孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン 警察幹部に深刻な「少年遊び(バチャ・バジ)」 タリバンの「ハニートラップ」

2016-06-30 22:26:26 | アフガン・パキスタン

(「バチャ・バジよりも自爆攻撃を取り締まるほうが簡単だ」とも 【6月29日 AFP】)

北海道・道東を旅行中です。午前中、知床半島をクルーズ観光して野生のヒグマも遠くから目撃、午後からは原生花園も近い斜里に移動しました。

世界中に広く存在する「少年愛」】
個人的にはなかなか理解しがたいことではありますが、年長男性と少年のあいだの「少年愛」という文化・風習は、古代ギリシャ文化からカトリック教会やイスラム社会いたるまで、世界中・古今東西に存在するもののようです。

日本でも、大名と小姓の関係とか、江戸時代の「陰間」「衆道」と呼ばれた文化など、広範に存在しています。

「少年愛」には、単に性的嗜好の側面だけでなく、年長者が少年を「教育」するという側面もあって、戦士社会にあっては一般的にみられるようです。

また、戦いを前提としたとしていることや、宗教的理由によって、女性の存在が制限されている社会にあっては、「少年愛」がひろまるようでもあります。

そのあたりの解説は、【ウィキペディア】でも詳しくなされていますので、興味のあるかたはどうぞ。

アフガニスタンの「少年遊び(バチャ・バジ)」】
本来、同性愛が禁止されており、地域によっては死刑の対象となることも珍しくないイスラム社会ですが、イスラム社会のひとつであるアフガニスタンにも「少年愛」の風習が根深く存在しています。

アフガニスタンでの「少年遊び」を意味する「バチャ・バジ」については、2011年9月14日ブログ「アフガニスタン タリバン、米大使館・ISAF本部を攻撃 深刻な軍・警察、地域警備団の問題」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110914でも取り上げたことがあります。

そのときにも取り上げたイギリス制作のTV番組「悲しきダンシング・ボーイ」では、以下のように紹介されています。

****アフガニスタンの踊り子少年、一部が男性客の「愛人」に****
アフガニスタン北部には、少女のような容姿で男性客のために踊る10代の少年がいる。

少年による踊りは昔からの慣習だが、踊り子少年たちの一部は、部族軍の元・長など裕福で権力のある男性客により、売春行為を強要されている。

これらの少年は少女の格好をさせられた上、多くのプレゼントを与えられ、「愛人」として扱われている。

イスラム教の聖職者は、こうした行為はイスラム法で禁止されている「男色」だとして、関与した者に石投げの罰を科すよう主張。当地の警察も取り締まりを行っている。

ムジャヒディン(イスラム戦士)の元メンバーで、同国北部の町Pul-e-Khumriに住むビジネスマン(38)は、3年前に職を探していた15歳の少年を選んで、住む場所を与えたと語る。少年の写真を見せながら「少年を抱きしめることを非常に楽しんでいる。少年の香りは最高」と述べた。

男性はまた「私には妻がいないし、少年が妻のようなもの。少年には女性服を着せ、私の横に寝かせている。私は彼を楽しんでいるし、彼は私のすべて」としている。【07年11月19日 JST】
*****************************

米軍も黙認
いろんな側面があるにせよ、少年が性的対象として虐待されることにもなる「少年遊び バチャ・バジ」ですが、「人権」を重視するはずの米軍も、協力を必要とするアフガニスタン権力者の「バチャ・バジ」を黙認してきたようです。

****米軍、アフガン当局者の児童性的虐待を隠蔽か 国防総省が調査****
米軍がアフガニスタンの治安当局者らによる児童性的虐待を故意に見過ごしていたとする報道について、米国防総省が調査を開始したことが27日、明らかになった。
 
米紙ニューヨーク・タイムズは先月、アフガニスタンに駐留する米兵が、アフガン警察や司令官らによる10代の少年に対する性的虐待がたとえ基地内で起きたとしても見逃すよう、上官から命じられていたと報じていた。

この習慣は、現地語で「少年遊び」を意味する「バチャ・バジ」と呼ばれている。
 
米国防総省監察総監は米軍関係者に送付した通達で、アフガン政府関係者が児童に性的虐待を加えたとの疑惑が米軍や連合軍に報告された件数や、「公式・非公式にかかわらず、報告を思いとどまらせるような指示が国防総省関係者からあったかどうか」についての情報提供を呼び掛けている。
 
ニューヨーク・タイムズの報道は、複数の兵士や、2012年に死亡した海兵隊員の父親の証言に基づいている。同紙によると、少年をベッドに鎖でつないで性奴隷として監禁していたアフガン民兵指揮官を殴った元米特殊部隊の大尉が、指揮権を剥奪されアフガニスタンから引き揚げさせられた事例もあった。
 
アフガン内務省は、同国の法律によって禁止されているバチャ・バジの習慣を「極悪かつわいせつな行為」と呼んでおり、これに同省が対処していないとの主張を否定している。

アフガン政府はこれまでにも、非合法化されながらも地方部で古くから根強く残る児童性的虐待の習慣の取り締まりに取り組んでいた。【2015年10月28日 AFP】
********************

警察幹部に巣食う「バチャ・バジ」 これを利用する同性愛否定のタリバン
“アフガン政府はこれまでにも、非合法化されながらも地方部で古くから根強く残る児童性的虐待の習慣の取り締まりに取り組んでいた”とは言うものの、取り締まる立場の警察幹部が「バチャ・バジ」の愛好者ですから、「取り締まり」は有名無実と思われます。

警察幹部に「バチャ・バジ」が存在することを利用して、これまた同性愛を厳しく否定しているはずのイスラム原理主義タリバンが「バチャ・バジ」を利用して警察を攻撃するという「ねじれた現実」もあるようです。

****警官幹部らの危ない「少年遊び」、アフガニスタン****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは同国南部で、警察に内部から壊滅的な攻撃を仕掛けるために子どもの性奴隷を使っている。

現地語で「少年遊び」を意味する「バチャ・バジ」と呼ばれる慣習を利用して、性的対象となるような少年を警察に潜り込ませ攻撃させていると、複数の関係者や生存者がAFPに語った。
 
古くから続くこの慣習はアフガニスタン全土に存在するが、最も定着しているのは南部のウルズガン州だろう。同州ではひげのない少年たちが、大きな権力を持つ警察幹部らの性欲の対象になっている。
 
タリバンが警察内部に入り込む攻撃のためにこうした少年を使っているのはこの2年ほどだ。州当局によると今年1月から4月の間だけでも、そうした攻撃を少なくとも6回遂行し、何百人もの警官が殺害された。

「タリバンは美しくハンサムな少年たちを、検問所に潜入して警官を殺したり薬漬けにしたりするために送り込んでいる。彼らは警察の最大の弱みはバチャ・バジだと分かっている」と同州の元警察署長は言う。

彼は4月、治安の悪化を受けて異動させられた。また同州のある高官は「バチャ・バジよりも自爆攻撃を取り締まるほうが簡単だ」と語った。

■利用される少年たちの復讐心
タリバンは少年たちを色仕掛けの「ハニートラップ」として使っていると、元警官のマティウッラーさん(21)は言う。彼は昨年春に起きたスパイ攻撃の唯一の生存者だ。
 
彼によれば、攻撃を仕掛けたのは検問所の司令官の性奴隷だった10代のザビフラ。ある夜、ザビフラは銃を乱射し、一緒に寝ていた司令官を含む警官7人を殺害した。(中略)

タリバンはアフガニスタンを支配していた1996年から2001年にかけてバチャ・バジの慣習を禁止していた。そのため少年を使って攻撃を仕掛けることは絶対にないと主張しているが、政府や人権団体らは否定している。
 
マティウッラーさんをはじめ、こうした攻撃の生存者たちは、タリバンは警察内部におけるバチャ・バジの制度化を利用していると指摘する。
 
当局筋によれば、ウルズガン州にある警察の検問所370か所のほぼすべてにおいて、バチャ・バジが最大4人雇われている。

彼らは性奴隷としてだけでなく、兵力としても違法に採用されている。バチャ・バジを警官職の特典とみなして、そうした少年がいない検問所への異動を拒む警官もいるという。
 
多くが無償で使われている少年たちは検問所でのおぞましい虐待に耐えかね、警察への報復を夢見るようになり、タリバンの勧誘の格好の餌食にされる。警察の搾取から逃げるには、タリバンに協力するより他に選択肢がないことが多いからだ。

■撲滅できない権力者たちの慣習
保守的な地域では、公の場で女性を目にすることはほとんどない。また花婿が花嫁の家族に払う婚資の額が急騰しめ、男性にとっては結婚が難しくなっている。

そうした環境の中、バチャ・バジの少年たちは女性のような足取りで歩いたり、時に化粧をしたり足に鈴をつけたりして、女性に取って代わっている。
 
ウルズガン州の住民の多くは、バチャ・バジをイスラム教で禁じられている小児性愛や同性愛とみなしていない。もし社会規範に守るべき順番があるとすれば、女性を暴行するよりも少年を暴行するほうが道義的だと思われている。
 
英人権団体「子ども兵士の徴用廃止を目指す連合(Coalition to Stop the Use of Child Soldiers)」のチャル・ラタ・ホッグ代表は、バチャ・バジについて「軍閥や司令官、政治家など権力をもつ地位にある人物が行ってきたことなので、撲滅が難しい。女性との接触が限定されているという事実が、この慣習を維持させてきたという側面もある」と言う。
 
ウルズガン州では少年と遊ぶことが豊かさのしるしとして自慢されることも多い。携帯電話の待ち受け画面にしている「ハンサムな少年」の写真をAFPの記者に見せびらかす幹部も何人かいた。
 
近くの村の警官は「美しいバチャを見に来てくれよ」と言って、手元に置いて2年になるという10代の少年を自慢してきた。

アヘン畑に囲まれた検問所の隅に座り、客のために静かにお茶を注いでいた少年の目には少しアイシャドーが入り、帽子からは金髪に脱色した巻き毛がのぞいていた。

「警察署長たちは若い男子を求めて近所を徘徊している。わが子にきれいな服や新しい服を着せて目立ってしまうのが怖い」と、村人は語った。
 
バチャ・バジの慣習は、アフガニスタン軍の強化のために何十億ドルも費やしてきた米国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国を危うい立場に追い込んでいる。
 
ウルズガン州政府関連機関の代表は、首都カブールの検事総長から送られてきた書簡2通をAFPに示した。1通は昨年、もう1通は今年1月の日付で、それぞれ性的虐待と子どもの違法徴兵に関する捜査を命じるものだった。

しかし、その代表は「調査のために検問所を訪れることは、一つもできていない」と声をひそめて語った。「もし捜査を始めたら、警察幹部らが私たちを生かしておくと思うか?」
 
タリバンが子どもの性奴隷を用い、警察内部を攻撃しているというAFPの報道には、国際的に大きな反響があった。アフガニスタン大統領は28日、警官による慣行化された児童性的虐待について「徹底的な調査」を命じた。【6月29日 AFP】
********************

移民社会でもレイプの脅威にさらされる少年
少年が性的対象として危険にさらされるという現実は、移民社会にもあるようです。

****仏スラム街で暮らす移民の子ら、レイプや虐待の恐れ ユニセフ****
フランス北部沿岸のスラム街に滞在を余儀なくされている移民の子どもたちが、性的な虐待・搾取など「恒久的な危険」にさらされていると警告する報告書を国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)が先週発表し、未成年者の保護エリアを設置する必要性を訴えた。
 
16日に発表されたUNICEFの報告書は、両親のいない移民の子どもたち約500人が滞留している仏カレーからノルマンディーにかけての7か所で、今年1~4月に実施した調査に基づいてまとめられた。
 
報告書によれば「子どもたちはレイプを恐れて、日没後の外出を怖がっており」、「生活状況…路上で受ける暴力、越境する際のリスク、スラム街での金銭にまつわる人間関係、結果として起こる奴隷状態などによって恒久的な危険にさらされている」という。
 
中でも「バチャ・バジ」と呼ばれる慣習によって、成人男性が男の子を「性の道具」とすることが正当化されているアフガニスタン出身の少年たちが、レイプの危険にさらされている点を強調している。
 
また少女たちは性的虐待を受けるリスクの他、難民キャンプに入るためや英仏海峡を渡るための金銭を得るために売春に勧誘されるリスクにもさらされている。
 
報告書は「こうした子どもたちが置かれている状況は、『子どもの権利条約』に違反する証拠が相次いでみられる」と述べ、未成年者のための施設の欠如や、政府とボランティア関係者の調整不足を指摘し、スラム街の中に「特に保護者のいない子どもたちにとって安全な」保護エリアを設置すべきだと勧告している。【6月20日 AFP】
*******************

イスラム社会にしても、カトリック教会にしても、女性の存在を封印して宗教的戒律を強調しようとすればするほど、人間の本能的欲望はよりゆがんだ形で噴き出してくるといった感があります。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マナー違反 「兵馬俑」の中国人、「トドワラ」の日本人 新ルール?「横を向いていてください」

2016-06-29 22:28:32 | 身辺雑記・その他

(28日、法制晩報によると、陝西省にある秦始皇帝陵博物院の兵馬俑の柵内に女性が侵入したとネット上で騒動になったことで、博物院側が取材に応じた。【6月29日 Record china】)

中国人だけではないマナー違反
中国人観光客のマナーの悪さというか、日本の常識とことなる行動について辛辣な指摘が日本国内でよく見られます。
別に日本だけでなく、タイや台湾、欧州などにおいても同様の指摘がありますから、やはり中国の常識は世界の常識とやや異なるところがあるのでしょう。

また、中国人自身もそのあたりを感じるようで、来日した中国人が日本社会のルール順守や他人に迷惑をかけない配慮、ゴミが落ちていないきれいな街などに感動して、その“民度”の違いを痛感した・・・という類の記事が、毎日のように、と言うより、ほぼ毎日、それも複数見られます。

最近では、中国国内における自国民の行動がネットで話題になることもしばしばあります。

****また観光客のマナー違反!?兵馬俑の柵内に女性侵入で物議―中国****
2016年6月28日、法制晩報によると、陝西省にある秦始皇帝陵博物院の兵馬俑の柵内に女性が侵入したとネット上で騒動になったことで、博物院側が取材に応じた。

先日、あるネットユーザーが写真をアップロードし、「観光客の女性が秦始皇帝陵博物院を見学中、兵馬俑の坑の中にコップを落としてしまい、自分で柵を乗り越えて取りに行った」と書き込んだ。

これを見たネットユーザーの間では、「自分で坑の中に入って落し物を取りに行って良いものか」をテーマに激論が交わされ、女性を批判する声も少なくなかった。

しかし、博物院の担当者はこのほどメディアの取材に対して、「女性は観光客ではなく、博物院の職員です」と明かし、「観光客がうっかり落とした携帯電話やカメラを職員が取りに入ることはよくあることです。観光客が坑の中に入ることは安全面と展示物保護の観点から禁止しています」と語った。

