孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルゼンチン  「ショック療法」を発動する自由主義者・ミレイ大統領 持続可能性には疑問も

2024-03-13 23:30:02 | ラテンアメリカ

(【23年12月29日 LATINA】)

【「ショック療法」省庁廃止・補助金削減などで財政収支は黒字に 一方で物価上昇率276%】
経済混迷が続く南米アルゼンチンはかつての富裕国から転落した唯一の国と言われている国。(日本がこれに続くのでは・・・とも言われていますが) そのアルゼンチンでは昨年11月に「政界のアウトサイダー」を自称する右派(極右とも)のハビエル・ミレイ氏(53)が大統領選挙で勝利し、12月10日に新たな大統領に就任しました。

ミレイ氏は自由主義を信奉する経済学者出身で、中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な主張も展開していました。また、選挙戦ではチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切ると叫ぶようなパフォーマンスも。

大統領就任後、さすがに中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な政策は手をつけていませんが、中央省庁削減やエネルギー・公共交通の補助金削減による財政健全化、通貨ペソの50%切り下げなど「ショック療法」を実施しています。

中央省庁削減については、18あった省庁を9つに削減、事務局も106から54に削減する劇的なも。
国民生活を支援するような役割の省庁は廃止して(ミレイ氏が“不要”と主張していたのはスポーツ観光省、交通省、労働省、保健省、公共事業省、女性省、教育省、国土開発省、社会福祉省、文化省、科学技術省、環境省 実際廃止したのがどれかは未確認です)。 残すのは財務相、外務省、警察省、防衛省、内務省、法務省など国家機能の根幹を担う省庁のみ。

廃止する省庁がカバーしている分野は民間に任せればよいとの考えのようです。国民生活・社会は自由な市場経済・活動に任せて、極力国家はそこへ関与しないという立場。

一応、その成果として、財政収支は2024年1月単月で黒字になったということです。
一方で、激しい物価上昇で市民生活は苦境に。

****アルゼンチンの物価上昇率276%に 33年ぶり高水準****
アルゼンチンの国家統計局が12日発表した2月の消費者物価指数は前年同月比で276.2%の上昇となった。1991年3月(287.3%)以来、約33年ぶりの大きな上昇率だった。

右派のミレイ大統領が物価抑制のための補助金を減らし、公共交通機関の料金やエネルギー価格が上昇した。同補助金は国民を物価高から守るためのものと位置づけられていた。

24年1月の上昇率(254.2%)を上回った。前月の水準を上回るのは7カ月連続で、200%を上回るのは3カ月連続となった。交通費や食品の上昇が目立つ。

2023年12月に発足したミレイ政権は歳出削減による財政健全化を優先課題としている。左派のフェルナンデス前政権時までは、エネルギーや公共交通機関など国民向けの補助金が多かった。補助金削減で、国民の目に見えやすい負担は増えている。

ブエノスアイレス都市圏では2月からバスの最低料金が従来の76.92ペソから270ペソに上がった。ガス料金は低所得者層の場合で、従来の月額886ペソから6158ペソとなった。いずれも今後も引き上げが予定されている。
政府は12日公表した声明で「インフレとの戦いを続ける。これは妥協することのできない約束だ」と言及した。

12日の外国為替市場で通貨ペソは対ドルの公式相場で1ドル=836ペソ、非公式は1000ペソ前後で取引された。ミレイ政権発足後、中銀は毎月2%の変動を許容する方針を示している。公式相場は緩やかなペソ安・ドル高が進んでおり、輸入物価上昇の一因となっている。(中略)

24年2月の1カ月間の消費者物価指数の上昇率は13.2%だった。23年12月(25.5%)、24年1月(20.6%)からは減速している。

経済学者出身のミレイ氏は右派の自由至上主義者(リバタリアン)だ。省庁を18から9に減らすなどして、「小さな政府」を志向している。

ミレイ政権は発足直後の2023年12月12日に通貨ペソの対ドル公式相場は1ドル=800ペソがメドになると発表した。発表前時点では360ペソ程度で推移しており、5割強の通貨切り下げを実施した形だった。

ブラジル金融大手イタウグループは24年12月のインフレ率を180%、為替相場を1ドル=1695ペソと予測する。24年の実質経済成長率はマイナス3%と、2年連続のマイナス成長とみている。【3月13日 日経】
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物価上昇に関しては、ミレイ政権は足元の1カ月間の消費者物価指数の上昇率が逓減していることから強気姿勢を崩していません。

