナワリヌイ氏の側近を長年務めたレオニード・ボルコフ氏が同国内で襲撃された事件で、ロシアの特殊部隊による犯行だったとの見方を示した。

ボルコフ氏は12日、リトアニアの首都ビリニュスで襲撃された。腕を骨折し、脚をハンマーで約15回殴られて負傷したという。

リトアニアの国家安全保障局のヤウニスキス局長は記者団に対し「ロシアの特殊部隊による犯行だと思われる」と述べ、「(リトアニアに拠点を置く)ロシアの反体制派の安全にわれわれはもっと注意を払う必要がある」と述べた。

「(ロシアの情報機関は)真剣にこの地域をターゲットにしており、行動を起こしている」との見方も示した。

北大西洋条約機構(NATO)に加盟するリトアニアは、ロシアやベラルーシの反体制派の拠点となっている。【3月15日 ロイター】
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ロシアの特殊部隊による犯行なのかどうかは証拠も示されてはいませんが、脚をハンマーで約15回殴られて負傷・・・「裏切り者」はどこにいようが許さないといった見せしめ的な犯行のようにも思えます。

出馬が排除されたナデジディン元下院議員の周辺にも圧力がかかっているようです。

****ロシア大統領選、侵攻反対の元議員陣営で身柄拘束相次ぐ*****
ロシア大統領選挙が15日に始まるのを前に、立候補が認められなかったウクライナ侵攻に反対するボリス・ナデジディン元下院議員の陣営で、選挙スタッフやボランティアが複数、身柄を拘束された。

少なくとも陣営のスタッフ1人が身体への攻撃を受けたと証言した。ナデジディン氏は数週間前に出馬は不可能だと認めたが、その後も同氏の陣営は活動を続けており、ナデジディン氏は選挙監視員の訓練と出口調査のための資金集めを行っている。

大統領選は既にプーチン氏の勝利が確実になっているが、地元メディアやナデジディン陣営の関係者によると、同氏の立候補が禁止された2月以降、これまでに関係者少なくとも17人が拘束された。ウラジオストクの選対事務所では13日午前に少なくとも3人のスタッフが拘束され、2人の居場所が分からなくなっている。【3月14日 ロイター】
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【選挙の正当性を誇示するための“あの手この手”】
批判勢力にそうした圧力をかける一方で、選挙の正当性を誇示するために投票率アップのためのあの手この手も。

****ロシア大統領選の投票始まる 上司に“投票報告”義務の会社も****
ロシア大統領選挙の投票が日本時間の15日朝から始まりました。

反体制派は「反プーチン」の民意を示すため、17日正午に一斉に投票所を訪れるよう呼び掛けています。

これに対して国営企業などを中心に、従業員は16日までに投票を済ますように圧力が掛けられているということです。

また、モスクワの住宅公社の従業員は15日に投票したことを上司に報告するように義務付けられていると独立系メディアが伝えています。

ブリャンスクの学校では、教師は投票していない保護者に対して16日までに電話で催促することが求められているということです。【3月15日 テレ朝news】
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“反体制派は「反プーチン」の民意を示すため、17日正午に一斉に投票所を訪れるよう呼び掛け”・・・ロシア検察庁がこうした運動に参加すれば処罰すると警告しています。

“プーチン政権は、今回から投票期間を3日間に増やしただけでなく、投票しやすいようにオンラインによる電子投票も導入しました。投票率をあげることで自らの票も上乗せするシナリオを描いているとみられます。”【日テレNEWS】

まあ、ロシアのような強権支配国家における検証しようもない電子投票となれば、最後はいかようにも数字はつくれる・・・というところも。「それを言っちゃあ、おしまいよ」ではありますが。
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ロシア  大統領選挙を控えて噴出する国民不満と政権の対応 リベラル候補は不満の受け皿になるか?

2024-01-24 23:44:42 | ロシア

(ロシア・モスクワで、改革派政党「市民イニシアチブ」のボリス・ナジェージュジン氏の立候補を支持する署名をするために同氏の選挙事務所に列をつくる人(2024年1月22日撮影)【1月23日 AFP】)

【猫の悲劇に怒るロシア世論 選挙を控えた政権はやや大袈裟な対応】
ロシア社会の最近の話題から。

****氷点下30度、列車から放り出された猫が死ぬ…ロシア世論が憤怒****
ロシアで氷点下30度の寒さの中を列車の外に追い出された猫の「ツイックス」が死ぬ事件が発生し公憤を買っている。

ロシアメディアによると、ツイックスは11日にロシアのエカテリンブルクからサンクトペテルブルクに向かう列車に乗っていたところ、ロシア西部の人里離れた地域であるキーロフ駅で放り出された。

問題は当時キーロフ地域の気温が氷点下30度まで落ちるほど寒さが深刻だったことだ。

また、ツイックスは飼い主が手荷物切符を購入し合法的に列車に乗っていた。だが飼い主が寝ている間にツイックスがケージから逃げ出して列車内を歩き回っていた。

これを見た乗務員はツイックスを飼い主がいない列車に間違って乗り込んだ野良猫だと判断しキーロフ駅に停車している間にツイックスを放り出した。

この事実を知った飼い主は12日に鉄道当局に連絡し、数百人のボランティアメンバーがキーロフ駅周辺でツイックスを捜索した。しかし結局ツイックスは20日にキーロフ駅から8キロメートル離れた場所で死んでいるのが発見された。

ボランティアメンバーはツイックスが凍傷とストレスに苦しめられる一方、大きな犬にかまれて死んだと推定した。ツイックスの死骸の周辺で大きな動物の足跡が見つかったためだ。【1月24日 中央日報】
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ロシア鉄道は車掌を乗務停止にしたとのこと。また、世論の批判を受けてロシア連邦捜査委員会が動物虐待の疑いがないか調査するとも。

猫一匹にしては大騒ぎになっているようにも思えますが、政権批判に重ねるような投稿もあるとかで、3月に行われる大統領選挙を前にして、「国民の圧倒的支持を得てプーチン再選(通算5選)」を演出したい政権側は国民の不満に神経質になっているのでしょう。

私も猫を飼っている猫好きですので「可愛そうに」と思いますが、「猫もかわいそうだけど、ロシアの攻撃にさらされているウクライナ市民はどうよ?」といった意地悪な印象も。

もっとも、捨て猫に同情する人が浮浪者に対しては「汚い」としか思わない・・・というのが日本を含めて世の中の常ですので、上記のような言い方はロシアに対して不公平でしょう。

昔は「鬼畜米英」なんて言葉がありましたが、日本・欧米では印象が悪いロシアにしても、市民は決して“鬼畜”ではなく、猫の悲劇に痛める心を持っているということでしょうか。

【ウォッカの売り上げが記録的な水準に ウクライナ侵攻との関係は?】
****戦争中のロシア 「ウォッカ」が記録的な売り上げ 依存症患者も増加****
ウクライナへの侵攻を続けるロシアでウォッカの売り上げが記録的な水準に達しています。ロシアメディアは、飲酒量の増加は軍事作戦が終了するまで続くだろうと予測しています。

ロシアの経済紙「RBC」によりますと、2023年のビールなどを除く度数の高いアルコール飲料の販売量は22億9500万リットルに上っているということです。 ウクライナへの侵攻後、記録的な売り上げとなった2022年に比べてさらに4.1%増えました。

なかでもウォッカの売り上げは、侵攻が始まった2022年には前の年より6%多い7億6200万リットルを記録しました。 2023年は0.8%減ったものの7億5600万リットルで、高い水準を維持しています。

コニャックの売上は2022年より9.4%増加し、ウイスキーやジン、ラムなどアルコール度数25%を超えるその他のアルコール飲料も14.6%増えました。

RBCは専門家の話として、アルコールの消費量は軍事作戦が終了するまで増え続けるだろうと報じています。

消費量の増加に伴って、アルコール依存症の患者数もロシア国内で増えています。 ウクライナ侵攻の前まで減少傾向にありましたが、2022年に12年ぶりに増加に転じたということです。【1月23日 テレ朝news】
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話の前提として、かねてよりロシアでは(寒さのせいか、ストレスのせいか、文化の問題か)アルコールの過剰摂取が平均寿命を日本や欧米より著しく縮めるなど深刻な社会問題になっており、プーチン大統領も飲酒対策を重視して取組み、その成果も一定に出始めていました。

****ロシア、アルコール離れじわり 健康志向で量より質へ****
ロシアで都市部を中心にアルコール離れが進んでいる。健康志向の高まりを背景に飲まない若者が増加。プーチン大統領が推し進めてきた節酒政策も浸透した。

ウオッカの消費量は減少傾向が続き、お酒の嗜好は量より質へと移っているとみられる。短い平均寿命に密造酒による中毒死――。長らく社会問題とされてきた“暴飲”のイメージを塗り替えつつある。(後略)【2018年12月12日 日経】
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それがここにきて、ウォッカの売り上げが記録的な水準に・・・という状況。何が原因なのか?

コロナ禍の巣ごもりが原因というならわかりやすいですが、記事は“アルコールの消費量は軍事作戦が終了するまで増え続けるだろう”とウクライナ侵攻と結び付けています。

基本的にはプーチン大統領のウクライナ侵攻を国民は支持しているとのことですが、経済状況の悪化などアルコールに走るようなストレスを国民に与えているのでしょうか? もしそうだとしたら、単なるトピックではなく、かなり重要な現象になります。

そのあたりの因果関係は非常に知りたいところですが、残念ながら記事はそのあたりの説明がありません。

ウクライナに侵攻しているロシア軍兵士が撤収したあとには大量の酒ビンが散乱しているという話は聞きます。
寒さもありますし、不十分な装備で、兵士の命を軽視した「人海戦術」で捨て駒のように扱われるとあっては、酒でも飲まなきゃやってられない・・・のでしょう。

ただ、軍では兵士が勝手にアルコールを入手でき飲めるのでしょうか? そうした兵士の飲酒需要は上記のアルコール需要にも含まれているのか? 知りません。

【中西部バシコルトスタン共和国での活動家の解放要求 “反プーチン”と連動も】
****ロシア中西部で大規模デモ 警官隊が鎮圧 活動家の解放要求から“反プーチン”と連動も****
ロシア中西部に位置するバシコルトスタン共和国で、拘束された活動家の解放を求めたデモが大規模化し、治安部隊が参加者を警棒で叩くなどして鎮圧する事態になっています。

デモは15日、バシコルトスタン共和国で拘束された活動家の解放を求めて裁判所前で始まりました。
独立系メディアなどによりますと、デモの参加者は日々、増えていき、マイナス30℃の気温のなか、最大1万人が参加したということです。

治安部隊は17日、閃光手りゅう弾を使用したり、警棒でデモ参加者らを叩いたりして鎮圧しました。 また、デモを報じているSNSのニュースチャンネルが閉鎖されました。

デモは当初、ウクライナへの侵攻とは直接関係がないとみられていましたが、17日になって反プーチン運動と関連付ける動きが表面化してきました。

プーチン大統領のスピーチライターだった政治評論家のアッバス・ガリアモフ氏は17日、地元住民だとする女性の映像を公開しました。

女性はウクライナで戦っている兵士に対して「あなたがプーチン大統領1人の野望のために戦っている間に住民は警棒で殴られている」と語り、地元を守るために戦場から帰還するように呼び掛けました。

独立系メディアによりますと、鎮圧にはロシアで最も訓練されている特殊部隊の一つとされる「グロム」が加わったということです。

2カ月後に控えた大統領選挙を意識して、ロシア当局がデモを強硬に鎮圧しようとしているという指摘が出ています。【1月18日 テレ朝news】
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選挙を控えたプーチン政権にとっては冒頭の猫の話より深刻な問題です。
バシコルトスタン共和国というのは、中央アジアのカザフスタンも近い地域で、民族的にはスラブ系ロシア人とは異なるバシキール人やタタール人が半数以上を占めています。

