孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

太平洋島しょ国で繰り広げられる米中の陣取り合戦

2023-11-19 22:20:36 | オセアニア

(【e-food】)

【太平洋島しょ国の現状を反映したソロモン諸島での総合競技大会】
太平洋島しょ国がアメリカと中国の陣取り合戦のような勢力争いの主戦場のひとつになっていることはこれまでも度々取り上げてきました。

今のところ中国陣営の中核的存在がソロモン諸島。ソロモン諸島は昨年台湾と断交して中国と国交を結び、更に中国と安全保障協定を結んで中国の警察官も常駐しています。もちろんオーストラリアなども中国の影響力拡大に対抗しようとしています。

そのソロモン諸島で開催された南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」は、さながらこの地域で繰り広げられる「陣取り合戦」の縮図のような様相です。

****ソロモン諸島で総合競技大会開幕 裏では地域内の影響力争い顕著****
南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」が19日、ソロモン諸島で開幕した。

首都ホニアラのメインスタジアムなど七つの関連施設を中国の援助で建設。警備のために中国、オーストラリア、ニュージーランドがそれぞれ警察官を派遣するなど、大会裏で起こる地域内の影響力争いに注目が集まっている。

サッカーやラグビーなどの試合が行われる同大会は1963年に始まり、4年に1度開かれる。今回は12月2日まで24カ国・地域から集まった約5000人のアスリートが競う。19日は1万席あるメインスタジアムで開幕式があり、多くの観客が集まった。

同スタジアムを巡っては2017年、ソロモン諸島と当時外交関係があった、台湾の援助で建設することで合意した。しかしソロモン諸島は19年に台湾と断交し、中国と国交を樹立。スタジアムの建設も中国に取って代わった。

豪州や日本も援助をしているが、大会運営にかかる直接費用2億2000万ドル(約331億1670万円)のうち、半分以上を中国が援助しているとみられている。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語電子版)によると、スタジアムは、南太平洋島しょ国における中国の最大規模のインフラ支援。今年8月の引き渡し式で、李明・駐ソロモン中国大使(当時)は「(スタジアムは)中国とソロモン諸島の友情のシンボルだ」と表明。同地域における中国の存在感を象徴するものとなった。

またソロモン諸島は10月末、今大会の警備に向け、国内にいる中国の警察官が増員されると発表した。人数は明らかにしていないが、中国から金属探知機や制服も提供されたという。

これに対し、中国の影響力拡大に懸念を示す豪州はソロモン諸島に駐在する警察部隊を100人増員。ニュージーランドも治安部隊を90人増派するなど、大会を巡り地域内の影響力争いが激しくなっている。【11月19日 毎日】
*******************

【アメリカと島しょ国首脳の会議を一蹴したソロモン諸島 「説教」は聞きたくない】
地域全体の「陣取り合戦」の状況について言えば、「一帯一路」で資金を注ぎ込む中国に対し、アメリカも9月25、26日にホワイトハウスで太平洋島しょ諸国との首脳会議を開催し、関係強化を図っています。

****バイデン氏、太平洋島嶼諸国と首脳会議 中国にらみ関係強化****
バイデン米大統領は25日、ワシントンのホワイトハウスで太平洋島嶼(とうしょ)諸国との首脳会議を開く。首脳会議は同地域への影響力拡大を図る中国をにらみ昨年9月に初開催しており、今回で2回目。バイデン氏は島嶼諸国への関与と協力拡充を改めて表明して関係強化を図り、中国を牽制(けんせい)する。

バイデン氏は25日午前に島嶼諸国首脳らをホワイトハウスに迎えて会議を開き、昼はワーキングランチで議論する。
午後はケリー米大統領特使(気候変動問題担当)と島嶼諸国首脳らとの会合やブリンケン米国務長官主催の夕食会などが開かれる。

一連の日程は26日までの2日間。気候変動問題や経済成長の促進、違法漁業への対処など同地域の優先課題における協力を協議する。

初開催となった昨年の首脳会議では、バイデン政権が海洋安全保障や貿易促進などのために計8億1千万ドル(約1200億円)の支援を実施すると発表。影響力拡大を図る中国に対抗していく姿勢を鮮明にした。

また島嶼諸国との連携に向けた戦略文書を打ち出し、「中国の圧力と経済的威圧が同地域の平和と安定を損ねている」と名指しで批判した。

島嶼諸国との対話を巡っては、バイデン氏が今年5月に広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)後に南太平洋のパプアニューギニアを訪問し他の島嶼諸国首脳とも会談する予定だったが、米国の内政問題で中止していた。【9月25日 産経】
*******************

このアメリカの思惑を一蹴したのが中国より姿勢を強めるソロモン諸島。アメリカの「説教」を聞く気はないと。

****ソロモン首相、米主催のサミット欠席 「説教」無用****
南太平洋の島国ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は27日、ジョー・バイデン米大統領がホワイトハウスで25日に主催した米・太平洋諸島フォーラム首脳会議(サミット)を欠席したことについて、「説教」を避けるためだったと主張した。

親中派のソガバレ氏は先週、国連総会のため米ニューヨークを訪れていたが、滞在期間を延長して同サミットに出席することはなかった。

ホワイトハウス関係者は、「われわれは、この非常に特別なサミットを欠席するというソガバレ氏の選択に失望している」と語っていた。

ソガバレ氏は27日夜の帰国会見で、「私に説教するつもりでいる人々の話を座って聞くつもりはない。あり得ない」と発言。重要な立法議案をはじめとする国内問題への対処の方が「重要」だとも述べた。

昨年の米PIFサミットには出席したソガバレ氏は、「こうした会議がどのように進行するかといえば、彼ら(米国)から3分間話す時間を与えられた後、説教され、彼らがいかに優れているかを得々と聞かされる」「彼らは今こそ、太平洋諸国、そして世界中の指導者たちを尊重しなければならない。戦略を変える必要がある」と主張した。

ソガバレ氏は、オーストラリアと中国、韓国での扱いは米国とは違い、首脳たちとそれぞれ1時間の会談を行ったと語った。

ソロモンでは2019年4月にソガバレ政権が発足。同政権は同年9月、台湾と断交し中国と国交樹立。中国から巨額の援助と投資を引き出した。今年7月には、中国と警察協力協定を結び、2025年まで中国警察要員の駐留を認めた。 【9月28日 AFP】
******************

単に陣取り合戦というより、「民主主義的価値観」を上から目線で“遅れた国”に押し付けようとする姿勢がありがちなアメリカへの反感も強いようです。逆に言えば、そんな説教をしないところが中国の特徴。

【オセロのように黒白がひっくり返るバヌアツ 両方から支援を引き出したいフィジー】
米中の「陣取り合戦」と言うか、オセロゲームのように白になったり、黒にひっくり返ったりしているのがバヌアツ。

バヌアツは昨年12月、オーストラリアと災害救助や防衛、治安などで協力するための安全保障協定を結びましたが、これに野党が反発してカルサカウ首相の不信任決議案を提出。カルサカウ首相は9月に失職し、中国寄りとされるキルマン元首相が新首相に返り咲きました。

しかし、その親中派キルマン首相も・・・

****バヌアツの親中派首相、1カ月で失脚=後任に元職サルワイ氏****
南太平洋の島国バヌアツの国会で6日、親中派のキルマン首相に対する不信任案が可決された。

9月上旬に就任したキルマン氏はわずか1カ月で失脚した。後任には野党が推したサルワイ元首相が選出された。今年3人目の首相となる。【10月6日 時事】 
****************

バヌアツの国内事情は全く知りませんが、親米か、親中かということは、国内の権力闘争・勢力争いの表向きの看板なのかも。

島しょ国側としては、米中の「陣取り合戦」を利用して、できれば双方から最大限の支援を引き出したいところ。

****フィジー首相「一帯一路を支持」=中国主席と融資協議****
太平洋の島国フィジー政府は17日、ランブカ首相が中国の習近平国家主席と、米サンフランシスコで現地時間16日に会談したと発表した。ランブカ氏は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への支持を表明。両首脳はフィジーの港湾、造船所、道路の整備に関連し、中国からの融資について協議した。

島しょ地域では米中両国の覇権争いが激化しており、習氏はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の機会を利用してフィジーへの接近を図った。フィジーは米国やオーストラリアとも関係強化を進めているが、中国からの経済支援も引き続き得たい考えだ。【11月17日 時事】 
*********************

【バラまきから重点投資に切り替えた中国】
一方、「説教」することなく資金を気前よくバラまいてきた中国にも変化が。資金的に余裕がなくなったのか、重点投資に切り替えたようです。

****中国は南太平洋諸国への金のばらまきをやめたのか?―独メディア****
2023年10月31日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレ(中国語版)は、オーストラリアのシンクタンク「Lowy Institute」のレポートを引用し、太平洋地域への影響力を米国やオーストラリアと競っている中国が、クック諸島やフィジーなどの太平洋諸国への援助額を減少させていることを伝えた。

記事は初めに、「Lowy Institute」が31日付で公開した最新レポートの内容について紹介した。

「2008年以来、中国はクック諸島やフィジーなど、主に国交を結んでいる太平洋地域の国々に39億ドル(約5876億円)の金銭的援助を提供してきたが、16年にピークを迎えた後は下降傾向にあり、今では地域全体の総援助額の割合で、40%を占めるオーストラリアやアジア開発銀行(ADB)に次いで、9%の第3位になっている」ことや、「『Lowy Institute』のライリー・デューク研究員は、米AP通信の取材に対し、中国と太平洋諸国間の貸借勘定で、特にインフラ整備への融資への興味が下降している点から中国が米国やオーストラリアなどとの間の援助競争で負けたのは明らかだと指摘している」ことに加えて、「AP通信は、中国の援助が下降している主な原因として、トンガのように中国への負債を抱えた各国が、中国資金への興味を失ったためだと分析している。

先に米国が『中国の資金は財政的に豊かではない国にとって債務のわなだ』と警告したように、各国の主権を脅かしている」と伝えた。

次に記事は「中国の海外援助の減少傾向は、太平洋地域に限ってのことではない。特に新型コロナ流行後の中国は、海外での大規模なインフラ整備や融資計画を基本的に放棄している」として、「一帯一路を提唱し始めた13〜19年の7年間、太平洋諸国に対する中国の援助計画の規模は平均約4000万ドル(約60億円)だったが、近年は平均約500万ドル(約7億5340万円)にまで減少している。中国からの融資支出総額はコロナ前に2億8500万ドル(約430億円)だったのが、21年には2億4100万ドル(約363億円)にまで落ち込んでいる」と説明した。

記事は「21年11月に習近平国家主席は『一帯一路の次の段階』の原則として、専門的なリスク管理を重視し、中国企業やその関連組織が『小規模だが素晴らしい(small but beautiful)』プロジェクトを優先的に考慮すると述べた。また、今月の第3回一帯一路国際協力サミットフォーラムでも、習主席は『質の高さ』を基本とし、象徴的なプロジェクトや小型の民生プロジェクトを推進することを強調している」として、「援助規模や金額が減少しても、中国が太平洋地域への関与をやめることを意味しているわけではない。例えば、中国は19年に台湾と断交したソロモン諸島やキリバスへの援助を増やしたように、リスクを避けて、政治関係を確固たるものにし、資本回収を高めるための援助方針の転換を意味している」と論じた。【11月2日 レコードチャイナ】
**********************

記事にもあるように、従来のバラまき的なインフラ投資から、選別的な「質の高い」投資へ路線を変えているのは、太平洋地域に限ってのことではなく、「一帯一路」全般に言える変更です。

太平洋島しょ国にあって重点国とされているのはソロモン諸島とキリバスのようです。

****ソロモンやキリバスを重点支援=中国の島しょ国援助―豪研究所調査****
オーストラリアのシンクタンク、ローウィー国際政策研究所は31日、太平洋島しょ国への経済援助に関する調査結果を公表した。この中で、中国が2019年に国交を樹立したソロモン諸島やキリバスに重点的に資金を拠出していることが分かった。中国の経済状況が厳しくなる中、島しょ地域への影響力拡大を戦略的に図っているもようだ。

調査によると、中国の島しょ地域全体への援助額は21年に約2億1700万米ドル(約320億円)だった。このうち、ソロモンに約4100万ドル(約61億円)、キリバスに約4000万ドル(約60億円)を拠出した。

各国や国際機関による島しょ地域への援助合計に占める中国の援助額は6%にとどまる。しかし、ソロモンに関しては10%、キリバスは16%に達している。

コロナ禍などによる景気減速に伴い、中国の島しょ地域への援助はピークだった16年の約3億8400万ドル(約570億円)から減少。それでも中国は22年にソロモンと安全保障協定を結ぶなどして米国と覇権争いを展開している。同研究所は「中国は援助の的を友好国に絞り、戦略的に進めている」との見方を示した。【10月31日 時事】
***********************
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オーストラリア  先住民アボリジニの地位を憲法に明記する改憲案を発議 野党は反対

2023-06-21 22:55:47 | オセアニア

(シドニー五輪の女子400メートルで優勝し、オーストラリアとアボリジニの旗を手に、観客の声援にこたえるフリーマン

2000年シドニー五輪の陸上女子400メートル決勝、シーズン世界最高(当時)タイムでゴールに飛び込んだ勝者は精根尽き果てたようにへたり込んだ。そのアスリートの名はキャシー・フリーマン。

オーストラリアの先住民アボリジニ出身の27歳の女性の双肩に大会の成否がかかっていた。

白人社会と、差別されてきた先住民とをつなぐ国民統合の象徴として、開会式では豪州が誇る歴代女性金メダリストたちから聖火を受け取り、現役選手にもかかわらず最終点火者となったフリーマンが首尾よく金メダルを獲得できるのかと。

11万2000人超の大観衆が見守るなか、フリーマンは豪州旗とアボリジニの旗を渡されて立ち上がる。国旗以外を持ったウイニングランは基本ご法度だが、国際オリンピック委員会のサマランチ会長は「五輪は多文化主義を支持する」と、事前に助け舟を出していた。【2019年6月28日 日経】

彼女も「盗まれた世代」の一人です)

【先住民アボリジニの悲惨な歴史 「アボリジニー狩り」「盗まれた世代」】
周知のように移民の国オーストラリアのもともとの先住民はアボリジニです。

以前は人間ではなく獣と同じような扱いを受けており、イギリス植民地時代には「アボリジニー狩り」も行われていました。

独立後も「白豪主義」のもとで、親から子供を強制隔離する同化政策が行われ、その子らは「盗まれた世代」と呼ばれています。

****アボリジニー***
オーストラリア大陸の先住民の総称とされる。ただし普通名詞で原住民を意味し、特定の民族名ではない。彼らは多くの部族に分かれ、独自の狩猟・採集文化を有したが18世紀末のイギリス人入植者によって圧迫・征服され、多くが殺害されたため激減した。現在、その人権の復権が図られている。(中略)

身体的特徴はチョコレート色の皮膚、中ぐらいの身長(平均約165cm)、長い四肢、発達した眉稜などである。(中略)

イギリス人との遭遇
オランダ人のタスマンによるタスマニア島への到達、大陸であることの判明などに続き、イギリス人クックの航海によって大陸東海岸が知られるようになったことを受けて、1788年にイギリス人が現在のシドニーに上陸、入植を開始した。当時のアボリジニー人口は正確にはわからないが、約30万(多く見積もり100万人とする説もある)を数えたと推定されている。

イギリス人の入植以来、アボリジニーから土地を奪いその地は無主の土地(所有者のいない土地)であるとして入植したイギリス人受刑者などに与えていった。アボリジニーには土地私有の概念がなく、共同体共有の狩猟の場であったが、部族の長はガラス玉とビーズを引き換えにイギリス人の入植者を許したという。

彼らのキャンプは次々と奥地に追いやれていった。次第に活動の場を奪われたり、殺害されるなどのを圧迫され、急速に人口を減少させ、1901年のオーストラリア連邦が成立した時期には約6万になったといわれている。

現在では都市とその周辺では白人に同化した人びともいるが、多くは内陸の一部の居留地に追いやられた。オーストラリア連邦政府の白豪主義の一環として、1950年~60年代も厳しい隔離・差別政策が続いたが、1967年の憲法改正で人権が認められ、その保護、自立がすすんでおり、人口も約40万人に回復している。

イギリス人によるアボリジニ虐殺
1788年1月26日、イギリスの囚人がはじめてオーストラリアに到着した。イギリスはオーストラリア大陸を流刑植民地として囚人を労力として開発を開始、それが内陸に広がるにつれて、アボリジニーは最初に追い出され、抵抗すれば虐殺された。

特にタスマニア島ではアボリジニー殺害が徹底され、1876年にはタスマニア島のアボリジニーは絶滅した。「アボリジニー狩り」とも言われた残虐行為はニューサウスウェールズやヴィクトリア州でも行われ、そのためアボリジニー人口は激減し、オーストラリア北部のノーザンテリトリーや西オーストラリア州の一部に残存するだけとなった。

さらに彼らの土地や森林は、イギリス人の金鉱開発や羊毛生産のための牧場とするために奪われていっただけでなく、彼らは労働力として酷使されたことや、イギリス人の持ち込んだ伝染病に罹ったことで死んでいった。(中略)

アボリジニー同化政策
イギリス植民地オーストラリアは1901年にイギリス帝国の白人自治領の一つとして独立しオーストラリア連邦となったが、その憲法ではアボリジニーの権利を認めておらず、保護の対象としてしか見ていなかった。

オーストラリア連邦政府は、「白豪主義」を唱えて白人優位を守りながら、アボリジニーに対しては同化政策を進めた。連邦政府と各州政府はそれぞれにアボリジニー政策を進めたが、基本は白人と原住民=アボリジニーを区別し、原住民に対しては「保護と管理」を加える、というものであり、各地に原住民保護区が造られていった。

しかし、アボリジニーを管理するだけでなく、彼らの独自の言語や文化を奪い、白人と同じ文化を強要して白人と同化させる姿勢が強くなっていった。

「盗まれた世代」 
アボリジニ同化政策の中で、とくに大きな影響力をもったのは、アボリジニーの子供たちを親から強制的に隔離して白人の施設(多くはキリスト教教会の関係)に収容して養育するという親子強制隔離政策であった。

これはアボリジニーの子どもたちをその伝統文化から切り離して白人文化を強要して「文明化」する政策で、特に1951年からで60年代に実施された。そのころ親から隔離された子どもたちが成人し、彼らは「盗まれた世代」といわれている。(中略)

アボリジニの権利獲得
大戦後の世界各地の植民地の独立、かつての植民地支配の見直しが進む中で、アボリジニーの中にも民族的な自覚が生まれ、白人優位の歴史観が改められるようになった。

隔離政策も60年代まで続いたが、次第にその非人道性は批判されるようになった。 1967年に国民投票によって認められた憲法改正によってアボリジニーを国民として認められることとなり、各州でも次第に「原住民」として区別されるのではなく白人と平等な市民として扱われるようになった。

反面、アボリジニーにも白人と同じ賃金とされたことで、かえって多くのアボリジニーが解雇され、仕事を失うということもふえた。一部には失業保険をもらい仕事もせず酒浸りになるアボリジニーも増え、それがまた偏見を生むという悪循環が起こった。

アボリジニーの社会的地位を安定させる上で重要な画期が1992年の連邦最高裁が出した判決で、それは先住オーストラリア人の伝統的所有権を認知するものであった。この判決で初めてアボリジニーには先住民として土地に対する古代から継承する法的権利画認められ、翌1993年に「先住権原法(Native Title Act)」が成立、一部であるがアボリジニー・コミュニティに自らの土地の公式な所有者となることができた。こうしてアボリジニーは「先住民」としての諸権利が認められるようになった。