【「企業や国に頼らずに、自分の力でお金を稼がないといけない」というバトルロイヤル・モード】
ミレイ氏は、「国民に魚を与えるのではなく、魚を釣る方法を教えるべきだ」と語っています。そのため、政府による規制や、補助金は、極力排除することで、無駄な支出を減らし、経済を活性化していく・・・そうすれば、まっとうに働く・努力する人々の生活は改善する・・・という考えでしょう。

確かに、左派前政権が行ったような補助金バラマキ政策は長期的には経済をゆがめ、非効率化させますので、ミレイ氏の主張には一理あります。

しかし問題も。問題のひとつは、そうした「ショック療法」に耐えられない国民も多くいること。問題の二つ目は、自由な市場経済だけではどうしても市場がうまく処理できない「ひずみ」(「市場の失敗」)が生じますが、その救済策・是正策を国家が放棄して、個人の失敗として放置するのかということでしょう。

“多くの人が、「企業や国に頼らずに、自分の力でお金を稼がないといけない」というバトルロイヤル・モードに入った状況なのかもしれません。
それにいち早く適応できる人は、何とかなるかもしれませんが、適応できない人は、貧困の淵で彷徨うことになるのではないでしょうか。”【2月23日 アセット&ライフ】

****公的支出カット、中央銀行廃止、米ドル法定通貨化?...アルゼンチン新大統領の公約、超インフレ経済はどうなる****
<極右のミレイ大統領就任から2カ月でインフレ率は250%を突破した一方、外貨準備は増加。国民の困窮はさらに悪化しているが...>

先日の夕方、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス郊外の公園で、28歳のミカエラ・マルダノは毛布を敷いて古着やマテ茶を入れる壺などを並べ始めた。食べ物と物々交換するためだ。食料品はどんどん手に入りにくくなっていると、彼女は話す。「肉なんてずっと口にしていない」

彼女だけではない。2023年は200%超のハイパーインフレで幕を閉じたこの国では今、物々交換などの手段で食料を確保しようとする人たちが大勢いる。長らく経済危機にあえいできたアルゼンチンだが、昨年12月に極右のハビエル・ミレイが大統領に就任してから貧しい人たちの生活は一層厳しくなった。

ミレイは大統領就任早々、通貨ペソを50%以上切り下げた。そのため既に制御不能だったインフレがさらに悪化。政府の公式データでは、ガソリンの価格は約2倍、食料品の価格も約50%跳ね上がった。

ミレイ就任から2カ月ほどで、インフレ率は前年同月比250%を突破し、ベネズエラを抜いて中南米トップを走っている。

選挙戦中にチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切るとわめいていたミレイは、約束どおり公共サービスの補助金を大幅カットしている。

「政界のアウトサイダー」として国民の期待を集めたこともあり、選挙戦中にはさらに過激な政策を掲げていた。中央銀行の廃止や米ドルを法定通貨にすることなどだ。しかし就任後にはさすがにこれらをゴリ押しせず、比較的穏当な政策を打ち出した。長年にわたり累積した財政赤字を予算削減と増税で減らすというものだ。ミレイはこれを「ショック療法」と呼んでいる。

ドルの外貨準備は増加
だが今のアルゼンチンの平均的な家計の「体力」では、このショックに耐えられそうにない。昨年の終わり頃には国民の購買力が毎月14%ずつ低下していく状況になった。

アルゼンチン・カトリック大学の調査チームによると、この国の貧困率は2022年末には43.1%で、ミレイが就任した昨年12月時点では49.5%だったが、今年1月には57%を超えたとみられる。

とはいえミレイの戦略はマクロ経済の指標を上向かせてもいる。ペソ切り下げで輸入品の価格が上昇したため輸入量が減り、貿易支出は低下。おかげでキャッシュ不足にあえぐ中銀は減る一方だったドルの外貨準備を多少増やせた。

政府は1月、一時的ながらも財政が黒字に転じたと発表。1月のインフレ率の前月比は20.6%と高率だったが、それでも昨年12月の25.5%に比べれば改善した。

一方で、緊縮財政は景気後退を一段と加速させると専門家は警告する。国際金融協会(IIF)の予測では、今年第1四半期のアルゼンチン経済の成長率はマイナス7.8%。IMFは年率でマイナス2.8%と予測している。

