孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

男女格差  日本、パキスタン、アフガニスタンの現状

2022-07-31 23:04:24 | 女性問題
(【7月13日 NHK】 「ジェンダーギャップ指数」の4分野バランス)

【女性に認められた法的権利は、男性のスコアを100とすると平均でわずか4分の3の76.5】
世界の多くの国・地域で、多くの場面で女性が男性に比べて劣後した権利しか有していない・・・というのは“今更”の自明の事実です。

****男性と同じ経済的権利を持たない女性は世界全体で24億人近く****
2021年、パンデミック下でも23カ国が女性の経済的包摂促進に向け法改正を実施
男性と同等の経済的機会を与えられていない労働年齢の女性は約24億人、女性の完全な経済参加を阻む法的障害が残る国は178カ国に上る、と世界銀行は報告書「女性・ビジネス・法律2022」(WBL)で指摘している。86カ国で女性が何らかの雇用制限を受けており、95カ国は同一労働同一賃金を義務付けていない。

世界全体で見ると、女性に認められた法的権利は、男性のスコアを100とすると平均でわずか4分の3の76.5に過ぎず、法的格差は明らかだ。

ただし、世界規模のパンデミックによる悪影響は女性の生活や暮らしに偏ってはいるものの、報告書によると、2021年に23カ国が法改正を実施し、女性の経済的包摂促進に向け不可欠な措置を講じた。

「進捗はみられたものの、男性と女性で期待できる生涯賃金には世界全体で172兆ドルの差がある。これは、年間の世界GDPの2倍近くに相当する。」と、マリ・パンゲストゥ世界銀行専務理事(開発政策・パートナーシップ)は述べた。「環境に配慮した強靭で包摂的な開発の達成に向けて前進するため、各国政府は、女性がその潜在能力をフルに発揮でき、100%の恩恵を平等に享受できるよう、法改正を加速させる必要がある。」

同報告書は、可動性、職場、賃金、結婚、育児、起業、資産、年金の8つの分野の法規制が女性の経済参加にいかに影響を及ぼしたかを190カ国を対象として検証している。こうして得られたデータは、ジェンダーの平等に向けた世界的進展の客観的かつ測定可能なベンチマークになる。(中略)

報告書最新版はまた、25カ国において「女性、ビジネス、法律」の分野別に法律の施行状況を検証している。分析の結果、紙の上の法と施行実態には大きな開きのあることが明らかになった。ジェンダーの平等向上には法律だけでは十分ではなく、履行や施行だけでなく、社会・文化・宗教上の規範といった要素も関わってくる。こうした開きについては、今後の「女性・ビジネス・法律」報告書でさらに掘り下げていく。(後略)【3月1日 世界銀行】
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【日本のジェンダーギャップ 改善の傾向がないことが問題】
“紙の上の法と施行実態には大きな開きのあること”・・・日本もその事例でしょう。
法律的には一定に平等が実現しているにもかかわらず、毎年発表される「ジェンダーギャップ指数」(経済、政治、教育、健康の4分野に関する統計データから算出する男女格差を示すもので、世界経済フォーラム(WEF)が発表)では、日本は下位を低迷しています。

2022年版では、日本の指数は146カ国中116位と主要7カ国(G7)で最低でした。

****ジェンダーギャップとは 日本はG7で最低****
▼ジェンダーギャップ 
社会や家庭などで男女の違いから生じている格差を示す。各国の格差の度合いを比べる指標として世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダーギャップ指数」が知られる。

2022年版で日本の指数は146カ国中116位と主要7カ国(G7)で最低だった。日本はこれまでも下から2~3割の順位が定位置となっており、男女平等の実現で出遅れている。

指数は経済、政治、教育、健康の4分野に関する統計データから算出する。日本は特に政治が139位、経済が121位と遅れが目立つ。識字率や初等教育の就学などでは男女同等だが、国会議員や管理職の女性比率の低さなどが足を引っ張る。意思決定の場に女性が少ないと格差を生む社会構造が温存されやすい。

多岐にわたる男女格差のなかで特に焦点となるテーマの一つが賃金だ。ジェンダーギャップ指数が1位のアイスランドは18年、企業が男女の同一労働同一賃金を証明するよう世界で初めて義務付けた。期限までに証明できない企業には罰金を科す。

日本も今年7月、女性活躍推進法の省令改正で大企業などに男女の賃金格差の情報開示を義務付けた。実際に賃金の男女差がどこまで縮小されるかが注目される。【7月31日 日経】
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日本の問題は単に格差が大きいということだけでなく、長期的に見て事態が改善されていないということにあります。

****韓国に大差をつけられ116位…日本のジェンダーギャップが「12年前のレベルに“後退”した」ワケ****
(中略)
今年も1位はアイスランドだったが、日本は分析対象国146カ国中116位だった。G7で最下位にあるのは変わりなく、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国の中でも、124位のトルコを除くともっとも低い。

さらに今年は、去年まで日本より順位が低かったバヌアツ共和国が日本より順位を上げたため、東アジア・太平洋地域でも最下位の19位となった(去年日本より下位にあったパプアニューギニアは、今回の評価に参加しなかった)。アジア・太平洋地域で政治・経済的リーダーの役割が期待される日本にとって、とても残念な結果である。

対象国数が近い2015年より大幅にダウン
(中略)日本の順位は昨年156カ国中120位だったため、一見今年は順位(116位)が上がったかのように見えるが、今年は対象国が10カ国も減ったので、相対的な順位が上がったとは言えない。
分析対象国数が145カ国で、今回と近かった2015年の日本の順位は101位と、今年よりはるかに高かった。

もちろん、ジェンダーギャップ指数だけで男女格差を十分に表すことはできない。女性の間の格差や性的マイノリティーの状況はこの指数だけでは分からないし、性別以外の属性もクロスして分析しなければ、社会のあらゆる格差を明らかにすることはできない。ジェンダーギャップ指数は、社会に存在する不平等のあり方を分かりやすく表す手法のうちの一つであることを留意したうえで、有効に活用することが大事だ。

それでは、15年間のジェンダーギャップ指数から何が見えてくるだろうか。世界と日本の15年間の変化を手がかりに日本の課題を考えてみたい。

「他国が頑張っているから遅れて見える」わけではなかった
ジェンダーギャップ指数は男女のギャップを0から1の数値で示しており、最高スコアである1は男女格差がない平等な状態(パリティ)を示す。反対にスコアが0に近くなるほど、男女のギャップが大きいことを意味する。

13年連続1位であるアイスランドと日本の総合スコアを比較してみると、アイスランドが0.908と、ジェンダー平等が90%程まで達成されているのに対して、日本は0.650にとどまっており、ジェンダー平等から程遠い状況がうかがえる。

日本のジェンダー格差は今年に限ったことではない。今年の総合スコアは0.650であるが、これは昨年の0.655を下回る。

また、ジェンダーギャップ指数が初めて発表された2006年からの長期的な変化を見ても、日本の総合点はほとんど変わっていない。2006年は0.645で、2015年にかろうじて0.670まで上がったものの、その後はスコアを落とし、挙げ句の果てに今年は2010年(0.652)以前の水準にまで後退した。

つまり、男女格差が大きいだけでなく、長期的にみても改善の傾向がないのであり、それこそが問題なのである。
この数値から言えるのは、これまで言い古されてきた「諸外国が頑張っているから相対的に日本が遅れて見えるだけ」というのは言い訳に過ぎず、「日本はこの十数年間ジェンダーギャップを放置してきた」ということである。

コロナでさらに開いた格差
分野別の数値からはさらに詳細が見えてくる。
経済と政治分野で男女差は一貫してとても大きい。とりわけ、昨年(2021年)と比べると、今年は経済分野で121位まで順位を下げて(昨年117位)おり、スコアも0.604から0.564に下がった。経済分野の男女格差が開いたのは、女性の労働参加率の下落幅が大きかったことが響いた。

「男女共同参画白書」でも、コロナ禍の影響には男女差があると指摘されている。特に小、中、高校の一斉休校があった2020年3月から4月には、男女ともに就業者数が大幅に減ったが、女性の就業者の減少幅は男性より1.8倍も大きかった。

その後も、女性の就業率はなかなか回復せず、回復の速度も男性より遅い。元々貧困率が高くケア責任も担っているシングルマザーたちは、特に苦しんだ。コロナ禍は「女性不況」とも言われるほど、女性に大きなダメージを与えたが、それに対する政府の対策はジェンダー格差を十分に考慮していたとは言えない。

定額給付金は世帯主にまとめて支給され、雇用維持のための各種支援も企業を通じて行われた。コロナ禍以前から存在していたケア負担や不安定な労働条件が原因で労働市場から撤退せざるを得なかった女性たちに、スピード感を持って的確な支援を届けることができなかったのである。(中略)

「善意にお任せ」だったが女性候補者3割超に
日本でも2003年に、「2020年までに社会のあらゆる意思決定の場における女性の比率を30%にする」という目標を掲げていた。しかしこの、いわゆる「202030」は達成できず、政府はその原因に対する精査もせず、「2025年までに国政選挙の候補者の女性割合を35%にする」という新しい目標を立てた。目標を立てているだけでそれを強制する方法は設けず、各政党の善意にお任せ状態である。

それでも、先日行われた参議院選挙では、各政党が世論に後押しされる形で女性候補者を増やす努力をした結果、女性候補者比率が初めて3割を超えた33%となった。

女性候補者を50%にする目標を掲げた立憲民主党が先導的にその目標を達成したほか、自民党も最終的に比例代表の女性候補者比率を3割に上げることに成功した。(中略)

まずは候補者を増やす努力を続けることで、政治を志す女性が増え、次の選挙にはもっと有能な人材が政治に参入することが期待できる。有権者にとっても女性候補者が増えると自分たちを代表してくれる人を選べる選択肢が増え、それ自体が選挙や政治に対する市民の関心を高めることになる。(後略)【7月26日 お茶の水女子大学 ジェンダー研究所教授 申 琪榮 (しん・きよん)氏 RESIDENT WOMAN】
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【パキスタン 女性、トランスジェンダー、移民労働者、遊牧民など数百万人は電子身分証明(ID)カード不所持】
“紙の上の法と施行実態には大きな開きのあること”の事例として日本を取り上げましたが、法律・制度的に差別が既定されているという話になれば当然ながらより深刻な問題になります。

****問題根深いパキスタンの電子ID、数百万人締め出し****
パキスタンでは選挙で投票したり、さまざまな公的サービスを受けるのに電子式の身分証明(ID)カード「CNIC」が必須だが、父親のIDカードを提示しないとCNICを取得できなかった。

しかし母子家庭で育った女性がCNICの発行を求めて起こした訴訟でシンド州の高等裁判所は昨年11月、女性の訴えを認める画期的な判決を下し、母親の市民権記録に基づいて発行するよう当局に命令。母子家庭で育つとCNICを取得できない状況に風穴が開いた。

もっともパキスタンでは女性やトランスジェンダーなど数百万人が依然としてCNIC制度から除外されており、問題は根深い。

訴訟を起こしたのはカラチ出身のルビナさん(21歳)。CNICを手に入れようと3年間にわたって何度も挑戦した挙句、提訴に踏み切った。

「申請に行くと父親のカードを持ってくるように言われる」とルビナさん。「私が生まれた直後に父は私たちを捨て、母が育ててくれた。父のID書類がそろえられるわけがない」

今回の判決により、ルビナさんは母親の定年退職後に州の教育局で母親の仕事を引き継ぐ申請が可能になった。

非営利団体「パキスタン人権委員会(HRCP)」のハリス・カリクエ事務局長によると、今回の判決で母子家庭の子どもは事実上CNICが取得できないという問題に終止符が打たれた。

CNICがないと、公立教育機関や医療保障制度を含めたあらゆる公的サービスへのアクセスができない上、銀行口座の開設や就職活動もできず、「端的に言って、市民としての権利がまったくない」

CNICを管轄する国家データベース登録局(NADRA)は、これまで制度から除外されてきた人々への接触に努めていると説明。連邦政府の政策の実施状況を監督する、首相直属の戦略改革チームを率いるサルマン・スフィ氏は、「データベースに登録されるはずの人々を排除しないというのが政府の明確な方針だ」と述べた。

<まるで外国人>
2000年に設立されたNADRAは国の生体認証データベースを管理し、成人の96%に相当する約1億2000万枚のCNICを発行しているという。パキスタンの総人口は約2億1200万人。

各カードは13桁の固有のID番号、本人の写真、署名、マイクロチップで構成され、チップには虹彩スキャンと指紋のデータが記録されている。

しかし女性、トランスジェンダー、移民労働者、遊牧民など数百万人はいまだにCNICを手にしていない。

世界銀行によると、全世界で身分を証明する手段を持たない人は10億人余りに上る。

各国政府はガバナンスを改善するためと称してデジタルID制度の導入を進めているが、国連の人権特別報告者は、こうした制度は疎外されたグループを排除しており、社会保障制度を利用する前提条件にすべきではないと訴えている。

HRCPが昨年行ったカラチの移民労働者への調査で、女性はCNICを持っていないケースが多く、夫が死んだり家を出たりすると貧困に陥る危険性があることが分かった。

親が身分登録をしていないと子どもは出生証明書を取得できないため、特に弱い立場に置かれ、人身売買や強制労働のリスクにさらされているという。

HRCPは、移動式の登録拠点や、特に立場の弱い人々の登録を支援する女性スタッフの増員、さらには手続きの簡素化、移民の申請を難しくしている書類要件の緩和などを提言している。

パキスタンに何十年も住んでいるアフガニスタン難民約280万人のうち、登録しているのはわずか半数。パキスタンには、未登録のベンガル系やネパール系、ロヒンギャ族の移民がかなりの数で存在する。

CNICの発行を求める活動を率いるシェイク・フェロス氏は最近の抗議行動で、「ベンガル系パキスタン人の大多数はCNICを持たず、自分の国であるにもかかわらず外国人や不法移民のように暮らしている」と訴えた。

NADRAは、バングラデシュ、ケニア、ナイジェリアのデジタルIDシステムの構築も支援しており、「特に女性、少数民族、トランスジェンダー、未登録者」に専門に対応する登録部門を設置していると説明している。

「女性が男性職員と接するのをためらうという社会文化的な障壁を克服するため」、特に国境沿いの州には女性専用の拠点が複数置かれ、高齢者や障害者を優先しているという。(後略)【7月30日 ロイター】
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【アフガニスタン タリバンによって就業機会を奪われた女性】
法律や明示された制度であれば改善の余地もありますが、権力者の恣意的意向で決まるという話になると、権力者の考えを変えさせるか、権力者そのものを変えるしかないということにもなります。

上記パキスタンの隣国アフガニスタンで、タリバンの意向によって女性の教育・就業の機会などが大きく制約されていることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

タリバンによる女性に対するニカブ・ブルカ(顔を隠す衣装)の強要という問題もありますが、一番の問題は女性の就業機会が奪われたことでしょう。

失業した女性は生活の糧を失い、生きがい・夢を失い、追い詰められていきます。

****【アフガン】髪も抜け落ち… タリバン政権で失業 うつ病に苦しむ女性たち****
イスラム主義勢力タリバンの暫定政権発足後、たくさんの市民が仕事を失っています。

特に生活においてさまざまな制限が課されている女性たちが、失業をきっかけにうつ病にかかってしまうケースが増えているといいます。 仕事を失い希望まで奪われてしまっている女性たちの現状を、現地通信員が取材しました。【7月16日 日テレNEWS】
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****タリバン「女性の生活破壊」=デモ参加者に暴行、児童婚増加―人権団体****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは27日、アフガニスタンでイスラム主義組織タリバン暫定政権の発足後、「女性の生活が破壊」されているとの報告書を公表した。暫定政権に抗議した女性への暴力や、児童婚が増えていると指摘。労働や教育の機会が奪われていると非難した。

アムネスティの調査員がアフガンを訪れ、14〜74歳の女性101人と面談するなどして状況を調べた。抗議デモに参加し、数日間拘束されたという女性は、タリバンの看守から家族の写真を見せられ「全員殺せる」と脅迫を受けた上、強く蹴られてけがをしたと証言した。

中部で暮らす女性(35)は昨年9月、生活苦から670ドル(当時のレートで約7万4000円)相当の現金と引き換えに13歳の娘を30歳の隣人と結婚させた。もう一人の10歳の娘には英語を学び、職を得て家族を支えてくれることを期待している。一方で「もし学校が再開しなければ、娘を結婚させなければいけない」と懸念も漏らした。タリバン政権下で女子が中等教育から排除される状態が続いている。【7月27日 時事】 
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サウジアラビア  ムハンマド皇太子が目指す未来都市「ネオム」 壮大な計画に影を落とす「人権」

2022-07-30 23:06:31 | 中東情勢
(アカバ湾に面した建造物の一方の端を描いたアーティストの完成予想図【7月26日 WSJ】 これは昨今流行りの「壁」ではなく、高さ500m、全長120キロだか170キロだかの平行に向かい合う2棟の「建築物」です)

【人権問題のくびきから解放され威信を回復するムハンマド皇太子】
アメリカ・バイデン大統領が「油乞い外交」とも評されるように石油増産の要請などの目的に、これまで人権に問題があるとして距離を置いていたサウジラビアを訪問し、カショギ氏殺害事件への関与が強く疑われている実力者ムハンマド皇太子と会見、結果的にムハンマド皇太子の国際社会の表舞台への復帰を後押しする形にもなったことなどは7月12日ブログ“バイデン米大統領の中東訪問 サウジとの手打ち、石油増産要請、さらには中東全域の協力体制なども”でも取り上げました。

なお、バイデン大統領は「カショギ氏の殺害については会談冒頭で提起し、考えを明確に伝えた」とのことですが、ムハンマド皇太子は強気の反論を行ったようです。

****ムハンマド皇太子、人権問題でバイデン氏に反論 サウジメディア報道****
価値観の無理強いは逆効果だ――。サウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子は15日のバイデン米大統領との会談で、人権問題などについて強気の反論を展開した模様だ。

サウジ資本の衛星テレビ局「アルアラビーヤ」電子版が16日、会談に陪席したサウジ政府高官の話として報じた。原油増産を求めてこれまでの冷淡な態度を一変させたバイデン氏に対し、意趣返しした形とみられる。

この報道によると、サウジ西部ジッダでの会談は予定の1時間半を大幅に超過し、話題は多岐にわたった。バイデン氏がムハンマド氏主導と見るサウジ人記者殺害事件(2018年)を取り上げたのに対し、ムハンマド氏は必要な全ての司法手続きがなされたと説明し、「このような事件は世界のどこでも起きうる」と主張。米国も過ちを犯してきたとして、駐留米軍による被収容者虐待事件が起きたイラクのアブグレイブ刑務所を例に挙げた。

ムハンマド氏はさらに、米国とサウジの価値観は共通しない部分もあり、価値観の無理強いは逆効果になると述べた。失敗の例として、米国による戦争で国情が不安定化したイラクとアフガニスタンに言及したという。【7月16日 毎日】
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アメリカ・バイデン大統領との会談で人権問題のくびきから解放されたムハンマド皇太子は、フランスに乗り込んでマクロン大統領yと夕食会談を行っています。

****サウジ皇太子と夕食会談 仏大統領、人権団体が批判****
フランスのマクロン大統領は28日、サウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子をパリの大統領府に招き夕食を伴う会談を行った。

皇太子は2018年に起きたサウジ人著名記者カショギ氏殺害事件への関与が指摘され、人権団体や野党はマクロン氏の対応を強く批判した。

皇太子の欧州連合(EU)加盟国歴訪はカショギ氏殺害事件後初めてで、フランスの前にギリシャを訪問した。

欧米諸国と皇太子の関係は一時冷え込んでいたが、マクロン氏は昨年12月にサウジを訪問して会談した。バイデン米大統領も今月、サウジで会談しており、皇太子の威信回復の動きが続いている。【7月29日 共同】
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【「改革者」としての皇太子 「ビジョン2030」】
ムハンマド皇太子は人権問題を抱える一方で、国内的には石油に依存した保守的なサウジ経済・社会の「改革者」としての側面もあり、若者らの支持を得ています。

2016年4月25日、ムハンマド皇太子(当時は副皇太子)は、兼任する経済開発評議会の議長として、サウジアラビアの発展計画と改革案をまとめた「ビジョン2030」を発表しました。

「ビジョン2030」は、サウジアラビアの経済を改革し、石油依存を低減させ、「活力溢れる社会、つまり、穏健なイスラム教国、国家的誇り、サウジアラビアの遺産、そしてイスラム文化を色濃く反映する強靭な根と基盤に特徴づけられた社会」を育むために組み立てた総合的戦略的プランとのこと。

****サウジアラビア:ムハンマド皇太子によるビジョン2030の中間報告他****
2021年4月26日、国家改革計画サウジ・ビジョン2030が開始から5年経ったことをうけて、ムハンマド皇太子が国営アラビーヤ放送(ドバイ拠点)にインタビュー出演した。関連して報じられたビジョン2030の成果を含め、主な内容は以下の通り。

1. ビジョン2030の主な成果(2015年→2020年)
●公共投資基金の資産が5700億リヤル以下から約1.5兆リヤルに増大
●国外への投資が58%低下の一方、海外からの投資が331%(53.21億リヤルから176.25億リヤル)に上昇(NEOM、Qiddiya、Red Sea Projectなどの大型プロジェクトによるもの)
●国民の住宅所有率が47%から60%に上昇
●交通事故による年間死亡率(10万人当たり)が28.8%から13.5%に減少
●4時間以内の緊急医療体制へのアクセス率が36%から87%に上昇
●スポーツへの参加率が13%から19%に上昇
●今後、消費税を導入する計画はない。
●2020年7月の15%の付加価値税(VAT)は時限的な措置である。
●今後、サウジアラムコの株式の1%を海外の大手エネルギー会社等に売却予定である。
(後略)【2021年4月28日 中東調査会「中東かわら版」】
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【想像を超える壮大な未来都市建設計画「NEOM」(ネオム)】
「ビジョン2030」の目玉プロジェクトが「NEOM」(ネオム)と呼ばれる新たな産業都市建設で、紅海沿岸にベルギー国土に匹敵する規模のスマートシティを建設しようというもの。

「NEOM」(ネオム)で建設される未来都市「The Line」(外壁に鏡を使い、「ミラーライン」とも)は“全長170キロ、幅200メートルの長細い街。街の周辺を囲むのは、高さ500メートルの壁。街に住む人は、壁の外に出ることなく衣食住、仕事も遊びも楽しめます。端から端まで遠いなぁという誰もが抱く感想は、最先端の高速移動手段で解決。端から端まで移動するのにたった20分だとか。壁の中では車は不要。 The Line内の想定人口は900万人。周辺の自然を守りながら暮らすというエコフレンドリーな街作りがテーマで、使用エネルギーはすべて再生エネルギーを予定。”【7月29日 GIZMODO】とか。

ムハンマド皇太子としては、ピラミッド群並みの、とにかく人々の想像を超える野心的なものを建設したいようです。(下記記事では「全長120キロ」になっていますが、上記の“全長170キロ”との差など、数字の違いはよくわかりません。どっちにしても“途方もない”建築物です。もし実現すれば・・・ですが)

****全長120キロ高層ビル、サウジ計画の全容****
未来都市ネオムの一環「ミラーライン」は実現するか

サウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、同国北西部の乾燥地帯の土地開発を指示した際、エジプトのピラミッド群に引けを取らない野心的なアイデアを出すよう求めた。

都市設計者が思いついたのは世界最大の建造物を作る計画だ。高さ500メートル弱の2棟の高層ビルが、海岸や山岳地帯、砂漠を横切りながら、長さ120キロメートルにわたって平行に連なるというもの。2棟の間は歩道で結ばれるという。この構想に関する数百ページに及ぶ機密文書によって詳細が初めて明らかになった。

「ミラーライン」と名づけられたこの構想は、ムハンマド皇太子が以前発表した線状都市を造る計画がベースとなっている。全て完成すれば約500万人を収容可能で、費用は最大1兆ドル(約136兆円)と見込まれる。計画を知る複数の関係者の話やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した文書から分かった。

文書によると、鏡張りのビルの下には高速列車を走らせる計画だ。入居者の食料を賄う目的で、ビル内では垂直農法が行われる。娯楽施設として地上300メートルの高さにスポーツ競技場を作るほか、ビルのアーチの下にヨット用のマリーナも設置される。

ミラーラインは、石油に依存するサウジ経済を多様化するため、ムハンマド皇太子が発案したハイテク都市「NEOM(ネオム)」のプロジェクトの一つ。サウジの政府系ファンドが所有するネオムは、外国から投資を呼び込むとともに、数千人分の新たな雇用を創出することを目指す。

だが今のところ外国から大きな関心や資金を引きつけるという思惑は外れている。2018年にジャーナリストのジャマル・カショギ氏がサウジの工作員に殺害された事件を受け、人権問題を懸念する多くの西側諸国や企業が、サウジやムハンマド皇太子との関わりを拒否しているためだ。

そうした西側との断絶は、ムハンマド皇太子とジョー・バイデン米大統領が先週、首脳会談を行ったことで終止符が打たれた。外国からの投資がネオムに流入する道が開かれる可能性がある。

重要なのは、サウジが原油価格高騰による予想外の収入を得ていることだ。おかげでムハンマド皇太子は、ミラーラインをはじめとする、同国を世界屈指の観光地にする野心的なプロジェクトを推進できている。ただ、このプロジェクトの計画内容はまだ変わる可能性がある。(中略)

ムハンマド皇太子が車も環境汚染もゼロの線状都市のアイデアを初披露したのは2021年1月だ。皇太子は動画の中で、このアイデアはペニシリンの発見や月面着陸に匹敵する人類の偉業の進化形だとし、環境汚染や交通事故で失われる命を救う手段だと位置づけた。

そのわずか1年前、ネオムは人権擁護団体から批判を浴びていた。建設用地に住む部族を強制的に立ち退かせ、治安部隊が住民を射殺する事態にまで発展したためだ。

動画の中でムハンマド皇太子は、100万人の入居者が徒歩5分以内の距離で毎日顔を合わせ、端から端まで20分で移動できるようにすると述べた。再生可能エネルギーを利用し、北西部の手つかずの自然を保護する計画だが、詳細は後日発表するとした。

一方、皇太子は内々の会合では、計画の担当者に大胆な設計を考案するよう指示していた。「私は私自身のピラミッドを作りたい」と語ったと、昨年WSJは報じている。

高層ビルが並行して連なる建造物にとって最大の課題の一つは、日陰ができることだ。日光の遮断は健康に有害な可能性があると文書の中で指摘されている。

またこの開発計画には、世界の建築物の中でも唯一無二の課題がある。それは地球の湾曲率だ。
地球は1.6キロメートルにつき約20センチ湾曲しているため、文書によると設計者は、建造物を「曲げる」ため上部に一定の隙間を残すことを提案しているという。(後略)【7月26日 WSJ】
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【女性蔑視や人種差別、虐待行為を軽んじる経営文化】
途方もない建築物・新たなスマートシティを実現するためには、財源となる今後の原油価格動向のほか、外国資本・人材を呼び込むことが必要ですが、冒頭のバイデン大統領との会談で人権問題を“クリア”したことで、実現への道もひらけたようです。

ただ、ムハンマド皇太子だけでなく、サウジアラビ社会全体に人権を軽んじる風潮もあるようで、それが計画実現の足を引っ張ることにも。

****サウジ見切る外国人幹部、未来都市ネオムに影****
経営文化に嫌気がさした多くの採用者が逃げ出している

2020年夏、サウジアラビアが計画中のハイテク都市「NEOM(ネオム)」のスポンサーを務めていたビデオゲーム2社が、契約を解除した。同国の人権問題に対するファンの苦情を受けた措置だった。

ネオムのナドミ・アル・ナスル最高経営責任者(CEO)は週末に緊急会議を招集し、そうした事態が起きる可能性があるとなぜ警告しなかったのかと自身の情報連携チームを問い詰めた。

ナスル氏は「もし誰に責任があるのか言わなければ」と切り出すと、「机の下から銃を取り出しておまえを撃つ」と言った。この会議を直接知る複数の関係者が明かした。

泣き崩れた女性従業員を同僚たちが後で励ましたと、関係者らは言う。その会議に出席した人々の大半がその後ネオムを離れている。外国人スタッフの大量流出の一例だと現・元従業員らは言う。(中略)

これ(ネオム)は世界最高のエンジニアや建築家、経営者、都市計画者の助けを借りて、砂漠の王国を石油依存から脱却させる計画の一環だ。何万人ものホワイトカラーの外国人移住者が、ムハンマド皇太子の下で最近始動した、新たな都市や産業を生み出す数十億ドル規模のイニシアチブで働くために集まってきている。

この構想には、5つのいわゆるギガプロジェクト(その1つがネオム)や多くのより小規模な不動産開発事業や新興企業が含まれる。

だが今や、その経営文化に嫌気がさした多くの採用者が逃げ出している。元幹部の話によると、最悪の場合は外国人スタッフを見下したり、非現実的な要求をしたり、差別に目をつぶったりするという。

ギガプロジェクトのうち2つが最近合併し、3つは外国人CEOが去り、全てにおいて経営上層部が交代した。100億ドル(約1兆2900億円)かけて首都リヤドに建設中の金融街と、50の娯楽施設を手がける不動産開発会社の米国人CEOもそろって辞職した。両者ともコメントの要請に応じなかった。

中でもネオムは、新たな企業文化の衝突を示す最も顕著な例となっている。
ムハンマド皇太子が自らネオムのトップに起用したナスル氏は、従業員を厳しく叱りつけ、怖がらせているとネオムの現・元従業員らは言う。ナスル氏の指揮下で、ネオムの従業員1500人のうち数十人の外国人幹部が会社を去った。(中略)

「これは時間との闘いだ」。2030年までにネオムを作り上げることについてナスル氏は昨年11月の会議でこう述べた。ムハンマド皇太子が進める経済改革は2030年を集大成の時期に定める。「非常に高い要求を一人一人がこなさなくてはならない」

だが、スタッフの離職がプロジェクトの進展に響いていると、現・元従業員は指摘する。ネオムは5年以上にわたる計画立案や複数のマスタープラン(基本計画)を経てようやく着工にこぎ着けたところだ。(中略)

独特のリーダーシップ
(中略)一方、新プロジェクトの文化を批判する向きは、サルマン国王(86)の息子でサウジの事実上の最高権力者であるムハンマド皇太子にそもそもの原因があると話す。

一部の元幹部によると、皇太子は非現実的な要求をする上に、意見をたびたび変えるという。サウジの実業家や王族が汚職の疑いで投獄されたり、反体制派が弾圧されたりすることでプロジェクト関係者に不安が高まり、恐怖の文化が生まれたとも彼らは指摘した。

会議でナスル氏はある幹部に対し、砂漠で死んでこい、そうすればお前の墓に小便をかけられると告げたとナスル氏と直接仕事をした複数の人々は言う。

WSJが確認した録音によると、別の会合では「私は全員を奴隷のように動かせる」と語っている。「彼らが倒れて死んだら褒めてやる。それが私のやり方だ」

ナスル氏のリーダーシップスタイルは上層部にも浸透していると、2021年4月にネオムを1年で去ったIT(情報技術)セキュリティー担当の元シニアマネジャー、ジョセフ・ライト氏は言う。(中略)

浮かぶ課題
ギリシャ語の「新しい」とアラビア語の「未来」を意味する言葉を組み合わせた造語であるネオムでは、ムハンマド皇太子の目標を実現するために設計者が日々奮闘している。(中略)

マーケティング動画では、ネオムは「人類の進歩を加速させるもの」とされ、サウジ国内の他の地域よりも自由な社会を生み出すことを目指している。だがネオムの敷地内では、その実現が困難なことを示唆する出来事も起きている。それはサウジ自身が保守的な文化を緩和するために直面してきた課題を浮き彫りにする。(中略)

現・元従業員の話によると、ネオムの宿舎では相手が望まない性的誘惑が頻繁に起きていたという。
昨年、ある外国籍の女性従業員が欧米人の男性上司による不適切な行為があったと苦情を訴えた後、ネオムを退職した。この告発をよく知る複数の関係者が明らかにした。元従業員らによると、この幹部はナスル氏と近い立場にあり、現在も職務を続けているという。

「女性蔑視や人種差別、虐待行為は上層部に容認されているばかりか、上層部が実際に嫌悪すべき振る舞いを見せている」。山岳リゾート元トップである前出のワース氏は声明でこう指摘した。(後略)【6月2日 WSJ】
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【実際の建設工事が始まれば懸念される外国人労働者の過酷な労働】
より深刻な問題は、実際に建設が始まったときに起きることが危惧されます。建設にあたる労働者は中東では一般に外国人労働者です。そしてその「虐待」・過酷な労働環境がしばしば問題になります。

****湾岸諸国の酷暑 昼過ぎの屋外労働禁じても年間死者1万人に****
夏はまだ始まったばかりだが、中東・湾岸諸国の一部では気温がすでに50度を超えている。

6月から8月にかけて、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、バーレーン、オマーンの湾岸諸国では、正午から4時間程度、屋外労働が禁止されている。

昨年の世界保健機関の報告書によると、クウェートでは暑さが厳しい日の死亡リスクが2倍から3倍に跳ね上がる。その影響を最も受けるのが、屋外労働者の大部分を占める外国人労働者だ。

石油資源が豊富で裕福な湾岸諸国には、インド、パキスタン、ネパール、スリランカ、バングラデシュから多くの出稼ぎ労働者が来ている。安価な労働力を提供する外国人労働者は、高給取りの公務員を志望する国民の間で敬遠される建設作業やごみの収集、道路清掃、食料配送といった屋外での仕事を代わりに引き受けている。

■日陰でも耐えられない
屋外で働く人々は、正午からの屋外労働禁止時間には寮に戻るか、日陰で休む。しかし、近年は、日陰にいても耐えられないような日が増えている。

6月に入り、クウェートやサウジアラビアなど、多くの場所で気温が50度に達した。この2か国に関しては5月に53.2度を記録。同月の世界最高気温となった。(中略)

バングラデシュから働きに来ている建設労働者ムハンマド・ムカラムさんは、「8時間のシフトをできるだけ前倒しにするために、午前6時から働き始め、休憩時間に(4時間)中断し、その後、残り2時間働くこともあります」と語った。

厳しい暑さは湾岸地域全体の問題として前々から懸念されてきた。人権団体は、今年のサッカーW杯開催国のカタールに対し、「熱中症」に関連した労働者の死を調査するよう求めている。

だが、湾岸諸国で死亡した移民・出稼ぎ労働者に関する信頼できる数字は存在しない。各国は統計を発表せず、NGOやメディアが発表する推定値に常々異議を唱えている。

アジア諸国を中心とした人権団体によるプロジェクト「バイタルサイン・パートナーシップ」は、今年3月の調査報告書で「南・東南アジアからの湾岸諸国への移民労働者の年間死者数は1万人に上っている」と報告。また、その半数以上について「自然死」または「心停止」と記録している。(後略)【7月30日 AFP】
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“新しい未来”「ネオム」を建設するために外国人労働者の屍の山が築かれるのであれば、まさに壮大な皮肉です。
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加速する温暖化現象 追いつかない各国の対応

2022-07-29 23:19:26 | 環境
(グリーンランドの氷が過去に例のない速さで溶け始めている【7月29日 JBpress】)

【欧米を襲う熱波】
日本も暑い日が続いていますが、欧州・アメリカも熱波・干ばつに襲われています。

アメリカ・テキサスでは46.1℃。

****テキサス州で46.1度を記録…アメリカでも記録的な熱波****
記録的な熱波はアメリカでも広がっていて、各州でこの時期としての最高気温を更新した。

南部テキサス州では19日、この時期としては過去最高の46.1度を記録した。地元メディアは熱波で山火事が発生し、急速に燃え広がって大規模な被害が出ていると報じている。また、20日には28州の1億500万人以上を対象に高温の警報や注意報が出されている。

東部のニューヨークでも熱波で高温の日が続くことを受けて、市内の公共プール36カ所で21日までの2日間、夜の営業時間を1時間延長している。【7月21日 ABEMA TIMES】
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ラスベガス近郊の貯水池ミード湖は水位が低下し、出てきたものは・・・

****水位低下の貯水池から3人目の遺体発見 米ラスベガス近郊****
干ばつで水位が急低下している米ラスベガス近郊の貯水池ミード湖で、遺体が相次いで見つかっており、今週に入り3人目の遺体が収容された。当局が明らかにした。

ミード湖は、同国最大の貯水池。国立公園当局によると、25日午後、スイムビーチに遺体があるとの通報を受け、職員が出動。遺体の収容活動を開始した。

遺体の年齢など身元に関する情報は現時点では公表されておらず、検視が予定されている。

ミード湖では5月に、男性の白骨遺体が見つかった。被害者は頭を撃たれ、たるに詰められた状態で遺棄されていた。警察はこの男性について、ラスベガスで犯罪組織が暗躍していた1970年代末〜80年代初頭に殺害されたとみている。

この男性の遺体発見から数日後にも別の遺体が見つかっており、当局は貯水池の水位が下がればさらなる遺体が見つかる可能性があると指摘していた。

記録的な干ばつに見舞われ、水不足が懸念されている米西部では、貯水池や湖の水位が前例のない水準まで低下しており、ミード湖の水位も現在、1930年代の建設以来最低となっている。 【7月27日 AFP】
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干上がった湖から死体が・・・なんだか小説の出だしにうってつけの話のようにも。
それはともかく、アメリカ中西部の干ばつ、カリフォルニアなどでの山火事・・・といった話は、近年毎年のように耳にするようにも思えます。

****米西部の干ばつ、過去1200年で最悪に 米研究****
英科学誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」は14日、2000~21年にかけて米西部で起きた干ばつが過去1200年で最悪だったとする論文を掲載した。21年の大干ばつは特に深刻だったと指摘し、22年もこの状況が続くと予想した。

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校とコロンビア大学の科学者らが手掛けた論文によると、人間活動を原因とする気候変動の影響で大干ばつが深刻化した。21世紀は1950~1999年の期間に比べて雨量が8.3%減ったのに加え、気温も1度近く高くなり、著しい乾燥を経験している。

今年に入ってからも、カリフォルニア州デスバレーでは記録を取り始めてから最も早い2月11日にカ氏94度(セ氏34.4度)まで上がった。1月の同州の雨量は観測史上2番目に低く、降水量が少ない状態が続いており、山火事などの被害増加が懸念されている。【2月16日 日経】
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欧州の熱波も聞くだけで汗が噴き出しそう。

****記録的熱波 イギリスで初の40度超え 暑さが原因? 火災も相次ぐ****
ヨーロッパで続く熱波の影響で、イギリスでは、観測史上初めて気温が40度を超えた。

ロンドン郊外のヒースロー空港では19日、気温が40.2度まで上昇し、イギリスの最高気温を更新したほか、市内でも観測史上初めて40度を記録した。

ロンドン市内を走る2階建てバスの車内では、温度計が40度以上を示していた。

ロンドンは夏の最高気温が24度前後で、公共機関の冷房設備があまり整備されていないため、地下鉄やバスの運行にも影響が出ている。

また、郊外では火災が相次いで発生し、市長が不用意な行動を慎むよう注意を呼びかけたほか、現地メディアは、火災が10数件にのぼっていると報じた。

気象庁は、人々が暑さに慣れていないことから、死者が出るおそれもあるとして、警戒を呼びかけている。【7月20日 FNNプライムオンライン】
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“ロンドンの7月の最高気温は平均24度。30度を上回る日は珍しく、エアコン付きの家は少ない”【7月19日 読売】  エアコンなしで40℃・・・どうするんだ?!って思ってしまいますが、欧州は日本みたいに湿気がないので多少気温が上がっても体感的にはさほど問題ないという話もあるようです。【7月28日 “ドイツ在住日本人が明かす「記録的熱波」の真実と最新コロナ事情” MAG2NEWS より】

別に「熱波=温暖化」という訳でもないですが、熱波にしろ、寒波にしろ、極端な気象現象が起きやすくなるというのは温暖化の影響と考えられるでしょう。

【アルプス・ヒマラヤの氷河融解】
気温の上昇でアルプスの氷河の融解も進んでいます。

****気候変動が影響か・・・イタリアで氷河が崩落、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林が“最悪ペース”で消失****
氷河が崩落して起きたイタリアの雪崩事故。気候変動の影響が指摘されています。一方、ブラジル・アマゾンではこの上半期に埼玉県とほぼ同じ面積の熱帯雨林が消失、環境破壊に歯止めがかかりません。

山の斜面を勢いよく滑り落ちる白い影。これはイタリア北部の世界自然遺産、ドロミテの最高峰マルモラーダ山で3日に発生した、大規模な雪崩の映像です。雪崩は氷河の一部が崩落したことで引き起こされたということです。AP通信によりますと、登山客など7人が死亡。13人の行方が分かっていません。

現地の捜索状況を視察したイタリアのドラギ首相は。
イタリア ドラギ首相 「この悲劇を予測することはできなかったが、間違いなく自然環境と気候状況の悪化によるものだ」

事故の背景として環境的要因を指摘。特に、「気温の高さ」との関連が指摘されています。
雪崩が起きる前日、山頂付近の気温は観測史上最高となる10度にまで上昇。この地方にとっては異例の暑さで、氷河が溶けたことで雪崩に繋がったとの見方が伝えられています。

また、ロイター通信は科学者の話として、以前は安定していた氷河の動きが、気候変動の影響で予測が困難になったと指摘しています。国連の気候変動に関する政府間パネルによると、すでに、世界の平均気温は産業革命前と比べて、およそ1.1度上昇。今世紀半ばには「1.5度以上上昇する」とされています。

こうした中、さらに環境にダメージを与える動きが。「地球の肺」とも呼ばれる、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林が減り続けていることが明らかになったのです。

ブラジル ボルソナロ大統領 「アマゾンの違法な森林伐採をゼロにする」
去年、気候変動サミットでこう宣言していたブラジルのボルソナロ大統領。しかし、ブラジル国立宇宙研究所の調査によると、アマゾンの今年上半期の消失面積は埼玉県とほぼ同じ、3750平方キロメートルに及び、2016年以降最悪となりました。

気候変動を抑えるため、森林が吸収する二酸化炭素を含む、温室効果ガスの削減が急がれる中、現実が逆行する実態があらわになっています。【7月5日 TBS NEWS DIG】
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氷河が融けるのはヒマラヤ・チベットも同じ。
ヒマラヤ・チベットは中国・東南アジアの水源でもありますので、将来的には重大な国際問題を惹起することが想像されます。

中国がインドとの関係で国境紛争を抱えている背景のひとつに、チベットの水源を確保したい思惑があるとも。

****中国にとって重要度を増す印中国境****
なぜ中国は、印中国境で緊張を高めたままにしているのだろうか。標高は5000メートル以上もあり、冬は気温マイナス30度にもなるから、人もほとんど住んでいない。そんな場所が最新鋭の兵器を集めて、軍人たちが命を懸けて戦うほど、重要なのだろうか。中国の行動を見る限り、重要だということなのだろう。では何が重要なのか。

印中国境に面しているのは、中国が支配するチベットと新疆ウイグル自治区である。実は、今、中国にとってこれらの地域の重要性は高まりつつある。

一つの原因は、チベットに資源があるからだ。まず、チベットは水資源豊富な地域である。南アジアに流れるインダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川だけでなく、東南アジアのメコン川や、中国の黄河や長江に至るまで、すべての河川の源流はチベットにある。

今、中国は、この水資源をこれまで以上に重視している。中国沿岸諸都市の経済発展が進み、より多くの水資源が必要になっているためだ。水資源を都市部により多く引くことが重要だ。

しかも、水資源の使い方は都市に持ってくるだけではない。新疆ウイグル自治区にもっていって、そこに大農業地帯をつくるなどの方法で、都市部で消費する食糧生産につなげることもできる。

さらに問題なのは、地球の温暖化がもし本当であれば、チベットの水資源はいずれ干上がる可能性が出ていることだ。他の国が使う前に、中国は水資源を少しでも多く使いたいのである。(後略)【6月25日 “ますます緊迫する印中国境 中国は何を狙っているのか” WEDGE】
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【想像以上のスピードで溶け始めているグリーンランドの氷床】
温暖化でグリーンランドの氷が解けて、海面上昇が進行・・・というのは温暖化の定番ネタですが、特に最近は加速しているようです。

****グリーンランドの氷が異例の速さで溶け始めた!****
グリーンランドの氷床が「驚くほど広範囲に、しかも想像以上のスピードで溶け始めている」とのニュースが先週から話題になっている。わずか3日間で180億トンの氷が融解して北大西洋に流れ出たというのだ。(中略)

米国立雪氷データセンターのテッド・スキャンボス上級研究員によると、ほとんどの融解はグリーンランド北部で起きており、「180億トンという数字はウェストバージニア州を厚さ30センチで覆うことができる水量」だという。

氷床が溶け出すと直接的には海面の上昇や洪水の発生を誘発することになるばかりか、高潮や海岸浸食など、市民生活に深刻な被害を及ぼす可能性がある。

仮にグリーンランドの氷がすべて溶けると、海面がいまより約7.5メートル上昇すると言われている。

氷床が溶け出している原因はいくつかあるが、最近の融解理由はグリーンランド上空に高気圧が張り出したことで、広範囲にわたって融解現象が起きたとされる。特に先週の3日間は、平年よりも気温が6度ほど高く、摂氏15度を超えたところもあった。 

1980年代から90年代にかけて、グリーンランドではこうした融解が起きることはほとんどなかったが、2010年以降、融解が進むことが多くなった。

例えば2012年と19年の両年は史上最大といわれるほどの融解が発生した。特に2019年は春から気温が上がり、夏が酷暑となったため、5320億トンの水が海に流れ出た。そのため、世界海洋の水位が2ミリ上昇したといわれる。
2ミリというのは微細な数値だが、全世界の海洋である点を考慮すると甚大である。

今年はまだ7月中ということもあり、両年ほどの融解は起きていないが、8月、9月も温暖な日が続けば、途方もない水量が海に流れ出る可能性があると専門家はみている。

別の理由は人類が化石燃料を燃やし続けてきたというものだ。これは考えようによっては、自然が人類に警告を発しているとも受け取れる。

2020年9月の学術誌「ネイチャー」には、「地球の温暖化を過去1万2000年という単位で眺めた場合、最近の変動は過去に例がないほど特異である」という論文が掲載された。

執筆者はニューヨーク州立大学バッファロー校の雪氷学者、ジェイソン・ブライナー氏で、「過去40年間、北極の温暖化の影響により、グリーンランドの氷床が加速度的に融解している」という内容だ。

今のように人類が石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やし続けた場合、今世紀中に約21兆トンの氷が溶ける可能性があると指摘している。これは過去1万2000年で最も融解が速かった時の、約4倍の速度であるという。(後略)【7月29日 堀田佳男氏 JBpress】
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【追いつかない対応】
加速する温暖化現象の一方で、対応が追いつかないのは周知のとおり。

****化石燃料、EU最大の発電源に 再エネを抜く=欧州統計局****
欧州連合(EU)統計局は30日、2021年に化石燃料がEUで最大の発電源となったと発表した。天然ガスの使用が過去10年で最高となったため、化石燃料が前年に首位だった再生可能エネルギーを抜いた。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起きた20年に再エネが一時的に首位となった。しかし、経済回復に伴って21年には石炭や石油、天然ガスによる化石燃料の電力供給が前年より4%増えた。(中略)

原子力発電の発電量は7%増。再生可能エネルギー源では太陽光発電が13%増え、バイオ燃料が10%増で続いた。水力と風力は悪天候のためそれぞれ減った。【7月1日 ロイター】
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昨日ブログで取り上げた、天然ガス供給不安に対するEUのガス使用量15%削減案も、この温暖化対策の変更の契機としてとらえることもできますが、現実にはガスが減る分、石炭・原子力が増えるということにも。

中国は、そのあたりを指摘して、環境問題における中国のイニシアティブをアピールしています。

****中国、クリーンエネ移行は継続と表明 「欧州は石炭に回帰」****
中国政府は27日、ウクライナ戦争で世界のエネルギー安全保障に課題が生じており、欧州諸国は石炭に回帰しているが、中国のクリーンエネルギーへの移行は今後も続くと表明、二酸化炭素の排出削減目標は達成可能との認識を示した。

北京で会見した国家エネルギー局の章建華局長は、エネルギー消費に占める非化石燃料の比率を現在から2030年まで年間平均1%ポイント増やすと発言。

「昨年はエネルギー供給がタイトで、多くの欧州諸国では石炭が再び使用され始めているが、中国の非化石燃料エネルギーの開発は依然衰えていない」と述べた。

昨年は中国の総エネルギー需要の16.6%が風力・太陽光・原子力・水力などの非化石燃料で賄われ、前年の15.9%から上昇したという。

ウクライナ戦争で天然ガスや一般炭の価格が高騰する中、中国はエネルギー安全保障の重要性を繰り返し強調しており、気候変動対策が後退するのではないかとの懸念が浮上している。【7月27日 ロイター】
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トランプ前政権に比べると温暖化対策を重視するアメリカ・バイデン大統領は、地球温暖化を「明確かつ現在の危機」と呼び、「緊急性と決意を持って行動する責任がある」「はっきりと言う。気候変動は緊急事態だ」と述べています。ただ、もう一歩の踏み込みは難しい状況。

****バイデン氏、気候対策で大統領令発表へ 緊急事態宣言は見送り****
バイデン米大統領が20日のマサチューセッツ州訪問中に気候危機対策を目的とした新たな大統領令を発表する。ホワイトハウスのジャンピエール報道官が19日明らかにした。気候変動に関する緊急事態宣言は見送る見通し。

民主党のジョー・マンチン上院議員が先週、議会で主要な気候変動条項を支持する用意がないと発言したことを受け、民主党議員や環境保護団体はホワイトハウスに積極的な気候変動対策を求めている。

緊急事態宣言が出されれば、国防生産法(DPA)を利用して再生可能エネルギーの製品やシステムの生産を幅広く拡大することが可能になるが、大統領が現段階で宣言を出す可能性は低い。

ジャンピエール報道官は、バイデン氏がマサチューセッツ州訪問でこれまでに行ってきたクリーンエネルギー分野への投資を強調するとともに「気候危機に対処しクリーンエネルギーの将来を確保するための追加措置を発表する」と述べた。

ホワイトハウス当局者は先に、バイデン氏は上院が行動を起こさなければ自身が行動すると明言したと指摘。「あらゆる選択肢を検討しているものの、何も決まっていない」とした。【7月20日 ロイター】
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各国ともに目先の問題への対応が最優先というのはやむを得ないところ。ただ、そうしているうちにも状況は更に進行して・・・ということで、人類が温暖化を止められるかについては悲観的に思えます。

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EU  天然ガス15%削減で合意 最後まで反対したハンガリー・オルバン政権の特異性

2022-07-28 23:12:00 | 欧州情勢
(4月3日、ハンガリーで議会選挙が行われ、オルバン首相(写真中央)率いる右派与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が勝利を確実にした。【4月4日 ロイター】)

【ロシア 天然ガスで欧州を揺さぶる】
ロシアの天然ガスを欧州に運ぶパイプライン「ノルトストリーム1」の定期点検が7月21日に終わり、ロシアからのガス供給が再開しました。流量は定期点検前と同様に、供給能力の4割程度でした。

ロシア国営ガス会社、ガスプロムは7月25日、「ノルトストリーム1」による天然ガスの供給能力を2割まで落とすと表明し、今後の供給に関する不安が広がっています。

****ロシアが欧州向け天然ガス供給を一段と削減へ、欧州ガス急騰*****
ロシアは欧州向けの主要パイプライン「ノルドストリーム1」を経由したドイツへのガス供給を一段と削減する。冬に向けた欧州のエネルギー備蓄に暗雲が垂れ込めた。

ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムの発表によれば、同パイプラインの輸送稼働率をモスクワ時間27日午前7時(日本時間同午後1時)から20%前後に引き下げる。タービンの保守点検の問題が背景にあると説明した。

ガスプロムの発表を受け、欧州の指標ガス先物価格は一時12%上昇した。

この稼働率がいつまで続くかは不明。ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う対ロ制裁で悪化した欧州のエネルギー危機は欧州連合(EU)域内経済に大きな打撃を与える恐れがある。

通常6基のタービンが使用されるが、ガスプロムの発表によると、ロシアのポルトバヤ圧縮機ステーションではタービン1基のみが作動している。交換用タービン1基がカナダで点検修理された後、国際制裁により返還が遅れており、残りはなおロシア国内にあって保守点検のためカナダに送る必要がある。(中略)

ロシアのプーチン大統領はカナダで修理されたタービンがロシアに戻れば稼働率40%が可能になると述べた。今月実施された定期点検の前の稼働率は40%で、点検後も引き続きその水準となっていた。【7月26日 Bloomberg】
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こうしたロシア側の対応を受けて、6月上旬にはいったん落ち着いていた天然ガス価格が急騰しています。

****欧州ガス価格が一時2割上昇、4か月半ぶり水準…ロシア「天然ガス8割減」で供給不安****

26日の欧州ガス市場で、代表的な指標となる「オランダTTF」の先物価格が一時、前日終値から2割上昇し、1メガ・ワット時あたり211ユーロをつけた。ロシア産天然ガスの供給不安が強まり、3月上旬以来、4か月半ぶりの高水準となった。(中略)

オランダTTFの先物価格は、ロシアのウクライナ侵略を受けて、3月上旬に1メガ・ワット時あたり200ユーロ台をつけた。その後は、100ユーロ前後で推移し、6月上旬には80ユーロを割り込んだ。現在の水準は1年前の約5倍となる。(後略)【7月27日 読売】
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【EU 天然ガス使用量を15%削減】
EUは「ノルトストリーム1定期点検以降のロシアの対応・プーチン大統領等の発言をウクライナを支援する欧州に対する「脅迫」と認識し、ガス使用量の15%削減を加盟国に求めました。

****EU、天然ガス使用量15%削減目指す ロシアの「脅迫」に対抗****
欧州連合欧州委員会は20日、ロシアのエネルギー供給をめぐる「脅迫」に対抗するため、加盟国に対し冬季の天然ガス使用量を15%削減するよう呼び掛けた。
 
欧州委はまた、ロシアが欧州へのガス供給を停止した場合に、使用量の削減を強制できる特別権限を同委に付与するよう要請した。

ウルズラ・フォンデアライエン委員長は「ロシアはわれわれを脅迫している。ロシアはエネルギーを武器として使っている。大規模なガス供給制限であれ全面停止であれ、欧州はいかなる事態にも備えておかなければならない」と述べた。 【7月20日 AFP】
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しかし、国民の生活に直結する「15%削減」にはEU内部でも多くの反対がありました。

****EUのガス使用節減計画、27カ国中12カ国が難色=当局筋****
欧州連合(EU)欧州委員会が提案した来年3月までガスの使用量を15%削減する目標の設置に対し、加盟27カ国のうち少なくとも12カ国がこの提案に懸念を示したことが分かった。20日の会合に参加した5人のEU当局者がロイターに語った。

欧州委は20日にこの案を提案した。これは自主目標だが、欧州委は、域内で深刻なガス不足が生じる可能性がかなり高いと判断した場合、この目標を義務化することもできる。

この提案には加盟国の過半数の賛成が必要なため、実現が危ぶまれている。ギリシャやポルトガルの政府関係者からはすでに反対の声が上がっている。【7月22日 ロイター】
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異論も多い提案でしたが、一応、EUは合意にこぎつけました。

****EU、ロシア依存脱却へ天然ガス15%削減で合意****
欧州連合は26日、天然ガス使用量を15%削減し、ロシア産ガスへの依存を減らす方策について合意した。

ロシア国営天然ガス大手ガスプロムは、27日から欧州へのガス供給を削減すると予告している。電力や化学薬品の製造でロシア産のガスに依存するドイツをはじめ、複数の国の経済が脅かされている。

EU加盟27か国は、ガス使用量の削減方策や不足時の負担分担などについて合意した。
EUの担当閣僚による閣僚理事会は「EUのエネルギー供給をめぐる安全保障を高めるために、加盟国はきょう、今冬の天然ガス需要を自主的に15%削減する政治的合意に達した」との声明を出した。

この中で「ガス需要削減の目的は、エネルギー供給を武器として利用し続けているロシアからのガス供給が途絶えた場合に備え、冬に向けてガスを節約することにある」とした。深刻なガス不足の際には警告を出し、加盟国に消費抑制を義務付ける可能性もあるという。

ルクセンブルクのクロード・トゥルメス土地計画・エネルギー相はツイッターに、節ガスはロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「ガスによる脅し」への最善策だと投稿。反対票を投じたのはハンガリーだけだったと明らかにした。 【7月26日 AFP】
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ただ、合意を得るため、多くの妥協・修正はあったようです。

****EU、ガス消費削減合意 例外容認、反発受け大幅修正****
(中略)南欧諸国などが15%の一律削減を義務付けることに異議を唱え、例外措置を認めることで妥協が成立した。

欧州委員会が20日に示した原案では、ガス供給が逼迫(ひっぱく)した場合、欧州委が警報を発令し、加盟国に削減を義務付けられると定めていたが、合意では大幅に修正された。

EU声明によると、アイルランドやマルタなど、大陸のガス供給網に加わっていない島国は、例外として削減義務に縛られない。バルト諸国も除外対象。液化天然ガス(LNG)ターミナルを保有し、ほかの加盟国に輸出する能力がある国も、例外扱いが認められた。警報は、閣僚理事会が欧州委の提案を受けて発令することになった。

欧州委の原案には反対が相次いでいた。国内にLNGターミナルを持つフランスやスペイン、ポルトガル、ギリシャは、「一律15%の目標設定は公平でない」として、反対を表明した。
ドイツや東欧がパイプライン経由の露産ガス輸入に頼り、切り替えが難航しているのに比べ、アフリカなどへの供給元の多極化が進んでいるためだ。

東欧でも、ポーランドが「押し付けは認めない。エネルギー安全保障は国家の権限」と抗議した。理事会はロシアの供給削減で、ガス価格が上昇する中、例外を設けても早期合意を優先する形となった。

緊急対策には、ガス不足の際に民間世帯のほか、医療や防衛など基幹分野に供給を優先する方針も記された。
ロイター通信によると、理事会の採択ではハンガリーが反対した。ハンガリーは理事会を前に閣僚をモスクワに派遣し、ロシアにガス供給を増やすよう要請するなど、EUの対露制裁に否定的な立場を示している。

EUはガス輸入の4割をロシアに依存してきた。【7月26日 産経】
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【EU方針に最後まで反対したハンガリーの特異な立場】
多くの妥協が図られましたが、最後まで反対したのがハンガリー。

****EUのガス削減計画「強制できない」 ハンガリーが反発****
欧州連合加盟各国が合意した天然ガス消費量の削減計画について、唯一反対していたハンガリーは26日、「強制できない」ものだと反発した。

この計画はEU加盟27か国に対し、来月から来年3月までのガス消費量を、過去5年間の平均に比べて自主的に15%削減するよう求めるもので、加盟国の多数決で承認された。ロシアはさまざまな理由でEU諸国へのガス供給を停止または削減しており、欧州側はウクライナ侵攻をめぐる対ロシア制裁への報復だとみている。

ブリュッセルを訪問しているハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外務貿易相は記者団に対し、「これは正当化できず、役に立たず、強制できず、有害な提案だ」と糾弾。「ハンガリー国民の利益を完全に無視している」と非難し、「ハンガリーにはガスがあるにもかかわらず、国民や企業が使えないのはなぜか、ブリュッセルの誰かがハンガリー人に説明してくれるのだろうか。まったくばかげた話だ」と切り捨てた。

ロシア産の天然資源に大きく依存しているハンガリーは今月、エネルギー供給をめぐって「危機的な状況」にあると宣言。同国は現在、石油の65%、天然ガスの80%をロシアからの輸入に頼っている。

シーヤールトー氏は先週モスクワを訪れ、天然ガス7億立方メートルの追加購入についてロシア側と協議していた。ハンガリーの天然ガスパイプライン運営企業FGSZによると、これは同国の2020年の天然ガス消費量の約6.7%に相当する。 【7月27日 AFP】
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ガス問題に限らず、そもそもハンガリーはEUの対ロシア制裁全体について反対の立場です。

****EUの対ロシア制裁は失敗、新たな戦略必要=ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン首相は23日、欧州連合(EU)の対ロシア制裁は効果が出ておらず、新たな戦略が必要との考えを示した。また、ハンガリーはウクライナ戦争に関与しないと再度表明した。

オルバン氏は以前、EUの禁輸措置やロシア産ガスの輸入制限を支持しないと述べている。ハンガリーは輸入ガスの85%をロシア産に依存しており、輸入を制限すれば国内経済に打撃を与える。

オルバン氏は欧米の戦略について、1)北大西洋条約機構(NATO)の武器でウクライナはロシアに勝利できる、2)制裁はロシアを弱体化させて政権指導部を不安定にする、3)制裁の打撃は欧州よりロシアの方が大きい、4)各国が欧州を支持する──の4本柱で成り立っていると説明。

欧州の政権は「ドミノ倒し」のように倒れ、エネルギーは高騰し、戦略は失敗に終わったとして、新たなやり方が必要と述べた。
ロシアの軍事力がウクライナ軍を上回ることを踏まえると、ウクライナがこの戦争に勝つことはないと指摘した。

ロシアとウクライナの間で和平交渉が行われる可能性は低いとし、「ロシアが安全保障を望んでいる以上、この戦争はロシアとアメリカの和平交渉によってのみ終結可能だ」と述べた。【7月25日 ロイター】
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更に言えば、ウクライナ問題・対ロシア制裁に限らず、そもそも基本理念・価値観においてハンガリー・オルバン政権は西欧的民主主義とは異なる「非自由主義的民主主義」とも言われる価値観を有し、国内反対派、政府に批判的なメディア、移民・性的マイノリティーといった少数派への攻撃・不寛容姿勢を露わにしている・・・・ということは、これまでも再三取り上げてきました。

ハンガリーがEU方針に反対することは、EU指導部を想定内でしょう。
EUはハンガリーを欧州司法裁判所に提訴する関係にもなっています。

****欧州委、ハンガリーを提訴 反LGBTQ法めぐり****
欧州連合の欧州委員会は15日、ハンガリーが未成年者に向けたLGBTQなど性的少数者に関するコンテンツを禁じたことをめぐり、同国を欧州司法裁判所に提訴した。

ハンガリーは昨年、EUや加盟各国首脳の度重なる警告にもかかわらず、「反小児性愛法」を施行。未成年者に対して同性愛や性別移行を「助長」する行為などを禁止した。ナショナリストで保守派のオルバン・ビクトル首相は、同法は同性愛嫌悪的なものではなく、「子どもの権利を守る」ことが目的だと主張している。

欧州委は声明で、同法がEUの市場規則に違反し、LGBTQなどの個人の基本的権利を侵害しているとし、「EUの価値観」に反すると非難した。欧州司法裁は、その決定に対する違反行為に罰金や経済的罰則を科すことができる。

欧州委はさらに、ハンガリー規制当局による独立系ラジオ局クラブラジオの閉鎖に関しても同国を提訴。EUはまた、同国政府の汚職対策が不十分であるとして、同国への予算配分を停止する手続きを開始している。 【7月16日 AFP】
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【オルバン首相 「(非欧州人との)混血の国は望まない」発言】
これまでも物議を醸す言動が多いオルバン首相ですが、今度は「我々は(欧州人同士が)混ざり合うことは望むが、(非欧州人との)混血の人間が生まれることは望んでいない」と。

****ハンガリー首相の「混血の国は望まない」発言 「まさにナチスの物言い」と側近辞任****
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相が「混血の」国になることを望まないと発言したことを受け、首相の側近の1人が26日、辞任した(編集部注:ハンガリーの名前は日本と同じ、姓+名の順番のため、そのように表記しています)。

辞任したのは首相顧問のヘゲドゥス・ジュジャ氏。ハンガリーのメディアによると、ナショナリストのオルバン首相の顧問を長年務めてきたヘゲドゥス氏は、今回の首相発言について「ナチスそのものの物言い」だと批判した。
国際アウシュヴィッツ委員会はオルバン氏の発言が「愚かで危険」なものだと指摘した。

一方、首相報道官のコヴァックス・ゾルタン氏は、「移民と同化についていくつか強く発言した部分について、主要メディアが過剰反応」しながら、肝心の首相演説の要点には触れていないと反論している。

「ナチスそのものの物言い」
問題の演説は23日、大規模なハンガリー人コミュニティがあるルーマニアの地域で行われた。
その中でオルバン首相は、欧州人は自由に混ざり合ってもいいが、欧州人と非欧州人が混ざり合うことで「混血の世界」が生まれると発言。「我々は(欧州人同士が)混ざり合うことは望むが、混血の人間が生まれることは望んでいない」と述べた。

オルバン氏は以前から、反移民の立場を取っていることで知られる。ただし、ヘゲドゥス氏は今回の演説について、容認できないと強く反発した。

ハンガリーのニュースサイト「hvg.hu」によると、ヘゲドゥス氏は辞表の中で、「(首相の)演説は(ナチスの宣伝大臣を務めた)ヨーゼフ・ゲッベルスにこそふさわしい、ナチスそのものの物言いだ。(オルバン氏が)自分でそれに気づかなかったとは、とても思えない」と批判した。

オルバン氏はヘゲドゥス氏の批判に手紙で答え、「私の政府は反ユダヤ主義と人種差別の両方に対して、絶対不寛容の方針を取っている。君はそれを誰より承知のはずだ」と、自分の発言を擁護した。

ルーマニアでの演説でオルバン氏はさらに、欧州連合(EU)がロシア産天然ガスの使用を15%削減すると合意したことも批判し、「過去を振り返れば、ドイツ式のやり方が分かる」とも述べた。これはナチス・ドイツが強制収容所のガス室でユダヤ人などを大量虐殺したホロコーストを念頭にした、軽口と受け止められている。

ハンガリー最大のユダヤ人団体は首相の演説を非難し、オルバン氏との面会を求めている。第2次世界大戦の末期には50万人以上のユダヤ系ハンガリー人が殺害されており、その多くがアウシュヴィッツ強制収容所で命を落とした。

ロシアのガス輸入増量を検討
オルバン氏はウクライナでの戦争についても言及し、西側諸国の支援は失敗した、対ロシア制裁は効いていないと指摘。和平交渉が優先されるべきだと主張した。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と良好な関係を維持してきたオルバン氏は、EU加盟国の指導者として唯一、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を公然と批判している。

他のEU加盟国は、ロシア産エネルギーを輸入し続けることがロシアに軍資金を提供するに等しいというゼレンスキー大統領などの批判を受けて、ロシアからの天然ガス輸入を大幅に減らすことで合意した。しかしオルバン政権からは今月半ばに外相がモスクワを訪れ、ガス輸入拡大についてロシア政府と協議した。
ハンガリーは現在、使用するガスの8割をロシアから輸入している。

オルバン政権はEUから多額の資金援助を受けているにも関わらず、報道の自由や移民問題など法の支配をめぐる問題でEUと頻繁に衝突している。【7月27日 BBC】
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ハンガリー・オルバン首相については、今更・・・というか、いつまでEUとして一緒にやっていくのか?とも思いますが、問題はオルバン首相の発言に本音で一定に共感する人々が他国にも存在することでしょう。

****仏パリの高級レストランに人種差別疑惑 非白人の入店拒否か****
仏パリの高級レストランでドアマンをしていた男性が25日、非白人客の入店を拒否するよう指示されたと証言したのを受け、人種差別疑惑が浮上している。

問題の店は、シャンゼリゼ通りにほど近いモンテーニュ通りにあるレストラン兼ナイトクラブの「Manko Paris」。黒人女性3人が16日に入店を拒否された時の動画をティックトックに投稿したことがきっかけで疑惑が浮上。検察当局が人種差別の容疑で捜査を進めている。

ペルーをテーマとした同店は疑惑を否定するとともに、3人に謝罪した。
ドアマンのダミアンさんは25日、「『アフリカ人やマグレブ(北アフリカ)出身者を多く入れてはいけない』と言われた」とBFMテレビで証言した。

ダミアンさんは民間警備会社から派遣されて働いていたが、動画の拡散後、同店に契約を切られた。入店拒否については「支配人ら」からの指示であり、「店の方針」に従っただけだと釈明した。

動画によると、黒人女性3人はドレスとハイヒールを着用していたにもかかわらず、「イブニングウエア」を着ていないとして入店を拒否された。女性の一人は「イブニングウエアを着ているじゃない! 冗談でしょう。何を着て来たらよかったの?」「人種差別を受けたのは生まれて初めて」と話している。

別の黒人客も入店を拒否されたが、白人客は入店を認められていた。 【7月28日 AFP】AFPBB News
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なお、オルバン首相が国民に支持される国内事情などについては、長くなるので別機会に
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中国 経済減速で「懐の豊かさの保証」にかげり 中産階級が突きつける「ノー」に対応を迫られる政権

2022-07-27 23:08:45 | 中国
(抗議のための集団行動には、明確な戦略と目標がある(中国人民銀行の鄭州支店前で座り込みを行う市民)【7月20日 Newsweek】)

【4-6月期の実質GDPは、前年同期比0.4%増 中国経済の基盤は依然として不安定】
中国経済が厳しい「ゼロコロナ政策」の制約のもとで減速を強いられていること、一方で膨大な労働市場への新規参入者を抱えて「就職氷河期」の状況になっていることは、6月26日ブログ“中国 ゼロコロナの就職氷河期 1076万人の高等教育機関卒業生が労働市場へ”で取り上げました。

中国経済の急減速は、中国の国家統計局が7月15日、2022年4月から6月までのGDPの伸び率が、前年同期で0.4%増だったと発表したことでも明らかになっています。

0.4%という数字は日本などに比べれば厳しい条件下で健闘していると言えますが、成長を前提にした中国社会を安定的に支えていくものとしては非常に低い数字です。

****中国経済、プラス成長維持も苦境変わらず****
中国国家統計局が15日発表した2022年4-6月期(第2四半期)の実質国内総生産(GDP)は、前年同期比0.4%増となった。伸びはこの2年間で最低だが、春に新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施したことを踏まえると、この成長率は事実ならば素晴らしい成果だ。

しかし、中国経済の基盤は依然として不安定に映る。中国政府は緩慢なペースの景気回復を軌道に乗せるためにも、特に住宅セクターへの大幅な梃入れが不可欠だ。

中国の6月の経済指標では、輸出と軽工業の回復をはじめとする明るい兆しも確認された。(中略)
さらに、地方政府が23年分のインフラ債(専項債)の前倒し発行を計画していると報じられた。これが実現すれば、中国の目前に突きつけられた「財政の崖」の回避につながるかもしれない。

今春のインフラ投資の回復を支えたのは、こうした地方債の大量発行だった。中国の純国債発行額は6月だけで1兆6000億元(約33兆円)増加し、月間ベースの増加幅は過去最高の20%近くに達した。

それにもかかわらず、中国経済全体は依然として問題を抱えており、22年通年の公式目標である5.5%前後の成長率を達成するのに必要な体力を持ち合わせていない。国債発行を除けば、信用の伸びは依然として低調だ。特に景気刺激策を講じた20年と15年の水準と照らすと非常に弱い。

中国経済にとって重要な不動産セクターは6月に回復の兆しを見せたが、現在は低迷へと逆戻りしている。大中都市30都市の不動産販売(床面積ベース)は6月下旬までに1日あたり100万平方メートル以上へと回復したものの、現在ではその3分の1以下に落ち込んでいる。

6月の不動産投資は前年同月比9.4%減となった。ソーシャルメディアでは、住宅購入者がまだ引き渡しが行われていないマンションの住宅ローンの支払いを拒否する動きが広がっている。こうした動きは不動産開発業者だけでなく、銀行にも新たな打撃となる恐れがある。

中国政府は、不動産開発業者に対して新たに大規模な支援に乗り出す必要がある。昨年、政府は不動産セクターを厳しく取り締まったことから、今となって支援を行うのは政治的に難しいかもしれないが、必要な措置だ。支援を実施しなければ、神経質になった金融機関が不動産開発業者に貸し渋り、開発業者はマンションの引き渡しにさらに苦労するという悪循環に陥ってしまい、住宅購入者の信頼をさらに損なう恐れがある。

地方都市の不動産価格は21年9月以降、下落を続けている。これは15年後半以来の最長の下落局面だ。当時、中国では不動産・重工業セクターが債務危機に見舞われ、金融システムが崩壊の瀬戸際に追いつめられていた。

6月の小売売上高は前年比3.1%増と緩やかな回復を示した。ただ、新型コロナの新規感染者は全国で再び増加に転じている。それでも新規感染者は1日あたり約500人前後と、ピーク時に上海市で記録された1日2万人を超える水準を大きく下回る。

少なくとも中国政府の公式発表によると、1-6月期のGDPは前年同期比でかろうじてプラス成長を達成した。だが、22年以降の見通しはかなり暗い。大型の景気刺激策を講じても、通年で1桁台前半の成長が関の山だ。

新型コロナのオミクロン変異株の大流行が発生した場合や、政策当局が不動産セクターを取り巻く逆境を好転させることができない場合、もはや中国政府は為す術がないだろう。【7月16日 WSJ】
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【不動産市場低迷で業績悪化の地方銀行が預金者への支払い停止】
景気の悪化で目立つのは上記記事にもあるように不動産市場の低迷。昨年は不動産大手「恒大集団」の経営危機が表面化しましたが、状況は改善していません。

それにともなって、社会不安が拡大しています。
河南省鄭州では、不動産企業に貸し付けた資金が焦げ付いたことから金融機関の資金が枯渇し、一般の預金者への支払いができなくなり、預金者が1000人規模(3000人との報道も)で金融機関に抗議。地元当局とみられる白シャツの集団に排除され、多数の負傷者が出る混乱も起きました。

事態の収拾を急ぐ地方当局は、小口預金者について銀行に代わり顧客に預金を払い戻すと発表するなどしています。

****中国の預金8000億円“凍結”問題、抗議活動が一層激しく 国も座視できない状況に?****
中国の地方銀行で8000億円の預金が引き出せなくなった問題。預金者ら1000人規模のデモが発生し、地元警察が力づくで排除するなど、抗議活動が一層激しくなっている。

事件は今どのような状況なのか。その大規模な抗議活動を取材したANN中国総局の李志善記者に聞く。

Q.現地の抗議活動の様子は?
10日の抗議活動は早朝4、5時からと早い時間からだった。そもそも抗議活動は河南省・鄭州市で、地元政府の銀行監督当局庁舎の前で何度か行われてきたが、今はそこにつながる道が封鎖されて近づけないようになっている。車はもちろん入れないし、歩いて行こうとしても制止される。

どうやって声をあげようかということで考えたのが、誰も予想できない時間と場所で抗議をするということだったようだ。今回の場所が中国人民銀行の河南省の支店で、ここは地方銀行の上級機関にあたる。ちょっとでも声が上に届いてほしいということで、その上級機関の前で抗議することになった。

中国の公務員がよく使うスローガンで「為人民服務」、つまり人民のために奉仕するという言葉がある。今回、現場で起きていたことはこれと真逆だったと言えると思う。被害者である預金者を強制的に排除したり、預金者に抗議活動に参加するなと電話をかける圧力をかけている。取材した預金者の「私たちは被害者であって、権利を守りたいだけだ」という言葉に尽き、それに耳を傾けるべきだと思う。

Q.行政の対応は?
11日夜にニュースが入ってきた。小口の5万元、日本円で100万円以下の預金について、地元政府が肩代わりするかたちで先に預金を返還すると発表した。それは1つ進展だと言えるが、一方で大口の預金者については追って対応を発表するとしていて、まだまだ安心できない。

このように地元政府は何もしていないわけではなく、警察当局とも連携をしながら事態の全容解明に動いている。

事件のスキームとして、投資会社が傘下の銀行を操って預金を集めていたが、それ以外にも複雑な状況があり、捜査に非常に時間がかかっている。多数の預金者がいることや個別のケースがあって、お金の行き先を調べたり、資金の凍結や差し押さえたりと徐々にやっている。

実は、この銀行は農村や農民、中小企業を助けるとうたっていたことから、地元政府は何度も模範的な金融機関として表彰していた。そのため、監督責任を追及する声があがっていて、地元政府としては事を荒げたくないということで封殺するように動いている。

地元警察は関係する容疑者を逮捕したと何度か発表していて、少しずつ進展はしていると思う。(中略)

Q.今後この事件が収束する見通しは?
見通しは難しい。ただ、中央政府に対してもなんとかしてくれという声もあがっていて、国が乗り出してくるのか、地元政府がなんとかするのか。国としても座視できない状況になってきているので、そこのバランスになってくると思う。【7月13日 ABEMA TIMES】
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【「独裁的体制とよりよい取引をするため、賢い抗議者は公式に承認されたやり方で不満を表現する」】
この問題は、地方当局が預金者の抗議行動を封じ込めるためにコロナ対策で使用される「健康コード」アプリを恣意的に使ったということでも大きな問題となりました。

中国共産党のもとで厳しい社会統制が敷かれる中国での抗議活動というのは、日本などとはやや異なる様相もあるようです。

抗議する側はやみくもに抗議を行っている訳でなく、“不安定化を恐れる中国共産党と、トラブルの表面化を嫌う地元当局の双方の立場に付け入ること”を狙った“意識的なロビー活動”との指摘も。

****独裁政権のパワーバランスを完全に理解した、中国農村デモ「勝利の方程式」****
<中国・河南省の農村向け銀行で、預金が一方的に凍結される騒ぎが発生。ただし抗議者は計算ずくの行動と主張で、中央政府を刺激せず目的の一部を達成した>

実りのない結果に見えた。河南省の省都・鄭州で7月10日、市民約3000人による大規模な抗議活動が発生。私服組と制服組が交じる警官隊と衝突した末に、制圧された──。しかし、参加者は少なくとも目的の一部を達成した。

市民が抗議の座り込みを行ったのは、中央銀行・中国人民銀行の鄭州支店前だ。河南省の農村向け銀行4行、および近隣の安徽省の銀行1行で今年4月から、計数十万件の口座の預金が引き出せなくなっているスキャンダルをめぐって、捜査と補償を訴えた。

中国のソーシャルメディアでは、警察の暴力を捉えた動画が拡散し、抗議活動を支持する声が上がった。「マフィア! マフィア!」と叫ぶ抗議者の非難の対象は、問題の銀行だけではない。複数の地元当局者が共謀して預金を奪ったと、彼らは主張している。

鄭州では6月、抗議を計画する預金者の移動を制限しようと、新型コロナウイルス対策の一環として中国でダウンロードが義務付けられている「健康コード」アプリを、地元政府幹部らが不正操作した事件も発覚。一般市民の憤慨や国営メディアによる批判を招き、幹部らは処分された。

今回のような抗議活動は中国では一般的かつ明確な目的がある。単なる怒りの表明ではなく、当座の目標達成を追求する意識的なロビー活動だ。

この手の集団行動を効果的に行うカギは、不安定化を恐れる中国共産党と、トラブルの表面化(そうなれば、上層部に調査されることになりかねない)を嫌う地元当局の双方の立場に付け入ること。抗議活動の発生件数は業績評価の指標の1つでもあるため、当局者は未然に防ぎたがる。

こうした集団行動戦略は、要求内容が鉱山労働者への未払い賃金の支給であれ、固定資産税の引き下げであれ、一定の成功を収めることが多い。それは抗議活動への対応として、アメとムチの兼用が常套手段だからだ。

圧倒的な治安機構を背景とする強大な力でデモを鎮圧した後、通常はカネを提供することで、問題の少なくとも一部を解決する。

地方の金融機関で同様の問題が続く見通し
定石どおり、鄭州での座り込みの翌日、河南省当局は預金額5万人民元未満の顧客を対象に、補償計画を公告した。預金額5万元以上の顧客には追って補償を行うという。問題の銀行を乗っ取ったという「犯罪組織」関係者の逮捕も発表された。

同様の問題は、近い将来に再び起こりそうだ。中国ではこの10年間、地方部住民への融資サービスの拡大を図り、政府が農村向け銀行の奨励策を実施。その数は今や、およそ4000行に上る。

だが、多くの農村向け銀行は資本不足で不良債権に悩まされ、合併を求める声にさらされている。中国のほぼ全ての金融機関と同じく、建設・不動産市場に過剰投資してきたが、これらの市場は国内各地で急速に収縮している。

農村向け銀行は地元当局の汚職のツールにもなり得る。さらに、地方政府の歳入は先細りしている。補償の担い手は明確でなく、政府内で対立を招く可能性が高い。

今回の抗議活動の原因は不透明な補償プロセスだ。中国は2015年に預金保険制度を導入したが、これまで発動した例はない。

その一方、中国政府はいくつかの金融機関を救済している。モラルハザードよりも不安定化を懸念する政府は、いざというときには公的救済措置を取ると、中国の投資家は信じて疑わない。

上海交通大学上海高級金融学院の朱寧(チュー・ニン)教授いわく、これは「保証付きバブル」のパターンだ。不動産を含めて、通常経済では補償されないはずの金融活動はどれも、政府が補償してくれるという暗黙の了解が中国にはある。市場が下落傾向になると、街頭では抗議活動が始まる。

今回の事件では、被害口座が預金保険制度の対象になるのか不明なままだ。少なくとも一部は普通預金ではなく、制度の対象外である高金利の資産運用商品だった。預金者本人が、この事実を知らされていたかも明らかではない。

銀行側はオンライン融資と結び付いた高リスクのスキームを用い、補償責任の範囲外で預金を集めていたとみられる。預金件数の多くは、バランスシートに記載されることもなかったようだ。

中国のオンライン融資では、詐欺や不正会計が珍しくない。18年には、ピア・トゥ・ピア(個人同士)の融資システムなどをめぐって事件が相次ぎ、厳しい取り締まりが行われた。破綻企業の顧客は政府の補償を期待して抗議活動を行い、限定的ながら成果を得た。

許容範囲の「線引き」は突然変わる
資産運用商品は多くの場合、特に金融知識が乏しい層(または、最終的に政府がリスクを負担してくれると信じる人々)向けに、通常の銀行口座や有力機関のお墨付き商品であるかのように装って販売される。銀行が資金流出を防ぐために店舗を閉鎖したり、オンラインサービスの一部を停止し、顧客が口座にアクセスできなくなることもある。

中国の金融部門が不動産危機とゼロコロナ政策による経済減速に見舞われるなか、抗議活動は増えるだろう。だがそれは、あくまでも一定の枠内での行動を意味する。「独裁的体制とよりよい取引をするため、賢い抗議者は公式に承認されたやり方で不満を表現する」と、中国専門家のエリザベス・ペリーは指摘する。

今回、抗議者は中央政府に権力を行使するよう求めた。中央政府そのものに疑問を呈していたら、より過酷に弾圧されただろう。

もちろん、言動の許容基準は突然変化することもある。18年、オンライン詐欺の被害者が補償を求め、メッセンジャーアプリの微信(ウェイシン)を使って北京でデモを計画したが、開始前に解散させられた。北京が首都であることと、グループチャットが統制対象であることが作用した。
越えてはいけない一線を見極めるのは難しい。【7月20日 Newsweek】
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【建設中断マンション購入者がローン返済を拒否 中産階級が中国政府に「ノー」を突きつける】
金融機関の問題だけでなく、不動産不況によって建設が中断するマンションが相次ぎ、購入者がローン返済を拒否するという混乱も拡散しています。

中国では、まだマンションが建設される前から契約が行われ、ローンの支払いが始まります。ですから、建設が中断してしまっても、契約上はローンを払い続けなければいけません。

****マンション工事中断相次ぎ…購入者“ローン返済拒否”中国****
ゼロコロナ政策の影響などで経済が減速している中国で、マンションの工事中断が相次ぎ、購入者がローン返済を拒否する騒動が各地でおきています。

中国では、不動産会社の資金繰りが悪化しマンションの工事が中断する問題が相次いでいます。
こうした中、工事の再開や早く部屋を引き渡すよう求める購入者らが開発会社に対しローンの返済拒否を通告する動きが広がっています。

中国メディアによりますと、北京市内のこのマンションも工事が遅れていて購入者から「引き渡し期限をすぎればローンの支払いを中止する」と通告されました。

こうした物件は、中国全土で少なくとも100件以上に上っているということで、金融当局も対策を指示するなど神経をとがらせています。【7月20日 日テレNEWS】
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共産党一党支配と言うと、厳しい強権的な抑制・弾圧の側面がイメージされますが(実際にそういう面が多々ありますが)、それだけでなく、日本・欧米のように選挙などを通して民主的に人々の不満を政権につなげていく政治システムがないだけに(日本のシステムがうまく機能しているかは別問題です)共産党政権は国民の不満が爆発しないように敏感にならざるを得ないという側面もあります。

****中国政府は大慌て 都市部「中産階級」の不満はなぜ爆発したのか****
(中略)
中国政府は従来、こうした抗議デモ(河南省鄭州市で7月10日、地方政府や金融機関に3000人規模の預金者が抗議行動を行った事件)が発生しないように厳しく抑え込んできたが、最近、厳格すぎるコロナ対策への不満や景気減速による経済難などが災いして、各地で抗議活動が起きている。当局はこうした動きの広がりに神経を尖らせているが、気になるのは抗議者たちの要求の内容だ。

預金凍結に反対してデモ行進や集会を粛々と実施していたところに白ずくめや黒ずくめの服を着た暴漢が襲いかかったことから、中国人民銀行鄭州支店前に集結した預金者たちは「暴力で預金者に対応する省政府に抵抗する。人権と法治を要求する」「預金がなければ人権もない」とのメッセージを発するようになったのだ。

「中国人は豊かになっても民主主義や人権に対する意識は低いままだ」と揶揄されてきたが、「虎の子」である自らの財産が奪われるとなれば、話は違う。

10年以上前の中国では地方政府が暴力を振るって農民から土地を収奪する事件が相次いでいたが、習近平政権誕生以降はこのような暴力沙汰は鳴りを潜めていた。

だが、あろうことか、都市部の中産階級に対してかつてのような暴力事件が起きてしまった。農民とは異なり、中産階級の影響力は大きいため、中国政府は早速事態の収拾に乗り出した。

中国の複数の金融機関で預金が引き出せなくなった問題に関し、中国政府は11日、預金者向けの救済策を発表した。その内容は「15日からまず5万元(約100万円)以下の預金を対象に支払いを始め、5万元超も順次肩代わりをする」というものだ。

社会不安につながる動きを未然に防ごうとする中国政府の真剣さのあらわれだが、頭が痛いのは救済に当たる役割を押しつけられた地方政府の財政が「火の車」だということだ。

中産階級の「ノー」
米S&Pグローバルは「今年末までに中国の地方政府の3割に破綻リスクが生じる」との試算を公表した。不動産市場の低迷で土地使用権売却収入が落ち込み、インフラ債などの利払い費が膨らんでいるからだ。

新型コロナ対策に必要な財政負担も重くのしかかっており、預金者の救済が中央政府の思惑通り進む保証はないと言わざるを得ない。

中国政府にはさらなる難題が待ち構えている。
中国の不動産危機は昨年秋の恒大集団の経営難に端を発しているが、その後も苦境に陥る不動産大手が後を絶たないことから、建設工事が止まった未完成住宅の購入者が住宅ローンの返済を拒否するという動きが広がっている。

中国では新築マンションの竣工前に購入契約を済ませることが多い。入居前から住宅ローンの返済が始まることが通例となっているが、ローンを払っているのに住宅が完成する前に不動産企業が倒産したら元も子もない。

権利意識に目覚めた中産階級は物件引き渡しの遅れに抗議するため、住宅ローンの返済拒否という自衛手段に出ているわけだが、返済拒否が広がれば銀行の貸出残高の2割を占める住宅ローンが不良債権化してしまう。

中国の民間調査会社によれば、工事の停止で引き渡しが遅れているマンションに関連する住宅ローンは2兆元(約41兆円)に上る。

金融不安への警戒を強める中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は14日「金融機関にリスク対応を徹底させる」と発表した。さらに18日、未開発物件の完成を後押しするため金融機関に対し不動産開発企業への融資を促したが、事態が改善するかどうかはわからない。「支払い拒否」が金融危機の引き金になるとの危惧が強まっている。

「支払い拒否」という現象は、中産階級が中国政府に「ノー」を突きつけているあらわれでもある。「懐の豊かさ」を保障することができなくなれば、中国政府の正統性を揺るがす由々しき事態にもなりかねない。

ウクライナ危機で「漁夫の利」を得たとされる中国だが、足元の基盤は思いのほか脆弱なのではないだろうか。【7月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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中国共産党政権と国民の間には、国家が「懐の豊かさ」を保証してくれるなら、一定の自由の制限にも甘んじるという一種の暗黙の契約があるともみなすことができます。

その暗黙の契約の大前提は“「懐の豊かさ」を保障すること”ですが、経済の減速・低迷でその前提が崩れると、抑圧されてきた不満が社会の歪からあちこちで噴き出すことにもなりかねません。

“前年同期で0.4%増”では足りません。
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ミャンマー  民主派弾圧を強化する軍事政権、民主活動家4人を処刑 中国、ロシアとの関係強化

2022-07-26 22:53:36 | ミャンマー
(【7月26日 FNNプライムオンライン】 25日、ヤンゴン 民主活動家4人の処刑への抗議行動)

【弾圧を激化する軍事政権 スー・チー氏を刑務所に】
昨年2月のクーデターで実権を掌握したミャンマー軍事政権が対抗勢力への弾圧を激化させています。

軍部は、アウン・サン・スー・チー氏率いるNLDが圧勝した2020年11月の総選挙について結果を否定し、不正選挙だと主張してクーデターを起こしました。

スー・チー氏は自宅軟禁から今年6月には軍刑務所の独房に移送された。裁判では、扇動、汚職、新型コロナウイルス関連の規則違反、電気通信法違反など、さまざまな罪を犯したとされており、量刑は懲役150年以上になる可能性があります。

****ミャンマー軍政、スーチー氏審理を刑務所内の法廷に移管=関係筋****
ミャンマー軍事政権が何ら説明なく、民主化指導者アウンサンスーチー氏(77)に対する全ての法的手続きを裁判所から刑務所に移すよう命じたことが分かった。同氏の裁判に詳しい関係筋が22日、明らかにした。

スーチー氏は昨年初めのクーデターで拘束され、複数の汚職を含む少なくとも20件の罪で起訴されたが、全ての罪を否認している。これまでには扇動の罪などで有罪判決を言い渡されている。

一部メディアは、スーチー氏が22日に自宅軟禁からネピドーの刑務所に移されたと報じた。ロイターはこれらの報道を独自に確認できていない。

関係筋は匿名を条件に、審理はネピドーの刑務所の新たな特別法廷に移されると説明。「特別法廷のための新しい建物が完成したということが裁判官によって宣言された」と述べた。軍が設置した評議会からは今のところコメントを得られていない。

スーチー氏の裁判所での手続きは非公開で行われ、国営メディアでは限られた情報しか報道されない。同氏の弁護士にはかん口令が敷かれ、審理日のみ面会が許されている。【6月23日 ロイター】
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ASEANのミャンマー担当特使を務めるカンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相が6月30日、ミャンマーを訪問しましたが、スー・チー氏と面会は出来ず、事態の改善は図られていません。

****ASEAN特使、スーチー氏と会えず=仲介に行き詰まり―ミャンマー****
東南アジア諸国連合(ASEAN)の特使として、6月末からミャンマーを訪れていたカンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相が一連の日程を終えた。

クーデターで権力を握った国軍が拘束している民主化指導者アウンサンスーチー氏との面会は今回も実現せず、国軍と民主派の対話を仲介するASEANの取り組みは行き詰まりを見せている。

特使のミャンマー訪問は3月に続いて2回目。国軍トップのミンアウンフライン総司令官、国軍が外相に任命したワナマウンルイン氏らと会談し、暴力停止や遠隔地への人道支援を要求。また、刑務所敷地内の施設に移送されたスーチー氏を元の軟禁場所に戻すよう訴えた。【7月5日 時事】
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7月19日には、独立闘争の指導者で「建国の父」と慕われるアウンサン将軍が暗殺されてから75年となるのに合わせ、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで軍事政権主催の追悼式典が開かれましたが、当然ながらアウンサン将軍の娘であるスー・チー氏の姿はありませんでした。

【民主活動家4人を処刑 ASEANも批判】
更に軍事政権は国際社会の批判に挑戦するがごとく、スー・チー氏率いた国民民主連盟(NLD)の元議員ら民主活動家2人を含む4人の死刑を執行しました。

地元メディアによると、政治犯の死刑執行は1976年以来で、それ以外の死刑執行も90年から行われていなかったとのことで、改めて軍事政権がその強硬な姿勢を世界にアピールした形となりました。

****ミャンマー軍政、民主活動家4人を処刑****
ミャンマーの軍事政権は、民主活動家4人を処刑した。国営メディアが25日に伝えた。同国での死刑執行は数十年ぶりとみられている。

軍政は今年6月に4人に対する死刑宣告を発表し、国際的に非難されていた。 処刑されたのは、ピョーゼヤトー元議員、作家で著名活動家のチョウミンユー氏(通称:コ・ジミー)、フラミョーアウン氏、アウントゥラゾー氏。

軍政は4人が「テロ行為」を行ったとして、テロ対策法のもとで起訴し、非公開の裁判で有罪とされた。いつ、どのような形で死刑を執行したのかは、明らかになっていない。

国営英字紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマーは、4人が「残酷で非人道的なテロ行為のため、指示と準備を重ね共謀した」と、処刑の理由を伝えた。 

昨年2月のクーデターで政権を掌握した軍政に対抗し、民主派や武装民族組織などが集まり樹立した「統一政府」は、4人の処刑に「衝撃を受け、悲しんでいる」と、軍政を非難した。

チョウミンユー氏(53)は1988年のミャンマー民主化運動を機に作られた市民組織「88世代学生グループ」のベテラン・メンバーだった。その活動のためたびたび刑務所に収監され、2012年に釈放されていた。しかし、ヤンゴンのアパートに武器を隠していたとして昨年10月に再び逮捕され、統一政府の「顧問」だと軍政に攻撃されていた。 

ピョーゼヤトー氏(41)は、国民民主連盟(NLD)の元議員で、現在収監中の元指導者アウンサンスーチー氏の側近だった。ヒップホップ・アーティストでもあり、軍政を批判するその歌詞は、しばしば軍部の怒りを買っていた。昨年11月に、テロ行為を理由に逮捕されていた。 

フラミョーアウン氏、アウントゥラゾー氏は、軍政の密告者だとされた女性を殺害した罪で、死刑判決を受けていた。 

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は軍政に対し、4人への死刑宣告は「生命、自由、安全という権利に対する甚だしい侵害」だと非難していた。(中略)

軍政による逮捕や殺害の動きを監視するミャンマー人団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると、クーデーター以降、1万4847人が逮捕されており、推定2114人が軍部に殺害されているという。【7月25日 BBC】
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国連グテーレス事務総長の非難は上記にもありますが、一貫して軍事政権を厳しく批判してアメリカも更に態度を硬化させています。

****米、従来通りの対ミャンマー関係はあり得ず 民主活動家処刑で****
米国務省のプライス報道官は25日、ミャンマーの軍事政権が民主活動家4人を処刑したことを受け、同国との関係は「これまで通り」ではあり得ず、あらゆる選択肢を検討していることを明らかにした。

プライス報道官は定例記者会見で、各国に対し、ミャンマーへの軍事装備の売却を禁止し、軍事政権に国際的信用を与えるような行動を控えるよう呼びかけた。(後略)【7月26日 ロイター】
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ASEAN内には、ミャンマーとの関係が深い中国の影響力が強いカンボジアや、同じクーデター・軍事政権由来のプラユット政権のタイなど、比較的ミャンマーに宥和的な国もありますが、ASEANとの合意事項である暴力の即時停止など5項目が宙に浮いた形になっており、特使もスー・チー氏や民主派と面会できないなど、仲介が無視されたような状況を受けて、今回処刑実施を批判しています。

****ASEANもミャンマー軍政非難、民主活動家処刑で****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は26日、ミャンマー軍事政権が民主活動家4人を処刑したことについて、「非常に非難されるべき」とする声明文を出した。

ASEANは「今回の死刑執行に非常に当惑し、深く悲しんでいる」と表明。今年の議長国を務めるカンボジアは「この危機の複雑さはよく認識されており、ミャンマーの至る所から極端な好戦的ムードが感じられるが、ASEAN全体として最大限の自制を呼びかけてきた」と、異例の強い声明となった。ASEANにはミャンマーも加盟している。

また「第55回ASEAN閣僚会議のわずか1週間前に死刑判決が執行された」と非難。国連が支援するASEANの和平計画を支持する意思がミャンマー軍政には「全くない」ことを示しているとした。【7月26日 ロイター】
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ミャンマー国軍は、民主活動家4人の死刑執行について「国民の正義」のためだったと説明、国際社会の批判を一蹴しています。

****ミャンマー軍「死刑執行は正義のため」 国際社会の批判に反論****
ミャンマー国軍のゾーミントゥン報道官は26日、民主活動家4人の死刑執行について「国民の正義」のためだったと説明、国際社会の批判を一蹴した。

報道官は定例会見で、死刑は適切な手続きを経て行われたと主張。処刑されたのは民主活動家ではなく、処罰に値する殺人者だったと述べた。

「国民の正義のためだった。犯罪者には弁護する機会が与えられた。批判が出るのは承知していたが、これは正義のためだ」と述べた。

処刑の方法や場所は明らかにされていない。親族によると、事前に通告はなく、遺体の引き取りも認められていないという。【7月26日 ロイター】
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【軍事政権との関係を維持する中国 ロシアの関係も強化】
欧米・国連はもちろん、ASEANとも距離を置くミャンマー軍事政権ですが、国内に多くの権益を有する中国は国軍との関係を維持しています。

****中国 王毅外相がミャンマー訪問 クーデター以降初めて****
(中略)ミャンマーの国営テレビは3日、ミャンマーを訪問した中国の王毅外相が、軍が外相に任命したワナ・マウン・ルウィン氏と中部のバガンで会談したと伝えました。王外相がミャンマーを訪れたのは去年2月のクーデター以降、これが初めてです。

会談では、ミャンマーから中国への留学生の派遣や農産物の輸出拡大などについて意見が交わされたということで、ミャンマー軍としては国際的な孤立を深める中、中国との関係強化を内外にアピールするねらいがあるとみられます。

一方、中国外務省によりますと、王外相は会談の中で「両国関係は国際的な情勢の変化に影響されず、常に盤石だ」と述べたうえでミャンマーの国内情勢が早期に安定することに期待を示したということで、中国としてもミャンマーへの影響力を強め、巨大経済圏構想「一帯一路」などをさらに推し進めたい思惑がありそうです。【7月4日 NHK】
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経済協力などでスー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権と緊密な関係を築いた中国は、クーデター後、国軍と民主派の双方に配慮する立ち位置をとってきました。

この日も王氏は「各勢力が国家の大局と人民の利益を重んじ、理性的な協議を続け政治的和解を実現することを期待する」と表明。中国側によると、ワナ・マウン・ルウィン氏は「民主的な転換プロセスを進める」と述べたとのこと。

ただ、市民の間では、中国がクーデターを黙認し国軍の統治を認めているとして反中感情が高まっています。クーデター直後に中国製品の不買運動が起きたほか、中国に天然資源を送るパイプラインの警備員3人が殺害され、ミャンマー進出中国企業の懸念材料になっています。

そうしたことからも、中国としても、ASEAN合意事項である「暴力の停止」など5項目の合意の履行による社会の安定を軍事政権に求めています。ワナ・マウン・ルウィン氏は王氏に「実現に努める」と述べたとか。

中国と並んで、軍事政権が関係を強めているのがロシア。

****ロシア、ミャンマーと防衛協力強化で一致=国防省****
ロシア国防省は12日、同省高官がミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官と11日にモスクワで会談し、防衛協力の強化で一致したと発表した。

同省によると、ミンアウンフライン氏は私的にロシアを訪問した。

国連人権理事会でミャンマーの人権状況を担当するアンドリュース特別報告者は2月に、ロシアがミャンマー軍政にドローン(無人機)、戦闘機、装甲車を供与したと述べていた。ミャンマーでは昨年2月に起きた軍事クーデター以降、情勢不安が続いている。【7月13日 ロイター】
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ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2001年~21年のミャンマーの武器調達先はロシアと中国がそれぞれ4割余りを占めています。こうした軍事的なつながりを背景に、ミャンマー国軍報道官はロシアのウクライナ侵攻について「支持」を表明しています。

ミンアウンフライン総司令官はこのロシア訪問で軍事や農作物輸出だけでなく、ロシア関係機関と宇宙開発や原子力平和利用についても協議したとか。その意図はよくわかりませんが・・・。

国際社会の圧力をかわしたいミャンマーにとって、国連安全保障理事会の常任理事国でもあるロシアや中国との関係維持がいっそう重要になっているとも。

【来年8月までにやり直し選挙 NLDは拒否】
今後については、軍事政権は来年8月までにやり直し選挙を行うとしています。

しかし、軍事政権への抗議は力で封じ込まれ、国民民主連盟(NLD)はスー・チー氏をはじめ幹部が軒並み収監されたり、拘束されたりしています。逮捕されれば“死刑”も。
この状況で“まともな”総選挙が実施されるとは思えません。

****スーチー氏のNLD、選挙拒否 ミャンマー国軍が来年実施予定****
ミャンマーの民主化指導者アウンサンスーチー氏が率いた国民民主連盟(NLD)は9日、クーデターで全権を握った国軍により実施される総選挙を拒否するとの声明を発表した。国軍はNLDが圧勝した20年の総選挙を巡り、大規模不正があったと主張し、来年8月までにやり直し選挙を行うとしている。

NLDは声明で、再選挙は「国民や国際社会をだますために実施される」と非難。国軍が新たに組織した選挙管理委員会による手続きは違法で、全く受け入れられないと強調した。

21年2月のクーデター後、NLDはスーチー氏をはじめ幹部が軒並み収監されたり、拘束されたりしている。【7月9日 共同】
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この厳しい状況でも、ゲリラ的な抗議を続ける人々も。

****それでも...命がけのデモ 民主派処刑受け ミャンマー****
カメラの前で顔を隠し拳を突き上げる人たち。黒い横断幕を掲げ、声を張り上げる。
25日、ミャンマー最大の都市ヤンゴンで撮影された抗議デモの様子。

2021年2月の軍事クーデター以降、市民と国軍との衝突が幾度となく起きているミャンマー。

この日、アウンサンスーチー氏の側近など、4人の死刑が執行されたと報じられ、市民が抗議の声を上げた。
デモの最中には参加者たちへ向かって、近くの住民が拍手を送っていた。

小さな規模であっても、デモを行えば逮捕される危険と隣り合わせ。動画は、参加者たちが急いで立ち去ろうとする姿を映し、途切れた。

今も緊張が続く中で彼らが訴えていたことは...。横断幕には「わたしたちは決して恐れることはない」と書かれていた。

クーデターからもうすぐ1年半。勇気ある抗議行動は今も続いている。【7月26日 FNNプライムオンライン】
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台湾  ウクライナ侵攻で現実味を増す中国の台湾侵攻 有事の米軍関与には悲観的 経済は絶好調

2022-07-25 23:44:26 | 東アジア
(25日、台北で行われた防空演習で、地下駐車場に避難した住民ら【7月25日 時事】)

【例年以上に緊張感を伴う軍事演習・防空訓練】
台湾では中国の軍事進攻を警戒して例年訓練が行われていますが、ロシアのウクライナ侵攻という事態を踏まえて、「次は台湾」という指摘もあり、今年は例年以上に緊張感が強いものになっています。

****台湾 中国軍上陸を想定した軍事演習を開始 ロシアからの侵攻受けたウクライナ軍の防衛方法も反映****
台湾で中国本土からの攻撃を想定した大規模な軍事演習が25日から開始されました。ロシアによるウクライナ侵攻も演習内容に反映されたとみられます。

銃を持った兵士たちが次々と塹壕に進入します。
25日から始まった台湾の大規模な軍事演習は、中国軍の上陸を想定し、毎年行われているものです。

台湾メディアによると、5月に行われた図上演習ではロシア軍の侵攻を受けるウクライナ軍の防衛方法などを参考にしたといい、25日始まった演習にもその内容が反映されているとみられます。

26日は海軍と空軍による統合演習が予定されていて、蔡英文総統が駆逐艦に搭乗して視察するとみられています。【7月25日 TBS NEWS DIG】
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訓練は軍事演習だけでなく、各地の自治体による防空演習も行われます。防空訓練は対象地域を変えながら各地で29日まで行われます。

25日に行われた台北市では、国防部が訓練を知らせる警報を市民の携帯電話に発信。同市は演習内容を強化した理由を、「中台関係の緊張とウクライナ情勢を鑑み、戦争には準備が必要だということを市民に理解してもらう必要がある」としたとのこと。

****台湾 中国のミサイル攻撃想定の防空訓練 例年より強化し始まる****
台湾で、中国のミサイル攻撃を想定して通行人などを退避させる年に一度の防空訓練が25日から始まり、台北ではロシアによるウクライナ侵攻を受けて、市民の意識をより高めようと例年より強化した形で行われました。

台湾のことしの防空訓練は、今月28日まで4つの地域に分けて行われることになっていて、25日は北部で行われました。

中国のミサイル攻撃を想定した空襲警報のサイレンが鳴ると、解除されるまでの30分間、市民は必ず屋内で待機することになっていて、屋外にいた通行人たちは警察官や憲兵の誘導で近くにある建物の中や地下に入りました。

例年の訓練では、道路を通行中の車は路肩に停止させるだけですが、今回、台北市当局は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、市民の意識をより高めようと、市の全域で訓練を強化し、車やバスを止めるだけでなく乗っている人を降ろして退避させました。

地下鉄の駅の構内には、地上から退避してきた人のほか、電車から降りたものの外に出ることができない人の姿が大勢見られました。

訓練の空襲警報は、スマートフォンにも送信され、外出の途中で受信して地下鉄の駅の構内に入ったという60代の女性は「少々不便ですが、受け入れられます。皆の安全のためですから合わせないといけません」と話していました。

台湾では今週、この防空訓練と並行して、年に一度の大規模な軍事演習も行われています。【7月25日 NHK】
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【アメリカの「あいまい戦略」】
1972年2月のニクソン米大統領(当時)訪中時の「上海コミュニケ」では「台湾は中国の一部」という中国側の主張を米国が「認識(acknowledge)する」と記し(「認める」ではありません)、互いが自分に都合よく解釈する外交的テクニックで79年の米中国交正常化につながりましたが、台湾の地位に関しては曖昧なまま現在に至っており、依然として米中関係緊張の火種でもあります。

日本も基本的にアメリカと同じで、日本政府は「中国政府の(台湾に関する)立場を十分理解し、尊重し・・・」とはしていますが、「同意」「承認」はしていないという立場です。

アメリカは、中国が武力で台湾統一を図ろうとした場合の対応について、あいまいにしておくいわゆる「あいまい戦略」をとっています。軍事介入について明確にしないことで、中国による台湾侵攻を抑止する一方、台湾が一方的に独立向け緊張を高める事態を防ぐ意図も込めているとされています。

バイデン大統領は折に触れこの「あいまい戦略」を否定するかのように、台湾有事の際のアメリカの軍事的関与に言及していますが、ホワイトハウスはその都度「台湾政策に変更はない」と大統領発言を訂正しています。

****米、台湾政策変えず 「あいまい」が安定維持****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は22日、中国が統一のため台湾に武力介入する事態への対応を事前に明確にしない米政府の「あいまい戦略」を維持すると改めて表明した。

この政策が台湾海峡の平和と安定に貢献してきたと説明した。シンクタンク、アスペン研究所が西部コロラド州で開いたフォーラムで語った。

バイデン大統領は5月に東京で、台湾が攻撃された場合に米国は軍事的に関与するのか問われ「そうだ。そういう誓約だ」と明言した。歴代米政権が踏襲してきたあいまい戦略を意図的に踏み越えたとの見方もあり、中国は猛反発した。【7月23日 共同】
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【台湾では有事の米軍関与に悲観的】
従来からの「あいまい戦略」、更には最近の踏み込んだバイデン発言を踏まえて、台湾側が有事の際のアメリカの軍事的関与をどのように考えているかが注目されますが、世論調査によると、バイデン米大統領が5月下旬、台湾防衛に軍事的に関与する意思があるとした発言に対し、50.9%が「信じられない」と回答したとのこと。

****台湾人の51%「中国に侵攻されたら100日持たない」―世論調査****
台湾の民間シンクタンク「台湾民意基金会」が行った世論調査で、回答者の51%が「中国が武力侵攻すれば台湾軍は100日も持たない」と考えていることが分かった。独メディアのドイチェ・ヴェレが伝えた。

同調査では「ロシアとウクライナの戦争が始まって100日を超えたが、ウクライナは今も苦しい戦いの中にある。もし中国が台湾に武力侵攻した場合、台湾もウクライナと同じように100日以上持つと信じていますか?」との質問に、17.2%が「とても信じている」、20.6%が「どちらかと言えば信じている」、28.6%が「あまり信じていない」、22.4%が「まったく信じていない」と回答した。11.2%は「分からない/答えたくない」だった。

同調査の報告書では「簡単に言えば、台湾人の半数上は、台湾はウクライナほど長く持ちこたえられないと考えている。ウクライナと同じくらい耐えられると考えているのは少数(37.8%)だった」としている。同報告書によると、教育水準が高い人ほど100日も持ちこたえられないと回答する割合が高かったという。

また、5月に訪日したバイデン米大統領が「米軍は台湾を防衛する」と発言したことについて「この言葉を信じますか?」との質問には、10.5%が「とても信じている」、29.9%が「どちらかと言えば信じている」と回答。「あまり信じていない」が28.8%、「まったく信じていない」が22.1%、「どちらともいえない」が8.7%だった。

報告書は「米大統領の明確かつ断固とした発言にもかかわらず、信じていない人の方が多かった」とする一方、「今年3月の同様の質問と比較すると、米国の台湾防衛協力を信じる人の割合は4.1ポイント増加し、信じない人はの割合は2.9ポイント減少した」とも指摘した。

このほか、台湾の呉釗燮外相が5月に米メディアの取材に「戦争回避のため現状を維持し、正式な独立を求めることはしない」との趣旨の発言をしたことについては、「大いに賛成」が8.1%、「どちらかと言えば賛成」が23.3%だったのに対し、「あまり賛成しない」が29.7%、「まったく賛成しない」が18.0%と、否定的な意見が大きく上回った。

この回答には年齢層や教育レベル、地域に差はなかったといい、報告書は「今回の調査が映し出した重要なメッセージは、多くの台湾人が蔡英文政権の『戦争を避けるために独立を求めない』という立場に賛成していないことだ」と指摘している。【6月27日 レコードチャイナ】
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最後の「独立」に関しては、質問の仕方によって数字は大きくことなるでしょう。
上記調査では、現状維持政策に対し否定的な回答が過半数を超えたとのことですが、独立を求めないことに“不満”ではあるが、さりとて、今すぐに“独立”を打ち出すことは現実的でない・・・という考えを多く含んでの数字ではないでしょうか。

いずれにしても、アメリカの軍事的関与が期待できないなかで、中国が本気で軍事侵攻してきた場合、長期間防衛するのは困難・・・という悲観的な見方です。

【ペロシ下院議長の8月訪台に中国が激しく反発】
一方、アメリカは厳しさを増す米中対立の最前線として台湾への関与を強めています。
民主・共和が対立する連邦議会も台湾関与の強化には超党派で支持しています。

トランプ前大統領は2018年3月、米台の高官の相互訪問を促す「台湾旅行法」に署名し成立させ、米台で高官の相互往来を積極的にできるようにしました。

これを受けてアメリカ高官の台湾訪問が相次いでいますが、現在、ペロシ米下院議長による台湾訪問の可能性が物議を醸しています。正副大統領に次ぐ要職(現実的には大統領に次ぐナンバー2でしょう)でもある下院議長の訪台については、中国側がこれまで以上に強く反発しています。“軍事的な対応の可能性も示唆”とも。

****中国、米への警告強める ペロシ氏の訪台計画巡り=FT****
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は23日、ペロシ米下院議長による台湾訪問の可能性について中国がバイデン政権に厳しい警告をひそかに発したと報じた。

FTが事情に詳しい複数の関係者の話として伝えたところによると、今回の警告は中国が過去に米国の台湾政策に不満を示した際よりかなり強い内容で、軍事的な対応の可能性も示唆したという。

ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)と米国務省は報道についてコメントを控えた。中国外務省はロイターのコメント要請に返答していない。

FTは18日、ペロシ氏が8月に台湾訪問を計画していると報道。中国外務省は翌日、同氏が台湾を訪問すれば中国の主権と領土の一体性を深刻に侵害することになるとし、米国は全ての結果に完全に責任を負うと述べていた。【7月24日 ロイター】
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ペロシ下院議長の8月訪台は、共産党大会直前という時期的リスクも大きいとの懸念が米軍内にもあるようです。

****米軍トップ、台湾訪問リスク伝達 下院議長に、中国刺激を懸念****
24日付の米紙ワシントン・ポストは、軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が、8月に台湾訪問を計画しているとされるペロシ下院議長に対し、訪台は時期的にリスクがあるとの見解を伝えたと報じた。米当局者の話としている。米軍は秋ごろに共産党大会を開く中国政府を刺激することを懸念しているという。

下院議長は大統領が執務不能になった際の継承順位が副大統領に次ぐ要職。中国は、人権問題などを厳しく批判するペロシ氏の訪台の可能性に強く反発している。実際に訪台すれば現職下院議長としては1997年のギングリッチ氏以来で25年ぶりとなる。【7月25日 共同】
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【経済的には絶好調 ただし、格差問題あり】
やや不思議にも思えるのは、台湾の置かれている上記のような不安定さ、危うさの一方で、台湾経済は非常に好調であるということです。

1人あたり名目GDPで見ると、日本は27年に韓国に抜かれ、28年には台湾にも抜かれるとという予測がなされていますが(日本経済研究センター予測 2021年12月15日 日経より)、下記記事によれば台湾の躍進はもっと早まりそうです。

しかしながら、その内実を見ると、「格差」という問題もあるようです。

****台湾経済絶好調 それでも所得格差が広がるのはなぜ?****
台湾経済が絶好調だ。台湾政府で経済政策の策定などに当たる、国家発展委員会(国発会)によると、2021年の経済成長率は6.57%で11年ぶりに過去最高を更新。1人当たり国内総生産(GDP)が初めて3万ドルを超えた。

行政院(内閣)やシンクタンクの予測では、今年も3.2%〜4.1%の成長が見込まれ、1人当たりGDPが、長年のライバルである韓国を超えるのはほぼ確実とみられる。

世界通貨基金(IMF)が購買力平価で計算したところ、台湾の1人当たりGDPは、21年にはスイス、米国に次いで3位で、日韓を含む経済協力機構(OECD)加盟38カ国の大半を上回っている。全体の経済規模でも23年には、世界20位以内に返り咲く見通しだ。

輸出と投資好調、物価と雇用も安定
(中略)

総統自賛も所得格差で白けムード
台湾経済は、データ上は日本人の目には、まぶしいほどだが、社会からは高揚感がまるで感じられない。蔡英文総統は5月に「今年は台湾の1人当たりのGDPが、19年ぶりに韓国を追い抜く」と胸を張ったのだが、やけに白けた空気が広がった。

台湾の多くの庶民にとって、豊かさの実感が乏しいためだろう。一部メディアが形容したように「最近2年間、輸出関連や証券投資家、不動産オーナーなら天国。飲食店のオーナー、賃貸マンション住み、副業ゼロの給与生活者は地獄」。好景気の恩恵を受けた人々が一部に偏っていて、しかも、ますますひどくなっている。

台湾人の圧倒的な多数派が、所得格差を深刻に感じていることは、世論調査の結果も明らかだ。
超党派の非営利団体である、台湾民意基金会が今年1月末に発表した世論調査によると、「台湾の貧富格差問題を深刻と思うか」の問いに対し「非常に深刻」が40.8%、「深刻」が38.4%で、合わせて79.2%に上った。「あまり深刻でない」、「少しも深刻でない」を合わせても16.7%。台湾人にとって所得格差はもはや常識といってよい。

国発会のデータでは、所得格差はゆるやかではあるが、年々悪化している。所得階層別に最高の20%と最低の20%の層を比べると、20年は世帯が6.13倍、個人が3.84倍。1976年は、世帯所得では4.18倍で、格差は大きくなっている。

不平等を示すジニ係数は、1に近づくほど所得格差が拡大する。0.5を超えると是正が必要とされるが、台湾は既に0.35。しかも、緩やかながら悪化が続いている。

産業の「M字化」で格差固定化
台湾の所得格差の背景と指摘されるのが、台湾産業と賃金の「M字化」だ。半導体、自転車、インターネット、サイバーセキュリティは海外からの受注が相次ぎ、投資も拡大する一方、伝統的な製造業やサービス業は景気も賃金も低迷したまま。「M」のように両極端がそそり立つ構造が固定化している。
 
行政院主計総署によれば、21年の台湾人1人当たりの平均月給は5万5754台湾元(25万4100円)で悪くないが、台湾庶民の実感とかなり隔たる。求人求職サイトの1111人力銀行によれば、半導体産業など、台湾のトップクラスの賃金に引きずられているため。

同行によると、20年現在、全雇用者の月給の中央値は約4万2000台湾元(約19万円)で、全雇用者の半数は年収が51万台湾元(233万円)に届いていない。この方が台湾庶民の実感に近いという。

しかも台湾の賃金は地域差も大きい。台湾各市・県で、平均年収が最高なのは新竹市で97万2000元(443万円)、2位は台北市で86万3000元(393万円)。3位は新竹県の85万8000元(391万円)。他の県市の平均年収は70万元(317万円)に届かず、10県市は60万元(272万円)以下だ。

賃金で台湾首位の新竹市は、TSMCの本社所在地だ。首都の台北市と並んで平均年収が他を遥かに上回るのは、産業構造が関連しているのは明らか。ハイテク製造業に偏った産業構造の「M字化」が、地域格差をもたらしている。

産業構造の「M字化」は、労働時間の差にも現れている。20年1~3月期には、製造業がサービス業より労働時間にすると2倍近く仕事があった。21年の平均でも、製造業と毎月の労働時間に15時間近い差がみられた。

しかも、台湾のハイテク製造業偏重は加速している。米中貿易戦争や新型コロナウイルスの感染拡大で、世界のサプライチェーンに占める台湾ハイテク製造業の地位が向上しているためで、さらに多くの人と資金を飲み込んでいる。

台湾政府も、TSMCなど半導体産業を「護国の神山」と呼んで、特別扱いだ。だが、このような偏りは、所得格差のみならず台湾経済の脆さにつながりかねない。(後略)【7月5日 WEDGE】
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まあ、それでも低迷から抜け出せない日本からすれば、台湾の経済好調は“まぶしいほど”ではあります。
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ウクライナ  長期化する戦いの中での平和を望む市民の暮らし

2022-07-24 23:12:34 | 欧州情勢

(【7月24日 日テレNEW】 30分程前に空襲警報が解除されたばかりの普段どおりのキーウ市内の様子 戦争が長期化するなかで、人々は戦争を日常の一部として受け入れざるを得ない現実も)

【ウクライナ側の反撃も】
ウクライナでの戦況は依然としてよくわかりませんが、ロシア軍の攻勢を伝える報道以外に、欧米からの武器供与が効果を示しはじめたのか、あるいはロシア側の兵器・人員・作戦展開に限界が近づいているのか、下記のようなウクライナ側の反撃を伝える記事も。

****ウクライナ軍 反転攻勢も ロシア兵1000人以上包囲****
ウクライナの政府高官は、ウクライナ軍が反転攻勢を強めている南部・ヘルソン州で、ロシア兵1,000人以上を包囲していると明らかにした。

ヘルソン州はロシア軍が制圧を宣言しているが、7月に入り、ウクライナ軍が一部を奪還したと主張し、補給などで重要な橋を攻撃していた。

ウクライナの大統領府顧問は、SNSにウクライナ軍がヘルソン州でロシア兵1,000人以上を包囲していると明らかにするとともに、「これはほんの始まりにすぎない」と投稿した。

またロシアメディアも、ロシア側が兵士を避難させるための人道回廊の設置をウクライナ側に求めたと報じている。

一方、アメリカ政府高官は22日、「ロシアが全戦力のうち、すでに85%をウクライナに投入している」としていて、ロシアが兵力の調達に苦労しているとの分析を明らかにした。

こうした中、アメリカ政府は、ウクライナ軍に初めてアメリカ製の戦闘機を供与する検討を始めたと明らかにした。
実現すれば、ウクライナ軍の戦力の大幅な増強につながり、ロシアの反発は必至。【7月23日 FNNプライムオンライン】
*********************:

アメリカ製の戦闘機・・・・ミグ戦闘機ならともかく、ウクライナ兵士が使いこなせるようになるまで、どのくらい時間を要するものか?

****1日の戦死者、30人に減少 ウクライナ軍、大統領が指摘****
ウクライナのゼレンスキー大統領は22日のウォールストリート・ジャーナル(電子版)とのインタビューで、ロシアとの戦闘によるウクライナ軍の死者は、戦闘が激しかった5〜6月の1日100〜200人に比べ、現在は30人程度に減ったと述べた。

ゼレンスキー氏は現在の1日の負傷者は約250人と指摘。2月以来のウクライナ軍の死者総数は明らかにしなかったが、ロシア側の死者よりは数分の一だと主張した。

ウクライナ軍参謀本部の23日発表の戦況分析によると、ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州のクラマトルスクやスラビャンスク、バフムトの周辺で攻撃を継続している。【7月23日 共同】
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戦況についてはロシアにしろ、ウクライナにしろ、“大本営発表”的に自国に都合のいいようにしか情報を出さないので実際のところはよくわかりませんが、上記のような情報が多くに目につくようになったということは、南部・東部でのロシア軍の攻勢が強まっていたひと頃よりはウクライナ側に反撃の流れが出てきた・・・ということでしょうか。

イギリスの対外情報機関、秘密情報部(MI6)のムーア長官が21日、ロシア軍について「失速し、力を失う寸前にある」とする見解を明らかにしていることもありますし。(どの程度信じていいのかわかりませんが)

【家族と離れウクライナにとどまることを強要されている男性】
ここ数日、7月21日ブログ“ロシア ガスで欧州を揺さぶる 制裁の「痛み」に西側は耐えられるか?”では主に欧米側の苦しい事情、7月22日ブログ“ロシア 使い捨て兵士に利用されるシベリアのブルーカラーや少数民族出身者”ではロシア側の苦しい事情を取り上げてきました。

そこで今日は、戦いの当事国ウクライナの状況に関する最近の記事をいくつか。

ロシアでは徴兵を忌避する若者が・・・という話題は上記ブログでも取り上げましたが、ウクライナにしても全員が祖国防衛のために進んで命を・・・という訳でもないでしょう。

ゼレンスキー大統領は、国を出ようとする男性を厳しく制限しており、出ようとする者は“裏切り者”扱いにもなります。多くの人々が家族と引き裂かれて国に残る状況にもなっています。

ただ、コロナ対策でも明らかになったように、長期戦になってくるとそういう厳しい対応だけでは国民の気持ちがもたないところもあるでしょう。

****ウクライナ 家族と離れ深まる男性たちの苦悩****
ロシアによる侵攻から24日で5か月となるウクライナでは、成人男性ウクライナのは国外に出ることが原則、禁じられています。戦争が長期化する中、国外に避難した家族に会えない男性たちの苦悩は深まっています。

キーウ市内に暮らす行政書士のニキタさん(27)は、ロシア軍の侵攻直後、妻と8歳の娘らをドイツに避難させ、今は一人、ウクライナに残っています。(中略)

現在、成人男性が国外に出ることは、原則禁止されているウクライナ。ニキタさんが家族と離れてから、まもなく5か月となります。自宅では娘と過ごした平和な日々ばかりが頭をよぎるといいます。

ニキタさん「複雑だ。(娘の部屋に)来たいけど、来るとつらくなる」この日は久しぶりに、娘のミラナさんとテレビ電話で話します。

ミラナさん「パパの誕生日に描いたプレゼントだよ」
ニキタさん「プレゼント? すごいね」「会えなくてすごく寂しいよ」
ミラナさん「わたしも寂しい」

ニキタさんは一刻も早く、男性が国外に避難した家族に会えるようにすべきだと訴えます。
ニキタさん「もしあと数か月(この状況が)続けば、残っているみんなの心が壊れてしまう」

キーウ市の支援センターの担当者も、多くの男性が同じ苦しみを抱えていると指摘します。
心理カウンセラー「妻はウクライナに戻るのがまだ怖いが、夫は妻のいない生活はもう耐えきれないと。それで家族の関係が悪化してしまうこともある」

ゼレンスキー大統領は当初、男性の出国基準の緩和に反対していましたが、今月、ようやく議会に基準を緩和する法案が提出されました。

停戦の兆しが依然、見えない中、戦争の長期化は人々の心に暗い影を落としています。【7月24日 日テレNEWS】
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【ロシアのミサイル攻撃に“慣れた”市民の暮らし】
これもコロナ対応と同じですが、長期戦になると危険に対する“慣れ”も生じます。戦いとの共存でしょうか。

****侵攻から5か月 市民の心情に変化も…「ミサイルに慣れてしまった」****
ロシアのウクライナ侵攻から24日で5か月となります。戦闘終結の兆しが見えない中、首都・キーウではこの日も空襲警報が出ました。キーウから渡邊翔記者の報告です。

キーウ中心部の大通りに来ています。キーウ市は朝からすでに2回、空襲警報が鳴りました。ただ、ジョギング中の市民がサイレンを聞いてもそのままのペースで走り続けるなど、人々の落ち着きが印象的でした。

一方、キーウ市役所の正面には、ロシアの捕虜になった兵士らの解放を訴える横断幕がかかっています。町の中でも、戦意発揚のポスターなどが目立ちます。

侵攻開始から5か月となる24日朝、教会の礼拝では、犠牲となった兵士や市民に祈りがささげられました。
ウクライナ軍は南部・ヘルソンの奪還に向けて攻勢を強めるなど、戦闘はさらに激化する兆しを見せています。

今週、取材中に話を聞いた市民からは、戦争に疲れたという声があがっています。ただ、一方で、「いけないとは思いながらも慣れてしまった」という声も多く聞かれます。

キーウ市民「恐怖はすでにあまりない。ミサイルに慣れてしまった」「もちろんみんなと同じように疲れている」
戦争が長期化する中、人々は、戦争を日常の一部として受け入れざるを得ない。そんな諦めにも似た感情を抱えています。【7月24日 日テレNEW】
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【ロシアが支配する地域では・・・“ただ、平和に暮らせることだけを望む”住民】
一方、ロシアが支配し、ロシア化・「併合」への動きが進む地域では、“ただ、平和に暮らせることだけを望む”住民の暮らしが。

****侵攻5か月の裏で進む「ロシア化」(1) 市民が語る、ベールに包まれた支配の実態****
ロシアによるウクライナ侵攻開始から5か月。今も激しい戦闘が続く一方、東部や南部ではロシアによる「併合」に向けた動きも始まっている。ロシア軍が占領した町にいまも暮らす市民の声を取材すると、驚くべきスピードで進む現地の「ロシア化」の実態が見えてきた。

■「ロシア製」並ぶスーパー “ルーブル支払い”も
取材に応じてくれたのは、3月にロシア軍に占領され、現在ウクライナ軍が奪還を目指す南部の主要都市・ヘルソンにいまもとどまるコンスタンチンさん(44)。ロシアによる侵攻以降、YouTubeでヘルソン市内の様子を発信してきた。

撮影した映像をみると、スーパーマーケットには多くの商品が並び、広場では家族やカップルで過ごす人々の穏やかな姿も確認できる。

発信を続けるコンスタンチンさんに話を聞いた。

――ヘルソンの状況を教えてください。
2月24日に空港あたりで爆弾の音が聞こえ、煙が見えたことから戦争が始まったのだとわかりました。数日間にわたり(ヘルソン市近郊の)アントノフ橋周辺での戦闘が続いていましたが、3月になるとロシア軍が市内に入ってきました。

その後しばらくは、すべての店が閉まっていましたが、いまは店も営業しています。クリミア半島を通る輸送ルートが確立され、ロシアから多くの商品が運ばれてきています。

逆にウクライナ製のものは少なくなっていて、商品の交代が行われています。スーパーマーケットでは、(ウクライナ通貨の)フリブナと(ロシア通貨の)ルーブルが両方使えるようになっています。ただ、ルーブルは市民にはまだ出回っていないです。最近では、ロシア系の銀行も市内にできました。

また、ロシアが年金受給者に対してルーブルで年金の提供を始めています。申請のために多くの人が行列を作っています。このまま続くと、だんだんルーブルがヘルソンの市場に入ってくると思います。

――生活の中で困っていることは?
インターネットの接続は問題があります。5月までは、ウクライナの携帯電話サービスをみんな使っていました。しかし、5月末か6月初旬にウクライナの携帯通信が切断されました。そして、ロシアの通信会社の携帯電話とインターネットのパッケージが売られるようになりました。ほかに方法がないので、いまはそれを使っています。

ロシアの通信会社のため、大半のウクライナのニュースサイトなどはブロックされ、代わりにウクライナでブロックされていたロシアのニュースが読めるようになりました。

VPN接続すれば、自由に読みたいニュースを読んだり、YouTubeにアクセスしたりできますが、VPNが使えないと外の情報にアクセスできません。

■“ウクライナの英雄”ポスターは破られ…「親ウクライナ」住民は市外へ
“英雄”ポスターを破る人々コンスタンチンさんが5月に撮影した動画に映っていたのは、ポスターを破る男性の姿。ポスターは、ウクライナの民主化運動で死亡した人々を「英雄の100人」として称える内容のものだという。

破っていたのは、「ヘルソン市民で親ロシア派」と名乗る人々。カメラの前で、民主化運動について「ナチスの痕跡」「これは私たちの歴史ではない」と切り捨てた。

コンスタンチンさんは、ロシア軍の占領下で、多くの「親ウクライナ」住民は市外に脱出したと話す。

――ロシアに反発する市民はいますか?
当初は、抵抗する市民もいました。大人数のデモも行われましたが、主催者は逮捕され、その後、多くの人がヘルソン市を離れていきました。特に、ウクライナを強く支持する人たちの多くが避難しました。

今も、夜にバーなどで座っていると、ウクライナの歌を歌ったり、ウクライナを支持したりしている人もみかけます。ただ、デモなどの行動を起こせば、ロシア側から何らかの対応をされるかもしれません。

■両サイドに“嘘”…そのまま伝えたい
コンスタンチンさん――なぜヘルソン市内の映像を発信し続けているのですか?
みんなに、実際に何が起きているのか知ってほしいからです。ヘルソンについて報じられていることは、現実とは違うことも多くあります。ロシア側もウクライナ側も、どちらも嘘をついていると思います。

ロシアは、支援物資の配給を行ったり、年金をルーブルで給付したりしている様子を積極的に報じています。しかし、実際には長い行列ができていて、なかなか受け取ることができません。また、ルーブルも、まだほとんど一般の人たちには出回っていません。

一方、ウクライナも「ヘルソンが危ない場所だ」と、住民に恐怖を与えようとしています。私自身も、ロシアのSIMカードが販売されている様子をYouTubeで配信したところ、ウクライナのサイトで「ロシアの協力者」として扱われてしまいました。

私はただ、街を歩きながら、見たものをそのまま配信しています。そうすることで、見た人が何が起きているのか、知ることができると思うのです。

――今後、ヘルソンの街はどうなると思いますか?
「ロシア化」の試みが今後どうなるかわかりませんし、ウクライナがヘルソンを奪還しようとすれば、多くのものが破壊されるでしょう。ロシアもウクライナも、政治家たちが政治的なスローガンを使って、どちらかを支持させようとしていますが、私はこれに参加しないようにしています。

私は、生まれ育ったヘルソンという場所が好きで、できるだけ家族でこの場所で暮らしたいと思っています。ただ、平和に暮らせることだけを望んでいます。【7月23日 日テレNEW】
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ヘルソン州では7月半ばからウクライナ軍が攻勢を続けており、南部奪還作戦に着手したとの見方が強まっています。

****ウクライナ軍 ロシア軍補給路の橋攻撃 ロシアは支配目標拡大か****
ウクライナ軍は、南部ヘルソン州でロシア軍が支配する、要衝の橋を攻撃するなど、ロシアに支配された地域の奪還を目指して反撃を続けています。

一方、ロシアのラブロフ外相は、東部2州にとどまらず南部など周辺地域の掌握も視野に入れていることを明らかにし、「ロシア化」を進めたい思惑もあるとみられます。

ロシア国防省は20日、東部ドネツク州の武器庫などをミサイルで攻撃したほか、南部オデーサ州ではアメリカの対艦ミサイル「ハープーン」を破壊したと発表しました。

一方、ウクライナ軍はロシア側が掌握したと主張する南部ヘルソン州などで反撃を続けています。

ヘルソン州の親ロシア派勢力の幹部は、ロシアのメディアに対し、ウクライナを縦断するドニプロ川にかかる要衝の橋が、ウクライナ側に攻撃されたと明らかにしました。

親ロシア派勢力は、橋の攻撃に、アメリカが供与した高機動ロケット砲システム=ハイマースが使われたと主張した上で、「被害は深刻だ」としています。

イギリス国防省は20日、この橋は、ロシア軍が物資を補給し、部隊を移動させるために必要なルートだったと指摘し、ドニプロ川を渡る手段をめぐる攻防が、今後の南部の戦況をうらなう重要な要素になると分析しています。

こうしたなか、ロシアのラブロフ外相は、20日国営通信社が伝えたインタビューで「今や地理的な目標は変わった。ドンバス地域だけでなく、ヘルソン州やザポリージャ州、さらにほかの地域も含まれる」と述べ、東部2州にとどまらず、南部や南東部など周辺地域の掌握も視野に入れていることを明らかにしました。

また「欧米側はウクライナに射程の長い兵器を供与し、状況を悪化させている。地理的な目標は、今後さらに広がるだろう」と述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米をけん制しました。

プーチン政権はこれまで、ロシア系住民の保護を名目として東部2州の掌握を作戦目標に掲げてきましたが、ラブロフ外相の発言は、支配地域の目標を拡大するもので、東部2州以外への攻撃も正当化するとともに、掌握した地域を将来、一方的にロシアに併合することも視野に入れ、南部などで「ロシア化」を進めたい思惑もあるとみられます。【7月21日 NHK】
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米中関係  バイデン政権、対中国制裁関税軽減の動きも 近日中に首脳会談 対立の緩和に踏み出すか?

2022-07-23 23:05:30 | アメリカ
(【7月21日 TBS NEWS DIG】)

【インフレ抑制のために対中国制裁関税を緩和したいバイデン氏 国内に反対もあり落としどころに苦慮】
アメリカでは、中国の新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産された製品の輸入を全面的に禁止する法律が6月21日、施行されました。

こうしたバイデン政権の姿勢に見るように、米中関係は基本的に厳しい対立が続いています。
しかし、そうしたなかにあって、米中関係の緩和にも見える動きも。

バイデン大統領は、深刻な米国内のインフレ進行を抑制するために、中国からの輸入品に課した制裁関税の扱いを緩和することを検討していると報じられています。

“アメリカは、中国からの輸入品の6割以上に当たる約3700億ドル分に最大25%の関税を上乗せしています。
もともとはトランプ前政権時代の米中対立をきっかけに一方的な制裁措置として課したものですが、それがインフレの要因にもなっていることから、いま見直しの議論が巻き起こっています。”【6月30日 NHK】

****対中関税、一部撤廃か 米、100億ドル規模に限定と報道****
米政治サイト、ポリティコは5日、バイデン米政権が中国からの輸入品に課した制裁関税の扱いを、月内にも決定する見通しだと報じた。

中国側が求める関税撤廃に一部応じるが、規模は100億ドル(約1兆1500億円)程度と限定的にする案が有力だという。
一方、中国製の半導体や蓄電池などを念頭に、新たに制裁関税を課すための調査にも乗り出すとしている。

中国の劉鶴(りゅうかく)副首相は5日のイエレン米財務長官とのオンライン会談で、米国による対中制裁関税の撤廃に「強い関心」を持っていると伝達した。トランプ前米政権が発動した大規模な追加関税の適用に、中国は強く反発してきた。

ポリティコによると、トランプ政権が関税を課した約3700億ドル相当の中国産品のうち、バイデン政権が撤廃に応じる規模は100億ドル程度にとどまる。対象は自転車などの消費者向けの物品を中心に選定される見込みだという。

米国で物価高騰が問題となる中、米政権内では、関税撤廃が輸入物価の引き下げにつながることに、期待する向きもあるようだ。

制裁関税の一部撤廃は、バイデン政権の対中貿易政策の見直しの一環。産業界の要望に応じ、対中制裁関税を免除する手続きも新たに開始するとしている。

ただ、米政府は、半導体をはじめとするハイテク分野を対象に、新たな制裁関税の発動も視野に入れた調査に乗り出すという。

米政府や議会は、中国による「不公正で非市場的な慣行」(イエレン氏)を問題視している。中国側が撤廃を求める関税については「微修正」にとどめ、新たな関税適用に道を開く強硬策も進めることで、国内労働者からの批判を避けたい思惑も見え隠れする。

同サイトによると、こうした対中政策の見直しは米政府内で最終決定されておらず、流動的な部分があるという。【7月6日 産経】
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物価上昇は中間選挙で与党民主党・バイデン政権の死命を制する重要課題であり、“最大の輸入相手国である中国への制裁関税をなくせば、消費者物価の上昇率を最大1.3ポイント抑え込めるという分析もあり、バイデン政権にとって“わらをもつかむ思い”なのです。”【6月30日 NHK】とも。

ただ、中国による「不公正で非市場的な慣行」(イエレン氏)を無視してことを進めることはできませんし、“トランプ前政権は、価格の安い中国の輸入品からアメリカの製造業労働者の雇用を守るとして高い関税をかけました。それだけに、関税を引き下げればアメリカの労働者からも批判が出ることが予想されます。”【同上】という事情も。

そうした事情もあって、制裁関税の扱いについてバイデン大統領は明言を避けています。

****米政府の対中制裁関税一部撤廃「まだ決めていない」=バイデン氏****
バイデン米大統領は8日、通商法301条に基づいて中国からの輸入品に適用している制裁関税について、一部を撤廃するかどうか「まだ決めていない」と語った。記者団からの質問に答えた。

一方でバイデン氏は「われわれは対中関税見直しを(段階的ではなく)一度で仕上げる」とも述べた。

トランプ前政権が導入したこの制裁関税を巡り、バイデン氏はここ数週間、インフレ抑制のために撤廃したいが、中国の不公正貿易政策是正を迫る手段としては維持したいという考えの板挟みとなり、落としどころを見つけ出すのに苦戦を強いられている。【7月11日 ロイター】
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【近日中に米中首脳会談 「対立」から「緩和」に踏み出すか? 背景に両国の国内政治事情】
近日中に米中首脳会談が実施される運びですので、その会談で制裁関税の扱いも明らかにされるものと思われます。

****米中首脳会談「10日以内」 関税、衝突回避を協議か****
バイデン米大統領は20日、中国の習近平国家主席と「10日以内」に会談するとの見通しを明らかにした。オンラインか電話による会談とみられる。

バイデン政権は11月の中間選挙を前にインフレ緩和を目指し、中国からの輸入品に課している制裁関税の一部撤廃を検討。台湾や南シナ海問題などを巡って米中間の緊張が高まる中、偶発的な衝突回避に向けた意思疎通も協議するもようだ。

米中首脳の直接対話は3月のオンライン会談以来となる。ペロシ下院議長が台湾訪問を計画していると英紙が報じたことについてバイデン氏は「軍はいい考えではないとみている」と否定的な見方を示した。【7月21日 共同】
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米中関係については、対中国制裁関税の扱いに限らず、従来の「対立」から「融和」「緩和」の方向に動きつつあるとの指摘もあります。

「緩和」が取り沙汰されるの背景には中国側の党大会、アメリカの中間選挙としいう政治イベントを控えている両国の政治事情があります。

1972年2月のニクソン米大統領(当時)訪中時の「上海コミュニケ」発表から50年が経過しました。
上海コミュニケは「台湾は中国の一部」という中国側の主張を米国が「認識する」と記し(「認める」ではありません)、79年の米中国交正常化につながりました。中国側は、現在の米中対立の主な原因はコミュニケの精神が順守されていないからだと主張しています。

米中会談では、習近平主席は改めてバイデン大統領に上海コミュニケ精神の順守を求めると思われます。
下記記事は、そのあたりの中国側の主張・立場を説明したものになっています。

****米中が近く首脳会談、「対立」から「融和」に動く=経済相互依存で一致、甦る『上海コミュニケ』****
米中関係筋によると、米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席によるオンライン首脳会談が数週間以内に予定されている。両国の関係は「競争、協力、対抗」を基とした「対立」の構図から、「四不一無意」(4つのノー、1つの意図しない)の「約束」の下、大きく変貌しつつあることを見逃してはならない。

「四不一無意」はバイデン大統領が習近平国家主席に2回の米中首脳会談で約束したとされるもので、「四不」は、米国側が(1)新冷戦を求めない(2)中国の体制変更を求めない(3)同盟関係の強化を通じて中国に反対することをしない(4)台湾独立を支持せず台湾海峡の現状変更を求めないことを意味する。「一無意」とは、米国に中国と衝突する意図がないことを示したもの。中国側によると、これらに加えて「中国共産党の執政地位への挑戦をしない」ことも加えられた。

◆米、「あいまい戦略」で中台にクギ
米国は、仮説として中国が武力で台湾統一を図ろうとした場合の対応について、あいまいにしておく戦略をとっている。軍事介入について明確にしないことで、中国による台湾侵攻を抑止する一方、台湾が一方的に独立向け緊張を高める事態を防ぐ意図も込めている。

米国はこの戦略に基づいて、台湾政策について旗幟を鮮明にしていないが、米中両国の裏事情を取材すればするほど「真相」が浮かび上がる。

1972年2月のニクソン大統領(当時)の訪中時に米中間で交わされた『上海コミュニケ』には、両国は平和五原則を認め合い,両国の関係が正常化に向うことはすべての国の利益に合致すること、両国はアジア・太平洋地域で覇権を求めるべきでなく、他のいかなる国家あるいは国家集団の覇権樹立にも反対することが盛り込まれた。

また米国は,すべての中国人が中国は一つであり、台湾は中国の一部であると考えていることを「認識(acknowledge)」し、「この立場に異議を申立てない」こと、台湾からすべての武力と軍事施設を撤去する最終目標を確認し,この地域の緊張緩和に応じて台湾におけるその武力と軍事施設を漸減することを声明した。

「ロシア・ウクライナ戦争のこう着状態が続く中、米中対立は緩和に向かう」(米中関係筋)との見方が有力だ。中国側がこの約束の履行を前提に、数週間以内の米中(リモート)首脳会談に応じることになろう。

中国・環球時報(3月20日付)によると、「四不一無意」について、バイデン大統領と習主席による初めてのビデオ会議が行われた2021年11月にバイデン氏が「中国側に約束した」という。

ロシアのウクライナ侵攻後に行われた米中首脳ビデオ会談(2022年3月)について中国国営新華社通信(3月18日付)は、バイデン大統領が「私(バイデン大統領)は、アメリカが中国との『新冷戦』を求めず、中国の体制変更を求めず、同盟関係の強化による中国への反対を求めず、『台湾独立』を支持せず、中国と衝突する意思がないことを重ねて表明したい」と言明した、と報じた。

新華社通信がバイデン・習両氏の発言を詳細にくり返し伝え、米側も否定していないことから判断して、バイデン氏の「四不一無意」発言があったのは事実だろう。台湾海軍の揚陸艦艦長を務めた経験のある中華戦略研究所の張競研究員も香港の週刊誌(亜洲週刊、5月2〜8日号)で「四不一無意」について、「中国政府とアメリカ政府の共通認識」と記した。(中略)

◆中国、ロシア・ウクライナ両国に「中立」姿勢
中国がウクライナ戦争に対する対応を微妙に変化させていることも、米中対立の緩和に繋がっている。もともと中国は複雑な背景を考慮。「国家主権・領土完全」の原則を貫き、是々非々主義の対応だ。2014年にロシアが併合したクリミアをロシア領と今も承認していない。

一方で、中国はロシアとの関係への配慮も見せている。世界最長の国境を挟む「厄介な大国」(中国筋)を相手に背後から刺すようなことをしたら今後数十年にわたって恨まれると懸念している。米国の要請を受ける形でロシアへの軍事支援は控えており、ロシアとの技術・金融協力も事実上停止状態である。

米中関係筋によると、中国は「中立」姿勢にシフトしており、ウクライナ戦争の調停に乗り出す可能性もある。

中国の報道も当初のロシア寄りから微妙に変化している。当初ロシアに同調する宣伝報道が目立ったが、同時に「各国の主権・領土保全の尊重」を強調して間接的に反対の立場を表明した。

4月30日に、新華社がクレバ・ウクライナ外相への書面インタビューを全文掲載。この中で「ロシアによるウクライナ侵攻」という語句を3度にわたって使用した。このほか、中国はウクライナに人道支援援助を提供、王毅外相はロシアとウクライナの外相と同じ日に会談。戦況もウクライナの視点がCCTV(中国中央電視台)などで報じられ、「中立」へのシフトが見られた。(中略)

◆米中外相、「5時間協議」で地ならし
インドネシアのバリ島で7月9日に会談したブリンケン米国務長官と中国の王毅国務委員兼外相は対中関税引き下げ問題や首脳会談などについて5時間余り協議した。(中略)

ブリンケン氏は「米国は2国間関係におけるリスク要因の管理に力を注ぐ」と話した。台湾や人権など幅広いテーマで対立点を抱える米中が当面は緊張緩和にカジを切るのは、今秋に両国で重要な政治イベントが控えるためだ。

中間選挙を前に関税の引き下げでインフレを抑えたい米国と、秋の共産党大会を前に低迷する「経済」を米国向けの輸出増でテコ入れしたい中国の利害は一致する。王氏は「米国は中国に対する追加関税を速やかに撤廃し、中国企業に対する制裁を中止すべきだ」と求めた。

米中が近く予定している首脳間のオンライン協議では関税引き下げのほか、ウクライナ情勢、エネルギー・食料危機、気候温暖化など多岐にわたる問題がテーマとなる見通しだ。特に最大の課題である約40年ぶりの物価上昇への妙案がないバイデン大統領にとっては、政策を総動員する姿勢を示す思惑があるという。

バイデン大統領は20日、ワシントン郊外で記者団に対し、中国の習主席との首脳会談を「10日以内」に行うとの見通しを示し、対中制裁関税の引き下げにも言及した。また米下院のナンシー・ペロシ議長が8月に台湾を訪問すると報じられていることについてバイデン氏は、「軍は良い考えだと思っていないようだ」と述べ、否定的な見解を明らかにした。習主席は22日、新型コロナウイルス検査で陽性と判定されたバイデン大統領にお見舞いのメッセージを送った。

激しい「対立」が長期化する米中だが、両国はもともと合理主義の国。経済の相互依存はさらに深化し、各レベルで対話を繰り返している。利害が一致すれば、ニクソン大統領(当時)の電撃的な訪中(1972年2月)などにみられるように、想定外の展開もありうる。対立は「緩和」に向けて動き出している。(後略)【7月23日 レコードチャイナ】
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インフレを抱え中間選挙を控えるバイデン大統領の立場は明瞭ですが、習近平主席も秋の党大会での3選を控える状況で経済は不調で課題を抱えています。

****緊張緩和を探る?米中両首脳の思惑とは****
(中略)
右松キャスター 「中国はゼロコロナ政策の影響で経済が悪化しています。国民の不満の広がりをどう見ていますか?」 

益尾佐和子氏 (九州大学準教授)「中国の私の友人たちも言ってくるのですが、『これは政権による人権侵害である』というような見方が非常に強まっています」 「今まで"ウイグル人がいじめられている"と言っても、あんまりピンときてなかった。ところが『共産党というのは、いきなり人を犯罪者のように家の中に閉じ込めて、2か月以上も監禁するということができてしまう政権なのだ』と。やはり自分の身に起きたことですので」 「ゼロコロナ政策は政権への不満の温床になってしまっているところはあると思います」 

右松キャスター 「国内に溜まっている不満を抜かなければという時に、アメリカとの貿易関税引き下げを習主席が拠り所にせざるを得ない?」 

益尾氏 「習主席自身は、おそらくそこまでアメリカとの大きな改善は望んでいないのです。ただ、習氏に反対する勢力の声自体は相当強まってきています」 「習氏に対してもっと経済政策をうまくやれ、であるとか、そんなにロシアの肩ばかり持って世界と対立するなとか、世論の圧力というのは、徐々に生じてきていると思います」(後略)【7月5日 日テレNEWS】
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制裁関税の扱いはともかく、3回にわたって確信犯的に台湾「あいまい戦略」を否定するような“発言ミス”を繰り返しているバイデン大統領が、台湾問題でどのような発言をするのか・・・。

現在のバイデン大統領の政治状況は“想定外の展開”を可能にするような自由度はないように見えますが、どこまで「緩和」に踏み込むか注目されます。

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ロシア  使い捨て兵士に利用されるシベリアのブルーカラーや少数民族出身者

2022-07-22 23:14:06 | ロシア
(【7月22日 AFP】ロシア兵士戦死者の葬儀  参列者の様子からして北コーカサス地方でしょうか)

【アフガニスタン侵攻の10年間の戦死者とほぼ同じ戦死者】
昨日(7月21日)ブログ“ロシア ガスで欧州を揺さぶる 制裁の「痛み」に西側は耐えられるか?”では、欧米側の事情、どこまで対ロシア制裁の「痛み」に耐えられるか・・・という話をとりあげましたが、時間とともに影響が深刻化し、どこまで耐えられるか・・・という点ではロシアも同じです。

ロシアの兵士・武器の損耗が激しく、兵員不足・兵器不足に陥っていることは以前から報じられているところです。

戦死者数などについてロシア側は最近の実態を公表していませんので不透明ではありますが、イギリス情報機関がロシア側の被害の深刻さについて改めて言及しています。
(これが実態を示すものなのか、希望的観測あるいはウクライナを支えるための政治的発言なのかはわかりませんが)

****ロシア軍死者は1万5000人 英米情報当局****
と米国の情報機関トップは、5か月に及ぶウクライナ侵攻で死亡したロシア兵は推定1万5000人に上るとの見解を示した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の想定をはるかに上回る戦死者だとしている。

英対外情報部「MI6」のリチャード・ムーア長官は21日、米コロラド州で開かれているアスペン安全保障フォーラムで、1万5000人は「恐らく控えめな見積もり」であり、短期間で勝利できると思っていたプーチン氏にとっては「面目が丸つぶれ」となる事態だと指摘した。
ムーア氏は、「1980年代のアフガニスタン侵攻の10年間の戦死者とほぼ同じ数だ」と述べた。

さらに、犠牲になっているのは「サンクトペテルブルクやモスクワの中流階級の子どもたちではない」と指摘。その上で、「彼らはロシアの地方出身の貧しい子どもたちだ。シベリアのブルーカラーが住む町の出身だ。少数民族の子も不釣り合いに多い。こうした子どもたちが使い捨ての兵士にされている」との見方を示した。

米中央情報局のウィリアム・バーンズ長官も20日、諜報活動による見積もりでは「(ロシア側の)死者は1万5000人近辺で、負傷者は恐らくこの3倍の数に上っている」と話した。

バーンズ長官は「これはかなりの損失だ。ウクライナ側もこれよりわずかに少ない数の死者が出ており、負傷者の数も非常に多い」と述べた。

ウクライナは今月、ロシアの戦死者は約3万6200人に上ったとし、米英に比べてはるかに大きな数字を示している。一方、ロシアはこれまで2回しか死者数を発表しておらず、3月25日に1351人という数字を公表して以降、情報は途絶えている。 【7月22日 AFP】
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****ロは数週間で「力尽きる」、ウクライナに反撃機会=英MI6長官****
英国の対外情報機関、秘密情報部(MI6)のムーア長官は21日、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は今後数週間のうちに何らかの形で作戦を休止し、ウクライナに重要な反撃機会を与える可能性が高いとの見解を示した。
米コロラド州で開催されたアスペン安全保障フォーラムで講演した。

同長官は、ウクライナ戦争でこれまでに約1万5000人のロシア軍兵士が死亡したとの推計を発表。これは「おそらく控えめな推計値」だとした。

その上で、今後数週間でロシア軍は人員や物資の供給に一層困難をきたすと予想。「何らかの形で一時停止せざるを得なくなり、ウクライナに反撃の機会を与えることになる」とした。

プーチン大統領の健康状態については「深刻な健康状態に陥っているという証拠はない」と答えた。【7月22日 ロイター】
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ロシアが数週間で「力尽きる」云々は、やや希望的・楽観的に過ぎるような感じも。
ただ、多くの犠牲者が出ているのは間違いないでしょう。

【増える徴兵忌避】
ロシアにとって多数の戦死者を出すことは国民の厭戦気分を高め、戦争を維持することを困難にするだけでなく、プーチン大統領への批判を高めることにもなります。

そのため、民間軍事会社を利用したり、社会的に大きな声になりやすい大都市の若者ではなく、地方の若者を兵員に投入することで、「軍事作戦を支持する。だが同時に、実地の参加は強要されない」という(大都市)国民と政府の“契約”を成り立たせているという件は、7月10日ブログ“ロシア 国民に極力戦争を意識させることなく「戦時経済体制」へ 都市部若者の関心は薄れる”でも取り上げました。

“ロシア軍は春と秋の年2回、18~27歳の男性を招集し、1年間の兵役を課す徴兵制をとっている。兵役は名目上では義務とされるが、多くの国民は高等教育機関に進学したり、招集に応じなかったりして徴兵を免れている。ウラジーミル・プーチン大統領は今回(22年春季)、13万4500人の採用目標を設定した。”【4月2日 AFP】

戦争で命を落としたくない、特に意味が定かでない戦争に駆り出されて死ぬのは嫌だ・・・とうのは当然の話。

****「月給65万円でもウクライナで戦いたくない」 徴兵忌避増えるロシアの若者****
ダニラ・ダビドフさん(22)が母国ロシアを離れたのは、政府がウクライナ侵攻を開始してから数週間後のことだった。支持しない戦争で血を流すことを恐れたからだという。

デジタル・アーティストのダビドフさんは、サンクトペテルブルクで暮らしていた。紛争が長引く中で、ロシア政府が自分のような若者に対し、軍務に就くよう圧力をかけるのではないかと懸念している。

ダビドフさんは現在の勤務地であるカザフスタンでロイターの取材に応じ、「戦争にも刑務所にも行くのは嫌だったから、国を出る意志を固めた」と語った。

兵役拒否で家族と険悪に
弁護士や人権活動家によれば、ウクライナ侵攻が始まった2月末以来、ダビドフさんのように兵役義務を逃れようとするロシアの若者が増加している。ロシア社会における紛争への複雑な思いが垣間見られる。

若い男性の中には、国を離れる人もいれば、兵役免除など別の道を探るべく助言を求める人もいる。あるいは、召集を無視して当局による訴追がないことを期待するだけという例もある。ロイターでは、兵役回避を模索している男性7人のほか、弁護士や人権活動家5人に話を聞いた。

ロシアでは18─27歳の男性に兵役が義務付けられており、拒否すれば罰金または2年の禁固刑が科されるリスクがある。ある男性はロイターに対し、兵役を拒否したことで、兵役は若者の義務だと信じている家族との間が険悪になったと語った。

ダビドフさんは、国外で採用が決まっていたので兵役登録を解除し国を離れることができたと語る。いずれは母国に戻りたいと言いつつ、しばらくは無理だろうと嘆く。「ロシアを愛しているし、とても寂しく思う」(中略)

ロシア政府は、現在「特別軍事作戦」を遂行中であり、計画通りに進行していると述べている。ロシアのプーチン大統領は、国家のために戦う兵士らは「英雄」であり、ロシア語話者を迫害から救い、「ロシアを崩壊させようとする西側の計画」を挫折させている、と称賛している。大統領は3月、ロシアより西側に近い考えを持つ者は、「裏切り者」であると述べた。(中略)

プーチン大統領が頼りにしているのは職業軍人で構成される陸軍だが、西側諸国によれば、開戦以来相当の損失を被っているという。ロシア陸軍が十分な志願兵を補充できなければ、同大統領の選択肢は、ロシア社会を巻き込んで徴集兵を動員するか、自身の野望を縮小させるか、ということになる。

プーチン大統領は、徴集兵をウクライナ紛争での戦闘に参加させるべきではないと繰り返し公言しているが、国防省は3月初め、すでに一部の徴集兵がウクライナで戦っていると述べている。6月にはロシア軍検察官が国会上院において、約600人の徴集兵が紛争に動員されており、その結果、10数人の将校が懲戒処分を受けたと証言している。

ウクライナでは戒厳令が敷かれ、18歳から60歳までの男性は出国が禁止されている。ウクライナ政府は、ロシアによる侵攻は一方的な帝国主義的な領土奪取であり、最後まで戦い抜くと表明している。

「怯えている人は多い」
ピョートル大帝がロシアを欧州の大国として変貌させて以降、ロシアの支配者は、世界屈指の規模の戦闘部隊である巨大なロシア軍の一部を徴兵制に頼る例が多かった。対象年齢の男性は、1年間の兵役に就かなければならない。ロシアは年2回行われる召集により、年間約26万人の兵士を集めている。ロンドンを本拠とする国際戦略研究所(IISS)によれば、ロシア軍の兵力は合計約90万人である。

学業や医療上の理由による応召延期などの合法的な手段も含め、兵役回避は以前から定着している。だがここ数カ月、兵役回避の方法について支援を求める若い男性が増加していることが、そうした助言や法的支援を提供している弁護士や人権活動家4人への取材から明らかになった。そのうち2人によれば、大半はモスクワやサンクトペテルブルクなど大都市の若者だという。

無料の法律相談を提供している団体の1つが、ロシア出身で現在キプロス在住のドミトリー・ルツェンコ氏が共同運営者を務める「リリース(解放)」だ。ルツェンコ氏によれば、徴兵忌避の方法について助言を求める人々のために「リリース」がメッセージングアプリ「テレグラム」上で運営している公開グループでは、ウクライナ侵攻前に約200人だった参加者が、現在では1000人以上に膨れあがっているという。

もう1つの人権団体「シチズン・アーミー・ロー(市民・軍・法)」は、軍ではなく病院などの国営機関で働くなど、兵役以外の形での公的奉仕を模索する人への助言に力を入れている。この団体によれば、問い合わせる人は、昨年の同時期には40人前後だったのが、最近ではその10倍に当たる400人以上に増加したという。同団体のセルゲイ・クリベンコ氏は、「怯えている人は多い。実際に戦闘に従事している軍には入りたくないのだ」と語る。(中略)

月給65万円を提示されるも......
(中略)ロシアが兵員の補充を模索している兆候はある。5月、プーチン大統領は軍への志願者に対する40歳の年齢上限を撤廃する法律に署名した。このとき国会議員らは、この改正により先端的な装備やエンジニアリングなどの専門分野における経験豊富な人材が集まるはずだと述べていた。

匿名を希望する30代のロシア人男性はロイターに対し、いくつか個人的な事情を確認したいという建前で、軍のオフィスに出頭するよう電話で要請されたと語った。オフィスでは、軍服を着た正体不明の男性が過去の従軍歴について質問し、ウクライナでの戦闘に参加すれば月額30万ルーブル(約65万円)の報酬を出すと申し出たという。(中略)

この男性は、自分は職業軍人ではなく、兵役を終えて以来1度も銃を発射したことがないことを理由に、このオファーを断ったという。「30万ルーブルもらっても、死んでしまっては何もならない」とこの男性は話した。【7月19日 Newsweek】
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【大都市若者に変わって投入される少数民族兵士 劣悪環境で戦線離脱も】
プーチン政権側も無理やり大都市若者を戦線に投入して、結果“反戦”の声が高まっても困りますので、給与などで釣りやすい地方の少数民族を多用する事態になっているようです。

そのため“犠牲になっているのは「サンクトペテルブルクやモスクワの中流階級の子どもたちではない」と指摘。その上で、「彼らはロシアの地方出身の貧しい子どもたちだ。シベリアのブルーカラーが住む町の出身だ。少数民族の子も不釣り合いに多い。こうした子どもたちが使い捨ての兵士にされている(英「MI6」のムーア長官)”【前出 AFP】ということに。

しかし、死にたくないのは少数民族でも同じ。想像とは異なるウクライナの惨状から逃げ出したい兵士も少なくないようです。

****戦いを拒んで帰国し、迫害されるロシアの少数民族兵士****
<ウクライナの戦場に駆り出されたロシアの少数民族兵士が故郷に帰り、脱走兵にされている。なかには凍傷を放置して手足を切断した例も>

ウラジーミル・プーチン大統領が主導する対ウクライナ戦争の前線で、ロシア軍の一部兵士は戦闘への参加を拒み、帰国している。そのなかには、凍傷にかかって手足の一部を切断せざるを得なかった者がいたことを、兵士らの故郷の人権活動家が明らかにした。

この活動家と軍事弁護士が独立系英字紙モスクワ・タイムズ紙に語ったところによると、プーチンのウクライナ侵攻からわずか数週間の3月、ロシア軍のある部隊の兵士300人が命令に反してウクライナ東部ドネツク州の陣地を離れ、故郷であるダゲスタン共和国の町ブイナクスの基地へ戻ってきたという。

同記事によれば、兵士たちは契約軍人で、基地に戻ってから契約解除の手続きを開始し、その後、脱走兵として扱われた。

契約軍人らから弁護を依頼された軍事弁護士は、モスクワ・タイムズ紙に対し、ウクライナでの戦闘に加わることを拒否して無断で任地を離れたことによって、彼らが重罪に問われる可能性が出てきたという。

「兵士らは軍服や武器に問題があったと主張している」と、この弁護士は語った。「軍人が10日以上勤務地を離れた場合、刑事責任が問われる可能性があり、現在、軍検察庁が調査している」

ある人権活動家によると、帰国時に手足が凍傷にかかっていた兵士もいて、何人かは「黒くなった部分を切り落とさなければならなかった」ため、障害者になった。

武器も備品も欠陥品
この活動家によると、兵士たちの軍服や備品には問題があり、支給された武器は「欠陥品」だったという。一部の兵士は親族や地元当局からの圧力でウクライナに戻った。

モスクワ・タイムズ紙は、兵士たちの帰国にはプライベートな事情がからみ、退役したことを恥じる気持ちもあるため、兵士に直接話を聞くことはできなかったとしている。
本誌は、これらの主張を独自に確認することができず、ロシア外務省にコメントを求めている。

今回のケースが報道される前にも、ブリヤート共和国出身のロシア軍兵士100人がウクライナでの戦闘を拒否して帰国していたことが、反戦団体によって報告された。

ブリヤート族が結成した反戦運動団体「フリー・ブリヤート財団」によると、ロシア国防省との契約を解除した軍人150人を乗せた飛行機が、7月9日にモンゴル国境近くのロシア領内に着陸したという。

同財団の創設者アレクサンドラ・ガルマジャポワは、軍人らの妻たちは今年6月、ロシア軍に従軍中の夫は契約を打ち切ろうとしており、契約解除後は帰国させてほしいと訴える動画を作成し、ブリヤート共和国の首長に請願した、とウクライナのテレビ局に語った。

帰国の途に就く前、軍人らはウクライナ東部ルハンシク州の収容所に数日間拘束され、訴訟を起こすと脅かされたという。

ロシアの軍事専門家パベル・ルジンは3月、ガーディアン紙に、戦死する兵士の多くがブリヤート、カルムイキア、ダゲスタンといった貧しい「少数民族」共和国の出身であることが明らかになりつつある、と述べた。
これらの地域出身者は、ロシア軍の下級兵士に多いとルジンは言う。

ロシアの調査報道機関インポータント・ストーリーズが収集したデータによると、ダゲスタンとブリヤートは共に、ロシアの対ウクライナ戦争で公式に報告された死傷者の数が最も多い地域となっている。【7月20日 Newsweek】
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欧米側も苦しいけど、ロシアの内情も相当に苦しそう。
プーチン大統領は「我々はまだ本気を出していない」と発言していますが、戦時動員を宣言して本格的な戦時態勢をとればロシア社会にも動揺が広がるので、何とかその手前で抑えたいというところでしょう。
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