親子強制隔離政策への非難強まる
1995~95年、オーストラリア連邦政府による同化政策の一環としての強制隔離制度は厳しい批判にさらされることになった。強制隔離とされたアボリジニのその後の調査が行われ、その報告書が出されたことで政府の責任が問われることになった。(中略)

しかし、当時のハワード首相(保守党)は「盗まれた世代」に対する国家としての公式謝罪を拒否、先住民政策を後退させ、先住民を特別待遇しないという姿勢を採った。

その政権下で2000年にシドニー・オリンピックが開催され、女子400mでオーストラリアのキャシー・フリーマンが優勝した。彼女はアボリジニであり、しかも「盗まれた世代」の一人という境遇であり、レースで勝った後、オーストラリア国旗とアボリジニの旗の両方を掲げてグランドを一周し、世界中にアボリジニの存在をアピールした。

オーストラリア政府の謝罪
ハワード政権に代わって政権を握ったラッド首相(労働党)は、2008年、オーストラリア政府として初めて「盗まれた世代」に対する謝罪を行った。ラッド首相は過去の政権が先住民に対して行った隔離政策について、「誇りある人々と文化が受けた侮辱を申し訳なく思う」とする謝罪文を下院で読み上げ、全会一致で採択された。
アボリジニー復権の動きはまだ途上であり、完全な平等化はまだ実現していない。そんな中、2021年1月にはオーストラリア連邦の歌詞の一部、 We are young and free の young が one に変更になったというニュースがあった。

young には入植後の白人が作った若い国、という意味が込められているので、白人もアボリジニも一緒、という意味で one に改められた。最近ではアボリジニの言葉で国歌を歌うことも多くなっているという。【世界史の窓】
***********************

確かに“We areyoung”では、古くからこの地に住むアボリジニの存在を全く考慮していない・・・ということにもなります。

【アルバニージー首相 「最初のオーストラリア人」と認めると憲法に明記する改憲案を表明】
“アボリジニー復権の動きはまだ途上であり、完全な平等化はまだ実現していない”とありますが、その動きのひとつが現在オーストラリアで大きな政治問題にもなっています。

****先住民の地位明記問う=豪、憲法改正の国民投票へ****
オーストラリアのアルバニージー首相は23日、記者会見し、先住民の地位確立のための憲法改正案を発表した。

改憲案は、(1)アボリジニとトレス海峡諸島民を「最初のオーストラリア人」と認めると憲法に明記
(2)先住民の代表機関「アボリジニとトレス海峡諸島民の声」を創設―の2項目。

年内に改憲の是非を問う国民投票を実施する方針だ。
同首相は「これは党派の政治を超えた課題だ。今やらなければ、いつやるというのか」と述べ、超党派の幅広い支持を呼び掛けた。【3月23日 時事】 
*******************

トレス海峡はオーストラリア・ヨーク岬とパプアニューギニアの間の海峡で、この地域の島々の住民はメラネシア人で、アボリジニとは区別されています。

【先住民の代表機関を創設することに野党・自由党は反対 ただ、党内には異論も】
アルバニージー首相は労働党で、いわゆる中道左派ですが、先住民の代表機関を創設することには「先住民に統治の特権を与えることになる」として、野党・自由党(いわゆる中道右派)などから異論が出ています。自由党のアボット元首相も反対を表明しています。

****アボット元豪首相、改憲に反対=「先住民に特権」と批判****
オーストラリアのアボット元首相は27日、アルバニージー首相(労働党党首)が打ち出した先住民の地位確立のための憲法改正案について、「先住民に統治の特権を与えることになる」として反対を表明した。

アボット氏がかつて党首を務めた野党・自由党は、改憲への賛否をまだ決めておらず、党内の反対論を勢いづかせる可能性がある。

改憲案は、アボリジニなど先住民の地位の明記と代表機関の創設が柱。アボット氏は同日付の豪紙オーストラリアンに寄稿し、先住民への支援は「一般の法律で対応できる」と指摘した。

また、過去に先住民の土地などが没収されたことについて「1世紀以上も前のことは、われわれの誰にも責任はない」と主張した。

一方、アルバニージー氏は記者会見で、代表機関について「先住民に直接関係する問題を協議するもので、防衛・外交政策を扱うわけではない」と説明した。【3月27日 時事】
*******************

上記アボット元首相の反対論が影響したのか、自由党は党として反対の立場を決定しています。

****豪最大野党、改憲案に反対=先住民「代表機関」のめず****
オーストラリアの最大野党・自由党は5日、議員総会を開き、アルバニージー政権が議会に提出した先住民の地位確立のための憲法改正案に反対する方針を決めた。

改憲案に盛り込まれた先住民の「代表機関」創設案を受け入れられないことを理由としている。政権側は超党派の支持を期待していたが、改憲実現のハードルが高くなった。

改憲案は「代表機関」を「先住民に関係する問題で議会や政府に意見を表明できる」と規定。自由党のダットン党首は総会後の記者会見で、先住民の地位を憲法に明記すること自体は容認するものの、「(代表機関の設置は)国民を分断しようとするものだ。良い結果をもたらさない」と批判した。

自由党と保守連合を組む国民党も、同様に改憲案に反対している。【4月5日 時事】
*******************

ただ、自由党内には異論もあって、自由党のターンブル元首相は賛成を明らかにしています。

****野党重鎮が改憲案に賛成=前先住民相は抗議の離党―豪****
オーストラリア最大野党・自由党のターンブル元首相(元党首)は6日、ツイッターに投稿し、アルバニージー政権が目指す先住民の地位確立のための憲法改正案に「何百万人もの国民とともに賛成票を投じるつもりだ」と表明した。同党は5日に改憲案への反対方針を決めたばかりで、重鎮の反旗は党員の判断に影響を与えそうだ。

6日には、自身も先住民である同党のワイアット前先住民担当相が、党方針に抗議して離党。豪メディアに対し、「先住民の声に耳を傾けることを自由党は拒んだ。党の価値を信じるが、現在の党の姿を信じることはできない」と語った。【4月6日 時事】 
***************

【賛成から反対に流れが変わった世論動向 政府は改憲を発議】
世論の方は、当初は賛成が反対を大きく上回っていましたが、野党・自由党の反対決定などもあって、反対意見が増えているようです。

****改憲反対5割超す=先住民地位、賛成と逆転―豪調査****
オーストラリア先住民の地位確立のための憲法改正案を巡り、13日発表の豪紙世論調査で反対が5割を超え、初めて賛成と逆転した。10〜12月の国民投票実施を目指すアルバニージー政権にとって厳しい結果となった。
 
シドニー・モーニング・ヘラルド紙が今月6〜11日に約1600人を対象に行った調査で、改憲への賛否を二者択一で尋ねたところ、賛成49%、反対51%だった。

1、4両月の調査ではいずれも賛成58%、反対42%と賛成がリードしていた。各種調査で賛成が減り、反対が増える傾向にあるが、ついに形勢が逆転した。

改憲案は先住民アボリジニとトレス海峡諸島民を「最初の豪州人」と認め、議会や政府に意見具申できる代表機関を創設するという内容。野党・自由党など反対勢力は「一部国民に特権を与え、分断を招く」と批判しており、反対意見の伸長につながったもようだ。【6月13日 時事】 
********************

アルバニージー政権は改憲案の国民投票を実施する意向を変えていません。

****豪、改憲国民投票へ=先住民地位巡る発議案可決****

8371
ーストラリア上院は19日の本会議で、先住民の地位確立のための憲法改正発議案を可決した。既に下院を通過しており、10〜12月に国民投票が行われる見通し。

改憲案は、先住民のアボリジニとトレス海峡諸島民を「最初の豪州人」と認め、議会や政府に意見具申できる代表機関を創設することを定めている。【6月19日 時事】 
********************

国民投票は10~12月ということでまだ時間がありますので、世論動向は更に変化することもあると思われます。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

南太平洋島しょ国  米中の影響力拡大競争の主戦場 島しょ国は競合を利用して最大利益を目指す

2023-06-13 23:32:06 | オセアニア

(【imidas】)

【中国の南太平洋進出の橋頭保ソロモン諸島】
世界各地で影響力を競うアメリカと中国ですが、その主戦場のひとつが南太平洋であり、米中双方の陣取り合戦のような様相を呈しています。

中国にとって台湾を国際社会から締め出す外交戦の「成功例」であり、また、この地域への進出の橋頭保ともなっているのが、かつて日本軍がガダルカナル島の死闘を繰り広げたソロモン諸島です。ソガバレ首相は中国支持を鮮明にしています。

****ソロモン諸島****
ニューギニア島の東方に位置し、1千近い島や環礁で構成される島嶼(とうしょ)国。人口約72万人。1978年に英国から独立した。

林業や漁業が主な産業で、輸出の7割近くが中国に集中している。南太平洋の中でも経済発展が遅れており、国連は途上国の中でも開発の遅れた「後発開発途上国」に認定している。ソガバレ現首相は2000年以来、4度首相を務めている。【6月6日 産経】
******************

ソガバレ政権は2019年、台湾と断交して中国と国交を樹立しましたが、中国・台湾の選択は、伝統的な島の間の反目・対立と重なり、国を分断する状況ともなっています。

****中国が「国の分断招いた」 対中傾斜で揺れる島国ソロモン****
太平洋戦争の激戦地として知られる南太平洋のソロモン諸島は今、中国の太平洋進出を象徴する島国だ。約4年前に台湾と断交して中国と国交を結び、軍事拠点化も警戒される。現地を訪ねると、中国の経済支援による発展への期待がある一方、中国との関係が「国の分断を招いた」との強い懸念も上がっていた。

ガダルカナル島にある首都ホニアラの国際空港と中心部をつなぐ幹線道路は、舗装はされていてもデコボコがひどい。車に乗って激しく揺られていると、市街地の外れに近代的な競技場の建設現場があった。11月に行われる南太平洋諸国の競技大会「パシフィックゲームズ」の会場だ。資金は中国の無償支援。周囲に高い建造物は少なく、その存在感は異彩を放つ。

(中略)近くに住む男性、ウィリアム・ダグラスさんはスポーツ振興への期待を膨らませる。ただ、「将来はどう管理するんだろう」と漏らす。

人口の約23%が1日1・9ドル(約260円)未満で暮らす貧しい国が競技場を持続的に運営できるのかとの疑問だ。「懸念はその通りだ。計画はない。中国からの友好のプレゼントは国の負担になる」と語るのは、野党国会議員のピーター・ケニロレア氏。建設を決めたソガバレ首相を批判した。

中国人が「職を奪う」
ソロモンは1978年に英国から独立後、83年に外交関係を結んだ台湾から熱心な支援を受けた。ホニアラの国立病院など台湾支援で完成した施設は多い。

だが、ソガバレ政権は2019年、「国益に基づく対外関係の見直し」を理由に台湾と断交し、中国と国交を樹立。経済支援をテコに台湾の孤立化を目指す中国の〝成功例〟となった。

ケニロレア氏は突然の転換の理由が不明だと憤る。中国の過剰な融資で途上国が苦しむ「債務の罠(わな)」への心配もあるが、それ以上に大きな問題と感じるのは「外交関係の変更が国を分断したことだ」という。

国の「分断」の例が、21年11月の暴動だ。台湾との断交に反発した野党支持者や親台湾派が多いマライタ島出身者らが、ソガバレ政権の退陣を訴え、政権を支える中国への反発も拡大した。ホニアラの中華街が放火され、少なくとも市民3人が死亡した。

中華街には暴動の跡が残る。近くに住む女性のジョージナさんは、暴動に加わらなかったが「気持ちは理解できた」という。1970年代頃から中国系住民が増え、小売業を中心に地元の店の経営が圧迫されていると不満がくすぶっていた。「そんな不満に中国との国交が火をつけたのではないか」とジョージナさんは推察した。

ソロモンでは伝統的にガダルカナル島とマライタ島の間で反目がある。マライタ州のダニエル・スイダニ前知事は、中央政府の外交転換がマライタの住民を刺激したと説明する。マライタは台湾支援のインフラも多く、親台湾的な土壌があるため、「従来の対立を一層深めた」という。

中国への支持が浸透しているとはいえない。昨年の世論調査では、中国からの援助に肯定的な回答は23%で、否定的な回答は77%に達した。「台湾への親しみは全国的に深い。それでもソガバレ氏は中国を選んだんだ」。スイダニ氏は語気を強めた。

今年5月、ホニアラの国立病院では台湾支援を示す記念碑が突然撤去された。野党側は背後に中国の指示があると批判するが、理由は不明。ただ、病院を利用する女性は「台湾がつくったこの病院に愛着がある。記念碑が壊され、非常に憤っている」と語った。

「地政学が国を富ます」
国内に反発が根強くても、ソガバレ政権の中国接近は止まらない。中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)による約160基の電波塔建設を決め、3月には中国企業と「1億ドル規模」の港湾改良事業の契約を締結した。

政権与党に近いガダルカナル州のフランシス・サデ知事は「独立以来貧しいこの国にとり、望ましいのはインフラが整備されることだ」と中国の進出を歓迎する。中国は意思決定も早いと称賛し、中国への警戒は「一部のメディアが言っているだけ」と切り捨てた。

ソロモンは米国とオーストラリアを結ぶ海路の要衝だ。米国はその中国傾斜を警戒し、2月に大使館を開設するなど関与を強化。サデ氏は「国の価値は中国と国交樹立以降、高まった。あなたのような記者も来るようになった」と笑い、米国や日本の支援にも期待を寄せた上でこう述べた。
「地政学が国を発展させるのだ」【同上】
*********************

アメリカ・中国といった大国がその影響力を強めようとする一方で、現地の島しょ国はその競合を利用して自らの利益につながるパートナーをしたたかに選ぼうとしています。

【ミクロネシア連邦 アメリカと経済支援継続で合意 フィジー 中国との警察間協力協定を見直す】
他方、南太平洋地域への中国進出を強く批判していたがミクロネシアのパニュエロ前大統領でしたが、その退任がどのように影響するか注目されていました。

****ミクロネシア・新大統領の外交方針に注目 前大統領は中国批判の急先鋒****
南太平洋の島国、ミクロネシア連邦。選出された新大統領の外交方針が注目されますが、前の大統領は次期政権への書簡で、中国ではなく台湾との関係強化を模索していたことを明かしていました。

赤道のすぐ北に位置する南太平洋のミクロネシア連邦。きのう、新大統領として連邦議会議長だったウェズリー・シミナ氏(61)が選出されました。

実は、ミクロネシアをはじめとする島しょ国に安全保障協定を提案するなど、外交攻勢を強めるのが中国。こうした中で、パニュエロ前大統領は中国批判の急先鋒でしたが、退任が決まった直後、次期政権や州知事らに宛てた書簡をJNNは入手しました。

ミクロネシア パニュエロ前大統領「中国の大使はミクロネシアをアメリカ、日本、オーストラリアなどとの伝統的な連携から抜けさせる任務を与えられている」

書簡では中国への強い危機感を示し、「ミクロネシアの政府高官らは中国に賄賂で買収され、中国の利益のために行動している」とも非難しました。

そして…(中略)「2月に台湾の外交部長と会談し、中国の代わりに台湾と外交関係を樹立した場合、どのような支援が可能か聞いた」 中国と断交し、台湾との外交関係樹立を模索していたことも明かしていました。

一方、シミナ新大統領は就任前には議長として「ひとつの中国」政策を堅持する決議に携わっていて、今後の外交姿勢が注目されます。(後略)【5月12日 TBS NEWS DIG】
****************

そのミクロネシアは、アメリカと「自由連合協定(コンパクト)」に基づき経済支援を継続するための交渉を終え、合意文書に署名しています。

****米、ミクロネシアと戦略的協定文書に署名 経済支援継続で合意****
米国務省は23日、太平洋の島しょ国ミクロネシア連邦との「自由連合協定(コンパクト)」に基づき経済支援を継続するための交渉を終え、合意文書に署名したと発表した。コンパクトは米国が太平洋地域で中国に対抗する上で重要な戦略的協定。

国務省によると、ミクロネシアの交渉官と米大使館の代理公使がコンパクトに関連した3つの合意に署名した。「連邦プログラム・サービス合意」に基づくプログラムなどを継続するための交渉はなお続いている。

米国は1980年代にミクロネシア、パラオ、マーシャル諸島とコンパクトを締結。米国は同協定の下、防衛面の責任を担い経済支援を提供する代わりに、太平洋の広大な戦略的地域への独占的アクセスを得ている。

同協定の更新は、太平洋で影響力を強める中国に対抗する米国の取り組みの重要な部分となっている。【5月24日 Newsweek】
******************

フィジーでは、昨年末に誕生したランブカ政権は中国との間で民主主義の価値観を巡る相違があるとの考えから、中国に融和的な外交方針を転換し、オーストラリアなど民主主義国家との連携を重視する姿勢を示しています。

****フィジー首相、中国との警察協定見直しを表明 「民主主義国家との協力」推進へ****
南太平洋のフィジーのランブカ首相は7日、訪問先のニュージーランド(NZ)で記者会見し、中国と締結している警察間の協力協定を見直す意向を正式に表明した。

中国は治安維持部門の協力をテコに南太平洋島嶼(とうしょ)国への影響力拡大を狙っている。協定が解消されれば、他の島嶼国の対中関係にも影響を与える可能性がある。

フィジーでは2006年のクーデターで軍が実権を握った。強引な政権奪取に反発した欧米が援助停止などの措置を取った結果、軍政は中国に接近。警察間の協力協定は11年に締結され、警察部門の相互交流が始まった。

22年12月の総選挙後に誕生したランブカ政権は、中国に融和的な外交方針を転換し、オーストラリアなど民主主義国家との連携を重視する姿勢を示している。

ランブカ氏は7日、NZで「(警察に関する協定を)維持するか、それとも民主主義を共有する国々と協力するのか、検討する必要がある」と述べ、見直す意向を表明した。フィジーとNZは月内にも軍同士の連携を強化する地位協定を締結する見通しだ。

中国は22年11月に島嶼国の警察トップを招待したオンライン国際会議を開催するなど、治安維持面の連携強化で各国に浸透する姿勢を見せている。【6月8日 産経】
*********************

【アメリカにとって痛手となったG7後のバイデン大統領パプアニューギニア訪問の中止】
アメリカは、大使館開設を進めることで島しょ国との関係強化を図っています。

****米、月内に在トンガ大使館開設=対中念頭に関与強化****
クリテンブリンク米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は2日、太平洋の島国トンガで月内に大使館を開設すると明らかにした。上院外交委員会の小委員会で開かれた公聴会で表明した。

バイデン政権は2月、ソロモン諸島で約30年ぶりに大使館を復活し、3月にはバヌアツに大使館を開く方針を発表。キリバスでの大使館設置も目指している。ただ、クリテンブリンク氏は「バヌアツとキリバスに関して、日程は保証できない」と語った。

太平洋諸国への影響力拡大を図る中国に対抗し、バイデン政権は地域への関与を強めている。バイデン大統領は広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)出席後、22日にパプアニューギニアを訪問し、周辺各国・地域首脳らとの会合に出席する。【5月3日 時事】 
*******************

そのアメリカの影響力強化にとって、上記記事にあるG7サミット後のバイデン大統領パプアニューギニア訪問が大きな節目になると期待されていましたが、アメリカ国内の債務上限引上げ問題で訪問中止になったのは周知のところ。

バイデン大統領に代わってブリンケン国務長官が訪問。

****米・パプアニューギニアが防衛協力協定を締結 “中国念頭”もバイデン大統領は訪問見送り****
アメリカとパプアニューギニアが防衛協力協定を結びました。太平洋島しょ国への影響力を増している中国を念頭にした動きです。

22日、パプアニューギニアを訪れたアメリカのブリンケン国務長官はマラペ首相と会談し、2国間の防衛協力協定に署名しました。中国が軍事的・経済的に太平洋島しょ国への影響力を増す中、アメリカとしてくさびを打つ狙いがあります。