こうした状況でもミレイは世論調査で52%と高支持率を保っているが、国民がどこまで耐乏生活を受け入れるかは疑問だ。1月下旬には主要労働組合が緊縮財政に抗議してゼネストを決行。物価の高騰は治安の悪化を招き、各地で集団略奪が多発している。

物々交換で食べ物にありつくこともできなくなるかもしれないと、マルダノの不安は募る一方だ。【3月12日 Newsweek】
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【“財政再建の一環”の名目で行われる施策の中身は?】
緊縮策の中身にも問題が。
ミレイ大統領は3月1日の議会演説で、財政再建の一環として赤字決算の国営通信TELAMを閉鎖すると訴え、実際に政府は同通信の業務停止を決め、4日から事務所への立ち入りを禁止しました。

ただ、単に“財政再建の一環”というだけでなく、政府に批判的なメディアへの圧力の側面も。

****アルゼンチン国営通信が閉鎖、ミレイ大統領の批判演説受け****
アルゼンチンの国営通信TELAM(テラム)が4日、ミレイ大統領の演説に基づいて閉鎖され、ロイターが閲覧した内部メモによると職員らは少なくとも1週間の業務免除を言い渡された。 ウェブサイトは閉鎖され、警察が建物への立ち入りを阻止している。

ミレイ氏は一部の公共機関について、効率的ではなくコストが過大で腐敗しているなどと非難。テラムは左派野党のプロパガンダ機関と主張し、1日の議会演説で閉鎖を宣言した。

職員や野党議員らは、1945年に創設され約800人を雇用するテラムの閉鎖は報道に対する攻撃と強く非難。ブエノスアイレス報道労働組合はX(旧ツイッター)に声明を投稿し、「これは民主主義と表現の自由への打撃で、われわれは守っていく」と述べた。 

テラムが永久に閉鎖されるのか、再開されるのかは不明。【3月5日 ロイター】
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国民に緊縮を強いる一方で、自身らの給与はお手盛りで・・・

****「金がない」緊縮政策進めるアルゼン大統領、月給48%引き上げ****
「金がない」として政府予算緊縮政策を展開するアルゼンチンのミレイ大統領が自身をはじめとする政権高位公務員の月給を48%引き上げたという事実が明らかになり炎上している。

 アルゼンチンメディアが10日に伝えたところによると、ミレイ大統領は本人が先月署名した政権高位公務員月給大統領令により2月の月給として602万ペソ(約104万円)を受け取った。1月の月給406万ペソから48%引き上げたのだ。 

これと関連し、ミレイ大統領はクリスティーナ・フェルナンデス元大統領時代の2010年に署名された大統領令により自動で引き上げられたもので、自身は知らなかったと釈明した。彼はすぐにこの大統領令を廃止するとし、すべての誤りを元大統領のせいにした。 

しかしミレイ大統領が1月と2月に署名した大統領令が野党議員によってオンラインに公開され、彼が嘘をついたという事実が明らかになった。大統領の署名がなければ政権は高官の月給は引き上げられないためだ。 

官報に掲載された大統領令には彼の署名と一部閣僚の署名があった。この官報は突然政府のオンラインシステムで閲覧できなくなり、政府が故意に隠したのではないかとの疑惑まで提起された。(中略)

現政権を支持しキャスティングボートを握っている野党のミゲル・アンヘル・ピチェット下院議員までも「ミレイ大統領が自身の署名したものが何かわからなければ問題だ」と異例に強く非難した。(後略)【3月11日 中央日報】
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自分が署名していて「知らなかった」・・・ネットでは「大統領本人が署名した大統領令を記憶できていないのか、読まずに署名したのか」「われわれには金がないと言いながら自分の月給は一気に48%引き上げるのか」

【社会政策でも「保守的」な政策】
経済政策以外のでも「保守派」としての面を見せています。

****中絶は「殺人」 アルゼンチン大統領、高校生の前で明言****
アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は6日、高校生を前に、同国で合法とされている妊娠中絶について、「殺人」だとの認識を表明した。同国で中絶は合法とされている。

中絶反対派として知られるミレイ氏だが、公の場で中絶について発言するのは就任後初めて。
ミレイ氏は、国際女性デーを2日後に控え、母校である首都ブエノスアイレスのカトリック系高校で演説。「皆さんに警告する。妊娠中絶は殺人だ。数学的、哲学的、リベラル的な観点から証明できる」と語り、同国での中絶合法化を支持した人々を「人殺し」と呼んだ。