“反プーチン運動と関連付ける動きが表面化”とのことですが、ウクライナに送りこまれた兵士はモスクワなどのロシア中枢大都市出身者ではなく、地方のロシア系以外の民族出身者が多いと言われていますので、そのあたりも「プーチンの戦争」への住民感情に影響しているのかも知れません。(詳細は知りません。憶測です。)

【大統領選挙立候補のための署名活動で勢いが見られる反プーチン・反ウクライナ侵攻」を掲げるリベラル候補 不満の受け皿になるか? 政権がそれを認めるか?】
プーチン大統領にとって、猫やバシコルトスタン共和国の問題以上に気掛かりな問題になる可能性があるのが、大統領選挙に立候補している、「反プーチン・反ウクライナ侵攻」を掲げる候補の動向でしょう。

平和主義を掲げて3月のロシア大統領選に立候補を届け出ていた元市議会議員、エカテリーナ・ドゥンツォワ氏が書類不備を理由に立候補届が受理されなかった件は以前もとりあげましたが、プーチン大統領としても西側に“まっとうな選挙”が行われたことを誇示するために、プーチン氏を脅かさない程度の対立候補を“必要”としています。

そうした事情もあってか、リベラル系のボリス・ナジェージュジン元下院議員の立候補登録は受理されており、立候補に必要な署名集めを行っています。

立候補できなかったエカテリーナ・ドゥンツォワ氏も“同氏と志を同じくするロシア人は、市民イニシアチブ党のボリス・ナジェージュジン氏を候補者となるための署名集めにおいて支援できる”と語り、ボリス・ナジェージュジン氏を支援しているようです。【12月28日 AFPより】

上述のように、プーチン大統領は一定の対立候補は“必要”としていますが、問題はボリス・ナジェージュジン氏の署名集めが急ピッチで進んでいることで、国民不満の一定の受け皿になりそうな気配もあることです。

****ロシア大統領選「反戦」候補者への支持広がる 10万人署名集め正式な出馬目指す 侵攻めぐり「プーチン氏致命的間違い」****
プーチン大統領が再選を目指す3月のロシア大統領選に向け、反戦を訴える唯一の候補者への支持が広がっています。これまでに10万人の支持者の署名を集めたとし、正式な出馬を目指しています。

通算5期目を目指すプーチン大統領の選挙対策本部は22日、正式な出馬に向け支持者らの署名を中央選挙管理委員会に提出しました。無所属候補は30万人分の署名が必要とされ、プーチン氏の選挙対策本部は10倍の300万人以上の署名が集まったとしています。

プーチン氏の再選が確実視される中、候補者の中で唯一、ウクライナ侵攻に反対するナジェージュジン元下院議員への支持がここにきて急速に広がっています。

ナジェージュジン氏 「プーチン大統領は致命的な間違いを犯した。それは特別軍事作戦を始めたことだ」

改革派政党「市民イニシアチブ」が擁立したナジェージュジン氏は下院に議席を持たない政党の候補者として今月末までに10万人分の署名が必要とされ、モスクワ市内などの事務所には連日、支持者らが署名に訪れています。

支持者 「唯一、この国で禁止されている言葉(=平和)に賛同している候補者に投票したいので署名に来ました」
「(出馬すれば)少なくとも真実を語る言葉がゾンビ化したロシアの人々に届きます」「1パーセントでも希望があるのなら、それを信じるべきです」

ナジェージュジン氏は23日、SNSを通じてこれまでに10万人の署名が集まったと明らかにしましたが、条件として定められた人数を満たしていない地域があるとして、引き続き15万人を目標に署名を集めるとしています。

ただ、たとえ条件を満たしたとしても中央選管に署名内容に不備があると判断され、無効にされる可能性もあるとして、ナジェージュジン氏の陣営は慎重に作業を進めているとしています。【1月23日 TBS NEWS DIG】
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必要数の半分超となる5万以上の署名を集めたとSNSで公表されたのが21日、22日夜の時点では8万5000近く集まっていると公表され、23日時点で10万人を超えたというのは勢いが加速しているように見えます。

モスクワでは零下6度の寒空の下、若者を中心に多くの市民が行列に2時間並んで署名をしたとの報道もありますので、一部の市民の強い支持を受けていることがわかります。

****ウクライナ侵攻に反対候補の支持署名に列 ロシア大統領選****
ロシア大統領選で立候補を目指し署名集めを行っている、ウクライナ侵攻に反対するボリス・ナジェージュジン元下院議員への支持が拡大している。首都モスクワでは22日、極寒の中、署名をするため数百人が列をつくった。

現職のウラジーミル・プーチン氏は先月、大統領選への立候補を表明、5期目に挑戦する意向を示した。2年ほど近く続くウクライナ侵攻に対する批判は禁じられており、いまのところ実質的な対立候補はいない。

ナジェージュジン氏は、改革派政党「市民イニシアチブ」で大統領候補に選ばれている。2015年に暗殺されたリベラル派の反プーチン政権指導者ボリス・ネムツォフ氏と近かったが、同氏の死後は大統領府寄りの政界に移っていた。(中略)

ナジェージュジン氏はネットで公開したマニフェストで、「平和」について慎重に語り、ウクライナ侵攻を「致命的な過ち」だと表現している。
「(ウクライナでの)特別軍事作戦で掲げられた目標は一つとして達成されていない」「プーチンは過去から世界を見ており、ロシアを過去に引きずり戻そうとしている」と非難した。

ナジェージュジン氏以外の候補者は全員、ウクライナ侵攻を支持している。署名のため選挙対策事務所前に列をつくった人の多くは、同氏がロシアに別の視点を提供してくれるただ一人の候補だと考えている。(後略)【1月23日 AFP】
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ナジェージュジン氏が近かったという「反プーチン政権指導者ボリス・ネムツォフ氏」はエリツィン政権下では第一副首相も務めましたが、その後解任され、プーチン政権下ではリベラル系野党を率いて活動していました。

ロシアとウクライナを股に掛けた政治活動でもプライベートでも人目を引くような動きが目立ちましたが、2015年2月27日、ウクライナ人モデルのアンナ・ドリツカヤとモスクワ市内のレストランで食事をして帰宅する途中、モスクワ川にかかる橋の上で6発の銃撃があり、そのうち4発が背中に命中して死亡しました。

ボリス・ネムツォフ氏はクリミア併合を批判し、ウクライナ東部の親ロシア派へのロシアの軍事支援も糾弾していましたので、(ロシアではよくある)政治的な動機による暗殺とも見られています。

そのボリス・ネムツォフ氏とも近かったナジェージュジン氏がどれだけの支持を集められるか・・・。

****ロシアリベラル「最後の生き残り」、ボリス・ナジェージュジンに希望はあるか?****
<3月の大統領選に立候補する意向だが......。本誌「ISSUES 2024」特集より>

2024年3月、ロシアで大統領選挙が予定されている。現状では、ウラジーミル・プーチン大統領の5選が確実だが、政府も「ロシアは民主主義」だと言えるよう、野党系に立候補を促している、と伝えられる。

そのせいか、モスクワ市議会議員でリベラル系のボリス・ナジェージュジン(ロシア語のできる筆者でも舌をかむ発音だ)が、立候補の意向を明らかにしている。これまで所属政党を気軽に変えてきたが、いずれもリベラル系。過去にはリベラルの巨頭ボリス・ネムツォフ第1副首相(15年暗殺)の補佐官を務めている。

今年60歳。その家系には代々、音楽家が多く、彼自身ギターを抱えて歌う吟遊詩人スタイルで4枚のCDを出している。全国数学オリンピックで2位になったこともあり、コンピューターゲームにも興ずる。

テレビ討論番組の常連で、昨年5月には「プーチンが辞めなければ、ロシアは欧州に戻れない。24年の大統領選挙は、プーチン以外なら誰でもいい」と、大胆なことを言っている。

「ロシアのインテリ」は、18世紀初めにピョートル大帝が貴族のひげを剃り落とさせ、上層部の西欧化を図った時に生まれた階層だ。トルストイの『戦争と平和』にあるように、自宅でもフランス語を使い、西欧で年の半分も過ごすような貴族から、チェーホフの戯曲に登場する医師、教師などの貧乏インテリまでさまざま。ただ絶対少数で、大衆の海の中では浮いている「余計者」的存在だ。

大衆から嫌われるリベラル
彼らはソ連の時代も西欧文明と自分を同一視し、西欧の自由と民主主義に憧れた。1960年代のフルシチョフの「雪解け」、85年からのゴルバチョフのペレストロイカ、そしてエリツィンによる無秩序な自由化の時代に、彼らはやっと自分たちの時代が訪れたと思い、そのたびに裏切られてきた。

彼らはもともと絶対少数の存在だし、90年代には極端な自由化に走って経済、社会を混乱の極みに導いた張本人だと思われて、大衆に嫌われている。全てが国営だったロシアでは、今でも大多数が政府、国営企業に雇われているから、反政府主義者は異分子になる。「自由と民主主義は混乱の元」はロシアの公理なのだ。

この社会構造を公安警察KGBの後身FSBが津々浦々に張ったネットワークで監視する。00年、そのFSBを力の基盤とするプーチンが権力の座に就くと、リベラル分子は権力から遠ざけられた。(中略)

ナジェージュジンはそのような、裏切られたリベラルの最後の生き残りだ。ロシア当局が彼の大統領選立候補を認めるかどうかまだ分からないが、認められたとしても、リベラル嫌いの大衆は彼に投票するまい。投票したとしても、ロシアの電子集票システムがそれをきちんとカウントするかどうか......。

ナジェージュジンという名は「希望」というロシア語から派生している。次の選挙でも、リベラルの希望はつぶされることになるだろう。【12月22日 河東哲夫氏 Newsweek】
*****************

ロシア社会では「余計者」「嫌われ者」のリベラルエリートのナジェージュジン氏ですが、国民の一部にある「反プーチン・反ウクライナ侵攻」の思いをつかめるか・・・? 仮につかめたとして、プーチン政権がそれを認めるか・・・?
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ロシア経済  ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復

2024-01-10 23:24:45 | ロシア

(2023年12月14日 ニッセイ基礎研究所)

【ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復したロシア経済】
昨年12月13日、ロシア連邦統計局は国内総生産(GDP)を公表しました。それによると、ロシアの23年7-9月期の実質GDP伸び率は5.5%となり、ウクライナ侵攻前のGDPを超える水準を回復したとのことです。

****ロシア経済はウクライナ戦争の影響を克服も、中銀は物価安定に苦慮****
~景気底入れは大統領選での再選を目指すプーチン氏に追い風も、物価を巡る問題は依然山積~

15日、ロシア中銀は5会合連続の利上げ実施を決定した。足下の同国経済は底入れの動きを強めており、ウクライナ侵攻前の水準を回復するなど欧米などの制裁の影響を克服している。

他方、戦争の長期化による労働力不足に加え、ルーブル安も重なり足下のインフレは加速しており、中銀は戦争中にも拘らず7月以降に累計850bpもの利上げを迫られている。先行きの政策運営を巡って高金利状態の長期化を想定する一方、利上げ局面の終了に含みを持たせる考えをみせている。

景気底入れの動きは3月の次期大統領選での再選を目指すプーチン氏の追い風となる一方、国民の間に物価高への不満が高まるなかで中銀は難しい対応を迫られる展開が続くと予想される。

他方、足下の原油価格は頭打ちの動きを強めるなど経済の足かせとなる懸念も高まっており、経済、政権にとって「安泰」とはならない状況に留意する必要があろう。(後略)【12月18日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所】
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【ドルベースGDP以上の経済力を持つロシア 中国などとのつながりで経済力維持】
ウクライナ侵攻で欧米からの経済制裁を受けているロシア経済の実態はどうなっているのか? ほとんど制裁は効いていないのか? それとも大きなダメージを受けているのか? 以前からいろんな議論があるところです。