パプアニューギニアには、バイデン大統領が現職のアメリカ大統領として初めて訪問し、防衛協定に署名する予定でしたが、債務上限問題に対応するため訪問を見送り、ブリンケン長官が代わりを務めました。

訪問の見送りに伴い、バイデン政権は今年の秋にワシントンで太平洋島しょ国の首脳を集めた会議を開くことを急きょ発表するなど、影響力維持への対応に追われています。【5月22日 TBS NEWS DIG】
*********************

パプアニューギニアのマラペ首相は、アメリカと調印した防衛・海洋監視協定によって同国が戦争の拠点に利用されることはないと言明するとともに、協定は攻撃的軍事行為を禁止していると説明しています。

パプアニューギニアでは、協定が同国を米中の戦略競争に巻き込む恐れがあるとの懸念から学生が抗議行動を起こしています。

いずれにしても、バイデン大統領のパプアニューギニア訪問が中止になったことは、アメリカの対中国戦略にとって大きな痛手でした。

****米中対立の中で重要性増すパプアニューギニア****
5月18日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)社説が、太平洋で中国と競争する中、バイデンのパプアニューギニアおよび豪州の訪問中止は、前進を見せている米国の島嶼国外交に暗雲を垂らすものだと批判している。

バイデンは日本での主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の後に予定していたパプアニューギニアと豪州への訪問を中止したが、それは恥ずべきことだ。バイデンは、債務上限問題を代理に任せることができたが、訪問中止はバイデン政権が西・南太平洋における中国の挑戦に対応するために達成しつつあった前進を危うくするものだ。

2022年に中国がソロモン諸島と安保協定を締結して以来、米国は、この地域での外交と戦略的関与を強化した。パプアニューギニアの首相マラぺは、同国はいずれにせよ米国との防衛協力と公海での不法活動海洋取締りに関する二つの協定の署名を行うと述べた。

これらの合意は、太平洋での施設へのアクセスを拡大させ、米国にとって重要な前進となる。この合意により、米軍はパプアニューギニアの港湾施設を使用できるようになるとともに、空港での給油のための立ち寄りも可能になる。これは、豪州やフィリピンのような伝統的同盟国を除けば最近では初めての太平洋での新たな施設へのアクセスを可能とするものだ。

バイデン政権はミクロネシアとパラオとの自由連合盟約の改定がまとまったことを発表した。米国は最近太平洋諸島フォーラム(PIF)への特使を任命し、島嶼国の地域機構との関与を拡大しようとしていた。

これらによって、西太平洋の第二列島線の内外の水域での米国のプレゼンスを強化できる。第一列島線は、日本から台湾を含み、北フィリピン、ボルネオまでで、第二列島線は、東に伸び、北マリアナ諸島、グアムの米軍基地、パラオ、そしてパプアニューギニアまで続く。

 中国は、偵察船をパプアニューギニアや豪州周辺水域にまで航行させている。新たな米国の前線施設は、米国の海洋監視能力と相俟って、米国やパートナー国をして中国の海軍船団が何をしているかにつき一層監視することを可能にする。バイデンは、早期に当該地域への訪問を再調整することが賢明であろう。

*   *   *
(中略)バイデンのパプアニューギニアと豪州訪問の中止は、ワシントンではかなりの波紋を呼んでいるようで、上記のWSJのみならず、その後ワシントンポスト紙(WP)も社説で同様に批判している(5月21日付「バイデンは太平洋訪問を中止。今やダメージ・コントロールが必要」)。WP社説は、共和党に批判を向けている。

バイデンは、できるだけ早期にパプアニューギニアを訪問すべきだろう。中国が太平洋の島嶼国に対する影響力を強める中、これらの国との関係を当然視すべきではない。9月のインドでの20カ国・地域(G20)首脳会議出席の際の訪問がひとつの可能性になるのではないか。

バイデンはパプアニューギニア訪問を
(中略)なお、ブリンケンはPIF会合での挨拶の中で、島嶼国に対する米国の種々の新たなイニシアチブに言及するとともに、今年の秋に米国で第2回米・太平洋島嶼国首脳会合を開催することとし、関係国の参加を招請した。

もちろん米国での会議も良いが、やはりバイデンはとにかく太平洋島嶼国を直接訪問すべきではないか。米国の大統領は未だ誰もそうしていない。ワシントンでの会議は、米大統領の現地訪問に代えることはできない。機会を見つけて島嶼国を訪問すべきだろう。

パプアニューギニアとの協定は重要なものである。パラオとのコンパクトも同様だ。マーシャル諸島とのコンパクトも早く纏めるべきだ。5月22日、中国外務省報道官は米国とパプアニューギニアの防衛協力協定の署名を「いかなる協力も第三者を標的にしてはならない」と批判した。

日本も、米国や豪州などと協力して島嶼国との関係強化に努めてゆくべきだ。3月、林外相がソロモン諸島とクック諸島を訪問したことは良いことだった。先般のG7広島サミットにはマーク・ブラウン・クック諸島首相がPIF議長国として招待参加した。良いことだった。【6月13日 WEDGE】
*****************

今後、南太平洋島しょ国をめぐるアメリカ・中国の陣取り合戦はますますヒートアップすることが想像されます。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オーストラリア  中国に対抗してAUKUSで原潜開発 問題が多い中、そもそも効果があるのか?

2023-03-25 22:28:09 | オセアニア

(AUKUSは13日、首脳会談を開き、中国への抑止力強化に向けてオーストラリアへの原子力潜水艦の導入計画を発表した。【3月14日 FNNプライムオンライン】 左からアルバニージー豪首相、バイデン米大統領、スナク英首相)

【英米豪がインド太平洋への関与を強化することを内外に示す象徴的な意味合いも】
3月16日ブログ“オーストラリア  中国との貿易戦争を経て、経済面で関係改善の動き 安全保障面では米欧基軸”でも取り上げたように、オーストラリアは経済関係については中国との関係改善の動きを見せている一方で、安全保障面では「AUKUS」や「QUAD」といった米欧基軸の外交政策を強めています。

その象徴が「AUKUS」の枠組みでオーストラリア海軍の原子力潜水艦を建造すると共同声明です。

****米でAUKUS首脳会合 インド太平洋安定化へ結束 次世代攻撃型原潜を共同開発****
バイデン米大統領は13日、インド太平洋における米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の首脳会合を西部サンディエゴで主催した。

3カ国首脳は中国の覇権的な海洋進出に対抗するため、2030年代前半までにオーストラリアが米原子力潜水艦を最大5隻購入することや、米英が共同で次世代攻撃型原潜「オーカス」を建造する計画を発表。バイデン政権は長期に及ぶ中国との競争を見据え、米国を中心とした民主主義陣営の抑止力強化に全力を挙げる構えだ。

会合にはバイデン氏、スナク英首相、アルバニージー豪首相が出席。バイデン氏は両首相とともに演説し、「オーカスの目的は世界情勢が急速に変化する中でインド太平洋の安定を維持することだ」と語り、今回の成果を域内外の同盟・パートナー諸国との連携強化につなげると強調した。

ホワイトハウスによると、今回合意した計画は複数のフェーズ(段階)に分けられる。第1フェーズでは今後の数年間で米英潜水艦による豪州への寄港実績を積み上げ、原潜の運用・建造に関連する豪州側への訓練を加速。早ければ27年にもインド太平洋を巡回する米英潜水艦のローテーション部隊を設置する。

第2フェーズの30年代前半には豪州が、通常動力型潜水艦の退役による戦力の穴を埋めるため米国からバージニア級攻撃型原潜3隻を調達。豪州はさらに2隻を追加購入することもできる。

さらに第3フェーズでは英国の設計と米国の技術による次世代攻撃型原潜オーカスを開発し、英国で30年代後半に、豪州で40年代前半にそれぞれ建造する。

首脳会合が行われたサンディエゴは米太平洋艦隊の主要拠点。3カ国がインド太平洋への関与を強化することを内外に示す象徴的な意味合いがある。【3月14日 産経】
*********************

【2040年代前半に1隻、2060年代までに最大で8隻】
少し詳しく見ると、下記のような内容になっています。

*********************
(1)イギリスが開発計画を推進している次期攻撃原潜をベースに、アメリカも技術協力をすることによってオーストラリア海軍用の新型攻撃原潜、SSN-AUKUSを開発する。

(2)イギリスで設計・建造される新型攻撃原潜は2030年代末までにイギリス海軍が手にする。SSN-AUKUSの一番艇は、2040年代前半にはオーストラリア海軍へ配備する。

(3)オーストラリア海軍のSSN-AUKUSは、2040年代からはオーストラリアで2年に1隻のペースで建造される。オーストラリア海軍は2060年代までに最大で8隻のSSN-AUKUSを手にすることになる。

(4)すでに老朽化してしまったオーストラリア海軍潜水艦戦力を補強するため、2027年を目標に、アメリカ海軍とイギリス海軍の攻撃原潜をオーストラリアに巡回配備させる。

(5)オーストラリアに交代で配備されるイギリス海軍攻撃原潜は1隻とし、アメリカ海軍攻撃原潜は最大4隻まで拡大させる。

(6)2030年代前半には、アメリカはオーストラリアに3隻のヴァージニア級攻撃原潜を売却し、それに加えて2隻の追加売却の可能性もオプションとして残す。【3月23日 北村 淳氏 JBpress】
**********************

中国の海洋進出に対し、オーストラリア海軍は極めて弱体なことから、それを補強するための計画です。

もともとオーストラリアの潜水艦建造についてはフランス、ドイツ、遅れて日本も参加して競合した結果、フランスから調達することに決まっていました。

そのフランスとの契約を、見積り金額が高騰し予定納期も伸びてしまっていたこともあって、オーストラリア政府に一方的に破棄し、そのかわりに今回のAUKUSによる原子力潜水艦SSN-AUKUS開発ということになっています。

一方的に契約破棄されたフランスは激怒し、一時豪仏関係は険悪にもなった経緯があります。

【与党内からも異論 膨大な開発費用 使用済み核燃料保管先の問題】
しかし、このAUKUSによる原潜開発にはオーストラリア国内で与野党元首相などから異論が出ていることは前回ブログでも取り上げました。

****豪元首相2人が原潜反対 AUKUS「最悪の合意」****
オーストラリアのキーティング元首相(与党労働党)が15日、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づく原子力潜水艦の導入について、巨額の費用を理由に「歴史上最悪の合意だ」と批判した。

ターンブル元首相(野党自由党)も16日、原子力産業のないオーストラリアには技術者が少なく「非常に大きなリスクを伴う」と反対した。

与野党の首相経験者による攻撃に国内で衝撃が広がっている。アルバニージー首相や閣僚は終日、釈明に追われた。

キーティング氏は1990年代に首相を務めた与党労働党の重鎮。15日に全国記者クラブで講演し、オーストラリアで広がる中国脅威論について「歪曲であり真実ではない」と主張した。

13日に米サンディエゴで行われた米英豪の3首脳による記者発表を「歌舞伎ショー」とやゆ。バイデン米大統領とスナク英首相がうれしそうにしていたのは、オーストラリアが最大3680億豪ドル(約32兆円)を「米英の軍事産業に支払うからだ」と皮肉った。【3月16日 共同】
*******************

労働党は中国重視の傾向が強いこともあって、キーティング元首相(与党労働党)の異論もそうした姿勢を反映したもののようにも見えます。

問題は、キーティング元首相も指摘するように開発費用が大きな負担になること、そして、使用済み核燃料の保管先をどうするのかということです。

****米英との原潜共同開発、揺れるオーストラリア与党 党内重鎮が反発****
米国と英国、オーストラリアの3カ国で作る安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」の合意に基づく豪州での原子力潜水艦の建造計画を巡り、アルバニージー政権の与党・労働党が揺れている。

巨額の費用などを理由に党重鎮が反対を表明。また原潜の運用に伴う使用済み核燃料の保管先を巡り、同党の政治家がトップを務める州で意見が分かれている。(中略)

AUKUSの結成や豪州の原潜計画は、軍事的影響力を拡大する中国を念頭に置く。建造や維持管理などに今後30年で最大3680億豪ドル(約32兆8400億円)の費用が見込まれる。アルバニージー首相、バイデン米大統領、スナク英首相は13日、米海軍基地がある西部カリフォルニア州サンディエゴで会談し、記者会見でその意義を強調した。

この計画に異を唱えるのが1990年代に首相を務めた労働党のキーティング氏だ。15日に開催された豪州記者クラブ主催のイベントで「中国が脅威を示唆したことはない」と指摘し「史上最悪の合意だ」と現政権を非難。「外交的手腕を活用できていない」と述べ、外交を通じて地域の安定を図ることの重要性を強調した。

これに対しアルバニージー氏は16日、ラジオ番組で「90年代以降、時代は変わり、中国も姿勢を変化させた」と反論。中国の脅威を踏まえ、原潜計画の必要性を訴えている。また雇用や関連産業の活性化による経済効果を生むと訴えている。(中略)

そこで問題となるのが「核のゴミ」だ。必要なエネルギーの5割以上を石炭による発電に頼り原発を保有しない豪州では、放射性廃棄物は医療機関などで排出された低レベルのものがほとんどだ。だが原潜が動き出せば、使用済み核燃料など高レベルの放射性廃棄物を保管する場所が必要となる。

保管場所を巡り早くも与党内で神経戦が始まっている。南東部ビクトリア州のアンドリュース首相(労働党)と西オーストラリア州のマクゴワン首相(同)は、原潜建造計画によって今後、30年で2万人分の雇用が生まれると指摘。

(建造計画の拠点になるとみられる「豪州潜水艦企業体」)ASCが拠点を置く南オーストラリア州の利益が大きいとして、同州が核燃料廃棄も責任を持つべきだと強調する。これに対し同州のマリナウスカス首相(同)は「核燃料廃棄は国レベルで協議することだ」と反発する。

ニュースサイト「豪ガーディアン」は21日、原潜の計画とその費用についての世論調査を発表した。結果は「原潜は必要ない」28%▽「必要だが費用が釣り合わない」27%▽「必要で費用は妥当」26%となり、国民の意見も割れているようだ。

豪フリンダーズ大のザク・ロジャーズ研究員(防衛論)は「原潜の保有は、豪州の防衛だけを考えれば不要かもしれないが、軍拡を続ける中国への将来的な抑止力になる」と指摘。

「政権は、AUKUSに協力しなければ、中国に強い姿勢で臨むべきだと考える有権者から『中国寄り』だとみられて政権維持に影響することを懸念している」とも説明する。

一方で、国防費が膨らんで医療、年金などにしわ寄せがくれば世論が反発する可能性がある。ロジャーズ氏は「使用済み核燃料の問題も議論しなければならず、実際に原潜の建造が可能かを含め課題が山積している」と話した。【3月25日 毎日】
******************

【いつになるかわからない原潜開発 中国が警戒していたのは日本潜水艦の採用】
上記のような開発費用、使用済み核燃料の保管先の問題に加えて、そもそも新たに原潜を開発するという今回計画が本当に効果的なのか? という疑問もあります。

2040年代前半に1隻、2060年代までに最大で8隻・・・・随分と時間がかかる計画で、しかも、こういう計画は遅れることが多いのが常識。

その頃には、今でもオーストラリア海軍を圧倒している中国海軍は更に増強されており、オーストラリアなど相手にもしない状況にもなっていることが予想されます。

中国が警戒していたのは、オーストラリアが優秀な日本潜水艦を調達することであり、今回のAUKUS開発になって、表向きの抗議とは裏腹に、本音ではほくそ笑んでいるとの指摘も。

****米英豪「AUKUS」潜水艦計画に中国が本当は胸をなでおろしている理由****
(中略)
中国にとって好ましい方向性を打ち出したオーストラリア
さらに中国にとっての朗報は、アメリカとイギリスが中国脅威論によってオーストラリア政府の恐怖心と警戒心を盛んに煽りたてて、アメリカの軍事力に一層頼るように仕向けたことと、見積り金額が高騰し予定納期も伸びてしまっていたフランスとの潜水艦開発契約をオーストラリア政府に一方的に破棄させることに成功したことである。

ただし、フランスとの契約破棄に乗じて、米海軍戦略家たちが期待したように、日本の潜水艦を取得することになってしまえば、中国にとっては思わしくない状況となったはずだ。

その場合には、オーストラリア海軍は2030年から日本が開発した新鋭潜水艦を手にすることになる。そして、アメリカ海軍が攻撃原潜を、日本とオーストラリアが高性能ディーゼル・エレクトリック潜水艦を運用することによって、潜水艦戦における効率的役割分担が強化できるという、米海軍潜水艦戦略家の期待が実現することになるのである。裏を返すと、中国にとってアメリカ陣営の潜水艦戦力は厄介度を増してしまうことになるのだ。

ところが、中国にとって再び好ましい方向性をオーストラリアは打ち出した。すなわち、当初の潜水艦戦力増強の理由付けを捨て去って、次期潜水艦をディーゼル・エレクトリック潜水艦からイギリス製あるいはアメリカ製の攻撃原子力潜水艦を取得することになったのだ。この方針は「AUKUS」という中国を念頭に置いた米英豪英語圏3国軍事同盟結成とともに打ち出された(2021年9月)。

当然ながら、中国は表向きは「アジア地域の平和を乱す時代遅れの冷戦的思考」と批判してはいたものの、内心はほくそ笑んでいたものと思われる。

なぜならば、オーストラリアは、中国海軍にとっては厄介なオーストラリア北方の多数の島々が横たわっている海域で、攻撃原潜よりも強敵となる高性能ディーゼル・エレクトリック潜水艦を捨て去ってしまったからである。

アメリカが自国製潜水艦を売りつけるための茶番劇?
そして、AUKUS結成の際に公約したように、1年半後の2023年3月13日に、オーストラリア海軍潜水艦調達計画が上記のごとく公表された。

中国は今回のAUKUS共同声明に対しても、強い懸念を表明しているが、実際にはアメリカが自国のヴァージニア級潜水艦を無理やり売りつけるための茶番劇と考え、笑いが止まらないといったところであろう。

なんといっても、開発・建造・配備に長時間がかかる攻撃原潜をオーストラリアが手にするのは早くとも2040年代となる。

現時点で攻撃原潜(旧式を除く)を6隻以上、ディーゼル・エレクトリック潜水艦(旧式を除く)を44隻以上保有する中国海軍は、2040年代には新旧交代を考慮しても攻撃原潜は14隻以上、ディーゼル・エレクトリック潜水艦は50隻以上有し、オーストラリア海軍など歯牙にもかけない状況をさらに強化していることは確実である。

やはり中国海軍にとって気になるのは、アメリカやイギリスに振り回されているオーストラリア海軍のいつになったら誕生するかわからない攻撃原潜ではなく、着実に自国での生産を推し進めている日本と韓国(攻撃原潜の開発にも着手している)の潜水艦戦力の動向であろう。【3月23日 北村 淳氏 JBpress】
********************

こうしたあまり効果が期待できない原潜開発によって“国防費が膨らんで医療、年金などにしわ寄せがくれば世論が反発する可能性がある。”【前出 毎日】・・・・お上(おかみ)の決定に従順な日本と違って、フランスで年金改革で大規模デモが繰り返されているように、外国では自分たちの“権利”が改悪されることに国民は強く抵抗します。

アルバニージー政権にとっては、かなり荷が重い原潜開発のように思えます。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オーストラリア  中国との貿易戦争を経て、経済面で関係改善の動き 安全保障面では米欧基軸

2023-03-16 23:14:25 | オセアニア

(習近平国家主席は(2022年11月)15日午後、オーストラリアのアルバニージー首相とインドネシア・バリ島で会談した。【2022年11月16日 人民網日本語版】)