ミレイ氏は昨年12月に就任して以降、女性・ジェンダー・多様性省を廃止。最近では、差別解消の推進を担う国家機関を大統領府報道官いわく「全くの無駄」として閉鎖した。

政府はこうした動きについて、同国はインフレ率が前年同月比250%を超えるなど深刻な経済危機に見舞われており、歳出削減の一環だと説明している。 【3月7日 AFP】
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****性差のない表現、公文書での使用禁止に アルゼンチン大統領****
 アルゼンチンのミレイ大統領が、性差のない表現を全ての公文書並びに行政で使用することを禁止した。大統領の報道官が27日に明らかにした。右派のリバタリアンとして、自身の掲げる保守的な社会政策を引き続き実現しているとみられる。

即時発効したこの禁止措置は、「性差のない表現と、ジェンダー視点に関連する全てを国の行政全般で」禁ずる内容。マヌエル・アドルニス報道官が定例の記者会見で述べた。

アルゼンチンが公用語とするスペイン語は、多くの名詞が「o」で終わる男性名詞と「a」で終わる女性名詞に分かれる。スペイン語圏で性差のない表現を作り出す取り組みが行われる中、現在は語尾に「x」「e」「@」を用いた中立的な名詞を創出する動きが進む。たとえば中南米系の男性と女性を表す「Latino」「Latina」に対し、性的に中立な「Latinx」という表現を作るといった取り組みだ。

アドルニス報道官は、性差をなくすことを念頭に「e」「@」「x」を使用することは今後できなくなると説明。また「あらゆる行政文書の中で女性形の語の不必要な使用は避ける」べきだとも付け加えた。

その上で、性差のない表現が社会のあらゆる層に波及しているとの主張に反論。「全ての領域に波及している言語は我々が現在使用しているカスティリャ語、つまり標準スペイン語だ」と述べた。また「ジェンダー視点」は政治的な道具として利用されているとの見解も示した。

今回の発表に先駆け、アルゼンチンの軍隊では国防省の決議に従い、性差のない表現が禁止されていた。
アルゼンチンでは2021年、当時のフェルナンデス政権が男性でも女性でもない「ノンバイナリ―」の性別の身分証明書(DNI)を発行すると発表。新しい制度により、身分証明書やパスポートの性別欄に「X」の分類が導入されていた。

フェルナンデス氏は演説でも性差のない表現を使用していたが、昨年就任したミレイ氏は文化戦争にまつわる問題について保守的な政策を追求している。【2月28日 CNN】
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【抵抗する議会はスルーして政令と行政権限で政策遂行】
ミレイ氏の政策は議会の抵抗にあっていますが、ミレイ氏は議会を通さず自身の政策を推し進める方針です。

****ハビエル・ミレイ氏、アルゼンチン経済には議会は必要ないと語る****
アルゼンチンの自由主義者でdentハビエル・ミレイ大統領は、政令と行政権を用いて議会を通さずに緊縮策を実施する計画を立てている。

ミレイの経済戦略には大幅な歳出削減が含まれており、アルゼンチンは12年ぶりの財政黒字につながった。

懐疑的な見方にもかかわらず、同氏は自身の政策がインフレを大幅に抑制し、立法の支援なしで経済を安定させることを目指していると主張している。

自由主義大統領dent・ミレイは、伝統的な戦略を窓の外に投げ捨てた。 同氏は、自身の主要な経済改革計画を妨害してきた非友好的な議員らが設けた障害を回避する決意を固めた。 その代わりに、同氏は抜本的な緊縮策を実行するために、法令(政令)と行政権限という別の手段に手を伸ばしている。(後略)【3月1日 Cryptopolitan】
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“ミレイのアプローチにはリスクがないわけではない。 緊縮策はインフレ抑制には効果的だが、ストライキや抗議活動に見舞われている。 しかし、ミレイは社会不安が広がる可能性を否定し、潜在的な混乱は政治的操作や外国の干渉によるものだと考えている。”【同上】とも。

批判・混乱は自身の政策の問題ではなく、政治的な企て・外国の干渉によるもの・・・・という考えのようですが、それは独善的に過ぎるでしょう。
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