ただ、ネット上ではこの説明に対して「うそだろう。職員なら通用口があるとか、最低でもはしごを使って登り降りするだろう。写真のようによじ登りはしない」「Tシャツにジーパン姿の職員?制服着ろよ」といった声が上がっており、管理の不備や職員の服装が指摘される事態となっている。【6月29日 Record china】
*********************

単に柵を乗り越えて・・・・というのではなく、高さ4mほどありそうな壁をよじ登って(あるいは降りて)います。
しかも、世界を代表する人類の遺産である「兵馬俑」です。(当然、中国においても厳格な保存措置が取られています)

もし、これが観光客だったら、その大胆さには仰天します。

「職員だ」との説明についても、「職員なら通用口があるとか、最低でもはしごを使って登り降りするだろう」との指摘はもっともです。

もし、足を滑らせて転げ落ち、貴重な俑を壊してしまったらどうするのかと心配にもなりますが、もともと壊れていたものを復元再生したものですから、壊れてももう1回復元するだけ・・・なのかも。

真相はともかく、こうしたマナー違反(と思われるような行動)が中国国内でも問題になるようになってきたというのは注目すべき点でしょう。

ただ、言うまでもないことですが、ルールを守らない人間、マナーに反する行為というのは、日本でも多々見かけることであり、最近の中国側の日本称賛記事にはやや気恥ずかしく感じるところもあります。

先週土曜日から北海道・道東を旅行していますが、昨日は野付半島の「トドワラ」を見にいきました。
「トドワラ」とは、砂嘴上の立ち枯れたトドマツ林の跡で、海水面上昇ないし地盤沈降に伴う地面の浸食により枯れたものとのことです。

最近は劣化崩壊が激しく、当然ながら観光用の木道以外に立ち入ることは禁止されている・・・・はずなのですが、大胆に木道から降りて、トドワラ近くに咲いていたハマナスの花の写真を撮影する男性が。70歳前後でしょうか。もちろん日本人です。

すぐに戻ってくるかと思いきや、全く戻る様子がありません。

木道に残っていた奥さんと思われる女性に、「ここに注意書きの看板があるように、降りない方がよろしいのでは・・・写真を撮る他の方の迷惑にもなりますし・・・」と声をかけてみたのですが、「ああ、降りちゃいけないのね」と言ったきりで反応がありません。

再度「ご主人ですか?戻るように声をかけられては?」と促したところ、「そちらで声をかけてみてください」とのこと。

現場にいたのは、その高齢夫婦と私と、もう一人の中年男性。

その中年男性がたまりかねて「写真を撮るのに邪魔になるので、戻ってもらえないですか」と、私も「入ってはいけないことになっていますので」と声をかけると、「天然記念物か・・・」とつぶやきながら、ようやく戻ってきました。

戻ってきたご主人に、ようやく奥さんが「そこに書いてあるじゃない」と小さな声で言っていましたが・・・・。
注意書きはそこだけではありませんし、木道から降りない・・・というのは“常識”の問題です。

なんだかんだで私と中年男性はトドワラの写真を撮影、中年男性は戻っていきました。
すると、さっきの高齢男性が「じゃ、もういいですかね」と、また木道を降りようとします。

私はびっくりして「いや、保護のために立ち入り禁止になっていますけど」と言うと、不承不承引き返していきました。

ルールを守る気が全くない男性にはあきれたのですが、ある意味、その男性以上に後味が悪かったのは、他人からご主人のマナー違反を注意されているのに、自分の夫に注意しようともしない奥さんの対応でした。

長い人生のななかで、夫に注意するというような経験が全くなかったのでしょうか?夫に言われるままの人生を送ってきたのでしょうか?単に大きな声をだすことが恥ずかしかったのでしょうか?

夫に注意することもできず見守るだけの妻、夫に従うだけの妻・・・・そんな昔の日本女性の悪い側面を見た思いがして、嫌な感じがしました。

写真撮影時のマナー
もっとも。常識・マナーは国よっても異なりますし、時代によっても変わってきます。
最近うるさく言われるようになったのがパラバシー・個人情報の保護。

私もそうした面には一応配慮しているつもりですが、写真に関しての配慮は随分欠けているようです。

よく旅行にでかけるアジアの国々では、風景より地元の人自体が興味深かったりしますので、特に声もかけずに街の人、働いている人にカメラを向けます。たまに、睨まれたもしますが。

あるいは、遺跡に群がっている観光客(日本人観光客も含めて)の写真もよく撮ります。
そんな写真を誰でも見られる旅行記にアップしています。

最近、他の方の旅行記などで、写っている人物の顔にすべてモザイクをかけている写真を見ると、自分の配慮のなさを思うと同時に、「そこまでする必要があるのだろうか・・・」という本音も。

不倫旅行などしていたときに勝手に写されてアップされたら、人生が変わってしまうといった話はあるでしょうが・・・。

今日、知床を観光していた際、知床自然センターの建物の外に置かれたベンチに腰かけて、タバコを吸ったり、手持ちのお菓子をバリバリかじったりしていました。

そこに30歳ぐらいの女性がやってきて、タブレットで撮る場所を変えながら建物の写真を何枚か撮り始めました。

やがて、その女性が「すみません」とわたしに声をかけてきました。
多分、自分の写真を撮って欲しいということだろうと思ったのですが・・・・。

「すみません。建物全体の写真を撮ろうとするそちらのお顔も写ってしまいますので、横を向いていていただければ・・・・」

「横って・・・・あっちを向いておけばいいのですか?・・・・じゃ、向こうに移動しましょう」と写真に入らないベンチへ移動しました。女性は「いや、いてもらっていいのですが」とは言っていましたが。

勝手に顔を公開いしないという配慮は素晴らしいのでしょうが、自分が写真を撮りたいので「横を向いていてほしい」というのは・・・・どんなものでしょうか?

それとも単に私の見苦しい顔が写りこむのが嫌だったのでしょうか?
あるいは、個人的な撮影ではなく、業務的な何かに使う写真だったのでしょうか?

先ほどのトドワラに入り込んだ夫婦の写真もあって、後ろ向きで顔もわからないのでこのブログで使おうかとも思っていたのですが、服装・恰好などで特定されるじゃないか・・・と叱られるかもしれないのでやめました。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  かつて“中国民主化の一里塚”とも期待された烏坎村で拡大する新たな混乱

2016-06-28 22:58:58 | 中国

(拘束された村長は冤罪(えんざい)だと書いた横断幕を掲げ、抗議デモをする村民ら=21日、広東省烏坎村、延与光貞撮影 【6月27日 朝日】)

【“中国民主化の一里塚”とはならなかった現代版「百姓一揆」】
2012年に中国広東省・烏坎(ウーカン)村で起きた「現代版“百姓一揆”」の成功は、中国民主化の第1歩となるかも・・・ということで世界の注目を集めました。

******************
「暴動」以前の烏坎村一帯では、長らく不動産開発を狙う企業と地元の村政府が組んで農民から農地の使用権(耕作権および居住権)を安く買い取り、それを転売して巨額の利益を上げるという手法が横行してきた。

怒った農民らは一昨年の2011年9月、数千人で村政府の建物や警察の派出所を包囲、一部は破壊行為に及んだ。

同年12月、再び大規模な衝突が発生、この時、警察に拘束されたリーダーの1人が署内で死亡したことから村民は激昂、村の周囲にバリケードを作って立て籠もり、当局側は逆に村を封鎖して「兵糧攻め」にするという事態にエスカレートした。

一触即発、全面衝突の危惧が高まったところで、突如として広東省政府高官が地元テレビに出演、同村の民衆の訴えに理解を示し、破壊行為に対しても逮捕や処罰しないことを約束した。

前後して市の幹部が村を訪れ、政府の手法に不当なところがあったことを認めて謝罪する一方、過去の土地収容を見直し、交渉に応じる考えを伝えた。

2012年2月には村の幹部を選ぶ選挙(中国では村レベルでは以前から条件付きながら選挙が行われている)が実施され、抗議活動のリーダーが村政のトップに就任、12月の「暴動」で警察に捕まった5人の村民のうちの1人が村の選挙管理委員会の委員に選出された。

さらに警察署内で不審死した男性の娘が高得票で村民代表(村議会議員のようなもの)に選出されるという結果になった。

かくしてこの現代版「百姓一揆」は、政府側の「完敗」で決着、農民との間で土地返還交渉に乗り出すことになった。【2013年03月04日 田中 信彦氏 WISDOM】
*******************

しかし、烏坎村での村民主体の運動、土地返還要求が壁にぶつかっていることは、2014年3月24日「中国 “中国民主化の一里塚”烏坎村の挫折 民主化に不可欠な「民」の自覚」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140324でも取り上げました。その内容は以下のようなものでした。

抗議運動の中心人物で先の選挙で村民委員会副主任(副村長)に選ばれた2人が2014年3月中旬、相次いで当局に拘束されたこと

新たな村指導部は農民が「奪われた」土地の返還もしくは相応の金銭的な補償を求めて交渉を始めたのですが、これがまったく埒があかないこと

事件の民主的な解決を主導したとされている当時の広東省トップの汪洋氏が政治的情勢もあって、関与を控えるように変化していること

村民のなかからも、「民主化」によって開発がストップしたことで、開発で新たに入るはずだった資金や地価上昇の期待、経済成長のチャンスが潰れてしまったことへの不満・批判が出ていること

そもそもが「民主化への第1歩」というようなものではなく、村民も最初は納得して始めた開発なのに、もっとカネが入りそうになってごね始めたにすぎない・・・といった指摘もあることなど

そんなこんなで、2014年3月24日ブログの時点で「挫折」という言葉を使いました。

陳情直前の村長を汚職容疑で拘束 住民は反発して抗議行動
ただ、烏坎村の取り組みはその後も続いていたようです。
続いてはいたのですが、当局側の明確な“抑制”に直面しているようです。

****中国・直接選挙で選ばれた村長、拘束される 陳情の直前*****
5年前、住民の抗議運動で腐敗した共産党幹部を追放し、直接選挙を実現した中国広東省東部の烏坎(ウーカン)村で18日、上級政府に未解決の問題を訴えようとした住民運動のリーダーで村長の林祖恋氏(70)が拘束され、住民が反発している。

村は農村部の民主化の先進例として国内外で注目を集めてきたため、当局が運動の広がりを抑え込もうとしたとの見方が出ている。
 
住民らは、5年前の抗議のきっかけになった土地問題をめぐり、勝手に業者に売り渡された村有地がいまだに返されないことから、陸豊市政府への陳情を計画。19日に村民大会で決議し、21日に陳情に行く予定だった。

5年前から運動を主導し、直接選挙で村長に選ばれた林氏が中心になっていた。林氏は村の党支部書記でもある。
 
ところが、市の公安局は村民大会を翌日に控えた18日早朝、林氏が汚職の容疑で拘束され捜査を受けていると発表。住民側に「一部の不法分子に利用され、過激な行動をとらないように」と警告した。【6月19日 朝日】
**********************

陳情直前にリーダーが拘束されたことに、住民たちは抗議活動を行っています。

****共産党幹部を追放した中国の村 村長拘束に抗議のデモ****
土地問題を解決するため住民が上級政府に陳情しようとした直前、住民側リーダーの村長が拘束された中国広東省の烏坎(ウーカン)村で19日、当局に抗議する集会が開かれた。村民1千人以上が参加し、「リーダーを帰せ」とデモ行進した。
 
烏坎村は5年前に腐敗した共産党幹部を住民らが追放し、直接選挙を実現した村として知られるが、きっかけとなった村有地が村民側にまだ返ってこないことから、19日に村民大会を開き、21日に上級政府に陳情しようとしていた。

その直前の18日に、公安当局が村長で村の党支部書記でもある林祖恋氏(70)を汚職容疑で拘束。「腐敗した政府が住民運動をつぶそうとした」と怒りが広がった。
 
村民らは19日、ドラの音を合図に広場に集まり、国旗を手に「林書記は無罪」「土地を返せ」などとシュプレヒコールを上げた。その後、反政府活動ではないことを示すため「共産党万歳」と叫びながら村内をデモ行進した。途中、警戒する多数の警官の前を通ったが、警官側は静観したままで衝突は起きなかった。
 
集会に参加した主婦(28)は「これだけ時間がかかっても、土地は返ってこない。それなのに腐敗官僚が捕まらず、なぜ私たちのリーダーが捕まえられるのか」と批判した。【6月19日 朝日】
****************

“現地からの情報によると、治安当局は外国人記者が村に入ることを阻止するために周辺道路を閉鎖し、村は“陸の孤島”になりつつあるという”【6月20日 産経】とも。

当局側は林祖恋氏が汚職を認めたと発表していますが、村民側の反発を招いているようです。

****汚職を認めた」発表に住民反発 中国、村長拘束巡り****
中国広東省の烏坎(ウーカン)村で、土地問題をめぐり住民側と地元政府が対立している問題で、地元政府は21日、住民らが上級政府に陳情する直前に拘束されたリーダーの林祖恋村長(70)が取り調べで汚職容疑を認めたと発表した。だが、住民側は「ありえない」と反発。この日も数千人がデモをして村長の解放を求めた。
 
中国メディアによると、林氏は「法律知識が浅く、巨額のリベートを受け取ってしまった」などと容疑を認める供述をしているという。この日、本人がそう語る映像も公開された。
 
村長宅の近所の男性(32)は「毎日の昼ご飯も自分で買って食べる人が、汚職なんてするはずがない。平和的に解決するといいながら、多くの警察を村に送り込むのは矛盾している」と地元政府の姿勢に不信感を示している。【6月22日 朝日】
*********************

弾圧姿勢を強める習近平政権にあっては、あまり期待もできないような・・・・
当局側も今のところは騒ぎを大きくしたくないと慎重姿勢のようですが、基本的に、習近平政権は国内の民主化運動につながるような動きに対して、従来政権以上に強硬な弾圧姿勢をとっていますので、烏坎村の今後もあまり明るい展開は期待できません。

****中国「民主化」の村、深まる混乱 村長拘束に抗議/弁護士へ圧力****
・・・・当局側は村民の不満をかわそうと手を打つが、かえって裏目に出ている。20日には市政府が「林氏が罪を認めた」と発表し、翌日には自供映像まで公表。

一方で問題解決に向けた専門チームを村に派遣し、「土地問題は法に基づいて解決する」と約束した。住民側の怒りを鎮めようとしたとみられる。
 
だがその後、司法当局が林氏の弁護人らを妨害していたことが発覚。弁護士らによると、林氏の家族が弁護士事務所に振り込んだ依頼費用を返させたり、面会に向かった弁護士の知人や家族にまで圧力をかけて阻止したりしていた。
 
面会を阻止された弁護士はネット上で「いつもテレビや新聞で宣伝している依法治国(法に基づく統治)はどこにいったのか」と無念さをにじませた。

中国メディアはこうした事情を報じないが、村民らはSNSで香港メディアを見ており、当局への不信を募らせている。ある村民は「政府のやっていることは、黒社会(やくざ)と同じだ」と憤った。
 
土地問題が解決できないのは、中国の農村部特有の事情もありそうだ。市政府の説明では、一定の土地は村側に返されているが、隣接する村との境界がはっきりしない部分があり、烏坎村の主張に従えば別の村から不満が出る。
 
しかも、土地が村民に無断で売り払われていたのは烏坎村だけではない。近くの竜頭村の村民らも「事情はうちも同じ」と口をそろえる。「烏坎村の抗議が成功したら、土地を囲い込む」と話す人もおり、処理を誤れば抗議の波は周囲に広がりかねない。
 
当局は村内に多数の警官を配置しながら、デモ自体は許容している。デモが厳しく規制されている中国では異例のことだ。「騒ぎが大きくなれば党人事に影響しかねないため、当局も慎重になっている」(地元紙記者)との見方もある。
 
広東省トップの党委書記は、来年の党大会で次期最高指導部入りが注目される胡春華氏(53)。デモを鎮圧しようとして騒ぎになれば、その評価に影響を与えかねないというわけだ。
村民らは省や中央の政府に解決を求めている。ある村民は「書記が解放され、土地が村民の手に戻るまで戦い続ける」と話した。【6月27日 朝日】

*******************
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イギリス EU離脱の結果への若者たちの怒り ただ、政治への不参加という問題も

2016-06-27 23:23:14 | 欧州情勢

(欧州連合(EU)離脱派の指導者ボリス・ジョンソン前ロンドン市長の車が自宅を離れる際、取り囲む市民やマスコミ関係者たち=ロンドンで24日、AP【6月25日 毎日】)

北海道・道東を旅行中です。
今日は、厚岸からあやめケ原、琵琶瀬湿原、霧多布岬などをまわり、標津で宿泊です。

昨日と打って変わって気持ちがいい晴天、気分も軽くなります。
旅行前の鹿児島もぐずついた日ばかりでしたので。

北海道も同様のようで、みなが「やっと晴れたね」と喜んでいました。やはり2週間ほど雨ばかりだったようで、TVのニュースでは、北海道各地で6月の降水量が記録的な量になったとも報じていました。

昨日、こんな天気だったら釧路湿原の雄大な夕日が見られたのですが・・・。もっとも、これもTVでやっていましたが、釧路できれいな夕日が見られたのは16日ぶりだとか。

大変な時期に来てしまったようですが、今週はお天気の方も大きく崩れることはさそうな予報ですので、「大変な時期」を運よくかすめて避けることができたと言うべきでしょうか。

【「高齢者がEU離脱を決めた」「若者の将来を考えたことがあるのか」】
イギリスのEU離脱を決めた国民投票は「余震」が国内外で続いています。
今回投票については、世代間、所得階層で意見が分かれていることは、事前の世論調査でも指摘されていました。

****<英国民投票>経済か移民問題か 世代や所得階層で意見割れ****
英国で23日に実施される欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票は、英国民を二分する接戦となる公算が大きい。

世論調査では、経済を最重要視する残留派に対し、離脱派は移民問題や国の独立性を重視し、世代や所得階層別でも明確に意見が分かれている。1割程度と見られる態度未定者をどちらが取り込めるかが結果を左右しそうだ。

 ◇世代間の差鮮明
世論調査会社「YouGov」が17〜19日に実施した最新調査によると、「残留に投票する」と答えた回答者のうち、「経済を重視する」とした有権者が57%に達したのに対し、離脱の回答者では8%にとどまった。一方、離脱派の37%が「移民問題」を重視するとしたの対し、残留派はわずか2%だった。
 
年代別では18〜24歳で「残留」が64%に達したが、世代が上がるにつれて離脱派が盛り返し、65歳以上では「離脱」が58%に達した。(中略)

 ◇高所得者はEU支持
社会階層別では、経営者や事務職、専門職といった「中・上流層」で残留が53%、離脱が38%なのに対し、低賃金職や無職といった「労働者層」は離脱支持が52%、残留支持が29%と結果が逆転する。【6月22日 毎日】
************************

EUの一員として貿易や移動の自由を確保する方が、英国は強くなる。移民は重要な労働力で、経済を前進させてくれる存在・・・・というのが若者層の考えですが、高齢者は移民増加によって「古き良き時代」が失われた、かつてのようにイギリスの主権を取り戻すべき・・・という考えが多いようです。

離脱を決めた結果に怒りが収まらないのが、残留を希望していた若者です。

****<英EU離脱>残留望んだ若者、怒りのデモ行進****
国民投票を23日に行って欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国。一夜明けた24日のロンドン中心部を歩くと、20代の若者たちがデモ行進をするなど、怒りの声を上げていた。

「一日でこの国は大きく変わってしまった。高齢者がEU離脱を決めた」。残留を望んでいた多くの若者は将来を憂え、やり場のない思いを抱えている。
 
「ノー・ボリス! ノー・ボリス!」。ロンドンの国会議事堂付近では、約30人の若者がEU離脱に反対するデモを行った。離脱派のリーダー、ボリス・ジョンソン氏の顔写真に×印をつけたプラカードもある。
 
「離脱に投票した人は高齢者が多いと聞くが、若者の将来を考えたことがあるのか」。大学生のアリス・パーカーさん(23)は憤る。

離脱で移民の入国は制限されるが、英国民もEU内を自由に移動する権利が妨げられる。「この小さな島国では若者の活動や将来を保証してこそ、活力が上がる。昨日と今日は違う日だ。離脱に何らかの歯止めをかけたい」
 
洋服販売員のルイザ・マジャロフさん(22)にとっても、投票結果は「怒りしか覚えなかった」。メディアが離脱と残留で二分されたため、国民の意見も分裂したと感じる。「一度EUを離脱したらしばらくは戻れないし、国が孤立する。まだ(人生の)先は長いのにどうなってしまうのか」とため息をついた。(後略)【6月25日 毎日】
*******************

こうした若者の怒りを背景に、投票のやり直しを求める署名も320万人を超えたようです。
ロンドン独立要求といった“やけくそ”的な反応も。

****英国民は早くも大混乱…ついには“ロンドン独立論” トランプ氏にも余波直撃****
英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利したことが波紋を広げている。残留派が多数を占めたロンドンでは、英国からの独立を求める動きが加速し、投票のやり直しを求める署名も320万人を超えた。英国民は早くも不安に襲われている。
 
国民投票で投票者の6割が残留に投じたロンドンでは、離脱反対デモも行われた。さらにインターネット上では首都ロンドンの独立を求める署名活動が展開され、25日夜までに約15万の署名が集まった。署名ではロンドンのカーン市長に独立を宣言させて、ロンドンのEU加盟を求めている。
 
カーン氏は残留派の一員として活動し、投票結果が明らかになった後もEUの単一市場から離れるべきではないとの立場を示し、「私は今もEUに残留したほうがいいと信じている」と声明を出している。
 
英下院の請願サイトに殺到している投票のやり直しを求める署名は26日午後までに320万人を超えた。請願は投票前から出され、投票率が75%未満で、多数だった方の得票率が60%未満だった場合、やり直しを求めるとの内容。実際の投票率は約72%、離脱支持は約52%だった。
 
いずれも実現可能性はほとんどないが、僅差の結果だったことで、EU残留派の反発が強まっている。(後略)【6月27日 夕刊フジ】
**********************

【「一人一人が等しい1票」・・・・とは言うものの
若者の怒りはもっともです。
将来のことなど念頭になく、過ぎ去った昔を懐かしむ高齢者の意向に引きずれて、自分たちの将来が危うくなるのは納得できないでしょう。

EUを離脱したところで、過ぎ去った「古き良き時代」は戻ってきません。

私自身も高齢者の域に近づきつつありますが、遠い先のことなどどうでもいい・・・と言うか、あまり真剣に考える気にならないところがあります。年金支給さえ維持されれば・・・。

「一人一人が等しい1票を投じて政治を決めるのは素晴らしいことだ」というのは正論であり、反論の余地はないところですが、今回のように遠い将来を拘束するような投票に関し、老い先短い(失礼)高齢者と、この先何十年も働かなければならない若者の1票が同じ価値でいいのか?・・・・という疑問は感じます。

政治を冷笑して、関わろうとしないことの結果でもある
もっとも、その貴重な1票を若者たちがきちんと行使したのか?という問題もあります。
残留派にとって、支持基盤の若者層の投票率が低いことがネックと指摘され続けてきました。

投票もせずに、決まったあとで怒っても、愚かなだけです。

****英EU離脱に憤る若者たち: でも実は若年層は投票しなかった世代****
<英EU離脱の結果に、75%は残留層を投じたという若年層は怒りをあらわにしている。しかし、若年層が投票の鍵を握ると言われていたが、今回も若者の投票率は低かった...>

若年層は怒りを露わにしていてる

ワーキングクラスの怒りがまさかの英国EU離脱を生んだ。栗原康さんの著書「村に火をつけ、白痴になれ」が日本で大評判だそうだが、英国の労働者たちはEU村に火をつけてしまったのである。

が、75%は残留層を投じたという若年層は怒りを露わにしていて、6月24日もBBC2の「ニュース・ナイト」という番組を見ていると、若いライターでEU残留派のパリス・リーズが、初老の歴史学者で離脱派のデヴィッド・スターキーに向かって憎悪をむきだしにしていた。

「はっきり言ってお年寄りの世代は、私たちのように長く生きない。若い世代はもう飽き飽きしているんですよ。私たちの世代は授業料を払わなければいけません。あなたたちは払う必要なかったですよね。私たちはすべてを取り上げられている」

ツイッターにはこんなつぶやきも投稿されていた。
「無料の教育や潤沢な年金、社会流動性、そのすべてを与えられていた世代。その彼らが私たちの世代から未来を取り上げてしまった」

また、チャンネル4の名物ニュースキャスターだったジョン・スノウが、「今朝、パン屋で高校生2人が僕に泣きながら『離脱に投票した年寄りたちは自分たちに何ということをしてくれたんだ』と言った」とつぶやき、「17歳やそこらの『エキスパート』に何がわかるの」「心から共感する」「私の父は80代ですが残留に入れました。高齢者が全員バカでわがままじゃないですよ」など、多くのツイートが殺到して大騒ぎになった。

責任は私たち、若年層自身にある
こうした若者たちの怒りを記事にしているのがガーディアンの若手コラムニスト、リアナン・ルーシー・コスレットだ。が、彼女は、今回の大きな失望から若年層が学まねばならないことがあったと結論する。

遅すぎたとは言え、私の世代が学んだ教訓がある。政治を冷笑して、関わろうとせず、自分たちのために何もしてくれないシステムに参加しても意味がないと感じているとどうなるかということだ。
 
私たちの多くは投票に行かないし、有権者登録さえしない。そうすると政治家は私たちのことなど考えもせず政策を作る。(中略)落ち込むことには、あれだけ若年層が投票の鍵を握ると言われてたのに、今回も若者の投票率は低かったと予測されていることだ。まだ数字は正式に発表されていないが、このことについては、責任は私たち自身にある。(出典:Guardian:"If you're young and angry about the EU referendum, you're right to be" by Rhiannon Lucy Cosslett)

BBCが発表した投票結果の各種分析チャートのページでも、18歳から24歳までの人口が多い地域では投票率が低かったことが指摘されている。

昨年、ジェレミー・コービンが若者たちを熱狂させて労働党党首に選ばれ、若者たちが再び政治的になったと言われていたが、それはロンドンなど大都市の大学生や大卒の若者たち中心の動きで、全国的に見れば今回のような重要な投票でさえ行ってない若者たちがけっこういたということになる。

有権者登録締め切り前の6月初めの時点で、18歳から24歳の層の30%が有権者登録していないことが明らかになっていたが、65歳以上で登録していないのはわずか5%だった。オーウェン・ジョーンズはこう書いている。

英国の約半数である残留に投じた人々は、怖れや怒りを他の市民にぶつけたくなるだろう。だが、それはことを悪化させるだけだ。

離脱派の多くは、すでにのけ者にされ、無視され、嫌われてきたと感じている。現在ソーシャルメディアに現れているような離脱派の人々への侮蔑、いや、上から目線のスノッブな言葉を彼らのコミュニティーが感じたからこそ、今回の結果がある。(中略)もし英国の左派に未来があるとすれば、それはワーキングクラスの人々の生活やコミュニティーとの文化的・政治的な乖離を直視しなければならない。(出典:Guardian: "Grieve now if you must - but prepare for the great challenges ahead" by Owen Jones)

中高年の労働者層の多くは離脱票を投じた
そして若年の労働者層の多くが投票に行かず、そのことが残留派の敗北の理由の一つだったとすれば、英国の左派は全年齢層でワーキングクラスとの親和性が薄いものになったのかもしれない。

 
オーウェン・ジョーンズは「Chavs」という著書で、英国の労働者階級が「チャヴ」という言葉でシステマティックに悪魔化され、侮蔑と差別の対象となってきた事実を「ソーシャル・レイシズム」と呼んで批判していた。

EU離脱投票で爆発した労働者階級の怒りを左派やリベラルは「醜い」と一蹴して嘆くが、その醜さを生み出した背景には「Chavs」で描かれた英国の社会状況が横たわっている。【6月27日 ブレイディみかこ氏 Newsweek】
***********************

旅行先・北海道の地元紙によれば、現地の大学1年生(ほとんどが18歳及び19歳)を対象に、今回参議院選挙に関して調査を行ったところ、「投票に行く」が17%、「行かない」が40%、「わからない」が43%。

「投票に行かない」者の理由としては、62%が住民票を親元に残しており、生活地で投票ができないというものだったそうです。

住民票については、親元の役所から郵送で関係書類を取り寄せて、生活地で不在者投票もできるようですが、面倒ですし、ほとんどがそうした制度を知らないということのようです。

ただ、「面倒」とか「知らない」とか言っていても、投票の結果を何十年にもわたって負わなければならないのは自分たちです。

扇動のための無責任な言動も
それにしても、離脱を煽った指導者にも無責任な言動があります。

****<英EU離脱>公約「うそ」認める幹部 「投票後悔」の声****
 ◇直後の訂正、国民の怒りは爆発
欧州連合(EU)離脱を決めた英国の国民投票を巡り、離脱派の主要人物が訴えてきた公約の「うそ」を認め、国民から強い批判が出ている。

ツイッターでは「離脱への投票を後悔している」という書き込みがあふれ、英政府に2度目の国民投票を求める署名は350万人を突破した。
 
「離脱派のキャンペーンで起きた間違いの一つだ」。離脱派を引っ張ってきた一人、英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首が24日のテレビ番組であっさりと間違いを認めたのは、英国がEU加盟国として支払っている拠出金の額だ。
 