【豪中貿易戦争 「豪州は問題を起こす国だ。靴の裏にこびりついたチューインガムのようなものだ」】
中国との関係悪化が目立つカナダについて、3月8日ブログ“カナダ 中国の選挙介入疑惑で、冷え込んでいた中国との関係が更に悪化”で取り上げた際に、“一時期中国と険悪な関係に陥ったオーストラリアの方は、最近、オーストラリア・アルバニージー首相が訪中意欲を示すなど経済を中心に関係改善の兆しが見えています。”と触れたオーストラリアの話。

経済的には強いつながりがあるなかで、目に見えてオーストラリアと中国の関係が悪化したのは新型コロナが拡大した際に、オーストラリア保守党政権が中国発生源に関する独立した調査を求めたあたり。

****中国が豪州に「報復」連発…コロナ発生源の調査求められ、食肉輸入停止で対抗か****
新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、独立機関による中国での調査を求めるオーストラリアが、中国の対抗措置とみられる動きに揺れている。豪州産の大麦に高関税が課される可能性が出ているのに加え、豪政府は(20年5月)12日、中国が豪州の食肉処理大手4社に対し、輸入停止措置を取ったと明らかにした。

◆輸出の35%
サイモン・バーミンガム豪貿易相は12日の記者会見で、中国による輸入停止は食肉表示に関する技術的問題への対応だと説明し、「(中国側の)許可を得るために力を尽くす」と述べた。豪州の牛肉輸出のうち中国向けが4分の1を占める。豪公共放送ABCによると、4社は牛肉の対中輸出の35%を手がけており、食肉業界団体幹部は「非常に深刻に受け止めている」と動揺を隠せない様子だ。

豪州では穀物生産者団体などが10日、豪州産の輸出大麦に中国が約80%の高関税を課す可能性があると明らかにしたばかりだ。(中略)
 
◆チューインガム
中国のこうした動きに関し、ABCなど豪州メディアは、豪政府が新型コロナの発生源や感染拡大に関し、中国・武漢の研究施設からの拡散の可能性を念頭に調査実施の必要性を訴えていることへの報復との見方を伝えている。

スコット・モリソン豪首相は4月23日、記者会見で発生源に関し「独立した調査が必要だ」と強調した。世界保健機関(WHO)加盟国の査察受け入れを義務付けるべきだとも主張している。

これに対し、中国外務省の耿爽グォンシュワン副報道局長は、「国際的な防疫協力を妨害するものだ」と強く反発した。中国紙・環球時報の胡錫進フーシジン編集長はSNSに、「豪州は問題を起こす国だ。靴の裏にこびりついたチューインガムのようなものだ」と書き込み、不満ぶりを強調した。
 
◆5Gでも対立
豪州は調査実施の姿勢を崩していないが、貿易を巡る中国の相次ぐ措置には不安を募らせている。最大貿易相手国の中国は、豪州の輸出入額の約4分の1を占めるからだ。モリソン氏は現状について、「両国にとって貿易は非常に重要で有益だ」などと述べるにとどめている。

豪中の間では近年、外交面での摩擦が頻発している。
次世代通信規格「5G」導入を巡っては、情報工作への懸念を深めた豪当局が中国企業を排除し、中国が不満を示した。

豪州と歴史的につながりが深い南太平洋の島嶼とうしょ国では、中国が巨額の財政支援を通じて影響力を拡大しており、豪州も経済協力の拡大で対抗しようとしている。【2020年5月13日 読売】
******************

中国の豪への輸入規制は、記事にある牛肉・大麦の他、石炭・綿花・ワインなど豪の輸出主要品目に及びました。

当時はアメリカ・トランプ大統領が過激な中国批判を行っていた時期で、豪政権はそれに沿っただけで、中国としてもさすがにアメリカとは事を構えられないので、代わりに豪を“いじめている”といった印象もありました。

【中国の豪政治への介入に対する批判も】
一方、こうした貿易戦争が繰り広げられているオーストラリア国内では、中国が豪政治に介入しようとしているという批判が強まり、国民世論・政界の対中国感情は更に悪化しました。

****総選挙にちらつく中国の影 オーストラリア国民の選択は****
オーストラリア総選挙は21日に投開票され、22日未明までに大勢が判明する見通し。豪州では近年、中国が選挙に介入しているとの情報が絶えず、豪州政府は外国人からの政治献金を禁止するなど海外からの政治介入を阻止する仕組みを作ってきた。だが今回の総選挙でも中国の影がちらつく。選挙戦では中国との向き合い方が争点の一つとなっている。

「中国共産党は労働党に投票しろと言っている」。最大都市シドニーなどでは、中国の習近平国家主席が野党・労働党に1票を投じる図柄にこんなスローガンを記したトラックが走っている。現地メディアによると、与党系の市民団体による労働党攻撃の一環という。

総選挙は、モリソン首相の率いる保守連合(自由党、国民党)が勝利するか、労働党による9年ぶりの政権交代となるかが焦点。労働党は与党時代の政策が中国に融和的だったとして「親中」批判を浴びがちだ。

2月には中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)が「豪州国民はモリソンの言うことを信じなくなっている」と酷評し、労働党のアルバネージ党首を「光り輝いている」と絶賛する記事を掲載。与党による労働党攻撃の材料となっている。

モリソン政権は対中強硬姿勢を取り、2020年に新型コロナウイルスの発生源調査を求めたことで中国との関係が決定的に悪化した。日米印との安保協力の枠組み「クアッド」や米英との安保枠組み「AUKUS(オーカス)」を通じて米欧日との結束を強めている。選挙戦では中国の脅威を念頭に「労働党を選ぶのは安全保障上のリスクだ」と訴えている。

ただ、モリソン政権は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済の停滞などで支持率が低下しており、やや劣勢だと報じられている。(中略)

与党が「親中」攻撃をする背景には、国民の間に強まる中国への警戒感を刺激して、劣勢をはね返したい思惑がある。豪シンクタンク・ローウィー研究所の調査によると、豪州で「中国を経済パートナー」と考える人は18年に82%、「安全保障上の脅威」と見る人は12%だった。だが21年には経済パートナーと見る人が34%に下落する一方、安全保障上の脅威との見方が63%に上昇した。

(中略)豪州政界では中国の浸透工作をうかがわせる事件が相次いだ。16年、中国人実業家から資金援助を受けた労働党の国会議員が、南シナ海問題で中国を擁護する発言をしていたことが判明。これを受けて政府は18年、外国人からの政治献金を禁止した。19年の前回総選挙では、中国の情報機関から立候補を働き掛けられた自由党員の中国系男性が豪治安情報局(ASIO)に相談した後、死亡しているのが見つかった。(中略)

労働党は世論の動向も踏まえ、政権交代を果たしてもモリソン政権と同様に米欧基軸の外交政策を推進すると強調する。アルバネージ党首は「中国はより攻撃的になっている。豪州は同盟国などと協力して対応しなければいけない」と訴え、「親中」イメージを払拭(ふっしょく)しようと躍起になっている。(後略)【2022年5月21日 毎日】
******************

【経済面で豪中関係改善の動き アルバニージー首相は訪中の意欲も ただし、過度の中国依存は避ける構え】
上記総選挙の結果は労働党勝利で、アルバニージー氏が首相に。

安全保障面ではAUKUS・QUADなど中国包囲網的な米欧基軸の外交政策は今も続いていますが、経済的に重要な中国との関係について関係改善の動きが見られます。

“豪中首脳が短時間会話 ASEAN関連会議、3年ぶり”【2022年11月13日 産経】(アルバニージー首相と李克強首相)
“習近平国家主席がオーストラリアのアルバニージー首相と会談”【2022年11月16日 人民網日本語版】
“中豪外相会談で王毅外相「歴史的恨みや根本的利害対立はない」両国関係改善に意欲”【2022年12月21日 TBS NEWS DIG】

****豪の対中輸出に回復の兆し、外交関係の修復進む****
中国が課した「貿易障壁」で2年半にわたり低迷してきたオーストラリアの対中輸出に、回復の兆しが見え始めた。外交関係の修復で輸出復活への期待が高まり、関係の再構築に向けた企業の取り組みに拍車がかかっている。

中国とオーストラリアは、華為技術(ファーウェイ)による5世代(5G)移動通信網への参入制限、中国の情報機関によるオーストラリアでの工作疑惑、さらにはオーストラリア政府が新型コロナウイルスの発生源を巡り中国での国際調査を求めたことなどを巡って関係が悪化。中国は2020年から200億豪ドル(約140億米ドル)規模の貿易障壁を導入した。

しかし昨年11月以降、両国の首脳、外相、貿易相が相次いで会談するなど外交面で足並みをそろえた努力を進めたことで緊張緩和の兆候が表れ始めている。

オーストラリア産業界の首脳らはこうした政治的シグナルに注目している。資源大手フォーテスキュー・メタルズ創業者のアンドルー・フォレスト氏、同業BHPのマイク・ヘンリー最高経営責任者(CEO)、ワイン企業トレジャリー・ワイン・エステートのティム・フォードCEOはいずれも3月に訪中する予定だ。

豪林産品連合会(AFPA)のビクター・ビオランテ会長は、国内の農業関係者が最近、中国の税務当局と木材の輸入について「前向きな」協議を始めたと明かした。「(3カ月後か6カ月後の)近い将来、貿易が再開されるかもしれないと楽観視している」という。オーストラリア産木材の対中取引は以前、年6億豪ドルに上っていた。

貿易業者は既に緩和されている貿易障壁がさらに緩むと見込んでいる。先週にはオーストラリア産石炭を積んだ貨物船少なくとも15隻が中国に向かって航行、中国の綿花バイヤーも非公式な貿易規制の解除を当て込んでオーストラリア産綿花の輸入を進めている。

ただ、安全保障や人権などの問題を巡るめぐる対立から、貿易関係修復の道のりは紆余曲折が予想される。オーストラリアは3月、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づく原子力潜水艦の調達計画についてさらなる詳細を発表する予定で、中国政府はこうした動きに反対している。(中略)

貿易が再開されたとしても、オーストラリアの生産者の多くは中国に過度に依存した状態に戻るのは避ける構え。アルバニージー首相は来月、貿易相や資源相、大規模な企業代表団を引き連れてインドを訪問する。

カトル・オーストラリアのデービッド・フートCEO氏は、中国と切り離された生産業者は2年余りかけて新しい顧客を掘り起こしており、こうした顧客を手放すつもりはないと説明。こうした企業は「中国を再度取り込みたがるだろうが、新規顧客を失うことと引き替えにはしたくないだろう」と話した。【2月28日 ロイター】
********************

アルバニージー首相は訪中の意欲も示しています。

****豪首相、訪中に強い意欲 招待があれば「受け入れる」****
オーストラリアのアルバニージー首相は7日、関係が悪化していた中国から招待があれば「私は受け入れるだろう」と述べた。シドニーで記者団に語った。アルバニージー氏はこれまでも中国訪問の可能性に言及しているが、より踏み込んだ表現で、強い意欲を見せた形だ。

アルバニージー氏は「中国はわれわれの主要な貿易相手であり、国益にかなう」と語った。「協力できる分野では協力し、反対しなければならないところでは反対する」とも述べた。

日本や米国は、アルバニージー政権が中国に急接近することで、日米豪印の協力枠組み「クアッド」にほころびが出ないか注視している。【3月7日 共同】
******************

ただ、上記【ロイター】に“中国に過度に依存した状態に戻るのは避ける構え”とあるように、アルバニージー首相は、貿易・外国投資パートナーの多様化を目指す考えを表明し、新たな有望なパートナーであるインドを訪問しています。

****豪印、中国念頭に連携強化 首脳会談 安保や貿易など幅広く****
オーストラリアのアルバニージー首相は10日、訪問先のインドの首都ニューデリーでモディ首相と会談した。両首脳は安全保障や貿易など幅広い分野での連携強化で一致。両国は日米豪印の協力枠組み「クアッド」の一翼を担うが、中国を念頭に2国間関係も同時に強化していきたい考えだ。

アルバニージー氏のインド訪問は2022年5月の首相就任後初。会談後の会見で、アルバニージー氏は、安保面での連携で「重要かつ野心的」な進展があったと言及。経済面の関係緊密化でも合意し、両国間の包括的な自由貿易協定(FTA)の締結について年内に目途を付けたい考えを示した。

両国は対中関係がそれぞれ冷え込んでおり、連携の重要性が増している。20年には2国間関係を戦略パートナーシップから包括的戦略パートナーシップに格上げした。豪州紙オーストラリアン・フィナンシャルレビュー(AFR)は豪州にとりインドは「中国とは異なり、大きなプラスをもたらす」存在だと指摘した。

特に資源大国である豪州にとり、中国は大口の輸出先だが、外交関係悪化を受けて貿易の多様化を模索している。経済成長を遂げるインドは接近したい相手で、アルバニージー氏の訪印には財界関係者らも同行した。

AFRはウクライナ侵略をめぐるインドの対露融和姿勢など懸念材料もあるが、2国間関係は「今後も緊密化していくだろう」と予測している。【3月10日 産経】
*************

【安全保障面では米欧基軸の外交政策】
安全保障面では米欧基軸の外交政策が続いています。

“日米豪印、オーストラリアで海上共同演習へ 海洋安保の強化ねらう”【3月10日 日系メディア】

****米でAUKUS首脳会合 インド太平洋安定化へ結束 次世代攻撃型原潜を共同開発****
バイデン米大統領は13日、インド太平洋における米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の首脳会合を西部サンディエゴで主催した。

3カ国首脳は中国の覇権的な海洋進出に対抗するため、2030年代前半までにオーストラリアが米原子力潜水艦を最大5隻購入することや、米英が共同で次世代攻撃型原潜「オーカス」を建造する計画を発表。バイデン政権は長期に及ぶ中国との競争を見据え、米国を中心とした民主主義陣営の抑止力強化に全力を挙げる構えだ。

会合にはバイデン氏、スナク英首相、アルバニージー豪首相が出席。バイデン氏は両首相とともに演説し、「オーカスの目的は世界情勢が急速に変化する中でインド太平洋の安定を維持することだ」と語り、今回の成果を域内外の同盟・パートナー諸国との連携強化につなげると強調した。

ホワイトハウスによると、今回合意した計画は複数のフェーズ(段階)に分けられる。第1フェーズでは今後の数年間で米英潜水艦による豪州への寄港実績を積み上げ、原潜の運用・建造に関連する豪州側への訓練を加速。早ければ27年にもインド太平洋を巡回する米英潜水艦のローテーション部隊を設置する。

第2フェーズの30年代前半には豪州が、通常動力型潜水艦の退役による戦力の穴を埋めるため米国からバージニア級攻撃型原潜3隻を調達。豪州はさらに2隻を追加購入することもできる。さらに第3フェーズでは英国の設計と米国の技術による次世代攻撃型原潜オーカスを開発し、英国で30年代後半に、豪州で40年代前半にそれぞれ建造する。

首脳会合が行われたサンディエゴは米太平洋艦隊の主要拠点。3カ国がインド太平洋への関与を強化することを内外に示す象徴的な意味合いがある。【3月14日 産経】
*********************

中国はもちろん反発しています。
“中国、米英豪の原潜導入合意に警告 「誤った危険な道」”【3月14日 AFP】

この原潜開発参加にはオーストラリア国内でも批判が強いようです。労働党のキーティング元首相、自由党のターンブル元首相が批判を。

****豪元首相2人が原潜反対 AUKUS「最悪の合意」****
オーストラリアのキーティング元首相が15日、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づく原子力潜水艦の導入について、巨額の費用を理由に「歴史上最悪の合意だ」と批判した。

ターンブル元首相も16日、原子力産業のないオーストラリアには技術者が少なく「非常に大きなリスクを伴う」と反対した。

与野党の首相経験者による攻撃に国内で衝撃が広がっている。アルバニージー首相や閣僚は終日、釈明に追われた。

キーティング氏は1990年代に首相を務めた与党労働党の重鎮。15日に全国記者クラブで講演し、オーストラリアで広がる中国脅威論について「歪曲であり真実ではない」と主張した。

13日に米サンディエゴで行われた米英豪の3首脳による記者発表を「歌舞伎ショー」とやゆ。バイデン米大統領とスナク英首相がうれしそうにしていたのは、オーストラリアが最大3680億豪ドル(約32兆円)を「米英の軍事産業に支払うからだ」と皮肉った。【3月16日 共同】
*******************
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

南太平洋島しょ国  影響力をめぐってせめぎあう米豪と中国

2023-01-27 23:10:02 | オセアニア

(パプアニューギニア 街中のいたるところに「中国援助」の文字【2022年11月19日 TBS NEWS DIG】)

【中国への傾斜を強めたソロモン諸島 米豪も対抗 激しい綱引きに】
昨年4月、南太平洋の島国ソロモン諸島が中国と「安全保障協定」を結ぶことで基本合意し、その内容に「ソロモン諸島は中国に警察や軍人の派遣を要請できる」「中国は中国の人員やプロジェクトを守るために中国の部隊を使用できる」「中国は船舶の寄港や補給ができる」などと、中国の軍事的な関与を認める記載があることが明らかになったことをきっかけに、南太平洋をめぐる中国とアメリカの影響力競争が激化したことはこれまでも数回取り上げてきました。


現実にも、一昨年11月のソロモン諸島で起きた反政府デモが暴動に発展した際には、中国から現地に警察顧問団が送られたこともあります。

アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドなど関係国はソロモン諸島が中国の軍事拠点になりかねないとして神経をとがらせています。

人口約70万人のソロモン諸島はオーストラリアの北東約2千キロメートルに位置し、アメリカとオーストラリアを結ぶシーレーンの要衝に位置しています。

また、中国が設定する戦略ライン「第2列島線」にも近く、米中の対立が深まるなかで地政学的な重みが増しています。

アメリカ・バイデン米政権は昨年9月28~29日に太平洋島しょ国との初の首脳会議を首都ワシントンで開催し、南太平洋地域で影響力拡大を図る中国を念頭に、島しょ国との関係を強化を図っています。

ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は昨年10月7日、前日のオーストラリアとの首脳会談で、自国への中国軍駐留を容認しないと確約したと明らかにしていますが、一方で、米豪との関係も天秤にかけつつ、中国との関係強化も進めているようです。

****ソロモン諸島警察に中国から放水車 豪から銃も****
南太平洋の島国ソロモン諸島は(2022年11月)4日、中国から放水車を寄贈され、警察の装備を強化した。3日前にはオーストラリアからも銃を提供されている。

ソロモン諸島をめぐり、米豪は影響力拡大を図る中国をけん制して外交上の駆け引きを行っている。

マナセ・ソガバレ首相が4日に首都ホニアラで行った式典で、中国はソロモン諸島の警察に放水車2台、バイク30台、多目的スポーツ車20台を寄贈。

李明中国大使は、ソガバレ政権の要請に応じたもので、「ソロモン諸島の法と秩序の執行に貢献」を果たすはずだと述べた。

豪連邦警察も2日、銃身の短いライフル60丁と車両13台を寄贈している。ソロモン諸島が今年4月、中国と安全保障協定を締結したためにオーストラリアとの関係は緊張。豪政府は先月、ソガバレ氏を迎えて両国の関係改善に動いていた。

今回の寄贈をめぐり、ソロモン諸島の野党党首マシュー・ウェール氏は懸念を表明。
AFPに対し、「外的脅威はどう見てもないのに、なぜこうした強力な銃を導入するのか。わが国は再び軍国主義への道を歩んでいるのだろうか」と疑問を呈し、「もしそうなら、われわれは自国民に対して武装することになる」との考えを示した。 【2022年11月5日 AFP】AFPBB News
*******************

ソロモン諸島が中国への傾斜を強めた背景には、南太平洋の島嶼とうしょ国で最低クラスの経済力のため進まないインフラ整備、部族対立からの政情不安などがあります。

一方で、台湾を切り捨てて中国との関係に走ることで不利益を被る国民も存在し、政権の中国重視政策への不満もあります。

****「首相は操り人形と化した」…対中傾斜強まるソロモン、「中国に仕事奪われ」若者は昼から飲酒****
南太平洋の島国、ソロモン諸島が中国への傾斜を強めている。今年4月には安全保障協定を締結し、米国やオーストラリアは強い懸念を表明している。外交政策の転換は、住民の生活にも大きな変化を及ぼしている。

中国系の商店が立ち並ぶ首都ホニアラのチャイナタウン。店のシャッターは閉じ、窓は割れ、建物の壁は黒焦げだ。マナセ・ソガバレ首相を名指しし「辞めろ」などの落書きも目に付く。

昨年11月、中国寄りのソガバレ首相に抗議するデモの一部が暴徒化した。夫がスーパーで働いていたという女性(38)は、うつろな表情で「商売あがったりだ」と嘆いた。

ソガバレ政権は2019年9月、台湾と断交し、中国との国交樹立を発表した。今年4月に締結した安全保障協定は中国軍の派遣を可能にするとされ、軍事拠点となる可能性が指摘される。

人口約70万人の小国は、なぜ中国に接近したのか。

穴だらけの道路
ホニアラの国際空港の近くに、「中国援助」と書かれた青いゲートが立つ。来年に開かれる太平洋諸国の競技会で使われるスタジアムだ。米ワシントン・ポスト紙によると、中国の国営企業が約5000万ドル(約68億円)をかけて建設を進めている。

ソロモン諸島の1人当たり国民総所得(GNI)は2300ドル(21年)で、南太平洋の島嶼とうしょ国で最低クラスだ。インフラ整備も進まず、首都の道路ですら穴だらけで渋滞が多発している。

農村開発省のサムソン・ビウル次官は「(米豪など)西側諸国の支援は人材育成ばかり。中国はモノを造ってくれる。インフラが整備されれば、産業も誘致できる」と強調する。

一方、国交樹立時を知る政府の元高官は「中国企業がソロモンで利益を得るために対中傾斜を後押ししている。ソガバレ氏はその操り人形と化している」と明かす。

中国企業へ不満
住民からは、中国企業への不満も出ている。

ホニアラの廃棄物最終処分場では、養豚を営むリンドラ・ダニさん(38)が残飯を拾い集めていた。豚の餌にするという。

以前は台湾の農場が豚を買ってくれたが、断交で撤退。代わって進出した中国の農場は労働者を本土から連れてきて養豚に従事させた。ダニさんは販路を失い、収入は半減し、豚の餌が買えなくなった。「中国は我々の仕事を奪った」と憤る。

ホニアラ郊外の農村にある教会で牧師を務める男性(52)によると、中国系の大規模な農場ができ、地元で採れた野菜は価格で太刀打ちできなくなった。失業者や学校に行けない子供が増え、昼から飲酒している若者も多い。

主産業の材木の輸出でも、「中国企業が利益を独占し、地域に還元しないケースが多い」(外交筋)という。シンガポールの調査会社による昨年の暴動後の世論調査では、「中国と自由な民主主義国のどちらと連携すべきか」との質問に対し、「中国」とした回答はわずか9%だった。

牧師の男性は「この国は一体どこへ向かっているのか」と不安そうに話した。

軍事拠点化 米豪が疑念
ソロモン諸島は南太平洋の戦略的要衝に位置し、中国と締結した安全保障協定は、米国や豪州の強い反発を呼んだ。米国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は4月、ソガバレ氏との会談で、中国軍が駐留するなどした場合、「相応の対応を取る」と警告した。

安保協定を結んだ背景には、暴動が続くソロモン諸島の国内事情がある。1998年末に激化した部族対立で当時の首相が武装勢力に拘束され、2006年には新首相就任に反対する暴動が起きた。

ソロモン諸島は軍隊を持たず、治安維持に不安を抱える。中国との安保協定について、元首相のダニー・フィリップ氏は「国内の治安維持を想定したもの」と指摘する。

それでも中国が軍事拠点化を進める疑念は払拭ふっしょくしきれない。危機感を強めた米国は今年に入り、ウェンディー・シャーマン国務副長官ら高官を派遣。2月には、1993年に閉鎖した大使館の再開を発表した。

豪州も10月、ソロモン諸島の治安維持活動などへの支援を表明。太平洋地域の島嶼とうしょ国などへの支援も4年間で約9億豪ドル(約830億円)増やすと発表した。

ソロモン政府関係者は「米中対立の間で我々は重要なポジションを得た。これを最大限に利用して双方から支援を得られれば、国民に良い生活をもたらすことができる」ともくろみを明かした。【2022年12月17日 読売】
********************

体中国感情が複雑なことは推測できますが、「中国と自由な民主主義国のどちらと連携すべきか」という設問は、最初から中国を非民主的な「悪しき国」と誘導しており(実際、そうではあるでしょうが)、世論調査の公正さという点ではいささか問題も。

【利益を実感させている中国の進出 「発展するようになったのは中国が来るようになってからだ」】
南太平洋のパプアニューギニアでも米豪と中国がその影響力を競っています。

****南太平洋パプアニューギニアでしのぎを削るアメリカと中国 経済援助の先に…軍事的影響力拡大への懸念*****
いまアメリカと中国という2つの大国が、南太平洋の島国との関係強化に乗り出しています。中でも最も大きな国土を持つパプアニューギニアで起きている、米中対立の最前線を取材しました。

■街中のいたるところに「中国援助」の文字
国内に800の言語があると言われるほど、多様な人々が暮らすパプアニューギニア。人口は太平洋島しょ国の中では最大の約900万人。天然ガスなどの資源も豊富で、この地域では大国でもある。

海上の天然ガス関連施設未明、首都ポートモレスビーに到着した飛行機は、中国からの出稼ぎ労働者でいっぱいだった。中国の3倍、月に1万5000元(約30万円)近くは稼げるということで渡航を決めたという。彼らの向かう先は建設現場だ。

近年、ポートモレスビーでは中国企業によって建てられているビルが目立つようになっている。民間の建物だけではなく裁判所など政府の施設も中国企業によって作られていた。

(中略)街中のいたるところに「CHINA AID(中国援助)」と書かれたモニュメントが置いてあり、道路脇や建物の目立つところに中国の援助で作られたことを示すマークがついている。

「オーストラリアとの関係は深いけど…」「中国は良すぎる」
中国の影響が色濃く見えるが、実はパプアニューギニアの最大の援助国かつ貿易相手国はすぐ南に位置するオーストラリアだ。スーパーマーケットにはオーストラリアからの輸入品がずらりと並んでいる。

旧宗主国として長年影響力を持ってきたが、伝統的な海上生活をする人々の集落を訪ねると…
家の中まで電気は通っていて、ガスも使えるようになっている。しかし水道はないため汲みに行かなくてはならない。「オーストラリアとの関係は深いけど、発展への貢献はあまり感じない。発展するようになったのは中国が来るようになってからだ」

2022年のパプアニューギニアの予算書では、中国からの援助額は約200億円と見込まれている。額としてはオーストラリアの半分だが、現地の人たちにとっては中国の方が発展に貢献していると映っている。

橋の建設に携わった若者 「(中国のおかげで)道もできたし、街灯もできたし、橋もできた。うれしいよ」

政府間の合意のもと、現地のインフラ整備などに投資する中国企業には、10年間の所得税免除といった優遇がある。現地で複数の会社を経営する中国人は…

パプアニューギニアの中国人経営者 「政府間の合意によって良い投資環境ができたね。パプアニューギニアが良くなれば中国も良くなるし、パプアニューギニアはもっと良くなる」 中国の進出がパプアニューギニアのためになるという。(中略)

住民 「中国は良すぎるね。村の人にとっては、大きな店は高すぎて物を買えないけど、中国人のお店に行けばとても安く買える。だから中国人の店に行くのさ」

■経済協力の先に・・・「中国が軍事基地を手に入れるかもしれない」
一方、経済的な結びつきが強まるにつれ、高まっている懸念がある。それは軍事的な面での影響力だ。パプアニューギニアのシンクタンクの専門家はある計画の名前をあげる。

パプアニューギニアのシンクタンク ポール・ベイカー氏 「ガルフという場所でイフ経済特区を作る計画がありますが、飛行場と軍事施設が含まれていて奇妙なのです」

(中略)既に一部の中国企業が覚書を交わしたが、問題視されているのがパプアニューギニア軍の海軍基地建設だ。経済特区が計画されている場所は、オーストラリアの対岸で500キロほどしか離れていない。

この場所に中国が投資する軍事施設ができる可能性があることにオーストラリアメディアは強く反発している。プロジェクトの担当者は「将来中国の影響力が高まれば中国が基地を手に入れるかもしれない」と語ったとも伝えている。(後略)【2022年11月19日 TBS NEWS DIG】
***********************

【米豪のうざい“上から目線”の指摘も】
ソロモン諸島にしてもパプアニューギニアにしても、従来のオーストラリアとの関係から中国重視に変化している背景に関して

「(オーストラリアなどの)上から目線というのでしょうか。どちらかというと面倒見てやってるという押し付けられている印象すら持っているのに対して、必ずしも良い感情を持っていない。そういったときにできれば多くの違う形のアクター(関係者)が欲しいと考えてきている」(東海大学の黒崎岳大准教授)【同上】という指摘も。

【大国間の争いに巻き込まれることへの懸念】
一方で、第2次世界大戦で「戦場」となったこの地域には、大国の争いに巻き込まれることへの懸念・不安もあります。

****************
パプアニューギニアの前首相、ピーター・オニール氏は中国による支援や企業が投資しやすい環境を整えた立役者でもあるが、今の中国の動きをこう懸念する。

ピーター・オニール前首相
「とても深刻に受け止めています。私たちは第二次世界大戦や世界中で起きている紛争のような経験を繰り返したくないのです。どの国の軍事施設もこの地域に入れたくはありません。それが平和と秩序を守る方法です。中国とアメリカの間でおきている地政学的な議論の中で、私たちは板挟みになっています。私たちは安全保障の分野で中国と何かをしようとはしていません」【同上】
*****************

【国内政治状況で変化する米豪・中国との関係 フィジーは中国重視の見直しへ】
米豪・中国との関係は、当該国の国内政治情勢でも変化します。

フィジーでは昨年12月の議会選挙で(前政権が敗北を認めず、治安部隊を出動させるなど一時は不穏な状況にもありましたが)政権交代が実現。それにともなって対中国政策も変化するようです。

*****フィジー新政権、対中融和見直し 警察協力協定を停止へ****
南太平洋フィジーで昨年12月の総選挙を経て就任したランブカ新首相が親中政策の見直しを進めている。中国の進出に警戒感を示し、中国と結んだ両国警察間の協力協定の停止を表明。

人口約90万人で南太平洋でも経済規模が大きいフィジーの外交姿勢の変化は、中国が覇権的な海洋進出を進める地域情勢に影響を与える可能性がある。

総選挙では、単独過半数を確保した政党はなかったが、ランブカ氏を軸とする野党勢力が連立で合意し、約16年ぶりに政権交代が実現した。ランブカ氏は1992〜99年にも首相を務めたことがある。

バイニマラマ前首相は軍司令官だった2006年にクーデターで全権を掌握。14年の民政移管後も首相として国政を担った。バイニマラマ氏の強権的な手法をオーストラリアやニュージーランドが批判したことを受け、首相在任中には中国との関係緊密化が進んだ。

ランブカ氏は首相就任後、「(南太平洋で)中国が影響力を増大させる動きが強まっている。自分はよく知っている人たちについて行くのが安全と信じている」と述べ、中国との関係を見直し、豪州などとの連携を深める姿勢を示した。

ランブカ氏が停止する意向を示した警察に関する協力協定は、バイニマラマ政権期に締結された。フィジーの警察官が中国で訓練を受け、中国人警察官が3〜6カ月間フィジーに派遣されるとの内容だという。

中国は昨年11月に島嶼(とうしょ)国の警察トップを招待した初のオンライン国際会議を開催するなど、治安維持面での連携強化を通じ、各国に浸透する構えを見せている。

ランブカ氏は中国との決定的な対立は避けたい考えも示しているが、近隣国はフィジー外交の行方を注視している。豪州紙オーストラリアン(電子版)は「他の太平洋島嶼国の指導者たちは、地域支配を目指す中国を警戒するランブカ氏の見解に耳を傾けるべきだ」と強調した。【1月27日 産経】
*******************

今後も、中国・米豪の働きかけ、当事国の国内事情で、この地域の方向性はいろいろと変化もありそうです。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

太平洋島しょ国地域  中国は安保・経済を含む包括協定を提案 対抗する豪新政権 激しさを増す勢力争い

2022-05-26 22:27:33 | オセアニア
(【5月26日 日経】 オーストラリアが危機感を募らせるのも当然でしょう・・・)

【中国 南太平洋の10か国に対し警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ包括協定を提案】
旧日本軍の激戦地ガダルカナル島を含むソロモン諸島に影響力を強める中国と、これに反発する米・豪の争いについては、5月4日ブログ“ソロモン諸島  米中つばぜり合いの舞台に 中国による軍事基地化を懸念する米豪”でも取り上げました。

中国の進出は更に拡大して、太平洋島しょ国地域の多くの国と警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ包括合意を求める計画とされています。

****中国、南太平洋10か国に安保・経済協定を提案****
中国が南太平洋の10か国に対し、安全保障や経済面での協力を大幅に拡大する計画を提案したことが25日、AFPが入手した文書で明らかになった。当該国の首脳からは、中国の影響力拡大を懸念する声も上がっている。
 
入手した文書は、「包括的発展の展望」と題された協定の草案と5か年計画。中国の王毅外相が26日に開始する太平洋諸国歴訪で各国と協議し、30日にフィジーで開く外相会合での承認を目指すとみられる。
 
中国は10か国に対し、数百万ドル(数億円)規模の援助、自由貿易協定の展望、14億人を抱える中国市場への参入機会提供を提案。見返りとして、各国の警察の訓練、サイバー安全保障への関与、政治的関係の拡大、海洋地図の作成、天然資源の利用拡大を求めている。
 
南太平洋は1900年代から米国が強い影響力を有しているが、近年は米中の覇権争いが激化。中国は軍事的、政治的、経済的な足がかりの強化を目指しているものの、大きな進展には至っていない。
 
今回明らかになった一連の協定について、南太平洋諸国では警戒感が広まっている。ミクロネシア連邦のデービッド・パニュエロ大統領は他の当事国首脳に宛てた書簡で、中国側の提案は一見すると魅力的だが、中国に対し「われわれの地域への参入と支配」を許すものだと警告。提案は「不誠実」であり、中国による政治介入、主要産業の支配、通話や電子メールの大量監視が可能になると指摘した。
 
ミクロネシア連邦は米国と自由連合盟約(コンパクト)を締結しており、南太平洋諸国の中でも米国と特に緊密な関係にある。一方で他の国々は、中国の提案を有益と見なす可能性もある。
 
10か国のうち、ソロモン諸島はすでに中国との安全保障協定締約に向けた交渉を秘密裏に進めていたことが明らかになっている。流出した協定の草案には、オーストラリアから2000キロ足らずのソロモン諸島での中国海軍駐留につながる可能性もある条項も含まれていた。
 
中国による今回の提案は、ソロモン諸島との安保協定の主要要素を他の9か国に事実上拡大するもので、米国、オーストラリア、ニュージーランドの懸念を生むことは必至だ。 【5月26日 AFP】
******************

中国を警戒するミクロネシア連邦については、いかのようにも。

**********************
ロイターが確認した太平洋地域指導者21人に宛てた書簡の中で、ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領は、中国と西側の間で新たな「冷戦」を引き起こす恐れがあるため、「事前に決められた共同声明」を拒否すべきと主張するとしている。

パニュエロ氏は、台湾を巡る米中の緊張が高まる中、太平洋島しょ国が地政学的な対立に巻き込まれる危険性を強調。「中国がわれわれの通信インフラ、海洋領土と資源、安全保障の面で支配することによる具体的な影響は、主権への影響とは別に、中国がオーストラリア、日本、米国、ニュージーランドと対立する可能性を高めることだ」とした。【5月25日 ロイター】
***********************

【モデルはソロモン諸島との協定】
逆に中国との関係強化の推進役となるのがソロモン諸島。中国としてはソロモン諸島との関係をモデルケースとして太平洋島しょ国地域全体に拡大したい意向です。

****中国とソロモン諸島の関係、太平洋島しょ国の手本にしたい=中国外相****
中国の王毅外相は26日、中国とソロモン諸島との関係が他の太平洋島しょ国の手本となることを期待すると語った。

王氏は26日から10日間の日程で、中国が外交関係を持つ太平洋島しょ国8カ国を歴訪する。この日は最初の訪問国のソロモン諸島に到着した。

外務省ウェブサイトに掲載された声明によると、王氏は、ソロモン諸島は中国と外交関係を樹立することで「誠実で信頼できるパートナー」を得たとの考えを示した。ソロモン諸島は2019年に台湾と断交し中国と国交を結んでいる。

ロイターが確認した文書によると、中国は王外相主催の会議を来週フィジーで開催する際、警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ太平洋島しょ国地域全体の包括合意を求める見通しだ。【5月26日 ロイター】
**********************

王毅外相は26日にソロモン諸島の首都ホニアラでマネレ外相と会談し、「両国関係を高い水準へ引き上げたい」と強調。マネレ氏は「両国間協力の前途に期待する」と歓迎しています。

王毅外相はソロモン諸島を皮切りに、6月4日までの日程でソロモン、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの8カ国を公式訪問します。

【日本・米豪は軍事基地建設を懸念 中国は否定】
こうした中国の動きに、先日東京で開催されたクアッドの首脳会議でも強い懸念が出されています。

****“経済支援”で影響強める中国 南太平洋・ソロモン諸島では…****
(中略)
こうした中国の行動に対抗することを念頭に、クアッドの4か国は連携の強化を目指しています。

岸田総理 「東シナ海・南シナ海における一方的な現状変更の試みへの深刻な懸念を含め、地域情勢について率直な意見交換を行った」

共同声明では「太平洋島しょ国との協力をさらに強化する」と明記したうえで、岸田総理は「海洋安全保障の分野では地域諸国間の情報共有を促進する。海洋状況把握の新たなイニシアチブを4首脳で歓迎しました」と述べました。

インド太平洋地域の漁業や船の往来の安全を確保するため、人工衛星などを使い海洋状況を監視するシステムを今後5年間かけて構築することを明らかにしました。

この決定に対し、中国外務省の報道官は「小さなグループをつくり、対立を作ることこそ、海洋の平和や安定をおびやかしている」と強く反発しました。【5月24日 日テレNEWS24】
*********************

日本や米豪の、中国はこの地域に軍事基地を建設するのでは・・・との懸念に対し、中国はこれを否定しています。

****ソロモン諸島に基地建設の「意図ない」 中国外相****
中国の王毅外相は26日、訪問先の南太平洋のソロモン諸島で、中国がソロモン諸島に軍事基地を建設する「意図は全くない」と明言した。両国は先月、安全保障協定を締結しており、その目的をめぐって臆測が広がっていた。
 
王氏は、両国の安保協定は「誠心誠意を込めた公明正大な」ものであり、国際社会の懸念には当たらないと述べた。 【5月26日 AFP】
******************

何をもって“軍事基地建設”とするかにもよるでしょう。前出【AFP】にあるように、公開されていないソロモン諸島との協定では(リークされた草稿では)中国海軍駐留につながる可能性もある条項も含まれていると指摘されています。

【中国に対抗する豪新政権】
この中国の影響力拡大の直接的影響を受けるのがオーストラリア。
先の総選挙でも争点となり、政権側は「中国の進出を許した」として批判を受け、与党敗北、政権交代の一因ともなりました。

新たに首相となったアルバニージー氏は太平洋島しょ国への支援を強化する方針を表明しています。
また、中国・王毅外相に対抗して、アルバニージー首相はフィジーを訪問しています。

****豪首相、太平洋島しょ国支援強化を表明 中国の攻勢に対抗****
オーストラリアのアルバニージー首相は26日、中国が影響力拡大を図る太平洋島しょ国への支援を強化する方針を表明した。

ロイターは、中国が太平洋島しょ国10カ国との間で警察活動、安全保障、貿易、海洋、データ通信分野の合意を求めるとする共同声明草案を報じた。

アルバニージー氏は「これに対応する必要がある」と言明。スカイに対し、「前政権のように(島しょ国支援を)後退させるのではなく、強化する必要がある」と述べ、労働党による新政権が海洋安全保障などで島しょ国支援強化を公約したことに触れた。

ウォン豪外相は26日にフィジーを訪問し、同国首相と会談する。23日の就任以来初の太平洋島しょ国訪問となる。

一方、中国の王毅外相は、太平洋島しょ国8カ国歴訪の最初の訪問地であるソロモン諸島に到着。来週にはフィジーで太平洋地域外相会議を主催し、5年間の行動計画について合意を求める方針だ。

フィジーのバイニマラマ首相は26日のツイッター投稿で、27日にウォン氏、30日に王氏と会談すると明らかにし、「どの交渉のテーブルでも、最も重要なのはわが国民と地球、そして国際法の尊重だ」とした。【5月26日 ロイター】
*******************

またオーストラリアは中国を念頭に、ひも付きではないパートナーになると表明しています。

****豪外相、太平洋諸島のひも付きパートナーを否定 中国けん制****
フィジーを訪問しているウォン豪外相は26日、気候変動に関する「世界的な議論をリード」している太平洋島しょ国の声に耳を傾け、ひも付きではないパートナーになると表明した。

オーストラリアも加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)の事務局で演説し、豪州はこれまで気候変動や海面上昇と闘う太平洋島しょ国を軽視してきたと指摘。

しかし、労働党による新政権は気候変動対策インフラへの資金のほか、太平洋地域市民に対する豪州への移住や就労の道を提供するなどの取り組みを強化すると述べた。

また、中国を念頭に「オーストラリアはひも付きで持続不可能な財政負担を強いることのないパートナーになる」と語った。

PIFのヘンリー・プナ事務局長は、豪新政権の特に気候変動に関するコミットメントを歓迎。太平洋地域への豪外交政策に期待を示した。【5月26日 ロイター】
********************

キリバスなど海面上昇による水没の危機にある国も含まれていますので、気候変動対策は大きなポイントとなるでしょう。

【豪新政権発足直後に先手を打つ中国】
今回の中国の動きは、オーストラリアの新政権発足に先手を打つ形にもなっています。

****中国、南太平洋で外交攻勢****
外相が8カ国訪問、関与強める 豪州抑え込みで新政権に先手

中国が南太平洋島しょ国での影響力拡大に向けた動きを加速させる。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は26日から10日間かけ、島しょ国7カ国と東ティモールを訪問する。地域で米豪と中国の対立が先鋭化する中、オーストラリアの新政権発足直後に中国は先手を打って地域への関与強化を打ち出した。(中略)

豪州では21日に総選挙が実施され、政権交代が決まった。「中国が太平洋でより強い影響力を行使しようとしている」。労働党政権のアルバニージー新首相は24日に出席した日米豪印4カ国の「Quad(クアッド)」首脳会議後、こう警戒を示したばかりだった。

選挙戦を通じ、労働党は中国とソロモンの安保協定締結を許したモリソン政権を批判し、地域への関与を深める方針を示してきた。習近平(シー・ジンピン)指導部はこうした動きを警戒。クアッド出席などアルバニージー氏が慌ただしく外交日程をこなす中、豪新政権の機先を制して王氏を派遣する。

王氏はキリバスやトンガも回る。太平洋島しょ国14カ国のうち中国と国交を持つのは10カ国だ。そのうち7カ国を訪問する長期訪問となる。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)はソロモンに加え「キリバスともう1カ国」が中国と安保協定に向けた交渉をしていると報じた。

王氏がこのタイミングで訪問するのは、日米豪印の首脳が24日に中国を念頭に海洋監視を強める方針を確認し、警戒心を強めているためだ。米国との長期対立をにらむ習指導部は西太平洋への影響力拡大を目指している。米同盟国の豪州を抑え込む上で、南太平洋の島しょ国との連携は不可欠とみている。

王氏は東南アジアの東ティモールも訪れる。中国企業が多く進出する同国では中国が年々影響力を強めている。南太平洋の島しょ国と合わせて押さえることで、豪州北部のダーウィンにある豪軍基地に東西からにらみを利かせることができると判断している。

地域の動きに詳しい豪シンクタンク、ロウイー研究所のミハイ・ソラ氏は「王氏の訪問は、この地域での中国の影響力拡大に歯止めをかけたい豪州の動きを阻む目的もある」と指摘する。一方、豪外相のウォン氏は25日、フィジーを26日に訪問し、バイニマラマ首相と会談すると発表した。地域での米豪と中国の勢力争いは今後、激しさを増しそうだ。【5月26日 日経】
**********************
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オーストラリア  中国との関係悪化が続く ニュージーランドも対立の板挟みに

2021-06-25 22:55:21 | オセアニア

****豪NZ首脳、1年3カ月ぶり直接会談 中国人権問題で足並み****

オーストラリアのモリソン首相(写真中央左男性)とニュージーランド(NZ)のアーダーン首相(中央右女性)は31日、対面で首脳会談を行った。香港と新疆ウイグル自治区の状況に懸念を表明し、中国の人権問題で足並みをそろえた。(中略)

 

ニュージーランドのマフタ外相は先月、安全保障上の機密情報を共有する5カ国「ファイブアイズ」の役割拡大について「違和感」を表明した。ファイブアイズの中国に対する批判的な姿勢をニュージーランドは共有していないとの見方が出ている。【5月31日 ロイター】

*******************

 

【豪中対立エスカレート WTO提訴合戦も】

オーストラリアと中国の関係が極めて悪化していることは、これまでも取り上げてきました。

(2020年11月30日ブログ“オーストラリア 対中国 「どん底」を抜けて更に悪化 フェイク画像問題に怒るモリソン首相”など)

 

対立が激しさを増した直接のきっかけは、2020年4月に、コロナウイルスの爆発的感染が中国から世界へ広がった経緯について「独立した調査が必要だ」とモリソン豪首相が述べたことへの中国の反発でしたが、そんな“きっかけ”から離れて、両国の対立と言うか、中国のオーストラリア叩きは執拗に続いています。

 

その背景には、中国とアメリカの厳しい対立、オーストリアが「クアッド構想」と称されるアメリカ主導の中国包囲網の一翼を担っていることがあります。

 

ただ、同じクアッドメンバーである日本に対しては、どちらかと言えば、関係改善を進めることでアメリカとの関係にくさびを打ち込むような戦略なのに対し、オーストラリアに対しては徹底的に叩くという差異があります。

 

やはり日中間には政治的・経済的にも多岐にわたる深い関係がありますので、そうそう簡単にはバッシングする訳にもいかないが、オーストラリアならそこまでの関係はなく、安心して叩けるといったこともあるのでしょうか。

(もちろん、強気なモリソン首相の発言が中国の神経を逆撫でしていることもあるのでしょうが)

 

なお、オーストラリアがクアッドに参加して(最大の貿易相手国でもある)中国を警戒しているのは、単に同盟国アメリカに追随して・・・という話でもなく、南シナ海での自由な航行はオーストラリアにとって死活的に重要という、オーストラリアの歴史的・地政学的事情もあってのことのようです。

 

****インドのコロナ感染拡大があぶり出した、「クアッド構想」に漂う暗雲****

(中略)

■オーストラリア

現在、中国と深刻な対立の中にあるオーストラリアは、中国による南シナ海の軍事的勢力拡大に極めて神経をとがらせている。中国が建設した3カ所の南沙諸島人工島(ファイアリー・クロス礁、ミスチーフ礁、スビ礁)の航空拠点から発進するミサイル爆撃機は、オーストラリア北西部を攻撃することが可能である。

 

それだけではない。南シナ海から太平洋やインド洋に中国潜水艦や海上戦闘艦が進出することにより、オーストラリアは海上封鎖されてしまう可能性すら生じてしまう。

 

かつて第2次世界大戦中には、強力な日本海軍によってイギリスとのインド洋補給航路帯とアメリカとの太平洋補給航路帯を寸断されそうになったオーストラリアは、恐怖のどん底に陥った記憶がある。

 

そのため、クアッドによって、アメリカとの軍事同盟を更に強化して太平洋方面における海上航路帯の安全を確保するのに加えて、インド洋や西太平洋における中国海軍の動きを牽制できるのではないかという期待が強い。(後略)【5月20日 GLOBE+】

******************

 

中国はオーストラリア産の大麦や綿、ワイン、ロブスターなどの輸入を制限していますが、最近の話題としては以下のようにも。

 

****豪州産ブドウの対中輸出に遅延、原因把握へ中国と協議=貿易相****

オーストラリアのテハン貿易相は、中国本土向けに輸出された食用ブドウの約20%が国境で足止めになっているとし、原因を調べていると明らかにした。(後略)【5月20日 ロイター】

*****************

 

****大豊作の豪州産の綿花が行き場失う…豪中対立エスカレートで中国から「ボイコット」され―豪メディア****

2021年5月28日、中国紙・環球時報は、対中関係の悪化によってオーストラリア産綿花が中国に輸出できない状況となり、現地農家から憂慮の声が出ていると報じた。

記事は豪放送協会(ABC)の27日付の報道を引用。3月の降水量が多かったことでオーストラリア産綿花は史上最高レベルの大豊作になるとみられる中、綿花栽培農家は最大の輸出先である中国市場が失われることを憂慮していると説明した。

そして、多いときには年間8億豪ドル、同国の綿花総生産量の70%を輸出し、同国にとって最大の綿花輸出相手国である中国との関係が悪化したことにより、今年収穫した綿花が中国にほぼ輸出できない状況になっていると指摘。業界関係者の話として「すでに中国の紡績工場が、オーストラリア産綿花のボイコットを迫られている」と紹介した。(後略)【5月31日 レコードチャイナ】

*******************

 

オーストラリアもWTO提訴で応戦しています。大麦に続いてワイン。

 

****ワインの輸出が激減、オーストラリアが中国をWTO提訴へ=「中豪関係がさらに悪化」―独メディア****

中国がオーストラリア産ワインに不当廉売関税(アンチダンピング関税)を課していることについて、オーストラリア政府は19日、世界貿易機関(WTO)に提訴することを明らかにした。独メディアのドイチェ・ヴェレ中国語版は「すでに緊張していた中豪関係がさらに悪化することになる」と報じている。

オーストラリア政府は同日の声明で、この決定は「オーストラリアの醸造業の利益を守るため」と強調した。6カ月前には、オーストラリアは中国の大麦製品に対する「懲罰的関税」をめぐりWTOに抗議していた。ただ、同声明では「紛争解決のために中国側と直接協議することについて、常にオープンな姿勢を持っている」とも言及した。

仏AFP通信は、「オーストラリアと最大の貿易相手国である中国との間の紛争が再びエスカレートしたもの」と指摘。オーストラリアのモリソン首相は「経済的脅迫をしようとする国には対応する」と繰り返し警告してきたと伝えた。

中国は昨年11月、ダンピングを理由にオーストラリア産ワインに最高で218%の関税を課すことを決定。最大の海外市場である中国のこの措置により、オーストラリアのワイン産業は大きな打撃を受けた。当局のデータによると、昨年12月から今年3月までのオーストラリアの対中ワイン輸出量は前年同期比で96%減少したという。

オーストラリアのテハン貿易相は、WTOの訴訟手続きは困難を伴い、2〜4年かかることが予想されるとし、「あらゆる可能なメカニズムを利用して、中国政府と貿易紛争およびその他の意見の相違を解決するよう努める」と表明した。【6月21日 レコードチャイナ】

 

一方、中国も。数年前のオーストラリアの対応を突然WTO提訴。“報復”と思われます。


****中国、オーストラリアをWTO提訴 鉄道車輪など3品目の関税巡り****

中国商務省は24日、鉄道車輪など3品目に対するオーストラリアの反ダンピング(不当廉売)・反補助金措置を巡り、世界貿易機関(WTO)に提訴したと発表した。

 

豪政府は今週、中国が豪産ワインに関税を課すと決定したことを巡り、WTOに提訴すると表明。中国側の今回の措置は報復と見られる。豪州はまた、中国が豪産大麦輸入に関税を課す決定を下したことを巡ってもWTOに提訴している。

 

中国商務省の高峰報道官は提訴について、豪州が鉄道車輪、ウィンドタワー、ステンレス鋼シンクの輸入に対して課している関税は不当だと説明した。(中略)

 

テハン豪貿易相は、2国間のチャンネルなどを通じた何らかの通知もなかったとして、中国による提訴は驚きだと指摘。3品目への関税は2014年、15年、19年に課したものだとした上で、記者団に対し「なぜ今頃になってこうした行動を取ったのか」と疑問を示した。【6月25日 Newsweek】

**********************

 

【オーストラリア世論 対中国感情悪化】

当然ながら、こうした険悪な両国関係は国民感情に影響しますし、その結果、世論が更に厳しい対決姿勢を政治に求める、それに対して報復が・・・というスパイラルにもなります。

 

****豪意識調査、6割が「中国は安全保障上の脅威」 45%が「北京冬季五輪不参加」求める****

オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所は24日までに、豪州国民を対象に行った中国などについての意識調査の結果を発表した。

 

中国を「安全保障上の脅威」と見る人は63%で、前年調査から22ポイント増。豪中対立が深まる中、国内での警戒感の高まりが浮き彫りとなった。

 

豪州は昨年4月、新型コロナウイルスの発生源をめぐって第三者調査を要求したことを発端に中国との関係が悪化。中国は豪州産大麦やワインに高関税を課す報復措置を取っている。

 

調査では中国を「安全保障上の脅威」とした割合が増加する一方、「中国は経済的なパートナー」と回答した人は34%にとどまった。18年調査では82%、前年調査では55%が「経済的なパートナー」と答えており、対中感情が急速に冷え込んでいることがうかがえる。同研究所は「中国への信頼は過去最低水準に落ち込んでいる」と分析している。

 

習近平国家主席について「国際情勢で正しい行動を取ると信じているか」と聞いた質問では、約8割が「まったく信じていない」「やや信じていない」と回答。

 

来年2月の北京冬季五輪については「参加すべきだ」が51%、「(新居ウイグル自治区などでの)中国の人権問題を考えると、参加するべきでない」が45%と意見が分かれた。

 

調査は同研究所が毎年行っており、今年は3月に成人約2200人を対象に実施した。【6月24日 産経】

************************

 

ただ、注意する必要があるのは、関係が悪化すると、メディアは(読者が期待するような)相手の悪い面しか見ようとしなくなりがちだということ。そうした報道の結果、世論はさらに硬直的なものになっていくというスパイラルが。

 

****在中オーストラリア人「私は中国の真実を話したいが、誰も相手にしない」―中国メディア****

2021年6月22日、中国メディアの海外網によると、中国在住のオーストラリア人フリーライターが「中国の実情を話したいのに、欧米メディアは聞いてくれない」とする文章を発表した。

記事によると、広東省在住のオーストラリア人、ジェリー・グレイ氏が20日にウェブ上で文章を発表し、「自分は多くの外国人専門家や記者よりも中国に関する多くの知識とリアルな経験を持っているにもかかわらず、真実を話そうとすると決まって西側メディアに無視される」と訴えた。

グレイ氏は文章の中で昨年1月30日、英紙ガーディアンにメールを送り、中国での新型コロナ対策の体験談を紹介したところ、先方から「文章を使わせてもらう時は連絡する」と返事があったものの、「それから1年半が過ぎ、何度も連絡してみたが先方から情報は得られていない」と明かしたという。

また、昨年7月には米ニューヨークのニュースメディアから「最近の新疆ウイグル自治区訪問について話がしたい」との連絡があったため受け入れ、現地の写真などを提供しながら記者と話をしたものの「記者は、中国に批判的な内容以外は明らかに何の興味も持っていなかった」とし、先日も広東省広州市のワクチン接種やPCR検査の状況を称賛する文章を発表したところ、豪ABCラジオから出演の依頼があり、興味を示すと同時に「私の考えとABCラジオの考えは一致しない。そちらの視点にはミスリード性があるばかりか、完全な捏造とさえ言えるものもある」と主張したところ、同局がさらなる意思疎通を拒否したと述べたという。

記事によると、グレイ氏は「私は中国問題の専門家ではないが、欧米メディアの大多数の記者や、多くの専門家よりも中国についての専門的知識を持っているし、彼らの中には中国に来たことさえない人もいる。一部の欧米メディアは中国での生活に対する公正な報道をしたがらず、偏見を持った上で世界に対して『自分たちが望む中国像』を見せているにすぎない。その内容は、決して事実ではない」と主張している。【6月25日 レコードチャイナ】

**********************

 

上記記事の中国在住のオーストラリア人フリーライターの話がどれだけ客観的なものかは知りませんが、一般論で言えば、豪中関係に限らず、日本を含めたすべての国の関係について、自戒・留意すべき点ではあるでしょう。

 

一方、中国メディアには「戦争」に言及した剣呑なものも。

 

****オーストラリアには中国と戦争することの恐ろしさを理解している人はほとんどいない―中国メディア****

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は8日、「オーストラリアには中国と戦争することの恐ろしさを理解している人はほとんどいない」とする記事を掲載した。

記事は、オーストラリアのニュースサイト、インディペンデント・オーストラリアにこのほど掲載された、「米国との同盟はオーストラリアを中国との戦争へと導いている」と題した論評を要約して次のように伝えている。

第2次世界大戦での中国人の死者数は少なめの見積もりでも1500万人と驚くべきほどの多さで、中国は戦争の本当の代償を理解している国だ。

オーストラリアの死傷者と戦争の経験は、それに比べると取るに足りないものに思われる。中国と戦争した場合の結果について実際に考えているオーストラリア人はほとんどいない。

オーストラリアは敗者側になる可能性が高い。米シンクタンクのランド研究所など複数の団体によるシミュレーションは、中国がアヘン戦争中に課せられた屈辱的な条項と同じくらいのものをオーストラリアは受け入れざるを得なくなるという結果を導き出している。(後略)【6月10日 レコードチャイナ】

**********************

 

なお、アメリカは“ブリンケン米国務長官は(5月)13日、中国から経済的圧迫を受けているオーストラリアを米国は決して孤立させないと断言した。”【5月14日 ロイター】と、オーストラリアを支える姿勢です。

 

モリソン豪首相は「(豪中の)関係は存続している。貿易だけを見ても、過去最大の数量になっている。これは一つの証しだ。さまざまなことを言ったりやったりしても、この関係には依然として大きな価値がある」【5月19日 ロイター】と、過熱を戒めるような発言も。

 

豪中貿易の最重要品目である鉄鉱石が中国側の制限品目から外されている限りは、多少の問題はあっても・・・といったところでしょう。

 

【米中・豪中の対立の板挟みとなるニュージーランド】

オーストラリアと中国の対立は米中対立という大きな枠組みのなかでの事象でもありますが、豪中の対立は更に隣国ニュージーランドをも巻き込む形にも。

 

****ニュージーランドが中国と敵対する準備、「反中」と「親中」のジレンマ―米華字メディア****

米華字メディア・多維新聞は5月31日、「ニュージーランドが中国と敵対する準備、反中と親中のジレンマ」と題する記事を掲載。ニュージーランドが米豪と中国との間で板挟みになっていると指摘した。

 

記事は、オーストラリアのモリソン首相が30日にニュージーランドを訪問し、翌31日にアーダーン首相と首脳会談を行ったことを説明。モリソン首相の訪問を前にした29日には、ニュージーランドが「ルールに則った貿易システムを守るために努力しており、オーストラリアを支持する」との姿勢を示していたことを伝えた。

 

その上で、「アーダーン首相はニュージーランドが米国と中国のどちらかを選ぶということはないと繰り返し公言してきた。しかし、親密な隣国であるオーストラリアと中国との関係悪化が鮮明になると、ニュージーランドはその影響を考慮せざるを得なくなった」とし、「ニュージーランドが『チャイナマネー』のためにオーストラリアを見捨てたと批判する世論の声は少なくなく、アーダーン政権も一定の圧力に直面している」と評した。

 

また、「(ニュージーランドは)ファイブ・アイズの一員として、米英とは全く異なる姿勢で中国と交流した時に直面する状況のひどさは推して知るべしだ。親密な関係にある隣国同士(豪州とニュージーランド)が、米国との関係では歩調を合わせながら、中国との関係では足並みが乱れるとするなら、それは必然的に波紋を広げることになる」とした。

 

さらに、「中国の視点から見れば、中豪関係の悪化の原因はオーストラリアが米国の“反中”に味方したということになる。米豪の視点から見れば、ニュージーランドが米豪に続かないのであれば親中ということになる」とし、「オーストラリアとニュージーランドの境遇は、米中の中間スペースには限りがあり、反中にせよ、親中にせよ、困難に直面するということを表している」と論じた。

 

ニュージーランドのマフタ外相は5月24日、英紙ガーディアンとのインタビューで「私たちはオーストラリアと中国の間で起こっていることを無視することはできない。彼らが嵐に接近したり、嵐の中に入ったりするのであれば、私たちはその嵐が私たちに近づいてくるのは時間の問題かもしれないと考えなければならない」と発言。「私が輸出業者に送ったシグナルは、新型コロナウイルス流行を背景に、多様性を考える必要があるということ。私たちが属する地域でどのように関係を拡大させていくか。そして、中国との間に重大な事件が発生した場合の衝撃の緩和策。彼らは果たしてこの衝撃に耐えられるかということだ」と述べた。

 

記事は、このマフタ氏の発言から「ニュージーランドは米豪からの圧力を懸念しているだけでなく、もしニュージーランドが米豪からの要請に応じなければならない場合、中国による経済面での措置にどのように対処すべきかを考えている」と指摘し、「ニュージーランドが(米中間で)転々とするスペースは限られている。ベストな策は、米豪からの圧力を跳ね返す力を持ちながら、中国に過度に依存しないことだ」とした。

 

そして、「オーストラリアは中国の当局者に繰り返し連絡し、『事後』に互いの相違点の埋め合わせを図っているが、ニュージーランドは今、『転ばぬ先のつえ』として(中国と関係悪化した時の)衝撃に耐えられるかどうかを考えている。この問題の背後には、ニュージーランドの中国に対する恐れと懸念があり、中国に対する信頼度が極めて低いことを反映している。それと同時に、米豪がニュージーランドをやすやすと見逃すことはなく、今後さらに激しい争いが繰り広げられることを示している」と論じた。【6月2日 レコードチャイナ】

******************

 

いわゆる「小国」にとっては、「大国」の争いに中立的な対応を維持するというのは、ときに高度なバランス感覚・政治テクニックを必要とします。

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オーストラリア  対中国 「どん底」を抜けて更に悪化 フェイク画像問題に怒るモリソン首相

2020-11-30 22:54:35 | オセアニア

(オーストラリアのモリソン首相は投稿について「恥を知るべきだ」と述べた【11月30日 BBC】)

 

【フェイク画像にモリソン首相「恥を知るべきだ」 中国「豪州政府とツイッター社の間の問題だ」】

悪化する中国とオーストラリアの関係については、これまでも取り上げてきたところです。

5月23日ブログ“中国・オーストラリア関係 米中対立が飛び火した形で中国による報復的な輸入制限措置へ

6月26日ブログ“オーストラリア  相次ぐ問題で豪中関係は悪化の一途 親中派議員の家宅捜索も

9月20日ブログ“オーストラリア・中国の関係は政治的には「どん底」 関係改善はすぐには期待できず

 

9月20日ブログでは「どん底」という表現を使用しましたが、これは間違っていました。まだまだ落ちる余地があったようです。

 

****豪「恥ずべき振る舞い」と中国非難=兵士中傷画像投稿で****

オーストラリアのモリソン首相は30日記者会見し、中国外務省が子供の喉元にナイフを突き付けている豪州兵の画像をツイッター上に投稿したことについて、画像は偽物とした上で「恥ずべき振る舞いだ」と非難し、中国側に謝罪と即時削除を要求した。これに対し中国は一歩も譲らず、両国の緊張関係が一段と高まった。

 

豪州は最近、アフガニスタンに派兵された特殊部隊の隊員らが民間人や捕虜39人を違法に殺害したとする調査報告書を公表した。これを受け、中国外務省の趙立堅副報道局長は豪州兵の画像と共に「こうした行為を強く批判し、責任を取らせるよう求める」と投稿した。

 

モリソン氏は「(画像は)全く遺憾であり、どんな理由であれ正当化できない」と指摘。「国防軍に対するひどい中傷だ」と訴えた。同時に、両国間の関係改善に向けて閣僚や首脳間の対話の再開を呼び掛けた。

 

これに対し、中国外務省の華春瑩報道局長は30日の記者会見で、「豪州政府は深刻に反省し、アフガン人民に正式に謝罪すべきだ。彼らの軍人がアフガンの罪のない民衆を惨殺したことを恥ずべきではないのか」と反論、モリソン氏の謝罪要求に反発した。

 

問題の画像については「インターネット上に流れているもので、誰の作品かはっきりしない」と出所不明のまま利用したことを認めながらも、削除要求は「豪州政府とツイッター社の間の問題だ」とかわした。【11月30日 時事】

********************

 

話を整理すると、アフガニスタンに派兵された特殊部隊隊員の民間人・捕虜殺害自体はオーストラリア政府自身が認め、その対応にあたっている案件です。

 

****豪政府、軍兵士がアフガンで民間人ら39人殺害と報告 特別捜査官事務所を設置****

アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍兵士が現地の民間人らを違法に殺害していた問題で、モリソン政権は豪軍から独立した特別捜査官事務所を設置し、兵士を起訴するかどうか判断する。

 

豪軍兵士の残虐行為は豪公共放送ABCが2017年に「疑惑」として報じたことで広く知られるようになり、実態解明が懸案となっていた。豪軍の戦闘部隊がアフガンから撤収して7年近く経過し、ようやく事態が動き出した。

 

制服組トップのキャンベル司令官が19日、調査報告書を発表し、残虐行為があったことを公に認めた。モリソン首相は報告書が公表される前の12日に特別捜査官事務所を設置すると発表し、厳格な姿勢で臨むことを表明した。

 

政府としては、報告書などの証拠に基づいて中立機関が判断することで、豪軍に対する国内外の信頼回復につなげたい考えだ。特別捜査官は刑法に詳しい弁護士か元裁判官が指名される予定で、判断の期限は未定。政府は監視委員会も設け、豪軍の綱紀粛正に向けた取り組みを確認する体制を整えた。

 

モリソン氏は残虐行為に関する報告を受けた後、地元メディアのインタビューで「真摯(しんし)に受け止め、法の支配の下で対処する。これはアフガン政府にも約束してきたことだ」と強調した。アフガン政府に哀悼の意を伝えたという。

 

報告書は500ページ以上にのぼり、個別事案については固有名詞などの詳細を黒塗りにして公開された。

 

報告書によると、豪軍兵士に殺害されたアフガンの民間人や非戦闘員は39人にのぼった。目撃者からの聞き取りや膨大な量の文書や画像から、主に陸軍特殊空挺(くうてい)連隊の兵士ら25人が関与していたことが判明した。

 

「下級兵は捕虜の殺害を推奨されていた」とされ、組織的な行為もあったとみられる。兵士が非武装のアフガン人を殺害後、戦闘員だったと見せかけるため、武器などが写り込んだ偽装写真を撮っていたケースもあった。

 

01年9月の米同時多発テロ後、豪州は同盟国の米国に協力して同10月にアフガンに派兵。国際治安支援部隊にも参加し、13年末に戦闘部隊を引き揚げた。

 

世論は当初、派兵に理解を示したが、混乱が泥沼化して40人近い戦死者が出たことや、長期化による財政負担の増加などから反対意見が強まった。報告書によると撤収直前の12〜13年に残虐行為が多発したという。

 

この件を巡っては、疑惑として報じたABCが、19年に連邦警察の捜査対象になった。警察は報道の基になった機密情報の入手経路を問題視し、記者の取材資料などを押収したが、結局は起訴を見送った。豪メディアは「報道の自由を脅かす」と激しく反発していた。【11月24日 毎日】

***********************

 

「下級兵は捕虜の殺害を推奨されていた」というのは、“「初の殺害」を経験させる目的で捕虜を射殺させた例や非武装の民間人を殺害した例などが確認された。”【11月19日 読売】という、一人前の兵士になる「通過儀礼」として捕虜を殺害させるといった、相当におぞましいものだったようです。

 

こうした「戦場の狂気」はしばしば明らかにされる・・・と言うか、戦争というのは、不可避的にこうした非人間的狂気を伴うものだと言うべきで、これはこれで真摯にオーストラリア政府・軍が向き合うべき問題です。

 

オーストラリアのモリソン首相が怒っているのは、中国・趙立堅副報道局長が流した画像が「真実」ではない、故意にオーストラリアに汚名をきせようとする偽物だという点です。

 

****オーストラリア、「不快な」フェイク写真めぐり中国に謝罪要求****

オーストラリアの兵士がアフガニスタンの子どもを殺しているように見えるフェイクの写真を、中国の政府高官が30日、ツイッターに投稿した。オーストラリアは同日、謝罪を求めた。

 

同国のスコット・モリソン首相はテレビ演説で、「不快な」写真をソーシャルメディアで共有したことについて、中国政府は「恥を知るべきだ」と述べた。(中略)

 

中国外交部の趙立堅報道官は30日、オーストラリア兵が血の付いた刃物を子どもに突きつけている合成写真をツイートした。この子どもはさらに、子羊を抱えている。

 

同国の公共放送オーストラリア放送協会(ABC)はこの画像について、オーストラリアのエリート兵がアフガニスタンで10代の子ども2人をナイフで殺害したという、立証されていないうわさに関連したものだと報じている。

ADF(オーストラリア国防軍)の調査の結果、このうわさを裏付ける証拠は見つかっていない。

 

しかし報告書では、違法な殺人が行われた「信用できる証拠」や特殊部隊に存在する「戦士文化」について指摘。下位の兵士らが「最初の殺し」として、非武装の民間人の殺害を強いられた例などが挙げられている。

 

趙報道官はツイートの中で、「オーストラリア兵によるアフガニスタンでの市民や捕虜殺害の事実にショックを受けている。こうした行為を強く非難し、責任を取るよう求めていく」と語っている。

 

オーストラリアは、この投稿は「偽情報」だとして、ツイッターに削除要請を出している。

モリソン首相は、ツイートは「本当に不快で、非常に攻撃的で、全く憤慨している」と語った。

「中国政府はこの投稿に関して恥を知るべきだ。国際社会における中国の権威を低めるものだ」

「これは偽の画像であり、オーストラリア軍に対するひどい中傷だ」

 

首相は両国間の緊張関係についても言及し、「だが、こういうやり方ではだめだ」と指摘。他国がオーストラリアと中国の関係を注視していると警告した。

 

緊張関係はどうなる

中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国。モリソン首相の発言は、同国政府が行った中国批判としては最も語調の強いものとなった。

 

両国の関係は、オーストラリアが新型コロナウイルスの起源について中国に調査を要求したことから悪化。さらに、中国がオーストラリアの内政に干渉しているという疑惑も持たれている。

 

こうした批判に対し中国は、貿易停止やオーストラリア製品への追加関税など、経済的な打撃を加えることで対抗している。

 

在豪中国大使館は今月初め、オーストラリアが中国との関係を悪化させようとしているとされる政策14項目を、地元メディア向けに発表。これには中国の投資計画の阻止や、華為技術(ファーウェイ)の第5世代移動通信システム(5G)の禁止、「新疆や香港、台湾の諸問題をめぐる、絶え間ない理不尽な介入」などが含まれていた。

 

オーストラリアはこれに対し、政策的な立場は変えないとした上で、中国の貿易政策は「経済的な威圧行為だ」と指摘している。【11月30日 BBC】

***********************

 

このモリソン首相の「フェイク画像」批判への中国の回答が、冒頭【時事】にある、オーストラリアは自分の行為を反省すべき、画像はネットに流れているものを使っただけだとの華春瑩報道局長の対応です。

 

ちなみに、趙立堅副報道局長は、これまでも過激な発言などで「戦狼外交官」の先駆けとして知られる人物です。

 

もちろんモリソン首相の怒りはわかりますが、「それなら、さんざんフェイク情報を垂れ流しているトランプ大統領はどうなのよ?」って感も。

 

【断崖式に落ち込む中豪関係】

経済的には深い関係にある中豪関係が急速に悪化したきっかけは、新型コロナに関して、モリソン首相が4月、新型コロナの武漢発生を前提に、独立した国際調査を呼び掛けたことが中国側の怒りを買ったこととされています。

 

そのことが引き金となった背景には、それ以前の、中国側が政治献金などでオーストラリア政治に干渉しようとしていたことへのオーストラリア側の警戒感、オーストラリアが他国に先駆けてファーウェイを5G通信網構築から排除したことへの中国側の反感などがありました。

 

****中国とオーストラリアの関係はなぜ断崖式に下落したのか―米メディア****

米ボイス・オブ・アメリカの中国語版サイトは26日、「中国とオーストラリアの関係はなぜ断崖式に下落したのか」とする記事を掲載した。

記事はまず、「中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスが発生したことを受け、オーストラリアが独立した国際調査を呼び掛けたことが、北京の怒りを買った」とし、「ここから今年の中豪関係の断崖式下落が始まった」とした。

そして中国がオーストラリアの肉製品や大麦について輸入停止や関税上乗せの措置をとったこと、また最近では、モリソン豪首相が、同国の人権外交やメディアの独立、投資政策などに対し中国が示した不満について、受け入れない考えを明らかにしたことなどを取り上げた。

さらに、「豪中間の不信感は長年にわたって高まっている。北京が『戦狼外交』を頻繁に使用し、経済的および外交的手段を使ってキャンベラを威嚇し内政干渉するにつれて、両国関係は谷底へと向かっている」とした。

記事は、「両国関係の転換点となったのは2017年だ」とし、「オーストラリアの安全情報機関は、中国がますます大胆にキャンベラの政策決定に影響を及ぼそうとしていると警告した。中国人ビジネスマンによる政治献金も明るみに出た。オーストラリアは同年末、外国の干渉を抑制することを目的とした法律を成立させた。それに対し、北京は外交訪問の停止で応えた」とした。

さらに、2018年にはオーストラリアが「国家安全保障を理由に、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を5G通信網構築から排除した最初の国となった」とした。

記事はまた、「オーストラリア人の中国に対する見方も大幅に悪化している」とし、米世論調査会社ピュー・リサーチ・センターの調査で、中国に対して否定的な見方をしている人の割合が、2017年の32%から2019年は57%に、そして2020年は81%へと増加していることも取り上げた。

そして、「中国とオーストラリアの関係がどこまで悪化するか」については、「経済的な結び付きが強いことから、緊迫した政治関係のバランスを取りながら不安定な形で前進する」との分析がある一方で、「両国間の争いはイデオロギーの違いにも関連している。大国として台頭しようとする中国はますます気勢激しく人に迫るようになり、他国に対して中国のルールに従って行動することを迫るようになるだろう」との見方もあると伝えている。【11月30日 レコードチャイナ】

************************

 

国民感情レベルの関係悪化を示す一例としては、以下のような「場外乱闘」的な騒動も。

 

****武則天がゴキブリ食べる…豪ABC、中国人「醜化」番組放送し炎上―中国メディア****

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)の23日付報道によると、オーストラリアの公共放送ABCの子ども向けチャンネルがこのほど、中国人を醜く描いた内容の番組を放送したとして、中国系市民などから批判を浴びているという。

記事によると、問題の番組は、英BBCの子ども向けチャンネルCBBCが2015年に放送した「Horrible Histories」シーズン6の第2話。中国史上唯一の女帝である「武則天」に扮した白人女性が、ゴキブリやタケネズミを食べるシーンが含まれている。

番組放送後、SNS上では中国系市民などから「吐き気がする番組だ」「人種差別甚だしい」などの声が上がっている。中国系市民のコミュニティーはABC側に、謝罪と説明を求めているという。【11月23日 レコードチャイナ】

**********************

 

中国側は優位な経済的立場を利用して、オーストラリア側からすれば「いじめ」「いやがらせ」ともとれるような圧力をかけ続けています。オーストラリア産大麦・木材や牛肉の一部について輸入を停止しているほか、最近では・・・。

 

****中国、輸入石炭が環境基準満たさずと指摘 豪石炭足止め報道で****

中国は25日、輸入石炭が環境基準を満たさなかったことを明らかにした。多くのオーストラリア産石炭が中国の港で足止めされているとの報道について回答した。

外務省の趙立堅報道官が定例会見で「中国の税関はここ数年、輸入石炭の安全性と品質についてリスク監視評価を行っており、多くの輸入が環境基準を満たさなかった」と述べた。

中国は10月以降、非公式にオーストラリア産石炭の輸入を禁じている。両国関係の悪化が背景。中国は代わりにモンゴルとロシアからの輸入を増やしている。【11月25日 ロイター】

*******************

 

****中国、豪ワインに反ダンピング措置 保証金徴収へ****

中国商務省は27日、オーストラリア産ワインの輸入に反ダンピング措置を適用し、28日から107.1〜212.1%の保証金を徴収すると発表した。豪中の緊張がいっそう高まりそうだ。

 

商務省は、「国内ワイン産業への実質的な損害」を受けての暫定措置だと説明している。

 

中国はオーストラリアの最大の貿易相手国だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐって豪政府が調査を求めたことから経済的報復をちらつかせ、既に豪州産の木材と牛肉の一部について輸入を停止している。(後略)【11月27日 AFP】

********************

 

ロブスターでも・・・“中国、豪産ロブスターに新たな通関検査 豪は出荷停止”【11月3日 ロイター】

 

更には、オーストラリアへの不満をまとめたリスト配布も。

 

****「圧力には屈しない」 豪首相、中国の抗議リストを一蹴****

中国がオーストラリアに対する苦情をまとめたリストを豪メディアに配布したことをめぐり、スコット・モリソン豪首相は19日、中国の圧力には屈しないと強調した。

 

ある中国政府当局者が18日、14の抗議項目が列挙された文書を豪メディアに配布。主要3メディアに対し「中国を敵だとするならば、中国は(オーストラリアの)敵となる」と言ったと報じられている。

 

抗議項目には、オーストラリアの厳格な外国による干渉を防止する法律や、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の第5世代移動通信システムからの排除、「国家安全保障を理由に」中国の投資計画を阻止する決定などが含まれる。

 

モリソン氏は、この「非公式文書」は駐豪中国大使館が配布したものであり、これによりオーストラリアが「国益に沿って法律や規則」を制定することをやめるつもりはないと主張。チャンネルナインに対し「外資規制や5G通信網の構築、内政干渉を防ぐ制度の運用方法などを、われわれ自身が決定するということについて譲歩はしない」と述べた。

 

さらに抗議項目には、豪政府が中国の内政に「絶え間ない理不尽な干渉」を行ってきたという主張も含まれている。一方で中国は、豪政府が新型コロナウイルスの発生源について独立機関による調査を求めたことについて、オーストラリアが米国の反中国キャンペーンに加担し、偽情報を拡散したと非難している。

 

モリソン氏は17日、菅義偉首相と会談し、防衛協力強化を大枠で合意した。これは、アジア・太平洋地域で海洋進出を強める中国を念頭に置いているとみられている。 【11月19日 AFP】

*******************

 

【米中対立に揺れる立場への苦悩も】

オーストラリアが新型コロナや中国包囲網でアメリカに加担している・・・との中国の批判に対しては、モリソン首相は「豪は米の言いなりではない」と反論しつつ、米中対立のあおりを受ける立場への苦悩も。

 

****「豪は米の言いなりではない」 モリソン首相、いたずらな対中関係悪化を非難****

(中略)モリソン氏は、英ロンドンで行われた英シンクタンク「ポリシー・エクスチェンジ」の討論会にオンライン出席。中国からの圧力の高まりを非難する一方、オーストラリアが米国の「言いなり」だというイメージは間違っており、豪中関係を「いたずらに悪化させるものだ」と非難した。

 

さらに、オーストラリアは干渉を受けることなく自国の利益を追求する権利を保持しつつ、米中両国との「互恵的な」関係を求めていると訴えた。(中略)

 

モリソン氏によると、いずれ欧州諸国を含む世界の国々が中国の強制外交にさらされる見込みで、オーストラリアはその苦難の一端を前もって味わっているにすぎないという。

 

一方でモリソン氏は、米大統領選で勝利を確実にしたジョー・バイデン氏の次期政権を念頭に、オーストラリアのような国々は、覇権を争う米中のどちら側に付くかを迫られるべきではないと主張。「世界トップクラスの大国には、パートナー国や同盟国それぞれの国益に配慮できるだけの度量の大きさが求められる」と訴えた。 【11月24日 AFP】

**********************

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オーストラリア・中国の関係は政治的には「どん底」 関係改善はすぐには期待できず

2020-09-20 22:54:11 | オセアニア

(【8月6日 日経】 関係悪化にもかかわらず、オーストラリアから中国への輸出額は増加している。6月の輸出額は過去最高を記録)

 

【「どん底」の豪中関係】

保守政権のオーストラリアと中国の政治的関係が険悪となっていることは、

5月23日ブログ“中国・オーストラリア関係 米中対立が飛び火した形で中国による報復的な輸入制限措置へ

6月26日ブログ“オーストラリア  相次ぐ問題で豪中関係は悪化の一途 親中派議員の家宅捜索も

でも取り上げましたが、その後も悪化は止まることなく「どん底」(豪公共放送ABC)状態ともなっています。

 

そのあたりの報道は連日のように目にしますが、今日も・・・

 

*****豪州、中国の政界工作疑惑で捜査 外交官が地方議員顧問と共謀か****

オーストラリアで中国外交官による政界への工作疑惑が浮上し、現地捜査当局が実態解明に乗り出した。豪州ではこれまでも中国の工作疑惑が浮上。

 

豪州が新型コロナウイルスの国際的な調査を求めたことで「どん底」(豪公共放送ABC)と呼ばれるほど悪化する豪中関係だが、さらなる冷え込みは避けられない状況だ。

 

9月以降の豪州メディアの報道によると、豪捜査当局は在シドニー中国総領事館の外交官が、東部ニューサウスウェールズ州議会上院の野党・労働党に所属しているモーセルメイン議員の政策顧問と共謀し、国内政治に干渉しようとした疑いがあるとみている。政策顧問は中国系豪州人だという。

 

モーセルメイン氏は親中派議員として知られており、新型コロナ対応めぐって、中国の習近平国家主席の指導力を称賛する発言も行っている。

 

捜査当局は6月、モーセルメイン氏の関係先を家宅捜索。ABCによると、政策顧問宅から押収したパソコンや携帯電話には、中国の外交官とやり取りしたメッセージが残されていたという。また、政策顧問とつながりがあった可能性がある国営新華社通信など駐豪中国メディア記者の自宅も捜索したもようだ。

 

疑惑をめぐって中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は今月16日の記者会見で、捜査を進める豪州に対して、「中国大使館・領事館の正常な職務履行を政治化したり汚名を着せたりすることを止め、中豪関係に新たな厄介事と障害を作り出さないよう求める」と反発した。

 

豪州では昨年11月にも、中国の情報機関が総選挙(昨年5月実施)に中国系豪州人の30代の男性を立候補させようとしていた疑惑が判明。男性は豪保安情報機構(ASIO)に対応を相談したが、その後にホテルで死亡しているのが見つかった。

 

モリソン政権は相次ぐ中国による工作疑惑に警戒感を強めており、昨年12月には内政干渉を発見し、捜査するための新組織を設立する方針を発表していた。【9月20日 産経】

******************

 

オーストラリアと中国の間には、オーストラリアがアメリカ・トランプ政権に協調する形で中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の排除に乗り出したほか、オーストラリア国内における中国の諜報活動や地位乱用にオーストラリア世論が不満を訴えるなどの問題がありましたが、新型コロナウイルスのパンデミックの発生源と対応についてオーストラリアが中国の影響力が強いWHOから独立した調査を要求したことで、中国側が“キレた”ような感じで、一気に関係悪化が進行しています。それに並行して、オーストラリア国内の対中国批判も高まることに。

 

****中国、豪州への「圧力」次々 旅行にブレーキ・牛肉輸入停止・大麦関税 コロナ対応の調査要求に反発?****
中国がオーストラリアとの人や物の行き来にブレーキをかけている。豪州では「新型コロナウイルスなどを巡る豪州の厳しい対中姿勢を封じ込めようとしている」との見方が広がる。最大のビジネス相手からの「圧力」に悩みは深いが、中国依存から脱却すべきだとの声も高まっている。

 

中国政府は5日、自国民に豪州へ旅行しないよう促す注意喚起をした。新型コロナウイルスの影響で「中国人らへの差別や暴力行為がエスカレートしている」との理由からだ。(中略)
 
アジア系に対する差別問題は2月以降、豪州でも表面化した。だが、豪州が感染抑止に成功したことが顕著になった5月以降は沈静化。

 

豪州のバーミンガム貿易・観光・投資相は6日、中国政府の主張には「根拠がない」と反発した。中国人は、年間の観光客(約140万人)と留学生(約20万人)の数がともに国別で最多で、豪州の観光・教育産業を支える存在だ。
 
中国は5月、貿易を巡って次々と豪州に厳しい手を打っていた。「検疫に違反する状況があった」として12日、豪州の食肉大手4社からの輸入を停止。19日には豪州産大麦に反ダンピング(不当廉売)関税と反補助金関税を発動した。
 
大麦のダンピング調査が始まったのは2018年10月。豪政府が、次世代通信網5Gの事業に中国の華為技術(ファーウェイ)が参入するのを禁止した2カ月後だ。牛肉の措置は、豪政府が4月に中国の新型コロナ対応について国際的な調査を要求した直後だった。
 
バーミンガム氏は牛肉に関し、「技術的なミス」と反論。大麦については、ダンピングの根拠として豪政府による灌漑(かんがい)施設整備の支援策を挙げたことに「完全にばかげている」と応じた。大麦の大半は灌漑施設なしに生産されている。
 
パース米国アジアセンターのジェフリー・ウィルソン研究部長は「政治的な動機がある貿易上の制裁だ」とみる。

 

 ■豪に依存脱却論も
豪州にとって中国は貿易額の4分の1を占める最大の「顧客」で、農産物や鉱物の主要輸出先だ。大麦は輸出の7割が中国向けだった。

 

全国農業者連盟は「両国による早期の問題解決を望む」と難しい立場をのぞかせるが、ウィルソン氏は「豪州は代わりの輸出先を拡大すべきだ。選択肢はたくさんある」と指摘する。
 
対中関係をめぐって豪州では近年、政治献金を通じた豪政界への親中政策の働きかけや、周辺の島国へのインフラ支援攻勢を通じた影響力の強化についても危惧する声が出ていた。
 
中国外務省の華春瑩報道局長は8日の会見で、「健全で安定した中豪関係は両国の利益にかなう。豪州側が中国と歩み寄り、互いを尊重し、平等・ウィンウィンの原則で協力するよう希望している」と述べた。
 
ニューサウスウェールズ大のティム・ハーコート研究員は、中国が経済力を背景に豪州の主張を封じ込めようとしていると批判する。「通商政策を使って外交ゲームを続ければ、結局は自国の利益を害するだろう」【6月9日 朝日】

*****************

 

****オーストラリア人の中国に対する信頼感が急減、世論調査で明らかに―仏メディア****

仏RFIの中国語版サイトは24日、「外交と貿易摩擦の影響によりオーストラリア人の中国に対する信頼感が急減したことが、世論調査結果で明らかになった」とする記事を掲載し、次のように伝えている。 

豪シドニーのシンクタンク、ローウィ研究所が24日公表した年次世論調査によると、外交と貿易摩擦の影響により、中国政府が国際舞台で責任ある行動を取っていると信頼しているオーストラリア人の割合は、2年前の52%から23%へと半分以上も減った。 

2つの貿易相手国間の対立が高まる中、この日公表された調査結果は、オーストラリア人の中国に対する信頼感が過去最低にまで落ち込んだことを示している。 

仏AFP通信によると、ローウィー研究所幹部のマイケル・フュリラブ氏は、「わが国最大の貿易相手国、中国に対する信頼は急激に下がった。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席への信頼はさらにもっと落ちている」と述べた。 

AFP通信は、「中国は、習主席のもとでより積極的になり、北京はその高まる経済的力を政治的、外交的、軍事的な力に変換しようとしている」と伝えている。 

だが、中国の「筋肉」誇示は、インドとの国境での小規模衝突からオーストラリアとの外交上の溝まで、近隣諸国との一連の対立を悪化させている。 

特に、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源について国際的な調査を求めたことを受け、オーストラリアと中国との間の外交関係は悪化している。(中略) 

調査によると、回答者の94%が政府は貿易多様化で中国への経済依存度の低下に努めるべきと答え、82%が人権侵害に関与した中国当局者への制裁を支持した。 

公式統計によると、中国はオーストラリアの貿易総額の4分の1を占めており、オーストラリアの鉱物は中国の重工業と燃料動力の開発を支えている。(中略) 

ロイター通信によると、トランプ米大統領はオーストラリア人の間であまり人気がないが、この調査では、米国との安全保障同盟を支持するとの回答が前回から6ポイント上昇して78%となったことも分かった。また対米関係は対中関係よりも重要との回答は55%、対中関係が重要としたのは40%だったことも分かった。【6月25日 レコードチャイナ】

********************

 

上記記事以降の主だった動きについて、記事見出し・要点を並べてみると・・・

 

“親中派議員に家宅捜索=モリソン首相「内政干渉を阻止」―オーストラリア”【6月26日 時事】

(冒頭【産経】記事にある中国外交官による政界への工作疑惑のスタートとなった捜査)

 

“豪州、10年間で国防費40%増へ 中国けん制か”【7月2日 CNN】

(モリソン同国首相は首都キャンベラの国防大学で演説し、豪州は第2次世界大戦以降、最も厳しい国際情勢に直面しているとの危機感を表明。中国の脅威増大には直接触れなかったが、中国が主権論争に絡むインドとのヒマラヤ地域での国境線係争、南シナ海や東シナ海情勢に言及。「誤算に加え紛争勃発(ぼっぱつ)のリスクも増えている」とし、インド太平洋地域を「我々の時代において主要な国際的競争の中心」と位置付けた。)

 

“豪、中国への渡航に注意喚起 「恣意的な拘束」のリスク”【7月7日 ロイター】

(豪当局の「スマートトラベラー」のサイトでは「中国当局は外国人を、国家の安全を脅かしたとして拘束したことがある」と警告。7日には外務貿易省が新たに「豪国民には、恣意的な拘束に遭うリスクもある」との警告を追加した。)

 

“オーストラリアが「中国旅行で捕まるリスク」指摘、中国大使館「滑稽」―米華字メディア”【7月10日 レコードチャイナ】

((上記の豪対応に関し)中国大使館の報道官は「滑稽で、完全な虚偽情報だ」と一蹴。全ての在中外国人について「法規を守りさえすれば心配する必要は皆無」とした上で、「当然のことながら、薬物の取引やスパイなどの違法活動を行った者は他の国と同様、法に基づく処分を受ける」と表明した。)

 

“中豪関係の「暗い影」を懸念、公正な投資環境望む=中国の駐豪公使”【8月26日 ロイター】
(同公使は「冷たい心と暗い考え方が、われわれのパートナシップに影を落とすことがあってはならない」と発言。中国がオーストラリアからの輸入を一部制限していることについては「経済による強制」ではないと説明。オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源に関する国際的な調査を呼び掛けたことについては「中国だけを標的にしている」との認識を示した。)

 

“中国当局、国営チャンネルの豪州人キャスターを拘束”【9月1日 朝日】

((拘束された)チャン氏は中国からの移民。豪州国籍を取得後、中国に戻り、最近では、CGTNのビジネスニュース番組のキャスターを務めていた。)

 

“豪州が「国益反する」外国との協定破棄へ法整備 「一帯一路」や孔子学院に影響も”【9月2日 産経】

(オーストラリア政府は、国内の地方自治体などが外国政府と締結した協定について、政府が「国益に反している」と判断した場合、破棄できる法律の導入を計画している。外国の影響力拡大を防ぐ狙いがあり、国内への浸透を図る中国を念頭に置いていることは間違いない。

モリソン首相は法案は「中国を標的にしていない」と強調しつつ、他国との協定に関しては「1つの声で話し、1つの計画に沿って行動することが重要だ」と、政府に一元化していく方針を明確に示した。)

 

“豪国防相、国内のサイバー攻撃が増加と指摘”【9月4日 ロイター】

(豪政府は6月、サイバー対策を強化する方針を表明。モリソン首相はその際、同国の政府や政治団体、重要なサービスの提供者、基幹インフラの運営者に対し、「国家を基盤とする」高度なサイバー攻撃が何カ月にもわたって企てられてきたと語った。関係筋によると、政府は中国が攻撃元だと考えている。中国は疑惑を否定している。)

 

“中国、豪記者2人を「追放」 出国禁止措置後に尋問 外交悪化で「嫌がらせ」か”【9月8日 毎日】

(2人の帰国により、中国に駐在する豪メディアの豪州人記者は一人もいなくなった。

中国外務省の趙立堅副報道局長は8日の定例記者会見で、2人が「関連機関」の調査を受けたことを認めたうえで「通常の法執行の一環だ」と述べた。)

 

“豪当局による家宅捜索、中国人記者の権利を侵害=中国外務省”【9月9日 ロイター】

(中国外務省の趙立堅報道官は9日、オーストラリア当局が6月に中国国営メディアの記者の自宅を捜索したとの報道について「露骨な非理性的行為」で、記者の権利を侵害していると非難した。)

 

まさに「どん底」と言うか、「両者、足を止めてリング中央で打ち合い」といった感があります。

 

【米の対中戦略に協力し、日米との連携を強める豪への中国の苛立ち 豪政府の姿勢には国内世論支持があり、関係改善はすぐには期待薄】

豪中関係は経済的には“中国はオーストラリアの貿易総額の4分の1を占めており、オーストラリアの鉱物は中国の重工業と燃料動力の開発を支えている。”というきわめて緊密な関係にありますが、中国側の経済的圧力に対しても“オーストラリアのスコット・モリソン首相は(6月)11日、中国人観光客や留学生らが豪にもたらす巨額の利益を中国側が抑え込もうとする動きを見せていることを受けて、経済的な「威圧」の試みにひるむことはないと明言した。”【6月11日 AFP】ということで、当分、この「どん底」状態が続きそうです。

 

****中国と豪州、過去最悪の関係 経済から安保までなぜ一変****

中国とオーストラリアの外交関係に緊張が走っている。長らく貿易強化を柱に良好な関係が続いたが、対中攻勢を強める米国と足並みをそろえる豪州に中国が反発。対立は経済分野から人権や報道の自由、安全保障にも広がり、両国関係は「過去最悪」との見方も出ている。(中略)

 

豪州では最近の両国関係について、天安門事件を非難し2万7千人の中国人学生を受け入れた「1989年以来で最悪の危機」(オーストラリアン紙)との見方も出ている。

 

中国、5G巡る米国追従に反発

米国との対立が強まる中国は近年、その対応に集中するため周辺国との関係改善に動いてきた。尖閣諸島を巡ってぶつかる日本や、国境地帯で衝突が続くインドなどとも決定的な対立を避けようとするなか、豪州には攻勢を強めている。

 

その理由について、中国外交当局者は二つの要因を挙げる。

一つは、豪州が米国の対中戦略に最も協力的であることだ。

 

トランプ政権が諜報(ちょうほう)機関の情報を提供しあう「ファイブ・アイズ」(米、英、豪、カナダニュージーランド)の他の国々に中国の華為技術ファーウェイ)機器を使わないよう求めると、豪州は2018年8月に次世代通信規格5Gの整備で、他国に先駆けて華為排除に動いた。外交当局者は「米国にどこまで付き合うかは、英国やカナダに迷いも見られる。だが豪州にはそれがない」と話す。

 

もう一つは豪州が、日米のインド太平洋戦略に呼応するように、安全保障面での連携を強めている点だ。

 

中国は18年に豪州主導の多国間軍事演習「カカドゥ」に初参加するなど防衛交流を進めてきたが、そうした動きは止まりつつある。逆に豪州は7月、南シナ海と西太平洋で日米との合同演習に参加し、中国への対抗姿勢を強めた。

 

豪州、安保情報の流出に強い懸念

豪州は最大のビジネス相手として中国との関係を重視し、13年からギラード、アボット両政権ではほぼ毎年、首脳の相互訪問を続けてきた。

 

中国に対して明確な強い姿勢に転じたのは、ターンブル前政権下の18年だ。華為の5Gへの参入禁止に先立ち、同年6月には、外国政府の意を受けて政策決定のプロセスに影響を与える行為を厳罰化した。

 

当時、サイバー攻撃や基幹インフラへの中国企業の参入、政治献金を通じた政治家への働きかけなどを通じ、安全保障に関わる情報などが中国に渡っているという懸念が急速に広がっていた。

 

近隣の太平洋の島国に中国がインフラ支援攻勢をかけ、影響力を広げていることへの危機感も強い。18年には、中国の援助で建設されたバヌアツの港を中国が海軍の拠点として使う可能性が報じられ、物議を醸した。豪政府はパプアニューギニアやフィジーで軍の基地施設の整備を支援するなど対抗している。

 

経済界は中国による輸入制限などにあえぐが、モリソン首相は「豪州は国益を考えて行動する。誰からも威嚇されない」と、安易な妥協はしないとの姿勢だ。

 

豪国防省の国防情報機構出身の安全保障専門家、ポール・モンク氏は「中国の『いじめっ子ぶり』に国民はいらだっており、(政府の対中姿勢には)世論の支持がある。両国関係がすぐに改善するとは思えないが、ヒステリックにならずに対話のチャンネルを保つことが大切だ」と語る。【9月18日 朝日】

*********************

ただ、オーストラリアは経済的にはむしろ中国依存が強まっています。

 

****豪、6月対中輸出が過去最高 中国は外交姿勢転換求める****
オーストラリアから中国への輸出額が増加している。6月の輸出額は中国向けが約146億豪ドル(約1兆1000億円)で過去最高だった。

 

6割を占めるとみられる鉄鉱石の価格上昇が影響している可能性もあるが、外交や安全保障で中国と距離をとりながら、貿易ではなお対中依存が高い。(後略)【8月6日 日経】

*********************

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする