孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  多様性重視の社会 増加する移民で社会に軋轢も 移民労働に頼る介護 「奴隷労働」実態も

2024-03-17 23:23:24 | 欧州情勢

(【22年10月24日 東京】 女性のトラス前首相(右)の後任にインド系移民2世のスナク氏)

【多様性の社会 英国内の首相職が全て非白人男性】
イギリスは“英国の人口の14%が外国生まれで、ロンドンに至っては人口の35%を占めている”【後出「英国の移民の歴史」】という数字に見られる状況をうけて、多様性が重視される社会でもあります。(“差別がない”という話ではありませんが)

昨年のチャールズ国王の戴冠式でも「多様性」がキーワードにもなりました。

****英国王が戴冠式、70年ぶり 多様性を重視****
英国のチャールズ国王の戴冠式が6日、ロンドンのウェストミンスター寺院で開かれた。各国の首脳や王族らが出席して新時代の幕開けを祝った。女性聖職者やキリスト教以外の宗教代表が進行に携わり、多様性を重視した。(後略)【2023年5月6日 日経】
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更には、インド系のスナク首相の他、下記のようなことにも。

****ウェールズで初の黒人首相就任へ 英トップ、白人男性がゼロに****
英西部ウェールズ自治政府の次期首相に、黒人として初めてボーン・ゲシング氏(50)が就任することが16日決まった。英メディアによると、中央政府のスナク首相はインド系、自治政府の首相はスコットランドがパキスタン系、北アイルランドは女性で、英国内の首相職が全て非白人男性となる。

自治政府の首相就任が決まったことを受け、ゲシング氏は自身が欧州の中でも初めて黒人として政府機関のトップになると語り「私たちは今日、歴史のページをめくる」と力を込めた。

ゲシング氏は父親がウェールズ出身で、母親がザンビア人。1974年にザンビアで生まれ、幼い頃に英国に移り住んだ。【3月17日 共同】
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ちなみに、ロンドン市長のカーン氏も名前からわかるようにパキスタン系イスラム教徒です。

【戦後、英連邦諸国からの移民急増】
イギリスへの移民が増加したのは第2次大戦後で、英連邦諸国に住む人々は自由に英国へ移住し、働くことができたという事情が大きく影響しているとのことです。

****英国の移民の歴史****
2021年01月18日 ロンドンに着いて一番に感じたのが、街行く人の人種の多様性だった。特にホテルのスタッフやスーパーの店員など、日ごろ接する人はいわゆる英国人であることの方が少ない。地下鉄の中で聞こえてくるのも英語以外の会話であることが多い。

調べてみると、英国の人口の14%が外国生まれで、ロンドンに至っては人口の35%を占めているという(日本の総人口に占める外国人の割合は2020年1月現在2.3%)。なぜロンドンがこんなに多様性に富む都市となったのかが気になり、英国の移民の歴史について調べてみた。 

英国への移民の数が増加したのは、第二次世界大戦後のことである。それまでにも、アジアやカリブなど植民地からの移民や、奴隷貿易によるアフリカからの移民、また、産業革命と工業化によって多くの工場労働者の雇用が生まれたことによるヨーロッパ内を含む各地からの英国への移民、難民として英国へ入国してくる人もいたが、英国の人口における英国外出身者は3%未満と、割合としてはさほど大きくはなかった。

第二次世界大戦後、移民の数は急激に増加した。英国の旧植民地である英連邦諸国に住む人には1948年の国籍法によって英国の市民権が与えられたため、英連邦諸国に住む人々は自由に英国へ移住し、働くことができた。

一方英国側では、戦後の復興やNHS(国営医療サービス)の創設、公共交通機関の整備などのため労働力不足を補いたい英国国内の需要が高まっており、それを補う形で、アフリカ、アジア、カリブなどから多くの移民が流入した。

特に、NHS(医師など)や公共交通機関(駅員や運転手など)へは英語が堪能なアフリカ、カリブからの移民が、工場労働へはインドやパキスタンなど南アジアからの移民が従事した。また、アイルランドからの移民や、東欧諸国からの難民が英国へやってくるなど、多様な移民が流入してきた。

その一方で、移民としてやってきた人々は、白人の賃貸住宅や公営住宅を借りることが困難であったほか、賃金の低い英国人に魅力のない労働条件で雇用されることが多く、景気が悪化すると真っ先に解雇された。これらの差別的な扱いもあり、移民と白人の間で社会的な摩擦が生まれていた。

その中で起こったのが1958年のノッティンガム・ノッティングヒル暴動である。この頃、白人の若者が移民を襲撃するという事件がしばしば起こっていた。ノッティンガムでは小さな衝突がきっかけとなり、数千人を巻き込む暴動となった。

ほぼ同時にロンドンのノッティングヒルでも大暴動が起こった。人種差別的な言葉を叫びながら移民の家に石や火炎瓶を投げつけたり、移民を無差別に襲うなどし、それに対して移民たちも反撃した。

この暴動を契機として、移民の数を制限する必要があると判断した政府は、1962年に英連邦移民法を制定した。これにより、英連邦諸国からの移民へ入国審査を課し、労働許可証が無ければ英国内で働くことができなくなった。

その後、1971年の英連邦移民法改正では、英国に自由に入国、定住できる権利について、自身又は親、または祖父母が英国で生まれた場合等に限った血統主義的基準を設け、さらに移民の数を制限した。しかしその後も、アフリカで暮らしていたアジア系難民やシリア難民などが流入していった。

1997年から政権を取った労働党は、経済成長に伴う熟練労働者の必要性と難民の増加に対応する形で、労働のための移民ルートを拡大した。また、2004年に東欧諸国など10か国がEUに加入すると、これらの国から自由に入国し働くことができるようになった。これらの政策によって、移民の数がさらに増加することになった。

EU外からEU内の国へやってきてEU市民権を獲得した人を含め、EU市民であれば本人が選択さえすれば英国内に居住し、働くことができるため、英国政府が移民の数を調整することはできなかった。このことは、ブレグジットを推し進める要因の一つともなった。

ブレグジット後には、EU市民はEU外からの移民と同様のルールが適用されることになり、審査を受けることが必要となる。そのため、ブレグジットの是非を問う国民投票で賛成多数となった2016年以降、ブレグジット後の状況が不透明であったことなどから、EU内からの移民の数は急激に減少している。

不法移民も大きな問題となっている。正確な数字はわかっていないが、40万人から100万人もの不法移民がいるのではないかと言われている。多くは英仏海峡トンネルやスペインからの船に乗ってやってくるが、海峡をモーター付きボートで渡ってくる者もいる。2019年10月には、不法に入国しようとしていたベトナム人39名がトラックの荷台で遺体で見つかるという痛ましい事故も起きている。

ブレグジット後の移民制度は技能などに基づくポイント制となった。対象となる職種での仕事のオファーがあること、英語能力、収入の要件を満たし、その他の要件でポイントを稼ぐ必要がある。また、既に英国内で居住、就労しているEU市民に関しては、定住資格の申請を行えば、職を失っても英国内に住み続けることができる。

英国に入国できる熟練技能者数の上限が無くなるなど基準が緩和される一方で、非熟練労働者の流入を制限するシステムとなっており、介護人材などが不足するのではという懸念も出ている。

英国連邦諸国とEUからの移民という、入国や就労への制限のない移民ルートが存在していたことが特徴的な一方で、必要な労働力を移民の低賃金労働で賄っている現状にも関わらず、そこへ移民へ反対する意見が出てきてしまう状況には日本との共通点を感じた。

ブレグジット後の移民制度についても、これから実際に運用されてわかった課題が指摘され始めるだろう。引続き注視しながら、その他の英国の多様性を取り巻く環境についても調べていきたい。【2021年01月18日 Japan Local Government Centre】
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【増加する移民で軋轢も ガザ情勢で険悪な状況も 首相、危機感表明】
一方で、増加する移民に対する反感も募っています。

近年では、上記記事にもあるように増加する移民への反感がブレグジットの引き金にもなり、また、その後も移民増加は止まず、3月12日ブログ“欧州  伸張する極右・右派ポピュリズム 欧州議会選挙でも台頭予測 EU政策変質の可能性”でも取り上げたように、そうした移民への反感を背景にしたスナク政権の移民・難民のルワンダへの移送計画が政治問題にもなっています。

また、パレスチナ・ガザ地区の窮状をめぐってイスラム系市民の抗議、それに反発する極右過激派といった状況でヘイトスピーチや犯罪行為が増加し、スナク首相が危機感を表明しています。

****英国の多様な民族の民主主義が危機に、首相が厳格な対応要請****
スナク英首相は1日、首相官邸前でスピーチし、多様な民族から成る英国の民主主義がイスラム教や極右の過激派による計画的な攻撃にさらされていると述べ、ヘイトスピーチや犯罪行為の増加を踏まえて、抗議行動に対してより厳しい態度で臨むよう警察当局に求めた。

スナク氏は「世界で最も成功を収めた多民族・多宗教の民主主義を構築したという偉大な成果が計画的な攻撃を受けていることに強い懸念を抱いている」と発言。深刻な混乱と犯罪行為が衝撃的な増加を見せていると危機感を示した。

国民には、抗議を行い、ガザ市民の生活を守るよう求める権利があるが、それを口実に、過激組織であるハマスへの支持を正当化することはできないと強調。警察に対して、こうした抗議行動については単に活動を抑制するのではなく、取り締まりを行うよう要請した。

英国ではイスラム過激派ハマスと戦闘状態にあるイスラエルへの支持を表明した一部の議員が脅迫を受けたことから、議員に対して今週、セキュリティー対策用に新たな資金が支給された。【3月4日 ロイター】
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【移民労働に頼る介護 横行する不正、「奴隷労働」】
そうした移民をめぐるせめぎあいの一方で、介護など、移民の労働力を必要としている実態があり、そこでは不当な差別が横行している日本と似たような状況も。

****移民が頼りの英介護業界、新規受け入れ削減で人手確保に懸念****
低賃金、人手不足、力仕事──。英国の介護施設が人員確保に手を焼いているのは無理もないだろう。

そして、介護業界の幹部らは人手不足の問題が今後さらに深刻化する可能性があると口をそろえる。移民労働者が英国内の医療・介護関連職に就くビザ(査証)で入国する場合は家族も帯同することができる制度について、スナク英首相が停止する計画を発表したためだ。

移民労働者への依存度が非常に高い介護業界で懸念される影響に対処すべく、英政府は1月、より多くの国民を介護職に誘引する政策を提示した。(中略)

◎英国の外国人介護従事者はどれくらいか
スキルズ・フォー・ケアの2023年のデータによれば、介護人材の約19%が外国人で、ほとんどがナイジェリアやインド、ルーマニア、ポーランド、フィリピン、ジンバブエの出身だという。

英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)や新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を経て介護セクターに生じた16万件以上の欠員を埋めるべく、政府が2022年に外国人労働者向けの新たなビザルートを導入後、介護人材の労働需要は強まった。

2023年9月までの1年間で発給された医療・介護従事者に対する技術能力者ビザは、前年の6万1274件から14万4000件に急増。移民関連の公式統計によれば、他のどのセクターよりも大きな伸びだった。

賃金の低さは、英国に比べ平均給与がはるかに低い国からの移民労働者に介護セクターが大きく依存している要因の一つだ。

英国で勤務する外国人介護士は、年に最低2万0960ポンドを稼ぐ。同国の高い生活コストを考えれば安いが、ジンバブエの教師が得る給料の10倍以上にあたる。

◎なぜ介護業界が懸念しているのか
2024年に総選挙を控える英国で、移民政策は大きな争点だ。クレバリー内相は2023年12月、医療・介護ビザなど合法的なルートで英国に流入する移民の数を大幅に減らす計画を発表した。

外国人の医療・介護従事者を巡りクレバリー氏は、他の技術能力者ビザ保持者を対象とした最低給与水準の引き上げ措置の対象にしないとした一方、家族の帯同禁止や、医療サービスの利用にかかる移民医療付加金(IHS)の66%上乗せなどを盛り込んだ抑制策について説明した。

介護事業者は、労働者らが家族を帯同できないなどの理由から英国に向かわず、オーストラリアや米国、中東、カナダなど、介護人材を必要とする他の国や地域を目指す可能性もあると懸念する。

「私たちが障壁を設けるたびに、人々が働きに来る国としての魅力は失われていく」と英国内の非営利介護事業者を代表するナショナル・ケア・フォーラム(NCF)幹部のビック・レイナ―氏は言う。

世界保健機関(WHO)によれば、60歳以上の人口は2050年までに21億人に到達するという。世界的な高齢化は「かつて無いペース」で進んでおり、医療・介護人材の需要も世界中で急増するだろう。

スキルズ・フォー・ケアは2023年の報告書で、英国の高齢化が進むにつれ、新たに44万件の介護士の雇用が発生すると推測している。

「移民の労働人材なしでは、こうした求人を埋められない可能性が高いだろう」とNCFのレイナ―氏は述べた。【2月4日 ロイター】
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****英介護ビジネス「無法状態」、外国人労働者の搾取横行****
インドの会社で管理職をしていた2児の母親マヤさんは、英国で介護士として働ける機会があると聞き、海外で経験を積み、送金もできると飛びついた。ところが、実際の職場で彼女も同僚も奴隷のような扱いを受け、今は多額の借金を背負っている。

英国は新型コロナウイルスの流行と欧州連合(EU)離脱後に介護職で生じた16万5000人の人手不足を補うために、2022年初めに新たなビザ(査証)ルートを創設。制度導入後、マヤさんのように英国で介護士として働くことを希望する外国人出稼ぎ労働者約14万人がビザを取得し、主にインド、ジンバブエ、ナイジェリアからやってきた。

しかし、制度が導入されてから搾取の報告が急増。介護業界は「無法状態だった開拓時代の米西部そのもの」と指摘する専門家もいるほどだ。

マヤさんや他の外国人出稼ぎ介護士によると、イングランド北部の介護サービス会社で仕事に就くためにインドの仲介業者に数千ポンドを支払ったが、わずかな賃金で長時間労働を強いられた。解雇されれば在留資格を失い、強制送還される恐れがあるため、不満を口にすることはできなかったという。

「インドに戻ることも考えたけれど、これほどの借金を抱えて生きていくことはできない。私たちは追い詰められている」とマヤさん。渡英のために自宅を担保に銀行から融資を受け、親戚からも借金をしている。

介護事業者団体ホームケア協会のジェーン・タウンソン最高経営責任者(CEO)は、倫理観を欠いた事業者に強い懸念を抱いていると述べた。出稼ぎ介護士が多額の詐欺に遭ったり、「ゴキブリがはびこるような粗末な住宅」に住まわされたりしたという事例があるという。

英国で仕事があると言われたのに到着したら仕事がなかった、雇用主が倒産した、契約が解除されたケースもある。

<現代の奴隷制度>
強制労働などを取り締まる英政府の部局は昨年、介護事業者に対して44件の調査を実施したと発表した。これは前年の2倍。20年はわずか1件だった。

慈善団体アンシーンの推計によると、電話やインターネットによる相談窓口に昨年寄せられた相談から、介護セクターにおける強制労働の被害者は少なくとも800人に上り、21年の63人から大幅に増加した。

公共サービス労組ユニゾンは、多くの介護士が強制送還を恐れて虐待を報告しなかったり、どこに助けを求めればいいのかわからなかったりするため、実際の数字はもっと多いはずだとみている。ユニゾンのガビン・エドワーズ氏は、介護セクターにおける深刻な資金不足と利益優先体質により事態は悪化の一途をたどっていると指摘した。

<高額な手数料>
マヤさんは22年4月にインド南部の都市コチのリシン・スタンリーというインド人仲介業者に身元保証人探しを依頼。その際に計1万ポンド(1万2810ドル)余りの支払いを求められた。英国に到着後、保証料は雇用主の負担だと知りショックを受けた。

外国人を雇用する企業は、許可証や保証証明書などについて労働者1人当たり最大5000ポンドを負担するが、こうした費用を被雇用者に転嫁することはできない。(中略)

<低い報酬、厳しい労働>
自治体に職員を派遣しているイース・ヘルスケアは、高齢者や障害者、病人を自宅で介助する家庭介護員としてマヤさんたちを派遣した。求人資料には週39時間労働で年俸は2万0480ポンドと記されていたが、これは22年の外国人出稼ぎ介護士の最低賃金だ。

証言によると、朝7時から夜遅くまで働き、寝る時間はほとんどなかった。また在宅介護ではよくあることだが、報酬は実際に行ったサービスに対してのみ支払われるため、労働時間は週39時間には満たなかった。ただ常時働いているわけではないとはいえ、いつでも仕事に入れる態勢でいる必要があった。

出稼ぎ介護士はアプリで勤務時間を管理されたが、しばしば記録が改ざんされ、全ての勤務に対して賃金が支払われるわけではなかったという。(中略)

<内部告発を恐れて>
トムソン・ロイター財団がマヤさんやディーパさん、他の3人の介護士に初めて取材したのは23年半ば。しかしマヤさんらは新しい保証人を見つけるまで報道を控えるよう求めていた。

専門家によると、出稼ぎの介護士はビザや雇用、仕事の紹介を保証人に頼っているため、内部告発は難しい。

マヤさんは今、別の都市にある介護施設に就職したが、2万6000ポンドの借金を返済するために最長で週72時間働いている。

「英国に来れば素敵な生活ができると思っていたのに、ただ生き延びるために何度も借金をしなければならなかった。こんなに大変だと前もって知っていたら、絶対に来なかった」と、悔しさをにじませた。【3月12日 ロイター】
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