少なくとも、欧米側にあった楽観論は現実のものとはなっていないようです。

****1990年代、世界がルーブル決済できていたら?****
これ(アメリカと西欧は、ソ連と東欧にドル不足という厳しい経済的締め付けを行ったこと)によってソ連・東欧経済は崩壊するのだが、もしソ連・東欧が中国・インド・ブラジル・トルコなどと、当時ルーブル決済できていたらどうなっていたのであろうか。

もしルーブル決済で当時のGDPを測れば、日本との5倍のGDPの1人当たりの格差も実際は2倍弱となり、ソ連・東欧諸国はGDPランキングが劣位の後進的地域ではなかったということになる。

まさにこの問題こそ、アメリカと西欧によるロシアや中国への経済制裁が現在まったく機能していない原因であるし、ロシア経済は弱体で、ロシア軍も弱体で、すぐにウクライナが勝利を収めるであろうという西側の楽観的な臆測が幻に終わった原因であったといえる。

西欧の楽観的観測だが、ウクライナに膨大な西欧の資金援助がそそがれ、ロシアへの経済制裁が強化されれば簡単にロシアは崩壊しウクライナはすぐにでも勝利するであろうと、欧米は当初踏んでいた節がある。

ある意味これは、単に机上の空論(ナラティブ)にすぎないのだが、大方この線に沿って、西側の政府もメディアもロシアの経済力やロシア軍の兵力を試算し、安易な勝利図を描いていた。【12月29日 的場昭弘氏 東洋経済ONLINE】
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しかし、実際はロシアの国力・経済力は日本やドイツ並か、ものによってはそれ以上の力があると思ったほうがいいと上記的場氏は指摘しています。それを支えているのがインド、トルコ、中国、イランなどとのつながりであるとも。

****ロシアをめぐる世界経済の輪****
これでみると、今でもロシア経済のGDPは2兆ドルしかなく、アメリカの10分の1以下、人口の少ないカナダやイタリアのレベルにしかすぎない。しかし、これはあくまでもドルベースでの計算であり、本当の実力を示すものではない。

実際は日本やドイツ並か、ものによってはそれ以上の力があると思ったほうがいい。ロケットや航空技術など西側の模倣技術ではない最先端の技術が多くあるのだ。

地政学の専門家だけでなく、ソ連経済や東欧の経済を学び、ウクライナを含む東欧地域に暮らしたものならば、そこにはロシア(旧ソ連)の制度、もっと昔に遡ればオスマントルコの制度が残存し、ソ連崩壊以後の30年という月日だけで簡単に西欧型のシステムに変わりえるものではないことは、理解できるはずである。(中略)

ロシアが西側の圧力に屈しないのは、ロシアの周りに、ロシアの仲間の国々が多くいることである。インド、トルコ、中国、イランなどの大国は、ロシアの仲間である。

一国の経済力は、友好国の存在を抜きに語れない。人口、技術、生産力など、こうした友好国との生産システムが構築されているからである。かつてソ連下ではコメコン諸国内での分業があったが、それと同じようなものが今築かれつつある。

国家と国家との戦争は、1対1に限ったわけではない。周りにいる友好国が何らかの形で参加していれば、その国は強い。まして強い農業と工業に欠かせない原料や燃料をもち、実際にものをつくる工業力をもつ国が周りにあれば無敵ともいえる。【同上】
******************

ロシアの仲間の国々・・・特に、中国の存在が大きいと言えます。

****ロシア、23年石油輸出は半分が中国向け=副首相****
ロシアの2023年の石油輸出は半分が中国向けとなる見通しだ。また、インド向けは2年間で40%に拡大したという。ロシアの国営通信がノバク副首相の発言として27日に伝えた。

ノバク氏は「現在の状況では主要なパートナーは中国で、そのシェアは約45─50%に拡大している。もちろんインドもだ」と述べた。

「以前は基本的にインドへの供給はなかったが、2年間でインドへの供給シェアは40%になった」と語った。

欧州の比率は約40─45%から約4─5%に低下しているという。【12月27日 ロイター】
*******************

****ロシア、対中ガス輸出5割増 アジアシフト鮮明****
ロシア政府系天然ガス企業ガスプロムのミレル社長は28日、今年の事業を総括し、中国への天然ガス輸出量が225億立方メートルを超え、昨年より5割増えたと発表した。パイプライン「シベリアの力」を通じた輸出が順調に伸び、2025年には380億立方メートルまで拡大すると自信を示した。アジアシフトを鮮明にした。

ロシア極東から中国へのガス供給ルート構築も進めており、27年までに輸出が始まるとの見通しを示した。モンゴル経由で中国に輸出する「シベリアの力2」と呼ばれる計画にも取り組んでいるとした。【12月29日 ロイター】
*********************

【一方で、深刻な技術喪失・資本と人材の流出も】
一方で、ロシア経済のダメージを強調する見方もあります。

****知的人材と資本の流出が止まらない...すでに「経済戦争」では敗戦状態のロシア*****
ジェフリー・ソネンフェルド(エール大学経営大学院教授)、スティーブン・ティエン(同大学チーフエグゼクティブ・リーダーシップ研究所研究責任者)

<ウクライナの苦戦ばかりが伝えられるが、外国企業が撤退し、人材も流出、ルーブルは無価値同然のロシア。懐事情が厳しい点を見落としてはならない>

戦況は膠着状態で、政治の機能不全のせいで欧米の支援は揺らぎ、資源や注目は中東で新たに勃発した戦争のほうに転換──。今やウクライナは、2022年2月のロシア軍の侵攻以来、おそらく最も厳しい状況に直面している。

だからといって、得しているのはウクライナの敵、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領だという欧米メディアの皮肉な見方は飛躍しすぎだ。

昨年12月には、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のコラムニストが「今年の勝者」の1人にプーチンを選出。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、多国籍企業1000社以上がロシアから撤退したことが逆効果になり、プーチンと取り巻きの富が膨らんでいると示唆した。

だが、プーチンは万事順調、と思い込む罠に陥ってはならない。プーチンに圧力をかける効果的な手段を捨て去ることも許されない。

実際には、あらゆる証拠が示すように、企業の「ロシア脱出」は数々の損失をもたらしている。ロシア経済が巨大なツケを払っていることは、経済データを見れば明らかだ。

譲渡された資産が無価値同然なら、ロシアもプーチン一味も得はしない。ロシアで事業展開するアジア企業や欧米企業の一部資産は没収され、大半の企業はロシアを離れるため進んで巨額の損失を計上した。だが、こうした企業の行為は好感され、時価総額が急増する結果になっている。

石油大手の米エクソンモービルや英BPの撤退で、ロシア側は資源探査に不可欠な技術を失っている。

WSJは昨年3月、現地のジャーナリストの記事として、大規模な供給崩壊でロシアの各部門の工場が休業に追い込まれていると報道。勇敢にも真実を伝えた記者の1人は当局に逮捕され、現在も拘束されている。

本当のところ、ロシアはどうなっているのか。筆者らが信頼性を確認した経済データから検証してみると──。
◇ ◇ ◇
■人材流出
ウクライナ侵攻直後の数カ月間、推計50万人がロシアを離れた。その多くが、ロシアにとって必要不可欠な高学歴の熟練労働者だ。

侵攻から2年近くたつ今、離脱者は少なくとも100万人に膨れ上がっている。試算によれば、この異例の人材大量流出によって、ロシアは技術系労働力の1割を失った。

■資本流出
ロシア中央銀行の報告書にあるように、22年2月~23年6月までにロシアから引き揚げられた民間資本は計2530億ドル。それ以前の資本流出額の4倍以上だ。試算によれば、ロシア在住の富豪の数は33%減少した。

■欧米の技術・ノウハウの喪失
この現象はテクノロジーや資源探査など、幅広い基幹産業で起きている。石油大手ロスネフチだけを見ても、同社の公開資料によれば、昨年末までの1年間の設備投資は100億ドル近く増大。

原油1バレルを輸出するごとに、およそ10ドルの追加経費がかかる計算だ。さらに、同社の北極圏の油田開発計画も、欧米の技術や専門知識に頼り切っていたため継続が危ぶまれている。

■外国直接投資(FDI)の停止
複数の措置によって、ロシアへのFDIはほぼ完全に止まっている。ウクライナ戦争以前、年間FDI額は約1000億ドルに達していたが、侵攻開始から昨年12月までの各月のうち、流入超過を記録したのはひと月だけだった。

■ルーブルの通貨交換性の喪失
多国籍企業の大量撤退ではばかるものがなくなったプーチンは、通貨ルーブルに厳しい資本規制を導入した。ロシア市民による外国銀行口座への送金を禁止し、ドル預金口座からの資金引き出しを最大1万ドルに制限。

輸出企業に獲得外貨の8割をルーブルに両替することを義務付け、ルーブル口座を持つ個人へのドル直接交換、およびドル建て融資やロシアの銀行によるドル販売を停止した。

ルーブル取引高が90%減少したのも、これでは当然だ。ルーブル資産はグローバル市場で無価値に等しくなり、交換不能になっている。

■資本市場へのアクセスの喪失
企業にとって欧米の資本市場は今も、最も深度があって流動性が高く、安価な資金源だ。ウクライナ侵攻以来、欧米金融市場で株式・社債を新規発行できたロシア企業はゼロ。

つまり、もはやロシア企業は、高利で融資する国有銀行(指標金利は16%)など、国内の資金提供源を当てにするしかない。多国籍企業撤退で、ロシアのベンチャー企業は資金調達の選択肢を奪われ、国際的投資家に出資を求めることも不可能になった。

■富の大破壊と資産評価の急落
グローバル多国籍企業の大量撤退が一因で、ロシアでは、あらゆる分野で資産評価が急激に落ち込んでいる。筆者らの調べによれば、国有企業の企業価値はウクライナ戦争以前と比べて75%低下。NYTが指摘したように、多くの民間部門の資産価値は50%目減りしている。

これらの7つの現象は、グローバル企業が大量撤退したせいで、プーチンが強いられているコストの一部にすぎない。さらに、ロシア産原油に価格上限を設定する米財務省の措置など、効果的な経済制裁がロシア経済に与えている打撃も考慮すべきだ。

ロシアによる輸出の3分の2以上を占めるエネルギー資源は、輸出規模が半減している。工業分野でも消費者分野でも、グローバル経済において製品提供国でなかったロシアは麻痺状態にある。

簡単に替えが利く原材料を生産するばかりで、経済超大国には程遠い。今や国家に管理される企業の「共倒れ」体制によって、辛うじて戦争マシンを動かしている。

豊富な経済データを検証すれば、状況は明らかだ。外国企業の前代未聞の「ロシア大脱出」で、プーチンの戦争マシンには支障が出ている。ウクライナが瀬戸際に立たされるなか、極度に楽観視するのは過ちだが。【1月10日 Newsweek】
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・・・・ということで、ロシア経済の状況については、いろんな見方があります。
私個人の印象としては、現時点の戦争遂行という点では西側が期待したような効果はあがっていない。しかし、長期的にみれば、ウクライナがどういう形で結着しようが、西側の資本・技術から切り離され、中国依存を余儀なくされるという形で、ロシア経済は相当に大きなダメージを被ることになっている・・・・といったところでしょうか。
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ロシア大統領選挙  獄中で行方不明のナワリヌイ氏 「プーチン大統領は無名の女性候補を恐れた」

2023-12-23 23:05:06 | ロシア

(大統領選挙に立候補した無名の女性地方議員、エカテリーナ・ドゥンツォワ氏【12月21日 時事】 選管は無所属での出馬を認めないことを決めています。)

【プーチン大統領の選挙「演出」】
既定路線であったプーチン大統領の来年3月に行われる大統領選挙へ出馬表明・・・でも、どうしてこんな臭い演出をするのでしょう。ロシアではまともに受け取る人がいるのでしょうか?