投票前、離脱派は拠出金が週3億5000万ポンド(約480億円)に達すると主張していた。与党・保守党のボリス・ジョンソン前ロンドン市長らが全国を遊説したバスの側面にも、巨額の拠出金を「国民医療サービス(NHS)の財源にしよう」と書かれていた。
 
一方で残留派は、EUから英国に分配される補助金などを差し引くと、拠出金は「週1億数千万ポンドだ」と反論。ファラージ氏は番組で残留派の主張が正しいことを事実上、認めた。
 
また、離脱派はEU加盟国からの移民制限を主張していたが、離脱派のダニエル・ハナン欧州議会議員は24日のテレビ番組で、「移民がゼロになるわけではなく、少しだけ管理できるようになる」と、「下方修正」した。

離脱した英国が今後、EUと貿易協定を結ぶためには「人の移動の自由」が条件になる可能性があり、こうした交渉を見据えた発言とみられる。
 
だが、国民投票で離脱が決まった直後の訂正だけに、国民の怒りは爆発。ツイッターでも「うそを信じてしまった」と離脱に投票したことを後悔する書き込みが増加した。

離脱派が主張していた「BREXIT(ブレグジット)」(英国<BRITAIN>と離脱<EXIT>の造語)に絡め、REGRET(後悔)とEXITを組み合わせた「REGREXIT」(リグレジット)や、BRITAINとREGRETを足した「BREGRET」(ブリグレット)という造語も生まれ、ツイッターなどで使われている。
 
再投票を求める請願の署名は23日の投票前から始まり、26日夜時点で350万人を超えた。「残留または離脱の得票率が60%未満」で、「投票率が75%未満」だった場合、2度目の投票を実施するという内容だ。投票結果はこうした条件に合致するが、請願が認められる前に国民投票は終了しており、さかのぼって適用するのは難しいとみられる。
 
ただ、英下院で議論する対象になるかを決める要件の署名数の10万人を大きく上回っている。近く下院の委員会が議題として取り上げるかを協議する。【6月27日 毎日】
*****************

上記のような「ウソ」については、投票前から指摘されていたものでもあり、そうした「ウソ」を信じたたとしたら、信じた方にも問題がありそうです。
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラク  ファルージャ完全制圧で表面化する難民問題とスンニ派住民への対応 IS後のイラクは?

2016-06-26 22:55:29 | 中東情勢

【6月26日 AFP】

ファルージャ完全制圧も、緊急を要する難民対策
北海道・道東旅行中のため、気になった記事をリストアップするだけで。

イラク政府軍がシーア派民兵・イランの支援を受けて「イスラム国」(IS)から奪還作戦を行っていたファルージャは激しい市街戦の結果、政府軍が「完全制圧」するに至ったと報じられています。

****ファルージャを完全制圧=安定統治が課題―イラク****
イラクの対テロ部隊の報道官は26日、過激派組織「イスラム国」(IS)を中部ファルージャから撃退し、完全に制圧したと述べた。首都バグダッドに近いファルージャは2003年のイラク戦争以降、過激派の活動拠点となってきた。政府が今後、安定的に統治できるかがイラクの情勢改善に向けた大きな課題となる。
 
同部隊やイスラム教シーア派民兵などで構成される治安部隊は5月下旬にファルージャ奪還作戦を開始し、今月17日には行政庁舎がある中心部を奪還した。その後もISが一部地区で抵抗を続けていたが、イラクのメディアによると、同報道官は26日、「ファルージャでの戦いは終わった」と宣言した。【6月26日 時事】
*****************

ファルージャの戦闘に伴う難民の新たな発生、名ばかりの「難民キャンプ」に水も食糧も不足する状態に投げ出された難民の境遇などについては、6月22日ブログ「増え続ける難民・避難民 その数は6530万人 “世界人口のうち、113人に1人”に」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160622で取り上げたばかりですが、緊急の支援を必要とする状況にあります。

****ファルージャから避難したイラク人、到着したキャンプもまた地獄****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)の圧政や食料不足に苦しむイラク中部ファルージャから、数千の家族が安全を求めて避難民キャンプへと避難した。だがそこでも、食べる物や寝る場所はなかった。

「避難したことを後悔していない。あそこに残っていたら今ごろ死んでいただろう。ここではなんとか生きている。だが、ここも地獄だ」とアイユーブ・ユセフさんは言う。
 
ユセフさんは妻と子供2人と共に、ISに対する政府の軍事作戦から逃れてきた​​。
 
この1か月、ファルージャの住民6万人以上が自宅からの退避を強いられ、先週には同市中心部から脱出しようとする市民が急増。この動きに、援助団体対応できていない。
 
ユセフさんの家族は、避難しようとしたキャンプからすでに満員だと何度も拒否された後、ハバニヤ湖沿岸に建設中のキャンプに行きついた。テントはまだ与えられておらず、家族と共に4夜、外で寝ている。

■「トイレがない」
 若い女性が激怒した。
「私たちはダーイシュ(Daesh、ISのアラビア語名の略称)の圧制を受けながら暮らさなければならなかった。そして今、また不当な扱いを受けている」と、彼女は名前を明かさず語った。

「ここに来て5日目だが、食べ物は何もないし、ボトル1本の水もない。このキャンプは、イラクの他の場所と全く同じだ。コネがなければ何も手に入らない」と不満を吐露。「ここには女性用のトイレがない。砂漠に行くしかない」。顔を覆うベールのニカブのスリットから見える彼女の目は怒りに燃えていた。
 
ハバニヤ湖沿岸のハルディヤにある、急速に拡大している別のキャンプには、非政府組織(NGO)「Preemptive Love Coalition」が基本的な食料品を届けた。最近避難してきたファルージャ住民の多くにとっては、初めて配布された食料だった。

「ファルージャでの最後の数日は、道に生えている草を食べていた」と、8人目の子供を妊娠しているハムデ・ベディさん(40)は明かした。
 
治安部隊は同市北部でISの戦闘員との戦いを続けているが、政府が今直面している最大の危機は人道的な危機だ。
 
最近避難した家族の多くに、男性の姿はない。ISのメンバーが避難する市民に紛れ込んでいる可能性があるため、男性たちは数日間、治安部隊に拘留され検査されるからだ。
 
ハムデさんの夫ヤセルさんは、4日間の拘留の末に釈放された。
「避難する途中、ダーイシュが仕掛けた路上爆弾が爆発して吹き飛ばされた家族を目の前で見た。食べ物も金もないが、今、ここにいる。あと少したら子供が生まれる」と彼は語った。【6月23日 AFP】
********************

懸念されるシーア派民兵によるスンニ派住民への暴力
上記記事にもあるように、ISメンバーが避難民に紛れて脱出することを防ぐため、避難民男性は拘束されて取り調べが行われています。

シーア派民兵が加担して行われるスンニ派住民の取り調べにおいて拷問や間違いなど、多くの問題が発生することは容易に想像できます。

****イラク軍、ファルージャ避難民2万人取り調べ 拷問の報告も****
イラク軍は25日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」からの奪回作戦を実施中のファルージャからIS戦闘員が一般市民に紛れ込んで逃亡することを防ぐため、約2万人の取り調べを進めていると明らかにした。
 
イラク軍のファルージャ奪還作戦の開始以来、数万人が首都バグダッドの西50キロにあるファルージャから避難していた。取り調べの際に治安部隊から殴られたり拷問を受けたりしたと主張する人々もいるという。
 
イラク統合作戦軍によると、拘束された約2万人のうち11605人は釈放されたが、2185人は証人の証言やその他の情報からなんらかの容疑をかけられており、現在は残る約7000人の取り調べが行われているという。
 
避難した一般市民が政府軍側にたどり着くと、10代の少年と成人男性は隔離され取り調べを受ける。数時間で釈放される場合もあるが、徹底的な尋問が行われることもあるという。
 
ファルージャからの避難民が滞在する収容所では今月中旬、行方不明になっている大勢の男性について尋ねようと、行方不明者の親族がイラク政府当局者に詰め寄った。
 
イランが支援するイスラム教シーア派戦闘員で構成され、ファルージャ奪還作戦に参加している民兵部隊「国民動員部隊」に拘束された男性は、4日間の拘束中に水も食べ物も与えられなかったと証言している。他の男性たちも、殴られたり、拷問を受けたりしたと話している。
 
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は今月、「イラク治安部隊が一般市民に対して繰り返している暴力の責任を明らかにするよう」イラク政府に呼びかけた。
 
HRWによると、ファルージャの北東にある町シジルの戦闘から逃げようとした少なくとも17人が警察や政府側部隊に処刑されたという確かな情報があるという。

また、ファルージャの北西にある町サクラウィヤでは、一般市民が刺殺されたり、車に引きずられて死亡したりした事例も報告されているという。
 
イラク首相府は先に、ハイダル・アバディ首相が虐待をした者は必ず訴追するという「厳しい命令」を出したと発表していた。

ISは2014年6月、バグダッドの北と西の広大な地域を制圧したが、その後イラク治安部隊が多くの地域を奪還。現在もISが支配下に置いている主要都市は1つだけになっている。【6月26日 AFP】
********************

アバディ首相は「虐待をした者は必ず訴追する」とのことですが、実態はそうはなっていないように見えます。

****イラク情勢(ファルージャ等)****
・・・・シーア派民兵の乱暴狼藉については、アンバール警察はそのメンバー1名がその行為について、許可なく一方的に話したとして、拘留することを命じた。

警察では、彼の発言は個人的なもので、警察としてのものではないとしている由。

他方そのシーア派民兵の司令官は、シーア派民兵がファルージャ解放戦に加わることをだれも止める権利はなく、民兵としてはイラクでのすべての戦闘に加わる、と語った由。(後略)【6月26日 野口雅昭氏 中東の窓】
*******************

シーア派民兵のなかにはスンニ派住民はIS協力者だとの根深い疑念があります。

*******************
・・・・シーア派教徒は、ファルージャの住民が同じスンニ派であるISへの協力者と見なしがちだ。民兵軍団の司令官の1人は「この町に愛国者は1人もいない。ガンを根絶する好機」と発言している。このため米国はイラク側に対し、住民の虐待をしないことを条件に空爆支援を行うと通告した。・・・・【5月31日 WEDGE】
*******************

イラクにおけるシーア派の最高指導者でもシスタニ師は、極めてまっとうな発言をしているのですが・・・・

****シスタニ師の発言(イラクの正気と知性*****
イラクでは、ファルージャ等でのシーア派民兵によるスンニ派住民の虐殺が伝えられる等、宗派対立の醜いugly様相が拡大しているようにも思われますが、al arabiya net はシーア派の指導者シスタニ師が、イラク国民はシーア派もスンイ派もキリスト教徒もなく、昔からの同胞だとして、難民を助けるように呼びかけたと報じています。

イラクの正気を代表する発言でしょうが、同師がこのような発言をしなければならないほど、イラクの宗派主義は進行しているのかもしれません。

シスタニ師は、イラク国民に対して、モースル、ラマディ、ファルージャその他からの避難民に避難所、食料、資金を与えて援助するように呼びかけて、彼らがシーア派かスンイ派かそれ以外の宗派か質問などしてはいけないと諭した。

同師は、シーア派であれ、スンイ派であれ、キリスト教徒であれ、我々はイラクの住民で、数千年の間共に暮らしてきたのだと強調した。

彼はまた、ISが侵攻してきて、多くの都市を支配し、人々を殺し、腐敗した生活をしているときには、彼らと戦い、生地を守るのは聖なる義務であるが、それはイラクを守ることであって、同胞であるスンニ派と戦うことではないと諭した。

現在、我らがラマディやその他の地域で神聖な血を流して戦っているのは、侵入者のISを駆逐するためであって、征服するためではないとした。

さらに同師は、過去10年間の間、大規模なテロがあり、シーア派の聖地や多くの信者が殺されたりしたときでも、一度でもいいから、私の口から「相手はスンニ派であり、彼らを許すな」などという言葉を聞いたことはないはずだとも指摘した由。【6月14日 野口雅昭氏 中東の窓】
******************

IS後に表面化する更に困難な問題
アバディ首相やシスタニ師の呼びかけと、戦闘現場における現実は別物のようです。
こうした現実をみると、IS後のイラクはシーア派、スンニ派、クルドで3分割するしかないのでは・・・とも思えてしまいます。

もちろん、それはそれで新たな内戦と流血を招く危険があります。

ファルージャに続いてモスルも奪還・・・ということになると、IS掃討作戦より更に困難な「今後のイラクをどうするのか?」という問題に直面することになります。
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イギリスEU離脱  「共同体」としての意識がなければ離脱・弱体化もやむなし

2016-06-25 23:34:45 | 欧州情勢

【6月25日 WEDGE】

今日から1週間ほど北海道・道東を旅行するということで、先ほど鹿児島から釧路に到着しました。
久しぶりの国内旅行と言うか、1週間程度の国内旅行となると、40年以上前にやはり道東を旅行して以来です。
当時はまだユースホステルが健在で、往復はがきで申し込んで、シーツを持参して旅行した記憶があります。

釧路の気温は、雨が日中降っていたということもあって、11℃。
北海道がまだ寒いというのは情報としては知ってはいましたが・・・・。
鹿児島なら2月、3月の真冬の気温です。島国日本も結構広いことを実感します。

プーチン大統領「英政府は考えが甘く、思慮が足りなかった」】
国際ニュース関連では、なんといってもイギリスのEU離脱について、山ほどの記事があふれています。
残留派の敗因分析、世代間の違い、キャメロン首相辞任、スコットランド独立運動への影響、国外極右の反EU活動の加速、EUを襲うドミノ倒しの危険、各国の反応、世界経済への影響、日本の株価・為替の動揺等々。

一言で言えば、キャメロン首相が賭けに負けた・・・といったところですが、キャメロン首相はスコットランド独立の住民投票でも危ない橋を渡っています。

スコットランドの件では、事前には「独立なんてありえない」というのがキャメロン首相を含めた一般的な見方で、時間を稼ぎたい独立派よりも、楽勝のつもりのキャメロン首相の方が「住民投票?上等じゃないか。早いとこやって白黒つけようじゃないか」と、住民投票実施に積極的でした。

しかし、いざやってみると、思っていなかったような独立気運の高まりに、キャメロン首相や主要政党幹部も大慌てで説得に走り回るところとなりました。

最終的には、独立に伴うリスクを回避して現状維持を選択する動き(「常識のばね」とも言うべきものでしょうか)が働いて、なんとか独立要求をしのぐ形になりました。

そのとき、キャメロン首相も住民投票・国民投票の怖さは身に染みたところでしょうが、すでにEU離脱に関する国民投票は自身の公約として政治スケジュールとなっていましたので、突き進むしかありませんでした。

楽勝と思われていたスコットランド独立でもあれほどきわどいものになったのですから、国民の反EU感情が強く、リスクも「独立」ほどは大きくないEU離脱問題は更に厳しい投票となりました。

今回も最後はリスクを回避する「常識のばね」でなんとか・・・とも最終盤では見られていましたが、今回は「常識のばね」は結果を覆すほどには大きくなかったようです。

イギリスの将来を危うい「賭け」にゆだねたキャメロン首相の失策を指摘する声があります。

****国民投票、危険性浮き彫りに=甘かった首相の読み―英****
英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票は予期せぬEU離脱という結果になり、経済悪化の懸念から、欧州のみならず世界的な危機を招く深刻な事態となった。政治手法として国民投票や住民投票(レファレンダム)を使うことへの危険性が改めて浮き彫りになっている。
 
英紙サンデー・タイムズは、今回の国民投票をめぐって「キャメロン首相の七つのミス」を挙げ、その第1の過ちとして「そもそも最初から実施を公約すべきではなかった」と指摘した。

英国にレファレンダム実施要件を規定した法律はなく、その都度政権が法律をつくって行う。従って、今回のように政権が望まない結果が出かねない投票をこれほど大きなリスクを冒してわざわざやる必要はない。
 
それでも首相が今回の国民投票を2013年に公約した理由として、(1)与党・保守党内の反EU勢力をなだめる(2)EU離脱を唱える英独立党(UKIP)へ保守党支持層が流れるのを防ぐ(3)EUに英国に有利な改革を迫る材料になる―など、首相にとっての政治的利益が挙げられる。
 
だが、経済面での残留メリットを理詰めで説明すれば容易に勝てると見込んだ首相の読みは甘かった。

マックシェーン元欧州担当相は「ロンドンのビジネスエリートは英国を代表しない。庶民は頭(理屈)でなく腹(感情)で判断する」と語り、国民投票の結果は一筋縄では予測できない危険性を早くから警告していた。
 
首相は14年のスコットランドの独立を問う住民投票も、独立は簡単に阻止できると高をくくって実施、あわや首相自身が望まない独立が実現しかねない危機的状況に陥った。今回はその二の舞いだ。

英国でのレファレンダム実施に今後の政権は一層慎重になるだろう。【6月24日 時事】 
****************

そもそも「民意を問う」ことより、政権・指導部の意向が重視されるロシア・中国も同様の見方です。

EUを弱体化させるイギリスのEU離脱を一番喜んでいるのは、ロシア・プーチン大統領ダ・・・とも言われていますが、経済的にはロシアもEU経済混乱の影響を受ける立場にあります。

そうした政治的・経済的損得以前の認識として、国家の方針を国民にゆだねるなんてありえない・・・というのがプーチン大統領や中国指導部の正直な感想でしょう。

****英政府の考え甘かった」国民投票でプーチン大統領が批判****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は24日、英国で行われた欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票について、英政府の「考えが甘く、思慮が足りなかった」と批判する一方で、英国のEU離脱に向けてロシア政府が水面下で動いたとの見方を否定した。

ロシアの国営放送で放送された発言の中でプーチン大統領は、今回の国民投票について「一国、そして欧州全体にとっての重大な決定に決着を付けるやり方としては、英国首脳部の考えが甘く、思慮が足りなかった」と述べた。
 
EU加盟諸国の関係にくさびを打ち込もうとしていると非難されてきたプーチン大統領にとって、英国のEU離脱は「思うつぼ」だとする見方も多い。
 
しかしプーチン大統領は同日、英国をEUから離脱させるためにロシア政府が英国の国民投票に働き掛けたとの見方を一蹴。「当然、情勢はしっかり見守っていたが、わが国がその過程に影響を及ぼしたことはなく、影響を及ぼそうと試みたことさえない」と述べた。
 
プーチン大統領はさらに、ロシア政府としては英国のEU離脱のロシア経済への影響を最小限に抑える努力をすると明言した。ロシア経済は原油安と通貨ルーブルの下落によって既に打撃を受けている。
 
一方、ロシアのドミトリー・メドベージェフ首相は、英国のEU離脱が各国市場に及ぼす影響によって「世界経済、ひいてはロシア経済にもさらなるリスク」が生じていると警鐘を鳴らした。【6月25日 AFP】
********************

****華社「大ばくちに失敗」=英国民投票****
欧州連合(EU)離脱を決めた英国民投票の結果について、中国国営新華社通信は24日の評論記事で「キャメロン首相の大ばくちの失敗」と酷評した。国民投票自体についても「西側が誇りにする民主的形式が、まったく民族主義や極右主義などの影響に抗し切れないことを検証した」と批判的に伝えている。
 
別の記事では、専門家の話として「英国の積極的な対中姿勢がEUに与えた影響は小さくない」として、中国に対するマイナス面を指摘。

一方で「英国、EU双方が自らの利益の必要性から、さらに中国との関係発展を重視するようになり、協力の新たなチャンスが生まれる」との見方も紹介した。【6月24日 時事】
*******************

国家主権を超えた共同体としてのEU
欧州各国も国民投票要求が連鎖的にひろまり、結果としてドミノ倒しのようにEUが崩壊の危機に立たされることを強く懸念しています。

すでにフランスの極右「国民戦線」やイタリアの新興勢力「五つ星」などは、EU離脱を問う国民投票実施を求めています。

国民投票にゆだねるとイギリスと同様の結果になりかねないと心配するのはわかりますが、ただ、考えてみると(「考えるまでもなく」と言うべきでしょうか)「国民に問うと反対されそうなので、民意を問うことはしない」という考えは「西側が誇りにする民主的形式」からすると本末転倒の考えです。

そもそも、どうしてEUはそんなに国民投票もできないほどに各国国民の支持が低いのか?という根本的問題があります。

EU成立の思想的背景としては「不戦の誓い」があったはずです。
欧州の歴史は各国間の対立・戦争の歴史であり、その行きついたところが2度の大戦でした。

そうした経験を踏まえて、国家間の対立を止揚した共同体を構築しようという思想があったはずです。

そうした立場で言えば、国家の主権が共同体によって制約を受けるのは「当然」のこと、そのための共同体であるという話にもなります。

また、国家内で所得移転・再分配が行われるように、共同体内部である国は負担が大きく、ある国は利益が大きいということも当然のこととなります。それによって共同体全体の利益がはかられ、共同体全体の平和と長期的発展が保証されることになります。

しかし、そうした共同体の理念が支持されず、EUを単に会費を払ってなにがしかの利益を受けるクラブととらえると、国家主権が制約されることは許しがたいことであり、会費に見合った利益がないことへの不満が高まります。

そうした意味で、仏独を中心とした「不戦の誓い」とは距離をおき、ユーロやシェンゲン協定のような共同体の根幹に背を向けてきたイギリスが「EUは制約ばかり多くて、メリットがない」と判断したのも当然のことでしょう。

イギリスだけでなく、他の欧州各国においてもEUへの関心はイギリスと大同小異であり、そうしたことから「国民投票を行えばイギリスと同じような結果になりかねない」との不安にもなります。

まあ、そのように共同体のとしての意識が育っていない、これからも深まらないということであれば、「統合深化」などはあきらめて、緩やかな関税同盟レベルに戻すしかない・・・とも思われます。個人的には残念なことだとは思いますが。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  オバマ大統領の改革 移民制度改正は“頓挫” 銃規制は未だ進まず

2016-06-24 22:58:59 | アメリカ

【6月23日 AFP】

移民制度改革に関する下級審の差し止め判断を最高裁は覆さず
オバマ大統領は共和党の反対で移民制度改革をめぐる法案審議が進まないことにいら立ちを募らせ、2014年11月に、アメリカ国籍や合法的な滞在資格がある子供を持つ両親の強制送還を免除する政策(DAPA)を柱とする移民政策を打ち出しましたが、共和党知事の州など26州が大統領権限を逸脱しているなどとして差し止めを求めて提訴する状況にありました。

****強制送還しないで」声上げる不法移民 490万人が対象、オバマ氏の移民政策転換・・・・6月に最高裁判断****
米国内に1100万人いるとされる不法移民やその家族が本国への強制送還の免除を求める声を上げている。

オバマ大統領は2014年に約490万人の不法移民が対象となる強制送還免除政策を発表したが、不法移民への厳しい対応を求める共和党が反発。その後の司法判断で差し止められた状態が続いているからだ。

連邦最高裁は6月にオバマ氏の政策の是非を判断する。不法移民への対応は米大統領選の争点になっており、論戦は今後、熱を帯びてきそうだ。
 
「私の母は家族のために3つの仕事を掛け持ちして夜通し働いている。オバマ大統領の政策で私たち家族の未来は明るくなる」
 
ワシントン市の最高裁前で18日に開かれた集会で、メリーランド州の高校生ヨハレ・エンドーサさんは涙ぐみながら不法移民の母親の強制送還免除を訴えた。
 
オバマ氏が14年11月に打ち出した移民政策は、米国籍や合法的な滞在資格がある子供を持つ両親の強制送還を免除する政策(DAPA)が柱だ。(中略)
 
米国では、不法移民の子供でも米国内で生まれていれば米国籍が与えられている。DAPAはこうした子供をもつ不法移民に滞在を認め、合法的な就労を促すことが狙いだ。安い賃金で働く不法移民が合法的に働けるようになれば、生活水準の向上につながると期待されている。
 
しかし、テキサス州の連邦地裁は昨年2月、DAPAが大統領の権限を逸脱しているとする26州の主張を踏まえ、DAPAの差し止めを命令。

26州は不法移民への強硬姿勢をとる共和党が知事を確保している州がほとんどだ。判決は高裁でも支持されており、上告を受けた最高裁は4月18日に双方の意見を聞き、6月中に判断を下すとみられる。
 
不法移民への対応は司法の場だけでなく、大統領選に向けた選挙戦でも論争になっている。

民主党での候補者指名が有力なヒラリー・クリントン前国務長官は不法移民の市民権獲得に道を開くと主張。2月の政治広告では、不法移民の両親が強制送還されるかもしれないと不安を訴える少女を抱き寄せ、涙ぐみながら「あなたが心配せずに済むためにあらゆる方法をとる」と語りかけた。
 
しかし、共和党の候補者選びでトップを走るドナルド・トランプ氏は「移民は歓迎するが、合法的に入国せねばならない」として、不法移民の強制送還を徹底させる方針を打ち出す。不法移民は治安の悪化や、米国民との仕事の奪い合いをもたらしているとの見方は根強く、不法移民への反感は収まっていない。【3月20日 産経】
*******************

アメリカでは重要な政策決定が司法の場に持ち込まれ、最高裁判断で決着することがしばしばあります。
“最高裁の近年の判決では、医療保険制度改革(オバマケア)の合法性や同性婚を認めるなどリベラル派の流れに傾斜している。”【3月17日 毎日】とも。

従って、アメリカ大統領の最重要任務のひとつが、任期中に自派の主張に近い最高裁判事を任命することだとされています。

おりしも今年2月、最高裁判事の一人が死亡したことで、後任をどうするかが極めて政治的重要課題となり、リベラルな施策にも理解があると言われる判事指名を発表したオバマ大統領と、これに反発する議会多数派の共和党の綱引き状態となりました。

****オバマ氏、最高裁判事を指名 共和党、審理しない方針****
オバマ米大統領は16日に会見し、空席の米連邦最高裁判事にメリック・ガーランド連邦控訴裁判事(63)を指名すると発表した。

就任には上院の承認が必要だが、多数を占める共和党のマコネル院内総務は同日「国民の声を反映させるべきだ」と、次の大統領が就任するまでは審理をしない方針を改めて表明した。秋の大統領選に向けて、争点の一つとなるのは確実だ。
 
ガーランド氏は米司法省でテロ事件の捜査などを手がけた後、1997年にクリントン元大統領から指名されてワシントン地区の控訴裁判事に就任した。2013年から同控訴裁の長官も務めている。

オバマ氏は会見で「両党の幹部が敬意を示してきた」と語った。中道の立場を取ることが多く、法曹関係者の評価も高いベテラン判事の指名で、共和党に揺さぶりをかける狙いもあるとみられる。
 
最高裁は9人の判事で構成され、重要訴訟が5対4で決まることも多い。保守派判事が2月に急死したことで空席が生じており、リベラルな判事が就けば将来にわたって影響が大きい。【3月17日 朝日】
*******************

オバマ大統領の移民政策の差し止め訴訟については、連邦地裁は15年2月、この訴えを認めて大統領令の執行差し止めを命じています。連邦高裁もこの判決を維持したため、オバマ政権は最高裁に上告していました。

最高裁は本来9人構成ですが、上記のような大統領と共和党の対立で後任は空席のままになっています。
現在の8人の判事はリベラル派4人、保守派4人ということで、最高裁で判事の判断が同数となった場合は、下級審の判断が維持されることから、移民政策についても最高裁判断が4対4で割れ、結局、連邦高裁の差し止め判断が維持されることになるのでは・・・ということが3月当時から言われていました。

そうした事態を防ぐため、オバマ政権側が何らかの対策をとるのか・・・とも注目されていましたが、結局、その後も特段の動きはなく、3月当時に予想されたような事態となっています。

今後については、次期大統領選挙の結果に持ち越される形にもなっています。

****オバマ氏の移民制度改革が頓挫 最高裁、判断示さず 無効の高裁判決維持****
米連邦最高裁判所は23日、オバマ大統領が2014年11月に打ち出した不法移民の強制送還免除を進める政策の有効性について、8人の判事の判断が4対4で分かれたと公表した。最高裁として判断は下さず、政策を無効とした連邦高裁の判断が維持された。

有効とされれば、米国内に約1100万人いるとされる不法移民のうち約490万人に合法滞在が認められる可能性があったが、オバマ氏の改革が頓挫した形だ。
 
最高裁では2月のスカリア判事の急死で欠員1人が生じている。最高裁は賛否が同数だったため、判断の詳細を公表していない。
 
オバマ氏は14年11月、米国籍を持つ子供がいるといった条件を満たした不法移民の強制送還を免除する政策「DAPA」を発表。同時に、15歳以下で入国した不法移民の強制送還を免除する12年発表の政策「DACA」についても、入国時期に関する条件を緩和するなどとしていた。
 
しかしテキサス州など26州は同年12月、DAPAなどが大統領の権限を逸脱している−などとして提訴。オバマ氏の改革は差し止め状態が続いていた。
 
不法移民をめぐっては11月の大統領選に向け、共和党の候補者指名を確実にした不動産王のドナルド・トランプ氏が強硬な立場を強調。一方、民主党での候補者指名を確定させたヒラリー・クリントン前国務長官は寛容な姿勢を打ち出しており、本選に向けて争点となりそうだ。【6月24日 産経】
*******************

これを受けオバマ大統領は記者会見し、最高裁の審理の結果を「数百万人の移民の心を引き裂くものだ」と批判。その上で、移民制度改革を立法を通じて進めるよう改めて共和党に呼び掛けています。