****ロシアのプーチン大統領 来春の大統領選に出馬表明****
 ロシアのプーチン大統領は来年3月の大統領選に出馬すると表明しました。

アルチョム・ジョガ氏:「あなたは私たちの大統領であり、私たちはあなたのチームであり、私たちはあなたを必要とし、ロシアもあなたを必要としています」

プーチン大統領:「ありがとうございます」「今こそ決断の時です。私はロシア大統領に立候補します」

プーチン大統領は8日、ロシア大統領府で行われた軍の授賞式でドネツクのスパルタ大隊の司令官、アルチョム・ジョガ氏らに対して来年3月の大統領選へ出馬の意向を明らかにしました。

プーチン大統領は2017年にも訪問先の自動車工場で従業員からの求めに応じる形で出馬表明するなど、国民に求められる形で立候補の意向を明らかにするという演出を繰り返してきました。

ロシアの大統領選は来年3月15日から17日にかけて投票が行われることになっています。【12月8日 テレ朝news】
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プーチン氏の勝利は間違いないですが、プーチン氏が気にしているのは投票率と得票率。 国民からの圧倒的支持を受けて選ばれた・・・と、その正当性を西側にアピールしたい狙いです。

正当性を西側にアピールという点では、ちゃんと対立候補がいて、まともな選挙戦が行われた・・・という形を演出することも重要。また、対立候補なしでは投票率も上がりません。もちろん、脅威となりそうな人物は刑務所に収監して、選挙になど出させないというのが実態ですが。

【行方不明のナワリヌイ氏 選挙への影響力警戒か】
ここ数年、プーチン大統領の正当性を揺さぶっているのがプーチン体制の腐敗、汚職を暴露してきた反政府指導者ナワリヌイ氏ですが、周知のように同氏は禁錮19年の判決を受けて今獄中にあります。それでもその影響力は大きいようです。

****「プーチンのいないロシア」 大統領選挙を控え反体制派と現政権の攻防始まる****
来年3月17日のロシア大統領選挙に向け、ロシアの反体制派とプーチン政権の攻防がはじまりました。

ロシア反体制派のナワリヌイ氏陣営は7日、プーチン大統領以外の候補者への投票を呼びかけるキャンペーン「プーチンのいないロシア」を開始しました。

ナワリヌイ氏の陣営は、モスクワやサンクトペテルブルクなどの各都市に、当局の目をかいくぐるようにナワリヌイ氏と無関係を装った看板を設置しました。QRコードを読み取ることでキャンペーンのサイトにアクセスできる仕組みです。

しかし、看板の存在がSNSで広まると、「早速、警察官が来て看板をチェックしています。警察官がチェックに来てからわずか数十分後、すぐに看板は取り外されました」。

ナワリヌイ氏の陣営は、「投票結果は改ざんされるだろうが、我々の任務はロシアがプーチンを必要としていないことを誰の目にも明らかにすることだ」として、抵抗を続けるよう訴えています。(ANNニュース)【12月8日 ABEMA TIMES】
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そのナワリヌイ氏はこれまでの刑務所からどこかへ移送され、「行方不明」となっています。

*****ナワリヌイ氏、不明2週間 大統領選へ反対派締め付け強化か****
ロシアのプーチン政権を批判する活動家ナワリヌイ氏が収監先のモスクワ東方ウラジーミル州の刑務所から移送され、行方不明となって2週間が過ぎた。18日に予定されていた法廷審理は来年1月11日に延期。

プーチン大統領が通算5選を目指す来年3月の大統領選に向け、当局側が反対派の締め付けを強めているとみられる。  

ナワリヌイ氏陣営によると、弁護士が6日に刑務所を訪れたが面会できず、7日以降に遠隔で参加予定だった審理にも「故障」を理由に参加しなかった。刑務所側は既に同氏は別の地域の施設へ移送されたと説明。陣営は各地に照会しているが所在を確認できていない。【12月20日 共同】
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獄中にあるナワリヌイ氏をどうしてプーチン大統領は警戒するのか?

****反プーチン 獄中のナワリヌイ氏の闘い*****
(中略)
獄中にあっても、ナワリヌイ氏は反プーチンの中でもっともカリスマ性があり、行動力のある指導者です。

今回の大統領選挙で、ナワリヌイ氏は、「プーチン以外の候補者に投票しよう」「それぞれが10人の知り合いを説得して反プーチンの輪を広げよう」と具体的な呼びかけをしていました。その意思を仲間がSNSを通じて拡散しています。

強権的なロシアでも立候補者の署名集めに協力することは法律で認められており、ナワリヌイ氏は戦争に否定的な候補者の署名集めに協力することで、選挙を利用して反戦争、反プーチンの意思を示すよう呼び掛けているのです。

2012年の大統領選挙ではナワリヌイ氏は同じようにプーチン以外の候補者に投票しようと呼びかけ、プーチン氏の得票率は最低の64%にまで落ち込みました。その再現を狙っているのです。

こうした活動を恐れた体制がナワリヌイ氏と外界との連絡を遮断した可能性もあります。(後略)【12月18日 NHK】
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【無名の女性地方議員が立候補届け出 選管は無所属での出馬を認めず 「プーチン大統領は無名の女性候補を恐れた」】
プーチン大統領の選挙演出としては、ナワリヌイ氏のような本当に脅威となる人物はあの手この手で選挙には出させない、しかし一方で、前述のように対立候補なしでは選挙の正当性に疑問が持たれ恰好がつかない、選挙戦が盛り上がらず投票率も下がる・・・ということで、自身の勝利に影響のない、負けると分かっている対立候補は必要です。

そのため、政権側が裏で画策して、敢えて反プーチンあるいは非プーチンの対立候補を出せるという「演出」も行います。

そうした状況で、平和と民主主義を掲げる無名の女性地方議員が立候補を届け出て、本当の対立候補なのか、上記のような政権側の「演出」なのかというところも含めて話題になりました。

****ロ大統領選、女性議員が立候補届け出=リベラル派初、プーチン氏に挑戦****
来年3月のロシア大統領選に向け、独立系の女性地方議員エカテリーナ・ドゥンツォワ氏(40)が20日、立候補を届け出た。書類を受理した中央選管は、5日以内に出馬の可否を判断。認められた場合、無所属での立候補に必要な30万人分の署名集めに移る。

届け出は通算5選を目指すプーチン大統領に続くもので、リベラル派からは初。現在はモスクワ北西のトベリ州ルジェフ市議を務めている。

最近までほぼ無名で、現地メディアは「3児の母、法律家、ジャーナリスト」と紹介。ロシアのウクライナ侵攻に反対しているほか、「(プーチン氏の政敵の元石油王)ホドルコフスキー氏に支援されている」(ロシア通信)といわれ、出馬を認められるかは不透明だ。 【12月21日 時事】
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ドゥンツォワ氏はプーチン大統領の対立候補の擁立を模索する運動「ナーシ・シュタープ」の支援を受けて11月に立候補を表明すると急速に支持を拡大し、今月17日、モスクワで集会を開き、届け出に必要な500人の推薦人を集めました。

一方で“一方で、リベラル派の一部からは市民の不満のガス抜きのためにプーチン政権が裏で操っている候補者だと警戒する声も出ています”【12月22日 テレ朝news】とも。

出馬表明後に、身の危険を感じることはあるかとの質問を受けたドゥンツォワ氏は、「懸念」はあるものの、自身の行為は「合法」だと述べたとのことです。【12月21日 AFPより】

プーチン氏の政敵の元石油王ホドルコフスキー氏との関係は否定しています。

****元石油王の支援受けず、ロ大統領選に出馬表明のドゥンツォワ氏****
来年のロシア大統領選への出馬を表明したエカテリーナ・ドゥンツォワ氏は21日、海外で反体制活動を行っている大手石油会社ユーコス元社長ミハイル・ホドルコフスキー氏から支援を受けていないと述べた。

ロシア国営通信RIAは、20日に大統領選出馬の正式な届け出を行ったドゥンツォワ氏について、「亡命中の新興財閥である(外国のエージェントの)ホドルコフスキー氏から支援と資金提供を受けている」と報じた。ロシアで「外国のエージェント」という言い回しはスパイとほぼ同じ意味で使われている。

ドゥンツォワ氏は野党勢力のユーチューブ番組のインタビューで、RIAの報道はでっち上げだと主張。ホドルコフスキー氏と「直接的な関係」はなく、同氏が亡命したロシア人を支援するために立ち上げたプロジェクトの責任者がドゥンツォワ氏を支持していることが根拠になっているのかもしれないと指摘した。

インタビューではプーチン氏を正面から批判することは避けつつ、ロシアはプーチン氏が政権を握ったこの24年間に間違いなく停滞していると述べた。【12月22日 ロイター】
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しかし、中央選管は23日、書類に不備が見つかったとして無所属での出馬を認めないことを決めたています。
ということは「演出」ではなかったようです。

****女性議員の出馬認めず=「無名候補恐れた」と政権批判―ロシア大統領選****
来年3月のロシア大統領選に立候補を届け出た独立系の女性地方議員ドゥンツォワ氏(40)について、中央選管は23日、書類に不備が見つかったとして無所属での出馬を認めないことを決めた。関係者が明らかにした。同氏は20日に立候補届を提出していた。

無所属での立候補には30万人分の署名が必要となるなどハードルが高く、ドゥンツォワ氏をリベラル系野党「ヤブロコ」が支援するシナリオもささやかれている。

反体制派指導者ナワリヌイ氏の側近は「プーチン大統領は無名の女性候補を恐れた」と政権を批判した。【12月23日 時事】 
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名前のスペルの間違いなど書類に100以上の誤りがあったとのことで、重箱の隅をつつくような選管の対応のようです。

リベラル系野党「ヤブロコ」から立候補する・・・ということになれば、ウクライナ侵攻反対といった主張がどれだけ得票できるか興味深いところですが・・・届け出は今月27日に締め切られることもあって、どうでしょうか?

プーチン政権の侵攻を非難する文化人への「締め付け」強化については、下記のようなニュースも。

****ロシア人気作家「過激派」に アクーニン氏、口座凍結****
ロシア金融監視庁は18日、ロシアの人気作家で日本文学研究者のボリス・アクーニン氏を「テロリスト・過激派」のリストに登録した。インタファクス通信によると、銀行口座が凍結され、金融サービスを受けられなくなる。同氏はウクライナ侵攻に反対の立場を公言していた。

タス通信は治安当局者の話として同日、ロシア軍に関する虚偽情報を流布し、信用を失墜させた疑いで、アクーニン氏に対する捜査が始まったと報じた。

ロシアの出版大手ASTは先に、侵攻に関する不適切な発言があったとしてアクーニン氏の作品の出版を停止すると発表。書籍販売大手も販売停止を決めた。アクーニン氏はロンドンを拠点に活動している。【12月19日 共同】
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ロシア  強まる伝統的価値観重視の流れ

2023-12-04 23:01:22 | ロシア

(ロシアのプーチン大統領の成果をアピールする博覧会。写真は併合したウクライナ南部クリミア半島のブース=2日、モスクワ【11月6日 時事】)

【三選出馬が予定されれているプーチン大統領 西側の攻撃からロシアの伝統的価値観を守ることを掲げると思われる】
ロシアでは来年3月に予定されている大統領選挙にプーチン大統領が立候補するものと思われますが、現在モスクワで開催されている「ロシア」博覧会も自身のこれまでの実績をアピールする事実上の選挙活動とも見られています。

博覧会はことし3月、プーチン大統領の大統領令によって開催が決まったもので、来年4月中旬まで、およそ半年間にわたり開催されます。

なお、2020年7月の憲法改正案の賛否を問う全国投票で賛成が78.1%と承認に必要な投票者の過半数を超え、改憲の実現が決まりました。これにより、プーチン大統領は三選が可能になり、新たに2期12年、83歳になる2036年までの続投が可能になっています。

****ロシア プーチン大統領 今月にも大統領選立候補表明の見方****
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は来年3月に予定されている大統領選挙に向けて、今月にも立候補を表明するという見方が出ています。首都モスクワではロシアの発展を誇示する大規模な博覧会が開かれていて、メディアは大統領の業績をアピールする事実上の選挙活動が始まったと伝えています。

ロシアの首都モスクワでは先月初旬から「ロシア」と名付けられた大規模な博覧会が開かれていて、東京ドーム70個分にあたる広大な敷地の中心部では、ロシアが誇る宇宙や原子力の技術が紹介されています。

また、世界最大の領土に広がる80以上の地域に関するブースでは産業や文化の魅力が紹介されるなど、博覧会はプーチン大統領の政策によってロシアが発展したと誇示する内容が中心となっています。

一方、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアや、去年、併合を宣言したウクライナ東部と南部の4つの州を紹介するブースも設置され、軍事侵攻の成果を強調しています。

会場を訪れた女性は「ロシアへの誇りを感じた。ことしはいろいろあったが、ロシアは繁栄している」と話し、大学生の男性は「ロシアにはすばらしい未来がある」と話していました。

ロシアで来年3月に行われる予定の大統領選挙を巡って今月、日程などが議会で正式に決まる見通しで、プーチン大統領は今月14日に開く予定の大規模な記者会見や国民との対話形式のイベントなどで立候補を表明するという見方がロシアメディアや専門家の間で出ています。

独立系メディアは、博覧会が開催されたことで、すでにプーチン大統領の業績をアピールする事実上の選挙活動が始まったと伝えています。(中略)

専門家「最もありそうなのは惰性のシナリオ」
ロシアの内政に詳しいカーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのアンドレイ・コレスニコフ上級研究員はNHKのインタビューに対して、大規模な博覧会を開催しているプーチン政権のねらいについて、「これは政権による壮大な劇場だ。特別軍事作戦は深刻な衝撃だったため、大統領選挙を前に国民を落ち着かせ、すべては計画通りに進んでいて何の心配もいらないのだと示すことが非常に重要となっている」と指摘しました。

また、コレスニコフ氏は「『国民の全員を戦場にあるざんごうに引きずり込むわけでもなく、大部分の国民は正常な生活ができるのです。だからすべてにおいてプーチン氏を支持してください』という一種の社会契約といえる」と述べ、プーチン政権は現時点では総動員には踏み切らず、社会の混乱を回避しようとしているとして、支持を訴えているとしています。

その上で、プーチン氏が進める選挙活動に関して、「活動の主な内容は、『西側が制裁を科し、ハイブリッド戦争を仕掛けている状況の中でも発展できるのだ。そして、私たちは伝統的な価値観を守る必要に迫られている』と訴えることだ。活動の中心には伝統的な価値観が置かれるだろう」と述べ、国家の存亡をかけた戦いが続いていると国民に訴えることで、大統領のもとでの結束を促していくと指摘しました。

また、「プーチン氏にとっては、この半軍事的で半ば全体主義的な国家、社会の状態がかなり好都合だ」と述べ、情報統制なども強化することで、前回2018年の選挙を上回る80%の得票率を目標に圧勝を演出しようとしているとしています。

そのうえで、「クレムリンと体制側の唯一の目標は権力の維持だ。国民の幸福への配慮ではない。選挙後に何かが根本的に変わるとは思えない。最もありそうなのは惰性のシナリオだ」と述べ、ロシアの将来に悲観的な見方を示しました。【12月1日 NHK】
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プーチン大統領の欧米的なリベラルな価値観への嫌悪は昔からのもので、2019年にも・・・

****リベラルな価値観は時代遅れ、西側諸国で拒絶─プーチン大統領=FT紙****
ロシアのプーチン大統領は、自由主義(リベラル)的な価値観について、西側諸国の多くの人々が拒絶しているため、時代遅れのものとなったとの見解を示した。

プーチン大統領は27日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙に掲載されたインタビューで、ドイツのメルケル首相は中東からの移民・難民に対しリベラルな政策を導入したことで基本的な誤りを犯したと指摘。

「リベラルな概念は何もする必要がないことを前提としている。移民・難民は殺人などの罪を犯しても、移民・難民としての権利が守られなくてはならないため、責任を免れる。これは一体どのような権利なのか。いかなる犯罪も罰せられなくてはならない」と述べた。

その上で「リベラルな概念は時代遅れのものとなった。国民の大多数の利益と相反するものとなっている」とし、「多くの人々にとり、伝統的な価値観はリベラルな価値観よりも安定的で重要なものになっている。リベラルな価値観は消滅しつつあると考えている」と述べた。【2019年6月28日 ロイター】
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プーチン大統領が欧米的なリベラルな価値観に代えて重視するのがロシアの伝統的価値観。上記記事にもあるように、大統領選挙立候補にあたっては、西側からの攻撃から伝統的な価値観を守る必要に迫られているという主張が根幹になると思われます。

欧米との対立が露わになっているロシア・プーチン政権にとっては、伝統的価値観重視は欧米との対抗軸としての意味合いもあります。

【伝統的価値観重視でロシア正教会とも一致】
そうしたロシアの伝統的価値観重視を後押ししているのがロシア正教会で、プーチン大統領の支持基盤ともなっています。

****ロシア総主教、プーチン氏支持 正教会、侵攻で関係深化****
ロシア正教会最高位のキリル総主教は28日、モスクワで開かれた会議で演説し、プーチン大統領が国家発展のための職務を続けるよう期待を示した。タス通信などが伝えた。来年3月の大統領選で立候補が確実視されているプーチン氏への事実上の支持表明とみられる。

プーチン氏も南部ソチからオンラインで会議に参加し、ウクライナ侵攻に参加する軍人や家族への正教会による支援に謝意を表明した。侵攻を通じた政権と正教会の一層の緊密化が示された。

会議はロシアの伝統的価値観の維持を目的に正教会などが主導して開催した。【11月29日 共同】
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【ロシア最高裁 LGBTなど性的少数者の権利を擁護する活動を事実上、非合法化する判断】
こうしたで伝統的価値観重視はすでに現実に大きな流れとなっています。

****LGBT擁護活動を非合法化=架空団体を「過激派」認定―ロシア最高裁****
ロシア最高裁は30日、LGBTなど性的少数者の権利を擁護する活動を事実上、非合法化する判断を下した。プーチン大統領の通算5選出馬が見込まれる大統領選を来年3月に予定する中、人権を重視するリベラル派を萎縮させるとともに、伝統的価値観を重んじるロシア正教会を含む保守派に配慮したとみられている。

今回の判断は、法務省が「『国際LGBT運動』という団体を過激派と認定するべきだ」と申し立てたことを受けて出された。最高裁は、同団体を「過激派と見なす」と決定し、ロシアでの活動を禁じた。

しかし、ロシアでこの名称の団体は存在しない。米政府系メディアによると、同省が申し立てを行った後、ロシアの性的少数者が新団体「国際LGBT運動」を発足させると表明し、法廷で争うことを望んだが、最高裁が出廷を認めたのは法務省だけだった。【12月1日 時事】 
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ロシアでは同性愛そのものが違法とされている訳ではありませんが、そうしたものを公の場で広めようとする運動(と当局がみな行為)が非合法と判断されています。

今後、LGBT運動への参加や資金提供だけではなく、LGBTについて、声を上げる場合でも罪に問われる可能性があります。

判決文の全文は公表されておらず、具体的にどのような行為が禁止されるのかあいまいにすることで不安をあおり、活動を一層制限する狙いだとみられます。

例えば、レインボーカラーの服を着て外出した場合なども当局の判断次第では非合法活動と見なされるのかも。

ロシアでは昨年11月に同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法案も可決成立しています。

****ロシア下院、「同性愛宣伝禁止法」改正案を可決 映画や書籍も規制対象****
ロシア下院は23日、同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法案を、賛成397、反対および棄権0の全会一致で可決した。近く上院で承認され、ウラジーミル・プーチン大統領の署名を経て成立する見通し。

法案は、同性愛に関する宣伝を禁止する、いわゆる「ゲイ・プロパガンダ」禁止法の規制を拡大する内容。書籍や映画、オンラインなどで同性愛を流布することが違法とされ、違反者には重い罰則が科せられる。

同法は、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が「表現の自由への打撃」と批判したことから「ブリンケンへの回答」法とも呼ばれている。

活動家たちは、ロシアのLGBT(性的マイノリティー)コミュニティーをさらに抑圧しようとする試みだと指摘している。

法案が成立するには上院の承認とプーチン大統領の署名が必要となるが、これらは事務的な手続きとみられている。

「同性間の関係」の流布を禁止
物議を醸している「ゲイ・プロパガンダ」法の原案は2013年に承認された。子どもたちの間で「非伝統的な性的関係に関する流布」、つまり同性間の関係を描写したものを広めることを禁止している。

同法はマスメディアや広告で同性間の関係を肯定的に描写することを、ポルノの配布や暴力の促進、人種・民族・宗教的緊張の扇動と同類としている。

LGBTを肯定的に表現した広告や書籍、映画が禁止されることから、出版社からはロシアの古典文学に影響を及ぼしかねないという懸念が上がっている。

LGBTに関するオンライン上の議論もブロックされる可能性がある。LGBTのスローガンやシンボルが描かれた商品の販売も禁止される。

違反者には最大40万ルーブル(約92万円)の罰金が科される。企業の場合は最大500万ルーブル(約1150万円)の罰金を支払うよう命じられる可能性がある。

外国人や無国籍者は同法に従わない場合、収監あるいはロシアから追放される恐れがある。

LGBTへの攻撃の波を懸念
人権活動家やLGBT団体は、規制の拡大はLGBTコミュニティーのあらゆる行為や公の発言が犯罪行為とされることを意味すると指摘している。

ロシアに拠点を置くLGBT支援団体「Vykhod」のクセニア・ミハイロワ氏は、9年前に最初の禁止法が導入されたことでゲイ・コミュニティーへの攻撃の波が引き起こされたと述べた。

ミハイロワ氏はロイター通信に対し、改正案が事実上「国家はLGBTへの暴力に反対しないとしている」ことから、LGBTへの攻撃の「津波」が起こるだろうと語った。

ブリンケン米国務長官は23日、「法案を取り下げて、すべての人の人権と尊厳を尊重する」ようロシアに求めた。

議会で「ブリンケンへの回答法」だと述べたヴャチェスラフ・ヴォロージン下院議長は、西側諸国が広めた「闇」であるLGBTの価値観からロシアを守るためのものだと主張した。

プーチン大統領は反同性愛の論調を政治課題の要としている。
最近の演説では、欧州でゲイやトランスジェンダーの権利が推進されていることを例に挙げ、西側が「公然たる悪魔主義に向かっている」と非難している。【2022年11月25日 BBC】
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なお、ロシアの同性愛に関する宣伝禁止法については、2014年のソチオリンピックでもロシアの人権侵害を象徴するものとして欧米で批判が高まり、アメリカのオバマ大統領(当時 以下同)やフランスのオランド大統領、イギリスキャメロン首相ら欧米諸国首脳がの開幕式への出席を見送る事態にもなっています。

【外国人のロシア批判を禁じる動き】
ロシア的価値観に従うことはロシア国民だけでなく、外国人にも求められます。

****ロシアへの「忠誠承諾書」、外国人に署名強制へ 法案準備と報道****
ロシア内務省は、同国に対する「忠誠承諾書」への署名を外国人に強制する法案を準備している。外国人が政府の政策を批判することなどを禁じる。

国営タス通信によると、ロシアに入国する外国人は「ロシア連邦の公的機関の活動を妨げ、いかなる形であれ、ロシア連邦の対外・国内国家政策、公的機関およびその当局者の信用を傷つけること」が禁止される。

また、伝統的な家族観に背くことや、「ソ連国民の祖国防衛における偉業とファシズムに対する勝利への貢献に関する歴史的真実を歪曲すること」も禁じられるという。

ロイターはこの法案を独自に確認できていない。内務省からは今のところコメントを得られていない。

ロイターの調べでは法案はまだ議会に正式に提出されていない。

タス通信は、外国人が承諾書に反した場合の罰則には触れていない。【11月29日 ロシア】
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“具体的には、ウクライナ侵攻下のロシアの内政・外交を批判したり、性的少数者の権利を主張して伝統的価値観を否定したりすることを禁止する”【11月29日 時事】

ロシアはプーチン大統領のもと、ますます欧米・日本とは異なる社会に向かって突き進んでいます。
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ロシア  見せかけの「安定」 力で封じ込めれた戦争反対の声 膨大な戦費の一方で疲弊する社会

2023-11-18 23:21:23 | ロシア

(ロシアで9日、開演直前のライブ会場に治安部隊が突入した。その理由は、バンドのリーダーがプーチン政権を批判したためだった。【11月18日 FNNプライムオンライン】)

【戦争停止・和平を求める少なからぬ世論】
戦争遂行が大変なのはどこの国も同じ。どんな大義を掲げた戦争でも、国内では不満や厭戦感が高まります。
ウクライナでも。

****徴兵逃れ、2万人出国か 英報道、ウクライナから****
英BBC放送は17日、ロシアの侵攻を受けるウクライナで、約2万人の男性が徴兵を逃れるために国外に出国したと報じた。

一方で約2万1千人が出国に失敗しウクライナ当局に拘束されたとした。川を泳いで渡ったり、暗闇に紛れて徒歩で国境を越えたりして逃れているという。

米当局者は8月、ウクライナ軍の死者数は7万人に達するとの推計を示した。侵攻長期化で犠牲者が増え続ける中、兵員の確保が喫緊の課題になっているが、徴兵逃れや関連する汚職の問題が深刻化している。

BBCによると、ウクライナに隣接するポーランド、ルーマニア、ハンガリーなど5カ国の不法入国の記録から判明した。【11月17日 共同】
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7万人が犠牲になり、国土が戦場となっているのですから当然でしょう。

ウクライナについては取り上げる機会も多いので、今日は相手国ロシアの事情。

ウクライナと違って国土が戦場になっている訳ではありませんが、ウクライナのように国土防衛といった明確な戦争目的がなく、しかも“人海戦術”的な作戦で多大な死傷者を出していると思われます。

ロシアのウクライナ戦争での犠牲者数はよくわかりません。
“ウクライナ軍参謀本部は29日、ロシアの侵略開始以降、露軍の死者が27万7660人に上ったと発表した。”【9月30日 読売】
“NYTによると、ロシア軍の死傷者は30万人に近づいており、このうち死者は最大12万人、負傷者は17万─18万人に達しているもよう。”【8月19日 ロイター】

数だけでなく、ワグネルのような傭兵や受刑者などがどれくらい含まれているのかによっても社会的な影響は違ってきます。

****「価値観、文化守る戦い」 ロシア大統領、侵攻を正当化****
ロシアのプーチン大統領は3日、ウクライナで続けている軍事作戦により「われわれは自らの道徳的価値観や歴史、文化を守っている」と述べ、国の独立を懸けた歴史的な戦いと位置付けて侵攻を正当化した。4日の祝日「国民統一の日」を前に、モスクワで開かれた国の諮問機関「社会評議会」メンバーとの会合で語った。

プーチン氏は、2014年にウクライナの親ロ派政権が暴徒化した野党側デモで倒されなければ、ロシアによるクリミア半島併合も「なかっただろう」と指摘。その後に起きたウクライナ東部のロシア系住民とウクライナ政府軍の交戦を念頭に、昨年2月の侵攻開始以前にロシアは「攻撃されていた」と主張した。【11月4日 共同】
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「価値観、文化守る戦い」・・・・それで10万、20万人といった犠牲者が出ていることに国民は納得するのでしょうか。

世論調査によれば、(ロシアのような自由が制約される社会でどこまで本音を引き出す調査が可能なのかは知りませんが)戦争停止を求める声が少なからずあるようです。

****ウクライナ戦争の停止、露国民7割が支持 露世論調査*****
「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止を決めた場合、その決定を支持するか」とロシア国民に尋ねたところ、70%が「決定を支持する」と回答したことが、露独立系機関「レバダ・センター」の10月の世論調査で分かった。

プーチン政権は従来、「国民の大多数がウクライナでの軍事作戦を支持している」と主張してきたが、今回の調査結果は露国民内での厭戦(えんせん)機運の高まりを示唆した。

レバダ・センターは10月19〜25日、18歳以上の露国民約1600人を対象に世論調査を実施。結果を31日に公表した。

それによると、冒頭の質問に対し、37%が「完全に支持する」と回答。「おおむね支持する」とした33%を合わせると計70%が戦争停止を支持した。一方、「あまり支持しない」は9%、「全く支持しない」は12%で、9%は「回答困難」とした。

レバダ・センターは同時に「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止と、併合したウクライナ領土の返還を決めた場合、その決定を支持するか」との質問でも世論調査を実施。

この質問形式の場合、「完全に支持する」「おおむね支持する」とした回答者の割合は計34%まで低下した。反対に「あまり支持しない」「全く支持しない」との回答は計57%に上った。残りは「回答困難」だった。

半数超の露国民が領土の返還を条件とした戦争の停止は支持できないと考えていることが明らかになった形だ。【11月2日 産経】
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****ロシア人のほぼ半分が和平交渉を望む 世論調査****
ロシア人のほぼ半数がウクライナとの和平交渉を求めていることが世論調査で分かりました。戦争継続を支持する人を始めて上回りました。

世論調査はロシアの独立系調査会社「ロシアンフィールド」が10月21日から29日にかけて電話で行われ、1611人が回答しました。

ほぼ半数の48%のロシア人がウクライナと和平交渉の必要があると回答しました。女性や45歳未満の人がより強く和平交渉を支持していることも分かりました。

一方、39%が和平交渉に反対し、「特別軍事作戦」の継続を支持しているということですが、和平交渉を求める人が戦争継続を支持する人を始めて上回りました。

依然として65%のロシア人はロシアが正しい方向に進んでいると考えていますが、前回6月の調査に比べて8%減少しているということです。 また、21%の人は事態がうまく進行していないと考えています。【11月15日 テレ朝news】
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【戦争反対の声を力で封じ込める政権】
戦争停止、和平を求める声は少なからずあるようですが、昨年、動員を発表したひと頃のように反戦の抗議デモなどは最近は聞きません。それは反戦の声が消えた訳ではなく、政権が力で封じ込めた結果でしょう。

****ロシア兵帰還求める集会禁止 妻ら計画、反戦機運警戒****
ウクライナ侵攻によりロシア軍に動員された兵士の妻らが帰還を求めて25日に計画していた集会について、モスクワ当局は新型コロナウイルス対策を理由に許可しなかった。ロシア独立系メディア「メドゥーザ」などが17日伝えた。

コロナ対策は既に形骸化しており、実際には反戦機運の高まりを警戒したとみられる。他の都市でも同様の集会が禁じられた。

動員兵の妻らはボリショイ劇場などがあるモスクワ中心部の劇場広場で集会を計画し、最大300人の参加を見込んでいた。当局は2020年に導入されたコロナ対策の集会制限を根拠として禁止し、無許可で開催すれば責任を問うと警告した。【11月8日 共同】
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****ロシア スーパー「値札」でウクライナ侵攻批判した芸術家に懲役7年 強まる言論統制****
ロシアでスーパーマーケットの値札をウクライナ侵攻を批判するメッセージに替えたとして、芸術家の女性に懲役7年の判決が言い渡されました。

サンクトペテルブルクの裁判所は16日、芸術家のアレクサンドラ・スコチレンコさんに対し、ロシア軍に関する虚偽の情報を広めたとして懲役7年の判決を言い渡しました。

スコチレンコさんは去年4月、スーパーマーケットの商品の値札をウクライナ侵攻を批判するメッセージに替えたとして拘束されていました。

メッセージには「ロシア軍はマリウポリで400人が避難していた芸術学校を爆撃した」などと記されていたということです。

スコチレンコさんは法廷で「私の事件について特別軍事作戦の支持者でさえ、服役が必要だとは考えていない」と批判。

判決が言い渡されると戦争支持者らから「恥を知れ」などと声が上がったということです。

ロシアでは、ウクライナ侵攻後、言論統制の動きが強まっていて、反戦を訴えた人などの拘束や有罪判決が相次いでいます。【11月18日 TBS NEWS DIG】
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****「ロシアは有害で虐待的」プーチン政権批判したバンドのライブ会場に“治安部隊”突入 女性ファンと乱闘騒ぎも ロシア****
ロシアで9日、開演直前のライブ会場に治安部隊が突入した。その理由は、バンドのリーダーがプーチン政権を批判したためだった。現地のメディアは、「ロシアは有害で虐待的」などと発言していたと伝えている。

ライブ直前に治安部隊が突入
ライブ会場で、床に大勢の観客が寝そべっている。 画面奥のステージにアーティストの姿はなく、会場の真ん中には治安部隊がいた。

9日、ロシアで開演直前のライブ会場に治安部隊が突入した。 なかには抵抗するファンの姿もあった。

治安部隊が「おとなしくしろ!こっちは銃を持っているんだぞ!」と言うと、ファンは「離して!」と抵抗する。さらに、治安部隊が「動くな!」と命令すると、ファンは「ちくしょう!ちくしょう!」と悔しがった。

ライブは中止になった。 その後、バンドのメンバーは「このような事態に巻き込まれた全てのファンに、心から謝罪します」と動画を投稿した。

リーダーがプーチン政権を批判
ライブと治安部隊…似つかわしくないが、突入した理由は何だったのだろうか。 それは、バンドのリーダーがプーチン政権を批判したためだ。 現地のメディアは、バンドのリーダーが「ロシアは有害で虐待的」などと発言していたと伝えている。

そんななか、プーチン大統領に新たな動きがあった。 ロシアのメディアによると、毎年恒例の記者会見と国民との対話イベントを復活させるというのだ。

ウクライナへの侵攻を始めた2022年は、厳しい質問を避けたのか、見送りになった。 2024年春に大統領選が控えるなか、プーチン氏は余裕なのだろうか。 (「イット!」 11月10日放送より)【11月18日 FNNプライムオンライン】
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【疲弊するロシア社会】
対話イベント復活など、プーチン大統領の「すべてが侵攻以前と変わりない」というアピールにもかかわらず、ロシア社会には「戦争なんかしているよりは・・・」といった疲弊も色濃く見られます。

****ロシア 地方都市の困窮と住民の本音−国民対話再開はプーチン大統領安泰の証なのか?****
プーチン大統領は今年12月、国民からの要望を直接受け付けるホットラインと地方からの記者も集めた大規模紙記者会見を同時に実施する見通しだ。

関係者によると、去年は不満が高まる世論に正面から対峙することが難しく実施を見送った。今年、恒例行事を復活させるのは、すべてが侵攻以前と変わりないという国民に対するアピールだとみられている。

プーチン大統領は国内経済も順調だと繰り返し主張しているが、本当だろうか?ロシアの地方を取材すると、大都市ではわからない、国民が疲弊している状況が如実に見えてきた。

■足を踏み入れた途端に悪臭が…黒い煙の街
ロシア北西部、フィンランドと国境を接するカレリア共和国。

首都ペトロザボーツクから北へ3時間ほど車を走らせ、幹線道路をそれてセゲジャの街に入った瞬間、異様な光景が目に飛び込んでくる。

工場の煙突から真っ黒い煙がもくもくとあがっているのだ。街の産業を支えている製紙工場だという。
車の窓を開けると、ひどいにおいが車内に入り込み、思わずえずきそうになる。街をしばらく歩くとどうにか鼻は慣れてくるが、それでも違和感は消えない。(中略)

■「水道水はコニャックのよう」 自宅は1930年代築の木造
診療所に勤務するターニャさん(44)は3人の子供を育てている。自宅はこの地方の特徴でもある木造の歴史的な建物で1938年にドイツ人によって建てられたものだという。(中略)

しかし、この家は2018年に危険だと宣言された。別の部屋の住民は床が抜けて、別の場所に引っ越したが、居住登録を変えることができず2重に家賃を支払い続けているという。

ターニャさんは1カ月2万7000ルーブル(約4万5000円)の給与と子供手当てで暮らしていて、引っ越しをする資金的な余裕はない。水光熱費だけでも1万5000ルーブル(約2万5000円)に上る。

特に困っているのが水回りだという。
「ほら見てください」 ターニャさんはキッチンに続く風呂場の蛇口をひねる。たまりだした水はうっすらと茶色い。 「もう少したまれば、コーヒーのようになります。茶色です。時間帯によっても違いますが、コニャックといったほうが良いかしら」

別の60代の年金暮らしの女性も水道水に悩まされている。水質が茶色い理由を教えてくれた。 「私たちの水は工業用水であり、すべて汚れています。家は崩壊しつつあります」

この自宅も1936年に建てられて以来、修繕されていないという。 2019年に安全ではないと宣言されたが、移転の目途は2030年で「それまで生きているのかしら」と女性はつぶやく。

■「生き延びているだけ…」崩壊間際の部屋に住む女性
ガリーナさんがわずかな年金で暮らす木造アパートは、入り口の玄関と階段が崩れ落ち、部屋の壁も崩壊し始めている。

木造にもかかわらず1938年に建てられて以来、一度も修繕されたことがないそうだ。国からは今すぐに退去が必要な住宅に指定されている。しかし何の支援もないため、ガリーナさんには住み続ける以外の選択肢は残されていない。

水道や光熱費などを差し引いて手元に残る数千円ほどで、どうにか日々暮らしている。趣味や楽しみに使うお金がガリーナさんの手元に残ることはない。

「生き延びているだけ」だというガリーナさんの言葉を私は否定できなかった。
ロシアでは、ガリーナさんと同じように崩壊しかけている家に住み、政府が住み替えの対象としている人は少なくとも150万人にのぼる。

ガリーナさんのようにギリギリの生活を続けている人が多く、政府の補償がなければ転居先の家賃も払えず、建物を自力で修繕することもできないため、住み続けるしかない。

住宅問題は大きな社会問題となっていて、常に行政の最優先課題の一つだとされるが、具体的な進展はほとんど見られない。(中略)

■国民ではなく戦争に費やされる税金
ガリーナさんに「特別軍事作戦(=ロシアによるウクライナ侵攻)」について尋ねても「反対」だとは答えない。
ガリーナさんは特別軍事作戦で親しい友人を2人亡くし、さらに2人が今も戦っているという。だから「特別軍事作戦」に多額の資金が投じられていることについては「惜しいとは思わない」と言う。それでも、疑問を呈さざるを得ない。

「ドネツクに資金が投じられています。そこが大変な状況だということはわかっています。しかし私たちには割り当てられませんし、年金だって増えません。何らかの見直しが必要かもしれません」

ドイツの国際安全保障問題研究所の試算によれば、ウクライナへの侵攻には1日300億ルーブルが費やされている。2024年の予算では10兆8000億ルーブルが「国防」費に充てられる見通しだ。

一方で、ロシア全土の住宅問題の解決に必要な資金は1・3兆ルーブルから3兆ルーブルだとされている。住宅問題の解決に必要な額の3倍以上が、ウクライナへの侵攻に費やされることになる。

■プーチン大統領の直接対話再開は「安定」の証か?
(中略)今はロシア国内で反戦の声もほとんど聞こえず、一見ロシア社会が「安定」を取り戻したかのようにみえる。しかし、ロシア人が反戦を唱えなくなったのは、厳しい弾圧によるものだろう。 言論に対する取り締まりは、ますますエスカレートしている。(中略)

■消去されていない「戦争反対」の落書き
カレリア共和国で旅行業を営む50代の男性は「戦争には反対だ」と打ち明ける。 彼は80年代に旧ソ連のアフガニスタン侵攻に参加し、当時ウクライナ人とも戦友として戦ったという。

「なぜ、かつての仲間を敵にすることができるのですか? 反対です。もちろん反対です。」 男性は、溜まっていたものを吐き出すかのように繰り返した。

セゲジャの街の中心近く、キーロフ通りのバス停には、黒いスプレーで大きくこう記されていた。 「戦 争 反 対」

モスクワなどでは真っ先に消されているだろう。 しかし言論統制の手も回らないのか、それとも見逃されているのか。 このスプレーの黒い文字は長い間、消されずに残されている。【11月18日 テレ朝news】
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ロシア  制裁下でも“抜け道”利用もあって経済堅調 来年3月大統領選挙はプーチン圧勝を“演出”

2023-10-02 23:16:55 | ロシア

(投票箱を見下ろす位置に掲げられたプーチン大統領の肖像[ロシア占領下のウクライナ東部ドネツク州の投票所にて=2023年9月9日]【9月21日 Foresight】)

【制裁をかいくぐり予想以上に堅調なロシア経済】
ロシア経済が欧米諸国からの制裁下にあるにもかかわらず、軍事支出拡大によって膨らんでいるという側面はあるものの、「戦時下の好景気」とも一部で言われるほどに予想外に堅調なことは9月7日ブログ「ロシア 経済は“欧米が期待するほどは弱くない” “あの手この手”で兵員増強 キューバ異例の対応」でも取り上げました。

****ロシア経済、今年は1.5%成長 欧州開銀がマイナス予想から大幅上方修正****
欧州復興開発銀行は27日、2023年のロシアの経済成長率は原油価格上昇を受けて1.5%になるとの見通しを公表した。5月時点では1.5%のマイナス成長を予測していた。

EBRDはAFPの問い合わせに対し、5月時点では、ロシア経済は西側諸国による制裁、特に石油上限価格の導入の打撃を受けると予想していたと回答。「しかし原油価格が上昇したのに加え、ロシアが制裁の影響を回避するため新たな輸出市場を開拓したことで石油収入が拡大した」と説明した。

新たな市場としては中国とインドを挙げた。また、ロシアの経済活動は引き続き活発だと指摘。特に家計消費に加え、ウクライナ侵攻に伴う軍事支出が高水準で推移していると分析した。

EBRDは、「2024年の成長率についてはウクライナでの戦争およびそれに関連する経済制裁の動向次第だが、現時点では1.0%の見通し」としている。 【9月27日 AFP】
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“原油価格が上昇したのに加え・・・” 船舶保険を利用した制裁で1バレル60ドルの石油上限価格が導入されているはずですが、どうして?

****ロシア産原油の輸送、無保険の「闇タンカー」船団が大半を担う…500隻に上ると英紙報道****
ロシアがウクライナ侵略に伴う米欧の対露制裁を回避して原油を高値で輸出するため、船舶保険をかけずに原油を輸送する「闇タンカー」と呼ばれる船団を多用しているとの指摘が相次いでいる。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は24日、8月に輸送されたロシア産原油の約4分の3は無保険の船舶が使われたとの分析結果を報じた。

先進7か国(G7)は昨年12月、上限価格(1バレル=60ドル)を超える原油の取引に、船舶保険を引き受けないよう保険会社に義務づけた。原油流出などの事故をカバーする船舶保険は米欧日の企業に集中している。制裁が完全に機能すれば、ロシアは60ドル超での原油輸出が困難となり、戦費調達に打撃となるはずだった。

ただ、ロシアは国際市場価格に近い値での取引を可能にするため、制裁の発動前から闇タンカーの船団を用意していた。英紙ガーディアンによると、船舶数は老朽化した船舶を中心に約500隻に上るという。

露産原油の代表的な指標となるウラル原油は、7月にG7が上限に設定した60ドルを突破し、最近は80ドル付近で取引されている。FTはロシアの今年の原油輸出収入は前年より150億ドル(約2兆2300億円)増加するとの推計を報じた。

一方、ロシアに協力的な国もあるようだ。アフリカ中部ガボンは船籍登録の規則を緩和した。ガボン籍の船は倍増し、積載量1万トン超の船の98%が闇タンカーとしてロシアの原油輸送に関わっているとの情報がある。ガボンは国連安全保障理事会の非常任理事国を務めている。【9月28日 読売】
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保険が付保されていないので、いったん事故を起こせば大変なことになりますが・・・
ウラル原油が80ドル・・・代表的な原油価格指標であるWTI原油先物が1バレル91ドル前後ですから、あまり制裁が効いてないようです。

また、“新たな市場としては中国とインド”・・・・こうした国が“抜け道”にもなっているようです。

****独、インドからの石油製品輸入が急増 ロシア産原油由来****
ドイツ連邦統計局が12日に公表した統計によると、今年1〜7月のインドからの石油製品輸入額は4億5100万ユーロ(約711億円)と、前年同期の3700万ユーロ(約58億円)から急増した。率では1100%超の大幅増となる。大半はロシア産原油由来とみられる。

統計局は、インドから輸入された精製品のうち「大部分はディーゼル油やヒーティングオイルの生産に使われるガスオイル」だとしている。

国連のデータベース「UNコムトレード」によると、ロシアが昨年2月にウクライナ侵攻を開始して以降、インドはロシア産原油を活発に買い付けている。

欧州連合諸国など西側は侵攻を受けて海上輸送経由でのロシア産原油を対象に禁輸措置を導入。また、先進7か国やEUなどはロシア産原油の取引価格に1バレル=60ドル(約8800円)の上限を設定することで合意している。

インドはロシアから割安価格で原油を購入し、精製して生産された石油製品を欧州諸国に輸出している。 【9月13日 AFP】
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これでは“制裁”の意味がないようにも思えます。表向きのロシア批判・ウクライナ支援とは随分異なる実際の行動です。

【不安材料はインフレ 大統領選挙を控えて燃料価格抑制に躍起のプーチン政権】
上記のように制裁をかいくぐって予想外に堅調なロシア経済ですが、目下の不安材料はインフレ。

****ロシア、インフレ見通し引き上げ ルーブル安見込む=経済省****
ロシア経済省は今後2年間のインフレ見通しを大幅に引き上げ、ルーブルの対ドル相場がかなり弱含むと予想していることを明らかにした。

同省がまとめたマクロ経済予測の草案によると、2023年のインフレ率見通しは7.5%で、4月時点の5.3%から引き上げた。24年の見通しも4.0%から引き上げ4.5%とした。(中略)

ルーブルの23年平均レートについては1ドル=85.2ルーブルと予想。4月時点の予想は76.5ルーブルだった。24年は90.1ルーブルと予想。4月時点は76.8ルーブルだった。

ルーブルは8月に1ドル=100ルーブルを超えて下落した。12日の水準は95ルーブル近辺。

同省はまた、23年と24年の成長率見通しを引き上げる一方、25年と26年を引き下げた。
23年の予想は2.8%。4月時点の1.2%から倍以上に引き上げた。24年は2.0%から2.3%に引き上げた。【9月13日 ロイター】
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****ロシアのプーチン大統領、政府に小売り燃料価格の安定化を命令****
ロシアのプーチン大統領は27日、政府に対して小売り燃料価格を確実に安定させるよう命じ、国内燃料市場を落ち着かせる追加措置を導入するよう求めた。

政府は21日、国内の燃料価格上昇を抑えるため、旧ソ連を構成していた4カ国以外へのガソリンおよび軽油の輸出を一時禁止。国内の燃料価格は当初は下落したが、先週末に禁輸措置の緩和が発表されると、再びじりじりと上昇し始めた。

プーチン氏は、政府は迅速に行動する必要があり、石油産業税の見直しも選択肢の1つだと指摘。「対策は講じられたが、燃料価格は上昇している。消費者は結果を必要としている」と追加的な措置を求めた。

ノバク副首相はプーチン氏に政府が追加措置を検討していると説明。国内向けとして購入した後で輸出する「グレーな」燃料輸出に対する規制、転売業者に対する燃料輸出関税の引き上げ、輸出の完全な禁止といった提案が俎上(そじょう)に上っていることを明らかにした。【9月28日 ロイター】
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プーチン政権が燃料価格抑制に躍起になっているのは、来年3月に大統領選挙を控えているからでしょう。
燃料価格上昇は、ウクライナ情勢以上に広範な国民の不満に直結します。

【9月の統一地方選でも与党は圧勝 来年3月大統領選挙は「官製選挙」でプーチン圧勝を“演出”】
プーチン大統領としては、単に再選(通算5選)されるだけでなく、圧勝することでその権威が揺らいでいないことを欧米に見せつける必要があります。

ウクライナでの犠牲者も増え続けています。

****ロシア軍の死者、侵略開始以降「27万人超」…直近1日でも340人死亡とウクライナ軍発表****
ウクライナ軍参謀本部は29日、ロシアの侵略開始以降、露軍の死者が27万7660人に上ったと発表した。ウクライナ軍は東・南部やロシアに併合されたクリミアで反転攻勢を強めており、直近の1日でも露軍の340人が死亡したとしている。(後略)【5月30日 読売】
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ウクライナ側発表ですから数字の信頼性はともかく、本来であればウクライナ戦争の犠牲者増加で政権に揺らぎがあっても不思議ではないのですが、そうはならないところがロシアのロシアたる所以でしょうか。

政権批判・ウクライナ侵攻批判を許さない体制もありますし、地方を中心にウクライナ侵攻が一定に支持されていることもあるのでしょう。

大統領選の前哨戦となった9月の統一地方選でも与党は圧勝しました。

****プーチン氏、通算5選へ基盤整う ロシア地方選で与党圧勝****
来年3月の次期ロシア大統領選の前哨戦となった統一地方選の投票が10日締め切られ、即日開票された。プーチン政権与党「統一ロシア」は首都モスクワの市長選やモスクワ州知事選をはじめ各地で軒並み圧勝。

ロシアが併合を宣言したウクライナ東部・南部4州の議会選でも多数を占め、侵攻が長期化する中でプーチン大統領の通算5選に向けた基盤が整った。

プーチン氏は次期選挙への態度を表明していないが、他に有力候補は見当たらない。4州併合を成果として年内に立候補を表明する見込みで、当選は確実とみられている。(後略)【9月11日 共同】
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もちろん、ロシアの選挙の実態は突っ込みどころ満載です。とても“公正な選挙”とは言い難いところ。
“統一地方選挙はプーチン与党圧勝も…ロシアの“ヤバい選挙システム”徹底研究! 透明な投票箱、オンライン投票は「何度でも投票先を変更可能」で車やアパートが“ボーナス”で貰えちゃう”【9月11日 文春オンライン】

そうであるにしても、前回までのような“番狂わせ”もなく圧勝したことは、プーチン5選に向けて準備が整っていることを示すものでしょう。

****来年3月のロシア大統領選、プーチン圧勝で「無風選挙」の怪****
ロシア統一地方選は与党系候補が全勝、昨年までの番狂わせや混乱は皆無だった。電子投票を選挙結果の偽造に使い、選挙監視システムを解体し、戦争を選挙の争点から徹底して排除するなどで「官製選挙」化は一層進んだと、ロシアのリベラル系メディアや政治学者は指摘する。来年の大統領選挙も政権による対立候補の吟味が進み、「プーチン圧勝」の環境は整いつつあるようだ。

2024年3月17日のロシア大統領選まで半年を切り、ロシア政局の焦点は大統領選の動向に移る。ウラジーミル・プーチン大統領は5選を目指す構えで、年内に出馬表明し、クレムリンは過去最高の得票率で圧勝を狙うと伝えられる。

8月23日の航空機事故でエフゲニー・プリゴジン氏ら民間軍事会社「ワグネル」幹部らが殺害され、不測の事態につながる「ワイルド・カード」が一掃された。9月8〜10日の統一地方選も、与党が勝利する「無風選挙」だった。

プーチン氏は大統領選勝利を経て、ロシア・ウクライナ戦争を長期戦に持ち込み、ウクライナや欧米諸国の疲弊を待つ構えだ。内政や戦況でサプライズがない限り、プーチン続投は揺らぎそうにない。

「官製選挙」徹底に電子投票システムを利用
(中略)昨年までの統一地方選では、大都市部や極東で与党候補が敗北することもあり、昨年は地方議員が反戦を訴える共同アピールを発表したが、今回は番狂わせや混乱はなかった。

リベラル系の「モスクワ・タイムズ」紙(9月13日)は、「クレムリンは選挙結果を操作し、投票率を上げるため、電子投票システムを使用した。投票用紙の水増しや企業・組織の投票強要など、より粗暴な手段を混在させた。

例年、与党候補は無所属で出馬するケースがあったが、今回はモスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長らも与党から出馬した」と指摘した。

政権側はロシア・ウクライナ戦争を統一地方選の争点にしなかった。独立系メディア「メドゥーザ」(9月13日)は、「候補者らは選挙戦を通じ、ウクライナ侵攻にほとんど触れなかった。与党の知事や議員の大半は演説やSNSで戦争に言及せず、経済の安定や開発問題を取り上げた。モスクワは反戦意識が最も強い都市だが、ソビャーニン市長は戦争の話題を極力避けた」と伝えた。

ロシアの選挙専門家、フョードル・クラシェニンニコフ氏は、独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」で、「今回の統一地方選が、従来に比べてインパクトが薄かったのは驚くべきことではない。開戦後、多くの野党活動家や記者は国外に脱出し、数少ない野党は解散した。批判的なメディアは潰され、選挙監視システムも解体された。選挙はあらかじめ設計されたシナリオ通りに進み、何事も起きなかった」

「来年の大統領選がどうなるかを知るには、今回のモスクワ市長選を見るのがいい。主要な候補者はいるが、対立候補は真剣に挑戦するそぶりも見せない。選挙を監視する者もいなければ、関心を持つ者もいない。ネット投票でボタンををクリックしても、誰が誰に投票したかは分からない」とコメントした。

選挙監視団体「ゴロス」のスタニスラフ・アンドレイチュク共同議長は「ロシアではどのレベルでも、選挙を望む人の数が激減している。最近では、署名を集める必要のない人や、政権と合意した人だけが候補者になり、無所属で立候補するのは不可能だ。候補者や活動家、有権者への圧力も強まった。

すべての野党議員らは逮捕、拘留、裁判の危険にさらされている。検閲が蔓延し、政党が禁じられた話題を避け、有権者との対話も難しい。投票所の管理者は選挙結果を改竄したが、システム全体が透明性を欠いているため、何が問題なのか分からない。選挙管理委員会の独立性が根本的に損なわれている」と批判した。

不正の多い「官製選挙」で、政権の厳しい統制下、選挙がすっかり儀式になったとの見立てだ。【9月21日 Foresight】
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本来なら大統領選挙で最大のプーチン批判候補となるはずの反政府活動家ナワリヌイ氏は刑務所の中で、懲役19年の判決が確定しています。

大統領選挙は「官製選挙」ですから勝利は当然ですが、さりとて注目される対立候補なしでは恰好がつかないというか、欧米に向けてアピールも出来ませんので、「民主選挙」偽装のために敢えて政権側が対立候補を出馬させることも行われます。

****「高齢問題」隠しでジュガーノフ氏に出馬要請****
現状では、来年3月の大統領選もプーチン氏の当選を確認する「無風選挙」となりそうだ。「メドゥーザ」(7月19日)によれば、クレムリンはプーチン氏が少なくとも80%の得票率で勝利することを目指しているという。

過去4回の大統領選で、プーチン氏の得票率は50〜70%台だった。大統領府のセルゲイ・キリエンコ第一副長官が選挙戦略を指揮し、支持者の組織化や行政・企業を動員、電子投票を有効に活用する方針という。(中略)

政権側は着々と5選の準備を整えている。
この夏、プリゴジン氏だけでなく、左右両派の反プーチン勢力が弾圧された。服役中の活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏に対して新たな裁判で19年の刑が言い渡されたほか、多くのリベラル派が拘束された。続投に反対した極右活動家、イーゴリ・ギルキン氏も過激行動の容疑で逮捕された。

下院は8月、選挙監視団体の活動を大幅に規制する法律を制定した。従来の選挙では、民間選挙監視団体が不正や混乱の実態を動画で撮影して公表したが、今後は投票所や開票所の監視活動が制限される。最大の監視団体「ゴロス」の幹部らも逮捕された。

政権側は対立候補の人選も進めており、野党第一党の共産党に対しては、79歳のゲンナジ・ジュガーノフ委員長に出馬を要請したという。これは、10月で71歳になるプーチン氏の高齢問題が争点になるのを防ぐためで、対立候補は高齢者やアピール度の低い候補で固める意向という。

「スパーリング・パートナー」と呼ばれる対立候補は、下院に議席を持つ政党が無条件に擁立できるが、野党第2党「公正ロシア」のセルゲイ・ミロノフ党首はプーチン氏を支持し、候補者を出さない方針だ。(中略)

無所属での立候補には30万人の署名が必要で、ハードルが高い。ただし、「民主選挙」を装うため、クレムリンが承認した中立系、リベラル系候補が参加する可能性もある。

投票日翌日の3月18日は、クリミア併合記念日であり、政権は社会にユーフォリア(多幸感)が広がった2014年のクリミア併合の記憶をプレーアップして選挙に臨みそうだ。

政権は戦争長期化への国民の反発を防ぐため、「安全運転」を進めるとみられる。プーチン氏は最近の演説や発言で、戦争にあまり触れず、もっぱら経済の安定や地方の開発に言及している。総動員令や戒厳令は避け、年金や公務員給与増などバラマキ政策も進めそうだ。

当選すれば、6年のフリーハンドを手にし、民意を気にせず、戦争継続が可能になる。

「プーチン氏の信任投票」に広がる悲観
(中略)カーネギー国際平和財団モスクワセンターのアンドレイ・コレスニコフ研究員は大統領選について、(中略)「戦争長期化の中で、プーチンは社会が正常であることを国民に錯覚させようとしている。国民は戦場に動員されない限り、体制に我慢するだろう。経済が悪化し、我慢の限界になるレッドラインがどこかは見えない。戦争が長期化すれば、体制は侵食されるが、社会には耐久力がある」と語った。(中略)

レバダ・センターのレフ・グドコフ副所長は、「6月の調査でプーチン続投を望む人は68%だった。ロシア人は二重思考で、公の発言と内心は異なることがあるが、ロシアの安全を保証する守護者としてプーチンを支持する人も多い。戦争に反対しても、国家の危機に直面して体制に抵抗したくない意識も働く。しかし、軍事的に敗北すれば、プーチンの権威が揺らぎ、安定の保証者ではなくなる」とし、プーチン政権の存続は戦争の行方次第と述べていた。

グドコフ氏によれば、中堅官僚や地方幹部の中には早期終戦を望み、汚職・腐敗まみれの現体制一掃を望む人々が多く、将来的な体制転換の中核になり得るという。一方で、新生ロシア32年の歴史において、3分の2はチェチェン、ジョージア、ウクライナ、シリアで戦争をしており、戦争が常態となったことが国民の危機感を失わせていると指摘していた。(後略)【9月21日 Foresight】
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無風選挙にサプライズがあるとすれば、プーチン氏の健康問題かもしれない・・・・との指摘もありますが、影武者の存在が云々されるものの、「プーチンは元気で健康問題はない。影武者は安全対策以外に使う意味がない」(上記コレスニコフ研究員)とのことです。
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