民主党のクリントン氏は「判決は受け入れられない」としたうえで、当選すればオバマ氏の改革を維持し、拡大すると表明していますので、オバマ大統領としても現段階では無理をせず、次期“クリントン大統領”に移民制度改革を委ねたというところでしょうか。あるいは、ヒスパニック系の怒りを大統領選挙に集約しようという狙いでしょうか。あるいは、単にどうすることもできなかったのか。

銃規制に向けた動きはあるものの、なお与野党の溝はうまらず 議会での座り込みも
オバマ大統領がこだわっている政策のもう一つが銃規制です。
繰り返される乱射事件のたびに銃規制の必要性を訴えてきていますが、これも共和党の反対が強く実現していません。

銃乱射事件が起きると、人々は銃を求めて銃砲店に走る・・・というのが、アメリカの現実です。
フロリダ州オーランドの乱射事件後、近くの銃砲店では売り上げは2〜3倍に増えたとのことです。

****乱射テロ後に銃の販売急増、危機感持ち護身用に****
米史上最悪の銃乱射テロが起きた米南部フロリダ州で、銃の販売が急増している。
危機感を持った多くの住民が護身用に購入しているためで、銃規制の難しさを浮き彫りにしている。
 
乱射事件を起こしたオマル・マティーン容疑者(29)は、拳銃や半自動小銃を合法的に購入していた。

オバマ大統領は銃規制の強化を改めて訴えているが、銃規制の緩いフロリダ州では規制強化に慎重な市民が多い。主要道路には銃砲店の看板が立ち並び、射撃場は射撃の練習をする家族連れなどでごった返す。
 
オーランド郊外の銃砲店を訪れたニコエイ・シュレイさん(32)は事件後、妻と7か月の娘を守るため、初めて銃を購入することを決めた。「誰でも買える仕組みは良くないが、周りは皆、銃を持っているのが現実だ」と話す。【6月19日 読売】
*******************

ただ今回はさすがに、殺傷力が高い銃をFBIがマークしているような人物が購入できるというのはいかがなものか・・・という世論の高まりがあり、共和党サイドにもあって、銃規制に向けた動きも報じられていました。

****<米乱射1週間>銃規制、世論高まる 共和党は妥協点探る****
フロリダ州オーランドで起きた乱射テロ事件で、オマル・マティーン容疑者(29)は殺傷力の高い銃を合法的に購入していた。

事件後、米国では銃規制の世論が高まっており、上院は20日、民主、共和両党がそれぞれ提案した規制法案を採決する見通し。ただ、実現にはまだ時間がかかりそうだ。
 
当初、犯行に使われたのは半自動小銃「AR15」と報じられたが、ワシントン・ポスト紙などによると、米軍特殊部隊向け銃を民間仕様にした「MCX」だった。
 
今回の事件後に実施されたロイター通信の世論調査(13〜16日)では、71%が緩やかな銃規制に賛成した。2014年の調査では60%だった。
 
米政府の調査では、昨年、銃を買おうとしたテロの監視対象者のうち、9割を超える223人が購入を認められていた。このため、民主、共和両党の銃規制法案の柱もテロリストの疑いがある人物への銃販売の制限だ。
 
民主党案は、銃や爆発物の販売を全面的に禁止。一方、共和党案は、捜査機関が3日以内にテロリストだと証明できた場合に限定する。共和党は長年、規制に反対してきたが、妥協点を探る動きが出ているといえる。【6月19日 毎日】
******************

しかし、今回も共和党側との溝は埋められず、銃規制法案の採決は見送られています。

****銃規制法案、米上院で採決に進まず 乱射事件後も両党対立****
米上院は20日、フロリダ州オーランドのナイトクラブで起きた銃乱射事件を受けて民主・共和両党が提出した4つの銃規制強化法案について、採決に必要な動議を否決した。

法案は、テロリストの疑いがある人物への銃販売を制限することが柱で、民主党案は連邦政府が監視リストに載っている人物への銃販売を禁止するなどの内容。これに対して共和党案は、販売禁止には3日以内に裁判所の承認が必要とするなどとした。

共和党と同党を支援する全米ライフル協会(NRA)は、民主党案による規制は行き過ぎで、憲法が保障する銃保有の権利が侵害されると主張。民主党側は、共和党提出の2案では効力が弱すぎるとし、NRAに隷属していると批判した。

上院内にはなお、今週中に妥協案をまとめようとする動きもあるが、実現は不透明な状況だ。【6月21日 ロイター】
******************

これに反発した民主党議員が議場に座り込むという異例の事態ともなりました。

****議会を占拠せよ!」 米民主党議員、銃規制の採決求め座り込み****
米議会下院で22日、民主党議員が銃規制法案の採決を求めて座り込みを行った。議員による議場内での座り込みはまれ。

議長が休会を宣言しようとした直前、数十人の民主党議員が議長席前になだれ込み、床のカーペットに座り込んだ。著名な公民権活動家で、1960年代にマーティン・ルーサー・キング牧師が率いる行進に参加した経験も持つジョン・ルイス議員は「行動を起こすまでわれわれは下院を占拠する」と語った。
 
フロリダ州オーランドの同性愛者向けナイトクラブで起きた銃乱射事件を受けて、米上院では20日、銃犯罪の減少を目的とした4法案の採決が行われたが、全て否決された。両院とも共和党が多数派を握っている。
 
座り込みは米政治専門ケーブルテレビCSPANの生中継に起きた。【6月23日 AFP】
*******************

結局“座り込み”は議会休会によって終了しましたが、議論はまだ続くとも報じられています。

****銃規制めぐり怒りのサボタージュ、米議会下院の法案否決で民主党議員座り込み****
・・・・民主党議員は、共和党のポール・ライアン下院議長が議事を進行しようとすると、「No bill, no break! (法案を審議しなければ、座り込みは終わらない!)」と声を上げ、銃乱射事件で犠牲となった人たちの名前が書かれた紙をライアンに見せて抗議した。また公民権運動でよく歌われた「We Shall Overcome(勝利を我らに)」を歌う一幕もあった。

座り込みは約26時間に渡って続いたが、23日早朝になって下院が休会となったため終了した。米議会では先週、上院でもコネティカット州選出のクリス・マーフィー議員(民主党)が2012年に同州のサンディフック小学校で発生した銃乱射事件に関連して15時間質問を続ける「議事妨害」を行っている。

銃販売の際の経歴チェックを強化することなどを盛り込んだ民主党提案の規制強化法案は、上下院ともに否決されている。

しかし下院では、新たに超党派議員によって、テロリストの疑いのある人物への銃販売を禁止する別の法案を提出する動きもある。

フロリダの事件を受けて、銃規制の強化が必要だという意見は共和党主流派の議員からも出ていることから、米議会での議論は今後も続くものと見られる。【6月24日 Newsweek】
*******************

ここまで移民政策の改正や銃規制の推進を支持する立場で、それらの動きが“頓挫”したり、“迷走”したりしていることを書いてきましたが、反対している共和党は民意を受けて議会に多数派として存在していますので、改革や規制が進まないのは民主主義の結果でもあり、とやかく言う方が民意を無視しているのかも。

今日示されたイギリスのEU離脱も。日本にあっては、改憲の動きも。意に沿わない“民主主義の結果”を受け入れるというのは、なかなか難しいものですが、少なくとも異議申し立ての権利はあります。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

南米コロンビア  最大左翼ゲリラ組織との和平合意へ 半世紀に及ぶ紛争は終結へ

2016-06-23 22:12:56 | ラテンアメリカ

【6月23日 AFP】

サントス大統領「夢が実現しつつある」】
昨日の難民に関するブログでも触れたように、“国内避難民が多いのは、コロンビアの690万人、シリア(660万人)、イラク(440万人)、スーダン(320万人)、イエメン(250万人)、ナイジェリア(220万人)などとなっている”【6月20日 朝日】というように、南米・コロンビアはメディアによく取り上げられる内戦国以上に多くの国内避難民が発生している国です。

やや不思議な感もあるのですが、左翼ゲリラ及び右翼民兵組織、麻薬組織入り乱れての紛争の結果でもあります。

****コロンビア 世界第2位の国内難民を抱える国*****
コロンビアにおいては85年以降、政府対左翼ゲリラ、左翼ゲリラ対右翼民兵組織の抗争が国内各地で頻発していました。

さらに90年代初頭の大規模麻薬カルテルの消滅により、左翼ゲリラ及び右翼民兵組織が麻薬を資金源として勢力を拡大したため、紛争が激化した経緯があります。

このため各紛争地域で危険にさらされている農民を中心とした人々は避難を強いられ、周辺都市へと避難しました。紛争終結後も紛争への恐怖心が消えなかったこと及び、農地家屋を紛争によって失ったことから農村部に帰還しない場合が多いため、多くの国内避難民が発生したようです。(外務省資料より)

この結果、都市部での生活環境の悪化が進行し、貧困に苦しむ人々の中から“生きる手段”として、麻薬組織や武装組織に関与する者が生まれてくるという悪循環があります。【2008年4月21日ブログhttp://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080421より再録】
*******************

左翼ゲリラ組織のうちで最大のものが、最盛期の2002年には構成員2万1000人を擁し国土の3分の1を実効支配した「コロンビア革命軍(FARC)」ですが、ウリベ前大統領の掃討作戦によってその勢力は7000人弱程度に弱まっています。

追い込まれ弱体化した「コロンビア革命軍(FARC)」とサントス大統領の間で、キューバのラウル・カストロ国家評議会議長を仲介役として、和平交渉が進められていることはこれまでも取り上げてきました。

2015年9月27日ブログ“南米コロンビア 左翼ゲリラ組織との和平交渉が「6カ月以内の和平実現」に向けて進展”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150927
2016年1月4日ブログ“中南米諸国の治安事情 「麻薬戦争」メキシコと、左翼ゲリラとの和平交渉が進むコロンビア”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160104

4年にも及んだ和平協議も、いよいよ最終段階を迎えたようです。

****コロンビア政府とFARCが停戦合意、半世紀に及ぶ内戦終結へ****
コロンビア政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」は22日、最終的な停戦に合意したと発表した。半世紀に及び密林を舞台に繰り広げられ、数十万人が犠牲となった中南米最長の内戦が終結へ向け最後の一歩を踏み出した。
 
両者による共同声明は「われわれは成功裏に、最終的な双方向の停戦と敵対関係の終結で合意に達した」と表明。FARC幹部のカルロス・ロサダ司令官は、マイクロブログのツイッターに「6月23日に内戦終結を宣言する」と投稿した。
 
コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領と、FARCのティモレオン・ヒメネス(通称ティモチェンコ)最高司令官が23日、停戦合意文書に署名する見通し。声明によると署名式には、潘基文(バン・キムン)国連事務総長や外国の首脳・高官も立ち会う。
 
サントス大統領は、ツイッターに「明日は素晴らしい日となる」「われわれはコロンビアの平和のため取り組んでおり、夢が実現しつつある」と書き込んだ。
 
1960年代の農村運動に端を発するコロンビア内戦では、数々の左翼ゲリラや右派民兵が出現し、麻薬組織も台頭。政府統計によれば、これまでに26万人が死亡、4万5000人が行方不明となっているほか、700万人近くが居住地を追われて避難せざるを得なくなっている。【6月23日 AFP】
*******************

共同声明には停戦合意のほか、武器の放棄などの内容も盛り込まれており、その他の細部についても定められた実質を伴ったものになっています。

****コロンビア政府とFarcが停戦で合意*****
・・・・水曜日に発表されたコロンビア政府とFarcによる共同声明では、停戦と武装放棄のほかに和平プロセスに対する脅威となる準軍組織を母体とした犯罪組織から人権活動家・社会政治運動家を守ることでも合意がなされています。

今回の合意では停戦だけでなく停戦の監視のためのゲリラ部隊集結場所、武装放棄のタイムスケジュール化、戦闘員の安全保障も定義されており非常に重要な合意といえます。【6月23日 音の谷ラテンアメリカニュース】
********************

サントス大統領は来月20日の独立記念日までに最終的な和平合意を目指す考えを示しており、2012年から続けてきた和平協議がようやく結実する運びとなったことで、コロンビアで半世紀にわたり続いてきた内戦の終結に向けて大きく前進しました。

今年1月25日には国連安全保障理事会が、コロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)の要請を受け、非武装の国際停戦監視団を創設するための決議を日本を含む全会一致で採択、3月には、キューバ訪問中のケリー米国務長官が、コロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)双方の幹部と会談し、和平実現を強力に後押ししていく考えを伝える・・・と、国際社会がバックアップしてきた結果でもあります。

少年兵解放、コカ畑の撤去も進む
すでに、これまでの交鈔を踏まえた成果も出ています。

****南米最大のゲリラ組織が子ども戦闘員を解放へ****
南米最大の反政府ゲリラ組織が戦闘員などとして徴用していた15歳未満の子どもたちが、コロンビア政府との和平交渉で解放されることになり、政府は子どもたちの社会復帰を支援することにしています。

南米最大の反政府ゲリラ組織「FARC=コロンビア革命軍」は、1960年代からコロンビア政府と内戦を繰り広げ、22万人以上が犠牲になりました。近年、弱体化が進んだFARCは4年前から政府との和平交渉を進めていて、その舞台となっているキューバの首都ハバナで、15日に共同記者会見を開きました。

その中でFARCは、戦闘員などとして徴用していた15歳未満の子どもたちを解放することで合意したと発表しました。これに対し、政府の交渉団の代表は、子どもたちの社会復帰を目指して包括的なケアを提供する考えを示しました。

コロンビアのサントス大統領は「子どもたちを戦争から引き離すことでついに合意した。痛ましい歴史が終わり、平和と和解の新しい時代が始まる兆しだ」と述べ、和平協定の締結へ向けて詰めの交渉を急ぐ構えです。

ユニセフ=国連児童基金は、和平交渉のさなかにも1000人に上る子どもたちがFARCに徴用されたとみていて、政府は解放の対象を18歳未満にまで拡大する方向で交渉を続けています。【5月17日 NHK】
********************

****コロンビア政府とFarcが協力してコカ畑を撤去する コロンビア アンティオキア****
コロンビア警察対麻薬責任者ホセ アンヘル メンドサ将軍は、コロンビア政府とFarcが協力しアンティオキア県ブリセニョ市で7月10日から手作業による違法作物の撤去作業を始めると述べています。(中略)

昨年コロンビア政府とFarcは武力紛争の段階的縮小で合意し、その一環としてブリセニョ市で昨年半ばにコロンビア政府とFarcによる人道的地雷撤去作業が実施されています。
 
コカ畑の撤去作業にはコロンビア政府・コロンビア革命軍(Frac)・国連薬物犯罪事務所(UNDOC)のメンバーが参加します。
 
また国際移住機関(OIM)と国連食糧農業機関(FAO)が支援する予定です。(後略)【6月21日 音の谷ラテンアメリカニュース】
*********************

殺人率が過去40年で最低へ
左翼ゲリラ組織は最大組織「コロンビア革命軍」(FARC)の他にも存在しますが、第2の勢力を持つ「民族解放軍」(ELN)の間でも和平協議が開始されるとも報じられています。(現在の状況は未確認です)

****コロンビア、第2の左翼勢力と和平協議開始へ****
南米コロンビアの政府は3月30日、同国第2の勢力の左翼ゲリラ「民族解放軍」(ELN)との和平協議を正式に始めると発表した。
 
同国政府と中南米最大の左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)との和平協議も進んでおり、ELNとの新たな協議開始は、半世紀に及ぶ内戦終結に向けて大きな前進となる。
 
同国政府とELNは共同声明で、「すべての民主国家にとって平和は最大の財産だ」と強調した。協議では、ゲリラの武装解除や政治参加、内戦犠牲者への補償など6項目が議題となる。双方は2014年から予備協議を続けていた。【3月31日 読売】
*****************

「コロンビア革命軍」(FARC)との合意成立は、「民族解放軍」(ELN)との協議を促進する方向に働くと推察されます。
5月末には、ELNが誘拐していたジャーナリスト3人を解放するとも発表されています。

ただ、6月にも、「人民解放軍」(EPL)の分派(残党)が4人の軍人・警察官を殺害する事件なども起きており、左翼ゲリラの活動が完全に鎮静化した訳ではないようです。

麻薬組織も未だ活動を止めていません。

****コロンビア、犯罪組織からコカイン8トン押収 過去最大****
南米コロンビアの警察当局は15日、同国の有力犯罪組織「クラン・ウスガ」からコカイン約8トンを押収したと発表した。国内での1回の薬物押収量としては過去最大という。(中略)
 
フアン・マヌエル・サントス大統領はツイッターで「コロンビア警察よ、おめでとう。トゥルボで行った作戦でわが国史上最大の量(の薬物)を押収できた」とたたえた。(中略)

クラン・ウスガは10年ほど前に政府が実施した右派の準軍事組織の武装解除後に台頭した犯罪組織で、トン単位のコカインをコロンビアから中米諸国や米国に密輸している。コロンビアはコカインの原料となる植物コカの主要生産国。【5月16日 AFP】
*******************

そうであるにしても、今回合意は良い方向へ向けての大きな一歩です。
治安も改善の方向にあるようです。

****コロンビアの殺人率が過去40年で最低の25.9人に****
「コロンビアの殺人率(10万人当たり1年間に殺害される人数)が25.9人になりました。この数字は過去40年間で最も低いものです。」とフアン マヌエル サントス大統領は強調しています。
 
また大統領はここ1週間で65人、今年これまでに1653人の犯罪組織メンバーを殺害・逮捕もしくは投降していると明らかにしています。
 
対麻薬作戦では先週97か所、今年これまでに2670か所の麻薬工場が摘発されています。コロンビア治安当局は麻薬工場の摘発を進めるだけでなく、先週だけで5,5トン今年これまでに146,5トンのコカインを押収しています。【6月15日 音の谷ラテンアメリカニュース】
******************

日本の10万人あたりの殺人率は0.28人程度ですから、25.9人というはまだまだ大きな数字です。あの「麻薬戦争」のメキシコを超える数字でもありますが、2016年1月4日ブログでも紹介したように、ラテンアメリカ諸国がランキング上位に名前を連ねており、この地域の風土・文化も影響しているようです。

パレスチナ、シリア、ウクライナ、アフガニスタン・・・・いずれの地域でも和平協議が進まないなかにあって、地球の裏側ではありますが、コロンビアでの4年間に及ぶ和平協議の進展、半世紀にわたる紛争の終結に向けた動きというのは、やはり喜ばしいことです。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

増え続ける難民・避難民 その数は6530万人 “世界人口のうち、113人に1人”に

2016-06-22 20:47:58 | 難民・移民

(欧州連合(EU)離脱を呼びかけるポスターを指す英国独立党のファラージ党首=ロンドンで16日、ロイター【6月21日 毎日】)

UNHCR「これほどの危機は前例がない」】
6月20日は「世界難民の日」ということで、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、世界の難民らの動向に関する年次報告書を公表しました。

それによれば、“世界人口のうち、113人に1人が難民か避難民”という状況にあるようです。
悪化するばかりの現況に、「世界難民の日」というのもむなしい響きがあります。

****世界の難民・避難民6530万人に、戦後最多を更新****
国連(UN)は20日、紛争などが原因で居住地を追われて国外に逃れた難民や国内で避難民となった人たちの総数が2015年末時点で6530万人に達し、第2次世界大戦(World War II)後の最多記録を更新したと発表した。

「世界難民の日(World Refugee Day)」に合わせて公表されたもので、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると「6000万人を超えたのは初めて」だという。紛争と迫害が前例のない世界規模の難民・避難民危機に拍車をかけていることが浮き彫りとなった。
 
2014年末から2015年末の1年間で、580万人が新たに難民・避難民となった。今や約73億4900万人の世界人口のうち、113人に1人が難民か避難民という計算になる。
 
UNHCRは、難民・避難民の総数が英国やフランスの総人口を超えている事実を指摘し、「これほどの危機は前例がない」との認識を示した。【6月20日 AFP】
*******************

****難民・避難民・亡命申請、世界で6530万人****
・・・・2015年末現在で、難民や国内避難民、亡命申請者からなる「避難を余儀なくされた人々」は6530万人に達し、過去最多を記録した。

内訳は難民が2130万人、国内避難民4080万人、亡命申請者320万人。全体で前年と比べて580万人増えた。

1996年は3730万人だったのが、20年間で1・75倍になった。近年では、11年に4250万人を記録して以降、増加が続いている。
 
難民を生んでいる国や地域はパレスチナ520万人のほか、シリア(490万人)、アフガニスタン(270万人)、ソマリア(110万人)など。シリアの難民は250万人を受け入れているトルコや、レバノン、ヨルダンなどへ流入している。

アフガンからはパキスタンとイランなどへ、ソマリアはエチオピアやケニア、イエメンなど、行く先は周辺国が中心となっている。
 
一方、国内避難民が多いのは、コロンビアの690万人、シリア(660万人)、イラク(440万人)、スーダン(320万人)、イエメン(250万人)、ナイジェリア(220万人)などとなっている。
 
グランディ難民高等弁務官は「避難した人々の声が(政治)指導者たちに届くように望む。(主要原因の)紛争を止める政治的な行動が必要だ」と訴えた。【6月20日 朝日】
*******************

食い物にされ、嫌悪され、銃で追われる難民
“6530万人”という数字の裏には、同数の悲劇があります。

国内避難民が220万人の西アフリカ・ナイジェリアでは、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の襲撃を逃れて隣国ニジェールへ移動する国外難民も多数発生していますが、ニジェールからは更に北アフリカを経て欧州を目指す人々も。

****砂漠に子どもら34人の遺体、密入国業者が置き去りか ニジェール****
西アフリカ・ニジェールの政府は15日、同国の砂漠地帯で先週、子ども20人を含む移民34人の遺体が見つかったと発表した。隣国アルジェリアを目指す途中で密入国業者に置き去りにされたとみられる。
 
ニジェール内務省の発表によると死者の内訳は男性5人、女性9人、子ども20人。治安当局筋はAFPに対し、移民らは飲み水がなかったことにより死亡したとみられると語った。
 
アルジェリアには近年、隣国のマリやニジェールなどから数千人単位の不法移民が流入。その多くは欧州を目指している。【6月16日 AFP】
*********************

欧州を目指すシリア難民などは各国の“厄介者”になっていること、そうした“厄介者”への反発・拒絶が欧州各国の政治・社会体制、価値観を揺さぶっていることは再三取り上げてきているところです。

****英国民投票 「ナチス連想」離脱派の独立党ポスターに批判****
英国で23日実施される欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票で、離脱派を主導する英国独立党(UKIP)のポスターへの批判が相次いでいる。

難民や移民問題に不安を持つ有権者の取り込みを図る内容だが、民族間の憎悪をあおり「ナチスを連想させる」などとして、離脱派からの非難も招いている。
 
ポスターはスロバキア国境前で行列を作る難民を写したもので、「限界点だ」「我々の国境を取り戻そう」と呼びかけている。残留派のオズボーン財務相は「不快で恥ずべきだ。(ナチスによる)1930年代のやり方だ」と指摘。離脱派のゴーブ司法相も「ぞっとした」と不快感を示した。
 
ポスター公表当日の16日、難民支援に取り組んできた残留派のジョー・コックス下院議員が殺害される事件が発生したことも、離脱派には逆風となっている

。離脱派だった与党・保守党のサイーダ・ワルシ元幹事長は同日、「(離脱派の運動は)外国人嫌いばかりで、私にとって限界点だ」として、残留派への転向を表明した。
 
こうした動きに対し、UKIPのファラージ党首は「これは(難民)政策の失敗に光を当てたものであり、創作でなく現実だ」と反論した。【6月21日 毎日】
*******************

現在のイギリスなど欧州の豊かさと、シリアやアフリカなどの惨状は、世界規模の「格差」です。
こうした「格差」が存在することにどのように向き合うのかという問題になります。

歴史的に言えば、こうした「格差」を作り上げてきた遠因には、イギリスなど欧州列強の植民地政策があり、また、イギリスなど欧州各国の現在の豊かさはそうした地域からの収奪のうえに形成されたものではないでしょうか。

そうしたことも考えれば、「ここはお前たちの来るところじゃない!」という主張は不寛容であるばかりでなく、あまりに身勝手なもののようにも思えます。

トルコなど中東諸国に滞留する難民の生活も困窮を極めています。

****シリア難民に発砲、子どもら死亡か トルコ国境警備兵****
在英のシリア内戦の反体制派NGO「シリア人権監視団」は19日、シリアから同日朝、トルコへ越境しようとしたシリア人の一団にトルコ国境警備兵が発砲し、子ども3人を含む8人が死亡、8人が負傷したと発表した。

主要反体制派「シリア国民連合」も11人が射殺されたと発表。一方、トルコ外務省は「真実を反映していない」と否定する声明を出した。
 
人権監視団によると、シリア人の一団は、過激派組織「イスラム国」(IS)が掌握するシリア北部マンビジュ近郊に住んでいた民間人らで、戦闘を逃れて北西部イドリブ県からトルコへ越境避難しようとした際、発砲されたという。
 
シリア国民連合も声明で「恐ろしい悲劇」と述べ、トルコ側を批判。国民連合はトルコ政府から資金援助を受けてイスタンブールを拠点に活動しており、トルコを批判するのは珍しい。
 
トルコは難民流入が続く欧州などの要請で、昨年から国境警備を厳重化。監視団によると、シリアからトルコへ越境避難しようとした際、トルコ国境警備兵に射殺されたシリア人の民間人は今年、60人近くに上るという。
 
一方、トルコ外務省のビルギチ報道官は19日夕、「不法にトルコ入りしようとしたシリア人の民間人に対し、トルコの治安当局が意図的に発砲し、殺害したという報道は真実を反映していない」「治安当局は不法越境に対し、完全に合法的に対処している」とする声明を出した。【6月20日 朝日】
*******************

トルコで起きていることに関する責任の半分は、目的地であり、受け入れを拒んでいる欧州各国にもあります。

ファルージャ奪還に伴い、新たな難民が発生 “難民キャンプ”という名の荒れ地へ
イラク・シリアでは、IS支配地域の奪還作戦が進行していますが、それに伴って新たな難民が多数発生しています。

****イラク軍奪還のファルージャ、避難民数万人 「人道危機」に警鐘****
イラク軍が中部ファルージャの大半をイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」から奪還した後、大量の市民が市外への避難を余儀なくされている。

ノルウェー難民委員会(NRC)は避難民が過去3日間だけで推定3万人に達していると指摘し、イラク政府に「人道危機」への対応を急ぐよう求めている。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、イラク軍が1か月近く前にファルージャ奪還作戦を開始して以来、最多で8万4000人が自宅からの退避を強いられた。今後数日間でさらに多数の避難民が生まれると予想している。
 
こうした状況を前に、NRCのイラク責任者ナスル・マフラヒ氏は「イラク政府にこの人道危機への対応を要請する」と述べた。
 
NRCは配給する水が急速に枯渇しており、必要な援助をこれ以上提供できないと説明。ファルージャ南部のアムリヤット・ファルージャで新たに開設した避難民キャンプでは1800人の収容できるが、女性用のトイレは1か所しかないという。
 
同キャンプの関係者は、施設と資源がこの規模の危機に対処するには不十分だと指摘。「過去4日間に400世帯を受け入れたが、彼らは無一物だ。一部にはテントを確保したものの、それ以外の世帯は女性と子どもを含め、全員が炎天下で地べたに寝ている」と窮状を訴えた。
 
バグダッドの気温は40度前後で推移しており、ファルージャのあるアンバル県はもっと暑くなることも多い。
 
ハイダル・アバディ首相は避難民への支援を約束している。【6月20日 AFP】
********************

ファルージャ奪還でイラク首都・バグダッドでは祝勝ムードにあるようですが、僅か数十キロしか離れていないファルージャ郊外の荒れ地では10万人前後の人々が水も食糧もない状況に置かれています。

「イラク政府にこの人道危機への対応を要請する」“アバディ首相は避難民への支援を約束している”とは言うものの、どれだけの支援が実際に行われるのか・・・・。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マレーシア  多民族国家にあって、外国人労働者が「第2位の人口構成群」へ

2016-06-21 22:49:34 | 東南アジア

(クアラルンプールで3D(Dirty, Dangerous and Demanding)労働(日本で言う3K労働)に従事する外国人労働者 “flickr”より By Yeow )

中国系住民が約4分の1を占めることもあって、微妙な中国との関係
マレーシアは多民族国家として、その人口構成比はマレー系約65%、中国系約24%、インド系約8%と言われてきました。

もちろん民族間の軋轢がなかった訳ではありませんが、民族間で内戦状態に陥る国があちこちで見受けられるなかにあっては、比較的“穏やかな”状態にもあって、多民族共存の一つのモデルともされてきました。

もっとも、マレーシア政府がこれまで採用してきた、経済的に劣後しているマレー系を優遇して、その地位を引き上げようとする「ブミプトラ政策」については批判も高まっており、見直しが迫られている・・・といった話はこれまでも取り上げてきたところで、今回はパスします。
(2015年9月17日ブログ「マレーシア 汚職疑惑の首相へ高まる批判 民族間の対立に飛び火する不安も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150917など)

南シナ海問題では、従来は経済的つながりの強い中国への批判は抑制的・控えめなものでしたが、最近では厳しい対応も見られるように変化しているとも言われています。
ただ、中国系住民が約4分の1を占めることから、微妙な問題もあります。

****マレーシア、南シナ海めぐり対中国戦略を見直しへ****
・・・・だがマレーシアの場合、中国との「特別な関係」を掲げ、また貿易と投資への依存度が高いため、従来、この地域での中国の活動に対する対応は、西側諸国の外交関係者から「控えめ」と表現される程度のものだった。(中略)

ところが3月に多数の中国漁船が、領有権が争われている南沙(スプラトリー)諸島の南方にあり、豊かな漁場の広がる南ルコニア礁付近に侵入した際には、マレーシアは海軍艦艇を派遣し、中国大使を召喚して説明を求めるという異例の動きを見せた。

中国外務省は、「関連の水域」において自国の漁船が通常の漁業活動を行っていただけであるとして、事態を重要視しなかった。
 
わずか数週間後、マレーシアはミリ市の南にあるビントゥル付近に海軍の前進基地を設ける計画を発表した。(中略)

限られたオプション
MMEA(マレーシア海上法令執行庁)当局者の説明する事件について、中国外務省は、中国・マレーシア両国は対話と協議を通じた海事紛争の処理について「高いレベルのコンセンサス」を共有している、と述べている。 
同省の華春瑩報道官は、「この件については引き続きマレーシアと緊密な連絡を取る予定だ」としている。

マレーシア政府がさらに強硬な姿勢を取ることに及び腰なのは、マレーシアが中国に大きく依存していることからある程度説明できるかもしれない。
 
中国はマレーシアにとって最大の輸出先であり、マレーシアはASEAN10カ国のなかで中国からの財・サービスの輸入が最も多い。
 
また複数の中国国有企業は昨年、マレーシアの政府系投資ファンド1MDBから数十億ドル相当の資産を購入している。1MDBは債務超過に苦しんでおり、ナジブ首相にとって大きな悩みの種になっていた。
 
マレーシアの国内問題への中国の影響力も、マレー人が多数を占める国家にとって常に懸念事項となっている。マレーシアの中国系住民は人口の約4分の1を数える。
 
昨年9月、中国・マレーシア両国の外交関係に緊張が走った。マレー系住民によるデモに先立って駐マレーシア中国大使が首都クアラルンプールにあるチャイナタウンを訪れ、「中国系住民の権利に影響するような行動に対しては、中国政府は遠慮なく批判させてもらう」と警告したのである。
 
大使は召喚され、発言について説明を求められたが、中国外務省は大使を擁護している。(後略)【6月6日 Newsweek】
*******************

外国人労働者が中国系系人口をも超え、「第2位の人口構成群」へ
対中国関係を含め、マレーシアの政策の根幹にある民族間の人構成比に変化が見られ、中国系住民が減少傾向にあるとのことです。

****マレーシアの中国系住民、現在の24%から2040年に18%へ****
2016年6月18日、中国新聞網によると、マレーシアの華人団体・馬華公会(MCA)の廖中莱総会長は、マレーシアの総人口に占める中国系住民の割合が、現在の24%から40年には18%に減少する見込みだと明らかにした。

廖会長は16日夜、中華総商会クアラ・カンサー支部のパーティーで挨拶し、マレーシアの中国系住民減少の背景には、出生率の低下や海外への移住増があるとした上で、MCAはイスラム法のより厳格な適用に断固反対すると述べ、中国系コミュニティーからイスラム政党を排除し、今後マレーシアが原理主義国家になることに反対するよう呼び掛けた。

マレーシア国民は、主にマレー系、中国系、インド系の3つの主要民族で構成されている。人口3000万人のうち約24%を中国系が占めているが、マレーシアでは、全マレーシア・イスラーム党(PAS)がイスラム法の改正案を国会に提出するなど、宗教的な保守化の動きが出ており、中国系を含む現地の非ムスリム住民の間に不安と反発が広がっている。【6月21日 RecordChina】
******************

しかし、外国人労働者の存在も考慮にいれると、すでに人口構成比で第2位を占めるのは中国系ではなく外国人労働者になっているとのことです。

****ついに労働者の過半が外国人になったマレーシア****
中華系人口をも超え、一大勢力に
・・・・ASEAN(東南アジア諸国連合)の優等生で1人当たりGDP(国内総生産)で(ブルネイを除く)シンガポールに次ぐ新興国マレーシアには、母国の4倍から5倍もの高額な給与が得られることから、周辺国からの出稼ぎ労働者が後を絶たない。

マレーシアの総労働人口約1400万人のうち(2014年)、正規の合法的出稼ぎ労働者は約200万人と言われる。非正規の違法労働者はその2倍以上の450万人近くまで膨れ上がっていると推定され、外国人労働者の数は春節を祝う約700万人の中華系マレーシア人の数に相当する勢いだ。

数年前までは「4人から5人に1人」だったのが、今では実に、「ほぼ2人に1人」が、外国人労働者が占めるまでになっており、すでにマレーシアは世界で最も外国人労働者の占める比率が高い国の1つになっている。

また、さらに驚くべきことに、マレーシア政府は今後3年間で、(ムスリム人の)バングラデッシュ人労働者を「合法的に150万人」、受け入れることを決めた。

これにより、多民族国家の人口構成比(マレー系約65%、中国系約24%、インド系約8%)が1957年の英国からの独立以来、60年ぶりに修正されるという歴史的事態に陥る。結果、外国人労働者総数は約800万人になり、中華系マレーシア人の人口をはるかに超え、マレーシアで「第2位の人口構成群」に躍り出る。(後略)【2月15日 末永 恵氏】
*******************

非正規ルートの違法労働者が多いのは、雇う側からすると、安くて簡単に雇えるというメリットがあるからですが、そうした違法労働者の存在は警官の賄賂・不正の温床ともなっているそうです。

****アジアで最高の初期費用****
マレーシアでは、正規で雇用主が支払う新規のメイド雇用に関する初期費用がアジアで最も高額で、現在、1万5000リンギ(約42万円)から1万8000リンギ(約51万円)にもなる。ところが、非正規ルートのメイドだと約1万リンギ(28万円)ほどで済む。

さらに、正規ルートだと新規雇用申請から最短で雇用するまでに通常で3か月から4か月かかるが、非正規なら「数日から1週間」(業界関係者)で済むなどの事情が大きく影響している。(中略)

警察官に見つかって脅され、月給の2倍近い3000リンギを取られた人もいるという。違法労働者は警察官の汚職や賄賂の格好の温床になっており、違法業者と公的機関が裏で手を結んでいるとも指摘されている。病巣はマレーシア社会の構造的な問題にもなっており、傷口は相当深い。【同上】
*******************

なぜ、大量の外国人労働者を雇用しても社会が維持できるのか
マレーシアの外国人労働者が増加した背景には、工業化の進展によって労働力不足に陥ったことがあります。
結果的にマレーシアは世界でも最も外国人労働者比率が高い国の一つとなっていますが、その功罪は、今後の日本にとっての参考事例ともなると思われます。

****マレーシアの外国人労働者****
・・・・
3.マレーシアにおける外国人労働者
マレーシアは人口が土地面積や経済活動に対して過少であったため、1980年代後半に本格的な工業化が進展すると、瞬く間に労働力不足に陥った。

これを受けて、1992年にマレーシア政府は、それまでプランテーションや建設現場、家事労働などに認められていた外国人労働者を製造業やサービス業にも広げ、本格的な外国人労働者の導入を進める。

これ以降、マレーシアでは失業者数を外国人労働者数が大きく上回る状況が続く。これは、労働市場に参加しているマレーシア人が全員職を得たとしても、外国人労働者がいなければ労働需要を満たしきれないことを意味し、「超完全雇用」とでも言うべき状況である。 

周辺国との賃金格差を主因とした外国人労働者の流入、産業界の労働力不足という需給両要因で外国人労働者が増加を続ける一方で、マレーシア政府は総数に歯止めをかけたい意向を持っている。

これまで、マレーシア政府は外国人労働者の雇用に掛かる税金を頻繁に引き上げ、定期的に新規雇用の停止と再開、違法労働者の恩赦、合法化と送還を繰り返して現在に至っている。

直近では、2011年10月から2014年1月まで違法労働者の恩赦・合法化プログラム(通称6Pプログラム)が実施され、130万人が申請、うち50万人が合法化され、33万人が国外退去となった。

2013年9月末の時点で、合法的な外国人労働者数は211万人に達し、部門別の内訳は製造業が73.3万人で最も多く、以下、表1(省略 2位は建設業42.5万人、3位はプランテーション34.7万人、4位がサービス業25.1万人)のようになっている。また、国籍別では、インドネシア人が(93.5万人)と最も多く、表2(省略 2位ネパール35.9万人、3位がバングラデシュ31.9万人、4位がミャンマー17.4万人)がのようになっている7。

4.なぜ、大量の外国人労働者を雇用しても社会が維持できるのか
このように、マレーシアは、人口の比率に対して外国人労働者の比率が世界でも最も高い国の一つとなっている。外国人労働者への依存について、産業高度化の観点からの懸念が表明され、治安悪化や社会的軋轢といった観点からの批判もある。

しかし、もし日本にマレーシアと同じ比率の外国人労働者がいたと仮定すれば、合法740万人、非合法870万人の合計1500万人以上となり、とても正常な社会運営を維持できるとは思えない。

マレーシアの場合、外国人労働者のプレゼンスの巨大さとくらべれば、問題は「相対的に」小さいものに留まっていると言える。その要因としては、以下のようなものが挙げられる。

a) 外国人労働者は雇用のミスマッチを埋める
第一の理由は、雇用を巡ってマレーシア人と外国人が競合することが少ないためである。マレーシアは1990年代初頭には既に完全雇用の状態にあり、外国人が雇用されているのは、マレーシア人が働きたがらない、いわゆる3D(Dirty, Dangerous and Demanding)労働である。外国人労働者の39.8%が単純労働と呼ばれる職種に就いている一方、この職種のマレーシア人は全体の8.1%に過ぎない。

JETROの投資コスト比較によれば、バングラデシュ・ダッカの製造業ワーカーの賃金は86米ドル、クアラルンプールは429米ドルとなっており、約5倍の差がある。もし、労働者の権利が十分に保証されるのであれば、自国民に人気のない職種を、母国との賃金格差によって埋めてくれる外国人労働者の存在は、お互いにとってプラスとなる。

b) 多民族・多宗教の国家の懐の深さ
マレーシアにおける外国人労働者の最大の送出国はインドネシアである。インドネシアとマレーシアは地理的に近いだけでなく、言語も極めて近く、問題なくコミュニケーションが取れる。さらに、イスラム教徒が多数を占め、宗教的にも共通性が高い。したがって、インドネシアの外国人労働者は言語・宗教など多くの面で違和感少なくマレーシアで働くことができる。

マレーシアは古くから交易の中心地であり、イギリス植民地時代にも「外国人」を受け入れてきた。その結果、マレーシアは多民族、多宗教、多言語の国家となり、マレー語(インドネシア語)、中国語、タミール語、英語のどれかができれば生活できる。

また、イスラム教徒にとっては非イスラム教国に比べて不自由が少なく、その他の宗教であってもそれを信奉することは禁じられていない。

マレーシアという国家の成り立ちが、外国人労働者との軋轢を小さくしている面は少なからずある。マレーシアにおいては、外国人労働者の犯罪率は、マレーシア人よりも低いという研究もあり、これは、滞在期間中めいっぱい働くことで十分に稼ぐ方が、国外退去のリスクをおかして犯罪を行うよりもリターンがあると考えれば、不思議ではない。

このようなマレーシアの「懐の深さ」は歴史的に醸成されたものであり、容易に真似できるものではない。

c) 外国人労働者は「移民」ではない
マレーシアにおける外国人労働者は、有期での帰国を前提に受け入れられており、移民とは明確に区別される。

非熟練外国人労働者の受け入れは18歳から45歳に限られ、家族を同伴することはできない。非熟練の外国人労働者の労働許可は1年毎に更新され、最大で5年までとなっている。

マレーシア政府は10年の有効期間を持ち更新可能な長期滞在ビザプログラムMalaysia My Second Home(MM2H)を実施しているが、過去最高を記録した2013年でも認可は3675件にとどまる。

MM2Hの資格には、一定以上の預金残高(50歳以上の場合は35万リンギ以上、50歳以下の場合は50万リンギ以上)と月収1万リンギ以上が必要とされ、これはマレーシアでは所得水準の最上位10%に相当する。

すなわち、マレーシア政府は外国人労働者を主に単純労働の担い手として割り切っており、大量の移民を受け入れる意向は全くない。

おわりに
外国人労働者の増加に伴う社会的・経済的問題には、1)労働市場で競合する自国労働者の所得へのマイナスの影響、2)教育、医療、社会保障など公的支出への負担増、3)犯罪率の増加、社会的・文化的な摩擦などの影響などがある。マレーシアの場合、外国人労働者を有期の単純労働力に限定し、家族の帯同を認めないことで、1)と2)を小さくし、歴史的な経緯から、3)についても比較的小さいものにとどまっている。

一方で、本論では触れなかったが、外国人労働者の人権について問題提起をしておきたい。

マレーシアでも、業者による外国人労働者の搾取やメイドに対する虐待などを中心に外国人労働者の人権問題が生じている。

米国は、2014年6月発表の人身取引レポートでマレーシアを最低のカテゴリーにダウングレードした。特に大量の非合法労働者が雇用主やエージェントに対して弱い立場におかれ、賃金の支払いを拒否されたりパスポートを取り上げられて労働を強いられたりしている点が問題視されている。

マレーシアの場合、外国人労働者の多数は問題なく働いている一方、あまりに大量の受け入れを行っているため、行政の事務や監督が追いついていないように思われる。

外国人労働者については圧倒的に「買い手市場」であるが、それに甘んじて高圧的な態度が許されると政府・雇用主・エージェントが考えているとすれば、問題は大きい。

外国人労働者や移民政策について議論するとき、それを、単なる労働力の需給ギャップを埋めるための「数字」として捉えることは適切でない。

一人の労働者が外国人として一定期間働くとき、受け入れ国は、「この国で働けて良かった」という経験を提供できるだろうか。この点が満たされなければ、外国人労働者や移民政策は、送出国・受入国双方にとって長期的にプラスにならない。【2014年7月 熊谷 聡氏 JETRO】
*******************

マレーシアの事例が“優れている”とか言うつもりはありませんし、もともと「多民族・多宗教の国家」であったこと、イスラム教という共通文化、言語的類似性など、マレーシアと日本とは異なる面も大きいとは思われますが、
“そうであるなら日本にあってはどうすれば外国人労働者を受け入れられる条件を作り出すことができるのか?”
“どうすれば「この国で働けて良かった」という経験を提供できるのか?”
という問題、そして日本モデルを考えるうえでの参考にはなるかと思います。

もちろん、これまで同様に国を閉ざして、結果的に“終わってしまった”極東の小国として埋没していく・・・という道もありますが、どうしてそういう選択をするのか、個人的には全く理解できません。

外国人を受け入れることに伴う問題は多々ありますが、問題を難しくしているのは・・・・止めておきましょう。「それを言っちゃおしまいよ」ということで。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする